平成20(行ケ)10215審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成20年11月20日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官後藤時男 原告エンブレクス,インコーポレイティド有原幸一
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対象物 |
家禽卵に選択的に注射するための方法及び装置 |
法令 |
特許権
特許法126条5項2回 特許法29条2項2回
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キーワード |
審決34回 実施21回 優先権1回 進歩性1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
本件は,原告が特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服とし
て審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求
めた事案である。 |
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判決文
平成20年11月20日判決言渡
平成20年(行ケ)第10215号 審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日 平成20年11月13日
判 決
原 告 エンブレクス,インコーポレイティド
同訴訟代理人弁理士 奥 山 尚 一
有 原 幸 一
松 島 鉄 男
河 村 英 文
岡 本 正 之
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代理 人 宮 澤 浩
後 藤 時 男
山 本 章 裕
小 林 和 男
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための
付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2006−2055号事件について平成20年1月29日にした審
決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服とし
て審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求
めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成10年1月16日,名称を「家禽卵に選択的に注射するための方法
及び装置」とする発明につき,パリ条約による優先権(1997年〔平成9年〕1
月17日,米国)を主張して特許出願(特願平10−534549号 )をしたが(甲
3),特許庁は,平成17年10月28日付けで拒絶査定をした。
原告は,平成18年2月6日,上記拒絶査定に対する不服の審判請求をするとと
もに,同年3月8日に特許請求の範囲を変更する手続補正 甲5。
( 以下「本件補正」
という。)をした。
特許庁は,上記審判請求を不服2006−2055号事件として審理し,平成2
0年1月29日,本件補正を却下する決定とともに,「本件審判の請求は,成り立
たない。」との審決をし,その謄本は,同年2月8日原告に送達された。
2 本願に係る発明の要旨
(1) 本件補正前
本件補正前の平成16年11月11日付け手続補正書(甲4)に記載の請求項1
に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は,次のとおりである。
「家禽卵を分類するための装置であって,
卵運搬装置と,
前記卵運搬装置の一方の側に配置された光源と前記光源の反対側にある前記卵運搬装置の他
方の側に配置された光検出器とを有する光測定システムと,
毎秒100サイクルより高い周波数の前記光源の強度を周期変化させるために前記光源と機
能的に接続しているスイッチ回路とを含む装置。」
(2) 本件補正後
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)の内容は,
次のとおりである(甲5。なお,下線部は補正箇所である。。
)
「家禽卵を分類するための装置であって,
卵運搬装置と,
前記卵運搬装置と機能的に接続している駆動システムであって,所定の速度で前記卵運搬装
置を動かすように構成されている駆動システムと,
前記卵運搬装置の一方の側に配置された光源と前記光源の反対側にある前記卵運搬装置の他
方の側に配置された光検出器とを有する光測定システムであって,前記卵運搬装置が少なくと
も10インチ毎秒の速度で前記駆動システムによって動かされている間に,前記動いている卵
運搬装置の中で周囲光中にある卵を,前記動いている卵運搬装置から持ち上げることなく,前
記卵を通過した光の量に従って分類する光測定システムと,
毎秒100サイクルより高い周波数の前記光源の強度を周期変化させるために前記光源と機
能的に接続しているスイッチ回路とを含む装置。」
3 審決の内容
(1) 審決は,本願補正発明が特開昭51−133080号公報(甲1。以下「引
用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。
)及び周知技術に
基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,平成18年法律
第55号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という 。)17条の2第5項で
準用する特許法126条5項に違反するとし,本件補正は,旧特許法159条1項
で準用する同法53条1項の規定により却下すべきものであるとした。
そして,審決は,本件補正前の特許請求の範囲の記載に基づいて本願発明を認定
し,本願発明は,引用例発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をするこ
とができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることがで
きないとした。
(2) 審決が認定する本願補正発明と引用例発明との一致点並びに相違点1及び
2は,次のとおりである。
ア 一致点
「 家禽卵を分類するための装置であって,
『
卵運搬装置と,
前記卵運搬装置と機能的に接続している駆動システムであって,所定の速度で前記卵運搬装
置を動かすように構成されている駆動システムと,
前記卵運搬装置の一方の側に配置された光源と前記光源の反対側にある前記卵運搬装置の他
方の側に配置された光検出器とを有する光測定システムであって,
所定の周波数の光の強度を周期変化させるための構成とを含む装置』である点。(7頁4∼
」
12行)
イ 相違点1
「光測定システムにおける測定について,本願補正発明では ,『卵運搬装置が少なくとも1
0インチ毎秒の速度で前記駆動システムによって動かされている間に,前記動いている卵運搬
装置の中で周囲光中にある卵を,前記動いている卵運搬装置から持ち上げることなく』行われ
るのに対して,引用例発明では,どのように測定するかについて明確でない点 。(7頁14∼
」
18行)
ウ 相違点2
「測定する光を制御する回路について,本願補正発明では,毎秒100サイクルより高い周
波数の光源の強度を周期変化させるために光源と機能的に接続しているスイッチ回路を用いて
いるのに対して,引用例発明では,光源からの光をバタフライシャッタでチョッパし,サンプ
リング周波数を250Hzとした点。(7頁20∼24行)
」
第3 原告主張の審決取消事由の要旨
審決は,以下のとおり,引用例発明の認定を誤るなどし,本願補正発明につき旧
特許法17条の2第5項で準用する特許法126条5項の要件がないとの誤った判
断をした違法性を有するから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用例発明の認定の誤り)(なお,以下の「取消事由1∼4」
との表記は,当裁判所が原告の主張に基づき整理したものである。)
(1) 審決は,引用例発明(甲1)には,『卵に血が入っていて不良卵であるか
「
否かを判別するための検卵装置であって,一連の卵を連続的に検査部所に沿って移
動させるコンベアシステムと,前記移動する卵23の一方の側に配置された2つの
光源と前記光源の反対側にある前記移動する卵23の他方の側に配置された光検出
器22とを有する光測定システムであって,前記卵23を透過した光透過率に従っ
て判別する光測定システムであって,光源からの光をバタフライシャッタでチョッ
パし,サンプリング周波数を250Hzとした装置』が,開示されていると認めら
れる。
」とする(6頁1∼9行)
。
(2) しかし,引用例(甲1)は,
「卵23を透過した光透過率に従って判別する
光測定システム」を開示するものではない。
引用例発明は ,「卵に血が入っていて不良卵であるか否かを判別する」ことがで
きるようにすることを意図しているものであって,このことから,血液が選択的に
吸収しない波長すなわち基準波長の光が一方のビームに,また他方のビームには血
(ヘモグロビン)が選択的に吸収する別な波長の光,すなわち ,「測定波長の光が
含まれている」必要がある。その結果, 光透過率に従って」判別するのではなく,
「
両電圧から「導出される比の値」に従って行われるべき必要性がある。
引用例発明(甲1)には,「2つの波長での測定は順序にしたがつてなされ交互
的でなければならない 」(12頁右上欄2,3行)及び「λ(原告注:測定に用い
る光の波長のこと)=576nmにおける絶対透過率の測定値は,卵の他の性質例
えば卵殻の厚さ,卵殻の色,卵黄の色によって強い影響を受けるので血を検出する
ためには不十分である 」(10頁左下欄3∼6行)との記載がある。また,引用例
図4bには,基準波長を600nmとした場合のMH/MR( 透過率の比」
「 )を縦
軸に,補正済みの透過率( 基準波長における透過率」
「 )を対数目盛によって横軸に
示した測定の結果が明示されており,基準波長(ここでは600nm)による透過
率の違いに頼って卵内部の状態(ここでは血玉かどうか)についての判定をしよう
とした場合,透過率がたとえ対数目盛りによって示されるように数桁にわたる違い
があったとしても,それは困難であることを示している。
このように,引用例は,判別を「光透過率に従って」行っているものとみること
はできない。
(3) したがって,引用例が,「卵23を透過した光透過率に従って判別する光測
定システム」を開示するとした審決の認定は,誤っている。
(4) なお,被告は,「本願補正発明では,このように値そのものではなく演算値
を用いるものも含めて,値に『従って』分類とすると称している。このように,値
を用いた演算結果により分類するものも含めて,値に『従って』分類すると称する
ことは当該分野において慣用されていることである。したがって,引用例発明も,
光透過率に従って判別を行うものである。
」と主張する。
しかし,先行技術の事実認定の根拠を文献の記載に求めるならば,その際には,
当該特許出願前の公知文献の記載にのみその根拠を求めなければならない。そして,
先行技術の事実認定の基礎として許容されるのは,引用例とされる公知文献に記載
されている事項及び記載されているに等しい事項,あるいは本願出願時における技
術常識を参酌して当該引用例発明から当業者が導き出せる事項に限定される。先行
技術の事実認定それ自体,その後における本願補正発明との対比,対比の結果の相
違点の認定及び相違点を前提とした発明の容易性の判断という一連の判断過程にお
いて,先行技術の事実認定の段階において,特許法上,本願のみに開示された内容
が考慮される余地はない。
被告は,引用例発明の認定が「透過率に従って」という構成が含まれるとの正当
性を主張し,その際,透過率に「従って」いるかどうかの判断は先行技術の事実認
定の一部をなすにもかかわらず,本願補正発明の詳細な説明の記載に依拠している。
被告のこのような主張は,特許法が先行技術の認定に許容しない証拠資料である本
願の開示に基づく主張であり,特許法上,許容されない。
また,被告は,上記のとおり,「値を用いた演算結果により分類するものも含め
て,値に『従って』分類すると称することは,当該分野において慣用されているこ
とである」と主張するが,たとえある用語が慣用されているかどうかを定めるため
であっても,本願における発明の詳細な説明の記載に依拠することは違法である。
2 取消事由2(本願補正発明と引用例発明との一致点の認定の誤り)
(1)ア 審決は,「引用例発明の『前記移動する卵23の一方の側に配置された2
つの光源と前記光源の反対側にある前記移動する卵23の他方の側に配置された光
検出器22とを有する光測定システム』は,本願補正発明の『前記卵運搬装置の一
方の側に配置された光源と前記光源の反対側にある前記卵運搬装置の他方の側に配
置された光検出器とを有する光測定システム』に相当する 」(6頁26∼31行)
とする。
イ しかし,上記1(2)のとおり,引用例発明(甲1)は,本願補正発明のよう
に「卵23を透過した光透過率に従って判別する光測定システム」ではない。引用
例に記載の光学系では,別々の光源(水銀ランプ及びハロゲンランプ)からの二つ
のタイプの光が交互かつ別々に,同一の光路に沿って一つの卵に照射され,二つの
光源からの光は,二つのレンズによって,実質的に平行な光のビームに変換され,
二つの干渉フィルター(576nmと600nm)によってフィルタリングされ,
バタフライシャッタによってチョッパされた後,二つのビームは,上記二つのレン
ズによって集められ,同じ光軸を持つビームにされる。そして,二つの波長の光の
強度比率が検出器で検出される。
したがって,引用例発明では,血液が選択的に吸収しない波長すなわち基準波長
λ r の光が一方のビームに,また他方のビームには血(ヘモグロビン)が選択的に
吸収する別な波長の光すなわち測定波長λ h の光が含まれている必要がある。
これに対し,本願補正発明では,無精卵及び死亡卵からブロイラー生存卵を迅速
に識別するために ,「卵を通過した光の量に従って」卵を分類するのであり,二つ
の光のビームによるものではない。そして,測定対象の卵は,本願補正発明では,
「周囲光」の中にある。
このように,本願補正発明は,卵を通過した光の量に従って分類するものであり,
引用例発明が二つの波長の光の強度比率に基づいて検出することと著しく相違して
おり,審決の上記アの認定は誤っている。
(2)ア 審決は,
「本願補正発明の『毎秒100サイクルより高い周波数の前記光
源の強度を周期変化させるために前記光源と機能的に接続しているスイッチ回路』
と引用例発明の『光源からの光をバタフライチョッパでチョッパし,サンプリング
周波数を250Hzとした』こととは,『所定の周波数の光の強度を周期変化させ
るための構成』である点で共通するものである」 6頁35行∼7頁2行)とする。
(
イ しかし,本願補正発明は,光源又は発光器のスイッチをオン及びオフに切り
替えるものであるのに対し,引用例発明は,光をチョッパするのみであって,光源
又は発光器をオン及びオフするものではない。
また,引用例発明は,ハロゲンランプを明滅することを積極的に避け,安定した
光ビームを提供することを企図しており,光をチョッパする構成は必須である。さ
らに,チョッパは光を周期変化するためではなく,卵に照射する波長を測定波長と
基準波長との間で切り替えるために利用しているにすぎず,その目的も,二つの波
長における透過率の間の比の測定が必須だからであって,本願補正発明とは異なる。
これに対し,本願補正発明では,光をチョッパして波長を切り替える構成は必須
ではない。
このように,上記アの審決の認定は誤っている。
(3) したがって,審決における本願補正発明と引用例発明の一致点の認定(前
記第2の3(2)ア)は,誤っている。
3 取消事由3(本願補正発明と引用例発明との相違点1の認定判断の誤り)
(1) 審決は,相違点1につき,「測定時の卵の運搬速度について,引用例の上記
摘記事項『オ.』には,『結果として,卵の通過時間(100msec)程度の有効
測定時間が現実のものになり・・・』と記載され,卵の通過時間とは,卵が測定領
域を通過する時間であると認められるところ,卵の短径は家禽卵の代表的な鶏卵の
場合は高々4㎝程度であるから,その運搬速度は,15インチ毎秒程度となる。そ
して,上記摘記事項『オ.』の記載及び摘記事項『エ .』には,『本発明は電気光学
的に卵5個/秒で透光検査することを目指す。これは,卵1個につき測定時間が約
100ミリ秒であることを示す。卵の移動中に横ずれしてこの卵の透過率が変化す
るので,各波長ごと十分な測定がなされることにより透過率比はかなり正確に測定
できるようにする 。』と記載されているように,測定に際して,運搬される卵に対
して透過率を測定しているものであって,周囲光を遮断するための構成,動いてい
る卵を卵運搬装置から持ち上げて測定する構成を設ける点については何ら記載され
ておらず,それらの構成を設ける特段の必然性も無いことから,測定は,動いてい
るコンベアの中で周囲光中にある卵を,動いているコンベアから持ち上げることな
く行われているものであるから,相違点1は実質的な相違点ではない。(7頁27
」
行∼8頁7行)とする。
(2) しかし,引用例(甲1)には,
「これから述べる実施例はコンベアから検査
される卵が持ち上げられ検査ビーム光路内に十分の時間例えば300 msec 保持さ
れる。次で卵はそれぞれその位置から外され次の卵がビーム光路に引き上げられる。
卵の引き上げから次の引き上げに至る間の時間間隔内においてビーム光路に卵が存
在しないと,『卵測定期間』中作動している同じ光検出器が作動して光源の測定を
行うことになる。(15頁左上欄7∼14行)と記載され,引用例発明は,個々の
」
卵を運搬装置から持ち上げ,光を照射する間静止状態に保持することを想定してい
る。
このように,審決が,引用例につき ,「動いている卵を卵運搬装置から持ち上げ
て測定する構成を設ける点については何ら記載されておらず」とする認定は誤って
おり,相違点1が実質的な相違点ではないとした判断も誤っている。
4 取消事由4(本願補正発明と引用例発明との相違点2の判断の誤り)
(1)ア 審決は,相違点2につき ,「引用例発明において,光源及び光源からの光
をバタフライシャッタでチョッパする構成に代えて,上記周知技術を採用し,所定
の周波数の光源の強度を周期変化させるために光源と機能的に接続しているスイッ
チ回路を備えた光源を採用することは,当業者が容易に想到する事項であると認め
られる」(8頁18∼22行)とする。
イ しかし,そもそも,周知の技術の根拠として例示された特開平6−4302
9号公報 甲2) ,
( は 卵の分類とは全く無関係の分野の技術を記載するにすぎない。
また,引用例は,「血卵または血玉」を検出し,分離することを企図しており,
甲2の技術を採用し,所定の周波数の光源の強度を周期変化させるために光源と機
能的に接続しているスイッチ回路を備えた光源を採用することはあり得ない。その
ような構成では,「血卵または血玉」を検出し,分離することは全くできないから
である。
(2)ア さらに,審決は,相違点2につき,(本願補正発明について)本願明細
「
書及び図面の記載を参酌しても,光源の強度の周期変化として毎秒100サイクル
を下限とすることに臨界的意義は認められず」
(8頁24,25行)とし,
「照射光
の周波数を毎秒100サイクルより高い周波数に設定することは測定時間,測定感
度等を考慮して,当業者が適宜設定する事項であると認められる」(8頁29∼3
1行)とする。
イ しかし,本願補正発明は,全体の構成により,周囲光の中で,無精卵及び死
亡卵からブロイラー生存卵を迅速に識別することができるといった独特の効果を奏
するものであって,この効果に照らして,当業者が適宜設定できる事項ではない。
(3) したがって,相違点2につき,引用例発明及び周知技術に基づいて当業者
が容易に発明をすることができるものではない。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(引用例発明の認定の誤り)に対して
(1) 引用例(甲1)には,
「測定波長λ h で検査中の卵を透過した光に比例する
第1の電圧を発生するとともに基準波長λで検査中の卵を透過した光に比例する第
2の電圧を発生する光感知検出装置,これら第1の電圧と第2の電圧とから導出さ
れる比の値およびλ h における卵の光透過率をλ r における卵の光透過率とが所定
の限界値を越えているかいなかを判別する電気的検査装置 」(8頁左上欄8∼15
行)という記載及び「移動する卵23の一方の側に配置された光源(水銀スペクト
ルランプ1とハロゲンランプ2)と該光源の反対側にある前記卵の他方の側に配置
された光検出器22とを有する光測定システム」(図5)の図示があり,引用例発
明には,卵を通過した光の量を電圧として感知し,卵を通過した光の量から導出さ
れる比の値である,測定波長λ h における光透過率と基準波長λにおける光透過率
の比に従って判別する光測定システムが記載されているといえる。
ここで,測定波長λ h をそのまま用いずに,測定波長λ h と基準波長λにおける
光透過率の比を用いているが,基準波長は他のファクターに影響されないようにす
るために用いられるものであり,血を検出するための測定波長λhにおいて,血の
存在以外の卵殻の厚さや色等のファクターの影響を除くものであるから,単に正規
化を行うための構成にすぎない。そして,卵における血の有無の検出は,卵殻等に
よる透過率の変化の影響を除いた血自体による透過率の変化により行われているも
のであるから,測定波長λ h と基準波長λにおける透過率の比により判別すること
は,血による卵の光透過率の変化により判別することとなる。
(2) 本願補正発明においても,発明の詳細な説明に開示されている実施態様を
参照すると,例えば,本願明細書(甲3)には,「オンライトサンプルからオフラ
イトサンプルを減じると,さらに識別装置の周囲光の拒絶が向上する。
数列の発光器を周期変化させ,検出器をサンプリングするパターンは図9に示さ
れているが,このとき次の式が成り立つ:
シグナル n =検出器 n からの(A−B+C−D)/2」
(19頁3∼7行)と記載
されており,通過した光の量を表す「A」及び「C」の値をそのまま用いるのでは
なく,オフライトサンプルの測定値を減算して算出した演算結果を判別に用い分類
をしている。このように光の量などの値そのものを用いるのではなく,他の影響を
除くために演算を行い演算結果に基づいて分類するという実施例が,本願補正発明
に包含されることは明らかであり,本願補正発明では,このように値そのものでは
なく演算値を用いるものも含めて,値に「従って」分類とすると称している。この
ように,値を用いた演算結果により分類するものも含めて,値に「従って」分類す
ると称することは当該分野において慣用されていることである。
したがって,引用例発明も,光透過率に従って判別を行うものである。
(3) したがって,引用例発明は,卵を透過した光透過率により判別する光測定
システムである。
2 取消事由2(本願補正発明と引用例発明との一致点の認定の誤り)に対して
(1)ア 上記1のとおり,引用例発明は,「卵23を透過した光透過率によって判
別する光測定システム」を開示している。
そして,本願補正発明(甲5)は,「前記卵運搬装置の一方の側に配置された光
源と前記光源の反対側にある前記卵運搬装置の他方の側に配置された光検出器とを
有する光測定システム」を構成要件とするものであり,光源の個数を特定していな
い。また,本願明細書(甲3)の発明の詳細な説明欄を参照すると ,「発光器及び
光検出器は,卵をはさんで反対側に配置されている。(甲3の15頁15行)と記
」
載されているが,二つの光のビームではないものに限定して解釈させるような記載
はない。
他方,引用例(甲1)の図5には,移動する卵23の一方の側に配置された光源
(水銀スペクトルランプ1とハロゲンランプ2)と該光源の反対側にある前記卵の
他方の側に配置された光検出器22とを有する光測定システムが,図示されている。
イ したがって,引用例発明の「前記移動する卵23の一方の側に配置された2
つの光源と前記光源の反対側にある前記移動する卵23の他方の側に配置された光
検出器22とを有する光測定システム」は,本願補正発明の「前記卵運搬装置の一
方の側に配置された光源と前記光源の反対側にある前記卵運搬装置の他方の側に配
置された光検出器とを有する光測定システム」に相当するものである。
なお,原告が根拠として挙げている,本願補正発明が「卵を通過した光の量に従
って」卵を分類する点及び「周囲光」の中にある点は ,「前記卵運搬装置の一方の
側に配置された光源と前記光源の反対側にある前記卵運搬装置の他方の側に配置さ
れた光検出器とを有する光測定システム」である点と,何ら関連がない。
(2) 審決は,光源からの光をバタフライシャッタでチョッパする点については,
一致点ではなく,相違点2としている。このため,引用例では光をチョッパする構
成は必須であるとし,本願補正発明では光をチョッパして波長を切り替える構成は
必須ではないとする原告の主張は,審決の認定と何ら関連がない。
そして,引用例発明は光源からの光をバタフライチョッパでチョッパすることに
より,卵に照射されるλhの光が周期的にゼロ又は一定強度に切り替えられるもの
であるから,審決で認定したとおり,所定の周波数の光の強度を周期変化させるも
のに該当する。
3 取消事由3(本願補正発明と引用例発明との相違点1の認定判断の誤り)に
対して
引用例(甲1)には,「これから述べる実施例はコンベアから検査される卵が持
ち上げられ検査ビーム光路内に十分の時間例えば300 msec 保持される。次で卵
はそれぞれその位置から外され次の卵がビーム光路に引き上げられる。卵の引き上
げから次の引き上げに至る間の時間間隔内においてビーム光路に卵が存在しない
と,『卵測定期間』中作動している同じ光検出器が作動して光源の測定を行うこと
になる。(15頁左上欄7∼14行)と記載されている。これは,審決が認定した
」
引用例発明の実施例とは別の実施態様によるものである。
引用例(甲1)には,「上述の実施例は,例えば一連の卵をコンベアシステムに
よつて連続的に検査部所に沿つて移動させここで検査卵に光ビームを透過させるに
さいし,コンベアに卵を載せたまま光ビーム経路にこれらの卵が入つてくるように
することができる。(8頁左下欄12行∼右下欄第1行)という記載もあって,動
」
いている卵を卵運搬装置から持ち上げて測定する構成を設ける点については何ら記
載されていない上に,その構成を設ける特段の必然性もない。
4 取消事由4(本願補正発明と引用例発明との相違点2の判断の誤り)に対し
て
(1) 卵の分類に用いられる光源又は光学系は,卵の分類用に特化した格別なも
のでないと使用できないものではない。例えば,引用例(甲1)では,水銀スペク
トルランプ1とハロゲンランプ2を用いることが記載されているが,これらのラン
プは他の用途にも汎用されるものである。また,本願補正発明の実施態様で用いら
れている赤外線検出器27(甲3の17頁16行)も,標準的なフォトダイオード
型の赤外線光源であり,光源自体は特定分野に限定されない。
したがって,光源に関する周知技術を示す文献に卵の分類に関する記述がないと
しても,引用例発明において光源に関する周知技術を置換して採用する際の動機付
けを欠くことにはならない。
また,それぞれの光源及び光源からの光をバタフライシャッタでチョッパする構
成を,周知技術の発光ダイオードを用いた「所定の周波数の光源の強度を周期変化
させるために光源と機能的に接続しているスイッチ回路を備えた光源」
に代えると,
光源の強度を周期的に変化させるために光源と機能的に接続しているスイッチ回路
をそれぞれ備えた二つの光源を備えることとなり,引用例に記載されているように
測定波長λ h と基準波長λにおける透過率をそれぞれ測定し,比を用いて測定波長
の透過率を正規化することとなり,引用例発明に甲2に示される周知技術を採用し
た構成により,「血卵または血玉」の検出を行うことが可能であって,引用例発明
において光源に関する周知技術を置換して採用するに際し,
阻害要因は存在しない。
(2) 引用例発明は,サンプリング周波数を250Hzとしており,毎秒100
サイクルを下限とする範囲に含まれる。したがって,引用例発明は本願補正発明と
同様に「毎秒100サイクルを下限」とする構成を備えているものであるから,本
願補正発明と同様の効果を奏するものである。
また,原告は,本願補正発明は,周囲光の中で,周囲光から対象となる卵を遮断
することなく,無精卵及び死亡卵からブロイラー生存卵を識別することができると
いった効果を奏する,と主張する。本願明細書(甲3)の記載を検討すると ,「生
きている/死んでいる/中期死亡の分類を行うために,前設定カットオフ値が各卵
によって受信される光の最小レベルと結合して使用されるが,このとき空の卵は1
00ミリボルトより大きく,生きている卵は50ミリボルト未満である。(19頁
」
18∼21行) 卵を分類するために,
,
「 例えば空の卵は35ミリボルトより大きく,
生きている卵は20ミリボルト未満となる各卵によって受信される光の最小レベル
と結合して前設定カットオフ値が使用される。(20頁21∼24行)「連続的な
」 ,
列端間で記録された最小光レベルが,生きている卵から空の卵を弁別するために使
用される。(21頁3∼5行)との記載がある。しかしながら,いずれも特定のカ
」
ットオフ値を設定することにより判別するものであり,本願補正発明の特許請求の
範囲に記載された構成と対応しない。したがって,原告の主張する作用効果は,本
願補正発明の特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用例発明の認定の誤り)について
(1) 引用例(甲1)には,次の記載がある。
ア 「本発明は透光性の異なる第1の物質中の例えば血液などの別な透光性物質を検出する
システムまたは装置に関する。さらに詳言すれば,本発明は検査している卵に血が入つていて
不良卵であるか否かを判別するための検査または透光検査装置に関する。卵検査装置に限定さ
れないが,本発明はこれに具体例をとつてすなわち取引において『血卵または血玉(bloo
ds)』と称される卵を排除するための卵の自動透光検査装置について説明する 。 (7頁右上
」
欄2∼10行)
イ 「この種の装置は,例えば米国特許第2,823,800号に開示されている。この先
行技術では,様々な波長の光束が検査中の卵に透過させられる。血液が選択的に吸収しない波
長すなわち基準波長λの光が一方のビームに,また他方のビームには血(ヘモグロビン)が選
択的に吸収する別な波長の光すなわち測定波長λ h の光が含まれている。これらの両ビームは,
交互に投光されるビームフラツシユに応答して検査中の卵を透過した光の透過率を示す電圧を
発生する光感知検出装置により交互に受光される。これらの電圧は,何らかの範囲を越えて検
査中の卵内に存在するヘモグロビンにより光吸収が起きたときには不良または排除信号を発生
するように検出回路で信号処理される。実際には卵を透過した第1の光ビームに比例する第1
の電圧が同じ卵を透過した第2の光ビームに比例する第2の電圧と比較される。この結果,こ
れら両電圧の差の絶対値は血卵を排除するさいの境界値を与える。この公知の装置では,先ず
血を含まないことが分かつている卵を上記の両光ビーム経路中に置き,いずれか一方の光に対
する電圧を両電圧が相殺し合うように調整する。・・・
従つて,本発明は,例えば血などの第1の透光性物質が第2の異なつた透光性物質中に存在
するようなときこれの検出率を向上することを主たる目的とする。さらに本発明は従来技術に
避けられなかつた難点を克服して誤作動による排除を検査過程から事実上なくし検査を最適化
するとともに,検査すべき卵を例えば1個/秒で移送中に時間をかけずにしかも厄介な調節操
作を要することなく搬送装置と組合せて利用し得る信頼性が高く経時的に安定な検卵装置を提
供することを目的とする。(7頁右上欄11行∼8頁左上欄2行)
」
ウ 「本発明による検卵装置は,同じ光軸に沿つて第1の光ビームと第2の光ビームとをそ
れぞれ発生指向せしめるための光学系,上記第1の光ビーム中の光線と同様に上記第2の光ビ
ーム中の光線が上記光軸に沿つて卵を透過するように検査用の卵を支持するための支持部材,
測定波長λ h で検査中の卵を透過した光に比例する第1の電圧を発生するとともに基準波長λ
で検査中の卵を透過した光に比例する第2の電圧を発生する光感知検出装置,これら第1の電
圧と第2の電圧とから導出される比の値およびλ h における卵の光透過率をλ r における卵の
光透過率とが所定の限界値を越えているかいなかを判別する電気的検査装置,から成り立つて
いる。・・・
ここで上記最適系の出力側の各光ビームについての光出力がそれぞれL r(基準 )
,L h(ヘ
モグロビン)とすると,検査卵の上記波長λr,λhに対する透過率はそれぞれTr,Thとなる
ものとする。この時光検出器はそれぞれL r・T r,L h・T hに比例する信号V r,V hをそれ
ぞれ交互に発生する。この結果,卵が許容可能か否かを決定する限界値としての所望の比T h
/Trの値は,Lh/Lrを制御装置によって一定に保つことによりV h/V r=L h・T h/L r
・Trを測定するかたちで求めることができる。
上述の実施例は,例えば一連の卵をコンベアシステムによつて連続的に検査部所に沿つて移
動させここで検査卵に光ビームを透過させるにさいし,コンベアに卵を載せたまま光ビーム経
路にこれらの卵が入つてくるようにすることができる。(8頁左上欄3行∼右下欄1行)
」
エ 「λ=576nmにおける絶対透過率の測定値は,卵の他の性質例えば卵殻の厚さ,卵
殻の色,卵黄の色によつて強い影響を受けるので血を検出するためには不十分である。理想的
には,血卵1個と同一の無血卵とを比較して血の存在を除けば全ての卵の性質が上記のような
他のファクターに影響されないようにしなければならない。この理想的な状況は,卵1個ごと
に基準測定がなされこの測定の結果がλ h=576nmでの測定値と同じ卵の諸特性をもたら
す一方この卵中の血の存在にほとんどまたは全く影響されないならば,これに近い状態にする
ことができる。こうして,卵はより一層完璧な状態で自ら比較することになる。
上記の基準測定は測定波長λhから十分離れた波長λrで行われ,これによつて存在の可能性
のある血液の影響を除き去りそれと同時に上記の測定波長に十分近い波長光での測定で両波長
での卵の他の諸特性が最適なかたちで照応するように行われるべきである 。(10頁左下欄3
」
行∼右下欄6行)
オ 第5図(23頁)には,次のと
おり,移動する卵23の一方の側に配置
された光源(水銀スペクトルランプ1と
ハロゲンランプ2)とこれらの光源の反
対側にある上記卵の他方の側に配置され
た光検出器22とを有する光測定システ
ムが図示されている。
(2) 上記(1)アの記載によれば,引用例発明は,透過性が異なることを利用して
血液などの透過性物質を検出するシステム又は装置に関するものであり,より詳し
く述べれば,血入り卵か否かを判別するための透光検査装置に関するものであるこ
とが分かる。
また,上記(1)イ及びウの記載によれば,具体的な実施例では,ヘモグロビンが
選択的に吸収しない波長(基準波長λ)の光ビームと,ヘモグロビンが選択的に吸
収する別な波長(測定波長λh)の光ビームを発生させ,これらの二つの光ビーム
を交互に卵に投光し,卵を透過した光を光感知検出器(感知した光に応じた電圧を
発生する)で受光し,一方の光ビームの透過光に比例する電圧と,他方の光ビーム
の透過光に比例する電圧とを比較し,両電圧の差が一定の限界値を越えているか否
かで卵を選別するようにしていることが分かる。
さらに,上記(1)エの記載によれば,引用例発明において,波長の異なる二つの
光ビームを用いているのは,測定波長λh=576nmの光の透過率(絶対透過率)
が個々の卵の卵殻の厚さ,卵殻の色及び卵黄の色によって影響を受けるので,測定
波長から十分離れた波長λ rの光ビームの透過率との相対値(相対透過率)を得る
ことで,それらの影響を除去するためであることが分かる。
以上によれば,引用例発明は,判定精度を向上させるために異なる波長の二つの
光ビームを用いているものであるが,光透過率に従って卵を判定(分類)するもの
であることに変わりはない。
(3)ア なお,本願明細書(甲3)には実施例についての次のような記載があり,
本願補正発明の実施例においても,通過した光の量を表す「A」及び「C」の値を
そのまま用いるのではなく,オフライトサンプルの測定値を減算して算出した演算
結果に基づいて判別しており,本願補正発明の「光の量に従って分類する」との技
術的事項における「従って」の用語は,上記のような演算を行う場合をも含むこと
が分かる。
「オンライトサンプルからオフライトサンプルを減じると,さらに識別装置の周囲光の拒絶
が向上する。
数列の発光器を周期変化させ,検出器をサンプリングするパターンは図9に示されているが,
このとき次の式が成り立つ:
シグナルn=検出器nからの(A-B+C-D)/2」(19頁3∼7行)
イ この点につき,原告は,先行技術の事実認定につき本願の開示を利用するも
のであって許されず,また,ある用語が慣用されているかどうかを定めるためであ
っても本願発明の詳細な説明の記載に依拠することは許されない,と主張する。
しかしながら,上記の本願明細書の記載の参照は,上記(2)の引用例発明の認定
が不自然といえるものでないことを示す一例として,「光透過率に従って卵を判定
(分類)するものである」本願の実施態様においても同様の記載がされていること
を述べるものにすぎず,原告の上記主張は理由がない。
(4) したがって,引用例が「卵23を透過した光透過率に従って判別する光測
定システム」を開示するとした審決の認定に誤りはなく,取消事由1は理由がない 。
2 取消事由2(本願補正発明と引用例発明との一致点の認定誤り)について
(1) 引用例発明の光測定システムと本願補正発明の光測定システムの対比に係
る原告の主張について
上記1のとおり,引用例発明は ,「光透過率に従って卵を判別するもの」である
から,上記の引用例発明と本願補正発明との対比に係る原告の主張は理由がない。
(2) 引用例発明のスイッチ回路と本願補正発明のバタフライチョッパとの対比
に係る原告の主張について
審決は,「本願補正発明の『毎秒100サイクルより高い周波数の前記光源の強
度を周期変化させるために前記光源と機能的に接続しているスイッチ回路』と引用
例発明の『光源からの光をバタフライチョッパでチョッパし,サンプリング周波数
を250Hzとした』こととは ,『所定の周波数の光の強度を周期変化させるため
の構成』である点で共通するものである」
(6頁35行∼7頁2行)とする。
これは,審決において ,「所定の周波数の光の強度を周期変化させる」という機
能的側面の限度で両者が共通すると判断したものと理解できる,そして,審決は,
さらに,原告が相違点として主張する構成を「相違点2」として挙げ,その容易想
到性について検討しているところである。
したがって,引用例発明と本願補正発明が「所定の周波数の光の強度を周期変化
させるための構成」を有する点で共通するとした審決の認定に誤りはなく,原告の
主張は採用できず,取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(本願補正発明と引用例発明との相違点1の認定判断の誤り)に
ついて
(1) 引用例(甲1)には,次の記載がある。
ア 「これから述べる実施例はコンベアから検査される卵が持ち上げられ検査ビーム光路内
に十分の時間例えば300 msec 保持される。次で卵はそれぞれその位置から外され次の卵が
ビーム光路に引き上げられる。卵の引き上げから次の引き上げに至る間の時間間隔内において
ビーム光路に卵が存在しないと ,『卵測定期間』中作動している同じ光検出器が作動して光源
の測定を行うことになる。(15頁左上欄7∼14行)
」
イ 「実際には上記の光源測光とオフセット補償の頻度はある程度まで減らすことができる
が,卵の持ち上げ機構913の構造から,検卵に費やす時間間隔は検卵の完全サイクルの約3
/10∼4/10に制限される。(17頁右上欄12行∼左下欄1行)
」
(2) 以上によれば,引用例に説明の「これから述べる実施例」
(15頁以下)に
おいては,卵を持ち上げて検査することが必須の構成となっていることが理解され
る。
(3) しかしながら,審決が引用例発明として認定したのは,引用例に第5図と
ともに説明されている最初の実施例(甲1の7頁右上2行∼8頁右下1行,12頁
右下11行∼15頁左上2行)に相当するものであり(審決3頁8行∼6頁9行),
この実施例の説明には,卵を持ち上げて検査することについての記載はない。
そして,かえって,引用例(甲1)には,上記最初の実施例につき ,「上述の実
施例は,例えば一連の卵をコンベアシステムによつて連続的に検査部所に沿つて移
動させここで検査卵に光ビームを透過させるにさいし,コンベアに卵を載せたまま
光ビーム経路にこれらの卵が入つてくるようにすることができる」(8頁左下欄1
2行∼右下欄1行)と記載されており,この実施例では,むしろ,卵を持ち上げる
ことなくコンベアに乗せたまま検査をすることが前提となっているものと理解でき
る。
(4) 以上によれば,引用例発明においても,
「測定は,動いているコンベアの中
で周囲光中にある卵を,
動いているコンベアから持ち上げることなく行われている」
とした審決の判断(8頁5∼7行)に誤りはない。
したがって,取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(本願補正発明と引用例発明との相違点2の判断の誤り)につい
て
(1) 光源に係る原告の主張について
ア 引用例(甲1)には,次の記載がある。
「第5図は2つの光源,これに対するレンズ系,光出力の制御手段を示す。2つの光源すな
わち水銀スペクトルランプ1とハロゲンランプ2の発光はレンズ3および4によりほぼ平行な
ビームに変換され干渉フィルター5,6により578nm,600nmの光が 光される。直
流モータ7により駆動されるバタフライシヤツタ8でチヨツパされた後2本のビームは同一の
光軸をもつようになされる。(12頁右下欄11行∼13頁左上欄4行)
」
イ 上記記載によれば,引用例の実施例では,水銀スペクトルランプ1を光源と
する光ビームの強度と,ハロゲンランプ2を光源とする光ビームの強度を,バタフ
ライチョッパ(モータでバタフライシャッタを機械的に回転させて周期的に光ビー
ムをさえぎる装置)を用いて,周期変化させている。
そして,前記1(2)のとおり,引用例発明は,ヘモグロビンが選択的に吸収しな
い波長 基準波長λ)
( の光ビームと,ヘモグロビンが選択的に吸収する別の波長 測
(
定波長λh)の光ビームを発生させ,これらの二つの光ビームを交互に卵に投光し,
卵を透過した光を光感知検出器(感知した光に応じた電圧を発生する)で受光し,
一方の光ビームの透過光に比例する電圧と,他方の光ビームの透過光に比例する電
圧とを比較し,両電圧の差が一定の限界値を越えているか否かで卵を選別するもの
である。
ウ そうすると,引用例発明の光源は,所定の波長の光を安定に発するものであ
ればランプである必要はなく,また,チョッパは,光ビームの強度を周期変化させ
るためのものであり,機械的なものである必要はない。
そして,周期変化する光を測定に用いる際に,LED(発光ダイオード)のよう
な光源自体をスイッチング回路により周期変化させる技術は,甲2に記載されてい
るように周知の技術であり,また,一般に,機械式のものを電子回路によるものに
置き換えることは,多くの技術分野で普通に試みられることであり,技術の進歩普
及に伴う自然な流れであるから,引用例発明(昭和51年11月18日公開)に接
した当業者が,ランプとバタフライチョッパによる光学系をLEDの光源とスイッ
チング回路とからなる光学系に置換することは,むしろ,自然に考え付くこととい
える。
したがって,光源に係る上記原告の主張は,採用できない。
(2) 周期変化のサイクルに係る原告の主張について
ア 本願明細書(甲3)には,光源の周期変化につき,次の記載がある。
「本発明の第1の態様は,死んでいる卵を含む無精家禽卵から生きている卵を弁別する方法
である。本方法は下記を含む:(a)相互に向かい合う関係にある光源(好ましくは,赤外線源)
と光検出器とを提供するステップ ,(b)卵を光源と光検出器との間を通過させるステップ,
(c)卵を光源と光検出器との間を通過させている間に毎秒100サイクルを越える周波数 及
(
び好ましくは200又は400サイクル毎秒を越える周波数)で光源のスイッチを切り替える
ステップ,及び(d)光検出器を用いて光源から卵を通過する光線を検出するステップ。好ま
しくは,卵は光源と光検出器の間をそれらに接触することなく通過させられる。本方法は,好
ましくはさらに光源から放出された光を周囲光から弁別するために光検出器によって検出され
たシグナルを電気的に濾過するステップを含んでいる。ステップ(b)∼(d)は,少なくと
も毎秒卵1個の速度で繰り返すことができる。
本発明の第2の態様は,無精家禽卵から生きている卵を弁別するための装置である。本装置
は,卵運搬装置,光測定システム及びスイッチ回路を含んでいる。光測定システムは,卵運搬
装置の一方の側に配置された光源(好ましくは赤外線源)と光源の反対側にある卵運搬装置の
もう一方の側に配置された光検出装置とを有している。スイッチ回路は,毎秒100サイクル
より高い周波数で,及び好ましくは200若しくは400サイクル毎秒より高い周波数で光源
強度を周期変化させるために光源と供に作動するように結合されている。卵運搬装置は,光源
と光検出器との間でそれらに接触しない関係で卵を運搬するように形成されている。光検出器
機能的に結合されている電子フィルターは,光源から放出された光を周囲光から弁別する(つ
まり,検出器によって検出されたより高い周波数及び/又はより低い周波数の光線シグナルを
濾過することによって)ように形成される。(11頁11行∼12頁6行)
」
イ 上記のとおり,本願補正発明においては ,「毎秒100サイクルより高い周
波数の前記光源の強度を周期変化させる」とされているが,本願明細書には ,「卵
を光源と光検出器との間を通過させている間に毎秒100サイクルを越える周波
数,好ましくは200又は400サイクル毎秒を越える周波数で光源のスイッチを
切り替える」との記述があるが ,「毎秒100サイクル以上」と数値限定した具体
的な根拠は記載されていない。
ウ ところで,本願補正発明は,卵運搬装置上を動いている卵に強度が周期変化
する光を当て,その卵を通過した光の量に従って卵を分類するものであるが,分類
効率を上げるためには,卵の運搬速度を一定以上にしなければならず,また,卵の
識別精度を高めるためには,通過した光の量の測定値のサンプル数を所定数以上に
する必要がある。
そうすると,要求される効率や精度を得るためには,強度の周期変化の周波数が
一定以上の光を卵に当てる必要があることは当然のことであり,その下限を定める
ことは,実際に卵の分類装置を設計するに当たり,当業者が普通に考慮することで
ある。
エ 引用例(甲1)には,次の記載がある。
「本発明は電気光学的に卵5個/秒で透光検査することを目指す。これは,卵1個につき測
定時間が約100ミリ秒であることを示す。卵の移動中に横ずれしてこの卵の光透過率が変化
するので,各波長ごとに十分な測定がなされることにより透過率比はかなり正確に測定できる
ようにする。このためサンプリング周波数として250Hzが選ばれ,卵の通過中両光波長で
25個のサンプルを扱い得るようにしてある。(13頁右上欄14行∼左下欄7行)
」
オ この記載から,引用例発明の実施例では,光ビームを照射して1秒間に5個
の卵を検査する場合に十分正確な測定ができる周波数として,250Hz(毎秒2
50サイクル)が選択されていることが分かる。
このことからも,本願補正発明が規定する周波数の下限値,毎秒100サイクル
は,当業者が普通に予測できる数値の範囲内のものということができる。
カ 以上によれば,本願補正発明において,「毎秒100サイクルより高い周波
数の前記光源の強度を周期変化させる」とした点には,卵の分類効率や識別精度を
考慮して,光源の周期変化の周波数の下限の目安となる数値を提示したという意味
があるとしても,数値限定という観点からの技術的意義を見いだすことはできない。
なお,原告は,本願補正発明は,周囲光の中で,無精卵及び死亡卵からブロイラ
ー生存卵を迅速に識別することができるという独特の効果を奏すると主張するが,
「毎秒100サイクルより高い周波数の前記光源の強度を周期変化させる」ことと,
原告主張の発明の効果との関係については,本願明細書又は図面に記載がなく,ま
た,両者が直接関係する理由も見当たらない。
したがって,周期変化のサイクルに係る原告の主張は採用することができず,取
消事由4は理由がない。
5 結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願補正発明が進歩
性を有せず,独立特許要件を満たさないとした審決の判断に誤りはない。
なお,本願補正発明は,本願発明に ,「卵運搬装置」の限定事項である「前記卵
運搬装置と機能的に接続している駆動システムであって,所定の速度で前記卵運搬
装置を動かすように構成されている駆動システムと,」との構成,及び「光測定シ
ステム」の限定事項である「前記卵運搬装置が少なくとも10インチ毎秒の速度で
前記駆動システムによって動かされている間に,前記動いている卵運搬装置の中で
周囲光中にある卵を,前記動いている卵運搬装置から持ち上げることなく,前記卵
を通過した光の量に従って分類する光測定システムと ,」との構成を加えたもので
ある。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,更に他の構成要件を付加した本
願補正発明が,引用例発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものであるから,本願発明も,引用例発明及び周知技術に基づいて,当業
者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により
特許を受けることができない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
本 多 知 成
裁判官
田 中 孝 一
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