知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成18(ワ)17608 損害賠償等請求事件(損害賠償等請求本訴,手数料支払請求反訴事件)

この記事をはてなブックマークに追加

平成18(ワ)17608損害賠償等請求事件(損害賠償等請求本訴,手数料支払請求反訴事件)

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成20年10月30日
事件種別 民事
対象物 ペセカシステム
法令
キーワード 損害賠償10回
実施6回
意匠権2回
侵害2回
商標権2回
許諾1回
特許権1回
主文 1 本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,135万円及びこれに対する平成18年3月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)に対し,214万4625円及びこれに対する平成19年12月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 本訴原告(反訴被告)のその余の請求及び本訴被告(反訴原告)のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,本訴反訴を通じて,これを12分し,その11を本訴原告(反訴被告)の負担とし,その余は本訴被告(反訴原告)の負担とする。
5 この判決の第1項及び第2項は,仮に執行することができる。
事件の概要 1 事案の要旨 本件本訴は,本訴原告(反訴被告)(以下,単に「原告」という。)が, 本訴被告(反訴原告)(以下,単に「被告」という。)が,原告と被告が共 通のリライト式カード(リライトカード)を利用したセルフ式ガソリンスタ ンド向けの顧客情報,車両情報等管理用のカーサポートシステム及び給油料 金精算システムの共同開発に際して締結した機密保持契約,覚書等に基づく 義務に違反したなどと主張して,被告に対し,債務不履行に基づく損害賠償 及び覚書に基づく約定紹介手数料の支払を求める事案である。本件反訴は, 被告が,原告に対し,覚書に基づくリライトカードの販売利益の約定分配金 の支払を求める事案である。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成20年10月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成18年(ワ)第17608号 損害賠償等請求事件(損害賠償等請求本訴,
手数料支払請求反訴事件)
口頭弁論終結日 平成20年8月26日
判 決
福岡市<以下略>
本訴原告(反訴被告) 株式会社エム・エス・ピー
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 多 川 一 成
同 花 田 芳 夫
東京都千代田区<以下略>
本訴被告(反訴原告) 株 式 会 社 デ ナ ロ
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 鈴 木 和 夫
同 鈴 木 き ほ
主 文
1 本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,135
万円及びこれに対する平成18年3月4日から支払済みまで年6分
の割合による金員を支払え。
2 本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)に対し,214
万4625円及びこれに対する平成19年12月4日から支払済み
まで年6分の割合による金員を支払え。
3 本訴原告(反訴被告)のその余の請求及び本訴被告(反訴原告)
のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,本訴反訴を通じて,これを12分し,その11を本
訴原告(反訴被告)の負担とし,その余は本訴被告(反訴原告)の
負担とする。
5 この判決の第1項及び第2項は,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 本訴請求
本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,4077万円及
び内金1635万円に対する平成18年3月4日から,内金2442万円に
対する同年10月25日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払
え。
2 反訴請求
本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)に対し,435万487
5円及びこれに対する平成19年12月4日から支払済みまで年6分の割合
による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件本訴は,本訴原告(反訴被告)(以下,単に「原告」という。)が,
本訴被告(反訴原告)(以下,単に「被告」という。)が,原告と被告が共
通のリライト式カード(リライトカード)を利用したセルフ式ガソリンスタ
ンド向けの顧客情報,車両情報等管理用のカーサポートシステム及び給油料
金精算システムの共同開発に際して締結した機密保持契約,覚書等に基づく
義務に違反したなどと主張して,被告に対し,債務不履行に基づく損害賠償
及び覚書に基づく約定紹介手数料の支払を求める事案である。本件反訴は,
被告が,原告に対し,覚書に基づくリライトカードの販売利益の約定分配金
の支払を求める事案である。
2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実である。)
(1) 当事者
ア 原告は,顧客管理カードに関するソフトウェア及びデータベースの企
画,構築,設計,開発,販売,提供業務並びにこれらに関するコンサル
タント業務等を目的とする株式会社である。
イ 被告は,現金入出金機の製造及び販売保守,レジスター,ポスシステ
ム及びプリペイドカードシステムの販売保守等を目的とする株式会社で
ある。
(2) 共同開発の合意
ア 原告と被告は,平成15年3月,原告が販売していたリライト式ポイ
ントカードを利用した顧客情報,車両情報等管理用のカーサポートシス
テム(名称「PCRシステム」)と,被告が販売していたリライト式プ
リペイドカードを利用したセルフ式ガソリンスタンド向けの給油料金精
算システム(名称「NEO−500」)とを組み合わせ,共通(1枚)
のリライトカードを用いて,カーサポートシステム及び給油料金精算シ
ステムの双方を利用できるセルフ式ガソリンスタンド向けのシステムを
共同開発(以下「本件共同開発」という。)する旨の合意をした。
イ リライトカードとは,専用のカードリーダーライターを用いてカード
の表裏面(可逆性感熱記録層からなる表示部)の印字内容を繰り返し書
き換え可能なカードをいい,リライトカードは,可逆性感熱記録層を構
成する材料(素材)の違いにより,白濁カード,ロイコカード(ロイコ
染料等を用いたもの)等に区別される。原告の「PCRシステム」で
は,ロイコカードが使用され,被告の「NEO−500」では,白濁カ
ードが使用されていた。
そして,本件共同開発に係るシステムでは,共通のリライトカードと
してロイコカードを使用し,同リライトカードにポイントカード機能及
びプリペイドカード機能を持たせたること,システム中,顧客情報,車
両情報等管理用のカーサポートシステムに関する部分は,原告の「PC
Rシステム」を構成する機器を使用すること,システム中,セルフ式給
油の給油料金精算システムに関する部分は,被告の「NEO−500」
を構成する機器を使用すること,上記各機器をシステムに対応させるた
めのソフトウェアの開発等は,原告及び被告がそれぞれの機器に応じて
独自に行うことが前提とされていた。
(3) 共同開発に伴う機密保持の合意
ア 原告と被告は,平成15年5月1日,本件共同開発に伴い,被告が保
有するリライトカードを利用したセルフ式ガソリンスタンド向けの給油
料金精算システムの技術情報等の管理に関し,「機密保持に関する覚
書」(乙3)を締結し,その各条項に定める内容の合意をした(乙3,
弁論の全趣旨)。
イ 原告と被告は,平成15年6月23日,本件共同開発に伴い,原告が
保有する技術情報等を提供する場合に原告の機密を保持することを目的
として,同日付け「PCRセルフカードシステム機密保持契約書」(甲
3)をもって機密保持契約を締結した(以下,この契約を「本件機密保
持契約」といい,これに係る契約書(甲3)を「本件契約書」 とい
う。)。
本件契約書3条は,「乙は,本件製品と類似する製品について,別途
開発を行う場合は,甲に事前に通知する。」,4条1号は,「乙は,事
前に甲の書面による同意を得た場合を除き,甲から開示された情報,資
料および,本契約の締結または履行に関連して知りえた技術上,業務上
の秘密を第三者に漏洩してはならない。」,同条3号は,「乙は,機密
情報を所定の目的のみに使用し,また業務上これを知る必要のある乙の
従業員以外のものについて機密情報に関与させない。」,同条 6号
は,「乙は,甲の事前の承諾なしに機密情報に含まれ,またはその一部
をなす発明,考案,ノウハウ等を所定の目的以外に使用しない。また,
甲の著作権,工業所有権を侵害しない。」と定めている(本件契約書
中,「甲」は原告,「乙」は被告を意味する。)。
(4) 共同開発の経緯等
ア 本件共同開発に係るシステム(初期バージョン)は,平成15年7月
ころ完成した。原告と被告は,そのころ,本件共同開発に係るシステム
の名称を「ペセカシステム」と定めた。
ペセカシステムの初期バージョンでは,カーケア用品ごとのポイント
が印字及び管理されていなかったが,平成17年5月ころ完成した新バ
ージョンでは,カーケア用品ごとのポイントの印字及び管理機能が追加
された。
ペセカシステムの初期バージョン(乙25)及び新バージョン(甲1
0の2)で用いられるリライトカード(ロイコカード)の磁気データ仕
様(以下,新バージョンの磁気データ仕様を「本件磁気データ仕様」と
いう。)は,いずれも東洋エレクトロニクス株式会社(以下「東洋エレ
クトロニクス」という。)によって作成された。
磁気データ仕様は,リライトカード(磁気カード)にあらかじめ設け
られている記憶領域中のどの位置(トラック等)にどのようなデータ(
項目・内容)をどのようなコード(表現形式)で記録するかを定めたも
のであり,磁気カードに記憶するデータのデータ構造を定めたものであ
る。
イ(ア) 原告と被告は,平成15年7月14日,意匠に係る物品を「リラ
イトカード」とする部分意匠について共同で意匠登録出願(合計2
件)をし,平成16年3月12日,各部分意匠について原告及び被告
両名を意匠権者とする意匠登録(第1203596号,第12035
97号)がされた(甲50,51,61,62)。
(イ) 原告と被告は,平成15年11月7日,指定役務を「第36類
前払式証票の発行」として「ペセカ」のカタカナ文字と「PESEC
A」の欧文字との上下2段からなる商標について共同で商標登録出願
をし,平成16年7月2日,同商標について原告及び被告両名を商標
権者とする商標登録(第4783332号)がされた(甲60,乙
4)。
(ウ) 原告と被告は,平成15年9月1日及び平成16年1月21日に
それぞれ,発明の名称を「会員用記録媒体システム」とする発明につ
いて共同で特許出願(特願2003−309018号,特願2004
−12913号)をした(甲57,58)。
(5) ペセカシステムに関する覚書の締結
原告と被告は,平成17年4月1日,ペセカシステムの販売方法及び手
数料等について覚書(甲4。以下「本件覚書」という。)を締結し,その
各条項に定める内容の合意をした。
本件覚書1条は,「商品の内容を,石油の精算システム(以下機械とい
う。),ポイントカードシステム,ロイコカード,販売促進企画の4個に
分類し,それぞれの販売方法及び手数料を規定する。」,2条1項は,「
機械を甲が販売し,ポイントカードシステム,ロイコカード及び販売促進
企画は乙が販売する。」,同条2項は,「但し当面,伊藤忠エネクス株式
会社を通じて販売する機械については,甲が乙に販売し,これを乙は伊藤
忠エネクス株式会社に販売する。」,3条1項は,「甲が乙の紹介によ
り,乙が管轄するユーザーに機械を販売した場合,甲はその販売価格の5
%を手数料として乙に支払う。」,同条2項は,「乙が販売するロイコカ
ードについては,販売価格と仕入れ価格の差額の50%を乙は甲に支払
う。」と定めている(本件覚書中,「甲」は被告,「乙」は原告を意味す
る。)。
3 争点
本件本訴の争点は,被告が本件機密保持契約上の義務(本件契約書3条,
4条1号,3号,6号の各条項)に違反したかどうか(争点1),被告が本
件覚書2条1項の約定に違反したかどうか(争点2),被告が本件共同開発
における信義則上の義務に違反したかどうか(争点3),被告が上記各義務
及び約定違反の債務不履行に基づいて賠償すべき原告の損害額(争点4),
原告の被告に対する本件覚書3条1項に基づく約定紹介手数料請求権の成
否(争点5)であり,本件反訴の争点は,被告の原告に対する本件覚書3条
2項に基づく約定分配金請求権の成否(争点6)である。
第3 争点に関する当事者の主張
1 本訴について
(1) 争点1(本件機密保持契約上の義務違反の有無)について
ア 原告の主張
(ア) ペセカシステムの特徴
本件共同開発に係るペセカシステムの特徴は,「集客効果を高める
ために,顧客をランク別に分類し,ランクによってポイント付与率に
差をつけたこと及びカーケア情報を管理し,顧客にカーケア次回実施
時期を分かりやすく伝えるサービスを付加すること」の特徴を有する
リライト式ポイントカード(ロイコカード)を利用したカーサポート
システムと,セルフ式ガソリンスタンド向けの給油用精算機及び料金
精算用プリペイドカードを一つのシステムに統一した点にある。
また,顧客にとってみれば,ペセカシステムで使用するリライトカ
ードに表出される外観からペセカシステムの特徴を認知することがで
きるのであるから,リライトカードに表出される模様,サービスの内
容,カーケア情報,それらの記載の配置・大きさ等の外観も,ペセカ
システムを特徴づけるものである。
(イ) 本件磁気データ仕様の原告の機密該当性
a 原告が開発したカーサポートシステムは,ガソリンスタンド利用
者向けにガソリンやカーケア用品等を購入するごとにポイントを付
与し,蓄積されたポイントに応じて一定の割引等が受けられるリラ
イト式ポイントカード(ロイコカード)を利用したものであって,
カーサポートシステムの技術の核心部分は同カードの機能にあり,
その機能を具体的に決定するのが磁気情報である。
したがって,ペセカシステムのリライトカードの本件磁気データ
仕様は,原告が開発したカーサポートシステムの技術の核心部分で
あり(ペセカシステムの核心部分でもある。),また,その開発の
ために原告は膨大な時間と経費をかけたものであるから,本件磁気
データ仕様は,本件機密保持契約によって保護される原告の機密(
機密情報)に該当する。すなわち,本件磁気データ仕様は,本件契
約書4条1号の「本契約の締結または履行に関連して知りえた技術
上,業務上の秘密」,同条3号の「機密情報」,同条6号の「機密
情報に含まれ,またはその一部をなす発明,考案,ノウハウ等」に
該当する。
b これに対し被告は,本件磁気データ仕様は,東洋エレクトロニク
スによって,原告固有の商品(PCRシステム)及び被告固有の商
品(NEO−500)にも対応するように設計されており,原告及
び被告がその固有の商品において使用することを前提として開発さ
れたものであるから,本件機密保持契約によって保護される原告の
機密に該当しない旨主張する。
しかし,本件磁気データ仕様は,東洋エレクトロニクス製のカー
ドリーダーライター「TCS−209」を使用する原告固有の商品
に対応するように設計された事実はあるが,被告固有の商品にも対
応するように設計された事実はなく,被告の主張は,その前提を欠
くものである。
(ウ) 本件機密保持契約上の義務違反(本件契約書3条,4条1号,3
号,6号の各条項違反)
被告は,ペセカシステムの完成後に,カーサポートシステムとセル
フ式ガソリンスタンド向けの給油用精算機及び料金精算用プリペイド
カードを一つのシステムに統一した商品を開発し,平成16年7月こ
ろから平成18年10月ころまでの間,別紙1記載の「販売時期」欄
記載の各時期に,「企業名」欄記載の14社(14店舗)に対し,被
告固有の上記商品(以下「新NEO−500」という。)を販売し
た。
そして,被告が本件磁気データ仕様を利用した「新NEO−50
0」を開発・販売(別紙1)したことは,以下のとおり,①被告が「
本件製品と類似する製品」について別途開発を行う場合は原告に事前
に通知する旨定めた本件契約書3条,②被告は事前に原告の書面によ
る同意を得た場合を除き,原告から開示された情報,資料及び本件機
密保持契約の締結又は履行に関連して知りえた技術上,業務上の秘密
を第三者に漏洩してはならない旨定めた本件契約書4条1号,③被告
は,機密情報を所定の目的のみに使用し,また業務上これを知る必要
のある被告従業員以外の者について機密情報に関与させない旨定めた
本件契約書4条3号,④被告は,原告の事前の承諾なしに機密情報に
含まれ,又はその一部をなす発明,考案,ノウハウ等を所定の目的以
外に使用しない旨定めた本件契約書4条6号に違反するものである。
a 本件契約書3条違反
(a) 被告が販売した新NEO−500は,システムで実現される
サービスの特徴がペセカシステムと同一であり,そのサービスの
内容もほとんど一致していること,使用されるリライトカードと
ペセカシステムのリライトカードとは,外見的特徴が酷似し,リ
ライトカードに表出された情報及びその磁気情報の要部も一致し
ていること,ペセカシステムの核心部分である本件磁気データ仕
様をそのまま利用したシステムであることから,ペセカシステム
と同一であるか,又はこれと極めて類似する商品である。したが
って,被告が販売した新NEO−500は,「本件製品と類似す
る製品」(本件契約書3条)に該当する。
そして,被告は,平成16年7月ころまでに,原告に事前に通
知することなく,「新NEO−500」の開発を行ったものであ
り,被告の上記行為は,本件契約書3条に違反する。
(b) これに対し被告は,別紙1記載の「企業名」欄記載の各社(
各店舗)に販売した被告固有の商品には,セルフ式ガソリンスタ
ンド向けの単なる給油精算装置又は単なるポイントカードシステ
ムのみのものなどがあり,これらは,給油料金精算システムとカ
ーケア用品に関するシステム(カーサポートシステム)を併用し
たペセカシステムと同一又は類似する商品に当たらない旨主張す
る。
しかし,仮に被告が販売した上記商品に給油料金精算システム
とカーサポートシステムを併用していないものがあるとしても,
被告が販売した上記商品のリライトカードは,本件磁気データ仕
様がそのまま利用されており,いつでも顧客の希望があれば,カ
ードにカーサポートシステムや,給油料金精算機能を付加するこ
とが可能であるから,被告の上記主張は失当である。
b 本件契約書4条1号,3号,6号違反
(a) 本件磁気データ仕様は,本件機密保持契約によって保護され
る原告の機密情報に該当するところ(前記(イ)a),被告は,平
成16年7月ころから,本件磁気データ仕様をペセカシステムの
共同開発という「所定の目的」(本件契約書4条3号)ではな
く,「新NEO−500」の開発という「所定の目的以外」(同
4条6号)に使用したものであり,被告の上記行為は,本件契約
書4条3号,6号に違反する。また,被告は,「新NEO−50
0」の開発に際し,原告の書面による事前の同意を得ることな
く,本件磁気データ仕様をソフトウェア開発会社に開示したもの
であり,被告の上記行為は,本件契約書4条1号,3号に違反す
る。
さらに,被告は,平成16年7月ころから,原告の書面による
事前の同意を得ることなく,原告から開示されたカーケア用品等
に関するシステムの情報,資料をソフトウェア開発会社や「新N
EO−500」の販売先のガソリンスタンド担当者等に漏洩した
ものであり,被告の上記行為は,本件契約書4条1号に違反す
る。
(b) これに対し被告は,本件磁気データ仕様に係る諸権利を有す
る東洋エレクトロニクスから,本件磁気データ仕様の開示を受け
て,これを被告の固有の商品に使用した旨主張する。
しかし,東洋エレクトロニクスが被告に本件磁気データ仕様を
開示したとしても,それは,ペセカシステムの共同開発の目的の
ためであって,被告が本件磁気データ仕様をペセカシステムと類
似する商品に流用することを許容したものではないから,被告に
よる「新NEO−500」の開発・販売(別紙1)は,本件磁気
データ仕様の目的外使用に該当することは明らかである。
c 以上のとおり,被告による「新NEO−500」の開発・販売(
別紙1)は,本件機密保持契約上の義務(本件契約書3条,4条1
号,3号,6号の各条項)に違反するものである。
イ 被告の反論
(ア) ペセカシステムの特徴に当たらないこと
a ペセカシステムは,1枚のリライトカードで,被告のセルフ式ガ
ソリンスタンド向けの給油料金精算システム「NEO−500」と
原告のカーサポートシステム「PCRシステム」の両方を利用・運
用できるようにしたシステムであり,これらを一つのシステムとし
て統合したものではない。
b 原告は,ペセカシステムの特徴として,カーサポートシステムに
おいて,①集客効果を高めるために,顧客をランク別に分類し,ラ
ンクによってポイント付与率に差をつけた点,②集客効果を高める
ために,カーケア情報を管理し,顧客にカーケア次回実施時期を分
かりやすく伝えるサービスを付加した点を挙げるが,いずれもペセ
カシステムの技術的特徴であるとはいえない。
①の点については,ペセカシステムの初期バージョンの開発の
際,顧客の要望により,給油料金精算システム側の仕様として採用
されたものであり,ペセカシステムの初期バージョンでは,カーサ
ポートシステム側では,未だポイント付与システムは採用されてい
なかった。また,顧客をランク別に分類し,ランクによってポイン
ト付与率に差をつける技術は,ポイントカードを用いたPOSシス
テムにおいて,ペセカシステムの初期バージョンの開発着手時であ
る平成15年1月以前から公知であった(乙28)。
②の点については,カーケア情報を管理し,顧客にカーケア次回
実施時期を分かりやすく伝えるサービスを付加する技術は,ペセカ
システムの初期バージョンの開発着手時以前から公知であった(乙
21,22)。また,ペセカシステムの新バージョンにおいて採用
されたカーケア用品ごとにポイントを付与すると共に利用期限を知
らせる技術も,ペセカシステムの新バージョンの開発着手時である
平成17年2月には,公知であった(乙29)。
以上のとおり,①及び②に係る技術は,ペセカシステムの開発に
着手した当時,公知であったものであり,しかも,原告は,これら
の技術について特許権等の独占的な権利を有するものではなく,何
人も自由に実施できるものであるから,①及び②の点は,ペセカシ
ステムの技術的特徴であるとはいえない。
c また,原告は,ペセカシステムで使用するリライトカードに表出
される外観(リライトカードに表出される模様,サービスの内容,
カーケア情報,それらの記載の配置・大きさ等の外観)も,ペセカ
システムを特徴づけるものであると主張するが,カーケア情報をリ
ライトカードに印字するシステムは,ペセカシステムの開発前から
公知であり,業界内では一般化しており,ペセカシステムのリライ
トカードのカーケア情報に関する部分の印字内容も,業界内におい
て同様のものが利用されており,リライトカードに表出される外観
がペセカシステムを特徴づけるものとはいえない。
(イ) 本件磁気データ仕様が原告の機密に当たらないこと
本件磁気データ仕様は,東洋エレクトロニクスが作成したものであ
り,その諸権利は東洋エレクトロニクスに帰属している。本件磁気デ
ータ仕様は,1枚のリライトカードを,被告のセルフ式ガソリンスタ
ンド向けの給油料金精算システム「NEO−500」で用いられる機
器(東洋エレクトロニクス製のカードリーダーライター「TCE−2
10,TCT−217」)と原告のカーサポートシステム「PCRシ
ステム」で用いられる機器(同カードリーダーライター「TCS−2
09」)の両方に利用できるように作成されたものであり,原告の「
PCRシステム」単体又は被告の「NEO−500」単体のいずれで
も使用できるように設計されている。
このように本件磁気データ仕様は,原告及び被告のそれぞれの固有
の商品において使用することを前提として設計,開発されたものであ
るから,本件機密保持契約(本件契約書4条1号,3号,6号の各条
項)で保護される原告の機密に当たらない。
(ウ) 本件機密保持契約上の義務違反がないこと
a 本件契約書3条について
(a) 被告は,別紙1記載の「企業名」欄記載の14社(14店
舗)に対し被告固有の商品を販売したが,その商品は,以下のと
おり,ペセカシステムと「類似する製品」(本件契約書3条)で
はない。
① 別紙1記載の№1ないし3,8について
被告が販売した別紙1記載の№1ないし3,8に係る商品
は,カーケア用品に関するシステム(カーサポートシステム)
を併用しない,セルフ式ガソリンスタンド向けの単なる給油精
算装置であり,同給油精算装置は,ペセカシステムと「類似す
る製品」ではない。上記給油精算装置に係るリライトカード
に,本件磁気データ仕様のうち,被告が本件共同開発前から使
用していた給油精算装置に関するデータ項目は使用している
が,カーケア用品に関するデータ項目は使用していない。
② 別紙1記載の№7について
被告が販売した別紙1記載の№7に係る商品は,給油精算装
置に値引きシステムを付加したものであり,上記システムは,
ペセカシステムと「類似する製品」ではない。上記システムに
係るリライトカードに,本件磁気データ仕様のうち,給油精算
装置に関するデータ項目は使用しているが,カーケア用品に関
するデータ項目は使用していない。
③ 別紙1記載の№12について
被告が販売した別紙1記載の№12に係る商品は,単なるポ
イントカードシステムであり,給油精算装置を併用するもので
はない。上記ポイントカードシステムは,ペセカシステムと「
類似する製品」ではない。上記ポイントカードシステムに係る
リライトカードに,本件磁気データ仕様のうち,給油精算装置
に関するデータ項目は使用していない。
④ 別紙1記載の№4ないし6,9ないし11,13,14につ
いて
被告が販売した別紙1記載の№4ないし6,9ないし11,
13,14に係る商品は,セルフ式ガソリンスタンド向けの給
油精算装置(NEO−500)と被告が独自に開発したカーケ
ア用品に関するシステム(カーサポートシステム。名称「カー
ケアバンク・システム」)を併用した商品(原告主張の「新N
EO−500」)である。上記商品に係るリライトカードに
は,本件磁気データ仕様を利用している。
しかし,ペセカシステムを構成する原告のPCRシステム
が,カード利用者の個人情報を原告の管理するホストサーバー
に登録することによって,顧客にダイレクトメールを送った
り,販売促進に利用するなどの顧客管理を目的としたシステム
であるのに対し,被告の販売した上記商品は,カーケア用品に
関するシステム(カーサポートシステム)を併用したものでは
あるが,被告の管理するホストサーバーは構成に含まれず,ホ
ストサーバーを利用した個人情報の取扱い及び顧客管理を一切
行っていない点で,原告のPCRシステムと異なるものであ
る。また,被告が販売した商品は,被告が独自に開発したもの
であり,原告のPCRシステムとはハードウェアの構成もソフ
トウェアも全く異なるものである。
さらに,カーケア情報をリライトカードに印字するシステム
は,ペセカシステムの開発前から公知であり,業界内では一般
化しており,ペセカシステムのリライトカードのカーケア情報
に関する部分の印字内容も,業界内において同様のものが利用
されており,カードの印字内容やカードの外見が似ているから
といって,被告の商品がペセカシステムと同一又は類似すると
いうことはできない。
したがって,被告の上記商品は,ペセカシステムと「類似す
る製品」ではない。
⑤ なお,原告は,本件磁気データ仕様がペセカシステムの核心
部分であり,被告の商品が本件磁気データ仕様を利用している
ことがペセカシステムと同一又は類似するシステムであること
を基礎づける有力な事実であるかのように主張する。しかし,
そもそも磁気データ仕様は,カードリーダーライターによっ
て,磁気データの読込み及び書込みを行う前提として,磁気ス
トライプにデータを格納(処理)する番地を割り振ったストラ
イプ磁気フォーマットであって,磁気カード側とカードリーダ
ーライター側の一種の約束事にすぎず,磁気データ仕様そのも
のに技術的な特徴や価値があるわけではない。したがって,本
件磁気データ仕様は,ペセカシステムの核心部分であるとはい
えないし,被告の商品が本件磁気データ仕様を利用しているか
らといってペセカシステムと同一又は類似する商品に当たると
いうこともできない。
(b) 上記のとおり,被告が別紙1記載の「企業名」欄記載の各
社(各店舗)に販売した商品は,いずれもペセカシステムと「類
似する製品」(本件契約書3条)とはいえないから,被告が,上
記商品の開発に際し,原告に事前に通知をしなかったとしても,
本件契約書3条に違反するものではない。
b 本件契約書4条1号,3号,6号について
前記(イ)のとおり,本件磁気データ仕様は,本件機密保持契約(
本件契約書4条1号,3号,6号の各条項)で保護される原告の機
密(機密情報)に当たるものではない。本件磁気データ仕様は,原
告及び被告のそれぞれの固有の商品において使用することを前提と
して設計,開発されたものであり,現に原告においてもペセカシス
テム以外の原告固有の商品に本件磁気データ仕様を使用している。
加えて,被告は,本件磁気データ仕様に係る諸権利を有する東洋
エレクトロニクスから開示を受けて,被告が別紙1記載の「企業
名」欄記載の各社(各店舗)に販売した商品に本件磁気データ仕様
の一部を使用したものであるから,被告による本件磁気データ仕様
の使用は,本件契約書4条3号,6号に違反するものではない。
また,被告は,本件磁気データ仕様をペセカシステムの開発を委
託した業者以外の第三者に開示したことはなく,上記業者への開示
は,原告も承諾していたのであるから,原告主張の被告による本件
契約書4条1号,3号違反の事実もない。
c 小括
以上のとおり,被告が本件機密保持契約上の義務(本件契約書3
条,4条1号,3号,6号の各条項)に違反したとの原告の主張
は,理由がない。
(2) 争点2(本件覚書2条1項違反の有無)について
ア 原告の主張
(ア)a 本件覚書1条は,ペセカシステムの内容を,石油の精算システ
ム(機械),ポイントカードシステム,ロイコカード,販売促進企
画の4つに分類する旨定め,2条1項は,ペセカシステムの機械は
被告が販売し,ポイントカードシステム,ロイコカード及び販売促
進企画は原告が販売する旨定めている。
そうすると,被告がペセカシステムと同一又は類似のポイントカ
ードシステム,ロイコカード及び販売促進企画を販売した場合に
は,本件覚書2条1項の約定に違反するというべきである。
b 原告と被告は,本件覚書締結前の平成15年6月,ペセカシステ
ムを共同で販売する旨の合意(以下「本件共同販売の合意」とい
う。)をした。本件共同販売の合意は,本件覚書2条1項と同旨の
内容を含むものであった。
(イ) 被告が,平成16年7月ころから平成18年10月ころまでの
間,別紙1記載の「販売時期」欄記載の各時期に,「企業名」欄記載
の14社(14店舗)に対し,被告固有の商品である新NEO−50
0を販売したこと,新NEO−500は,ペセカシステムの核心部分
である本件磁気データ仕様をそのまま利用したシステムであり,ペセ
カシステムと同一であるか,又はこれに極めて類似する商品であるこ
とは,前記(1)ア(ウ)aのとおりである。
したがって,被告による上記商品の販売は,ペセカシステムのポイ
ントカードシステム,ロイコカード及び販売促進企画は原告が販売す
る旨定めた本件覚書2条1項の約定に違反するものである。
イ 被告の反論
(ア) 本件覚書2条1項は,「ペセカシステム」そのものの販売に関す
る条項であって,「ペセカシステム」の類似品について何ら言及して
いないことは文理上明らかであり,これを拡張解釈すべきではない。
本件覚書にいう「ペセカシステム」とは,1枚のリライトカード
で,被告の「NEO−500」と原告の「PCRシステム」の両方を
利用・運用できるようにしたシステムをいい,いずれか一方が欠けた
場合は「ペセカシステム」とはいえない。そして,前記(1)イ(ウ)のと
おり,被告が別紙1記載の「企業名」欄記載の各社(各店舗)に販売
した商品は,原告のPCRシステムを構成に含むものではないから,
ペセカシステムと同一の商品ではない。
また,前記(1)イ(ウ)a(a)⑤のとおり,本件磁気データ仕様は,ペ
セカシステムの核心部分であるとはいえないし,被告が販売した商品
に本件磁気データ仕様が利用されているからといってペセカシステム
と同一又は類似するともいえない。
(イ) 原告と被告は,本件覚書の締結前に,ペセカシステムのリライト
カードの販売手数料の振り分けについて口頭で合意をしたことはあっ
たが,原告主張の本件共同販売の合意をした事実はない。
(ウ) したがって,被告による別紙1記載の「企業名」欄記載の各社(
各店舗)に対する商品の販売は,本件覚書2条1項に違反するもので
はない。
(3) 争点3(本件共同開発における信義則上の義務違反の有無)について
ア 原告の主張
被告は,以下のとおり,原告の同意を得ることなく,本件共同開発の
名の下に取得した,ペセカシステムの機密情報である本件磁気データ仕
様や,ペセカシステムのカードのデザインをそのまま流用して,ペセカ
システムとほとんど同一の商品(新NEO−500)を単独で製造し,
別紙1記載の「企業名」欄記載の各社(各店舗)に販売したことは,本
件共同開発における信義則上の義務に違反するものである。
(ア) 被告は,原告とともにペセカシステムを共同開発した当事者であ
り,前記第2の2(4)イ(ア),(ウ)のとおり,ペセカシステムに係る発
明について共同して特許出願をし,ペセカシステムのリライトカード
の意匠について共同して意匠登録を受けている。
原告は,前記第2の2(3)イのとおり,被告との間で本件機密保持契
約を締結し,ペセカシステムのソフトウェア及び磁気情報のベースと
なる磁気データ仕様を被告に開示している。
また,原告と被告は,前記第2の2(5)のとおり,本件覚書を締結
し,ペセカシステムを共同して販売することを合意している。
以上の諸点に照らせば,被告は,原告の同意を得ることなく,本件
共同開発に係るペセカシステムの本件磁気データ仕様をそのまま流用
し,ペセカシステムとほとんど同一の商品を単独で製造・販売するこ
とは信義則上許されないはずである。
(イ) 仮に被告の単独による上記製造・販売が認められるというのであ
れば,原告と被告によるペセカシステムの共同開発,共同の特許出
願,共同の意匠登録,ペセカシステムの共同販売に関する本件覚書の
締結は全く意味のないことになってしまう。原告にとってみれば,ま
さにペセカシステムを共同して販売していくことを合意したからこ
そ,被告との間でペセカシステムを共同開発することとし,また,原
告がこれまで時間と費用をかけて開発してきたカーサポートシステム
に関する機密情報,すなわちPCRシステムの磁気データ仕様を被告
に開示したのであり,原告と被告が共同してペセカシステムを販売す
るのでなければ,上記機密情報を被告に開示するはずはない。
(ウ) 被告は,ペセカシステムの共同開発からほとんど時期をおかず,
原告から開示されたカーサポートシステムに関する機密情報(磁気デ
ータ仕様)をそのまま流用して,ペセカシステムとほとんど同一の商
品(新NEO−500)の開発に着手し,これを別紙1記載の「企業
名」欄記載の各社(各店舗)に販売し,しかも,原告がペセカシステ
ムの開発前にPCRシステムを販売していた店舗にまで上記商品を販
売しているのであって,被告は当初からペセカシステムを原告と共同
して販売する意思を有していなかったとすら疑われるものである。ま
た,被告は,新NEO−500に使用するリライトカードに本件磁気
データ仕様をそのまま流用しただけではなく,ペセカシステムのリラ
イトカードとほとんど区別がつかないデザインを意図的に使用したた
め,カードの外観上,顧客もシステムを購入する石油販売店も,被告
の新NEO−500とペセカシステムとを区別することは困難であっ
た。なお,本件磁気データ仕様は,被告の従来のシステムであるNE
O−500に使用することができるよう設計されていたものではな
く,原告と被告間でNEO−500に本件磁気データ仕様を使用する
ことの黙示の合意が成立したこともない。
(エ) したがって,被告が,本件共同開発の名の下に取得した,ペセカ
システムの機密情報である本件磁気データ仕様や,ペセカシステムの
カードのデザインをそのまま流用して,新NEO−500を単独で製
造し,これを別紙1記載の「企業名」欄記載の各社(各店舗)に販売
したことは,本件共同開発における信義則上の義務に著しく違反する
ことは明らかである。
イ 被告の反論
(ア) 被告は,東洋エレクトロニクスから開示を受けた本件磁気データ
仕様を同社の許諾を得て使用しており,また,被告が別紙1記載の「
企業名」欄記載の各社(各店舗)に販売した商品は,セルフ式ガソリ
ンスタンド向けの給油精算装置(NEO−500)とカーケア用品に
関するシステム(カーサポートシステム)の併用タイプのものであっ
ても,ペセカシステムとは異なる被告が独自に開発した商品であっ
て,ペセカシステムと同一又は類似する商品ではない。また,原告
は,本件磁気データ仕様を,原告のPCRシステムに使用するリライ
トカードに使用しており,被告も同様に,NEO−500に使用する
リライトカードに使用している。このことは,ペセカシステムの共同
開発に際し,原告と被告の間において,本件磁気データ仕様を,原告
のPCRシステム又は被告のNEO−500で使用するリライトカー
ドに使用することができる旨の黙示の合意が成立したことを示すもの
である。
したがって,被告が本件磁気データ仕様を利用した被告固有の商品
を製造し,これを別紙1記載の「企業名」欄記載の各社(各店舗)に
販売したことは,何ら信義則に違反するものではない。
(イ) 他方,原告においても,他社(NECインフロンティア)と共同
して,本件磁気データ仕様を利用した,セルフ式ガソリンスタンド向
けの給油精算装置にカーケア用品に関するシステム(カーサポートシ
ステム)を併用した商品を開発し,販売しており,この点からも,被
告の上記製造,販売は信義則に違反するものではない。
(4) 争点4(原告の損害額)について
ア 原告の主張
(ア) 原告は,被告が本件機密保持契約上の義務,本件覚書2条1項の
約定(本件共同販売の合意における同旨の約定を含む。以下同じ。)
又は本件共同開発における信義則上の義務に違反したことにより,次
のとおりの損害(合計3942万円)を被った。
a 逸失利益 3500万円
被告が,本件機密保持契約上の義務,本件覚書2条1項の約定又
は本件共同開発における信義則上の義務に違反して,ペセカシステ
ムと同一又はこれと極めて類似する商品(新NEO−500)を単
独で別紙1記載の「企業名」欄記載の14社(14店舗)に販売し
たことにより,原告は,上記14社に対し,被告とともにペセカシ
ステムを共同販売することができなくなり,その共同販売による得
べかりし販売利益に相当する損害を被った。
そして,原告と被告がペセカシステムを共同販売した際に,原告
が現実に得た販売利益は,1システム当たり250万円を下らな
い。
したがって,原告が上記14社に対してペセカシステムを共同販
売することにより得べかりし販売利益は,3500万円(250万
円×14)を下らない。
b カード製造費用 442万円
原告は,伊藤忠エネクス株式会社(以下「伊藤忠エネクス」とい
う。)との間で,伊藤忠エネクスグループに属するガソリンスタン
ドにペセカシステムを順次導入する基本契約を締結し,その上で,
上記ガソリンスタンドから注文があった際に直ちに対応し販売でき
るようにするため,ペセカシステムに使用するリライトカード(伊
藤忠エネクスカード)10万枚をあらかじめ製造し,保管してい
た。
しかるに,被告が本件機密保持契約上の義務,本件覚書2条1項
の約定又は本件共同開発における信義則上の義務に違反したことに
より,原告は,被告と共同してペセカシステムを販売していくこと
ができなくなり,伊藤忠エネクスとの上記基本契約を解消すること
を余儀なくされ,その結果,原告は,上記保管に係る10万枚の伊
藤忠エネクスカードを販売することができなくなり,同カードの製
造費用442万円の損害を被った。
(イ) したがって,被告は,原告に対し,本件機密保持契約上の義務違
反,本件覚書2条1項の約定違反又は本件共同開発における信義則上
の義務違反の債務不履行に基づく損害賠償として,合計3942万円
の支払義務を負う。
イ 被告の反論
原告の損害額の主張は争う。また,原告主張の損害は,原告主張の被
告の債務不履行との間に相当因果関係はなく,その主張自体理由がな
い。
(5) 争点5(本件覚書3条1項に基づく約定紹介手数料請求権の成否)につ
いて
ア 原告の主張
(ア)a 本件覚書3条1項は,被告が原告の紹介により,原告が管轄す
るユーザーにペセカシステムの「機械」(石油の精算システム)を
販売した場合,被告は,その販売価格の5%を手数料として原告に
支払う旨定めている。
被告は,原告の紹介により,次の3社(3店舗)に対し,ペセカ
システムの「石油の精算システム」(給油料金精算システム)を販
売した。
① 平成17年9月8日
株式会社ENEOSフロンティア東京(以下「エネオスフロン
ティア東京」という。)豊玉店
② 平成17年10月25日
株式会社ENEOSフロンティア西東京(以下「エネオスフロ
ンティア西東京」という。)みずほ店
③ 平成17年12月
吉伴株式会社(以下「吉伴」という。)わさだ店
b ペセカシステムの「石油の精算システム」(給油料金精算システ
ム)の販売価格の5%は45万円を下らない。したがって,前記a
により原告が本件覚書3条1項に基づき被告に請求できる手数料額
は,135万円(45万円×3)を下らない。
(イ) そうすると,被告は,原告に対し,本件覚書3条1項に基づく約
定紹介手数料135万円の支払義務を負う。
イ 被告の反論
原告主張の3社(3店舗)に対してペセカシステムの「石油の精算シ
ステム」(給油料金精算システム)が納入された事実はあるが,いずれ
も原告の紹介による取引に基づくものではない。
上記3店舗のうち,エネオスフロンティア東京豊玉店及びエネオスフ
ロンティア西東京みずほ店については,株式会社タツノ・メカトロニク
ス(以下「タツノ」という。)からの紹介によるものであり,被告がタ
ツノに対し上記給油料金精算システムを販売し,これをタツノが上記2
店舗に販売したものである。また,吉伴わさだ店については,被告と吉
伴が平成17年8月11日に締結した販売協力に関する覚書(乙18)
に基づいて,被告が上記給油料金精算システムを販売したものであり,
いずれも原告の紹介による取引ではない。
(6) まとめ
ア 原告の主張
以上によれば,原告は,被告に対し,本件機密保持契約の義務違反等
の債務不履行に基づく損害賠償3942万円(前記(4)ア)及び本件覚書
3条1項に基づく約定紹介手数料135万円(前記(5)ア)の合計407
7万円及び内金1635万円(別紙1の№1ないし6に係る部分の損害
賠償及び約定紹介手数料)に対する平成18年3月4日(訴状送達の日
の翌日)から,内金2442万円(別紙1の№7ないし14に係る部分
及びカード製造費用の損害賠償)に対する同年10月25日(訴えの変
更申立書送達の日の翌日)から各支払済みまで商事法定利率年6分の割
合による遅延損害金の支払を求めることができる。
イ 被告の反論
原告の主張は争う。
2 反訴について
(1) 争点6(本件覚書3条2項に基づく約定分配金請求権の成否)について
ア 被告の主張
(ア) 約定分配金請求権の発生
a 本件覚書3条2項は,原告が販売する「ロイコカード」(ペセカ
システムのリライトカード)について,原告は,販売価格と仕入れ
価格の差額の50%を被告に支払う旨定めている。
原告は,別紙2記載のとおり,「納入年月日」欄記載のころ,「
得意先」欄記載の各社(各店舗)に対し,「枚数」欄記載の「ロイ
コカード」を販売した。
別紙2記載の「差額」欄記載の金額は,販売価格と仕入れ価格の
1枚当たりの差額であり,「請求金額」欄記載の金額は,「枚数」
欄記載の販売枚数に1枚当たりの差額及び0.5を乗じた金額(「
枚数」×「差額」×0.5)である。
b したがって,原告による別紙2記載の「ロイコカード」(ペセカ
システムのリライトカード)の販売に係る本件覚書2条1項に基づ
く販売利益の約定分配金は,合計435万4875円(別紙2記載
の「請求金額」欄記載の金額に消費税相当分を加算した金額の合計
額)となる。
(イ) 原告の弁済の主張等に対し
原告は,別紙2の№5ないし7,18ないし21の販売分につい
て,本件覚書2条1項に基づく約定分配金を弁済した旨主張するが,
弁済の事実はない。
また,原告は,別紙2記載の№8,9,11ないし17の販売分に
ついて,原告と被告間の約定分配金の不払の合意が成立しているか
ら,約定分配金の支払義務はない旨主張するが,原告主張の合意の事
実はない。
(ウ) まとめ
以上によれば,被告は,原告に対し,本件覚書3条2項に基づく約
定分配金435万4875円(前記(ア)b)及びこれに対する平成1
9年12月4日(「訴え変更申立書(反訴原告)」送達の日の翌日)
から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払
を求めることができる。
イ 原告の反論
(ア) 販売の事実の不存在
a 別紙2記載の№3,4,5,10については,ペセカシステムの
リライトカードは製造されておらず,原告が同リライトカードを販
売した事実はない。
b 別紙2記載の№8,9,11ないし17については,原告が原告
固有のシステムに使用するカードを「得意先」欄記載の各社(各店
舗)に販売したものであり,ペセカシステムのリライトカードを販
売したものではない。
原告が販売したカードは,原告が従来から開発し使用していたフ
ルサービスタイプの給油機に対応するスタンドアロンシステム(原
告固有のシステム)のリライトカードである。
(イ) 弁済
別紙2記載の№5ないし7,18ないし21については,原告は,
被告に対し,本件覚書3条2項に基づく約定分配金を支払った。
(ウ) 約定分配金の不払の合意
原告と被告は,平成17年11月ころ,土居石油株式会社(以下「
土居石油」という。),吉伴,株式会社ネクステージ九州(以下「ネ
クステージ九州」という。)及び喜多村石油株式会社(以下「喜多村
石油」という。)で使用される,被告がペセカシステム用のエンコー
ド処理を施したリライトカードについては,原告は,被告に対し,エ
ンコード料のみを支払えば足り,原告の上記エンコード処理が施され
たリライトカードの販売による本件覚書3条2項に基づく販売利益の
分配金の支払を要しない旨の合意をした。
そして,別紙2記載の№8,9,11ないし17については,被告
がペセカシステム用のエンコード処理を施したリライトカードを,原
告が上記合意に係る各社(各店舗)に販売したものであるから,原告
には,本件覚書3条2項に基づく約定分配金の支払義務はない。
(エ) まとめ
以上のとおり,被告の原告に対する本件覚書3条2項に基づく約定
分配金請求は理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 本訴請求
(1) 前提事実
前記争いのない事実等と証拠(甲3ないし11,14ないし20,25
ないし38,47ないし58,60ないし66,70,73,81ないし
83,93ないし96,98ないし101,103,105,乙1ないし
8,16,19ないし35,40ないし49(以上,枝番のあるものは枝
番を含む。),証人A,原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以
下の事実が認められる。
ア 本件共同開発の経緯
(ア) 原告は,平成12年3月,リライト式ポイントカードを利用した
顧客情報,車両情報等管理用のカーサポートシステム(名称「PCR
システム」)の販売を開始し,平成14年6月までに全国約260か
所のガソリンスタンドに同システムが導入されていた。
PCRシステムは,リライトカードとしてロイコカードを使用し,
カード券面上に,購入したカーケア用品,サービス(オイル交換,洗
車等)に対する購入ポイント数が記載されるとともに,利用年月日,
オイル交換や洗車をした日付,車両の走行距離,車検日,車検履歴な
どが記載され,顧客に対するポイントの還元率を4ランクで設定表示
することが可能であった。
また,PCRシステムは,各ガソリンスタンドに設置されたシステ
ム(カードリーダーライター機能を有するリライトカード端末)と原
告が保有する管理サーバー(ホストサーバー)とがインターネット等
のネットワークにより接続された構成を有し,原告のホストサーバー
に顧客の個人情報を会員情報として登録し,ホストサーバーによって
会員情報の管理や,各会員のポイント集計等の管理を行うなどの機
能(甲28,31)を有していた。
(イ) 被告は,平成10年ころ,セルフ式ガソリンスタンド(セルフサ
ービススタンド)の解禁に伴い,リライトカードを利用したセルフ式
ガソリンスタンド向けの給油料金精算システム(給油精算装置)を開
発し,平成11年12月から販売を開始した。被告は,平成14年8
月以降,上記システムの新モデルとして「NEO−500」を販売す
るようになった。
「NEO−500」は,カードリーダーライターが組み込まれた外
接機,計量機,SSC(給油許可装置),ガソリンスタンドのPC(
パソコン),PC接続用のカードリーダーライターで構成されるシス
テムである。
(ウ) ネクステージ九州は,平成14年10月ころ,フルサービススタ
ンド向けのカーケア用品の販売促進を目的として,原告のPCRシス
テムをネクステージ九州三苫給油所等に導入した。
ネクステージ九州は,平成15年1月にセルフ式ガソリンスタン
ド(セルフサービススタンド)を初めて開設した後,フルサービスス
タンドをセルフサービススタンドに改装してセルフサービススタンド
を増加させる方針を採ることとし,同年度にセルフサービススタンド
へ改装するスタンドの一つとして,三苫給油所を選定した。
ネクステージ九州は,三苫給油所のセルフサービススタンドへの改
装に当たり,三苫給油所に導入されていた原告のPCRシステム及び
これに蓄積された顧客情報を有効に活用するため,PCRシステムと
セルフ式ガソリンスタンド向けの給油料金精算システムを連動させ,
1枚のリライトカードで双方のシステムを利用できるシステムを導入
したいと考え,PCRシステムと連動可能な給油料金精算システムを
取り扱う業者の選定作業を始めた。その結果,ネクステージ九州は,
タツノから紹介された被告を選定した。以後,ネクステージ九州,タ
ツノ,原告,被告の4者によって1枚のリライトカードを利用した上
記連動可能なシステムの導入へ向けての打合せが行われた。
(エ) そして,原告と被告は,平成15年3月,原告が販売していたリ
ライト式ポイントカードを利用した顧客情報,車両情報等管理用のカ
ーサポートシステム(「PCRシステム」)と,被告が販売していた
リライト式プリペイドカードを利用したセルフ式ガソリンスタンド向
けの給油料金精算システム(「NEO−500」)とを組み合わせ,
共通(1枚)のリライトカードを用いて,カーサポートシステム及び
給油料金精算システムの双方を利用できるセルフ式ガソリンスタンド
向けのシステムを共同開発(本件共同開発)する旨の合意をした。
本件共同開発に係るシステムでは,共通のリライトカードとしてロ
イコカードを使用し,同リライトカードにポイントカード機能及びプ
リペイドカード機能を持たせたること,システム中,顧客情報,車両
情報等管理用のカーサポートシステムに関する部分は,原告の「PC
Rシステム」を構成する機器を使用すること,システム中,セルフ式
給油の給油料金精算システムに関する部分は,被告の「NEO−50
0」を構成する機器を使用すること,上記各機器をシステムに対応さ
せるためのソフトウェアの開発等は,原告及び被告がそれぞれの機器
に応じて独自に行うことが前提とされた。
なお,上記のとおり,PCRシステム及びNEO−500を構成す
る各カードリーダーライターは,いずれも東洋エレクトロニクスの製
品であったが,NEO−500を構成するカードリーダーライター(
TCE−210,TCT−217)のリライトカードの磁気データ仕
様については東洋エレクトロニクスが自由に使用することを認めてい
たのに対し,PCRシステムを構成するカードリーダーライター(T
CS−209)のリライトカードの磁気データ仕様については東洋エ
レクトロニクスの非公開のオリジナルフォーマットであり,東洋エレ
クトロニクスの関与なくして使用できなかったため,PCRシステム
とNEO−500を連動させた本件共同開発に係るシステムに用いる
共通のリライトカードの磁気データ仕様の作成は,東洋エレクトロニ
クスに依頼して行われることとなった。
(オ)a 原告は,平成15年4月4日,共通のリライトカードの印字見
本,原告利用分(カーケア情報)の印字項目及びその説明等を記載
した機能概要書(甲29)を作成し,東洋エレクトロニクスに対
し,これを提供した。一方で,被告も,東洋エレクトロニクスに対
し,セルフ式給油精算用のプリペイドカードの印字項目,印字方法
等に係る情報を提供した。
その後,原告,被告,東洋エレクトロニクスの3者で打合せが行
われた結果,同月22日,共通のリライトカードの印字項目,印字
方法,共通のリライトカードとしてロイコカードを使用すること等
の事項(乙27)が最終的に決められた。
東洋エレクトロニクスは,同月23日,原告及び被告に対し,東
洋エレクトロニクス作成のリライトカードの磁気データ仕様書(乙
25)を発行した。
その後,本件共同開発に係るシステム(初期バージョン)は,平
成15年7月ころ完成し,ネクステージ九州三苫給油所に導入され
た。
原告と被告は,そのころ,本件共同開発に係るシステムの名称
を「ペセカシステム」と定めた。
b 本件共同開発に係るシステム(ペセカシステム)の初期バージョ
ンにおいては,カーケア用品ごとの購入ポイントが印字及び管理さ
れていなかった。その後,原告は,吉伴から,ペセカシステムを導
入するに当たり,株式会社マーケティングインフォーメーションコ
ミュニティが販売していたカーケア用品のリライト式ポイントカー
ド(名称「FLASH SYSTEM」。乙23)と同様に,カー
ケア用品ごとの購入ポイントの印字及び管理ができるようにして欲
しい旨の要望を受けた。
そこで,平成17年2月ころから,上記印字及び管理機能を追加
したペセカシステムの新バージョンの開発が進められた。
東洋エレクトロニクスは,同年5月19日,原告及び被告に対
し,ペセカシステムの新バージョンに係る東洋エレクトロニクス作
成のリライトカードの磁気データ仕様書(甲10の2)を発行し
た。そして,同月ころ,ペセカシステムの新バージョンは完成し
た。
(カ)a 原告と被告は,平成15年7月14日,意匠に係る物品を「リ
ライトカード」とする部分意匠について共同で意匠登録出願(合計
2件)をし,平成16年3月12日,各部分意匠について原告及び
被告両名を意匠権者とする意匠登録(第1203596号,第12
03597号)がされた。
また,原告と被告は,平成15年11月7日,指定役務を「第3
6類 前払式証票の発行」として「ペセカ」のカタカナ文字と「P
ESECA」の欧文字との上下2段からなる商標について共同で商
標登録出願をし,平成16年7月2日,同商標について原告及び被
告両名を商標権者とする商標登録(第4783332号)がされ
た。
b 原告と被告は,平成15年9月1日及び平成16年1月21日に
それぞれ,発明の名称を「会員用記録媒体システム」とする発明に
ついて共同で特許出願(特願2003−309018号,特願20
04−12913号)をした。
イ 本件共同開発に伴う機密保持の合意
(ア) 原告と被告は,平成15年5月1日,本件共同開発に伴い,被告
が保有するリライトカードを利用したセルフ式ガソリンスタンド向け
の給油料金精算システムの技術情報等の管理に関し,「機密保持に関
する覚書」(乙3)を締結し,その各条項に定める内容の合意をし
た。
(イ) 原告と被告は,平成15年6月23日,本件共同開発に伴い,原
告が保有する技術情報等を提供する場合に原告の機密を保持すること
を目的として,本件契約書(甲3)をもって本件機密保持契約を締結
した。
本件契約書には,以下のような条項がある(本件契約書中,「甲」
は原告,「乙」は被告を意味する。)。
「第1条(目的)
本契約は,甲,乙が共同でPCRセルフカードシステム(以下シ
ステムという)を開発するのに伴い,甲が保有する技術情報等を
提供する場合の,甲の機密を保持することを目的に締結する。」
「第2条(基本事項)
甲 お よ び 乙 は , 相 互 に 協 力 し て シ ス テ ム の 共 同開 発 を お こ な
う。」
「第3条(類似する商品の開発)
乙は,本件製品と類似する製品について,別途開発を行う場合
は,甲に事前に通知する。」
「第4条(機密保持)
① 乙は,事前に甲の書面による同意を得た場合を除き,甲から
開示された情報,資料および,本契約の締結または履行に関連
して知りえた技術上,業務上の秘密を第三者に漏洩してはなら
ない。
③ 乙は,機密情報を所定の目的のみに使用し,また業務上これ
を知る必要のある乙の従業員以外のものについて機密情報に関
与させない。
⑥ 乙は,甲の事前の承諾なしに機密情報に含まれ,またはその
一部をなす発明,考案,ノウハウ等(以下発明という)を所定
の目的以外に使用しない。また,甲の著作権,工業所有権を侵
害しない。
⑦ 機密情報に含まれ,またはその一部をなす発明等,およびこ
れらより派生したと認められる発明等は,協議のうえその帰属
を決定する。」(②,④,⑤は省略)
「第5条(成果の帰属)
1.本開発の成果は,本開発により得られた成果のうち,本開発
の目的に直接関係する発明,考案,意匠,著作物,ノウハウな
どの一切の技術成果をいう。
2.本開発の成果は,甲と乙の作業分担により得られた成果をそ
れぞれの帰属とする。但し,これによりがたきときは,別途甲
乙協議の上,帰属,持分について定める。」
ウ ペセカシステムに関する覚書の締結
原告と被告は,平成17年4月1日,ペセカシステムの販売方法及び
手数料等について本件覚書(甲4)を締結し,その各条項に定める内容
の合意をした。
そして,本件覚書の前文は,「株式会社デナロ(以下甲という。)と
株式会社エム・エス・ピー(以下乙という。)は,互いに協力してペセ
カシステム(以下商品という。)を販売するに当たり,その販売方法並
びに手数料につき,以下の通り覚書を締結した。」,本件覚書 1条
は,「商品の内容を,石油の精算システム(以下機械という。),ポイ
ントカードシステム,ロイコカード,販売促進企画の4個に分類し,そ
れぞれの販売方法及び手数料を規定する。」,2条1項は,「機械を甲
が販売し,ポイントカードシステム,ロイコカード及び販売促進企画は
乙が販売する。」,同条2項は,「但し当面,伊藤忠エネクス株式会社
を通じて販売する機械については,甲が乙に販売し,これを乙は伊藤忠
エネクス株式会社に販売する。」,3条1項は,「甲が乙の紹介によ
り,乙が管轄するユーザーに機械を販売した場合,甲はその販売価格の
5%を手数料として乙に支払う。」,同条2項は,「乙が販売するロイ
コカードについては,販売価格と仕入れ価格の差額の50%を乙は甲に
支払う。」と定めている。
エ 被告単独による併用システムの販売
(ア) 被告は,ペセカシステムの販売開始から約1年後ころから,ペセ
カシステムの販売先のユーザーから,原告のホストサーバーを使用し
て顧客情報を管理する機能(ペセカシステムのうち,PCRシステム
に係る機能)に関し,顧客データを原告に送ってからシステムに反映
されるまでに時間がかかりすぎる,原告に支払うランニングコストが
かかり,運営しにくいなどの苦情を受けるようになり,原告に上記苦
情を伝え,その改善を求めた。一方で,被告は,そのころから,上記
苦情を踏まえて,セルフ式ガソリンスタンド向けの給油料金精算シス
テム(NEO−500)とカーケア用品に関するシステム(カーサポ
ートシステム)を併用した商品の開発に独自に着手した。
(イ) 被告は,平成17年10月ころから平成18年10月ころまでの
間,別紙1記載の№4ないし6,9ないし11,13,14のとお
り,「企業名」欄記載の8社(8店舗)に対し,セルフ式ガソリンス
タンド向けの給油料金精算システム(NEO−500)と被告が独自
に開発したカーケア用品に関するシステム(カーサポートシステム。
名称「カーケアバンク・システム」)を併用した商品を販売した。
被告の販売した上記商品は,原告のPCRシステムの機器をその構
成に含むものではなく,また,PCRシステムのように,ホストサー
バーとガソリンスタンドの端末をインターネット等で接続して,ホス
トサーバーに顧客の個人情報を登録し,ホストサーバーによって個人
情報の管理や各顧客のポイント集計等の管理を行うなどの機能(前記
ア(ア))に係る構成を有するものでもなかった。
オ 本件訴訟に至る経緯
(ア) 原告は,平成17年12月28日到達の内容証明郵便(甲5の
1,2)で,被告に対し,被告が本件覚書に違反して少なくとも5社
のユーザーに対しペセカシステムのポイントカードシステム,ロイコ
カード及び販売促進企画の販売を行い,また,原告に事前に通知せず
に,ペセカシステムに類似する商品の開発を行い,機密情報に含まれ
る発明,考案,ノウハウ等を所定の目的以外の目的に使用し,本件機
密保持契約の各条項に違反しているとして,ペセカシステムに類似す
る商品の販売を停止するとともに,原告が被った損害1250万円を
支払うよう請求した。
被告は,平成18年1月10日付け内容証明郵便(甲6)で,原告
に対し,被告が本件覚書及び本件機密保持契約に違反した事実はな
く,開発システムの販売中止及び損害金請求には応じられない旨回答
した。
(イ) 被告は,平成18年2月9日到達の内容証明郵便(乙7の1,
2)で,原告に対し,ペセカシステムのロイコカードの販売実績を示
した支払報告書の提出及び本件覚書3条2項に基づくカード販売の約
定分配金の支払をするよう催告し,その支払をしない場合には,ペセ
カシステムに関する本件覚書その他の約定をすべて解除する旨通知し
た。
原告は,同月20日付け内容証明郵便(乙8)で,被告に対し,同
月末日に支払期日が到来する1件分(支払予定のもの)を除き,原告
に本件覚書3条2項に基づく約定分配金の未払はなく,本件覚書及び
本件機密保持契約の解除原因となる事実はない,本件覚書3条1項に
基づく約定紹介手数料の支払をするよう催告するなどと回答した。
(ウ) 原告は,平成18年2月27日,本件本訴を福岡地方裁判所に提
起し,被告は,同年5月13日,本件反訴を提起した。その後,本件
訴訟(本件本訴・本件反訴)は,東京地方裁判所に移送された。
(2) 争点1(本件機密保持契約上の義務違反の有無)について
ア 本件契約書3条違反の有無
原告は,被告は,ペセカシステムの完成後に,本件磁気データ仕様を
そのまま利用してセルフ式ガソリンスタンド向けの給油料金精算システ
ムとカーサポートシステムを併用した商品(新NEO−500)を開発
し,平成16年7月ころから平成18年10月ころまでの間,別紙1記
載の「販売時期」欄記載の各時期に,「企業名」欄記載の14社(14
店舗)に対し,被告固有の上記商品を販売したものであるが,上記商品
は,ペセカシステムと同一であるか,又はこれと極めて類似する商品で
あり,本件契約書3条の「本件製品と類似する製品」に該当するのに,
被告が,原告に事前に通知することなく,上記商品の開発を行ったこと
は,「本件製品と類似する製品」について別途開発を行う場合に原告に
事前に通知する旨定めた同条に違反する旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア) 本件契約書3条の「本件製品と類似する製品」の解釈
a 前記(1)の前提事実を総合すれば,①ネクステージ九州は,平成1
5年1月ころ,フルサービススタンドの三苫給油所をセルフサービ
ススタンド(セルフ式ガソリンスタンド)へ同年中に改装するに当
たり,三苫給油所に既に導入されていた原告のPCRシステム(リ
ライト式ポイントカード(ロイコカード)を利用した顧客情報,車
両情報等管理用のサポートシステム)及びこれに蓄積された顧客情
報を有効に活用するため,PCRシステムにセルフ式ガソリンスタ
ンド向けの給油料金精算システムを連動させ,1枚のリライトカー
ドで双方のシステムを利用できるシステムを導入したいと考え,P
CRシステムと連動可能な給油料金精算システムを取り扱う業者と
して被告を選定し,その導入に向けての打合せが行われたこと,②
その打合せの中で,原告と被告は,平成15年3月,原告のPCR
システムと被告のNEO−500(リライト式プリペイドカードを
利用したセルフ式ガソリンスタンド向けの給油料金精算システム)
とを組み合わせ,共通(1枚)のリライトカードを用いて,カーサ
ポートシステム及び給油料金精算システムの双方を利用できるセル
フ式ガソリンスタンド向けのシステムを共同開発(本件共同開発)
する旨の合意をしたこと,③本件共同開発に係るシステムでは,共
通のリライトカードとしてロイコカードを使用し,同リライトカー
ドにポイントカード機能及びプリペイドカード機能を持たせるこ
と,システム中,顧客情報,車両情報等管理用のカーサポートシス
テムに関する部分は,原告のPCRシステムを構成する機器を使用
すること,システム中,セルフ式給油の給油料金精算システムに関
する部分は,被告のNEO−500を構成する機器を使用するこ
と,上記各機器をシステムに対応させるためのソフトウェアの開発
等は,原告及び被告がそれぞれの機器に応じて独自に行うことが前
提とされたこと,④本件共同開発には,原告及び被告がそれぞれ保
有する技術情報等の開示を伴うことから,その機密保護を目的とし
て,原告と被告は,平成15年5月1日に被告が保有する技術情報
等について「機密保持に関する覚書」(乙3)を,同年6月23日
に原告が保有する技術情報等について本件機密保持契約をそれぞれ
締結したこと,⑤本件共同開発に係るシステム(名称「ペセカシス
テム」)の初期バージョンが,平成15年7月ころ完成し,ネクス
テージ九州三苫給油所に導入され,その後,平成17年5月ころ,
カーケア用品ごとの購入ポイントの印字及び管理機能を追加したペ
セカシステムの新バージョンが完成したことが認められる。
b ところ で,本 件機密保持契約に係る 本件契約書3条は, 被 告
は,「本件製品と類似する製品」について,別途開発を行う場合
は,原告に事前に通知する旨定めている。本件契約書(甲3)中に
は,本件契約書3条に規定する「本件製品」を定義した条項は存在
しないが,上記aの認定事実に照らすならば,同条項を設けた趣旨
は,被告が,原告から開示を受けた原告の技術情報等を利用して原
告及び被告が共同開発するシステムと類似する製品の開発を独自に
行うことを制限することにあり,「本件製品」は,原告及び被告の
本件共同開発に係るペセカシステムを意味するものと解される。
そして,上記aの認定事実によれば,ペセカシステムは,顧客情
報,車両情報等管理用のカーサポートシステム及び給油料金精算シ
ステムの双方を備え,共通(1枚)のリライトカード(ロイコカー
ド)を用いて双方を利用できるセルフ式ガソリンスタンド向けのシ
ステムであって,システム中,顧客情報,車両情報等管理用のカー
サポートシステムに関する部分は,原告のPCRシステムを構成す
る機器を,セルフ式給油の給油料金精算システムに関する部分は,
被告のNEO−500を構成する機器をそれぞれ使用するというも
のであるから,本件契約書3条に規定する「本件製品と類似する製
品」は,共通(1枚)のリライトカード(ロイコカード)を用いる
ことを前提とした顧客情報,車両情報等管理用のカーサポートシス
テム及び給油料金精算システムを併用したセルフ式ガソリンスタン
ド向けのシステムであって,システム中,カーサポートシステムに
関する部分は原告のPCRシステムの機能を,給油料金精算システ
ムに関する部分は被告のNEO−500の機能をそれぞれ備えてい
ることを要するものと解される。
(イ) 被告による「本件製品と類似する製品」の別途開発の有無
a 以上の解釈を前提に検討するに,前記(1)エのとおり,被告は,ペ
セカシステムの販売開始から約1年後ころから,セルフ式ガソリン
スタンド向けの給油料金精算システム(NEO−500)と被告が
独自に開発したカーケア用品に関するシステム(カーサポートシス
テム)を併用した商品の開発に着手し,平成17年10月ころから
平成18年10月ころまでの間,別紙1記載の№4ないし6,9な
いし11,13,14の「企業名」欄記載の8社(ガソリンスタン
ド8店舗)に対し,被告固有の上記商品を販売したものである。
しかし,被告が販売した上記商品は,給油料金精算システムとカ
ーサポートシステム)を併用するシステムであるが,原告のPCR
システムの機器をその構成に含むものではなく,また,PCRシス
テムの重要な特徴である,ホストサーバーと各ガソリンスタンドの
端末をインターネット等で接続して,ホストサーバーに顧客の個人
情報を登録し,ホストサーバーによって個人情報の管理や各顧客の
ポイント集計等の管理を行うなどの機能を有していないのであるか
ら(前記(1)ア(ア),エ(イ)),被告が販売した上記商品は,ペセカ
システムのカーサポートシステムに関する部分の重要な機能(PC
Rシステムの上記機能)を欠くものであって,本件契約書3条に規
定する「本件製品と類似する製品」に該当しないものと解される。
したがって,被告が上記商品を開発・販売したことをもって,被
告が「本件製品と類似する製品」の別途開発を行ったものと認める
ことはできない。
b 次に,別紙1記載の№1ないし3,7,8,12については,本
件全証拠によっても,被告が「企業名」欄記載の6社(6店舗)に
対し顧客情報,車両情報等管理用のカーサポートシステム及び給油
料金精算システムを併用したセルフ式ガソリンスタンド向けのシス
テムを販売したことを認めるに足りず,被告が「本件製品と類似す
る製品」を販売したものとはいえない。
c そうすると,原告主張の被告による「本件製品と類似する製品」
の別途開発及び販売の事実は認められないから,被告が本件契約書
3条に違反したとの原告の主張は,その前提を欠くものとして理由
がない。
(ウ) 原告の主張に対する判断
a 原告は,被告が販売したセルフ式ガソリンスタンド向けの給油料
金精算システム(NEO−500)と被告が独自に開発したカーケ
ア用品に関するシステム(カーサポートシステム)を併用した商
品(新NEO−500)は,システムで実現されるサービスの特徴
がペセカシステムと同一であり,そのサービスの内容もほとんど一
致していること,使用されるリライトカードとペセカシステムのリ
ライトカードとは,外見的特徴が酷似し,リライトカードに表出さ
れた情報及びその磁気情報の要部も一致していること,ペセカシス
テムの核心部分である本件磁気データ仕様をそのまま利用したシス
テムであることから,ペセカシステムと同一であるか,又はこれと
極めて類似する商品であり,「本件製品と類似する製品」(本件契
約書3条)に該当する旨主張する。
(a) しかし,被告が別紙1記載の№4ないし6,9ないし11,
13,14の「企業名」欄記載の8社(8店舗)に対し販売した
カーサポートシステム及び給油料金精算システムを併用した商品
には,ペセカシステムのカーサポートシステムに関する部分の重
要な機能(原告のPCRシステムの重要な特徴に係る機能)を欠
くものであり(前記(イ)a),システムで実現されるサービスの
特徴がペセカシステムと同一であるとはいえず,そのサービスの
内容がほとんど一致しているものともいえない。
また,磁気データ仕様は,リライトカード(磁気カード)にあ
らかじめ設けられている記憶領域中のどの位置(トラック等)に
どのようなデータ(項目・内容)をどのようなコード(表現形
式)で記録するかを定めたものであり,磁気カードに記憶するデ
ータのデータ構造を定めたものであるところ(前記第2の2(4)
ア),システムの機能は,磁気データ仕様に基づいて構築される
ソフトウェア及びハードウェアの内容に依存するものであり,同
一のフォーマットの磁気データ仕様を用いても割り当てられてい
るデータ項目に対応するソフトウェア及びハードウェアの機能が
異なれば,システムの機能も異なるものになるから,ペセカシス
テムの核心部分が本件磁気データ仕様にあるということはできな
い。
さらに,被告が販売した上記商品は,ペセカシステムのリライ
トカードの本件磁気データ仕様(甲10の2)を利用したもので
はあるが,データ項目にはペセカシステムとは異なる部分がある
こと(乙45ないし48)に照らすならば,本件磁気データ仕様
をそのまま利用したものとはいえない。
(b) 原告は,ペセカシステムの特徴として,カーサポートシステ
ムにおいて,①集客効果を高めるために,顧客をランク別に分類
し,ランクによってポイント付与率に差をつけた点,②集客効果
を高めるために,カーケア情報を管理し,顧客にカーケア次回実
施時期を分かりやすく伝えるサービスを付加した点,③ペセカシ
ステムのリライトカードの外観及び印字内容を挙げる。しかし,
①に係る技術は,ペセカシステムの初期バージョンの開発前から
既に公知であり(乙21ないし23,28,29),②に係る技
術は,吉伴の要望によりペセカシステムの新バージョンに追加さ
れたものであって,新バージョンの開発前に既に他社の製品に実
施された,公知のものであり(前記(1)ア(オ)b),ペセカシステ
ムの独自の技術的特徴であるとはいえないものである。したがっ
て,被告が販売した上記商品に①及び②に係る技術が導入されて
いるからといって,被告が販売した上記商品がペセカシステムと
同一又はこれと極めて類似する商品であるとは言い難い。
また,③の点については,被告が販売した上記商品に使用され
るリライトカードとペセカシステムのリライトカードの外観が似
ており,リライトカードの表裏面の印字内容(情報)の多くも共
通しているが(甲25,乙24等),カーケア情報をリライトカ
ードに印字するシステム及びカーケア情報に関する部分の印字内
容は,ペセカシステムの開発前から公知であり,業界内において
同 様 の も の が 利 用 さ れ て お り ( 乙 2 1 な い し 23 , 2 8 , 2
9),被告が販売した上記商品に使用されるリライトカードとペ
セカシステムのリライトカードの外観やその印字内容が似ている
からといって,被告が販売した上記製品がペセカシステムと同一
又はこれと極めて類似する商品であるとはいえない。
(c) 以上のとおり,原告の挙げる諸点を勘案しても,被告が販売
した上記商品がペセカシステムと同一又はこれと極めて類似する
商品であるものとは認められず,原告の上記主張は,採用するこ
とができない。
b 原告は,被告が別紙1記載の「企業名」欄記載の各社(各店舗)
に販売した被告の商品中に,顧客情報,車両情報等管理用のカーサ
ポートシステム及び給油料金精算システムを併用していないものが
あるとしても,被告が販売した上記商品のリライトカードは,本件
磁気データ仕様がそのまま利用されており,いつでも顧客の希望が
あれば,カードにカーサポートシステムや,給油料金精算機能を付
加することが可能であるから,併用していない商品も,「本件製品
と類似する製品」(本件契約書3条)に該当する旨主張する。
しかし,前記(ア)bで検討したとおり,「本件製品」は,顧客情
報,車両情報等管理用のカーサポートシステム及び給油料金精算シ
ステムの双方を備え,共通(1枚)のリライトカード(ロイコカー
ド)を用いて双方を利用できるセルフ式ガソリンスタンド向けのシ
ステムであるペセカシステムを意味するものであり,顧客情報,車
両情報等管理用のカーサポートシステム及び給油料金精算システム
を併用していないものは,「本件製品と類似する製品」に該当する
ものとはいえず,原告の上記主張は採用することができない。
イ 本件契約書4条1号,3号,6号違反の有無
(ア) 原告は,本件磁気データ仕様は,本件機密保持契約で保護される
原告の機密に該当する旨主張する。
a(a) そこで検討するに,前記ア(ア)a④に認定のとおり,本件共
同開発には,原告及び被告がそれぞれ保有する技術情報等の開示
を伴うことから,その機密保護を目的として,原告と被告は,平
成15年5月1日に被告が保有する技術情報等について「機密保
持に関する覚書」(乙3)を,同年6月23日に原告が保有する
技術情報等について本件機密保持契約をそれぞれ締結したもので
ある。
(b) 加えて,前記(1)イ(イ)のとおり,①本件機密保持契約に係る
本件契約書の1条は,「本契約」は,原告と被告が共同で「PC
Rセルフカードシステム」を開発するのに伴い,原告が保有する
技術情報等を提供する場合の,原告の機密を保持することを目的
に締結する旨定めていること,②本件契約書の4条1号は,被告
は事前に原告の書面による同意を得た場合を除き,原告から開示
された情報,資料及び本件機密保持契約の締結又は履行に関連し
て知りえた技術上,業務上の秘密を第三者に漏洩してはならない
旨,同条3号は,被告は,機密情報を所定の目的のみに使用し,
また業務上これを知る必要のある被告従業員以外の者について機
密情報に関与させない旨,同条6号は,被告は,原告の事前の承
諾なしに機密情報に含まれ,又はその一部をなす発明,考案,ノ
ウハウ等を所定の目的以外に使用しない旨定めていること,③本
件契約書の4条7号は,機密情報に含まれ,またはその一部をな
す発明等,およびこれらにより派生したと認められる発明等は,
協議のうえその帰属を決定する旨定めていること,④本件契約書
の5条1項は,「本開発の成果は,本開発により得られた成果の
うち,本開発の目的に直接関係する発明,考案,意匠,著作物,
ノウハウなどの一切の技術成果をいう。」旨,同条2項は,「本
開発の成果」は,原告と被告の作業分担により得られた成果をそ
れぞれの帰属とする,ただし,「これによりがたきときは」,別
途原告,被告協議の上,帰属,持分について定める旨定めている
ことに照らすならば,本件契約書上,原告が保有する技術情報
等(本件契約書1条)と原告が保有する技術情報等により「派生
したと認められる発明等」(本件契約書4条7号)あるいは「本
開発の成果」(本件契約書5条)とを区別して規定していること
が認められる。
(c) 以上の(a)及び(b)に鑑みると,本件機密保持契約が保護の
対象とする機密は,原告が保有する技術情報等,すなわち本件共
同開発前に原告が保有していた技術情報等に係るものであって,
本件共同開発の成果(「本開発の成果」)に係る技術情報等の機
密を直接保護の対象とするものではないと解される(仮に本件機
密保持契約が本件共同開発の成果に係る技術情報等の機密を保護
の対象とするのであれば,本件契約書に,原告及び被告の双方が
その機密の保護義務を負うことが明示されてしかるべきである
が,本件契約書にはそのような双方が機密の保護義務を負うこと
を規定した条項は存在せず,かえって,機密保持に関する本件契
約書4条各号は,被告が原告に対して一方的に負う義務として規
定している。)。
b 以上の解釈を前提に,本件磁気データ仕様が本件機密保持契約の
保護の対象とする機密に当たるかどうかについて検討するに,前記(
1)の認定事実によれば,①本件共同開発の過程において,原告は,
共通のリライトカードの印字見本,原告利用分(カーケア情報)の
印字項目及びその説明等を記載した機能概要書(甲29)を作成
し,これを東洋エレクトロニクスに提供したこと,一方で,被告に
おいても,東洋エレクトロニクスに対し,セルフ式給油精算用のプ
リペイドカードの印字項目,印字方法等に係る情報を提供したこ
と,②その後の原告,被告,東洋エレクトロニクスの3者による打
合せを経て,東洋エレクトロニクスがペセカシステムのリライトカ
ードの磁気データ仕様(本件磁気データ仕様)を作成し,原告及び
被告の双方に開示したことが認められる。
そうすると,本件磁気データ仕様は,原告及び被告が保有してい
た技術情報等から派生した技術情報,すなわち本件共同開発の成
果(「本開発の成果」)であり,かつ,原告及び被告の作業分担に
より原告又は被告のいずれかに帰属するものと決することができな
い性質のものであると認められるから,本件磁気データ仕様は,本
件機密保持契約が保護の対象とする機密とはいえず,本件契約書4
条1号,3号,6号に規定する機密技術等に該当しないものと解さ
れる。
もっとも,被告が本件共同開発の成果である本件磁気データ仕様
を本件共同開発の目的以外に使用したり,第三者に漏洩する場合に
は,本件共同開発に伴う信義則上の義務違反の問題が生じ得るもの
と解されるが,このことと本件機密保持契約上の義務違反に当たる
かどうかとは別個の問題であるというべきである。
したがって,被告による別紙1記載の「企業名」欄記載の14
社(14店舗)に対する被告商品の開発,販売が本件契約書4条1
号,3号,6号に違反する旨の原告の主張は,理由がない。
(イ) なお,仮に原告が主張するように被告による別紙1記載の「企業
名」欄記載の14社(14店舗)に対する被告商品の開発,販売が本
件契約書4条1号,3号,6号に違反するとしても,前記ア(イ),(ウ
)で検討したとおり被告が販売した商品はペセカシステムと同一又は類
似する商品には該当しないものであること,被告が上記販売をしなけ
れば,原告及び被告が共同でペセカシステムを販売できたものと認め
るに足りる証拠はないことに照らすならば,被告の上記各条項違反と
原告主張の逸失利益の損害(前記第3の1(4)ア(ア)a)との間には相
当因果関係があるものとは認められない。
また,原告主張のカード製造費用の損害(前記第3の1(4)ア(ア)
b)は,被告の上記各条項違反により,原告が被告と共同してペセカ
システムを製造販売していくことができなくなり,原告と伊藤忠エネ
クスとの間の基本契約を解消することを余儀なくされ,その結果原告
があらかじめ製造,保管していたリライトカードを販売することがで
きなくなったことにより被ったというものであるが,被告が上記商品
を製造・販売したことが,原告主張の原告と伊藤忠エネクスとの間の
基本契約の解消の合理的な理由になることについての具体的な主張立
証はされておらず(上記基本契約に係る契約書すら提出されておら
ず,上記基本契約の具体的な内容も定かではない。),被告の上記各
条項違反と原告主張のカード製造費用の損害(前記第3の1(4)ア(ア)
b)との間にも相当因果関係があるものとは認められない。
ウ まとめ
以上によれば,原告の被告の本件機密保持契約上の義務違反の債務不
履行に基づく損害賠償請求は,理由がない。
(3) 争点2(本件覚書2条1項の約定違反の有無)について
ア 原告は,被告が別紙1記載の「販売時期」欄記載の各時期に,「企業
名」欄記載の14社(14店舗)に対し,ペセカシステムと同一又はこ
れと極めて類似する商品を販売したことは,本件覚書2条1項の約定(
本件共同販売の合意における同旨の約定を含む。)に違反する旨主張す
る。
ところで,前記(1)ウ認定のとおり,本件覚書の前文は,「株式会社デ
ナロ(以下甲という。)と株式会社エム・エス・ピー(以下乙 とい
う。)は,互いに協力してペセカシステム(以下商品という。)を販売
するに当たり,その販売方法並びに手数料につき,以下の通り覚書を締
結した。」,本件覚書1条は,「商品の内容を,石油の精算システム(
以下機械という。),ポイントカードシステム,ロイコカード,販売促
進企画の4個に分類し,それぞれの販売方法及び手数料を規定す
る。」,2条1項は,「機械を甲が販売し,ポイントカードシステム,
ロイコカード及び販売促進企画は乙が販売する。」と定めていることに
照らすならば,本件覚書2条1項は,原告と被告が現に販売していた「
ペセカシステム」という商品について,ペセカシステムを構成する「石
油の精算システム」(給油料金精算システム)については被告において
販売し,ペセカシステムを構成する「ポイントカードシステム」,「ロ
イコカード」,「販売促進企画」については原告において販売すること
を定めたものであり,ペセカシステムとは異なる商品は,本件覚書2条
1項の対象外であるものと解される。
そして,前記(2)ア(イ)で検討したとおり,被告が別紙1記載の「企業
名」欄記載の14社(14店舗)に販売した商品はペセカシステムと同
一の商品であるものとは認められないから,被告の上記商品の販売は,
本件覚書2条1項の約定に違反するものではない。
イ したがって,原告の被告の本件覚書2条1項の約定違反の債務不履行
に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,理
由がない。
(4) 争点3(本件共同開発における信義則上の義務違反の有無)について
ア 原告は,被告が,原告の同意を得ることなく,本件共同開発の名の下
に取得した,ペセカシステムの機密情報である本件磁気データ仕様や,
ペセカシステムのカードのデザインをそのまま流用して,ペセカシステ
ムとほとんど同一の商品(新NEO−500)を単独で製造し,別紙1
記載の「企業名」欄記載の各社(各店舗)に販売したことは,本件共同
開発における信義則上の義務に違反する旨主張する。
しかし,①前記(2)ア(イ)で検討したとおり,被告が別紙1記載の「企
業名」欄記載の14社(14店舗)に販売した商品はペセカシステムと
同一又は類似の商品とは認められないこと,②被告が上記商品の開発に
着手したのは,ペセカシステムの販売先のユーザーから,原告のホスト
サーバーを使用して顧客情報を管理する機能(ペセカシステムのうち,
PCRシステムに係る機能)に関し,顧客データを原告に送ってからシ
ステムに反映されるまでに時間がかかりすぎる,原告に支払うランニン
グコストがかかり,運営しにくいなどの苦情を受けるようになり,上記
苦情を踏まえたものであること(前記(1)エ),③被告は,本件磁気デー
タ仕様を利用して被告固有の商品を開発することについて,原告の同意
を得ていないが,被告が上記商品の開発を行った業者以外の第三者に本
件磁気データ仕様を開示したことを認めるに足りる証拠はないこと,④
原告においても,被告の同意を得ることなく,他社(NECインフロン
ティア)と共同して,本件磁気データ仕様を利用した,セルフ式ガソリ
ンスタンド向けの給油精算装置にカーケア用品に関するシステム(カー
サポートシステム)を併用した商品を開発し,販売していること(乙4
2,弁論の全趣旨)に照らすならば,原告主張の被告の信義則違反の主
張は,採用することができない。
イ したがって,原告の被告の本件共同開発における信義則上の義務違反
の債務不履行に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するま
でもなく,理由がない。
(5) 争点5(本件覚書3条1項に基づく約定紹介手数料請求権の成否)につ
いて
ア 原告は,被告が,原告の紹介により,エネオスフロンティア東京豊玉
店,エネオスフロンティア西東京みずほ店,吉伴わさだ店の3社(3店
舗)に対し,ペセカシステムの「石油の精算システム」(給油料金精算
システム)を販売し,これにより本件覚書3条1項に基づく約定紹介手
数料請求権(合計135万円)を取得した旨主張する。
これに対し被告は,ペセカシステムの「石油の精算システム」(給油
料金精算システム)が上記3店舗に納入された事実はあるが,原告の紹
介による取引ではないと主張して争っているので,この点について判断
する。
(ア) エネオスフロンティア東京豊玉店及びエネオスフロンティア西東
京みずほ店について
a 証拠(甲27,72,84,85,乙37ないし39)及び弁論
の全趣旨を総合すれば,①原告は,平成17年3月18日,エネオ
スフロンティア本社経営企画部から,リライトカードシステムの資
料請求の連絡を受け,原告が同本社経営企画部に資料を送付すると
ともに,説明会の日程を調整したこと,②エネオスフロンティア本
社経営企画部グループリーダーのB(以下「B」という。)と原告
の東京支店長C(以下「C」という。)は,平成17年4月25
日,同年5月27日及び同年6月3日に打合せを行い,その際,C
がペセカシステムについてのプレゼンテーションなどを行ったこ
と,③Bは,平成17年6月15日,Cに対し,エネオスフロンテ
ィア西東京の町田木曽店にペセカシステムを導入することを決定し
たので,ガソリンスタンドを運営する販社と直接打合せに入って欲
しい,ペセカシステムの給油料金精算システムのメーカーである被
告とは接点がなく連絡先を知らないので,被告と連絡をとってBへ
電話するように手配して欲しい,町田木曽店以外に改装予定の店舗
が2店舗あり,ペセカシステムを導入することを前提に運営会社に
話をしているので,その件も後日打合せをしたい旨の電話連絡をし
たこと,④平成17年7月12日,エネオスフロンティア西東京町
田木曽店にペセカシステムが導入されたこと,⑤平成17年8月,
小澤物産株式会社の高輪店で,B,原告のC,被告担当者らが出席
して,エネオスフロンティア東京豊玉店及びエネオスフロンティア
西東京みずほ店に対するペセカシステムの導入に関する打合せが行
われたこと,⑥被告担当者は,タツノから連絡を受けて上記⑤の打
合せに出席したが,タツノの担当者は,同打合せに出席しなかった
こと,⑦平成17年9月8日ころエネオスフロンティア東京豊玉店
に,同年10月25日ころエネオスフロンティア西東京みずほ店に
それぞれペセカシステムが導入され,当該ペセカシステムの「石油
の精算システム」(給油料金精算システム)は,被告がタツノに販
売し,タツノが上記2店舗に販売(転売)し,納入されたことが認
められる。
b 上記認定事実によれば,エネオスフロンティア東京豊玉店及びエ
ネオスフロンティア西東京みずほ店にペセカシステムが導入された
のは,原告の営業活動の成果であり,被告が上記導入に係るペセカ
システムの「石油の精算システム」(給油料金精算システム)をタ
ツノに販売し,タツノがこれを上記2店舗に販売(転売)したの
は,原告の紹介によるものであると認められる。
これに対しD(以下「D」という。)の陳述書(乙39)中に
は,上記2店舗にペセカシステムの「石油の精算システム」が導入
されたのは,被告がタツノ東京支店のシステム営業課鍵川係長から
連絡を受けたことをきっかけとするものであって,原告の紹介によ
るものではない旨の記載部分がある。しかし,被告担当者は,タツ
ノから連絡を受けて,平成17年8月に小澤物産株式会社の高輪店
で行われた上記2店舗に対するペセカシステムの導入に関する打合
せに出席したが,タツノの担当者は同打合せに出席しなかったこ
と(前記a⑤,⑥)に照らすならば,タツノが上記2店舗に対する
ペセカシステムの導入に向けて独自の営業活動を行ったものと考え
るのは困難であり,Dの陳述書の上記記載部分は採用することがで
きない。他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
c 以上のとおり,エネオスフロンティア東京豊玉店及びエネオスフ
ロンティア西東京みずほ店に導入されたペセカシステムの「石油の
精算システム」(給油料金精算システム)は,被告がタツノに販売
し,これをタツノが上記2店舗に販売(転売)したものであるが,
上記取引は,原告の営業活動の成果であって,本件覚書3条1項が
定める「甲が乙の紹介により,乙が管轄するユーザーに機械を販売
した場合」(甲は被告,乙は原告)と同視することができるから,
被告は,原告に対し,同条項に基づく約定紹介手数料の支払義務を
負うものと解される。
(イ) 吉伴わさだ店について
a 証拠(甲30,70,73,原告代表者)及び弁論の全趣旨を総
合すれば,①原告は,平成16年3月29日,吉伴別府境川店に対
し,原告のPCRシステムを導入したこと,②原告は,平成17年
6月1日,吉伴の新川SS等19店舗に対し,原告のPCRシステ
ムを導入したこと,③平成17年12月,吉伴わさだ店にペセカシ
ステムが導入されたこと,④上記③のわさだ店へのペセカシステム
の導入の際,被告は,ペセカシステムの「石油の精算システム」(
給油料金精算システム)を吉伴に販売したが,その販売までの間に
吉伴に対して被告の商品(給油料金精算システム)を販売したの
は,平成16年7月に別府境川店で行われたPCRシステムからペ
セカシステムへの切替えに伴う販売のみであり,被告が単独で吉伴
に対して被告の商品(給油料金精算システム)を販売したことはな
かったことが認められる。
b 上記認定事実によれば,吉伴わさだ店にペセカシステムが導入さ
れたのは,吉伴と多くの取引実績を有していた原告の営業活動の成
果であり,被告が上記導入に係るペセカシステムの「石油の精算シ
ステム」(給油料金精算システム)を吉伴に販売したのは,原告の
紹介によるものであることを推認することができる。
これに対しDの陳述書(乙39)中には,被告は,吉伴から,わ
さだ店を紹介され,ペセカシステムの「石油の精算システム」(給
油料金精算システム)を販売した,被告は,吉伴と被告間の平成1
7年8月11日付けの覚書(乙18)に基づいて紹介料(「販売促
進費」)も支払っており,被告の上記販売は原告の紹介によるもの
ではない旨の記載部分がある。しかし,被告が上記覚書に基づき紹
介料(「販売促進費」)を吉伴に支払ったことを認めるに足りる証
拠はなく,また,吉伴が,取引実績のあった原告を関与させること
なくペセカシステムの導入を自ら決定し,被告に導入先を紹介した
というのはいかにも不自然であり,Dの陳述書の上記記載部分は採
用することができない。他に上記推認を妨げるに足りる証拠はな
い。
c 以上のとおり,被告による吉伴わさだ店に導入されたペセカシス
テムの「石油の精算システム」(給油料金精算システム)の販売
は,原告の紹介によるものであるから,被告は,原告に対し,本件
覚書3条1項に基づく約定紹介手数料の支払義務を負うものと解さ
れる。
イ(ア) 本件覚書3条1項は,被告が原告の紹介により,原告が管轄する
ユーザーに機械(「石油の精算システム」)を販売した場合,被告は
その販売価格の5%を手数料として原告に支払う旨定めている。
そして,前記ア(ア)aの認定事実と証拠(甲13の1,2)及び弁
論の全趣旨によれば,被告は,エネオスフロンティア西東京町田木曽
店に導入されたペセカシステム(前記ア(ア)a④)の「石油の精算シ
ステム」(給油料金精算システム)の販売についての本件覚書3条1
項に基づく約定紹介手数料として,原告に対し,46万4875円を
支払ったことが認められる。
上記認定事実に加えて,エネオスフロンティア東京豊玉店,エネオ
スフロンティア西東京みずほ店及び吉伴わさだ店の3店舗に対するペ
セカシステムの導入時期は,エネオスフロンティア西東京町田木曽店
に対するペセカシステムの導入時期と近接していること(前記ア(ア)
a,(イ)a)に照らすならば,被告の上記3店舗に対するペセカシス
テムの「石油の精算システム」(給油料金精算システム)の販売につ
いての本件覚書3条1項に基づく約定紹介手数料は,原告が主張する
とおり,1店舗当たり45万円を下らないものと認めるのが相当であ
る。
(イ) したがって,被告は,原告に対し,エネオスフロンティア東京豊
玉店,エネオスフロンティア西東京みずほ店及び吉伴わさだ店の3店
舗に対する給油料金精算システムの販売についての本件覚書3条1項
に基づく約定紹介手数料として合計135万円(45万円×3店舗)
の支払義務があるものと認められる。
(6) まとめ
以上によれば,原告の本訴請求は,被告に対し,約定紹介手数料135
万円(前記(5)イ(イ))及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが
記録上明らかな平成18年3月4日から支払済みまで商事法定利率年6分
の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余の請
求は理由がない。
2 反訴請求
(1) 争点6(本件覚書3条2項に基づく約定分配金請求権の成否)について
ア 約定分配金請求権の発生の有無
被告は,原告が,別紙2記載のとおり,「納入年月日」欄記載のこ
ろ,「得意先」欄記載の各社(各店舗)に対し,「枚数」欄記載の「ロ
イコカード」(ペセカシステムのリライトカード)を販売し,これによ
り本件覚書3条2項に基づく販売利益の約定分配金請求権(合計435
万4875円)を取得した旨主張する。
(ア) まず,本件覚書は平成17年4月1日に締結されたものであるか
ら(前記第2の2(5)),被告は,上記締結前の別紙2記載の№1,2
の同年3月7日の伊藤忠エネクスに対するペセカシステムのカード販
売分については,原告に対し,本件覚書3条2項に基づく約定分配金
請求権を取得することはできないものと解される。
(イ)a ところで,本件覚書3条2項は,原告が販売する「ロイコカー
ド」については,販売価格と仕入れ価格の差額の50%を原告が被
告に支払う旨定めている。
そして,前記1(1)ウの認定事実に照らすならば,本件覚書3条2
項の「ロイコカード」は,「ペセカシステム」に使用されるリライ
トカード(ロイコカード)を意味するものと解される。
そうすると,原告が本件覚書3条2項の「ロイコカード」を販売
したというためには,その販売先は,ペセカシステムが現に導入さ
れているか,又はその導入が具体的に予定されていることが前提と
なるものというべきである。
そして,証拠(甲30,73,原告代表者)及び弁論の全趣旨を
総合すれば,別紙2記載の「得意先」欄記載の各社(各店舗)のう
ち,別紙2記載の№3ないし7,№8(平成16年1月14日),
№11(平成15年11月1日),№12(平成15年12月6
日),№13(平成15年11月1日),№15(平成15年12
月10日),№18(平成16年1月14日),№19(平成15
年12月6日),№20及び21の各社(各店舗)(「備考」欄記
載の店舗)に,それぞれペセカシステムが導入されたことが認めら
れる。
b 他方で,別紙2記載の№9,10,14,16,17の吉伴の各
店舗(「備考」欄記載の店舗)については,Aの陳述書(乙41)
中に,吉伴の上記各店舗にペセカシステムが導入されていた旨の記
載部分があるが,これを客観的に裏付ける証拠は提出されておら
ず,かえって,これに反する甲73の記載部分があることに照ら
し,上記記載部分は措信することはできない。他に吉伴の上記各店
舗にペセカシステムが現に導入され又はその導入が具体的に予定さ
れていたことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ)a 次に,証拠(甲73,76の1,77の1,乙17の1ないし
10,36の1ないし4,41,原告代表者)及び弁論の全趣旨を
総合すれば,原告が,別紙2記載の№5ないし8,11ないし1
3,15,18ないし21の各社(各店舗)に対し,各「納入年月
日」欄記載のころ,各「枚数」欄記載のペセカシステムのリライト
カードを販売したこと,その1枚当たりの販売価格と仕入れ価格の
差額は各「差額」欄記載の金額であること,その販売枚数に対応す
る差額の金額に0.5を乗じた金額(「枚数」×「差額」×0.
5)は各「請求金額」欄記載の金額となることが認められる。
そうすると,原告が,別紙2記載の№5ないし8,11ないし1
3,15,18ないし21に係るペセカシステムのリライトカード
を販売したことにより,被告に支払うべき本件覚書3条2項に基づ
く販売利益の約定分配金は,各「請求金額」欄記載の金額に消費税
相当分を加算した金額(合計214万4625円)となる。
b 他方で,本件全証拠によっても,原告が別紙2記載の№3,4の
ネクステージ九州の各店舗(「備考」欄記載の店舗)に対し,各「
納入年月日」欄記載のころ,各「枚数」欄記載のペセカシステムの
リライトカードを販売したことを認めるに足りない。
(エ) 以上によれば,被告は,原告が別紙2記載の№5ないし8,11
ないし13,15,18ないし21に係るペセカシステムのリライト
カードを販売したことにより,原告に対し,本件覚書3条2項に基づ
く約定分配金請求権(合計214万4625円)を取得したことが認
められる。
イ 原告の主張に対する判断
(ア) 原告は,別紙2記載の№5ないし7,18ないし21に係るペセ
カシステムのリライトカード販売分については,被告に対し,本件覚
書3条2項に基づく約定分配金を弁済した旨主張する。
しかし,原告の主張自体具体的な弁済時期を主張するものではない
のみならず,原告主張の弁済の事実を認めるに足りる証拠はない。
(イ) 原告は,原告と被告は,平成17年11月ころ,土居石油,吉
伴,ネクステージ九州及び喜多村石油で使用される,被告がペセカシ
ステム用のエンコード処理を施したリライトカードについては,原告
は,被告に対し,エンコード料のみを支払えば足り,原告の上記エン
コード処理が施されたリライトカードの販売による本件覚書3条2項
に基づく販売利益の分配金の支払を要しない旨の合意をした旨主張す
る。
原告代表者の供述中には,上記合意の事実に沿う供述部分があるの
に対し,証人Aの供述中には,これと反対の趣旨の供述部分がある。
そこで検討するに,証拠(甲12の1,12の2,93)及び弁論
の全趣旨を総合すれば,①被告は,平成17年10月以降,ペセカシ
ステムのリライトカードにエンコード処理を施して原告に納入し,こ
れを原告が販売するようになったこと,②原告作成の被告あての平成
17年11月17日付け支払報告書(本件覚書3条2項の約定分配金
の支払に関するもの)(甲12の1)には,「吉伴の5/27日納品分に
ついては一応計上しておりますが,このカードは弊社のシステム導入
に対するカードなので実際はエンコードのみの関係になります。」と
の記載があること,③原告代表者が平成17年11月28日に被告従
業 員のC及 びE( 以下「E」という。) あてに送信したメー ル に
は,「前回質問の,よしばん様用弊社システム使用カードの件,回答
が来ていませんが,エンコード費用の支払いで了承という事で精算と
させていただきます」との記載があること,④被告従業員のEが平成
17年11月28日に原告代表者あてに返信したメールには,「よし
ばんの物が,ペセカシステムに関する物で無ければ,結構です」,「
弊社としましては,よしばんを除いた分及び町田SSのエンコード代
の請求書送らせていただきます」との記載があることが認められる。
上記認定事実によれば,原告代表者は,被告に対し,C及びEあて
のメール(上記③)をもって,被告がペセカシステム用のエンコード
処理を施したリライトカードのうち,平成17年5月27日に吉伴に
納品された分については,被告にエンコード料のみを支払えば足り,
本件覚書3条2項に基づく販売利益の約定分配金の支払をしない旨の
申出をしたことがうかがわれる。また,上記メールに対するEの原告
代表者あての返信メール(上記④)中には,「弊社としましては,よ
しばんを除いた分及び町田SSのエンコード代の請求書送らせていた
だきます」との記載部分がある。しかし,Eの上記返信メール中に
は,「よしばんの物が,ペセカシステムに関する物で無ければ,結構
です」との記載部分もあることに照らすならば,Eの上記返信メール
は,被告において「よしばんの物」(吉伴に納品した分)がペセカシ
ステムに使用されるリライトカードであることの確認がとれるまで本
件覚書3条2項に基づく販売利益の約定分配金の請求を留保し,吉伴
に納品した分がペセカシステムに使用されるリライトカードに当たら
ないのであれば約定分配金の請求をしないことを記載したものとみる
のが自然であり,Eの上記返信メールをもって原告代表者の上記申出
を被告が承諾したものと認めることはできない。
他に原告主張の本件覚書3条2項に基づく販売利益の分配金の支払
を要しない旨の合意が成立したことをうかがわせる証拠はなく,原告
代表者の上記供述部分は,採用することはできない。したがって,原
告の上記合意の主張は理由がない。
ウ 小括
以上によれば,原告は,被告に対し,別紙2記載の№5ないし8,1
1ないし13,15,18ないし21に係るペセカシステムのリライト
カードの販売についての本件覚書3条2項に基づく約定分配金として合
計214万4625円の支払義務があるものと認められる。
(2) まとめ
以上によれば,被告の反訴請求は,原告に対し,約定分配金214万4
625円(前記(1)ア(エ))及びこれに対する「訴え変更申立書(反訴原
告)」送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成19年12月4日
から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求
める限度で理由があるが,その余の反訴請求は理由がない。
3 結論
以上によれば,原告の本訴請求は,被告に対し,135万円及びこれに対
する平成18年3月4日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を
求める限度で理由があるからこれを認容することとし,その余の請求は理由
がないからこれを棄却することとし,被告の反訴請求は,原告に対し,21
4万4625円及びこれに対する平成19年12月4日から支払済みまで年
6分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容する
こととし,その余の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 関 根 澄 子
裁判官 古 庄 研

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

特許事務所の求人知財の求人一覧

青山学院大学

神奈川県相模原市中央区淵野辺

今週の知財セミナー (11月25日~12月1日)

11月25日(月) - 岐阜 各務原市

オープンイノベーションマッチング in 岐阜

11月26日(火) - 東京 港区

企業における侵害予防調査

11月27日(水) - 東京 港区

他社特許対策の基本と実践

11月28日(木) - 東京 港区

特許拒絶理由通知対応の基本(化学)

11月28日(木) - 島根 松江市

つながる特許庁in松江

11月29日(金) - 東京 港区

中国の知的財産政策の現状とその影響

11月29日(金) - 茨城 ひたちなか市

あなたもできる!  ネーミングトラブル回避術

来週の知財セミナー (12月2日~12月8日)

12月4日(水) - 東京 港区

発明の創出・拡げ方(化学)

12月5日(木) - 東京 港区

はじめての米国特許

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

藤田特許商標事務所

〒104-0061 東京都中央区銀座1-8-2 銀座プルミエビル8階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

福井特許事務所

〒166-0003 東京都杉並区高円寺南2-50-2 YSビル3F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

栄セントラル国際特許事務所

愛知県名古屋市中区栄3-2-3 名古屋日興證券ビル4階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング