平成19(ワ)6485実用新案権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成20年7月22日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告株式会社ジャストコーポレーション佐藤治隆 原告株式会社日新
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対象物 |
商品展示用ケース |
法令 |
実用新案権
実用新案法3条2項5回 実用新案法29条2項5回 実用新案法3条の25回 実用新案法5条5項1号3回 特許法104条の32回 実用新案法3条1項2回
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キーワード |
無効43回 実施20回 実用新案権16回 進歩性15回 侵害9回 無効審判4回 新規性3回 差止2回 損害賠償1回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,考案の名称を「商品展示用ケース」とする考案の実用新案権者である原
告が,被告の販売等している製品(被告製品)は上記考案の技術的範囲に属し,同
製品を販売する被告の行為は原告の上記実用新案権を侵害する旨主張して,被告に
対し,実用新案法27条に基づき,同製品の販売等の差止め及びその廃棄を求める
とともに,民法709条(実用新案法29条2項)に基づき,実用新案権侵害の不
法行為による損害賠償(訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金を含む )を請求している事案である。。 |
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判決文
平成20年7月22日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成19年(ワ)第6485号 実用新案権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成20年5月26日
判 決
原 告 株式会社 日 新
訴訟代理人弁護士 近 藤 幸 夫
訴訟復代理人弁護士 作 花 知 志
訴訟代理人弁理士 鳥 居 和 久
田 川 孝 由
東 尾 正 博
北 川 政 徳
被 告 株式会社ジャストコーポレーション
訴訟代理人弁護士 安 原 正 之
佐 藤 治 隆
小 林 郁 夫
鷹 見 雅 和
訴訟代理人弁理士 平 崎 彦 治
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造し,輸入
し,販売し,並びに販売の申出をしてはならない。
2 被告は,被告製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,1億6187万4000円及びこれに対する平成19年6
月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
第2 事案の概要
本件は,考案の名称を「商品展示用ケース」とする考案の実用新案権者である原
告が,被告の販売等している製品(被告製品)は上記考案の技術的範囲に属し,同
製品を販売する被告の行為は原告の上記実用新案権を侵害する旨主張して,被告に
対し,実用新案法27条に基づき,同製品の販売等の差止め及びその廃棄を求める
とともに,民法709条(実用新案法29条2項)に基づき,実用新案権侵害の不
法行為による損害賠償(訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金を含む。
)を請求している事案である。
1 争いのない事実
(1) 本件実用新案権
原告は,次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,その実用新案登録
を「本件実用新案登録」という。
)の実用新案権者である。
実用新案登録番号 第2575582号
考案の名称 商品展示用ケース
出願日 平成5年(1993年)7月20日
登録日 平成10年(1998年)4月10日
(2) 本件考案
本件実用新案権に係る明細書(甲2。以下「本件明細書」という 。)の実用新
案登録請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1記載
の考案を「本件考案」という。。
)
「ケース本体を透明な合成樹脂によって形成し,このケース本体の一面に,商
品の出し入れ用の開口を設け,この開口縁に,ケース本体の内面に沿わせた表紙
の裏面側に少なくとも一部が重なる折り返し片を連設したことを特徴とする商品
展示用ケース。」
(3) 本件考案の構成要件の分説
本件考案は,次の構成要件に分説するのが相当である。
ア ケース本体を透明な合成樹脂によって形成し,
イ このケース本体の一面に,商品の出し入れ用の開口を設け,
ウ この開口縁に,ケース本体の内面に沿わせた表紙の裏面側に少なくとも一部
が重なる折り返し片を連設したことを特徴とする
エ 商品展示用ケース。
(4) 被告の行為
被告は,,被告製品を業として販売し,販売の申出をし,その所有に係る被告
製品を占有している(ただし,販売開始時期について,原告は平成15年4月1
日ころと主張するのに対し,被告は平成16年4月7日と主張している。。
)
(5) 被告製品の構成
被告製品は,次の構成を備える。
A① 透明な合成樹脂によって形成された角筒形の胴部1と,この胴部の底面に
脱着可能に設けられた不透明な底部材2とを備える。
② 底部材2は,胴部1の底部に装着して被告製品の基部を構成する部材で,
別紙物件目録添付の写真5ないし9(以下,各写真を各別に表示するときは
「写真5」 「写真9」というように表示する 。
, )に示すように,正面視で台
形をなす挿入部2aと,その下縁に突設した段部2bと,開閉係止脚2c,
2cからなる。胴部1に底部材2を装着するには,開閉係止脚2c,2cを
写真5に示すように開いた状態で,挿入部2aを段部2bまで胴部1に挿入
し,胴部1下縁に突設した底部材係止片1a,1bを底部材2裏面の係止溝
(図示せず)に嵌め込み,開閉係止脚2c,2cを閉じて胴部1を段部2b
上に固定する。
③ 被告製品に表紙Bを挿入すると,表紙Bの下縁は,胴部1内面と底部材2
の挿入部2aの周面とに挟まれ,段部2b上に保持される。
B 胴部1の上面に,商品出し入れ用の開口を備える。
C 胴部1の開口縁の3辺に,胴部1の内面側に折り返される折り返し片3a,
3bが連設されている。胴部1の対向する二つの側面の上縁に形成された折り
返し片3aには,高さ方向の中程に1本の罫線が形成されている。折り返し片
3a,3bは,胴部1の内面に,コミック本Aの表紙Bを沿わせた状態で,胴
部1の内側に折り返し,折り返した状態で,胴部1の内面に沿わせたコミック
本Aの表紙Bの上部に到達している。
D コミック本のレンタルショップで,コミック本を展示するために使用するケ
ースである。
2 争点
(1) 被告製品は本件考案の技術的範囲に属するか。
ア 被告製品は本件考案の構成要件アを充足するか。
(争点1)
イ 被告製品は本件考案の構成要件イを充足するか。
(争点2)
ウ 被告製品は本件考案の構成要件ウを充足するか。
(争点3)
エ 被告製品は本件考案構成要件エを充足するか。
(争点4)
(2) 本件実用新案登録は実用新案登録無効審判により無効にされるべきものである
か。
ア 無効理由1
本件実用新案登録は平成5年4月23日法律第26号による改正前の実用新
案法(以下「旧実用新案法」という。)3条1項の規定に違反して登録された
もので同法37条1項1号により無効にされるべきものであるか 。(争点5)
イ 無効理由2
本件実用新案登録は旧実用新案法3条の2の規定に違反して登録されたもの
で同法37条1項1号により無効にされるべきものであるか。
(争点6)
ウ 無効理由3
本件実用新案登録は旧実用新案法3条2項の規定に違反して登録されたもの
で同法37条1項1号により無効にされるべきものであるか。
(争点7)
エ 無効理由4
本件実用新案登録は旧実用新案法5条5項1号に違反して登録されたもので
同法37条1項3号により無効にされるべきものであるか。
(争点8)
(3) 原告の損害(争点9)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告製品は構成要件アを充足するか。
)について
【原告の主張】
(1) 被告製品は,構成Aのとおり,透明な合成樹脂によって形成された角筒形の
胴部1を備える。この胴部1の内面に,コミック本Aの表紙Bを沿わせると,
表紙Bの表面の全面が見える。したがって,この胴部1は,本件考案における
透明な合成樹脂によって形成されたケース本体であるから,被告製品は,本件
考案の構成要件アを充足する。
(2) 被告は,構成要件アにおける「ケース本体を透明な合成樹脂によって形成し」
を,ケース全体が透明な合成樹脂によって形成されていることを必要とすると主
張する。
しかし,本件考案において,ケース本体を透明な合成樹脂によって形成する
のは,段落【0010 】【0011】に記載しているように,ケース本体の内面
に沿わせた表紙をケース本体の外面を通してから見ることができるようにする
ためであるから,ケース本体は表紙を沿わせる部分が透明であれば必要にして
十分であり,表紙を沿わせない部分が透明か不透明かは無関係である。また,
本件考案では,ケース全体を透明にするとは一言も記載していない。さらに,
被告は,ケースの全体を透明な合成樹脂によって一体的に形成すると,重心の
位置が高いため,容易に転倒すると主張するが,ケースの全体を合成樹脂に
よって一体的に形成するということは本件考案の構成要件ではないので,底部
材が一体でないとか,上げ底であるとかということは,本件考案の構成とは無
関係である。
(3) 本件明細書では,段落【0011】において ,「透明なケース本体の開口から
表紙を,ケース本体の内面に沿うように挿入し,この表紙の裏面側に重なるよ
うに,ケース本体の開口に連設した折畳み返し片をケース本体内に折り込むこ
とによって,表紙がケース本体の内面に保持され,この表紙を透明なケース本
体を通して外面から見ることが可能となる 。」と記載し,段落【0029】に,
「表紙Bがケース本体21の内面にぴったりと添うように,表紙Bの裏面側に
は,コ字形に形成した合成樹脂製の保形体23が嵌められている。この保形体
23は,ケース本体21の内面に沿う角筒形に形成してもよい。」と記載してい
るように,本件考案における「ケース本体の内面」とは,表紙が沿う角筒形の
部分を指しており,本件考案が要求する透明部分は,表紙が沿う角筒形の部分で
あって,本件考案では展示の際に見えない底部分まで透明であることを要求して
いない。
被告は,被告製品の底部材に関し被告の乙第11号証の特許出願に基づく主張
を行っているが,かかる特許出願は本件出願後のものであるから,本件考案の構
成要件の解釈に何ら影響を及ぼすものではない。また,被告は,被告製品はレン
タル対象品の上端部がケースよりも上方へ突出することのない本件考案とは基本
思想が異なると主張するが,レンタル対象品の上端部がケースよりも上方へ突出
するかどうかは,本件考案とは無関係のことである。
【被告の主張】
(1) 本件考案は,ケース全体が透明な合成樹脂によって形成されていることを必要
としており,本件明細書はこれに反する記載及び他の構成を許容する記載は全く
存在しない。そもそも,本件考案においてケース本体が透明な合成樹脂によっ
て形成されているのは,ケースの開口の位置に関わらず,外側から表紙が視認
できることを要するからである。つまり,ケース本体の上部に開口がくるよう
に設置した場合でも,側面に開口がくるように設置した場合でも,外側から表
紙が視認できるためには,ケース本体の全体が透明な合成樹脂によって形成さ
れていなければならないのである。また,本件明細書には,「ケース本体11は,
シート状あるいは板状の透明な合成樹脂によって形成され」(【0015 】 ,
)
「シート状あるいは板状の透明な合成樹脂によって 」【0025 】
( )と記載され
ており,ケース本体は透明な合成樹脂によって一体的に形成されるものである
ことが示されている。
これに対し,被告製品は,角筒形の胴部1と底部材2とからなるものであっ
て,胴部1は透明な合成樹脂製であるが,底部材2は不透明な合成樹脂によっ
て形成されている。そして底部材2は,不透明であるだけでなく,立体的な形
状かつ胴部1に比較し重量を有するものであって ,「シート状あるいは板状」の
ものとは全く異なる。このように,被告製品の底部材2が不透明な合成樹脂に
よって形成され,立体的な形状を有し,また重量を有しているのは,ケースの
底部分の重量を重くすることで重心の位置を低くして安定化を図り,ケースが
転倒することを防止するという独自の作用効果を生み出すためである。それ故,
被告製品の胴部1として,より薄いシート材を使用することができるというメ
リットも生ずるのである。これに対し,ケースの全体を透明な合成樹脂によっ
て一体的に形成すると,重心の位置が高いために容易に転倒してしまい,非常
に使いにくいものとならざるを得ない。
また,この底部材2は,レンタル用のコミック本の上部をケースから突出さ
せるように「上げ底」を形成し,さらに,ケース内部の埃などの掃除のために
脱着可能な部材となっている。
つまり,被告製品は,そのケース全体が透明な合成樹脂によって形成されて
いるものではないため,被告製品には構成要件アにいう「ケース本体」に該当
する構成が存在しない。
したがって,被告製品は,構成要件アを充足しない。
(2) 原告は ,「ケース本体は表紙を沿わせる部分が透明であれば必要にして十分で
あり,表紙を沿わせない部分が透明か不透明かは無関係である。」と主張する。
しかし,本件考案は,構成要素としては「ケース本体」と「折り返し片」しかな
く,「ケース本体」は「透明な合成樹脂によって形成」するとされている。しか
も「折り返し片」は「ケース本体」に「連設」されるというのである。つまり,
「ケース本体」は何らの部分的な限定がなされておらず,当該「ケース本体」が
「透明な合成樹脂によって形成」されるのであれば,「ケース本体」の全部分が
「透明な合成樹脂」で作られていると解釈すべきことは当然であって,それに
「連設」されている「折り返し片」まで含め,いわばケースの全体が「透明な合
成樹脂によって形成」されたものを構成要件アの内容としていると解釈すべきこ
とは明白である。原告は,請求項にも明細書にも記載がない「ケース本体は表紙
を沿わせる部分が透明であれば必要にして十分であ」る旨の主張をするが,上記
で明らかなように誤りであり,不当な拡張解釈である。
(3) そもそも,被告製品は,被告の特許出願(乙11)に係る発明の実施品である。
当該発明の【特許請求の範囲 】【請求項1】に「CD,DVD等の記録媒体を収
納した貸出しケース,又は雑誌等の物品上端部を上方へ突出した状態で収容する
レンタル用カバーケースにおいて」とあるとおり,被告製品は,レンタル対象品
の上端部を上方へ突出した状態を生み出すことがなにより必要なものである。そ
れは,乙第3号証に記載された被告のレンタル方法(被告は当該方法に関する特
許第2132868号(乙12)を保有している。
)に供するためである。
したがって,被告製品には,かかる特有の作用効果が存在し,レンタル対象品
の上端部がケースよりも上方へ突出することのない原告の本件考案とは,基本思
想からして全く異なる。
2 争点2(被告製品は構成要件イを充足するか。
)について
【原告の主張】
(1) 被告製品は,胴部1の上面に,商品出し入れ用の開口を備えるので,本件考
案におけるケース本体の一面に,商品の出し入れ用の開口を設けるという,本
件考案の構成要件イを充足する。
(2) 被告は,被告製品は,「コミック本」専用のレンタルケースであるのに対し,
本件考案における商品展示用ケースは,コンパクトディスクやビデオカセット
に限定されていると主張する。しかし,本件考案の対象は,レンタル商品の商
品展示用ケースであり,コンパクトディスクやビデオカセットに限定していな
い(段落【0001 】 。被告製品は,ビデオレンタル店で,レンタル用の「コ
)
ミック本 」,すなわち,レンタル商品を展示するために使用されるものであり,
被告製品は構成要件イを明らかに充足している。
(3) 被告は,本件考案の対象とするレンタル商品が「コンパクトディスク」と
「ビデオカセット」に限定されるとするが,本件考案では,「コンパクトディス
クやビデオカセット」というように ,「や」という用語で,レンタル商品を例示,
総称しており,レンタル商品が「コンパクトディスク」と「ビデオカセット」
に限定されるものではない。被告は,本件考案の当初明細書では,使用目的・
分野が曖昧であったのを,乙第14号証の拒絶理由通知に対応する補正により,
限定・明確化しているとしているが,出願当初から明細書には ,「レンタルシ
ョップでのディスクやビデオカセットのようなレンタル商品」と記載しており,
使用目的・分野は何ら曖昧ではなく,補正により,レンタル商品が限定された
ということはない。因みに,被告の乙第11号証においても,レンタルショッ
プのレンタル商品として,雑誌やビデオテープ,CD,DVD等の例示がなさ
れている(段落【0001】【0002】。
, )
【被告の主張】
(1) 構成要件イは ,「このケース本体の一面に,商品の出し入れ用の開口を設
け,」とされる。
これに対し,被告製品は,胴部1の上面にコミック本の出し入れ用の開口部
を設けるものである。
ここでまず,上述のとおり被告製品の「胴部1」は構成要件イにいう「ケー
ス本体」には該当しない。
また,被告製品は「コミック本」専用のレンタル用ケースである。これに対
し,本件考案が対象としているのは,本件明細書【産業上の利用分野】に記載
されているとおり,あくまで「コンパクトディスクやビデオカセットのレンタ
ル店」における商品展示用ケースである。本件明細書では,「コンパクトディス
クやビデオカセット」と限定しており,その他のレンタルに使用することを想
定したものではない。本件考案の出願日である平成5年当時においては,コ
ミック本のレンタルなど全く想定外であった。つまり,被告製品のような「コ
ミック本」のレンタル店における展示用ケースはその技術的範囲に属するもの
ではない。
したがって,被告製品は,構成要件イを充足しない。
(2) 原告は,本件考案が「コンパクトディスクやビデオカセットに限定していない
(段落【0001】)と主張する。しかし,段落【0001】は,
「コンパクトデ
ィスクやビデオカセットのレンタル店において,レンタル商品を店内で展示する
際に使用する商品展示用ケース」とされており,「コンパクトディスクやビデオ
カセットのレンタル店」と明示しており,これらが例示でないことは明らかであ
る。しかも,本件考案に関する当初明細書(乙13)には,その段落【000
1】において,「この考案は,レンタルショップでのディスクやビデオカセット
のようなレンタル商品を展示するためなどの展示具に関する 。」とされていたも
のを,平成9年6月10日付「拒絶理由通知書」(乙14)を受け,補正後の明
細書(乙15)では,「この考案は,コンパクトディスクやビデオカセットのレ
ンタル店において,レンタル商品を店内で展示する際に使用する商品展示用ケー
スに関するものである 。」とされたものである。つまり,当初の明細書では使用
目的・分野に関して曖昧であったものを,拒絶理由を受けて補正によってわざわ
ざ限定・明確化したものであることは明白である。このように原告の反論には理
由がなく,被告製品が構成要件イを充足しないことは明らかである。
3 争点3(被告製品は構成要件ウを充足するか。
)について
【原告の主張】
(1) 被告製品は,胴部1の開口縁の3辺に,胴部1の内面側に折り返される折り
返し片3a,3bが連設され,この折り返し片3a,3bは,胴部1の内面に,
コミック本Aの表紙Bを沿わせた状態で,胴部1の内側に折り返すと,表紙B
の裏面の一部に重なるようになっている。したがって,被告製品は,本件考案
における,ケース本体の開口縁に,ケース本体の内面に沿わせた表紙の裏面側
に少なくとも一部が重なる折り返し片を連設したという,構成要件ウを充足す
る。
(2) 被告は,本件考案の構成要件ウの「この開口縁に,ケース本体の内面に沿わ
せた表紙の裏面側に少なくとも一部が重なる折り返し片を連設したことを特徴
とする」との記載中の「表紙の裏面側に少なくとも一部が重なる」との文言の
意味が曖昧であるとし,広辞苑や大辞林の「重なる」の説明をわざわざ持ち出
し,構成要件ウは,開口縁に連設された折り返し片が,表紙の裏面側に,その
一部分が「乗る」状態,すなわちぴったりと接触し表紙を押さえるということ
を意味すると主張している。しかしながら,本件考案の図3や図5の実施例で
も,折り返し片はぴったりと接触するようにはしていないし,ぴったりと接触
すると解釈する必要性や必然性はない。本件考案の図3の実施例のように,折
り返し片を内側に復元力を持たせると,商品Aをがたつきなく保持できる(段
落【0020 】 。被告製品の折り返し片3aも同様に内側に復元力を持たせて
)
レンタル商品のがたつきを防止しており,その構造は,本件考案の図3や図5
の実施例の折り返し片と同一である。一方,被告製品の折り返し片3bの方は,
折り返し片3aとは異なり内面側にぴったりと折り返されている。したがって,
被告製品の折り返し片3a,3bが,表紙の裏面にぴったりと接触する状態に
なっていないので,被告製品の折り返し片3a,3bが,本件考案の折り返し
片に該当しないとの被告主張は,明らかに失当である。
(3) 被告は,「重なる」とは ,「物の上に別の同じようなものが乗る。 (広辞苑)
」 ,
「物の上に(同種の)物がさらに置かれて,下の物を覆うようになる。 (大辞
」
林)と説明されているので,構成要件ウは,開口縁に連設された折り返し片が,
表紙の裏面側に,その少なくとも一部分が「乗る」状態,すなわちぴったりと
接触し表紙を押さえるという構成を意味するものと解せられる,と主張する。
被告の同主張は,構成要件ウの「重なる」を「ぴったり重なる」とするもので
あるが,本件考案の構成要件ウでは単に「重なる」としており,「ぴったり重な
る」とはしていない。すなわち,構成要件ウでは ,「ぴったり重なる」とはして
いないので,折り返し片と表紙の裏面とが接触することまでは要求されていな
い。したがって,被告製品の折り返し片が,レンタル商品を挿入しない状態で
は,表紙の裏面に接触しないので,構成要件ウを充足しないというのは,全く
当を得ない。また,「重なる」とは,小学館発行の国語大辞典(第1版)では,
「あるもののうしろに他のものが続き加わる。 ,
」「物や人が次々と後方に位置し
て連なって見える 。」と説明され,被告製品は,折り返し片をケース本体の内面
に折り返すと,折り返し片の先端は少なくともケース本体の内面に沿わせた表
紙に到達して,折り返し片のうしろに表紙が続き加わった状態に,連なって見
えるのであり,被告製品の折り返し片とケース本体の内面に沿わせた表紙との
関係は,「重なる」関係にあり,被告製品は,本件考案の構成要件ウを充足する。
【被告の主張】
(1 ) 構成要件ウは,「この開口縁に,ケース本体の内面に沿わせた表紙の裏面側に
少なくとも一部が重なる折り返し片を連設したことを特徴とする」とされる。
ここで,「表紙の裏面側に少なくとも一部が重なる」との文言の意味が曖昧であ
り不明である。仮に,文言の通常の意味を表すとすると ,「重なる」とは「物の
上に別の同じような物が乗る。 ( 広辞苑」第5版) 「物の上に(同種の)物が
」「 ,
さらに置かれて,下の物を覆うようになる。 ( 大辞林」第2版)などとされて
」「
いるとおり,構成要件ウは,開口縁に連設された折り返し片が,表紙の裏面側
に,その少なくとも一部分が「乗る」状態,すなわちぴったりと接触し表紙を
押さえるという構成を意味するものと解される。
これに対し,被告製品は,胴部1の開口端に折り返し片3a及び3bが連設
されているが,それらを,コミック本Aの表紙Bを胴部1の内面に沿わせた状
態で胴部1の内側に折り返したとしても,折り返し片3a及び3bは中に浮い
ている状態を保ち,たとえ一部分であっても表紙Bとぴったり接触する状態に
はなっていない(乙1)。つまり,被告製品の折り返し片3a及び3bは,単な
る表紙Bの落下・抜け防止のためのものであって,表紙と「重なる」必要は全
くないのであるから,被告製品の「折り返し片3a,3b」は構成要件ウにい
う「折り返し片」には該当しない。
したがって,被告製品は,構成要件ウを充足しない。
(2 ) 原告は,構成要件ウ中の「表紙の裏面側に少なくとも一部が重なる折り返し
片」につき ,「本件考案の図3や図5の実施例でも,折り返し片は何もぴったり
と接触するようにはしていないし,ぴったりと接触すると解釈する必要性や必然
性は全くない。」と主張する。しかし,まず原告の主張は,請求項の「重なる」
という文言の通常の意味を無視しており,妥当ではない。しかも,原告が引用す
る図3及び図5は,ケース本体にレンタル商品を挿入した状態の図を示しており,
請求項1には存在しない「レンタル商品を挿入した際に」ともいうべき条件を加
えた議論を行っており不当である。請求項1には,ケース本体,折り返し片及び
表紙の関係が記載されているのみである。よって,構成要件ウの該当性について
は,レンタル商品をケース本体に挿入しない状態での上記要素に関する議論をす
べきである。よって,レンタル商品を挿入しなければ表紙と重ならないような折
り返し片は,構成要件ウを充足しない。
4 争点4(被告製品は構成要件エを充足するか。
)について
【原告の主張】
(1) 被告製品は,コミック本のレンタルショップで,コミック本を展示するために
使用するケースであるので,本件考案の「商品展示用ケース」という構成要件エ
を充足する。
(2) 被告は,被告製品は「コミック本」専用のレンタル用ケースであるから,構
成要件エにいう「商品展示用ケース」ではない,と主張する。かかる主張が当
を得ないものであることについては,先に構成要件イの項で既に述べたとおり
である。
【被告の主張】
(1 ) 構成要件エは,「商品展示用ケース」とされる。これに対し,被告製品は「コ
ミック本」専用のレンタル用ケースである。前述のとおり,本件考案は,「コン
パクトディスクやビデオカセット」をその「商品」と定義しており,被告製品
は構成要件エにいう「商品展示用ケース」ではない。したがって,被告製品は,
構成要件エを充足しない。
(2) 構成要件イについて述べたことがそのまま当てはまり,被告製品が構成要件エ
を充足しないことは明らかである。
5 争点5(本件考案は旧実用新案法3条1項の規定に違反して登録されたもので同
法37条1項1号により無効にされるべきものであるか。
)について
【被告の主張】
本件考案は,その出願時(平成5年7月20日)において,既に被告により
公然実施されていた物品であるレンタルビデオテープを収納するための貸出展
示用RESPEC PPケース フタ付(乙2。以下「PPケース」という)
にかかる構成と同一であり,新規性を欠く。
ア まず,PPケースは,被告の製造販売に係るもので,1993年(平成5
年)1月ころから販売しているものである。被告のカタログ(乙3)の30
頁上段左から3番目に「PPケース フタ付」と記載されており,同カタロ
グの作成時期については3頁末行に「このカタログは平成5年3月現在の内
容です。」と記載してある。さらに,乙第4号証の1ないし4に示す請求書控
(平成5年1月21日発行)では ,「RESPEC3 PPフタツキ」と記載
されているものである。したがって,PPケースは,本件実用新案登録の出
願日である平成5年7月20日より以前に既に公然と実施され,公知となっ
ていた製品であることは明らかである。
イ PPケースの構成
PPケースは,レンタルビデオ店においてビデオテープの展示・貸出し用
に用いられるケースで,以下のように使用される(乙3,4∼7頁参照 )。P
Pケースにレンタル用のビデオテープを収納し,さらに陳列用外ケース(カ
タログ中では「クイックレンタルケース」と記載)に入れた状態で陳列棚に
陳列する。顧客は,借りようとするビデオテープの入ったPPケースを陳列
用外ケースから抜き取ってカウンターまで持って行く。ただし,レンタル用
のビデオテープには防犯タグシールが貼られているため,カウンターで手続
をせずにPPケースごと店外に持ち出そうとすると,当該防犯タグによって
店の出入口に設置してある防犯装置が反応することになる。そこで,ビデオ
テープを借りる際には,カウンターにて店員が手続をしている間に顧客が防
犯装置のゲートを通過し,その後防犯装置の外で手続済みのビデオテープを
受け取るということになる。
そして,PPケースは,以下の構成となっている(乙2の1∼8参照)
。
① 本体1は,透明な合成樹脂(ポリプロピレン製)によって形成される。
② 本体1の一面に,レンタルビデオテープの出し入れ用の開口を設けてい
る。
③ 上記開口付近の3側面に,幅14mmほどの黄色の帯4をプリントし,
「貸出OK」及び「タイトル確認の上,この透明ケースをカウンターまで
おもち下さい ビデオテープ返却の際は必ず巻き戻して下さい」との記載
を付している。
④ 本体1の開口縁に蓋2及び側片3,3を形成している。
⑤ レンタルビデオテープを収納するための貸出展示用「PPケース」であ
る。
ウ PPケースの構成と本件考案との対比
(ア) 構成要件アについて
構成要件アは ,「ケース本体を透明な合成樹脂によって形成し」であるが,
PPケースは,構成①に示すとおり,本体1が透明な合成樹脂(ポリプロ
ピレン製)によって形成されている。
したがって,構成要件アの内容はPPケースに示されている。
(イ) 構成要件イについて
構成要件イは ,「このケース本体の一面に,商品の出し入れ用の開口を設
け」である。ここで,本件明細書【産業上の利用分野】に記載されている
とおり,本件考案は「コンパクトディスクやビデオカセットのレンタル
店」における商品展示用ケースをその対象としているので,「商品」とはレ
ンタル店におけるコンパクトディスクやビデオカセットをいう。
これに対し,PPケースは,ビデオレンタル店においてレンタルビデオ
テープを収納するためのものであり,構成②のとおり,本体1の一面にレ
ンタルビデオテープの出し入れ用の開口を設けている。
したがって,構成要件イの内容はPPケースに示されている。
(ウ) 構成要件ウについて
構成要件ウは,「この開口縁に,ケース本体の内面に沿わせた表紙の裏面
側に少なくとも一部が重なる折り返し片を連設したことを特徴とする」と
される。
これに対し,PPケースは,構成④にあるように,本体1の開口縁に蓋
2及び側片3,3を形成している。これらは,ビデオテープを本体1に収
納した場合に蓋の役割を果たすのみならず,本体1内に深く折り込むこと
もできる(乙2の3∼8)。その場合,本体1の内面と深く折り込んだ蓋2
及び側片3,3との間に,表紙を挟み込むことができる構成になっている。
よって,PPケースの「蓋2及び側片3,3」は構成要件ウにいう「折
り返し片」に該当するといえる。
(エ) 構成要件エについて
構成要件エは,「商品展示用ケース」とされ,PPケースは,構成⑤にあ
るように,レンタルビデオテープを収納するための貸出展示用「PPケー
ス」である。上述のとおり ,「商品」とは,レンタル店におけるコンパクト
ディスクやビデオカセットをいうのであるから,構成要件エの内容は,P
Pケースに示されている。
エ 新規性の欠如
以上述べたとおり,PPケースと本件考案とは同一の構成を有しているの
で,本件考案の新規性が認められない。
よって,本件考案は,旧実用新案法3条1項に違反して登録されたもので
あり,無効であることは明白であるので,原告の被告に対する実用新案権の
行使は許されない。
【原告の主張】
被告は,乙第2号証の1∼8の写真を提示し,この写真の「PPケース」の構
成が,本件考案の構成と同一であると主張している。被告は,乙第2号証の2の
写真に示された「蓋2」と「側片3」が,本件考案における「折り返し片」に該
当するものであるとしているが,この被告の主張は ,「蓋2」と「側片3」につい
て,現実ではあり得ない使用方法をでっち上げるものである。すなわち,被告は,
乙第2号証の3,4で,「蓋2」と「側片3」を無理やり内側に折り曲げ,無理や
り折り曲げた状態で,乙第2号証の5∼8に示すように,ビデオテープを無理や
り差し込んでいる。乙第2号証の3,4を見ても,「蓋2」と「側片3」が無理や
り内側に折り曲げているということは,内側に折り曲げたが「蓋2」撓んで反っ
ていることからも分かる。乙第2号証の「PPケース」において,ビデオテープ
を差し入れる際に,「蓋2」と「側片3」を内側に折り曲げておくということは,
絶対にあり得ず,ビデオテープを挿し入れる場合には,乙第3号証の4頁の下段
のプロセス3に示されているとおり,「蓋2」と「側片3」は,開口部の上方に開
いておき,ビデオテープを挿し入れてから「蓋2」と「側片3」によって開口部
が閉じるのである。すなわち,「蓋2」と「側片3」は,「PPケース」の開口部
を閉じるものであって,内側に折り返すものではなく,内側に折り返して使用す
ることはあり得ない。
また,乙2号証の「PPケース」の内面に表紙を沿わせて使用することもない。
表紙は,乙第3号証の5頁の下段のプロセス4に示されているとおり,「クイック
レンタルケース」という「PPケース」とは全く別のケースに挿入されており,
「PPケース」に表紙が入れられることはない。
以上のように,被告は,現実ではあり得ない使用方法をでっち上げ,本件考案
の構成がその出願前に公知であったと主張するものであり,被告が主張する無効
理由1は,全く当を得ないものである。
6 争点6(本件考案は旧実用新案法3条の2の規定に違反して登録されたもので同
法37条1項1号により無効にされるべきものであるか。
)について
【被告の主張】
本件考案には,同一の考案であるいわゆる拡大先願が存在し,旧実用新案法3
条の2に反して登録されたもので実用新案登録無効審判により無効にされるべき
ものである。
(1) 乙第5号証に記載されている考案(以下「乙5考案」という 。)は,次のとお
り,本件考案の出願(平成5年7月20日)前に出願され,公開されたもので
ある。
考案の名称 ビデオレンタル用ケースカバー
出願番号 実願平5−18445
出 願 日 平成5年3月22日
優 先 日 平成4年11月16日
公 開 日 平成6年7月22日
公開番号 実開平6−53498
乙5考案は,「ビデオレンタル店で商品の有無を顧客に知らせるために陳列さ
れるビデオケースに付して使用するためのビデオレンタル用ケースカバーに関
するものである 」(乙5考案に係る明細書【0001 】)との記載のとおり,レ
ンタルビデオテープの貸出ケースに関するものである。
乙5考案の【請求項1】の請求の範囲は,次のとおりである。
「ビデオケースを挿脱自在に内包するように形成されたケースカバーと,ケ
ースカバーに内包されるビデオケースに付着される貸出札とから構成され,ケ
ースカバーにはビデオケースのタイトル紙を着脱自在に保持し,貸出札はビデ
オケースがケースカバーに内包されたときにケースカバーから露呈するように
ビデオケースに付着されることを特徴とするビデオレンタル用ケースカバー 。」
したがって,乙5考案の構成は,
① ビデオケースを挿脱自在に内包するように形成されたケースカバーと,
② ケースカバーに内包されるビデオケースに付着される貸出札とから構成さ
れ,
③ ケースカバーにはビデオケースのタイトル紙を着脱自在に保持し,
④ 貸出札はビデオケースがケースカバーに内包されたときにケースカバーか
ら露呈するようにビデオケースに付着される,
⑤ ことを特徴とするビデオレンタル用ケースカバー。
ということができる。
(2) 乙5考案と本件考案の対比
ア 構成要件アについて
本件考案の構成要件アは ,「ケース本体を透明な合成樹脂によって形成し」
である。
これに対し,乙5考案の構成①には,「ビデオケースを挿脱自在に内包する
ように形成されたケースカバー」としか記載がないが,当該ケースカバーは
「ビデオテープのビデオケースに付いているタイトル紙を抜き出し,ケース
カバーに保持させる 」【 0010 】
( )ものであり ,「ビデオケースをケースカ
バーに入れて陳列棚に並べ 」【0011】 ,
( )「顧客はビデオケースのタイトル
紙を見て希望のビデオテープを捜 」【0012】
( )すのであるから,ケースカ
バーは透明でなければならないことは自明である。また,実施例においても,
「ケースカバー2は透明な材料から形成され」【0018 】
( )とされている。
したがって,乙5考案には構成要件アと同一の構成が記載されているとい
える。
イ 構成要件イについて
本件考案の構成要件イは ,「このケース本体の一面に,商品の出し入れ用の
開口を設け,」である。ここで,本件明細書【産業上の利用分野】に記載され
ているとおり,本件考案は「コンパクトディスクやビデオカセットのレンタ
ル店」における商品展示用ケースをその対象としているので,「商品」とは,
レンタル店におけるコンパクトディスクやビデオカセットをいう。
これに対し,乙5考案の構成①は,「ビデオケースを挿脱自在に内包するよ
うに形成されたケースカバー」とされている。つまり,乙5考案においては,
ケースカバーの形状が限定されていない。しかし,ビデオテープカセットが
一般に直方体形状であることから,それを「挿脱自在に内包」し得るケース
としては,少なくとも一面に開口を有する必要があることは自明である。そ
して,乙5考案のケースカバーは,レンタル用のビデオテープを入れたまま
のビデオケースを入れるためのものである。
したがって,乙5考案には構成要件イと同一の構成が記載されているとい
える。
ウ 構成要件ウについて
本件考案の構成要件ウは ,「この開口縁に,ケース本体の内面に沿わせた表
紙の裏面側に少なくとも一部が重なる折り返し片を連設したことを特徴とす
る」とされる。
これに対し,乙5考案では,構成①で「ビデオケースを挿脱自在に内包す
るように形成されたケースカバー」とされ,構成③で「ケースカバーにはビ
デオケースのタイトル紙を着脱自在に保持し」とされているが,ビデオケー
スのタイトル紙をどのように「着脱自在に保持」するかの記載はない。
しかし,実施例として,「ケースカバー2は透明な材料から形成され,相対
的にU字状の横断面形状を有している。U字状断面を有するケースカバー2
の両脚部5,5 の各自由端部には折返し端部6,6 がそれぞれ形成されてお
り,タイトル紙の取付け時にタイトル紙4の両端を挟んで保持するように形
成される。ケースカバー2の両脚部5,5間に形成される空間は,ビデオケー
ス1を挿脱自在に内包するために,ビデオケース1の外形寸法とほぼ同じ寸
法を有している。ケースカバー2は,内包されたビデオケースを弾性的に保
持するように,全体的に弾性を備えているのが好ましく,このとき,両脚部
5,5 の自由端部間の離間間隔はビデオケース1の幅よりも適当に小さくな
るように形成される 。 ( 0018 】
」【 )と記載されている。すなわち,乙5考
案のケースカバーは,開口縁に形成された折返し端部6,6により,タイトル
紙4の両端を挟んで保持される構成が示されている。
とすると,乙5考案ではケースカバーの形状が限定されていないが,少な
くともタイトル紙のケース内での保持に関しては,ケース内の内面にタイト
ル紙を沿わせて,開口縁に形成された折返し端部によって当該タイトル紙を
挟んで保持する構成が示されており,実施例中の「折返し端部」が,構成要
件ウ中の「折り返し片」に該当するものであることがわかる。
したがって,乙5考案には構成要件ウと同一の構成が記載されているとい
える。
エ 構成要件エについて
本件考案の構成要件エは ,「商品展示用ケース」とされ,乙5考案は,レン
タルビデオテープを収納するための「ビデオレンタル用ケースカバー」であ
る。上述のとおり ,「商品」とは,レンタル店におけるコンパクトディスクや
ビデオカセットをいうのであるから,乙5考案には構成要件エと同一の構成
が記載されている。
(3) 以上のとおり,乙5考案には,本件考案と同一の構成である考案が記載され
ている。したがって,乙5考案は本件考案のいわゆる拡大先願に該当すること
となり,本件考案は,旧実用新案法3条の2に違反して実用新案登録されたも
のであるため,その登録は実用新案登録無効審判により無効にされるべきもの
である。
(4) 原告の主張に対する反論
原告は,乙5考案につき,「乙5考案のケースカバーは,ビデオケースの外側
に被せるものであり,ケースそのものではないので,乙5考案のケースカバー
と本件考案のケースとは別物である。」と主張する。
しかし,原告の上記主張は,ケースの定義及び対比を敢えて避けた議論で
あって不当である。
すなわち,本件考案は,「コンパクトディスクやビデオカセットのレンタル店
において,レンタル商品を店内で展示する際に使用する商品展示用ケースに関
するものである 。 【0001】とされ,当該ケースは「レンタル商品」を収納
」
するためのケースであることは明らかである。
しかし,収納すべき物としての「レンタル商品」に関しては,「商品Aを出し
入れする」【0015 】 「挿入した商品A」
, 【0024】などとしか記載されて
おらず,商品の態様に関する具体的な記載はない。したがって ,「レンタル商
品」とは,特殊な商品ではなく出願時における当業者が理解できる範囲の「商
品」であると解される。
とすると,コンパクトディスクやビデオカセットのレンタル店におけるレン
タル商品とは,「レンタル用のケースに入ったコンパクトディスク」及び「レン
タル用のケースに入ったビデオカセット」を意味するということとなる。すな
わち,本件考案のケースに収納された「レンタル商品」は,当該ケースから抜
き取られてレンタルに供されることとなるため(抜き取られた後の当該ケース
は陳列されたままに置かれる ),コンパクトディスクやビデオカセットをむき出
しのままレンタルされることはありえず,必ずレンタル用の別のケースに入れ
られることになるのである。この点,乙第3号証(4∼7頁)でも示されてい
るが,例えばビデオカセットのレンタルの場合は,当該ビデオカセットは貸出
用のケース(貸出用PPケース)にまず入れられて,それらが展示用のケース
(クイックレンタルケース)に収納されることとなるので,レンタルすべき商
品とは,「レンタル用のケースに入ったビデオカセット」ということになる。
また,本件明細書【0023】には,「そして,ケースKから取り出したレン
タル商品であるコンパクトディスクは,傷が付かないように,実公平4−93
51号公報に開示されているようなディスク収容袋,すなわち,ディスクケー
スK’に収納してケース本体11の開口12から両折り返し片14間に挿入さ
れている。」と記載されており,本件考案のケースに収納すべきは「レンタル用
のケースに入ったコンパクトディスク」であることが示されている。
コンパクトディスクやビデオカセットをむき出しのままレンタルすることは
一般人の常識からしてもあり得ないことであるので,本件考案の「レンタル商
品」も,何らかの「レンタル用のケースに入ったコンパクトディスク又はビデ
オカセット」を意味することは明白である。
したがって,本件考案と乙5考案の対比を行えば同一であることは明らかで
ある。
【原告の主張】
被告は,本件考案が乙5考案と同一であるから,本件考案は旧実用新案法3条の
2に違反して登録されたものであると主張する。
しかし,乙5考案のケースカバーは,ビデオケースの外側に被らせるものであり,
ケースそのものではないので,乙5考案のケースカバーと本件考案のケースとは別
物である。
よって,被告の上記主張は理由がない。
7 争点7(本件考案は旧実用新案法3条2項の規定に違反して登録されたもので同
法37条1項1号により無効にされるべきものであるか。
)について
【被告の主張】
乙第6号証又は乙第7号証に,乙第21号証,乙第8号証又は乙第16号証を適
用すれば,本件考案はきわめて容易に想到できるものであって,進歩性を欠く。
(1) 乙第6号証に記載されている考案(以下「乙6考案」という。)は次のとおり
である。
米国特許 4988000
登 録 日 1991年(平成3年)1月29日
出 願 日 1990年(平成2年)2月5日
名 称 “VIDEOCASSETTE STORAGE AND DISPLAY SLEEVE”
「ビデオカセット用収納及び展示ケース」
乙6考案は,レンタルビデオ店において,レンタル用のビデオカセットの収
納,展示ケースに関する発明である。ケースは,透明な柔軟性のある合成樹脂
製で一体成形され,ビデオカセットの出し入れをするための開口を一面に備え
ている。開口部には一対のフランジを設け,開口部からケース内に入れたビデ
オカセットのタイトル表紙とビデオカセットが飛び出ることを防止している。
したがって,乙6考案と本件考案とは,共にビデオレンタル店におけるビデ
オカセットの収納・展示ケースに関するものであって,透明なケースにビデオ
の表紙とビデオカセットを収納する点において同一である。特に,本件考案の
課題及び唯一の作用効果である「表紙の入れ替えを極めて簡単に行うことがで
きる」という点も同一である。ただし,本件考案の「折り返し片」が開口縁か
らケース内部に折り込まれるのに対し,乙6考案の「フランジ17」が開口縁
からケース内部に折り込まれるわけではないという点に差異があるにすぎない。
(2) 乙第7号証に記載されている考案(以下「乙7考案」という。)は次のとおり
である。
米国特許 4987999
登 録 日 1991年(平成3年)1月29日
出 願 日 1990年(平成2年)1月22日
名 称 “VIDEOCASSETTE STORAGE AND DISPLAY SLEEVE”
「ビデオカセット用収納及び展示ケース」
乙7考案は,レンタルビデオ店において,レンタル用のビデオカセットの収
納,展示ケースに関する発明である。ケースは,透明な合成樹脂製で一体成形
され,ビデオカセットの出し入れをするための開口を1面に備えている。開口
部には一対の対向する突起を設け,開口部からケース内に入れたビデオカセッ
トのタイトル表紙とビデオカセットが容易に飛び出ることを防止している。
つまり,FIG.1及びFIG.5にあるように,直方体形状で一面に開口
部21を有する透明な合成樹脂製のケース10の中に,タイトル表紙12及び
ビデオカセットテープ11を収納するものであって,ケース1の開口部21の
開口縁に,開口縁から連設するケース内側に向いた一対の突起24a,24b
を設けてあるため,収納したタイトル表紙12及びビデオカセットテープ11
が容易には飛び出さないようになっているものである。
したがって,乙7考案と本件考案とは,共にビデオレンタル店におけるビデ
オカセットの収納・展示ケースに関するものであって,透明なケースにビデオ
の表紙とビデオカセットを収納する点において同一であり,ただ,本件考案の
「折り返し片」が開口縁からケース内部に折り込まれるのに対し,乙7考案の
「突起24a,24b」は開口縁からケース内部に折り込まれるわけではない
という点に差異があるにすぎない。
(3) 乙第8号証に記載されている考案(以下「乙8考案」という。)は次のとおり
である。
米国特許 5007537
登 録 日 1991年(平成3年)4月16日
出 願 日 1987年(昭和62年)7月11日
名 称 “SLEEVE FOR A PHOTOPRINT CASSETTE”
「写真カセット用ケース」
乙8考案は,写真用カセットを収納及び陳列するケースに関する発明である。
ケースは透明な合成樹脂製で一体成形され,カセットの出し入れをするための
開口を一面に備えている。ケース内部にネガを入れた袋72を保持するために,
開口部には開口縁から連設された片74を設け,当該片74をケース内側に折
り込んで袋72を挟み込み保持する構成となっている(Fig.8)。
したがって,乙8考案と本件考案とは,中に収納する物が「写真カセット」
か「ビデオカセット」か,又ケース内部に保持されるのが「ネガの袋」か「表
紙」かという点に差異があるにすぎない。
(4) 乙第16号証に記載されている考案(以下「乙16考案」という。)は次のと
おりである。
米国特許 4,674,632
登 録 日 1987年(昭和62年)6月23日
出 願 日 1985年(昭和60年)7月18日
名 称 “SLIP CASE PACKAGE FOR BOOK AND COMPUTER SOFTWARE DISK”
「本及びコンピュータソフトウェアディスク用のスリップケース
パッケージ」
乙16考案は,シート状の物(例えば本のような印刷物など)と記録物(例え
ばプログラムを記録したディスクなど)を,同時に収納するのに適したスリップ
ケースに関する発明である。
Fig.1∼Fig.4,Fig.7∼Fig.9にあるように,スリップケ
ース21は,厚紙又は合成樹脂などで一体成形され,本などの出し入れをするた
めの開口39を一面に備えている。本などは第1空間23に収納され,フロッピ
ーディスク24などは第2空間25に収納される。フロッピーディスク24を取
り出す場合には,開口39から差し入れた手によって孔34に指を引っかけるよ
うにして部分32をめくり上げ,顕わになったフロッピーディスク24を取り出
すことになる。
つまり,乙16考案には,直方体形状のスリップケースに本とフロッピーディ
スクを同時に収納する際に,ケースの開口部から連設された折り返し部分とケー
スの壁面との間にフロッピーディスクを収納するという技術が示されている。
したがって,乙16考案と本件考案とは,ケース本体が透明か否かという点の
みに相違があるが,その他の構成は同一である。
(5) 乙第21号証に記載されている考案(以下「乙21考案」という。)は次のと
おりである。
公開番号 FR2971541
公 開 日 1992年(平成4年)7月17日
出 願 日 1991年(平成3年)1月11日
名 称 “Etui à jaquette pour boîte”
「箱用のジャケットカバー」
乙21考案は,特にビデオカセットの包装箱用のジャケットカバー又はカー
ドに関する発明である。一面に開口を有するビデオカセットの包装箱を被覆す
る第1の部分(請求項1の「A 」 「B 」 「C」
, , 。又はFIG1の「A」 「B」
, ,
「C 」)と,箱の内部に入って箱の内面に延びるように構成された第2の部分
(請求項1の5)からなる。当該カバーは柔軟性のある合成樹脂製で成形され
ており,第2の部分(凹部5)が,ビデオカセットの出し入れをするための箱
の開口部分から箱の内部に挿入され,ビデオカセットの出し入れの際に当該ビ
デオカセットを弾性的に支えることができる。
つまり,FIG3(ただし,図2/3には「FIG3」とは記載なし)にあ
るようなカバーを,FIG4,5に示すように,その凹部5及び端縁4をビデ
オカセットの包装用箱の中に挿入することにより,カバーをかける構成になっ
ている。そして,ビデオカセットは,FIG4,5のように,その開口部から,
凹部5,端縁4に弾性的に接触しながら挿入・取り出しがなされるのである。
また,乙21考案のカバーは容易に他の包装箱にかけ直すことができる構成と
なっている。
(6) 乙第6号証を主引例とし,乙第21号証を副引例とする進歩性の欠如
ア 乙6考案と本件考案とは,共にビデオレンタル店におけるビデオカセット
の収納・展示ケースに関するものであって,透明なケースにビデオの表紙と
ビデオカセットを収納する点において同一である。特に,本件考案の課題及
び唯一の作用効果である「表紙の入れ替えを極めて簡単に行うことができ
る」という点も同一である。ただし,本件考案の「折り返し片」が開口縁か
らケース内部に折り込まれるのに対し,乙6考案の「フランジ17」が開口
縁からケース内部に折り込まれるわけではないという点に差異があるにすぎ
ない。
イ 乙21考案は,乙6考案と同様にビデオカセットを収納する技術に関する
ものである。本ジャケットカバーの第2の部分(凹部5)は,ジャケットカ
バー本体と合成樹脂製で一体成形され,ビデオカセットの出し入れをするた
め包装箱の開口から内側に折り込んで包装箱を挟み込み保持する構成となっ
ている。そして,FIG4,5のとおりビデオカセットの出し入れの際に当
該ビデオカセットを弾性的に支えることができるという作用効果も有する。
ウ 以上のとおり,乙6考案及び乙21考案は,共にビデオカセットの収納技
術に関するものであって,内部に収納した表紙又は包装箱が容易に抜け出な
いように,かつ必要な際には容易に取り替えが可能となるという共通の作用
効果を有する。
したがって,乙6考案の「フランジ17」を乙21考案の「凹部5」に置
換することはきわめて容易である。つまり,乙6考案の課題解決のために関
連する乙21考案の技術分野の技術手段すなわち置換可能又は付加可能な技
術手段の適用を行うことは,当業者にとってきわめて容易に想到し得たもの
である。
乙第21号証のFIG4及びFIG5は,本件明細書の図5と同一(図3,
6とほぼ同一)であって,このように断面形状が一致するような技術に想到
することはきわめて容易である。
エ 原告は,乙21考案と乙6考案は技術の本質が根本的に相違する,また作
用効果上の共通性もない旨主張する。
しかし,乙21考案と乙6考案とは,ビデオカセットを収納する技術に関
するものであることは明らかであり,技術的な共通性がある。
また,乙21考案は,内部に保持したもの(包装箱)が容易に抜け出さな
いように,かつ必要なときは第2の部分(凹部5)の折り返しを戻すことに
よって包装箱を交換することができるのであって,これは表紙の脱落防止及
び交換と共通の作用効果を有するものである。
したがって,乙6考案に乙21考案を組み合わせて本件考案に想到するこ
とはきわめて容易であって,そこに何らの阻害要因も存在せず,原告の主張
は誤りである。
(7) 乙第7号証を主引例とし,乙第21号証を副引例とする進歩性の欠如
ア 乙7考案と本件考案とは,共にビデオレンタル店におけるビデオカセット
の収納・展示ケースに関するものであって,透明なケースにビデオの表紙と
ビデオカセットを収納する点において同一である。特に,本件考案の課題及
び唯一の作用効果である「表紙の入れ替えを極めて簡単に行うことができ
る」という点も同一である。ただし,本件考案の「折り返し片」が開口縁か
らケース内部に折り込まれるのに対し,乙7考案の「突起24a,24b」
が開口縁からケース内部に折り込まれるわけではないという点に差異がある
にすぎない。
イ ここで,乙21考案は前記の特徴を有するものであり,乙7考案及び乙2
1考案は,共にビデオカセットの収納技術に関するものであって,内部に収
納した表紙又は包装箱が容易に抜け出ないように,かつ必要な際には容易に
取り替えが可能となるという共通の作用効果を有する。
ウ したがって,乙7考案の「突起24a,24b」を乙21考案の「凹部
5」に置換することはきわめて容易である。つまり,乙7考案の課題解決の
ために関連する乙21考案の技術分野の技術手段すなわち置換可能又は付加
可能な技術手段の適用を行うことは,当業者にとってきわめて容易に想到し
得たものである。
エ 原告は,乙21考案と乙7考案は技術の本質が根本的に相違する,また作
用効果上の共通性もない旨主張するが,この主張に理由がないことは,先に
乙21考案と乙6考案との関係について述べたところと同様である。
(8) 乙第6号証を主引例とし,乙第8号証を副引例とする進歩性の欠如
ア 乙6考案と本件考案との一致点及び相違点については,前記のとおりであ
る。
イ 乙8考案(特にFig.8の実施例)は,写真用カセットを収納及び陳列
するケースに関する発明である。ケース本体が透明な合成樹脂製で一体成形
され,カセットの出し入れをするための開口を一面に備え,ケース内部にネ
ガを入れた袋を保持するために,開口部には開口縁から連設された片を設け,
当該片をケース内側に折り込んで袋を挟み込み保持する構成となっている。
つまり,乙8考案は,写真カセットを収納するとともに写真を展示する目的
も有するために全体が透明な合成樹脂で一体成型されており,しかもネガを
入れる袋を保持するために,開口縁から連設された片が設けられ,それに
よって当該袋を挟んで保持する,すなわち袋に重なるように設置されている
発明が示されている。
ウ 以上のとおり,乙6考案及び乙8考案は,共に展示用ケースに関するもの
であって,内部に収納した表紙又は紙袋が容易に抜け出ないように,かつ必
要な際には容易に取り替えが可能となるという作用効果を有する。
したがって,乙6考案の「フランジ17」を乙8考案の「片74」に置換
することはきわめて容易である。つまり,乙6考案の課題解決のために関連
する乙8考案の技術分野の技術手段すなわち置換可能又は付加可能な技術手
段の適用を行うこと,及び同一の課題を有する乙8考案の技術手段を適用す
ることは,当業者にとってきわめて容易に想到し得たものである。
(9) 乙第7号証を主引例とし,乙第8号証を副引例とする進歩性の欠如
ア 乙7考案と本件考案との一致点及び相違点については,前記のとおりであ
る。
イ 乙7考案及び乙8考案は,共に展示用ケースに関するものであって,内部
に収納した表紙又は紙袋が容易に抜け出ないように,かつ必要な際には容易
に取り替えが可能となるという作用効果を有する。
したがって,乙7考案の「突起24a,24b」を乙8考案の「片74」
に置換することはきわめて容易である。つまり,乙7考案の課題解決のため
に関連する乙8考案の技術分野の技術手段すなわち置換可能又は付加可能な
技術手段の適用を行うこと,及び同一の課題を有する乙8考案の技術手段を
適用することは,当業者にとってきわめて容易に想到し得たものである。
(10) 乙第6号証を主引例とし,乙第16号証を副引例とする進歩性の欠如
ア 乙6考案と本件考案との一致点及び相違点については,前記のとおりであ
る。
イ 乙16考案は,本のような印刷物とフロッピーディスクのような記録物と
を,同時に収納するのに適したスリップケースに関する考案である。同考案
には,直方体形状のスリップケースに本とフロッピーディスクを同時に収納
する際に,ケースの開口部から連設された折り返し部分とケースの壁面との
間にフロッピーディスクを収納する,すなわち,当該折り返し部分がフロッ
ピーディスクに重なるように設けられているという技術が示されている。
ウ 以上のとおり,乙6考案及び乙16考案は,共に展示用ケースに関するも
のであって,内部に収納した表紙又はフロッピーディスクが容易に抜け出な
いように,かつ必要な際には容易に取り替え又は取り出しが可能となるとい
う作用効果を有する。
したがって,乙6考案の「フランジ17」を乙16考案の「部分32」に
置換することはきわめて容易である。つまり,乙6考案の課題解決のために
関連する乙16考案の技術分野の技術手段すなわち置換可能又は付加可能な
技術手段の適用を行うこと,及び同一の課題を有する乙16考案の技術手段
を適用することは,当業者にとってきわめて容易に想到し得たものである。
(11) 乙第7号証を主引例とし,乙第16号証を副引例とする進歩性の欠如
ア 乙7考案と本件考案との一致点及び相違点については,前記のとおりであ
る。
イ 乙7考案及び乙16考案は,共に展示用ケースに関するものであって,内
部に収納した表紙又はフロッピーディスクが容易に抜け出ないように,かつ
必要な際には容易に取り替え又は取り出しが可能となるという作用効果を有
する。
したがって,乙7考案の「突起24a,24b」を乙16考案の「部分3
2」に置換することはきわめて容易である。つまり,乙7考案の課題解決の
ために関連する乙16考案の技術分野の技術手段すなわち置換可能又は付加
可能な技術手段の適用を行うこと,及び同一の課題を有する乙16考案の技
術手段を適用することは,当業者にとってきわめて容易に想到し得たもので
ある。
【原告の主張】
(1) 乙第21号証を副引例とする無効理由に対する反論
ア 乙第6号証を主引例とする無効理由について
被告は,乙21考案は,乙6考案と同様にビデオカセットを収納する技術
に関するものであるとするが,乙21考案は,ビデオカセットを収納する箱
自体に技術の本質があるのではなく,ビデオカセットを収納する箱に被せる
ジャケットカバーに技術の本質があり,乙21考案と乙6考案とは技術の本
質が根本的に相違する。
被告は ,「乙6考案及び乙21考案は,共にビデオカセットの収納技術に関
するものであって,内部に収納した表紙又は包装箱が容易に抜け出さないよ
うに,かつ必要な際には容易に取り替えが可能となるという共通の作用効果
を有する。」としているが,乙21考案は箱の外面に被せるカバーに関するも
のであるから,乙21考案には箱の内面に表紙を収納する発想自体が全くな
く,乙21考案に箱の内面に収納した表紙を抜け出さないようにするという
ような作用効果はそもそもなく,乙21考案と乙6考案の間に作用効果上の
共通性はない。
したがって,乙6考案の「フランジ17」と乙21考案の表紙の第2の部
分(5)とを置換するというような発想自体が生じる余地はなく,乙6考案
の「フランジ17」と乙21考案の表紙の第2の部分(5)とを置換するこ
とにより,本件考案が得られるとするのは誤りである。
イ 乙第7号証を主引例とする無効理由について
被告は,「乙7考案及び乙21考案は,共にビデオカセットの収納技術に関
するものであって,内部に収納した表紙又は包装箱が容易に抜け出さないよ
うに,かつ必要な際には容易に取り替えが可能となるという共通の作用効果
を有する。
」とする。
この点については,上記アにおいても述べたように,乙21考案は箱の外
面に被せるカバーに関するものであるから,乙21考案には箱の内面に表紙
を収納する発想自体が全くなく,乙21考案に箱の内面に収納した表紙を抜
け出さないようにするというような作用効果はそもそもなく,乙21考案と
乙7考案の間に作用効果上の共通性はない。
したがって,乙7考案の「突起24a,24b」と乙21考案の表紙の第
2の部分(5)とを置換するというような発想自体が生じる余地はなく,乙
7考案の「突起24a,24b」と乙21考案の表紙の第2の部分(5)と
を置換することにより,本件考案が得られるとするのは誤りである。
ウ 被告は,乙第21号証のFIG4及びFIG5は,本件明細書の図5と同
一であると主張する。
しかしながら,乙第21号証のFIG4及びFIG5と,本件明細書の図
5とは,表紙とケースの内外の関係が全く逆の関係になっており,構造が全
く相違する。すなわち,乙第21号証のFIG4及びFIG5では,表紙,
すなわち,ジャケットカバーがケースの外側に位置し,ケースが表紙の内側
にあり,表紙が外面に露出し,表紙を,ケースを通して見るという構造でな
いのに対し,本件考案では,表紙がケースの内側に位置し,ケースが表紙の
外側に位置し,表紙を透明なケースを介して見る構造になっている。
そして,乙第21号証のFIG4及びFIG5では,表紙に折り返し片が
設けられているのに対し,本件考案では,ケースに折り返し片を設けており,
折り返し片を設けるのが表紙かケースかという点において両者は根本的に相
違している。
(2) 乙第6号証を主引例とし,乙第8号証又は乙第16号証を副引例とする無効理
由に対する反論
ア 被告は,乙6考案と本件考案とは,共にビデオレンタル店におけるビデオ
カセットの収納・展示ケースに関するものであって,透明なケースにビデオ
の表紙とビデオカセットを収納する点において同一であるとし,両者は,本
件考案の「折り返し片」が開口縁からケース内部に折り込まれるのに対し,
乙6考案の「フランジ17」が開口縁からケース内部に折り込まれない点に
のみに差異を有するとしている。
しかしながら,乙6考案には,本件考案の「折り返し片」が,「ケース本体
の内面に沿わせた表紙の裏面側に少なくとも一部が重なる」ものであるとい
う点についての開示がない。また,被告は本件考案の課題及び唯一の作用効
果が,「表紙の入れ替えを極めて簡単に行うことができる」点だけにあるとし
ているが,本件考案は,折り返し片を内向きに折り返すことにより,折り返
し片に内向きの復元力を生じさせ,この復元力により,挿入した商品Aをケ
ース本体内にがたつきなく保持させるという明細書の段落【0020】に記
載の作用効果もあり,乙6考案の「フランジ17」にはこのような作用効果
がないという点でも両者は相違するものである。
イ 次に,被告は,乙6考案の「フランジ17」を乙8考案の「片74」に置
換することはきわめて容易であるとしている。
しかしながら,乙6考案の「フランジ17」は,ビデオカセットとビデオ
の表紙の取り出しを制限するものであるから,「フランジ17」を内側に折り
込むと,ビデオカセットの取り出しを制限できないので,乙6考案の「フラ
ンジ17」を内側に折り込むということはその目的からして想定しないもの
であるとともに,「フランジ17」を挿入したビデオカセットのがたつき防止
にしようとする発想も乙6考案からは生じない。
また,乙8考案は,写真用カセットのケースに関するものであり,乙8考
案の「片74」はネガ袋をケース内に保持するためのものであって,写真用
カセットの取り出しを制限するものではない。よって,これをビデオカセッ
トとビデオの表紙の取り出しを制限する乙6考案の「フランジ17」に置換
すると乙6考案の目的を達成できないこと明らかで,乙6考案の「フランジ
17」を乙8考案の「片74」に置換するなどということは乙6考案の「フ
ランジ17」の目的からしてあり得ないことである。
ウ 次に,被告は,乙6考案の「フランジ17」を乙16考案の「部分32」
に置換することはきわめて容易であると主張する。
しかしながら,乙16考案は,本とフロッピーディスクとを同時に収納し
ておくケースに関するものであり,乙16考案の「部分32」はフロッピー
ディスクの抜け出しを防止するものであって,本の取り出しを防止するもの
ではない。
上記のように,乙6考案の「フランジ17」は,ビデオカセットとビデオ
の表紙の取り出しを防止するものである。他方 ,「部分32」はフロッピーデ
ィスクの抜け出しを防止するものであり,本の取り出しを防止するものでは
ない。よって,乙8考案の「片74」と同様に,乙6考案の「フランジ1
7」を乙16考案の「部分32」に置換するなどということは乙6考案の
「フランジ17」の目的からしてあり得ないことである。
エ このように乙6考案に,乙8考案又は乙16考案を組み合わせること自体,
乙6考案の目的からしてあり得ないことであるから,乙6考案に,乙8考案
又は乙16考案を組み合わせて本件考案をきわめて容易に推考できるとする
被告の主張は当を得ないものである。
(3) 乙第7号証を主引例とし,乙第8号証又は乙第16号証を副引例とする無効理
由に対する反論
ア 被告は,乙7考案と本件考案とを対比し,両者の相違は,本件考案の「折
り返し片」が開口縁からケース内部に折り込まれるのに対し,乙7考案の
「突起24a,24b」が開口縁からケース内部に折り込まれない点にのみ
にあるとしている。
しかしながら,乙7考案には,乙6考案と同様に,本件考案の「折り返し
片」が,「ケース本体の内面に沿わせた表紙の裏面側に少なくとも一部が重な
る」ものであるという点についての開示がない。
また,被告は本件考案の課題及び唯一の作用効果が ,「表紙の入れ替えを極
めて簡単に行うことができる」点だけにあるとしているが,本件考案は,折
り返し片を内向きに折り返すことにより,折り返し片に内向きの復元力を生
じさせ,この復元力により,挿入した商品Aをケース本体内にがたつきなく
保持させるという本件明細書の段落【0020】に記載の作用効果もあるの
に対し,乙7考案の「突起24a,24b」にはこのような作用効果もない
点で乙7考案と本件考案とは相違する。
イ そして,被告は,乙7考案の「突起24a,24b」を乙8考案の「片7
4」に置換することはきわめて容易であるとする。
乙7考案の「突起24a,24b」は,ケース10の中に,タイトル表紙
12とビデオカセット21を飛び出さないようにするためのものであって,
乙7考案の「突起24a,24b」はビデオカセット21の上方のビデオカ
セット21に当接しない位置に設けられている。そのために乙7考案の「突
起24a,24b」によって,挿入したビデオカセットのがたつき防止にし
ようとする発想など乙7考案からは生じ得ない。
また,乙8考案は,写真用カセットのケースに関するものであり,乙8考
案の「片74」はネガ袋をケース内に保持するためのものであって,写真用
カセットの飛び出しを防止するものではないので,タイトル表紙12とビデ
オカセット21の飛び出しを防止する乙7考案の「突起24a,24b」を,
乙8考案の「片74」に置換することは,乙7考案の「突起24a,24
b」の目的からしてあり得ない。
ウ また,被告は,乙7考案の「突起24a,24b」を乙16考案の「部分
32」に置換することはきわめて容易であると主張する。
しかしながら,乙16考案は,本とフロッピーディスクとを同時に収納し
ておくケースに関するものであり,乙16考案の「部分32」はフロッピー
ディスクの抜け出しを防止するものであり,本の抜け出しを防止するもので
はない。
上記のように,乙7考案の「突起24a,24b」は,ビデオカセットと
ビデオの表紙の取り出しを防止するものであるから,「部分32」はフロッピ
ーディスクの抜け出しを防止するものであって,本の取り出しを防止するも
のではないので,乙8考案の「片74」と同様に,乙7考案の「突起24a,
24b」を乙16考案の「部分32」に置換することは,乙7考案の「突起
24a,24b」の目的からしてあり得ないことである。
エ したがって,乙7考案に,乙8考案又は乙16考案を組み合わせること自
体,乙7考案の目的からしてあり得ないことであるから,乙7考案に,乙8
考案又は乙16考案を組み合わせて本件考案をきわめて容易に推考できると
する被告の主張は当を得ないものである。
8 争点8(本件考案は旧実用新案法5条5項1号に違反して登録されたもので同法
37条1項3号により無効にされるべきものであるか。
)について
【被告の主張】
(1) 本件考案は,本件明細書記載の作用効果を有さないものであるから,旧実用
新案法5条5項1号に反して登録されたものといえ,同法37条1項3号によ
り無効にされるべきものである。
本件明細書には,「ところが,上記商品展示用ケース1への表紙6の取付けは,
上記のように,商品展示用ケース1の外面に,表紙6と保護シート7を順次重
ねて,保護シート7を熱接着するというものであるから,その作業が煩雑であ
ると共に,表紙の入れ替えが困難であるという問題があった。そこで,この考
案は表紙の入れ替えを極めて簡単に行うことができる商品展示用ケースを提供
しようとするものである 。 ( 0007】
」【 【考案が解決しようとする課題 】 【0
,
008 】)とし,「以上のように,この考案によれば,透明なケース本体の内面
に表紙を保持することができるので,表紙の入れ替え作業を極めて簡単に行う
ことができる。 ( 0033】
」【 【考案の効果】)と記載されており,原告もそれに
沿った主張をしている。
しかし,本件考案の構成によって,表紙の入れ替え作業をきわめて簡単に行
うことができるということは誤りであり,本件考案では,本件明細書記載の効
果は生じない。もともと,本件明細書中で指摘されている従来のケース( 00
【
02】∼【0006 】,図11)に,「その作業が煩雑であると共に、表紙の入
れ替えが困難であるという問題」【0007】
( )は存在しない。
乙第10号証に従来のケースの例を示すが,これは被告がPPケースと同時
期に販売していたケースであって,前述のとおり「クイックレンタルケース」
という商品名である(乙2,30頁上段左から1,2番目に記載)。当該従来ケ
ースの場合,表紙を入れ替えるためには,ケースを開いて保護シートとケース
との間に隙間を作ってやれば容易に表紙を抜き出せ,そこに新たな表紙を挿入
すれば良いだけのことである(乙2,4頁も参照)
。
作業の難易についていえば,本件考案では,ケース11の内側に入れられた
表紙Bは,折り返し14と両側面壁13とに挟まれた状態にあるため,ケース
内側に折り込まれた折り返し片14を,ケースの外側に向けて折り返さなけれ
ばならないのである。実施例では2面の側面に折り返し片が形成されているた
めに,両方の折り返し片に対してかかる作業を行う必要があり,従来のケース
に比べ「表紙の入れ替え作業を極めて簡単に行うこと」など到底不可能である。
このように,本件考案は,本件明細書記載の効果を奏さないという瑕疵があ
り,またそれが唯一の効果として記載されているものなのであるから,本件考
案は作用効果がない考案,つまり未完成といわざるを得ない。
したがって,本件考案は,実用新案登録を受けようとする考案が考案の詳細
な説明に記載したものであるとはいえないのであるから,旧実用新案法5条5
項1号に反して登録されたものといえ,同法37条1項3号により無効にされ
るべきものである。
(2) 原告は,乙第10号証の従来のケースにおける表紙の入れ替え作業につき,
ことさら困難性があるかのごとく反論するが,全く誤っているといわざるを得
ない。
つまり,乙第10号証で示される従来のケースにおいては,単に180度以
上に蓋を開くだけで,ケース表面に設置された透明シートが浮き上がりケース
との間に隙間ができるため(乙10の4),表紙は簡単に抜き出すことができる
のである(乙10の5・6 )。本件考案は,これと比較して ,「表紙の入れ替え
作業を極めて簡単に行うことができる」とされているが,どこにそんな作用効
果が存するというのか全く理解できない。
最も重要なことは,本件考案が,かかる点を唯一の作用効果としていること
である。本件明細書には,従来技術,課題,作用効果の全てにおいて,この点
しか触れられていない。かかる不明確な作用効果しかない考案に,専用権,禁
止権を伴う強力な権利(実用新案権)を付与すべきではないことは明らかであ
る。
【原告の主張】
被告は,乙第10号証の従来ケースにおいても,表紙の入れ替えは容易である
から,本件考案の作用効果として,表紙の入れ替え作業を極めて簡単に行うこと
ができるとするのは誤りであると主張する。
しかしながら,乙第10号証の従来ケースの場合,表紙を入れ替えるには,乙
10号証の4のように,ケースを開いて保護シートとケースの間に隙間を作り,
この隙間の間に表紙を挿し入れていくわけであるが,この挿し入れが表紙と保護
シートとの摩擦によってなかなかスムーズに行かない。
したがって,本件考案の表紙の入れ替え作業と乙第10号証の従来ケースの表
紙の入れ替え作業を比較しても,本件考案の表紙の入れ替え作業は極めて簡単で
あるから,本件考案に,被告が主張するような作用効果についての不備はない。
9 争点9(原告の損害)について
【原告の主張】
(1) 原告損害の推定方法
被告が本件実用新案権の侵害行為により受けた利益の額が,原告が受けた損
害額と推定される(実用新案法29条2項)。
被告が本件実用新案権の侵害行為により受けた利益の額は,以下のとおり計
算される。
(被告製品を使う店舗数)×(1店舗あたりの平均冊数)
×(平均単価)×(利益率)
(2) 原告損害の推定
ア 店舗数
(ア) 被告作成の製品カタログ
平成16年(2004年)7月現在,被告製品を導入したのは,150
店舗であった(甲3)。
この記載は,被告自身が作成,頒布していたカタログに掲載されたもの
であり,後述のTSUTAYAが本格参入する平成19年4月より2年以
上も前である平成16年7月現在で,すでに,被告製品を使用する店が1
50店舗もあったということがわかる。
(イ) 株式会社TSUTAYA
株式会社TSUTAYA(以下「TSUTAYA」という。)は,平成1
9年4月よりコミックレンタルを開始し(甲6),平成20年3月末までに
150店舗に拡大する(甲7)。なお,平成20年2月1日現在,同社のホ
ームページによると122店舗であるが(甲8),同社は店舗数を急拡大し
ている途上であるから,損害額の算定としては150店舗とするべきであ
る(同社は,自らのホームページで,「店舗数の急拡大,当初計画の上方修
正」を公言している。甲7)。
TSUTAYAは,被告製品を使用している。
(ウ) 株式会社ゲオ
株式会社ゲオ(以下「ゲオ」という。)は,全国219店舗でコミックレ
ンタル事業を行っている(甲9)。
ゲオは,被告製品を使用している。
(エ) 株式会社ファミリーブック
株式会社ファミリーブック(以下「ファミリーブック」という。)は,全
国10店舗でコミックレンタル事業を行っている(甲10)
。
ファミリーブックは,被告製品を使用している。
(オ) 小計
以上から,被告製品を使用している店舗数は,150(被告カタログ)
+150(TSUTAYA)+219(ゲオ)+10(ファミリーブッ
ク)=529(店舗)
なお,この他には,中小のレンタルグループ所属の店舗が相当数存在す
る。
イ 1店舗当たりの被告製品の販売数
1店舗当たりのレンタルコミック冊数は,平均2万5000冊であり(甲
3),1店舗当たり同数量の被告製品が販売されている。
なお,品揃えによる人気増加,営業効率等から,1店舗に5万5000冊
ものレンタルコミックを並べている店舗もある(甲11)
。
ウ 平均単価
被告のカタログ(甲3)によれば,被告製品の平均単価は,61.2円で
ある。
エ 利益率
被告製品の利益率は,20%を下回らない。
被告製品のように短期間に急激な市場拡大をみた商品にあって,利益率は,
経験的に50%を超える。
オ 損害額
以上からすると,被告が本件実用新案権の侵害行為により受けた利益は,
529(店舗)×25000(1店舗当たりの冊数)×61.2(平均単
価)×20% = 1億6187万4000円
となり,この利益の額は,実用新案法29条2項により,原告が受けた損害
額と推定される。
【被告の主張】
(1) 実用新案法29条2項の主張について
実用新案法29条2項は,原告自身が本件考案を実施していることがその前
提となっている規定であり,原告は,本件考案を実施していないのであるから,
そもそも同項は適用できない。
(2) 推定覆滅事由
仮に実用新案法29条2項が適用されたとしても,以下のとおり損害の推定
は及ばない。
ア 本件考案の欠陥性
本件考案の請求項1にかかる考案は,いわば不完全ともいうべき欠陥を有
した考案であって,本件考案そのままの実施品は,市場で受け入れられるこ
とはない。現在のレンタルショップにおけるレンタルの方式は,そもそも被
告の発明である特許方式の思想に基づくものが大半である(乙12の1,乙
3)。被告製品が販売できた理由は,本件考案によるのではなく,乙第11号
証に示すような上げ底部分(底部材2)の存在(被告特許に示されたレンタ
ル方式思想の選択)によるのである。被告製品における本件考案の寄与度は
きわめて低く,例えば,乙6考案,乙7考案等従来技術の存在を考慮すると,
被告製品においては,ケース上部の折り返し片3a,3b部分のみしか寄与
していないというべきである。
イ 市場占有率
原告は,コミックレンタル用のケース分野における被告製品の市場占有率
は90%を下回ることはない旨主張するが,被告のシェアはせいぜい7割程
度と見込まれる。被告の製造・販売するDVDケースのシェアが90%で
あったとしても,同レンタル店が全てコミックを扱うわけではない。被告製
品の競合製品として,他に訴外株式会社ソフトサービス,訴外トマトランド
株式会社などの製品が存在し(乙19,20),それらのシェアは30%程度
と見込める。したがって,被告の行為がなかったならば,その全ての数量に
つき原告の製品が売れたという関係にはない。
ウ 被告製品の販売数量・金額等
被告製品の販売開始日である平成16年4月7日から平成20年2月29
日までの,被告製品(5種類)の販売数量は1106万8200個であり,
売上金額は4億0489万円である。
なお,被告製品の製造・販売にかかる経費としては,被告製品の設計委託
費,金型代,人件費(被告のケース(被告製品,ビデオ,DVD等を含め)
の受付,発送,梱包等には,4名の従業員が専属で従事しており,当該従業
員に関するもののうち,コミックレンタルケースに必要な人件費の割合)等
が考えられる。
したがって,被告の得た利益は,少なくとも上記変動経費を控除した限界
利益(4億0489万円×20%−経費)というべきである。
第4 争点に対する当裁判所の判断
1 争点1(被告製品は構成要件アを充足するか。
)について
(1) 本件考案の構成要件アは,「ケース本体を透明な合成樹脂によって形成し」で
ある。
ここでいう「ケース本体」の解釈に関して,被告は,「本件考案は,ケース全
体が透明な合成樹脂によって形成されていることを必要とする。」旨主張するの
に対し,原告は,「ケース本体は表紙を沿わせる部分が透明であれば必要にして
十分であり,表紙を沿わせない部分が透明であるか不透明かは無関係である。」
と主張する。このように,原被告の主張は ,「ケース本体」すなわち「透明な合
成樹脂によって形成」されることを要する部分がケース全体なのか表紙を沿わせ
る部分だけなのかについて対立している。
(2) そこで,構成要件アにいう「ケース本体」の意義について検討する。
ア 本件明細書には「ケース本体」がいかなるものであるかを直接に定義した記
載はない。もっとも,本件明細書において「ケース本体」がケースのどの部分
を指すかに関する記載としては,
【考案の詳細な説明】に次の記載がある。
(ア) 段落【0011】
「透明なケース本体の開口から表紙を,ケース本体の内面に沿うように
挿入し,この表紙の裏面側に重なるように,ケース本体の開口に連設した
折畳み返し片をケース本体内に折り込むことによって,表紙がケース本体
の内面に保持され,この表紙を透明なケース本体を通して外面から見るこ
とが可能となる。」
(イ) 段落【0029】
図7及び図8に示す実施例に関して,「表紙Bがケース本体21の内面に
ぴったりと添うように,表紙Bの裏面側には,コ字形に形成した合成樹脂
製の保形体23が嵌められている。この保形体23は,ケース本体21の
内面に沿う角筒形に形成してもよい。」
イ 段落【0011】の記載によれば,「ケース本体」を透明な合成樹脂によっ
て形成するのは,ケース本体の内面に保持された表紙を「ケース本体」を通し
て外面から見ることを可能にするためであることが認められる。段落【002
9】は,同趣旨を前提とする実施例に関する記載である。したがって,ケース
において表紙を沿わせる部分が「透明な合成樹脂によって形成」される必要が
あることは明らかであるが,ケースにおいて表紙を沿わせない部分まで「透明
な合成樹脂によって形成」される必要があることを示す記載はなく,実際上も,
ケースにおいて表紙を沿わせない部分が「透明な合成樹脂によって形成」され
ていないとしても,本件考案の作用効果は何ら異ならないことが明らかである。
したがって,本件考案は,ケースにおいて表紙を沿わせない部分を「透明な合
成樹脂によって形成」することは要求していないものというべきである。
以上によれば,構成要件アの「ケース本体」は,ケースにおいて表紙を沿わ
せる部分,すなわち正面壁及び側面壁によって構成される部分を意味し,表紙
を沿わせない部分,すなわち底部は,「ケース本体」に含まれないものという
べきである。
なお,被告は,「ケース本体は透明な合成樹脂によって一体的に形成される
必要がある。」旨も主張するが,本件考案の構成要件は,
「ケース本体を透明な
合成樹脂によって形成し」であり,ケース本体を透明な合成樹脂によって「一
体的に」形成するということまでは本件考案の構成要件とはされていない。
また,被告は,「被告製品は被告の特許出願(乙11)に係る発明の実施品
であり,レンタル対象品の上端部を上方へ突出した状態を生み出すことがなに
より必要なものであるから,レンタル対象品の上端部がケースよりも上方へ突
出することのない本件考案とは基本思想からして全く異なる」旨主張するが,
同主張は,「ケース本体」の意義に関する上記解釈を妨げるものではない。
(3) 以上を前提として,被告製品が構成要件アを充足するか否かについてみると,
被告製品は,透明な合成樹脂によって形成された角筒形の胴部1を備え(構成A
①),この胴部1の内面にコミック本Aの表紙Bを沿わせる(構成C)と,表紙
Bを胴部1を通して外面から見ることができるから,被告製品の胴部1は,構成
要件アの「ケース本体」に当たるということができる。
したがって,被告製品は,構成要件アを充足する。
2 争点2(被告製品は構成要件イを充足するか。
)について
(1) 本件考案の構成要件イは,「このケース本体の一面に,商品の出し入れ用の開
口を設け」である。
被告は,ここでいう「商品」の解釈について,「本件考案は ,『コンパクトデ
ィスクやビデオカセット』を『商品』として定義している。」旨主張するのに対
し,原告は,「本件考案の対象は,レンタル商品の商品展示用ケースであり,
『商
品』をコンパクトディスクやビデオカセットに限定していない。」と主張する。
このように,原被告の主張は,本件考案に係る展示用ケースに展示される「商
品」が「コンパクトディスクやビデオカセット」に限定されるものであるか否
かについて対立する。
(2) そこで,構成要件イにいう「商品」の意義について検討する。
ア 本件明細書には,「商品」とはいかなるものを指すかを具体的に定義した記
載はない。もっとも,本件明細書において「商品」に関する記載としては,
【考案の詳細な説明】に次の記載がある。
(ア) 段落【0001】
「この考案は,コンパクトディスクやビデオカセットのレンタル店におい
て,レンタル商品を店内で展示する際に使用する商品展示用ケースに関する
ものである。」
(イ) 段落【0002】
「従来,コンパクトディスクやビデオカセットのレンタルショップにおい
ては,図11に示すように,上面が開口する商品展示用ケース1にレンタル
商品3を収容して,店内の商品陳列棚に展示している。そして,商品展示用
ケース1からレンタル商品3を抜き取り易くするために,商品展示用ケース
1にレンタル商品3を収容した状態で,レンタル商品3の上部が商品展示用
ケース1の上方に少し突出するようになっている。
」
(ウ) 段落【0022】
「図6に示す実施例は,コンパクトディスクの空のケースK自体を,表紙
にして,ケース本体11内に挿入して一方の折り返し片14によってケース
本体11内に保持している。
」
(エ) 段落【0023】
「そして,ケースKから取り出したレンタル商品であるコンパクトディス
クは,傷が付かないように,実公平4−9351号公報に開示されているよ
うなディスク収容袋,即ち,ディスクケースK’に収納してケース本体11
の開口12から両折り返し片14間に挿入されている。
」
イ 上記のとおり,本件明細書には ,「コンパクトディスクやビデオカセットの
レンタル店」(段落【0001】,
)「コンパクトディスクやビデオカセットのレ
ンタルショップ」(段落【0002】
)との記載があるところ,これらの記載は,
「レンタル商品としてコンパクトディスクやビデオカセットを取り扱うレンタ
ル店(レンタルショップ)
」を意味するものである。
しかして,レンタル店(レンタルショップ)には,取扱商品によって種々の
ものがあり,「コンパクトディスクやビデオカセット」を取り扱うレンタル店
(レンタルショップ)から,家具や電化製品を取り扱うレンタル店(レンタル
ショップ)まで多岐にわたることは一般常識として明らかであるから,上記記
載は,「レンタル店(レンタルショップ )」の範囲を ,「コンパクトディスクや
ビデオカセットを取り扱うレンタル店(レンタルショップ )」に限定したもの
ということができる。
ただし,その「レンタル店(レンタルショップ)」が取り扱う「商品」に関
しては,本件明細書においては,「コンパクトディスクやビデオカセット」と
表現され,「コンパクトディスクとビデオカセット」とか,
「コンパクトディス
ク及びビデオカセット」などという表現と比べれば,そこでいう「商品」を
「コンパクトディスク」及び「ビデオカセット」という2種類の商品に限定せ
ず,他の商品を包含するニュアンスがある表現といえる。また,「コンパクト
ディスクやビデオカセット」を取り扱うレンタル店(レンタルショップ)につ
いても,社会状況に応じて,その取扱商品の種類に増減変更があることは世上
通常に見られることからすると,「コンパクトディスクやビデオカセットのレ
ンタル店(レンタルショップ)」との記載は,その取扱いに係るレンタル商品
として「コンパクトディスクやビデオカセット」を例示したものと認められ,
将来取り扱う商品も含めて ,「コンパクトディスクやビデオカセット」以外の
商品を排除するものとまではいえないというべきである。
そうすると,構成要件イにいう「商品」は,コンパクトディスク及びビデオ
カセットに限定されるものではなく,レンタル商品としてコンパクトディスク
やビデオカセットなどを取り扱うレンタル店(レンタルショップ)が取り扱い,
本件考案がその作用効果を発揮し得るレンタル商品一般を意味するものと認め
られる。
ウ 被告は ,「本件考案の出願当初の明細書(乙13)では本件考案に係る商品
展示用ケースの使用目的・分野が曖昧であったものを,拒絶理由通知(乙1
4)を受けて行った補正により,補正後の明細書(乙15)でわざわざ使用目
的・分野を限定・明確化したものである。
」旨主張する。
なるほど,証拠(乙13ないし15)によれば,本件考案の出願当初の明細
書には,「この考案は,レンタルショップでのディスクやビデオカセットのよ
うなレンタル商品を展示するためなどの展示具に関する 。 (段落【000
」
1】)と記載されていたこと,平成9年6月10日付け拒絶理由通知書(乙1
4)を受けて補正がなされたこと,補正後の明細書では,「この考案は,コン
パクトディスクやビデオカセットのレンタル店において,レンタル商品を店内
で展示する際に使用する商品展示用ケースに関するものである。(段落【00
」
01】)とされたことが認められる。
しかし,出願当初の明細書においても,本件考案に係る展示具の使用目的・
分野については,「ディスクやビデオカセットのようなレンタル商品を展示す
るための展示具」として明確に記載されており,拒絶理由通知(乙14)にお
いても,この点の記載が不明瞭であるとの指摘はなされていない。そうすると,
段落【0001】に係る上記補正は,出願当初の明細書で使用目的・分野が曖
昧だったものを,あえて限定・明確化したものであるとは認められない。
したがって,被告の上記主張は採用できない。
エ なお,被告は,被告製品の胴部1は構成要件イにいう「ケース本体」に該当
するものではないから,被告製品は構成要件イを充足しないとも主張するが,
被告製品の胴部1が「ケース本体」に該当することは前記1のとおりである。
(3) 以上を前提として,被告製品が構成要件イを充足するか否かについてみると,
被告製品は,コミック本等をレンタルするレンタル店(レンタルショップ)にお
いて,レンタル商品であるコミック本を展示する際に使用するケースである(弁
論の全趣旨)ところ,証拠(甲6ないし10)によれば,コミック本がコンパク
トディスクやビデオカセットと同様にレンタルされていることが認められること
から,コミック本は「レンタル商品としてコンパクトディスクやビデオカセット
などを取り扱うレンタル店(レンタルショップ)が取り扱い,本件考案がその作
用効果を発揮し得るレンタル商品一般」に当たるものと認められる。
したがって,被告製品に展示されるコミック本は,構成要件イにいう「商品」
に当たり,また,被告製品は,胴部1の上面にコミック本の出し入れ用の開口を
備えている(構成B)ことから構成要件イを充足するものというべきである。
3 争点3(被告製品は構成要件ウを充足するか。
)について
(1) 本件考案の構成要件ウは,「この開口縁に,ケース本体の内面に沿わせた表紙
の裏面側に少なくとも一部が重なる折り返し片を連設したことを特徴とする」で
ある。
被告は,ここでいう「表紙の裏面側に少なくとも一部が重なる」の解釈につい
て,『重なる』の通常の意味からすると,構成要件ウにいう『表紙の裏面側に少
「
なくとも一部が重なる』とは,開口縁に連設された折り返し片が,表紙の裏面側
に,その少なくとも一部分が『乗る』状態,すなわち ,『ぴったりと接触し表紙
を押さえるという構成』を意味する」旨主張する。これに対し,原告は,「構成
要件ウでは,『重なる』については,単に『重なる』としており,
『ぴったり重な
る』とはしていないので,折り返し片と表紙の裏面とが接触することまでは要求
されていない。」と主張する。このように,原被告の主張は,構成要件ウにいう
「重なる」が接触することを要するか否かについて対立している。
(2) そこで,構成要件ウにいう「重なる」の意義について検討する。
ア 「重なる」の一般的意義について,辞書では,①「物の上に別の同じよう
な物が乗る 。 (広辞苑第5版 ) 「物の上に(同種の)物がさらに置かれて,
」 ,
下の物を覆うようになる。 (大辞林第2版)
」 ,②「あるもののうしろに他のも
のが続き加わる 。 「物や人が次々と後方に位置して連なって見える。 (小学
」 」
館発行の国語大辞典第1版)と説明されている(弁論の全趣旨)
。
上記①の説明からすると ,「重なる」とは,ある物の上に別の物が「乗る」
あるいは「置かれる」状態を意味し,したがって,ある物とその上に乗った
あるいは置かれた別の物とが接触している状態を意味するもののように解さ
れる。しかし,他方,上記②の説明からすると ,「重なる」とは,被さってい
るが接触はしていない状態を意味するもののようにも解される。以上によれ
ば,「重なる」との一般的な用語の意義としては,ある物と別の物とが接触し
た状態を指す場合から,ある物の上に別の物が被さっているが接触はしてい
ない状態を指す場合までを広く含むものということができる。
そして,本件明細書には,表紙の裏面側に折り返し片が「ぴったりと接触
する」とは明記されていない。また,図面を見ても,表紙の裏面側に折り返し
片がぴったりと接触する態様のものは何ら記載されていない。
イ 以上によれば,構成要件ウの解釈上は,折り返し片が表紙の裏面側にぴった
りと接触することまでは要さず,表紙の裏面側にその一部が接触しているか,
あるいは,接触していなくても被さってさえいれば足りるものというべきであ
る。
(3) 以上を前提として,被告製品が構成要件ウを充足するか否かについてみると,
被告製品の折り返し片3a,3bは,胴部1の内面に,コミック本Aの表紙Bを
沿わせた状態で,胴部1の内側に折り返し,折り返した状態で,胴部1の内面に
沿わせたコミック本Aの表紙Bの上部に到達している(構成C)から,表紙の裏
面側にその一部が被さっていることは明らかであり,「表紙の裏面側に少なくと
も一部が重なる」の要件を充たしているといえる。
したがって,被告製品は,構成要件ウを充足する。
4 争点4(被告製品は構成要件エを充足するか。
)について
(1) 構成要件エは,
「商品展示用ケース」である。
被告は,構成要件エにいう「商品展示用ケース」は「コンパクトディスクやビ
デオカセット」用のレンタルケースに限定されているところ,被告製品は「コ
ミック本」専用のレンタル用ケースであるから,被告製品は構成要件エを充足し
ない旨主張するが,この主張に理由がないことは前記2で判示したとおりでる。
(2) 被告製品は,レンタル商品であるコミック本専用の展示用ケースであるから,
構成要件エを充足する。
5 以上によれば,被告製品は本件考案の技術的範囲に属すると認められる。
そこで,次に,被告の実用新案登録無効の抗弁(実用新案法30条,特許法10
4条の3第1項)について判断するが,便宜上,まず進歩性の欠如に関する争点7
について検討することとする。
6 争点7(本件実用新案登録は旧実用新案法3条2項の規定に違反して登録された
もので同法37条1項1号により無効にされるべきものであるか。
)について
被告は,乙第6号証又は乙第7号証を主引例とし,乙第21号証,乙第8号証又
は乙第16号証を副引例として,本件考案が進歩性を欠く旨主張するが,以下では,
まず,乙第6号証を主引例とし,乙第21号証を副引例とする主張について検討す
る。
(1) 乙6考案
ア 乙第6号証〔米国特許第4988000番(登録日1991年1月29日,
出願日1990年2月5日)に係る特許公報〕には,発明の名称を「ビデオ
カセット用収納及び陳列スリーブ」とする発明(乙6考案)について,次の
記載がある。
(ア) 「ビデオカセット収納・陳列スリーブは,透明な柔軟性のあるプラスチッ
ク製の直方体形状一体成形品で,ビデオカセットを出し入れするために一端
のみを開口している。ビデオカセットに録画されている内容を印刷した紙製
のカバーが収納空間内に保持され,またその内側にビデオカセットが摺動自
在に収納される。並列した,細長い,適度に突出した一対の突縁が,スリー
ブの前壁と後壁に相隔てて形成され,スリーブ中にビデオカセットが保持さ
れるように開口縁から突出している。(乙6の2の「② 要約」の1行目か
」
ら6行目)
(イ) 「本発明は収納箱,特にビデオカセットの収納と展示のためのスリーブに
関するものである。とりわけ,ビデオカセットを素早く簡単に出し入れする
ことができ,また収納部にビデオカセットに録画されている内容を印刷した
紙製のカバーを保持したまま,ビデオカセットを取り出すことのできる収納
・展示スリーブに関する発明である。(乙6の2の「③」
」 )
(ウ) 「好適実施例はビデオカセットに関するものであるが,本発明は音楽カ
セットやコンパクトディスクにも容易に応用可能である 。 (乙6の2の
」
「⑤」の4行目から5行目)
(エ) 「本発明のビデオカセット収納・陳列スリーブ1は,次のようにして使用
される。ビデオレンタル店は,有名な映画やエクササイズなどが予め録画さ
れた大量のビデオカセットを,製造業者や配給業者から通常は大量に購入す
る。これらのビデオカセットは,典型的には,一般大衆に対し料金を徴収し
てレンタルされる。(乙6の2の「⑥」の1行目から4行目)
」
イ 上記記載によれば,乙第6号証には ,「①ビデオレンタル店におけるレンタ
ル用のビデオカセットの収納・陳列スリーブであって,②同スリーブは透明
な柔軟性のあるプラスチックで一体成形され,ビデオカセットを出し入れす
るための開口を一面に備え,③開口部に一対の突縁を設け,これにより,ケ
ース内に収納されている紙製のカバーを保持したままビデオカセットを取り
出すことのできる,ビデオカセットの収納・展示スリーブ」に関する発明
(乙6考案)が記載されていることが認められる。
(2) 乙21考案
ア 乙第21号証〔フランス国特許公開番号FR2971541(公開日19
92年7月17日,出願日1991年1月11日)に係る特許公報〕には,
発明の名称を「箱用のジャケットカバー」とする発明(乙21考案)につい
て,次の記載がある。
(ア) 「本発明は,片側が開いた箱,特にビデオカセットの包装箱用のジャ
ケットカバーの分野に関する。このカバーは,箱の前面および背面と開口
部の反対側にある側面とを少なくとも部分的に被覆可能な第1の部分と,
この第1の部分を箱に連結する手段を有する第2の部分とを含み,前記連
結手段が,箱の内部に入って,箱の前面および背面の内面に部分的又は全
体的に延びるように構成されている。 (乙21の2の「①」の「 57) )
」 ( 」
(イ) 「本発明によれば,凹部の端を箱の前面および背面の内面にそれぞれ当
接させる弾性手段を含む。(乙21の2の「③」の16,17行目)
」
(ウ) 「特許請求の範囲 1 片側が開いた箱,特にビデオカセットの包装箱
用のジャケットまたはカードのカバーであって,箱の前面および背面と開
口部の反対側にある側面とを少なくとも部分的に被覆可能な部分(A,B,
C)と,この第1の部分を箱に連結する手段を有する第2の部分(5)と
を含み,前記連結手段が,箱の内部に入って,箱の前面および背面の内面
に部分的又は全体的に延びるように構成されていることを特徴とする,カ
バー。(乙21の2の「⑨
」 特許請求の範囲」の「1」
)
(エ) 「前記第1および第2の部分が,厚さ約0.2㎜の同一の剛性ビニール
シートに配置されていることを特徴とする,請求項1から7のいずれか一
項に記載のジャケットカバー 。 (乙21の2の「⑨
」 特許請求の範囲」の
「8」)
イ 上記記載によれば,乙第21号証には ,「①一面に開口を有するビデオカ
セットの包装箱を被覆する第1の部分と,箱の内部に入って箱の内面に延び
るように構成された第2の部分からなり,②第2の部分が,箱の内部に入っ
て,箱の前面および背面の内面に部分的又は全体的に延びるように構成され
ている,③厚さ約0.2㎜の同一の剛性ビニールシートで成形された,ビデ
オカセットの包装箱用のジャケットカバー」の発明(乙21考案)が記載さ
れていることが認められる。
(3) 本件考案と乙6考案との対比
本件考案と乙6考案とを対比すると,乙6考案の「収納・陳列スリーブ」が本
件考案の「商品展示用ケース」に,乙6考案の「スリーブ」が本件考案の「ケー
ス本体」に,乙6考案の「透明な柔軟性のあるプラスチック」が本件考案の
「透明な合成樹脂」に,乙6考案の「ビデオカセットを出し入れするための開
口」が本件考案の「商品の出し入れ用の開口」に,それぞれ相当することが明
らかである。
したがって,本件考案と乙6考案は ,「ケース本体を透明な合成樹脂によって
形成し,このケース本体の一面に,商品の出し入れ用の開口を設けた商品展示用
ケース」である点で一致し,本件考案が「開口縁に,ケース本体の内面に沿わせ
た表紙の裏面側に少なくとも一部が重なる折り返し片を連設した」ものであって,
「折り返し片」はケースの内部に折り曲げることができるのに対し,乙6考案は,
「開口部に一対の突縁を設け」たものであって,「突縁」はケースの内部に折り
曲げられない点で相違している。
(4) 本件考案の容易想到性
そこで,上記相違点を当業者がきわめて容易に想到できたものであるか否かを
検討する。
ア 上記(2)のとおり,乙21考案は ,「①一面に開口を有するビデオカセット
の包装箱を被覆する第1の部分と,箱の内部に入って箱の内面に延びるよう
に構成された第2の部分からなり,②第2の部分が,箱の内部に入って,箱
の前面および背面の内面に部分的又は全体的に延びるように構成されている,
③厚さ約0.2㎜の同一の剛性ビニールシートで成形された,ビデオカセッ
トの包装箱用のジャケットカバー」についての発明であるところ,乙21考
案の第2部分は,「箱の内部に入って,箱の前面および背面の内面に部分的又
は全体的に延びるように構成され」ているため,箱の内部に折り曲げること
ができる。したがって,乙21考案の第2部分は,本件考案の「折り返し
片」に相当するということができる。
そして,乙21考案は,乙6考案と同様,ビデオカセットの収納技術に関
する発明であるから,当業者であれば,ケースの内側に存在するものを脱落し
ないように保持することを目的として,乙6考案の突縁を乙21考案の第2部
分と置き換えることは,きわめて容易に想到し得たものと認められる。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は ,「乙21考案は,ビデオカセットを収納する箱自体に技術の本質
があるのではなく,ビデオカセットを収納する箱に被せるジャケットカバ
ーに技術の本質があり,乙21考案と乙6考案とは技術の本質が根本的に
相違する」と主張する。
しかし,乙21考案も乙6考案もともにビデオカセットの収納技術に関
するものであり,技術的な共通性があることは明らかである。
(イ) 原告は,また ,「乙21考案は箱の外面に被せるカバーに関するものであ
るから,乙21考案には箱の内面に表紙を収納する発想自体が全くなく,
乙21考案に箱の内面に収納した表紙を抜け出さないようにするというよ
うな作用効果はそもそもなく,乙21考案と乙6考案の間に作用効果上の
共通性はない」と主張する。
なるほど,乙6考案は ,「突縁」により「スリーブ」中にビデオカセット
を保持し,また,「収納部にビデオカセットに録画されている内容を印刷し
た紙製のカバーを保持」するものであるのに対し,乙21考案は ,「ジャ
ケットカバー」の内面に「ビデオカセットの包装箱」を収納したものであり,
「表紙」そのものを収納したものではないから,「表紙」を保持するという
作用効果はない。
しかし,乙6考案が,「スリーブ」の内面に収納したものが容易に脱落し
ないように保持するのと同様に,乙21考案も,乙21の明細書上は明確に
記載されていないものの,「ジャケットカバー」の内面に収納したものが容
易に脱落しないように保持する構成を採用していることが明らかであり,し
たがってそのような作用効果を奏することがうかがえるから,この点におい
て,両者の間には作用効果の共通性があるということができる。
(ウ) なお,原告は ,「乙第21号証のFIG4及びFIG5と,本件明細書の
図5とは,表紙とケースの内外の関係が全く逆の関係になっており,構造
が全く相違する。
」と主張する。
しかし,乙第21号証のFIG4及びFIG5では,「ビデオカセットの
包装箱」が「ジャケットカバー」の内側に位置し,「ビデオカセットの包装
箱」を透明な「ジャケットカバー」を介して見る構造になっているのであ
るから,本件考案と同様に,表紙(乙第21号証における「ビデオカセッ
トの包装箱 」)がケース(乙第21号証における「ジャケットカバー 」)の
内側にあり,表紙を透明なケースを介して見る構造になっているものと認
められる。
したがって,むしろ両者は同様の構造のものというべきである。
(エ) 以上のとおり,原告の主張はいずれも理由がない。
ウ 以上によれば,本件考案は,当業者が乙6考案及び乙21考案に基づいてき
わめて容易に考案をすることができたものであるから,旧実用新案法3条2項
の規定により,実用新案登録を受けることができないものである。
(5) 乙第21号証を副引例とする進歩性欠如の主張が時機に後れたものといえるか
否かについて
ア 原告は,被告が侵害論の審理が終了した後に初めて乙第6号証又は乙第7号
証を主引例とし,乙第21号証を副引例とする進歩性欠如の主張をし,同証拠
を提出したことが,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)である
旨主張した。当裁判所は,上記攻撃防御方法は被告が故意又は重大な過失によ
り時機に後れて提出したものではないと判断するものであるが,以下にその理
由を付言する。
イ 本件審理の経過は次のとおりである。
(ア) 原告は,平成19年6月5日に本件訴えを提起した。同年7月23日に行
われた第1回口頭弁論期日において,被告は,進歩性の欠如等を理由とする
無効主張を同年9月28日までに行う旨を述べ,次回の期日(第1回弁論準
備手続期日)が同年10月5日に指定された。
(イ) 平成19年10月5日に行われた第1回弁論準備手続期日において,被告
は,無効理由について記載した第2準備書面(平成19年10月5日付け)
を陳述した。しかし,無効理由の整理が十分でなかったことから,被告は,
同年11月9日までに補充の主張を行う旨を述べるとともに,現時点では新
たな無効理由を主張する予定はない旨を述べた。
(ウ) 平成19年12月12日に行われた第2回弁論準備手続期日において,被
告は,無効理由について補充した第4準備書面(平成19年11月30日付
け)を陳述した。しかし,無効理由の整理がなおも不十分であったことから,
被告は,同年12月25日までに無効理由を再整理する旨を述べた。
(エ) 平成20年1月31日に行われた第3回弁論準備手続期日において,被告
は,無効理由を再整理した第5準備書面(平成19年12月25日付け)を
陳述した。
当裁判所は,同期日において侵害論の審理を終えることとし,原告は,平
成20年3月14日までに損害論に関する主張の補充を行う旨を,被告は,
同日までに損害論の主張に対する反論を行う旨を述べた。
(オ) 平成20年3月24日に行われた第4回弁論準備手続期日において,被告
は,乙第6号証又は乙第7号証を主引例とし,乙第21号証を副引例とする
進歩性の欠如について記載した第6準備書面(平成20年3月24日付け)
を提出した。
ウ 上記のとおり,被告は,第1回口頭弁論期日において,進歩性の欠如等を理
由とする無効主張を平成19年9月28日までに行う旨を述べながら,無効理
由の整理が不十分なため期日を重ね,その整理のためにその後約4か月を要し,
平成20年1月31日の期日において漸くそれまでに主張した無効理由の整理
が完了し,同期日において侵害論の審理を終了して,次回以降損害論の審理を
行うべく当事者双方の準備事項を取り決めたにもかかわらず,被告は,その後
の同年3月24日の期日に至って初めて,乙第6号証又は乙第7号証を主引例
とし,乙第21号証を副引例とする進歩性欠如の主張をし,同証拠を提出する
に至ったものであって,当初の予定からすると約半年遅れた攻撃防御方法の提
出というべきであり,客観的には時機に後れたものと評価されてもやむを得な
いものというほかない。
しかし,新たに副引例として追加主張した乙第21号証は,フランス語で記
載されたフランス国特許の特許公報であり,検索に際してキーワードを選択す
るについても言語上の問題があり,我が国の特許・実用新案のようにその検索
自体が必ずしも容易に行い得るものではない。また,検索の結果,引例の候補
となり得る資料を入手したとしても,その資料が引例として適切なものである
か否かはこれを翻訳して改めて吟味する必要があるところ,フランス語の翻訳
のために相応の時間を要するのもある程度やむを得ないものといえる。
このような事情に照らすと,被告が,上記時機において乙第21号証を副引
例とする主張及び証拠を追加提出したことについては,故意はもとより重大な
過失があるとまでは認められない。
よって,被告の上記攻撃防御方法の提出について,当裁判所は,これを却下
すべきものではないと判断した次第である。
7 結論
以上によれば,本件考案は,旧実用新案法3条2項の規定に違反して登録された
ものであり,同法37条1項1号の無効理由を有することになる。よって,本件実
用新案登録は実用新案登録無効審判により無効とされるべきものであるから,同法
30条,特許法104条の3第1項により,実用新案権者である原告は,被告に対
し本件実用新案権に基づく権利を行使することができない。したがって,原告の本
件請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田 中 俊 次
裁判官 西 理 香
裁判官 北 岡 裕 章
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