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平成20(行ケ)10075審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成20年10月29日
事件種別 民事
当事者 被告三央産業株式会社 Y1 Y2 株式会社エスケーテック ら訴訟代理人弁理士近藤彰
原告
法令 特許権
特許法29条2項2回
特許法134条2項2回
特許法181条2項1回
キーワード 審決96回
無効14回
無効審判7回
実施6回
訂正審判5回
特許権3回
進歩性2回
分割1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 本件は,Bが取得した特許第3105182号(発明の名称「ターボジェッ ト式高温高速バーナ )の特許権(請求項の数3)につきその後原告が権利者」 となっていたところ,被告らから全請求項につき特許無効審判請求がなされ, 特許庁が,平成19年8月10日付けで原告からなされた訂正請求(請求項1 を変更し,同2を削除し,同3を同2に繰り上げる等を内容とする。ただし, 。) , ,訂正審判請求が訂正請求とみなされたもの を認めた上 訂正後の請求項1 2を無効とする旨の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案であ る。 2 争点は,上記訂正後の請求項1,2に係る発明が,特開昭56−25604 号公報(発明の名称「火炎ジェットバーナ ,出願人 A,公開日 昭和56年」 3月12日,甲2。以下「甲2公報」といい,そこに記載された発明を「甲2 」 。) ( ) , 。発明 という との関係で進歩性 特許法29条2項 を有するか である 3 なお原告は,本件訴訟提起後の平成20年4月23日付けで更に訂正審判請 求(請求項1を変更し,同2を削除する等を内容とするもの。訂正2008− 390046号事件)をした。

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判決文

判決言渡 平成20年10月29日
平成20年(行ケ)第10075号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成20年10月22日
判 決
原 告 X
訴訟代理人弁理士 磯 野 道 造
同 富 田 哲 雄
同 町 田 能 章
同 平 野 智
被 告 三 央 産 業 株 式 会 社
被 告 Y1
被 告 Y2
被 告 株式会社エスケーテック
被告ら訴訟代理人弁理士 近 藤 彰
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2006−80194号事件について平成20年1月22日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は,Bが取得した特許第3105182号(発明の名称「ターボジェッ
ト式高温高速バーナ 」)の特許権(請求項の数3)につきその後原告が権利者
となっていたところ,被告らから全請求項につき特許無効審判請求がなされ,
特許庁が,平成19年8月10日付けで原告からなされた訂正請求(請求項1
を変更し,同2を削除し,同3を同2に繰り上げる等を内容とする。ただし,
訂正審判請求が訂正請求とみなされたもの。 を認めた上,訂正後の請求項1,

2を無効とする旨の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案であ
る。
2 争点は,上記訂正後の請求項1,2に係る発明が,特開昭56−25604
号公報(発明の名称「火炎ジェットバーナ」,出願人 A,公開日 昭和56年
3月12日,甲2。以下「甲2公報」といい,そこに記載された発明を「甲2
発明」という。 との関係で進歩性(特許法29条2項)を有するか,である。

3 なお原告は,本件訴訟提起後の平成20年4月23日付けで更に訂正審判請
求(請求項1を変更し,同2を削除する等を内容とするもの。訂正2008−
390046号事件)をした。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁等における手続の経緯
ア 訴外Bは,平成9年9月5日,名称を「ターボジェット式高温高速バー
ナ」とする発明について特許出願(特願平9−241076号)をし,平
成12年9月1日に特許第3105182号として設定登録を受けた(請
求項の数3,以下「本件特許権」という。特許公報は甲17 )。その後原
告は,平成17年2月8日までに訴外Bから本件特許権の移転を受けた。
イ これに対し,被告らが本件特許の請求項1ないし3について無効審判請
求を行ったので,特許庁は同請求を無効2006−80194号事件とし
て審理し,その中で原告は,平成18年12月12日付けで特許請求の範
囲(請求の範囲1∼3)の変更等を内容とする訂正請求(第1次訂正,甲
20)をしたが,特許庁は,平成19年4月26日,上記訂正を認めた上,
本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする旨の
審決をした。
ウ そこで原告は,平成19年6月8日,知的財産高等裁判所に対し上記審
決の取消しを求める訴えを提起し(平成19年(行ケ)第10201号)

その後平成19年8月10日,特許庁に対し請求項1を変更し同2を削除
し同3を繰り上げる等を内容とする訂正審判請求(訂正2007−390
095号。甲25)をしたところ,同裁判所は,平成19年8月31日,
特許法181条2項により上記審決を取り消す旨の決定をした。
エ 上記決定により前記無効2006−80194号事件は再び特許庁で審
理されることとなったが,原告から新たな訂正請求はなされなかったので
上記訂正審判請求(甲25)と同内容の訂正請求がなされたとみなされた
(以下「本件訂正」という。 ところ,特許庁は,平成20年1月22日,

本件訂正を認めた上,「特許第3105182号の請求項1及び2に係る
発明についての特許を無効とする」旨の審決をし,その謄本は平成20年
2月1日原告に送達された。
(2) 発明の内容
本件訂正後の請求項1及び2(そこに記載された発明を,以下順に「本件
特許発明1」 「本件特許発明2」という 。
, )は次のとおりである(下線は訂
正部分)

・ 【請求項1】高熱燃焼ガスの吐出口を先端に開口し,この吐出口近くに
直径絞り部を有する全体が円筒状に形成される燃焼室の基端基部に当該
燃焼室の中心線に直交する基板部を設け,
この基板部の中心に,前記燃焼室の中心線上に向うバーナノズルを設
け,
かつ前記円筒状の燃焼室には外部より燃焼用空気を導入して熱交換で
きるようにすると共に,
前記燃焼室は,密閉構造の外側管状体と内側管状体と中間管状体とよ
り成り,前記中間管状体を介して内側管状体と外側管状体との間に内側
管流路と外側管流路とを燃焼室の前部に設けた連通部で流通可能とし,
かつ両流路の一方を外部の燃焼用空気と連通する連通管と接続し,他方
を管から成る高圧空気噴射口と連通接続できるようにし,
前記燃焼室で熱交換される燃焼用空気を,前記基板部のバーナノズル
の外周環状位置に設けられ,かつ先端が前記燃焼室内に突出してバーナ
ノズルの中心線前方のバーナ噴射の焦点をそれぞれ旋回的に集中指向す
る複数の管から成る前記高圧空気噴射口の基部と,連通させて複数の前
記噴射口よりバーナ噴射の焦点をそれぞれ旋回的に集中指向するように
吐出させることができるようにしたことを特徴とするターボジェット式
高温高速バーナ。
・ 【請求項2】前記燃焼室の直径絞り部の直径絞り率を0として,前記燃
焼室の形状を略々同一径の円筒形状に形成したことを特徴とする請求項
1記載のターボジェット式高温高速バーナ。
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,上記
各訂正は適法であり,かつ訂正後の本件特許発明1及び2はいずれも甲2
発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができたから特許法29
条2項により特許を受けることができない,というものである。
イ なお審決が認定した甲2発明の内容,本件特許発明1・2と甲2発明と
の一致点及び相違点は,次のとおりである。
(ア) 〈甲2発明の内容〉
「高熱燃焼ガスのノズル1出口を先端に開口し,このノズル1出口
近くにスロート2を有する全体が円筒状に形成される燃焼筒3の基端
基部に高熱燃焼ガスのノズル1出口に向けて開拡する円錐状のエア噴
射部5を設け,
このエア噴射部5の中心に,前記燃焼筒3の中心線上に向うインジ
ェクタ4を設け,
かつ前記円筒状の燃焼筒3には外部より冷却水を導入して熱交換で
きるようにすると共に,
前記燃焼筒は,密閉構造の外側管状体と内側管状体と中間管状体と
より成り,前記中間管状体を介して内側管状体と外側管状体との間に
内側管流路と外側管流路とを燃焼筒の前部に設けた連通部で流通可能
とし,かつ両流路を冷却水通路とし,
60∼80℃の燃焼用空気を,前記エア噴射部5のインジェクタ4
の外周環状位置に設けられ,かつインジェクタの中心線前方の焦点を
それぞれ集中指向する複数の筒状流路を有するエア噴出孔6と燃焼筒
内壁に沿って旋回流を形成するスワーラ7とに連通する環状空気室
と,連通させて前記エア噴出孔6とスワーラ7より吐出させることが
できるようにしたターボジェット式高温高速バーナ。」
(イ) 本件特許発明1との対比
〈一致点〉
本件特許発明1と甲2発明とは,いずれも
「高熱燃焼ガスの吐出口を先端に開口し,この吐出口近くに直径絞
り部を有する全体が円筒形に形成される燃焼室の基端基部に部材を設
け,
該部材の中心に,前記燃焼室の中心線上に向うバーナノズルを設け,
前記燃焼室は,密閉構造の外側管状体と内側管状体と中間管状体と
より成り,前記中間管状体を介して内側管状体と外側管状体とを燃焼
室の前部に設けた連通部で流通可能とし,
燃焼用空気を,前記部材のバーナノズルの外周環状位置に設けられ,
かつバーナノズル中心線前方のバーナ噴射の焦点を集中指向する複数
の高圧空気噴射口と,連通させて複数の高圧空気噴射口よりバーナ噴
射の焦点を集中指向するように吐出させることができるようにしたタ
ーボジェット式高温高速バーナ」
である点で一致する。
〈相違点a〉
本件特許発明1では,バーナノズルと管から成る高圧空気噴射口を
設ける部材を基板部とし,該基板部は,燃焼室の中心線に直交するも
のとするとともに,高圧空気噴射口の先端が燃焼室内に突出している
のに対し,甲2発明では,該部材は,円錐状の部材であって,高圧空
気噴射口が,筒状流路を備えた噴射口である点。
〈相違点b〉
本件特許発明1では,外部より燃焼用空気を導入して燃焼室で熱交
換できるようにするとともに,内側管流路及び外側管流路の一方を燃
焼用空気と連通する連通管と接続し,他方を管から成る高圧空気噴射
口と連通接続できるようにしているのに対し,甲2発明では,燃焼室
で熱交換する流体は冷却水である点。
〈相違点c〉
本件特許発明1では,燃焼用空気は,それぞれ旋回的に集中指向す
るように吐出するものであるのに対し,甲2発明では,該構成は不明
である点。
(ウ) 本件特許発明2との対比
〈一致点〉
上記(イ)に同じ
〈相違点a∼c〉
上記(イ)に同じ
〈相違点d〉
本件特許発明2が,燃焼室の直径絞り部の直径絞り率を0として,
前記燃焼室の形状を略々同一径の円筒形状に形成したものであるのに
対し,甲2発明は,該構成を具備しない点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,審決には以下のとおりの誤りがあるから,違法として取り
消されるべきである。
ア 取消事由1(甲2発明についての認定の誤り)
(ア) 「エア噴出孔」につき
審決は,甲2発明における「エア噴出孔」について,「…複数のエア
噴出孔は,噴出目標である,インジェクタの中心線前方の焦点をそれぞ
れ集中指向する… 」(審決8頁3行∼6行)から,インジェクタの中心
線前方の焦点をそれぞれ集中指向するものであると認定する(審決8頁
26行∼27行)

しかし,甲2公報には,それぞれのエア噴出孔6がインジェクタの中
心線に沿う方向を向いていることは記載されていても,それを超えて中
心線上の焦点という特定の噴出目標に対して噴出する旨の記載は見当た
らない。そうすると,甲2公報に記載の複数のエア噴出孔6は,単に燃
焼筒内に噴出する態様が理解されるだけのものであって,特定の焦点を
噴出目標として持つものであるとはいえない。
しかも,仮に,甲2発明が特定の焦点を噴出目標として持つものであ
るとしても,一般に「焦点」といった場合は特別の断りがない限り一つ
の焦点を意味すると解釈されるものであり,本件特許発明1も一つの焦
点を集中指向するものである。ところが甲2発明のエア噴出孔6は円錐
面において二重の同心円状に配置されており,内側の同心円上に設けら
れた孔群と外側の同心円上に設けられた孔群とは同心円の半径が異なる
ことにより別々な二つの焦点を持つことになり,本件特許発明1とは異
なるものである。
したがって,審決の上記認定は誤りである。
(イ) 「筒状流路」につき
審決は,甲2発明が「筒状流路」を有するエア噴出孔6を備える旨認
定する(8頁27行 )。しかし,「筒状流路」とは,流路が筒で形成され
たものをいうのに対し,甲2発明におけるエア噴出孔は単に円錐状の板
状部材を穿孔して形成された貫通孔にすぎず,筒で形成された流路とは
いえない。したがって,審決の上記認定は誤りである。
(ウ) 「外側スワーラ」につき
甲2発明は,従来の火炎ジェットバーナでは灯油と空気では直接着火
できなかったため,着火時に少量の酸素を供給していたが,酸素供給に
よるバックファイヤの危険性があり,このバックファイヤの危険性を完
全に除去するため,酸素の供給をすることなく空気のみで着火させるこ
とができるようにすることを課題とし,その課題解決のための手段とし
て,燃料噴射のインジェクタの周囲に穿設した3∼4割の空気を同心円
状に配置した多数の「エア噴射孔(6 )」から噴出させ,残りの7∼6
割の空気を「外側スワーラ(7 )」から噴出させる構成を採用し,これ
により,着火が容易となるように燃料を噴霧化する着火用の空気を,全
量ではなく,3∼4割に限定した一部の空気を用いて多数の「エア噴射
孔(6)」から噴射して燃料を着火させるという作用効果を奏させるよ
うに構成し,残りの大半の7∼6割の空気は「外側スワーラ(7)」か
ら旋回流として噴出し,燃焼筒内壁面に空気の薄膜を作り,燃焼筒内部
の高温ガスが直接燃焼筒内壁面に接触するのを妨げ,燃焼筒内壁面の保
護用として使用した後に燃焼筒内の燃料の燃焼に供するという作用効果
を奏させるものとして構成したことを発明の技術的思想としたものであ
る。
したがって,甲2発明においては,「エア噴射孔(6 )」とともに「外
側スワーラ(7)」の構成を備えることは,必須の要件というべきであ
る。
イ 取消事由2(本件特許発明1と甲2発明との一致点及び相違点a認定の
誤り)
(ア) 審決は,甲2発明における「エア噴出孔6」は本件特許発明1にお
ける 高圧空気噴射口」
「 に相当するとして 審決11頁下5行∼下4行)
( ,
両発明は「高圧空気噴射口」を有する点で一致する旨認定する。
しかし,本件特許発明1の「管から成る高圧空気噴射口」は,ターボ
ジェット式高温高速バーナにおいて,熱交換されて加熱された外部から
導入した空気の全量を燃焼用空気として燃焼室内に吐出するもので,空
気と燃料を高圧,高温の下に高速拡散させて燃焼速度が早い乱流燃焼速
度による高温高速の燃焼ガスを作る高効率の燃焼バーナとして機能させ
るものである。
一方,甲2発明の「エア噴出孔6」は,燃焼用空気の全量を噴射する
ものではなく,燃焼用空気の一部である3∼4割の空気を噴出するもの
であって,インジェクター4から噴射された灯油噴霧と衝突し,灯油 燃

料)の噴霧性を助長するための燃料噴霧性助長用としてのものである。
すなわち,甲2発明におけるエア噴出孔6は点火棒9の位置とほぼ同じ
位置に設けられ,このためエア噴出孔6から出た空気は灯油噴霧と衝突
して前記噴霧性の助長により燃料を微粒化し,着火用の点火棒9によっ
て予混合火炎(1次燃焼)として点火される着火用の空気として理解さ
れるべきものである。そうすると,「エア噴出孔6」は燃焼筒側への噴
出当初において着火用(1次燃焼用)に用いられる空気の噴出孔という
べきものであることは明らかである(本来の燃焼は,その点火後に,予
混合火炎の未燃ガスが残りのスワーラ7からの大半の燃焼用空気と混合
されて拡散火炎となって2次燃焼に供されることで行われる。。

このように,両者はその技術的意義に大差があるから,甲2発明の エ

ア噴出孔6」は本件特許発明1の「高圧空気噴射口」に相当するもので
はない。
(イ) また,審決は「…複数の高圧空気噴射口よりバーナ噴射の焦点を集
中指向するように吐出させることができるようにした… 」(12頁15
行∼16行)点を一致点として認定したが,前記アのとおり,甲2公報
のどこにも「エア噴出孔6」がバーナ噴射の焦点を集中指向するように
吐出させる旨の記載は見当たらないから,誤りである。
(ウ) 以上のとおり,甲2発明の「エア噴出孔6」は,「筒状流路を備えた
噴射口」といえるものではなく,また,本件特許発明1でいう「管から
成る高圧空気噴射口」に該当するものでもないから,これを前提とする
審決の相違点aについての認定もまた,誤りである。
ウ 取消事由3(本件特許発明1と甲2発明との相違点c認定の誤り)
審決は,相違点cを前記(3)イ(イ)のとおり認定するが,本件特許発明1
においては,燃焼用空気を「バーナ噴射の焦点をそれぞれ旋回的に集中指
向するように吐出するようにする」ことが発明の本質的な技術的意義を有
する構成であって,単に燃焼用空気を「それぞれ旋回的に集中指向するよ
うに吐出する」構成としたものではない。そうすると,相違点cのように,
本件特許発明1の構成から有意義な「バーナ噴射の焦点」の構成を切り離
して ,「それぞれ旋回的に集中指向するように吐出するようにする」との
構成に分離して本件特許発明1の本質的部分の構成を対比判断することは
妥当でない。
したがって,前記審決の前記相違点cの対比判断の仕方は,本件特許発
明1の燃焼用空気の吐出する構成に係る技術的意義を正しく反映しないも
のであるから,誤りである。
エ 取消事由4(上記相違点aについての判断の誤り)
(ア) 周知技術についての認定につき
a 審決は,本件特許発明1の構成中 ,「高圧空気噴射口を管から成る
ものとし,その先端を燃焼室内に突出したものとすること」は,本件
出願前に周知であるとし,その根拠として,特開平8−28871号
公報(発明の名称「ガスタービン燃焼器」,出願人 株式会社日立製作
所,公開日 平成8年2月2日,甲14。以下「甲14公報」という。

及び特開平6−229510号公報 発明の名称 低NOx燃焼装置」
( 「 ,
出願人 株式会社巴商会,公開日 平成6年8月16日,甲15。以下
「甲15公報」という。)を挙げるが(審決13頁2行∼5行 ),甲1
4公報・甲15公報のいずれも周知技術に該当するものではなく,審
決の上記認定は誤りである。
b 甲14公報
(a) 甲14公報には,「ガスタービン燃焼器」に係る「円筒形予混合
器(8)」の円筒形の「予混合旋回バーナ(4)」が記載されている
が(段落【0022】参照),この「予混合旋回バーナ(4 )」は要
するに燃料噴射バーナであり,気流微粒化式の一種の燃料噴射手段
に相当するものであるから,本件特許発明1の「管から成る高圧空
気噴射口」の構成とは関係がなく,その周知例とはなり得ない。
これを詳述すると,上記「円筒形予混合器(8)(段落【002

2】)は,液体燃料と空気との予混合気による燃料濃度の混合比の
ばらつきや不均一な火炎温度分布の発生を防ぎ(段落【0004】
∼【0007】参照),燃焼器全体に希薄で均一な燃料濃度の混合
気流を形成して排出中のNOx濃度を低減するためのものであり
(段落【0014】【0016】【0025】参照) 円筒形の「予
, , ,
混合旋回バーナ(4 )」の吐出口には旋回羽根(スワーラ)が設けら
れているものである(甲14公報図1∼図5参照 )。そして,燃焼
用空気は,ガスタービン燃焼器の内筒壁1に穿設された複数の孔か
ら第二燃焼室2内へと噴射されるものである(段落【0023 】,
図1参照)

したがって,「予混合旋回バーナ(4 )」は,燃料を空気と予混合
した燃料噴射器としての「燃料の吐出口」であって,本件特許発明
1のような「燃焼用空気の噴射口」ではない。
(b) さらに付言すると,この「予混合旋回バーナ(4)」の「スワー
ラ」は,必然的にスワーラの旋回羽根により,予混合旋回気流(1
3b)とするために吐出速度が抑えられ,燃焼室内での燃焼速度も
遅く抑えられるものであって,本件特許発明1のように衝撃波が出
るような爆発的な高速燃焼を起こさせて燃料ガスを高速で吐出する
技術的意義を有するものではないから,この点においても ,「ガス
タービン燃焼器」の「予混合旋回バーナ(4 )」は,本件特許発明
1の技術思想に係る「管からなる高圧空気噴射口」の構成とは,関
係がないものである。
(c) また,甲14公報記載の「予混合旋回バーナ(4)」は,ガスタ
ービン燃焼器の燃料噴射バーナにおいて,円筒中に設けたスワーラ
としての旋回羽根を利用して,予混合気の混合を促進する旋回筒状
噴流として液体燃料を噴霧化して噴射する機能を有するものであ
る。これは,当業者に一般に知られている「予混合予蒸発燃焼器」
(A.H.Lefebvre 著/佐藤幸徳監訳「ガスタービンの燃焼工学 」〔日
刊工業新聞社,1994年〔平成6年〕11月30日初版1刷発行,
甲23〕20頁,21頁図1.7参照)ないし特開平9−4267
2号公報(発明の名称「ガスタービン燃焼器 」,出願人 株式会社日
立製作所,公開日 平成9年2月14日,甲34)における旋回羽
根を有する「予混合メインバーナ(10) (段落【0013】∼【0

029】参照)に相当するものであるところ,このスワーラ(旋回
羽根)の構造は,甲2発明の形状とは異なる。
(d) さらに,甲14公報記載の「予混合旋回バーナ(4 )」は,前記
のようにガスタービン燃焼器であり,審決はこれを本件特許発明1
におけるジェットバーナのインジェクタに対応するものとして認定
したようであるが,ジェットバーナとガスタービン燃焼器とは,そ
の燃焼排出ガスの生成に関する本質部分において互いに技術思想を
異にするものである。
すなわち,ガスタービン燃焼器は,燃焼室内で高温高圧の燃焼ガ
スを形成し,この燃焼ガスがガスタービン室に導入されて膨張し,
ガスタービンを駆動した後,低温低圧の燃焼ガスとなって排出され
るものであって,前記燃焼室内に噴射される噴霧化燃料は,パイロ
ットバーナからの燃焼ガスで着火されて燃焼し,その予混合メイン
バーナの燃焼ガスがタービンへ供給され,その燃焼ガスをタービン
翼に衝突させることにより動力を発生するという本質的な技術的意
義を有するものであるから,ジェットバーナのように衝撃波が出る
ような高温高速の燃焼ガスは,タービン翼を損傷する要因となるた
め生成しないのであって,この点において両者は本質的な相違があ
る。
審決は,このジェットバーナとタービン燃焼器との本質的な相違
点を看過し,両者の技術的相違を混同して周知技術として判断した
ものである。
(e) しかも,甲14公報記載の予混合メインバーナの燃焼ガスは,
タービン室に導入されてタービン翼に衝突させられることでタービ
ンを駆動するという技術的な制約があるため,タービン翼(動翼,
静翼)を破損しないよう,タービンが許容できる温度分布とするよ
うに出口の流れの温度を平均化する要求があり,そのため当然に旋
回羽根(4)により前記予混合メインバーナからの燃焼ガス速度は
減速され,超音速とはならないものである。つまり,衝撃波が発生
するような高温高速の高エネルギーの燃焼ガスにすると,高温と発
生する燃焼振動でタービンが破損する不都合が生じることは,当業
者に周知の事項である。
そして,上記予混合器からの混合気の流出方向が中心線方向に向
かっているのは,短い距離でパイロットバーナからの燃焼ガスとの
混合と着火を促進する必要から,パイロットバーナからの高温ガス
流に傾けた未燃予混合ガスと高温ガスとの混合により燃焼させる構
造にするためと考えられるものである。これは,本件特許発明1の
ような管からの燃焼空気供給という技術思想とはまったく別異の技
術思想である。
c 甲15公報
甲15公報に記載された「噴気ノズル12 」(甲15公報の図1∼
6参照)」又は「ノズル管28」(同図7参照)は,低NOx燃焼装置
のガスバーナーの空気供給ノズルであって,管状のものではあるが,
いずれも空気を中心線前方の焦点を旋回的に集中指向するように設け
られたものではない。
また,上記ノズル管28は,ウインドボックス25の前面に傾斜し
て取付けたものであるが,甲15公報記載の発明において,ノズル管
28から噴出する三次空気は,炉内の燃焼排ガスを吸引混合し,再度
燃焼に供するという循環作用を有するものであって(甲15公報段落
【0003】参照),本件特許発明1のように,中心線前方の焦点を
旋回的に集中指向するように吐出させたり,衝撃波が出るような爆発
的な高速燃焼を起こさせるものではないから,本件特許発明の技術的
意義を有する「管からなる高圧空気噴射口」の構成とは異なる。
(イ) 動機付けの欠如
審決は ,「…管から成る高圧空気噴射口の先端が燃焼室内に突出して
いるものとした点は,周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得た
ものである。(13頁12行∼13行)と判断した。

しかし,本件特許発明1の「管から成る高圧空気噴射口」は,単に先
端が燃焼室内に突出しているものではないから,審決の上記判断は請求
項1に記載の有意義な構成をいたずらに分離判断するものであり,バー
ナ噴射の焦点を旋回的に集中指向する「管から成る高圧空気噴射口」の
構成の技術的意義を正しく反映しない判断であるから,以下に述べると
おり誤りである。
a 「エア噴出孔6」と「管から成る高圧空気噴射口」の技術的意義
前記イのとおり,甲2発明の「エア噴出孔6」は,孔径1∼2mm
の多数の「エア噴出孔6」を同心円状に配置して燃料の噴霧性を助長
するようにしたものであって,このような燃料の噴霧性の助長は, エ

ア噴出孔6」の出口における空気の高い拡散性を利用することにその
技術的意義を有するものであり,この空気の高い拡散性によって液体
燃料の噴霧性を助長する作用が発揮されるものであることは明らかで
ある。
したがって,このような甲2発明の液体燃料の噴霧性を助長する機
能を有する「エア噴出孔6」に,液体燃料の噴霧性助長の機能を有し
ない空気噴射管を「管から成る高圧空気噴射口」として置換適用する
ことについては,その置換をすることの示唆や動機付けも必然性もま
ったく存在しないものであるから,当業者が容易に想到し得たもので
はない。
b 置換適用の動機付け
甲2発明の「スワーラ(7,16 )」は,ヘリカル溝・旋回溝等の
螺旋状の空気通過溝として形成されたスワーラ溝であって,一定のピ
ッチで形成された螺旋状の溝から急傾斜角度で連続的な燃焼筒内周面
方向への空気の噴出により燃焼筒内周面に空気の膜をつくるとともに
その内周面方向の旋回流を形成させるという特殊な機能を付与するた
めの独特のスワーラ溝の構造であり,本件特許発明1のように,焦点
を集中指向する空気噴射管では得られない機能を持つものある。
そして,このような特殊な機能を有する甲2発明の「スワーラ」を
「管から成る高圧空気噴射口」に置換適用することについて,その示
唆や動機付けや必然性がまったく存在しないのであるから,当業者が
容易に想到し得たものではない。
c 永年の課題と解決
空気系ジェットバーナの設計は試行錯誤法であり,燃焼用空気の供
給方法についても単純に設計変更が考えられるものではなく,本件出
願時(平成9年9月5日)における空気系ジェットバーナの技術水準
においてはスワーラ方式が中心であって,それ以外の形式を発表した
形跡はない。少なくとも管の噴射口から燃焼用空気を吐出させる技術
思想は,ジェットバーナの第一線の研究者である被告Y1らが198
0年(昭和55年)3月に「空気・ケロシンジェットバーナーの燃焼
計算」と題する研究 日本鉱業会誌'80-3,
( VOL.96,NO.1105,P.148-152,
甲28)を発表して以来,17年余りの永年の間着想し得なかった課
題と解決であることが何よりの証拠である。
d 新規な技術思想の創作
本件特許発明1は,被告Y1らが着想し得なかった手法を,本件特
許発明者Bが研究を重ねた結果,はじめて技術思想として空気噴射管
を高圧空気噴射口として採用するとともに,これを用いて燃焼用空気
が中心線前方のバーナ噴射の焦点を旋回的に集中指向させて吐出する
ことができるように構成することで新規な技術思想の創作をなし得た
ものである。
e 予混合旋回バーナの適用の困難性
仮に, エア噴射孔6」
「 に甲14公報記載の 予混合旋回バーナ 4)
「 ( 」
を置き換えたとしても,3∼4割の一部空気が供給される噴射口とし
て旋回羽根(フィン)付きの「予混合旋回バーナ(4 )」による予混
合燃料の噴射口が得られるだけであり,燃焼空気の大半を占める残り
の7∼6割の旋回流用の空気を噴出させる「外側スワーラ(7 )」の
構成からなるスワーラ構造は維持されたままであるから,本件特許発
明1の構成及び作用効果が得られるものではない。
したがって,甲2発明に甲14公報記載の 予混合旋回バーナ 4)
「 ( 」
の技術を適用することの動機付けは,存在しない。
f 「ノズル管」の適用の困難性
甲2発明に甲15公報記載の「噴気ノズル(12 )」又は「ノズル
管」の技術を適用しても,この「噴気ノズル(12 )」又は「ノズル
管」は,前記した甲2発明の課題に寄与するものではなく,甲2発明
の「エア噴射孔6」に代えて,3∼4割の空気を用いた「噴気ノズル
(12)」又は「ノズル管」による再循環燃焼方式の燃焼空気供給構
造が得られるにすぎず,しかも,燃焼空気の大半を占める残りの7∼
6割の旋回流用の空気を噴出させる「外側スワーラ(7 )」のスワー
ラ構造は維持されたままであるから,再循環燃焼方式とスワーラ構造
からなる二重の空気供給構造の構成となるものであって,本件特許発
明1の構成及び作用効果が得られるものではない。
したがって,甲2発明に甲15公報記載の「噴気ノズル(12 )」
又は「ノズル管」の技術を適用することの動機付けは存在しない。
オ 取消事由5(上記相違点bについての判断の誤り)
審決は,燃焼用空気を導入して熱交換できるようにするとともに,両流
路の一方を燃焼用空気と連通する連通管と接続し,他方を管から成る高圧
空気噴射口と連通接続できるようにすることは,本件出願前に周知の技術
であったとし,その根拠として,Y1著「フレームジェット・エンジニア
リング入門」(1995年〔平成7年〕4月3日産業図書株式会社発行,
甲1。以下「甲1文献」という 。,特開昭59−137714号公報(発

明の名称「バーナ装置」,出願人 太陽電気株式会社,公開日 昭和59年
8月7日,甲12。以下「甲12公報」という。,実願昭51−1140

57号(実開昭52−33738号。考案の名称「燃焼装置 」,出願人 株
式会社日立製作所,公開日 昭和52年3月9日,甲13。以下「甲13
公報」という。
)を挙げる。
しかし,甲1文献,甲12公報及び甲13公報には,いずれも燃焼用空
気を導入して熱交換する点が記載されているのみであり ,「管から成る高
圧空気噴射口」と連通接続できるようにする点の記載はないから,審決の
前記相違点bの認定判断は根拠がなく,誤りである。
カ 取消事由6(上記相違点cについての判断の誤り)
(ア) 審決は,燃焼用空気をそれぞれ旋回的に集中指向するように吐出す
ることは本件出願前に周知の技術であったとし,その根拠として,特開
昭58−136907号公報(発明の名称「融合燃料専焼バーナー 」,
出願人 ゼネラルエンジニアリング株式会社,公開日 昭和58年8月1
5日,甲4。以下「甲4公報」という 。,特開平6−265109号公

報(発明の名称「プラズマ助燃燃焼炉用バーナー」,出願人 新日本製鐵
株式会社,公開日 平成6年9月20日,甲5。以下「甲5公報」とい
う。)及び甲14公報を挙げるが,以下に述べるとおり,誤りである。
(イ) 甲4公報
a 審決は,甲4公報の記載に関し,「また,図面を参照すると,甲第
4号証には,高温高熱バーナーニオイテ,インゼクターに形成された
酸化剤噴射孔は,バーナの中心線前方の焦点をそれぞれ旋回的に集中
指向すること…が記載されている。(10頁14行∼17行)とする

が,甲4公報には「焦点」の記載はなく,したがって,甲4公報に記
載のインゼクターにおいて,酸化剤噴射孔は焦点をそれぞれ旋回的に
集中指向するものでない。
b また,酸化剤噴射孔(6)は,燃焼筒(1)の内周壁面方向に向か
って開口するものであり,燃焼筒(1)の内周壁面方向に旋回流とし
て酸化剤を噴射するものであって,甲1文献記載の発明と同じく,内
周壁面を冷却した後,燃焼に供されるスワーラの一種であると理解す
るのが相当である。
すなわち,甲4公報の特許請求の範囲には「回転集中力」との記載
があるが, 「回転集中力」
この の用語の意味を検討すると,燃焼筒 1)

内における酸化剤の流れの経過の中で,まず,それぞれの酸化剤噴射
孔(6)(6)から酸化剤を内周壁面方向に向かって継続的に噴射す

ることによって初期噴射流を与え,次いで,この初期噴射流が燃焼筒
(1)の内周壁面に衝突することにより,該内周壁面の曲面に誘導さ
れて内周壁面に沿って流れる回転流(旋回流)を形成させ,この回転
流が燃焼筒(1)内の中央部分及び周辺部分において滞留している循
環流などの流体を,それぞれの噴射孔(6 )(6)からの噴流とその

粘性により巻き込むことで,次第に燃焼筒(1)内の全体的な回転の
流れを促進的に形成し,さらに,その流れの下流において,この全体
的な回転の流れが燃焼筒(1)の出口(吐出口)に向かう過程で 1 つ
に集中せしめられた回転の流れへと遷移するものであり,このような
燃焼筒(1)内の内周壁面に沿う噴流の遷移過程で,最初に,それぞ
れの酸化剤噴射孔(6)(6)から噴射する初期噴射流が,下流にお

いて,1 つに集中せしめられた全体的な回転の流れを形成するために,
前記した初期噴射流を与える力を ,「回転集中力」と呼んでいるもの
と理解されることは,当業者に自明である。
したがって,甲4公報の「回転集中力」という用語の技術的意義は,
前記した「スワーラ」の一種に属するというべき技術的意義を有する
ものであり,本件特許発明1の「焦点をそれぞれ旋回的に集中指向す
る」という直接的な燃焼空気の供給技術としての意義を有するものと
は相違するものである。
しかも,前記したように,酸化剤の噴射方向が内周壁面方向に向か
うものであるという理解は,特許請求の範囲における「酸化剤噴射孔
(6)の捻れ角度によって酸化剤に回転集中力を与え,この集中回転
渦巻の渦中に燃料を噴射せしめる」と明記された記載に合致する理解
であるといえる。すなわち,燃焼筒(1)の内周壁面方向に噴射され,
内周壁面に沿って回転するように回転力が与えられた渦巻の中心部で
ある渦中に酸化剤の燃料を噴射せしめるものであることは明らかであ
る。
c さらに甲4公報記載の発明は,燃焼筒(1)が2500℃に発熱す
るものであり(1頁右欄下4行),この発熱は,回転流を与えるスワ
ーラによる内周壁面部の燃焼で,燃焼筒(1)の内壁面が燃焼炎に接
して加熱されるためである。本件特許発明1のように,焦点付近の燃
料リッチな主流での局所的な燃焼であれば,主流部で完全燃焼が行わ
れ,内周壁面部での燃焼は行われないため,燃焼筒(1)が2500
℃もの高温度に加熱されることはない。
したがって,この場合の「酸化剤に回転集中力を与える」ことによ
るスワーラの作用効果は,点火による燃焼が集中回転渦巻の酸化剤と
接触する噴射された燃料の外周縁からの燃焼炎伝播となることも,当
業者に明らかである。そうすると,このような甲4公報に記載された
発明の燃焼現象の作用効果は,明らかに本件特許発明1の噴射された
燃料の中心部(焦点付近)の燃料リッチな主流での燃焼現象の作用効
果とは異なるものである。
(ウ) 甲5公報
甲5公報記載の発明は,バーナタイル(13)の周壁に貫通孔として設
けられた二次空気供給孔(9)を有するものであるが,この二次空気供
給孔(9)は,図1の旋回矢印で示されることからみて ,「スワーラ」
であって ,「管」から成る二次空気供給孔でないことは明らかであり,
また,この二次空気供給孔(9)がプラズマトーチ(5)の中心線上の
焦点をそれぞれ旋回的に集中指向する旨の記載もなく,その示唆も見出
すことはできないから,甲5公報記載の発明を前記周知技術の根拠とし
て認定判断した審決は誤りである。
(エ) 甲14公報
甲14公報に記載の発明に係る「ガスタービン燃焼器」の「予混合旋
回バーナ(4 )」は,前記のとおり燃料噴射手段であって,燃焼用空気
を噴射する「管」から成る供給手段ではない。
(オ) 燃焼用空気の集中性と直進性
審決は,14頁7行∼19行において ,「焦点をそれぞれ旋回的に」
に関する原告の主張を排斥したが,請求項1に記載の「焦点をそれぞれ
旋回的に」との記載事項について, 焦点を」の字句を事実上無視して,

単に「それぞれ旋回的に」との解釈の前提に立って判断したものであっ
て,誤りである。
本件特許発明1に係る請求項1に記載の前記「焦点」は,請求項1及
び特許明細書の発明の詳細な説明で記載したとおり,バーナノズルの中
心線前方のバーナ噴射の焦点を意味するものであって,図面中に符号1
4で示すバーナノズルの中心を通る燃焼室内の中心線上の1点として図
示された「バーナ噴射の焦点」であることが自明である。
そして, バーナ噴射の焦点をそれぞれ旋回的に集中指向する」とは,

その記載から「焦点」そのものは点であるので,この点を旋回的に指向
することはできないことは自明であるから,指向先は「焦点」そのもの
ではなく,複数の管から成る高圧空気噴射口のそれぞれの指向先が, 焦

点」を囲む外延上の1点,つまり,「焦点」から半径方向に若干離れた
仮想上の同心円上の1点を右回り又は左回りに旋回して互に重なること
なく順次にずらしつつ指向するようにしたことを「バーナ噴射の焦点を
それぞれ旋回的に」と表現し,かつ,この高圧空気噴射口をバーナノズ
ルの半径方向外方に設けた複数の外周環状位置から,それぞれの高圧空
気噴射口の指向先が中心線上の「焦点」の方向へ直進的に集中的に集約
されるように指向することを「集中指向する」と表現したものであると
理解されることは,当業者に自明である。
この場合,仮に,基板部のバーナノズルの外周環状位置に設けられた
複数の管から成るそれぞれの高圧空気噴射口から,前記「焦点」を集中
的に指向して燃焼用空気を吐出するとの解釈に立てば,噴射空気流が管
からの直進性により当該「焦点」の1点に集中することになって互いに
衝突し合い,旋回流にはならないことは明白であって,本件特許明細書
(甲17)の段落【0017】の記載とは矛盾し相容れないものとなる
から,当業者にとって採用し得ない解釈となるものである。
したがって,当業者は,本件特許明細書の旋回流になるとの記載事項
と請求項1全体の記載事項とを併せ考えれば,前記のように,「焦点を
それぞれ旋回的に」とは,外周環状位置から中心部の「焦点」そのもの
を目標として集中的に指向するのではなく,「焦点」からは半径方向に
若干離れた仮想上の同心円上のそれぞれの点に向けて,右回り又は左回
りとなるように,それぞれが旋回的に指向するように「複数の管から成
る高圧空気噴射口」より燃焼用空気を吐出することを意味すると理解で
きることは,当該記載から自明である。
キ 取消事由7(作用効果についての判断の誤り)
(ア) 予測できる作用効果につき
審決は,原告が主張する作用効果は,甲2発明,周知技術から当業者
が予測できる作用効果,又は特許明細書に記載のなかった作用効果のい
ずれかであるから,採用できず,本件特許発明1は,甲2発明及び周知
技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると
判断したが(15頁16行∼16頁6行 ),審決の本件特許発明1の作
用効果に対する判断は,本件特許発明1の構成が甲2発明及び周知技術
に基づいて,当業者に容易に発明できたものであるとの誤った前提に立
つものであり,既に述べたように,その前提そのものが誤りであって理
由がないものであり,失当である。
(イ) 当然の効果につき
審決は ,「流路内に燃焼用空気を流通させ,これにより熱交換させて
高圧高温状態の活性化空気として供給するようにした点は,甲第1号証
記載の発明等の周知技術が具有する構成であり,該技術を適用すれば,
当然,奏される効果である 。(15頁16行∼19行)とするが,本件

特許発明1のジェットバーナの技術的意義を正解しないものである。
既に述べたように,審決引用の各甲号証発明及び周知技術のいずれに
も,本件特許発明1の上記構成が本件出願前公知又は周知である証拠は
ないから,審決の上記判断は根拠も理由もない。
(ウ) 技術常識の判断につき
審決は ,「多数の空気噴出孔から吐出される燃焼用空気を,吐出目標
である焦点まで,等距離の位置から均等に吐出する程度のことは,当業
者が通常持ち得る技術常識といえる。」(15頁20行∼22行)とす
る。
しかし,本件特許発明1のように,管から成る高圧空気噴射口から燃
焼用空気をバーナ噴射の焦点をそれぞれ旋回的に集中指向するように吐
出させるようにした技術内容を開示する証拠は,既に述べたように存在
せず,審決が指摘するような燃焼用空気を吐出目標である燃焼室の中心
線上の焦点まで吐出させることを教示する証拠も存在しないから,当業
者が通常持ち得る技術常識とはいえない。
(エ) 記載から自明な作用効果
審決は ,「噴霧化燃料内部に浸入させること,外周炎を突き破って,
液滴粒子の大きい燃料粒子群の主流に対して直接的吐出供給すること,
中心部分の主流での完全燃焼をすることについては,特許明細書から把
握することができない効果である。(15頁23行∼26行)と判断す

るが,これらは発明者Bが現象的に確認していた事実を明細書に記載し
た内容に基づき,近年に解明された燃焼理論によって,原告が本件特許
発明1の構成に基づく当業者に自明なジェットバーナの燃焼技術の作用
効果として主張したものであるから,審決の判断は失当である。
また,審決は, 中心部分における希薄燃焼,窒素酸化物の排出減少,

燃焼室内周壁付近での損傷防止については,いずれも特許明細書に記載
のない作用効果である。(15頁27行∼29行)とするが,この点も,

同様に本件特許発明1の構成に基づいた当業者に自明なジェット式バー
ナ燃焼技術の作用効果であるから,審決の判断は失当である。
(オ) 予測を超える顕著な作用効果
本件特許発明1は,次のような顕著な作用効果を奏するものである。
それにもかかわらず審決は,本件特許発明1のこのような格別顕著な作
用効果を看過したものであって,本件特許発明1の作用効果についての
審決の判断には誤りがある。
a 燃焼用空気が燃焼室で発生する高圧高温の熱エネルギーを燃焼室を
構成する円筒材料中に流通できる流路を形成し,この流路内に燃焼用
空気を流通させ,これにより熱交換させて高圧高温状態の活性化空気
として供給しているので,燃焼室内での燃焼ガスは著しく高温高熱状
態を生成でき,きわめて効率の高い燃焼バーナとして機能させること
ができる(甲17,段落【0028】。

b バーナノズルから噴射される噴霧化燃料内部の前記焦点へと熱交換
された高温高圧の燃焼用空気を焦点まで等距離の外周環状位置から直
線的に均等に吐出して,中心線上の焦点を旋回的に集中指向して噴霧
化燃料内部に侵入させて,高圧空気の旋回流を与えることができる 段

落【0017】。

c バーナノズルから円錐状に拡散して着火燃焼する噴霧化燃料に対し
てほぼ直角方向から燃焼用空気を叩きつける(段落【0024 】)よ
うにしてその拡散する着火燃焼炎の外周炎を突き破って ,「燃焼速度
が遅い未燃物(未燃噴霧化燃料)として存在する」 段落【0013】
( )
ところの噴霧化燃料中心部分の比較的高密度で液滴粒子の大きい燃料
粒子群の主流に対して直接的に吐出供給する(段落【0023 】)こ
とができる。
d 前記した高温高圧の十分熱交換された燃焼用空気を,前記液滴粒子
の大きい燃料粒子群の主流に対して到達可能として,この高圧高温状
態に加熱されて活性化(段落【0028】 された当該燃焼用空気を,

噴霧化燃料の前記主流に供給することで,「完全に空気と混合して未
燃物(未燃噴霧化燃料)が無いと言う」(段落【0013 】)化学反応
速度を高速化した完全燃焼の状態を作り出すことができる。
e 本件特許発明1は ,「前記燃焼室で熱交換される燃焼用空気を,…
焦点をそれぞれ旋回的に集中指向するように吐出させることができる
ようにしたことを特徴とする」との構成(以下「構成e」という 。)
を備えることにより,「燃焼速度(化学反応速度)を高速化して,従
来の現象と異なる速度で燃焼させ 」(段落【0012 】 ,爆発的な燃

焼(段落【0024】)により,従来の燃焼室を水冷式とした場合の
時より燃焼ガス温度が15∼30%高くなり,空気だけで2300℃
を超える高温の燃焼ガス温度と,音速を越すガス速度(段落【002
5】)が安定的に得られる。
f 構成eを備えることにより,このように燃焼室中心部分の主流での
完全燃焼となるため,燃焼室全体の容積を基準とする従来の空燃比で
はなく,中心部分の高密度の主流部分の局所的な容積を基準とした従
来よりも低い割合の空燃比で燃焼させる希薄燃焼が実現可能となり,
「単位時間,単位体積当たりの燃焼量が著しく増加する 」(段落【0
013】)ことで,燃費効率においても,燃料の消費量も大幅に節約
可能となる「きわめて効率の高い燃焼バーナとして機能させることが
できる」(段落【0028】)という従来にはない顕著な作用効果を奏
する。
g 構成eを備えることにより,前記希薄燃焼の実現により,燃料の液
滴が燃焼して火炎を発生する液滴燃焼を抑制し,燃料/空気を低い割
合で燃焼させることで全体としての火炎温度を低くすることができる
結果,局所的な高温部が生じないため窒素酸化物の排出を顕著に減少
させることができる。
h 本件特許発明1は,前記爆発的な燃焼が噴霧化燃料中心部分の化学
反応領域である比較的高密度で液滴粒子の大きい燃料粒子群の主流部
分において有効に前記完全燃焼が行われる(段落【0012 】【00

24】)ことから,主流での燃焼が支配的となるため,燃焼室壁面付
近の境界層が厚くなり,壁面近くでは作動流体の流速が遅くなる結果,
作動流体と壁面との熱伝達率が低くなり,壁面へ伝達される熱量は,
周知技術と比べて少なくなり,相対的に壁面の温度が低下し,燃焼室
内壁の過熱は発生せず,過熱による燃焼室内周壁の損傷を防止するこ
とができる。」という,甲2発明及び周知技術からは到底予測するこ
とのできない格別顕著な作用効果を奏するものである。
なお,本件特許発明1の作用効果については,燃料として同じ液体
燃料同士を用いた場合を中心に比較して述べたが,気体燃料や固体燃
料(微粉炭などの微細化した固体燃料)を用いた場合でも同様の格別
顕著な作用効果を奏するものである。
ク 取消事由8(審判手続の違法)
審決は周知技術の根拠として甲14公報及び甲15公報を挙げるが,こ
の判断は,原告が本件訂正において挙げた訂正事項c(請求項1に記載の
「かつバーナノズルの中心線前方のバーナ噴射の争点をそれぞれ旋回的に
集中指向する複数の高圧空気噴射口の基部と ,」を,「かつ先端が前記燃焼
室内に突出してバーナノズルの中心線前方のバーナ噴射の焦点をそれぞれ
旋回的に集中指向する複数の管から成る高圧空気噴射口の基部と ,」に訂
正する)について,被告らが平成19年11月16日付け無効審判弁駁書
(甲27,以下「本件弁駁書」という 。)でなした主張を採用したもので
ある。そうすると,本件弁駁書に記載された理由は,先に被告らが行った
無効審判請求の要旨を実質的に変更する補正に該当し,審判長はこの補正
を実質的に許可したものであるから,原告に対して,本件弁駁書の副本を
送達し,相当の期間を指定して,答弁書を提出する機会を与えなければな
らなかった。しかるに,原告はそのような答弁書を提出する機会を与えら
れずに審決に至ったものであり,本件審判手続は,実質的に,特許法13
4条2項に違反する違法がある。
ケ 取消事由9(本件特許発明2についての審決の誤り)
審決は,本件特許発明2の奏する効果も甲2発明及び周知技術から当業
者が予測できる範囲のものであるとする。
しかし,本件特許発明1に対する前記一致点及び相違点a,cについて
の審決の認定判断は誤りであり,本件特許発明2は本件特許発明1を引用
する従属発明であるから,本件特許発明2に対する審決の前記判断も誤り
である。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3 被告らの反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対し
ア 「エア噴出口」
エア噴射孔が所定の方向に指向して空気噴射されることは,空気噴射方
向を図示している甲3公報の図1及び甲14公報の図4に示されれている
ように,当業者が甲2公報の図1を見れば当然に推測できる自明のことで
ある。
また甲2公報の,エア噴出孔6は1∼2mmの小孔で,エア噴出部5に
同心円上に多数配置されているとの説明によれば,図面において上下に設
けられたエア噴出孔は,複数の異なる同心円上に各々配置されたものであ
り,同心円上に設けられた複数のエア噴出孔は,同一焦点に向けて燃焼用
空気を噴射していると,当業者は自然に認識するものである。
また原告は,焦点が2個所であると主張するが,本件特許発明1の「焦
点」は, 空気噴射方向の目標点」と解されるものであり,少なくとも「同

心円上に配置されたエア噴射孔は,焦点に指向としている」といえるもの
で,単にエア噴射口と焦点の組み合わせが多段に形成されているにすぎな
い。
イ 「筒状流路」
原告は,甲2発明の「エア噴射口」は「貫通孔」であり「筒状流路」と
は認められないと主張するが,図面上相応の厚みを備えている隔壁に対し
ての貫通孔は,空気流路としてみた場合には,方向性を与える「筒状流路」
である。
適宜な厚さを備えた隔壁に貫通孔を形成し,当該貫通孔によって空気噴
射方向を設定することは周知である。例えば前記の甲3公報の図1及び甲
14公報の図4に記載された空気流の説明や,特開平4−324009号
公報(発明の名称「液体燃料蒸発装置 」,出願人 株式会社ノーリツ,公開
日 平成4年11月13日,乙1)が貫通孔によって噴射方向を設定して
いることからも裏付けられる。
ウ 「エア噴射孔6」の技術的意義
エア噴射孔6から燃焼室内に供給される空気は,燃焼室内に供給される
空気量の3∼4割である。この燃焼室に供給される空気は,仮に燃料の噴
霧化を促進する作用があったとしても,少なくとも燃焼用として燃料と反
応することは明らかである(燃料の噴霧化を促進し,燃焼反応に寄与しな
いとはいえない)

また本件特許発明1の特許請求の範囲において,燃焼用の空気供給のす
べてが空気噴射口から供給されるとの限定記載はなく,空気噴射口からの
燃焼用空気の噴射は,必要構成要件として記載されている。
したがって,燃焼用の空気の一部(3∼4割)を燃焼室に供給する「エ
ア噴射孔」が「高圧噴射口」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
なお,甲2発明はジェットバーナの一公知例であり,本件特許発明1は
燃焼用空気の供給構造において従前装置と相違するもので,本件特許発明
1の進歩性の判断は,この燃焼用空気の供給構造の採用が容易想到である
か否かを決するものであり,甲2発明の燃焼供給構造の認定は,審決の結
論に影響を与えない。
(2) 取消事由2に対し
原告は,審決の一致点及び相違点aの認定に誤りがある旨主張するが,同
主張は甲2号証発明の認定に誤りがあることを前提とするもので,前提にお
いて理由がない。
(3) 取消事由3に対し
原告は,相違点cについて,本件特許発明1は ,「バーナ噴射焦点にそれ
ぞれ旋回的に集中指向するように吐出する」と一体不可分に認定されるべき
で,「バーナ噴射焦点」を除いて「それぞれ旋回的に集中指向するように吐
出する」と分離して相違点cを認定することが誤りであると主張するが,噴
射流で旋回流を生成する場合には,焦点が存在せず中心線に近づく噴射であ
る。仮に本件特許発明1の本質が原告の主張する「噴射方向の直進性とこれ
によって生ずる旋回流」であり,さらに「集中指向性」であるとするならば,
技術的概念的には,「噴射流による旋回流の生成」と,前記の下位概念とし
ての「旋回流生成時の集束性(目標地点の設定 )」とが観念されるので ,「旋
回的集中指向」と「焦点」とを分離したとしても不都合はなく,審決に誤り
はない。
(4) 取消事由4に対し
ア 甲14公報
原告は,甲14公報は燃料噴射バーナであり,本件特許発明1の周知例
とはならないし,ジェットバーナとタービン燃焼器は本質的に相違するな
どと主張する。
しかし,周知技術の範囲は当業者が知り得ていると想定される技術分野
であれば十分であり,必ずしも「ジェットバーナ」の技術に限定しなけれ
ばならない理由はない。そしてジェットバーナとタービン燃焼器とは,燃
焼室内に燃料と燃焼用空気を供給し,燃焼室内で燃焼させ,燃焼ガスを利
用する技術においては同一技術分野であるといえる。
したがって,燃焼技術における燃焼室への燃焼のための気体供給構造と
して一般的でありふれた ,「管状」で「燃焼室へ突出した構造」の例示と
して甲14公報を示した審決に誤りはない。
なお原告は,甲14公報に開示されている噴射バーナは燃料と燃焼用空
気とを混合した予混合気体を噴射するものであり,燃焼用空気の噴射管に
該当しないと指摘しているが,予混合気体には燃焼用空気も含まれている
から,燃焼室への燃焼用空気の供給部構造の例示として誤りはない。
また原告は,甲14公報の「噴射バーナ4」はスワーラであるとも主張
するが,甲14公報は「高圧空気噴射口が管からなるもの」の周知技術の
例示とされたものであり,管内のフィンの有無は周知技術の例示に関与し
ない。
イ 甲15公報
原告は,甲15公報についても「ジェットバーナ」に関する技術ではな
いと指摘しているが,審決は甲14公報と同様に燃焼技術分野における燃
焼空気の供給部の構造として例示したものであって,誤りはない。
ウ 甲2発明における燃焼空気供給手段の変更の容易想到性
原告は,甲2発明において燃焼空気供給構造を本件特許発明1に関する
動機付けがないとし,また被告Y1が関与するジェットバーナのすべてが
スワ−ラ方式であると主張する。
しかし,ジェットバーナの燃焼研究においては,運転状態を変更(イン
ジェクタ性能,燃焼室長さ,ノズル形状の要素条件の変更)して各種デー
タを取得し,この取得データに基づいて研究する手法が採用されているの
であるから,同一構造の機器の使用が前提となったとしても不自然ではな
く,被告Y1の関与するジェットバーナの燃焼用空気の供給構造が同一で
あったとしても,その事実が本件特許発明1の容易想到性を否認する根拠
とはならない。
また出願前公知のジェットバーナの空気供給手段は,甲2公報に開示さ
れているような外周スワーラ(6∼7割)と基板の噴射口(3∼4割)の
組み合わせ方式,甲12,13公報に示されていような燃焼室を多段形成
し,燃焼室周壁部から高圧噴射する方式,特公昭50−16281号公報
(発明の名称「火焔噴射方法と装置」,出願人 ブラウニング エンジニヤ
リング・コーポレーション,公告日 昭和50年6月12日,乙2)に示
されているような燃料噴射ノズル周囲から供給する単一方式,実開昭55
−89015号公報第3図(考案の名称「火焔ジェットバーナーの着火装
置」,出願人 旭エンジニアリング株式会社,公開日 昭和55年6月19
日,乙3)に示されているような燃焼室内壁に沿って旋回供給部と同心円
状に配置した複数の燃料噴射部の中心に設けた旋回供給部で供給する併合
方式,特開平9−21508号公報(発明の名称「ジェットバーナー 」,
出願人 株式会社太陽,公開日 平成9年1月21日,乙4)に示されたよ
うな燃焼室外壁から旋回噴射と燃焼ノズルを包む旋回噴射によって供給を
行う併合方式等が知られている。
このように ,「ジェットバーナ」の燃焼用空気は,甲2公報で示された
もの以外にも多数の方式が採用されている。
したがって「ジェットバーナ」において燃焼用空気の供給方式の検討は,
当業者にとって自明な技術開発の動機となり得るものである。
(5) 取消事由5に対し
燃焼用空気の熱交換技術として燃焼室を二重構造とすることは周知であ
り,この周知技術を本件特許発明1に組み込むと,審決のいう相違点bにな
るものであり,引用した周知技術が「管からなる高圧噴射口」を備えている
と述べているものではないと認められる。
仮に審決の文言が不適切であったとしても,その真意は十分に汲み取るこ
とができるものであり,審決の判断に影響を与えるものではない。
(6) 取消事由6に対し
ア 原告は,本件特許発明1が「焦点をそれぞれ旋回的に集中指向して」い
るのに対し,審決は「焦点」を事実上無視するものであるから,相違点c
の容易性の判断手法に誤りがあると主張する。
しかし仮に本件特許発明1が,原告の主張する噴射流自体によって旋回
流を発生するものに限定したのであれば,正確な意味で「焦点」は存在し
ない。焦点に向けて噴射した場合には旋回流が生じない。
旋回流の発生においては,左右対称でバランス良く渦流とするものであ
るから,本件特許発明1の噴射のおおむねの目標地点が「焦点」となるも
のである。また当該仮想焦点とのずれ距離の相違で旋回流の集束性の相違
が生ずることになるが,この仮想焦点と目標点のずれ距離に関する「集中
性」に関しての技術的意味合いは,本件特許発明1の明細書には全く記載
されていない。
本件特許発明1は,特許請求の範囲で,噴射流の指向性と結果的な旋回
性のみが特定されている「旋回的に集中指向するように吐出させている」
との文言表現のみであり,技術的に厳密に特定できる表現とはなっていな
い。そこで発明の詳細な説明を参酌しても,受動的に旋回流を形成するこ
とも含む記載となっている。
審決は,噴射流自体によって旋回流が生ずる燃焼用空気の供給構造にお
いて燃焼室内壁への拡散する方向ではなく,中心に向かう噴射流によって
旋回流を生成される周知例(甲4,6,14公報)を示したものである。
結果的に噴射流によって旋回流が生ずるのであれば,当然に前記噴射流
は適度な集束性(集中指向)を備えることになり,この「集中指向」とは
所定の目標点に向けられることを意味し,目標点が本件特許発明のいう 焦

点」に該当することになる。
したがって,噴射流によって旋回流を生成させる場合には,当該噴射流
は目標点である焦点(単一の集束点ではない)を有することになるもので
ある。
なお,前記の目標点が「バーナ焦点」の文言からバーナ噴射近傍である
と解されるものであったとしても,噴射流による旋回流の生成が周知であ
り,集束性を高めるために,前記噴射流のバーナ噴射近傍への指向は,当
業者にとって自然になし得る程度のものである。例えばジェットバーナに
おいて,燃焼用空気を1点に集中するように噴射することは公知である 甲

12,13公報 )。またジェットバーナ以外の燃焼技術においても,燃焼
用空気を1点に向けて噴射する構造は,甲15,16公報の従来例からも
公知である。
また甲6公報の図1,2には,焼成セラミック111に形成された空気
導入口114が明確に表示されている。
イ 甲4発明における酸化剤噴射流が,一つに集束する方向となっておらず,
また集束する説明もないので,集束個所を「焦点」と解すると,審決は甲4
公報記載の発明の認定において ,「バーナ中心前方の焦点」の点で誤ったと
解されるが,噴射流の集中指向で渦流を発生させるには噴射方向が一点に集
束することがなく必ずずれるものである。
本件特許発明1においても,噴射流自体で旋回流とする場合(明細書の 高

圧空気噴射口5は,右または左の斜め方向に屈曲させて旋回流を強制的に得
られるように構成する」との記載による構造)は,一点に集束しないにもか
かわらず「焦点」に向けるとしているものであり,噴射流自体(燃焼室内壁
の反射作用なしでという意味)によって旋回流を生じさせる手段は,本件特
許発明1の表現をそのまま採用すると,すべて「バーナの中心線前方の焦点
をそれぞれ旋回的に集中指向する」といえるものである。
(7) 取消事由7に対し
本件特許発明1の作用効果について、明細書には基本的に「熱交換された
燃焼用空気を使用すること」に基づくものが記載されているだけであって、
「旋回的に集中指向による燃焼用空気の供給」に基づくことについては、単
に燃焼が「乱流火炎伝播現象」によると説明されているにすぎない。明細書
には構成e(特に管から成る点を含む構成)に基づく作用効果は記載されて
いない。
(8) 取消事由8に対し
原告は,甲14,15公報について答弁の機会が与えなかったことは手続
違背になると主張する。
しかし,本件特許発明1は明細書に「高圧噴射口の管状構成」に関して全
く記載がなく,単に図面の「管状表示」に基づいて訂正したものであり,し
かも甲14,15公報は,本件特許発明の本質に関わりない燃焼技術におけ
る一般的な周知技術の引用であり,審決の判断の基礎となったものではない
ので,手続に違背はない。
なお原告は,本件特許発明1において「管噴射流の直進性」に基づいて,
「焦点への旋回的集中指向」が達成される点に本件特許発明1の本質がある
旨主張するが,「管状高圧噴射口」の直進性,燃料噴射部分への近接性,旋
回流の発生原理について明確な説明が全くなされていない。
したがって「高圧噴射口」を「管状」に特定したことによる種々の作用効
果の主張は,出願時に開示されていない発明に基づくものといえる 。「管か
らなる」との特定は,特別な作用効果を付随する特定ではなく,単なる構造
上の限定に過ぎず,本件特許発明の本質に関わるものでない。この点からみ
ても,甲14,15公報を原告に提示せずに審決を行ったことに手続違背は
ない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯 ),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 本件特許発明1及び2の意義
(1) 本件訂正後の請求項1及び2は次のとおりである(審決の認定と同じ )。
・ 【請求項1】高熱燃焼ガスの吐出口を先端に開口し,この吐出口近くに直径絞り部
を有する全体が円筒状に形成される燃焼室の基端基部に当該燃焼室の中心線に直交
する基板部を設け,
この基板部の中心に,前記燃焼室の中心線上に向うバーナノズルを設け,
かつ前記円筒状の燃焼室には外部より燃焼用空気を導入して熱交換できるように
すると共に,
前記燃焼室は,密閉構造の外側管状体と内側管状体と中間管状体とより成り,前
記中間管状体を介して内側管状体と外側管状体との間に内側管流路と外側管流路と
を燃焼室の前部に設けた連通部で流通可能とし,かつ両流路の一方を外部の燃焼用
空気と連通する連通管と接続し,他方を管から成る高圧空気噴射口と連通接続でき
るようにし,
前記燃焼室で熱交換される燃焼用空気を,前記基板部のバーナノズルの外周環状
位置に設けられ,かつ先端が前記燃焼室内に突出してバーナノズルの中心線前方の
バーナ噴射の焦点をそれぞれ旋回的に集中指向する複数の管から成る前記高圧空気
噴射口の基部と,連通させて複数の前記噴射口よりバーナ噴射の焦点をそれぞれ旋
回的に集中指向するように吐出させることができるようにしたことを特徴とするタ
ーボジェット式高温高速バーナ。
・ 【請求項2】前記燃焼室の直径絞り部の直径絞り率を0として,前記燃焼室の形状
を略々同一径の円筒形状に形成したことを特徴とする請求項1記載のターボジェッ
ト式高温高速バーナ。
(2) また,本件訂正後の明細書(甲25の全文訂正明細書)には次の記載があ
る。
ア 発明の属する技術分野
・ 「本発明は,主として燃焼炉や溶融炉等用に,また特に産業廃棄物の焼却等に適
するターボジェット式高温高速バーナに関するものである。 (段落【0001】
」 )
イ 従来の技術
・ 「諸産業用の各種燃焼炉,溶融炉等には,用途に応じてそれぞれ所定の高温度が
要求されるが,従来のこの種の汎用バーナにあっては,特にオイルを燃料とし,空
気のみで燃焼させた形式にあっては,燃焼空気を過熱しない限り,効率的に得られ
る温度は,ほぼ1400℃が限度であった。(段落【0002】
」 )
・ 「これよりさらに高温度を必要とする場合には,燃焼空気の加熱を行う必要があ
り,このために空気加熱炉もしくは熱交換器等が必要となり,その分の設備費と燃
料費とが加算される。(段落【0003】
」 )
・ 「また,後者の廃熱を利用する熱交換器も,燃焼空気の温度に限度があり,温度
が高くなると共に,構成鋼材コストも数倍に増加し,技術的にも困難となるが,安
定的に得られるバーナ温度は,1600℃前後が限度である。(段落【0004】
」 )
・ 「さらに高温度を必要とする場合,燃焼空気を酸素O 2 に変えると,バーナ温
度は,2000∼3500℃の高温が容易に得られる。(段落)
」 【0005】)
・ 「前記1600℃以上の高温を必要とする場合は,殆ど熔融関連に属するのが一
般的であるが,しかしながら,これらの場合,中には酸素を極度に嫌う物質があり,
例えば耐火物等はアルミナ,タンタル,人造黒鉛等,いずれも耐熱2300℃の保
証を有する場合でも,高温酸素に対しては極めて弱い。また,酸素を燃料として多
量に使用することは例えば産業廃棄物処理行等には,採算的に不可能である。(段

落)【0006】)
ウ 発明が解決しようとする課題
・ 「本発明は,以上のような諸局面にかんがみてなされたもので,燃焼室自体に燃
焼用空気の熱交換加熱機能を与え,全体として比較的低コストで高い燃焼温度と高
いガス速度の得られるターボジェット式バーナの提供を目的としている。 段落 0

」 【
007】)
エ 課題を解決するための手段
・ 「このため,本発明においては,次の各項(1)(2)のいずれかのターボンジ

ェット式高温高速バーナを提供することにより,前記目的を達成しようとするもの
である。(段落【0008】
」 )
・ 「 1)高熱燃焼ガスの吐出口を先端に開口し,この吐出口近くに直径絞り部を

有する全体が円筒状に形成される燃焼室の基端基部に当該燃焼室の中心線に直交す
る基板部を設け,この基板部の中心に,前記燃焼室の中心線上に向うバーナノズル
を設け,かつ前記円筒状の燃焼室には外部より燃焼用空気を導入して熱交換できる
ようにすると共に,前記燃焼室は,密閉構造の外側管状体と内側管状体と中間管状
体とより成り,前記中間管状体を介して内側管状体と外側管状体との間に内側管流
路と外側管流路とを燃焼室の前部に設けた連通部で流通可能とし,かつ両流路の一
方を外部の燃焼用空気と連通する連通管と接続し,他方を管から成る高圧空気噴射
口と連通接続できるようにし,前記燃焼室で熱交換される燃焼用空気を,前記基板
部のバーナノズルの外周環状位置に設けられ,かつ先端が前記燃焼室内に突出して
バーナノズルの中心線前方のバーナ噴射の焦点をそれぞれ旋回的に集中指向する複
数の管から成る高圧空気噴射口の基部と,連通させて複数の前記噴射口よりバーナ
噴射の焦点をそれぞれ旋回的に集中指向するように吐出させることができるように
したことを特徴とするターボジェット式高温高速バーナ。(段落【0009】
」 )
・ 「 2)前記燃焼室の直径絞り部の直径絞り率を0として,前記燃焼室の形状を

略々同一径の円筒形状に形成したことを特徴とする前項(1)記載のターボジェッ
ト式高温高速バーナ。(段落【0011】
」 )
オ 作用
・ 「以上のような本発明構成により,燃焼室内は高圧高熱化され,化学反応速度の
高速化により,内部の燃焼温度の増加と,排出ガスの高速化とが得られる。また,
燃焼用空気は,燃焼室へ導入され熱交換されて有効に加熱されるので,燃焼室内で
の燃焼現象を促進できると共に,さらに燃焼ガスが高速拡散した場合,乱流火炎伝
播現象により,従来の現象と異なる速度で燃焼する。(段落【0012】
」 )
・ 「例えば,自動車エンジンがその好例であり,混合気の流動を伴って火炎が動い
ているものの,燃焼速度の10倍も100倍もの燃焼速度で燃焼している。燃焼速
度が遅いと言うことは火炎が長く,未燃物があり,火炎が短い時は,完全に空気と
混合して未燃物が無いと言うことであり,同一燃料,空気の混合比で燃焼速度が早
いと言うことは,高温高圧の外に,空気と燃料を高圧,高温の下に高速拡散させて
乱流燃焼速度を作るものであり,このことにより,単位時間,単位体積当たりの燃
焼量が著しく増加する。(段落【0013】
」 )
カ 発明の実施の形態
・ 「本発明の実施の形態の特徴は,実質的に円筒形で先端に吐出口8Bを開口し,
この吐出口8B近くに絞り部23を有するバーナ燃焼室(フレーム)8を有し,基
板部8A中心部のバーナノズル1の外周環状位置より均等に高圧空気取入口4から
の複数(図例は36個)の高圧空気噴射口5を,バーナノズル1のバーナ燃焼室8
の中心線上のバーナ噴射焦点14をそれぞれ集中的に指向するように配設して高圧
空気の旋回流を与えるようにしたことである。(段落【0017】
」 )
・ 「なお,この高圧空気噴射口5は,右または左の斜め方向に屈曲させて旋回流を
強制的に得られるように構成することもある。(段落【0018】
」 )
・ 「高圧空気導入管6より例えば2kg/cm 2 の高圧状態の燃焼用空気を給送す
ると,矢符に示すように燃焼室8の内側管流路11Aを経て連通部8Cで外側管流
路9Aに折返し基板部8A側に移行し環状の空気室4内へ導入される。この空気室
4より多数の高圧空気噴射口5を経て勢いよくバーナ噴射焦点14へ向けて燃焼用
空気は吐出される。(段落【0023】
」 )
・ 「バーナノズル1より噴射される燃料は,例えば60度位の噴射分散角度で燃焼
室8内に吐出され,パイロット火炎発生手段18の点火作用と高圧燃焼用空気の送
給作用で有効に燃焼されると共に,ことに燃焼用空気は燃焼室8内を通過する過程
で十分熱交換され,例えば秒速50m/secで17.5kg/cm 2 で噴出し
ている燃料に叩きつける結果となり,高圧,高温,旋回,乱気流状態を呈し,この
条件下で燃焼という化学反応の燃焼速度を加速的に促し,恰かも爆発的な燃焼状態
を得ることができる。したがって,燃焼室8の吐出口8Bよりきわめて高圧高温の
燃焼ガスを吐出させることができる。(段落【0024】
」 )
・ 「この場合100リットルで実験した処,バーナノズル1よりの燃料吐出速度を
240M/Sとした場合,ガス温度は2300℃であった。燃焼室8を水冷とした
場合の時より15∼30%温度が高くなり,これ以上の温度,効率を望むと衝撃波
が出てガス速度も音速を越すことが予測される。(段落【0025】
」 )
キ 発明の効果
・ 「この発明によれば燃焼用空気は,燃焼室で発生する高圧高温の熱エネルギーを
燃焼室を構成する円筒材料中に流通できる流路を形成して,この流路内を流通させこ
れにより熱交換させて高圧高温状態の活性化空気として供給しているので,燃焼室内
での燃焼ガスは著しく高温高熱状態を生成でき,きわめて効率の高い燃焼バーナとし
て機能させることができる。(段落【0028】
」 )
(3) 以上によれば,本件特許発明1及び2は,主として燃焼炉や溶融炉等用に,
また特に産業廃棄物の焼却等に適するターボジェット式高温高速バーナに関
するものである。
そして,従来技術における汎用バーナにあっては効率的に得られる温度に
限界があり,更なる高温度を必要とする場合には空気加熱炉や熱交換器等が
必要となって設備費・燃料費の増加を招くほか,溶融関連においては酸素を
極度に嫌う物質があったり,採算的にみて酸素を燃料として多量に使用する
ことに伴う問題があったところ,本件特許発明1及び2は,このような諸課
題を解決することを目的として上記(1)記載の各構成を採用したものである。
その技術的特徴は,高熱燃焼ガスを吐出するバーナノズルの外周に環状に
配置され,かつ,先端が燃焼室内に突出してバーナノズルの中心線前方のバ
ーナ噴射の焦点を旋回的に集中指向する管から成る高圧空気噴射口から,燃
焼室で熱交換された燃焼用空気を旋回的に集中指向するように吐出させると
いうものであり,これにより,燃焼室内が高圧高熱化され,化学反応速度の
高速化により,内部の燃焼温度の増加と,排出ガスの高速化が得られ,燃焼
室内での燃焼現象を促進できるとともに,燃焼ガスが高速拡散する場合,乱
流火炎伝播現象により,従来の現象とは異なる速度で燃焼させる作用が得ら
れ,その結果,きわめて効率の高い燃焼バーナとして機能させることができ
るという効果を有するものである。
3 取消事由1(甲2発明についての認定の誤り)について
原告は,審決の甲2発明についての認定に誤りがある旨主張するので,この
点について検討する
(1) 甲2公報には次の記載がある。
ア 特許請求の範囲
・ 「1.空気と燃料(灯油)を噴霧状で噴射混合し,燃焼筒内で燃焼させノズルよ
り超音流を噴射させる火炎ジェットバーナにおいて,3乃至4割の空気を,同心円
状に配置した多くのエアー噴出孔または,空気噴出用の内側スワーラから噴出させ,
残りの7乃至6割の空気を外側スワーラから噴出させるようにしたことを特徴とす
る火炎ジェットバーナ。」
イ 発明の詳細な説明
・ 「従来用いられてきた火炎ジェットバーナでは,…酸素富化空気と灯油とが噴霧
燃焼する場合,空気供給ホースの方へ火炎が逆流する現象,すなわちバックファイ
ヤが生ずることが多かった。…バックファイヤは保安上きわめて危険であり,その
防止対策として,酸素供給パイプを個別バーナ内部に取付ける等の対策は講じられ
ているが,これも,もしインジェクタから出た灯油が,何らかの原因で酸素供給パ
イプ内に入り込めばバックファイヤを起こす危険がある。また酸素を供給するため
のバーナの遠隔自動操作を行う場合,酸素の供給,減少,停止など機構上きわめて
複雑なものとなった。更に点火はバーナノズル口に火源を近づけることによって実
施していたため,…複雑なバーナ送り装置が必要であった。(1頁右欄1行∼2頁

左上欄5行)
・ 「本発明は,上述の諸欠点を完全に除去できるメカニズムのバーナを提供するも
ので,灯油への着火は,着火時に酸素を供給することなく,空気のみで,バーナ内
部において,特殊な発火器によって着火させることができ,更に着火の有無を直ち
に検出する検出装置としての熱電対が挿入されている。本発明では,着火時に酸素
を供給する必要がないため,バックファイヤの危険性は完全に除去された。また内
部着火方式であるため,…複雑なバーナの送り装置が不用となった。(2頁左上欄

6行∼下3行)
・ 「酸素の供給が不要となり,バックファイヤの危険性がなくなり,かつ廃棄物処
理プラント等に利用する場合に,バーナ送り装置が不要となり,かつバーナの燃焼
状態が,熱電対によって常時検出される本発明による火炎ジェットバーナは,実用
上その価値は絶大なものがある。(2頁左上欄下2行∼右上欄4行)

・ 「本発明による火炎ジェットバーナは,ノズル1,燃焼筒3,インジェクタ4,
エア噴射部5などからなる。灯油は一定の圧力で供給され,インジェクタ4から噴
霧状に噴射される。空気はコンプレッサから供給され,エア噴射部5により燃焼筒
側へ噴出される。1部の空気(3∼4割)はエア噴出孔6から噴出され,これはイ
ンジェクタ4から噴射された灯油噴霧と衝突し,灯油の噴霧性を助長する。残りの
空気(6∼7割)は,エア噴射部5の端部スワーラ7によって旋回流となり,燃焼
筒内へ噴出される。エア噴出孔6は1∼2㎜の小孔で,エア噴出部5に同心円状に
多数配置されている。…」(2頁右上欄8行∼下1行)
・ 「着火と同時に点火棒の電源は直ちに断たれ,灯油と空気量を次第に漸増させ,
超音速状態にもってゆく。灯油と空気は燃焼筒3内で燃焼し,スロート2の所で音
速となり,ノズル出□1からは,超音速となって外部へ噴射される。着火後,熱電
対の示す温度は,常温より直ちに上昇し,最大550∼600℃程度になり,定常
運転状態になれば350∼400℃を示すようになる。燃焼筒内部の温度は約21
00℃程度であるが,インジェクタ4とエア噴射部5の付近では350∼400℃
程度であるので,熱のために点火棒と熱電対が損耗することはない。バーナ内部へ
供給される空気は,通常コンプレッサから出る場合60∼80℃の温度を有してい
るが,これが冷却水で冷却されないようにするため,冷却水通路と空気通路との間
10には断熱材が挿入されている。(2頁左下欄12行∼右下欄7行)

・ 「燃焼筒は外壁にそって冷却水が循環し,燃焼筒を保護している。このバーナで
は,供給する空気の一部(6∼7割)は,スワーラ7によって燃焼筒内壁に沿って
旋回するようになっているため,これが燃焼筒内壁面に空気の薄膜を作り,燃焼筒
内部の高温ガスが直接燃焼筒内壁面に接触するのを妨げ,そのため,燃焼筒壁面へ
の熱の伝達は少なくなり,燃焼筒から冷却水へ逃げる熱損失も,従来のバーナより
は少なくなる。尚,11は燃焼通路パイプ,12は空気通路パイプ,13は冷却水
通路,14は冷却水通路である。(2頁右下欄8行∼下5行)

(2) 上記記載によれば,甲2公報には,空気と燃料(灯油)を噴霧状に噴射混
合し,燃焼筒内で燃焼させ,ノズルから超音流を噴射させる火炎ジェットバ
ーナが記載されているものである。そして,その構成として,燃焼筒の全体
が円筒状に形成されていること,インジェクタが燃焼筒の中心線上に向うこ
と,エア噴出孔及びスワーラに連通する部位がエア噴射部のインジェクタの
外周環状位置に設けられていること,空気はコンプレッサから供給され,エ
ア噴射部5により燃焼筒側へ噴出されるところ,1部の空気(3∼4割)は
エア噴射部5の複数のエア噴出孔6から噴出され,これがインジェクタ4か
ら噴射された灯油噴霧と衝突し,灯油の噴霧性を助長することが開示されて
おり,さらに,上記記載に同公報掲記の図面を勘案すれば,上記複数のエア
噴出孔6は,噴出目標であるインジェクタの中心線前方をそれぞれ集中指向
するものと認められるほか,燃焼筒が密閉構造の外側管状体と内側管状体と
中間管状体とより成り,前記中間管状体を介して内側管状体と外側管状体と
の間に内側管流路と外側管流路とを燃焼筒の前部に設けた連通部で流通可能
とし,かつ両流路を外部から導入される冷却水の通路とした点が記載されて
いると認められる。
そうすると,甲2公報には,審決の認定したとおり,次の内容の発明(甲
2発明)が記載されているものと認められる。
「高熱燃焼ガスのノズル1出口を先端に開口し,このノズル1出口近
くにスロート2を有する全体が円筒状に形成される燃焼筒3の基端基部
に高熱燃焼ガスのノズル1出口に向けて開拡する円錐状のエア噴射部5
を設け,
このエア噴射部5の中心に,前記燃焼筒3の中心線上に向うインジェ
クタ4を設け,
かつ前記円筒状の燃焼筒3には外部より冷却水を導入して熱交換でき
るようにすると共に,
前記燃焼筒は,密閉構造の外側管状体と内側管状体と中間管状体とよ
り成り,前記中間管状体を介して内側管状体と外側管状体との間に内側
管流路と外側管流路とを燃焼筒の前部に設けた連通部で流通可能とし,
かつ両流路を冷却水通路とし,
60∼80℃の燃焼用空気を,前記エア噴射部5のインジェクタ4の
外周環状位置に設けられ,かつインジェクタの中心線前方の焦点をそれ
ぞれ集中指向する複数の筒状流路を有するエア噴出孔6と燃焼筒内壁に
沿って旋回流を形成するスワーラ7とに連通する環状空気室と,連通さ
せて前記エア噴出孔6とスワーラ7より吐出させることができるように
したターボジェット式高温高速バーナ。

(3)ア これに対し原告は,甲2発明におけるエア噴出孔6は,インジェクタの
中心線に沿う方向を向いていることは記載されていても,それを超えて中
心線上の焦点という特定の噴出目標に対して噴出する旨の記載はないか
ら,特定の焦点を噴出目標として持つものとして甲2発明を認定すること
は誤りである旨主張する。
確かに,上記(1)のとおり,甲2公報において,エア噴出孔6が特定の
焦点を指向するものである旨が明記されているとまでは認め難い。
しかし,前記2(3)のとおり,本件特許発明1の技術的特徴は,高熱燃
焼ガスを吐出するバーナノズルの外周に環状に配置されかつ先端が燃焼室
内に突出してバーナノズルの中心線前方のバーナ噴射の焦点を旋回的に集
中指向する管から成る高圧空気噴射口から,燃焼室で熱交換された燃焼用
空気を旋回的に集中指向するように吐出させるというもので,これにより,
燃焼室内が高圧高熱化され,化学反応速度の高速化により,内部の燃焼温
度の増加と排出ガスの高速化が得られ,燃焼室内での燃焼現象を促進でき
るとともに,燃焼ガスが高速拡散する場合,乱流火炎伝播現象により,従
来の現象とは異なる速度で燃焼させる作用が得られ,その結果,きわめて
効率の高い燃焼バーナとして機能させることができるという効果を有する
ものである。
このような本件特許発明1における高圧空気噴射口の技術的意義及び作
用効果にかんがみれば,ここで規定されている焦点とは,燃焼ガスを高速
拡散させることが可能となるような燃焼ガスの吐出方向の延長線上の地点
を指すものと解するのが相当である。このことは,本件特許発明1に係る
明細書において ,「なお,この高圧空気噴射口5は,右または左の斜め方
向に屈曲させて旋回流を強制的に得られるように構成することもある 。」
(段落【0018】
)と記載されていることからも明らかである。
このように解した場合,甲2公報におけるエア噴出孔6は,上記(2)の
とおり,そこから空気を噴出することによって,これがインジェクタ4か
ら噴射された灯油噴霧と衝突し,灯油の噴霧性を助長するという技術的意
義ないし機能を有するものであり,しかも,前記のとおり,これら複数の
エア噴出孔6はいずれもインジェクタの噴出方向の延長線上に指向してい
ると認められるのであるから,甲2発明における複数のエア噴出孔6は,
インジェクタの中心線前方に吐出された灯油噴霧を焦点として集中指向す
るものであり,これは本件特許発明1における高圧空気噴射口5の技術的
意義ないし機能と同様のものであると認められる。
したがって,エア噴出孔6について前記(2)のとおり認定することに誤
りはなく,原告の上記主張は採用することができない。
イ また原告は,仮に甲2発明が特定の焦点を噴出目標として持つものであ
るとしても,そこでの「焦点」とは一つの焦点を意味し,甲2発明のよう
に二つの焦点を持つものはこれに当たらない旨主張する。
しかし,本件特許発明1の請求項の記載上,高圧空気噴射口5から吐出
される燃焼用空気の焦点を一つに限定するところはないし,また上記アに
述べた「焦点」の技術的意義ないし機能にかんがみて,その数が一つに限
定されるものではないことからすれば,原告の上記主張は採用することが
できない。
ウ さらに原告は,甲2発明におけるエア噴出孔は単なる貫通孔にすぎず,
筒で形成された流路とはいえないから,これを「筒状流路」とした審決の
認定は誤りである旨主張する。
しかし,前記(1)のとおり,甲2発明におけるエア噴出孔6は,エア噴
出部5において,その径を1∼2㎜の小孔として形成されるものであり,
また,甲2公報の第1図を見ると,エア噴出部5は所定の厚さを有する板
状部材として形成されていることからすれば,上記エア噴出孔6は所定長
の流路を形成していると認められる。以上に,前記アに述べた上記エア噴
出孔6と本件特許発明1における高圧空気噴射口5との技術的意義ないし
機能の同一性を併せ考慮すれば,上記エア噴出孔6の形状を筒状と理解し,
甲2発明が「筒状流路を有する」と認定したことに誤りはないというべき
である。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ なお原告は,甲2発明において ,「エア噴射孔6」とともに「外側スワ
ーラ7」の構成を備えることは必須の要件であると主張するが,両者が不
可分の関係に立つものでないことは,後記甲4,12,13公報記載の発
明のように「外側スワーラ7」に相当する構成を備えないバーナが周知で
あることからも明らかというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
4 取消事由2 本件特許発明1と甲2発明との一致点及び相違点a認定の誤り)

について
(1) 原告は,甲2発明のエア噴出孔6は着火用に用いられる空気の噴出孔とい
うべきものであり,他方,本件特許発明1における高圧空気噴射口5は燃焼
用空気を吐出するもので,両者はその技術的意義に大差があるから,これが
一致するとした審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし,前記3(1)のとおり,甲2公報には ,「着火と同時に点火棒の電源
は直ちに断たれ,灯油と空気量を次第に斬増させ,超音速状態にもってゆく。
…」(2頁左下欄12行∼14行)との記載があり,エア噴出孔6から噴出
された空気は,着火後においても燃焼用空気の噴出孔としての機能を奏して
いることは明らかである。以上に,前記3に述べた上記エア噴出孔6の機能
を併せ考慮すれば,甲2発明の「エア噴出孔6」と本件特許発明1の「高圧
空気噴射口」とが一致するとした審決の判断に誤りはない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2) また原告は,甲2発明におけるエア噴出孔6がバーナ噴射の焦点を集中指
向するものとは認められないから審決が「…複数の高圧空気噴射口よりバー
ナ噴射の焦点を集中指向するように吐出させることができるようにした…」
(審決12頁15行∼16行)点を一致点として認定したことが誤りである
と主張するが,その前提たる「焦点」に関する主張を採用することができな
いことは,前記3(3)ア記載のとおりである。
5 取消事由3(本件特許発明1と甲2発明との相違点c認定の誤り)について
原告は,審決が本件特許発明1の構成から有意義な「バーナ噴射の焦点」の
構成を切り離して,「それぞれ旋回的に集中指向するように吐出するようにす
る」との構成に分離して行った相違点cについての対比判断の方法は,本件特
許発明1の燃焼用空気の吐出する構成に係る技術的意義を正しく反映しないも
のであるから,誤りである旨主張する。
しかし,相違点cは燃焼用空気の吐出方法について認定したものであり,本
件特許発明1における燃焼用空気の吐出方法は,前記2(1)のとおり,(複数

の前記噴射口より)バーナ噴射の焦点をそれぞれ旋回的に集中指向するように
吐出させる」というものであるのに対し,甲2発明における燃焼用空気の吐出
方法は,前記3(2)のとおり,「前記エア噴射部5のインジェクタ4の外周環状
位置に設けられ,かつインジェクタの中心線前方の焦点をそれぞれ集中指向す
る複数の筒状流路を有するエア噴出孔6…より吐出させる」というものである。
ここで,吐出の「焦点」なるものが,燃焼用空気が吐出される対象地点を指称
するものであり,両発明においてこれらが一致することは前記3(3)アに記載
のとおりである。そして,燃焼用空気の吐出方法において,吐出される対象地
点と,当該方向に指向された空気に具体的にいかなる挙動を持たせるかという
点とは相互に区別し得るものであるから,前者を一致点として分離し,後者の
みを相違点として挙げることが誤りということはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
なお原告の上記主張は,相違点cに係る容易想到性の判断において,上記 焦

点」に関する技術的意義を考慮すべきとの趣旨であるとも解することができる
が,仮にそうであるとしても,審決の上記認定が左右されるものではない(な
お,相違点cに係る審決の判断に誤りがないことは後記8のとおりである。。

6 取消事由4(上記相違点aについての判断の誤り)について
(1) 原告は,審決の相違点aについての判断に誤りがある旨主張するので,こ
の点について検討する。
(2)ア 甲4公報及び甲16公報には次の記載がある。
(ア) 甲4公報
・ 「本文に詳記し,かつ実施例図に示すように,燃焼筒(1)に固定されたインゼ
クター(2)に取付けられるノズルチップ(8)に燃料輸送パイプ(5)を取付け,また
インゼクター(2)には数個の酸化剤噴射孔(6)をあけ,インゼクター(2)に取付け
られた酸化剤溜め(3)に圧力を有する酸化剤をパイプ(4)により送り,酸化剤噴
射孔(6)の捻れ角度によって酸化剤に回転集中力を与え,この集中回転渦巻の渦
中に燃料を噴射せしめるように位置せしめ,高電圧電極(9)における放電スパー
クをこの渦中に与え点火させ,この燃焼時の発熱膨張と,発生する圧力を,燃
焼室(10)の内径の数分の1のノズル孔(7)によって燃焼筒(1)内の高圧を減圧,
同時に火炎速度を上昇せしめ逐次ゼット流に増速させ,高速,高温即高カロリ
ーの燃焼効果を得るようにした融合燃料専焼バーナー。(特許請求の範囲)

・ 図面(1図及び2図)には,インゼクターが燃焼室の中心線に直交し,インゼ
クターに形成された酸化剤噴射孔(6)がバーナの中心線前方の焦点をそれぞれ旋
回的に集中指向することが示されている。
(イ) 甲16公報
・ 「 請求項1】 外部から燃焼用空気が供給される燃焼筒と,この燃焼筒内のほ

ぼ中心軸上に設けられていて外部から燃料が供給されそれを噴射するノズルと,
前記燃焼筒内におけるノズルの先端部付近に,燃焼筒の中心軸にほぼ直交する
ように設けられていて複数の小孔またはスリットを有する保炎板と,この保炎
板と燃焼筒内壁間またはこの保炎板の周縁部付近に設けられていて,燃焼筒内
に供給された燃焼用空気を保炎板の周囲の部分から燃焼筒の先の方へ噴出させ
る空気口と,前記燃焼筒の前記保炎板よりも先の部分の周囲に設けられた複数
の開口部と,この各開口部の部分にそれぞれ設けられていて,保炎板側にある
根本が燃焼筒につながっていてそこから先が燃焼筒内に斜めに折り曲げられた
折込板とを備えることを特徴とするバーナ。」
・ 図1には,甲16公報の発明に係るバーナが,外部から燃焼用空気26が供給
される円筒状の燃焼筒20と,この燃焼筒20内のほぼ中心軸22上に設けら
れていて外部から燃料30が供給されそれを噴射するノズル28と,燃焼筒2
0内におけるノズル28の先端部付近に,燃焼筒20の中心軸22にほぼ直交
するように設けられた円板状の保炎板32とを備えていることが示されている。
イ 以上によれば,甲4公報及び甲16公報のいずれにおいても,バーナノ
ズルと高圧燃焼部材の噴射口を設ける基板部が,燃焼室の中心線に直交し
て設けられており,このような構成は本件特許の出願 平成9年9月5日)

前において周知であったと認められる。
(3)ア 次に,甲14公報には次の記載がある。
・ 「 請求項1】空気と燃料とを混合して予混合気を生成する複数個の予混合器

と,該予混合器の下流側に位置し前記予混合気を燃焼させる燃焼室とを備えた
ガスタービン燃焼器において,前記予混合気を各々周方向に旋回させ,その複
数の旋回気流が前記燃焼室内で各々巻き付き合う,若しくは各々捩れる様な気
流形状となるような手段を設けたことを特徴とするガスタービン燃焼器。」
・ 「 請求項2】空気と燃料とを混合して予混合気を生成する複数個の予混合器

と,該予混合器の下流側に位置し前記予混合気を燃焼させる燃焼室とを備えた
ガスタービン燃焼器において,前記予混合器は,各々の前記予混合気を周方向
に旋回させる装置を備え,該装置は,各々前記予混合気の旋回軸方向が,前記
燃焼器の中心軸に対して同一周方向へある角度を持つように傾け設置され,更
に前記旋回軸方向が,前記燃焼器の中心軸側へある角度を持つように傾け設置
されていることを特徴とするガスタービン燃焼器。」
・ 「 作用】複数の予混合器から吐出する旋回のかかった予混合気の旋回軸方向

を,燃焼器中心軸に対し同一周方向へ,更に燃焼器中心軸側に傾けることで,
各々の旋回がかかった予混合気の相互干渉を促進することができる。その各々
の旋回方向が同一であれば,周方向の旋回速度の自己誘導,及び相互誘導によ
って,混合気流は互いに巻き付き合い,捩れ,燃焼器中心軸に沿ってヘリカル
形状の混合気流ができる。このような形状の気流は,各々の予混合器より吐出
する予混合気を燃焼器の中で更に混合し,燃料濃度の分布を均一にする。従っ
て火炎内の局所的な高温部が減少し,NOxは低減できる。 段落 0014】

( 【 )
・ 「また,火炎は前記ヘリカル形状の放絡線に沿って広がる。その中を各々の
予混合器より吐出した混合旋回気流が螺旋状に進むため,予混合気が火炎中を
通過する滞留経路は長くなり,予混合気の燃焼反応を促進することができる。
従って排出ガス中の未燃成分を低減できる。(段落【0015】
」 )
・ 「前記の如く燃焼器内で混合が促進されるため,予混合器から吐出する予混合
気の燃料濃度はある程度不均一な分布にすることができる。旋回がかかった予
混合気の中心軸から離れるに従い,空気に対する燃料の混合濃度を濃くするこ
とで,火炎の着火性と保炎性が向上すると共に,予混合器を小型化できる。 段


落【0016】)
・ 「第二燃焼室2は,空気と燃料を予め混合するための円筒形予混合器8を燃焼
器中心軸に対し同一円周上に軸対称となるよう八個配置されている。各々の予
混合器の予混合気吐出部に設けられた円筒形の予混合旋回バーナ4は,その予
混合気旋回軸方向13aが,燃焼器中心軸方向に対し同一周方向へ適当な角度
で傾き,更に燃焼器中心軸側へも適当な角度になるように傾け設置している。
尚この全ての予混合旋回バーナ4について,旋回軸方向13aの燃焼機中心軸
に対する傾斜角度は,同一となっている。(段落【0022】
」 )
・ 「燃料は,燃料溜11より燃料管18aを通って第一燃焼室3,及び各予混合
器8に供給される。圧縮器14より吐出した空気は,外筒壁10と内筒壁1で
囲まれた空気通路を通り第一燃焼室3,第二燃焼室2,および各予混合器8に
供給される。(段落【0023】
」 )
・ 図1には,予混合旋回バーナ4が燃焼室内において燃焼器中心軸方向に突出し
ている図が示されている。
イ 以上によれば,甲14公報には,空気と燃料とを予め混合した上で,こ
れを燃料室内に吐出する構造を有するガスタービン燃焼器において,上記
予混合気吐出部に設けられた円筒形の予混合旋回バーナ4を,燃焼室内に
おいて燃焼器中心軸方向に突出させた構成が開示されているものと認める
ことができる。
そうすると,甲14公報には「高圧空気噴射口を管から成るものとし,
その先端を燃焼室内に突出したものとすること」が開示されていると認め
られる。
ウ(ア) これに対し原告は,甲14公報の「予混合旋回バーナ4」は,燃料
を空気と予混合した燃料噴射器としての「燃料の吐出口」であって,本
件特許発明1のような「燃焼用空気の噴射口」ではないと主張する。
確かに,上記のとおり,甲14公報の「予混合旋回バーナ4」は空気
と燃料を混合して吐出するものであるが,そこで吐出されるものは「予
混合気」すなわち気体の性質を有するものであって,その機能において
「高圧空気」を吐出する場合と矛盾するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) また原告は,甲14公報の「スワーラ」は,必然的にスワーラの旋
回羽根により,予混合旋回気流(13b)とするために吐出速度が抑え
られ,燃焼室内での燃焼速度も遅く抑えられるものであるから,本件特
許発明1のように爆発的な高速燃焼を起こさせて燃料ガスを高速で吐出
するような技術的意義を有するものではなく,スワーラの構造も甲2発
明と異なり,燃焼ガスの速度において本質的な相違があるなどと主張す
る。
しかし,原告が挙げるスワーラの有無ないし形状,吐出速度等の事情
は相違点aの構成とは無関係であるし,これらの事情が甲14公報記載
の発明を前記「空気と燃料とを予め混合した上で,これを燃料室内に吐
出する構造を有するガスタービン燃焼器において,上記予混合気吐出部
に設けられた円筒形の予混合旋回バーナ4を,燃焼室内において燃焼器
中心軸方向に突出させた構成」とすることの妨げとなるものではないか
ら,これによって前記イの認定が左右されるものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4)ア さらに甲15公報には次の記載がある。
・ 「 従来の技術】一般に燃焼ガス中のNOx生成量は,燃料の成分,燃焼温度,

燃焼空気比,燃焼対流時間等によって決まる。低NOx化のためには,従来か
ら燃焼温度を低温に維持することによってNOx生成量を減少させるため排ガ
スの一部を燃焼室内に戻す排ガス再循環方式や,多段燃焼,分割火炎,濃淡燃
焼,水・蒸気噴霧といった幾つかの方式が実施されている。(段落【0002】
」 )
・ 「図7にその一例を示し,簡単に説明すると,このガスバーナーの中心には一
次空気管21が配設され,その先端の噴出口の前方に逆円錐形状のバッフルプ
レート22を取付けることで,噴出一次空気が斜め四方に拡がるようにしてい
る。燃料ガス供給管23は一次空気管21の外側に同心状に配設され,燃料ガ
スは先端のノズル24から上記一次空気の拡張方向と沿って噴出するようにし
ている。上記の一次空気とは別に二次および三次の空気がウインドボックス2
5に供給され,そのうち二次空気は上記燃料ガス供給管23を取り巻く筒部2
6先端の多孔板27から噴出させる。こうして一次と二次の空気で燃料ガスを
はさむようにした先混合方式によって,燃料ガスと空気の混合は良好で,低O 2
燃焼と燃焼の安定が図られる。他方,三次空気はウインドボックス25の前面
に傾斜して取付けたノズル管28から噴出させる。三次空気の噴出で炉内の燃
焼排ガスは吸引混合され,再度燃焼に供されるという循環方式の採用によって,
燃焼用空気の酸素分圧を低下させ,急激な燃焼を抑制し,燃焼のピーク温度を
低くすることでNOx生成の低減が図られることになる。(段落【0003】
」 )
・ 図7には,ノズル管28が燃焼室内に突出して設けられている図が示されてい
る。
イ 以上によれば,甲15公報には,従来技術におけるガスバーナにおいて,
燃焼室内に空気を吐出する管状のノズル管28の先端が燃料室内に突出し
ている構成が開示されていることになるから,「高圧空気噴射口を管から
成るものとし,その先端を燃焼室内に突出したものとすること」が開示さ
れているものと認められる。
ウ これに対し原告は,甲15公報に記載の「ノズル管28」は空気を中心
線前方の焦点を旋回的に集中指向するように設けたものではないと主張す
るが,審決は甲15公報を「高圧空気噴射口を管から成るものとし,その
先端を燃焼室内に突出したものとすること」が周知技術であることの例と
して挙げたものであって,原告が主張する事情を裏付けるために挙げたも
のではないから,原告の主張は前提において誤りがあり,採用することが
できない。
(5) したがって,「高圧空気噴射口を管から成るものとし,その先端を燃焼室
内に突出したものとすること」もまた,本件特許の出願(平成9年9月5日)
前において周知技術であったと認められる。
そうすると,甲2発明において,上記周知技術に前記(2)イの周知技術に
係る構成を組み合せた相違点aに係る構成もまた,周知技術に基づいて当業
者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に
想到し得たというべきである。
(6)ア これに対し原告は,甲2発明の「エア噴出孔6」は液体燃料の噴霧性を
助長する機能を有するものであるから,これに,液体燃料の噴霧性助長の
機能を有しない空気噴射管を「管から成る高圧空気噴射口」として置換適
用することについては示唆や動機付けや必然性が存在せず,当業者が容易
に想到し得たものではないと主張する。
しかし,前記3(2)のとおり,甲2発明における複数のエア噴出孔6の
機能は,集中指向性を持って空気を燃料に衝突させることにより灯油の噴
霧性を助長させるというものであるから,その集中指向性を高めるために,
「高圧空気噴射口を管から成るものとし,その先端を燃焼室内に突出した
ものとすること」という構成を採用することは,当業者であれば容易に想
到し得るものというべきであって,その動機付けに欠けるということはで
きない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ また原告は,甲2発明の「スワーラ7,16」は独特なスワーラ溝の構
造であり,これを「管から成る高圧空気噴射口」に置換適用することにつ
いての示唆や動機付け等は存在しない旨主張する。しかし,バーナにおい
て甲2発明の「スワーラ7,16」の構成が不可欠でないことは甲4公報
のほか,後記甲12,13公報記載の発明等によれば明らかである。そう
すると,甲2発明の「スワーラ(7,16 )」を「管から成る高圧空気噴
射口」へと置換することについての動機付けの有無等は前記容易想到性の
判断を左右するものではないから,この点に関する原告の主張は前提にお
いて採用することができない。
ウ また原告は,本件特許発明1に係る課題は永年にわたる課題であったな
どと主張するが,かかる事情は前記容易想到性の判断を左右するものでは
ない。
エ さらに原告は,「エア噴射孔6」に甲14公報記載の「予混合旋回バー
ナ(4)」を置き換えたとしても「外側スワーラ(7)」の構成からなるス
ワーラ構造は維持されたままであるから,本件特許発明1の構成及び作用
効果が得られないと主張し,甲15公報記載の「ノズル管」についても同
旨を主張するが,原告の主張が前提とするエア噴射孔の構成と外側スワー
ラの構成が不可分のものといえないことは前記のとおりであるから,原告
の上記主張はその前提において採用することができない。
7 取消事由5(上記相違点bについての判断の誤り)について
(1) 原告は,相違点bに対する審決の判断に誤りがある旨主張するので,以下
検討する。
(2) 甲1文献,甲12公報及び甲13公報には次の記載がある。
ア 甲1文献
・ 「1.1.1. ジェットバーナ
図1.1に水冷式ジェットバーナの断面図を示す.バーナには燃料のケロシン,
酸化剤の圧縮空気,バーナの内壁保護のための冷却水が供給される.ケロシンはイ
ンジェクタ(噴霧化装置)8で霧状に噴射され,燃焼筒2に供給される.圧縮空気
は,スワーラ(旋回流発生装置)3を通って同じく燃焼筒に供給される.燃料・空
気の混合気は点火プラグ7によって着火され,燃焼筒内で燃焼する.燃焼ガスはノ
ズル1で加速され,ノズルスロート5で音速に達し,超音速となってノズルから外
部に噴射される.燃焼筒外側部は冷却水を循環させるために二重管の構造になって
いる.バーナには点火と失火の状態を判断するため,熱電対4を挿入してある.現
在使用しているノズルは,内側の絞り角度は片側で30度,出口側では10度の開
き角度となっている。(2頁2行∼12行)

・ 「図1.2には空冷式ジェットバーナの断面図を示す.冷却に空気を使用する点
が異なるだけで,空冷式の構造も水冷式とほぼ同じである.燃料のケロシンはケロ
シンポンプから供給され,インジェクタ5で噴霧化される.コンプレッサから供給
される圧縮空気は,空気流路4から3を通り,最初は燃焼筒の冷却用として作用す
る.その後,空気の一部は直接燃焼筒2内に流入し,残りの空気はスワーラ6を通
って燃焼筒内に入る.スワーラは,燃料と空気の混合促進と燃焼筒内面の保護の作
用がある.燃焼筒に入った空気はケロシン噴霧と混合し可燃混合気を形成する.こ
の混合気に点火棒7で点火し燃焼させる.燃焼ガスはノズル1から超音速で噴射さ
れる.燃焼筒内の点火,失火を検知するため,炎検知器8を取り付けている.(2

頁13行∼3頁6行)
・ 「ここで紹介した空冷式は,バーナに供給される空気の全量が燃焼に関与するの
で,水冷式の場合と異なり冷却により奪われる熱量は殆どない.これは水冷式と空
冷式の大きな相違点である.後で述べるように,ジェットバーナを使用した種々の
プラントやシステムを考える場合には,熱効率を大きくする必要があり,この意味
では空冷式は水冷式より優れているといえる.しかし,空冷式ではバーナの運転状
態により,供給空気量が制限されることから,厳しい設計が要求される.現在,燃
焼筒の寿命の面でまだ問題がある.(3頁7行∼13行)

イ 甲12公報
・ 「さらに,火焔放出パイプ8はその周壁に前記連結パイプ6の通路11と連通し
て高圧空気の流速を速めると共に,周壁を冷却するための高圧空気流路23が内外
二重に形成されており,先端に火焔放出口24aが穿設された蓋体24が取着され,
後端に前記シースパイプ12の先端を嵌着支持させているシースパイプ支持体25
が取着されたもので,このシースパイプ支持体25には前記高圧空気流路23と連
通する空気噴出口25aが穿設されており,この空気噴出口25aの前方にして前
記ノズル13の前方には気化室26が形成され,この気化室26の前方に前記燃焼
室7が形成されている。(3頁左上欄4行∼下5行)

ウ 甲13公報
・ 「まず導管15より導孔13を通して燃焼室7内に予熱燃焼用気体を送り込むと
同時に,空気通路AとBを通し,更に導孔12および混合室9を経て燃焼室7内に
少量の空気を送り込み点火する。その後数分間気体燃焼を行ない燃焼室7内を予熱
する。燃焼室7を十分に予熱したら導管11より液体燃料を燃料噴射弁10に送り,
その噴射口10aから混合室9内に噴霧する。この霧状燃料は空気通路A,Bを通
過しつつ燃焼室7の壁面から奪った熱によりあたためられた助燃空気と混合室9内
において混合し,この混合物は混合室9から十分予熱した燃焼室7内に送り出され
て予熱燃焼用の炎で着火され燃焼する。…定常運転に入った状態においては,前記
混合物が燃焼室7内に送り出される際,一部の混合物は燃焼室7の混合室側隅部で
矢印口の如く渦流となり,この渦流は燃焼室7内で燃焼している火炎面を混合室9
側に引張る作用をして安定燃焼火炎面を保持し,助燃空気は空気通路A,Bを通過
する際に加熱した燃焼室7の壁面を冷却し,奪った熱で自からあたたまり,あたた
まった助燃空気は燃焼室7で液体燃料の燃焼を促進し,しかも十分予熱された燃焼
室7で燃焼開始が行われるので燃焼開始時点から,その火炎は噴射口2から安定な
超音速高温ジェット火炎となって噴出する。(5頁2行∼6頁10行)

・ 「以上説明した如くこの考案によれば液体燃料の着火前にあらかじめ予熱した燃
焼室をつくることができるとともに助燃空気をあたためてから混合室内へおくりこ
むことができる…」(6頁11行∼14行)
(3) 以上によれば,甲1文献には,ジェットバーナにおいて,内側管流路と外
側管流路から成る二重管構造の燃焼筒外側部を循環する冷却水に代えて,コ
ンプレッサから供給される圧縮空気を用い,この空気の一部を直接燃焼筒に
流入させ,残りの空気をスワーラを通して燃焼室内に流入させて燃焼用空気
とすることにより,熱効率を大きくすること,甲12公報及び甲13公報に
おいては,バーナの燃焼室を二重構造として空気の流路を形成し,そこで温
められた空気を燃焼室内に投入することによって,燃焼を促進すること等が
記載されており,これらは本件特許の出願(平成9年9月5日)前において
周知の技術であったと認められる。
そうすると,このような周知技術を本件特許発明1に組み込めば,「燃焼用
空気を導入して熱交換できるようにするとともに,両流路の一方を燃焼用空
気と連通する連通管と接続することになり,他方は,高圧空気噴射口と連通
接続すること」となるから,相違点bの構成は,上記周知技術に基づき容易
に想到できるというべきである。
(4) これに対し原告は,甲1文献,甲12公報及び甲13公報には,いずれも
燃焼用空気を導入して熱交換する点が記載されているのみであり ,「管から成
る高圧空気噴射口」と連通接続できるようにする点の記載はないから,相違
点bに関する審決の判断は誤りである旨主張する。
確かに,上記(2)のとおり,甲1文献,甲12公報及び甲13公報には「管
から成る高圧空気噴射口」についての記載は見当たらないから,前記流路が
「管から成る高圧空気噴射口」と連通接続したことが上記周知例に開示され
ているとした審決の認定には誤りがある。しかし,燃焼空気を送るために高
圧空気噴射口を「管」とすることは,相違点aにおいて検討されているので
あって,これが容易想到であることは前記6のとおりであるから,上記誤り
は審決の結論を左右するものではない。
8 取消事由6(上記相違点cについての判断の誤り)について
(1) 原告は,相違点cに対する審決の容易想到性の判断に誤りがある旨主張す
るので,この点について検討する。
(2)ア(ア) 甲4公報の内容は前記6(2)ア(ア)のとおりであるところ,これによ
れば,甲4公報には,酸化剤をそれぞれ旋回的に集中指向するように吐
出することが記載されていると認められる。
(イ) これに対し原告は,甲4公報には「焦点」の記載がないから,甲4
公報記載のインゼクターにおいて酸化剤噴射孔は焦点を旋回的に集中指
向するものではない旨主張する。
しかし,前記3(3)のとおり,本件特許発明1における高圧空気噴射
口の技術的意義及び作用効果にかんがみれば,ここで規定されている焦
点は燃焼ガスを高速拡散させることが可能となるような燃焼ガスの吐出
方向の延長線上の地点を指すものと解される。そして,前記6(2)のと
おり,甲4公報には酸化剤噴射孔(6)は捻れ角度によって酸化剤に回転
集中力を与えるというのであるから,上記の意味における焦点を備える
ものであることは明らかである。
この点原告は,甲4公報における「回転集中力」との用語の意味は,
酸化剤を燃焼筒(1)の内周壁面方向に向かって旋回流として噴射する
ものであって,スワーラに相当するものであるなどと主張する。
しかし,甲4公報1図の酸化剤噴射孔(6)の傾斜方向は,インゼク
ター(2)上方の噴射孔(6)は左下に,同じく下方の噴射孔(6)は
左上に傾斜し,両者共に燃焼室10の中心線に向かっているものである。
これに加えて,甲4公報には ,「酸化剤噴射孔(6)の捻れ角度によって酸
化剤に回転集中力を与え,この集中回転渦巻の渦中に燃料を噴射せしめ
るように位置せしめ,(特許請求の範囲)として,上記のとおり「焦点」

を備えるものであることが記載されているのであるから,甲4公報には,
高温高熱バーナーにおいて,インゼクターに形成された酸化剤噴射孔は,
バーナの中心線前方の焦点をそれぞれ旋回的に集中指向することが記載
されていると認められる。
したがって,甲4公報における酸化剤は,原告主張のように酸化剤噴
射孔から「燃焼筒(1)の内周壁面方向に噴射され」るものではないか
ら,原告の上記主張は採用することができない。
イ(ア) 一方,甲5公報には次の記載がある。
・ 「 請求項1】 プラズマ炎からのエネルギー補助を受けつつ微粉炭を燃焼させ

るバーナーにおいて,プラズマ炎を囲むバーナータイルを有し,プラズマガス
として,窒素あるいは窒素を含むガスを用い,プラズマ炎と微粉炭が会合する
領域に供給する空気量を空燃比0.3以上0.6以下にし,会合部より下流に,
プラズマ炎の外縁に旋回流を形成する様に,さらに空気を供給することを特徴
とするプラズマ助燃燃焼炉用バーナー。」
・ 「微粉炭と一次空気供給孔はプラズマトーチノズルの外側のプラズマトーチノ
ズルと同心円となる円周上に複数個配置されている。更に,その外側に配置さ
れた二次空気供給孔(9)より,二次空気が供給される。二次空気供給孔はプ
ラズマジェットに対し二次空気が旋回流(12)を形成するよう,円周接線方向
速度成分を持って噴出する。プラズマジェットはバーナータイル(13)で囲ま
れている。 14)は燃焼炉である。表1に,種々の実施条件をまとめてある。(段
( 」
落【0009】)
・ 図1には,二次空気供給孔(9)がバーナの中心線に向けられて開孔しているこ
と及びそこから吐出された空気により旋回流が形成されている様子が示されて
いる。
(イ) 以上によれば,甲5公報には,二次空気を旋回流が形成されるよう
に噴出することが記載されていると認められる。なお原告は,甲5公報
記載の発明における二次空気供給孔(9)がプラズマトーチ(5)の中心線上
の焦点をそれぞれ旋回的に集中指向する旨の記載がないなどと主張する
が,上記甲5公報の図1の記載に照らし採用することができない。
ウ また甲14公報の内容は前記6(3)アのとおりであるところ,これによ
れば,甲14公報には,予混合器から旋回のかかった予混合気が吐出され,
これにより燃焼器中心軸に沿ってヘリカル形状の混合気流ができることが
記載されていると認められる。
なお原告は,甲14公報に記載に係る「予混合旋回バーナ」は燃料噴射
手段であって,燃料用空気を噴射する「管」から成る供給手段ではないと
主張するが,かかる主張が採用できないことは,前記6(3)のとおりであ
る。
(3) これら甲4公報,甲5公報及び甲14公報の各記載によれば,燃焼用空気
をそれぞれ旋回的に集中指向するように吐出するものとすることは,本件特
許の出願(平成9年9月5日)前において周知技術であったと認められるか
ら,相違点cの構成は,上記周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得た
というべきである。
(4) これに対し原告は,本件特許発明1における「焦点をそれぞれ旋回的に」
とは,外周環状位置から中心部の「焦点」そのものを目標として集中的に指
向するのではなく,「焦点」からは半径方向に若干離れた仮想上の同心円上
のそれぞれの点に向けて,右回り又は左回りとなるよう,それぞれが旋回的
に指向するように「複数の管から成る高圧空気噴射口」から燃焼用空気を吐
出することを意味するなどと主張するが,本件特許発明の明細書に「バーナ
噴射の焦点をそれぞれ旋回的に」の意味につき原告主張のように解すべきこ
とを示唆する記載はないから,採用することができない。
9 取消事由7(作用効果についての判断の誤り)について
(1) 原告は,相違点aないしcに係る審決の容易想到性の判断に誤りがあるこ
とを前提に,「予測できる作用効果の誤り 」 「当然の効果の誤り 」 「技術常
, ,
識の判断の誤り」といった作用効果についての判断の誤りがある旨主張する
が,審決の相違点aないしcに係る容易想到性の判断に誤りがないことは前
記のとおりであるから,原告の上記主張は前提において採用することができ
ない。
(2) また原告は,「記載から自明な作用効果」として,噴霧化燃料内部に浸入
させること,外周炎を突き破って液滴粒子の大きい燃料粒子群の主流に対し
て直接的吐出供給すること,中心部分の主流での完全燃焼をすることについ
ては,現象的に確認していた事実を,明細書に記載した内容に基づき,近年
に解明された燃焼理論によって,原告が本件特許発明1の構成に基づく当業
者に自明なジェットバーナの燃焼技術の作用効果として主張したものであ
り,中心部分における希薄燃焼,窒素酸化物の排出減少,燃焼室内周壁付近
での損傷防止については,同様に本件特許発明1の構成に基づいた当業者に
自明なジェット式バーナ燃焼技術の作用効果であると主張する。
しかし,原告の主張する上記作用効果は本件特許発明の明細書に記載され
ておらず,また当業者において出願時の技術常識から自明なことであるとも
認められないから,これをもって本件特許発明1の作用効果と認めることは
できない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) さらに原告は,本件特許発明1には格別顕著な作用効果があり,これを看
過した審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,本件特許発明1の構成は甲2発明及び周知技術より容易想到であ
って,原告が顕著な作用効果として挙げる「従来よりも低い割合の空燃比で
燃焼させる希薄燃焼が実現可能」であること ,「火炎温度を低くすることが
できる結果,局所的な高温部が生じないため窒素酸化物の排出を顕著に減少
させることができる」こと,「爆発的な燃焼が噴霧化燃料中心部分の化学反
応領域である比較的高密度で液滴粒子の大きい燃料粒子群の主流部分におい
て有効に前記完全燃焼が行われる」こと,及び「壁面近くでは作動流体の流
速が遅くなる結果,作動流体と壁面との熱伝達率が低くなり,壁面へ伝達さ
れる熱量は,周知技術と比べて少なくなり,相対的に壁面の温度が低下し,
燃焼室内壁の過熱は発生せず,過熱による燃焼室内周壁の損傷を防止する」
ことといった各効果も,甲2号証発明及び周知技術において奏することが予
測されるところ,本件特許発明1において,その予測を超える顕著な作用効
果がどのようなものであるのかを,本件特許発明の明細書によっても把握す
ることができない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
10 取消事由8(審判手続の違法)について
原告は,被告らが審判手続において提出した平成19年11月16日付け無
効審判弁駁書(本件弁駁書,甲27)に記載された理由は,先に被告らが行っ
た無効審判請求の要旨を実質的に変更する補正に該当し,審判長はこの補正を
実質的に許可したものであるから,原告に対して,本件弁駁書の副本を送達し,
相当の期間を指定して,答弁書を提出する機会を与えなければならなかったに
もかかわらず,これをしなかった審判手続は実質的に特許法134条2項に違
反する違法がある旨主張する。
この点,本件訂正に係る訂正審判請求書(甲25)には,訂正事項cとして,
「特許請求の範囲の請求項1に記載の『かつバーナノズルの中心線前方のバー
ナ噴射の焦点をそれぞれ旋回的に集中指向する複数の高圧空気噴射口の基部
と,』を,特許請求の範囲の減縮を目的として ,『かつ先端が前記燃焼室内に突
出してバーナノズルの中心線前方のバーナ噴射の焦点をそれぞれ旋回的に集中
指向する複数の管から成る高圧空気噴射口の基部と ,』に訂正する 。 (3頁1

2行∼17行)との記載があり,本件弁駁書(甲27)には,
「(3) 管体による
集中指向の周知性」として,「請求人は,空気供給に管体を採用することは周
知手段との根拠として甲8,9を提出した。しかし被請求人は,甲8号証の管
体による空気供給は周壁方向であって,発明A,Bにおける『燃焼室内に管先
端を突出させ,バーナ中心線前方の焦点を旋回的に集中指向する構成』は開示
されていないと指摘しているので,管体による燃焼用空気の供給手段の周知例
とし,甲14号証(特開平8−28871号公報 ),同15号証(特開平6−
229510号公報)…を提出する。(10頁9行∼16行)との記載がある。

以上によれば,本件弁駁書の上記記載は上記訂正事項cに係る構成に関連す
る周知例として従前提出されていた甲8,9に対する反論に答えるものとして
単に新たな周知例を追加することをいうものにすぎず,これにより本件無効審
判請求書の要旨を変更するものでないことは明らかである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
11 取消事由9(本件特許発明2についての審決の誤り)
原告は,本件特許発明1に対する一致点及び相違点a,cについての審決の
認定判断は誤りであるから,本件特許発明1を引用する従属発明である本件特
許発明2を無効とした審決の判断もまた誤りである旨主張するが,本件特許発
明1に対する審決の認定判断に誤りがないことは前記のとおりであるから,原
告の主張は採用することができない。
12 結論
以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 森 義 之
裁判官 澁 谷 勝 海

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