ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成20(行ケ)10066 審決取消請求事件
| 裁判所 | 審決取消 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 平成20年9月29日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 被告株会アシイタナョル 原告X |
| 法令 |
特許権 特許法36条6項1号14回 特許法36条4項10回 特許法134条の24回 特許法36条6項2号3回 特許法181条2項2回 特許法126条4項1回 |
| キーワード | 審決135回 実施58回 無効42回 特許権8回 無効審判4回 訂正審判2回 侵害1回 進歩性1回 新規性1回 差止1回 |
| 主文 | 1 特許庁が無効2006−80125号事件について平成20年1月25日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 本件は,原告が特許権者である特許第3586207号(発明の名称「ゼリ ー状体液漏出防止材及びそれを使用した体液漏出防止方法 ・出願 平成13年」 3月19日,登録 平成16年8月13日,請求項の数11)について,被告 から上記特許の請求項1∼4につき特許無効審判請求がなされたところ,特許 庁が平成19年2月7日付けで上記請求項1∼4に係る発明を無効とする審決 (第1次審決)をし,原告から訴え提起を受けた知的財産高等裁判所が平成1 9年6月5日付けで,特許法181条2項に基づき上記審決を取り消す旨の決 定をしたため,特許庁が上記審判請求事件について再びこれを審理することに なり,その中で原告は平成19年6月27日付けで上記特許につき訂正請求を したものの,特許庁は,平成20年1月25日,上記訂正請求を認めないとし た上,上記請求項1∼4に係る発明を無効とする旨の審決(第2次審決)をし たことから,これに不服の原告がその取消しを求めた事案である。 |
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判決言渡 平成20年9月29日
平成20年(行ケ)第10066号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成20年9月24日
判 決
原 告 X
訴訟代理人弁理士 前 田 弘
同 竹 内 宏
同 嶋 田 高 久
訴訟代理人弁護士 佐 々 木 猛 也
同 平 田 か お り
同 北 山 元 章
被 告 株 会 ア シ イ タ ナ ョ ル
式 社 キ ス ン ー シ ナ
訴訟代理人弁理士 吉 田 繁 喜
訴訟代理人弁護士 木 村 豊
主 文
1 特許庁が無効2006−80125号事件について平成20年1月
25日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,原告が特許権者である特許第3586207号(発明の名称「ゼリー状体液漏出防止材及びそれを使用した体液漏出防止方法」・出願 平成13年3月19日,登録 平成16年8月13日,請求項の数11)について,被告から上記特許の請求項1∼4につき特許無効審判請求がなされたところ,特許庁が平成19年2月7日付けで上記請求項1∼4に係る発明を無効とする審決(第1次審決)をし,原告から訴え提起を受けた知的財産高等裁判所が平成19年6月5日付けで,特許法181条2項に基づき上記審決を取り消す旨の決定をしたため,特許庁が上記審判請求事件について再びこれを審理することになり,その中で原告は平成19年6月27日付けで上記特許につき訂正請求をしたものの,特許庁は,平成20年1月25日,上記訂正請求を認めないとした上,上記請求項1∼4に係る発明を無効とする旨の審決(第2次審決)をしたことから,これに不服の原告がその取消しを求めた事案である。争点は,①上記訂正請求の適否,②訂正前の特許請求の範囲の記載が明確か(平成14年法律第24号による改正前の特許法〔以下,「改正前特許法」という〕36条6項2号,いわゆる明確性要件),③上記特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載されているか(改正前特許法36条6項1号,いわゆるサポート要件 ),④発明の詳細な説明は発明を実施可能な程度に明確かつ十分に記載しているか(改正前特許法36条4項,いわゆる実施可能要件),等である。〈判決注,〉改正前の特許法36条4項,6項1号2号の規定は,下記のとおりである。記「36条4項 前項第3号の発明の詳細な説明は,経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。6項 第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。二 特許を受けようとする発明が明確であること。」
第3 当事者の主張
請求の原因
(1) 特許庁等における手続の経緯
ア 原告は,平成16年8月13日付けで設定登録された特許第3586207号の特許権者(発明の名称「ゼリー状体液漏出防止材及びそれを使用した体液漏出防止方法」・出願 平成13年3月19日,登録 平成16年8月13日,請求項の数11,特願2001−78131号,公開公報は特開2002−275001号。以下「本件特許」という)である。イ これに対し被告から,平成18年7月5日付けで下記無効理由1ないし3を理由として本件特許のうち請求項1∼4について特許無効審判請求(甲75)がなされ,同請求は無効2006−80125号事件として特許庁に係属したところ,特許庁は,審理の上,平成19年2月7日,無効理由1は認められないが無効理由2,3は認められるとして,「特許第3586207号の請求項1∼4に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決(第1次審決)をした。記・ 無効理由1:請求項1∼4は,特許を受けようとする発明を明確に記載したものではないから,改正前特許法36条6項2号の要件(明確性要件)を満たしていない。・ 無効理由2:請求項1∼4は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから,上記36条6項1号の要件(サポート要件)を満たしていない。・ 無効理由3:発明の詳細な説明は,本件発明1∼4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,上記36条4項の要件(実施可能要件)を満たしていない。ウ これに不服の原告は,同審決の取消しを求める訴訟を知的財産高等裁判所に提起した(平成19年(行ケ)第10102号)ところ,原告が本件特許につき訂正審判請求(訂正2007−390056号事件)をしたこと等から,同裁判所は平成19年6月5日,特許法181条2項に基づき上記審決を取り消す旨の決定をした。エ そこで上記無効審判請求事件は再び特許庁において審理されるところとなったが,その中で原告は平成19年6月27日付けで本件特許につき訂正請求(以下「本件訂正」という。甲87)を行い,上記訂正審判請求は同法134条の3第4項により取り下げられたものとみなされたところ,特許庁は,平成20年1月25日,本件訂正は認められないとした上, 特「許第3586207号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 旨の審決(第2次審決。以下「本件審決」ということがある。」 )をし,その謄本は平成20年1月30日原告に送達された。
(2) 訂正前発明の内容
本件特許は前記のとおり請求項1ないし11から成るが,そのうち本件訂正前(すなわち平成16年8月13日の設定登録時のもの)の請求項1ないし4(以下「本件発明1」ないし「本件発明4」という)は,以下のとおりである。「 請求項1】遺体の体腔に装填される体液漏出防止材が,アルコール【系を主成分とするゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなることを特徴とするゼリー状体液漏出防止材。【請求項2】高吸水性ポリマー粉体が微粉体からなり,ゼリーの中に5,000個以上/ml分散していることを特徴とする請求項1記載のゼリー状体液漏出防止材。【請求項3】高吸水性ポリマー粉体が微粉体からなり,ゼリーの中に15,000個/ml∼30,000個/ml分散していることを特徴とする請求項1記載のゼリー状体液漏出防止材。【請求項4】高吸水性ポリマー粉体が60∼200メッシュの粉体からなり,ゼリーの中に18,000個/ml∼25,000個/ml分散していることを特徴とする請求項1記載のゼリー状体液漏出防止材 。」
(3) 本件訂正の内容
ア 訂正事項a上記(2)記載の請求項1の記載を次のとおり訂正する 下線が訂正部分 。(以下「訂正発明」という。。)「 請求項1】遺体の体腔に装填される体液漏出防止材が,アルコール【系を主成分とする粘性を有するゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなることを特徴とするゼリー状体液漏出防止材。」イ 訂正事項b∼d特許請求の範囲の請求項2∼4をそれぞれ削除する。ウ 訂正事項e∼k上記イの請求項2∼4の削除に伴い,請求項5∼11につき,それぞれ請求項番号を繰り上げるとともに引用する請求項を訂正するもの。エ 訂正事項•(下線が訂正部分)発明の詳細な説明の段落【0014】の記載を「 課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,請求項1【記載の発明は,遺体の体腔に装填される体液漏出防止材が,アルコールを主成分とする粘性を有するゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなるので,体液漏出防止材の流動性が高く,鼻孔,耳穴等の狭い体腔であっても充填されやすく,注入器で圧入しても飛散することがない。その上,ゼリーにポリマーが分散しているので,ポリマーが吸水性能を維持しており,このポリマーが体腔から漏出する体液を吸収し,外部へ漏出することを防止する。」に訂正する。オ 訂正事項m∼o明細書の発明の詳細な説明の段落【0015】∼【0017】の記載を削除する。カ 訂正事項p∼v明細書の発明の詳細な説明の段落【0018】∼【0024】の記載中の請求項に関する記載を,上記請求項2∼4の削除と平仄を合わせるもの 。
(4) 審決の内容
審決の内容は別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,①上記訂正事項のうち,訂正事項a,e∼l,及びp∼vは,特許法134条の2第1項ただし書記載の要件である「明りょうでない記載の釈明」にも「特許請求の範囲の減縮」にも「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しないので本件訂正は認められない,②前記無効理由1(明確性要件違反)は認められないが無効理由2(サポート要件違反)及び同3(実施可能要件違反)がある等として,本件発明1ないし4を無効としたものである。
(5) 審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べるような誤りがあるから,審決は違法として取り消されるべきである。ア 取消事由1(本件訂正についての判断の誤り)(ア) 審決は,訂正の適否の判断において,本件明細書(甲74〔特許公報〕)では,「ゼリー」は「ゲル」の意味で用いられていることは明らかであるとした(19頁12行∼13行 )。しかし,本件明細書(甲74 )の発明の詳細な説明の段落【0009】∼【0011】において,特開平8−133901号公報(発明の名称「遺体専用の止血剤 」,出願人 A,公開日 平成8年5月28日,甲18)に記載された止血剤についての説明をし,これにつき本件明細書の段落【0010】では,「…この公報のように,粉末ポリマーを水に溶かしてゼリー状にすれば,流動性が良くなるので,鼻孔等の奥にも注入しやすく,注入器を使って注入しても,粉体のように飛散することも無く,注入管を伝って滑らかに注入できる。」として,「粉末ポリマーを水に溶かし」た状態(粉末ポリマーが水を吸収した状態ではない)を「ゼリー」状と述べている。ここで「溶ける」とは,「固体・固形物が液状になる 。」或いは「液体に他の物質がまざって均一な液体になる。」ことをいうのであり,ゲルのような「かたまり」になることをいうのではない。さらに同段落【0010】 「流動性が良くなる」 注入管を伝って滑らかに注入できる」の ,「との記載をも併せ考えると,本件明細書では,「ゼリー」が「ゲル」の意味で使用されていないことが明らかである。なお,上記特開平8−133901号公報(甲18 )においても, 請【求項1】に「消臭剤入りの粉末ポリマーを適当量の水で溶かし適当に混合してゼリーA状にし,」と記載されており,粉末ポリマーを水に溶かしてゼリーA状にしていることから,ゼリーAは粘液であると解することができる。従って,審決が本件明細書では「ゼリー」は「ゲル」の意味で用いられているとした判断は誤りである。(イ) また審決は,本件明細書の「流動性」に関する記載は「ゼリー」についてのものではなく,「ゼリー状のもの」についての記載であるとし(19頁16行∼18行) 本件明細書の段落【0029】の「ゼリー」,も「微細ゼリー」であると解することができるとした(21頁下16行∼下7行)が,これを裏付ける根拠はない。一般に「ゼリー(ゲル)」は,これを攪拌すれば,ゲルの内部結合が破壊されてゾルに変化し,その攪拌という外力を除いて放置すると,再び粒子間の結合が再現して元のゲルに変化することが知られている(チキソトロピー〔揺変性〕。)審決でいう「微細ゼリー」の意味は明確ではないところ,仮に上記チキソトロピーによって一時的に生ずる状態が「微細ゼリー」であるとすれば,それは放置によってゲルに戻るから,流動性を示さなくなる。すなわち,攪拌によって「微細ゼリー」の状態を維持しなければ,当該体液漏出防止材は流動性を示さず,遺体の体腔には注入できない。なお,ゲルを注入器に入れ,そのゲルをピストンで押圧しても,そのゲルが,攪拌により,細かく破壊され(砕かれ)ることがないことはいうまでもない。そもそも本件明細書には「微細ゼリー」の定義はなく ,「ゼリー」と「ゼリー状」とを異なる意味で使用していることを示唆する記載もない。本件明細書には ,「ゼリー」が粘性を有し(段落【0028】 ,そのゼ)リーに高吸水性ポリマー粉体を多数分散したゼリー状体液漏出防止材は粘度が例えば8000∼40000CPであり(段落【0029 】 ,)流動性が高い(段落【0014 】)ことが記載されているのである。それら記載からすれば,本件明細書では「ゼリー」が「粘液」の意味で使用されていることは明らかである。(ウ) 審決は,本件明細書の段落【0027】に記載された「粘度」は段落【0032】に記載された「分散液」の粘度であり,ゼリーに関するものではないと判断した(21頁2行∼6行)。しかし,「分散液」という言葉は,本件明細書の段落【0027】以前にはなく,段落【0032】において初めて出るところ,段落【0027】の「粘度」が,後の「分散液」の粘度のことであれば,その断りが文章中になされるのが通常であり,その断りがないときは,当該段落【0027】又はそれよりも前に出ているものの粘度のことであると解釈するのが自然である。そして,段落【0027】には「特に,アクリル酸は,安定したゼリーを生成するために必要であり,0.01重量部未満では粘度が不足する 。」と記載されており,この文脈からして,その「粘度」は「ゼリー」の粘度のことであることは明らかである。審決は,「粘度」に関し,段落【0027】に記載の粘度は段落【0032】の「分散液」の粘度であると断定する一方で,段落【0028 】に記載の「粘度」はゼリー状体液漏出防止材の粘度のことであると,異なる解釈をした(21頁10行∼15行)。しかし,段落【0027】及びこれに続く段落【0028】が,ゼリーの成分の配合量がゼリーの性質に及ぼす影響についての説明文であることは明らかであり,段落【0027】に記載の粘度と段落【0028】に記載の粘度とに異なる解釈を与えなければならない合理的な理由はない。特に,段落【0028】には「…その結果ゼリーの粘性が不足し,粘度の有効な範囲を外れる。」と記載されているのであり,この文脈において,審決が,その「粘度」はゼリーの粘度のことではないというのは根拠がない。従って,本件明細書では「ゼリー」が粘液の意味で使用されていることは明らかである。(エ) 審決は,段落【0032】の記載「この分散液を攪拌しながら,中和剤を少量づつ滴下していく。これにより,ゼリーが生成される。」に関し, 生成」が有する通常の意味と ,甲2(化学大辞典)のゼリー(ゲ「ル)の生成に関する記述とを根拠に,ゼリー(ゲル)生成工程は技術常識であるから,当業者が,上記記載をみれば,「ゼリーが生成される」は「ゼリー(ゲル)ができる(生じる )」と解するのが自然であるとした(22頁13行∼16行)。しかし,甲2(化学大辞典)には中和剤の添加によってゼリー(ゲル)を生成することについては開示も示唆もなく,審決の論理には飛躍がある。また審決は, ハイビスワコー HIVISWAKO) のカタログ 和「 ( 」 (光純薬工業株式会社,作成年月日不詳,甲33〔審判乙21〕)に,ハイビスワコー(アクリル酸重合体の商品名)が分散された分散液に中和剤を添加すると粘液が得られる旨の記載があることに関し,本件明細書にはアクリル重合体として「ハイビスワコー」を用いるとは記載されていないから,同カタログの記載をもって段落【0032】記載の製造方法を解釈することは適当でないとした(22頁22行∼28行 )。しかし,上記「ハイビスワコー 」は,被告がアクリル酸重合体として,本件明細書(甲74)の記載に基づいて選定し,その実験報告書( 特「許第3586207号の発明に関する追試実験報告書 」 B作成,甲4),の実験に使用したものであり(甲83 ),この「ハイビスワコー」掲載カタログ(甲33)の記載内容に基づいて,段落【0032】記載の製造方法を解釈することは妥当であり,同段落記載の製造方法によってゼリー(粘液)を生成することができることの裏付けになっている。(オ) 審決は,「粘弾性について」(23頁下5行)として,対象物の流動性が問題になる当該技術分野において,固体にも通ずる粘弾性の議論を持ち出し,弾性的なかたまりであるゼリー(ゲル)であっても粘弾性を有する結果粘性を有するから,本件訂正は「ゼリー」の語義を明りょうにするものではないとするが,それは,当該技術分野の技術常識を無視した偏った理屈である。(カ) 審決は,「遺体体液漏出防止剤の技術分野の技術常識について 」(24頁下4行)との項目において,特開平8−133901号公報(甲18)の記載「適当量の消臭剤とポリマーを混合した粉末を計量スプーンで適量をすくいとり適量の水に混合攪拌しゼリー状にして注入器に入れ」に関し ,「ゼリー状」を注入器に入れ「ゼリー状」に含まれるゼリー(微細ゼリー)を目的の箇所に圧入充満することと解するのが自然であるとした(25頁下7行∼下4行)。しかし,同公報の「ゼリー状」を「微細ゼリー」と解釈するのは,独断であって,同公報には「ゼリー状」が「微細ゼリー」であることを示唆する記載はない。「微細ゼリー」なる語の意味は明確ではなく,仮にゼリー(ゲル)が攪拌によって一時的に微細化されても,それが注入器に入れられ,外力を除いた状態で放置されると,再び元のゲルに戻る。ゲルが注入器に入れられた状態でも「微細ゼリー」なる状態を保ち , 微「細ゼリー」なる状態で目的箇所に注入されるとの審決の判断は誤りである。(キ) 以上のように,誤った前提のもとに本件訂正を認めなかった審決の判断は誤りであり,取り消されるべきである。イ 取消事由2(無効理由1〔明確性要件違反〕における前提事実の認定の誤り)(ア) 審決は,結論として
(被告の主張)
する無効理由1については認められないと判断した(51頁下13行∼下11行)。しかし,無効理由1に対する判断において,本件の請求項1記載の ア「ルコール系」について,当業者は「アルコールに分類される化合物」と解すると認められるとし(50頁17行∼20行),原告の「高吸水性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状のアルコールに分類される化合物を意味する」との主張を退けた。その理由は,本件発明1の特許請求の範囲の記載は ゼリー 」「 の用語も含めてそれ自体明確であるから,本件発明1の「アルコール系」については発明の詳細な説明の記載を参酌する余地はないというにある。しかし,審決の「ゼリー」及び「アルコール系」についての認定は誤りであり,無効理由1は認められないとした審決の判断に誤りはないが ,上記前提事実の認定に誤りがあるから ,審決は取り消されるべきである 。(イ) 甲40(広辞苑第4版第5刷,1995年〔平成7年〕11月10日発行,1453頁)では,「ゼリー」について「①動物性(魚肉類)または植物性(果実)の膠質分を煮出して採取した澄明な汁。また,これをゼラチンで凝固させたもの 。 と説明され, 膠質」」 「 については [化]「コロイドに同じ 。」と説明され,さらに「コロイド」については「分子よりは大きいが普通の顕微鏡では見えないほど微細な粒子(コロイド粒子)が分散している状態。膠・澱粉・寒天・蛋白質などの水溶液の類。膠質。」と説明されている。「膠質分を煮出して採取した透明な汁」ということは,液体の一種ということになる。これから明らかなように,「ゼリー」は,「コロイド液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い弾性的なかたまりになった状態をいう 。」の意義のみを有する語ではない。広辞苑ではむしろ ,「ゼリー」の第一の語義を上述のとおり「動物性(魚肉類)または植物性 果実)( の膠質分を煮出して採取した澄明な汁 。」とし,液体の一種としている。(ウ) そして「膠質分を煮出して採取した澄明な汁」ということは,その汁にコロイド粒子が分散していることを意味するから,多くは粘性が高くなる。そのため,「ゼリー」は,下記甲41∼46に示すように,一般に粘液の意味でも使用されている。すなわち,粘滑・表面麻酔剤である「キシロカイン Rゼリー」の説明書(甲41 ,1頁左欄 ,2000年〔平成12年〕3月改訂以前の記載,アストラゼネカ株式会社)の性状欄の記載には,剤形「ゼリー 」,色・形状「無色∼微黄色透明の粘性の液」と説明されている。また殺菌消毒剤である「ヂアミトールR『マルイシ』50 w/v %」説明書(甲42,2005年〔平成17年〕4月改訂〔第3版〕,丸石製薬株式会社ウエブサイト)によれば,その性状は,「無色∼淡黄色透明の液またはゼリーようの流動体で,特異なにおいがある。」と説明されている。「花王ハイジーンソルーション」誌(甲43,2002年6月27日発行,花王株式会社)によれば,「I手指の殺菌・消毒に繁用される成分」(13頁記載)の「5 セチルリン酸化ベンザルコニウム」(17頁記載)について,その「 3】物理化学的性質欄」に「(1)【 白色∼黄白色の混濁したゼリー様の液である。」と説明されている。また化粧水である「ゼリー状アロエベラ化粧水」の説明書(甲44,アロエベラウエブショップ)によれば , ゼリー状アロエベラ化粧水は,「アロエベラ液汁をネバネバしたゼリー状に仕上げたアロエベラ化粧水です。」と説明されている。さらに女性の局部になめらかさを補う粘液剤にも「ゼリー」の語が使用されている(甲45,小林製薬株式会社ウエブサイト)。Fターム(特許庁が編纂している特許文献に記載された発明の技術的特徴による分類体系)のテーマコード4C066の観点CCに関するFターム説明の04粘性液体の項には,「液体であって,特に粘稠な流動性を有することが明確であるとき。ゼリー状のものも含む 。」と説明されている(甲46)。(エ) 遺体体液漏出防止材の技術分野でも ,「ゼリー」は通常,流動性を有する粘液の意味で使用されている。すなわち,特開平8−133901号公報(甲18)の段落【0005】には「適当量の消臭剤とポリマーを混合した粉末を計量スプーンで適量をすくいとり適量の水に混合攪拌しゼリー状にして注入器に入れ該ゼリーを目的の箇所に圧入充満凝固消臭し衛生綿で栓をして目的を達する。」と記載されている。この点に関し,審決では,同公報の「ゼリー」は「ゲル」を意味し,「ゼリー状」は「微細ゼリー」を意味するとしているが,この解釈が誤りであることは,既に主張したとおりである。さらに,被告の製品リーフレット「PMG」には ,「ゼリー化されているために流動性が良く,簡単に注入できます 。「鼻腔より咽頭部へ注」入したゲルが胃液や胸水を吸収凝固し,体液の漏出を防止します。」と記載されている(甲19)。すなわち,ここでも ,「ゼリー」は「弾性的なかたまり」の意味ではなく,流動性を有する粘液の意味で使用されている。また,そこでは「ゲル」という語が使用されているが,その「ゲル」は, 胃液や胸水を吸収凝固」するとあるから, 弾性的なかたまり」「 「の意味ではなく,流動性を有する粘液の意味で使用され,或いは「胃液や胸水を吸収凝固」した状態を指すものとして使用されており,いずれにしても,注入前のゼリー化された状態は流動性を有する粘液の意味で使用されていると解される。しかし審決は,本件発明1の「アルコール系を主成分とするゼリ−」と「ゼリー状体液漏出防止材」とに関し,「本件発明1の『ゼリー』と『ゼリー状』とは,それぞれ,かたまりの状態と,攪拌工程により破壊されたかたまり(微細ゼリー)を含む混合物の状態とを明確に区別して記載したものとして矛盾なく理解できるから,ゼリーを粘液の意味に解する必然性はない」(53頁19行∼23行)とした。しかし,本件明細書(甲74 )には, ゼリー」が「かたまりの状態 」「であると説明している箇所はなく,そのような意味で使用していることを示唆する記載もない。また ,「ゼリー状」が「攪拌工程により破壊されたかたまりを含む混合物の状態」であると説明している箇所や,そのような意味で使用していることを示唆する記載もない。かえって,本件明細書の段落【0027】には「アクリル酸は,安定したゼリーを生成するために必要であり,0.01重量部未満では粘度が不足する。一方1.0重量部より多くなると,粘度が飽和点に達し,それ以上は多くしても粘度は上がらない。」と記載されている。すなわち,ここでは「ゼリー」の粘度のことが述べられているが,粘度とは液体の粘性を意味し,「ゼリー」が「かたまり」であれば,粘度はないから,「ゼリー」が粘液の意味で使用されていること明らかである。また,本件明細書の段落【0028】には「中和剤はゼリーのPHを適正な値に維持するために必要であり,0.03重量部未満では,PHが下がり,その結果ゼリーの粘性が不足し ,粘度の有効な範囲を外れる。一方,0.7重量部より多くなると,ゼリーの粘性が安定しなくなり,調整が困難となる。」と記載されている。ここでは ,「ゼリー」に粘性があること,すなわち ,「ゼリー」が粘液であることが明確に示されている。このように,本件明細書では ,「ゼリー」は粘液の意味で使用されており,また ,「ゼリー」が「かたまりの状態」の意味であることを示唆する記載は一切ない。「ゼリー状体液漏出防止材」は ,「ゼリー」の中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなるから ,「ゼリー状」と「体液漏出防止材」の性状を述べているに過ぎず ,「ゼリー状」を「攪拌工程により破壊されたかたまりを含む混合物の状態」の意味で使用していると解釈する余地はない。(オ) 従って,本件請求項1記載の「アルコール系」については,「ゼリー」が粘液であることを踏まえて,その意義を理解しなければならない。そうすると審決が ,「アルコール系」を「アルコールに分類される化合物」という意味のみに解釈し,さらに「…甲第1号証に記載されているように常温で液状のもの,常温で固体状のもの,水溶性のもの,水難溶性のもの等,様々な物理的及び化学的性質を有するものが包含される」(53頁下5行∼下3行)と認定したことは,誤りである。すなわち, アルコール系」は,流動性を有する「ゼリー」 すなわち,「 ,粘液の基材(本件明細書段落【0027】)となるものであるから,常温で液状のアルコールでなければならない。従って,「アルコール系」には,常温で固体のアルコールが包含されないことは明らかである。次に,本件発明1のゼリー状体液漏出防止材は,体液(水)に触れたとき,その体液を「ゼリー」に溶け込ませて,該「ゼリー」中に分散している高吸水性ポリマーに吸収させる(本件明細書段落【0014】。)従って ,当然のことながら体液(水)が「ゼリー 」に溶け込むためには,その「ゼリー」の主成分となる「アルコール系」は水溶性のアルコールでなければならない。すなわち,「ゼリー」の基材である「アルコール系」が水と親和する性質を利用して高吸水性ポリマーに体液を吸収させるのであり,非水溶性ないしは難溶性のアルコールは,体液との親和性が得られないから,「アルコール系」には包含されない。さらに本件発明1が「ゼリー」の主成分として,水ではなく ,「アルコール系」を採用している理由は,高吸水性ポリマーの吸水機能を低下させないようにすることにある。すなわち,水をゼリーの主成分とすると,その水を高吸水性ポリマーが吸収して本来の体液の吸収機能が失われてしまう(本件明細書段落【0010】 。そこで ,) 「ゼリーでありながら高い吸水性を有する体液漏出防止材を開発すべく(本件明細書段落【0012 】 ,) 「アルコール系」をゼリーの主成分として採用することにより,高吸水性ポリマーの体液の吸収機能を低下させないようにしている。従って,本件発明1の「アルコール系」は,a)流動性を有するゼリーの基材となるものであるから「液状」であり,b)高吸水性ポリマーに吸収されない性質を有し,c)水との親和性を有する,アルコールに限定して解釈しなければならない。(カ) 審決は,「特許請求の範囲に記載した用語は,その意味が定義付けられている場合を除き,発明の詳細な説明の記載を参酌して限定的に解釈したり,特定の意味に解釈したりしてはならない」として,原告の,請求項の記載のみでなく,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮して本件発明1を解釈すべきとの主張を退けた。しかし,特許法36条6項2号に関し,特許・実用新案審査基準(甲13)には ,「発明を特定するための事項の意味内容の解釈にあたっては,請求項の記載のみでなく,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識(注2)をも考慮する。,並びに「請求項の記載がそれ自体で明」確でない場合は,明細書又は図面中に請求項の用語についての定義又は説明があるかどうかを検討し,その定義又は説明を出願時の技術常識をもって考慮して請求項中の用語を解釈することによって,請求項の記載が明確といえるかどうかを判断する。」と規定されている。本件発明1の場合は,請求項の記載それ自体において「ゼリー」の技術的意義が一義的に明確に定まらないのであるから,発明の詳細な説明並びに出願時の技術常識を考慮して用語 ゼリー」「 を解釈すべきである。そして,本件発明1では,その発明の詳細な説明に,用語「ゼリー」についての説明,すなわち ,「ゼリー」が粘度ないし粘性を有し「粘液」を意味することの説明がされている(段落【0027】∼【0028】。)しかも,その用語の説明は,「ゼリー」に通常の意味とは異なる定義を与えるものではなく,国語辞書で定義されている内容に符合するものである(甲40)。かかるケースにおいては,「ゼリー」及び「アルコール系」を,発明の詳細な説明の記載を参酌して上述の如く限定的に解釈することができる。そして,その結果,本件発明1を明確に把握することができるから ,本件請求項1の記載は明確である。(キ) また,本件発明2∼4は,いずれも本件発明1を引用する従属形式の請求項に係るものであり,「ゼリー」及び「アルコール系」に通常とは異なる定義を与えるものではない。(ク) 従って,本件発明1∼4の特許は,改正前特許法36条6項2号に規定する要件を満たしている特許出願に対してなされたものである。ウ 取消事由3(無効理由2〔サポート要件違反〕についての判断の誤り)(ア) 審決は,本件発明1の「ゼリー」について,「ゼリー」は「ゲル」であり ,「粘液」を意味するものではない旨を無効理由2についての判断においても繰り返している(53頁25行∼28行 )。しかし,その解釈が誤っていることは既に述べたとおりである。審決は,本件明細書の発明の詳細な説明には,段落【0026】に例示された液状のもの以外のアルコールを主成分としてかたまり状のゼリーを製造できることを具体的に裏付けるに足る実施例の記載は見出せないこと,アルコールに分類される化合物全般を用いて発明の課題を解決できることを当業者が認識できるような一般的な説明も記載されていないこと,被告の追試実験報告書(甲4)等を根拠に,本件発明1が,明細書の発明の詳細な説明に記載されているということはできないと判断した。(イ) しかし,既に述べたとおり,本件発明1の「ゼリー」は「粘液」を意味し ,「アルコール系」は「高吸水性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状のアルコールに分類される化合物」を意味するのであるから,発明の詳細な説明にかたまり状のゼリーを製造できることを具体的に裏付けるに足る実施例の記載がないこと,並びに,アルコールに分類される化合物全般を用いて発明の課題を解決できることを当業者が認識できるような一般的な説明の記載がないことは,改正前特許法36条6項1号の規定に違反することにはならない。また被告の追試実験報告書(甲4)は,被告会社の役員によって作成されたものであり証拠として不適切である。(ウ) 審決は,原告のした無効理由1についての答弁 答弁の要点 A1)( ( )と,無効理由2についての答弁(答弁の要点(B1))とに矛盾を生じていると指摘する 54頁下5行∼55頁9行)( ので,これに反論する 。無効理由1に関連して,審判事件答弁書(甲76)において本件請求項1の「アルコール系」とは「アルコールに分類される化合物」を意味すると述べているのは,審判請求書(甲75)の7.[3](2)②における被告の ,「アルコール系」の「系」は「アルコール系溶剤」のように形容詞的表現に用いられるところ,本件発明1では「アルコール系」を物質として用いているから明確でないという主張に対して,答えたものである。すなわち,「アルコール系」や「エーテル系」は物質を特定する用語として「アルコールに分類される化合物」「エーテルに分類される化合,物」の意味で普通に使用されているから(甲15∼17)「アルコール,系」は物質を特定する用語としてそれ自体明確であることを述べたものである。答弁の要点(A1)は,本件請求項1の「アルコール系」を発明の詳細な説明等に基づいてどのように限定解釈すべきかを主張しているのではない。本件発明1の「アルコール系」を発明の詳細な説明等に基づいてどのように限定解釈すべきかは,無効理由2に関連して,「アルコールに分類される化合物」のうち,a)液状で,b)高吸水性ポリマーに吸収されない,c)水との親和性を有するアルコールと解釈される,と主張している(答弁の要点(B1)。)以上のように,無効理由1と無効理由2とで矛盾した答弁をしているのではない。また審決では,上記a)∼c)の物性条件が具体的に記載されていないとしているが,改正前特許法36条6項1号は特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであることを要求する規定であり,当該発明が記載されているか否かを問題にするのであるから,物性条件が記載されていないからといって,当該発明が記載されていないとはいうことができない。本件発明1はそのような物性条件を特定した発明ではない。審決は ,「水に溶けにくいベンジルアルコール…を親水性(有機)溶剤,すなわち,水との親和性を有する溶剤ということもある(もし必要なら,特表2000−505138号公報の請求項2,特開2002−249711号公報の段落【0018 】 【0019】参照 ) (55頁, 」24行∼28行)とするが,遺体の体液が体腔から漏出することを防止する体液漏出防止材にあっては,水に溶けにくいアルコールは体液を高吸水性ポリマー粉体に吸収させにくくなるから ,「ゼリー」の基材として不適当である。(エ) また,本件発明2∼4は,いずれも本件発明1を引用する従属形式の請求項に係るものであり,「ゼリー」及び「アルコール系」に通常とは異なる定義を与えるものではない。(オ) 従って,本件発明1∼4の特許は,改正前特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してなされたものである。以上のように,審決は,本件発明の認定( ゼリー」及び「アルコー「ル系」の解釈)を誤って無効理由2について判断したものである。エ 取消事由4(無効理由3〔実施可能要件違反〕についての判断の誤り)(ア) 審決は,本件発明1の「ゼリー」について,「ゼリー化(ゲル化)」のためには特別な配合剤を要すると解される,とした(56頁7行 )。しかし,本件発明1の「ゼリー」は「粘液」であり,ゲルではないのであるから,「ゼリー化(ゲル化)」のためには特別な配合剤を要するという判断は誤りであり,そのような配合剤を必要としない。(イ) 審決はまた,「本件発明1のゼリーはかたまり状のものであって,液状アルコールを単に公知の増粘剤で増粘しただけの粘液(液体)ではないのであるから,発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者が『アクリル酸重合体』を『増粘剤』全般と等価なものとして理解することはできない」(56頁20行∼24行)とした。しかし本件発明1の「ゼリー」は「粘液」であり,かたまり状のものではないのであるから,当業者が「アクリル酸重合体」を「増粘剤」全般と等価なものとして理解することはできないという判断は誤りである。(ウ) 審決は,後日の実験結果により特許明細書の記載不備を直ちに補完できるものではないとしたが,特許法36条4項に関し,特許・実用新案審査基準 甲47 )( には,実施可能要件違反の拒絶理由通知に対して,出願人は意見書,実験成績証明書等により反論,釈明をすることができる,と規定されている。従って ,甲24 平成18年11月22日付け)( ,30(平成18年10月22日付け),31(平成18年11月24日付け),37(平成18年12月13日付け),39(平成18年12月13日付け ),53∼56(平成19年5月20日付け,5月28日付け,6月7日付け,6月11日付け)の各実験報告書によって無効理由3に対して反論することは許容されている。審決は,原告が実験で調製したとしている「ゼリー」は明らかに粘液(液体)であるから,仮にこれらの実験結果を参酌したとしても,かたまり状のものと解される本件発明1の「ゼリー」を当業者が実際に調製できるということはできない,と述べるが,先に述べたように,本件発明1の「ゼリー」は粘液であるから,その判断は誤りである。審決は ,「サンノニックSS−120」のような高分子量の化合物を用いることは特許明細書の発明の詳細な説明に記載されておらず,しかも,発明の詳細な説明に開示されているアクリル酸重合体を用いたのでは,高吸水性ポリマー粉体を2時間分散させておくことができない程に分離しやすい調製物しか得られず,発明の詳細な説明に開示のないマンニトール,ポリビニルアルコール,ポリエチレングリコール4000,ポリエチレングリコール20000を併用しなければ粘液であるところの「ゼリー」すら満足に調製できない(57頁6行∼19行)のであるから,原告提出の実験報告書は特許明細書の発明の詳細な説明に当業者が本件発明1を実施できる程度の記載がなされていることを支持する証拠にはならないとした(58頁2行∼4行)。しかし,甲55実験報告書の実験24は,「サンノニックSS−12」に関し,発明の詳細な説明に開示されているアクリル酸重合体を用い,マンニトール等を併用せずに,「ゼリー 」(粘液)を調製することができることを示している。また,特許・実用新案審査基準(甲47)には,請求項の記載と発明の詳細な説明との関係について,「請求項に係る発明」についてその実施の形態を少なくとも一つ記載することが必要であるが,請求項に係る発明に含まれるすべての下位概念又はすべての選択肢について実施の形態を示す必要はないが,請求項に係る発明に含まれる他の具体例が想定され,当業者がその実施をすることは,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をもってしてもできないとする十分な理由がある場合は,請求項に係る発明は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されていないといえる旨が記載されている。これを本件についてみると,発明の実施の形態についてはエチレングリコールの例が本件明細書(甲74)の段落【0032】に記載されている。問題は,エチレングリコール以外のアルコールについて本件特許発明の実施をすることは明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をもってしてもできないとする十分な理由があるか否かである。例えば,上記「サンノニックSS−120」に関しては,発明の詳細な説明に開示されているアクリル酸重合体にポリエチレングリコール4を併用すると,本件発明1の「ゼリー」を調製することができる(平成18年10月22日付け実験報告書,甲30)。そのことは,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をもって本件発明1を実施することができることに他ならない。これに対し審決では,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をもってしても本件発明1を実施することができないとする十分な理由については何ら示されていない。審決は,甲56の実験報告書 平成19年6月11日付け)( には, ゼ「『リー状の体液漏出防止材の製造条件を検討する上で,アルコール系溶媒の種類,配合量並びにアクリル酸重合体・高級水性ポリマーの配合量など,操作因子が多くあげられる』(摘記乙44−2)と,調整には操作因子が多く試行錯誤を要することが示されている。(57頁29行∼3」行)とするが, 試行錯誤を要する」とはどこにも記載されていない 。「むしろ,甲56の実験報告書には,当業者であれば,それら操作因子の調整により,ゼリー状の体液漏出防止材を簡単に製造できることが述べられているというべきである。審決は,被告の実験報告書(甲4)を ,「ゼリー」をゲル(固体)と用語の本来の意味に沿って解して実験結果を評価しているから,その実験結果は本件発明1の「ゼリー」(かたまり状のもの)を当業者が実際に調製できるか否かを検討する上で参考にすることができる,としているが,上述の如く,本件発明1の「ゼリー」は「粘液」であるから,審決の無効理由3に関する判断が誤っていることは明らかである。(エ) 審決は,「本件発明1のゼリーを調製するためには,主成分として選んだアルコールの個々の特性に応じて多種多様なアクリル酸重合体及び中和剤の中から適切な組合せ及び配合量を個別に選定する必要があるということである。そして,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,実験報告書で採用されているような具体的な試薬の選定例やアルコールの種類に応じた試薬の一般的な選定方針はまったく記載されていない」(59頁29行∼34行),とした。しかし,本件明細書(甲74)には,「アルコール系」としてエチレングリコールを採用するケースにおいて,アクリル酸重合体と中和剤とによってゼリーを調製する方法が記載されている(段落【0032】。)その「ゼリー」は粘液であるから,そのアクリル酸重合体が増粘剤として用いられていることは当業者に自明であり,また,アクリル酸重合体が増粘剤として用いられること,その場合は,アルカリで中和することは周知技術である。11691の化学商品(甲22)には,アクリル酸重合体であるカルボキシビニルポリマーが増粘剤として用いられること,アルカリで中和することによって著しく増粘することが記載されている。しかも,アルコールを主成分とする粘液の調製法は本件出願時において周知技術として存在している(甲48∼52 )。すなわち,特許第3090425号公報(甲48)及び特許第3121571号公報(甲49)には,インキの製法に関し,芳香族アルコールと多価アルコールとの混合溶液に増粘剤及び中和剤を添加してインキ粘度を調整することが記載されている。また特許第3138765号公報(甲50)には,水解性清掃布の製法に関し,アルコールに増粘剤及びpH調整剤を添加して所定粘度の水性造膜性分散液を調製することが記載されている。特開平9−78057号公報(甲51)には,エアゾール組成物の製法に関し,アルコール類よりなる分散液にアクリル酸重合体とアルカリ剤とを加えて増粘させることが記載されている。特開平9−77605号公報(甲52)には,薬剤分散液の製法に関し,アルコール類よりなる分散液にアクリル酸重合体とアルカリ剤とを加えて増粘させることが記載されている。このように,本件明細書に「アルコール系」としてエチレングリコールを採用し,増粘剤であるアクリル酸重合体と中和剤とによってゼリーを調製する方法が記載され,しかもアルコールを主成分とする液体の増粘剤による増粘方法は周知であるから,当業者であれば,発明の詳細な説明の記載に基づいて過度の試行錯誤を強いられることなく,本件発明1の実施をすることができるということができる。すなわち,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明1を実施することができる程度に発明が明確かつ十分に記載されたものであり,本件発明1の特許は,特許明細書の発明の詳細な説明が改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしている出願に対してなされたものである。(オ) また,本件発明2∼4は,いずれも本件発明1を引用する従属形式の請求項に係るものであり,「ゼリー」及び「アルコール系」に通常とは異なる定義を与えるものではない。(カ) 従って,本件発明1∼4の特許は,明細書の発明の詳細な説明が改正前特許法36条4項に規定する要件を満たしている出願に対してなされたものである。以上のように,審決は,本件発明の認定( ゼリー」及び「アルコー「ル系」の解釈)を誤って無効理由3について判断したものである。請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(4)の各事実は認めるが,同(5)は争う。被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対し
ア(ア) 原告は,本件明細書では,特開平8−133901号公報(甲18)に記載の「ゼリー」は「粘液」の意味であると解釈した上で, ゼリー」「を同じく「粘液」の意味で使用していることは明らかであると主張し,その根拠として本件明細書の段落【0010】の記載を指摘している。すなわち,同段落には「この公報のように,粉末ポリマーを水に溶かしてゼリー状にすれば,流動性が良くなるので,鼻孔等の奥にも注入しやすく,注入器を使って注入しても,粉体のように飛散することも無く,注入管を伝って滑らかに注入できる。」と記載されているので,「粉末ポリマーを水に溶かし」た状態(粉末ポリマーが水を吸収した状態ではない)を「ゼリー」状と述べていると主張している。しかし ,「粉末ポリマーを水に溶かしてゼリー状にする」とは,粉末ポリマーを水に溶かし,適当に混合して,それによってゼリー状にすると述べているのであり,原告主張のように ,「粉末ポリマーを水に溶かし」た状態を「ゼリー」状と述べているものではない。(イ) さらに原告は,「溶ける」とは,「固体・固形物が液状になる 。」或いは「液体に他の物質がまざって均一な液体になる。」ことをいうのであり,ゲルのような「かたまり」になることを云うのではない,と主張している。しかしながら ,「粉末ポリマーを水に溶かしてゼリー状にする」とは,「粉末ポリマーを水に溶かして均一な液状にし,これがゼリー状に変化する」ということを述べていることは,当業者にとって容易に理解できることである。このことが理解しやすいように,「実験報告書(1) (乙1,平成2」0年5月19日,被告取締役B作成)を提出する。これに示されているように,粉末ポリマー,例えば従来周知の高吸水性ポリマーを水に溶かすと,速やかに水を吸水し,まだ吸水性能を残した状態で膨潤し,ゲル状に固化するものであり,また,得られたゼリーは,傾けても流れることなく,その形状を保っている。尚,極めて少量の高吸水性ポリマーを多量の水に溶かすと,分散液の状態になることが考えられるが,特開平8−133901号公報(甲18)では「ゼリー状にする」と明記されているため,このような状態を意図していないことは明らかである。上記乙1に示されているように,粉末ポリマーが適当量の水に対して溶けるものではなく,水を吸収して膨潤するものであることは技術常識であり,同公報(甲18)でいう「ゼリー」が,かたまりである膨潤ゲルを示していることは明らかである。また,ここでいう適当量の水というのは,膨潤ゲルになってはいるが,まだ水を吸収できる性能を残している量であることは明らかであり,そのことによって,体腔に圧入し,体液 血)( を吸収することによってさらに凝縮して密閉することができ,止血という効果を発揮させることを狙いとしていることは,同公報に記載の発明が「遺体専用の止血剤」であり,「ゼリー」が止血剤として用いられている点からも明らかである。(ウ) 原告は本件明細書(甲74)の【0009】∼【0011】において特開平8−133901号公報(甲18)に記載された止血剤の「ゼリー」を「粘液」の意味であると解釈した上で, ゼリー」を同じく「粘「液」の意味で使用していると主張する。しかし,本件明細書の段落【0010】には, この公報のものでは,「ゼリーに消臭剤を混合して異臭を防止するようにし,ゼリー自体で栓をすることを狙いとしている。」と記載されている。仮に原告主張のように,同公報に記載された止血剤の「ゼリー」を「粘液」の意味であると解釈すれば ,「ゼリー自体で栓をする」ということは不可能もしくは極めて困難であり,本件明細書の上記記載と矛盾している。また ,「液体で栓をする」とは一般に言わず,「栓をする」とは,通常,固体又は固形状のものを用いた場合を言う。審決がいうように,本件明細書に記載の従来技術では「樹脂粉末が体液を吸収して膨潤してゲル化する機能」を利用して体液漏出防止を行うものであり,段落【0007】に「粉末を固めて栓をしたい」と記載されていることから見ても,「樹脂粉末(吸水性樹脂)が体液を吸収して膨潤した膨潤ゲル」が「栓」になるものであることは明らかであり,このことと,段落【0010】での「ゼリー自体で栓をする」なる記載とを合わせみると, ゼリー」が「膨潤ゲル」「を指すこと,すなわち,「ゼリー」が「ゲル」の意味で用いられていることは明らかである。しかも,化学大辞典(甲2)の「ゼリー」の項に記載されているように,一般的な技術用語の定義では ,「ゼリー」は「ゲル」の一種とされているものであるから,そのような「膨潤ゲル」を「ゼリー」と言うことは,ごく普通のことであり,技術用語としても妥当である。そして,本件明細書の段落【0012】には,該改良技術(従来技術)である同公報(甲18)のゼリーを受けて,該改良技術のゼリーでは吸水性能が不足するから,「(本発明は,)ゼリーでありながら高い吸水性を有する体液漏出防止材を開発したことを特徴とする。」と記載されており,本件発明におけるゼリーも,該改良技術のゼリーと同様な意味,すなわち, ゲル」「を意味することは明らかである。(エ) さらに,本件特許の審査過程の経過を参酌しても,原告の「本件明細書において,『ゼリー』は『粘液』の意味で使用している」との主張は妥当ではない。すなわち,本件特許の審査過程において,審査官は,本件特許出願に対する平成16年4月9日付け拒絶理由通知書(乙2)において,請求項1∼4及び8∼10に対して特願2000−100967号(特開2−288002号,公開公報〔乙3 〕)を引用出願1として引用して,「引用出願1の請求項1には,遺体の体腔に装填される体液漏出防止剤が両親媒性ゲルからなる体液漏出防止用ゲルが記載されている。そして,分散割合や粘度,pHなどを設定することは,周知・慣用技術の付加,転換にすぎず,新たな効果を奏するものでもない。 と指摘し,」また請求項11に対して同様に引用出願1を引用して ,「引用出願1の請求項3には,両親媒性ゲルからなる体液漏出防止剤が入れられた注入シリンダと,該注入シリンダの先端に設けられた注入管を遺体の体腔に装填し,両親媒性ゲルを該注入管から体腔内に導入する,体液漏出防止方法も記載されている。」と指摘して,本願発明は,その出願日前の引用出願1に係る発明と同一であるから,特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができない,という拒絶理由を示している。ここで引用されている引用出願1に係る発明は,体液漏出封止剤として両親媒性ゲルを使用すること,及び注入器を使用して両親媒性ゲルを体腔に装填する体液漏出防止方法を特徴としており,用いる体液漏出封止剤は「両親媒性ゲル」と明記されている。従って,審査官は ,「本願発明は,その出願日前の引用出願1に係る発明と同一である」と判断していることからも,本件明細書でいう「ゼリー」及び「ゼリー状体液漏出封止材」を「ゲル」と同義語と把握していることは明らかである。これに対して原告は,平成16年6月10日付け意見書(乙4)の「5本願補正後の発明と引用文献1との対比」の「5.1 本願補正後の請求項1の発明と引用文献1との対比」において,以下のとおりとしている。「…引用文献1の発明と本願補正後の請求項1の発明とでは,発明特定事項が異なります。すなわち,引用文献1の発明は,両親媒性ゲルからなるのに対して,本願補正後の請求項1の発明は,アルコール系を主成分とするゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなります。…以上より,引用文献1の発明と本願補正後の請求項1の発明とでは,発明特定事項が異なり,同一の発明ではありません。以下に,本願補正後の請求項1を発明するに至った経緯を示します。…しかし,引用文献1の発明の体液漏出防止用ゲルに,一定量以上の体液を吸水させようとすると,両親媒性ゲルは一定量以上の体液を吸収しないので,多量の両親媒性ゲルを必要とします。例えば,鼻穴から挿入して咽喉部を充填するためには,約80ccの体液漏出防止用の両親媒性ゲルが必要です。そして,段落番号0025から0028に記載している方法に従って,第1図に記載されている先端に挿入管が取り付けられた注入器を用いて,鼻穴から体液漏出防止用ゲルを挿入します。ところが,体腔へ挿入する体液漏出防止用ゲルの量が80ccと多いために,また,咽喉部の狭い通路部分に抵抗がはたらくために,体液漏出防止用の両親媒性ゲルを体腔内へ無理やり導入しなければならなくなり,その結果,両親媒性ゲルが鼻穴に挿入した挿入管の先端から咽喉部に全部入らずに,一部の両親媒性ゲルが挿入管と鼻穴との隙間から溢れでてきてしまう場合があることがわかりました。上記の弊害を取り除くために,ゲル状体液漏出防止材に,多数の高吸水性ポリマー粉体を分散させることとしました。高吸水性ポリマー粉体は,吸水能力に優れるため,このような構成とすることにより,少量のゲル状体液漏出防止材で多量の体液を吸収することができます。そのため,本願補正後の請求項1の発明を用いて体液処理を行うためには,例えば,咽喉部を充填するときには,半分以下のゼリー状体液漏出防止材で足ります。従って,体腔に導入しなければならないゼリー状体液漏出防止材は,非常に少なくてすむため,体液漏出防止用ゲルを体腔内へ無理やり導入する必要もなくなり,その結果,挿入管と鼻穴との隙間から体液漏出防止用ゲルが溢れでてきてしまうこともありません。」上記主張からは,出願人(原告)自身,少なくとも本件発明の審査過程の段階までは,本件明細書でいう「ゼリー」及び「ゼリー状体液漏出封止材」を「ゲル」と同義語と把握していたことがわかる。「粘液」と「ゲル」ではその概念も範囲も全く異なるわけであるから,仮に本件明細書にいう「ゼリー」は「粘液」を意味しているとの主張が通るものとすれば,「本願発明は,その出願日前の引用出願1に係る発明と同一である」との審査官の判断を覆すのに極めて有効と考えられるが,上記意見書ではこのような主張は全くなされていない。本件明細書にいう「ゼリー」は「粘液」を意味しているとの
(原告の主張)
は,記載不備が指摘された無効審判において初めてなされたものであり,禁反言の原則から見ても妥当ではない。(オ) また,明細書の技術用語には学術用語を用い,用語はその有する通常の意味で使用し,用語を特定の意味で使用する場合はその意味を定義して使用しなければならない(特許法施行規則第24条様式29備考7及び8)という特許法の規定から見ても,勝手な解釈によって,その用語の本来の意味とは異なる用い方をしてはならない。もし,原告が「ゼリー」を学術用語の意味とは異なる「粘液」として使用していると主張するのであれば,本件特許が特許法施行規則に違反していることを原告自らが認めていることに他ならない。(カ) 以上の点から見ても,特開平8−133901号公報(甲18)に記載の「ゼリー」は「粘液」であるという
(原告の主張)
,及び「本件明細書にいう『ゼリー』は『粘液』を意味している」との
(原告の主張)
は認められず,審決の,同公報の「ゼリー」は「ゲル」を意味し,本件明細書では「ゼリー」は「ゲル」の意味で用いられている,という判断に誤りはない。イ 原告は,審決が本件明細書の「流動性」に関する記載は「ゼリー」についてのものではなく ,「ゼリー状のもの」についてのものであると,本件明細書では,「ゼリー」は「ゲル」の意味で使用され,「ゼリー状のもの」は「微細ゼリー」のことであるとしたが,根拠は曖昧であり,独断に過ぎないと主張し,その理由として,一般に「ゼリー(ゲル)」は,これを攪拌すれば,ゲルの内部結合が破壊されてゾルに変化し,その攪拌という外力を除いて放置すると,再び粒子問の結合が再現して元のゲルに変化することが知られている(チキソトロピー〔揺変性〕)とする。しかしその主張は,当業者の技術常識に反する。「チキソトロピー(揺変性)」については,例えば,「岩波理化学辞典
第5版」(乙5,2004年〔平成16年〕12月20日 株式会社岩波書
店発行,833頁右欄)の「チキソトロピー」の項に, 異常粘性の一種」「と記載されているように,原告主張のように一般に「ゼリー(ゲル)」に生じる現象ではない。「ゼリー(ゲル) の中にはチキソトロピーを起こすものが含まれるが,」「ゼリー(ゲル )」であるものすべてがチキソトロピーを起こすものではない。例えば,一般に市販されているデザートとしてのゼリー(コーヒーゼリー等)や寒天などは,固まり状のものを一旦,攪拌,粉砕して細かいゼリーにしてしまえば,外力を除いたとしても,チキソトロピーを起こさず,元のゲルにもどることはなく,押し出し流動性も維持したままとなる。また,かたまりであっても,「ところてん」は,型に入れ,そのかたまりをピストンで押圧して細長い麺状にして食べるものであるが,このときはかたまりであっても押し出し流動性はあり,押し出され,細長く裁断されたものが器の中で元のかたまりに結合しないことは日常的に経験する常識である。広辞苑の「ゲル」の項(甲11)に例示されている豆腐やこんにゃく等にもいえることはいうまでもない。このことはまた,本件明細書に唯一,ゼリー状体液漏出防止材の製造方法について記載されている段落 0【】に記載の方法で製造できたゼリー状体液漏出防止材,並びに被告会社製品のゼリー状体液漏出防止材「PMG」についても当てはまる。そして,これら微細化された「ゼリー(ゲル)」を注入器にいれても,元のゲルに戻ることなく,流動性を示し,ピストンで押圧すれば容易に押し出すことは可能である。このことを立証するために ,「実験報告書(2) (乙6,平成20年5」月19日,被告取締役B作成)「実験報告書(3)(乙7,平成20年5, 」月19日,被告取締役B作成)及び「実験報告書(4)(乙8,平成20」年5月19日,被告取締役B作成)を提出する。乙6に示されている本件明細書の段落【0032】に記載の方法で製造できたゼリー状体液漏出防止材,乙7に示されている被告会社製品のゼリー状体液漏出防止材「PMG 」,乙8に示されている寒天,豆腐,コーヒーゼリーのいずれも,粘液ではなく,固体状のゼリー(ゲル)であるが,注入器に入れてピストンによる外力が加われば,押し出し流動性を示し,出てきたものも粘液になっていたわけではなく,ゼリーのままである。また,攪拌粉砕した微細ゼリーにおいても,チキソトロピーによって一時的に微細化されていたわけではなく,注入器に入れる前(押し出し前)も,押し出し後も微細ゼリーの状態を保ったままであり,注入器による押し出しは可能である。このことは,実験報告書(1)(乙1)についても同様である。原告は,審決でいう「微細ゼリー」の意味が明確ではないが,仮にチキソトロピーによって一時的に生ずる状態が 微細ゼリー」「 であるとすれば,それは放置によってゲルに戻るから,流動性を示さなくなる。すなわち,攪拌によって「微細ゼリー」の状態を維持しなければ,当該体液漏出防止材は流動性を示さず,遺体の体腔には注入できないことになると主張する。しかし,審決でいう「微細ゼリー」という用語は,生成したゼリーを攪拌粉砕した状態を便宜上「微細ゼリー」と表現しているだけであり(乙6に示されている実験その1のゼリーに対して,このゼリーに高吸水性ポリマーを加えて十分に攪拌粉砕して得られるゼリー状体液漏出防止材を対比した表現),本件明細書の段落【0032】の「本発明に係わるゼリー状体液漏出防止材の製造方法を説明する。攪拌機に粘液基材であるエチレングリコールを入れる。このエチレングリコールを攪拌しながら,アクリル酸重合体を少量づつ加えていく。2∼8時間攪拌して,分散液を生成する。この分散液を攪拌しながら,中和剤を少量づつ滴下していく。これにより,ゼリーが生成される。このゼリーにゲル粉末である高吸水性ポリマーを加え,十分に攪拌する。これにより,ポリマーが分散したゼリーが生成される。」との記載に基づいていることは明らかである。すなわち,乙6の実験その1及び実験その2に示されるように,生成したゼリーを攪拌(それに伴い粉砕される)した状態を便宜上「微細ゼリー」と表現しているだけであり,原告主張のように,チキソトロピーによって一時的に生ずる状態を「微細ゼリー」と表現しているものではなく(審決には「チキソトロピー」という用語は一切使用されていない),また,放置によっても「微細ゼリー」の状態を維持したままであり(注入器に入れる前〔押し出し前〕も,押し出し後も微細ゼリーの状態を保ったままであり),注入器により容易に押し出しできる押し出し流動性を示し,遺体の体腔に容易に注入できるものである。なお原告主張のように,仮に「ゼリー(ゲル)」がチキソトロピーを起こす物質であったとしても,その「ゼリー(ゲル )」は外力を加えるまでは固体であり,それを注入器に入れ,そのゲルをピストンで押圧すれば,そのゲルはチキソトロピーによって押圧中はゾルになり,押し出され外力が除かれた後は元のゲルに変化するはずであり,即ち遺体の体腔に注入できる押し出し流動性は示すはずであり,遺体の体腔に注入できないという
(原告の主張)
とは結びつかない。従って,本件明細書でいう「ゼリー状」のものが微細ゼリーであれ,チキソトロピーを起こすゼリーであれ,「ゼリー(ゲル)」が固まり状のものを示すことに変わりはなく,「ゼリー」が「粘液(液体)」であるという原告の主張は妥当ではない。ウ また原告は,本件明細書(甲74)の段落【0029】に記載のゼリー状体液漏出防止材の粘度及び段落【0014】の「流動性が高い」との記載から,本件明細書では「ゼリー」が「粘液」の意味で使用されていることは明らかである,と主張している。しかし,段落【0029】に記載のゼリー状体液漏出防止材の粘度は,一般の粘液の粘度に比べて異常に高い。たとえば, 化学大辞典縮刷版3」「(乙9,昭和47年9月15日共立出版株式会社発行,110頁右欄)の「グリセリン」の項には,グリセリンは無色粘ちょうの液体で約0℃で固化すると記載され,また「岩波理化学辞典 第5版」(乙10,2004年〔平成16年〕12月20日株式会社岩波書店発行,378頁右欄)の「グリセリン」の項には,グリセリンは無色で粘稠の液体で,融点17.8℃,粘性率は0℃で121.70P,20℃で14.12Pと記載されている。融点17.8℃に近い20℃ではかなりの粘稠な液体(粘液)であるが,その場合の粘度は14.12Pであり(因みに,水の20℃での粘度は約0.01Pである),また,0℃では殆ど固体の状態と考えられるが,その場合の粘度は121.70Pである。このようなことから見て,本件明細書の段落【0029】に記載のゼリー状体液漏出防止材の粘度範囲,8000∼40000CP(80∼400P)は,固体状のゼリー(ゲル)の粘度範囲を示していると理解されるものであり,本件明細書では ゼ「リー」が「粘液」の意味で使用されているという
(原告の主張)
と結びつかない。なおここでいう粘度範囲は,生成したゼリーに高吸水性ポリマーを加え,十分に攪拌粉砕した状態のゼリー状体液漏出防止材(微細ゼリー)の粘度範囲であり,攪拌粉砕する前のゼリーの粘度範囲は,上記粘度範囲よりも高いと判断され,固体状のゼリー(ゲル)と容易に理解することができる。エ また,本件明細書(甲74)の段落【0014】には,「体液漏出防止材の流動性が高く,鼻孔,耳穴等の狭い体腔であっても充填されやすく,注入器で圧入しても飛散することがない 。」と記載され,注入器で圧入されるという使用形態の体液漏出防止材の流動性を述べている。例えば,段落【0034】には ,「図1は,このようにして用意された体液漏出防止装置を遺体に使用する状態を示す。…そして,注入器1のピストン1aを押圧し,注入器1内のゼリー状の体液漏出防止材8を挿入管4を経由して咽喉部Bに注入する。」と記載されている。また,図2に示される第2実施例においても,段落【0044】に,「その後,切込み30から注入器(図示せず)を筒部19の先端にセットし,注入器のピストンを押し込む。これにより,注入器内部の体液漏出防止材が導入通路27,芯部材11の中空部12,スリット孔25を通って,ゴム製バンド26を押し広げて調整室31に導入される 。」と記載されており,注入器のピストンを押し込むことによって,注入器内部の体液漏出防止材を押し出すものである。従って ,「体液漏出防止材の流動性」も,このような使用形態を前提として理解されるべきであり,注入器のピストンを押し込んだときの押し出し流動性を意味しているものと理解される。本件明細書には,液体としての流動性であるとも,液流動性という用語も一切使用されていない。いずれにしても ,「体液漏出防止材の流動性」という表現から,本件明細書では「ゼリー」が「粘液」の意味で使用されているという
(原告の主張)
は導かれない。オ また原告は,本件明細書(甲74)の段落【0026】でいう「溶けることなく」は,微粉体がゼリー(粘液)に溶けて液状にならないことを述べている旨主張する。そこで,この点について検討すると,本件明細書の段落【0026】には,「本発明で使用するゼリーの粘液基材としては,…エチレングリコールが取り扱いが容易であって,半年以上放置しても,内部に分散している微粉体が溶けることなく,長期間安定して粉体の状態を維持することができた。」と記載されている。ここで,「内部」とは「ゼリー」を意味する,という審決の判断には原告も異論を唱えていない。この記載に関して,原告は,仮にここでいう「ゼリー」を「コロイド液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い弾性的なかたまりになった状態」のものとすると,上記 溶「ける」を解釈することができないと主張するが,そのように否定する必然性はない。ここでいう「ゼリー」を「コロイド液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い弾性的なかたまりになった状態」のものとしても,ゼリーは分散媒としてのアルコール成分を含有している。従って,分散している微粉体がアルコールに可溶性の成分であれば,微粉体はゼリー中のアルコール成分中に溶解して微粉体としての形態を消失してしまう。従って,上記段落【0026】の記載を根拠にして「ゼリーは粘液を意味する」という
(原告の主張)
は妥当でない。カ 原告は,本件明細書(甲74)の段落【0027】及びこれに続く段落【0028】が,ゼリーの成分の配合量がゼリーの性質に及ぼす影響についての説明文であることは明らかであり,段落【0027】に記載の粘度と段落【0028】に記載の粘度とに異なる解釈を与えなければならない合理的な理由はない,特に,段落【0028】には「…その結果ゼリーの粘性が不足し,粘度の有効な範囲を外れる。 と記載されているのであり,」この文脈において,審決が,その「粘度」はゼリーの粘度のことではないというのは曲解であり,本件明細書では「ゼリー」が粘液の意味で使用されていることは明らかであると主張する。しかしながら,このような主張が成り立たないことは,既に述べたほか,段落【0027】には,「ゼリーとしては,粘液基材としてのアルコール系主成分100重量部に対し,アクリル酸重合体が0.01∼1.0重量部,中和剤が0.03∼0.7重量部含まれることが好ましい。」と記載されており,この記載に対応するのは,段落【0032】の「このエチレングリコールを攪拌しながら,アクリル酸重合体を少量づつ加えていく。2∼8時間攪拌して,分散液を生成する。この分散液を攪拌しながら,中和剤を少量づつ滴下していく。これにより,ゼリーが生成される 。」との記載である。従って,審決のように,段落【0027】は,アルコール系主成分に加えるアクリル酸重合体の好ましい添加量についての記載であり,そこでの「粘度」は,段落【0032】記載されているような,アクリル酸重合体を加えた分散液に関する粘度に記載されている「分散液」の粘度と解しても,それほどおかしくはない。また,段落【0028】には「粘度の有効な範囲」と記載されている。審決がいうように,「粘度の範囲」に関する本件明細書の記載は,具体的にゼリー状体液漏出防止材の粘度の範囲に関する記載だけである(請求項8,段落【0021】【002,9】)ので,「粘度の有効な範囲」といえば,このゼリー状体液漏出防止材の粘度の範囲をさすものと解してもなんら不思議はない。また,段落【0027】【0028】を含めて本件明細書には「ゼリーが粘液である」と,の記載は一切なく,また,粘液は粘性を有するものであるが,逆に,粘性を有するものがすべて粘液であるとはいえず,固体であっても粘性を有するものがあることは周知の技術的事項であり,ゼリー(ゲル)が,粘弾性を有する物質(かたまり)であることも技術常識であって,その特性(物理的特性)として必然的に粘性を有するものである(甲8,9)。従って,上記粘性等に関する記載は,ゼリーが粘液であることを意味するものではないから,本件明細書では「ゼリー」が粘液の意味で使用されていることは明らかであるという
(原告の主張)
は導き得ない。キ 原告は,「ゼリー」と「ゼリー状体液漏出防止材」の組成が異なるとしても,「ゼリー状体液漏出防止材」に粘度があれば,高吸水性ポリマー粉体を含まない「ゼリー」にも当然に粘度があり,その「ゼリー」が粘液であるという主張に何の問題もないと主張するが,このような主張は,「粘性は液体のみが示す」という技術常識に反する誤った考えに基づくものであり,妥当でない。粘性の程度は,粘度(粘性率)で表わされ,粘度は粘度計を用いて測定されるが,例えば,「岩波理化学辞典 第5版 」(甲8,2004年〔平成16年〕12月20日第5版第8刷発行,岩波書店,1024頁)の「粘性率」の項には,水やグリセリンだけでなく空気の粘度も記載され,また1025頁「粘度計」の項には,粘度が大きい塑性物質に用いられるものはプラストメーターとよばれ,流体の粘度を測定する計器と共通の原理を用いることが多いと記載されており,液体に限らず,気体,塑性物質などの流動を生じさせ得る物質については粘度が測定されることが教示されている。ク 原告は,化学大辞典(甲2)には中和剤の添加によってゼリー(ゲル)を生成することについては開示も示唆もない,審決には論理の飛躍があり,首肯できるものではないと主張する。しかし甲2には,「ゲル化は酸性になると弱まる 。 (387頁右欄17」∼18行)と記載され,中和によりゲル化が促進されることが教示されており,また,ペクチンゼリーに関して,ペクチン溶液はそのままではゲル化せず,酸,糖の共存によりゲル化するが,電気的に中性となってペクチンの凝結を起こさせるに足る量が必要であると記載され,さらに金属イオンの働きによってゲル化するイオン結合型ゲルなど,種々の形態のゲル化が記載されている。従って,このような周知の事項を考慮して,本件明細書の段落【0032】に記載の「ゼリーが生成される」を把握してもなんら問題はない。ケ さらに原告は,「ハイビスワコー」は,被告が,アクリル酸重合体として,本件明細書の記載に基づいて選定し,その実験報告書(甲4)の実験に使用したものであり(被告の上申書〔甲83〕,この「ハイビスワコー」)が掲載されたカタログ(甲33)の記載内容に基づいて,段落【0032】記載の製造方法を解釈することは妥当である。審決は,同カタログには,粘液だけでなく,ゲルを作ることができる旨の記載があるから,段落【0032】の製造方法によって生成されるゼリーが粘液であることの裏付けにはならないと述べるが,一面段落【0032】の製造方法によってゼリー(粘液)を生成することができることの裏付けにはなっていると主張する。しかし,被告が実験報告書(甲4)の実験に使用したから「ハイビスワコー」掲載カタログ(甲33)の記載内容に基づいて段落【0032】記載の製造方法を解釈する,という論理は認められるものではない。本件明細書の段落【0032】には ,「アクリル酸重合体」とのみ記載され,「アクリル酸重合体」として「ハイビスワコー」は例示すらされていない。また,同カタログ1−2頁の表1−2−1によれば ,「ハイビスワコー10」 商品名)では「①103タイプと105タイプの中間的特性を有し,(透明性の良い粘液が得られます。②化粧品や医薬品用ゲルなどをつくるのに適しています。 と記載され, ハイビスワコー103」 商品名)では,」 「 (「①添加量による増粘効果が最も大きいタイプです。②高粘度のゲル,固いゲルを必要とする用途に適しています 。」と記載されている。さらに,同カタログII−1頁のII−1の項には「ハイビスワコーは中和することによってその特性を発揮し,又,使用量によって流動性を有する粘液から高粘度のゲルまで作ることができますので適用試験を実施して最適条件をご検討下さい。」と記載され,「ハイビスワコー104」(商品名)や「ハイビスワコー103」(商品名)がゲル化剤としても使われ,その使用量によって粘液から高粘度のゲルまで作ることができることが記載されている。従って,たとえ「ハイビスワコー」掲載のカタログ(甲33)の記載内容に基づいて段落【0032】記載の製造方法を解釈しても ,「流動性を有するゼリー(粘液)を生成している」ということには結びつかない。ましてや,原告は,アクリル酸重合体は増粘剤として使用されていると主張しているのであるから,通常,添加量による増粘効果が最も大きいタイプの ハ「イビスワコー103」を選択使用することが考えられ,その場合には殆ど,ゲルが形成されると考えられる。因みに,本件明細書に記載の製造方法でゼリー(ゲル)が唯一製造できた,甲4の「実験その2」では,アクリル酸重合体(カルボキシビニルポリマー)として「ハイビスワコー104」が用いられているが,「実験その2」のNo.1とNo.6について粘弾性を測定した結果を報告する報告書である甲9においては,「全ての試料において24℃および50℃でG’>G”であり,液体ではなく,固体(外観上はゼリー状物質)である。」との結論が出されている。因みに,液体(粘液を含む)の場合には,貯蔵弾性率G’(弾性項)と損失弾性率G”(粘性項)の関係は,G’<G”となる(甲9の「5.考察」の項の*2)。さらに原告は,広辞苑には「膠質分を煮出して採取した澄明な汁」が「ゾル」であるとの説明はなく,「ゼリー」が一般的に液体を意味すると主張しているのではない,広辞苑は,「ゼリー」の第一の語義を「動物性(魚肉類)または植物性(果実)の膠質分を煮出して採取した澄明な汁。」としている,すなわち,原告は「ゼリー」が液体の意味でも使用されていると主張しているとする。広辞苑の「ゼリー」の項には,調理業界におけるゼリーと,製菓業界におけるゼリーについて説明されているが ,「ゼリー」とは,広辞苑を参酌したとしても,ゼラチン等を「煮出して採取した澄明な汁」は冷えれば凝固するものであり,またその凝固作用を利用して固めた弾力のある食品のことを指しているのであって,決して液体であるとはいえない。なお,広辞苑の①で説明されるように,調理業界においては,所謂「煮凝り」に固める前の煮汁も含めて広範にゼリーという慣習があるのかもしれないが,広辞苑の「ゼリー」の項は,調理業界や製菓業界におけるゼリーについて説明しているものであって,化学品業界における定義を与えているものでないことは明らかである。本件特許発明の「アルコール系を主成分とするゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなることを特徴とするゼリー状体液漏出防止材」は ,「膠質分を煮出して採取した澄明な汁」ではなく,動物性でも植物性でもない。本件特許発明の体液漏出防止材は化学品に属するものであって,特許出願の明細書の記載においては,特許法施行規則第24条様式29備考7に規定されているように,技術用語としては学術用語を用いなければならない。従って,本件特許発明でいう「ゼリー」については,化学品についての学術用語としての定義を基本としなければならず,例えば,学術用語について説明している甲2の化学大辞典等により定義されているように,「コロイド液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い弾性的なかたまりとなった状態を意味する」と理解するのは当然のことである。従って,広辞苑の説明は,「ゼリー」が一般的に液体を意味することを説明するものではないとする審決の判断は妥当であり,広辞苑の前記記載は,原告の解釈をなんら立証するものではない。因みに,広辞苑においても,「ゲル」の項(甲11)には,「コロイド溶液が流動性を失い,多少の弾性と固さをもってゼリー状に固化したもの。寒天・ゼラチン・豆腐・こんにゃく・シリカ -ゲルなどの類 。」と記載されていることから,広辞苑においても,「ゼリー状」は「固体状」を意味するものと把握されていることがわかる。コ 原告は,審決は,対象物の流動性が問題になる当該技術分野において,固体にも通ずる粘弾性の議論を持ち出し,弾性的なかたまりであるゼリー(ゲル)であっても粘弾性を有する結果,粘性を有するから,当該訂正は「ゼリー」の語義を明りょうにするものではないと述べるが,それは,当該技術分野の技術常識を無視した一方的な偏った理屈であるといわざるを得ないと主張するが ,「粘性は液体のみが示す」という技術常識に反する誤った考え,あるいはその誤りが既に明らかな本件明細書でいう ゼリー」「が粘液であるという原告の独断的解釈に基づくものであり,妥当ではない。まず,原告は,「対象物の流動性が問題になる当該技術分野において」と述べているが,対象物である体液漏出防止材の流動性は,その使用形態を前提として理解されるべきであり,注入器のピストンを押し込んだときの押し出し流動性を意味しているものと理解される。本件明細書には,液体としての流動性であるとも,液流動性という用語も一切使用されていない。いずれにしても ,「体液漏出防止材の流動性」という表現から,本件明細書では「ゼリー」が「粘液」の意味で使用されているという原告の主張は導かれない。また,原告の審判手続における主張からすると,請求項1に記載の「ゼリー」を「粘性を有するゼリー」と訂正することによって ,「ゼリー」=「粘液」との解釈に導こうとしている意図が明らかである。従って,上記訂正は,ゼリーとは異なる液体の概念に拡張もしくは変更しようとするものであり,特許法134条の2第5項で準用する特許法126条4項の規定の趣旨に反していることは明らかである。審決における訂正拒絶理由は,「粘性を有する」との語自体が不りょうであるといっているのではなく,「ゼリー」に「粘性を有する」という要件を付加する訂正は ,「ゼリー」の語義を明りょうにするものではない,すなわち,訂正の目的として特許法134条の2第1項ただし書き3号に規定する事項である「明りょうでない記載の釈明」に該当しないとの判断は妥当である。なお原告は ,「ゼリー」=「粘液」に導こうとしているにも拘わらず,請求項1に記載の「ゼリー」を「粘液」とは訂正していない。これは,このような補正をすれば訂正が許可されないことが明らかであるからと推測される。即ち,「ゼリー」と「粘液」は異なる概念を意味し,仮に「ゼリー」を「粘液」と訂正した場合,ゼリーとは異なる液体の概念に変更(シフト)したり,液体状態まで拡張することになり,到底このような訂正が許可されないことは明らかである。訂正事項aの,請求項1に記載の「ゼリー」の「粘性を有するゼリー」への訂正は,このように到底許可されない訂正と実質的に同じ効果を目的としているものであり,到底容認されるべきものではない。本件発明でのゼリーは,本件明細書の記載及び当該技術分野の技術常識からみても,粘液を意味するものではなく,一般的な技術用語の定義に基づく,「液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い,弾性的なかたまりとなった状態」を意味するものであると認められ,それ自体明りょうな用語であり,かつ,ゼリー(ゲル)は,前記したように,もともとのその特性として粘弾性を有するもの,すなわち,必然的に「粘性」を有するものであるから,ゼリー(ゲル)に「粘性を有する」という要件を付加することは,ゼリーが必然的に有する特性を重ねて付加するに過ぎないことであり,ゼリーの語義を明りょうにするものではなく,むしろゼリーの語義に誤解を与えるおそれを生じさせるといえるものである。サ 原告は,審決は,被告の製品リーフレット「PMG Postortem Gel」に記載された「ゼリー化されているために流動性が良く,簡単に注入できます。」について ,(粉体ではなく)分散媒を含んだ弾性的なかたまりであ「るゼリーの状態(ゼリー化)にしているので,その体液漏出防止材の液流動性が高まり,(体腔に)簡単に注入できることを説明している記載であり,ゼリーが粘液であると説明しているのではない。」と述べるが,「弾性的なかたまり」であることが何故に「液流動性」が高まることに繋がるのか,意味不明である。そこでいう「ゼリー」が粘液であるから,「液流動性」が高まると解釈することが自然であると主張する。しかし,被告の製品リーフレットには,「ゼリー化されているために流動性が良く,簡単に注入できます。」と記載され ,「液流動性」とは記載されていない。従って,審決に記載の「液流動性」は「流動性」の誤記と解され,このような誤記を捉えて反論しても意味のないことである。被告の製品リーフレットについては審判手続においても主張したように(甲79,7頁 ),被告会社商品「PMG」は注入器の使用を前提としており,注入器内に収容されている体液漏出防止剤はゼリー(ゲル)状であり,粘液ではない(乙7 )。原告が指摘している「ゼリー化されているために流動性が良く,簡単に注入できます 。」との説明文は,注入器による注入操作に関して述べたものであり,当然のことながら,ここでいう「流動性」は注入器による押出し流動性を指している。この体液漏出防止剤も,基材上に置いて基材を傾けても液体(粘液を含めて)のように流れることはないが(液体のような流動性は持っていないが ),注入器で簡単に押し出すことができる(乙7)。従って,被告会社商品「PMG」のゼリー状体液漏出防止材は粘液であるという
(原告の主張)
は,妥当でない。原告が,本件明細書でいう「ゼリー状」は「粘液」を意味し,本件発明のゼリー状体液漏出防止材は粘液であるとの主張を続けるのであれば,「液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い,弾性的なかたまりとなった状態」のゼリー(ゲル)状の被告会社商品「PMG」の体液漏出防止剤は,本件発明の粘液である体液漏出防止材の技術範囲には入らないことになり,別の特許権侵害等差止等請求事件において原告が行う「本件特許発明の技術範囲に入る」という主張とは矛盾することになる。シ 原告は,審決が「ゼリー状」なる用語に関して ,「ゼリー状」の基となるものが「ゼリー」であり,「ゼリー状」に基づいて「ゼリー」が解釈されるものではないということが理解できないと述べるが,審決がいわんとしていることは ,「ゼリー状」が一般に粘液を含めて用いられている場合があったとしても,学術用語として一般に知られている「ゼリー」が粘液であるということにはならないといっている,と解される。学術用語として一般に知られている「ゼリー」は,化学大辞典等に記載されている「液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い,弾性的なかたまりとなった状態」として把握されており,このことは本件発明が属する化学技術分野の技術者にとって常識である。本件発明1が学術用語として一般に知られている「ゼリー」を製造するものではないと原告が主張するのであれば,本件明細書には学術用語を用いないで記載されたということになり,あるいはまた,粘液(液体)を製造する技術に対して ,「液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い,弾性的なかたまりとなった状態」として一般に把握される「ゼリー」という用語を用いたということになり,いずれにしても特許法施行規則違反ということになる。以上のように,訂正の適否に係る審決の判断に誤りはなく,本件訂正を認めなかった審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2に対し
ア 原告は,「ゼリー」及び「アルコール系」についての審決の判断は誤りであるとして,広辞苑第4版(甲40)の「ゼリー」の説明は「ゼリー」を液体の一種としているとし, ゼリー」は,甲41∼46に示すように,「一般に粘液の意味でも使用されていると主張する。しかし,広辞苑の「ゼリー」の項は,調理業界や製菓業界におけるゼリーについて説明しているものであって,化学品業界における定義を与えているものでないことは明らかである。本件発明1の「アルコール系を主成分とするゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなることを特徴とするゼリー状体液漏出防止材」は,「膠質分を煮出して採取した澄明な汁」ではなく,動物性でも植物性でもない。本件発明の体液漏出防止材は化学品に属するものであって,特許出願の明細書の記載においては,特許法施行規則24条様式29備考7に規定されているように,技術用語としては学術用語を用いなければならない。従って,本件特許発明でいう ゼ「リー」については,化学品についての学術用語としての定義を基本としなければならず,例えば,学術用語について説明している甲2の化学大辞典等により定義されているように,「コロイド液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い弾性的なかたまりとなった状態を意味する」と理解するのは当然のことであり,本件発明が属する化学技術分野の技術者にとって常識である。従って,広辞苑の記載は,本件発明1でいう「ゼリー」は「粘液」を意味するとの原告の解釈をなんら立証するものではない。また,前記甲41∼45は,いずれも本件特許の出願日(平成13年3月19日)以後に発行されたものであり,本件特許の出願当時の状況を示すものでないだけでなく,これらに記載の商品は,保存条件によってゼリー状∼粘液状の性状を呈するということは示されているが,一般的に, ゼ「リー」はすべて「粘液」である,ということを示しているものではない。ましてや,本件発明1はゼリー状体液漏出防止材に係るものであって,これら甲41∼45は,本件特許発明でいう「ゼリー」は「粘液」を意味するとの原告の解釈をなんら立証するものではない。例えば,甲41には,商品「キシロカインゼリー」は室温で保存した場合には無色∼微黄色澄明の粘性の液であるということが示されているに過ぎず,用語「ゼリー」は学術用語に従った厳密な意味で使用されているものではなく,学術用語の使用を義務付ける特許明細書とは異なる。甲41には,「2.性状」の欄に,「剤形:ゼリー」という記載がある。しかしながら,薬事法41条1項の規定に基づき定められている日本薬局方の「製剤総則 」(甲12)には ,「ゼリー」という剤形は規定されていない。従って,甲41に記載の「剤形:ゼリー」は,日本薬局方の定義に則ってつけられたものではなく,商品「キシロカインゼリー」の製造販売業者が,この商品名にちなんで独自に命名した剤形名であり,当然のことながら, ゼ「リー」=「粘液」ということを宣明しているものではない。また,甲42には,商品「ヂアミトール R『マルイシ』50W/V%」は,室温で保存したときに無色∼淡黄色澄明の液またはゼリーようの流動体であるということが示されているに過ぎず,他の甲43∼甲45についても同様である。従って,甲41∼45は,本件発明1でいう「ゼリー」は「粘液」を意味するとの原告の解釈をなんら立証するものではない。イ さらに原告は,Fターム(特許庁が編纂している特許文献に記載された発明の技術的特徴による分類体系)のテーマコード4C066の観点CCに関するFターム説明の04粘性液体の項を指摘しているが,Fターム調査の便宜上,粘性液体にゼリー状のものも含むということを示しているに過ぎない。審決に述べられているように ,「ゼリー状」は様々な意味で用いられているから, ゼリー状」と記載されているもののうち,液体であっ「て,特に粘稠な流動性を有することが明確であるときは,粘性液体として付与すると説明しているのであり,「ゼリー」が粘性液体であるとは説明していない。従って,甲46(Fターム説明書)は,
(原告の主張)
する, ゼ「リー」が一般に粘液の意味で使用されている例に当たるものではなく,またFターム説明の04粘性液体の項の記載も,本件発明でいう「ゼリー」は「粘液」を意味するとの原告の解釈をなんら立証するものではない。ウ 原告は,本件明細書には ,「ゼリー」が「かたまりの状態」であると説明している箇所はなく,そのような意味で使用していることを示唆する記載もないと述べるが,逆に「ゼリー」が液体であると定義している箇所もない。特定の意味を定義していない以上は,その用語はその有する通常の意味で使用されていると解釈すべきであり(特許法施行規則第24条様式29備考7及び8)「ゼリー」は,化学分野における当業者にとって周知,の,通常の意味である「コロイド液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い弾性的なかたまりとなった状態」として理解するのが自然である。さらに述べれば,本件明細書(甲74)の段落【0027】【0028】,における「粘度が不足する」や「粘度が飽和点に達し,それ以上は多くしても粘度は上がらない。」や「ゼリーの粘性が安定しなくなり,調整が困難となる。」という記載は,固体状の「ゼリー」を生成することが困難になることや,それ以上ゲル化剤を入れても固体状にすることに関して飽和点に達するため意味がないことを示していると解釈するのが自然であり,「粘度」や「粘性」と記載されているからといって,粘液(液体)であると解釈すべき理由にはならない。エ 原告は,本件請求項1記載の「アルコール系」については,「ゼリー」が粘液であることを踏まえて,その意義を理解しなければならないと指摘した上で,審決が「アルコール系」を「アルコールに分類される化合物」という意味のみに解釈し,さらに「甲第1号証に記載されているように常温で液状のもの,常温で固体状のもの,水溶性のもの,水難溶性のもの等,様々な物理的及び化学的性質を有するものが包含される」と解釈することは,誤りであると主張する。しかし審決がいうように,本件発明1における「アルコール系」を「アルコールに分類される化合物」と解する以上,甲1(岩波理化学辞典)に記載されているように常温で液状のもの,常温で固体状のもの,水溶性のもの,水難溶性のもの等,様々な物理的及び化学的性質を有するものが包含される。一方,本件明細書(甲74)の発明の詳細な説明には ,「アルコール系」については,段落【0026】に6種類の低級脂肪族アルコールが好ましい例として記載され,また,段落【0032】にはエチレングリコールを用いたゼリー状体液漏出防止材の製造方法が記載されているものの,例示されたもの以外のアルコールを主成分としてかたまり状のゼリーを製造できることを具体的に裏付けるに足る実施例の記載は見出せないし,アルコールに分類される化合物全般を用いて発明の課題を解決できることを当業者が認識できるような一般的な説明も記載されていない。原告は,本件発明1の「アルコール系」は,a)流動性を有するゼリーの基材となるものであるから「液状」であり,b)高吸水性ポリマーに吸収されない性質を有し,c)水との親和性を有する,アルコールに限定して解釈しなければならないと主張するが,このような主張は,本件明細書でいう「アルコール系」もしくは「アルコール」の意味を限定する新たな基準を提示したことに他ならず,このような限定した意味で用いるということは本件明細書には全く記載されていないだけでなく,その基準も不明確であって,到底,当業者にとって自明といえるものではない。
(3) 取消事由3に対し
ア 原告は,本件発明1の「ゼリー」について,「ゼリー」は「ゲル」であり,「粘液」を意味するものではないとの審決の判断に対して,その解釈が誤っているとするが,これについての反論は既に述べたとおりである。イ また原告は,本件発明1は本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているということはできないとの審決の判断に対して,本件発明1の「ゼリー」は「粘液」を意味し ,「アルコール系」は「高吸水性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状のアルコールに分類される化合物」を意味するのであるから,発明の詳細な説明に,かたまり状のゼリーを製造できることを具体的に裏付けるに足る実施例の記載がないこと,並びに,アルコールに分類される化合物全般を用いて発明の課題を解決できることを当業者が認識できるような一般的な説明の記載がないことは改正前特許法36条6項1号の規定に違反することにはならないと主張するが,その前提においてに誤りがあることも既に述べたとおりである。ウ また原告は,被告の追試実験報告書(甲4)は,被告会社の役員によって作成されたものであり,本件発明1が特許法36条6項1号の規定に違反するか否かを判断するための証拠としては不適切であると主張しているが,このような主張こそ不適切である。追試実験報告書(甲4)は,被告会社の役員によって誠実に作成されたものであり,実験状況の写真も添付されているように事実に基づいている。もし疑義があるのであれば,立会試験によって容易に納得できるものである。エ 原告は,審決で指摘された無効理由1についての答弁(答弁の要点(A))と無効理由2についての答弁(答弁の要点(B1))との矛盾について,両答弁に矛盾はないとする。しかし,無効理由1は「特許を受けようとする発明が明確であること」という要件を満たすか否か,無効理由2は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであること」という要件を満たすか否かであるから,「限定的に解釈することができる」かどうかとは無関係である。また,改正前特許法36条6項1号も36条6項2号も明細書の記載に関する規定であり,同じ用語について恣意的に使い分けることは許されず,統一して解釈されるものでなければならない。オ さらに原告は,審決では,上記( 2)エのa)∼c)の物性条件が具体的に記載されていないことを問題にしているが,改正前特許法36条6項1号は特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであることを要求する規定であり,すなわち,当該発明が記載されているか否かを問題にするのであり,物性条件が記載されていないからといって,当該発明が記載されていないということはできない。本件発明1はそのような物性条件を特定した発明ではないのであると主張する。しかし,審決は ,「アルコールに分類される化合物」のうち,a)液状で,b)高吸水性ポリマーに吸収されない,c)水との親和性を有するアルコールに限定解釈されるという
(原告の主張)
に対して,本件明細書の発明の詳細な説明には, アルコール系」を「 アルコールに分類される化合物』「 『のうち上記a)∼c)の物性条件を備えたもの」に限定するとの定義がないばかりか,
(原告の主張)
する上記a)∼c)の物性条件も具体的に記載されていないから,上記a)∼c)の物性条件を有するアルコールに限定解釈されるという
(原告の主張)
は根拠に欠けるとしているものであり,妥当である。さらにいえば,上記a)∼c)の物性条件を有するアルコールに限定解釈されるという
(原告の主張)
は,請求項1に記載の「アルコール系 」,すなわち「アルコールに分類される化合物(全般 )」にまで,発明の詳細な説明の記載を拡張ないし一般化できないこと,すなわち本件発明1が改正前特許法36条6項1号の規定に違反するものであることを自ら認めているに等しいものであり,この点についての審決の判断も妥当である。カ 原告は,「水に溶けにくいベンジルアルコール…」を親水性(有機)溶剤,すなわち,水との親和性を有する溶剤ということもある(もし必要なら,特表2000−505138号公報の請求項2,特開2002−249711号公報の段落【0018】 【0019】参照 ), 」との審決の指摘に対して,遺体の体液が体腔から漏出することを防止する体液漏出防止材にあっては,水に溶けにくいアルコールは体液を高吸水性ポリマー粉体に吸収させにくくなるから ,「ゼリー」の基材として不適当であるといわざるを得ないと主張する。しかしながら,水に溶けにくくても,親水性である限り,体液(水)との親和性はあるから ,「高吸水性ポリマー粉体に吸収させにくくなる」という
(原告の主張)
は理解困難である。キ 以上述べたところから明らかなように,本件発明1∼4の特許は,改正前特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,審決の判断は正当であり,原告主張の誤りはない。
(4) 取消事由4に対し
ア 原告は,本件発明1の「ゼリー」について,「ゼリー化(ゲル化)」のためには特別な配合剤を要すると解されるとの審決の判断に対して,本件発明1の「ゼリー」は「粘液」であり,ゲルではないのであるから ,「ゼリー化(ゲル化)」のためには特別な配合剤を要するという判断は誤りであり,そのような配合剤を必要としないと主張する。また原告は,本件発明1のゼリーはかたまり状のものであって,液状アルコールを単に公知の増粘剤で増粘しただけの粘液(液体)ではないのであるから,発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者が「アクリル酸重合体」を「増粘剤」全般と等価なものとして理解することはできないとの審決の判断に対して,本件発明1の「ゼリー」は「粘液」であり,かたまり状のものではないのであるから,当業者が「アクリル酸重合体」を「増粘剤」全般と等価なものとして理解することはできないという判断は誤りであると主張する。しかし,これらの
(原告の主張)
が妥当でないことは,既に述べたとおりである。イ 原告は,「後日の実験結果により特許明細書の記載不備を直ちに補完できるものではない」との審決の判断に対して,特許法36条4項に関し,特許・実用新案審査基準(甲47)には,実施可能要件違反の拒絶理由通知に対して,出願人は意見書・実験成績証明書等により反論・釈明をすることができる,と規定されている,従って甲24,30,31,36,3,39,53∼56の各実験報告書によって無効理由3に対して反論することは許容されていると主張するが,「釈明」と「記載不備の補完」は全く異なるものであり,釈明によって記載不備が補完されるものではない。このことは,特許・実用新案審査基準の上記記載に続けて ,「発明の詳細な説明又は図面が当業者が実施ができる程度に明確かつ十分な記載であることが確認できた場合は,拒絶理由は解消する。」との記載からも明らかであり,発明の詳細な説明又は図面に当業者が実施ができる程度に明確かつ十分に記載されていない場合にも,実験証明書で記載不備を補完できるということまで述べているものではない。さらに原告は,「サンノニックSS−120」のような高分子量の化合物を用いることは本件明細書の発明の詳細な説明に記載されておらず,しかも,発明の詳細な説明に開示されているアクリル酸重合体を用いたのでは,高吸水性ポリマー粉体を2時間分散させておくことができない程に分離しやすい調製物しか得られず,発明の詳細な説明に開示のないマンニトール,ポリビニルアルコール,ポリエチレングリコール4000,ポリエチレングリコール20000を併用しなければ粘液であるところの「ゼリー」すら満足に調製できないのであるから,原告提出の実験報告書は本件明細書の発明の詳細な説明に当業者が本件発明1を実施できる程度の記載がなされていることを支持する証拠にはならないとの審決の判断に対して,甲55実験報告書の実験24は ,「サンノニックSS−120」に関し,発明の詳細な説明に開示されているアクリル酸重合体を用い,マンニトール等を併用せずに,「ゼリー」(粘液)を調製することができることを示していると主張する。しかし,このような主張は,「粘性は液体のみが示す」という技術常識に反する誤った考え,あるいはその誤りが既に明らかな「本件明細書でいう『ゼリー』が粘液である」という原告の独断的解釈に基づくものであり妥当ではない。しかも,甲55実験報告書の「2.実験について」の項には「特許第3号の明細書のみに基づいて各種アルコールを用いて ,『ゼリー状体液漏出防止材』を製造する実験を行い」と記載されているにもかかわらず,実験24においてはアクリル酸重合体を全体の2%,本件特許明細書【0027】に記載の「粘液基材としてのアルコール系主成分100重量部に対して」換算すると2.7重量部に相当する量のアクリル酸重合体を添加しており,これは明細書記載の最大用量の2.7倍の量を入れていることとなり,とても 明細書のみに基づいて各種アルコールを用いて,「『ゼリー状体液漏出防止材』を製造する実験」を行ったとは認められない。しかも,明細書の記載を逸脱した製造方法によってすら,粘液であるところの「ゼリー」しか調製できない実験をもってして「サンノニックSS−120」で本件発明1を実施できたということはできない。さらに原告は,上記「サンノニックSS−120」に関しては,発明の詳細な説明に開示されているアクリル酸重合体にポリエチレングリコール4000を併用すると,本件発明1の「ゼリー」を調製することができる(甲30)。そのことは,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をもって本件発明1を実施することができることに他ならないと主張する。しかし,本件明細書(甲74)には,アルコールとして,溶剤として周知の6種の低級脂肪族アルコールしか例示されていないのに対し ,「サンノニックSS−120」は界面活性剤として周知の高分子量化合物であり,本件明細書に記載の6種の低級脂肪族アルコールからは読み取ることはできない。従って ,「サンノニックSS−120」のような高分子量の化合物を用いて「ゼリー」を調製するのにアクリル酸重合体にポリエチレングリコール4000を併用すればよいということが「技術常識」であるとはいえず,このことをもって「明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をもって本件発明1を実施することができることにほかならない」といえるものではない。ウ 原告は,本件発明1のゼリーを調製するためには,主成分として選んだアルコールの個々の特性に応じて多種多様なアクリル酸重合体及び中和剤の中から適切な組合せ及び配合量を個別に選定する必要があるところ,特許明細書の発明の詳細な説明には,実験報告書で採用されているような具体的な試薬の選定例やアルコールの種類に応じた試薬の一般的な選定方針はまったく記載されていないとの審決の判断に対して,本件明細書の段落【0032】の記載や,11691の化学商品(甲22),甲48∼52を指摘して ,「ゼリー」は粘液であるから,そのアクリル酸重合体が増粘剤として用いられていることは当業者に自明であり,また,アクリル酸重合体が増粘剤として用いられること,その場合は,アルカリで中和することは周知技術であると主張したり,本件明細書に「アルコール系」としてエチレングリコールを採用し,増粘剤であるアクリル酸重合体と中和剤とによってゼリーを調製する方法が記載され,しかもアルコールを主成分とする液体の増粘剤による増粘方法を周知であるから,当業者であれば,発明の詳細な説明の記載に基づいて過度の試行錯誤を強いられることなく,本件発明1の実施をすることができるということができると主張する。しかし,このような主張は,「粘性は液体のみが示す」という技術常識に反する誤った考え,あるいはその誤りが既に明らかな本件明細書でいう「ゼリー」が粘液であるという原告の独断的解釈を前提としており,妥当ではない。エ 本件明細書には,本件特許の対象である「アルコール系を主成分とするゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなるゼリー状体液漏出防止材」について,当業者の手掛かりとなるような具体的な実施例(具体的な使用原料と配合割合,温度条件,製造プロセス,得られた体液漏出防止材の粘度等の性状,など)は全く記載されていない。アルコールの具体的な例示として,請求項5及び段落【0026】において6種の低級脂肪族アルコールが記載されているのみである。また,ゼリー状体液漏出防止材の製造方法については,唯一,段落【0032】に,「本発明に係わるゼリー状体液漏出防止材の製造方法を説明する。攪拌機に粘液基材であるエチレングリコールを入れる。このエチレングリコールを攪拌しながら,アクリル酸重合体を少量づつ加えていく。2∼8時間攪拌して,分散液を生成する。この分散液を攪拌しながら,中和剤を少量づつ滴下していく。これにより,ゼリーが生成される。このゼリーにゲル粉末である高吸水性ポリマーを加え,十分に攪拌する。これにより,ポリマーが分散したゼリーが生成される。」と記載されているだけであり,アクリル酸重合体及び中和剤がどのような目的で添加されているのか,またどのような化合物を用いるのか,及びそれらのエチレングリコールに対する配合割合について記載されていないのみならず,高吸水性ポリマーについて,どのようなポリマーを用いるか,及びその配合割合が全く記載されていない。オ 本件発明1は,特許されている以上,アルコールを主成分とするゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体を多数分散してなる体液漏出防止材が新規性,進歩性を有すること,即ち従来存在しなかったし,また従来技術から容易に想到し得なかったと認められて特許されたはずである。従って,アルコールを主成分とする場合に,アクリル酸重合体及び中和剤の添加目的,好適な化合物,及びそれらの配合割合,並びに好適な高吸水性ポリマーの種類及びその配合割合が,体液漏出防止材の技術分野で通常の知識を有する当業者にとって自明とする主張は成り立たない。例えば,アクリル酸重合体がその一つの用途として知られている増粘剤として用いられているとしても,アクリル酸重合体には数多くの重合体が含まれるものであって,どのようなアクリル酸重合体がどのようなアルコールについて増粘剤として有効に作用するかは,当業者にとって自明であるとはいえない。使用するアルコールを増粘させるために,どのような増粘剤をどの程度の配合割合で用いればよいかということは非常に難しく,当業者にとっても,試行錯誤と数多くの実験を必要とする。例えば,甲4で用いられているカルボキシビニルポリマーについても,No.8のデシルアルコール,No.9のオクチルアルコールには難溶で,液が白濁し,粘性も上がらなかった結果が甲4で実証され,さらに,No.4のメタノールや No.7のラウリルアルコールの場合には,カルボキシビニルポリマーを溶解し,中和剤を加えると白い固まりになったという結果が示され,さらに No.15のモノエタノールアミンの場合には,カルボキシビニルポリマーが溶解せず,そのため増粘しなかったという結果が示されているが,このようなことは当業者に自明なものではなく,実験を行って始めて確認できることである。甲4の追試実験報告書に示されているように,カルボキシビニルポリマー(増粘剤)を添加しなかった場合,代表的な「アルコール」全てにおいて単独では高吸水性ポリマーを分散させておくことはできず,すぐに分離してしまう。このことから見れば,増粘剤は,重力沈降を防ぎ,高吸水性ポリマーを安定して分散させておくためには絶対必要条件であると考えられるが,請求項1には増粘剤が必須成分である旨記載がない。さらに,上記甲4の追試実験報告書の作成のためには,配合割合決定のためのpH測定等の予備試験を含めて,かなりの数の実験が行われたが,これでも請求項1に記載の構成要件あるいはさらに請求項5∼7に記載の構成要件のほんの一部の実施に過ぎない。請求項1に記載の構成要件あるいはさらに請求項5∼7に記載の構成要件の全てを網羅するためには,極めて夥しい数の実験を行う必要があり,当業者に極めて過度の負担を強いることは明白である。このこと自体,発明の詳細な説明には,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていることを要求する改正前特許法36条4項規定の要件を満たしていないことの証左である。カ 以上述べたところから明らかなように,本件発明1∼4の特許は,改正前特許法36条4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,審決の判断は正当であり,原告主張の誤りはない。
第3版増補版第3刷発行,48頁))には,以下の記載がある。
「アルコール[英 alcohol 仏 alcool 独 Alkohol …][1] *エチルアルコールを単にアルコールということがしばしばある.[2]鎖式または脂環式の*炭化水素の水素原子を水酸基 OH で置換した *ヒドロキシ化合物(したがってフェノールは除かれる)を総称する.…鎖式アルコールを炭素原子の数によって*低級アルコール(ふつう炭素数5以下) *高級アルコール(炭素数6以上)に分けることが,ある.…アルコールは自然界に多くエステルとして存在する。一価アルコールの低級のものは植物の精油中に,高級のものは動植物のろう中に ,三価アルコールのグリセリンは動植物の油脂中にあり,これらのエステルを 鹼化すればアルコールを得る.…鎖式の一価アルコールは低級のものは刺激性の味を持ち,水とよく混ざる液体で,炭素原子数が増すとともに水に溶けにくくなり,高級のものは水に溶けない固体である。」・ 甲25∼29(いずれも製品安全データシート,和光純薬工業株式会社,2002年〔平成14年〕12月12日∼2005年〔平成17年〕3月11日)には,それぞれラウリルアルコール,デシルアルコール,オクチルアルコール,シクロヘキサノール,ベンジルアルコールがそれぞれ水に微溶ないし難溶である旨が記載されている。(ウ) 上記(イ)の記載によれば,アルコールには確かに水溶性のもの,水難溶性のもの等が存在することが認められる。審決は,発明は請求項に記載された文言通り解釈すべきであるとして,請求項1における「アルコール系」とは「アルコールに分類される化合物」と解されるから,アルコールに分類されるものはすべて含まれるとしたものである。しかし本件発明1の特許請求に範囲には,「アルコール系を主成分とするゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散させた」ゼリー状体液漏出防止材とされている。そしてゼリーとは,前記のように粘液状のものと解釈すべきことを前提とすると,そこでいう「アルコール」も,粘液状ゼリーの主成分として構成されるものであり,その体液漏出防止材も常温の状態で注入されるものである。そうすると,本件明細書の開示によれば,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,およそ粘液とは成り得ない固体状のアルコールを本件発明1にいう「アルコール」の対象とすることを想定せず,常温で液状のものを意味していると解するというべきである。また,上記のとおり「高吸水性ポリマー粉体が多数分散させた」と記載されていることから,高吸水性ポリマーを分散して保持することが可能である,高吸水性ポリマーには吸収されないアルコールを意味しているものと解するというべきである。また,体液がゼリー中に染み込み,ゼリー中の高吸水性ポリマーに吸収されることからして,本件発明1の「アルコール」は,親水性ないし水溶性である必要があるものと認識するというべきである。従って,本件発明1でいう「アルコール系」については,いわゆる「アルコール」一般を指すものとは解されず ,「高吸水性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状のアルコールに分類される化合物」と解釈するのが相当である。以上検討したように,本件発明1の「ゼリー」は「粘液」であり , ア「ルコール系」は「高吸水性ポリマーに吸収されない液状のアルコールに分類される化合物」を意味すると解されるから,「ゼリー」は「流動性を失い弾性的なかたまりとなった状態」を意味し「アルコール」は常温で液状のアルコールだけでなく固形のアルコールも含むものであるとした審決の認定は誤りというべきである。エ そうすると,本件発明1における「ゼリー」は「粘液」を意味し,「アルコール系」は「高吸水性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状のアルコールに分類される化合物」であるから ,「液状のアルコール以外でかたまり状のゼリーを製造できることが裏付けられていない」との理由で改正前特許法36条6項1号の規定に違反するとした審決の判断は誤りであり,この誤りは結論に影響することは明らかである。オ そこで,進んで,本件発明1(請求項1)が改正前特許法36条6項1号の要件(サポート要件)に違反するか否かについて検討する。改正前特許法36条6項1号にいう要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。一般に「アルコール」は,上記ウ(イ)の記載によれば,よく知られた一般的な化合物であるが,それが液体であるか固体であるか,あるいは水溶性か水難溶性か等の性状,性質もその構造との関係で知られたものであるといえる。そして,本件発明1における「アルコール系」は,「高吸水性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状のアルコールに分類される化合物」であり,またその例として本件明細書には「エチレングリコール,プロピレングリコール,ジエチレングリコール,メタノール,エタノール,グリセリン 」【0026】が示されているから,当業者であれば,どのような範囲の物質までが本件発明1の「アルコール系」に該当するかは自明のことである。そうすると,本件特許出願時(平成13年3月19日)の技術常識に照らせば,本件発明1の「高吸水性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状のアルコールに分類される化合物」に該当する化合物の範囲は想定することができ,そのような「アルコール系」の化合物であれば,十分な吸水性能を持った状態の高吸水性ポリマーを遺体内に円滑に注入するという本件発明の課題を解決することが理解できるから,本件発明1は改正前特許法36条6項1号に規定された要件を満たすといえる。カ なお審決は,ベンジルアルコールが水に溶けにくいものの,水との親和性を有する溶剤ということもあるとして,親水性ないし水溶性の意味する範囲が明らかでない旨指摘する(審決55頁1行∼30行)。しかし,上記のように,例えば鎖式の一価アルコールでは,炭素数が増加するに従い親水性から疎水性に徐々に変化するものであり,一義的な切り分けが必ずしも明確にできず,発明の意義等を踏まえて解釈することになるケースもあり得るから,単に上記の例があることをもって,意味する範囲が明らかでないとするのは妥当ではない。キ 以上によれば,本件発明1についての判断を前提とする本件発明2ないし4についての審決の判断も同様に誤りであるから,原告主張の取消事由3は理由がある。
(2) 取消事由4(無効理由3〔実施可能要件違反〕についての判断の誤り)
についてア(ア) 審決は,①本件発明1の「ゼリー化(ゲル化)のためには特別な配合剤を要すると解される」 審決56頁7行 )ところ ,本件明細書には ,(限られた液状アルコールの例示と,エチレングリコールに対して詳細不明のアクリル酸重合体と中和剤を不明の配合で加えて本件発明1の体液漏出防止部材を製造することが記載されているのみである(審決56頁8行∼13行,59頁下2行∼60頁4行 ),②本件発明1のゼリーはかたまり状のものであって,液状アルコールを単に公知の増粘剤で増粘しただけの粘液(液体)ではないから,当業者は「アクリル酸重合体」を「増粘剤」全般と等価なものとして理解できない(審決56頁20行∼24行),③製造に当たっての,一般的な材料の選定方針,具体的な配合例が記載されておらず,またアルコール全般に有効なかたまり状のゼリーの調整方法が周知技術として存在していたことを示す証拠もないから,当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分な記載がされていないから,本件発明1の特許は,特許明細書の発明の詳細な説明が改正前特許法36条4項に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものである(60頁6行∼14行),とした。(イ) しかし,既に検討したとおり,本件発明1における「ゼリー 」は「粘液」を意味し,「アルコール系」は「高吸水性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状のアルコールに分類される化合物」と解すべきであるから,アルコール全般に有効なかたまり状のゼリーの調整方法が当業者において実施可能なように本件明細書には記載されていないとの理由で改正前特許法36条4項の規定に違反するとする審決の判断は,その前提が誤りであり,この誤りが結論に影響することは明らかであるから,取消しを免れない。イ(ア) 進んで,本件発明1の「ゼリー」は「粘液」を意味し,「アルコール系」は「高吸水性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状のアルコールに分類される化合物」であるとして,本件明細書が改正前特許法36条4項の実施可能要件を満たすか否かにつき検討する。審決が前提とするように,「アルコール全般に有効なかたまり状のゼリーの調整方法」が,明細書に示されている必要はないが,本件明細書が実施可能要件を満たしているといえるためには,「高吸水性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状のアルコールに分類される化合物」を用いて液状の「ゼリー状体液漏出防止材」が本件明細書に,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載がされている必要はある。(イ) 本件明細書(甲74)には,ゼリーの製造方法として次の事項が開示されている。・ 「本発明で使用する高吸水性ポリマーは,ゼリー中に粉体で分散混在しているが,体液を吸収して確実に漏出を防止するためには,ゼリーの中に5,000個以上/ml分散していることが好ましい。特に,高吸水性ポリマーが微粉体からなり,ゼリーの中に15,000個/ml∼30,000個/ml分散していることが更に好ましい。その上更に,高吸水性ポリマー粉体が60∼200メッシュの粉体からなり,ゼリーの中に18,000個/ml∼25,000個/ml分散していると体液漏出効果が非常に高い 。(段落【0025】」 )・ 「本発明で使用するゼリーの粘液基材としては,エチレングリコール,プロピレングリコール,ジエチレングリコール,メタノール,エタノール,グリセリンの中から選ばれた少なくとも一種を用いることが好ましい。特に,グリコール系はアクリル酸系ポリマーを粉体の状態で分散して保持している状態が安定しており,好ましい。エチレングリコールが取り扱いが容易であって,半年以上放置しても,内部に分散している微粉体が溶けることなく,長期間安定して粉体の状態を維持することができた。(段落【0026】」 )・ 「ゼリーとしては,粘液基材としてのアルコール系主成分100重量部に対し,アクリル酸重合体が0.01∼1.0重量部,中和剤が0.03∼0.7重量部含まれることが好ましい。特に,アクリル酸は,安定したゼリーを生成するために必要であり,0.01重量部未満では粘度が不足する。一方1.0重量部より多くなると,粘度が飽和点に達し,それ以上は多くしても粘度は上がらない 。(段落【00」27】)・ 「中和剤はゼリーのPHを適正な値に維持するために必要であり,0.03重量部未満では,PHが下がり,その結果ゼリーの粘性が不足し,粘度の有効な範囲を外れる。一方,0.7重量部より多くなると,ゼリーの粘性が安定しなくなり,調整が困難となる。(段落【0」028】)・ 「該体液漏出防止材には,二酸化安定塩素,消臭剤,殺菌剤,防腐剤等の薬液を添加しても良い。(段落【0031】」 )・ 「本発明に係わるゼリー状体液漏出防止材の製造方法を説明する。攪拌機に粘液基材であるエチレングリコールを入れる。このエチレングリコールを攪拌しながら,アクリル酸重合体を少量づつ加えていく。2∼8時間攪拌して,分散液を生成する。この分散液を攪拌しながら,中和剤を少量づつ滴下していく。これにより,ゼリーが生成される。このゼリーにゲル粉末である高吸水性ポリマーを加え,十分に攪拌する。これにより,ポリマーが分散したゼリーが生成される。」(段落【0032)】(ウ) 上記(イ)によれば,段落【0026】において,ゼリーの粘液基材として「エチレングリコール,プロピレングリコール,ジエチレングリコール,メタノール,エタノール,グリセリン」という具体的な材料名が例示されているものの,それ以外の「アクリル酸重合体」「中和剤」, ,「高吸水性ポリマー」として,何を用いたらよいのかという,具体的な材料名の例示はない。また,高吸水性ポリマーの配合量については,段落【0025】に,アクリル酸重合体,中和剤の配合量については段落【0027 】【00,28】に示されてはいるが,何れも概略的な記載にとどまっている。そして,具体的な製造方法は段落 0032 】【 で示されているところ ,この記載も,エチレングリコールに,配合量,具体的組成物不明のアクリル酸重合体を加えて2∼8時間攪拌すること,これに配合量,具体的組成物不明の中和剤を攪拌しながら滴下すること,最後に,配合量,具体的組成物不明の高吸水性ポリマーを加えて,本件発明1のゼリー状体液漏出防止材を製造することが示されているに止まる。(エ) 特許庁の審査基準では,実施例を用いなくても当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて発明を実施できるように説明できるときは,実施例の記載は必要でないが,一般に物の構造や名称からその物をどのように作り,どのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野(例:化学物質)に属する発明については,通常,特許明細書において,実施に当たって使用可能な具体的な材料名,製造条件等を示し,一つ以上の代表的な製造例を挙げることで,当業者が発明を実施するための手がかりを確保するとされており(甲47,審査基準第Ⅰ部第1章明細書の記載要件,17頁15∼22行参照),その内容は合理的であると解される。本件発明1の場合,本件明細書には上記に述べたように,その手がかりとなる材料名,製造条件などを示した具体的な実施例等の記載はないから,このような記載で当業者が当該発明を実施できる程度に明確かつ十分な記載がされているといえるためには,技術常識に基づいて,当業者であれば具体的な材料名,製造条件が理解できる必要がある 甲47 ,(審査基準第Ⅰ部第1章明細書の記載要件,18頁15∼17行参照 )。ウ(ア) 原告は,本件発明1の「ゼリー」は粘液であるから,そのアクリル酸重合体が増粘剤として用いられていることは当業者に自明であり,またアクリル酸重合体が増粘剤として用いられること,その場合はアルカリで中和することは周知技術であるとして甲22を提出するところ,甲22(化学工業日報社編,「11691の化学商品」,化学工業日報社,1991年1月23日)には以下の記載がある。・ 「ポリアクリル酸ソーダ …用途 凝集剤(…),増粘剤・安定剤…製法 アクリル酸を原料として水酸化ナトリウムで中和し,アクリルソーダ単量体水溶液とする。そうして少量の重合触媒を使用して重合を行い,得られた重合体は裁断,乾燥,粉砕,篩分して製品とする。(288∼289頁)」・ 「カルボキシビニルポリマー …性状 …アルカリで中和することにより著しく増粘。…用途 化粧品 ,クリームなどの増粘,分散安定剤,エマルジョン,有機溶媒などの増粘安定剤,…製法 アクリル酸を溶液重合にてポリマー化し乾燥して製品を得る。…」(852頁)・ 「ヒドロキシエチルセルロース …概説 …高重合度のものは塗料,化粧品などの増粘剤として使用されている。用途 …増粘剤として水溶性塗料,接着剤,化粧品,染色工業などに使われ…」(858∼859頁)(イ) 上記によれば,各種アクリル酸重合体が増粘剤の機能を有し,またアルカリで中和することにより著しく増粘することが知られていたと認められる。エ(ア) また原告は,アルコールを主成分とする粘液調整法は本件特許出願時(平成13年3月19日)において周知技術であるとして,甲48∼甲52を提出するところ,それらには以下の各記載がある。a 甲48(特許第3090425号公報,発明の名称「W/O型分散インキ」,特許権者 株式会社パイロット,登録日 平成12年7月21日)・ 「 発明の実施の形態】本発明は着色料を含有する非水溶性分散【媒に剪断減粘性を付与する水系分散質を均一に分散したW/O型分散インキである。非水溶性分散媒は芳香族アルコールおよび/または脂肪族グリコールエーテルからなる非水溶性極性溶剤を成分とする。非水溶性極性溶剤を主溶剤とするとインキの蒸発防止に効果がある…」(段落【0005】)・ 「非水溶性極性溶剤としては,芳香族アルコールおよび/または脂肪族グリコールフェニルエーテルが使用される。…」(段落【0006】)・ 「分散質としては架橋型アクリル酸重合体が主成分として使用される。架橋型アクリル酸重合体は主としてインキに剪断減粘性を付与するために使用される…」(段落【0009】)・ 「分散質に配合する架橋型アクリル酸重合体中和剤としては,トリエタノールアミンが最適である。…」(段落【0011】)b 甲49(特許第3121571号公報,発明の名称「油性ボールペン用インキ 」,特許権者 株式会社パイロット,登録日 平成12年10月20日)・ 「 発明の実施の形態】本発明は,芳香族アルコールおよび/ま【たは脂肪族グリコールフェニルエーテルからなる非水溶性極性溶剤と多価アルコールを混合した非水溶性極性溶剤と,色材と,架橋型アクリル酸重合体とからなる,剪断速度400sec−1における粘度が200∼3000mPasで,剪断減粘指数が0.30∼0.85である,ボールペン用インキである。… 」(段落【0005】)・ 「剪断減粘性付与剤として架橋型アクリル酸重合体を使用する際,有機アミンは多価アルコールに溶解しないがトリエタノールアミンは溶解するので架橋型アクリル酸重合体がトリエタノールアミンで中和され多価アルコール中で膨潤する。 」 段落 0011】…( 【 )・ 「…架橋型アクリル酸重合体としては,商品名ハイビスワコー1
04 和光純薬工業株式会社製)
( を用いた 。 」 段落 0016】…( 【 )(イ) 上記(ア)から明らかにように,甲48,49は,芳香族アルコール等の非水溶性極性溶剤に架橋型アクリル酸重合体を分散剤として加え,これに中和剤を加えてインキに剪断減粘性を付与するものであるところ,甲49のようにアクリル酸重合体として「ハイビスワコー104」を用いとして具体的な商品名の例示がある一方,甲48では架橋型アクリル酸重合体として何を用いるか,具体的な材料名の記載はなく ,特段,具体的な材料名を上げなくても当業者において自明であることが前提とされていることが認められる。(ウ)a また甲50(特許第3138765号公報,発明の名称「水解性清掃布」,特許権者 小林製薬株式会社,登録日 平成12年12月15日)には,以下の記載がある。・ 「 発明の属する技術分野】本発明は,水溶性の程度が加減でき【る皮膜を基剤シート表面に塗工/形成してなる水解性清掃布に関する。(段落【0001】」 )・ 「次に,本発明の水性造膜性分散液を構成する有機溶媒 分散媒 )(としては,ハロゲン化炭化水素類,多価アルコール誘導体,アルコール類…などがある」(段落【0012】)・ 「一方,増粘剤としては,ポリマー系重合体,増粘多糖類,ガム類,セルロース誘導体などが適用可能であり,例えば,架橋型アクリル酸重合体…などがある…」(段落【0014】)b 一方で甲50には,架橋型アクリル酸重合体として何を用いるか,具体的な材料名の例示と,アクリル酸重合体を用いて粘度を調整した際の実施例は見当たらない。従って,甲50は,水解性清掃布に用いる水性造膜性分散液としてハロゲン化炭化水素,アルコール類などを用いたものに,増粘剤として架橋型アクリル酸重合体を用いるとされているが,その際の具体的な調整方法を開示していない。(エ)a 甲51(特開平9−78057号公報,発明の名称「エアゾール組成物及びその製造方法,並びにそれを用いたエアゾール製品 」,出願人 鈴木油脂工業株式会社,公開日 平成9年3月25日)には,以下の記載がある。・ 「 発明の属する技術分野】本発明は,薬剤をエアゾール製品に【用いる充填剤に関し,詳しくは無機多孔質微粒子に薬剤を担持させて,さらに分散液に分散させたエアゾール組成物,その製造方法並びにそれを用いたエアゾール製品に関する。 (段落【000」1】)・ 「そこで本発明はエアゾール組成物の改良を行い,徐放機能を有し,さらにアクリル酸重合体と薬剤とを用いることにより,薬剤と溶解しにくい水または有機分散液の中に均一に薬剤を分散させ…るものである」(段落【0004】)・ 「本発明の分散液としては,薬剤を分散させることができる液体であり,0∼50℃の環境下で液体状態であるものが望ましく,用途に応じて水または有機溶媒や,さらには混合物も用いることができる。その有機溶媒では,アルコール類…などを特に好適に用いることができる。そして,具体的には,メチルアルコール,エチルアルコール,プロピルアルコール,イソプロピルアルコール,ブチルアルコール等が例示できる。… 」(段落【0036】)・ 「次に,アクリル酸重合体としては,ポリアクリル酸とも呼ばれアクリル酸を2以上重合したもので,特に架橋型アクリル酸重合体を用いることができる。そのアクリル酸重合体の具体的な例は ,…和光純薬(株)製のハイビスワコー103,ハイビスワコー104,ハイビスワコー105,ハイビスワコー204,ハイビスワコー304等が例示できる。そのアクリル酸重合体のエアゾール組成物中の含有量としては,0.0001∼6重量%,好ましくは0.01∼0.5重量%とするのが望ましい。即ち,0.0001未満であると,粘度が低すぎて均一に分散することができず,また6重量%より多いと粘度が高すぎて均一に分散することができなくなるので,前記範囲にするのが望ましい。 (段落【0」037】)・ 「前記アルカリ剤としては,アクリル酸重合体を中和して,分散液を増粘させる水不溶性もしくは水難溶性のものである。… 」(段落【0038】)・ 「また,本発明の製造方法によれば,分散液に,アクリル酸重合体とアルカリ剤とを加えて増粘させることにより,薬剤を担持させた無機多孔質微粒子を,均一に分散させることができるので,従来無機多孔質微粒子では不可能であったものが,手間も掛からずに簡単に分散させてコストダウンを計ることができる。 (段落」【0065】)b 甲52(特開平9−77605号公報,発明の名称「薬剤分散液及びその製造方法 」,出願人 鈴木油脂工業株式会社,公開日 平成9年3月25日)には,以下の記載がある。・ 「 発明の属する技術分野】本発明は,薬剤を均一に分散させた【分散液に関し,詳しくは無機多孔質微粒子に薬剤を担持させて,さらに分散液に分散させた薬剤分散液に関する。 (段落【000」1】)・ 「即ち,前記課題は,薬剤を担持させた無機多孔質微粒子と,分散液と,アクリル酸重合体と,アルカリ塩と,からなる薬剤分散液によって解決することができる。そして薬剤分散液には,前記分散液を水またはアルコール類の少なくとも一方にしたり,あるいはその前記アルコール類が,炭素数1∼3のものとすることができる。…薬剤分散液の製造方法は,分散液に,アクリル酸重合体とアルカリ塩とを加えて増粘させるとともに,さらに薬剤を担持させた無機多孔質微粒子を加えて分散させて行うものである。」(段落【0005】)・ 「次に,アクリル酸重合体としては,ポリアクリル酸とも呼ばれアクリル酸を2以上重合したもので,特に架橋型アクリル酸重合体を用いることができる。そのアクリル酸重合体の具体的な例は ,…和光純薬(株)製のハイビスワコー103,ハイビスワコー104,ハイビスワコー105,ハイビスワコー204,ハイビスワコー304等が例示できる。そのアクリル酸重合体の薬剤分散液中の含有量としては ,0.0001∼6重量%,好ましくは0.01∼0.5重量%とするのが望ましい。即ち,0.0001重量%未満であると,粘度が低すぎて均一に分散することができず ,また6重量%より多いと粘度が高すぎて均一に分散することができなくなるので,前記範囲にするのが望ましい。 (段落【003」8】)・ 「また,本発明の製造方法によれば,分散液に,アクリル酸重合体とアルカリ塩とを加えて増粘させることにより,薬剤を担持させた無機多孔質微粒子を,分散させることができるので,従来乳化剤や界面活性剤を必要としていたものが,乳化工程などの工程が不要となり,手間も掛からずに簡単に分散させてコストダウンを計ることができる。(段落【0073】」 )c 従って,甲51,52は,エアゾール製品に用いる分散液としてアルコール類を用い,これにハイビスワコー等のアクリル酸重合体を加えた後にアルカリ剤を加えて増粘させるものである。また,アルコールの粘度を適度に調整すれば,微粒子を均一に分散できることにも言及されている。(オ) 以上の甲22,甲48ないし52の記載を総合すると,アルコールに増粘剤を加えて粘液とすることは各種の技術分野で行われる一般的な技術であり,増粘剤としてアクリル酸重合体を採用し,中和剤で中和することも良く行われることといえる。そして,アクリル酸重合体として具体的な材料名の例示がない事例,またその調整例がない事例もあることを考慮すると,アルコールにアクリル酸重合体を加え,これを中和剤で中和して,粘液状のアルコールを製造することは化学技術分野一般において,技術常識に近いものと認められる。また本件発明1の属する遺体の処置に関する技術において,体液を吸収するために高吸水性樹脂粉末を用いることは広く行われていた(本件明細書段落【0003】等)ことであるから,具体的な材料名の提示がないとしても,遺体に適用する高吸水性ポリマー粉体としてどのような材料があるかは,当業者であれば容易に理解するものと認められる。そして,粘性を有するアルコールに粉末状の高吸水性ポリマーを混入すれば,その粘性のためにアルコール中における高吸水性ポリマーの移動が阻害され,分散状態を維持し得ることは自明のことであり,このことは甲51,52からも裏付けられるものである。そうすると,本件明細書程度の記載があれば,当業者であれば本件発明1を容易に実施し得ると認められるから,改正前特許法36条4項の規定に違反するとした審決の判断は誤りである。(カ) 被告は,アクリル酸重合体には数多くの重合体が含まれ,それがどのようなアルコールについて増粘剤として有効に作用するか自明ではないから,数多くの試行錯誤と実験を必要とし,実施可能要件を満たしていない旨主張する。確かに被告が主張するように,不適当なアクリル酸重合体とアルコールの組合せが存在することは想像されるが,アクリル酸重合体が増粘剤として機能し,アルコールに粘性を持たせることが一般的に行われているのであるから,適当な組合せを見つけることが当業者にとって必要以上に困難なことと解することはできない。
(被告の主張)
は採用することができない。(キ)a また被告は,なお本件明細書の記載にしたがって容易に本件発明1を実施できないとして,甲4,6を提出する。b 甲4( 特許第358207号の発明に関する追試実験報告書 」「 ,平成18年10月30日,被告取締役B作成)には,以下の記載がある。「 結論】【本件特許明細書の請求項1に明示されている構成成分のみの場合,全てのアルコールにおいてゲルと高吸水性ポリマーは分離した。このことから,請求項1に明示されている構成成分のみでは,ゲルを作成することはできないことがわかる。一方,請求項6に記載の成分を含む場合でも,エチレングリコールとグリセリンを除くすべてのアルコールにおいて,ゲルと高吸水性ポリマーは分離するか,ゲル状の溶剤にすることが出来ず,実施不能であり,『ゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなることを特徴とするゼリー状体液漏出防止剤』という構成要件を満たすことできなかった 。(11頁1行∼9行)」c 上記によれば,甲4の実験結果では,ゲル状のゼリーでは,本件明細書で粘液基材として例示された「エチレングリコール,プロピレングリコール,ジエチレングリコール,メタノール,エタノール,グリセリン」の内,エチレングリコール,グリセリンを基体とした,非常に限られた組合せ以外では,高吸水性ポリマーが直ぐに分離してしまうとしている。また,アルコールの種類を変えた甲6( 山口大学実験報告書(乙「
第18号証)に関する検証・追加実験報告書 」,平成18年11月2
7日,被告取締役B作成)の実験でも,同様に分離するとしている。そして被告はこれらの実験結果からして,カルボキシポリマー(増粘剤)を添加しなかった場合,全てのアルコールにおいて高吸水性ポリマーを分散させておくことはできなかったから,増粘剤の使用は絶対必要条件であるが,請求項1にはこの点の記載がない旨主張する。しかし,本件発明1のゼリーは粘液状のものであり,またその粘度を適当に調節することにより,中に分散した高吸水性ポリマーが移動しにくくなるであろうことは当業者には自明のことと認められ,被告実験においても,適当なアルコールと高吸水性ポリマーを組合せ,ゼリーの粘度を適宜に調整すれば,高吸水性ポリマーが分離し難いゼリーを得ることが困難とはいえない。従って,被告の実験結果をもってしても,本件明細書の記載から本件発明が容易に実施できないとはいうことはできない。なお被告は,増粘剤の使用が必須事項であると主張するが,適度な粘度のアルコールと,当該アルコールに適した高吸水ポリマーを選択することにより,分散状態を保てるであろうことも予想できるから,被告の実験結果から増粘剤の使用が必要条件であるとまではいえない。
(被告の主張)
は採用することができない。オ 以上の検討によれば,本件発明1についての判断を前提とした本件発明2ないし4についての審決の判断も同様に誤りである。結語以上のとおりであるから,原告主張の取消事由1の主張は理由がないが,取消事由3,4については理由があり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所 第2部裁判長裁判官 中 野 哲 弘裁判官 今 井 弘 晃裁判官 清 水 知 恵 子
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯) (2)(訂正前発明の内容) (3), ,(本件訂正の内容),(4)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。そこで,原告主張の取消事由について,以下判断する。本件訂正についての判断の誤り(取消事由1)について
(1)ア 審決は,請求項1の記載の「ゼリー」を「粘性を有するゼリー」と訂正する点について,「本件発明でのゼリーは,…粘液を意味するものではなく,…『液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い,弾性的なかたまりとなった状態』を意味するものであると認められ,それ自体明りょうな用語である。…ゼリー(ゲル)は,粘弾性を有する物質(かたまり)であることは技術常識であり,その物性として必然的に粘性を有するものであるから,…『ゼリー』に『粘性を有する』という要件を付加する訂正は,ゼリーが必然的に有する特性を付加するに過ぎないから ,『ゼリー』の語義を明りょうにするものではないうえ,かえって,ゼリーの語義に誤解を与えるおそれが生じる…」(28頁8行∼18行)として,本件訂正を認めなかった。すなわち審決は,原告の立場と異なり,ゼリーを「液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い,弾性的なかたまりとなった状態」であると解する前提(審決の「ゼリー」についての解釈)に立っても,ゼリーは粘弾性を有するかたまりなのであるから,当然に粘性を有し,「粘性を有する」との要件を付加することは「ゼリー」の語義を明りょうにするものではないと判断したものである。これに対し原告は,本件発明1のゼリーは「粘液」であって,液体であるから,対象物が粘性液体であることを特定するために普通に使用される「粘性を有する」という語を使用して,これを明りょうにするものであり,ゼリーが液体であることを明りょうにする訂正であるから,本件訂正は認められるべきであると主張するので,以下検討する。イ 本件発明1における「ゼリー」が,①原告が主張するように「粘液」を意味するのか,②審決が認定したように「コロイド液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い弾性的なかたまりとなった状態」を意味するのか,については,後記3 取消事由3についての判断)( で検討するとおりである。そして,上記のとおり審決が,ゼリーがかたまりであるとの前提に立っても粘性を有するとしたことから,上記「ゼリー」についての正確な定義をひとまずおき,本件訂正が訂正要件を満たす適切な訂正であるかの観点から,すなわち本件訂正の内容に照らし,特許法134条の2第1項ただし書にいう「特許請求の範囲の減縮」「誤記又は誤訳の訂正」に該当しな・いことは明らかであるから,「ゼリー」に「粘性を有する」との要件を付加することが「明りょうでない記載の釈明」に該当するか否かの観点から検討する。まず,「ゼリー」の意味につき,仮りに上記②の意味,すなわち審決の認定する「コロイド液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い弾性的なかたまりとなった状態」との意味であるとすると,ゼリーは「粘弾性体」であることになる。ウ そこで,「粘弾性」の意義に関し,文献等には以下の記載がある。(ア) 甲8( 岩波理化学辞典」第5版1024頁,長倉三郎他編,岩波「書店,2004年〔平成16年〕12月20日第5版第8刷発行)「粘弾性…緩和現象の結果として,弾性変形と粘性流動が重なって現われる現象。ふつう液体はずれ変形に対しては粘性を示すだけで弾性は示さないが,高分子の溶液や融体は粘性とともに弾性をも示す。マクスウェル・モデルはそのもっとも簡単な模型である。一方,固体においても緩和現象の結果,弾性とともに粘性が現われる場合がある。…」(イ) 甲9(2007年〔平成19年〕7月9日付け「結果報告書」,株式会社三井化学分析センター西日本支店長作成)「 ゼリー状物質の粘弾性測定』『…〈溶融粘弾性 周波数分散測定〉外観的にゼリー状の半固体というサンプルの特性上,液体,固体両方に適用できる動的粘弾性測定が適当であることから,加える正弦振動の周波数を変えながら行う周波数分散測定により,以下の条件で粘弾性を測定した。…4.結果周波数分散測定の結果を図1−4に,10 rad/s におけるG’,G”の値を表1にまとめる。 ※1…5.考察・検体が固体であるか液体であるかに関して①全ての試料において24℃および50℃でG ’>G”であり ,液体ではなく,固体(外観上はゼリー状物質)である。※2…※2.G’は貯蔵弾性率(弾性項),G”は損失弾性率(粘性項)で,これらの大小でレオロジー的な意味での固体および液体状態の判別が可能です。粘性項が弾性項を上回る場合(G’<G”のとき)は液体,弾性項が粘性項を上回る場合(G’>G”のとき)は固体です。」(ウ) 甲110(特表平9−508143号公報,発明の名称「セルロースエーテルを含む熱ゲル化薬剤送達ビヒクル」,出願人 アルコン ラボラトリーズインコーポイテッド ,公表日 平成9年8月19日,審決が,「特表平9−508143号公報(特に10頁下から7行∼下から3行の記載など)参照。〔24頁1行∼2行〕として指摘した箇所)」「本明細書中で用いられる『ゲル』は,(1)G*が 10Pa よりも大きい場合,G’がG''よりも大きい物質の状態(0.1 から2H Zの範囲における振動数で測定)か,または(2)G’がG ''の2倍と等しいまたはそれ以上である物質の状態を意味する。G’は物質の弾性の尺度である貯蔵弾性率であり,G ''は流動液体の粘性抵抗の尺度である損失弾性率であり,G *は複合弾性率である。」(エ) 甲111(特開2001−299241号公報,発明の名称「ゼリー状飲食品 」,出願人 株式会社ロッテ,公開日 平成13年10月30日)「弾性率(G)とは応力/歪みであり,弾性率=応力/歪みと表される。さらに弾性率(G)は,図1に示すように貯蔵弾性率(G′)と損失弾性率(G″)に分けられ,tan δ(G″/G′)の大きいものが粘性体であり, tan δの小さいものが弾性体である 。 (2頁左欄下」8行∼下3行)エ 上記ウによれば,粘弾性とは粘性と弾性の両方の性質を持つものであり(甲8 ),また甲9,甲110,甲111には固体のゼリー状物質について弾性と粘性を測定する旨ないしそれらを測定した結果が示されており,「粘弾性体」とはそのような粘性と弾性の両方の性質を有する物質を意味することが認められる。そうすると,本件発明1における「ゼリー」の意味が,審決で認定したとおり「コロイド液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い弾性的なかたまりとなった状態」の固体状のゼリーであったとしても,それ自体「粘性を有する」のであるから ,「ゼリー」に「粘性を有する」と付記したとしても,それをもって原告の主張するように,「ゼリー」が「粘液」を意味することを明りょうにしたことにはならない。また,「ゼリー」が「粘液」であっても,「コロイド液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い弾性的なかたまりとなった状態 」のものであっても,「粘性を有する」のであるから,「粘性を有する」という要件を付加することは,ゼリーが必然的に有する特性を重ねて付加するに過ぎないから,ゼリーの語義を明りょうにするものでもない。そして ,「ゼリー」につき「粘性を有する」と付加することは,前記のとおり「特許請求の範囲の減縮」にも「誤記又は誤訳の訂正」にも該当しないことも明らかである。オ 以上の検討によれば,本件発明1に関し,本件訂正は特許法134条の2第1項ただし書の規定に適合しないので本件訂正を認めないとした審決の判断に誤りはない。なお,審決は,請求項2∼4に関する訂正事項b∼d(いずれも請求項の削除),同m∼o(請求項の削除に伴う発明の詳細な説明の削除)については判断せず,全体として本件訂正を認めないとしたが,原告はこの点を取消事由として主張してはいない。
(2)ア また原告は,「審決は,対象物の流動性が問題になる当該技術分野において,固体にも通ずる粘弾性の議論を持ち出すが,当該技術分野の技術常識を無視している」旨主張する。しかし,ゼリーのような粘弾性体が,粘性と弾性を併せ持つことは科学技術における一般的な常識(甲8)であり,遺体の体液漏出防止技術においてのみこの常識が通用しないとすることはできないから,原告の主張は採用することができない。イ さらに原告は,審決が ,本件明細書において「ゼリー」と「微細ゼリー」とが区別されているとする点について根拠を欠き,審決の前提が誤りである旨主張する(本件明細書の「ゼリー」の意義については下記3において判断する)が,この点の誤りが審決の本件訂正の適否に関する判断につき影響を及ぼすものではないから,原告の主張は採用することができない。訂正前発明についての判断に関する取消事由の有無上記2のとおり,本件訂正は認められないので,進んで,本件訂正前の請求項1∼4(設定登録時のもの,本件発明1∼4)についての判断に関する取消事由の有無について判断することとするが,事案に鑑み,取消事由3について先に判断する。(1) 取消事由3(無効理由2〔サポート要件違反〕についての判断の誤り)についてア 審決は,「ゼリー」は,「流動性を失い弾性的なかたまりとなった状態」を意味し,また「アルコール」は,液体,固体を問わず,すべてのアルコールを含むとの解釈に立った上,アルコールには常温で液状のもの,固体状のもの,水溶性のもの,水難溶性のものなど様々なものが包含されるところ,「本件特許明細書の発明の詳細な説明に,アルコールに分類される化合物全般を主成分とするゼリーを用いた遺体体液漏出防止材の発明が記載されているとすることはできないから ,『アルコール系』すなわち『アルコールに分類される化合物(全般 )』を主成分とする範囲にまで記載を拡張した本件発明1は,特許法第36条第6項第1号の規定に違反する」と判断した(54頁29行∼33行)。これに対し原告は,本件発明1の「ゼリー」は ,「粘液」を意味し,「アルコール系」の意味についても,「高吸水性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状のアルコールに分類される化合物」を意味するから,審決は前提に誤りがあると主張する。イ そこで,まず本件発明1の特許請求の範囲に記載された ,「ゼリー」の意味について検討する。(ア) 「ゼリー」に関して,文献には以下の記載がある。・ 甲2( 化学大辞典5」縮刷版第14刷 ,化学大辞典編集委員会編 ,「共立出版株式会社,昭和47年9月15日発行,387頁)「ゼリー,凝コウ体 [英 jelly 独Gelee]コロイド液全体が分散媒を含んだまま流動性を失い弾性的なかたまりとなった状態をいう.寒天ゼリー,ゼラチンゼリー,ペクチンゼリーなどがその例である.コロイド粒子が液中で凝結して流動性を失った状態は一般にゲル*とよばれるが,凝結物が分離せず多量の液体を含んだまま全体が固化し,特に著しい弾性を示す状態をゼリーという.…」・ 甲40( 広辞苑」第4版第5刷,1453頁,1995年〔平成「年〕11月10日発行)「ゼリー【jelly】①動物性(魚肉類)または植物性(果実)の膠質分を煮出して採取した澄明な汁。また,これをゼラチンで凝固させたもの。②果物の汁に砂糖を加えて煮詰めた後,冷やしたもの。また一般に,ゼラチンに砂糖などを加えてつくった菓子。ジェリー。」・ 甲41(粘滑・表面麻酔剤「キシロカイン Rゼリー」の説明書,1頁左欄,2000年〔平成12年〕3月改訂以前の記載,アストラゼネカ株式会社)「2.性状販売名 キシロカインゼリー剤形 ゼリー色・形状 無色∼微黄色澄明の粘性の液」・ 甲95−1( 丸石製薬添付文書集」58頁,1997年〔平成9「年〕4月,丸石製薬株式会社)「外用殺菌消毒剤日本薬局方濃塩化ベンザルコニウム液50ヂアミトールR「マルイシ」50 w/v %【組成】塩化ベンザルコニウム 50.0超∼55.0% 含有【性状】1.製剤の性状本品は無色∼淡黄色澄明の液又はゼリーようの流動体で,特異なにおいがある。…」・ 甲46 「Fターム説明書(テーマコード4 C066)」 2007年 平( , 〔成19年〕3月2日,特許庁ウエブサイト)「** Fターム説明 **…04・・粘性液体(含.クリーム,軟膏)液体であって,特に粘稠な流動性を有することが明確であるとき。ゼリー状のものも含む。」なお,甲99 特許庁電子図書館の特許・実用新案検索頁)( には …「パテントマップガイダンス(旧) 平成12年10月以前のFI・Fターム,IPCの説明を参照できます。」と記載があることから,上記甲46は平成12年10月以前のデータであると認めることができる。・ 甲96( 常用医薬品事典」945頁鈴木郁生監修,昭和60年1「1月15日初版発行,株式会社廣川書店)「塩化ベンザルコニウム…性状 白色∼黄白色の粉末,無色∼淡黄色のゼラチン状の小片,ゼリ状の流動体または塊.特異臭.…」・ 甲97( 第十三改正「 日本薬局方 条文と注釈」609頁日本薬局方解説書編集委員会編,平成8年4月15日初版発行,株式会社廣川書店)「濃塩化ベンザルコニウム液 50…性状 本品は無色∼淡黄色の液又はゼリーようの流動体で,特異なにおいがある.…」・ 甲98 「外用殺菌消毒剤( 逆性石ケン液50 ヨシダ 』 の説明書,『 」1999年〔平成11年〕4月作成(第3版 ),吉田製薬株式会社)「 組成・性状】【…2.製剤の性状本剤は無色∼淡黄色澄明の液又はゼリーようの流動体で,特異なにおいがある。…」・ 甲101(特許第2880477号公報,発明の名称「外用塗布潤滑液」,登録日平成11年1月29日,特許権者 東京三恵化学株式会社)「 請求項1】 ヒアルロン酸とシアル酸ナトリウムおよびハイドロ【キシエチルセルロースを配合した透明ペースト状またはゼリー状の乳酸酸性液からなる女性性器塗布用を特徴とする外用塗布潤滑液。」「 0002】【【従来の技術】外用塗布潤滑液,とくに女性性器塗布用の潤滑液としては,生理的に分泌液に類似し,ゲル状構造によって組織を保護し,全く無害であることが要求される。しかしながら,従来女性性器塗布用の潤滑液として市販されているゼリー剤は,ゼラチン,アルギン酸ソーダ,アガロペクチンなどを主成分とする単なる粘性液で分泌液との親和性が乏しく,違和感があるため使用者に満足を与えるものではなかった。」・ 甲102(特許第2907793号公報,発明の名称「冷凍食品の解凍表示マーカー」,登録日 平成11年4月2日,特許権者 酢屋八郎)「 請求項1】 可撓弾性を有する透明樹脂製であり,かつ両端開口【のチューブ(1)を2つ折りにして,その折り目を境に双方の容部(1A)(1B)を形成し,その一方の容部(1A)内には,食用,澱粉と食用色素を用い,さらに熱処理を施してゼリー状となした着色ゼリー状液体(7A)を充填密封し,また他方の容部(1B)内には,食用澱粉と,上記食用色素とは異なる色素である食用色素を用い,さらには熱処理を施してゼリー状となした異着色のゼリー状液体(7B)を充填密封せしめてなることを特徴とする冷凍食品の解凍表示マーカー。」「 0026】また本発明による解凍表示マーカーに使用されてい【る材料(ゼリー状液体)は,食用澱粉,食用色素,飲料水であることから,いずれも食品衛生上無害なものであるので,仮に上記ゼリー状液体が食品に触れたとしても食品衛生上安全である。」・ 甲103(特開2000−204253号公報,発明の名称「水性シリコーンエマルジョン 」,公開日 平成12年7月25日,出願人ダウ・コーニング・コーポレーション)「 請求項1】 (i)5∼65重量%の,分子量1,000未満及【び粘度5 mm 2/秒以下の低分子量シリコーン;(ii )(a)シリコーン粒子の表面積100平方オングストローム当たり0.5∼3分子を提供するのに十分な濃度でエマルジョン中に存在するHLBが13を超える非イオン乳化剤;(b)シリコーン粒子の表面積100平方オングストローム当たり0.5∼10分子を提供するのに十分な濃度でエマルジョン中に存在するアニオン乳化剤;(c)シリコーン粒子の表面積100平方オングストローム当たり0.5∼10分子を提供するのに十分な濃度でエマルジョン中に存在するカチオン乳化剤;及び(d)シリコーン粒子の表面積100平方オングストローム当たり0.5∼10分子を提供するのに十分な濃度でエマルジョン中に存在する両性乳化剤;から選ばれる少なくとも1種の一次乳化剤;(iii)シリコーン粒子の表面積100オングストローム当たり5∼15個の乳化剤分子を提供するのに十分な濃度でエマルジョン中に存在するHLBが11未満である補助界面活性剤としての少なくとも1種の非イオン界面活性剤;並びに(iv)全体量を100重量%とする量の水を含む残り;を含み,エマルジョン中のシリコーン粒子の粒径が100∼1,000ナノメートルの間である,シリコーン粒子の粒径安定性が改良された水性シリコーンエマルジョン。」「 0066】米国特許第4,784,844号の例1をあらゆる【点で反復して得られた生成物はゼリー状の非常の粘稠な白色エマルジョンであった。この特許の例1の手順において必要とされているような激しい攪拌を使用した。ゼリー状の粘稠な白色エマルジョンの粒子の大きさは,非常に広いか又は多モードの粒径分布でもって1700ナノメートルであると求められた。粒径分布は非常に広く ,主な集団,すなわち75容量%は,1.7μmのピーク直径を有していた。エマルジョンは約72重量%のデカメチルペンタシロキサン濃度を有していた。それを35重量%のD 5濃度になるように水で稀釈してやっと水のような粘性を有すると呼べる状態になった。」・ 甲105(特開2000−245386号公報,発明の名称「栄養価の高い調味料」,公開日 平成12年9月12日,出願人C)「 特許請求の範囲】【グルテン蛋白質を加水分解して作り,又は過剰生産によって作られたスイカやミカン汁等の糖類にミクロコッカースグルテミックス菌を添加発酵して作った,グルタミン酸ソーダーを基本ベースとして予めキトサンをビタミンC水で溶解した液に,栄養価の高いビタミンB1 B2 B6 B12を加えて安定化せしめたものに,螺旋水藻粉や青ノリ,コンブ粉,ミドリムシ粉,乾燥野菜粉を混合して漢方薬の橄欖粉,田七粉,茶粉を添加して素練りし,更に必須アミノ酸を多く含有する味噌ペーストにクエン酸カルシウム,クエン酸マグネシウム,クエン酸カリウム,イノシン酸塩,グリコール酸塩 ,アルギニン酸ソーダー,澱粉を加えて更に素練りしたペーストを顆粒状に顆粒機で造粒したものを乾燥せしめた,栄養価の高い薬効性があり風味のある調味料を造り,日常食卓の調味料としてしょう油や酢やつゆ等に添加し,その他の食品を添加使用する事を特徴とする複合調味料。」「 例1】【【図1】の工程図に従って加工し調味料を作るが,ビタミン類の安定剤となるキチンキトサンビタミンCペーストハキチンキトサン粉の20gとビタミン20gを温湯水100gに溶解した液に添加して撹拌して溶解し,ゼリー状透明液を作り,これにビB1 B2 B
6 B12必須アミノ酸を溶解して,これに田七粉,橄欖粉を混合して苦味を抑えこれに生味噌を加えて素練りし ,螺旋水藻,青ノリ ,コンブ粉,ミドリムシ粉,クロレラ粉等を混合して素練りしたものを,造粒機に投入して造粒し,低温乾燥して顆粒状に成型加工して調味料を作る。…」(5頁左欄10行∼20行)(イ) 上記甲2(化学大辞典)によれば,「ゼリー」とは,流動性を失った状態であるゲルの一種であって,凝結物が分離せず多量の液体を含んだまま全体が固化し,特に著しい弾性を示す状態をいうものといえる。一方,上記甲40(広辞苑)から明らかなように,「ゼリー」の語が一般に用いられる場合は,その性状として凝固した固体のほかに「汁 」,すなわち液体を指す場合もあることが認められる。そして,上記甲41(粘滑・表面麻酔剤説明書),及び甲101(特許第2880477号公報)のとおり,本件特許出願(平成13年3月19日)以前から,化学の分野においても,文献には粘性を有する液体を「ゼリー」と呼称する例がみられるほか,甲46(Fターム説明書 )・甲95−1(丸石製薬添付文書集)・甲96ないし98(常用医薬品事典等)にみられるように流動体を「ゼリー」ないし「ゼリー状」と称する例,甲102・甲・甲105(特許公報等)のように液体の性状を称してゼリー状という場合もあることがそれぞれ認められる。ところで,明細書で用いる技術用語は,学術用語を用いるべきもの 特(許法施行規則24条には「願書に添附すべき明細書は,様式第29により作成しなければならない。」とされ,その様式第29の備考〔7〕には,「技術用語は,学術用語を用いる。」とされている)であるから,学術用語どおりに解釈すべきである。しかし,上記甲2の記載のみが学術用語としての定義であると断定することはできないのみならず ,「ゼリー」に関しては一般の用語法の影響を受けてか,上記甲2の定義とは異なる言葉の用い方が本件特許出願前から一般的になされているところからすれば,本件の場合においては上記甲2(化学大辞典)に記載された意味のみから特許請求の範囲の記載を解釈するのは適切とはいえず,本件発明1にいう「ゼリー」が「流動性を失ったかたまり状の弾性体」をいうのか「粘液状」のものをいうのかについては,特許請求の範囲の記載のみからはその意味が一義的に明確に理解することができないというべきである。そうすると,本件発明1の「ゼリー」の意味については,本件明細書(甲74)の発明の詳細な説明の記載をも参酌してその意味を判断する必要があると解される(最判平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。(ウ) 上記の観点から本件明細書の記載を検討すると,本件明細書(甲74)には以下の記載がある。a 特許請求の範囲・ 【請求項1】遺体の体腔に装填される体液漏出防止材が,アルコール系を主成分とするゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなることを特徴とするゼリー状体液漏出防止材。・ 【請求項6】ゼリーは,アクリル酸重合体,中和剤が含まれることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材。・ 【請求項8】ゼリー状体液漏出防止材の粘度が8,000∼40,000CPであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材。b 発明の詳細な説明・ 「 発明の属する技術分野】本発明は,遺体からの体液漏出を防【止するために,遺体の体腔に装填される体液漏出防止材及びその体液漏出防止材を使用した体液漏出防止方法に関するものである。」(段落【0001】)・ 「即ち,特開平7−265367号公報や特開平10−298001号公報のように粉末をそのまま遺体に充填する方法では,粉末を押圧しても粉末自体の密度が上がるだけで,充填器内をスムーズに流れないので,シリンダを使用しても充填することが困難である。また,飛び出る粉末が拡散するので,粉末を固めて栓をしたい所に粉末を留めることが困難であり,場合によっては,遺体外に出て遺体周辺を汚す恐れがある。さらに,粉末をそのまま遺体に装填する場合には,体液の少ない遺体に対しては微粉末がこぼれ出たり,又はゲルが溶けて漏れ出る可能性がある。(段落【0007】」 )・ 「特に,粉末としては,体液を吸収して膨潤することに主眼が置かれ,各種の樹脂粉末の開発が行なわれている。いずれも親水性樹脂粉末であり,この種の樹脂粉末は体液を吸収して膨潤してゲル化する機能は優れている。しかし,この種の樹脂粉末は吸収量が多いとゾル状になり,更に進むと溶けるものが多い。また,体液が,胃酸などの強酸性体液や胆汁などのアルカリ性体液を含んでいると,ゲル状態を維持できないものが多い。(段落【0008】」 )・ 「また,粉体でなく,ゼリーを用いるものとして,特開平08−133901号公報のものが知られている。この公報では,消臭剤入りの粉末ポリマーを適当量の水で溶かし適当に混合してゼリーにし,遺体の鼻腔の奥,口腔の奥,耳穴の奥に注入器等で圧入し充満させ,ゼリーで止血し,その外側に更に衛生綿で栓をするものである。(段落【0009】」 )・ 「この公報のものでは,ゼリーに消臭剤を混合して異臭を防止するようにし,ゼリー自体で栓をすることを狙いとしている 。その上 ,ゼリーだけでは封止が十分でないので,衛生綿等で更に封止するようにしている。この公報のように,粉末ポリマーを水に溶かしてゼリー状にすれば,流動性が良くなるので,鼻孔等の奥にも注入しやすく,注入器を使って注入しても,粉体のように飛散することも無く,注入管を伝って滑らかに注入できる。しかし,既に水に溶かしているために,本来ポリマーが有する給水性能はほとんどなくなっている。したがって,ゼリーは鼻孔の隙間を埋める栓としての機能でしか使われなく,鼻孔を十分に封止することができない。(段落」【0010】)・ 「本発明の第1の目的は,今までの樹脂粉末では遺体の体液漏出を防止できないので,新規な体液漏出防止材を開発したことを特徴とする。特に,ゼリーでありながら高い吸水性を有する体液漏出防止材を開発したことを特徴とする。(段落【0012】」 )・ 「第2の目的は,ポリマーが粉体の状態でゼリーの中に分散しているゼリー状の体液漏出防止材を使用して,体腔を封止することを特徴とする。(段落【0013】」 )・ 「 課題を解決するための手段】【上記目的を達成するために,請求項1記載の発明は,遺体の体腔に装填される体液漏出防止材が,アルコールを主成分とするゼリ−の中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなるので,体液漏出防止材の流動性が高く,鼻孔,耳穴等の狭い体腔であっても充填されやすく,注入器で圧入しても飛散することがない。その上,ゼリーにポリマーが分散しているので,ポリマーが吸水性能を維持しており,このポリマーが体腔から漏出する体液を吸収し,外部へ漏出することを防止する。(段落【0014】」 )・ 「請求項8の発明は,請求項1ないし7のいずれか記載のゼリー状体液漏出防止材において,ゼリー状体液漏出防止材の粘度が8,000∼40,000CPである構成であり,ゼリーの流動性が良いので,耳孔,鼻孔,肛門,女性の膣・尿道などの狭い体腔通路もスムーズに投入でき,適確に封止できる。(段落【0021】」 )・ 「本発明で使用するゼリーの粘液基材としては,エチレングリコール,プロピレングリコール ,ジエチレングリコール,メタノール,エタノール,グリセリンの中から選ばれた少なくとも一種を用いることが好ましい。特に,グリコール系はアクリル酸系ポリマーを粉体の状態で分散して保持している状態が安定しており,好ましい。エチレングリコールが取り扱いが容易であって,半年以上放置しても,内部に分散している微粉体が溶けることなく,長期間安定して粉体の状態を維持することができた。(段落【0026】」 )・ 「ゼリー状体液漏出防止材の粘度は8,000∼40,000CPであることが好ましい。この値よりも粘度が低いとさらさらとなり,体腔には入りやすいが,所定位置に留まることがなく,封止効果が期待できない。一方,40,000CPよりも多すぎると粘性が高すぎて,体腔に注入することが難しくなる。 段落 0029】」( 【 )・ 「この実施例では,複数の開口部6から咽喉部Bに集中的に体液漏出防止材8が流し込まれる。特に,ゼリーの状態で流し込まれるので流動性が非常によく,軽い力で滑らかに充填できる。粉末のように拡散して鼻孔Aから飛び出たりすることがなく,この体液漏出防止材8が咽喉部Bに留まり,咽喉部Bが封止される。本発明のゼリーは,粉体と違って非常に流動性があるので,鼻奥の咽喉部でも細い挿入管4を介して必要部位に投入でき,耳孔の奥,肛門,女性の膣などにも楽に充填でき,体液の漏出を封止できる。また,充填時の音が比較的静かであり,作業者は周囲の人たちを気にせずに作業できる 。(段落【0035】」 )・ 「 発明の効果】【本発明では,内部に粉体が分散したゼリー状の体液漏出防止材であるので,この体液漏出防止材は流動性があり,滑らかに体腔内に注入でき,必要部位に集中的に充填し留めることができる。それと同時に体液漏出防止材内部に粉体を分散保持しているので,この粉体により,体内から出てくる体液を吸収でき,体液が体外に漏出することを防止できる。(段落【0047】」 )(エ) 上記(ウ)によれば,本件発明1は遺体からの体液漏出を防止するための体液漏出防止部材に関する発明であり(段落【0001】,これを)遺体に注入する際,これを容易にするため粉末ポリマーを水に溶かしてゼリー状にした体液漏出防止材が従来存在したところ(段落【0009】,このものは既に水に溶かしているために,本来ポリマーが有して)いる吸水機能はほとんどなくなってしまっていた,との課題を解決する(段落【0010】【0012】, )ものである。そのため本件発明1では,体液漏出防止材をエチレングリコール,プロピレングリコールなどのアルコール系の物質を主成分とするゼリーの中に高吸水性ポリマーを安定的に多数分散させた構成のゼリー状とするものであって,当該ゼリーを遺体内にスムーズに注入できるようにするとともに,アルコール内に分散しているために未だ水を吸収していないポリマーが,十分な吸水性能を発揮するという意義を有するものである(段落【0012 】 【0014 】 。そして,そのポリマー粉体が漏出, )する体液を吸収するところ,この粉体が体液を吸収する際に膨潤してゲル化することにより体液の漏出を防止するとの作用効果を奏するものである(段落【0008】【0014】【0047】。, , )そして,本件明細書の上記段落【0007】【0008】には,従来,例として特開平7−265367号公報,特開平10−298001号公報が挙げられているところ,そこには,樹脂粉末の吸収剤を直接遺体に充填した例において,樹脂粉末はゲル化すること,体液の吸収量が多くなりすぎると,ゾル状になり,更には溶けてしまうことが記載されている。同じく段落【0009】【0010】は,これとは別にゼリーを,用いたものとして特開平8−133901号公報が示されており,これについては「この公報のように,粉末ポリマーを水に溶かしてゼリー状にすれば,流動性が良くなるので」とされ,上記「ゲル」とは区別した内容につき「ゼリー」の言葉が使用されている。さらに本件発明1に関する記載として段落【0014 】【0021】,には,それぞれ「アルコールを主成分とするゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなるので,体液漏出防止材の流動性が高く 」,「ゼリー状体液漏出防止材の粘度が8,000∼40,000CPである構成であり,ゼリーの流動性が良い」と記載されている。その上段落【0035】には ,「この実施例では,複数の開口部6から咽喉部Bに集中的に体液漏出防止材8が流し込まれる。特に,ゼリーの状態で流し込まれるので流動性が非常によく,軽い力で滑らかに充填できる。…」との記載が,段落【0047】には,「本発明では,内部に粉体が分散したゼリー状の体液漏出防止材であるので,この体液漏出防止材は流動性があり ,滑らかに体腔内に注入でき…」との記載がある 。さらに段落【0029】では, ゼリー状体液漏出防止材の粘度は8,「∼40,000CPであることが好ましい。この値よりも粘度が低いとさらさらとなり」と記載されており ,「さらさら」とは「…②浅い川の水が小石などに当りながら淀みなく流れる音。…④油気・粘り気・湿気がなく心地よく乾いているさま 。(広辞苑第5版,1092頁,」新村出 ,岩波書店 )のように ,よく流動するものを表わす形容詞であり,本件発明1のゼリー状体液漏出防止剤の粘度は ,「さらさら」と表現される淀みなく流れる状態よりは粘土が高いものであることも示されている。以上の検討によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば ,本件発明1の「ゼリー」とは ,「流動性を失い,弾性的な固まりとなった状態」をいうのではなく,粘性を有し流動性を失っていない物質,すなわち「粘液」と解するのが相当である。(オ) 審決はこの点に関し ,「本件発明1の『ゼリー』と『ゼリー状』とは,それぞれ,かたまりの状態と,攪拌工程により破壊されたかたまり(微細ゼリー)を含む混合物の状態とを明確に区別して記載したものとして矛盾なく理解できる 」(審決53頁19行∼22行)としており,被告も同様の主張をする。しかし,「ゼリー状」における「状」とは,すがた,ありさまを意味する言葉(甲57「広辞苑 」第4版第5刷,1253頁,1995年〔平成7年〕11月10日発行には「じょう【状】①すがた。ありさま…②事のなりゆき。ようす。…③事情を具して上申する書…」と記載されている。)であるから,本来,「ゼリーのすがた,ありさま」を意味すると解され ,「ゼリー」という概念を拡張した意味を有するとはいえるものの,異なった状態のものを意味するとはいえない。また本件明細書には,「ゼリー」と「ゼリー状」との言葉を明確に使い分けているとみられる記載もなく,かえって本件明細書の段落【0021】には,上記のとおり「ゼリーの流動性が良いので」と記載されており,これは本件明細書においてゼリーがかたまりの状態を意味するものとして用いられているとすることと矛盾するものである。(カ) 被告の主張に対する判断a 被告は,本件明細書(甲74)の段落【0029】記載の「8000∼40000CP」という粘度は,一般の粘液の粘度に比べて異常に高いから,固体状のゼリーの粘度範囲を示していると理解されると主張する。しかしながら,6000∼50000CPの粘度の体液漏出防止材を「液」と呼称している例(甲73〔特許第4029106号公報〕段落【0039】)や,7500CPの物質を「低粘度の粘液」と呼称している例(甲33〔ハイビスワコー・カタログ〕Ⅱ−5頁①)も見られるところであり,被告の主張は前提を欠き,採用することができない。なお,甲73は,被告自身の出願に関わるものであるが,この開示事項について被告は,液粘度という記載があるからといって,この公報における体液漏出防止材が液体であるといっているのではないと主張する。しかし,甲73の段落【0039】には ,「…良好な流動性を持つためには,約6,000∼50,000cPsが好ましく,より好ましくは約10,000∼40,000cPsである 。」と記載されているのであるから,8000∼40000CPという粘度は,流動性を失った固体状のゼリーの粘度範囲を示しているという上記被告の主張に理由がないことは明らかである。b 次に被告は,本件明細書の【0034】【0044】等の記載から,みて,本件明細書における「流動性」は,ピストンの押し込みによって生じる流動性のような「押し出し流動性」を意味しており,液体としての流動性を意味していない旨主張する。しかし,液状の物質が一般的に「ゼリー」と誤用されること,本件明細書の「ゼリー」は,そのような物質であることを前提に記載されていると認められるのは前述のとおりである。従って,本件明細書の「流動性」は,押し出しの有無にかかわらず流動性を有する「粘液」由来の性質を意味しており,押し出しによって初めて発揮される性質の「流動性」に限定されていると解することはできないから,被告の主張は採用することができない。c 次に被告は,原告の平成16年6月10日付け意見書(乙4)の記載によれば,別件特許出願(特開2001−288002号,乙3)と同一であるとの拒絶理由通知に対する上記意見書における応答において,原告は本件発明1のゼリーをゲルの意味で用いていたことが明らかであると主張する。なるほど上記意見書には,被告の指摘するように,「上記の弊害を取り除くために,ゲル状体液漏出防止材に,多数の高吸水性ポリマー粉体を分散させることとしました。高吸水性ポリマー粉体は,吸水能力に優れるため,このような構成とすることにより,少量のゲル状体液漏出防止材で多量の体液を吸収することができます 。(2頁32行」∼35行))との記載がある。しかし,上記別件特許出願(特願20−100967号〔特開2001−288002号 〕,発明の名称 体液漏出防止用ゲル及びそのゲルを使用した体液漏出防止方法 」「 ,出願人 株式会社ツカサ,発明者 D,出願日 平成12年4月3日,公開日 平成13年10月16日)は,その公開公報(乙3)によれば,「体液の多少に関係なく長期間ゲル状態を維持でき,アルカリ性や酸性の体液等が含まれていてもゲル状態を維持でき,体腔を封止できる樹脂製ゲルを使用して,体腔を封止することを目的とする。 【要」(約】 課題】欄の記載)ものであるところ,原告作成の上記意見書(乙【)には,「…引用文献1(判決注;上記特開2001−28800号公報)の発明は,両親媒性ゲルからなるのに対して,本願補正後の請求項1の発明は,アルコール系を主成分とするゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体が多数分散してなります。上記4の項目に示しましたように,両親媒性ゲルは,高吸水性ではなく,また,ゼリー中にポリマー粉体を多数分散させたものではありません。(2頁7行∼10」行) 両親媒性ゲルは,,「 ジメチルアクリルアミドを主成分としますが,本願補正後の請求項1の発明のゼリーは,アルコールを主成分とします。従って,両親媒性ゲルは,本願補正後の請求項1のゼリーとも異なります。(2頁11行∼14行)と記載され,上記別件特許出願に」おける「ゲル」と本件発明に係る「ゼリー」とを区別して記載している。確かに上記意見書のうち,「上記の弊害を取り除くために,ゲル状体液漏出防止材に,多数の高吸水性ポリマー粉体を分散させることとしました。高吸水性ポリマー粉体は,吸水能力に優れるため,このような構成とすることにより,少量のゲル状体液漏出防止材で多量の体液を吸収することができます。」との部分(2頁32行∼35行)によれば,本件発明1に係る「ゼリー」についても「ゲル」と表現しているかのごとくではあるが,上記意見書はこれに続けて「そのため,本願補正後の請求項1の発明を用いて体液処理を行うためには,例えば,咽喉部を充填するときには,半分以下のゼリー状体液漏出防止材で足ります。従って,体腔に導入しなければならないゼリー状体液漏出防止材は,非常に少なくてすむため,体液漏出防止用ゲルを体腔内へ無理やり導入する必要もなくなり,その結果,挿入管と鼻穴との隙間から体液漏出防止用ゲルが溢れでてきてしまうこともありません。」(2頁35行∼39行)としており,本件発明に関する説明においては,あくまで「ゼリー」を「ゲル」と区別しているものとみられる。(キ) 以上によれば,「ゼリー」とは,本件発明1においては粘性を有し流動性を失っていない物質である「粘液」を意味しており ,「流動性を失い,弾性的な固まりとなった状態」を意味するとした審決の認定は誤りというべきである。ウ 次に,本件発明1の特許請求の範囲には ,「アルコール系を主成分とするゼリー」と記載されているところから,そこにおける「アルコール系」の意味について判断する。(ア) 本件発明1の体液漏出防止剤は,アルコール系を主成分とするゼリーであり,この中に高吸水性ポリマー粉体が分散してなることを特徴とするところ,審決は「アルコール系」とは「アルコールに分類される化合物」と解される(50頁19行∼20行,53頁下6行∼下5行)とした上,これには甲1(岩波理化学辞典)に記載されているように, 常「温で液状のもの,常温で固体状のもの,水溶性のもの,水難溶性のもの等,様々な物理的及び化学的性質を有するものが包含される」(53頁下4行∼下3行)と判断した。これに対し原告は,本件発明1の「アルコール系」は「高吸水性ポリマーに吸収されない親水性を有する液状のアルコールに分類される化合物」を意味すると主張するので,次に ,「ゼリー」が「粘液」であることを前提に,請求項1における,「アルコール系」が何を意味するのかにつき検討する。(イ)・ 甲1( 岩波理化学辞典 」「 ,1982年〔昭和57年〕11月5日
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