平成20(行ケ)10068審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成20年11月20日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告エステッ・インポレイド 原告バイエルクロップサイエンス株式会社
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対象物 |
工芸素材類を害虫より保護するための害虫防除剤 |
法令 |
特許権
特許法29条2項4回 特許法181条2項1回
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キーワード |
実施73回 審決50回 刊行物18回 無効11回 進歩性9回 差止3回 新規性3回 無効審判2回 特許権1回 優先権1回 訂正審判1回 抵触1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,原告が発明の名称を「工芸素材類を害虫より保護するための害虫防除
剤」とする特許の設定登録を経由したところ,被告から無効審判請求がなされ,そ
の中で原告が訂正請求をしたところ,特許庁が同訂正を認めた上,本件訂正発明1,
2についての特許を無効とする旨の審決をしたことから,その取消しを求めた事案
である。 |
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判決文
平成20年11月20日判決言渡
平成20年(行ケ)第10068号 審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日 平成20年10月30日
判 決
原 告 バイエルクロップサイエンス株式会社
訴訟代理人弁理士 川 口 義 雄
同 小 野 誠
同 渡 邉 千 尋
同 金 山 賢 教
同 大 崎 勝 真
同 坪 倉 道 明
被 告 エ ステッ ・イン ポレイ ド
ンシ クス コー テッ
訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2005−80225号事件について平成20年1月29日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が発明の名称を「工芸素材類を害虫より保護するための害虫防除
剤」とする特許の設定登録を経由したところ,被告から無効審判請求がなされ,そ
の中で原告が訂正請求をしたところ,特許庁が同訂正を認めた上,本件訂正発明1,
2についての特許を無効とする旨の審決をしたことから,その取消しを求めた事案
である。
争点は,本件訂正発明1及び2が,特開昭61−267575号公報(甲2)に
記載された発明との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項)である。
1 特許庁等における手続の経緯
(1) 原告は,平成3年12月12日,名称を「工芸素材類を害虫より保護する
ための害虫防除剤」とする発明について特許出願(優先権主張 平成3年4月27
日日本)をし,平成13年2月23日,特許庁から特許第3162450号として
設定登録を受けた(請求項1∼3。特許公報は甲26。以下「本件特許」とい
う。 。
)
これに対し,被告から本件特許につき特許無効審判請求がされたので,特許庁は
これを無効2005−80225号事件として審理した上,平成18年6月14日,
「本件審判の請求は,成り立たない 。」旨の審決(第1次審決,乙4)をした。
(2) これに対し,被告から審決取消訴訟が提起され,知的財産高等裁判所はこ
れを平成18年(行ケ)第10482号事件として審理した上,平成19年7月1
2日,第1次審決を取り消す旨の判決(第1次判決,乙3)をした。
(3) 特許庁は,上記無効2005−80225号事件につきさらに審理し,そ
の中で,原告は,平成19年12月10日,訂正請求(同訂正に係る全文訂正明細
書は甲25。以下「本件訂正」という 。)をしたが,特許庁は,平成20年1月2
9日 ,「訂正を認める。特許第3162450号の請求項1及び2に係る発明につ
いての特許を無効とする 。」旨の審決(第2次審決。以下「本件審決」という 。)
をし,その謄本は平成20年1月31日原告に送達された。
(4) 原告は,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した後,平成20年4
月2日付けで本件特許の特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審判を請求し,特
許庁はこれを訂正2008−390037号事件として審理することとなったとこ
ろ,当裁判所は,特許法181条2項により本件審決を取り消すことなく本件訴訟
の審理を続けた。特許庁は,上記訂正2008−390037号事件につき,平成
20年7月2日 ,「本件審判の請求は,成り立たない 。」との審決をしたが,これ
に対し,原告から審決取消訴訟が提起され,当裁判所は,これを平成20年(行
ケ)第10302号事件として審理中である。
(5) 本件特許については,被告が原告を相手方として,差止請求権の不存在確
認を求めた訴訟が提起された。すなわち,被告が原告に対し,本件訂正発明1,2
等が進歩性欠如の無効理由を有すると主張して,被告製品の生産等に対する差止請
求権の不存在確認を求めた事案である。平成20年1月30日に言い渡された第1
審判決は,本件訂正発明1,2は,いずれも進歩性欠如により無効理由を有すると
判断した。これに対し,上記判決に不服の原告が控訴を提起し,当裁判所は,これ
を平成20年(ネ)第10027号事件として審理中である。
2 特許請求の範囲
本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲は,次のとおりである(請求項1が「本
件訂正発明1 」,請求項2が「本件訂正発明2 」。下線部は訂正部分 。 。
)
「 請求項1】1−(6−クロロ−3−ピリジルメチル)−2−ニトロイミノ−イ
【
ミダゾリジンを有効成分として含有することを特徴とする木材及び木質合板類をイ
エシロアリ又はヤマトシロアリより保護するための害虫防除剤。
【請求項2】1−(6−クロロ−3−ピリジルメチル)−2−ニトロイミノ−イミ
ダゾリジンを土壌処理することにより,木材及び木質合板類をイエシロアリ又はヤ
マトシロアリの侵襲から保護する方法。」
3 本件審決の内容
本件審決は,前記のとおり本件訂正発明1及び2についての特許を無効とすると
したものであるが,その理由の要点は,本件訂正発明1及び2は,甲2(特開昭6
1−267575号公報)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易
に発明することができた,としたものであり,その具体的な内容は,次のとおりで
ある。
(なお,本判決においては,審決を引用する場合を含め,甲第1号証を「甲1 」,乙第1号証
を「乙1」などと表記する 。)
「第6 当審の判断
前述のように,請求人は ,(本件訂正前の)請求項1∼3に係る発明は,本件特許出願前に
頒布された刊行物である甲1,又は甲2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明を
することができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないも
のである旨主張しているので,まず初めに,甲2に記載された発明について検討する。
1 甲2(特開昭61−267575号公報)の記載事項
(省略)
2 対比,判断
(1) 化合物について
甲2に記載された「化合物No.3 」(1−(2−クロロ−5−ピリジルメチル)−2−
(ニトロイミノ)イミダゾリジン,摘記(7)参照 。)は,その化学構造式からみて,本件訂正発
明の害虫防除剤の有効成分である「1−(6−クロロ−3−ピリジルメチル)−2−ニトロイ
ミノ−イミダゾリジン」と同一の化合物であると認められ,以下,これらを統一して,その一
般名である「イミダクロプリド」と呼ぶ。
なお,審判請求書において ,「化合物I.1」と表記されている化合物は「化合物I.3」
の誤記であり(第1回口頭審理調書参照 。 ,その化合物もイミダクロプリドと同一の化合物で
)
ある。
(2) 甲2発明,及び甲2’発明
(ア) 甲2には,イミダクロプリドを含む,摘記(1)及び(2)に示される一般式で表わされるニ
トロイミノ誘導体が記載され,また,その化合物群が種々の有害昆虫の殺虫剤として使用され
るものであることも記載され(摘記(2)及び(5) ),さらに摘記(1)及び(2)の一般式で表わされ
るニトロイミノ誘導体に包含されるイミダクロプリド(化合物NO.3)を含む,数種の化合物に
ついて,殺虫剤としての有効性がツマグロヨコバイ,トビイロウンカ,ヒメトビウンカ,セジ
ロウンカ,モモアカアブラムシを対象とした生物試験により示されている(摘記(8) )。
(イ) 以上によれば,甲2には ,「イミダクロプリドを有効成分として含有する殺虫剤」の発
明(以下 ,「甲2発明」という 。 ,及び「イミダクロプリドを用いる殺虫剤」の発明(以下,
)
「甲2’発明」という。)が記載されていると認められる。
(3) 本件訂正発明1について
(3−1) 本件訂正発明1と甲2発明との対比
甲2発明における「殺虫剤」は,本件訂正発明1における「害虫防除剤」に対応することを
踏まえた上で本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると,両者は,
「イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤 。」
である点で一致するが,以下に示す相違点1,及び相違点2の点で相違すると認められる。
相違点1
害虫から保護する対象について,本件訂正発明1では「木材及び木質合板類」と規定してい
るのに対し,甲2発明では規定していない点,及び
相違点2
対象となる害虫が,本件訂正発明1ではイエシロアリ又はヤマトシロアリであるのに対し,
甲2発明では特定されていない点。
(3−2) 相違点についての判断
(ア) 相違点1について
甲2には,「衛生害虫,貯蔵物に対する害虫に使用される際には活性化合物は ,・・・木材及
び土壌における優れた残効性によつて,きわただされている 。 (摘記(6))と記載されている
」
から,甲2発明において,害虫から保護する対象として木材が想定されていることは明らかで
ある。
また,甲2には,対象となる害虫として ,「ヤマトシロアリ(deucotermes speratus ),イエ
シロアリ(Coptotermes formosanus)」が例示されている(摘記(5))ところ,イエシロアリ又
はヤマトシロアリは木材類を食害する害虫として周知である[必要なら,例えば,甲第4号証
(特開平3−95104号公報 ),2頁左下欄9∼15行,及び4頁左上欄5行∼右上欄1行
;更に必要なら,特開昭58−157709号公報,1頁左下欄10∼16行;特開昭61−
249904号公報,1頁右下欄11行∼2頁左上欄6行参照 。 。
]
したがって,甲2発明において,害虫から保護する対象について木材と規定することは当業
者が容易になし得ることである。
(イ) 相違点2について
(イ-1) 本件訂正発明の特許出願時においては,シロアリに対する防除効果が高く,かつ,安
全性の高い防除剤の開発が求められていたことが認められることは,第1次判決が示すとおり
である。
すなわち,
「 様々な昆虫が,工芸素材類に被害をもたらすことが知られており,それによって引き起
『
こされた深刻な被害のために,住環境への影響,更に工芸素材類からできた文化財建造物への
影響が,社会的問題になると共に,その保護並びに有効な防除が強く望まれている。そして,
これら有害生物のうち,シロアリは,特に重要な害虫として知られている 。 (段落【000
』
2】)
『近年,我が国に於いては,従来シロアリ防除剤として各方面で多用されてきたクロルデン
がその長期残留性及び環境への影響の点から,使用禁止となり,現今使用されている薬剤は,
主に,ホキシム・・・,クロルピリホス・・・等の有機リン系殺虫剤,並びにパーメスリン・
・・,デカメスリン・・・等のピレスロイド系殺虫剤である 。 (段落【0003】
』 )
『また,上記ピレスロイド系殺虫剤の外に,サイパーメスリン・・・,フェンバレレート・
・・,シフルトリン・・・も,シロアリ防除活性を有している。然しながら,これとても薬剤
の使用濃度,並びにその効果及び安全性,また木造家屋(住居)並びに文化財等の性質上,薬
剤処理回数の制約等々の問題もあり,決して満足いくべきものではない 。 (段落【000
』
4】)
上記記載によると,工芸素材類に対する害虫,特にシロアリの被害が深刻であるばかりか,
防除剤の使用による住環境への影響等が社会的問題となる中,従来シロアリ防除剤として各方
面で多用されてきたクロルデンが,その長期残留性及び環境への影響の点から,本件発明に係
る特許出願時に近い時期に我が国において使用禁止となったこと,その後,クロルデンに代わ
るシロアリ防除剤としてピレスロイド系殺虫剤などが使用されているが,薬剤の使用濃度並び
に効果及び安全性に問題があるほか,木造家屋(住居)並びに文化財等についてはその性質上
薬剤処理回数が制約されるなどの問題と相まって,満足のいくべきものではなかったこと,こ
のため本件発明の特許出願時においては,シロアリに対する防除効果が高く,かつ,安全性の
高い防除剤の開発が求められていたことが認められる 。 (審決注.ここでいう段落とは,本件
」
特許明細書のものをいう。)
(イ-2) 甲2には,先に指摘したように,摘記(1)∼(8)の各記載があるが,これらの記載から,
第1次判決が示す以下の点が認められる。
すなわち,
「上記記載によると,甲2発明の特許請求の範囲に記載されたニトロイミノ誘導体が,強力
な殺虫作用を現す殺虫剤として使用することができること,同化合物が広範な種々の害虫,有
害な吸液昆虫,かむ昆虫及びその他の植物寄生害虫,貯蔵害虫,衛生害虫等の防除及び駆除撲
滅のために適用できるものであること,その対象となる害虫類の一例として,ヤマトシロアリ
(deucotermes speratus ),イエシロアリ(Coptotermes formosanus)などの等翅目虫が明記
されていること,同化合物は石灰物質状のアルカリに対する良好な安定性を示すほか,木材及
び土壌において優れた残効性を示すものであること,上記ニトロイミノ誘導体の実施例として,
イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物が示されていることが認められる。
また,甲2の記載によると,甲2発明の一般式によって示される化合物は50種類以上に及
ぶこと(17頁右欄12行目以下,第1表 ),製造実施例として5種の化合物が記載され,そ
のうちの1つ(実施例3−ii,化合物No.3)がイミダクロプリドを有効成分として含有する化
合物であること(16頁左欄上段19行目から17頁右欄上段11行目 ),実施例5ないし7
として,有機リン剤抵抗性ツマグロヨコバイ,トビイロウンカ,ヒメトビウンカ,セジロウン
カ並びに有機リン剤及びカーバメート剤抵抗性モモアカアブラムシに対する3種類の生物試験
が行われ,その結果として,実施例5においては3種,実施例6においては5種,実施例7に
おいては6種の化合物によるものが代表例として示されているところ,イミダクロプリドを有
効成分として含有する化合物である「化合物No.3」は,いずれの生物試験の代表例にも挙
げられていること(19頁左欄上段3行目から20頁左欄上段4行目)が認められる 。
」
(イ-3) 上記(イ-1)で認定したところによると,木造家屋(住居)及び文化財の如き,木材を
含む工芸素材類をシロアリから保護するための防除剤の開発に従事する当業者は,使用が禁止
されたクロルデンに代わる物質を有効成分とする害虫防除剤で殺虫能力と残効性の高いものを
速やかに発見しなければならないという課題に直面していたということができる。
そして,上記(イ-2)のとおり,甲2には,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合
物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が広汎な害虫に対して強力な殺虫作用を示すとと
もに,木材における優れた残効性を示すこと,さらに,同化合物が殺虫効果を示す対象害虫類
の一つとして,等翅目虫のヤマトシロアリ,イエシロアリが具体的に挙げられているのである
から,上記の課題に直面していた当業者が,同一技術分野に属する刊行物である甲2に接した
ならば,イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤をヤマトシロアリやイエシロ
アリに適用してみようとすることは何ら困難な事柄ではないというべきである。(3−3) 本
件訂正発明の奏する効果についての判断
次に,本件訂正発明が格別顕著な効果を奏するものであるか否かについて検討する。
(なお,本項目で示す内容は,本件訂正発明1と本件訂正発明2とで区別する必要が特にない
ので,本項目では両者を区別せず ,「本件訂正発明」として記載し,検討を進めることにす
る。)
まず,本件訂正発明は,上記のとおり,その構成につき容易想到性が認められるが,構成に
つき容易想到性が認められる発明に対して,それにもかかわらず,それが有する効果を根拠と
して特許を与えることが正当化されるためには,その発明が現実に有する効果が,当該構成の
ものの効果として予想されるところと比べて格段に異なることを要するものというべきである。
(平成11年(行ケ)第437号判決等 。)
そして,本件訂正明細書の記載,及び本件審判において提出されたすべての証拠によっても,
本件訂正発明が現実に有する効果が,当該構成のものの効果として予想されるところと比べて
格段に異なることを認めるに足りる証拠はない。
以下,詳述する。
(3−3−1) ヤマトシロアリについて
(ア) まず,ヤマトシロアリについて,本件訂正発明の奏する効果を検討する。
本件訂正明細書,及び本件審判において提出されたすべての証拠には,そもそも,ヤマトシ
ロアリについて,本件訂正発明の奏する効果を裏付けるものは存在しない。
すなわち,本件訂正明細書において,本件訂正発明の奏する効果を裏付けるものは,実施例
8∼11であるが,実施例8,及び実施例9において対象となる害虫はイエシロアリであり,
実施例10において対象となる害虫はヒロトルプス バジュラス(Hylotrupes bajulus)の幼
虫であり,実施例11において対象となる害虫はシロアリ種;レチクリターメス サントネシ
ス(Reticulitermes santonesis)である。
また,本件審判において提出された,本件訂正発明の奏する効果を裏付けることに関連する
証拠をみても,乙1において対象となる害虫はイエシロアリであり,乙第9号証である,平成
18年3月14日付けのBの作成になる「無効2005-80225号審判事件(第3162450)について」
と題する書面に添付された試験例1において対象となる害虫はミカンハモグリガ,ミカンマル
ハキバガ,アゲハチョ3類であり,同試験例2において対象となる害虫はチャノホソガ,チャ
ノコカクモンハマキであり,乙第13号証の1において対象となる害虫はイエシロアリである。
そして,ヤマトシロアリ以外のものについての効果をもって,ヤマトシロアリについて本件
訂正発明の奏する効果を裏付けることができると認めるに足る根拠は見いだせない。
(イ) 被請求人は,平成19年12月10日付けの訂正請求書8頁下から10∼3行において,
「本件訂正明細書の実施例11には,本件のイミダクロプリドが8週間(約2ヶ月)の試験期
間後においてさえも,木材あたり0.135g/m3∼1.344g/m3の間というきわめて低い有
毒閥値において,ヤマトシロアリと同じミゾガシラシロアリ亜科の属のものである「レチクリ
ターメスサントネシス(Reticuliter messantonesis)」を殺滅し,木材に痕跡が残る程度の被
害しかもたらさなかったことが示されている・・・(〔0051〕∼〔0054〕段落) 」(審決注.下
線は審決による。)と述べている。
これによると,被請求人は,本件訂正明細書の実施例11がヤマトシロアリについて本件訂
正発明の奏する効果を裏付けるものと考えているようである。
しかしながら,先に指摘したように,本件訂正明細書の実施例11における害虫はシロアリ
種;レチクリターメス サントネシス(Reticulitermes santonesis)であって,明らかにヤマ
トシロアリ(Leucotermes speratus)(本件訂正明細書5頁9行)とは異なるし,しかも,レチ
クリターメス サントネシス(Reticulitermes santonesis)についての効果をもって,ヤマト
シロアリ(Leucotermes speratus)について本件訂正発明の奏する効果を裏付けることができる
と認めるに足る根拠は見いだせないから,本件訂正明細書の実施例11の記載が本件訂正発明
の奏する効果を裏付けるものとは認められない。
しかも,
(イ-1)本件訂正明細書の実施例11(第5表)においては,そもそも,比較例として「クロ
ロホルム注入」及び「無処理」しか採用しておらず,第5表に示された試験結果をもって,本
件訂正発明が格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
ただ,実施例11では,別途,第6表として,Holz als Rohr- und Werkstoff,35(1977),23
3-237,表10,236頁;W.Metzner等による公知の殺虫剤のデータを引用し,比較値として
提示しているが,これとても,第6表に示されているのは,従来技術水準を構成する殺虫剤で
あるから,第6表に示されている実験データと比較することにより,本件訂正発明が現実に有
する効果が,当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとはい
えない。
この点につき付言すると,まず,甲2には,イミダクロプリドを有効成分として含有する化
合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が「極めて卓越した殺虫作用を発現し,更には,
低薬量で完璧な防除作用を現わす新規化合物である 」(摘示(3))と記載されており,その効果
の裏付けも記載されているし(摘示(8)),また,駆除撲滅のために適用できる害虫の例として
ヤマトシロアリが記載されている(摘示(5))ので,甲2に記載されたイミダクロプリドが,
ヤマトシロアリに対し ,「極めて卓越した殺虫作用を発現し,更には,低薬量で完璧な防除作
用を現わす」ことは予想されることである。
そして,本件において,イミダクロプリドが甲2に記載されたものの効果として予想される
ところと比べて格段に異なるというためには,比較の対象として ,「クロロホルム注入 」 「無
( ,
処理」は論外であるが ,)第6表に示されたような従来技術水準を構成する殺虫剤を用いるの
ではなく,甲2に記載された,イミダクロプリド以外の化合物と比較することが必要不可欠で
ある。また,
(イ-2) 前述のように,実施例11では,第6表として,Holz als Rohr- und Werkstoff,35
(1977),233-237,表10,236頁;W.Metzner等による公知の殺虫剤のデータを併せて提示
しているが,試験方法に関し,防除効果試験で用いた木材の種類や試験温度,更にはシロアリ
種の種類や齢数等について,実施例11で採用した条件と,Holz als Rohr- und Werkstoff,3
5(1977),233-237,表10,236頁;W.Metzner等が採用した条件とが同じであると認めるに
足る根拠は見いだせないところ,試験方法の同一性が確認できない試験結果同士を対比しても
効果の比較はできないので,実施例11により,本件訂正発明が現実に有する効果が,当該構
成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとはいえない。
(ウ) 小括
以上のとおり,ヤマトシロアリについて,本件訂正発明が現実に有する効果が,当該構成の
ものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるとは認められない。
そして,本件訂正発明が現実に有する効果が,当該構成のものの効果として予想されるとこ
ろと比べて格段に異なることを認めるためには,特許請求の範囲に記載された本件訂正発明全
体(すなわち,ヤマトシロアリ,及びイエシロアリの両方)について,本件訂正発明が現実に
有する効果が,当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なることが必
要不可欠であるから,結局,本件訂正発明について,本件訂正発明が現実に有する効果が,当
該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとは認められない。
(3−3−2) イエシロアリについて
以上のように,本件訂正発明については,イエシロアリについて本件訂正発明の奏する効果
を検討するまでもなく,本件訂正発明が現実に有する効果が,当該構成のものの効果として予
想されるところと比べて格段に異なるものとは認められないが,以下,念のため,イエシロア
リについても,本件訂正発明の奏する効果を検討しておくことにする。
(ア) 本件訂正明細書において,イエシロアリについて本件訂正発明の奏する効果を裏付ける
ものは,実施例8,及び実施例9である。
しかしながら,実施例8,及び実施例9において,イミダクロプリドに対する比較化合物と
して用いられているものは「A: ホキシム(phoxim ) ,及び「B: クロルピリホス(chlorp
」
yriphos )」であって,本件全文訂正明細書の2頁5∼10行に記載されているように,両者
は,ともに,周知の有機リン系殺虫剤であるところ,イミダクロプリドが甲2に記載されたも
のの効果として予想されるところと比べて格段に異なるというためには,比較の対象として,
ホキシムやクロルピリホスの如き従来技術水準を構成する殺虫剤を用いるのではなく,甲2に
記載された,イミダクロプリド以外の化合物と比較することが必要不可欠である。 なぜなら
ば,甲2には,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニト
ロイミノ誘導体が「極めて卓越した殺虫作用を発現し,更には,低薬量で完璧な防除作用を現
わす新規化合物である 」(摘示(3))と記載されており,その効果の裏付けも記載されているし
(摘示(8) ),また,駆除撲滅のために適用できる害虫の例としてイエシロアリが記載されてい
る(摘示(5))ので,甲2に記載されたイミダクロプリドが,イエシロアリに対し ,「極めて卓
越した殺虫作用を発現し,更には,低薬量で完璧な防除作用を現わす」ことは予想されること
であるから,比較の対象としてホキシムやクロルピリホスの如き従来技術水準を構成する殺虫
剤を用いて,それらよりイミダクロプリドが優れた効果を奏することを明らかにしたとしても,
そのことは予想されることにすぎないからである。
したがって,本件訂正明細書の記載に基づいて,本件訂正発明が現実に有する効果が,当該
構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとはいえない。
(イ) 次に,本件審判において提出された,本件訂正発明の奏する効果を裏付ける証拠のうち,
対象となる害虫がイエシロアリであるものについて,以下検討する。
(イ-1) 乙1について
乙1は,甲2に記載されたニトロイミノ誘導体のうち,イミダクロプリドを含む8種のニト
ロイミノ誘導体化合物を選んで,それらのニトロイミノ誘導体がイエシロアリに及ぼす効果を
観察したものである。
そして,乙1に示されたニトロイミノ誘導体のイエシロアリに対する効果を示す試験結果
(Fig.1∼Fig.7)に示された限りにおいては,甲2に記載された8種のニトロイミノ誘導体
化合物のうち,イミダクロプリドは,他の7種のニトロイミノ誘導体化合物と比較して,イエ
シロアリに対する効果が高いということはできる。
しかしながら,そもそも,乙1で試験したわずか8種のニトロイミノ誘導体化合物の試験結
果を示したところで,甲2の一般式(摘示(1)及び(2))に包含される数多くのニトロイミノ誘
導体化合物(例えば,甲2の第1表には53種のニトロイミノ誘導体化合物が例示されてい
る。)のうち,イミダクロプリドが特に優れた効果を示すということはできないし,しかも,
乙1に示された試験結果(Fig.1∼Fig.7)をみても,イミダクロプリド>NO.1>NO.2の順
で効果の程度が高いとはいえるとしても,これらニトロイミノ誘導体の奏する効果の差異は連
続的に推移する程度のものであって,イミダクロプリドのイエシロアリに対する効果が,NO.
1やNO.2のイエシロアリに対する効果と比較して,格段に異なるとまではいえない。
(イ-2) 乙第13号証の1について
乙第13号証の1には,以下の事項が記載されている。
(2頁に記載された試験結果)
対象虫をイエシロアリとし,ハチクサンFL(審決注.イミダクロプリドを有効成分として
含有する製剤)を用いて1年目,3年目,10年目の食害試験をしたところ,無処理の場合に
は何れも食害があったのに対し,ハチクサンFLの処理濃度%(有効成分)が0.1の場合に
は,1年目,3年目,10年目の何れにおいても食害がなかったことが示されており,これに
ついて ,「この様に,ハチクサンFLは10年経過した時点では,優れた防除効力を示してい
る 。 (2頁14∼15行)と結論づけている 。
」 (以下,2頁に記載された試験結果を「試験
1」という。)
(3頁に記載された試験結果)
対象虫をイエシロアリとし,ハチクサンFL,及び市販の有機リンA乳剤及び有機リンB乳
剤をもちいて10年目の食害試験を比較したところ,市販の有機リンA乳剤及び有機リンB乳
剤の処理濃度%(有効成分)が1.0の場合には何れも食害があったのに対し,ハチクサンF
Lの処理濃度%(有効成分)が0.2,0.1の場合には何れも食害がなく,ハチクサンFL
の処理濃度%(有効成分)が0.05の場合には食害があったことが示されており,これにつ
いて ,「この様に,ハチクサンFLは10年経過した時点では,優れた防除効力を示してい
る 。 (2頁14∼15行)と結論づけている 。
」 (以下,3頁に記載された試験結果を「試験
2」という。)
ここで,被請求人が平成19年12月10日付け訂正請求書において ,「乙第13号証は,
本件イミダクロプリド(商品名『ハチクサン 』:乙第13号証の2)の野外試験結果を示すも
のであるが,その第1頁の表にもあるように,イミダクロプリドは有効成分濃度0.1%程度
の低濃度においても10年に渉って木材等をシロアリの食害から保護し続け,また同号証の第
2頁では,その効果が,市販の有機リン酸系薬剤を1.0%(イミダクロプリドの10倍)使
用したときよりも優れていることが示されている 」(9頁4∼10行)と主張していることも
考慮すると,試験1及び試験2による被請求人の立証趣旨は,(1)イミダクロプリドは,有効
成分濃度0.1%程度の低濃度においても,10年にわたって木材等をイエシロアリの食害か
ら保護すること,及び(2)イミダクロプリドの有効成分濃度0.1%程度におけるイエシロア
リに対する効果は,市販の有機リン酸系薬剤を1.0%(イミダクロプリドの10倍)使用し
た場合よりも優れていること,にあると認められる。
そこで,以下,上記(1)及び(2)について検討する。
・上記(1)について
まず,上記(1)については,そもそも,かかる効果は,本件訂正明細書の記載に基づくもの
ではないから,参酌できない。
すなわち,本件訂正明細書には「本発明者等は ,・・・下記式(I)で表されるニトロメチ
レン又はニトロイミノ化合物が,工芸素材類に対し ,・・・残効性を有することを発見した 。」
(全文訂正明細書2頁下から4∼1行 ) 「式(I)の化合物は,公知薬剤よりも低濃度で,シ
,
ロアリに対し残効作用を示す 」(同3頁10∼11行 ) 「 発明の効果】本発明の害虫防除剤は,
,【
上記実施例で示される通り,シロアリに代表される通り,工芸素材類を害虫より保護するため
に,優れた防除効果を現すと共に,顕著な残効力を有する 。 (同21頁1∼4行)という記載
」
はある。
しかしながら,本件訂正明細書に記載された試験期間をみると,実施例8が4日,実施例9
が3週間,実施例10が12週間,実施例11が8週間であり,結局,最大でも実施例10の
12週間であるから,本件訂正発明における「顕著な残効力」とは,せいぜい半年程度効果が
継続することを意味しているとしか解せないし,しかも,本件訂正明細書に「近年,我が国に
於いては,従来シロアリ防除剤として各方面で多用されてきたクロルデンがその長期残留性及
び環境への影響の点から,使用禁止となり , (同2頁5∼6行)と記載されているように,本
」
願出願日(優先日)当時,当業者において,シロアリ防除剤の長期残留性は,好ましくない要
因であると認識されていたこと,を考慮すると,イミダクロプリドが,10年以上というよう
な,本件訂正明細書で「顕著な残効力」としている期間と比べて桁違いに長い期間の残留性を
示すことは,本件訂正明細書の記載からは想定され得ないからである。
その点をひとまずおくとしても,甲2には,イミダクロプリドを有効成分として含有する化
合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が「木材及び土壌における優れた残効性によっ
て,きわだたされている 。 (摘記(6) )
」 ,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を
一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が「極めて卓越した殺虫作用を発現し,更には,低薬
量で完璧な防除作用を現わす新規化合物である 」(摘示(3))と記載されており,また,駆除撲
滅のために適用できる害虫の例としてイエシロアリが記載されている(摘示(5))ので,甲2
に記載されたイミダクロプリドが,イエシロアリに対し,際立って優れた残効性を示すととも
に,低薬量で完璧な防除作用を現わすことは予想されることである。
したがって,試験1に示された結果から,本件訂正発明が現実に有する効果が,当該構成の
ものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるものとはいえない。
・上記(2)について
上記(2)についても,そもそも,かかる効果は,本件訂正明細書の記載に基づくものではな
いから,参酌できない。
理由は,先に「・上記(1)について」で示したとおりである。
また,その点をひとまずおくとしても,甲2には,イミダクロプリドを有効成分として含有
する化合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が「極めて卓越した殺虫作用を発現し,
更には,低薬量で完璧な防除作用を現わす新規化合物である 」(摘示(3))と記載されており,
その効果の裏付けも記載されているし(摘示(8) ),また,駆除撲滅のために適用できる害虫の
例としてイエシロアリが記載されている(摘示(5))ので,甲2に記載されたイミダクロプリ
ドが,イエシロアリに対し ,「極めて卓越した殺虫作用を発現し,更には,低薬量で完璧な防
除作用を現わす」ことは予想されることであるから,比較の対象として,従来技術水準を構成
する市販の有機リン酸系薬剤を用いて,それらよりイミダクロプリドが優れた効果を奏するこ
とを明らかにしたとしても,そのことは予想されることにすぎないからである。 したがって,
試験2に示された結果から,本件訂正発明が現実に有する効果が,当該構成のものの効果とし
て予想されるところと比べて格段に異なるものとはいえない。
(ウ) 小括
以上のとおり,イエシロアリについても,本件訂正発明が現実に有する効果が,当該構成の
ものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるとは認められない。
したがって,イエシロアリ,及びヤマトシロアリの何れについても,本件訂正発明について,
本件訂正発明が現実に有する効果が,当該構成のものの効果として予想されるところと比べて
格段に異なるものとは認められない。
(3−4) 「本件訂正発明1について」のまとめ
以上のとおり,上記各相違点は当業者が容易に想到することができたものであり,しかも,
本件訂正発明1がこれらの相違点に係る構成により格別顕著な効果を奏するものとは認められ
ないから,本件訂正発明1は,甲2発明,及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないもの
である。
(4) 本件訂正発明2について
(4−1) 本件訂正発明2と甲2’発明との対比
甲2’発明における「殺虫剤」は,本件訂正発明2における「害虫防除剤」に対応すること
を踏まえると,甲2には,
「イミダクロプリドを用いる害虫防除剤 。」
に関する発明が記載されている。
そこで,本件訂正発明2と甲2’発明とを対比すると,両者は,
「イミダクロプリドを用いる」
点で一致するが,以下に示す相違点1∼相違点3の点で相違すると認められる。
相違点1
イミダクロプリドの用途について,本件訂正発明2では「土壌処理することにより・・・侵
襲から保護する方法」と規定しているのに対し,甲2’発明では「害虫防除剤」と規定してい
る点。
相違点2
害虫から保護する対象について,本件訂正発明2では「木材及び木質合板類」と規定してい
るのに対し,甲2’発明では規定していない点,及び
相違点3
対象となる害虫が,本件訂正発明2ではイエシロアリ又はヤマトシロアリであるのに対し,
甲2’発明では特定されていない点。
(4−2) 相違点についての判断
(ア) 相違点1について
本件訂正発明2における防除の対象となる害虫は「イエシロアリ又はヤマトシロアリ」であ
るところ,イエシロアリやヤマトシロアリなどのシロアリを防除するために,シロアリ防除剤
(害虫防除剤)により土壌処理することは周知である[必要なら,例えば,甲第3号証(特開
昭63−122601号公報 ),1頁右下欄4∼10行;更に必要なら,特開昭58−157
709号公報,3頁右上欄1∼11行(特に,6行 );特開昭61−249904号公報,5
頁左上欄4行∼右上欄9行参照 。 。
]
また ,「侵襲から保護する方法」と「防除剤」との相違は単なるカテゴリーの相違にすぎな
いし,しかも,イエシロアリやヤマトシロアリなどのシロアリ防除剤(害虫防除剤)を,イエ
シロアリやヤマトシロアリなどのシロアリなどの害虫による侵襲から保護するために用いるこ
とは自明である。
したがって,甲2に記載された「イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除
剤。」の発明に基づいて ,「イミダクロプリドを土壌処理することにより ,(イエシロアリ又は
ヤマトシロアリの)侵襲から保護する方法」の発明に想到することは当業者が容易になし得る
ことである。
(イ) 相違点2について
相違点2は,本件訂正発明1と甲2発明との相違点1と同じであるから,先に第6 2
(3−2)(ア)「相違点1について」で示したのと同じ理由で,甲2’発明において,害虫から
保護する対象について木材と規定することは当業者が容易になし得ることである。
(ウ) 相違点3について
相違点3は,本件訂正発明1と甲2発明との相違点2と同じであるから,先に第6 2
(3−2)(イ)「相違点2について」で示したのと同じ理由で,上記の課題に直面していた当業
者が,同一技術分野に属する刊行物である甲2に接したならば,イミダクロプリドを有効成分
として含有する害虫防除剤をヤマトシロアリやイエシロアリに適用してみようとすることは何
ら困難な事柄ではないというべきである。
(4−3) 本件訂正発明の奏する効果についての判断
先に第6 2 (3−3)「本件訂正発明の奏する効果についての判断」で示したのと同じ理
由で,イエシロアリ,及びヤマトシロアリの何れについても,本件訂正発明について,本件訂
正発明が現実に有する効果が,当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段に
異なるものとは認められない。
(4−4) 「本件訂正発明2について」のまとめ
以上のとおり,上記各相違点は当業者が容易に想到することができたものであり,しかも,
本件訂正発明2がこれらの相違点に係る構成により格別顕著な効果を奏するものとは認められ
ないから,本件訂正発明2は,甲2’発明,及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないも
のである。
(5) 被請求人の主張について
被請求人は,概略,以下のように,本件訂正発明の進歩性を主張している。
(5−1) 本件訂正発明のイミダクロプリドを有効成分とするシロアリ防除剤が商業上の卓越
した成功を収めたことは,本件訂正発明の技術水準の高さを裏付けている 。(審判事件答弁書 ,
4頁下から6行∼5頁下から6行;平成19年12月10日付け訂正請求書,9頁10∼13
行)
(5−2) 甲2には ,「衛生害虫,貯蔵物に対する害虫に使用される際には活性化合物は,
石灰物質上のアルカリに対する良好な安定性はもちろんのこと,木材及び土壌における優れた
残効性によって,きわだたされている 。 (摘記(6))と記載されているが,当該記載中,甲2
」
のニトロイミノ誘導体が木材及び土壌において優れた残効性を示すものであるというのは,
「衛生害虫,貯蔵物に対する害虫」を対象とする場合のみをいうのであって,広範な種々の害
虫全般に亘りおしなべて等しく木材及び土壌において優れた残効性があるとするものではない。
そして,本件訂正発明のイエシロアリ及びヤマトシロアリはかかる衛生害虫,貯蔵物に対す
る害虫の範疇には包含されない。
したがって,少なくとも当該「木材及び木質合板類」の保護という具体的な用途に関する訂
正後の特許請求の範囲に記載の発明は,甲2に記載された発明から容易に発明をすることがで
きたものではない 。(平成19年12月10日付け訂正請求書,6頁下から8行∼10頁22
行)
(5−3) 甲2には,イミダクロプリドがシロアリに対して格別顕著な殺虫効果を現している
ことなど記載されておらず,本件訂正発明の進歩性は首肯されるべきである 。(審判事件答弁
書,9頁下から11∼4行)
また,本件訂正発明は,当業者さえもが当然には予測し得なかったような格別顕著な効果を
奏するから,選択発明として特許性を獲得することは明らかである 。(平成19年12月10
日付け訂正請求書,10頁23行∼11頁21行)
しかしながら,被請求人の主張は採用できない。理由は以下のとおりである。
・被請求人の主張(5−1)について
商業的成功を収めるかどうかは,発明の内容のほか,製品の内容や価格,宣伝広告の方法な
どに左右されるところが大きいから,商業的成功を収めているからといって,必ずしも発明に
進歩性があるということはできず,その有無の判断は,引用例との対比により,厳密になされ
るべきものである。そして,先に検討したとおり,本件訂正発明1及び2は,引用例たる甲2
との対比により,進歩性が認められないのであるから,被請求人の前記主張は当を得ないこと
に帰する。
・被請求人の主張(5−2)について
既に確定した第1次判決において ,「甲2には,イミダクロプリドを有効成分として含有す
る化合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が広汎な害虫に対して強力な殺虫作用を示
すとともに,木材における優れた残効性を示すこと,さらに,同化合物が殺虫効果を示す対象
害虫類の一つとして,等翅目虫のヤマトシロアリ,イエシロアリが具体的に挙げられているの
であるから,上記の課題に直面していた当業者が,同一技術分野に属する刊行物である甲2に
接したならば,イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤をヤマトシロアリやイ
エシロアリに適用してみようとすることは何ら困難な事柄ではないというべきである 。」とい
う判断が下されている。
被請求人の主張は,上記判断に抵触するものであるから,被請求人の主張は採用できない。
付言すると,上記判断には「木材における優れた残効性を示すこと」も含まれているから,
「工芸素材類」を「木材及び木質合板類」と訂正しても,上記判断は,本件訂正発明に対して
もそのまま当てはまる。
.被請求人の主張(5−3)について
先に第6 2 (3−3)「本件訂正発明の奏する効果についての判断」で指摘したとおり,
本件訂正発明1及び2が格別顕著な効果を奏するものとは認められないから,被請求人の主張
は採用できない。」
第3 原告主張の審決取消事由
本件審決は,次のとおり,選択発明としての本件訂正発明1,2の判断を遺脱し
たものであって,この点が審決の結論に影響することは明らかであるから,違法と
して取り消されるべきである。
1 本件訂正発明1について
(1) 相違点2について
ア そもそも選択発明とは,物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属
する発明で,刊行物において上位概念で表現された発明又は事実上若しくは形式上
の選択肢で表現された発明から,その上位概念に包含される下位概念で表現された
発明又は当該選択肢の一部を発明を特定するための事項と仮定したときの発明を選
択したものであって,前者の発明により新規性が否定されない発明をいうから,刊
行物に記載された発明とはいえないものは選択発明になり得る(要件(i ) 。そ
)
して,刊行物に記載されていない有利な効果であって,刊行物において上位概念で
示された発明が有する効果とは異質な効果,又は同質であるが際立って優れた効果
を有し,これらが技術水準から当業者が予測できたものでないときは,進歩性を有
する 。(要件(ⅱ))
イ 選択発明の要件(i)
本件審決は ,「本件訂正発明は甲2に記載された発明及び周知技術に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたもの」とするのであるから,その新規性を認
めている。また,本件審決が依拠する第1次判決(乙3)においても ,「上記の課
題に直面していた当業者が,同一技術分野に属する刊行物である甲2に接したなら
ば,イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤をヤマトシロアリやイ
ミダクロプリドに適用してみようとすることは何ら困難な事柄ではないというべき
である 。」としているのであるから(38頁 ),これまた本件訂正発明1の新規性
を阻却するものではない。
したがって,本件訂正発明1は,要件(i)を充足する。
ウ 選択発明の要件(ii)
(ア) 刊行物に記載されていない有利な効果であって,異質な効果
① 本件訂正発明1は,イミダクロプリドが「公知薬剤よりも低濃度で,シロア
リに対し残効作用を示すことから,安全且つ的確な防除が可能であって,シロアリ
の被害をうける木造建築物に対し,有利に使用することができる 。 (本件訂正明
」
細書〔甲25〕3頁)とするものである。そして,本件訂正明細書(甲25)の実
施例9は,薬剤を浸漬した木材片(アカマツ,工芸素材類 ),砂壌土,シロアリ
(イエシロアリ)を共存させてシロアリの侵襲から木材片を保護する本件訂正発明
1のイミダクロプリドのシロアリ防除残効試験をしたものであるが,本件訂正発明
1のイミダクロプリドは,市販のホキシム,クロルピリホスをはるかに超える,
0.32∼40 ppmの低濃度において完全な殺虫率を有し,かつ,木材片の食害が全く
認められなかったという卓越したシロアリ防除効果を示している。また,同実施例
11には,イミダクロプリドの薬剤吸収濃度毎にそれぞれ3本の木材片標本を用い
た8週間後の試験結果において,平均吸収濃度68.211g/m 3の標本群において5段階
の評価値において「0 」(被害なし ),平均吸収濃度1.344g/m3という極めて低い平
均吸収濃度の標本群において評価値「1 」(痕跡程度)であったこと,及びいずれ
の標本においても職蟻各250頭は全頭死滅したことが第20頁第5表に示されている。
そして,その有毒閾値は「0.135g/m3と1.344g/m 3の間」というきわめて低いもの
で,その高い側の値をとっても,同頁第6表に示す周知の殺虫剤ディルドリンの有
毒閾値50g/m3に比して実に約37倍,リンダンの75g/m 3に比して約56倍という格段
に優れたものであることが示されている。
② このように,本件訂正発明1における,木材及び木質合板類の保護を目的と
するイミダクロプリドのヤマトシロアリ及びイエシロアリに対する上記のごとき殺
虫「残効性」の優れた効果に対し,甲2に記載された技術的に裏付けのある効果,
すなわち生物試験により裏付けられた現実の効果としては,いずれも専ら半翅目に
属するツマグロヨコバイ等5種のみについて,稲ないしナス苗に撒布乾燥2日後の
殺虫率(100%)を確認したというだけである。その他の翅目の害虫についてはそ
れらの殺虫活性すらも確認していないばかりか,イミダクロプリドの殺虫残効性に
ついては上記5種の害虫に対する関係についてすら確認していない。まして,木材
等をヤマトシロアリ又はイエシロアリの侵食から保護するためのイミダクロプリド
の木材における有利な「残効性」については,確認はもとより一片の記載すらもな
されていない。
③ 以上によれば,本件訂正発明1における,イミダクロプリドを含有する害虫
防除剤が,木造建築物等に使用される木材及び木質合板類をヤマトシロアリ又はイ
エシロアリの侵食から保護する優れた効果は甲2に記載されていない有利な効果で
あって,異質な効果である。
(イ) 刊行物に記載されていない有利な効果であって,同質であるが際立って優
れた効果
① 本件訂正発明1の有効成分イミダクロプリドは,公知殺虫剤と比較して極め
て顕著な殺虫作用を示し,極めて低濃度で使用可能であることから環境面に於いて
許容され,公知薬剤よりも低濃度でシロアリに対し残効作用を示すことから安全か
つ的確な防除が可能であり,工芸素材類を保護するための殺虫用薬剤の活性成分と
して使用でき,シロアリの侵襲に対して土壌処理とすることもできるという作用効
果を奏する(本件訂正明細書(甲25)の3頁6行∼4頁8行 )。この作用効果の
具体例が実施例8に例示されている。
すなわち,実施例8は,本件特許のイミダクロプリドを,その出願日(優先日)
当時シロアリ防除剤として市販され非常に高いシロアリ殺虫活性を有するホキシム
及びクロルピリホスと直接比較したシロアリ防除効果を記載している。実施例8は
ガラスシャーレ中でシロアリ(イエシロアリ)の殺虫効果を試したシャーレ試験で
あるが,第1表(化合物 I.3が本件特許化合物,比較 Aはホキシム,比較 Bはクロル
ピリホス)に示されるように,本件特許のイミダクロプリドは,ホキシム,クロル
ピリホスに優るとも劣らない殺虫活性を有している。
② 次に,化学構造が類似する他のニトロイミノ系化合物と対比しても,本件特
許のイミダクロプリドが格別顕著なシロアリ殺虫活性を具有していることを示す。
a 原告従業員A作成の「イミダクロプリド関連化合物のイエシロアリに対する
効果試験(速報 ) (甲11)は,イミダクロプリド関連化合物のイエシロアリに
」
対する生物学的活性試験を実施し,その結果を一覧したものである。具体的に,本
件特許のイミダクロプリドを甲2に記載の一般式に包含される化合物No. 1,2, 4,
5,10,11, 16と対比してイエシロアリに対する殺虫効果を試験したものである。
上記「イミダクロプリド関連化合物のイエシロアリに対する効果試験(速報 )」
(甲11)の Fig.1∼ Fig.3に見られるように,シロアリ投入 30分∼ 3時間後, 50∼
400 ppmのいずれの活性成分濃度においてもイミダクロプリドと接触したシロアリ
の苦悶の程度は他のニトロイミノ化合物に比べてはなはだしく,イミダクロプリド
は即効性においても優れていることが分かる。また, Fig.4∼ Fig.6から,シロアリ
投入1∼3日後におけるイミダクロプリドによるシロアリの苦悶起立,転倒,死虫
の割合は 50∼400 ppmのいずれの濃度においても他のニトロイミノ化合物から突
出して増加していることが分かる。また,シロアリ投入5日後においては, No.1
やNo.2では 200 ppm以下で苦悶虫が残るのに対し,イミダクロプリドは 50 ppmで
も完璧な死虫率 100 %を表している。 No.4∼No.16ではほとんど効果がない。この
ように,イミダクロプリドは試験した化合物群の中で最も早くシロアリを苦悶・死
亡に至らしめ,低濃度におけるシロアリ防除効果及び効力の持続性という点で最も
優れているものであり,類似化合物と対比しても極めて卓越したシロアリ防除効果
を示す。
b なお,本件審決は ,「…そもそも,乙1(甲11と同じ 。)で試験したわず
か8種のニトロイミノ誘導体化合物の試験結果を示したところで,甲2の一般式
(摘示(1)及び(2 ))に包含される数多くのニトロイミノ誘導体化合物(例え
ば,甲2の第1表には53種のニトロイミノ誘導体化合物が例示されている 。)の
うち,イミダクロプリドが特に優れた効果を示すということはできないし,…イミ
ダクロプリドのイエシロアリに対する効果が, No.1や No. 2のイエシロアリに対す
る効果と比較して,格別に異なるとまではいえない 。 (19頁5行∼15行)と
」
する。
しかし,甲11で試験した8種のニトロイミノ誘導体化合物は,甲2の他の化合
物と対比しても,イミダクロプリドの化学構造に極めて近縁の類似化合物である。
しかるに,このうち No.1や No. 2はシロアリ投入5日後において,200ppm以下
でも苦悶虫が依然として存在している一方,イミダクロプリドは50ppmで100
%の死虫率を現わしている。また, No. 16の殺虫効果はシロアリ投入5日後におい
て,400ppmでわずかに転倒虫が出るにすぎず,ほとんどが生きている。これら
をイミダクロプリドの効果と比較すれば,イミダクロプリドが類似化合物よりも,
いかに極めて優れた格別顕著な殺虫効果を有しているかが明らかである。
c したがって,本件訂正発明1は,その上位概念で表現された甲2発明が有す
る効果と同質であるが際立って優れた効果を有している。
(ウ) 以上の(ア),(イ)によれば,本件訂正発明1は,選択発明の要件(ⅱ)を
充足する。
エ なお,本件審決は,ヤマトシロアリ及びイエシロアリの各々に対する本件訂
正発明1の奏する効果について更に述べるところがあるが,これに対する反論は,
以下のとおりである。
(ア) ヤマトシロアリについて
① 本件審決は ,「本件訂正明細書,及び本件審判において提出されたすべての
証拠には,そもそも,ヤマトシロアリについて,本件訂正発明の奏する効果を裏付
けるものは存在しない。…本件訂正明細書の実施例11の記載が本件訂正発明の奏
する効果を裏付けるものとは認められない 。」とする(15頁21行∼16頁23
行)。
しかし,実施例11の対象害虫はレチクリターメス サントネシス
(Reticulitermes santonesis)であって,これは本件訂正発明1のヤマトシロアリ
(学名は Leucotermes speratusともReticulitermes speratusとも表記される)と昆
虫の学術分類上同じ「属」に属するものであり,本件訂正明細書は,実施例11に
記載の効果をもって,ヤマトシロアリについて本件訂正発明の奏する効果としたも
のである。すなわち,同じ「属」に属する生物は形態上も生態上も非常に似た性質
を有しているから,ある「属」に属する一つの種の効果をもって,同じ「属」に属
する他の種についての効果とみなすことは許されるべきである。
② 本件審決は ,「本件において,イミダクロプリドが甲2に記載されたものの
効果として予想されるところと比べて格段に異なるというためには,比較の対象と
して,…甲2に記載された,イミダクロプリド以外の化合物と比較することが必要
不可欠である 。 (17頁7行∼12行)とするが,このような説示は,第1次判
」
決と齟齬を来すものである。
すなわち,甲2が生物試験でもって具体的に殺虫作用を記載しているのは実施例
5∼ 7のツマグロヨコバイ他5種の半翅目虫のみであり,これとは属の分類単位に
おいて異なるイエシロアリ,ヤマトシロアリの等翅目虫については ,「そのような
害虫類の例」として,鞘翅目害虫などと同列に一般的に羅列記載されているにすぎ
ない( 14頁)。第1次判決は,甲2のこのような記載内容を認定した上で ,「甲 2に
は,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニト
ロイミノ誘導体が広汎な害虫に対して強力な殺虫作用を示すとともに,木材におけ
る優れた残効性を示すこと,さらに,同化合物が殺虫効果を示す対象害虫類の一つ
として,等翅目虫のヤマトシロアリ,イエシロアリが具体的に挙げられているので
あるから,上記の課題に直面していた当業者が,同一技術分野に属する刊行物であ
る甲 2に接したならば,イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤を
ヤマトシロアリやイエシロアリに適用してみようとすることは何ら困難なことでは
ないというべきである 。」と説示したが( 38頁 ),これは ,「適用してみようとする
ことは何ら困難なことではない」と説示しているだけであるから,甲2の記載から
イミダクロプリドのイエシロアリ又はヤマトシロアリへの殺虫活性が予測されると
しているわけではない。
しかも,第1次判決は,続けて,「被告は,上記第 4の 1(3)のとおり,化学物質の
害虫に対する防除効果は害虫の種類によって大きな差異があるから化学物質の効果
が生物試験によって裏付けられていない限り,所期の効果を予測することはできな
いと主張するが,このような事情を考慮したとしても,イミダクロプリドを有効成
分として含有する化合物をヤマトシロアリ及びイエシロアリの防除剤として適用し
てみようとする動機付けとする限りにおいては,上記に説示したところを左右する
には足りない 。」と説示するが(乙3, 38頁 ) 「動機付けとする限りにおいて」上
,
記説示が左右されないとしているのであるから,甲2の記載からイミダクロプリド
のイエシロアリ又はヤマトシロアリへの殺虫活性が予測されるとしているわけでは
ない。
したがって,第1次判決に従う限り,甲2の記載から,イミダクロプリドを含む
一般式で表されるニトロイミノ誘導体がイエシロアリ又はヤマトシロアリに対して
殺虫活性を有しているか否かは不明としなければならないというべきであるから,
甲2はイエシロアリ又はヤマトシロアリに対する害虫防除剤としては的確な先行技
術たり得ず,本件訂正発明1のイミダクロプリドのイエシロアリ又はヤマトシロア
リに対する殺虫効果が格別のものであるというためには,甲2に記載されたイミダ
クロプリド以外の化合物と比較することが必要不可欠とするのは第1次判決の説示
を曲解したものというほかない。
(イ) イエシロアリについて
① 本件審決は ,「甲2には,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合
物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が『極めて卓越した殺虫作用を発現し,
更には,低薬量で完璧な防除作用を現わす新規化合物である』…と記載されており,
その効果の裏付けも記載されているし…,また,駆除撲滅のために適用できる害虫
の例としてイエシロアリが記載されている…ので,甲2に記載されたイミダクロプ
リドが,イエシロアリに対し ,『極めて卓越した殺虫作用を発現し,更には,低薬
量で完璧な防除作用を現わす』ことは予想されることである… 」(18頁15行∼
22行)とする。
しかし,本件審決は,ここにいう甲2の「極めて卓越した殺虫作用を発現し,更
には,低薬量で完璧な防除作用を現わす」の意義を拡大解釈している。すなわち,
甲2は「極めて卓越した殺虫作用を発現し,更には,低薬量で完璧な防除作用を現
わす」と記載するも,これは,明細書の具体的な開示を超えて判断されるものでは
なく,最良の実施態様である実施例 5∼ 7の生物試験の結果を超えるものではない。
また,前記のように,第1次判決は,甲2の記載からイミダクロプリドのイエシロ
アリ又はヤマトシロアリへの殺虫活性が予測されるとしているわけではないから,
本件審決の甲2の「極めて卓越した殺虫作用を発現し,更には,低薬量で完璧な防
除作用を現わす」との記載と甲2のイエシロアリ,ヤマトシロアリの一般記載を結
び付けて,甲2に記載されたイミダクロプリドが,イエシロアリに対し ,「極めて
卓越した殺虫作用を発現し,更には,低薬量で完璧な防除作用を現わす」ことは予
想されることであるとするのは余りにも拙速にすぎる。
② 本件審決は,甲11に関して ,「イミダクロプリドのイエシロアリに対する
効果が,No.1やNo.2のイエシロアリに対する効果と比較して,格段に異なるとまで
はいえない 。 (19頁13行∼15行)とするが,これについては前記で述べた
」
とおりである。
③ 本件審決は,甲23の1に関して ,「かかる効果は,本件訂正明細書の記載
に基づくものではないから,参酌できない 。 (20頁16行∼17行,21頁1
」
4行∼15行)とする。その理由は,甲23の1にイミダクロプリドが10年にわたっ
て木材等をイエシロアリの食害から保護することが記載されているが,本件訂正明
細書に記載された実施例等の試験期間から本件訂正発明における「顕著な残効力」
とはせいぜい半年程度効果が継続することを意味しているとしか解せないから,イ
ミダクロプリドの10年以上という桁違いに長い期間の残留性は本件訂正明細書の記
載からは想定され得ないというにある(20頁)。
しかし,かかる審決の理由は,当業界に求められているシロアリ防除剤としての
要求性能を看過するもので妥当ではない。シロアリから木材等を保護するシロアリ
防除剤は数年ないし10年あるいはそれ以上その活性を維持するものが当業界で求め
られているのであり,そのような活性を維持するものがシロアリ防除剤といわれて
いる。本件訂正明細書(甲25)はかかる当業界の技術常識を踏まえた上で「顕著
な残効力」を有するシロアリ防除剤と記載したのであるから,当初から甲23の1に
記載のような10年にわたる木材等の保護を意図していたものであり,甲23の1は本
件訂正明細書(甲25)に記載した発明をそのまま実施化したものにすぎない。
(2) 相違点1について
ア 本件審決は ,「甲2には ,『衛生害虫,貯蔵物に対する害虫に使用される際
には活性化合物は,…木材及び土壌における優れた残効性によって,きわだたされ
ている 。 (摘記(6))と記載されているから,甲2発明において,害虫から保護す
』
る対象として木材が想定されていることは明らかである。…イエシロアリ又はヤマ
トシロアリは木材類を食害する害虫として周知である…。したがって,甲2発明に
おいて,害虫から保護する対象について木材と規定することは当業者が容易になし
得ることである 。 (12頁25行∼13頁2行)とし,保護する対象としての木
」
材が広汎な害虫にわたりおしなべて想定されているかのように認定するが,当該説
示は,甲2の記載を誤って捉えたもので失当である。
イ まず,前記のように,甲2の実施例においては,半翅目虫の5種について,
稲,ナス苗に撒布乾燥2日後の殺虫率を確認しただけで,イミダクロプリドの木材
及び土壌における残効性などについては何らの試験も行われていないから,明細書
中にこのような記載が唐突に出現すること自体,首肯しかねるところであって,上
記記載の技術的意義は疑問である。
ウ また,甲2の前記記載は衛生害虫,貯蔵物に対する害虫に関わるものであっ
て,これらの害虫の範疇に分類されないシロアリとは無縁の記載である。しかも,
ここにいう「木材及び土壌における優れた残効性」も,ノミ,シラミ,ハエ,カ,
ゴキブリ,ガ等の衛生害虫や貯蔵物に対する害虫の防除のための残留噴霧(害虫の
出現が予想される場所に予め散布しておくこと ) として適用する際の,噴霧対象で
ある天井等や堆肥等の素材である木材や土壌における残効性に言及したにとどまる
と解すべきであって,ノミ,シラミ,ハエ,カ,ゴキブリ,ガ等の衛生害虫や貯蔵
物害虫は,天井等の木製の建具類を棲家として発生・生息することがあっても,そ
の素材である木材自体を食害・侵襲することは有り得ないから,前記甲2の記載中
の「木材における優れた残効性」は,木材等をシロアリの侵食から保護するための
イミダクロプリドの木材及び土壌における有利な残効性とは無縁の記載でしかない。
エ 仮に甲2がシロアリに対するイミダクロプリドの「殺虫性」ないし当該作用
に基づく「直接噴霧」や「残留噴霧」程度までは示唆していると言い得たとしても,
かかる施用方法にいう「残効性」は,高々,数週間∼数か月を限度とするというの
が当業者の通常の認識であって,事実,甲第35号証にも,殺虫成分「トラロメト
..
リン」を含有する「シロアリ駆除剤」は「約3ヶ月間もの予防効果がります 」(甲
35,1頁目,下から5行)と殊更に強調される程度のものにすぎないのだから,
そのような「シロアリ駆除剤」としての用途と,それよりははるかに長期間にわた
り効果が持続しなければならない本件訂正発明1の「シロアリ防除剤」としての用
途は,全く別異のものとして峻別されるべきである。
しかるに,本件訂正明細書(甲25)の実施例11においては,本件イミダクロ
プリド(活性化合物I.3)の木材吸収濃度のレチクリターメス サントネシス(ヤ
マトシロアリと同じミゾガシラシロアリ亜科に属するもの)に対する8週間後の有
毒閾値が最大でも1.344g/m3であったことが示されており(甲25,19頁
の5∼9行 ),またその際の効果は,それよりも約100倍も多い136.627
g/m 3程度の木材吸収濃度での場合にさえ匹敵するところ,当業者は,一般に化
合物の分解が経時的にかつ連続的に進行するという技術常識にも照らして,仮に本
件イミダクロプリドを136.627g/m3程度の木材吸収濃度で施用した場合,
当該木材中でイミダクロプリドが100分の1にまで経時的に分解したとしても,
依然として所期の効果を奏し得るという卓越した残効性を理解し得るはずである。
2 本件訂正発明2について
本件訂正発明2と甲2’発明とは,本件審決認定のとおり,相違点1∼3におい
て明白に相違しているが,相違点2,3は,審決認定のように,それぞれ本件訂正
発明1と甲2発明との相違点1,2と同じである。しかるに,上記1の本件訂正発
明1において述べた理由から,本件審決の本件訂正発明2と甲2’発明との相違点
2,3についての判断が誤っていることは明らかである。
第4 被告の反論
本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
1 本件訂正発明1について
(1) 相違点2について
ア 相違点2の容易想到性については,第1次判決(乙3)が「上記(1)で認
定したところによると,工芸素材類をシロアリから保護するための防除剤の開発に
従事する当業者は,使用が禁止されたクロルデンに代わる物質を有効成分とする害
虫防除剤で殺虫能力と残効性の高いものを速やかに発見しなればならないという課
題に直面していたということができる。そして,上記(2)のとおり,甲2には,
イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニトロイ
ミノ誘導体が広汎な害虫に対して強力な殺虫作用を示すとともに,木材における優
れた残効性を示すこと,さらに,同化合物が殺虫効果を示す対象害虫類の一つとし
て,等翅目虫のヤマトシロアリ,イエシロアリが具体的に挙げられているのである
から,上記の課題に直面していた当業者が,同一技術分野に属する刊行物である甲
2に接したならば,イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤をヤマ
トシロアリやイエシロアリに適用してみようとすることは何ら困難な事柄ではない
というべきである。」と判示するとおりである。
イ 本件訂正発明1は,選択発明に該当しない。
すなわち,選択発明は,物の構造に基づく効果の予測が困難なことを理由に,刊
行物の上位概念の発明から下位概念を選択し,これにより異質ないし顕著な効果が
ある場合に認められるものである。したがって,上位,下位の関係にあるものは,
物の構造に基づく効果の予測が困難なものでなければならない。効果の予測が容易
な要素に関して,いくら下位概念に限定しても,異質な効果や顕著な効果が生まれ
るものではない。
本件の場合,対象となる化合物自体,本件訂正発明1と甲2発明とでは相違がな
い(いずれもイミダクロプリドである)以上,物の構造に基づく効果の予測が困難
な要素に基づく下位概念化がされた発明ではない。したがって,選択発明の対象で
はなく,原告の主張は失当である。
ウ 本件訂正発明1の効果の異質性,顕著性はあり得ない。
(ア) 異質な効果(残効性)
原告は,本件訂正発明1の殺虫「残効性」という効果が,その上位概念で表現さ
れた発明である甲2に記載の単なる殺虫効果とは異質の効果であることが明らかで
あると主張する。
しかし,甲2には,イミダクロプリドの残効性について ,「衛生害虫,貯蔵物に
対する害虫に使用される際には活性化合物は・・・木材及び土壌における優れた残効
性によって,きわだたされている 。 (16頁左上欄11∼15行)と記載されて
」
おり ,「優れた残効性とは,殺虫剤を低濃度で使用した場合でも,その施用場所に
よくとどまり,そこで長期間の殺虫効果を発揮することであるから,イミダクロプ
リドが別の翅目のものに対しても殺虫効果を有するのであれば,当該別の翅目のも
のに対してもその施用場所において長期間の殺虫効果を発揮することは,当業者で
あれば,容易に予想することができたことであると認められる 。」と東京地方裁判
所平成20年1月30日判決(乙5,本件特許権の差止請求権不存在確認請求事
件)が判示するとおりであり,異質の効果とは認められない。
(イ) 同質であるが際立って優れた効果(殺虫作用)
原告は,本件訂正発明1の有効性成分イミダクロプリドは,公知殺虫剤と比較し
て顕著な殺虫作用を有するとして,選択発明における同質であるが際立って優れた
効果を有すると主張する。
しかし,本件審決が正当に指摘するように,原告が主張するような比較の対象は
公知殺虫剤ではなく,当該構成のものの効果として予想されるところと比べて格段
に異なることを要するものというべきである。したがって,原告の主張は,同質で
あるが際立って優れた効果の比較の対象を明らかに誤っており失当である。
(ウ) 以上のとおりであり,本件訂正発明1も甲2発明も,同じ「イミダクロプ
リドを有効成分として含有する害虫防除剤。」という構成を有するものである以上,
害虫防除剤の効果に相違があるということはあり得ない。
この点,原告は,両発明の残効性に関して,相違を縷々述べているが,このよう
な効果が「イミダクロプリドを有効成分として含有する」という構成から生じる効
果である以上,両者に相違があるものではない。
(2) 相違点1について
原告は,保護する対象としての木材が広汎な害虫にわたりおしなべて想定されて
いるかのように認定したことについては争うと述べるが,本件審決が正当に認定,
判断するとおり,イミダクロプリドを有効成分とする含有する害虫防除剤の対象と
して木材を想定している以上,相違点1は容易想到であり,原告の主張は失当であ
る。
2 本件訂正発明2について
本件訂正発明2に関して,本件訂正発明1とは異なる取消事由の主張はないから,
上記1で述べたところがすべて妥当する。
第5 当裁判所の判断
1 甲2の記載事項
甲2(特開昭61−267575号公報)には,以下の記載がある。
(1) 「一般式:
式中,Rは水素原子又はアルキル基を示し,Xはハロゲン原子,アルキル基,アル
コキシ基,アルキルチオ基,ニトロ基,シアノ基,アミノ基,アシルアミノ基,ジ
アルキルアミノ基,アルコキシカルボニル基,アシル基,アルキルスルホニル基,
アルキルスルフィニル基,ハロアルキル基,ハロアルコキシ基,ハロアルキルチオ
基,ホルミル基,アルケニル基,アルキニル基及びハロアルケニル基よりなる群か
らえらばれた基を示し,lは0,1,2,3又は4を示し,そしてmは2,3又は
4を示す,
で表わされるニトロイミノ誘導体。 (1頁,特許請求の範囲,請求項1)
」
(2) 「一般式:
式中,Rは水素原子又はアルキル基を示し,Xはハロゲン原子,アルキル基,アル
コキシ基,アルキルチオ基,ニトロ基,シアノ基,アミノ基,アシルアミノ基,ジ
アルキルアミノ基,アルコキシカルボニル基,アシル基,アルキルスルホニル基,
アルキルスルフィニル基,ハロアルキル基,ハロアルコキシ基,ハロアルキルチオ
基,ホルミル基,アルケニル基,アルキニル基及びハロアルケニル基よりなる群か
らえらばれた基を示し,lは0,1,2,3又は4を示し,そしてmは2,3又は
4を示す,
で表わされるニトロイミノ誘導体を有効成分として含有することを特徴とする殺虫
剤。 (3頁,特許請求の範囲,請求項9)
」
(3) 「本発明者等はニトロイミノ誘導体の合成及びその生物活性について研究
を行つてきた。その結果,前記式(I)で表わされる従来公知文献未記載のニトロ
イミノ誘導体の合成に成功し,更に,該ニトロイミノ誘導体は,予想外且つ驚くべ
きことには,後に,具体的に例示された生物試験から明らかなように,前記公知刊
行物記載の類似の公知化合物(A)が,ほとんど殺虫作用を示さないのに対して,極
めて卓越した殺虫作用を発現し,更には,低薬量で完璧な防除作用を現わす新規化
合物であることを発見した。 (4頁左下欄下から9行∼右下欄2行)
」
(4) 「本発明一般式(I)の化合物の具体例としては,特には,下記のものを
例示することができる 。・・・1−(2−クロロ−5−ピリジルメチル)−2−
(ニトロイミノ)イミダゾリジン」(5頁右上欄6∼12行)
(5) 「本発明の式(I)化合物は,強力な殺虫作用を現わす。従って,それら
は,殺虫剤として,使用することができる。そして,本発明の式(I)活性化合物
は,栽培植物に対し,薬害を与えることなく,有害昆虫に対し,的確な防除効果を
発揮する。また本発明化合物は広範な種々の害虫,有害な吸液昆虫,かむ昆虫およ
びその他の植物寄生害虫,貯蔵害虫,衛生害虫等の防除のために使用でき,それら
の駆除撲滅のために適用できる。そのような害虫類の例としては,以下の如き害虫
類を例示することができる。昆虫類として,鞘翅目害虫,例えばアズキゾウムシ・
・・;鱗翅目虫,例えば,マイマイガ・・・;半翅目虫,例えば,ツマグロヨコバ
イ・・・;直翅目虫,例えば,チャバネゴキブリ・・・;等翅目虫,例えば,ヤマ
トシロアリ(deucotermes speratus ),イエシロアリ(Coptotermes formosanus)
;双翅目虫,例えば,イエバエ・・・等を挙げることができる 。 (14頁左上欄
」
1行∼左下欄19行)
(6) 「衛生害虫,貯蔵物に対する害虫に使用される際には活性化合物は,石灰
物質上のアルカリに対する良好な安定性はもちろんのこと,木材及び土壌における
優れた残効性によって,きわだたされている 。 (16頁左上欄11∼15行)
」
(7) 「実施例3−ii
上記実施例3−iで合成された臭化水素酸塩(5.8g)を98%硫酸(30m
l)に0℃で加え,続いて,攪拌しながら,0℃で発煙硝酸2mlを少しずつ加え
る。加え終わった後,0℃で2時間攪拌した後,内容物を氷水(100g)に注ぎ,
ジクロロメタンで抽出する。抽出物よりジクロロメタンを減圧で留去すると,淡黄
色の結晶が得られ,この結晶をエーテルで洗浄すると,1−(2−クロロ−5−ピ
リジルメチル)−2−(ニトロイミノ)イミダゾリジン(1.5g)が得られる。
mp.136∼139℃ 」(16頁右下欄下から4行∼17頁9行)
(8) 「実施例5(生物試験)
有機リン剤抵抗性ツマグロヨコバイに対する試験
供試薬液の調製
溶剤:キシロール3重量部
乳化剤:ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル1重量部
適当な活性化合物の調合物を作るために活性化合物1重量部を前記量の乳化剤を
含有する前記量の溶剤と混合し,その混合物を水で所定濃度まで希釈した。
試験方法:
直径12cmのポットに植えた草丈10cm位の稲に,上記のように調製した活
性化合物の所定濃度の水希釈液を1ポット当り10ml散布した。散布薬液を乾燥
後,直径7cm,高さ14cmの金網をかぶせ,その中に有機リン剤に抵抗性を示
す系統のツマグロヨコバイの雌成虫を30頭放ち,恒温室に置き2日後に死虫数を
調べ殺虫率を算出した。代表例をもって,その結果を第2表に示す。
実施例6(生物試験)
ウンカに対する試験)
試験方法:
・・・
代表例をもって,その結果を第3表に示す。
実施例7(生物試験)
有機リン剤,及びカーバメート剤抵抗性モモアカアブラムシに対する試験
試験方法:
・・・
代表例をもって,その結果を第4表に示す。
」
(19頁左上欄7行∼20頁左上欄)
2 本件訂正発明1について
(1) 相違点2について
ア 刊行物に記載されていない有利な効果であって,異質な効果
(ア) 原告は,本件訂正明細書(甲25)の実施例9,同実施例11の記載によ
れば,本件訂正発明1は,木材及び木質合板類の保護を目的とするイミダクロプリ
ドのヤマトシロアリ及びイエシロアリに対する上記のごとき殺虫「残効性」の優れ
た効果を有する,他方,甲2に記載された技術的に裏付けのある効果,すなわち生
物試験により裏付けられた現実の効果としては,いずれも専ら半翅目に属するツマ
グロヨコバイ等5種のみについて,稲ないしナス苗に撒布乾燥2日後の殺虫率(10
0%)を確認したというだけである,その他の翅目の害虫についてはそれらの殺虫
活性すらも確認していないばかりか,イミダクロプリドの殺虫残効性については上
記5種の害虫に対する関係についてすら確認しておらず,木材等をヤマトシロアリ
又はイエシロアリの侵食から保護するためのイミダクロプリドの木材における有利
な「残効性」についても,確認はもとより一片の記載すらもされていないと主張す
る。
(イ)① しかし,まず,前記1のとおり,甲2には ,「本発明者等はニトロイミ
ノ誘導体の合成及びその生物活性について研究を行ってきた。その結果,前記式
(I)で表わされる従来公知文献未記載のニトロイミノ誘導体の合成に成功し,更
に,該ニトロイミノ誘導体は,予想外且つ驚くべきことには,後に,具体的に例示
された生物試験から明らかなように,前記公知刊行物記載の類似の公知化合物(A)
が,ほとんど殺虫作用を示さないのに対して,極めて卓越した殺虫作用を発現し,
更には,低薬量で完璧な防除作用を現す新規化合物であることを発見した 。 (4
」
頁左下欄下から9行∼右下欄2行 ) 「本発明の式(I)化合物は,強力な殺虫作
,
用を現わす。従って,それらは,殺虫剤として,使用することができる。そして,
本発明の式(I)活性化合物は,栽培植物に対し,薬害を与えることなく,有害昆
虫に対し,的確な防除効果を発揮する 。 (14頁1行∼5行)とあるように,一
」
般式(Ⅰ)で表されるニトロイミノ誘導体が強力な殺虫作用を現すことが述べられ
ている。
しかるに,甲2には,「本発明一般式(I)の化合物の具体例としては,特には,
下記のものを例示することができる。…1−(2−クロロ−5−ピリジルメチル)
−2−(ニトロイミノ)イミダゾリジン 」(5頁右上欄6行∼12行)とあるから,
上記ニトロイミノ誘導体の具体例として,特に,イミダクロプリドが例示されてい
る。
さらに,甲2には ,「本発明化合物は広範な種々の害虫,有害な吸液昆虫,かむ
昆虫およびその他の植物寄生害虫,貯蔵害虫,衛生害虫等の防除のために使用でき,
それらの駆除撲滅のために適用できる。そのような害虫類の例としては,以下の如
き害虫類を例示することができる。昆虫類として,鞘翅目害虫,例えばアズキゾウ
ムシ…;鱗翅目虫,例えば,マイマイガ…;半翅目虫,例えば,ツマグロヨコバイ
…;直翅目虫,例えば,チャバネゴキブリ…;等翅目虫,例えば,ヤマトシロアリ
(deucotermes speratus),イエシロアリ(Coptotermes formosanus);双翅目虫,
例えば,イエバエ…等を挙げることができる 。 (14頁左上欄6行∼左下欄下か
」
ら2行)とある。
これらによれば,甲2には,イミダクロプリドが具体例として例示される上記ニ
トロイミノ誘導体が強力な殺虫作用を現すこと,同ニトロイミノ誘導体が広範な種
々の害虫の防除のために使用できること,その害虫類の具体例として,ヤマトシロ
アリ,イエシロアリが挙げられること,が記載されていると認めることができる。
② しかるに,一般に,殺虫活性のある化合物は,施用箇所において,分解,揮
発等により自然に消滅するか,又は,洗浄,焼却,施用対象植物の収穫等により人
為的に除去されるという事情がなければ,その施用箇所にとどまって,殺虫活性を
示し続けるといえる。そうすると,殺虫残効性のある化合物とは,その施用箇所に
おいて,短期間に分解・揮発等により自然に消滅することのない性質を有する化合
物であるということができる。
これを上記①の一般式(I)で表される化合物(ニトロイミノ誘導体)について
見ると,甲2には,同化合物について ,「衛生害虫,貯蔵物に対する害虫に使用さ
れる際には活性化合物は,石灰物質上のアルカリに対する良好な安定性はもちろん
のこと,木材及び土壌における優れた残効性によって,きわだたされている 。」
(16頁左上欄11行∼15行)とあるから,上記ニトロイミノ誘導体は,木材及
び土壌において,短期間に分解・揮発等により自然に消滅することのない性質を有
する化合物であることが示されている。そして,このような性質は,殺虫対象とな
る昆虫によって左右されるものではないから,甲2の上記記載に接した当業者が,
当該記載は,殺虫対象が衛生害虫,貯蔵物に対する害虫であるときに限られる旨理
解するとみるのは合理的でなく,むしろ,同記載に係る残効性が発揮されるのは,
甲2記載の殺虫対象全般に対してである旨理解するとみるのが合理的である。
③ 以上の①,②によれば,イミダクロプリドの殺虫残効性について生物試験の
実施例の記載がないことを考慮してもなお,甲2において,上記ニトロイミノ誘導
体(一般式(I)で表される化合物)の具体例であるイミダクロプリドが,ヤマト
シロアリ,イエシロアリに対して木材及び土壌における優れた残効性を有すること
が記載されているというべきである。そうすると,甲2において,イミダクロプリ
ドが上記残効性を有することが記載されていないことを前提とする原告の上記主張
は,その前提を欠くものであって,採用することができない。
イ 刊行物に記載されていない有利な効果であって,同質であるが際立って優れ
た効果
(ア) 原告は,本件訂正発明1の有効成分イミダクロプリドは,公知殺虫剤と比
較して極めて顕著な殺虫作用を示し,極めて低濃度で使用可能であって,公知の薬
剤よりも低濃度でシロアリに対し残効作用を示すなどの作用効果があり,この作用
効果の具体例が実施例8に例示されている,実施例8は,ガラスシャーレ中でシロ
アリ(イエシロアリ)の殺虫効果を試したシャーレ試験であるが,本件訂正発明1
のイミダクロプリドを,その出願日(優先日)当時シロアリ防除剤として市販され
非常に高いシロアリ殺虫活性を有するホキシム及びクロルピリホスと直接比較し,
イミダクロプリドがホキシム,クロルピリホスに優るとも劣らない殺虫活性を有し
ていることが示されている,と主張する。
しかし,本件訂正明細書(甲25)の実施例8の記載は,40ppm∼0.32ppmという
有効成分濃度における4日後の殺虫率を示したものであるが,イミダクロプリドを
使用した場合とホキシム及びクロルピリホスを使用した場合のいずれもほぼ100
%となっており,両者に有意な差はない。そうすると,そもそも,かかる実施例8
の記載が直ちに,本件訂正発明1の有効成分イミダクロプリドが,公知の殺虫剤と
比較して極めて顕著な殺虫作用を示し,低濃度でシロアリに対し残効作用を示すな
どの作用効果を有することの裏付けになるものとはいえない。また,上記アの説示
を踏まえれば,イミダクロプリドが公知の殺虫剤等に比して優れた殺虫作用,低薬
量での防除作用を有することは,甲2の記載から当業者が容易に予測できることで
ある。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) また,原告は,化学構造が類似する他のニトロイミノ系化合物と対比して
も,本件特許のイミダクロプリドが格別顕著なシロアリ殺虫活性を具有している,
すなわち,イミダクロプリド関連化合物のイエシロアリに対する生物学的活性試験
を実施し,その結果を一覧した原告従業員A作成の「イミダクロプリド関連化合物
のイエシロアリに対する効果試験(速報 ) (甲11)によれば,イミダクロプリ
」
ドは試験した化合物群の中で最も早くシロアリを苦悶・死亡に至らせ,低濃度にお
けるシロアリ防除効果及び効力の持続性という点で最も優れているものであり,類
似化合物と対比しても極めて卓越したシロアリ防除効果を示す,と主張する。
しかし,一般に,化合物発明やその用途発明において,発明の対象とされる化合
物や有効成分同士の間に効果の点で優劣の差があるのは当然であり,それらの中で,
実施例の化合物や有効成分のうちのどれかが最も優れた効果を有することは,当業
者が当然に予測することである。しかるに,イミダクロプリドは,甲2において,
すべての生物試験に供される3つの有効成分たる化合物No.1∼3の一つ,化合物No.
3として記載されているから,かかるイミダクロプリドが,化合物No.1,2を初めと
する他の甲2記載の化合物と比較してイエシロアリに対し甲11に記載されたよう
な優れた効果を有するとしても,それは当業者が容易に予測することというほかな
い。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) なお,原告は,本件審決が「…そもそも,乙1(甲11と同じ 。)で試験
したわずか8種のニトロイミノ誘導体化合物の試験結果を示したところで,甲2の
一般式(摘示(1)及び(2 ))に包含される数多くのニトロイミノ誘導体化合物
(例えば,甲2の第1表には53種のニトロイミノ誘導体化合物が例示されてい
る。)のうち,イミダクロプリドが特に優れた効果を示すということはできないし,
…イミダクロプリドのイエシロアリに対する効果が,No.1や No. 2のイエシロアリ
に対する効果と比較して,格別に異なるとまではいえない 。 (19頁5行∼15
」
行)とする点に対して反論する。しかし,そもそも上記(イ)に説示した理由により ,
上記甲11によるイミダクロプリドの優れた作用効果の主張を採用することはでき
ないから,原告の反論はその前提を欠くものである。
ウ 以上のア,イによれば,その余の点について検討するまでもなく,本件訂正
発明1は選択発明として成立し進歩性を有するとの原告の主張を採用することはで
きない。
エ その他の原告の主張について
(ア) ヤマトシロアリについて
① 原告は,本件審決が「本件訂正明細書,及び本件審判において提出されたす
べての証拠には,そもそも,ヤマトシロアリについて,本件訂正発明の奏する効果
を裏付けるものは存在しない。…本件訂正明細書の実施例11の記載が本件訂正発
明の奏する効果を裏付けるものとは認められない 。」とした(15頁21行∼16
頁23行)のに対し,実施例11の対象害虫はレチクリターメス サントネシスで
あって,これは本件訂正発明1のヤマトシロアリと昆虫の学術分類上同じ「属」に
属するところ,同じ「属」に属する生物は形態上も生態上も非常に似た性質を有す
るから,ある「属」に属する一つの種の効果をもって,同じ「属」に属する他の種
についての効果とみなすことは許されるべきであると主張する。
しかし,選択発明が成立するためには,選択したそのもの,本件の場合は,本件
訂正後の請求項1が,具体的に「ヤマトシロアリ…より保護するための」との文言
で記載されている以上,ヤマトシロアリそのものに対する用途を裏付ける効果を示
すべきである。そうすると,たとえ同じ「属」に属する生物を対象害虫とした実施
例の記載があったとしても,これをヤマトシロアリ自体を対象害虫とした実施例の
記載と同視して本件訂正発明1の奏する効果を裏付けるものということはできない。
また,一般に,殺虫剤が同じ属に属するすべての昆虫に対して例外なく同じ殺虫活
性を示すとはいえないし,本件において,上記実施例11で用いる昆虫が殺虫剤に
対する感受性の点でヤマトシロアリと同一であると認めるに足りる証拠もない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
② 原告は,本件審決は ,「本件において,イミダクロプリドが甲2に記載され
たものの効果として予想されるところと比べて格段に異なるというためには,比較
の対象として,…甲2に記載された,イミダクロプリド以外の化合物と比較するこ
とが必要不可欠である 。 (17頁7行∼12行)とするところ,このような説示
」
は,第1次判決の判示と齟齬を来すとして縷々主張する。しかし,第1次判決(乙
3)においては本件のように選択発明が争点になってはおらず,同判決の言渡しの
後に本件訂正がなされて原告が本件訂正発明1につき選択発明に当たるとの主張を
するに至っていることに照らせば,本件訂正前の発明についての判示と本件訂正発
明1についての説示との整合性を問題とする原告の主張は,そもそもその前提を欠
き失当である。
(イ) イエシロアリについて
① 原告は,甲2は「極めて卓越した殺虫作用を発現し,更には,低薬量で完璧
な防除作用を現す」と記載するも,これは,明細書の具体的な開示を超えて判断さ
れるものではなく,最良の実施態様である実施例5∼7の生物試験の結果を超える
ものではない,本件審決の甲2の「極めて卓越した殺虫作用を発現し,更には,低
薬量で完璧な防除作用を現わす」との記載と甲2のイエシロアリ,ヤマトシロアリ
の一般記載を結び付けて,甲2に記載されたイミダクロプリドが,イエシロアリに
対し ,「極めて卓越した殺虫作用を発現し,更には,低薬量で完璧な防除作用を現
わす」ことは予想されることとするのは拙速にすぎると主張する。
しかし,たとえ実施例5∼7の生物試験の結果に記載されていないものであった
としても,前記ア(イ)の説示に照らせば,甲2において,一般式(I)で表される
化合物(ニトロイミノ誘導体)の具体例であるイミダクロプリドが,ヤマトシロア
リ,イエシロアリに対して木材及び土壌における優れた残効性を有することが記載
されているというべきことに変わりはない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
② 原告は,本件審決が,甲11に関して ,「イミダクロプリドのイエシロアリ
に対する効果が,No.1やNo.2のイエシロアリに対する効果と比較して,格段に異な
るとまではいえない 。 (19頁13行∼15行)としたことに対し反論するが,
」
前記イ(イ)の説示に照らし,原告の主張は失当である。
③ 原告は,シロアリから木材等を保護するシロアリ防除剤は数年ないし10年あ
るいはそれ以上その活性を維持するものが当業界で求められているのであり,その
ような活性を維持するものがシロアリ防除剤といわれているところ,本件訂正明細
書(甲25)はこのような当業界の技術常識を踏まえた上で「顕著な残効力」を有
するシロアリ防除剤と記載したのであるから,当初から甲23の1「ハチクサンF
L T−893 野外試験(Vol.1) (平成15年10月 Bayer Environmental S
」
cience社発行)に記載のような10年にわたる木材等の保護を意図しており,甲23
の1は本件訂正明細書(甲25)に記載した発明をそのまま実施化したものにすぎ
ないと主張する。
しかし,前記イ(イ)に説示した理由に照らせば,原告従業員A作成の「イミダクロ
プリド関連化合物のイエシロアリに対する効果試験(速報 ) (甲11)の場合と
」
同様に,イミダクロプリドがイエシロアリに対して「ハチクサンFL T−893
野外試験(Vol.1) (平成15年10月 Bayer Environmental Science社発行)
」
〔甲23の1〕に記載されたような優れた効果を有するとしても,それは当業者が
容易に予測することというほかない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
オ よって,相違点2についての原告の主張は理由がない。
(2) 相違点1について
ア 原告は,本件審決は,保護する対象としての木材が広範な害虫にわたりおし
なべて想定されているかのように認定しており甲2の記載を誤って捉えたもので失
当であると主張するが,前記(1)ア(イ)の説示に照らし採用できない。
イ 原告は,甲2の実施例においては,半翅目虫の5種について,稲,ナス苗に
撒布乾燥2日後の殺虫率を確認しただけで,イミダクロプリドの木材及び土壌にお
ける残効性などについては何らの試験も行われていないから,甲2の記載の技術的
意義は疑問であると主張するが,このような事項を指摘するのみでは,前記(1)ア
(イ)に説示したところを左右することはできない。
ウ 原告は,甲2の記載は,噴霧対象である天井等や堆肥等の素材である木材や
土壌における残効性に言及したにとどまると解すべきであって,ノミ,シラミ,ハ
エ,カ,ゴキブリ,ガ等の衛生害虫や貯蔵物害虫は,天井等の木製の建具類を棲家
として発生・生息することがあっても,その素材である木材自体を食害・侵襲する
ことはあり得ないから,前記甲2の記載中の「木材における優れた残効性」は,木
材等をシロアリの侵食から保護するためのイミダクロプリドの木材及び土壌におけ
る有利な残効性とは無縁の記載でしかないと主張する。
しかし,前記(1)ア(イ)の説示に照らせば,甲2の記載が,噴霧対象である天井
等や堆肥等の素材である木材や土壌における残効性に言及したにとどまると解すべ
き根拠はない。そして,たとえ衛生害虫や貯蔵物害虫が,その素材である木材自体
を食害・侵襲することはあり得ない点でイエシロアリと異なるとしても,薬剤に何
らかの形で接触して殺虫されることに変わりはないところ,前記(1)ア(イ)に説示
したように,甲2に記載された,一般式(I)で表される化合物(ニトロイミノ誘
導体)の具体例であるイミダクロプリドが有する,木材及び土壌において短期間に
分解・揮発等により自然に消滅することのない性質が,殺虫対象となる昆虫によっ
て左右されるものとはいえない。そうすると,甲2の同記載に接した当業者は,同
記載に係る残効性が発揮されるのは,甲2記載の殺虫対象全般に対してである旨理
解するとみるべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
エ 原告は,仮に甲2がシロアリに対するイミダクロプリドの「殺虫性」ないし
当該作用に基づく「直接噴霧」や「残留噴霧」程度までは示唆しているといい得た
としても,このような施用方法にいう「残効性」は,高々,数週間∼数か月を限度
とするというのが当業者の通常の認識であるから,そのような「シロアリ駆除剤」
としての用途と,それよりははるかに長期間にわたり効果が持続しなければならな
い本件訂正発明1の「シロアリ防除剤」としての用途は,全く別異のものとして峻
別されるべきであるとして,本件訂正明細書(甲25)の実施例11の記載を引い
て,主張する。
しかし,前記(1)ア(イ)に説示したとおり,甲2には,一般式(I)で表される
化合物(ニトロイミノ誘導体)の具体例であるイミダクロプリドが,ヤマトシロア
リ,イエシロアリに対して木材及び土壌における優れた残効性を有することが記載
されているというべきであり,また,前記(1)イ(イ)の説示に照らせば,本件訂正
発明1のイミダクロプリドが,数週間∼数か月を限度とせずに,それよりはるかに
長期間にわたり効果が持続するものとしても,当業者は容易に予測できるというほ
かない。さらに,(1)エ(ア)①の説示に照らせば,本件訂正明細書(甲25)の実
施例11の記載を根拠とする原告の主張は失当である。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
オ よって,相違点1についての原告の主張にも理由がない。
3 本件訂正発明2について
原告は,本件訂正発明2と甲2’発明との相違点2,3は,それぞれ本件訂正発
明1と甲2発明との相違点1,2と同じであるところ,本件訂正発明1において述
べた理由から,本件審決の上記相違点2,3についての判断が誤っていることは明
らかであると主張する。しかし,本件訂正発明1についての原告の主張に理由がな
いことは,上記2で説示したとおりであるから,本件訂正発明2についての原告の
主張にも理由がないこととなる。
4 結論
以上によれば,原告主張の取消事由は理由がない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決す
る。
知的財産高等裁判所 第1部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
本 多 知 成
裁判官
田 中 孝 一
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