平成20(行ケ)10199審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成20年9月18日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官鈴木隆史 原告X
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対象物 |
組ブロック具 |
法令 |
特許権
特許法36条2回 特許法36条6項1号1回 特許法29条2項1回 特許法36条4項1号1回
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キーワード |
実施35回 審決18回 進歩性1回 新規性1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成14年12月5日,発明の名称を「組ブロック具」とする特
許出願(特願2002−353174号。以下「本願」という。)をした。 |
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判決文
平成20年9月18日判決言渡
平成20年(行ケ)第10199号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成20年7月3日
判 決
原 告 X
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 丸 岡 裕 作
被 告 特許庁長官 鈴 木 隆 史
指 定 代 理 人 安 田 明 央
同 末 政 清 滋
同 森 川 元 嗣
同 小 林 和 男
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2006−14195号事件について平成20年4月14日
にした審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成14年12月5日,発明の名称を「組ブロック具」とする特
許出願(特願2002−353174号。以下「本願」という。)をした。
その後,原告は,平成17年2月23日付けの拒絶理由通知(甲18。以
下「最初の拒絶理由通知」という。)を受け,同年4月27日付けで本願の
願書に添付した明細書の記載を補正する手続補正(甲16)をした後,同年
10月31日付けの拒絶理由通知(甲21)を受け,平成18年1月10日
付けで上記明細書の記載を補正する手続補正(甲17。以下,この補正後の
明細書を図面と併せ「本願明細書」という。)をしたが,同年5月30日付
けの拒絶査定(甲25)を受けたので,同年7月5日,これに対する不服の
審判(不服2006−14195号事件)を請求した。
特許庁は,原告に対し平成19年12月21日付けで拒絶理由通知(甲3
0)をした上,平成20年4月14日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」とする審決(以下「審決」という。)をし,同月26日,その謄本を
原告に送達した。
2 特許請求の範囲
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は,次のとおりで
ある(以下,これらの請求項に係る発明を項番号に対応して,「本願発明
1」などといい,これらをまとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
複数のブロック単体を係合により結合させて構成され特定の意味を持つ対
象物が表出される組ブロック具であって,
上記各ブロック単体を,上記対象物の名称の綴りから構成されアルファベ
ットからなる文字列の各文字に夫々対応して設け,
上記対象物としてその文字列が4以上の文字になるものにし,
該各ブロック単体の輪郭形状に,対応する文字の形状を表出したことを特
徴とする組ブロック具。
【請求項2】
複数のブロック単体を係合により結合させて構成され特定の意味を持つ対
象物が表出される組ブロック具であって,
上記対象物にこれに関連する付帯物を付加して構成し,該付帯物の形状を
表出したブロック単体を含め,
上記各ブロック単体を,上記対象物の名称の綴りから構成されアルファベ
ットからなる文字列の各文字に夫々対応して設け,
上記対象物としてその文字列が4以上の文字になるものにし,
該各ブロック単体の輪郭形状に,対応する文字の形状を表出したことを特
徴とする組ブロック具。
【請求項3】
上記対象物としてその文字列が6以上の文字になるものにしたことを特徴
とする請求項1または2記載の組ブロック具。
【請求項4】
上記各ブロック単体を,木製にし,互いに係合されて組み立てられ,係合
を解除することにより分解されるように,文字の輪郭形状を構成する凸部や
凹部あるいは孔を適宜の形状や大きさにして形成したことを特徴とする請求
項1,2または3記載の組ブロック具。」
3 審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,下記(1)の理由により,本願明
細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)の記載は,
当業者が本願発明1ないし4を実施することができる程度に明確かつ十分に
記載したものではないから,本願は,特許法36条4項1号に規定する要
件(以下「実施可能要件」という。)を満たしておらず,また,下記(2)の理
由により,本願発明1ないし4は,発明の詳細な説明に記載したものではな
いから,本願は,特許法36条6項1号(判決注,平成14年法律第24号
による改正前の規定)に規定する要件(以下「サポート要件」という。)を
満たしていないから,本願は特許を受けることができないというものであ
る。
(1) 実施可能要件の非充足
下記ア及びイの理由により,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願
発明1ないし4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したも
のではない。
ア 発明の詳細な説明及び図面の記載だけでは,「うさぎ」あるいは「
鳥」以外の一般の「対象物」の場合においては,「係合により結合させ
て」「特定の意味を持つ対象物」を構成する「ブロック単体」であっ
て,「対象物の名称の綴りから構成されアルファベットからなる」,「
輪郭形状に,対応する文字の形状を表出した」「ブロック単体」を形成
する際に,各々の「ブロック単体」を「対象物」の如何なる部分に対応
させるのか,及び,各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔を
如何なる形状及び大きさとするのかの決定において,過度の試行錯誤が
必要となることから,当業者といえども,「係合により結合させて」「
特定の意味を持つ対象物」を構成する「ブロック単体」であって,「対
象物の名称の綴りから構成されアルファベットからなる」,「輪郭形状
に,対応する文字の形状を表出した」「ブロック単体」を容易に認識で
きるとはいえない(以下「理由(1)ア」という。)。
イ 発明の詳細な説明は,対象物の名称を英語でラテン文字の大文字を用
いて表記した場合における,ブロック単体の形成方法を示しているのみ
であって,対象物の名称を「アルファベット」を用いた他の表記法によ
って表記した場合においては,各々の「ブロック単体」を「対象物」の
如何なる部分に対応させるのか,及び,各々の「ブロック単体」の凸部
や凹部あるいは孔を如何なる形状及び大きさとするのかについて何らそ
の指針を示したものとはなっていないので,当業者といえども,他の表
記法における,「係合により結合させて」「特定の意味を持つ対象物」
を構成する「ブロック単体」であって,「対象物の名称の綴りから構成
されアルファベットからなる」,「輪郭形状に,対応する文字の形状を
表出した」「ブロック単体」を容易に認識できるとはいえない(以下「
理由(1)イ」という。)。
(2) サポート要件の非充足
下記ア及びイの理由により,本願発明1ないし4は,発明の詳細な説明
に記載したものでない。
ア 発明の詳細な説明の記載は,「うさぎ」あるいは「鳥」以外の一般
の「対象物」の場合において,対象物の各部分と各ブロック単体との対
応関係をどのように決定するかについて,及び,各単体ブロックの文字
の輪郭形状を構成する凸部や凹部あるいは孔の形状及び大きさをどのよ
うに決定するかについて,何らその指針を示したものとはなっていない
ので,発明の詳細な説明に記載された,「対象物」が「うさぎ」あるい
は「鳥」である場合を,「対象物」が一般の「対象物」である場合に一
般化することは不可能である(以下「理由(2)ア」という。)。
イ 発明の詳細な説明には,対象物の名称を英語でラテン文字の大文字を
用いて表記した場合における,ブロック単体の形成方法が記載されてい
るのみであって,対象物の名称を「アルファベット」を用いた他の表記
法によって表記した場合においては,各々の「ブロック単体」を「対象
物」の如何なる部分に対応させるのか,及び,各々の「ブロック単体」
の凸部や凹部あるいは孔を如何なる形状及び大きさとするのかについて
何らその指針を示したものとはなっていないので,発明の詳細な説明に
記載された,英語での対象物の名称をラテン文字の大文字で表記した場
合を,対象物の名称を他の表記法によって表記した場合に一般化するこ
とは不可能である(以下「理由(2)イ」という。)。
第3 当事者の主張
1 原告の主張
(1) 取消事由1(実施可能要件についての認定判断の誤り)
以下のとおり,発明の詳細な説明が実施可能要件を充足しないとした審
決の認定判断は誤りである。
ア 理由(1)アに係る認定判断の誤り
下記(ア)ないし(エ)の観点に照らし,理由(1)アに係る審決の認定判断
は誤りというべきである。
(ア) 審査経過
最初の拒絶理由通知では,特許法29条2項違反の指摘があったに
とどまり,同法36条違反の指摘がなかったことからすれば,同通知
をした審査官は,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明を実
施することができる程度に明確かつ十分なものと把握していたもので
あり,この点,尊重されるべきである。
(イ) 本願発明の性質及び本質
a 本願発明のようなパズル性あるいは知育性を有する「組ブロッ
ク」の技術分野においては,化学の分野とは異なり,逐一,実施例
を挙げなくても,発明を一般化することができる(逐一,実施例を
挙げなければならないとすれば,無限に例を挙げなければならない
ことになって不可能だからである。)。
本 願 発明 の属 する 技術 分野 は ,特 許庁 が「 A6 3 H3 3 / 0
8」,「A63F9/10」,「A63F9/12」の分類を付与
しているように(甲33),組木やパズル等の技術を含むものであ
り(甲33,34),これには組み立てることが可能な組木のパタ
ーンが356億5713万1235通りもあるといわれている「六
本組木」が含まれるところであって(甲4,35),このような組
木において,「『ブロック単体』の凸部や凹部あるいは孔を如何な
る形状及び大きさとするのかについて,並びに,各々の『ブロック
単体』の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大きさの相互関係につい
て,どのように決定するのか」(審決書8頁6行∼8行)につい
て,すべてを特定して指針を示すことは不可能であり,また,逐一
特定しなくても,いくつかの例を挙げれば,概念として理解できる
から,十分である(現に,1例をもって登録された先例(実公昭2
6−115号公報(甲4))もある。)。
b 本願発明は,ブロック単体同士の係合の仕方やブロック単体と対
象物の部分との対応のさせ方ではなく,甲1,36ないし39に示
される動物のような,特定の意味を持つ対象物を係合により組み立
てる各ブロック単体において,「各ブロック単体」を「対象物の名
称の綴りから構成されアルファベットからなる文字列の各文字に夫
々対応して設け」た点に,発明の本質があり,「『ブロック単体』
の凸部や凹部あるいは孔を如何なる形状及び大きさとするのかにつ
いて,並びに,各々の『ブロック単体』の凸部や凹部あるいは孔の
形状及び大きさの相互関係について,どのように決定するのか」(
審決書8頁6行∼8行)については,係合という大きな概念での特
定で十分である。
c 本願発明は,「各ブロック単体」を「対象物の名称の綴りから構
成されアルファベットからなる文字列の各文字に夫々対応して設
け」た先駆的な発明(基本発明)であるから,甲4に示される玩具
のように,ある程度広い技術的思想の概念により特定せざるを得な
いのであり,発明保護の観点からも記載不備とすることはできな
い。
(ウ) 当業者の水準及び実施能力
a 本願発明のようなパズル性あるいは知育性を有する「組ブロッ
ク」の技術分野においては,「ブロック単体」が簡単に法則化でき
る構成のものであれば,もはやパズル性あるいは知育性を有する「
組ブロック」としての意義を有しないことになるから,当業者の水
準をある程度高く想定するべきであり,また,実際にも,その水準
は相当に高いものである(甲1,36∼39)。
このような当業者であれば,経験則ないし技術常識に照らして,
本願発明において,「各々の『ブロック単体』を『対象物』の如何
なる部分に対応させるのか,及び,『ブロック単体』の凸部や凹部
あるいは孔を如何なる形状及び大きさとするのかについて,並び
に,各々の『ブロック単体』の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大
きさの相互関係について」(審決書8頁5行∼8行),十分推認し
てその指針を得ることはできるのであり,本願発明の構成から,本
願発明に係る具体的な種々の組ブロック具を創作できるはずであ
る。
b 原告(本願発明の発明者)は,試行錯誤したが,種々の組ブロッ
ク具(動物)を作成できた(甲5,40∼44)。このように,本
願発明は,実施例以外のものも,経験則ないし技術常識に照らして
創作できる技術であって,ある程度試行錯誤を要するとしても,特
許請求の範囲の記載による特定をもって,発明を一般化することが
できる。
(エ) 登録例
特許庁は,前記(イ)aのとおり,本願発明の属する技術分野とし
て,「A63H33/08」,「A63F9/10」,「A63F9
/12」の分類を付与しているところ,これらの分類に係る特許出願
又は実用新案登録出願では,本願発明のようにやや程度の高い試行錯
誤が必要な発明又は考案について,1つないし2つ程度の実施例の開
示だけで特許又は実用新案として登録された例があり(甲2∼4),
本願発明も同様に扱われるべきである。
イ 理由(1)イに係る認定判断の誤り
以下の観点に照らし,理由(1)イに係る審決の認定判断は誤りというべ
きである。
本願発明は,他の「アルファベット」においても成立する発明であ
り,その例を特に挙げるまでもない。前記ア(イ)aのとおり,本願発明
のようなパズル性あるいは知育性を有する「組ブロック」の技術分野に
おいては,化学の分野とは異なり,逐一,実施例を挙げなくても,発明
を一般化することができる。そして,「アルファベット」の例は無数に
あり,これを逐一挙げることは不可能である。さらに,前記ア(ウ)のと
おり,本願発明のようなパズル性あるいは知育性を有する「組ブロッ
ク」の技術分野においては,当業者の水準は相当に高いから,対象物と
他の「アルファベット」による表記との対応が分かれば,本願発明を容
易に実施することができる。同分野に係る実用新案登録出願には,考案
の詳細な説明に,英語において使用されるラテン文字を表すものによっ
て対象物を構成した例のみが記載され,他の「アルファベット」を表す
ものによって対象物を構成した例が記載されていないにもかかわらず,
実用新案として登録された例があり(甲46,47),本願発明も同様
に扱われるべきである。
(2) 取消事由2(サポート要件についての認定判断の誤り)
前記(1)と同様の理由により,本願発明がサポート要件を充足しないとし
た審決の認定判断は誤りである。
2 被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告の主張はいずれも理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(実施可能要件についての認定判断の誤り)について
(1) 理由(1)アの認定判断の誤りについて
ア 本願明細書の記載
本願明細書(甲15,16,17)には,特許請求の範囲(前記第
2,2)のほか,図面(別紙【図1】∼【図4】)とともに,次の記載
がある。
(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,玩具や教育具として用いられ,複数のブロック単体を結
合させて意味を持つ対象物を表出する組ブロック具に関する。」
(イ) 「【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので,組み立てられた対
象物が持つ名称の綴り(スペル)等の特定の意味を表現した文字列と
使用するブロック単体との関連をもたせ,この文字列を覚えるなどの
学習効果を発揮させる機能の向上を図った組ブロック具を提供するこ
とを目的とする。」
(ウ) 「【0008】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するため,本発明の組ブロック具は,複数の
ブロック単体を係合により結合させて構成され特定の意味を持つ対象
物が表出される組ブロック具であって,上記各ブロック単体を,上記
対象物の意味を表現した文字列の各文字に夫々対応して設け,該各ブ
ロック単体の輪郭形状に,対応する文字の形状を表出した構成として
いる。
これにより,ブロック単体の組み立てを楽しむことができるととも
に,組み立てられた対象物が持つ名称の綴り(スペル)等の特定の意
味を表現した文字列と使用するブロック単体との関連をもたせたこと
から,この文字列を覚えるなどの学習効果を発揮させる機能の向上が
図られる。
【0009】
また,必要に応じ,上記対象物にこれに関連する付帯物を付加して
構成し,該付帯物の形状を表出したブロック単体を含めた構成として
いる。対象物の構成に加え,付帯物にも思考を及ばせなければならな
いので,それだけ組み立てや理解に知能を要することから,より高い
学習効果を得ることができる。
【0010】
そして,上記対象物としてその文字列が4以上の文字になるものに
した構成とした。これにより,従来の頭文字だけのものに比較して,
組み立てや,スペルの理解に知能を要することから,高い学習効果を
得ることができる。
更に,必要に応じ,上記対象物としてその文字列が6以上の文字に
なるものにした構成とした。組み立てが複雑になっており,それだ
け,組み立てや,スペルの理解に知能を要することから,高い学習効
果を得ることができる。」
(エ) 「【0012】
【発明の実施の形態】
以下,添付図面に基づいて,本発明の実施の形態に係る組ブロック
具について詳細に説明する。
図1乃至図3に示すように,実施の形態に係る組ブロック具Bは,
複数のブロック単体(B1,B2,B3・・・・・・・)を係合によ
り結合させることにより特定の意味を持つ対象物Tが表出されるもの
である。各ブロック単体(B1,B2,B3・・・・・・・)は木製
であり,適宜着色がなされている。
【0013】
各ブロック単体(B1,B2,B3・・・・・・・)は,対象物T
の意味を表現した文字列の各文字に夫々対応して設けられている。対
象物Tとしては,その文字列が4以上,望ましくは,6以上の文字に
なるものにしている。各ブロック単体(B1,B2,B3・・・・・
・・)の輪郭形状には,対応する文字の形状が表出されている。
【0014】
また,組ブロック具Bは,これが表出する対象物Tに,これに関連
する付帯物Fが付加されて構成されている。そして,この組ブロック
具Bに,付帯物Fの形状を表出したブロック単体(B1,B2,B3
・・・・・・・)を含めている。
【0015】
図1乃至図3に示す対象物Tは,動物の「うさぎ」であり,この対
象物Tの意味を表現した文字列を,この「うさぎ」の名称の英文字綴
り(スペル)である「RABBIT」としている。
【0016】
そして,先ず,この「RABBIT」の文字の内,「R,A,B,
B,T」文字に夫々対応させたブロック単体(B1,B2,B3,B
4,B6)を設けている。各ブロック単体(B1,B2,B3,B
4,B6)の各輪郭形状に,対応する文字「R,A,B,B,T」の
形状を夫々表出している。
【0017】
ブロック単体B1(「R」を表出)は耳付きの頭部を構成し,ブロ
ック単体B2(「A」を表出)は前足を構成し,ブロック単体B3,
B 4(「B 」を表 出)は胴部及び後足を 構成し,ブロック単 体 B
6(「T」を表出)は頸部を構成している。
【0018】
また,この対象物Tに関連する付帯物Fは,「うさぎ」の好物であ
る「人参」であり,この組ブロック具Bに,この付帯物の形状を表出
したブロック単体B5を含めている。即ち,「RABBIT」の文字
の内,「I」文字に対応させたブロック単体B5を設け,このブロッ
ク単体B5の輪郭形状を,人参形状に形成するとともに,対応する文
字「I」の形状を表出している。
【0019】
各ブロック単体(B1,B2,B3,B4,B6)は,互いに係合
されて組み立てられ,係合を解除することにより分解されるように,
文字の輪郭形状を構成する凸部や凹部あるいは孔を適宜の形状や大き
さにすることにより,形成されている。図1及び図3に示す例では,
ブロック単体B6(「T」を表出)は,3方向に伸びる突出部が上記
のブロック単体(B1,B2,B3,B4)に設けた孔に挿通されて
これらを連結するよう形成され,ブロック単体B5は,ブロック単体
B2に嵌合するように形成されている。
【0020】
従って,本実施の形態に係る組ブロック具を組み立てるときは,以
下のようにして行なう。
先ず,図3①に示すように,ブロック単体B6の左右の突出部に,
ブロック単体B3,B4の孔を嵌め込む。ブロック単体B3,B4の
背部が下になって接地される。これにより,うさぎの後足と胴体がで
きる。
【0021】
次に,図3②に示すように,ブロック単体B2の孔をブロック単体
B6の上方向に突出している突出部に嵌める。これにより,うさぎの
前足ができる。
それから,図3③に示すように,ブロック単体B5をブロック単体
B2の前足の間に嵌合する。
【0022】
次に,図3④に示すように,ブロック単体B1を組み立てる。ブロ
ック単体B1には上部に孔が開けられており,ブロック単体B1を引
っくり返し,ブロック単体B6の上向きの突出部にブロック単体B1
の上部にあけられている孔を差し込む。このブロック単体B1により
頭部が出来上がり,うさぎの両耳及び眼が表出され,図1及び図3⑤
に示すように,うさぎが完成する。
【0023】
この場合,ブロック単体(B1,B2,B3・・・・・・・)の組
み立てを楽しむことができるとともに,ブロック単体(B1,B2,
B3・・・・・・・)は,対象物T(「うさぎ」)の名称(英文字)
の綴り(スペル)から構成されているので,この綴り(スペル)を覚
えるなどの学習効果が得られる。また,ブロック単体(B1,B2,
B3・・・・・・・)は,6文字で構成されているので,組み立てが
複雑になっており,それだけ,組み立てや,スペルの理解に知能を要
することから,学習効果が高い。」
(オ) 「【0024】
図4には,別の実施の形態に係る組ブロック具Bを示している。こ
れは,上記と同様に構成されるが,上記と異なって,付帯物に対応す
るブロック単体が設けられていない。
【0025】
詳しくは,図4に示す対象物Tは,動物の「鳥」であり,この対象
物Tの意味を表現した文字列を,この「鳥」の名称の英文字綴り(ス
ペル)である「BIRD」としている。
【0026】
そして,この「BIRD」の文字,「B,I,R,D」に夫々対応
させたブロック単体(B1,B2,B3,B4)を設けている。各ブ
ロック単体(B1,B2,B3,B4)の各輪郭形状に,対応する文
字「B,I,R,D」の形状を夫々表出している。
【0027】
ブロック単体B1(「B」を表出)は羽を構成し,ブロック単体B
2(「I」を表出)は脚を構成し,ブロック単体B3(「R」を表
出)は頭部を構成し,ブロック単体B6(「D」を表出)は胴部を構
成している。
【0028】
各ブロック単体(B1,B2,B3,B4)は,互いに係合されて
組み立てられ,係合を解除することにより分解されるように,文字の
輪郭形状を構成する凸部や凹部あるいは孔を適宜の形状や大きさにす
ることにより,形成されている。
図4に示す例では,ブロック単体B4(「D」を表出)を中心に,
ブロック単体(B1,B2,B3)が係合して連結されるように形成
されている。
【0029】
従って,本実施の形態に係る組ブロック具を組み立てるときは,以
下のようにして行なう。
先ず,図4①に示すように,ブロック単体B2の一端に,ブロック
単体B4の孔を嵌め込む。ブロック単体B2の他端が下になって接地
される。これにより,鳥の脚と胴体ができる。
【0030】
次に,図4②に示すように,ブロック単体B3をブロック単体B4
に設けたスライド溝に係合する。これにより,鳥の頭部ができる。
それから,図4③に示すように,ブロック単体B1の左右羽部の間
にブロック単体B4を挾持させてブロック単体B4に取り付ける。こ
のブロック単体B1により羽が出来上がり,図4④に示すように,鳥
が完成する。
【0031】
この場合,ブロック単体(B1,B2,B3,B4)の組み立てを
楽しむことができるとともに,ブロック単体(B1,B2,B3,B
4)は,対象物T(「鳥」)の名称(英文字)の綴り(スペル)から
構成されているので,この綴り(スペル)を覚えるなどの学習効果が
得られる。また,ブロック単体(B1,B2,B3,B4)は,4文
字で構成されているので,従来の頭文字だけのものに比較して,組み
立てや,スペルの理解に知能を要する。」
(カ) 「【0032】
尚,上記実施の形態において,対象物を,動物の「うさぎ」「鳥」
にしたが,必ずしもこれに限定されるものではなく,どのようなもの
を対象物としても良いことは勿論である。」
(キ) 「【0033】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の組ブロック具によれば,各ブロック単
体を,対象物の意味を表現した文字列の各文字に夫々対応して設け,
各ブロック単体の輪郭形状に,対応する文字の形状を表出したので,
ブロック単体の組み立てを楽しむことができるとともに,組み立てら
れた対象物が持つ名称の綴り(スペル)等の特定の意味を表現した文
字列と使用するブロック単体との関連をもたせたことから,この文字
列を覚えるなどの学習効果を発揮させる機能の向上を図ることができ
る。
【0034】
また,対象物にこれに関連する付帯物を付加して構成し,付帯物の
形状を表出したブロック単体を含めた場合には,対象物の構成に加
え,付帯物にも思考を及ばせなければならないので,それだけ組み立
てや理解に知能を要することから,より高い学習効果を得ることがで
きる。
【0035】
そして,対象物としてその文字列が4以上の文字になるものにした
ので,従来の頭文字だけのものに比較して,組み立てや,スペルの理
解に知能を要することから,高い学習効果を得ることができる。
更に,対象物としてその文字列が6以上の文字になるものにした場
合には,組み立てが複雑になっており,それだけ,組み立てや,スペ
ルの理解に知能を要することから,高い学習効果を得ることができ
る。」
イ 検討
(ア) 本願明細書の特許請求の範囲の記載(前記第2,2)及び段落【
0032】の記載(前記ア(カ))によれば,本願発明1ないし4にお
いて,「複数のブロック単体を係合により結合させて構成され特定の
意味を持つ対象物」は,発明の詳細な説明に実施例(前記ア(エ),(オ
))として記載された「うさぎ」や「鳥」に限定されていない。
(イ) 対象物を「うさぎ」とする実施例に関する記載(前記ア(エ))に
おいて,「各ブロック単体は,・・・互いに係合されて組み立てら
れ,係合を解除することにより分解されるように,文字の輪郭形状を
構成する凸部や凹部あるいは孔を適宜の形状や大きさにすることによ
り形成されている」(段落【0019】)と説明されている。
しかし,「うさぎ」の各部分と「R」,「A」,「B」,「
B」,「I」,「T」の各文字の輪郭形状を有する各ブロック単体と
の対応関係については,単に1つの例(「R」の輪郭形状を有するブ
ロック単体により耳付きの頭部を構成し,「A」の輪郭形状を有する
ブロック単体により前足を構成し,「B」の輪郭形状を有するブロッ
ク単体により2個の胴部及び後足を構成し,「T」の輪郭形状を有す
るブロック単体により頸部を構成し,「I」の輪郭形状を有するブロ
ック単体により人参を構成するもの(段落【0017】,【0018
】))が示されているにとどまり,①「うさぎ」の各部分と「
R」,「A」,「B」,「B」,「I」,「T」の各文字の輪郭形状
を有する各ブロック単体との対応関係をどのようなものとするのか,
②各「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔をどのような形状及び
大きさとするのか,③各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは
孔の形状及び大きさの相互関係をどのようなものとするのかについ
て,これらを決定するに際し,当業者に対する指針となるような記載
は見当たらない。
(ウ) 対象物を「鳥」とする実施例に関する記載(前記ア(オ))におい
ても,「各ブロック単体は,・・・互いに係合されて組み立てられ,
係合を解除することにより分解されるように,文字の輪郭形状を構成
する凸部や凹部あるいは孔を適宜の形状や大きさにすることにより形
成されている」(段落【0028】)と説明されている。
しかし,「鳥」の各部分と「B」,「I」,「R」,「D」の各文
字の輪郭形状を有する各ブロック単体の対応関係については,単に1
つ の例(「 B」の 輪郭形状を有するブロ ック単体により羽を 構 成
し,「I」の輪郭形状を有するブロック単体により脚を構成し,「
R」の輪郭形状を有するブロック単体により頭部を構成し,「D」の
輪郭形状を有するブロック単体により胴部を構成するもの(段落【0
0 27】) )が示 されているにとどまり ,①「鳥」の各部分 と 「
B」,「I」,「R」,「D」の各文字の輪郭形状を有する各ブロッ
ク単体との対応関係をどのようなものとするのか,②各「ブロック単
体」の凸部や凹部あるいは孔をどのような形状及び大きさとするの
か,③各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大
きさの相互関係をどのようなものとするのかについて,これらを決定
するに際し,当業者に対する指針となるような記載は見当たらない。
(エ) 発明の詳細な説明の記載を検討しても,「対象物」が「うさぎ」
や「鳥」以外の場合について,当業者に対する指針となるような記載
は見当たらない。
(オ) 以上によれば,少なくとも「対象物」が「うさぎ」や「鳥」以外
の場合には,発明の詳細な説明において,①「対象物の名称の綴りか
ら構成されアルファベットからなる」各々の「ブロック単体」を「対
象物」のどの部分に対応させるのか,②「ブロック単体」の凸部や凹
部あるいは孔をどのような形状及び大きさとするのか,③各々の「ブ
ロック単体」の凸部や凹部あるいは孔の形状及び大きさの相互関係を
どのように決定するのか,ということについて,何ら具体的な指針が
示されていないから,当業者が本願発明1ないし4を実施しようとす
れば,過度の試行錯誤が必要となるといわざるを得ない。
そうすると,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明1ない
し4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとい
うことはできず,これと同旨の理由(1)アに係る審決の認定判断に誤り
はない。
ウ 原告の主張に対し
原告は,①審査経過,②本願発明の性質及び本質,③当業者の水準及
び実施能力,④登録例に照らし,理由(1)アに係る審決の認定判断は誤り
であると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。
(ア) 審査経過について
原告は,最初の拒絶理由通知をした審査官が,特許法36条違反を
指摘しなかったことからすれば,同審査官は,発明の詳細な説明の記
載について,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確か
つ十分なものと把握していたと主張する。
しかし,審査官が,最初の拒絶理由通知において,特許法36条違
反の拒絶理由を指摘しなかった以上,発明の詳細な説明の記載が実施
可能要件を充足すると理解していたのであるから,特許法36条違反
の拒絶理由を通知することができないとする原告の主張は根拠がな
く,失当として排斥されるべきである。
(イ) 本願発明の性質及び本質について
a 原告は,①本願発明のようなパズル性あるいは知育性を有する「
組ブロック」の技術分野においては,逐一,実施例を挙げなくて
も,発明を一般化することができる,②本願発明は,「各ブロック
単体」を「対象物の名称の綴りから構成されアルファベットからな
る文字列の各文字に夫々対応して設け」た点に,発明の本質がある
から,係合という大きな概念での特定で十分である,と主張する。
しかし,本願明細書の前記ア(イ),(ウ)及び(キ)の各記載に示さ
れるように,本願発明は,「組み立てられた対象物が持つ名称の綴
り(スペル)等の特定の意味を表現した文字列と使用するブロック
単体との関連をもたせ」(段落【0007】,【0008】)るよ
うにした点を課題解決手段とするものであるから,発明の詳細な説
明には,この点を基礎付ける具体的な構成,すなわち,①各々の「
ブロック単体」を「対象物」のどの部分に対応させるのか,②「ブ
ロック単体」の凸部や凹部あるいは孔をどのような形状及び大きさ
とするのか,③各々の「ブロック単体」の凸部や凹部あるいは孔の
形状及び大きさの相互関係をどのように決定するのかについて,少
なくとも当業者の指針となるに足りる記載を有することが必要とい
うべきである。
原告の上記主張は,いずれも採用することができない。
b 原告は,本願発明が先駆的な発明(基本発明)であるとも主張す
る。
しかし,本願発明が新規性・進歩性を有するか否かと,発明の詳
細な説明の記載が実施可能要件を充足するか否かは,別個の問題で
ある。
原告の上記主張は,主張自体失当である。
(ウ) 当業者の水準及び実施能力について
原告は,本願発明のようなパズル性あるいは知育性を有する「組ブ
ロック」の技術分野においては,当業者の水準をある程度高く想定す
るべきであり,また,実際にも,その水準は相当に高いものであるか
ら,経験則ないし技術常識に基づいて,本願発明の構成から,本願発
明に係る具体的な種々の組ブロック具を創作できると主張する。
しかし,前記(イ)aのとおり,発明の詳細な説明は,本願発明にお
ける課題解決手段を基礎付ける具体的な構成を決定するための指針を
何ら記載していない以上,当業者は,これを具体化するに際して,独
自の創作を強いられることになるのであって,実施可能要件を充足す
るということはできない。
原告は,試行錯誤したが,その結果,種々の組ブロック具(動物)
を作成できたとも主張する。しかし,原告が,結果として,種々の組
ブロック具(動物)を作成できたとしても,その事実が,発明の詳細
な説明に,結果を導くための指針が記載されていないという前記認定
を左右することにはならない。この点の原告の主張も失当である。
(エ) 登録例について
原告は,他の発明又は考案において,特許又は実用新案として登録
された例がある旨主張する。
しかし,原告主張の登録例の存在は,発明の詳細な説明の記載につ
いて,当業者が本願発明1ないし4を実施することができる程度に明
確かつ十分に記載したものということができるか否かとは,直接かか
わりのない事情にすぎない。
原告の上記主張は,主張自体失当である。
(2) 小括
原告は,理由(1)アに係る審決の認定判断に関し,その他縷々主張する
が,いずれも理由がない。
上記検討したところによれば,理由(1)イの認定判断の誤りをいう原告の
主張について検討するまでもなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 結論
以上によれば,理由(2)ア及びイの当否について検討するまでもなく,本願
は特許を受けることができないとした審決の結論は,これを是認することが
できる。
よって,原告主張の取消事由2について判断するまでもなく,原告の本訴
請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 齊 木 教 朗
裁判官 嶋 末 和 秀
(別紙)
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