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平成19(ワ)1411意匠権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成20年9月11日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社協進設計
原告株式会社岳将
法令 実用新案権
実用新案法37条1項2号1回
意匠法1条1回
実用新案法3条2項1回
実用新案法29条2項1回
キーワード 意匠権19回
侵害15回
実用新案権15回
新規性9回
無効8回
実施8回
進歩性4回
無効審判3回
損害賠償2回
差止1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 前提事実(当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は,超音波精密加工機等の設計,製造販売等を業とする株式会社であ る。 被告は,各種製造ライン装置などの設計,製造販売等を業とする株式会社 である。

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判決文

平成20年9月11日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成19年(ワ)第1411号 意匠権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成20年5月30日
判 決
原 告 株 式 会 社 岳 将
同訴訟代理人弁護士 高 橋 浩 文
同補佐人弁理士 加 藤 久
被 告 株式会社 協 進 設 計
同訴訟代理人弁護士 山 田 基 司
同訴訟代理人弁理士 八 木 秀 人
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及び 理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 被告は,原告に対し,4360万円及びこれに対する平成19年3月18
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 事案の概要
1 前提事実(当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
原告は,超音波精密加工機等の設計,製造販売等を業とする株式会社であ
る。
被告は,各種製造ライン装置などの設計,製造販売等を業とする株式会社
である。
(2) 原告の実用新案権
原告は,次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,その実用新案
登録請求の範囲の考案を「本件考案」という。また,本判決末尾添付の本件
考案に係る実用新案登録公報の明細書を「本件明細書」という。)を有して
いる。
ア 実用新案登録番号 第2506321号
イ 考案の名称 超音波スピンドル
ウ 出願日 平成1年12月21日
エ 登録日 平成8年5月16日
オ 存続期間満了日 平成16年12月21日
カ 実用新案登録請求の範囲
【請求項1】
「中空のスピンドルの先端に加工工具を取付け,同スピンドルを回転さ
せて先端に取付けた加工工具によってワークを加工する加工機のスピンド
ルに於いて,スピンドル内部にスピンドルの軸方向に超音波振動を発生す
る超音波ヘッドを取付け,円柱状のホーン本体の中間の外周に環状鍔部を
突設し,同鍔部の先端にホーン本体と同じ軸心の円筒体を連設し,同円筒
体の先端に半径方向に張り出した取付部を設け,しかも円筒体の肉厚を鍔
部の肉厚及び円筒体先端の取付部分の肉厚より薄くし,ホーン本体と鍔部
と円筒体と取付部分とを金属材で一体成形したカップリングホーンをスピ
ンドル内に配置し,同カップリングホーンのホーン本体を前記超音波ヘッ
ドの超音波振動出力部と連結し,又カップリングホーンの円筒体の先端の
取付部をスピンドルに動かないように固定し,カップリングホーンのホー
ン本体の先端に加工工具取付部を設けたことを特徴とする超音波スピンド
ル。」
(3) 構成要件の分説
本件考案を構成要件に分説すると,次のとおりである。
A 中空のスピンドルの先端に加工工具を取付け,同スピンドルを回転させ
て先端に取付けた加工工具によってワークを加工する加工機のスピンドル
に於いて,
B スピンドル内部にスピンドルの軸方向に超音波振動を発生する超音波
ヘッドを取付け,
C 円柱状のホーン本体の中間の外周に環状鍔部を突設し,
D 同鍔部の先端にホーン本体と同じ軸心の円筒体を連設し,
E 同円筒体の先端に半径方向に張り出した取付部を設け,
F しかも円筒体の肉厚を鍔部の肉厚及び円筒体先端の取付部分の肉厚より
薄くし,ホーン本体と鍔部と円筒体と取付部分とを金属材で一体成形した
カップリングホーンをスピンドル内に配置し,
G 同カップリングホーンのホーン本体を前記超音波ヘッドの超音波振動出
力部と連結し,又カップリングホーンの円筒体の先端の取付部をスピンド
ルに動かないように固定し,
H カップリングホーンのホーン本体の先端に加工工具取付部を設けたこと
を特徴とする
I 超音波スピンドル。
(4) 原告の意匠権
原告は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件
登録意匠」という。)を有している。
ア 登録番号 第0846504号
イ 出願日 平成1年12月13日
ウ 登録日 平成4年5月29日
エ 意匠に係る物品 カツプリングホーン
オ 本件登録意匠 別紙本件意匠広報(以下「本件意匠広報」という。)の
とおり
(5) 本件登録意匠の基本的構成態様
本件登録意匠の基本的構成態様は,次のとおりである。
A 円柱状のホーン本体と,
B ホーン本体のほぼ中間外周に突設された支持部とからなる。
C 支持部は,ホーン本体から径方向に突設された環状鍔部と,一端を環状
鍔部に固定されたホーン本体と同じ軸心の円筒体と,同円筒体の先端部か
ら径方向に張り出したリング状取付部とからなる。
(6) 本件登録意匠の具体的構成態様
本件登録意匠の具体的構成態様は,次のとおりである。
A ホーン本体の長さと直径の比は0.46である。
B 支持部とホーン本体の長さの比は0.38で,正面図右側にはホーン本
体のほぼ1/2が左側には3/20が露出している。
C 鍔部の径方向の高さとホーン本体の直径の比は0.20である。
D 円筒体の長さとホーン本体の長さの比は0.22で,円筒体の径とホー
ン本体の比は1.40である。
E 円筒体の肉厚を鍔部の肉厚及び取付部の肉厚よりも薄くしている。
F リング状取付部の長さとホーン本体の長さの比は0.07で,リング状
取付部の外径とホーン本体の外径の比は2.04である。
G ホーン本体の前後端中央部にそれぞれ雌ねじが形成されている。
(7) 被告の行為
被告は,業として,別紙イ号物件目録添付別紙図1の超音波スピンドル
(以下「被告製品」という。)を製造販売していた(ただし,被告製品の構
成については一部争いがある。)。被告製品には,同目録添付別紙図2ない
し図5のUSホーン(以下「被告ホーン」といい,その意匠を「被告意匠」
という。)と呼ばれる部品が組み込まれている。
2 原告の請求
原告は,被告製品を販売する被告の行為が,本件実用新案権及び本件意匠権
を侵害するなどと主張して,被告に対し,本件実用新案権に関する不法行為に
基づく損害賠償請求権(平成8年5月16日から平成16年2月9日まで)及
び不当利得返還請求権(平成16年2月10日から平成16年12月21日ま
で)による合計1800万円,本件意匠権侵害に関する不法行為に基づく損害
賠償請求権(平成16年12月22日から本訴提起まで)による2160万円,
弁護士費用400万円,並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成
19年3月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払いを求めている。
3 争点
(1) 本件実用新案権の侵害について
ア 被告製品は本件考案の構成要件を充足するか(構成要件B,C,Eの充
足性)(争点1)
イ 本件実用新案権は実用新案無効審判により無効にされるべきものである
か(争点2)
(ア) 本件考案に係る新規性の欠如
本件考案は平成11年法律第41号による改正前の実用新案法(以下
「旧実用新案法」という。)3条1項の規定に違反して登録されたもの
であるか(争点2−1)
(イ) 本件考案に係る進歩性の欠如
本件考案は旧実用新案法3条2項の規定に違反して登録されたもので
あるか(争点2−2)
(2) 本件意匠権の侵害について
ア 被告意匠は本件登録意匠と類似するか(争点3)
イ 被告製品において本件登録意匠の利用関係が認められるか(争点4)
ウ 本件意匠権は登録無効審判により無効とされるべきものであるか(争点
5)
(ア) 本件登録意匠に係る新規性の欠如
本件登録意匠は平成11年法律第41号による改正前の意匠法3条1
項の規定に違反して登録されたものであるか(争点5−1)
(イ) 本件登録意匠に係る容易創作性
本件登録意匠は平成10年法律第51号による改正前の意匠法3条2
項の規定に違反して登録されたものであるか(争点5−2)
(3) 原告の損害及び損失額(争点6)
第3 争点に係る当事者の主張
1 争点1(被告製品は本件考案の構成要件を充足するか)について
【原告の主張】
(1) 被告製品の形状は,別紙イ号物件目録添付別紙図1のとおりであるところ,
その構成は以下のとおりである。
a 中空のスピンドル(1)の先端に加工工具を取付け,同スピンドル(1)を
回転させて先端に取付けた加工工具によってワークを加工する加工機のス
ピンドルに於いて,
b スピンドル内部にスピンドル(1)の軸方向に超音波振動を発生する超音
波ヘッド(2)を取付け,
c 円柱状のホーン本体(4a)の中間の外周に環状鍔部(6a)を突設し,
d 同鍔部(6a)の先端にホーン本体(4a)と同じ軸心の円筒体(6b)を連
設し,
e 同円筒体(6b)の先端に半径方向に張り出した取付部(3)を設け,
f しかも円筒体(6b)の肉厚を鍔部(6a)の肉厚及び円筒体(6b)先端の
取付部分の肉厚より薄くし,ホーン本体(4a)と鍔部(6a)と円筒体(6
b)と取付部分とを金属材で一体成形したカップリングホーン(4)をスピ
ンドル(1)内に配置し,
g 同カップリングホーン(4)のホーン本体(4a)を前記超音波ヘッド(2)
の超音波振動出力部(2b)と連結し,又カップリングホーン(4)の円筒体
(6b)の先端の取付部(3)をスピンドル(1)に動かないように固定し,
h カップリングホーン(4)のホーン本体(4a)の先端に加工工具取付部
(4b,4c)を設けたことを特徴とする
i 超音波スピンドル。
(2) 被告製品は,上記構成のとおりであり,本件考案の構成要件をすべて充足
する。
【被告の主張】
(1) 被告製品が前記構成a,同d,同fないし同iの構成を有することは認め,
その余は否認する。
(2) 被告製品は,次の構成を有している。
b' スピンドル内部にスピンドルの軸方向に超音波振動を発生する超音波
ヘッドが設けられ,
c' 円柱状のホーン本体の中間の外周に軸方向の振動成分を吸収する環状鍔
部を突設し,
e' 同円筒体の先端に半径方向に張り出した軸方向の振動成分を吸収する取
付部を設け,
(3) 被告製品の本件考案の構成要件充足性
ア 構成b'について
本件考案の構成要件Bは,「スピンドル内部にスピンドルの軸方向に超
音波振動を発生する超音波ヘッドを取付け」るとされている。
ここで,「取付け」とは,カップリングホーンの鍔部・円筒体・取付部
とは別に,超音波ヘッドをスピンドルに接続することを意味するものと解
される。これに対し,被告製品では,超音波ヘッドはスピンドルに「取付
け」られていない。すなわち,被告製品においては,超音波ヘッドはカッ
プリングホーンに接続され,そのカップリングホーンがフランジによりス
ピンドルに固定されている。
したがって,被告製品は,構成要件Bを充足しない。
イ 作用・効果について
原告は,本件考案は鍔部及び取付部が軸方向の振動を全く吸収しないこ
とを特徴とする装置であると主張するが,被告製品では,軸方向の振動を
フランジ部において吸収している。
よって,被告製品は,本件考案の作用・効果を有しないものであり,本
件考案の技術的範囲には含まれない。
【原告の反論】(軸方向の振動の吸収について)
被告製品は,原告が製造販売する超音波スピンドル(以下,「原告製品」と
いう。)と互換性があり(原告製品の交換用として使用され),かつ,鍔部は
ホーン本体の中間部に設けられて,さらに鍔部は振動のノードに位置するから,
軸方向の振動成分を吸収することはあり得ない。すなわち,ノード位置は,超
音波振動によっても軸方向の伸び縮みがない節の部分であって,このノード位
置に鍔部が設けられておれば,軸方向の伸び縮みがなく,軸方向の振動成分自
体が存在しないのであるから,軸方向の振動成分を吸収することなどあり得な
い。
仮に,被告が主張するように,鍔部,取付部が軸方向の振動成分を吸収する
というのであれば,短時間の使用によって熱が発生したり,ブレが生じ,実質
的に機能しないことになる。
2 争点2−1(本件考案に係る新規性の欠如)について
【被告の主張】
(1) 引用例3
ア 引用例3の構成
本件考案の出願前に公開された公開特許公報(特開昭63−20095
3号公報。乙3:以下,乙3を「引用文献3」といい,これに記載された
考案を「引用例3」という。)には,以下の構成が記載されている(被告
は,本件考案の出願前の学会講演資料である乙1に記載された考案を「引
用例1」として引用するが,その内容は,引用例3と同じである。)。
(ア) 「この超音波加工用アタッチメントAは,主軸2に対し着脱可能な回
転筒3と,これに内蔵される直接加振型振動子ユニット4と,これの出
力ブロック先端に着脱可能に取付けられる工具5と回転筒3を外囲し,
内部に直接加振型振動子ユニット4に対する給電機構7を配したケーシ
ング6とを備え,直接加振型振動子ユニット4は特殊な支持体8と補強
体9により前記回転筒3に支持されている。」(2頁左下欄4行目∼1
2行目)
(イ) 「直接加振型振動子ユニット4は,側面徳利状をなす出力ブロック1
9と,背面ブロック20と,それらの間に介装される圧電素子21,2
2とを備え,中心ボルト23によりそれぞれ同心状に強固に固定される
ことでユニットとなっており」(2頁右下欄5行目∼9行目)
(ウ) 「支持体8は,工具5のスラスト方向の荷重を受け止めるためのもの
で,出力ブロック19の入力側すなわち軸線方向後半部域に設けられる。
支持体8は,具体的には第1a図のように,リフレクタリング(厚肉円
筒体)80及びこれより薄肉化されることで非共振となったバッファ8
1からなり,バッファ81は,径方向振動成分を吸収する同心状スリー
ブ81aと,軸方向の振動成分を吸収するフランジ81b,81cを有
し,フランジ81bをもって出力ブロック19に結合されている。」
(2頁右下欄14行目∼3頁左上欄4行目)
(エ) 「前記支持体8は出力ブロック19に一体に削り出されるか,あるい
は溶接等により形成される。」(3頁左上欄5行目∼7行目)
(オ) 「工具5の軸方向振動」(3頁左上欄最終行)
(カ) 「非共振のバッファ81,91を備え,バッファ81,91の撓みに
より軸方向振動を吸収し」(4頁左上欄最終行∼右上欄1行目)
(キ) 「振動ユニットがリフレクタリング80,90とバッファ81,91
により回転筒3に完全に固定されるため回転精度も高くすることができ
る」(4頁右上欄17行目∼最終行)
(ク) 「バッファ81,91が振動を吸収し許容振幅を大きく取れるため,
工具質量が変化しても支持部の損失が少なく,発熱による工具の伸びが
小さい。」(4頁左下欄4行目∼7行目)
イ 本件考案の構成要件と引用例3との対比
(ア) 構成要件Aについて
前記ア(ア)における「回転筒3」は,本件考案の「中空のスピンド
ル」に対応する。また,前記ア(ア)の「工具5」は,本件考案の「加工
工具」に対応する。
したがって,前記ア(ア)には,「中空のスピンドルの先端に加工工具
を取付け,同スピンドルを回転させて先端に取付けた加工工具によって
ワークを加工する加工機のスピンドル」という構成(構成要件A)が記
載されている。
(イ) 構成要件Bについて
前記ア(イ)における「圧電素子21,22」は,本件考案の「超音波
ヘッド」に対応する。また,前記ア(ア)には,前記圧電素子を含む振動
子ユニット4が,回転筒3の内部にあることが記載されている。さらに,
前記ア(オ)には,工具に伝わる振動方向が軸方向であることが記載され
ている。
したがって,前記ア(ア),同(イ)及び同(オ)には,「スピンドル内部
にスピンドルの軸方向に超音波振動を発生する超音波ヘッドを取付け」
という構成(構成要件B)が記載されている。
(ウ) 構成要件Cについて
前記ア(イ)に記載の「出力ブロック19」は,圧電素子21,22と
工具5とをつなぎ,圧電素子において発生した振動を工具に伝達する機
能を有する。また,「出力ブロック19」は,圧電素子21,22とは
別部材で形成され,「中心ボルト23により同心状に強固に固定される
ことでユニットとなって」いる。よって,「出力ブロック19」は,本
件考案における「ホーン本体」に対応する。
また,前記ア(ウ)及び引用例3第1a図(以下「第1a図」とい
う。)記載のバッファ81のうち「フランジ81b」が,本件考案の
「環状鍔部」に対応する。
したがって,前記ア(イ)及び同(ウ)には,「円柱状のホーン本体の中
間の外周に環状鍔部を突設し」という構成(構成要件C)が記載されて
いる。
(エ) 構成要件Dについて
前記ア(ウ)及び第1a図記載の「同心状スリーブ81a」は,フラン
ジ81b(環状鍔部)の先端に連設され,出力ブロック19(ホーン本
体)と同心状であり,本件考案における「円筒体」に対応する。
したがって,前記ア(ウ)及び第1a図には,「同鍔部の先端にホーン
本体と同じ軸心の円筒体を連設し」という構成(構成要件D)が記載さ
れている。
(オ) 構成要件Eについて
前記ア(ウ)及び第1a図記載の「フランジ81c」は,同心状スリー
ブ81a(円筒体)の先端に半径方向に張り出して連設されており,本
件考案の「取付部」に対応する。
したがって,前記ア(ウ)及び第1a図には,「同円筒体の先端に半径
方向に張り出した取付部を設け」という構成(構成要件E)が記載され
ている。
(カ) 構成要件Fについて
第1a図には,同心状スリーブ81a(円筒体)の肉厚を,フランジ
81b(環状鍔部)及びフランジ81c(取付部)の肉厚よりも薄くし
た構成が記載されている。また,前記ア(エ)には,フランジ81c,同
心状スリーブ81a及びフランジ81bを含む支持体8が,「出力ブ
ロック19に一体に削り出される」構成が記載されている。
したがって,第1a図及び前記ア(エ)には「円筒体の肉厚を鍔部の肉
厚及び円筒体先端の取付部分の肉厚より薄くし,ホーン本体と鍔部と円
筒体と取付部分とを金属材で一体成形したカップリングホーンをスピン
ドル内に配置し」という構成(構成要件F)が記載されている。
(キ) 構成要件Gについて
前記ア(イ)及び第1a図には,出力ブロック19(ホーン本体)を,
圧電素子21,22(超音波ヘッド)と連結することが記載されている。
また,前記ア(ア),同(ウ),及び第1a図には,同心状スリーブ81a
(円筒体)の先端のフランジ81c(取付部)を,リフレクタリング8
0を介して回転筒3(スピンドル)に固定することが記載されている。
したがって,前記(ア),同(イ),同(ウ)及び第1a図には,「同カッ
プリングホーンのホーン本体を前記超音波ヘッドの超音波振動出力部と
連結し,又カップリングホーンの円筒体の先端の取付部をスピンドルに
動かないように固定し」という構成(構成要件G)が記載されている。
(ク) 構成要件Hについて
前記ア(ア)には,「出力ブロック先端に着脱可能に取り付けられる工
具5」の記載がある。
したがって,前記ア(ア)には,「カップリングホーンのホーン本体の
先端に加工工具取付部を設けたことを特徴とする」という構成(構成要
件H)が記載されている。
(ケ) 構成要件Iについて
引用例3は,前記ア(ア)記載のとおり,「超音波加工用アタッチメン
ト」に関する発明であり,超音波スピンドル(構成要件I)が記載され
ている。
(コ) 作用効果が同一であることについて
引用例3の前記ア(カ)ないし(ク)に記載された作用効果は,本件明細
書における(考案が解決しようとする課題),(作用),(考案の効
果)に記載された作用効果と同一である。
(2) 引用例2
本件考案の出願前に上程された論文(乙2)には,以下の構成が記載され
ている(以下,乙2を「引用文献2」といい,これに記載された考案を「引
用例2」という。)。
ア 引用文献2の第2・2・5図は,タイトルが「回転型振動系の構造」と
された図であり,中空のスピンドルに該当する「冷却筒」(9)及びホー
ンに取り付けられた「工具」(7)が記載されている。
したがって,引用例2には,構成要件Aが記載されている。
イ 引用文献2の第2・2・5図及び第2・4・2図には,ホーンに接続さ
れた「碰歪振動子」(1)が記載されている。
したがって,引用例2には,構成要件Bが記載されている。
ウ 引用文献2の第2・2・5図及び第2・4・2図には「支持フランジ」
(8)を有するホーンが記載されている。支持フランジ(8)は,これら図か
ら明らかなように,ホーン本体の外周に突設された鍔部を含んでいる。な
お,支持フランジ(8)が取り付けられているのは円柱状の「ねじ」(4)で
あるが,当該「ねじ」は,「第1ホーン」(3)と「第2ホーン」(6)の間
にあってこれらをつなぐものであり,実質的には本件考案のホーン本体と
同様である。
したがって,引用例2には,構成要件Cが記載されている。
エ 引用文献2の第2・2・5図及び第2・4・2図記載の支持フランジ
(8)は,これら図から明らかなように,ホーン本体の外周に突設された鍔
部と,その先端に連接されたホーン本体と同じ軸心の円筒体を有する。
したがって,引用例2には,構成要件Dが記載されている。
オ 引用文献2の第2・2・5図及び第2・4・2図記載の支持フランジ
(8)は,これら図から明らかなように,半径方向に張り出した取付部を有
している。支持フランジ(8)の当該取付部は,冷却筒(9)と「ねじ結合」
(18)される。
したがって,引用例2には,構成要件Eが記載されている。
カ 引用文献2記載の支持フランジ(8)においては,円筒体の肉厚は,鍔部
の肉厚及び円筒体先端の取付部分の肉厚より薄く構成されている(第2・
4・2図)。
また,支持フランジ(鍔部と円筒体と取付部分)については,明らかに
一体成形である。
したがって,引用例2には,構成要件Fが記載されている。
キ 引用文献2の第2・2・5図及び第2・4・2図においては,第1ホー
ン(3)は,「碰歪振動子」(1)と連結され,かつ,支持フランジ(8)の当
該取付部は,冷却筒(9)と「ねじ結合」(18)されている。
したがって,引用例2には,構成要件Gが記載されている。
ク 引用文献2の第2・2・5図及び第2・4・2図には,第2ホーン(ね
じを介して第1ホーンと連結されている)に工具(7)が取り付けられてい
る。
したがって,引用例2には,構成要件Hが記載されている。
ケ 引用文献2の第2・2・5図は,タイトルが「回転型振動系の構造」と
された図であり,すなわち,構成要件I(超音波スピンドル)が記載され
ている。
(3) 以上より,引用例2,3には,本件考案の構成要件AないしIが全て記載
されており,本件考案は,出願時において新規性を欠く。
【原告の主張】
(1) 引用例3について
ア 引用例3は,構成要件C,D,F,G,Hのカップリングホーンを備え
ていない。
引用文献3に記載されている超音波加工用アタッチメントの構造は,本
件考案のカップリングホーンそのものがない構造であって,引用例3にい
う「振動子ユニット」(ノード支持体)とは,本件考案における「超音波
ヘッド」に相当するものである。
すなわち,引用例3の振動子ユニットは,側面徳利状をなす出力ブロッ
ク19と,背面ブロック20と,それらの間に介装される圧電素子21,
22とからなっている。上記出力ブロックは「振動子ユニット」を構成す
る部材であり,文字どおり超音波を出力するブロックであって,本件考案
において,振動子で発生させた振動を増幅させるためのものであるカップ
リングホーンとは全く機能が異なるものである。
また,被告がカップリングホーンだと主張する部位(出力ブロック1
9)は,本件考案のように円筒状のものではなく,側面徳利状をなす形状
である。
イ 引用例3は,構成要件Fに相当する構成を備えていない。
すなわち,同心状スリーブ81a(本件考案の円筒体6bに相当)がフ
ランジ81c(本件考案の取付部分3に相当)より薄肉にはなっていない。
ウ よって,引用例3には,本件考案の全ての構成は記載されていない。
(2) 引用例2について
前記(1)アと同様,引用文献2においても,本件考案のカップリングホー
ンの取付構造は,記載されておらず,示唆もされていない。
3 争点2−2(本件考案に係る進歩性の欠如)について
【被告の主張】
本件考案は,引用例5に,引用例3を適用することにより,きわめて容易に
考案をすることができたものであり,本件考案は進歩性を欠く。
(1) 引用例5
公開特許公報(特開昭60−186366号公報。乙5)には,その出願
時における従来技術として以下の記載がある(以下,乙5を「引用文献5」
といい,これに記載された発明を「引用例5」という。)。
「従来の超音波加工装置は,この第1図に示すように,超音波振動子1の
一端面にコーン2をはんだ付け,またはろう付けし,そしてこのコーン2の
先端に,工具側軸部4aを有するホーン4をねじ止めし,さらにこのホーン
4の工具側軸部4aの先端に,切刃15のある工具5をはんだ付けあるいは
ろう付けし,これらを積み重ねた方向の弾性振動モードをもつ振動系である
超音波発振部16を,振動の節に設けた,コーン2に取付けられたフランジ
3のところで,防振用のゴム等でできた弾性体6を介して,フランジ押え7
によつてケース8に固定し,このケース8が,ボールガイド9を介して装置
本体10に摺動可能に保持されているものである。このように構成した超音
波加工装置により,テーブル13上に,試料台12を介して載置固定された
被加工物11の下穴11aを拡大加工する場合には,超音波振動子1により
工具5を工具送り方向に超音波振動させ,被加工物11の上方から下穴11
aに押込んで,この下穴11aの拡大加工を行う。このとき,工具5は工具
送り方向の力,すなわち主分力FTおよび,工具送り方向に垂直方向な力,
すなわち背分力FNを受ける。」
(2) 本件考案との一致点(構成要件A,B,G∼I)
引用例5の「ケース8」,「工具5」,「超音波振動部1」及び「コーン
2」は,それぞれ,本件考案の「中空のスピンドル」,「加工工具」,「超
音波ヘッド」及び「ホーン本体」に対応する。
よって,引用例5は,「中空のスピンドルの先端に加工工具を取付け,同
スピンドルを回転させて先端に取付けた加工工具によってワークを加工する
加工機のスピンドルに於いて,スピンドル内部にスピンドルの軸方向に超音
波振動を発生する超音波ヘッドを設置し,円柱状のホーン本体の中間の外周
に取付部を突設したカップリングホーンをスピンドル内に配置し,同カップ
リングホーンのホーン本体を前記超音波ヘッドの超音波振動出力部と連結し,
又カップリングホーンの取付部をスピンドルに動かないように固定し,カッ
プリングホーンのホーン本体の先端に加工工具取付部を設けたことを特徴と
する超音波スピンドル」という点において本件考案(構成要件A,B,G∼
I)と一致する。
(3) 本件考案との相違点(構成要件C∼F)及び相違点についての容易想到性
引用例5は,本件考案における構成要件Cないし同Fの構成を有していな
いが,引用例3は,前記(2【被告の主張】(1)イ(ウ)∼(カ))のとおり,
これらの構成をいずれも有している。
引用例3と引用例5は同一分野の発明であり,しかも,引用例3の出力ブ
ロックは,圧電素子と工具とをつなぎ,圧電素子において発生した振動を工
具に伝達する機能を有し,かつ圧電素子とは別部材で形成されるものである
ので,引用例5のコーン2(カップリングホーン)と実質的に同じ機能を有
する。
したがって,引用例3を引用例5に適用することは,当業者にとってきわ
めて容易である。
なお,構成要件Fに関して,円筒体の肉厚と環状鍔部及び取付部の肉厚の
関係に関しては,第1a図において明確に図示されているが,同時にこれら
肉厚をどのように選定するかは設計事項にすぎない。すなわち,引用文献3
に,「バッファ91は工具5の軸方向振動に応じて自由に撓み,かつこの振
動系の周波数に同調せず非共振となるように,構成材料に応じて内外径と肉
厚を適宜選定する。」(3頁左上欄の下から2行目∼右上欄3行目)と記載
されているように,バッファにつき構成材料等に応じて内外径や肉厚を適宜
調整することは技術上の常識である。
【原告の主張】
(1) 本件考案と引用例5との一致点について
引用例5は,被告自身が認める相違点以外に,カップリングホーンの形状
において本件考案と相違している。
すなわち,本件考案ではホーン本体が円柱状であるのに対し,引用例5で
は円錐台状となっている。
超音波ヘッドに取り付けられたカップリングホーンは,超音波ヘッドで生
起された超音波振動と共振することが絶対条件で,共振しない場合,運動エ
ネルギーが伝達できなくなる非常に微妙なものである。カップリングホーン
を超音波ヘッドと共振する部材とすることはかなりの経験と知識が必要で,
材料のわずかな偏析や形状のずれ(不均一さ)があっても共振不良やノード
位置(中間位置)が定まらない原因になる。
本件考案では,このような状況に鑑み,カップリングホーンを引用例3や
引用例5などのような徳利状ではなく,偏析や形状ずれが発生しにくい円柱
状とした。これによって従来の徳利状カップリングホーンに比べ振幅の増幅
は犠牲になるものの,製作時の偏析やまた形状のずれが少なく正確なノード
位置(中間位置)が出せるようにし,その中間位置に環状鍔部を突設し,さ
らに鍔部の先端にホーン本体と同じ軸心の円筒体を連設し,この円筒体の先
端に半径方向に張り出した取付部を設けたものである。
したがって,本件考案の構成では,カップリングホーンが軸方向に伸縮す
る際にもこのノード位置(中間位置)は動かず(振動せず),ここを境にし
てカップリングホーンの上下位置がそれぞれ逆方向に伸縮し,鍔部の基部の
幅の部分がこのカップリングホーンの伸縮に追随するだけで,ノード位置が
上下に移動(振動)することはない。
(2) 相違点(構成要件C∼F)に対する引用例3の適用の可否(容易想到性)
について
ア 取付部分の構造の相違
以下のとおり,被告自身が認める相違点(構成要件C∼F)は引用文献
3に記載されておらず,これを引用例5に適用することはできない。
(ア) 本件考案は,円筒体の肉厚を鍔部の肉厚及び円筒体先端の取付部分の
肉厚より薄くすることと,さらに,取付部の位置をノード位置とするこ
とで,軸方向の振動成分は極力吸収させることなく工具に伝達させ,し
かも肉薄の円筒体によって,径方向の振動成分のみを吸収してスピンド
ルへの伝達を少なくすることに成功したものである。
これに対し,第1a図では,同心状スリーブ81aがフランジ81c
より薄肉にはなっていない。被告は,同心状スリーブ81aが薄肉に
なっていると主張するが,引用例3の取付構造の設置位置は,軸方向の
応力が発生し,これを吸収しなければならない部位にあるため,仮に同
心状スリーブ81aが薄肉になっているとすると,軸方向の応力により
その前後の部材よりも先に薄肉の同心状スリーブ81aが変形してしま
い,その結果,ずれや熱が発生し,微細な精度が要求される超音波加工
装置としては全く機能しなくなる。
(イ) また,本件考案では,従来の「一体型」でもまた「別体型」でもなく,
全く新しい「カップリングホーン」方式を採用した上,カップリング
ホーンの取付部を軸方向の振動がゼロになるノード位置とすることによ
り,軸方向の振動成分を極力吸収せずに径方向の振動のみを吸収しよう
としている。
これに対し,引用例3は一体型を前提として,振動子ユニットの一部
を構成する出力ブロックの支持構造が記載されているにすぎず,カップ
リングホーンの支持構造が記載されているわけではない。また,その取
付位置も,軸方向の応力が発生する部位にある。したがって,本件考案
と引用例3とは,取付構造の設置位置も異なっている。
なお,本件考案において取付部の位置を軸方向の振動がゼロになる
ノード位置にすることは,本件明細書の「鍔部(6a)は超音波振動によ
る横方向の振動が少ないホーン本体(4a)の中間部にあることから超音
波振動のスピンドル(1)への伝達を少なくし」という記載(2頁右欄3
9行から41行)から明確である。
(ウ) このように,引用例3では,軸方向の伸縮に起因して径方向の振動が
発生することは全く認識されておらず,径方向の振動を効率よく吸収し
スピンドルに伝達させないようにした本件考案に至る動機付けは全くな
い。むしろ,引用文献3には,「支持体8と補強体9はリフレクタリン
グ80,90とこれと非共振のバッファ81,91を備え,バッファ8
1,91の撓みにより軸方向振動を吸収し」と記載され,本件考案の構
成による作用とは全く異なるものであることが明言されている。
イ 阻害要因
本件考案では,軸方向の伸縮に起因して径方向の振動が発生することを
前提とし,軸方向の振動を吸収せず,この径方向の振動のみを吸収させる
ために,「円柱状のホーン本体の中間の外周に環状鍔部を突設し(構成要
件C),同鍔部の先端にホーン本体と同じ軸心の円筒体を連設し(同D),
同円筒体の先端に半径方向に張り出した取付部を設け(同E),しかも円
筒体の肉厚を鍔部の肉厚及び円筒体先端の取付部分の肉厚より薄くし,
ホーン本体と鍔部の肉厚及び円筒体先端の取付部分の肉厚より薄くし,
ホーン本体と鍔部と円筒体と取付部分とを金属材で一体成形したカップリ
ングホーンをスピンドル内に配置している(同F)」構成とした。しかし,
引用例3及び引用例5のいずれにも,軸方向の伸縮に起因して径方向の振
動が発生することは全く認識されておらず,かかる振動の発生を前提とし,
軸方向の振動を吸収せず,径方向の振動のみを吸収させるという本件考案
に至る動機付けは全くない。
すなわち,引用例3と引用例5を組み合わせて本件考案の構成を想到す
るには,組み合せの契機が全く存在せず,大きな阻害要件がある。
ウ まとめ
以上のとおり,引用例3及び引用例5のいずれにも,本件考案の構成要
件Cないし同Fは記載も示唆もされておらず,引用例3及び引用例5から
本件考案をきわめて容易に考案することができたと主張する被告の主張は
根拠がない。
【被告の反論】(ホーンの形状について)
原告は,本件考案ではホーン本体が円柱状であるのに対し,引用例5や引用
例3では円錐台状(徳利状)であると主張する。しかし,カップリングホーン
は円柱状のものがむしろ基本形であって,円錐台状のものはその発展形である。
この点,乙1の図1(a)には従来技術として円柱状のカップリングホーンが記
載されており,乙9のfig.8にも同様の記載がある。
4 争点3(被告意匠は本件登録意匠と類似するか)について
【原告の主張】
(1) 本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様
前提事実(5),(6)のとおり。
(2) 本件登録意匠の要部
本件登録意匠の最も注意を惹きやすい部分は,その基本的構成態様Aない
しC全体そのものである。
カップリングホーンそのものが斬新なものであり,本件登録意匠の出願日
である平成元年12月13日時点で類似品はほとんど見あたらない。需要者
が,このようなカップリングホーンを購入する際に,実際にこれを手に持っ
て正面又は側面から観察することにより,帽子状の支持部の上から下に丸棒
状のホーン本体が突き抜けたように見える独特の美感がもたらされる。
(3) 被告意匠の基本的構成態様
a 円柱状のホーン本体と,
b ホーン本体のほぼ中間外周に突設された支持部とからなる。
c 支持部は,ホーン本体から径方向に突設された環状鍔部と,一端を環状
鍔部に固定されたホーン本体と同じ軸心の円筒体と,同円筒体の先端部か
ら径方向に張り出したリング状取付部とからなる。
(4) 被告意匠の具体的構成態様
a ホーン本体の長さと直径の比は0.42である。
b 支持部とホーン本体の長さの比は0.27で,正面図右側にはホーン本
体のほぼ1/2が左側には5/20が露出している。
c 鍔部の径方向の高さとホーン本体の直径の比は0.24である。
d 円筒体の長さとホーン本体の長さの比は0.17で,円筒体の径とホー
ン本体の比は1.48である。
d-1 円筒体のリング状取付部側に段差部を設けている。
e 円筒体の肉厚を鍔部の肉厚及び取付部の肉厚よりも薄くしている。
f リング状取付部の長さとホーン本体の長さの比は0.08で,リング状
取付部の外径とホーン本体の外径の比は2.04である。
g ホーン本体の前後端中央部にそれぞれ雌ねじが形成されている。
(5) 本件登録意匠と被告意匠との対比
ア 被告意匠は,本件登録意匠の要部たる基本的構成態様を全て備え,これ
により,全体として「帽子状の支持部の上から下に丸棒状のホーン本体が
突き抜けたように見える」本件登録意匠と同じ独特の美感を醸し出してい
る。さらに,「一方向に広がり,これからくる不安定さ」も物品全体から
醸し出している。
また,被告意匠は,具体的構成態様のうち,以下の点において本件登録
意匠と一致する。
(ア) 正面図右側にはホーン本体のほぼ1/2が露出している点(具体的構
成態様D関係)
(イ) 円筒体の肉厚を鍔部の肉厚及び取付部の肉厚よりも薄くしている点
(同E関係)
(ウ) リング状取付部の外径とホーン本体の外径の比は2.04である点
(同F関係)
(エ) ホーン本体の前後端中央部にそれぞれ雌ねじが形成されている点(同
G関係)
イ 他方,本件登録意匠と被告意匠とは,以下の各点において相違するが,
いずれの相違点も,これにより本件登録意匠の醸し出す「帽子状の支持部
の上から下に丸棒状のホーン本体が突き抜けたように見える」また「一方
向に広がり,これからくる不安定さ」という独特の美感を凌駕して,看者
に異なる印象を与えるまでには至っていない。
(ア) 本件登録意匠ではホーン本体の長さと直径の比は0.46であるのに
対し,被告意匠では0.42である点
(イ) 本件登録意匠では支持部とホーン本体の長さの比は0.38で,左側
には3/20が露出しているのに対し,被告意匠ではそれぞれ0.27,
5/20である点
(ウ) 本件登録意匠では鍔部の径方向の高さとホーン本体の直径の比が0.
20であるのに対し,被告意匠では0.24である点
(エ) 本件登録意匠では円筒体の長さとホーン本体の長さの比は0.22で,
円筒体の径とホーン本体の比は1.40であるのに対し,被告意匠では
それぞれ0.17,1.48である点
(オ) 本件登録意匠では円筒体に段差はないのに対し,被告意匠では円筒体
のリング状取付部側に段差部を設けている点
(カ) 本件登録意匠ではリング状取付部の長さとホーン本体の長さの比は0.
07であるのに対し,被告意匠では0.08である点
ウ 対比
以上のとおり,被告意匠は具体的構成態様の多くにおいて,本件登録意
匠と一致し,全体として本件登録意匠と同様の美感がもたらされている。
他方,相違点はいずれも微差であり,本件登録意匠と同様の審美性を看者
に印象付ける妨げにはなっていない。
したがって,被告意匠は本件登録意匠と類似している。
【被告の主張】
(1) 本件登録意匠の要部
カップリングホーンの基本形である円柱形のものについては,乙1図1
(a),乙9fig.8にそれぞれ記載がある。また,ハット形フランジについては,
乙1の図2,乙2の第2・2・5図,同第2・4・2図,乙3の第1図,同
第1a図及び乙6の図面にそれぞれ記載がある。
したがって,円柱状のカップリングホーンも,ハット状のフランジも周知
であるから,本件登録意匠の要部はそれ以外の部分に存する。
(2) 被告意匠の構成
被告意匠は以下のような構成も有している。
a1 ホーン本体の一方の端部付近は,断面正六角形とされている。
a2 ホーン本体の他端には,鍔部がRをもって突設されている。
d1 円筒体とリング状取付部の間に,段差部が設けられている。
f1 リング状取付部には,8個の貫通孔が設けられている。
g1 ホーン本体の一端の雌ねじ形成部分には,座ぐり穴が設けられている。
(3) 対比
ア 対象となる物品
意匠権侵害の有無の判断に際しては,流通過程に置かれた具体的な物品
が対象となるところ,被告ホーンは,被告製品の内部に組み込まれた部品
にすぎず,被告の製品として流通するのは,スピンドルユニットとしての
被告製品である。したがって,本件登録意匠に係る物品は「カツプリング
ホーン」であるのに対し,被告製品は「超音波スピンドルユニット」であ
るから,両者は物品が異なる。
イ 構成の対比
本件登録意匠と被告意匠の構成を単純に対比しても,前記a1,a2,
d1,f1及びg1においてそれぞれ形状が異なり,また,各部の比率も
全く異なるため,取引者・需要者の受ける美感も全く異なる。
また,当該意匠に係る物品の流通過程において取引者,需要者が外部か
ら視覚を通じて認識することができる物品の外観のみが,意匠法の保護の
対象となるものであって,流通過程において外観に現れず,視覚を通じて
認識することができない物品の隠れた形状は考慮できない。
この点,被告製品において外部から認識できるのは,被告ホーンの端部
付近のみであり,原告が本件登録意匠の要部であると主張する「支持部」
は被告製品の外部には全く露出していない。わずかに外部から認識し得る
部分は,被告ホーンの端部付近の断面形状が六角形の部分と「座ぐり」が
設けられた端部の雌ねじ形成部分であり,特に本件登録意匠と形状が異な
る部分である。
(4) よって,取引者・需要者に混同を生ずることは考えられず,被告意匠は本
件登録意匠と類似しない。
【原告の反論】(被告ホーンの独立取引性について)
(1) 被告ホーンは独立して取引されていること
ア 完成品において部品が外部から見ることができないからといって,各部
品の意匠法における物品性が直ちに否定されるものではなく,部品自体が
独立に流通する限り,なお意匠法において当該部品の外観を保護すべきで
ある。また,必ずしも当該部品自体が常に独立の売買対象や製造対象に
なっていなくても,説明や取引の機会を通じて,部品の現物(模型を含
む。)・図面・写真等により当該部品の外形・形状が消費者に呈示され,
その部品意匠の独立した視覚性も購買の動機付けの一つとなり得る状態で
ある限り,物品の独立性や視覚性なども肯定されるべきである。
イ 本件において,原告の製造するカップリングホーンは,それ自体交換部
品として一般的に流通の対象となっている。また,スピンドルの製造時に
おける受発注の打ち合わせにおいても,通常,カップリングホーンの形状
は図面や写真や現物などにより呈示されている。これにより原告は,部品
も含めた自己の製品の独自性を強調し,購買者に訴えている。
また,オーバーホール時においても,スピンドル全体を一旦持ち帰って
チェックするのが通常ではあるが,原告は,その際,交換部品の内容や交
換理由を写真や図面により示すようにしている。カップリングホーンにつ
いては,摩耗による交換の必要性が出てくるので,交換の際に,カップリ
ングホーンの部品の形状を示す写真と説明図を顧客に呈示している。少な
くとも図面や写真の呈示の中で,顧客は原告製品と視覚的に接し,その美
感を享受し得るのであり,かかる場合も意匠の保護対象となる視覚性や独
立性は担保されている。
被告も原告と同種の営業を行う限り,上記のような図面や写真の呈示に
よる営業は不可欠であって,被告製品についても上記態様の取引を行って
いるはずである。
(2) 独立取引性の要件を緩和すべきであること
ア 意匠に係る物品は独立して取引の対象になることを要するという従来の
解釈も,独立性を欠く物品の部分についても意匠登録が認められることと
なった現行法の下では,それを厳格に維持すべきか慎重に検討されるべき
である。すなわち,当該部品自体が広く流通していなくても,ユーザーと
の間においてオーバーホール時などに取り外しにより交換されるなど,そ
の部品自体に独立した経済行為が行われ,ユーザーがそれを直接間接に認
識し得,他の形状の部品の選択も含め,当該経済行為(交換)に荷担し得
る状況である限り,対象部品の独立取引性を肯定し,当該登録意匠を保護
していくべきである。
イ 本件においては,被告ホーンもオーバーホール時に外され,随時独立に
交換され,有償性も有するのであり,このような独立した経済行為(交
換)は,直接間接にユーザーに認識できる状況になっている。そうすると,
ユーザーもなお,被告ホーンを選択するか別の形態を選択するか,その交
換という経済行為に荷担する余地を残していることになる。このように需
要者が関与して部品自体も交換という独立した経済行為をなし得る以上,
被告ホーンも独立取引性を満たすというべきである。
【被告の再反論】(被告ホーンの独立取引性について)
(1) 被告が販売したのはスピンドルユニットであって,被告ホーンはスピンド
ルユニットの内部に組み込まれた部品にすぎず,被告ホーンを流通過程に置
いたことはない。また,消耗等により交換が必要な場合その他不具合が生じ
た場合には,被告がスピンドルユニット全体を持ち帰り,調整・交換等を
行っている。
もともと,被告ホーンは,被告が旭硝子株式会社の注文により請負製造し
たスピンドルユニットのために開発された専用部品であって,他社の部品と
は互換性がなく,旭硝子株式会社及びその韓国子会社以外の第三者には販売
されたことがなく,販売活動がなされたことや,カタログが作成されたこと
もない。
よって,被告ホーンは,その実物,写真,図面を含め,これまで上記旭硝
子株式会社等以外の第三者の視覚を通じて認識されたことはない。
(2) 独立取引要件を緩和することについて
前記のとおり,被告ホーンと他のホーンには互換性がなく,本件において
ユーザーには選択の余地がない。したがって,被告ホーンは独立取引性を欠
く。
5 争点4(被告製品において本件登録意匠の利用関係が認められるか)につい

【原告の主張】
(1) 利用関係
部分意匠が許容されている現行法の下では,被告ホーンが被告製品のいわ
ば部分意匠を形成しているような状況下においては,被告製品の一部品であ
る被告ホーンを通じて本件登録意匠の利用が認められ,被告ホーンに視覚性
が備わる限り,被告ホーンを含む被告製品に本件意匠権の侵害を認めるべき
である。
利用関係の要件として,① 他の登録意匠又はこれに類似する意匠の全部
を包含すること,② 他の登録意匠の特徴を破壊することなく包含すること,
③ 他の構造要素と区別し得る態様において包含することがある。これらの
要件は,視覚性との関係で分析されるものであるところ,本件の場合には,
受発注時や,オーバーホール時まで含めた取引態様の中で分析されるべきで
あるから,上記①ないし③の要件も,本件で問題となっている視覚性との関
係で柔軟に決せられるべきである。
被告製品においては,被告ホーンを通じて,本件登録意匠全部について,
その特徴を破壊することなく,被告製品の他の構成要素と区別し得る態様で
包含され,利用されている状況にある。かかる取引状況・需要者の認識状況
を併せて考えれば,被告製品に対する需要を喚起するに際し,被告ホーンの
形状も需要者に動機付けを与える一要素となり得るし,そのような取引にお
ける視覚を通じての利用関係は十分に認識できる。
よって,本件では上記①,②,③の要件を満たす。
(2) 視覚性
前述したとおり,被告が原告と同種の営業を行う限り,図面や写真の呈示
による営業は不可欠であって,被告ホーンについても少なくともこれらの態
様での取引は行っているはずである。したがって,視覚性は満たす。
【被告の主張】
否認ないし争う。
6 争点5−1(本件登録意匠に係る新規性欠如)について
【被告の主張】
(1) 乙1の図2に記載された「ノード支持体」,引用文献2の第2・2・5図
及び同第2・4・2図に記載された「支持フランジ」並びに引用文献3の第
1図及び同第1a図に記載された「支持体」は,いずれも原告が主張する本
件登録意匠の特徴である「帽子状の支持部の上から下に丸棒状のホーン本体
が突き抜けたように見える」という形状を有している。
したがって,当該形状は,本件登録意匠出願時において新規性がない。
(2) 特許公報(特公昭34−1950号公報。乙6)の図面に記載されている
「コーン9と一体構造の円筒部12」は,原告が主張する本件登録意匠の特
徴である「帽子状の支持部の上から下に丸棒状のホーン本体が突き抜けたよ
うに見える」という形状を有しており,本件登録意匠の形状とほぼ同一であ
る。
本件登録意匠の形状と「コーン9と一体構造の円筒部12」の形状との相
違点は,前者においてはホーン本体が円筒形であるのに対し,後者において
は「コーン9」部がテーパーを有している点のみである。
この点,当該相違点のみで,本件登録意匠の形状が新規なものであるとい
うことができないことは明らかである。
したがって,本件登録意匠権には無効事由が存する。
【原告の主張】
乙1ないし3は,本件意匠権に係る物品と異なるものであり,かつその形態
も大きく異なる。
すなわち,これらに記載のものは,いずれもバッファ81(乙3第1a図)
を構成するフランジ81c(同図)の先端から大きく軸方向に跳ね上がった形
状(乙3では支持体と表示)を持つものであり,さらには,乙1,3は,本体
部分がいずれも軸線方向に萎む形状であって,本件登録意匠とは類似しないも
のである。
7 争点5−2(本件登録意匠に係る容易創作性)について
【被告の主張】
本件登録意匠の形状と乙6の「コーン9と一体構造の円筒部12」の形状と
の相違点は,前者においてはホーン本体が円筒形であるのに対し,後者におい
ては「コーン9」部がテーパーを有している点のみである。
このとき,円柱状のカップリングホーンについては,乙1の図1(a),乙9
のfig.8に記載があり周知である。
したがって,これら文献から本件登録意匠の創作を行うことは容易である。
【原告の主張】
争う。
8 争点6(原告の損害及び損失額)について
【原告の主張】
(1) 被告製品の売上げ
超音波スピンドルは,プラズマテレビのガラス基板の穴開けによく使用さ
れる。この場合,テレビ1ないし3台分の加工が同時に行われるが,貫通す
る1か所の穴明け加工に上下2台の超音波スピンドルが使用される。した
がって,通常,1つの生産ラインでは12台の超音波スピンドルが搭載され
ている。
この1つの生産ラインを1ラインとしてスピンドルの受発注を行うのであ
るが,被告は少なくとも3ライン分の受注をしており,本件実用新案権の存
続期間が満了した平成16年12月21日までに少なくとも1ライン分12
台を販売し,平成16年12月22日以降本訴提起日までに少なくとも2ラ
イン分24台を販売している。
被告製品の販売価額は,少なくとも一台300万円は下らず,その売上げ
は平成16年12月21日までの本件実用新案権の侵害分で3600万円
(12台分)であり,その後は本件意匠権の侵害分として1億4400万円
(48台分)である。
(2) 被告が得た利益
被告製品の販売により被告が得た利益は少なくとも50%は下らず,本件
実用新案権の侵害分で1800万円(3600万円×0.5),本件意匠権
の侵害分で7200万円(1億4400万円×0.5)の利益を得ている。
(3) 寄与率
被告製品は,本件実用新案権が実施されているが故に購入されるのであり,
その寄与率は100%である。また,本件意匠権に関しては,その斬新なデ
ザインからすれば寄与率は30%を下らない。
(4) よって,本件実用新案権の侵害については1800万円が原告の損害(実
用新案法29条2項)及び損失と推定され,本件意匠権の侵害については2
160万円が原告の損害(意匠法39条2項)と推定される。
(5) 弁護士及び弁理士費用
原告は,本件訴訟の追行を原告訴訟代理人弁護士及び補佐人弁理士に委任
しているところ,その費用のうち400万円は被告の不法行為による損害で
ある。
【被告の主張】
被告が,旭硝子株式会社系列の韓国会社である韓旭株式会社に対し,平成1
6年12月21日以前に1ライン分,それ以後に2ライン分,被告製品を販売
したことは認める。
また,被告が,旭硝子株式会社に対し,平成16年12月21日以降に,被
告製品を2ライン分納入している。被告が販売したスピンドルユニットはこれ
で全てである。
その余は否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点2−1(本件考案に係る新規性の欠如)について
被告は,本件考案の新規性を争い,引用例2,3(乙2,3)を引用する。
しかし,引用例2,3は,カップリングホーン(構成要件F∼H)を備えてい
るとはいえず,同引用例を理由に本件考案の新規性を否定することはできない。
2 争点2−2(本件考案に係る進歩性の欠如)について
(1) 乙5における引用文献5の記載
乙5の公開特許公報(特開昭60−186366号公報)には,その出願
時における従来技術(引用例5)として下の第1図が記載されていることが
認められる。また,同図の説明として,「従来
の超音波加工装置は,この第1図に示すよう
に,超音波振動子1の一端面にコーン2をはん
だ付け,またはろう付けし,そしてこのコーン
2の先端に,工具側軸部4aを有するホーン4
をねじ止めし,さらにこのホーン4の工具側軸
部4aの先端に,切刃15のある工具5をはん
だ付けあるいはろう付けし,これらを積み重ね
た方向の弾性振動モードをもつ振動系である超
音波発振部16を,振動の節に設けた,コーン2に取付けられたフランジ3
のところで,防振用のゴム等でできた弾性体6を介して,フランジ押え7に
よつてケース8に固定し,このケース8が,ボールガイド9を介して装置本
体10に摺動可能に保持されているものである。このように構成した超音波
加工装置により,テーブル13上に,試料台12を介して載置固定された被
加工物11の下穴11aを拡大加工する場合には,超音波振動子1により工
具5を工具送り方向に超音波振動させ,被加工物11の上方から下穴11a
に押込んで,この下穴11aの拡大加工を行う。このとき,工具5は工具送
り方向の力,すなわち主分力F Tおよび,工具送り方向に垂直方向な力,す
なわち背分力FNを受ける。」と記載されていることが認められる。(2頁
左上欄17行目∼右上欄19行目)
(2) 本件考案との一致点と相違点
ア 引用例5の構成
引用例5の「ケース8」,「工具5」,「被加工物11」,「超音波振
動子1」,「コーン2」(ただし,その形状は円錐台である。)及び「フ
ランジ3」は,その構造及び作用効果から見て,本件考案の「スピンド
ル」,「加工工具」,「ワーク」,「超音波ヘッド」,「ホーン本体」及
び「取付部」にそれぞれ相当すると認められる。
よって,上記引用文献5の記載を本件考案に対応させると,引用例5に
は以下の構成が記載されているということができる。
a 中空のケース8の先端に工具5を取付け,同ケース8を回転させて先
端に取付けた工具5によって被加工物を加工するケース8に於いて,
b ケース8内部にケース8の軸方向に超音波振動を発生する超音波振動
子1を取付け,
c 円錐台のコーン2の中間の外周に半径方向に張り出したフランジ3を
突設し,コーン2をケース8内に配置し,
d コーン2を前記超音波振動子1と連結し,又コーン2のフランジ3を
ケース8に動かないように固定し,
e コーン2の先端に工具側軸部4aを有するホーン4を設けた
f 超音波加工装置。
イ 本件考案との一致点
(ア) 構成要件A,B,F,G,Iとの一致
引用例5と本件考案とを対比させると,前記引用例5構成aは構成要
件Aと,前記引用例5構成bは構成要件Bと,前記引用例5構成cの
「コーン2をケース8内に配置し」は構成要件Fの「カップリングホー
ンをスピンドル内に配置し」と,前記引用例5構成dは構成要件G(た
だし,「円筒体の先端の」を除く。)と,前記引用例5構成fは構成要
件Iと,それぞれ一致すると認められる。
(イ) 構成要件Cの「円柱状のホーン」との一致(ホーンの形状)
引用例5における「コーン2」の形状は円錐台(原告の主張によれば
徳利状)であり,原告は,構成要件Cの「円柱状ホーン」において一致
していないと主張する。
しかし,以下のとおり,構成要件Cにいう「円柱状」には「円錐台」
が含まれると考えられることから,構成要件Cのうち,「円柱状のホー
ン」についても一致していると認められる。
すなわち,「円柱」とは「① 円い柱。② 円柱面と,その母線に交
わって互いに平行な二平面との三つによって囲まれた立体。その平面に
よる断面を底面という。円筒。円壔(えんとう)。」をいうものであり
(広辞苑第5版),必ずしも円柱の向かい合う二平面が全く同じ円形を
なしていることまでは要しないものといえる。しかも,同構成要件では
「円柱」ではなく「円柱状」と記載していることからすれば,円柱その
もののみならず,円柱に似た形をも包含していると解するのが相当であ
る。そうすると,円錐台の形状をしている引用例5の「コーン2」は,
「円柱」の概念に完全に包含されるかはともかく,少なくとも「円柱
状」には該当するものというべきである。
この点,原告は,本件考案ではホーンの形状を徳利状ではなく円柱状
とすることにより,製作時の偏折や形状ずれが少なく正確なノード位置
(中間位置)が出せるようにしている旨主張し,円柱状としたことの技
術的意義を強調して,「円柱状」には徳利状は含まれない旨主張する。
確かに,本件明細書においてかかる作用効果が記載されているのであれ
ば,本件考案における「円柱状」という概念について,向かい合う二平
面がほぼ同じ円形をなしているものに限るという解釈も採り得ないでは
ないが,本件明細書においてかかる作用効果は全く記載されておらず,
同明細書の実施例において円柱のホーンが記載されているというにとど
まることからすると,本件考案における「円柱状」という概念を減縮し
て解釈することはできないというべきである。したがって,構成要件C
における「円柱状」には円錐台も含まれるというべきであり,引用例5
の「コーン2」は,構成要件Cの「円柱状のホーン」と一致するものと
認められる。
ウ 本件考案との相違点
本件考案と引用例5の一致点は以上のとおりであるから,相違点はその
余の部分,すなわち以下の2点にあるものと認められる。
(ア) 本件考案ではホーン本体の中間の外周に環状鍔部を突設し(構成要件
C),同鍔部の先端にホーン本体と同じ軸心の円筒体を連設し(同D),
同円筒体の先端に半径方向に張り出した取付部を設け(同E),しかも円
筒体の肉厚を鍔部の肉厚及び円筒体先端の取付部の肉厚より薄くし,
ホーン本体と鍔部と円筒体と取付部とを金属材で一体成形したカップリ
ングホーンの(同Fの一部),円筒体の先端の取付部をスピンドルに動か
ないように固定している(同Gの一部)のに対し,引用例5ではコーン2
に直接フランジ3を突設し,コーン2のフランジ3をケース8に動かな
いように固定している点(前記アc参照。以下「相違点1」という。)。
(イ) 本件考案ではホーン本体の先端に加工工具取付部を設けている(構成
要件H)のに対し,引用例5ではコーン2の先端に工具側軸部4aを有
するホーン4を設けている点(前記アe参照。以下「相違点2」とい
う。)。
エ 被告は,上記相違点1について,引用例3において開示されており,本
件考案は,引用例3を引用例5に適用することによりきわめて容易に考案
をすることができたと主張する(上記相違点2についての明示的な主張は
ない。)。これに対し,原告は,かかる構成は引用例3には開示されてお
らず,また引用例3を引用例5に適用することもできない(阻害要因があ
る)と主張するので,以下,この点について検討する。
(3) 相違点1について
ア 引用文献3の記載
(ア) 引用文献3の「3.発明の詳細な説明」〔従来の技術とその問題点〕
には以下の記載がある。
「従来では,この超音波加工法を実施するための要部である超音波振
動系が大型,大重量で,機械本体への取付けに広いスペースを必要とし,
また,超音波研削盤として専用機化され,高価で,しかも機能的にも限
られるという問題があった。
また,従来の超音波研削盤では,超音波振動系の支持が主としてスラ
スト方向についてだけ行われ,横方向については特別な留意が払われて
おらず(略)」
(イ) 同〔実施例〕には以下の記載がある(実施例の説明図は後記(エ))。
「この超音波加工用アタッチメントAは,主軸2に対し着脱可能な回
転筒3と,これに内蔵される直接加振型振動子ユニット4と,これの出
力ブロック先端に着脱可能に取付けられる工具5と回転筒3を外囲し,
内部に直接加振型振動子ユニット4に対する給電機構7を配したケーシ
ング6とを備え,直接加振型振動子ユニット4は特殊な支持体8と補強
体9により前記回転筒3に支持されている。
(略)
直接加振型振動子ユニット4は,側面徳利状をなす出力ブロック19
と,背面ブロック20と,それらの間に介装される圧電素子21,22
とを備え,中心ボルト23によりそれぞれ同心状に強固に固定されるこ
とでユニットとなっており,(略)この直接加振型振動子ユニット4は,
第3図に示すように全長が1/2波長となっている。
前記支持体8は,工具5のスラスト方向の荷重を受け止めるためのも
ので,出力ブロック19の入力側すなわち軸線方向後半部域に設けられ
る。支持体8は,具体的には第1a図のように,リフレクタリング(厚
肉円筒体)80及びこれより薄肉化されることで非共振となったバッ
ファ81からなり,バッファ81は,径方向振動成分を吸収する同心状
スリーブ81aと,軸方向の振動成分を吸収するフランジ81b,81
cを有し,フランジ81bをもって出力ブロック19に結合されている。
(略)前記支持体8は出力ブロック19に一体に削り出されるか,ある
いは溶接等により形成される。」
(ウ) 同〔実施例の作用〕には以下の記載がある。
「従来の超音波振動系は,既述のようにホーンを多段に縦設すること
で移動子先端の変位を増幅しており,そのため全長が1.5波長と長い。
これに対し本発明は,1/2半長(判決注:「波長」の誤り。)の直接
加振型振動ユニットを用い,しかも出力ブロック19の先端に直接工具
5を装着している。そのため,振動系が小型化し,工作機械の取付けス
ペースも小さくて済み,工具交換機能を利用して簡単に着脱可能である
と共に,機械本体との干渉も起こらない。(略)
さらに,出力ブロック19が徳利状をなしているため,ねじ底付近の
断面寸法を十分にとれ,材料破断の危険がないと共に,圧電素子21,
22の動的応力も軽減され,その発熱も少ない。(略)
さらに本発明では,直接加振型振動子ユニット4の出力ブロック19
の2点を特殊な支持体8と補強体9で強固に支持している。すなわち,
支持体8と補強体9はリフレクタリング80,90とこれと非共振の
バッファ81,91とを備え,バッファ81,91の撓みにより軸方向
振動を吸収し,ことに,補強体9のバッファ91が工具5と出力ブロッ
ク19の間に挟持され,横荷重を面内張力の形で負担し,厚肉のリフレ
クタリング90に伝えることから,外部への振動のリークが極力抑えら
れる。そして,各リフレクタリング80,90は回転筒3の前筒11と
直接金属同志で強固に固定され,前筒11は超音波振動の特性と関係な
く必要な肉厚と長さを持たせることができる。そのため軸方向に十分な
剛性のみならず,工具に加わる荷重によって生ずる曲げモーメントに対
し,十分大きな抵抗力を発揮することができ,工具のオーバハング量が
小さいこととあいまち,横方向の剛性も大幅に増大する。」
(エ) 引用文献3には,実施例として以下の各図が記載され(ただし,第2
図は省略。),その説明として「4.図面の簡単な説明」には以下の記
載がある。
「第1図は本発明による超音波加工用アタッチメントの一実施例を示す
半部切欠側面図,第1a図はその一部拡大図,(略)第3図は本発明の
振動子ユニットの振動モードを模式的に示す説明図(略)である。」
イ 本件考案の構成要件と引用例3との対比
(ア) 構成
a 引用例3のホーンに突設されている「フランジ81b」「同心状ス
リーブ81a」は,その構造,作用等からみて,またそれぞれ本件考
案のホーンに突設されている「環状鍔部」,同環状鍔部の先端に連設
されているホーン本体と同じ軸心の「円筒体」に相当し,引用例3の
「フランジ81c」と「リフレクタリング80」とを一体の一つの部
分とみると,当該部分は,同心状スリーブ81aの先端に半径方向に
張り出したところに設けられて,当該部材を回転筒3に動かないよう
に固定しているから,当該部分(フランジ81cとリフレクタリング
80とからなる部分)は,本件考案の取付部に相当する。
また,引用文献3には文言として明確には記載されていないものの,
第1a図を子細に検討すると,同心状スリーブ81aは,フランジ8
1b,同81cの肉厚より,やや薄く図示されていることが認められ
る(乙8)。
そうすると,引用例3には,相違点1が示されている。
b この点,原告は,引用例3における取付構造の設置位置は軸方向の
応力が発生する部位であり,かつこれを吸収しなければならない部位
であるところ,仮に引用例3の同心状スリーブ81aがフランジ81
b及び同81cより薄肉であれば,軸方向の応力により,フランジ8
1b及び同81cより先に同心状スリーブ81aが変形してしまい,
超音波加工装置として機能しなくなるから,そのような構成は採って
いないと主張する。
しかし,引用文献3の「径方向振動成分を吸収する同心状スリーブ
81a」との記載,及び第3図には,バッファ81の形成位置が,軸
方向においては,ノード位置(軸方向の振動がゼロとなる位置)であ
り,径方向においては,ループ位置(径方向の振動が最大となる位
置)であることが図示されていることから,バッファ81の形成位置
においては,軸方向の振動は発生するとしても相当小さなものとなる。
そうすると,同心状スリーブ81aの肉厚を径方向振動の応力やフラ
ンジ81b,同81cにより吸収されなかった微細な軸方向振動の応
力を受け得る程度の十分な肉厚に形成すればよく,径方向振動成分を
吸収する同心状スリーブ81aの肉厚を軸方向振動成分を吸収するフ
ランジ81b,同81cの肉厚よりも薄くすることが構造上不可能で
あるというような事情までは窺えない。
c 原告は,引用例3の構造は一体型における支持構造であり,本件考
案のようなカップリングホーンの支持構造とは異なるとも主張する。
確かに,原告が主張するように引用文献3はいわゆる一体型である
のに対し,本件考案はカップリングホーンを連結するものであるが,
後記認定のとおり(後記(イ)),その支持構造において期待されてい
る作用効果は共通しているのであり,当該部分において発生する径方
向の振動を吸収するという課題は,一体型であると本件考案のような
カップリングホーンを連結するものとで異なるところは認められない。
したがって,かかる構造上の相違は引用例3を本件考案に適用する
ことを妨げるものとはいえない。
d 以上より,引用文献3の第1a図において,81aの部分の薄肉化
という,構成要件C,D,E,Fに相当する構成は示されていると認
められる。
(イ) 作用効果
a 相違点1に係る本件考案の作用効果について,本件明細書には,以
下の記載が認められる。
(a) (作用)における記載
「本考案の超音波スピンドルでは,スピンドル内の超音波ヘッド
と連結したカップリングホーンのホーン本体の外周に鍔部を介して
円筒体を設け,同円筒体の先端の取付部を介してスピンドルに動か
ないように固定している。この構造であってしかもコーン本体・鍔
部・円筒体・取付部を金属材で一体成形して,樹脂製部品を用いて
いないので高い支持強度を有し且つ耐久性あるものにしている。し
かも円筒体とスピンドルとは取付部で動かないように固定されてい
るので,摺動はなくカップリングホーンをスピンドルに取付けてい
る。更に,円筒体の肉厚を鍔部・取付部の肉厚より薄くしたことに
よって円筒体の変形位が許容され,ホーン本体に伝えられた超音波
振動が取付部を介してスピンドルに伝達するのを大巾に少なくし,
共振振動の発生を防ぎ,発熱振動を少なく支持でき,超音波振動の
減衰を少なく工具に伝えることを可能とした。」
(b) (考案の効果)における記載
「本考案により,シンプルな構造で剛性が高く,高精度の加工を
行なうことができ,耐久性も良好な超音波スピンドルを提供するこ
とができる。又円筒体の肉厚を薄くすることで,不要な発熱・振動
を生起することなく効率よく超音波振動を工具に伝達できる。」
b 本件考案の上記両記載からすれば,相違点1に係る本件考案の作用
効果としては,① 高い支持強度を有し且つ耐久性あること,及び②
円筒体の変形位が許容され,ホーン本体に伝えられた超音波振動が取
付部を介してスピンドル(引用例3の回転筒3に相当)に伝達するの
を大巾に少なくし,共振振動の発生を防ぎ,発熱振動を少なく支持で
き,超音波振動の減衰を少なく工具に伝えること,という点にあるも
のと認められる。
c 他方,引用例3における作用効果について,引用文献3には,「前
記リフレクタリング80は,段部15’に当接するように前筒11に
内挿され,これに嵌合された基筒10の先端面により挟圧され,必要
に応じ前筒11の肉厚を貫いて挿着された複数のビス23により外径
側が止められ,前筒11と一体化される。」,及び「前記支持体8は
出力ブロック19に一体に削り出される」との記載がなされることか
らして,支持体8は,一体成形され,高い支持強度を有し且つ耐久性
あるものにしており,しかも同心状スリーブ81aと,基筒10及び
前筒11からなる回転筒3とはリフレクタリング80で動かないよう
に固定されて,摺動なく取付けられるという,前記b①の効果を有し
ていることが認められる。
d また,引用文献3には,「バッファ81は,径方向振動成分を吸収
する同心状スリーブ81aと,軸方向の振動成分を吸収するフランジ
81b,81cを有し,フランジ81bをもって出力ブロック19に
結合されている」との記載がなされていること,及び上記イ(ア)のと
おり,同心状スリーブ81aが,フランジ81b,同81cの肉厚よ
り,薄いという本件考案の円筒体と同様の構成であることからして,
バッファ81により径方向及び軸方向の振動成分を吸収する,つまり
同心状スリーブ81aの変形位が許容され,超音波振動がバッファ8
1及びリフレクタリング80を介して回転筒3(本件考案のスピンド
ル1に相当)に伝達するのを大巾に少なくし,もって共振振動の発生
を防ぎ,発熱振動を少なく支持でき,超音波振動の減衰を少なく工具
に伝えるという,前記b②と同様の作用効果を有していることが認め
られる。
e 上記b②の作用効果の点につき,原告は,引用文献3に「バッファ
81,91の撓みにより軸方向振動を吸収し」との記載があることか
ら,軸方向の振動を吸収しない本件考案の作用効果とは全く異なると
主張する。
しかし,原告の上記主張は,そもそも本件考案に基づかない主張で
ある。
すなわち,本件明細書において,「軸方向の振動を吸収しない」と
の作用効果があることを窺わせる記載は見受けられず,むしろ,軸方
向(本件明細書においては「横方向」)の振動について,「鍔部(6
a)は超音波振動による横方向の振動が少ないホーン本体(4a)の中
間部にあることから超音波振動のスピンドル(1)への伝達を少なく」
するとの記載がなされている。
そもそも,前記イ(ア)において認定したとおり,相違点1に係る構
成は引用例3と共通であるところ,同じ構成を有しながら全く異なる
作用効果を奏するというのは,殊に本件のような機械分野においては,
通常考え難いところである。
また,原告が引用する引用文献3の上記記載についても,これに接
した当業者は,同記載の後にある「外部への振動のリークが極力抑え
られる」との記載(前記(3)ア(ウ))と併せ読むことにより,回転筒
3に振動が漏れることを可及的に防止する趣旨と解するものであり
(超音波ヘッドにおいて発生させた超音波振動を減衰少なく工具に伝
えることは超音波スピンドルである以上当然の前提であり,引用例3
においても同様のことがいえる。),「軸方向の振動を吸収し」との
記載は,バッファ81の形成位置を軸方向においてノード位置とした
にもかからわらず,同形成位置においてわずかに発生する軸方向の振
動(前記(ア)b参照)を回転筒3に漏れないようにするために,バッ
ファ81で吸収する趣旨にすぎないと解されるものである。
そうすると,引用文献3の「軸方向振動を吸収し」との記載は,回
転筒3(スピンドル(1))に超音波振動を伝達しないという意味にお
いて,本件考案と共通の作用を奏すると解するのが相当である。
(4) 相違点2について(相違点2について,明示的な主張はないが,念のため,
検討しておくこととする。)
本件考案は,カップリングホーンの先端に加工工具取付部を設けたもので
あり,超音波ヘッドで発生した超音波振動をカップリングホーンを介して加
工工具に伝達するものである。これに対し,引用例5は,コーン2にフラン
ジを設けてケースに固定し,さらに,コーン2にホーン4を連結して,その
先端に加工工具取付部を設けたものであり,超音波振動子1で発生した超音
波振動をコーン2及びホーン4を介して工具に伝達するものである。
そうすると,本件考案のカップリングホーンと,引用例5のコーン2及び
ホーン4から構成されるものとは,超音波振動を伝達するという機能におい
て差異はなく,引用文献5の記載を見ても,引用例5においてコーン2と
ホーン4の2個の部材から構成されることによる特有の作用効果は窺えない。
また,前記2(1)で認定したとおり,引用例5においては「コーン2の先
端に,工具側軸部4aを有するホーン4をねじ止め」により固定されている
ことからすると,これらを一体の部材と見なすことも可能である。
以上によれば,引用例5のコーン2及びホーン4から構成されるものは,
本件考案のカップリングホーンに包含されるものと認められる。
(5) 阻害要因について
原告は,引用例3及び引用例5には,軸方向の振動を吸収せず,径方向の
振動のみを吸収させるという本件考案に至る動機付けは全くなく,引用例5
に引用例3を適用するに当たり阻害要因があると主張する。しかし,既に判
示したとおり,本件考案に軸方向の振動を全く吸収しないとの機能は窺えな
いこと,引用文献3の第3図によれば,軸方向の振動と径方向の振動の関係
が明確に記載されており,本件考案の鍔部に対応するフランジ81bの設置
位置からして,軸方向及び径方向の振動の吸収の違いが明確に意識されてい
ること,引用例3の支持体8と,引用例5のフランジ3とは,共にスピンド
ルを固定するという同一の機能を奏するものであること,引用例3も引用例
5も,同じ技術分野に属するものであることからして,引用例5に引用例3
を適用することについて,何らの阻害要因も認められない。
(6) 小括
以上によれば,相違点1の構成は引用例3に開示されており,相違点2は
実質的にみれば引用例5と同一のものといえる。また,引用例3及び同5は,
いずれも本件考案と同じ超音波スピンドルに関する発明であって,その技術
分野や機能も共通し,引用例5に引用例3を組み合わせることに何らの阻害
要因も認められない。しかも,その作用効果も引用例3及び同5から予測し
得る範囲のものである。
そうすると,本件考案は引用例5に引用例3を組み合わせることにより,
当業者がきわめて容易に考案をすることができたものというべきであるから,
本件実用新案権には無効理由があり(旧実用新案法3条2項,実用新案法3
7条1項2号),実用新案登録無効審判において無効にされるべきものと認
められるから,実用新案法30条において準用する特許法104条の3第1
項により,原告は,本件実用新案権に基づく権利を行使することができない。
よって,その余の争点について判断するまでもなく,本件実用新案権に基
づく原告の請求は理由がない。
3 争点3(被告意匠は本件登録意匠と類似するか)及び同4(被告製品におい
て本件登録意匠の利用関係が認められるか)について
(1) 本件登録意匠の構成態様
前記前提事実によれば,本件登録意匠の構成は以下のとおりと認められる。
ア 本件登録意匠の基本的構成態様
A 円柱形のホーン本体と,
B ホーン本体のほぼ中間外周に突設された支持部とからなる。
C 支持部は,ホーン本体から径方向に突設された環状鍔部と,一端を環
状鍔部に固定されたホーン本体と同じ軸心の円筒体と,同円筒体の先端
部から径方向に張り出したリング状取付部とからなる。
イ 本件登録意匠の具体的構成態様
A ホーン本体の長さと直径の比は0.46である。
B 支持部とホーン本体の長さの比は0.38で,正面図右側にはホーン
本体のほぼ1/2が左側には3/20が露出している。
C 鍔部の径方向の高さとホーン本体の直径の比は0.20である。
D 円筒体の長さとホーン本体の長さの比は0.22で,円筒体の径と
ホーン本体の比は1.40である。
E 円筒体の肉厚を鍔部の肉厚及び取付部の肉厚よりも薄くしている。
F リング状取付部の長さとホーン本体の長さの比は0.07で,リング
状取付部の外径とホーン本体の外径の比は2.04である。
G ホーン本体の前後端中央部にそれぞれ雌ねじが形成されている。
(2) 被告意匠の構成態様
弁論の全趣旨によれば,被告意匠の構成は以下のとおりと認められる。
ア 被告意匠の基本的構成態様
a 円柱形のホーン本体と,
b ホーン本体のほぼ中間外周に突設された支持部とからなる。
c 支持部は,ホーン本体から径方向に突設された環状鍔部と,一端を環
状鍔部に固定されたホーン本体と同じ軸心の円筒体と,同円筒体の先端
部から径方向に張り出したリング状取付部とからなる。
イ 被告意匠の具体的構成態様
a ホーン本体の長さと直径の比は0.42である。
a-1 ホーン本体の一方の端部付近は,断面正六角形とされている。
a-2 ホーン本体の他端には,鍔部がRをもって突設されている。
b 支持部とホーン本体の長さの比は0.27で,正面図右側にはホーン
本体のほぼ1/2が左側には5/20が露出している。
c 鍔部の径方向の高さとホーン本体の直径の比は0.24である。
d 円筒体の長さとホーン本体の長さの比は0.17で,円筒体の径と
ホーン本体の比は1.48である。
d-1 円筒体とリング状取付部の間に,段差部が設けられている。
e 円筒体の肉厚を鍔部の肉厚及び取付部の肉厚よりも薄くしている。
f リング状取付部の長さとホーン本体の長さの比は0.08で,リング
状取付部の外径とホーン本体の外径の比は2.04である。
f-1 リング状取付部には,8個の貫通孔が設けられている。
g ホーン本体の前後端中央部にそれぞれ雌ねじが形成されている。
g-1 ホーン本体の一端の雌ねじ形成部分には,座ぐり穴が設けられてい
る。
(3) 類否(争点3)について
ア 類否の判断対象
本件登録意匠と被告意匠との類否を判断するに当たり,まず対象となる
物品が被告製品であるのか,被告ホーンであるのかについて検討する。
意匠の保護は,最終的には産業の発達に寄与することを目的とするもの
であり(意匠法1条),また登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否
かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものと
されていること(同法24条2項)からすれば,流通過程において現実に
取引の対象とされる具体的な物品をもって対比の対象となる物品とすべき
である。
また,意匠とは,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合で
あって,視覚を通じて美感を起こさせるものであること(同法2条1項)
をも併せ考えると,流通過程の中で外観に現れず,視覚を通じて認識する
ことができない,物品の隠れた形状等については,これが流通過程におい
て需要者に何らの美感を起こさせる余地もないから,類否の判断に当たっ
ては考慮することができないというべきである。
イ 本件における類否の判断対象
本件登録意匠に係る物品はカップリングホーンであるところ,カップリ
ングホーンは超音波ヘッドに連結され,超音波ヘッドで発生させた超音波
振動を加工工具に伝達するものであり,超音波スピンドルを構成する一つ
の部品であることが認められる。
また,証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば,超音波スピンドルは,
部品を組み立てた完成品として販売されるものであることが認められ,証
拠(甲9∼24,29,甲30の1・2,甲33の1・2)及び弁論の全
趣旨によれば,カップリングホーンは定期的な交換を要する消耗品である
ものの,カップリングホーンの交換の際には,超音波スピンドル本体を一
旦持ち帰って取り替えるのが通常であることが認められる。この点,原告
は,カップリングホーン交換の際には,カップリングホーンの形状を示す
写真と説明図を顧客に呈示しており,被告もこれと同様の営業を行ってい
るはずであると主張するが,原告における交換の際の見積書(甲11,1
2,14,15,17,20,22,24)には,カップリングホーンの
写真など,その形状が分かるようなものは記載又は添付されておらず,交
換後の報告書(甲30の2,31の2,33の2)の中に,カップリング
ホーンの形状が一部写っている写真が添付されているものの,これらはあ
くまで事後の報告であって,カップリングホーンの交換に当たってその形
状を確認させるというような取引形態をしていたことまでは認められない。
まして,被告が被告ホーンの交換に当たって,被告ホーンの形状を示す写
真や説明図を顧客に示していることを窺わせる証拠は全くない。
そうすると,流通過程において,カップリングホーンは独立して流通の
対象となっておらず(その形状すらも需要者には知る余地がない。),流
通過程において現実に取引の対象となっている物品は,超音波スピンドル
としての被告製品というべきである。
そうすると,本件登録意匠に係る物品はカップリングホーンであるのに
対し,対象となる物品は超音波スピンドルとしての被告製品であるから,
対象となる物品が異なるというべきである。
ウ 形態の対比
前記認定のとおり,被告ホーンは被告製品の一部品であり,被告製品に
組み込まれて流通しているものであるところ,弁論の全趣旨によれば,被
告製品の外観からは,被告ホーンの内,断面正六角形をなしている部分
(以下「頭部」という。)のみがわずかに現れているにすぎず,前記被告
意匠の基本的構成態様b及び同cの部分は全く外観に現れていないことが
認められる(被告準備書面(1)添付図面A4参照)。
そこで,上記外観に現れている頭部についての形態を対比するに,本件
登録意匠と被告意匠との間には,中央部に雌ねじが形成されているという
点(前記本件登録意匠の具体的構成態様G,同被告意匠の具体的構成態様
g)で一致している。他方,本件登録意匠は円柱形であるのに対し,被告
意匠の頭部は断面正六角形をなしている点(前記被告意匠の具体的構成態
様a-1)及び被告意匠では頭部の中央部には雌ねじが形成された上,さ
らに座ぐり穴が設けられている点(同構成g-1)がそれぞれ異なってい
る。
そして,頭部の形状が円柱であるか断面正六角形であるかは,形状とし
て著しく異なっており,需要者に与えるかかる相違点の印象は大きいもの
がある。また,頭部の雌ねじ部分についても,被告意匠では座ぐり穴が形
成されていることにより,頭部の陥没部分が大きく見えるという印象を与
えるものである。そうすると,被告ホーンの外観から認識し得る頭部の形
態において,被告意匠は本件登録意匠と顕著に異なっており,その結果,
本件登録意匠との一致点を凌駕して,これと美感を異にするというべきで
ある。
エ まとめ
以上によれば,本件登録意匠と被告意匠とは,対象となる物品が異なる
上,形態においても美感を異にするから,類似しないというべきである。
(4) 利用関係(争点4)について
原告は,① 他の登録意匠又はこれに類似する意匠の全部を包含すること,
② 他の登録意匠の特徴を破壊することなく包含すること,③ 他の構造要素
と区別し得る態様において包含すること,という要件を満たす場合には,被
告ホーンを含む被告製品に本件意匠権の侵害を認めるべきであると主張する。
しかしながら,利用関係が成立しているかどうかについて判断するに当
たっても,流通過程の中で外観に現れず,視覚を通じて認識することができ
ない物品の隠れた形状等については,これを考慮することができないところ,
前記認定のとおり,被告製品においては,被告ホーンの全容を外部から認識
できず,わずかに被告ホーンの頭部が露出しているにすぎないのであり,ま
た被告ホーンの交換時に当たって,被告ホーンの形状を示す写真や説明図を
顧客に示しているとも認められないのであるから,被告製品において本件登
録意匠が利用ないし包含されているということはできない。
(5) 小括
以上のとおり,被告ホーンの組み込まれた超音波スピンドルの販売及び被
告ホーンの交換は,本件意匠権を侵害するとは認められず,その余の争点に
ついて判断するまでもなく,本件意匠権に基づく原告の請求には理由がない。
4 結論
以上の次第で,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三
裁 判 官 島 村 雅 之
裁 判 官 北 岡 裕 章

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