平成19(ワ)3484損害賠償
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裁判所 |
大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成20年6月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告スズキ鋳鉄工業株式会社 原告日之出水道機器株式会社井上裕史
|
法令 |
特許権
民法519条1回
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キーワード |
許諾113回 損害賠償28回 実施27回 特許権4回 ライセンス1回
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主文 |
1 被告は,原告に対し,1665万2889円及びこれに対する平成19年4月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決の第1項は,仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
本件は,原被告間の通常実施許諾契約における製造委託義務を被告が怠ったとし
て,原告が被告に対し,債務不履行に基づく損害賠償(訴状送達の日の翌日からの
商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を含む )を請求した事案である。。 |
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判決文
平成20年6月26日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成19年(ワ)第3484号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成20年4月14日
判 決
原 告 日之出水道機器株式会社
訴訟代理人弁護士 村 林 隆 一
井 上 裕 史
被 告 スズキ鋳鉄工業株式会社
訴訟代理人弁護士 古 井 戸 康 雄
主 文
1 被告は,原告に対し,1665万2889円及びこれに対する平成19年4月6
日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,原被告間の通常実施許諾契約における製造委託義務を被告が怠ったとし
て,原告が被告に対し,債務不履行に基づく損害賠償(訴状送達の日の翌日からの
商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を含む。
)を請求した事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
原告は,鋳物,合成樹脂コンクリートその他化学製品の製造及び販売等を業と
する株式会社である。
被告は,上下水道用鋳物鉄蓋製造販売等を業とする株式会社である。
(2) 平成15年度契約
ア 契約締結
原告は,別紙1「通常実施許諾契約目録1」記載の「契約日」欄記載の各日
に,被告に対し,原告が保有する「対象権利」欄記載の産業財産権について,
グラウンドマンホール(以下「本件GM」という 。)の製造販売を「許諾数
量」欄記載の数量に限って許諾する旨の通常実施許諾契約(以下「平成15年
度契約」と総称する。)を,次の約定で締結した。
(ア) 契約期間
上記目録の「契約始期」欄記載の各日から平成16年3月末まで
(イ) 対価及び製造委託義務
許諾数量を超えない分については無償とし,許諾数量を超過して販売する
場合は,被告は原告に対し,超過数量相当の本件GMの製造を委託するもの
とする(4条2項,6条)
。
イ 債務不履行
被告は,平成15年度契約の許諾数量を合計573個超過して本件GMを販
売したが,その製造を原告に委託しなかった。
(3) 平成16年度契約1
ア 契約締結
原告は,別紙2「通常実施許諾契約目録2−1」記載の「契約日」欄記載の
各日に,被告に対し,原告が保有する「対象権利」欄記載の産業財産権につい
て,本件GMの製造販売を「許諾数量」欄記載の数量に限って許諾する旨の通
常実施権許諾契約(以下「平成16年度契約1」と総称する。)を,次の約定
で締結した。
(ア) 契約期間
上記目録の「契約始期」欄記載の各日から平成17年3月末まで
(イ) 対価及び製造委託義務
許諾数量を超えない分については無償とし,許諾数量を超過して販売する
場合は,被告は原告に対し,超過数量相当の本件GMの製造を委託するもの
とする(4条2項,6条)
。
イ 債務不履行
被告は,平成16年度契約1の許諾数量を合計194個超過して本件GMを
販売したが,その製造を原告に委託しなかった。
(4) 平成16年度契約2
ア 契約締結
原告は,別紙3「通常実施許諾契約目録2−2」記載の「契約日」欄記載の
日に,被告に対し,原告が保有する「対象権利」欄記載の産業財産権について,
小口径汚水桝用保護鉄蓋(宅内用及び車道用)
(以下「本件汚水桝」という。
)
の製造販売を「許諾数量」欄記載の数量に限って許諾する旨の通常実施権許諾
契約(以下「平成16年度契約2」といい,平成16年度契約1と併せて「平
成16年度契約」という。
)を,次の約定で締結した。
(ア) 契約期間
平成16年4月1日から平成17年3月末まで
(イ) 対価及び製造委託義務
許諾数量を超えない分については無償とし,許諾数量を超過して販売する
場合は,被告は原告に対し,超過数量相当の本件汚水桝の製造を委託するも
のとする(4条2項,6条)
。
イ 債務不履行
被告は,平成16年度契約2の許諾数量を213個超過して本件汚水桝を販
売したが,その製造を原告に委託しなかった。
2 争点
(1) 責任免除の合意の有無(争点1)
(2) 原告の損害額(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(責任免除の合意の有無)について
【被告の主張】
(1) 原告と被告は,平成17年5月16日,原告の取締役営業本部長A(以下
「A」という。)と被告の代表取締役B(以下「B」という。
)とが面談し,平成
17年度の許諾数量の削減と引換えに,平成15年度契約及び平成16年度契約
における被告の債務不履行責任を免除する旨の合意をした。
(2) 再度の嘆願書(原告の主張(3)ウ)について
被告は,平成17年5月10日と同年6月14日の2度にわたり,原告に対し,
許諾数量見直しの嘆願書を提出した。後者の嘆願書は,同年5月16日の免除約
束の後に提出したものである,この再度の嘆願書の意味は次のとおりである。
被告は,Aからの免除約束と引換えに株式会社ライセンス&プロパティコント
ロール(平成17年度以降原告から特許権等の信託を受けた会社。以下「L&P
C」という 。)の示す平成17年度の許諾数量を受け入れることを一度は納得し
た。Bは,Aとの面談時,Aの被告に対する配慮に感謝しその場ではそれ以上の
嘆願は差し控えるべきと考えたのである。しかし,やはり許諾数量の大幅削減は
被告の経営に大きく影響することは避けられず,営業部門からの強い懇請もあっ
て,わずかな望みとともに面談の約1か月後再度の嘆願をしたのである。
以上のとおりであるから,再度の嘆願がAの免除約束の事実を否定する根拠に
なるものではない。
【原告の主張】
(1) 原告が被告との間で被告の債務不履行責任を免除する旨の合意をしたとの被
告の主張は否認する。
なお,平成17年度の実施許諾契約は,原告から特許権等の信託を受けたL&
PCと被告との間で締結されている。L&PCは,被告との間で,平成17年度
の実施許諾契約を締結するに当たり,被告の平成16年度の超過数量を考慮した
許諾数量を提示したが,既に発生した損害賠償請求権を免除する旨の意思表示を
した事実はない。
そもそも,原告及びL&PC(以下「原告ら」という 。)と被告との間の実施
許諾契約において「許諾数量」とは,当該数量までは無償で特許権等が実施でき
るという,原告らが被告に与える特に優遇された条件であり,新たな実施許諾契
約を締結するに当たり,相手方のそれまでの誠実さを考慮し,その数量を増減す
ることはむしろ当然である。
以上のとおり,「許諾数量」は,被告の既得権益ではなく,これが減じられた
としても,そのことがそれまでの債務不履行責任を免除するものではない。
(2) Bは,「私は,…『被告会社は過去に平成15年度と同16年度の違反数量を
正直に原告会社に申告していますが,その分の損害賠償は,許諾数量削減という
制裁措置と引換えに不問に付していただけるということですか』と聞いたところ,
A氏は『そういうことです』と答えてくれました。
」などと陳述する(乙1)
。
しかし,AがBに対して上記のような発言をした事実はない。
(3) Bは,「私は,このA氏とのやり取りの中で,被告会社の過去の違反数量につ
いては平成17年度における許諾数量削減という制裁だけで,それ以上の損害賠
償請求を含めた制裁については行わない,と原告会社が約束してくれたものと思
いました。」などと陳述する(乙1)
。
ア しかし,そもそも,Bが陳述するようなやり取りはなかった。
また,原告の被告に対する損害賠償債権は1000万円以上に及ぶものであ
るところ,かかる債権を放棄するかどうかは取締役会決議によるべきもので
あって,一取締役であるAが独断で決定できるものではない。
イ また,Bの陳述が真実であるとすれば,被告は,平成15年度及び平成16
年度の違反数量を下回る許諾数量の減数というわずかな負担で損害賠償債務を
免除されたことになる。とすれば,被告としては,原告の提示した許諾数量の
減数で済んだことを喜ぶことはあれ,異議を述べる理由はないはずである。
しかるに,被告は,上記面談日の後である平成17年6月14日付けの嘆願
書(甲28)においても,「許諾数量ならびに販売先の報告など,当社からの
要求に対して,ご検討を頂いたにも関わらず,当社への数量や条件等にまった
く変化が無いのが現状です。
」などと嘆願を続けている。
かかる事実は,被告が原告から被告が主張するような免除を得ていないこと
を示すものである。
ウ さらに,上記のとおり被告が嘆願を続けている事実は,Bの「過去の違反に
ついては,損害賠償という新たな制裁はしないという約束を取締役営業本部長
が自らしていただいたことから,私はそれ以上A氏に許諾数量に関してお願い
をすることを控えたのです」との陳述と齟齬する。
よって,この点からも,Bの陳述の信用性は乏しいことが明らかである。
2 争点2(原告の損害額)について
【原告の主張】
(1) 販売価格
原告の被告に対する製造委託販売における本件GM及び本件汚水桝の各都市に
おける販売価格は,別紙4「被告製品製造販売一覧表」記載の各都市につき,同
目録の各「OEM価格/1組あたり(円)
」欄記載のとおりである。
ただし,名古屋市,豊橋市,菰野町及び四日市市向けの鉄蓋の販売価格は定め
られていないため,最多価格帯の金額とした。
(2) 利益率
原告の本件GM及び本件汚水桝の利益率は,●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
(3) 損害額
原告は,被告による上記債務不履行により,平成15年度契約につき本件GM
573個の,平成16年度契約1により本件GM194個の,平成16年度契約
2により本件汚水桝213個の,各製造委託により得べかりし利益を喪失した。
その額は,別紙4「被告製品製造販売一覧表」の「損害合計」欄記載のとおり,
合計1665万2889円となる。
【被告の主張】
原告の主張(1),(2)は不知,(3)は争う。
第4 争点に対する判断
1 争点1(責任免除の合意の有無)について
(1) 事実認定
前記第2の1の争いのない事実に,証拠〔甲1∼21,27∼31,乙1,2,
証人A,被告代表者〈ただし,証拠(乙1,被告代表者)中,以下の認定事実に
反する部分を除く。〕及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。
〉
ア 原被告間の実施許諾契約
原告は,平成15年以前から,被告との間で,被告が原告保有の特許権等の
産業財産権の実施品である本件GM及び本件汚水桝等を指定採用している地方
公共団体からその製造業者としての指定を受けた場合,被告がその製造販売を
行うことができるように,1年ごとに(4月1日から翌年3月末までを1年度
とする。)実施許諾契約を締結して,関係する産業財産権の実施許諾をしてい
た。
イ 平成15年度契約及び平成16年度契約の締結と報告義務
原告は,被告との間で,平成15年の4月28日から同年6月2日にかけて,
神奈川県藤沢市等9つの都市を対象として,平成15年度契約を締結した。
また,原告は,被告との間で,平成16年3月31日から同年5月17日に
かけて,静岡県浜松市等9つの都市を対象として,平成16年度契約を締結し
た。
平成15年度契約及び平成16年度契約において,被告は原告に対し,各契
約に基づいて製造販売した対象製品の数量を四半期ごと(6月末,9月末,1
2月末及び3月末)に集計し,その翌月20日までに書面をもって原告に報告
し,また,製造販売数量が許諾数量に達した場合は,直ちにその旨を報告すべ
き義務を負っていた(5条)
。
ウ 平成15年度の許諾数量超過と被告の対応
平成15年度の製造販売数量について,被告は,四半期ごとに製造販売数量
を原告に報告すべき義務についてはこれを履行していたが,許諾数量を超過し
て製造販売したとの報告はしなかった。
原告は,平成16年5月ころ,被告が,平成15年度契約のうち対象都市を
神奈川県藤沢市とする契約において定められた許諾数量を超過して本件GMを
製造販売した事実を確認し,被告が他の都市でも許諾数量を超過して本件GM
を製造販売していたのではないかとの疑いを持ったことから,平成16年9月
30日付けの書面(甲10)により,被告に対し,平成15年度の正確な製造
販売数量を同年10月15日までに報告するよう求めた。同書面には,原・被
告間の信頼関係が損なわれた状態では翌年度以降の実施許諾契約を締結するこ
とが困難である旨が記載されていた。
これに対し,被告は,同月22日付けの書面(甲11)により,被告におい
て調査を行った結果,平成15年度は9都市において許諾数量を合計573個
超過して本件GMを製造販売していたことが判明した旨の報告をした。
エ 平成16年度の許諾数量超過と被告の対応
原告は,被告が,平成16年度についても許諾数量を超過して本件GM等を
製造販売しているのではないかと疑うべき事実を把握したことから,平成17
年1月,原告の取締役営業本部長であるAが被告の代表取締役社長であるBに
対し,平成16年12月末時点での正確な製造販売数量を報告するよう求めた。
これに対し,被告は,平成17年2月5日付けの書面(甲21)により,被
告において調査を行った結果,平成16年度は4都市において許諾数量を合計
51個超過して本件GM等を製造販売していたことが判明した旨の報告をした。
Aは,上記報告の中に,原告が許諾数量超過を強く疑っていた都市について
許諾数量を超過したとの報告がなかったことから,Bに対し,再度,平成16
年12月末時点での正確な製造販売数量を報告するよう求めた。
これに対し,被告は,平成17年2月18日付けの書面(甲22)を提出し,
被告において再度調査を行った結果,結局,平成16年度は6都市において許
諾数量を合計407個超過して本件GM等を製造販売していた旨の報告をした。
その後,被告は,平成17年3月29日付けの書面(甲31)により,Aか
らの指示を受けて社内で検討した結果として,平成15年度及び平成16年度
における許諾数量超過についてお詫びをする旨,また,Aから指摘を受けた
「製造・販売・在庫・出庫を十分把握した許諾数量管理の強化」を強く進めて
いく旨,さらに,「再びこのような事態になった場合につきましては,今以上
に強いご指導(例えばパテントについて許諾されない等)を受けることの覚悟
は勿論のこと,社内一丸となって更なる努力をして参る所存で」ある旨を報告
した。
オ 平成17年5月16日の面談に至る経緯
原告を含むグループ会社は,平成17年1月5日,L&PCを設立し,L&
PCにおいてグループ各社が保有する産業財産権の管理運用を一括して行うこ
とになった。このため,原告保有の産業財産権に係る平成17年度の実施許諾
契約の締結に関しては,L&PCが交渉を行うこととなり,被告との交渉につ
いても,L&PCの担当者が交渉に当たった。
被告は,同年5月2日,L&PCから,平成17年度の実施許諾契約に係る
合意書及び許諾数量の通達に関する文書一式の送付を受けたが,その中で,平
成17年度の許諾数量が削減されていたことから,削減後の数量では経営に重
大な支障を来すと考え,同月10日付けの「嘆願書」と題する文書(乙2はそ
の控え)により,原告に対し,許諾数量の削減見直しを求めた。
これを受けて,Aは,平成17年度の実施許諾契約締結に関する事項は,本
来L&PCが担当するべきものであったが,被告の平成15年度及び平成16
年度の許諾数量超過に関してAが対応していたことから,被告からの許諾数量
見直しの要請に対してもAが対応することとし,同年5月16日にBと面談を
持つことにした。
カ Aは,平成17年5月16日,原告の東京本社において,Bとその息子(原
告の従業員であったが,平成16年度期中に原告を退職し,被告で勤務してい
た。)と面談した(以下「本件面談」という。。
)
席上,Bは,Aに対し,平成17年度の許諾数量削減の見直しを求めたとこ
ろ,Aは,許諾数量違反に対して原告が過去に行った制裁措置について,要旨
次のような説明をした。すなわち,許諾数量違反に対しては,原告では従前,
翌年度の許諾数量を削減することで対応していたこと,その内容には3段階あ
り,①最も厳しい措置は,違反年度の許諾数量から違反数量の3倍の数量を差
し引いたものを翌年度の許諾数量とすること,②次に厳しい措置は,違反年度
の許諾数量から違反数量を差し引くこと,③最も軽い措置は,対象となる都市
ごとに違反年度の許諾数量から違反数量を差し引くこと(②の場合は,例えば,
各都市ごとの違反数量の合計が1000個であれば,翌年度の許諾数量は,違
反年度の許諾数量より1000個少ないものとなるが,③の場合であれば,例
えば,ある都市の許諾数量が20個で,違反数量が30個であった場合,当該
都市の翌年度の許諾数量は,20個から30個を差し引いて0個になるだけで
あり,残り10個分を他の都市の許諾数量から差し引かれることがないため,
全体として見れば,許諾数量の削減分が少なくなる。
)である旨の説明をした。
キ 被告は,平成17年6月13日,L&PCから,平成17年度の実施許諾契
約に係る合意書及び許諾数量の通達に関する文書一式の送付を受け,同月14
日付けの「嘆願書」と題する文書(甲28)により,L&PC知財管理グルー
プに対し,許諾数量の削減見直しを求めた。
ク 平成18年8月,被告が,平成17年度についても許諾数量を超過して本件
GM等を製造販売していたことが判明した。
ケ 平成19年3月,原告は,本件訴えを提起した。
なお,上記オに関して,Aは,被告から平成17年5月10日付けの「嘆願
書」を受け取った記憶はない旨供述する。しかし,Aが被告から同嘆願書を受領
していないとすると,同月16日の本件面談の目的が判然としない〔この点につ
いて,Aは ,「平成17年度のスタートに当たり,平成15年度及び平成16年
度における違反行為のようなことがないように,信頼のおける正しい企業活動を
していただきたいということを話すつもりで面会した 。」旨供述する(尋問調書
9頁)が,それだけのために,B及びその息子が愛知県西尾市の被告事務所から
わざわざ上京するとは考えにくい。。また,被告がAに上記嘆願書を送付してい
〕
ないとすると,被告は,本件訴訟のために敢えて乙第2号証を作成して証拠とし
て提出したことになるが,乙第2号証が,被告主張の責任免除の合意を認定する
ための決め手になるような証拠ではなく,被告において同号証を敢えて作成する
動機が見当たらない。したがって,Bの供述するように,被告から乙第2号証の
原本を原告に対して送付し,これを受けてAが本件面談を設定したものと認める
のが相当である。
(2) 責任免除合意の有無について
ア 被告は,本件面談において,原告を代理するAと被告代表者のBが,平成1
7年度の許諾数量の削減と引換えに,平成15年度契約及び平成16年度契約
における被告の債務不履行責任を免除する旨の合意をしたと主張する。
もっとも,債務免除の意思表示は単独行為であるから,結局,Bの承諾の有
無にかかわらず,Aが上記のような債務免除の意思表示をしたとすれば,それ
により上記損害賠償債務は消滅する(民法519条 )。そうすると,結局,B
の承諾の意思表示があったかどうかにかかわりなく,Aがかかる債務免除の意
思表示をしたか否かを判断すれば足りることになる(被告の主張は,Aが単独
行為としての債務免除の意思表示をしたことにより,上記損害賠償債務が消滅
したとの主張を含むものと解される。なお,実際に債務消滅の効力が生じるた
めには,これについてAが原告を代理する権限を有することが必要であるが,
その点はしばらく措く。。
)
イ ところで,本件においては,上記免除合意を記載した書面あるいはAの上記
債務免除の意思表示を記載した書面が作成されているわけではなく(そのよう
な書面は証拠として提出されていない。,上記合意ないしAによる上記意思表
)
示の存在を示す証拠は,Aが本件面談においてBに対し平成15年度及び平成
16年度の違反については損害賠償請求はしない旨明言したとのBの供述(乙
1の陳述書の記載を含む。)しかない。そこで,Bの上記供述の信用性につい
て検討する。
Bは,同人作成の陳述書(乙1)及び被告代表者としての尋問において,要
旨次のとおり供述する。
(ア) 本件面談の席上,BがAに対し,平成17年度の許諾数量削減の見直し
を求めたところ,Aは,許諾数量違反に対して原告が過去に行った制裁措置
について,上記認定のとおり,3段階の措置があり得る旨の説明をした上で,
原告社内では,平成17年度は実施許諾契約の締結を見合わせるべきである
とか,許諾数量削減について最も厳しい措置をとるべきであるとの声もあっ
たが,Aがそのような意見を説き伏せて,最も軽い措置(対象となる都市ご
とに違反年度の許諾数量から違反数量を差し引くこと)とした旨述べた。
(イ) その後,Bが,平成15年度及び平成16年度やその前の各年度につい
て,違反に対する罰則が明確になっていませんねという話をしたところ,A
は,平成17年度からは,新たに設立したL&PCにおいて,制裁措置とし
て,翌年度の許諾数量の削減という従前原告が採用していた方法から,超過
数量に損害賠償単価を乗じた金額を請求する方法を採用することになった旨
の説明をした上,平成15年度及び平成16年度の違反については,損害賠
償請求はしない旨明言した。
(ウ) Bは,Aの働きかけによって許諾数量削減措置の中でも最も軽い措置で
済んだ上,損害賠償請求を不問に付してもらったことから,許諾数量が削減
されることについて満足ではないものの,一応納得して面談を終えた。
(エ) しかし,Bは,会社に戻り,営業全体会議等でその旨報告したところ,
営業担当者から,最も軽い措置での削減数量でもなお相当に厳しいとして,
再度許諾数量削減見直しを要請してほしいとの声が上がったことから,社内
を納得させるために,平成17年6月14日付けで原告宛てに再度嘆願書を
送付した。
ウ これに対し,Aは,同人作成の陳述書(甲27)及び証人尋問において,本
件面談の状況について,要旨次のとおり供述する。
(ア) 本件面談の席上,Aは,平成17年度の許諾数量の削減見直しを求める
Bに対し,平成17年度の実施許諾契約はL&PCが統括して行うものであ
り,原告の営業本部長であるAには関係がないし,また,L&PCが許諾数
量を削減するか否かについては,Aの職責が及ぶ事柄ではない旨述べた。た
だ,Aは,L&PCが,過去に原告が実施した制裁措置と同様の方針で臨む
ものと認識していたことから,Bの理解のために,過去に原告が行った措置
として,前記認定の3段階がある旨の説明をした。
(イ) 原告では,従来,許諾数量違反に対しては,翌年の許諾数量の一部削減
という措置をとる方法で対処しており,損害賠償を請求したことはなく,平
成15年度及び平成16年度の被告の違反に対しても,本件面談時点では,
損害賠償を請求するということは検討課題にすら上っていなかった。
(ウ) しかし,平成18年8月に,被告が平成17年度も継続して違反をして
いたことが判明したことから,原告において検討した結果,被告の平成15
年度及び平成16年度の違反に対しては,厳正な対応をすべきであると判断
し,本件訴訟を提起するに至った。
エ そこで,B及びAの上記各供述の信用性について判断する。
上記各供述は,本件面談に際しAがBに対し過去に原告が行った措置として
前記認定の3段階の制裁措置があることを説明したとの点で一致している。上
記3段階の制裁措置とは,前記認定のとおり,①最も厳しい措置として,違反
年度の許諾数量から違反数量の3倍の数量を差し引いたものを翌年度の許諾数
量とすること,②次に厳しい措置として,違反年度の許諾数量から違反数量を
差し引くこと,③最も軽い措置として,対象となる都市ごとに違反年度の許諾
数量から違反数量を差し引くことであるところ,その中には超過数量について
損害賠償請求をするという制裁措置は含まれておらず,かつ,これまで超過数
量について損害賠償請求をしたという例がなかったことはA自身が供述すると
ころである。そのような状況の下においては,Aの供述するとおり,本件面談
の時点で,被告に対し超過数量について損害賠償請求権を行使するか否かにつ
いて原告内部で全く検討されていなかったことは容易に推認することができる。
そして,Aが上記の趣旨で,Bから問われるまま,被告に対する損害賠償請求
をすることは現時点では考えていない(検討もしていない)というような趣旨
の発言をすることはあながち不自然ということはできないであろう。しかし,
Aがそのような発言をしたとしても,これによってBが上記各年度について損
害賠償請求を受けることがないという事実上の期待を抱くことはあり得るとし
ても,だからといって,そのような発言をとらえて平成15年度及び平成16
年度における被告の債務不履行責任を免除するとの意思表示と解することがで
きないことは明らかである。
そして,Aが,上記趣旨の発言に止まらず,被告の主張するように,AがB
に対し,被告が平成17年度の許諾数量の削減に応ずるのと引換えに平成15
年度及び平成16年度について損害賠償請求はしないと明言したとの事実につ
いては,これをいうBの供述は信用できず,他にこの事実を認めるに足りる証
拠はないというべきである。
すなわち,平成17年度の許諾数量をどのように決定するかは,同年度の実
施許諾契約の契約当事者であるL&PCが決めるべきことであって,本来,A
の権限が及ぶ事項ではないが,仮にAがL&PCのするべき上記決定に対して
事実上何らかの影響力を行使し得たとしても,L&PCとしては,その提案す
る許諾数量の削減を被告が受け入れないのであれば,平成17年度の実施許諾
契約の締結を見合わせればよいだけのことであり,超過数量についての損害賠
償請求の行使について原告内部で全く検討がされていなかった段階で,L&P
Cが被告に許諾数量の削減を受け入れてもらうために,あえて上記損害賠償請
求権を何の見返りもなく免除しなければならない合理的な理由はないというべ
きである。
証拠(甲21,22,27,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,
平成15年度及び平成16年度における許諾数量超過の報告を怠り,かつ,平
成16年度契約については,1回目の報告(平成17年2月5日付け書面によ
る報告)では超過数量の全部を報告せず,2回目の報告(同月18日付け書面
による報告)によって超過数量を追加報告するといった対応をとったことが認
められる。Aは,陳述書及び証人尋問で,原告内部では,このような対応を
とった被告に対する不信感が相当に強く,平成17年度以降の実施許諾契約の
締結を疑問視する声もあったと供述しており,この供述は被告の上記対応に照
らし,信用し得るものというべきである。本件面談は,その後に行われている
のであり,かかる経緯に照らせば,原告が被告に対し平成17年度の許諾数量
を削減する措置をとることは従来の制裁措置例からして当然であり,本件面談
において,Aが,そのことと引換えに,平成15年度及び平成16年度の超過
数量について損害賠償請求をしないと明言しなければならないような状況には
全くなかったことが明らかである。これらの事情を考慮すると,平成15年度
及び平成16年度の超過数量について損害賠償請求をしないと明言したという
Bの上記供述は甚だ不自然であるといわざるを得ず,これを否定するAの証言
の方により信用性があるというべきである。
そうすると,本件面談において,AがBに対し,平成17年度の許諾数量の
削減と引換えに,平成15年度及び平成16年度の超過数量について損害賠償
請求をしないと明言したというBの供述は,これを否定するAの供述と対比し
て信用することができないというべきであり,他に,Aが平成15年度及び平
成16年度の超過数量について損害賠償請求をしないと明言したと認めるに足
りる証拠はない。
オ 以上によれば,原告が被告に対し平成15年度契約及び平成16年度契約に
おける被告の債務不履行責任を免除する旨の意思表示ないし合意をした旨の被
告の主張は理由がない。
(3) 小括
したがって,原告は,被告に対し,被告の上記債務不履行がなければ得られた
であろう利益,すなわち,平成15年度について本件GM合計573個の,平成
16年度について本件GM合計194個及び本件汚水桝213個の,被告に対す
る製造委託販売によって喪失した得べかりし利益の賠償を求めることができる。
2 争点2(原告の損害額)について
(1) 販売価格
証拠(甲23)及び弁論の全趣旨によれば,原告の被告に対する製造委託販売
における本件GM及び本件汚水桝の各都市における販売価格は,別紙4「被告製
品製造販売一覧表」記載の各都市につき,同一覧表の各「OEM価格/1組あた
り(円)」欄記載のとおりであることが認められる。
上記認定事実によれば,平成15年度及び平成16年度において,原告が被告
に対し本件GM及び本件汚水桝を製造委託販売していれば上げられたであろう販
売価格の合計は,
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
であることが認められる。
(2) 利益率
ア 売上高等
証拠(甲24の1∼5,25の1・2,32)及び弁論の全趣旨によれば,
原告は,「鋳鉄製品 」「樹脂製品」 「レンジコンクリート製品」等の製品を製
, ,
造販売しているところ,各製品はそれぞれ異なる工場で製造されており,製品
原価の管理も各製品ごとに行われていること,本件GM及び本件汚水桝は「鋳
鉄製品」に含まれること,平成15年度及び平成16年度における原告の売上
高,売上原価及び運送料は,別紙5「平成15年度・平成16年度売上高等一
覧」の各該当欄記載のとおりであることが認められる。
イ 粗利
上記認定事実によれば,平成15年度及び平成16年度における原告の取扱
製品全体の粗利率は,
●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●
であること,鋳鉄製品の粗利率は,( 鋳鉄製品売上粗利率)
「 」欄記載のとおり
であり,原告の取扱製品全体の粗利率を上回ることが認められる。
ウ 販売費及び一般管理費
(ア) 保管料
証拠(甲26)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,その製造販売に係る
製品を自社の物流センターに在庫する方式を採用していることが認められ,
同事実によれば,製品の販売数量が増加しても新たな保管料は発生しないこ
とが認められる。
(イ) 運送費
証拠(甲26)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,製品を配送する際,
販売先ごとに1台のトラックを仕立てるのではなく,近隣の配送先分を一緒
に出荷しており,また,前記(1)認定の販売価格合計の,原告の総売上高に
占める割合は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●ことが認められ,同事実によれば,前記(1)認定の販売価格合計に
対応する製品の出荷に際して,新たにトラックを仕立てるまでの必要がある
とは認められない。
エ 利益率
運送費について,原告の取扱製品全体の売上高に占める鋳鉄製品の売上高の
割合に相当する金額を,鋳鉄製品の売上総利益から控除した場合の,鋳鉄製品
の利益率を計算すると,上記一覧の「上記の場合の利益率」欄記載のとおりと
なるが,なお,原告の取扱製品全体の粗利率を上回ることが認められる。
(3) 損害額
以上によれば,被告の前記債務不履行によって原告が被った損害は,上記(1)
認定の販売価格合計,すなわち,
●●●●●● ●●●●●●●●●●●
●●●●●● ●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
=16,652,889円
を下回ることはないということができる。
3 結論
以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決す
る。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田 中 俊 次
裁判官 西 理 香
裁判官 北 岡 裕 章
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