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平成19(行ケ)10411審決取消請求事件

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裁判所 審決取消 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成20年5月28日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社アテニア
原告株式会社加美乃素本舗
法令 商標権
商標法4条1項11号7回
商標法4条1項16号2回
商標法50条1回
商標法25条1回
キーワード 審決26回
無効9回
無効審判4回
商標権1回
主文 1 特許庁が無効2007-890014号事件について平成19年10月30日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 本件は,被告が有する下記商標(本件商標)登録について,原告が商標登録 の無効審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原 告がその取消しを求めた事案である。

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判決文

判決言渡 平成20年5月28日
平成19年(行ケ)第10411号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成20年4月9日
判 決
原 告 株式会社加美乃素本舗
訴訟代理人弁理士 萼 経 夫
同 舘 石 光 雄
同 森 則 雄
同 山 田 清 治
被 告 株 式 会 社 ア テ ニ ア
訴訟代理人弁護士 安 原 正 之
同 佐 藤 治 隆
同 小 林 郁 夫
同 鷹 見 雅 和
訴訟代理人弁理士 安 原 正 義
同 大 西 育 子
主 文
1 特許庁が無効2007-890014号事件について平成19年1
0月30日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,被告が有する下記商標(本件商標)登録について,原告が商標登録
の無効審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原
告がその取消しを求めた事案である。
争点は,①本件商標が原告の有する下記引用商標1及び2と類似するかどう
か(商標法4条1項11号),②本件商標が商品の品質の誤認を生じさせるお
それがあるかどうか(商標法4条1項16号)である。

ア 本件商標
・商標 ・指定商品
第3類「化粧品,せっけん
類」
・登録第4966729号
・出願日 平成17年11月18日 ・登録日 平成18年6月30日
イ 引用商標1
・商標 ・指定商品
第3類「せっけん類,歯磨き,化粧
品,植物性天然香料,動物性天
然香料,合成香料,調合香料,
精油からなる食品香料,薫料」
・出願日 平成3年5月31日 第30類「食品香料(精油のもの
・登録日 平成5年7月30日 を除く。)」
・登録第2553920号
ウ 引用商標2
・商標 ・指定商品
第3類「頭髪用化粧品,シャンプー
その他の頭髪用せっけん類」
・出願日 平成16年12月17日
・登録日 平成17年10月14日
・登録第4900509号
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
被告は,平成17年11月18日,上記内容の本件商標について商標登録
出願をし,平成18年6月30日に登録第4966729号として設定登録
を受けた。
これに対し原告は,平成19年2月9日に下記無効理由1,2に基づき商
標登録無効審判を請求したので,特許庁は,これを無効2007-8900
14号事件として審理した上,平成19年10月30日,「本件審判の請求
は成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成19年11月9日原告に
送達された。

・無効理由1:本件商標は引用商標1及び2と類似するから商標法4条1項
11号に違反する。
・無効理由2:本件商標は「トリートメント効果のある化粧品」や「トリー
トメント効果のあるせっけん類」以外の商品に使用された場
合は,商標と品質の不実関係は明白であり,商標法4条1項
16号に違反する。
(2) 審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,①本件
商標は,引用商標1及び2と類似しないから,商標法4条1項11号に当た
らない,②本件商標を「トリートメント効果のある化粧品」又は「トリート
メント効果のあるせっけん類」以外の商品に使用しても,商品の品質の誤認
を生じさせるおそれはないから,商標法4条1項16号に当たらない,とい
うものである。
(3) 審決の取消事由
しかしながら,審決の判断には,次のとおり誤りがあるから,違法として
取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本件商標と引用商標1及び2との類似性に関する判断の誤
り)
(ア) 審決は,「本件商標は,『トリートメントチャージ』のみの称呼を
生じ,特定の観念を生じない造語というのが相当である。」とした(1
1頁7行~8行)上,本件商標と引用商標1及び2は類似しないと判断
する(11頁22行~31行)。
(イ) しかし,以下のとおり,本件商標のうち前半部の「トリートメン
ト」,「TREATMENT」は,指定商品との関係で品質表示又は普
通名称に相当し,自他商品の識別標識としての機能を果たす部分(要
部)は,後半部の「チャージ」「CHARGE」にある。
a 「トリートメント」の語は,「化粧品,せっけん類」について「手
入れ」「保護」の意味合いで商品の効能・用途を表わす語句として使
用されている(甲12~14,16~20)。
また,「トリートメント」の語は,頭髪用化粧品の普通名称,すな
わち,髪の毛及び頭皮を補修ないしは保護する商品の名称としても多
用されている。この商品名称は,頭髪用化粧品の一種であるヘアコン
デイショナー(毛髪を保護し損傷の進行を防止しコンディショニング
効果を与える製品)の別名「ヘアトリートメント」の名称(甲11
3,114)が一般に普及するにつれ,単に「トリートメント」の略
称で呼ばれるようになったもので,現在は同種商品が「ヘアトリート
メント」又は「トリートメント」の名称で広く取引に供されている。
b 以上のaの事実は,次のような事実によっても明らかである。
(a) 商標登録出願の指定商品及び指定役務において「トリートメン
ト」を使用した例が多くある(甲20[特許庁の商品・役務例リス
トの検索結果])。
また,意匠登録出願の「意匠に係る物品」及び「意匠に係る物品
の説明」において,「トリートメント」を使用した例が多くある
(甲29[特許庁の意匠公報テキスト検索の結果],甲30~71
[意匠公報])。
さらに,特許・実用新案の明細書の「発明の名称」において,
「トリートメント」を使用した例が多くある(甲72[特許庁の公
報テキスト検索における特許公報の検索結果],甲73~93[特
許公報])。
(b) 「化粧品の表示に関する公正競争規約」(以下「規約」とい
う。甲15,22)は,不当景品類及び不当表示防止法に基づいて
「化粧品の表示に関する事項を定めることにより,一般消費者の適
正な商品選択に資するとともに,化粧品業における不当な顧客の誘
引を防止し,もって公正な競争を確保することを目的」に制定され
たものであり(規約1条),事業者に対して「商品選択のための適
正な情報提供」と「化粧品の品質,効能効果,安全性等について,
虚偽又は誇大な表示による誤認されるおそれのある表示をし」ない
ことを求めている(規約2条)。
そして,規約は,化粧品の必要表示事項の一つとして,消費者の
商品選択に資するため「種類別名称」を商品に明瞭に表示しなけれ
ばならないと定め(規約4条(1)),「化粧品の表示に関する公
正競争規約施行規則」(以下「施行規則」という。)で「種類別名
称」の内容を規定している(施行規則別表1「種類別名称」)。
その「種類別名称」の一種として,「ヘアリートメント」,「頭皮
用トリートメント」が指定されているところ,化粧品業界ではこの
両者を「トリートメント」の略称で呼称することが多くなってい
る。また,施行規則は,「種類別名称」に用途を付記するときの用
語例を示しているが,その中で「トリートメント」が用途を表わす
名称であることを明記している(施行規則別表1[備考]4)。
c 被告は,「トリートメント」の語自体では商品が特定されないた
め,動詞的にあるいは,何についてのものであるか示す語と共に用い
られることが多いと主張するが,「シャンプー」,「リンス」と同様
に,「トリートメント」の語も,「トリートメント効果を有する化粧
品,同せっけん類」を表す語として普通に使用されているから,商品
が特定されないということはない。「トリートメント」「TREAT
MENT」の文字を含む一部の商標については,指定商品が「トリー
トメント効果を有する商品」に限定されていないようであるが,この
点については,商標の構成,態様,結合の仕方等について個別的,具
体的に判断された結果であって,上記商品に限定されていない商標登
録があるからといって,被告の主張が正当であるという根拠にはなり
得ない。
また,「チャージ」「CHARGE」の文字と他の文字とを結合し
た登録例が多数あるとしても,「チャージ」の文字を除く各文字部分
が,その指定商品との関係において品質を表すのか用途を表すのか,
指定商品との関係でどのように認識されるのか,商標全体の結合の態
様はどうかなど,個別的,具体的にそれぞれ判断がなされるべきであ
って,これらを本件商標と同列に論ずることはできない。「チャー
ジ」,「CHARGE」が,「トリートメント」と併存して,「トリ
ートメント○○○○」という形で商標登録された例は,全く見当たら
ない。審決が「~チャージ」,「~CHARGE」という商標登録例
のみを参照しているのは,審理不尽である。被告が主張する,「ディ
ープクリアチャージ/DEEP CLEAR CHARGE」及び
「クリアチャージ/CLEAR CHARGE」の異議申立ての事例
(甲21,乙6)は,原告の都合により,それ以上争わなかっただけ
であり,最終的な法的判断がなされたわけではないから,必ずしも参
考にはならない。
さらに被告は,「薬剤」,「栄養補助食品」及び「清涼飲料」の分
野での登録商標「チャージ」と「チャージ」の文字を含む登録商標と
の併存状況を示しているが,「チャージ」のもつ意味合いは指定商品
との関係において個別的,具体的に判断されるべきものであって,本
件商標の指定商品と全く異なる商品の例を挙げたとしても,参考にな
らない。被告が挙げる,「ウォーターチャージ」,「アクアチャー
ジ」,「エネルギーチャージ」などの例は,結合された文字全体で
「水分補給」,「エネルギー補給」のような意味合いを看取させるも
のであり,一体の商標として登録されても不思議ではなく,むしろ,
このような商標まで機械的に「ウォーター」,「アクア」,「エネル
ギー」と「チャージ」とを分離して把握すること自体が誤りといわな
ければならない。
(ウ) また,本件商標は,以下のとおり,「トリートメント」と「チャー
ジ」,「TREATMENT」と「CHARGE」に分離して印象され
るから,本件商標と引用商標1及び2とは,「チャージ」,「CHAR
GE」において共通する。
a 本件商標は,「トリートメント」と「チャージ」とが統合すること
によって,容易に認識できる新たな意味を創出するものではなく,一
般に意味が通用する語でもないから,本件商標は,「トリートメン
ト」と「チャージ」に分離して印象される。
また,本件商標の構成は,上段の片仮名が11文字,下段の欧文字
が15文字と多数の文字からなり,これより生ずる「トリートメント
チャージ」の称呼も11音と比較的冗長である。このような冗長な文
字からなる商標は,審決のいう「極めてまとまりよく表されている」
(10頁下3行~下2行)と直ちにいえないし,また,「称呼も格別
冗長にわたるものではなく」(11頁1行)ということもできない。
このような比較的冗長な商標は,語の切れ目(シラブル)に応じて,
分離して認識されるものである。特にローマ字部分「TREATME
NT CHARGE」は,比較的冗長であることに加え,単語と単語
の間のスペースも顕著であり,「TREATMENT」と「CHAR
GE」に分離して印象される。なお,従来の裁判例では,おおむね1
0音以上の称呼を生じる商標は冗長であるとされている。
b 商標登録取消審判においては,「社会通念上同一と認められる商標
の使用」は登録商標の使用と認められるが,その範囲について,特許
庁の「審判便覧」(甲28)は,「登録商標が二段併記等の構成から
なる場合であって,上段及び下段等の各部が観念を同一とするとき
に,その一方の使用」は「社会通念上同一と認められる商標の使用」
に当たるとしている。そうすると,本件商標は,登録商標と物理的同
一の二段使用のほかに,上段の片仮名文字「トリートメントチャー
ジ」のみの使用,下段の欧文字「TREATMENT CHARG
E」のみの使用も,商標法50条との関係では登録商標の使用とされ
ることになる。このように,商標法は,「TREATMENT CH
ARGE」のみの使用も想定しており,現実の取引の場でも使用され
ることになる。この欧文字「TREATMENT CHARGE」
は,「中間部において一字程度間隔を有する」ものであり,「TRE
ATMENT」の部分は印象が薄いから,「CHARGE」部分が分
離した印象を受ける。
(エ) 本件商標と引用商標1及び2の外観についてみると,本件商標は片
仮名文字と欧文字の二段書きであるのに対し,引用商標1も欧文字と片
仮名文字に二段書きからなり,しかも「チャージ」,「CHARGE」
の綴り字を同じくするから,「トリートメント」「TREATMEN
T」の文字を除けば酷似するものである。引用商標2についても,独立
して自他商品の識別標識としての機能を果たすと認められる「チャー
ジ」,「Charge」の文字綴りを同じくするものである。
また,観念については,本件商標中の「チャージ」,「CHARG
E」と引用商標1及び2とは,共に「充電,料金」等の観念において同
一である。
次に,商品の具体的な取引状況をみると,「トリートメント効果を有
する化粧品・同シャンプー」等は,専門知識を有する者のみに販売され
る商品ではなく,男女を問わず広く一般需要者に販売される商品であ
る。
したがって,本件商標と引用商標1及び2を上記商品に使用した場
合,誤認,混同を生ずるおそれがないとはいえないというべきである。
(オ) 商標法25条は「商標権者は,指定商品又は指定役務について登録
商標の使用をする権利を専有する。」と定める。これは,指定商品の普
通名称及びその商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途等の表
示が自由に行えることによって可能となるものである。しかるに,本件
商標が引用商標1及び2と類似しないものとして商標登録されるとき
は,原告は本件商標との関係において,原告の商標の使用が制限される
ことになる。原告が自己の商品「トリートメント」について,原告の商
標「チャージ/CHARGE」を使用しようとした場合,商品の品質表
示であり,また商品の普通名称でもある「トリートメント」を付記した
「トリートメント チャージ」は,本件商標に類似するものとして使用
できないものとなる。この場合において「チャージ トリートメント」
の使用も取引者,需要者において出所の誤認混同を生じる商標の使用と
なるおそれがある。このような制約が,他の指定商品,例えば「シャン
プー」「リンス」「ヘアトニック」において,「シャンプー チャー
ジ」「リンス チャージ」「ヘアトニックチャージ」「トニック チャー
ジ」のように,他人の商標登録が認められるならば,原告は自己の登録
商標の使用について,時の経過と共に著しい制限を課せられることにな
る。特に,化粧品はほとんど,商標と普通名称ないしは品質表示語を結
合した一連の語を商品の名称として採用しており,この制約による弊害
は顕著である。
(カ) 引用商標1及び2のように創造語でなく意味のある語句が識別性を
認められ登録された登録商標が多くある(「ライオン」,「サクセ
ス」,「カメリア」,「スパーク」,「キスミー」など,甲95~10
4)。これらの登録商標とこれらの登録商標に「トリートメント」又は
「TREATMENT」を付加した商標との類否判断を想定した場合,
これらを非類似の商標とすべき結論は導き出されない。
(キ) したがって,本件商標が商標法4条1項11号に該当しないと判断
した審決の判断は誤りである。
イ 取消事由2(商品の品質の誤認を生じさせるおそれに関する判断の誤
り)
(ア) 審決は,「本件商標は,上記のとおり『トリートメントチャージ』
のみの称呼を生じ,特定の観念を生じない造語であるから,これを『ト
リートメント効果のある化粧品』又は『トリートメント効果のあるせっ
けん類』以外の商品に使用しても,商品の品質の誤認を生じさせるおそ
れのないものというべきである。」と判断している(11頁下7~下3
行)。
(イ) しかし,本件商標の「トリートメント」の語は,「手入れ,保護」
の意味合いで使用され,美容分野,化粧品分野で「(髪・肌などの)手
入れ・保護」を意味する語句として広く普通に使用され,親しまれた語
であり,これを「トリートメント効果のある化粧品」又は「トリートメ
ント効果のあるせっけん類」以外の商品に使用した場合,商品の品質の
誤認を生じさせるおそれのあるものというべきである。
この点に関し,審決は,本件商標は一連の称呼を生ずるというが,そ
うであるからといって,品質の誤認を生じさせるおそれがないとは言い
切れないのであって,特に,本件商標は,「トリートメント」,「TR
EATMENT」と「チャージ」,「CHARGE」のいずれも親しま
れた2語の結合からなると容易に理解され,かつ,前半の「トリートメ
ント」,「TREATMENT」は,上記のとおり,「手入れ,保護」
の意味合いで普通に使用されていることから,本件商標を使用した商品
が「トリートメント効果を有する化粧品,同せっけん類」であると認識
されることは明らかである。
また,このような商取引の実態を踏まえ,特許庁も「トリートメン
ト」,「TREATMENT」の文字を含む商標については,「トリー
トメント効果を有する化粧品,同せっけん類」以外の商標に使用すると
きは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるとして,拒絶
している(甲23~25)。
(ウ) したがって,本件商標が商標法4条1項16号に該当しないと判断
した審決の判断は誤りである。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。
3 被告の反論
(1) 取消事由1に対し
ア 本件商標は一体不可分にのみ看取されるべきであって,「チャージ」
「CHARGE」の文字部分が,外観上,観念上,称呼上,独立して看取
されるべき理由が無いことは,被告が本件無効審判において詳述したとお
りである(審決8頁3行~28行)。
原告は,「…本件商標は,上段及び下段全体を含めて極めてまとまりよ
く表されているものである。また,本件商標は,これより生ずると認めら
れる『トリートメントチャージ』の称呼も格別冗長にわたるものではな
く,一連に無理なく,称呼し得るものである。」との審決の判断(10頁
下3行~11頁2行)を争い,冗長な商標であると主張している。
しかし,カタカナ11文字,アルファベット15文字でなる商標を冗長
というのは,常識的でない。
後記イ,ウのとおり,「トリートメント」「TREATMENT」の語
も「チャージ」「CHARGE」の語も,創造語ではなく比較的よくなじ
まれた語であり,いずれも他の語と組み合わせて使用されることが多いも
のである。それだけに,本件商標の「トリートメントチャージ」「TRE
ATMENT CHARGE」は,ごく普通の人が,一連にとらえてその
まま称呼し,一体としてまとまりのある意味,外観として看取すると解す
るのが自然である。
また,カタカナ11文字で表現される称呼は,通常人であれば息継ぎし
たり,略称したりすることなく,そのまま一連に発音し,一体に認識する
ことができるものである。
そして,本件商標は「トリートメントチャージ」というカタカナと「T
REATMENT CHARGE」という欧文を,多くの登録商標がそう
であるように,二段で表記したものである。同書,同大,等間隔で一連一
体に記載してなる本件商標が,極めてまとまりがよく表されていると審決
が認定するのは当然である。
イ 原告は,本件商標の指定商品「化粧品,せっけん類」について「トリー
トメント」「TREATMENT」が使用されている多数の証拠を提出し
ている。
しかし,被告は「トリートメント」「TREATMENT」の語が,髪
用化粧品やシャンプー等の分野において,「ヘアトリートメント」,「髪
の保護」,「髪の手入れ」の意味合いで使用されていることを否定してい
ない。一方,当該文字は,「扱い」,「待遇」,「治療(法)」,「手当
て」等の語義をも有する外来語として市販の辞典に掲載され(甲8[津田
武編「ビジネスマンのためのカタカナ語新辞典〔改訂版〕」213頁株式
会社旺文社1987年発行],甲9[斎籐栄三郎編「外国からきた新語辞
典第5版」250頁株式会社集英社昭和60年4月15日発行]),一般
になじまれている。そして本件商標の指定商品との関連でも,さまざまに
使用されていて,これらを総括すると「化粧品,せっけん類」について
「手入れ」,「保護」ほどの意味合いであることは明らかである(審決7
頁18行~8頁2行)。
また,「トリートメント」の語は,上記のとおり,「手入れ」,「保
護」ほどの意味合いであり,それ自体では,商品が特定されないため,動
詞的にあるいは「手入れ」,「保護」が何についてのものであるかを示す
説明や語と共に用いられることが多い。原告の提出した証拠から例示すれ
ば,「…毛髪に超音波振動を与えながら塗布したトリートメント液を浸透
させる…」(甲30),「…イオン導入トリートメントを行なう…」(甲
32)「…美肌トリートメント…」(甲33),「…アイ・リンクル・ト
リートメント・パッチ…」(甲46),「…トリートメント効果…」(甲
55)といった用例である。特許の「発明の名称」及び「特許請求の範
囲」でも同様である(甲72~93)。
ウ 「チャージ」「CHARGE」の用語が,「充電,料金,手数料」とい
った意味を有するものであることは,当事者間で争いがないものと思われ
る。
審決は,「『チャージ』,『CHARGE』の文字は,創造語でなく,
『充電,料金,手数料』の意味を有する語であり,被請求人の提出に係る
参考資料第1号の1及び2ないし参考資料第1号の25の1及び2の登録
商標の例のように,他の語と結合して採択,使用されているところであ
る。」と指摘している(11頁3行~6行)。この判断には何らの誤りは
ない。
「チャージ」の語は,「充電,料金,手数料」の意味を有するものであ
るから,何かを「チャージする」と動詞的に用いられることも多い。「化
粧品」又は「せっけん類」に関して,例えば「…『キレイ』をチャージす
る…」(乙1),「…うるおいをチャージして…」(乙2),「…エネル
ギーをチャージする…」(乙3),「夏バテ肌を急速冷却チャージする
…」(乙4)といったように使用されている。原告自身も引用商標1及び
2を使用した商品の説明で「有効成分と瞬間冷却効果を毛根と頭皮にチャ
ージする…」(乙5)と使用している。これらは「チャージ」の語が,
「化粧品」又は「せっけん類」に関しては,日常的に使用されている語で
あり,他の語と結合して使用されることが多いことを示すものである。
そして,「化粧品」又は「せっけん類」を指定商品とする「チャージ」
「CHARGE」の文字を含む商標の登録出願状況は,甲27(商標出願
登録[一覧画面])のとおりであり,「化粧品,せっけん類」について,
識別力を欠くか極めて識別力が弱い文字と「CHARGE」又は「チャー
ジ」の文字との結合商標が,引用商標1及び2とは非類似の商標として登
録されている。欧文の商標では,単語間にスペースがあるものも含まれて
いるが,「CHARGE」のみを要部として類否判断されていないことが
わかる。また,「ディープクリアチャージ/DEEP CLEAR CH
ARGE」及び「クリアチャージ/CLEAR CHARGE」について
は,原告が,引用商標1を引用し,これらの商標は商標法4条1項11号
に該当すると主張して登録異議申立てをしたが,これらの商標はいずれも
「構成全体をもって一体不可分の造語を表したものと認識し把握されると
みるのが自然である」として,登録が維持されている(甲21,乙6)。
これらの決定は,「CHARGE」及び「チャージ」の文字が「化粧品,
せっけん類」について商標の一部として採択されることが多いため,他の
文字と「CHARGE」又は「チャージ」の文字との結合商標について
は,「CHARGE」又は「チャージ」の文字のみによって商品の出所を
識別することができず,構成文字全体をもって一体不可分に看取する必要
がある,と判断しているのである。
本件商標と指定商品は異なるが,指定商品が,「薬剤」(「チャージ」又
は「CHARGE」の文字を含む商標の調査結果報告,乙7),「栄養補
助食品(サプリメント)」(前同,乙8),「清涼飲料」(前同,乙9)
についての商標の登録状況を見てみると,多数の「CHARGE」又は
「チャージ」の文字のみからなる商標と「CHARGE」又は「チャー
ジ」の文字及び一般的に識別力が高くないと思われる他の語からなる商標
とが併存している。例えば指定商品「薬剤」では,商標「チャージ」の登
録(第1325660号・昭和53年登録)が存在するにもかかわらず,
それ自体は識別力が無いと思われる「メディカル」を付けて「メディカル
チャージ」(登録第4154630号・平成10年登録),「ウォータ
ー」を付けて「ウォーターチャージ」(登録第4112971号・平成1
0年登録)といった商標が登録されている。逆に,指定商品「栄養補助食
品(サプリメント)」では,3段に表記した「WATER CHARGE
ウォーターチャージ」(登録第4317062号・平成11年登録)等
が先に登録されているのに,2段表記の「CHARGE/チャージ」(登
録第4633599号・平成14年登録)がその後に登録されている。同
様に指定商品「清涼飲料」でも,「アクアチャージ」(登録第20821
67号・昭和63年登録),2段に表記した「エネルギーチャージ/EN
ERGY CHARGE」(登録第2444652号・平成4年登録)が
登録されているのに,平成9年になって「CHARGE/チャージ」(登
録第3350569号)が登録されている。商標登録実務では,「CHA
RGE/チャージ」を含む商標の類否判断において,原告主張のように
「CHARGE/チャージ」部分を抜き出して,識別性を認めてはいな
い。これは,これらの商品について,「CHARGE」及び「チャージ」
の文字が商標の一部として採択されることが多く,その部分だけでは出所
の識別,混同が生じないからである。このような判断は,特許庁が示して
きた類否判断の考え方の基本であり,これに基づいて「CHARGE」又
は「チャージ」の文字を含む商標の類否判断の秩序が形成されているとい
うことができる。
エ 本件商標が引用商標1及び2と類似しない理由については,審決9頁下
11行~10頁9行に記載されているとおりである。
いずれも他の語と結びついて使用されることの多い,「手入れ」,「保
護」といったほどの意味合いを有する「トリートメント」という語,及び
「充電,料金,手数料」といったほどの意味合いを有する「チャージ」と
いう語を結合してなる本件商標について,「トリートメントチャージ」
「TREATMENT CHARGE」という一連,一体の商標として,
外観,観念,称呼を把握するのはごく自然である。
したがって,本件商標は,引用商標1及び2とは,外観,称呼,観念が
相違し,相互に誤認混同されるおそれがないことは明らかで,審決の判断
に誤りはない。現実にも,原告と被告の間で,本件商標と引用商標1及び
2の使用によって,誤認混同が生じることはない。
(2) 取消事由2に対し
商品の品質の誤認を生じさせるおそれに関する判断の誤りに関する原告の
主張も,本件商標の「トリートメント」「TREATMENT」の部分が独
立観察されるということを前提とするものであって,誤りである。
「トリートメント」「TREATMENT」の語は,「手入れ」,「保
護」ほどの意味合いの外来語として使用され理解されている。一方,「化粧
品,せっけん類」は,肌や身体の手入れや保護のために使用されるものであ
る。したがって,「化粧品,せっけん類」を指定商品とする本件商標が「ト
リートメント」及び「TREATMENT」の文字を含むことによって,商
品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるとする主張は失当である。
被告は,本件無効審判において,「トリートメント」又は「TREATM
ENT」の文字を含む登録商標の指定商品を指摘し,商標登録の実務におい
ても被告主張が受け入れられていることを明らかにした。登録商標の一部に
「トリートメント」,「TREATMENT」の語が含まれていても,指定
商品にいわゆる「トリートメント」効果が記載されている必要のないことは
明らかである。
したがって,「本件商標は,上記のとおり,『トリートメントチャージ』
のみの称呼を生じ,特定の観念を生じない造語であるから,これを『トリー
トメント効果のある化粧品』又は『トリートメント効果のあるせっけん類』
以外の商品に使用しても,商品の品質の誤認を生じさせるおそれのないもの
というべきである。」とした審決の判断(11頁下7行~下3行)に誤りは
ない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実
は,当事者間に争いがない。
2 取消事由1(本件商標と引用商標1及び2の類似性に関する判断の誤り)に
ついて
(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場
合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決す
べきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観
念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して
全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り,
その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和43年
2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。そして,商標
は,その構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているもの
であるから,みだりに,商標構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人
の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは許されないが,他
方,簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離
して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合して
いるものと認められない商標は,常に必ずしもその構成部分全体の名称によ
って称呼,観念されず,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,1個
の商標から2個以上の称呼,観念が生ずることがあるのは,経験則の教える
ところである。そしてこの場合,一つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観
念と同一又は類似であるとはいえないとしても,他の称呼,観念が他人のそ
れと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である
(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621
頁参照)。また,外観についてもその一部が他人のそれと類似することによ
って,両商標が類似すると解することができる場合がある。
そこで,以上の見地から本件事案について検討する。
(2) 本件商標の内容
ア 本件商標は,前記のとおり,上段に,「トリートメントチャージ」と間
隔を空けずに同一書体かつ同一の大きさで表記し,下段に,「TREAT
MENT CHARGE」と間隔を空けて同一書体かつ同一の大きさで表
記したものである。
イ そこで,まず,本件商標に用いられている「トリートメント」,「TR
EATMENT」,「チャージ」,「CHARGE」の語義について検討
する。
(ア) 「トリートメント」,「TREATMENT」の語義
a 「トリートメント」は,「扱い」,「待遇」,「治療(法)」,
「手当て」の語義を有する言葉として辞典に掲載されている(甲8[
津田武編「ビジネスマンのためのカタカナ語新辞典〔改訂版〕」21
3頁株式会社旺文社1987年発行],甲9[斎籐栄三郎編「外国か
らきた新語辞典第5版」250頁株式会社集英社昭和60年4月15
日発行])。そして,証拠(甲9,12~20,22,26,29~
93,113,114)及び弁論の全趣旨によれば,「トリートメン
ト」は,本件商標の指定商品である「化粧品,せっけん類」との関係
では,「手入れ」,「保護」の意味で使用されているほか,以下のと
おり,髪の毛及び頭皮を補修ないしは保護する商品を示す名称として
も使用されており,髪の毛及び頭皮を補修ないしは保護する商品を示
す普通名称となっていると認めることができる。
(a) 「2003 cosmetics in japan 日本の化粧品総覧」平成1
4年10月18日株式会社週刊粧業発行(甲12)
「ヘアケア市場は,前年に引き続いて,シャンプー,リンス,ト
リートメントなどのケアカテゴリーは依然として単価の下落に歯止
めがかからず,…」(24頁下1行~25頁1行)
(b) 厚生省薬務局監視指導課・東京・衛生局薬務部監修「医薬品・
化粧品等広告の実際 '94」平成6年9月15日株式会社薬業時
報社発行(甲16)
「…枝毛や切毛を防ぐ,痛んだ髪用のトリートメントです。」
(227頁~228頁)
(c) 「クロワッサン」2005年(平成17年)1月25日号(甲
17の2枚目)
「ヘアカラー&トリートメント」,「天然100%のトリートメ
ント&染毛剤です。」,「髪にハリ,コシ,ツヤが出ます。」
(d) 「ESSE」2005年(平成17年)2月号(甲17の3枚
目)
「大切なキューティクルを守りながら汚れだけを落とすので,毛
先までツルツルの洗い上がりでリンスやトリートメントも不要で
す。」
(e) 「婦人画報」2005年(平成17年)10月号(甲18の2
枚目)
「極上の髪へ導くヘアケアシリーズ」,「ジェントルケア」,
「〈トリートメント〉」
(f) 「ミセス」2005年(平成17年)10月号(甲18の3枚
目)
「髪と同じ成分が浸透・補修。洗い流さないトリートメント」,
「新リキッド・ヘア誕生」
(g) 「with」2005年(平成17年)10月号(甲18の4
枚目)
「…そんなハイダメージヘアを髪の芯からケアするために生まれ
た高保湿トリートメントが『サラパーフェクトヘアマスク』」
(h) 「J・J with」2005年(平成17年)10月号(甲
18の5枚目)
「世界に先がけ,シャンプー,コンディショナー,トリートメン
トの3ステップ・ヘアケアを発表」,「…サロンでは顧客にトリー
トメントを必ずすすめていた。…」
(i) 「朝日新聞」2006年(平成18年)1月17日,「毎日新
聞」2006年(平成18年)1月21日及び「読売新聞」200
6年(平成18年)1月24日(甲19の2枚目)
「…リンス,トリートメントいらずの贅沢な感触…」
(j) 「北海道新聞」2006年(平成18年)1月26日(甲19
の2枚目)
「…リンス,トリートメント要らずの贅沢な感触…」
(k) 化粧品の表示に関する公正競争規約施行規則(平成17年3月
14日公正取引委員会変更承認)「別表1[備考]」(甲22)
「4.種類別名称等に用途を表す名称をつけることができる。用
途名称は,…トリートメント…」
b 被告は,「トリートメント」の語は,それ自体では,商品が特定さ
れないと主張するが,上記aのとおり,髪の毛及び頭皮を補修ないし
は保護する商品を示す普通名称としても使用されていることからする
と,必ずしも商品が特定しないということはできない。
c 「トリートメント」は,「TREATMENT」に由来する外来語
であるから,「TREATMENT」の語義も,上記「トリートメン
ト」と同様のものであると認められる。
d そうすると,「トリートメント」,「TREATMENT」は,本
件商標の指定商品である「化粧品,せっけん類」に使用された場合に
は,識別力の乏しい言葉であるということができる。
(イ) 「チャージ」,「CHARGE」の語義
a 「チャージ」は,「料金」,「手数料」,「責任」,「義務」,
「詰め込み」,「積み込み」,「燃料補給」,「充電」等の語義を有
する言葉として辞典に掲載されている(前記甲8の184頁,前記甲
9の222頁,甲10[松村明ほか編「旺文社国語辞典改訂新版」7
73頁株式会社旺文社1988年発行])。
b そして,「チャージ」には,次のような用例があることが認めら
れ,このうち,(a)~(d)は,本件商標の指定商品である「化粧品,
せっけん類」に関する用例である。
(a) 「旬の夏野菜で『キレイ』をチャージするスローステイ」(乙
1[インターネットサイトhttp://www.fujisan.co.jpにおいて雑誌
「Oggi」2004年[平成16年]7月28号発売号の記事を
紹介したもの])
(b) 「身体(からだ)の内側と外側からうるおいをチャージして,
今年の冬は乾燥に負けない肌をつくってください。」(乙2[イン
ターネットサイトhttp://www.shiseido.co.jpにおける「『おしゃ
れなひととき』2004年冬・第69号」と題する記事])
(c) 「細胞の源となる話題の成分『コエンザイムQ 10 』を配合し
て,エネルギーをチャージする無添加美容液登場〈2005年2月
18日(金)数量限定販売〉」(乙3[株式会社ファンケルの平成
17年2月ころの広告])
(d) 「夏バテ肌を急速冷却チャージする新感覚のジェリーウォータ
ー」(乙4[インターネットサイトhttp://allabout.co.jpの平成
17年4月28日当時の記事])
c 証拠(甲4,5,6の1~27,7,乙5)によれば,①原告は,
平成17年春に,引用商標1及び2と同一性のある商標を使用した商
品である「薬用育毛トニック」と「薬用コンディショニングシャンプ
ー」を発売したこと,②原告は,平成17年4月には,全国の新聞各
紙で,これらの商品の広告をしたが,その中で,「頭皮と髪にチャー
ジ!」,「毛根と頭皮にチャージ!」,「チャージ(CHARGE)
は[補給・蓄える・充電]するという意味。薬用チャージは,毛根と
頭皮に十分な栄養を与え,髪の生育環境を整え自分本来の髪を維持す
るための育毛ケア商品です。」との記載をしたこと,③原告は,イン
ターネットサイトにおいて,上記各商品について「抜け毛・薄毛で悩
む男性の頭皮と毛根に血流をチャージ!」と記載し,上記「薬用育毛
トニック」について「有効成分と瞬間冷却効果を毛根と頭皮にチャー
ジする…」と記載したこと,以上の事実が認められる。
d 以上によると,「チャージ」は,日本語としても広く用いられてい
る言葉で,本件商標の指定商品である「化粧品,せっけん類」に関し
ては,「補給する」,「蓄える」などといった意味の言葉として用い
られることがあるものと認められる。
「チャージ」は,「CHARGE」に由来する外来語であるから,
「CHARGE」の語義も,上記「チャージ」と同様のものであると
認められる。
そうすると,「チャージ」及び「CHARGE」は,本件商標の指
定商品である「化粧品,せっけん類」に使用された場合には,特に識
別力が高い言葉であるとまでいうことはできないものの,上記(ア)で
述べた「トリートメント」及び「TREATMENT」よりは識別力
が高いことは明らかである。
ウ 次に,本件商標が,「トリートメント」と「チャージ」,「TREAT
MENT」と「CHARGE」に分離して印象されるかどうかについて検
討する。
(ア) 本件商標のうち上段の「トリートメントチャージ」の部分は,「ト
リートメントチャージ」と,間隔を空けずに同一書体,同一の大きさで
表記されている。
しかし,上記イのとおり,「トリートメント」と「チャージ」は,別
個の意義を有する言葉であって,「トリートメントチャージ」という一
つの言葉が存するわけではないから,本件商標のうち「トリートメント
チャージ」の部分は,「トリートメント」と「チャージ」に分離して認
識されるというべきである。また,本件商標のうち「トリートメントチ
ャージ」の部分が11音から成っていることからすると,常に一連のも
のとして称呼されるということもできない。
(イ) 一方,本件商標のうち「TREATMENT CHARGE」の部
分は,同一書体,同一の大きさで表記されているものの,「TREAT
MENT」と「CHARGE」の間に間隔が空いており,上記イのとお
り「TREATMENT」と「CHARGE」は別個の意義を有する言
葉であって,「TREATMENTCHARGE」という一つの言葉が
存するわけではないことからすると,本件商標のうち「TREATME
NT CHARGE」の部分は,「TREATMENT」と「CHAR
GE」に分離して認識されるというべきである。また,本件商標のうち
「TREATMENT CHARGE」の部分が15音から成っている
ことからすると,常に一連のものとして称呼されるということもできな
い。
(ウ) したがって,本件商標は,「トリートメント」と「チャージ」,
「TREATMENT」と「CHARGE」に分離して印象されるもの
であって,全体を一連,一体の商標として把握することができるという
ものではない。
そして,本件商標の「チャージ」及び「CHARGE」の部分から
は,「チャージ」の称呼及び上記イ(イ)認定の観念が生ずるものと認め
られる。
(3) 引用商標1及び2の内容
ア 引用商標1は,前記のとおり,上段に「CHARGE」と表記し,下段
に「チャージ」と表記したものである。引用商標1からは,「チャージ」
の称呼が生ずるほか,前記(2)イ(イ)認定の観念が生ずるものと認められ
る。
イ 引用商標2は,上部に「Charge」と大きく表記し,その左上に小
さく「チャージ」と表記し,下部に図形を配したものである。引用商標2
からは,「チャージ」の称呼が生ずるほか,前記(2)イ(イ)認定の観念が
生ずるものと認められる。
(4) 本件商標と引用商標1及び2の類否
ア 以上の(2)及び(3)で述べたところに照らして,本件商標と引用商標1及
び2とを対比すると,本件商標と引用商標1及び2とは,外観において
「チャージ」及び「CHARGE」又は「Charge」の文字を含む点
が共通しており,称呼においても「チャージ」の称呼を生ずる点が共通し
ている。また観念においても前記(2)イ(イ)認定の観念が生ずる点が共通
しているということができる。
このように,本件商標は,外観,呼称及び観念において引用商標1及び
2と共通しているのであるから,本件商標は引用商標1及び2と類似する
ものと認められる。
イ 被告は,①「化粧品,せっけん類」について,識別力を欠くか極めて識
別力が弱い文字と「CHARGE」又は「チャージ」の文字との結合商標
が,引用商標1及び2とは非類似の商標として登録されている(甲2
7),②「ディープクリアチャージ/DEEP CLEAR CHARG
E」及び「クリアチャージ/CLEAR CHARGE」については,原
告が,引用商標1を引用し,これらの商標は商標法4条1項11号に該当
すると主張して登録異議の申立てをしたが,これらの商標はいずれも「構
成全体をもって一体不可分の造語を表したものと認識し把握されるとみる
のが自然である」として,登録が維持されている(平成10年異議第90
933号,平成10年8月18日決定[甲21]。平成10年異議第90
971号,平成10年8月18日決定[乙6]),と主張するが,いずれ
も本件商標とは異なる「CHARGE」又は「チャージ」を含む商標と引
用商標1及び2との類否についての特許庁の判断を主張するものにすぎ
ず,上記アの認定を左右するものではない。
また,被告は,指定商品が,「薬剤」(乙7),「栄養補助食品(サプ
リメント)」(乙8),「清涼飲料」(乙9)についての商標の登録状況
を見てみると,多数の「CHARGE」又は「チャージ」の文字のみから
なる商標と「CHARGE」又は「チャージ」の文字及び一般的に識別力
が高くないと思われる他の語からなる商標とが併存していると主張する。
しかし,これらの事例は,本件商標とは指定商品を異にする上,被告主張
にかかる「CHARGE」又は「チャージ」を含む商標も本件商標とは異
なるから,上記アの認定を左右するものではない。
(5) 以上のとおり本件商標は引用商標1及び2と類似するから,本件商標が
商標法4条1項11号に該当しないとした審決の判断には誤りがあり,取消
事由1は理由がある。
3 結語
よって,取消事由2について判断するまでもなく,原告の請求は理由がある
から,認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 森 義 之
裁判官 澁 谷 勝 海

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