平成20(行ケ)10107審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成20年10月30日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官 原告X
X2
ら訴訟代理人弁理士鈴木正次
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対象物 |
新聞顧客の管理及びサービスシステム並びに電子商取引システム |
法令 |
特許権
特許法36条6項2号9回 特許法29条2項1回
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キーワード |
審決106回
|
主文 |
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告らの負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告らは,発明の名称を「新聞顧客の管理及びサービスシステム並びに電子
商取引システム」とする発明について,平成12年11月10日に特許出願を
したが(甲10),平成17年9月8日に拒絶査定を受けたので,同年10月
12日,これに対する不服の審判(不服2005−19713号事件)を請求
した。原告は,同年10月12日,同年11月11日,平成19年9月10日
及び同年12月28日付けで手続補正をしたが(甲9),特許庁は,平成20
年2月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審
決」という。)をし,その審決の謄本は平成20年2月26日に原告らに送達
された。
2 特許請求の範囲
平成19年12月28日付けで補正された後の明細書(以下「本願明細書」
という。)の特許請求の範囲の請求項1(以下,単に「請求項1」という。)
の記載は,次のとおりである(甲9。以下,請求項1に記載された発明を「本
願発明」という。)。 |
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判決文
平成20年10月30日判決言渡
平成20年(行ケ)第10107号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成20年9月18日
判 決
原 告 X
原 告 X2
原告ら 訴訟代理人弁理士 鈴 木 正 次
同 涌 井 謙 一
同 山 本 典 弘
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 後 藤 彰
同 藤 内 光 武
同 岩 崎 伸 二
同 小 林 和 男
主 文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2005−19713号事件について平成20年2月13日にし
た審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告らは,発明の名称を「新聞顧客の管理及びサービスシステム並びに電子
商取引システム」とする発明について,平成12年11月10日に特許出願を
したが(甲10),平成17年9月8日に拒絶査定を受けたので,同年10月
12日,これに対する不服の審判(不服2005−19713号事件)を請求
した。原告は,同年10月12日,同年11月11日,平成19年9月10日
及び同年12月28日付けで手続補正をしたが(甲9),特許庁は,平成20
年2月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審
決」という。)をし,その審決の謄本は平成20年2月26日に原告らに送達
された。
2 特許請求の範囲
平成19年12月28日付けで補正された後の明細書(以下「本願明細書」
という。)の特許請求の範囲の請求項1(以下,単に「請求項1」という。)
の記載は,次のとおりである(甲9。以下,請求項1に記載された発明を「本
願発明」という。)。
「営業マンの複数人のグループを最小単位とした各班のPC(パソコン。以
下同じ)と,
順次大きなグループになるような各階層のPCと,
前記各階層を総括する本部のPCと,
顧客のPCと,
からなるネットワークを用い,前記各PCを用いて以下の構成としたことを特
徴とする新聞顧客の管理及びサービス方法。
(1) 前記各営業マンが把握した顧客の個人情報を,各営業マンのPCに入力
することにより個人のコード番号を付してコード化し,暗号化して,前記班
のPCから各階層のPCに転送し,予め定めた情報を自動的に登録し,かつ
本部のPCへ,同時に転送する。
(2) 前記暗号化した個人情報は,重要度と機密実用度に応じ,前記各階層の
PC及び本部のPCにおいて,担当部署の担当者のパスワード別に,平文化
できる範囲を設定し,前記各PCで自動的に平文化する。
(3) 前記本部のPCで,前記顧客個人情報を登録し,又は再暗号化して登録
すると共に階層別に管理する。
(4) 前記各顧客は,自己のPCに専用キーをインストールし,前記本部のP
Cには,前記顧客の専用キーに対応した専用キーを予め保有させる。
(5) 前記個人情報は,本部のPCに登録してデーターベース化し,前記各階
層のPCには必要な部署のPCだけに必要な解読ソフトを保有させておく。
(6) 顧客が,本部PCから知らされた商品を希望する場合には,顧客PCか
ら前記商品の情報を本部PCへ送信し,その商品を電子注文する,本部PC
は前記コード化により自動で顧客の認証を行い,ついで前記電子注文に応じ
て,前記本部PCからの指示により前記本部又は各階層に設置されたデリバ
リーセンターから,電子注文に対応した商品を顧客に届ける。
(7) 前記階層は,営業マンのグループを班とし,数班を団とし,数団を地区
支部とし,数地区支部をブロックとし,全ブロックのPCを夫々本部PCと
接続することによって電子的に発信及び受信できるように直結する。」
3 審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,特許請求の範囲
の記載が不備であるため,本願は,特許法36条6項2号に規定する明確性の
要件を満たしていないし,仮にその要件を満たしたものであるとしても,本願
発明は,特開2000−76338号公報(甲1)に記載された発明(以下
「引用発明」という。)及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をする
ことができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けること
ができないものであるから,本願は拒絶されるべきものである,というもので
ある。
審決は,引用発明の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点を
下記(1)ないし(3)のとおり認定した。
(1) 引用発明の内容
「広告・販売用コンピュータと,顧客端末とからなるネットワークを用い,
広告・販売事業主が取得した顧客データを,IDを付与し,顧客データベ
ースに格納し,
顧客が,広告・販売用コンピュータから送信する書籍メニューデータにつ
いて,顧客端末から広告・販売用コンピュータへ購入決定を送信すると,広
告・販売用コンピュータはID送信要求を送信し,顧客端末は所定場所から
IDを取得してホスト・コンピュータに送信し,ホスト・コンピュータは返
信されたIDが正当なものかどうかを確認し,受注処理を行い,書籍データ
を顧客端末に送信する,
顧客の管理及びサービス方法。」
(2) 本願発明と引用発明の一致点
「販売組織のPCと,顧客のPCとからなるネットワークを用い,
販売組織が把握した顧客個人情報を,個人のコード番号を付しコード化し,
個人情報は,販売組織のPCに登録してデーターベース化し,
顧客が,販売組織のPCから知らされた商品を希望する場合には,顧客PC
から前記商品の情報を販売組織のPCへ送信し,その商品を電子注文する
と,コード化により自動で顧客の認証を行い,電子注文に応じて,販売組織
のPCからの指示により販売組織から電子注文に対応した商品を顧客に届け
る,
顧客の管理及びサービス方法。」
(3) 本願発明と引用発明との相違点
[相違点1]
本願発明のネットワークが,営業マンの複数人のグループを最小単位とし
た各班のPCと,順次大きなグループになるような各階層のPCと,前記各
階層を総括する本部のPCと,顧客のPCとからなり,前記階層は,営業マ
ンのグループを班とし,数班を団とし,数団を地区支部とし,数地区支部を
ブロックとし,全ブロックのPCを本部と接続することによって電子的に発
信及び受信できるように直結するのに対して,引用発明のネットワークは,
販売組織のPCと,顧客のPCとからなっており,販売組織は階層を有さな
い点。
[相違点2]
本願発明が新聞顧客の管理及びサービス方法であって,その顧客個人情報
が,各営業マンが把握したものであり,各営業マンのPCに入力することに
より個人のコード番号を付してコード化され,班のPCから各階層のPCに
転送され,予め定めた情報が自動的に登録され,かつ本部のPCへ同時に転
送されて,本部のPCで登録され,又は再暗号化して登録されると共に階層
別に管理され,データーベース化されるものであるのに対して,引用発明は
新聞顧客を対象とするものではないとともに,その顧客個人情報は,販売組
織が把握したものであり,販売組織のPCに登録され,データーベース化さ
れるものである点。
[相違点3]
本願発明が,顧客個人情報を各営業マンが暗号化して,前記暗号化した個
人情報は,重要度と機密実用度に応じ,前記各階層のPC及び本部のPCに
おいて,担当部署の担当者のパスワード別に,平文化できる範囲を設定して
おり,各PCで自動的に平文化され,各階層のPCでは必要な部署のPCだ
けに必要な解読ソフトを保有させておくのに対して,引用発明はそのような
構成を有さない点。
[相違点4]
本願発明が,各顧客が自己のPCに専用キーをインストールし,本部のP
Cには,前記顧客の専用キーに対応した専用キーを予め保有させるのに対し
て,引用発明はそのような構成を有さない点。
[相違点5]
本願発明においては,商品を知らせるのが本部PCであり,本部PCはコ
ード化により自動で顧客の認証を行い,本部PCからの指示により本部又は
各階層に設置されたデリバリーセンターから商品を届けるのに対して,引用
発明はそのような構成を有さない点。
第3 当事者の主張
1 審決の取消事由に関する原告らの主張
審決には,以下のとおり,(1)特許法36条6項2号違反とした判断の誤り
(取消事由1),(2)一致点の認定の誤り・相違点の看過(取消事由2),(3)
容易想到性の判断の誤り(取消事由3)がある。
(1) 取消事由1(特許法36条6項2号違反とした判断の誤り)
ア 顧客の個人情報の入力後にされる転送等の主体について
審決は,請求項1(1)について,「コード番号を付してコード化し」,
「暗号化し」,「転送し」又は「転送する」という処理が,人間がPCを
操作して行う処理であるとも,PCが人間を介さずして自動的に行う処理
であるとも解することができ,そのいずれを意味しているのかが不明であ
るため,その特定しようとする事項が明確でないと判断した(審決書5頁
18行∼25行)。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
すなわち,特定事項は明りょうであって,これを用いる方法も明確であ
る。また,営業マン,顧客及び各階層にPCを配したネットワークにおい
ては,PCが処理できることはすべてPCに処理させるのが「各PCを用
いて」(請求項1冒頭)の意味であるから,「顧客の個人情報を営業マン
のPCに入力する」までを人間(営業マン)が行い,その後の特定事項を
全部PCが行うと理解するのが自然である。したがって,「特定しようと
する事項が明らかでない」とする審決の判断には誤りがある。
イ 平文化(暗号文の解読)の範囲設定の主体について
審決においては,請求項1(2)について,「平文化できる範囲を設定
し」という処理が,人間がPCを操作して行う処理であるとも,PCが人
間を介さずに自動的に行う処理であるとも解することができ,そのいずれ
を意味しているのかが不明であるため,その特定しようとする事項が明確
でない旨判断した(審決書5頁26行∼32行)。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。すなわち,本願発
明における管理サービス方法は,営業マンが集めた顧客の個人情報を入力
した後には,これが各階層へ転送され,データーベース化されるのである
から(甲10の段落【0014】),一連のネットワークによる処理中
に,人間(オペレーター)が介在する余地はない。本願発明の請求項1の
前文中の「各階層のPCからなるネットワークを用い,前記各PCを用い
て」との記載は,ネットワークがPCによって成立し,各階層中にPCが
組み込まれ,これを使用して管理サービスを行うことを意味しており,P
Cが処理できることを請求項1(1)ないし(7)に特定して列挙しているか
ら,PCが処理できることは全部PCで処理することを指し,その意味は
明確である。
また,請求項1(2)においては,①重要度と機密実用度に応じ,各階層
のPC,本部PCで担当者のパスワード別に平文化できる範囲を設定する
こと,②各PCで自動的に平文化することが特定されている。そして,P
Cの機能については,出願当時の技術を採用するもので,当業者が最も合
理的と判断した使用方法によることはいうまでもない。平文化がPCによ
り自動的に行われることは自明である。
このように,PCの自動的処理と,特定しようとする事項が明らかであ
るから,これを明確でないとした審決は,誤りである。
ウ 本部のPCにおける登録,再暗号化及び階層別管理の主体について
審決は,請求項1(3)について,「顧客個人情報を登録し」,「再暗号
化して登録する」又は「階層別に管理する」という処理が,人間がPCを
操作して行う処理であるとも,PCが人間を介さずに自動的に行う処理で
あるとも解することができ,そのいずれを意味しているのかが不明である
ため,その特定しようとする事項が明確でない旨判断した(審決書5頁最
終行∼6頁5行)。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。すなわち,請求項
1(3)には,①顧客の個人情報を登録すること,②顧客の個人情報を再暗
号化して登録すること,③階層別に管理することが特定されており,「階
層別」に登録して管理するというのは,PCに対応ソフトを入れて全自動
で行うことであるから(甲10の段落【0014】),その意味は明確で
ある。
エ 登録・データーベース化の主体について
審決は,請求項1(5)について,「登録してデーターベース化」すると
いう処理が,人間がPCを操作して行う処理であるとも,PCが人間を介
さず自動的に行う処理であるとも解することができ,そのいずれを意味し
ているのかが不明であるため,その特定しようとする事項が明確でない旨
判断した(審決書6頁6行∼11行)。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。すなわち,請求項
1(5)には,①個人情報は,本部のPCに登録してデーターベース化する
こと,②各階層のPCには担当部署の担当者のパスワード別に平文化でき
る範囲を設定し,前記各PCで自動的に平文化することが特定されている
(甲10の段落【0014】,【0017】)。そして,班から自動的に
送られてきて各階層を介し本部に登録される情報は,すべてPCにより自
動的に行われるから,その意味は明確である。この過程に人間を介在させ
る余地はない。
オ 顧客個人情報の階層別管理の意味について
審決は,請求項1(3)について,「顧客個人情報を」「階層別に管理す
る」とは,「階層」をどのように用いて,顧客個人情報に対してどのよう
な処理を行うことを意味するのかが明確でない旨判断した(審決書6頁1
2行∼21行)。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。すなわち,「本部
PCで・・・登録すると共に階層別に管理する」とは,「登録は全部本部
で行い,登録の内容を階層別にする」ということを指し,登録の仕方が階
層別ということであって,同一階層の顧客情報をその階層へ共に登録する
という当然のことを述べたものである。また,階層別とは,各階層に符号
を付し,顧客を特定することを意味する。営業マンが班のPCを介して個
人情報を使用することはない。個人にコード番号を付し,コード化して転
送するので,当然階層別になっており,本部においては階層別に管理する
ことになる。
カ 専用キーの用い方について
審決は,請求項1(4)について,専用キーがどのように用いられるのか
が明らかでなく,その技術的意義が明確でない旨判断した(審決書6頁2
2行∼29行)。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。すなわち,上記
は,「顧客が専用キーを有し,本部のPCにも顧客の専用キーに対応した
専用キーを保有する」こと,すなわち,顧客のPCと本部PCとが互いに
直結して通信できることを意味するから,専用キーの使い方を請求項に記
載しなくとも,「PCを用いる」(請求項1冒頭)のであれば,この種P
Cによる専用キーの使用方法は明確である。
キ 「個人のコード番号」による顧客認証の方法について
審決は,請求項1(6)について,「前記コード化により自動で顧客の認
証を行い」という記載では,本部PCが,例えば,どのハードウェアとど
のハードウェアから,どのようにコード番号等の情報を取得し,どのよう
な処理によって対照しているのかが明確でない旨判断した(審決書6頁3
2行∼7頁8行)。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。すなわち,上記
は,正に「個人のコード番号」を顧客の認証に用いることをいう。顧客の
認証は,顧客コードにより自動的に行われ(甲10の段落【003
0】),顧客から電子注文を受けた本部は,本部のデーターベースの記載
と照合すれば自動的に顧客であるかどうかを認証することができる。クレ
ジットカード決済の場合には,クレジットカード番号が暗号化されたまま
クレジットコールセンターに送られ,ペイメントサーバーを通じ,クレジ
ット決済の可否を認証し,クレジット決済可の場合にはその旨を本部に通
知し,本部は商品発送の手続を行うものとされているから,その意味は明
白である(甲10の段落【0029】∼【0032】)。
(2) 取消事由2(一致点の認定の誤り・相違点の看過)
審決は,本願発明が「新聞顧客を顧客とする新聞の販売」に関するもので
あるとし(審決書12頁22行),本部等を「新聞を販売する組織である」
と誤認した上で,本願発明における「各営業マンが把握した顧客個人情報」
と引用発明における「広告・販売事業主が取得した顧客の個人情報」とは,
「販売組織が把握した顧客個人情報」である点で共通すると認定した(審決
書12頁22行∼33行)。
確かに,本願発明と引用発明とは,顧客のデーターベースを登録する点に
おいて一致するが,本願発明は,「新聞の販売」に関するものではなく,
「新聞顧客の管理及びサービス方法」に関するものである。本願発明におけ
る地方紙の配信サービスや過疎地の電子新聞サービスは,いずれも無料又は
実費で配信するものであり,本願発明の「サービス」は,顧客定着化のため
の付加的なサービスであって,引用発明のように物品(書籍)の販売をする
ものではない。したがって,審決は,一致点の認定を誤り,上記相違点を看
過した。
(3) 取消事由3(容易想到性の判断の誤り)
ア 相違点1(組織の階層化等)の容易想到性判断の誤り
本願発明は,本部が統括し,本部と階層が分担してサービスを行うシス
テムを用いるサービス方法であって,従来知られている営業を行う企業一
般における組織とは全然異なる。そうであるのに,審決は,本部,階層及
び営業マンが「営業を行う企業一般における組織」であるという誤った前
提に立った上で,「営業を行う企業一般における組織」であれば,組織を
階層化し,各階層及びその構成員にPCを配置し,ネットワークの一部と
して階層間を電子的に発信及び受信することができるように直結すること
も通常に行われていることであり,どのような単位を階層とし,組織の階
層を何階層にするかは企業の規模などに応じて適宜取り決めることができ
る事項であるとし,本願発明において「班」,「団」,「地区支部」,
「ブロック」及び「本部」からなる階層化を採用すること(相違点1)が
容易想到であるという誤った判断をした。
イ 相違点2(顧客個人情報のコード化等)の容易想到性判断の誤り
(ア) 審決は,相違点2(顧客個人情報のコード化等)について,営業マ
ンが新聞顧客について顧客個人情報を把握して個人のコード番号を付し
てコード化することは周知の事項である(登録実用新案第301459
7号公報(甲2。以下「周知例1」という。)の図3,4参照)旨判断
した(審決書15頁26行∼28行)。
しかし,そこでいう周知事項は,新聞販売のためのコード化であり,
階層化を考える余地がないのに対して,本願発明は管理サービスのため
に階層化したシステムについて本部へ登録するものであって次元が異な
っているから,引用発明に顧客個人情報のコード化という上記の周知事
項を適用することは困難であり,審決の判断は,誤りである。
(イ) 審決は,「複数の階層にPCを有する組織において,顧客の個人情
報を,どのような階層のPCに登録するかは,情報の管理や利用上の必
要に応じて当業者が適宜選択することができる設計事項であ」ると判断
した(審決書15頁30行∼32行)。
しかし,本願発明と同一又は近似の階層を示すことなく,また通過情
報の平文化の例も示しておらず,前記階層における情報の処理を設計変
更の問題にすぎないとした審決の判断には,論理過程を示していない点
で誤りがある。
(ウ) 審決は,下位組織のPCに入力された顧客の個人情報を上位組織の
PCに転送して登録することは,例えば特開平8−18523号公報
(甲3の段落【0105】ないし【0121】)で示されるように周知
技術である旨判断した(審決書15頁32行∼35行)。
しかし,本願発明のように,各階層が班,団,地区支部,ブロック及
び本部であって,班から本部へ個人情報を送るに際して各階層がサービ
スに使用する情報のみを平文化し,他は暗号化されたまま本部へ転送す
るという技術は,従来類例がなく,したがって下位組織のPCから上位
組織のPCへ転送することが仮に周知であったとしても,それと実質的
に異なる引用発明に適用して,本願発明の転送方法を得ることは容易で
はないから,これを容易であるとした審決の判断は誤りである。
(エ) 審決は,「本願発明のうち顧客個人情報を階層別に管理することは
周知である」旨判断し(審決書16頁4行∼7行),特開2000−2
50990号公報(以下「周知例3」という。甲4。特に段落【005
3】)を例示した。
しかし,この周知例3(甲4)には「新規顧客に割り付けた顧客ID
が記憶されている」旨が記載されているにすぎず,本願発明のように
班,団,地区支部,ブロックの階層を必須要件とし,各階層別に管理す
る場合を想定していないから,これをもって顧客個人情報を階層別に管
理することが周知事項であるとはいえず,審決の判断は誤りである。
ウ 相違点3(暗号化の範囲)の容易想到性判断の誤り
(ア) 審決は,相違点3(暗号化の範囲)について,「企業の組織におい
て,顧客個人情報の暗号化をどの部署でだれが行うかは,必要に応じ適
宜取り決めることができる事項であり・・・最初に情報を入手する営業
マンが顧客の個人情報を暗号化するよう取り決めることに困難性はな
い」(審決書16頁15行∼19行)と判断した。
しかし,本願発明における対象物は個人情報で,その組織は班,団,
地区支部,ブロック,本部からなるものであり,個人情報の使用はサー
ビスであるから,書籍の広告・販売システムである引用発明の組織,情
報処理からは到底予測すらできないものである。
(イ) 審決は,「顧客個人情報について,担当部署毎に情報へのアクセス
を制限する等の管理を行うことは,従来周知の事項である」(審決書1
6頁23行,24行)とし,「担当部署の担当者のパスワード別に,平
文化できる範囲を設定し,各PCで自動的に平文化することに困難性は
ない。」(審決書17頁5行,6行)と判断した。
しかし,本願発明は,企業の組織でなく,新聞顧客の管理及びサービ
スを行う組織であって,班,団,地区支部,ブロック,本部の階層組織
からなるものであり,個人情報を暗号化し転送し,前記階層においてサ
ービスに必要とされる事項を平文化するものであるのに対し,引用発明
は書籍の広告・販売システムであって,顧客端末と,広告,販売用コン
ピュータとが直結しており,階層の発想が皆無であるから,各階層によ
り個人情報中の平文化する情報を異にさせることなども想定し得ないこ
とである。したがって,これを容易想到であるとした審決の判断は誤り
である。
エ 相違点4(専用キーの使用)の容易想到性判断の誤り
審決は,相違点4(専用キーの使用)について,特開平7−16245
1号公報(以下「周知例6」という。甲7)を引用し,「予めコンピュー
タに保存した専用キーを用いる公開鍵暗号方式等の暗号方式を用いること
も周知技術」(審決書17頁18行∼20行)であるとした上で,「販売
者と購入者との間の情報提供,または,商品の取引に際して,暗号化に公
開鍵暗号方式等の周知の暗号方式を採用して,顧客のPC及び本部のPC
にそれぞれ専用キーをインストールまたは予め保有させるようにすること
に困難性はない。」(審決書17頁25行∼28行)と判断した。
しかし,本願発明における顧客と本部とは,商品売買の関係にあるので
はなく,本部からのサービス提供について,個人情報保護のために専用キ
ーを用いる関係にあるから,上記周知例6の電子回覧方式とは異なる。し
たがって,相違点4について,階層の発想のない引用発明に周知例6の電
子回覧方式を適用することにより本願発明を容易に発明することができた
とする審決の判断は,別異のシステムを同一視するもので,誤りである。
オ 相違点5(本部PCによる顧客認証等)の容易想到性判断の誤り
審決は,相違点5(本部PCによる顧客認証等)について,「複数の階
層にPCを有する組織において,顧客PCに商品を知らせ,顧客の認証を
行い,電子注文に応じて商品を届ける指示をする機能をどの階層のPCに
担当させるかは,情報の管理や利用上の必要等に応じて当業者が選択する
ことができる設計事項であり,例えば,周知例3(甲4。特に段落【00
38】∼【0058】参照)に示されるように,ネットワークを用いた商
取引において,階層からなる組織を経由せずに商取引を行うことも周知の
事項であるから,本部PCが顧客PCに商品を知らせ,顧客の認証を行
い,電子注文に応じて商品を届ける指示をするようにする点に困難性はな
い。そして,デリバリーセンターは,商品の販売において一般に用いられ
ているものである(例えば,特開平10−214297号公報(特に段落
【0081】)参照)。そうすると,相違点5に係る本願発明の構成は,
引用発明に周知の事項を適用することにより,当業者が容易に想到するこ
とができたものというべきである」旨判断した(審決書17頁下から6行
∼18頁10行)。
しかし,引用発明においては,顧客端末と広告販売用コンピュータとは
ダイレクトに連結されているので(甲1の図2),周知技術を引用発明に
適用することはできず,相違点5を当業者が容易に想到することができた
という審決の判断は誤りである。
2 被告の反論
(1) 取消事由1(特許法36条6項2号違反とした判断の誤り)に対し
ア 顧客の個人情報の入力後にされる転送等の主体について
請求項1の記載では,「コード番号を付してコード化し」,「暗号化し
て各班のPCから各階層のPCに転送して登録し」,「本部のPCへ同時
に転送する」という各処理を人間又はPCのどちらが行うのかが明らかで
はないから,明確性を欠く。
イ 平文化の範囲設定の主体について
「営業マン,顧客及び各階層にPCを配したネットワーク」であるから
といって,原告ら主張のようにPCが処理できることは全部PCに処理さ
せることを意味するとはいえないことは,ネットワークが構造体として複
数要素の接続形態を規定したものにすぎないことから明らかである。ま
た,「各PCを用いて」という記載をもって,PCが処理できることは全
部PCに処理させることを意味するとはいえない。さらに,班のPCへ入
力された情報が,各階層のPCを経由して本部PCを介し,データーベー
ス化されるからといって,一連のネットワークによる処理中に人間が本部
PCを操作する余地がなくなるとはいえないから,「各階層のPCからな
るネットワークを用い,前記各PCを用いて」という記載のみからは,各
処理の主体がPCであるのか人間であるのかは不明である。
原告らは,「請求項1中(2)には,各階層のPC,本部PCで担当者の
パスワード別に,平文化できる範囲を設定することが特定されているの
で,PCの自動化が明記されている。」旨主張する。しかし,請求項1に
は,「各階層のPC,本部PCで」とは記載されていないから,失当であ
る。また,平文化できる範囲の設定をPCの機能で自動的に処理すること
が常に最も合理的であるわけでもないから,平文化がPCにより自動的に
行われることが自明であるともいえない。
原告らは,PCの機能については出願当時の技術を採用するもので当業
者が最も合理的と判断した使用方法によることはいうまでもないと主張す
る。しかし,当業者が最も合理的と判断する基準は,多様であるから,原
告らの上記主張も妥当ではない。
以上のとおり,「平文化できる範囲を設定し」という処理が,人間がP
Cを操作して行う処理であるとも,PCが人間を介さずに自動的に行う処
理であるとも解することができ,そのいずれを意味しているのかが不明で
あるため,「(2)前記暗号化した個人情報は,重要度と機密実用度に応
じ,前記各階層のPC及び本部のPCにおいて,担当部署の担当者のパス
ワード別に,平文化できる範囲を設定し,前記各PCで自動的に平文化す
る。」という特定事項が明確でないとした審決の判断に誤りはない。
ウ 本部のPCにおける登録,再暗号化及び階層別管理の主体について
対応ソフトを入れて全自動で行うことが当然であるとはいえない。転送
された情報は,PC又はデーターベースに登録されるので,人間がその情
報に介在し得るし,そのような方法も広く採用されている。よって,「顧
客個人情報を登録し」,「再暗号化して登録する」,「階層別に管理す
る」という各処理が,人間がPCを操作して行う処理であるとも,PCが
人間を介さずに自動的に行う処理であるとも解することができ,そのいず
れを意味しているのかが不明であるから,「(3)前記本部のPCで,前記
顧客個人情報を登録し,又は再暗号化して登録すると共に階層別に管理す
る。」という特定事項が明確でないとした審決の判断に誤りはない。
エ 登録・データーベース化の主体について
「登録してデーターベース化」するという処理は,人間がPCを操作し
て行う処理であるとも,PCが人間を介さずに自動的に行う処理であると
も解することができ,そのいずれを意味しているのかが不明であるため,
「(5)前記個人情報は,本部のPCに登録してデーターベース化し,前記
各階層のPCには必要な部署のPCだけに必要な解読ソフトを保有させて
おく。」という特定事項が明確でないとした審決の判断に誤りはない。
オ 顧客個人情報の階層別管理の意味について
原告らは,同一階層の顧客情報をその階層へ共に登録する意味であると
主張する。しかし,請求項1記載の顧客(個人)情報には階層がないの
で,「同一階層の顧客情報」という概念は存在しないし,情報はPCなど
の装置に登録するものであって,「階層」へ情報を登録することはできな
いから,原告らの上記主張は明確でない。また,原告らは,「営業マンが
班のPCを介して個人情報を使用することはない。」と主張しているが,
そのことが「顧客個人情報を」「階層別に管理する」ことであるとは,請
求項1の記載からは把握することができない。
カ 専用キーの用い方について
原告らは,顧客のPCと本部PCとが互いに直結して通信できることを
意味しており,専用キーの使い方を請求項に記載しなくとも,「PCを用
いる」のであれば,この種のPCによる専用キーの使用方法は決まってい
ると主張する。しかし,PCによる専用キーの使用方法は,解決しようと
する課題によって,さまざまな使用方法があるから,新聞顧客の管理及び
サービス方法を実行するための具体的な技術的解決手段として,専用キー
がどのように用いられるのかが明らかでなければ,発明を特定するための
事項の記載が明確であるとはいえない。
キ 「個人のコード番号を付したコード化」による顧客認証の方法について
原告らは,「個人のコード番号」が顧客の認証に用いられることが明ら
かであると主張する。しかし,請求項1の記載では,本部PCが,例え
ば,どのハードウェアとどのハードウェアから,どのようにコード番号等
の情報を取得し,どのような処理によって対照等することにより顧客の認
証をしているのかが明確でないので,具体的な技術的解決手段として当業
者が明確に理解することできない。
(2) 取消事由2(一致点の認定の誤り・相違点の看過)に対し
新聞顧客に対するサービスとして,最も一般的なサービスが新聞販売サー
ビスであることは明らかであり,本願発明が新聞販売組織に関するものであ
るとした審決の理解は,本願明細書(甲10)の段落【0057】の「また
図5は,本部とブロック間の関係を示すもので,地方紙の配信サービスなど
に有用である」,「次に図6は,本部と過疎地の顧客に対するサービスであ
って,要望があれば,電子新聞などの利用も有望である」という記載内容と
も合致する。したがって,本願発明を「新聞の販売に関するもの」とし,
「班」,「団」,「地区支部」,「ブロック」,「本部」は新聞を販売する
組織であるとして,引用発明との対比を行った審決に誤りはない。
(3) 取消事由3(容易想到性の判断の誤り)に対し
ア 相違点1(組織の階層化等)の容易想到性判断の誤り
審決は,本願発明を「営業を行う企業一般における組織」として認定し
ていないから,これを認定したとする原告らの主張は,前提を誤ってい
る。そして,「営業マンの複数人のグループを最小単位とした各班」,
「順次大きなグループになるような各階層」及び「各階層を総括する本
部」のような階層からなる組織は,営業を行う企業一般における組織とし
てごく普通のものであ」る。また,本願明細書(甲10)の段落【003
8】には,「例えばチェーン店等における顧客管理は,各店と本部のみで
よいことは勿論である」と記載されている。そうすると,本願明細書(甲
10)の段落【0038】にも記載があるように,「規模により,地域に
より,管理階層を増減することができる」こと,及び,企業が行う営業内
容(業種)により,同じく管理階層を増減することができることは,当業
者ならば容易に首肯し得る事項であるから,組織の階層を何階層にする
か,また,どのような単位を階層とするかは,上記の条件(規模,地域,
業種)などに応じて適宜取り決めることができる事項である。よって,審
決が,「班」,「団」,「地区支部」,「ブロック」及び「本部」からな
る階層を採用することに困難性はないとした判断に誤りはなく,相違点1
に係る本願発明の構成は,引用発明に周知の事項を適用することにより,
当業者が容易に想到することができたとした審決の判断に誤りはない。
イ 相違点2(顧客個人情報のコード化等)の容易想到性判断の誤りに対し
(ア) 原告らは,周知例1によって周知事項とされるものは新聞販売のため
のコード化であり,管理サービスのために階層化したシステムについて本
部へ登録するものとは異なるし,階層化を考える余地がないと主張する。
しかし,周知例1(甲2)の図3及び図4の記載は,営業マンが新聞顧客
の個人情報を把握して,個人のコード番号を付してコード化することを示
しているから,「営業マンが新聞顧客について顧客個人情報を把握して,
個人のコード番号を付してコード化することが周知の事項であるとした審
決の認定に誤りはない。
(イ) 原告らは,審決は,本願発明と同一又は近似の階層を示すことなく,
また,通過情報の平文化の例を示すこともなく,階層における情報の処理
を設計変更の問題であるとするのは間違いである,本願発明の各階層には
情報が通過するが,それぞれサービスに必要な情報のみ平文化されると主
張する。しかし,請求項1においては,平文化の範囲は,担当者のパスワ
ード別とされ,サービス別とはされていない上,各階層においてサービス
が実行されることを示す記載もない。したがって,原告らの「各階層には
情報が通過するが,それぞれサービスに必要な情報のみ平文化される」と
いう主張は,請求項1の記載に基づかないものであって,失当である。
(ウ) 原告らは,「班から本部へ個人情報を送るに際し,各階層がサービス
に使用する情報のみを平文化し,他は暗号化されたまま本部へ転送する技
術は従来類例がなく,下位組織のPCから上位組織のPCへ転送すること
が仮に周知であっても,これと実質的に異なる引用発明に適用して本願発
明の転送方法を得ることは困難であると旨主張する。しかし,上記のとお
り「各階層がサービスに使用する情報のみを平文化し」という主張は,請
求項1の記載に基づかないから,失当である。また,平文化の範囲に関す
る相違点は,審決においては,相違点3として別に抽出して判断している
から,相違点2に係る原告らの上記主張は失当である。
(エ) 原告らは,審決が示した周知例3(甲4)には新規顧客を割り付けた
顧客IDが記憶されていると記載されているにすぎないから,これをもっ
て顧客個人情報を階層別に管理することが周知であるとはいえない旨主張
している。しかし,周知例3(甲4)の段落【0053】には,顧客ID
以外に組織の階層の情報である「店舗コード」も記憶されている。また,
顧客管理の分野において,店舗は販売組織の一階層と位置づけられるか
ら,「組織の階層の情報を顧客情報の一部として管理を行うことは周知の
事項である」旨説示した審決(審決書16頁6行∼7行)に誤りはない。
(オ) 原告らは,引用発明が「書籍の広告,販売システムおよび広告,販売
方法」に関する発明であって,「班」,「団」,「地区支部」,「ブロッ
ク」,「本部」からなる階層を有さず,顧客端末と広告販売用コンピュー
タとは直結しているので,周知技術を適用する構成にないと主張する。し
かし,引用発明は,「顧客の管理及びサービス方法」であり,引用発明に
「班」,「団」,「地区支部」,「ブロック」,「本部」からなる階層を
採用することに困難性はないから,相違点2に係る本願発明の構成は,引
用発明に周知の事項を適用することにより,当業者が容易に想到すること
ができたとした審決に誤りはない。
ウ 相違点3(暗号化の範囲)の容易想到性判断の誤りに対し
企業の組織において,顧客個人情報の暗号化をどの部署でだれが行うか
は,必要に応じて適宜取り決めることができる事項であり,一般に暗号化の
目的は情報の閲覧を制限することにあることを勘案すれば,情報が閲覧され
る機会が最も少なくなるように,最初に情報を入手する営業マンが顧客個人
情報を暗号化するように取り決めることに困難性はないから,これと同旨の
審決の認定に誤りはない。
原告らは,階層,個人情報の転送,中間階層の平文化制限などがいずれも
新規であるから,新聞顧客の個人情報を班から本部へ転送する際の各階層に
おける平文化制限は容易に発想できるものではないと主張する。しかし,甲
5(以下「周知例4」という。)に「アクセス・レベルを部署や階層によっ
て細かく設定することで,本来の目的以外に個人情報を利用することを防い
でいる」との記載があるとおり,階層に基づく個人情報へのアクセス制限は
周知であり,甲6(特開2000−235569号公報,以下「周知例5」
という。)によれば,情報へのアクセスを制限する手段として,情報を暗号
化することや,利用者に応じて平文化できる範囲を設定し,それに応じたパ
スワードを保有させて,自動的に平文化を行うことも周知であるから,「担
当部署の担当者のパスワード別に,平文化できる範囲を設定し,各PCで自
動的に平文化することに困難性はない」とした審決の判断には,誤りはな
い。
原告らは,引用発明では,顧客端末と広告販売用コンピュータとは直結し
ているので,階層の発想は皆無であり,また,階層がないので,各階層によ
り個人情報中の平文化する情報を異にすることはあり得ず,引用発明に周知
技術を適用することはできない旨主張する。しかし,引用発明に「班」,
「団」,「地区支部」,「ブロック」及び「本部」からなる階層を採用する
ことに困難性がないことは,前記主張のとおりであるから,審決に誤りはな
い。
エ 相違点4(専用キーの使用)の容易想到性判断の誤りに対し
原告らは,本願発明における顧客と本部とは商品の販売購入関係にあるの
ではなく,本願発明の専用キーは,本部からサービスを提供する際に顧客の
個人情報を保護するための専用キーであるから,審決引用の周知例6のよう
な電子回覧方式とは異なる旨主張する。しかし,請求項1には,「本部PC
は前記コード化により自動で顧客の認証を行い,ついで前記電子注文に応じ
て,前記本部PCからの指示により前記本部又は各階層に設置されたデリバ
リーセンターから,電子注文に対応した商品を顧客に届ける」と記載されて
いるので,本願発明における顧客と本部との関係が商品の販売購入関係にあ
ることを含むというべきであるから,原告らの上記主張は失当である。ま
た,本願発明の専用キーが本部からのサービス提供の際の個人情報保護のた
めの専用キーであるという原告らの主張は,請求項1には記載も示唆もない
から,失当である。
オ 相違点5(本部PCによる顧客認証等)の容易想到性判断の誤りに対し
原告らは,引用発明は,顧客端末と広告販売用コンピュータとはダイレク
トに連結されているので,周知技術を引用発明に適用することはできず,相
違点5を当業者が容易に想到することはできないと主張する。しかし,引用
発明に班から本部までの階層化を採用することに困難性がないことは,前記
主張のとおりであり,周知事項を引用発明に適用した審決に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
事案にかんがみ,取消事由2,3から,先に判断する。
1 取消事由2(一致点の認定の誤り・相違点の看過)について
原告らは,本願発明は,「新聞顧客の管理及びサービス方法」に関するもの
であり,その地方紙の配信サービスや過疎地の電子新聞サービスも無料又は実
費で配信する顧客定着化のための付加的なサービスに係る発明であって,「新
聞の販売」に関するものではないから,物品(書籍)の販売をする引用発明と
は異なるにもかかわらず,審決は本願発明を「新聞の販売」に関するものであ
ると誤認し,引用発明との相違点を看過している旨主張する。
しかし,本願明細書の段落【0057】で言及されている地方紙の配信サー
ビス等が無料又は実費であることや,本願発明のサービスが顧客定着化のため
の付加的なサービスであることは,本願明細書の特許請求の範囲及び発明の詳
細な説明のいずれの記載にも基づかない主張であって,失当である。そして,
本願発明における「新聞顧客」が「新聞配達先」とされ(本願明細書の段落
【0002】,【0004】),「営業マン」が「契約獲得者」とされ(本願
明細書の段落【0014】),本願発明の代表的なサービスが「新聞販売」で
あると認められることに照らすならば,本願発明を「新聞の販売に関するも
の」とし,「本部」等を新聞を販売する組織であるとした審決の認定に誤りは
ない。
以上によれば,原告ら主張の取消事由2(一致点の認定の誤り・相違点の看
過の主張)は,理由がない。
2 取消事由3(容易想到性の判断の誤り)について
(1) 相違点1(階層化等)の容易想到性判断の誤りについて
原告らは,本願発明は,本部が統括し,本部と階層が分担してサービスを
行うシステムを用いるサービス方法であって,従来知られている営業を行う
企業一般における組織とは異なるにもかかわらず,審決は,本部,階層及び
営業マンが「営業を行う企業一般における組織」であるとの誤った前提に立
ち,階層化が容易であると判断した点に誤りがあると主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,一般に,
組織を構成する際,階層化するか,階層化せず直結するか,組織を階層構成
とする場合に,何階層にするか,又はどのような単位を階層とするかなど
は,組織の規模の大小や,地域の広狭,業種ごとの特性などに応じて,適宜
取り決めるべき事項である。本願明細書の段落【0038】においても,
「前記発明においては,顧客管理を,班,団,地区支部,ブロック及び本部
としたが,規模により,地域により,管理階層を増減することができる。例
えばチェーン店等における顧客管理は,各店と本部のみでよいことは勿論で
ある。」と記載されているから,組織の規模や地域等に応じて,組織の階層
を適宜増減することは,誰しもが想到し得る事項であるといえる。
したがって,引用発明において,「班」,「団」,「地区支部」,「ブロ
ック」及び「本部」からなる階層を採用することは困難でないとした審決の
判断には誤りがなく,相違点1(階層化等)の容易想到性に係る原告らの主
張は,理由がない。
(2) 相違点2(顧客個人情報のコード化等)の容易想到性判断の誤りについ
て
ア 原告らは,本願発明は管理サービスのために階層化したシステムについ
て本部へ登録するものであるのに対して,周知事項は新聞販売のためのコ
ード化であって,階層化を考える余地のないものであるから,引用発明に
上記の周知事項を適用することは困難であり,これを容易想到であるとし
た審決の判断は,誤りである旨主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,周知例
1(甲2)の図3の左下欄には,「区域」,「読者番号」と記載され,該
「区域」は,コード化に際して,顧客管理のための階層を意識したもので
あることが示唆されているといえる。また,周知例1(甲2)の段落【0
013】には,「情報授受部分4をアンケート調査等に利用すれば,アン
ケート調査により得られた新聞購読顧客の種々の情報をデーターベース化
することができ,地域特有の商品等の販売促進に利用することができ
る。」と記載されている。さらに,周知例1(甲2)の図4にも,顧客か
ら新聞販売店に向かう矢印には「顧客情報データーベース化」と記載さ
れ,新聞販売店から小売店(メーカー)へ向かう矢印には「顧客情報の集
計・提供」と記載され,小売店(メーカー)と顧客との間には「DM又は
電話等による効果的なアプローチ」,「購買」と記載されている。そうす
ると,これらの記載から,営業マンが新聞顧客について顧客個人情報を把
握して,個人のコード番号を付してコード化することが示されているとい
えるから,「営業マンが新聞顧客について顧客個人情報を把握して,個人
のコード番号を付してコード化することが周知の事項であるとした審決の
認定に誤りはない。
イ 原告らは,本願発明と同一又は近似の階層の例を示すことなく,また通
過情報の平文化の例も示すこともなく,階層における情報の処理を設計変
更の問題にすぎないとした審決の判断は,誤りである旨主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,請求項
1には,「各階層のPCに転送し,予め定めた情報を自動的に登録し」と
記載されているとおり,情報を各階層のPCで自動的に登録することは記
載されているが,各階層における情報がPCを通過することについての記
載はない。また,本願明細書には,段落【0014】には,「前記個人情
報は,契約獲得者(営業マン)が個人のコード番号をコンピュータに登録
させ,電子メール化して,班,団,地区支部,ブロック及び本部へ同時伝
送する。営業マン,班,団,地区支部,ブロック及び本部は,夫々コンピ
ュータに入った顧客情報を,CD−ROM,フロッピー(登録商標)ディ
スクなどに暗号化して保管し,管理する。」との記載はあるが,同記載か
らは,各階層の情報がPCを「通過」することについての記載はない。そ
うすると,情報が各階層を通過することを前提とする原告らの上記主張
は,前提を欠き,失当である。
ウ 原告らは,本願発明のように,各階層が班,団,地区支部,ブロック及
び本部であって,班から本部へ個人情報を送るに際して各階層がサービス
に使用する情報のみを平文化し,他は暗号化されたまま本部へ転送すると
いう技術は,従来例がないこと,また,仮に,下位組織のPCから上位組
織のPCへ転送する技術が周知であったとしても,同技術を引用発明に適
用して,本願発明の転送方法を得ることは容易ではないから,これを容易
であるとした審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,原告らのこの点の主張は,以下のとおり理由がない。すなわ
ち,請求項1においては,平文化の範囲は,担当者のパスワード別との記
載があるのみであって,「サービス別」との記載はなく,また,各階層ご
とに,それぞれサービスを実行するとの記載もない。したがって,「各階
層には情報が通過するが,それぞれサービスに必要な情報のみ平文化され
る」との原告らの上記主張は,特許請求の範囲(請求項1)の記載に基づ
かないものであって,失当である。
エ 原告らは,周知例3(甲4)には「新規顧客に割り付けた顧客IDが記
憶されている」旨が記載されているにすぎず,本願発明のように班,団,
地区支部,ブロックの階層を必須要件とし,各階層別に管理するとの思想
が存在しないから,これをもって顧客個人情報を階層別に管理することが
周知事項であるとはいえず,審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,原告らのこの点の主張は,以下のとおり理由がない。すなわ
ち,周知例3(甲4)の段落【0053】には,「顧客マスタファイル7
a内には,図2(b)に示すように,インターネットを介して顧客受付部
24で受付けた新規の顧客1に対して割付けた顧客ID,店舗コード,氏
名,住所,電話番号,FAX番号,パスワード,電子メールアドレス,性
別等の個人情報が記憶されている。」と記載されており,顧客ID以外に
「店舗コード」も記憶されている。また,顧客管理の分野において,店舗
は販売組織の一階層と位置づけられている。したがって,「組織の階層の
情報を顧客情報の一部として管理を行うことは周知の事項である」とした
審決の判断に誤りはない。
(3) 相違点3(暗号化の範囲)の容易想到性判断の誤りについて
原告らは,本願発明における対象物は個人情報で,その組織は班,団,地
区支部,ブロック,本部からなるものであり,その個人情報の使用はサービ
スのためであるから,階層化の発想のない書籍の広告・販売システムである
引用発明の組織,情報処理からは,最初に情報を入手する営業マンによる個
人情報の暗号化や,転送,階層ごとの平文化制限等を予測することができ
ず,相違点3(暗号化の範囲)について容易想到であるとした審決の判断は
誤りである旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,次のとおり理由がない。
ア 本願発明が新聞販売に関するものであることや,組織を構成する際に階
層化が設計的事項であって引用発明に階層化を考えることができることは
前記認定のとおりである。
また,企業の組織において,顧客個人情報の暗号化をどの部署で誰が行
うかも,必要に応じて適宜取り決めることができる事項であり,一般に暗
号化の目的が情報の閲覧を制限することであることを勘案すれば,情報が
閲覧される機会が最も少なくなるように,最初に情報を入手する営業マン
が顧客個人情報を暗号化するよう取り決めることにも困難性はない。
周知例4(甲5)には,「アクセス・レベルを部署や階層によって細か
く設定することで,本来の目的以外に個人情報を利用することを防いでい
る。無制限にアクセスを許していては,データの社外流出につながりかね
ないからだ。」という記載があり(甲5,44頁中欄3∼10行),この
記載からすると,階層に基づく個人情報へのアクセス制限は周知であると
認められる。周知例5(甲6。発明の名称「電子文書の管理方法及び文書
管理システム」)にも,情報を暗号化すること(甲6の段落【0022】
参照),利用者に応じて平文化できる範囲を設定し(甲6の段落【001
7】参照),それに応じたパスワードを保有して(甲6の段落【002
1】参照),自動的に平文化を行うこと(甲6の段落【0027】参照)
が記載され,いずれも周知であると認められる。
イ したがって,以上の周知事項に基づいて,「担当部署の担当者のパスワ
ード別に,平文化できる範囲を設定し,各PCで自動的に平文化すること
に困難性はない」とした審決には誤りがなく,原告らの上記主張は理由が
ない。
(4) 相違点4(専用キーの使用)の容易想到性判断の誤りについて
原告らは,本願発明における顧客と本部とは,商品売買の関係にあるので
はなく,本部からのサービス提供について,個人情報保護のために専用キー
を用いる関係にあるから,周知例6の方式を,階層の発想のない引用発明に
適用することは困難であるから,これを容易であるとした審決の判断は,誤
りである旨主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,請求項1
には,「本部PCは前記コード化により自動で顧客の認証を行い,ついで前
記電子注文に応じて,前記本部PCからの指示により前記本部又は各階層に
設置されたデリバリーセンターから,電子注文に対応した商品を顧客に届け
る」と記載されているので,本願発明における顧客と本部との関係は商品販
売関係を含むことが明らかである。また,引用発明に階層化を想定し得ると
した審決の判断に誤りがないことは,前記認定のとおりである。したがっ
て,周知例6に記載された周知の専用キーを用いる公開鍵暗号方式を引用発
明に適用することが容易であるとした同旨の審決の判断に誤りはなく,原告
らの上記主張は理由がない。
(5) 相違点5(本部PCによる顧客認証等)の容易想到性判断の誤りについ
て
原告らは,引用発明においては,顧客端末と広告販売用コンピュータとは
ダイレクトに連結されている上,本願発明は商品販売ではなくサービスを提
供するものであるから,周知技術を引用発明に適用することはできず,相違
点5を当業者が容易に想到することができたという審決の判断は誤りである
旨主張する。
しかし,引用発明に階層化を採用することに困難性がないこと,本願発明
における顧客と本部との関係は商品販売関係を含むことは,前記認定のとお
りであるから,原告らの上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
3 結 論
以上のとおり,原告ら主張の取消事由2,3はいずれも理由がない。したが
って,その余の点について判断するまでもなく,原告らの本訴請求は理由がな
い。したがって,原告らの請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
なお,審決が特許法36条6項2号該当性の有無について判断した点につい
て付言する。
特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載において,特許を受けよう
とする発明が明確でなければならない旨を規定する。同号がこのように規定し
た趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許発明
の技術的範囲,すなわち,特許によって付与された独占の範囲が不明となり,
第三者に不測の不利益を及ぼすことがあるので,そのような不都合な結果を防
止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否か
は,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面
を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請
求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかとい
う観点から判断されるべきである。
ところで,審決は,請求項1(1)についての「コード番号を付してコード化
し」,「暗号化し」,「転送する」などの記載,請求項1(2)についての「平
文化できる範囲を設定し」などの記載,請求項1(3)についての「顧客個人情
報を登録し」,「再暗号化して登録する」,「階層別に管理する」などの記
載,請求項1(5)についての「登録してデーターベース化し」などの記載が,
「人間がPCを操作して行う処理であるとも,PCが人間を介さず自動的に行
う処理であるとも解することができ,そのいずれを意味しているのかが不明で
あるため,その特定しようとする事項が明確でないから,特許法36条6項2
号に規定する要件を満たさない」と判断した。
しかし,審決の上記判断は,その判断それ自体に矛盾があり,特許法36条
6項2号の解釈,適用を誤ったものといえる。すなわち,審決は,本願発明の
請求項1における上記各記載について,「人間がPCを操作して行う処理であ
るとも,PCが人間を介さず自動的に行う処理であるとも解することができ
(る)」との確定的な解釈ができるとしているのであるから,そうである以
上,「そのいずれを意味しているのかが不明であるため,その特定しようとす
る事項が明確でない」とすることとは矛盾する。のみならず,審決のした解釈
を前提としても,特許請求の範囲の記載は,第三者に不測の不利益を招くほど
に不明確であるということはできない。
むしろ,審決においては,自らがした広義の解釈(それが正しい解釈である
か否かはさておき)を基礎として,特許請求の範囲に記載された本願発明が,
自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものといえるか否か(特許
法2条1項),産業上利用することができる発明に当たるか否か(29条1項
柱書)等の特許要件を含めて,その充足性の有無に関する実質的な判断をすべ
きであって,特許法36条6項2号の要件を充足しているか否かの形式的な判
断をすべきではない。前記のとおり,その判断の結果にも誤りがあるといえ
る。
知的財産高等裁判所第3部
裁判 長裁判官 飯 村 敏 明
裁 判 官 齊 木 教 朗
裁 判 官 嶋 末 和 秀
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