平成20(行ケ)10172審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成20年11月10日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官 原告X
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法令 |
特許権
特許法29条2項2回 特許法53条1項1回
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キーワード |
審決45回 実施13回 刊行物1回
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主文 |
原告の請求を棄却する。訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,原告が,後記特許出願(以下「本願」という。)に対する拒絶査定を不
服として審判請求をしたが,同請求は成り立たないとの審決がされたため,その取
消しを求める事案である。 |
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判決文
平成20年(行ケ)第10172号 審決取消請求事件
平成20年11月10日判決言渡,平成20年10月6日口頭弁論終結
判 決
原 告 X
被 告 特許庁長官
指定代理人 大野克人,和田志郎,山本章裕,森山啓
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が不服2007−19086号事件について平成20年3月31日にし
た審決を取り消す。」との判決
第2 事案の概要
本件は,原告が,後記特許出願(以下「本願」という。)に対する拒絶査定を不
服として審判請求をしたが,同請求は成り立たないとの審決がされたため,その取
消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本願(甲5)
出願人:原告
発明の名称:「パソコンを手帳版に小型にするシステム」
出願番号:特願2003−415602号
出願日:平成15年11月10日
手続補正:平成18年7月31日付け(甲6。以下「本件原補正」という。)
手続補正書の提出:平成19年3月5日付け(甲7。原告がこの手続補正書の提
出により行おうとした手続補正を,以下「本件補正」という。)
本件補正を却下した決定(以下「本件補正却下決定」という。):平成19年4
月26日付け
拒絶査定:平成19年4月26日付け
(2) 審判請求手続
審判請求日:平成19年6月11日(甲8。不服2007−19086号)
審決日:平成20年3月31日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成20年4月20日(乙1)
2 特許請求の範囲(請求項1)の記載
(1) 本件原補正後のもの
【請求項1】
「手帳判パソコンの小型の実用化に必要不可欠な,微細入力突起と微細入力キイ
ーとキーの密集配列の3要素を相互に関連させて,一体化するシステム。」
(2) 本件補正に係るもの
【請求項1】
「小型の手帳型パソコンを製作するため,パソコンのキーボードに,キーピッチ
5ミリメートル前後に密集配列された,突起が入力するとき滑らないよう面に凹み
をつけた9平方ミリメートル前後の小型の入力キーに,鉛筆型の3平方ミリメート
ル以下の硬質の小さい突起で入力する,入力システム。」
3 審決の理由の要旨
審決は,上記2(2)記載の本件補正に係る発明(以下「本願補正発明」という。)
は,後記引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をするこ
とができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して
特許を受けることができず,本件補正は,同法17条の2第5項において準用する
同法126条5項の規定に違反するものであり,同法53条1項の規定により却下
すべきものであるとして,これと同旨の本件補正却下決定に誤りはないと判断し,
その結果,本願の請求項1に係る発明の要旨を,上記2(1)記載の本件原補正後の
請求項1の記載に基づいて認定した上,同発明は,引用発明1及び周知技術に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規
定により特許を受けることができないとした。
審決の理由中,本件補正の適否について判断した部分(独立特許要件の有無につ
いて判断した部分)は,以下のとおりである。
(1) 特開平7−104925号公報(甲1。以下「引用例1」という。)に記
載された発明(以下「引用発明1」という。)
「データ処理機器の入力機器へのキー入力のために使用される,硬質の角柱状,あるいは先
細の円柱状の押圧部を備えた入力用具であって,入力機器のキー領域が例として縦,横がそれ
ぞれ4.8mmの場合に,角柱状の押圧部の先端部の寸法が例えば縦,横とも2mm程度であ
る入力用具。」
(2) 特開平6−332594号公報(甲2。以下「引用例2」という。なお,
審決の「特開平7−104925号公報」との記載は,誤記である。)に記載され
た発明(以下「引用発明2」という。)
「パソコンなどのキーボードであって,キートップ上面に凹みを設けたキーボード。」
(3) 本願補正発明と引用発明1との対比
ア 一致点
「本願補正発明と引用発明1とを対比すると,引用発明1の押圧部は円柱状で先細となって
おり,押圧部の先端により『キー領域』を押圧することによりキー入力するものであるから,
引用発明1の『押圧部の先端』及び『キー領域』はそれぞれ,本願補正発明の『突起』及び
『入力キー』に相当し,引用発明1には,入力キーに硬質の突起で入力する『入力システム』
が記載されているということができる。
したがって,両者は,
『入力キーに,硬質の突起で入力する,入力システム。』の点で一致する。」
イ 相違点
(ア) 相違点1
「本願補正発明の入力システムは,小型の手帳型パソコンを制作(判決注:『製作』の誤記
である。)するためのものであって,入力キーは,パソコンのキーボートに配列されたもので
あるのに対して,引用発明1は,データ処理機器の入力機器の小型化を可能にすることを目的
としており,入力キーはデータ処理機器の入力機器の入力キー(キー領域)である点。」
(イ) 相違点2
「本願補正発明においては,入力キーは,キーピッチ5ミリメートル前後に密集配列された,
9平方ミリメートル前後の小型の入力キーであるのに対し,引用発明1では入力キー(キー領
域)が4.8x4.8mm前後であるが,パソコンのキーボードであるのかどうか明らかでは
なく,キーピッチ,キーの面積,密集配列については明らかではない点。」
(ウ) 相違点3
「本願補正発明においては,突起が入力するとき滑らないよう面に凹みをつけているのに対
して,引用発明1には凹みが設けられていない点。」
(エ) 相違点4
「本願補正発明は鉛筆型の3平方ミリメートル以下の小さな突起で入力するのに対して,引
用発明1では,入力は突起(円柱先細状の先端部)で入力がなされ,突起の寸法は先端部が矩
形の場合に縦,横それぞれ例えば2mm程度である点。」
(4) 相違点についての判断
ア 相違点1について
「引用発明1もデータ処理機器の入力機器の小型化を目的としており,データ処理機器をデ
ータ処理機器として周知のコンピュータとすることに格別の困難性はないこと,以下の『相違
点2について』の項で説明するように,引用発明1のキーピッチは本願補正発明のキーピッチ
と同程度の寸法ということができるから,引用発明1のデータ処理機器をコンピュータとした
場合に,キーボードの寸法は本願補正発明の『手帳型パソコン』のキーボードの寸法と同程度
のものになると考えられることから,引用発明1において小型の手帳型パソコンを製作するた
めに,入力キーをコンピュータのキーボードのものとして本願補正発明のように構成すること
に格別の困難性はない。」
イ 相違点2について
「引用発明1ではキー領域が4.8x4.8mm前後であって,小型化された入力機器にあ
ってキー間のスペースは小さなものであることから,引用発明1のキーピッチは本願補正発明
のキーピッチと大差ない略5ミリメートル程度であると認められ,更に,引用発明1は入力機
器のキー数の増加,入力機器の小型化を目的としているから,引用発明1のキーも本願補正発
明と同様に『密集配列』されているものと認められる。
そして,キーの面積はキー形状により異なり,どのような形状,寸法のものとするかは設計
的事項であって,本願補正発明と同様のキーピッチを有する引用発明1のキーについて,キー
面積を本願補正発明と同様に9平方ミリメートル前後の小型のものとすることは当業者が容易
になし得ることである。」
ウ 相違点3について
「ペン先でキーボード入力をする場合にキートップ上面に凹みを設けてペン先が滑ることが
ないようにすることが引用例2に記載されており,引用発明2のペン先も引用発明1,本願補
正発明と同様の突起部ということができるから,突起部で入力を行う引用発明1において,引
用発明2を適用して,入力するときに滑らないように入力キーに凹みを設けることは当業者が
容易になし得ることである。」
エ 相違点4について
「引用例1にも突起(先端部)の寸法は例示であってキー領域の大きさを考慮して定められ
るものである(段落【0016】)と記載されているように,突起の寸法をどのようなものと
するかは設計的事項である。
一方,本願補正発明において,『鉛筆型の突起』がどのような突起(鉛筆の胴の部分,胴,
芯を含んだ鉛筆の先細部分,芯の部分のみ,あるいは芯の先端部分?)を意味し,『3平方ミ
リメートル』がどの部分のどのような面積(断面積,表面積?)を意味するのか,発明の詳細
な説明の記載を見ても明らかではないが,引用発明1の突起は円柱状で先細状であるから,
『鉛筆型の突起』ということができ,突起の先端部の表面積は例えば4平方ミリメートル程度
であるから,本願補正発明の3平方ミリメートルと大差ない面積を有しているということがで
きる。
したがって,引用発明1において,入力用具の先端部を鉛筆型の3平方ミリメートル以下の
小さな突起として,本願補正発明のように構成することに格別の困難性はない。」
オ 本願補正発明の効果について
「そして,本願補正発明のように構成したことによる効果も引用発明1,引用発明2及び周
知技術から予測できる程度のものである。」
(5) 小括
「したがって,本願補正発明は,引用発明1,引用発明2及び周知技術から当業者が容易に
発明をすることができたものである。」
(6) 審判請求人の主張に対する判断
「なお,審判請求理由における審判請求人の主張,
ア 『引用例2の入力キーの凹みおよび切欠きは指面入力とペン入力の併用の利便性を目的
としているのに対して,本願(補正)発明の入力キーは大きさも,形態も,キーの目的も異な
っている。』(審判請求書(甲8)4頁∼5頁(判決注:「3頁∼4頁」の誤記である。),
(4)『補正却下の理由』に対する『不服の理由』)
イ 『本願(補正)発明は突起であるのに対して,引用例1の入力部(符号の説明の6,1
6,36:押圧部)は突起ではない。』(審判請求書5頁,(5)『補正却下の理由』に対する
『不服の理由』)
について付言すると,
ア 引用発明1は,入力機器のキーの数を増加し入力機器の小型化を可能とすることを目的
として,本願補正発明と同様のキーピッチを有するものであり,引用発明2の目的が本願補正
発明の目的と異なるとしても,キートップ上面に凹部を設ける引用発明2を引用発明1のよう
な大きさのキーに適用することは当業者が容易に想到し得ることであり,適用を阻害する要因
はないというべきである。
イ 審判請求人の主張の意図は必ずしも明らかではないが,引用例1の押圧部の先端が本願
補正発明の突起に相当することは上記(3)『ア 一致点』の項に記載したように,押圧部は円
柱状で先細となっており,押圧部の先端により『キー領域』を押圧することによりキー入力す
るのであるから,引用発明1の『押圧部の先端』は本願補正発明と同様に『突起』ということ
ができる。
審判請求人は,引用例1の押圧部全体と本願補正発明の突起部との相違,あるいは,突起の
向き等が引用発明1と相違することを主張しているとも考えられるが,本願補正発明では『突
起』と記載されているだけであって,『突起』がどのような部材にどのような向きに設けられ
ているかが請求項に記載がなされているわけではないから,審判請求人の主張は妥当なもので
はない。また,『突起』を指示部材に所定の角度で設けることは,特開2002−73265
号公報(判決注:『特開2002−73266号公報』の誤記である。乙2)(図5),特開
平1−102620号公報(甲4)(第2図∼第4図)に記載されているように周知であって
格別のことではない。」
(7) 本件補正却下決定の「むすび」
「以上のとおりであるから,本件補正は特許法17条の2第5項で準用する同法126条5
項の規定に違反するものであり,特許法53条1項の規定により却下すべきものであるから,
原審における本件補正却下決定に誤りはない。」
第3 審決取消事由の要点
審決は,相違点1ないし4についての各判断をいずれも誤り,また,本願補正発
明が奏する格別の効果を看過した結果,本願補正発明が特許法29条2項の規定に
より特許出願の際独立して特許を受けることができないと判断して本件補正却下決
定を是認し,これを前提として,本願の請求項1に係る発明の要旨認定を誤ったも
のであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)
審決は,相違点1について,「引用発明1において小型の手帳型パソコンを製作
するために,入力キーをコンピュータのキーボードのものとして本願補正発明のよ
うに構成することに格別の困難性はない。」と判断したが,以下のとおり,この判
断は,誤りである。
(1) 引用発明1は,入力用具についての発明であり,入力用具以外の物を対象
としていない。これに対し,本願補正発明は,小型手帳版のパソコンを具体的に製
造することについての発明である。
(2) 引用例1に,本願補正発明のキーボードの小型化と同じ方向性を有する小
型化についての記載があることは認めるが,引用例1に記載された小型化の対象と
して特定されているものは,卓上計算機及び電話機のみであり,他の機器について
は,将来の小型化の指向性を予測・推定する記載があるにすぎず,しかも,パソコ
ンについての記載は一切ない。したがって,引用発明1に基づいて,小型手帳版の
パソコンのキーボードを具体的に製造するための特定をしている本願補正発明の構
成に想到するのには,論理の飛躍がある。
(3) 引用発明1においては,入力用具の突起とタッチパネルとの接触部分が平
面と平面であるのに対し,本願補正発明においては,入力突起を凹面のキートップ
に接触させて入力するものである。
(4) 被告の主張に対する反論
ア 被告は,後記乙2公報ないし乙4公報を挙げ,「人間が手で持てる程度の大
きさの携帯用の小型コンピュータ(パソコン)は,本願当時,既に広く知られてい
たものである」と主張する。
しかしながら,乙2公報に記載されたパームトップコンピュータは,入力キーで
入力する方式のものでなく,タッチパネル入力式のものであり(同公報の図1),
乙3公報に記載されたマイクロコンピュータも,入力キーで入力する方式のもので
なく,入力キーボードの全体を覆った面に,入力位置(キー様要素の位置)を示す
凹部を付けて入力する方式のものであり(同公報の図1),乙4公報に記載された
PDAは,入力パネルを防水膜で覆うことなどを主眼としたものである(同公報の
図7及び図11)。また,乙2公報ないし乙4公報に記載された技術は,「汎用
性」のある小型パソコン(携帯化・小型化によってもパソコン本来の機能を損なわ
ないもの)に関するものではない(キー数を必要最小限のものとするため,パソコ
ン本来の機能を一定のものに「特化」した機器に関するものである。)。
これに対し,本願補正発明は,キーボード上の微細凹面入力キーに突起で入力す
る小型手帳版の小型汎用コンピュータに係るものであるから,乙2公報ないし乙4
公報に記載された技術を周知技術として適用するのは相当でない。
イ 被告は,「入力キーをパソコンのものとして本願補正発明のように構成する
ことに,格別の困難はない」と主張し,その理由として,「引用発明1のキー領域
の大きさは,4.8mm×4.8mm前後であるから,引用発明1のキーピッチは,
本願補正発明のそれと大差のない略5mm程度であって,引用発明1の入力キーの
寸法も,本願補正発明のそれと同様であるということができる」と主張する。
しかしながら,引用例1に記載されたタッチパネルの大きさは,縦144mm×
横192mmであり(段落【0020】),これは,小型手帳版のパソコンのキー
ボードの約4倍に当たるものであるから,上記(2)のとおり,引用例1にパソコン
についての記載がないことをも併せ考慮すると,被告が主張する上記理由をもって,
相違点1に係る本願補正発明の構成に容易に想到し得るとはいえない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
審決は,相違点2について,「引用発明1のキーピッチは本願補正発明のキーピ
ッチと大差ない略5ミリメートル程度であると認められ,更に,・・・引用発明1
のキーも本願補正発明と同様に『密集配列』されているものと認められる。そして,
・・・引用発明1のキーについて,キー面積を本願補正発明と同様に9平方ミリメ
ートル前後の小型のものとすることは当業者が容易になし得ることである。」と判
断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。
(1) 当業者にとって,引用発明1において小型のパソコンが特定されていると
は想定し難いものである。
(2) 引用発明1においては,タッチパネル上のキー領域が単なる平面であるの
に対し,本願補正発明は,凹面のシステムを採用したものであり,入力キーが小型
になればなるほど,引用発明1と比較して,著しく入力を容易にし,入力ミスを確
実になくすことのできるものである。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)
審決は,相違点3について,「突起部で入力を行う引用発明1において,引用発
明2を適用して,入力をするときに滑らないように入力キーに凹みを設けることは
当業者が容易になし得ることである。」と判断したが,以下のとおり,この判断は
誤りである。
(1)ア 引用発明2における凹面の発想は,既存のパソコン等における操作の利
便性を求めたもの,すなわち,引用発明2におけるペン先入力は,指入力を補助す
るためのもの(指入力の合間に使用するもの)であり,凹みは,ペン先の滑り止め
にすぎないものであるのに対し(引用例2の【要約】中の【効果】及び【発明の詳
細な説明】中の段落【0004】),本願補正発明のキートップの凹面の発想は,
新製品の小型手帳版のパソコンを製造するため,キートップを小型化し,キーピッ
チを狭くし,キーを微細にし,さらに,凸凹一対の小型手帳版のパソコンとするこ
とにより,入力突起を滑らないようにして確実に入力することができるようにする
ものである。
イ 引用例2の図面の記載によれば,引用発明2におけるキートップの面積は,
約70mm2と推定され,キーピッチを狭めることを前提とする本願補正発明にお
ける当該面積(9mm2)とは比較にならないほど大きいものである。
(2) このように,本願補正発明と引用発明2とは,凹面につき,発想の目的,
構造及び形態を全く異にするものであるから,引用発明1に引用発明2を適用して,
相違点3に係る本願補正発明の構成に容易に想到し得るものであるとする審決の判
断には,論理の飛躍があるといわざるを得ない。
(3) なお,審決は,「(6) 審判請求人の主張に対する判断」において,「引用
発明2の目的が本願補正発明の目的と異なるとしても,キートップ上面に凹部を設
ける引用発明2を引用発明1のような大きさのキーに適用することは当業者が容易
に想到し得ることであり,適用を阻害する要因はない」と判断したが,引用発明2
と本願補正発明における発想の目的の相違を認めながら,構造及び形態の相違を無
視し,また,キーピッチを狭める本願補正発明の意義を無視して,面積の広いキー
トップにおける滑り止めのための凹面のみを取り上げ,引用発明2を引用発明1に
適用することに阻害要因はないとする上記判断は誤りである。
4 取消事由4(相違点4についての判断の誤り)
審決は,相違点4について,「引用発明1において,入力用具の先端部を鉛筆型
の3平方ミリメートル以下の小さな突起として,本願補正発明のように構成するこ
とに格別の困難性はない。」と判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。
(1) 審決は,相違点4についての判断において,突起の大きさについて論じる
のみである。
(2) 引用発明1は,突起とキートップの接触部分における接触態様が,平面に
平面を接触させるものであるのに対し,本願補正発明は,入力突起の凸面とキート
ップの凹面を融合したものであり,平面に平面を接触させて入力するものとは比較
にならないほど入力を容易にし,入力ミスを防止することのできるものである。
5 取消事由5(本願補正発明が奏する格別の効果の看過)
審決は,本願補正発明が奏する効果について,「本願補正発明のように構成した
ことによる効果も引用発明1,引用発明2及び周知技術から予測できる程度のもの
である。」と判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。
(1) 引用発明1に引用発明2を適用することができないことは,上記3のとお
りである。
(2) 本願補正発明は,相違点3に係る構成を採用することにより,引用発明1
における入力とは比較にならないほど入力を容易にし,入力ミスを防止することが
できるとの格別の効果を奏するものであるところ,審決は,本願補正発明が奏する
かかる格別の効果を看過したものである。
第4 被告の反論の骨子
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)に対して
(1)ア 原告は,「引用発明1は,入力用具についての発明であり,入力用具以
外の物を対象としていない。」と主張する。
イ しかしながら,審決は,引用例1に次の記載があること及び引用例1の図2
に入力用具を用いてタッチパネル(少なくとも20のキー領域が記載されているも
の)に入力を行う様子が示されていることを基に,引用発明1を「データ処理機器
の入力機器へのキー入力のために使用される・・・入力用具であって,・・・」と
認定したのであるから,原告の上記主張は,相違点1についての判断が誤っている
ことの根拠となるものではない。
(ア) 発明が,データ処理機器にタッチパネル等を用いて文字や指令を入力する
場合に用いられること(段落【0001】)。
(イ) タッチパネルに限らず,例えばキーパッドを備えた卓上計算機,電話機等
では,各キーの大きさが指で押圧できる程度であることを条件としていたため,小
型化に限界があったことを課題とすること(段落【0005】)。
(ウ) 入力機器のキー領域あるいはキーの数を増加し,又は入力の小型化を可能
にし,キー入力を容易にし,誤操作を減らすことを目的とすること(段落【000
6】,【0007】)。
(2)ア 原告は,「引用例1に記載された小型化の対象として特定されているも
のは,卓上計算機及び電話機のみであり,引用発明1に基づいて,小型手帳版のパ
ソコンのキーボードを具体的に製造するための特定をしている本願補正発明の構成
に想到するのには,論理の飛躍がある。」と主張する。
イ(ア) しかしながら,データ処理機器として,パソコンは周知であるし,次の
各刊行物の記載によれば,人間が手で持てる程度の大きさの携帯用の小型コンピュ
ータ(パソコン)は,本願当時,既に広く知られていたものであるといえる。
a 特開2002−73266号公報(乙2。以下「乙2公報」という。)
従来の技術として,軽量パームトップコンピュータ,すなわち,てのひらに乗る
コンピュータについての記載がある(段落【0002】,【0003】)。
b 特開平7−295706号公報(乙3。以下「乙3公報」という。)
手で容易に持てる小型のマイクロコンピュータが市販されていることが記載され
ている(段落【0004】)。
c 特開2002−244764号公報(乙4。以下「乙4公報」という。)
携帯用情報処理装置としてシャープ社のPDA(M1−E1)があることが記載
され(段落【0001】,【0002】),また,手で持つことのできる携帯型情
報処理装置が記載されている(段落【0014】∼【0016】,図3及び4)。
(イ) 他方,本願補正発明は,その請求項の記載のとおり,「小型手帳版のパソ
コン」を製作する発明ではないし,本件補正において全文を変更するものとされた
変更後の明細書(甲7。以下「本願補正明細書」という。)にも,「手帳版のパソ
コン」について,入力キーを小型化し,キーボードが手帳版であることが記載され
ているだけであって(段落【0006】,【0007】),それ以上に,「手帳版
のパソコン」自体についての具体的な記載はない。さらに,本件原補正前の明細書
(甲5)にも,「手帳型パソコン」につき,「[産業上の利用可能性]」として,
「この発明はノートパソコンを現状より大幅に小型化にし,手帳型パソコンも考え
られる。」との記載があるのみである(段落【0008】)。
(ウ) そうすると,本願補正発明の「手帳型パソコン」とは,人間が手で持てる
程度の大きさの携帯用の小型コンピュータという点で,本願当時に広く知られた技
術と異なるところはないというべきである。
ウ また,引用発明1のキー領域の大きさは,4.8mm×4.8mm前後であ
るから,引用発明1のキーピッチは,本願補正発明のそれと大差のない略5mm程
度であって,引用発明1の入力キーの寸法も,本願補正発明のそれと同様であると
いうことができる。
エ 以上からすると,引用発明1のデータ処理機器の入力キーに,周知のパソコ
ンのキーボードの入力キーを適用した場合に,本願補正発明と同様の寸法のキーボ
ードが得られることは当然のことといえるから,引用発明1において,小型の手帳
型のパソコンを製作するために,入力キーをパソコンのものとして本願補正発明の
ように構成することに,格別の困難はない。
したがって,原告の上記主張は,理由がない。
(3) なお,原告は,「引用発明1においては,入力用具の突起とタッチパネル
との接触部分が平面と平面であるのに対し,本願補正発明においては,入力突起を
凹面のキートップに接触させて入力するものである。」と主張するが,この点に対
する反論は,後記3のとおりである。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)に対して
(1) 原告は,「当業者にとって,引用発明1において小型のパソコンが特定さ
れているとは想定し難いものである。」と主張するが,本願補正発明の「手帳型パ
ソコン」が,人間が手で持てる程度の大きさの携帯用の小型コンピュータという点
で,本願当時に広く知られた技術であったことは,上記1(2)イのとおりであるか
ら,原告の上記主張は,失当である。
(2) なお,原告は,「引用発明1においては,タッチパネル上のキー領域が単
なる平面であるのに対し,本願補正発明は,凹面のシステムを採用したものであり,
入力キーが小型になればなるほど,引用発明1と比較して,著しく入力を容易にし,
入力ミスを確実になくすことのできるものである。」と主張するが,この点に対す
る反論は,後記3及び5のとおりである。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)に対して
(1) 原告は,「引用発明1に引用発明2を適用して,相違点3に係る本願補正
発明の構成に容易に想到し得るものであるとする審決の判断には,論理の飛躍があ
る」と主張する。
(2)ア しかしながら,引用発明1には,キー領域を押してキー入力をする先細
状の突起があるところ,引用発明2においても,引用発明1と同様,入力キーをペ
ン先(本願補正発明の「突起」に相当するもの)で押してキー入力をする場合にペ
ン先が滑らないように凹みが設けられている(引用例2の段落【0007】)。し
たがって,引用発明1も引用発明2も,突起又はペン先という同様の入力用具によ
り入力を行うものであって,同様の課題を有するものであり,また,引用発明1に
引用発明2の技術(入力キーに凹みを設ける技術)を適用することを阻害する要因
もない。
イ 他方,本願補正発明においても,入力キーに凹みを設ける理由ないし効果は,
「入力キーは入力面が狭いので,突起が入力するとき滑らないよう,入力面に凹み
をつける。」というものであって(本願補正明細書の段落【0004】),入力キ
ーに凹みを設ける意義は,本願補正発明においても引用発明2においても異なると
ころはない。
(3) 以上からすると,引用発明1に引用発明2の技術を適用して,本願補正発
明のように構成することは,当業者が容易に想到し得るものといえるから,原告の
上記主張は,理由がない。
4 取消事由4(相違点4についての判断の誤り)に対して
原告の主張(2)(「引用発明1は,突起とキートップの接触部分における接触態
様が,平面に平面を接触させるものであるのに対し,本願補正発明は,入力突起の
凸面とキートップの凹面を融合したものであり,平面に平面を接触させて入力する
ものとは比較にならないほど入力を容易にし,入力ミスを防止することのできるも
のである。」)に対する反論は,上記3及び後記5のとおりである。
5 取消事由5(本願補正発明が奏する格別の効果の看過)に対して
(1) 原告は,引用発明1に引用発明2を適用することはできない旨主張するが,
上記3のとおりであるから,原告の主張は,理由がない。
(2)ア 原告は,「本願補正発明は,相違点3に係る構成を採用することにより,
引用発明1における入力とは比較にならないほど入力を容易にし,入力ミスを防止
することができるとの格別の効果を奏するものである」と主張する。
イ しかしながら,引用発明1は,指の太さに比してキー領域が小さくても,入
力が可能であり,隣のキー領域やキーを一緒に押してしまうといった誤操作も少な
くなるとの作用効果を有しており(引用例1の段落【0009】,【0032】)
引用発明2も,ペン先がキートップ上面外へ滑り出ることなくキーを押下すること
ができるとの作用を有するほか(引用例2の段落【0007】),ペン先が滑るこ
となくペンでキーボードを容易に操作することができるとの効果(引用例2の段落
【0037】)を有しているのであるから,引用発明1に引用発明2及び周知技術
を適用して本願補正発明のように構成した場合に,入力を容易にしてミスを確実に
なくすとの効果を奏することは,当業者が予測することのできる程度のものである。
ウ 以上のとおりであるから,原告の上記主張は,理由がない。
第5 当裁判所の判断
1 引用例1の記載事項
審決の認定・判断の内容,審決取消事由の内容等にかんがみ,各取消事由の検討
に先立って,まず,引用例1の記載事項をみることとする。
「入力用具」と称する発明に関する引用例1(甲1)には,次の記載及び図示が
ある。
(1)「【産業上の利用分野】この発明は入力用具に関し,データ処理機器に文字や指令を,
タッチパネル等を用いて入力する場合に用いられる入力用具に関する。」(段落【000
1】)
(2)「【発明が解決しようとする課題】従来,タッチパネルは,一度に表示されるキー領域
の数がさほど多くない場合に用いられることが多かった。しかるに,用途によっては,タッチ
パネルの画面上に一度に表示されるキー領域の数を多くしたいという要求が強くなってきてい
る。・・・画面を大きくしないで,キー領域を増やすには,各キー領域を小さくすることが必
要となる。しかし,各キー領域を小さくすると,指で押圧するのが困難となると言う問題があ
った。一例として,・・・各キー領域は,縦,横ともに4.8mmまで小さくしても良いが,
その程度まで小さくすると指で各キー領域を押圧する際,隣のキー領域も一緒に押圧してしま
い,誤入力が生じる。
また,キー領域の数を増やす必要はないが,タッチパネルをより小型にしたいという要求も
あるが,この場合にも各キー領域を小さくできないために,小型化が実現できなかった。
さらに,タッチパネルに限らず,他の入力機器にも同様の問題があった。例えばキーパッド
を備えた卓上計算機,電話機等では,各キーの大きさは,指で押圧できる程度であることを条
件としていた結果,これが小型化の限界要因となっていた。
本発明の目的は,入力機器のキー領域あるいはキーの数を増加し,または入力の小型化を可
能にすることにある。
本発明の他の目的は,キー入力を容易にし,またその誤操作を減らすことにある。」(段落
【0003】∼【0007】)
(3)「【課題を解決するための手段】本発明の入力用具は,指に嵌められる指嵌部と,該指
嵌部に固定され,該指嵌部が指に嵌められたとき指先部から突出する押圧部とを備えたもので
ある。」(段落【0008】)
(4)「【作用】上記のように,構成されているので,指の太さに比してキー領域やキーが小
さくても,入力が可能であり,また隣のキー領域やキーを一緒に押してしまうといった誤操作
も少なくなる。」(段落【0009】)
(5)「【実施例】以下添付の図面を参照して実施例について,説明する。図1は本発明の一
実施例の入力用具を示す斜視図であり,図2はこの入力用具を指に嵌めてタッチパネルに入力
を行なう様子を示す概略斜視図である。図示のように,この入力用具は・・・指2・・・に嵌
められる指輪状の指嵌部4と,この指嵌部4に固定された押圧部6とを有する。押圧部6は,
指の背に沿って延びた幹部7と先端部8とからな・・・る。
図2にはまた,タッチパネル10が示されている。タッチパネル10には,複数のキー領域
12が表示されており,そのうちの一つのキー領域12を押圧部6の先端部8が押圧されてい
る。」(段落【0011】∼【0012】)
(6)「押圧部6の先端部8の寸法は,キー領域の大きさを考慮して定められる。図示の例は,
タッチパネルのキー領域が縦,横が4.8mmの場合を想定したもので,先端部8は例えば縦,
横ともに2mm程度の矩形である。
押圧部6は,硬質ゴムで形成され・・・ている。」(段落【0016】,【0017】)
(7)「先にも述べたように,・・・各キー領域を4.8×4.8mm程度にすることができ
る。・・・キー領域をこの程度にすると,縦144mm,横192mmの表示面内に約120
0個のキー領域を形成することができる。」(段落【0020】)
(8)「上記の実施例では,押圧部6が角柱状であったが,円柱状,楕円柱状でもよい。また,
図4に示すように押圧部16の幹部17を先細としても良い。」(段落【0022】)
(9)「上記の実施例では,押圧部が硬質ゴムで形成されているが,代りにエボナイト,プラ
スチックで形成しても良い。」(段落【0024】)
(10)「なお,指嵌部4と押圧部6・・・をともに金属で形成するときは溶接により固定して
も良い。」(段落【0027】)
(11)「【効果】以上のように,本発明によれば,指の太さに比してキー領域やキーが小さく
ても,入力が可能であり,また隣のキー領域やきー(判決注:「キー」の誤記である。)を一
緒に押してしまうと言った誤操作も少なくなる。」(段落【0032】)
(12) 図1,図2及び図4の記載
【図1】 【図2】
【図4】
2 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
(1) 相違点1に係る本願補正発明の構成
相違点1に係る本願補正発明の構成は,次のとおりである(当事者間に争いがな
い。以下,相違点2ないし相違点4に係る本願補正発明の各構成についても同様で
ある。)。
ア 「小型の手帳型パソコンを製作するためのものであること。」
イ 「入力キーがパソコンのキーボートに配列されたものであること。」
(2) 引用発明1について
ア 前記1の引用例1の記載のとおり,引用発明1は,文字や指令を入力するデ
ータ処理機器において,キー領域若しくはキーの数を多くするため,又は入力機器
部分(タッチパネル,キーパッド等)をより小型化するため,各キー領域又は各キ
ーを小さくすること(例えば,縦4.8mm×横4.8mm)を可能にすることな
どを目的とした入力用具に関する発明である。
イ そして,引用発明1が対象とする「文字や指令を入力するデータ処理機器」
にパソコンが含まれること及び通常のパソコンの入力キーがキーボードに配列され
たものであることが,本願(平成15年11月10日)当時の当業者(以下,単に
「当業者」というときは,本願当時の当業者を指す。)にとって周知の事項であっ
たことは,公知の事実である。
ウ(ア) 原告は,「引用発明1は,入力用具以外の物を対象としていない」旨主
張するが,引用発明1は,上記アのとおり,文字や指令を入力するデータ処理機器
を対象とする入力用具に関する発明であるから(この点は,当事者間に争いがな
い。),原告の当該主張は,上記ア及びイの認定を左右するものではなく,これを
採用することはできない。
(イ) また,原告は,「引用例1において,小型化の対象として特定されている
機器は,卓上計算機及び電話機のみであり,その他の機器については,将来の小型
化の指向性を予測・推定する記載があるにすぎず,しかも,パソコンについての記
載は一切ない」旨主張するが,上記イにおいて説示したところに照らせば,引用例
1に小型化の対象機器としてパソコンの明示的記載がないことをもって,上記イの
認定を妨げるものではないから,原告の当該主張についても,これを採用すること
はできない。
(3) 本願当時におけるパソコンの小型化についての技術状況
ア 乙2公報ないし乙4公報の記載及び図示
(ア) 「付け爪型スタイラス」と称する発明に関する乙2公報(特開2002−
73266号公報)には,次の記載及び図示がある。
a「【従来の技術】PDA(Personal Digital Assistants)や,軽量パームトップコンピュ
ータと呼ばれる小型コンピュータでは,入力装置として,タッチスクリーンが用いられる。タ
ッチスクリーンには,感圧式等のセンサが備えられ,タッチスクリーン上にスタイラスで指示
された2次元上の位置を読み取れるように又タッチスクリーン上にスタイラスで描かれる文字
を認識できるようにしている。スタイラスは,例えば鉛筆の先等でも代用可能ではあるが,通
常は,タッチスクリーンに損傷を与えることがないように専用のペン型スタイラスが小型コン
ピュータに付属されている。」(段落【0002】)
b「・・・本発明は,使い勝手が良く操作性に優れたタッチスクリーン用のスタイラスを提
供することを目的とする。」(段落【0006】)
c「【発明の実施の形態】以下,本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明
する。
図1から図3に本発明の付け爪型スタイラスの実施の一形態を示す。・・・
ここで,コンピュータ3としては,例えば,PDAや軽量パームトップコンピュータと呼ば
れる小型コンピュータであり,入力装置として,感圧式のタッチスクリーン4を有する。・・
・
また,コンピュータ3は,タッチスクリーン4を有するものであれば特にその形態を限定さ
れず,例えば,ノート型パーソナルコンピュータであっても良・・・い。」(段落【001
1】∼【0014】)
d 図1の記載
【符号の説明】
1 付け爪
2 スタイラス
3 コンピュータ
4 タッチスクリーン
7 付け爪型スタイラス
(イ) 「キーボード」と称する発明に関する乙3公報(特開平7−295706
号公報)には,次の記載がある。
a「タッチスクリーンディスプレイを実現する小形装置の一例は,PDAすなわちパーソナ
ルディジタルアシスタント装置であり,その具体例はペンコンピュータとして知られている。
一般にペンコンピュータは,手で容易に持てる小形のマイクロコンピュータであり,データ入
力に従来のキーボードを必要とせず,特殊なスタイラスを用いて,装置のタッチスクリーンに
書き込むか又はタッチスクリーン上のキーを作動することによりデータを入力する。現在市販
されているペンコンピュータは,一般に上記の両方のデータ入力方法が可能となっている。」
(段落【0004】)
b「本発明は,データを携帯型電子機器に入力するためのキーボードにおいて,凹部を備え
た表面と,凹部の底に配置されたキー様要素とを具備し,キー様要素が,スタイラスを凹部に
差し込むことによって作動できることを特徴とするキーボードを提供する。」(段落【000
8】)
c「本発明の好適な実施例では,キー様要素は凹部の底面を画成する。好適な実施例では,
凹部は,1つ以上の開口を有した板をキー様要素の上に配置することによって形成される。・
・・
別の好適な実施例においては,キー様要素は,例えばタッチスクリーンディスプレイのディ
ジタイズ層のディジタイズポイントの形式を有する。あるいは,キー様要素として,機械式の
キーを用いることもできる。」(段落【0010】,【0011】)
d「 本発明は,特にノートブック型コンピュータ,ペンコンピュータ・・・などの小形で
携帯可能なデータ処理装置・・・に適用することが可能である。」(段落【0019】)
(ウ) 「入力装置を備えた携帯型情報処理装置」と称する発明に関する乙4公報
(特開2002−244764号公報)には,次の記載及び図示がある。
a「【発明の属する技術分野】本発明は,概ねポケットに入れて持ち運べるサイズの縦型の
表示装置を有する携帯用情報端末,いわゆるPDA(パーソナルデジタルアシスタンス)に関
するものである。」(段落【0001】)
b「【従来の技術】従来の携帯用情報処理装置の中でもPDA(パーソナルデジタルアシス
タント)と呼ばれる胸ポケットに入れられる程度の大きさで縦長の液晶ディスプレイを持つ機
器が普及してきている。これらの機器においては,十分な大きさのキーボードを持つことがで
きないためペンによりポインティングデバイスの機能だけでなく文字入力までを行うものが一
般的である。しかしながら,ペンを用いて文字入力を行うためには画面の一部を文字入力のパ
ッドが占めるため,元々パソコンに比べて小さい画面の表示部分がさらに小さくなるため,一
度に表示できる情報量が少なく見難くなってしまっていた。これを解決するため,例えばシャ
ープ社のPDAであるMI−E1のように表示部分とは別にキー入力のためのキースイッチを
設けたものもあるが,キー間のピッチが狭く隣接するキーまでを同時に押し易いという課題が
あった。」(段落【0002】)
c「【発明が解決しようとする課題】このような携帯用情報処理装置においては,表示装置
が縦型であるため,本体も縦長の形状となる一方で,キー入力のためのキースイッチがある程
度のキーピッチを持つよう入力装置は横長形状であることが望まれる。あるいは,入力装置の
幅に合わせて本体を横長にすると液晶ディスプレイの縦方向が短くなるため同時に表示できる
情報量が少なくなるため一覧性が低下してしまう。
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので,携帯時においては入力装置を小さく
折畳むことにより可搬性が優れると共に,キー入力の操作性に優れる携帯型情報処理装置を提
供する事を目的とする。」(段落【0003】,【0004】)
d「図1において,1は文字や記号を入力するための入力装置,2はベースユニットでCP
Uやメモリーなどの電子回路と,電子回路を動作させるためのバッテリを格納している。ベー
スユニット2の前面には表示のための液晶ディスプレイ3を設けている。・・・
入力装置1の前面には文字や記号に対応するスイッチ5がマトリクス状に配置され,スイッ
チ5の前面にはそのスイッチ5に対応する文字または記号のシンボル(図示せず)が表示され
ている。スイッチ5の上面を指またはペンなどの先でタッチすることにより文字や記号の入力
を行う。文字の配列は一般のキーボードの配列(例えばQWERTY配列)に準じたものとす
る。スイッチ5は指でタッチすることもあるため,隣接するスイッチ5との間隔が狭すぎると,
スイッチ5を押した際に隣接するスイッチ5までを押してしまうため,できる限り間隔を広く
とるものとする。QWERTY配列の場合は縦よりも横に並ぶキーの数が多いため横長形状で
あることが望ましい。従って横長の形状とする。」(段落【0015】,【0016】)
e「図4に示すように開いた状態では画面を見ながら操作することがきる。」(段落【00
20】)
f 図1(b)及び図4の記載
【図1(b)】 【図4】
イ 上記アの乙2公報ないし乙4公報の記載及び図示によれば,パソコン(入力
機器部分として,タッチスクリーンを用いたもの,機械式のキーないしキースイッ
チを用いたものを含む。)を胸のポケットに入れることができる程度の大きさにま
で小型化するとの技術は,当業者にとって周知のものであったと認められる。
ウ 原告は,「乙2公報ないし乙4公報に記載された小型パソコンは,キーを必
要最小限のものとするため,パソコンが通常有する機能を一定の範囲のものに限定
した機器(『一定の機能に特化した小型パソコン』)であって,当該通常有する機
能を維持した上で小型化を図った機器(『汎用性のある小型パソコン』)ではな
い」旨主張するが,乙2公報ないし乙4公報には,原告の上記主張を根拠付ける直
接の記載は認められない(かえって,乙2公報には「コンピュータ3は,タッチス
クリーン4を有するものであれば特にその形態を限定されず,例えば,ノート型パ
ーソナルコンピュータであっても良・・・い。」との記載(上記ア(ア)c)が,乙
3公報には「本発明は,特にノートブック型コンピュータ・・・に適用することが
可能である。」との記載(同(イ)d)が,乙4公報には「文字の配列は一般のキー
ボードの配列(例えばQWERTY配列)に準じたものとする。」との記載(同
(ウ)d)がそれぞれみられるところである。)し,また,上記イの認定は,パソコ
ンを,その通常有する機能を維持した上で小型化するとの技術が本願当時の周知技
術であったことまでをいうものではないから,原告の上記主張は,上記イの認定を
左右するものとはいえず,いずれにせよ,これを採用することはできない。
(4) 引用発明1が対象とするデータ処理機器におけるキー領域の配置状況
ア 前記1(2)及び(7)のとおり,引用例1に例示された引用発明1が対象とする
データ処理機器における各キー領域の大きさは,縦4.8mm×横4.8mm程度
であり,その場合,縦144mm×横192mmの表示面内に約1200個のキー
領域を形成することができるものであるところ,この約1200個のキー領域を上
記表示面の縦横の比(3:4)に合わせてマトリックス状に割り付けると,当該表
示面には,縦約30行,横約40列のキー領域が設けられることになる。
また,上記表示面の面積(144mm×192mm=27648mm 2)を各キ
ー領域のおよその面積(4.8mm×4.8mm=23.04mm 2)で除した商
は,1200となるので,引用発明1が対象とするデータ処理機器においては,上
下左右に隣接するキー領域が,相互にほとんど接触するような形で上記表示面内に
配置されているといえる。
そうすると,引用例1に例示された引用発明1が対象とするデータ処理機器にお
けるキーピッチは,各キー領域の縦横の長さである4.8mm程度をわずかに上回
る大きさであると認められる。
イ 原告は,「上記表示面の大きさは,縦144mm×横192mmであり,こ
れは,小型手帳版のパソコンのキーボードの約4倍に当たる」旨主張するが,原告
の当該主張は,引用例1に例示された引用発明1が対象とするデータ処理機器にお
けるキー領域の配置状況についての上記アの認定を左右するものではない。
(5) 相違点1に係る本願補正発明の構成についての容易想到性
①引用発明1が,文字や指令を入力するデータ処理機器における入力機器部分の
小型化のために必要な各キー領域又は各キーの小型化を可能にすることなどを目的
とする発明であること,②文字や指令を入力するデータ処理機器にパソコンが含ま
れ,また,通常のパソコンの入力キーがキーボードに配列されたものであることが
当業者にとって周知の事項であったこと,③パソコン(入力機器部分として,機械
式のキーないしキースイッチを用いたものを含む。)を胸のポケットに入れること
ができる程度の大きさにまで小型化するとの技術が当業者にとって周知のものであ
ったこと,④引用例1に例示された引用発明1が対象とするデータ処理機器におい
ては,縦約30行,横約40列のキー領域を,上下左右に隣接するキー領域が相互
にほとんど接触するような形で表示面内に配置することができ,そのキーピッチが,
4.8mm程度をわずかに上回る大きさとなることは,上記(2)ないし(4)のとおり
である。
以上に加え,本願補正発明に係る請求項1の記載のとおり,本願補正発明の入力
キーは,パソコンのキーボードに,キーピッチ5mm前後に密集配列されたもので
あること,同請求項には,「小型の手帳型パソコン」の大きさを数値で特定する規
定はなく,本願補正明細書にも,当該特定に係る記載がみられないことをも併せ考
慮すると,引用発明1が対象とするデータ処理機器を小型の手帳型パソコンとし,
その入力機器部分を入力キーとした上,当該入力キーをパソコンのキーボードに配
列されたものとすること,すなわち,相違点1に係る本願補正発明の構成を採用す
ることは,当業者が容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
(6) 原告のその余の主張について
原告は,取消事由1に係る主張として,「引用発明1においては,入力用具の突
起とタッチパネルとの接触部分が平面と平面であるのに対し,本願補正発明におい
ては,入力突起を凹面のキートップに接触させて入力するものである」と主張する
が,当該主張は,相違点3についての審決の判断に係るものと解されるから,相違
点1についての審決の判断の誤りをいう取消事由1に係る主張としては失当である
(なお,相違点3についての審決の判断の誤りをいう取消事由3に理由がないこと
は,後記4のとおりである。)。
(7) 小括
以上のとおりであるから,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 相違点2に係る本願補正発明の構成
ア 相違点2に係る本願補正発明の構成は,次のとおりである。
(ア) 「入力キーがキーピッチ5mm前後に密集配列されたものであること。」
(イ) 「入力キーが9mm2前後の小型のものであること。」
イ なお,本願補正明細書の次の記載によれば,上記ア(イ)の「9mm2前後」と
は,入力キーの上面(入力用具と接する部分)の面積をいうものと理解される。
(ア)「【背景技術】
従来のパソコンの入力方式は,肉質指面積70平方ミリメートル位を前提にしているので,キ
ー面積は70平方ミリメートル前後・・・が限度である。
・・・
パソコンの小型化は入力キーを指先面だけの入力では,キー面積およびキーピッチの配列か
ら限度にきている。」(段落【0002】)
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
この発明はパソコンのキー入力を指幅14ミリメートル指先面積約70平方ミリメートルの柔
らかい肉質の面に替えて,鉛筆型の約3平方ミリメートル以下の硬質の小さい突起で入力キー
を押すことで(。)大幅に入力可能な9平方ミリメートル前後にキーを小型化し,・・・パソ
コン機器の小型化を図るものである。」(段落【0003】)
(ウ)「【実施例】
本発明器機の実施例として,
手帳版パソコンを示す。
・・・
キー面積 9平方ミリメートル前後」(段落【0007】)
(2) 引用発明1が対象とするデータ処理機器におけるキー領域の配置状況
前記2(4)のとおり,引用例1に例示された引用発明1が対象とするデータ処理
機器においては,縦約30行,横約40列のキー領域を,上下左右に隣接するキー
領域がほとんど接触するような形で表示面内に配置することができ,そのキーピッ
チは,4.8mm程度をわずかに上回る大きさとなる。
(3) 相違点2に係る本願補正発明の構成についての容易想到性
ア 上記(2)によれば,引用例1に例示された引用発明1が対象とするデータ処
理機器においても,キー領域がキーピッチ5mm前後に密集配列されているという
ことができる。そして,引用発明1が対象とするデータ処理機器の入力機器部分を
パソコンの入力キーとすることが当業者において容易に想到し得たものであること
は,前記2(5)において説示したとおりであるから,引用発明1が対象とするデー
タ処理機器において,入力キーをキーピッチ5mm前後に密集配列されたものとす
ること,すなわち,相違点2に係る本願補正発明の構成のうち上記(1)ア(ア)の構成
を採用することは,当業者が容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
イ また,入力キーの上面の面積をどのように設定するかについては,キーボー
ドの大きさ,入力キーの数・配置態様,入力方法(入力用具の使用の有無,使用す
る入力用具の大きさ・形状)等の諸条件を考慮し,当業者において適宜選択すれば
よいことであるから,入力キーを,その上面の面積が9mm 2前後の小型のものと
すること,すなわち,相違点2に係る本願補正発明の構成のうち上記(1)ア(イ)の構
成を採用することは,単なる設計的事項にすぎないものと認められる。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,「当業者にとって,引用発明1において小型のパソコンが特定され
ているとは想定し難い」と主張するが,当該主張の実質は,相違点1についての審
決の判断に係るものと解されるから,相違点2についての審決の判断の誤りをいう
取消事由2に係る主張としては失当である(なお,原告の当該主張と同旨の主張を
採用することができないことは,前記2(2)ウにおいて説示したとおりである。)。
イ また,原告は,「引用発明1においては,タッチパネル上のキー領域が単な
る平面であるのに対し,本願補正発明は,凹面のシステムを採用したものであり,
入力キーが小型になればなるほど,引用発明1と比較して,著しく入力を容易にし,
入力ミスを確実になくすことのできるものである」と主張するが,当該主張は,相
違点3についての審決の判断及び本願補正発明が奏する効果についての審決の判断
に係るものと解されるから,相違点2についての審決の判断の誤りをいう取消事由
2に係る主張としては失当である(なお,相違点3についての審決の判断の誤りを
いう取消事由3及び審決が本願補正発明が奏する格別の効果を看過した旨をいう取
消事由5にいずれも理由がないことは,後記4及び6のとおりである。)。
(5) 小括
以上のとおりであるから,取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について
(1) 相違点3に係る本願補正発明の構成
ア 相違点3に係る本願補正発明の構成は,次のとおりである。
「突起が入力の際に滑らないよう面に凹みを付けること。」
イ なお,本願補正発明に係る請求項1の記載(「鉛筆型の3平方ミリメートル
以下の硬質の小さい突起で入力する」)によれば,上記アの「突起」とは,当該鉛
筆型の入力用具の突起をいうものと理解され,また,本願補正明細書の次の記載に
よれば,上記アの「面」とは,入力キーの上面(入力用具と接する部分)をいうも
のと理解される。
「入力キーは入力面が狭いので,突起が入力するとき滑らないよう,入力面に凹みをつけ
る。」(段落【0004】)
(2) 引用発明1について
前記1の引用例1の記載及び図示のとおり,引用発明1は,データ処理機器にお
けるキー入力の方法に係る技術分野に属し,当該キー入力の際,指で直接キー領域
又はキーを押圧するとの方法を採ることによるキー領域又はキーの小型化の限界を
克服するとともに,キー入力を容易にし,その誤操作を減少させることを課題とし,
その解決のため,指の太さよりも細く,硬質の角柱状又は先細の円柱状の押圧部を
入力用具とするとの構成を有するものである。
(3) 引用発明2について
ア 「キーボード装置」と称する発明に関する引用例2には,次の記載がある。
(ア)「【産業上の利用分野】本発明は,ワープロやパソコンなどの情報処理装置における,
キーボードに用いるキートップの形状に関する。」(段落【0001】)
(イ)「【従来の技術】従来,キートップの上面は,指で押しやすいよう基本的には平面状ま
たはゆるくわん曲しているものであった。また,ブラインドタッチの際にホームポジションが
わかるように一部のキーに・・・小さな突起が設けられているものであった。」(段落【00
02】)
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】上記従来技術は,指でキーボード入力を行うことを
前提に作られていて,指で操作する範囲においては大きな課題はない。しかし,最近普及し始
めたペン状のデバイスを用いた手書き入力機器で用いる場合は,・・・ペンを持ちながらキー
ボードを操作する場合が考えられる。ところが,ペンの先端でキーを押下しようとすると,ペ
ン先がキートップ上で滑ってしまう場合が多く,目的とするキーを押せなかったり,誤ったキ
ーを押してしまう場合がある。
本発明の目的は,ペンで使っている途中でキーボード操作が必要となった場合に,ペンでキ
ーボードを押してもペン先が滑ることなく容易かつ確実に操作できるキーボード装置を提供す
ることにある。」(段落【0003】,【0004】)
(エ)「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明はキートップ上面
に,ペン先ははまるが指は入らない程度の凹みまたは切欠きを設けたものである。」【000
5】
(オ)「【作用】本発明はペンのような先端が固いものでキートップ上面を押した場合に,ペ
ン先が凹みまたは切欠きにはまり,キートップ上面外へ滑り出ることなくキーを押下できるよ
うになっている。」(段落【0007】)
(カ)「【発明の効果】ペンで操作しているときにキーボード操作が必要となった場合,従来
はペンでキーボードを押すと滑ってうまく操作できないので,一旦ペンを置いて指で操作して
いたが,本発明ではペンで押してもペン先が滑ることがないので,ペンでキーボードを容易に
操作できるという効果がある。」(段落【0037】)
イ 上記アの記載のとおり,引用発明2は,ワープロ,パソコン等の情報処理装
置におけるキー入力の方法に係る技術分野に属し,手書き入力機器におけるペン状
のデバイス(以下,単に「ペン」という。)によりキーを押下する際,先端の固い
ペン先がキートップ上で滑ることのないようにして,キー入力の操作を容易かつ確
実にすることを課題とし,その解決のため,キートップ上面にペン先がはまる程度
の凹み等を設けるとの構成を有するものである。
(4) 引用発明2の構成の引用発明1への適用及び相違点3に係る本願補正発明
の構成についての容易想到性
上記(2)及び(3)のとおり,引用発明1及び2は,いずれも,情報処理機器におけ
るキー入力の方法に係る技術分野に属し,当該キー入力が容易かつ確実に行われる
ようにすることを課題とするものである。また,当該キー入力の方法をみても,と
もに,硬質の細い棒状の入力用具を使用するとの点で本質的な差異はない。その他,
引用発明2の構成を引用発明1に適用することについて阻害要因があるものと認め
るに足りる証拠はない。
そうすると,引用発明1に引用発明2の構成(ペンが滑らないようにキートップ
上面に凹みを設けるとの構成)を適用し,相違点3に係る本願補正発明の構成(入
力用具の突起が入力の際に滑らないよう入力キーの上面に凹みを付けるとの構成)
を採用することは,当業者が容易に想到し得たものと認めるのが相当である。
(5) 原告の主張について
ア 原告は,「引用発明2における凹面の発想は,既存のパソコン等における操
作の利便性を求めたもの,すなわち,指入力を補助するためのものであるのに対し,
本願補正発明のキートップの凹面の発想は,新製品の小型手帳版のパソコンを製造
するためのものである」旨主張する。
原告の上記主張にいう「既存のパソコン等」とは,その主張の内容からみて,指
によるキー入力がされるパソコン等を指すものと解され,確かに,上記(3)アのと
おり,引用発明2は,指によるキー入力がされる場合があることを前提とするパソ
コン等に係るものである。
しかしながら,本願補正発明の構成のうち入力キーの小型化に係るもの(相違点
2に係る構成(キーピッチ5mm前後に密集配列され,上面の面積が9mm 2前後
の小型の入力キーを有するとの構成))を採用することが,当業者が容易に想到し
得たもの又は単なる設計的事項にすぎないものであることは,前記3において説示
したとおりであるところ,引用発明2の構成(ペンが滑らないようにキートップ上
面に凹みを設けるとの構成)を引用発明1に適用する際,キートップ上面の面積に
合わせて凹みの大きさを適宜変更することは,単にキートップ上面に凹みを設ける
との引用発明2の構成の内容自体に照らし,設計的事項にすぎないものと認められ
るから,原告の上記主張は,引用発明1に引用発明2の構成を適用することの阻害
要因となるものではないといわざるを得ず,これを採用することはできない。
イ 原告は,「引用発明2におけるキートップの面積は,本願補正発明における
当該面積とは比較にならないほど大きい」旨主張するが,上記アにおいて説示した
ところに照らせば,原告の当該主張は,同様に,引用発明1に引用発明2の構成を
適用することの阻害要因となるものではないといわざるを得ず,これを採用するこ
とはできない。
ウ 原告は,引用発明2と本願補正発明における発想の目的の相違を認めながら,
引用発明1に引用発明2の構成を適用することに阻害要因はないとした審決の判断
は誤りである旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張にいう「引用発明2と本願補正発明における発想
の目的の相違」とは,審決の判断内容(「引用発明1は,入力機器のキーの数を増
加し入力機器の小型化を可能とすることを目的として,本願補正発明と同様のキー
ピッチを有するものであり,引用発明2の目的が本願補正発明の目的と異なるとし
ても,・・・適用を阻害する要因はないというべきである」)に照らし,引用発明
2の構成が小型のパソコン等のキーボードを前提としたものでない旨をいうものと
解されるところ,この点についても,上記ア及びイと同様であるから,原告の上記
主張を採用することはできない。
(6) 小括
以上のとおりであるから,取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(相違点4についての判断の誤り)について
(1) 相違点4に係る本願補正発明の構成
ア 相違点4に係る本願補正発明の構成は,次のとおりである。
「鉛筆型の3mm2以下の小さな突起で入力すること。」
イ なお,本願補正明細書の次の記載によれば,上記アの「3mm 2以下」とは,
突起の先端部分(入力キーと接触する部分)の底面積(指によるキー入力がされる
場合に,入力キーと接触する指先の面積に相当するもの)をいうものと理解される。
(ア)「【発明が解決しようとする課題】
この発明はパソコンのキー入力を指幅14ミリメートル指先面積約70平方ミリメートルの柔
らかい肉質の面に替えて,鉛筆型の約3平方ミリメートル以下の硬質の小さい突起で入力キー
を押すことで(。)大幅に入力可能な9平方ミリメートル前後にキーを小型化し,キーピッチ
5ミリメートル前後に密集配列を可能にし,パソコン機器の小型化を図るものである。」(段
落【0003】)
(イ)「【課題を解決するための手段】
手帳版パソコンまで小型化を指向しているので,鉛筆型の3平方ミリメートル以下の突起で小
型キーに入力する。
このことで入力キーと眼を結ぶ視野を指先幅14ミリメートルが幅2ミリメートルとなり,
視野が大幅に改善され・・・る。
このためにキーボードの入力キーも9平方ミリメートル前後に小型に出来るし,キーピッチを
5ミリメートル前後にできる。」(段落【0004】)
(2) 引用発明1について
前記1の引用例1の記載及び図示のとおり,引用発明1は,硬質の角柱状又は円
柱状の先細の押圧部を備えた入力用具であり,また,引用例1には,「押圧部6の
先端部8の寸法は,キー領域の大きさを考慮して定められる。図示の例(判決注:
図1に示されたものである。)は,タッチパネルのキー領域が縦,横が4.8mm
の場合を想定したもので,先端部8は例えば縦,横ともに2mm程度の矩形であ
る。」との記載(前記1(6))がある。
(3) 相違点4に係る本願補正発明の構成についての容易想到性
上記(2)によれば,引用発明1の入力用具において,硬質の円柱状の先細の押圧
部を鉛筆型の突起とし,その先端部分の底面積を3mm 2以下とすること,すなわ
ち,相違点4に係る本願補正発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し
得たものと認められる。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,「審決は,相違点4についての判断において,突起の大きさについ
て論じるのみである」と主張するが,前記第2の3(4)エのとおり,審決は,相違
点4に係る本願補正発明の構成のうち「鉛筆型の突起(で入力する)」との構成に
ついても,その容易想到性に係る判断を示しているのであるから,原告の上記主張
は失当である。
イ また,原告は,「引用発明1は,突起とキートップの接触部分における接触
態様が,平面に平面を接触させるものであるのに対し,本願補正発明は,入力突起
の凸面とキートップの凹面を融合したものであり,平面に平面を接触させて入力す
るものとは比較にならないほど入力を容易にし,入力ミスを防止することのできる
ものである」と主張するが,当該主張の実質は,相違点3についての審決の判断及
び本願補正発明が奏する効果についての審決の判断に係るものと解されるから,相
違点4についての審決の判断の誤りをいう取消事由4に係る主張としては失当であ
る(なお,相違点3についての審決の判断の誤りをいう取消事由3及び審決が本願
補正発明が奏する格別の効果を看過した旨をいう取消事由5にいずれも理由がない
ことは,前記4及び後記6のとおりである。)。
(5) 小括
以上のとおりであるから,取消事由4は理由がない。
6 取消事由5(本願補正発明が奏する格別の効果の看過)について
(1) 原告は,「本願補正発明は,相違点3に係る構成を採用することにより,
引用発明1における入力とは比較にならないほど入力を容易にし,入力ミスを防止
することができるとの格別の効果を奏するものである」と主張する。
しかしながら,前記4(3)アの引用例2の記載のとおり,引用発明2も,キート
ップ上面にペン先がはまる程度の凹み等を設けることにより,ペン先がキートップ
上面において滑ること(キートップ上面外に滑り出ることを含む。)なく,容易か
つ確実にキーを押下することができるとの効果を奏するものであり,また,同(4)
のとおり,相違点3に係る本願補正発明の構成は,引用発明1に引用発明2の構成
を適用することによって容易に想到し得るものであるから,原告が主張する本願補
正発明の上記効果は,相違点3の構成を有する本願補正発明が当然に奏するもので
あって,当業者が予測し得る範囲のものと認めるのが相当である。その他,本願補
正発明が格別顕著な作用効果を奏するものと認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2) なお,原告は,引用発明1に引用発明2の構成を適用することができない
旨主張するが,当該主張に理由がないことは,前記4(4)及び(5)において説示した
とおりである。
(3) 以上のとおりであるから,取消事由5は理由がない。
7 結論
以上の次第で,審決取消事由はいずれも失当であり,原告の請求は理由がないか
ら,同請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田 中 信 義
裁判官
榎 戸 道 也
裁判官
浅 井 憲
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