平成19(行ケ)10241審決取消請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
一部認容 知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成20年5月21日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告大洋化学株式会社 原告東和産業株式会社
|
法令 |
特許権
特許法17条の21回 特許法134条の31回 特許法123条1項1回
|
キーワード |
審決92回 実施26回 無効21回 無効審判6回 訂正審判4回 特許権1回 抵触1回
|
主文 |
特許庁が無効2005−80197号事件について平成19年5月21日にした審決中,特許第3681379号の請求項1に係る発明についての審判請求が成り立たないとした部分を取り消す。原告のその余の請求を棄却する。訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の,その余を被告の各負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,被告の有する下記1の( )の特許(以下「本件特許」という )の請求項1 。
1∼3の発明に係る特許につき原告がした無効審判請求において,請求項1,3の
発明に係る特許を無効とし,請求項2の発明についての審判請求を不成立とする審
決(以下「一次審決」という )がされた後,被告が,審決取消訴訟を提起し,か。
つ,訂正審判請求をしたことに基づいて,一次審決中,請求項1,3の発明に係る
特許を無効とした部分を取り消す決定がされ,特許法134条の3第5項,3項に
より,同訂正審判請求に係る請求書に添付された明細書及び特許請求の範囲を援用
した訂正請求がされたものとみなされたところ(以下,この訂正を「本件訂正」と
いう ,特許庁は,本件訂正を認めた上,審判請求は成り立たないとの審決(以下。)
「本件審決」という )をしたため,原告が,本件審決の取消しを求める事案であ。
る。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
平成19年(行ケ)第10241号 審決取消請求事件
平成20年5月21日判決言渡,平成20年4月14日口頭弁論終結
判 決
原 告 東和産業株式会社
訴訟代理人弁理士 小谷悦司,樋口次郎,小谷昌崇
被 告 大洋化学株式会社
訴訟代理人弁理士 藤本昇,薬丸誠一,平井隆之
主 文
特許庁が無効2005−80197号事件について平成19年5月21日にした
審決中,特許第3681379号の請求項1に係る発明についての審判請求が成り
立たないとした部分を取り消す。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の,その余を被告の各負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が無効2005−80197号事件について平成19年5月21日にし
た審決を取り消す。
」との判決。
第2 事案の概要
本件は,被告の有する下記1の(1)の特許(以下「本件特許」という。)の請求項
1∼3の発明に係る特許につき原告がした無効審判請求において,請求項1,3の
発明に係る特許を無効とし,請求項2の発明についての審判請求を不成立とする審
決(以下「一次審決」という。)がされた後,被告が,審決取消訴訟を提起し,か
つ,訂正審判請求をしたことに基づいて,一次審決中,請求項1,3の発明に係る
特許を無効とした部分を取り消す決定がされ,特許法134条の3第5項,3項に
より,同訂正審判請求に係る請求書に添付された明細書及び特許請求の範囲を援用
した訂正請求がされたものとみなされたところ(以下,この訂正を「本件訂正」と
いう。,特許庁は,本件訂正を認めた上,審判請求は成り立たないとの審決(以下
)
「本件審決」という 。)をしたため,原告が,本件審決の取消しを求める事案であ
る。
1 特許庁における手続の経緯
( 1) 本件特許(甲第13号証)
特許権者:大洋化学株式会社(被告)
発明の名称: 収納袋の排気弁」
「
特許出願日:平成15年5月19日(特願2003−140075号)
設定登録日:平成17年5月27日
特許番号:特許第3681379号
(2) 本件手続
審判請求日:平成17年6月28日(無効2005−80197号)
訂正請求日:平成17年9月20日
一次審決日:平成18年7月11日(甲第12号証の11)
一次審決の結論: 訂正を認める。特許第3681379号の請求項1,3に係
「
る発明についての特許を無効とする。特許第3681379号の請求項2に係る発
明についての審判請求は,成り立たない 。」
一次審決に対する被告による審決取消訴訟提起日:平成18年8月21日
訂正審判請求日:平成18年10月4日(訂正2006−39166号。甲第1
2号証の12,13)
一次審決に対する取消決定日:平成18年10月16日
一次審決に対する取消決定の主文: 特許庁が無効2005−80197号事件
「
について平成18年7月11日にした審決のうち,『特許第3681379号の請
求項1,3に係る発明についての特許を無効とする。
』との部分を取り消す 。」
本件審決日:平成19年5月21日
本件審決の結論: 訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。
「 」
本件審決謄本送達日:平成19年5月31日(原告に対し)
2 本件発明の要旨等
( 1) 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,3に記載された発明(以下,請求
項の番号に対応して「本件発明1」などという。なお,請求項の数は,本件訂正前
は8個,本件訂正後は7個であり,本件訂正によって削除された請求項は,訂正前
の請求項4である。 の要旨は ,以下のとおりである(下線部は訂正部分である。。
) )
「 請求項1】
【 収納袋の一部を内外面から挟着又は融着して収納袋に装着する弁
本体と,この弁本体に着脱自在に取付けた蓋体とからなり,上記弁本体の中央部に
収納袋の内外面間に連通する排気孔を設けていると共にこの排気孔の上端開口部上
に上記収納袋内の排気時には上動して該排気孔を解放させ,排気後には下動して排
気孔を閉止する弁板を配設している一方,上記蓋体にはその中央部に吸気用孔を設
けていると共に,上記蓋体から両端部が突出している操作部材を水平方向の一方側
の位置へ移動操作することによって上記弁板を下方に押圧して排気孔を閉止状態に
保持し,上記操作部材を水平方向の他方側の位置へ移動操作することによって弁板
の上下動を許容するロック機構を蓋体の下面側に設けていることを特徴とする収納
袋の排気弁。
【請求項3】 収納袋の一部を内外面から挟着又は融着して収納袋に装着する弁本
体と,この弁本体に着脱自在に取付けた蓋体とからなり,上記弁本体の中央部に収
納袋の内外面間に連通する排気孔を設けていると共にこの排気孔の上端開口部上に
上記収納袋内の排気時には上動して該排気孔を解放させ,排気後には下動して排気
孔を閉止する弁板を配設している一方,上記蓋体にはその中央部に吸気用孔を設け
ていると共に下面側にこの蓋体を弁板回りの一方向に回動させた時に,弁板を下方
に押圧して排気孔を閉止状態に保持し,他方向に回動させた時に弁板の上下動を許
容するロック機構を設け,該ロック機構は,弁板の上面外周端縁部に周方向に一定
間隔毎に突設された複数のカム突起と,蓋体の下面における吸気用孔の外周部に突
設された係合突起とからなり,この係合突起を上記蓋体の一方向の回動操作により
対向するカム突起の上端面に係止させて弁板を閉止状態に保持し,該蓋体の他方向
の回動操作により対向するカム突起の上端面からの係合突起の係止を解いて弁板の
上下動を許容するように構成したことを特徴とする収納袋の排気弁。」
( 2) 特許請求の範囲の請求項2の記載(請求項2の記載は,本件訂正による訂正
はされなかった。以下,請求項2記載の発明を「本件発明2」という。)は以下の
とおりである。
「 請求項2】
【 ロック機構は,蓋体に水平方向に一方側と他方側との位置間を移
動自在に操作部材を支持すると共にこの操作部材と弁板との対向面における一方に
カム突起を,他方に係合突起を突設してなり,上記操作部材を一方側の位置に移動
させた時にカム突起と係合突起とを係止させて弁板を閉止状態に保持し,操作部材
を他方側の位置に移動させた時にカム突起と係合突起と係止を解いて弁板の上下動
を許容するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の収納袋の排気弁 。」
3 本件審決の理由の要点
本件審決は,本件訂正を認めた上,原告(無効審判請求人)から無効事由として
主張された,①本件特許出願の際の平成17年2月10日付け手続補正による請求
項1,2(補正前の請求項3,4)の補正が,新規事項を追加するものであって,
本件訂正によってもその瑕疵は解消しておらず,特許法17条の2第3項に違反す
る,②特許請求の範囲の請求項1の記載は,発明の外延が不明確であって,本件訂
正によってもその不備は解消しておらず,同法36条6項2号の要件を満たしてい
ないとの各事由は,いずれも認められないとし,さらに,原告の主張に係る,③本
件発明1は,下記甲第1号証及び甲第2号証(甲第1,第2号証の証拠番号は,審
判及び本訴に共通。)にそれぞれ記載された発明並びに参考資料1∼4(本訴甲第
6∼9号証)に示された周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することができ
るものであるから,同法29条2項に規定する発明である,④本件発明3は,下記
甲第1号証に記載された発明であるから,同条1項3号に規定された発明である,
との各事由も認められないとした。
甲第1号証 実公平8−6754号公報
甲第2号証 特表2002−510783号公報
参考資料1 実願昭59−193944号(実開昭61−110349号)のマ
イクロフィルム(本訴甲第6号証)
参考資料2 実願昭54−108679号(実開昭56−26033号)のマイ
クロフィルム(本訴甲第7号証)
参考資料3 実願昭54−53121号(実開昭55−153030号)のマイ
クロフィルム(本訴甲第8号証)
参考資料4 特開平10−248726号公報(本訴甲第9号証)
本件審決の理由中,本件発明1が,甲第1,第2号証に記載された各発明及び参
考資料1∼4に示された周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができる
ものであるとは認められないとした判断の部分,及び本件発明3が甲第1号証に記
載された発明であるとは認められないとした判断の部分は,以下のとおりである。
( 1) 甲第1,第2号証の記載事項の認定
ア 甲第1号証
「甲第1号証には,次に示す記載事項a∼cが記載されている。
記載事項a
『・・・この筒状部13の内部は,隔壁4の上面から底面へ貫通する通風口5となっているの
である。・・・収納袋Zの外部より基体1の上面に螺合部10を囲むように環状部材14を装
着して・・・上記蓋体2は,上述の通り,螺合部10の螺刻部11と螺合する螺刻部21が内
周面に設けられたキャップである 。・・・図4へ示す通りこの排気孔6は,隆起部22の中心
を囲むように配されている。貫通孔23は,蓋体2が基体1へ螺合した状態において,前述の
通風口5の真上に位置する。 (段落0021∼0025)
』
記載事項b
『先ず蓋体2は,基体1に対して緩められた状態にあり・・・掃除機から受ける負圧によって,
弁体3は,上方に吸い寄せられ,通風口5を開放する 。・・・脱気終了後・・・脱気された収
納袋Z内部の負圧及び必要に応じ発条33によって,弁体3は下に引き寄せられ,通風口5を
塞ぐ。・・・不必要であれば,この発条33は設けなくてもよい。他方,通常上述の脱気され
た収納袋Z内部の負圧によって充分に弁体3の吸い寄せがなされる・・・掃除機の吸引口Wを
蓋体2の対応部20より外した後,蓋体2を回して,基体1への締め付けを完了する(図3 )。
この状態において,弁体3は,蓋体2の裏面に押さえられ ,通風口5の完全な遮断がなされる。』
(段落0031∼0033)
記載事項c
『図7へ,蓋体2を基体1から緩めた際に,この蓋体2が脱落しないため該構成について,説
明する。・・・以上のように,規制部7等を設けることによって,基体1から蓋体2を緩めた
際,蓋体2が,基体1より外れず,便利である。 (段落0036∼0039)
』
したがって,記載事項a∼c及び図1∼4,7,8からみて,甲第1号証には,
『収納袋Zの一部を内外面から挟着して収納袋Zに装着する基体1と,この基体1に着脱自在
に取付けた蓋体2とからなり,上記基体1の中央部に収納袋Zの内外面間に連通する通風口5
を設けていると共にこの通風口5の上端開口部上に上記収納袋Z内の排気時には上動して該通
風口5を解放させ,排気後には下動して通風口5を閉止する弁体3を配設している一方,上記
蓋体2の隆起部22の中心を囲むように排気口6を設けていると共に,蓋体2を一方向に数回
転回転操作することにより上記弁体3を下方に押圧して通風口5を閉止状態に保持し,蓋体2
を他方側に数回転回転操作することにより弁体の上下動を許容するロック機構を蓋体の下面側
に設けている収納袋の脱気弁』が記載されている。
また,(1)甲第1号証(段落0036∼0039)において,図7,8の構成を設けるこ
とにより,『蓋体2を基体1から緩めた際に,この蓋体2が脱落しないため』との記載から,
該構成を設けない実施例である図2,3においては,蓋体2が基体1から外れるものであるか
ら,蓋体2は基体1に着脱自在に取付けられているものと認めた。
(2)甲第1号証(段落0031∼0033)において ,『掃除機の吸引口Wを蓋体2の対応
部20より外した後,蓋体2を回して,基体1への締め付けを完了する(図3 )。この状態に
おいて,弁体3は,蓋体2の裏面に押さえられ,通風口5の完全な遮断がなされる 。』との記
載から,この機構がロック機構であるものと認めた。」
イ 甲第2号証
「甲第2号証には,次の記載がある。
記載事項d
『・・・バルブ60はバルブアクチュエータ61と,バルブメンバー62と,バルブシート6
3と,バルブシート63の上面の溝65に据え付けられたOリング64とを含んでなる 。・・
・図7に示すように,スプリング66は,バルブメンバー62が閉じた状態に偏らせる。バル
ブアクチュエータ61を押し下げると,バルブメンバー62はバルブシート63から動き,ク
ッション内の空気圧力の調整のために空気が出入りすることを許容する。(段落0022)
』
記載事項e
『バブル60(判決注: バルブ60」の誤記と認められる 。
「 )の全開状態への,および全開状
態からの動作は(図8参照),バルブベース71の直立するチューブ状部の外面のネジ山69の
下面に位置し,内側に向けられた面68にかみ合わせられるネジ山を有する回転式のナット6
7によってなされる。 (段落0023)
』
記載事項f
『ナット67の半時計周りの回転は,ネジ山を面68にかみ合わせてネジ山69に半回転捻っ
てねじ込むようにし,バルブアクチュエータ61のフランジ73のナット67との噛み合いは ,
バルブアクチュエータ61およびバルブメンバー62を下向きに押しつけ,図8に示すように
バルブを開く。 (段落0024)
』
上記の記載事項d∼f及びFig.6∼8からみて,甲第2号証には,
『クッションに装着されたバルブベース71と,上記バルブベース71の中央部にクッション
の内外面間に連通する穴を設けていると共に,前記穴を閉じた状態と開いた状態にするバルブ
メンバー62を配設し,ナット67を一方側の位置へ移動操作することによってスプリング6
6に抗して前記バルブメンバー62を開いた状態に保持し,上記ナット67を他方側の位置へ
移動操作することによってバルブメンバーの上下動を許容する機構を設けているバルブ 。』が
記載されている。」
( 2) 甲第1号証記載の発明と本件発明1との対比
「甲第1号証に記載された発明と,本件発明1とを比較すると,甲第1号証に記載された発明
の『収納袋Z』 『基体1』 『蓋体2』 『通風口5』 『弁体3』及び『排気孔6』は,その機能
, , , ,
からみて,本件発明1の『収納袋』 『弁本体』 『蓋体 』 『排気孔』 『弁板』及び『吸気用孔』
, , , ,
にそれぞれ相当する。
したがって,両者は,
『収納袋の一部を内外面から挟着して収納袋に装着する弁本体と,この弁本体に着脱自在に取
付けた蓋体とからなり,上記弁本体の中央部に収納袋の内外面間に連通する排気孔を設けてい
ると共にこの排気孔の上端開口部上に上記収納袋内の排気時には上動して該排気孔を解放さ
せ,排気後には下動して排気孔を閉止する弁板を配設している一方,上記蓋体には吸気用孔を
設けていると共に,水平方向の一方側へ操作することによって上記弁板を下方に押圧して排気
孔を閉止状態に保持し,水平方向の他方側へ操作することによって弁板の上下動を許容するロ
ック機構を蓋体の下面側に設けている収納袋の排気弁 。』
である点で一致し,以下の点で相違している。
<相違点1>
ロック機構の操作部材について,本件発明1では,操作部材が蓋体から両端部が突出してい
るのに対し,甲第1号証に記載された発明では,蓋体2が操作部材でもある点。
<相違点2>
ロック機構の操作手段として,本件発明1では,操作部材を一方側の位置へ移動操作するこ
とによって弁板を下方に押圧して排気孔を閉止状態に保持し,上記操作部材を他方側の位置へ
移動操作することによって弁板の上下動を許容するのに対し,甲第1号証に記載された発明で
は,蓋体2を一方向に数回転回転操作することにより上記弁体3を下方に押圧して通風孔5を
閉止状態に保持し,蓋体2を他方側に数回転回転操作することにより弁体の上下動を許容する
ものである点。
<相違点3>
本件発明1では,蓋体の中央部に吸気用孔を設けているのに対し,甲第1号証に記載された
発明では,排気孔6は隆起部22の中心を囲むように配されている点。」
( 3) 相違点についての判断
「上記相違点1及び2について検討する。
(a)本件発明1における,相違点1及び2に係る構成の技術的意義は,訂正後の明細書及び
図面を参酌すると,次のように解することができる。
<脱気時の操作>
収納袋を掃除機により脱気後,蓋体から両端部が突出するロック機構を一方側の位置に移動
操作することにより,収納袋の排気弁の弁板を下方に押圧して閉止状態にロックし,この状態
を保持することができる。
<外気導入時の操作>
収納袋に外気を導入する際は,蓋体から両端部が突出するロック機構を他方側の位置に移動
操作することにより,収納袋の排気弁の弁板の閉止状態のロックを解除することができる。
これに対して,甲第1号証に記載された発明においては,
<脱気時の操作>
収納袋を掃除機により脱気後,蓋体を一方側の位置に数回転も回転操作することにより,収
納袋の排気弁の弁板を下方に押圧して閉止状態にロックし,この状態を保持することができる 。
<外気導入時の操作>
収納袋に外気を導入する際は,蓋体を他方側の位置に数回転も回転操作することにより,収
納袋の排気弁の弁板の閉止状態へのりロックを解除することができる。
したがって,本件発明1は,上述のように,収納袋の排気弁の弁板をロック及びロック解除
するに当たり,甲第1号証に記載された発明とは,当該弁体のロック機構はもとより,操作性
においても大きく異なるものである。
(b)そして,ロック機構の操作部材が蓋体から両端部が突出しているものは,甲第2号証に
は記載されていなく,参考資料1∼4にも記載されていない。
参考資料1∼4は,ポットの栓体に設けられた弁体を操作部材で開閉操作するものであり,
そもそも弁体のロック機構ではなく,参考資料4の操作手段は蓋体から操作部材の両端部が突
出しているものの,収納袋の排気弁とは技術分野,技術的課題が全く異なるものであり,甲第
1号証に記載された発明にこれら参考資料1∼4に記載された技術を適用することを動機付け
る技術的関連性を何ら見出せない。
(c)また,甲第2号証のロック機構の操作手段は,操作部材を他方側の位置へ移動操作する
ことによって弁板の上下動を許容するものではあるが,スプリングに抗して排気孔を開状態に
保持するものであり,閉止状態に保持するものではない。
甲第2号証の発明及び参考資料1∼4の弁体の開閉手段には,その操作機構からみて,スプ
リングを使用することが必須であり,本件の課題では,段落0008『また,収納袋内を脱気
する際に,電気掃除機の吸気ノズルを可動蓋上に押し付けてスプリング力に抗して弁板を開放
させた状態を保持しておかねばならないために,操作が煩雑化して使用勝手が悪くなるばかり
でなく,スプリングは金属材料で形成されているために,錆が発生して円滑な作動が行えなく
なる事態が発生する虞れがある 。』と記載されており,本件発明1はスプリングを使用しない
ことをその技術的課題としていることは明らかであるから,甲第1号証に記載された発明と組
み合わせて本件発明1とすることはできないことは明らかである。
(d)さらに,参考資料4の操作手段は,操作部材を一方側の位置へ移動操作することによっ
て弁板を押圧して孔を閉止状態に保持するものではあるものの,そもそも弁体のロック機構で
はなく,弁体を開状態と閉状態に操作するものであり,操作部材を他方側の位置へ移動操作す
ることによって弁板の上下動を許容するものでもない。
(e)したがって,甲第2号証の発明及び参考資料1∼4の発明は,その操作手段からみて,
それぞれ全く別個のものであるから,甲第1号証の発明に組み合わせて本件発明1とすること
は,当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって,前記相違点1及び2の検討結果から,相違点3を検討するまでもなく,本件発明1
は,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて,当
業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,特許法第29条第2項の規定に
より特許を受けることができないものであるとはいえない。」
( 4) 本件発明3についての判断
「本件発明3の一部を構成する「該ロック機構は,弁板の上面外周端縁部に周方向に一定間隔
毎に突設された複数のカム突起と,蓋体の下面における吸気用孔の外周部に突設された係合突
起とからなり,この係合突起を上記蓋体の一方向の回動操作により対向するカム突起の上端面
に係止させて弁板を閉止状態に保持し,該蓋体の他方向の回動操作により対向するカム突起の
上端面からの係合突起の係止を解いて弁板の上下動を許容するように構成したこと」は,訂正
前の本件請求項4に係る発明である。
そして,甲第1,2号証及び参考資料1∼4には,前記訂正後の本件請求項3に係る発明に
関する事項は全く見当たらない。
したがって,本件発明3は,甲第1号証に記載された発明ではなく,特許法第29条第1項
第3号に規定される発明とすることはできない。」
第3 原告の主張(審決取消事由)の要点
本件審決は,本件発明1の容易想到性の判断において,甲第1号証記載の発明 以
(
下「甲1発明」という。)の認定を誤った結果,本件発明1と甲1発明との相違点
2の認定を誤り(取消事由1),また,相違点1,2についての判断を誤った(取
消事由2)結果,本件発明1が,甲1発明,甲第2号証に記載された発明及び周知
技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえないと誤って判
断したものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点2の認定の誤り)
(1) 本件審決は,甲1発明のロック機構につき,「蓋体2を一方向に数回転回転
操作することにより上記弁体3を下方に押圧して通風口5を閉止状態に保持し,蓋
体2を他方側に数回転回転操作することにより弁体の上下動を許容するロック機構
を蓋体の下面側に設けている」と認定し,この認定に基づいて ,「ロック機構の操
作手段として,本件発明1では,操作部材を一方側の位置へ移動操作することによ
って弁板を下方に押圧して排気孔を閉止状態に保持し,上記操作部材を他方側の位
置へ移動操作することによって弁板の上下動を許容するのに対し,甲第1号証に記
載された発明では,蓋体2を一方向に数回転回転操作することにより上記弁体3を
下方に押圧して通風孔5を閉止状態に保持し,蓋体2を他方側に数回転回転操作す
ることにより弁体の上下動を許容するものである点」を本件発明1と甲1発明との
相違点2として認定した。
しかしながら,以下のとおり,相違点2の認定は誤りである。
(2) 甲第1号証には,「蓋体2は,基体1の上部に対して上下動可能に螺合して
いる。即ち,蓋体2を回動することによって,蓋体2は上下に移動する。そして,
・・・蓋体2は基体1に締め付けることによって下方に移動し,弁体3を下方の通
風口5の方向に移動させ,通風口5を塞ぐことができる。他方,蓋体2が緩められ
た際,弁体3が,収納袋内の負圧により通風口5へ吸い寄せられて通風口5を塞ぎ,
掃除機の吸引によって上記蓋体2の排気孔6へ寄せられて脱気する。 段落 0016】
」
( 【 )
との記載があり,操作部材を兼ねる蓋体2を,回動操作により,上下方向に移動さ
せ得ることが開示されている。そして,このことは,操作部材を「一方側の位置」
と「他方側の位置」との間で「移動」することにほかならず,この点において,本
件発明1と甲1発明との間に相違はない。
したがって,本件審決の上記相違点2の認定は誤りである。
(3)ア のみならず,甲第1号証の図2及び図3に基づく実施例(段落【0032】∼
【0033】)においては,弁体3を閉止状態と上下動許容状態との間で切り替えるに
当たって,蓋体2を数回転回転操作しなければならないことが開示されているが,
甲第1号証には,弁体3を閉止状態と上下動許容状態との間で切り替えるための蓋
体2の回転操作が1回転に満たない実施例も記載されている 段落 0036】【0039】
( 【 ∼ ,
図7∼9)のであるから,甲1発明において,蓋体の回転が1回転未満であっても
弁体を閉止状態と上下動許容状態に適切に切り替えることができるものを想定し得
ることは明らかである。
したがって,甲1発明のロック機構についての本件審決の上記(1)の認定は誤り
であり,この認定に基づく本件発明1と甲1発明との相違点2の認定も誤りである。
イ この点につき,被告は,原告が,本件審判に係る平成18年4月21日の口
頭審理において ,「甲第1号証の図7∼9に対応する実施例については,審判請求
書でも指摘しておらず,これらの実施例についてあえて参酌する必要はない」旨陳
述をしたこと(甲第12号証の10)に基づき,上記( 1)の主張は審判段階の上記
陳述を覆すものであって,禁反言の法理に照らし許されない旨主張する。
しかしながら,原告の上記陳述は,上記口頭審理において原,被告間の争点とさ
れていた本件発明3の操作部材と甲1発明の蓋体の操作量に関し,甲1発明におい
て蓋体の操作量を1回転未満にする程度のことは単なる設計事項にすぎないとの原
告の主張が認められるのであれば,わざわざ甲第1号証の図7∼9に対応する実施
例について参酌する必要がないという趣旨でなされたものであり,原告の上記主張
が認められることが前提とされているものである。このことは,当該口頭審理に係
る口頭審理調書(甲第12号証の10)に,本来記載する必要のない「あえて」な
る文言がわざわざ記載されていることからも容易に推測することができるものであ
る。しかるところ,本件審決の認定判断は,上記前提である原告の主張を認めるも
のでなかったから,原告としては,改めて,甲第1号証の図7∼9に対応する実施
例について主張する必要が生じたものであり,この主張が禁反言の法理に反するも
のではない。
また,本件発明1に係る特許請求の範囲の請求項1は,上記口頭審理後に,本件
訂正(平成18年10月4日付け訂正審判請求に係る訂正であり,一次審決の取消
決定により訂正請求がされたものとみなされたものに係る訂正)が本件審決によっ
て認められたことに伴って訂正されたものであり,本件発明1は,上記口頭審理の
時点と内容を異にするものである。そして,この訂正の結果,改めて,甲第1号証
の図7∼9に対応する実施例について主張する必要が生じたものであるから,この
主張が禁反言の法理に反するものではない。
さらに,いわゆる「表示による禁反言」は,被表示者が,表示者の表示を信頼し
て,その利害関係を変更した場合に認められるものである。そして,上記口頭審理
における原告の陳述は,「甲第1号証の図7∼9に対応する実施例をあえて参酌せ
ずとも,本件発明1に係る特許は無効である」との趣旨の表示であり,かつ,この
表示についての被表示者は,当該陳述等に基づき審決をすべき審判官であるところ ,
審判官が上記表示を信頼したものではなく,その利害関係を変更したものでもない
ことは,本件審決が,無効審判請求を不成立としたことから明白である。したがっ
て,上記陳述に基づく禁反言の法理が認められる場合に当たるものではない。
2 取消事由2(相違点1,2についての判断の誤り)
(1) 本件審決は,本件発明1と甲1発明との相違点1,2につき ,「甲第2号証
の発明及び参考資料1∼4の発明は,その操作手段からみて,それぞれ全く別個の
ものであるから,甲第1号証の発明に組み合わせて本件発明1とすることは,当業
者が容易になし得たものとはいえない」と判断したが,以下のとおり,誤りである。
( 2) 本件審決は,上記判断の理由として,まず,「本件発明1は ,
・・・収納袋の
排気弁の弁板をロック及びロック解除するに当たり,甲第1号証に記載された発明
とは ,・・・操作性においても大きく異なるものである」と判断した(審決書6−
3−3 (a))。そして ,「操作性において異なる」との判断は,本件発明1では,
蓋体から両端部が突出するロック機構を一方側の位置から他方側の位置に移動操作
することにより,収納袋の排気弁の弁板の閉止状態のロックの保持と,ロックの解
除ができるのに対し,甲1発明では,蓋体の一方側の位置から他方側の位置に数回
転も回転操作しなければ排気弁の弁体の閉止状態のロックの保持とロックの解除が
なし得ないということを根拠とするものであり,相違点2についての判断に相当す
るものであるが,相違点2の認定自体が誤りであることは上記1のとおりであり,
したがって,上記判断は前提を欠くものである。
(3)ア 次に,本件審決は,「ロック機構の操作部材が蓋体から両端部が突出して
いるものは,甲第2号証には記載されていなく,参考資料1∼4にも記載されてい
ない 。 ,
」 「参考資料1∼4は,ポットの栓体に設けられた弁体を操作部材で開閉操
作するものであり,そもそも弁体のロック機構ではなく,参考資料4の操作手段は
蓋体から操作部材の両端部が突出しているものの,収納袋の排気弁とは技術分野,
技術的課題が全く異なるものであり,甲第1号証に記載された発明にこれら参考資
料1∼4に記載された技術を適用することを動機付ける技術的関連性を何ら見出せ
ない。」と判断した(審決書6−3−3 (b))。
しかしながら,参考資料1∼4に記載されているのは,いずれもポットに関する
弁体の開閉及びそのロックに関する発明であるが,これらの発明と甲1発明とは,
袋ないし容器から流体を排出させる孔(開口部)を開閉する弁体と,この弁体を外
部からの操作で上下動させて, (開口部)
孔 を開閉いずれかにロックするとともに ,
このロック状態とロック解除状態とを切り替えることができる機構を備えていると
いう点で,基本的構成が共通し,いずれも流体の流れを制御するという点では,課
題ないし作用を共通にするものである。そして,袋ないし容器から流体を排出させ
る技術分野において,これら参考資料1∼4や甲第2号証に記載された,蓋体と別
に設けられる操作部材を操作して弁体のロック/ロック解除を行うという技術は,
当業者が当然に検討するものであり,したがって,甲1発明の脱気弁の蓋体を回動
操作することに代えて,甲第2号証や参考資料1∼4に記載された発明に用いられ
る,蓋体とは別体の操作部材を設けて弁体のロック/ロック解除を行うようにする
ことは,当業者にとって格別の困難性はない。
イ ところで,本件発明1のロック機構の移動操作について,本件発明1の要旨
は「上記蓋体から両端部が突出している操作部材を水平方向の一方側の位置へ移動
操作する」「上記操作部材を水平方向の他方側の位置へ移動操作する」とのみ規定
,
しているのであるから,当該操作には,本件訂正後の明細書 甲第12号証の13。
(
以下「本件訂正明細書」という 。)に実施例として記載されているような,バー状
の操作部材を水平方向に直線状にスライドさせて,一方側の位置と他方側の位置と
に往復移動させる態様(図6,7)のみならず,回動させる蓋体からその左右両端
にレバー(杆体)を突出させた操作部材の当該レバー(杆体)を水平方向に回動操
作して,左右のレバー(杆体)の位置を入れ換えるような態様も含まれるものであ
る。
しかるところ,このように,操作部材の左右両端に,操作しやすいようレバー 杆
(
体)を突出させる技術は,古くから種々の分野で用いられており,極めて周知なも
のであって,参考資料4にも,上記態様のレバー(杆体)を流体の調節弁に用いる
ことが開示されている(段落【0036】,図8)。したがって,甲第2号証記載の発明
の操作部材に蓋体から突出する操作レバーを両側に設ける程度のことは単なる設計
事項にすぎない。
以上のとおり,本件審決の上記アの判断は誤りである。
ウ なお,本件審決は,「参考資料4の操作手段は,操作部材を一方側の位置へ
移動操作することによって弁板を押圧して孔を閉止状態に保持するものではあるも
のの,そもそも弁体のロック機構ではなく,弁体を開状態と閉状態に操作するもの
であり,操作部材を他方側の位置へ移動操作することによって弁板の上下動を許容
するものでもない。
」とも判断する(審決書6−3−3 (d))。
しかしながら,参考資料4の図7,8に記載された発明は,左右にレバー91が
突設された操作部材81を,一方側の位置へ移動操作することにより弁体80を下
方に押圧してロックするとともに,操作部材81を他方側の位置へ移動操作するこ
とにより,弁体80の上下動を許容するものである。弁体80は,操作部材81を
他方側の位置へ移動操作した段階で一定の状態に保持されるが,これは,弁スプリ
ング56による作用として一定状態に保持されるものにすぎず,操作部材81の作
用としては,他方側の位置へ移動操作することにより,弁体80の上下動を許容す
るものである。
したがって,本件審決の上記判断も誤りである。
(4)ア さらに,本件審決は,甲第2号証記載の発明等につき ,「甲第2号証のロ
ック機構の操作手段は,操作部材を他方側の位置へ移動操作することによって弁板
の上下動を許容するものではあるが,スプリングに抗して排気孔を開状態に保持す
るものであり,閉止状態に保持するものではない」「甲第2号証の発明及び参考資
,
料1∼4の弁体の開閉手段には,その操作機構からみて,スプリングを使用するこ
とが必須であり ,本件の課題では ,段落0008『また,収納袋内を脱気する際に,
電気掃除機の吸気ノズルを可動蓋上に押し付けてスプリング力に抗して弁板を開放
させた状態を保持しておかねばならないために,操作が煩雑化して使用勝手が悪く
なるばかりでなく,スプリングは金属材料で形成されているために,錆が発生して
円滑な作動が行えなくなる事態が発生する虞れがある。』と記載されており,本件
発明1はスプリングを使用しないことをその技術的課題としていることは明らかで
あるから,甲第1号証に記載された発明と組み合わせて本件発明1とすることはで
きないことは明らかである」と判断した(審決書6−3−3 (c))。
イ 確かに,甲第2号証記載の発明のロック機構の操作手段は,弁体を下方に押
圧して排気孔を開放状態とし,その状態で保持するものであって,甲1発明のロッ
ク機構の操作手段が,弁体を下方に押圧し,排気孔を閉止状態として保持するのと
比較すると,ロック機構の操作による排気孔の保持状態が開閉逆である。
しかしながら,甲1発明も甲第2号証記載の発明も,いずれも弁体を下方に押圧
し,その状態で維持することにおいて,同一の作用・機能を有するものであって,
それを閉止状態又は開放状態のいずれに設定するかは,流体の流れや構造に応じ,
当業者において適宜行われる設計事項に属するものである。すなわち ,この場合に,
排気孔を閉止状態に維持するか,開放状態に維持するかは,単に弁体を孔の上側に
配設するか,下側に配設するかの違いにすぎず,例えば同じく弁体によって流体の
流れを制御するポットの分野において,参考資料1,4記載の発明が孔の下側に弁
体を配設して開放状態に維持し,参考資料2,3記載の発明が孔の上側に弁体を配
設して閉止状態に維持することにかんがみても,閉止状態と開放状態とを入れ換え
るようなことは,当業者ならずとも,機械設計に携わる者が適宜選択する程度のこ
とにすぎない。
したがって,甲1発明と甲第2号証記載の発明とで,ロック機構の操作による排
気孔の保持状態が開閉逆であっても,蓋体と別体に形成された甲第2号証の操作部
材(ナット67)を甲1発明に適用することに何ら困難性はない。
ウ 次に,甲第2号証記載の発明や参考資料1∼4記載の発明の弁体の開閉手段
は,確かにスプリングを使用するものであるが,甲第1号証には,発条を設けなく
てもよい旨の記載があり(段落【0029】【0032】,甲第2号証記載の発明や参考資
, )
料1∼4記載の発明の弁体のロック機構を甲1発明に適用する場合に,甲第1号証
の上記記載に基づいて,スプリングを適宜省略することは当業者であれば当然に想
到することができるものである。したがって,甲第2号証記載の発明や参考資料1
∼4記載の発明の弁体のロック機構を,「甲第1号証に記載された発明と組み合わ
せて本件発明1とすることはできない」ということはできない。
エ 以上のとおり,本件審決の上記アの判断は誤りである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点2の認定の誤り)に対し
( 1) 原告は,甲第1号証には,操作部材を兼ねる蓋体2を,回動操作により,上
下方向に移動させ得ることが開示されており,このことは,操作部材を「一方側の
位置」と「他方側の位置」との間で「移動」させることにほかならないから,この
点において,本件発明1と甲1発明との間に相違はなく,本件審決の相違点2の認
定は誤りであると主張する。
しかしながら,甲第1号証の図2,3には,甲1発明において,蓋体を上下方向
に移動させるためには,蓋体を数回転回転操作することが示されているところ,こ
のように,蓋体が1回転以上回転するものであれば ,「一方側の位置」 「他方側の
,
位置」という「位置」の観念は生じ得ないから,甲1発明は,蓋体を「一方向」と
「多方向」とに回転させるものではあっても, 一方側の位置」と「他方側の位置」
「
との間で「移動」させるものということはできない。したがって,本件審決の相違
点2の認定に誤りはない。
( 2) また,原告は,甲第1号証には,弁体3を閉止状態と上下動許容状態との間
で切り替えるための蓋体2の回転操作が1回転に満たない実施例(段落【0036】∼
【0039】,図7∼9)が記載されており,甲1発明において,蓋体の回転が1回転
未満であっても弁体を閉止状態と上下動許容状態に適切に切り替えることができる
ものを想定し得るから,本件審決が,甲1発明につき「蓋体2を一方向に数回転回
転操作することにより上記弁体3を下方に押圧して通風口5を閉止状態に保持し,
蓋体2を他方側に数回転回転操作することにより弁体の上下動を許容するロック機
構を蓋体の下面側に設けている」と認定したのは誤りであり,この認定に基づく本
件発明1と甲1発明との相違点2の認定も誤りであるとも主張する。
しかしながら,原告は,本件審判における平成18年4月21日の口頭審理にお
いて ,「甲第1号証の図7∼9に対応する実施例については,審判請求書でも指摘
しておらず,これらの実施例についてあえて参酌する必要はない」旨の陳述をした
のであり(甲第12号証の10 ),本件審決が,甲1発明の認定に当たって,甲第
1号証の段落【0036】∼【0039】,図7∼9に係る実施例に言及しなかったのは,
原告のこの陳述を踏まえたにすぎない。
原告の上記主張は,審判段階における上記陳述を覆すものであって,禁反言の法
理に照らし,許されない。
2 取消事由2(相違点1,2についての判断の誤り)に対し
( 1) 原告は,本件審決の相違点2の認定が誤りであるから,相違点2に係る「本
件発明1は ,・・・収納袋の排気弁の弁板をロック及びロック解除するに当たり,
甲第1号証に記載された発明とは,・・・操作性においても大きく異なるものであ
る」との判断は前提を欠くと主張するが,本件審決の相違点2の認定に誤りがない
ことは,上記1のとおりであるから,原告の主張は失当である。
(2)ア また,原告は,甲1発明の脱気弁の蓋体を回動操作することに代えて,甲
第2号証や参考資料1∼4に記載された発明に用いられる,蓋体とは別体の操作部
材を設けて弁体のロック/ロック解除を行うようにすることは,当業者にとって格
別の困難性はないと主張するが,以下のとおり,誤りである。
イ 甲第2号証記載の発明は,内部に収容される弾性体の圧縮−非圧縮状態の変
化を利用して膨張収縮させる自己膨張型のクッションに関するもので,「バルブの
開放状態を好適に実現して空気の出し入れを容易とすること」を本質的な課題とし,
弁開状態を確実に維持するためにロックするものであるから,「掃除機による吸引
完了後の空気の逆流をより簡単な操作で確実に防止する」 甲第1号証段落 0010】
( 【 )
ことを課題とし,弁閉状態を確実に維持するためにロックするものである甲1発明
とは,発明の目的や作用及び機能並びに構成が相反するものである。
したがって,甲1発明と甲第2号証記載の発明とを結び付けたり,一方の構成を
他方に適用することは,物理的に困難であり,阻害事由が存在する。
加えて,甲第2号証記載の発明のナット67は,甲1発明の蓋体2と同様,蓋体
そのものであって,「蓋体とは別体の操作部材」には当たらない。仮に,甲第2号
証記載の発明に係るナット67とバルブベース71との螺合によるロック機構を甲
1発明の蓋体2と基体1との螺合によるロック機構に置き換えたとしても,締付け
方向若しくは緩み方向へ数回転の回動操作を行う蓋体から,二つの姿勢間で切替え
回動操作を行う蓋体に変更したにすぎず,弁本体及び蓋体の外,蓋体の下面に設け
られた蓋体とは別体の操作部材から成る本件発明1の構成に至ることはできない。
甲第1,第2号証には,排気弁にかかる外力の作用が操作部材には及ばないように
した上,その操作部材により弁板のロック/ロック解除操作を行うという本件発明
1の技術思想は全く開示・示唆されていないのである。
したがって,本件発明1は,甲1発明及び甲第2号証記載の発明に基づいて,当
業者が容易に発明をすることができるものということはできない。
ウ また,参考資料1∼4記載の発明は,ポットやまほうびんの栓に関するもの
であり,甲1発明との間に,技術分野の関連性はなく,課題の共通性もないから,
甲1発明に係る技術分野における当業者が,甲1発明に参考資料1∼4記載の発明
を適用することを想到し得ないことは明白である。
エ さらに,本件発明1は,弁板のロック/ロック解除操作を行うための操作部
材が蓋体とは別体に設けられており,しかも,操作部材は,突出する端部を除いて
蓋体の下面側に設けられているため,複数の収納袋が収納や移送の際に積み重ねら
れたり上に物を置かれたりして,収納袋の排気弁に水平方向の外力が作用したとし
ても,操作部材にはその外力の作用が及び難くなっており,弁板の押圧が不測に解
除され難く,閉止状態(弁板のロック状態)を確実に保持することができるという
効果を奏するものであるが,このような効果の前提となる課題は,甲1発明にも参
考資料1∼4記載の発明にも存在しない。したがって,甲1発明や参考資料1∼4
記載の発明に基づいて,本件発明1の上記効果を予測することは困難である。
オ 原告は ,本件発明1の 蓋体から両端部が突出している操作部材」
「 の構成は,
参考資料4に示されているとした上,操作部材の左右両端にレバーを突出させる技
術は周知なものであって,甲第2号証記載の発明の操作部材に蓋体から突出する操
作レバーを両側に設ける程度のことは単なる設計事項にすぎないと主張する。
しかしながら,参考資料4の操作レバー91は,栓キャップ16(蓋体)から突
出するものではなく,また,操作部材の左右両端にレバーを突出させる技術が周知
であることを示す証拠はない。
本件発明1は ,「蓋体から両端部が突出している操作部材」との構成により,操
作の際に,一方の端部を摘み,あるいは他方の端部を摘み,さらに両端部を同時に
摘むなど,操作性の自由度が増すものであるが,収納袋を対象とする本件発明1に
おいては,操作部材自体が小さく,操作し難い上に,弁板のロック操作の際には,
電気掃除機の給気ノズルが蓋体の上面から外れると,収納袋内に空気が流入するの
で,給気ノズルを上面に当てたまま操作部材を操作しなければならないという制約
があり,このような問題を解決するのが上記構成である。かかる構成は,甲1発明,
甲第2号証記載の発明,参考資料1∼4のいずれにも開示されているものではない。
カ なお,原告は,参考資料4の図7,8に記載された発明につき,弁体80が
操作部材81を他方側の位置へ移動操作した段階で一定の状態に保持されるのは,
弁スプリング56による作用であるにすぎず,操作部材81の作用としては,他方
側の位置へ移動操作することにより,弁体80の上下動を許容するものであると主
張する。
しかしながら,仮に弁スプリング56が付随的な構成であり,なくてもよいとい
うのであれば,弁体80は自重により下がり,常時開状態となるから,参考資料4
の図7,8記載の発明においては,操作部材81を一方側の位置に移動操作したと
きも,他方側の位置に移動操作したときも,弁体80は開状態のままとなってしま
うという不合理な結果となる。したがって,上記発明は,操作部材を一方側の位置
に移動操作することにより弁体を押圧して孔を開状態に保持するものではあるもの
の,弁体のロック機構ではなく,弁体を開状態と閉状態に操作するものであり,操
作部材を他方側の位置へ移動操作することにより,弁板の上下動を許容するもので
はない。
そして,このことは,甲第2号証に記載された発明や参考資料1∼3記載の発明
についても,同様にいえるところである。これらのスプリングを使用することが必
須である発明と,スプリングを使用しないことを技術課題とする本件発明1とは,
技術思想が根本的に異なるものである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点2の認定の誤り)について
(1)ア 原告は,甲第1号証には,操作部材を兼ねる蓋体2を,回動操作により,
上下方向に移動させ得ることが開示されており,このことは,操作部材を「一方側
の位置」と「他方側の位置」との間で「移動」することにほかならないから,この
点において,本件発明1と甲1発明との間に相違はなく,本件審決の相違点2の認
定は誤りであると主張する。
イ しかるところ,甲第1号証には,以下の記載がある。
(ア) 「外周面の適宜位置に適当な固定手段を有し且つ布団等の収納袋に設けられた脱気用孔
へ装着されることによって脱気用の口をなす基体(1)と,この基体(1)の上部に対して上
下動可能に螺合する蓋体(2)と,弁体(3)とを備え,上記基体(1)は,その下端側に収
納袋の内部側と外側を遮断する隔壁(4)を有し,隔壁(4)の中央には収納袋の内部と外部
とを連絡する通風口(5)が形成され,さらに通風口(5)の外側には蓋体(2)に対する螺
合部(10)が形成され,上記蓋体(2)は,掃除機の吸引口よりも小さな径を持ち且つ掃除
機の吸引口内に余裕をもって入り込むことが可能な大きさの隆起部(22)と,この隆起部(2
2)の周囲から横方向に向けて形成された凹凸のない平らな面部からなる対応部(20)と,
上記の螺合部(10)に螺合する螺刻部(21)とを有し,上記の隆起部(22)は,隆起部
(22)の中央に向けて上記の対応部(20)から漸次高くなる隆起斜面(22a)を有する
ものであり,この隆起斜面(22a)には,基体(1)内部へ通じる適宜数の排気孔(6)が
形成され,上記弁体(3)は,上記隔壁(4)と上記蓋体(2)とに囲まれた空間内における
通風口(5)の上方に配位され,この弁体(3)は,蓋体(2)と基体(1)との螺合が緩め
られた際上記空間内にあって,布団等の収納袋内の負圧により通風口(5)の方向へ吸い寄せ
られて通風口(5)を塞ぐことが可能なるもの(判決注: 可能になるもの」の誤記と認めら
「
れる。)であり,且つ掃除機の吸引によって上記蓋体(2)の排気孔(6)方向へ吸い寄せら
れて,上記通風口(5)から離れることが可能なものであることを特徴とする布団等収納袋用
脱気弁。 (実用新案登録請求の範囲の【請求項1】
」 )
(イ) 「蓋体2は,基体1の上部に対して上下動可能に螺合している。即ち,蓋体2を回動す
ることによって,蓋体2は上下に移動する。そして,弁体3は,上記隔壁4と上記蓋体2とに
囲まれた空間内における通風口5の上方に配位されているため,蓋体2は基体1に締め付ける
ことによって下方に移動し,弁体3を下方の通風口5の方向に移動させ,通風口5を塞ぐこと
ができる。他方,蓋体2が緩められた際,弁体3が,収納袋内の負圧により通風口5へ吸い寄
せられて通風口5を塞ぎ,掃除機の吸引によって上記蓋体2の排気孔6へ寄せられて脱気する 。
このため掃除機の吸引による脱気後,蓋体2を螺回し基体1へ蓋体2を締め付け弁体3によっ
て通風口5を封じる迄の間,収納袋の通風口5を弁体3が塞ぎ,空気の収納袋内への侵入を防
ぐ。 (段落【0016】
」 )
(ウ)「 実施例】以下図面を用いて,本願考案の実施例について説明する。図1へ示す通り,
【
布団収納袋用脱気弁は,円盤状に形成された基体1と,この基体1に螺合する蓋体2と,この
基体1と蓋体2によって,囲まれた脱気弁の内部に収容される弁体3とによって,主要部が構
成されている。各部の構成について,順に詳述する。 (段落【0020】
」 )
(エ) 「上記円盤状の基体1は,表面中央に短円筒状の螺合部10が形成されている。この短
円筒状の螺合部10は,一端が基体1に連なり,他端が上方に開口する。又螺合部10の外周
面には,後に詳述する蓋体2の底部内周面に形成された螺刻部21と螺合する螺刻部11が形
成されている。 ,
」 「基体1は,収納袋Zに設けられた脱気用孔へ収納袋Zの内側より装着され
る。このとき,装着される基体1の螺合部10が,収納袋Zより外側Xへ突出する。収納袋Z
への基体1の固定は,・・・図1に示す通り,収納袋Zの外部より基体1の上面に螺合部10
を囲むように環状部材14を装着してなすことも可能である。 (段落【 0021】∼【 0022】
」 )
(オ) 「上記蓋体2は,上述の通り,螺合部10の螺刻部11と螺合する螺刻部21が内周面
に設けられたキャップである 。 ,
」 「蓋体2上面の中央には,隆起部22が形成されている。こ
の隆起部22は,対応部20から中央に向けて漸次上昇する隆起斜面22aを有し,更にこの
隆起部22の頂部中央には,蓋体2内部へ通ずる貫通孔23が形成されている 。・・・貫通孔
23は,蓋体2が基体1へ螺合した状態において,前述の通風口5の真上に位置する。 (段
」
落【0024】∼【0025】)
(カ) 「上述のように基体1と蓋体2に囲まれた脱気弁の内部空間には,別体に形成された弁
体3が収容されている。この弁体3は,中心軸が上下に伸びる円柱状体であり,胴部には鍔状
部分30が形成されている 。 ,
」 「尚,図1及び後に説明する図2,図3において,弁体3胴部
の鍔状部分30より上の部分には,押圧発条33が装着されている。押圧発条33は,後述す
る弁体3の動作を確実にするためのものであり,脱気の妨げにならない程度の弱い付勢力で装
着される。この発条33は,不必要であれば ,設けなくてもよい 。 段落 0027】 【0029】
(
」 【 ∼ )
(キ) 「次に,この図1の実施例に示す脱気弁の使用状態について,図1,図2及び図3を用
いて説明する。 ,
」 「先ず蓋体2は,基体1に対して緩められた状態にあり,このとき,掃除機
の吸引口Wが蓋体2の対応部20へ当接される(図1 ) この状態で掃除機の吸引がなされる。
。
掃除機から受ける負圧によって,弁体3は,上方に吸い寄せられ,通風口5を開放する。こう
して,収納袋Z内部の空気は,通風口5から排気孔6を経て吸引口Wへ吸い取られる 。 ,
」 「上
記脱気終了後,掃除機の吸引口Wを蓋体2の対応部20より外す(図2 )。このとき,脱気さ
れた収納袋Z内部の負圧及び必要に応じ発条33によって,弁体3は下に引き寄せられ,通風
口5を塞ぐ。前述の発条33は,通風口5への弁体3の付勢を助けるものであれば効果的であ
る。但し不必要であれば,この発条33は設けなくてもよい。他方,通常上述の脱気された収
納袋Z内部の負圧によって充分に弁体3の吸い寄せがなされるのである 。 ,
」 「掃除機の吸引口
Wを蓋体2の対応部20より外した後,蓋体2を回して,基体1への締め付けを完了する(図
3)。この状態において,弁体3は,蓋体2の裏面に押さえられ,通風口5の完全な遮断がな
される。 (段落【 0030】∼【 0033】
」 )
ウ 上記各記載及び甲第1号証の図1∼3によれば,甲1発明の蓋体2は,本件
発明1の「操作部材」を兼ねるものであり,一方向に回転操作することにより,下
方に移動し,上記弁体3を下方に押圧して通風口5を閉止状態に保持するとともに ,
他方側に回転操作することにより,上方に移動して弁体の上下動を許容するもので
あることが認められる(回転操作する回転量が「数回転」であることを要するか否
かは後に検討する。。
)
そして,原告は,このように,甲1発明の蓋体2が上下方向に移動することも,
操作部材を「一方側の位置」と「他方側の位置」との間で「移動」することにほか
ならないから,「操作部材を一方側の位置へ移動操作することによって弁板を下方
に押圧して排気孔を閉止状態に保持し,上記操作部材を他方側の位置へ移動操作す
ることによって弁板の上下動を許容する」本件発明1と,この点において相違しな
いと主張するものであるが,以下のとおり,この主張を採用することはできない。
すなわち,本件発明1の要旨は,「操作部材を水平方向の一方側の位置へ移動操
作することによって上記弁板を下方に押圧して排気孔を閉止状態に保持し,上記操
作部材を水平方向の他方側の位置へ移動操作することによって弁板の上下動を許容
するロック機構」と規定するものであり,また,本件審決は,「水平方向の一方側
へ操作することによって上記弁板を下方に押圧して排気孔を閉止状態に保持し,水
平方向の他方側へ操作することによって弁板の上下動を許容するロック機構」を設
ける点を,本件発明1と甲1発明との一致点と認定したものである。
このことにかんがみれば,本件審決は,甲1発明において,蓋体2を「一方側」
又は「他方側」に回転操作することをもって,本件発明1の「一方側の位置へ移動
操作」すること ,「他方側の位置へ移動操作」することに相当するものと捉え,そ
のゆえに ,「水平方向の一方側へ操作する」こと ,「水平方向の他方側へ操作する」
ことを含めて一致点の認定をしたものであること(甲1発明における蓋体2の回転
方向は水平である。)は明らかである。そして,このように,甲1発明の蓋体2を
「一方側」又は「他方側」に回転操作することをもって,本件発明1の「一方側の
位置へ移動操作」すること ,「他方側の位置へ移動操作」することに相当するとし
た認定が誤りであるとはいえず,そうであれば,甲1発明の蓋体2が上下方向に移
動することをもって,本件発明1の操作部材を「一方側の位置」と「他方側の位置 」
との間で「移動」することに相当するということはできない。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,これを採用する
ことはできない。
(2)ア 次に,原告は,甲第1号証には,弁体3を閉止状態と上下動許容状態との
間で切り替えるための蓋体2の回転操作が1回転に満たない実施例(段落【0036】
∼【 0039】,図7∼9)が記載されており,甲1発明において,蓋体の回転が1回
転未満であっても弁体を閉止状態と上下動許容状態に適切に切り替えることができ
るものを想定し得るから,本件審決が,甲1発明につき「蓋体2を一方向に数回転
回転操作することにより上記弁体3を下方に押圧して通風口5を閉止状態に保持
し,蓋体2を他方側に数回転回転操作することにより弁体の上下動を許容するロッ
ク機構を蓋体の下面側に設けている」と認定したのは誤りであり,この認定に基づ
く本件発明1と甲1発明との相違点2の認定も誤りであるとも主張する。
イ しかるところ,甲第1号証には,段落【0036】∼【 0039】を含め,次の記載
がある。
(ア) 「上記基体(1)と蓋体(2)との螺合部分付近には,基体(1)から蓋体(2)を緩
めた際に,蓋体(2)が,基体(1)より外れないよう,蓋体(1)の螺回を規制する規制部
が設けられてなるものであることを特徴とする請求項1又は2又は3記載の布団等収納袋用脱
気弁。 (実用新案登録請求の範囲の【請求項4 】
」 )
(イ) 「本願の第4の考案は,上記第1又は第2又は第3の考案に係る脱気弁において,上記
基体1と蓋体2との螺合部分付近に,基体1から蓋体2を緩めた際に,蓋体2が,基体1より
外れないよう,蓋体1の螺回を規制する規制部が設けられたものを提供する。 段落 0014】
(
」 【 )
(ウ) 「図7へ,蓋体2を基体1から緩めた際に,この蓋体2が脱落しないための構成につい
て,説明する。蓋体2の螺刻部21の最下部に,螺子が形成されず,螺刻部21の最大内径よ
りも内径の大きな空間部26が形成される。この空間部26の内周面は,蓋体2の回転の中心
位置からの距離が漸次小さくなる部分,即ち蓋体2内部へ緩やかに張り出す部分(周面28)
と段部29とによって形成される隆起部27を備える(図8 )。他方基体1表面において,螺
合部10の基部付近に,蓋体2の上記空間部26へ,少なくともその先端が入り込む突起(以
下規制部7という)が形成されている。この規制部7は可撓性を有する。 (段落【0036】
」 )
(エ) 「図8及び図9に,上記蓋体2の空間部26周囲の略断面図を示す。規制部7と蓋体2
との関係を説明すると,先ず脱気が可能な状態に蓋体2が基体1に対して緩められた際,上記
規制部7は,蓋体2内部(空間部26)において,蓋体2の中心位置から最も遠くに位置する
(図8)。このとき図8に示すように,段部29と対向する位置に,規制部7は位置すること
になる。従ってこれ以上緩めようとしても(矢印A ),隆起部27の段部29へ規制部7が,
当たり,蓋体2は回ることが出来ないのである。 (段落【 0037】
」 )
(オ) 「次に蓋体2を上記とは逆の方向(矢印B)へ回すことによって,蓋体2は基体1へ締
め付けられる。この締め付けられた状態の一例を図9へ示す。 (段落【 0038】
」 )
(カ) 「以上のように,規制部7等を設けることによって,基体1から蓋体2を緩めた際,蓋
体2が,基体1より外れず,便利である。 (段落【 0039】
」 )
ウ 上記各記載及び図7∼9によれば,甲第1号証の図7∼9に記載された実施
例は,蓋体2の螺刻部21の最下部に,螺子が形成されず,螺刻部21の最大内径
よりも大きい内径を有するものの,その内周面を蓋体2内部へ緩やかに張り出す す
(
なわち,内径を徐々に小さくしていく)ようにし,1周回した位置に内径の差によ
って成る段部29を形成した空間部26を設け,他方,基体1表面に,可撓性のあ
る部材によって突起(規制部7)を設け,当該規制部7の少なくとも先端が上記空
間部26の上記段部29に入り込むように形成することにより,蓋体2を基体1へ
締め付けた状態(図9)から,緩める状態(図8)に回転させると,1回転するに
至らないうちに,段部29が規制部7に当たって,それ以上回転し得なくなるが,
この段階で,蓋体2の螺刻部21は,依然として基体1の螺刻部と螺合した状態で
あるため,蓋体2が基体1から脱落することはないという効果を奏するものと認め
られる。そして,この実施例に関しては,当然,蓋体2を基体1へ締め付けたとき
において弁体は閉止状態にあり,他方,少なくとも段部29が規制部7に当たり蓋
体2がそれ以上回転し得なくなったときに,弁体は上下動が許容された状態にある
ものと考えられるから,蓋体2を回転操作するに当たって,1回転未満の回転量で
弁体の状態(閉止状態と上下動許容状態)を切り換え得るように構成されているも
のということができる。
しかしながら,上記のとおり,上記図7∼9に記載された実施例は,蓋体2を緩
める方向に回転させた際に,蓋体2が基体1から外れないものであり,そのような
効果を奏することを目的として,規制部7,段部29等を設け,蓋体2を緩める方
向に回転させた際に,1回転未満で段部29が規制部7に当たり,それ以上の回転
を阻止するよう構成したものである。他方,本件発明1の要旨のとおり,本件発明
1の蓋体は, 弁本体に着脱自在に取付け」られるものであるから,本件発明1を,
「
甲第1号証記載の発明と対比するに当たって,上記図7∼9記載の実施例を斟酌す
ることはできないといわざるを得ない。
そうすると,原告の上記アの主張は,これが禁反言の法理に抵触するか否かにか
かわらず,いずれにせよ失当というべきである。
( 3) しかしながら,改めて甲1発明について検討するに,上記( 1)のイの(ア)∼(キ)
の各記載を含め,甲第1号証には,甲1発明(図1∼3記載の実施例)の蓋体2の
回転操作に関し ,その回転量が「数回転」であることは記載されていない 。確かに ,
図1,2と図3とを対比すると,基体1の螺刻部11と蓋体2の螺刻部21との相
対的な位置関係の変化から,弁体3を下方に押圧して通風孔5を閉止状態としたと
き(図3)と,弁体3の上下動を許容する状態としたとき(図1,2)との間で,
蓋体2を3回転程度回転操作するように見えないこともないが,実用新案公告公報
である甲第1号証の図面は,元来が実用新案登録出願の願書に添付された図面であ
り,このような特許,実用新案登録出願の願書に添付された図面は,明細書の記載
の補助として,発明又は考案の内容を理解しやすくするために用いられるものであ
って,必ずしも設計図面のように詳細,正確なものではないから,甲第1号証の図
1∼3に係る螺刻部11と螺刻部21との相対的な位置関係の表示により,上記の
ように見えるからといって,それのみで,甲1発明が蓋体2を「数回転」回転操作
するものに限定されるとすることはできないというべきであり,そうであれば,甲
第1号証には,甲1発明に関し,弁体3を下方に押圧して通風孔5を閉止した状態
と,弁体3の上下動を許容する状態とを,蓋体2を「回転操作」することにより切
り換える技術が開示されているに止まるものと認めるのが相当である。
したがって,甲1発明のロック機構について ,「蓋体2を一方向に数回転回転操
作することにより上記弁体3を下方に押圧して通風口5を閉止状態に保持し,蓋体
2を他方側に数回転回転操作することにより弁体の上下動を許容するロック機構を
蓋体の下面側に設けている」とした本件審決の認定は,蓋体2の回転量を 数回転 」
「
と限定した点において誤りであり,この認定に基づく本件発明1と甲1発明との相
違点2の認定も,甲1発明につき,蓋体2の一方向及び他方側への回転操作に係る
回転量を「数回転」とした点において誤りがあるものといわざるを得ない。
もっとも,本件審決の相違点2の認定のうち,上記の点を除く部分,すなわち,
「ロック機構の操作手段として,本件発明1では,操作部材を一方側の位置へ移動
操作することによって弁板を下方に押圧して排気孔を閉止状態に保持し,上記操作
部材を他方側の位置へ移動操作することによって弁板の上下動を許容するのに対
し,甲1発明では,蓋体2を一方向に回転操作することにより上記弁体3を下方に
押圧して通風孔5を閉止状態に保持し,蓋体2を他方側に回転操作することにより
弁体の上下動を許容するものである」とした認定に誤りがないことは明らかである 。
2 取消事由2(相違点1,2についての判断の誤り)について
(1) 本件審決は,本件発明1と甲1発明との相違点1,2についての判断におい
て,「本件発明1は,・・・収納袋の排気弁の弁板をロック及びロック解除するに当
たり,甲第1号証に記載された発明とは,当該弁体のロック機構はもとより,操作
性においても大きく異なるものである。」と判断した(審決書6−3−3 (a))。
しかるところ,上記判断中,「操作性においても大きく異なる」との部分が,相
違点2のうちの,甲1発明につき,蓋体2の一方向及び他方側への回転操作に係る
回転量を「数回転」とした認定に基づくことは明らかであるところ,上記認定が誤
りであることは上記1の(3)のとおりであるから,これに基づいて,「操作性におい
ても大きく異なる」とした本件審決の判断は,当然に誤りであるといわざるを得な
い。
(2)ア これに対し,上記(1)の本件審決の判断中,「ロック機構が異なる」との点
は,相違点1の「ロック機構の操作部材について,本件発明1では,操作部材が蓋
体から両端部が突出しているのに対し,甲第1号証に記載された発明では,蓋体2
が操作部材でもある」との認定,及び相違点2の上記( 1)の部分を除くその余の部
分の認定,すなわち ,「ロック機構の操作手段として,本件発明1では,操作部材
を一方側の位置へ移動操作することによって弁板を下方に押圧して排気孔を閉止状
態に保持し,上記操作部材を他方側の位置へ移動操作することによって弁板の上下
動を許容するのに対し,甲1発明では,蓋体2を一方向に回転操作することにより
上記弁体3を下方に押圧して通風孔5を閉止状態に保持し,蓋体2を他方側に回転
操作することにより弁体の上下動を許容するものである」との認定に係る判断であ
る。
そこで,以下,この部分の判断の当否につき検討する。
イ(ア) 甲第2号証には以下の記載がある。
a 「図6ないし図8に示すバルブ60の第2の実施形態は,バルブを全開の状態にするよ
うに回転動作によって拘束を解除し,押しボタン操作によってクッション内の空気の圧力を調
整するために設けられている。バルブ60はバルブアクチュエータ61と,バルブメンバー6
2と,バルブシート63と,バルブシート63の上面の溝65に据え付けられたOリング64
とを含んでなる。バルブシート63は,図2ないし図5のはめ込み構成のような任意の適切な
方法によってバルブアクチュエータ61につながれている。図7に示すように,スプリング6
6は,バルブメンバー62が閉じた状態に偏らせる。バルブアクチュエータ61を押し下げる
と,バルブメンバー62はバルブシート63から動き,クッション内の空気圧力の調整のため
に空気が出入りすることを許容する。 (段落【 0022】
」 )
b 「バブル60(判決注: バルブ60」の誤記と認められる 。
「 )の全開状態への,および
全開状態からの動作は(図8参照),バルブベース71の直立するチューブ状部の外面のネジ山
69の下面に位置し,内側に向けられた面68にかみ合わせられるネジ山を有する回転式のナ
ット67によってなされる。ナット67は,バルブアクチュエータ61へのアクセスを提供す
る中央の開口72を有し,バブルアクチュエータ61(判決注: バルブアクチュエータ61 」
「
の誤記と認められる。)は開口72の外縁とかみ合わせられるフランジ73を有する 。 (段落
」
【0023】)
c 「ナット67の半時計周りの回転は,ネジ山を面68にかみ合わせてネジ山69に半回
転捻ってねじ込むようにし,バルブアクチュエータ61のフランジ73のナット67との噛み
合いは,バルブアクチュエータ61およびバルブメンバー62を下向きに押しつけ,図8に示
すようにバルブを開く。 (段落【 0024】
」 )
(イ) 上記(ア)の各記載及び図6∼8によれば,甲第2号証のナット67は,バル
ブアクチュエータ61を,スプリング66の付勢力に抗して押し下げ,拘束 固定)
(
して,バルブを全開に保持する状態(図8)と,当該拘束(固定)を解除し,バル
ブアクチュエータ61を押し下げ可能な状態(バルブアクチュエータ61を押し下
げればバルブは開く(図6)が,押し下げなければスプリング66によりバルブア
クチュエータ61に上方への付勢力が作用し,バルブが閉じる(図7)状態)とを,
ナット67を水平に半回転させることにより切り換える技術が記載されているもの
と認められる。
そして,ナット67を水平に半回転させることも ,「操作部材を水平方向の一方
側の位置へ移動操作すること」「他方側の位置へ移動操作すること」に相当するか
,
ら,甲第2号証には,操作部材を水平方向の一方側の位置へ移動操作することによ
り,弁板(バルブアクチュエータ61)を押圧して開放状態に保持し,他方側の位
置へ移動操作することによって弁板の上下動を許容する技術が開示されているもの
と認められる。
ウ また,参考資料1∼4には以下の記載がある。
(ア) 参考資料1(甲第6号証)
a「ポット(1)の上端部に配設され,後端側にハンドル(6)を一体的に連設した口金部(4)
に着脱自在に螺着され,内部に液体注出路(14)を設けた栓体(5)と,この栓体(5)に上下動
自在で前記液体注出路(14)の開口部(22)を閉鎖すべくスプリング(21)で常時上方向に付
勢された弁体(18)と,基端部が支持軸(25)で枢支されて前記弁体(18)の上端部に摺接し
て左右方向の水平回動により弁体(18)を下動させる傾斜面(24),およびこの傾斜面(24)
を外部より操作するため,栓体(5)を貫通して前記ハンドル(6)の近傍に延設した操作釦(2
8)とを一体的に形成した操作具(23)とにより構成されたことを特徴とするポットの栓体」
(実用新案登録請求の範囲)
b 「このように構成されたポットの栓体の閉鎖状態は通常第1図,第3図に示すように操
作釦28が閉鎖方向に回動され,この回動により傾斜面24と弁体18は係脱されて弁体18
はスプリング21の付勢力で上動限まで上動して液体注出路14の開口部22を閉鎖してい
る。 そしてポット1から注液するには操作釦28を開放方向に回動すれば,この回動により
操作具23の傾斜面24は弁体18をスプリング21の付勢力に抗して下動させ,液体注出路
14の開口部22を開放させる。さらに操作釦28が開放方向に回動されれば,やがて弁体1
8は傾斜面24の終端部に形成された係合面27と係合し,この係合により第2図に示すよう
に液体注出路14の開口部22の開放状態が保持され,ポット1からの注液が可能となる。
また注液を完了し閉鎖状態にするには,操作釦28を閉鎖方向に回動すればこの回動により傾
斜面24と弁体18が係脱され,第1図,第3図に示すような元の閉鎖状態に復帰して注液が
停止される。 (7頁9行∼8頁9行)
」
(イ) 参考資料2(甲第7号証)
a 「液流出路(5)を有する栓本体( 3)と,栓本体( 3)に対し進退して液流出路( 5)の出口を開
閉し得る蓋体(6)と,栓本体(3)の開口部(3b)に位置し栓本体(3)に対し上下動して液流出路(5)
の入口を開閉し得る中栓( 7)とから栓セット( A)を形成し,該栓セット( A)は外胴( 1)上部に着
脱自在に取付け得るようにし,前記中栓( 7)はバネ(9)によって常時上方に付勢せしめ,また,
前記蓋体( 6)には傾斜片( 6a)を形成し,その下面は蓋体( 6)の進退に応じて中栓( 7)の縦杆( 7a)
と係脱し得るようにし,蓋体( 6)の進退に連動して中栓(7)を上下動せしめ,蓋体( 6)による液
流出路(5)の出口の開閉と中栓(7)による液流出路( 5)の入口の開閉とを同期させたことを特徴
とするまほうびんの栓。 (実用新案登録請求の範囲)
」
b「蓋体(6)が第5図に示す位置にあるときには,その傾斜片(6a)は中栓(7)の縦杆(7a)の上
端に係合していてバネ( 9)は弾圧せしめられ,中栓(7)の段部( 7e)は栓本体( 3)の環状段部( 3d)
に圧接せられている。したがって,中びん( 4)内と液流出路( 5)の入口とは連通していない。液
流出路(5)の出口も蓋体(6)で閉鎖されている。 摘み(6b)を摘んで蓋体( 6)を第5図の右方へ
移動させると,第6図に示すように先ほどまで閉鎖されていた液流出路(5)の出口が開放され,
しかも傾斜片(6a)と中栓( 7)の縦杆( 7a)との係合が解け,バネ( 9)の弾力によって中栓( 7)が上
昇するに至る。 したがって,液通路(7d)を介して中びん(4)内と液流出路(5)の入口とが連通
し,結局のところ中びん(4)と栓セット( A)の外部とが連通するに至り,本体を傾けると中びん
(4)内の内容液を注出することができる。 蓋体(6)を旧位に戻すと,これに連動して中栓(7)
等は第5図に示すように旧位に復する。 (6頁3行∼7頁3行)
」
(ウ) 参考資料3(甲第8号証)
a「下口部材(3)の栓差込穴(4)に螺合嵌着される栓ユニット(9)において,栓本体(12)
の底部中央に案内筒(16)を上向きに一体に突設し且つ該案内筒(16)下端部には適数個の切
欠縦溝(17),(17)・・を形成し,前記栓本体(12)の下方に位置して中瓶瓶口(15)を開
閉する弁体(13)の弁棒(23)下部外周には前記切欠縦溝(17),(17) ・と対応する突起
(25),(25)・・を一体に突設し,更に前記栓本体(12)上部に回動自在に配設される操作
部材(14)には下端に前記突起(25),(25)・・と係合すべき凹部(30)及び凸部(31)を
連続形成したカム筒(29)を一体に垂設するとともに,前記案内筒(16)内には,前記弁棒(2
3)を,前記各切欠縦溝(17),(17)・・に前記各突起(25),(25)・・を係合し且つス
プリング(32)で上方に付勢して遊嵌する一方,前記案内筒(16)外には前記カム筒(29)を
その凹部(30)あるいは凸部(31)と前記突起(25),(25)・・とを係合せしめるべくして
遊嵌し,前記操作部材(14)の回動操作に応じて,前記弁棒突起(25),(25)・・を前記カ
ム筒(29)の凹部(30)あるいは凸部(31)に係合せしめることによって前記弁体(13)をし
て中瓶瓶口(15)を開閉せしめ得るようにしたことを特徴とする魔法瓶の栓装置。 (実用新
」
案登録請求の範囲)
b 「第1図図示の状態においては,操作部材14におけるカム筒29の凸部31と弁棒2
3の突起25とが係合しており,弁体13は下方に押し下げられて中瓶瓶口15を閉栓してい
る。この時,キャップ20の覗き穴21には『出ない』の表示が表われる。 中瓶2内の液体
を注出しようとする時には,操作部材14を矢印Aの方向に回動させると,弁棒23の突起2
5はカム筒29の凸部31を乗り超えて凹部30と係合することとなり,弁体13はスプリン
グ32の付勢力によって上動して第2図図示の如く中瓶瓶口15を開栓する。この時,キャッ
プ20の覗き穴21には『出る』の表示が表われる。従って,魔法瓶を傾むけて中瓶2内の液
体を注出することができる 。・・・ 更に操作部材14を矢印A方向に回動せしめると,弁棒
23の突起25はカム筒29の凸部31と係合し,第1図の状態に復帰する。 (7頁12行
」
∼8頁12行)
(エ) 参考資料4(甲第9号証)
a 「栓体に,液出口と,該液出口に連通する液通路と,該液通路を開閉する弁体と,該弁
体を外部操作により駆動して前記液通路を開閉させる操作手段とを備えた液体容器の栓構造に
おいて,前記操作手段を,少なくとも栓体の外周壁の一部に露出し,該栓体の円周方向の回転
操作により弁体を駆動して液通路を開閉する回転操作部材で構成したことを特徴とする液体容
器の栓構造。 (特許請求の範囲の請求項1)
」
b 「栓体11は,大略,栓本体13,弁体14,操作リング15及び栓キャップ16から
構成されている。 (段落【0017】
」 )
c 「この液体容器は,弁体80と操作リング81の構成に特徴を有する。弁体80は,図
7(b)に示すように,底板部82と,その中心から延びる軸部83と,軸部83の上方に形
成される上板部84とから構成される。上板部84の外周に少なくとも1箇所(実施形態では
2箇所)上方に向かって突起84aが形成されている。また,軸部83の上端にはスプリング
受部85が装着されるようになっている。操作リング81は,図7(c)に示すように,外周
壁86と内周壁87とを複数箇所で連結一体化したものである。外周壁86は栓体11の外周
面に沿って配設され,外部に突出する部分はない。したがって,液体容器の外観をスマートな
ものとすることができる。一方,内周壁87の下部には,下縁から切り欠かれることにより,
傾斜面88を介して連続する第1及び第2位置決め凹部89,90がそれぞれ形成されてい
る。 (段落【0034】
」 )
d 「この液体容器では,操作リング81を回転操作すると,弁体80の突起84aが,上
方側に位置する第1位置決め凹部89から傾斜面88を介して下方側に位置する第2位置決め
凹部90に係合する。これにより,弁体80が下方に移動して液通路が開放されるので,液体
容器本体12内の液体は注水口46を介して注水可能となる。また逆に,操作リング81を反
対方向に回転操作すると,弁体80の突起84aが第2位置決め凹部90から第1位置決め凹
部89に移動し,弁体80が弁スプリング56の付勢力により上動する。これにより,液通路
が閉塞されるので,液体容器内の液体は外部に注水されることはない。 (段落【 0035】
」 )
e 「また,前記実施の形態では,略円筒状の操作リング81を使用したが,外周壁に代え
て,図8に示すように,内周壁から延設されたレバー91で構成するようにしてもよい。 (段
」
落【0036】)
エ 上記ウの(ア)∼(エ)の各記載並びに参考資料1の第1∼第3図,参考資料2の
第5∼第6図,参考資料3の第1,第2図及び参考資料4の第7,第8図によれば ,
ポット又は魔法瓶ないし液体容器の栓の開閉機構に関し,蓋体とは別体として設け
られ(参考資料1,3,4 ),又は蓋体を兼ねて設けられた(参考資料2)操作部
材を水平方向の一方側の位置へ移動操作することにより,弁体を押圧して開放状態
(参考資料1,4)又は閉止状態(参考資料2,3)に保持(固定)し,操作部材
を他方側の位置へ移動操作することにより上記保持された状態を解除する技術が周
知であり,その操作部材を水平方向の一方側の位置,他方側の位置へ移動操作する
態様としては,操作部材の一端を回転軸として回転操作するもの(参考資料1 ),
進退可能な操作部材を直線的に移動操作するもの(参考資料2 ),操作部材の中央
を回転軸として回転操作するもの(参考資料3,4)などがあること,蓋体と操作
部材との関係に関しては,操作部材が蓋体の下方にあってその一端が蓋体から突出
しているもの(参考資料1 ),操作部材が蓋体の上方にあり露出しているもの(参
考資料3),操作部材が,互いに反対方向に延設されて設けられた2本のレバーを
備え,蓋体の下方にあるものの,当該各レバーの端部がともに露出しているもの 参
(
考資料4の図8の態様)などがあることも,本件特許出願前において周知であった
ものと認められる。
そして,上記イのとおり,甲第2号証には,操作部材を水平方向の一方側の位置
へ移動操作することにより,弁板を押圧して開放状態に保持し,他方側の位置へ移
動操作することによって弁板の上下動を許容する技術が開示されているものと認め
られるところ,上記のとおり,弁体を押圧する操作部材につき各種の構造とするこ
とが従来周知であり,弁体を押圧して開放状態に保持するものも,閉止状態に保持
するものもともによく知られ,さらに,操作部材を蓋体とは別体としてその下方に
設けたもの,蓋体から突出ないし露出するもの,操作部材の両端が蓋体から露出す
るものも周知であることを考慮すれば,当業者が,甲1発明における,弁板を下方
に押圧して通風孔を閉止状態に保持する状態と,弁板の上下動を許容する状態とを
切り換えるロック機構の構造として,蓋体を回動操作するものに代えて,一方側の
位置ないし他方側の位置へ移動操作する操作部材を,蓋体とは別にその下面側に設
け,当該操作部材の両端部を蓋体から突出させる構成を採用すること,すなわち,
相違点1の「ロック機構の操作部材について,本件発明1では,操作部材が蓋体か
ら両端部が突出しているのに対し,甲第1号証に記載された発明では,蓋体2が操
作部材でもある」点,及び相違点2のうちの「ロック機構の操作手段として,本件
発明1では,操作部材を一方側の位置へ移動操作することによって弁板を下方に押
圧して排気孔を閉止状態に保持し,上記操作部材を他方側の位置へ移動操作するこ
とによって弁板の上下動を許容するのに対し,甲1発明では,蓋体2を一方向に回
転操作することにより上記弁体3を下方に押圧して通風孔5を閉止状態に保持し,
蓋体2を他方側に回転操作することにより弁体の上下動を許容するものである」と
の点に係る本件発明1の構成とする程度のことは,甲第2号証に開示された技術及
び前記の周知技術に基づいて,容易になし得るものというべきである。
オ(ア) これに対し本件審決は,「ロック機構の操作部材が蓋体から両端部が突出
しているものは,甲第2号証には記載されていなく,参考資料1∼4にも記載され
ていない。 ,
」 「参考資料1∼4は,ポットの栓体に設けられた弁体を操作部材で開
閉操作するものであり,そもそも弁体のロック機構ではなく,参考資料4の操作手
段は蓋体から操作部材の両端部が突出しているものの,収納袋の排気弁とは技術分
野,技術的課題が全く異なるものであり,甲第1号証に記載された発明にこれら参
考資料1∼4に記載された技術を適用することを動機付ける技術的関連性を何ら見
出せない 。」と判断した(審決書6−3−3 (b))。
本件審決のこの説示は,要するに,①参考資料1∼4に記載されたものは,いず
れもポットの栓体に設けられた弁体を操作部材で開閉操作するものであって,弁体
のロック機構ではなく,したがって,参考資料4には蓋体から操作部材の両端部が
突出している操作手段が記載されているものの,ロック機構の操作部材が蓋体から
両端部が突出している場合には当たらず,甲第2号証及びその他の参考資料にも蓋
体から両端部が突出しているロック機構の操作部材は記載されていない,②参考資
料1∼4に記載された技術は,収納袋の排気弁とは技術分野,技術的課題が全く異
なるものであり,甲第1号証に記載された発明に参考資料1∼4に記載された技術
を適用することを動機付ける技術的関連性を何ら見出せないというものであると解
され,被告の上記第4の2の2の(2)のウの主張も上記②の説示と同旨である。
しかしながら,参考資料1∼4に記載されているのは,ポット又は魔法瓶ないし
液体容器の栓の開閉機構に関する技術ではあるものの,いずれも操作部材を操作す
ることにより,栓体に設けられた弁体を押圧し,弁体を最下点で固定して液体流路
の開放又は閉止の状態を保持するものであり,少なくとも閉止状態を保持するもの
については,本件審決のいう「弁体のロック機構」にそのまま当たるものというべ
きであるし,また,閉止状態を保持するものも,開放状態を保持するものも,とも
に周知であることにかんがみれば,開放状態を保持するものの機構を閉止状態を保
持するもの(すなわち ,本件審決のいう「弁体のロック機構」 に転用することは,
)
当業者にとって容易なことであるから,結局,本件審決の上記①の説示は失当であ
る。
さらに,流体の動きを制御する弁の開閉機構に関する技術は,流体を取り扱う種
々の技術分野に共通して用いられるいわば汎用的な技術であることは明らかである
から,甲1発明の弁体を操作する構造を設計するに当たって,弁体を操作する各種
の技術を参照することには,当業者にとって十分な動機付けがあるというべきであ
る。のみならず,参考資料1∼4に開示された技術に係るポット又は魔法瓶は,日
常的に身の回りにおいて用いられるものであり,かつ,これらの製品において,栓
の開閉に弁体を用いた機構が使用されていることは,当業者ならずとも容易に了知
し得るものであるから,上記のとおり,弁体を操作する各種の技術を参照すること
について十分な動機付けを有する当業者が,参考資料1∼4に開示された事項から
抽出される周知技術を甲1発明に適用することに格別の困難があるとはいうことは
できない。したがって,本件審決の上記②の説示及びこれと同旨の被告の主張も失
当である。
(イ) なお,本件審決は ,「参考資料4の操作手段は,操作部材を一方側の位置へ
移動操作することによって弁板を押圧して孔を閉止状態に保持するものではあるも
のの,そもそも弁体のロック機構ではなく,弁体を開状態と閉状態に操作するもの
であり,操作部材を他方側の位置へ移動操作することによって弁板の上下動を許容
するものでもない。
」とも説示する(審決書6−3−3 (d))。
しかしながら,参考資料4の操作手段(操作部材)自体が弁体のロック機構では
ないとの点が,参考資料4に記載された事項を含む周知技術を適用することの妨げ
となるものでないことは,上記(ア)のとおりである。
また,上記イのとおり,甲第2号証には,操作部材を他方側の位置へ移動操作す
ることによって弁板の上下動を許容する技術が開示されており,これを甲1発明に
適用することは,当業者にとって容易というべきである。
したがって,本件審決の上記説示も失当である。
(ウ) 本件審決は,さらに,甲第2号証記載の発明等につき,①「甲第2号証のロ
ック機構の操作手段は,操作部材を他方側の位置へ移動操作することによって弁板
の上下動を許容するものではあるが,スプリングに抗して排気孔を開状態に保持す
るものであり,閉止状態に保持するものではない」,②「甲第2号証の発明及び参
考資料1∼4の弁体の開閉手段には,その操作機構からみて,スプリングを使用す
ることが必須であり,本件の課題では,段落0008『また,収納袋内を脱気する
際に,電気掃除機の吸気ノズルを可動蓋上に押し付けてスプリング力に抗して弁板
を開放させた状態を保持しておかねばならないために,操作が煩雑化して使用勝手
が悪くなるばかりでなく,スプリングは金属材料で形成されているために,錆が発
生して円滑な作動が行えなくなる事態が発生する虞れがある。 と記載されており,
』
本件発明1はスプリングを使用しないことをその技術的課題としていることは明ら
かであるから,甲第1号証に記載された発明と組み合わせて本件発明1とすること
はできないことは明らかである」と説示する(審決書6−3−3 (c))。そして,
被告の上記第4の2の( 2)のイの主張は本件審決の上記①の説示と同旨の主張を含
み,同カの主張は本件審決の上記②の説示と同旨である。
しかるところ,まず,上記①の説示については,操作部材を操作することにより ,
スプリングの付勢力に抗して弁体を押圧したときに,排気孔を閉止状態に保持する
か,開放状態に保持するかは,弁体を押圧しない状態(スプリングの付勢力による
弁体の動きを許容する状態)で,排気孔を閉止状態とするか,開放状態とするかに
よって定まるものであるが,上記エのとおり,操作部材を操作することにより閉止
状態に保持するものも,開放状態に保持するものも,ともに従来周知であるように,
そのいずれの構成をも採用し得るものである。そして,甲1発明は,操作部材であ
る蓋体を回動操作することにより,弁体を下方に押圧して通風口を閉止状態に保持
するとの構成を備えるものであるが,この構成をそのまま維持しつつ,甲1発明の
上記操作部材の構成に代えて,甲第2号証に開示されたもののうち,操作部材を水
平方向の一方側の位置へ移動操作することにより弁板を押圧し,他方側の位置へ移
動操作することによって弁板の上下動を許容する技術を適用することに,何らの困
難性も認められない。
次に,上記②の説示について検討するに,確かに,甲第2号証及び参考資料1∼
4に開示された技術は,操作部材により弁体を下方に押圧して保持する状態でない
場合において,操作部材による弁体の押圧がある場合とは逆の閉止状態又は開放状
態を維持するために,スプリングの付勢力を利用するものである。
しかしながら,甲第1号証の「図1及び・・・図2,図3において,弁体3胴部
の鍔状部分30より上の部分には,押圧発条33が装着されている。押圧発条33
は,後述する弁体3の動作を確実にするためのものであり,脱気の妨げにならない
程度の弱い付勢力で装着される。この発条33は,不必要であれば,設けなくても
よい 。 (段落【 0029】 ,
」 ) 「脱気された収納袋Z内部の負圧及び必要に応じ発条33
によって,弁体3は下に引き寄せられ,通風口5を塞ぐ。前述の発条33は,通風
口5への弁体3の付勢を助けるものであれば効果的である。但し不必要であれば,
この発条33は設けなくてもよい。 (段落【 0032】
」 )との各記載によれば,甲1発
明には,上記甲第2号証及び参考資料1∼4に示されたようなスプリングは用いら
れないことが明らかである(甲第1号証に記載された「発条33」は,操作部材に
よる弁体の押圧がある場合とは逆の閉止状態又は開放状態を維持するためのもので
はなく,その付勢力の作用する方向は,操作部材による押圧の方向との相対的な関
係において,甲第2号証及び参考資料1∼4に示されたスプリングの付勢力の方向
と逆である上,甲1発明はそのような発条さえ必ずしも必要としないものであるか
ら,甲第2号証及び参考資料1∼4に示されたようなスプリングが用いられる余地
はない。。
) 上記エのとおり,甲1発明には,甲第2号証や参考資料1∼4に基づく ,
一方側の位置ないし他方側の位置へ移動操作する操作部材を,蓋体とは別にその下
面側に設け,当該操作部材の両端部を蓋体から突出させる構成を適用すれば足りる
のであり,スプリングの構成まで適用する必要はない。
したがって,上記本件審決の説示及び被告の主張は失当である。
カ(ア) 被告は,甲第2号証記載の発明のナット67は,甲1発明の蓋体2と同
様,蓋体であって,「蓋体とは別体の操作部材」には当たらないと主張するが,上
記ナット67が蓋体に当たらないことは明らかである上,上記エのとおり,弁体の
操作部材を蓋体とは別体として設けることは周知技術であると認められるのである
から,当業者が,甲1発明に,甲第2号証記載の技術事項及び周知技術を適用して,
本件発明1の構成とすることに何らの困難もなく,したがって,被告の上記主張を
採用することはできない。
(イ) また,被告は,本件発明1の構成に係る,操作部材が蓋体とは別体に設けら
れ,操作部材が突出する端部を除いて蓋体の下面側に設けられるとの点に関し,収
納や移送の際に,複数の収納袋が積み重ねられたり,上に物を置かれたりして,収
納袋の排気弁に水平方向の外力が作用したとしても,操作部材にはその外力の作用
が及び難く,弁板の押圧が不測に解除されず,閉止状態(弁板のロック状態)を確
実に保持することができるという効果を奏するものであるとした上,このような効
果の前提となる課題は,甲1発明にも参考資料1∼4記載の発明にも存在しないか
ら,甲1発明や参考資料1∼4記載の発明に基づいて,本件発明1の上記効果を予
測することは困難であると主張する。
しかしながら,本件訂正明細書には,「発明が解決しようとする課題」として,
従来技術に係る「中央部に収納袋内に連通させる排気孔を設けた弁本体に,中央部
に上下面間に貫通した吸気用孔を設けているドーム形状の可動蓋を上下動自在に取
付け,この可動蓋と弁本体との対向面間で形成している室内に上記排気孔の開閉用
弁板と,この弁板を上方から押圧して排気孔に密着させているスプリングと,この
スプリング力に抗して上記弁板を上動させて開弁させる弁板作動機構とを配設し,
該弁板作動機構を上記可動蓋の押し下げによって作動させて弁板を開弁させ,この
状態にして電気掃除機の吸気ノズルにより上記吸気用孔から収納袋内の空気を排気
すると共に,排気後には弁板作動機構を不作動状態にロックするように構成した」
排気弁構造は,「排気後において弁板作動機構を不作動状態にロックする機構とし
ては,弁本体の外周部数個所にガイド突片を突設し,このガイド突片の上端部を上
記可動蓋の外周部数個所に設けている円弧状長孔内に挿通して可動蓋を下動可能に
する一方,該円弧状長孔内の一端部に係合突起を一体に設けて,上記ガイド突片の
上方にこの係合突起が対向する位置まで可動蓋を回動させた時に,係合突起がガイ
ド突片に受止されて可動蓋が下動するのを防止するように構成しているために,可
動蓋に収納袋の積み重ね等による過大な荷重がかかると,係合突起が破損してロッ
クがきかなくなり,可動蓋が下動して開弁し,収納袋が膨脹するといった問題点が
生じる」ため,「排気後において弁板を排気口に積極的に押し付けた状態で簡単且
つ確実にロックしておくことができ」ることなどを発明の目的とすることが記載さ
れ(段落【0005】∼【0013】 ,また,発明の「作用」として,
) 「収納袋内が脱気さ
れて布団等の収納物が圧縮状態になると,蓋体に対する電気掃除機の吸気ノズルの
押し付けを解く。そうすると,収納袋内が真空状態であるから,この収納袋側に発
生する吸気力によって弁板が下動して排気孔を自動的に閉止し,収納袋内に外気が
入るのを阻止する。 ,
」 「しかるのち,蓋体を弁板回りに一方向に回動させると,該
蓋体の下面側に設けているロック機構が作動して該ロック機構により弁板が直接,
下方に押圧され,排気孔を密閉した状態に保持する。このように,ロック機構によ
る弁板の閉止状態の保持は,蓋体を弁本体側に押圧する力によって行われているの
で,収納物を圧縮状態で収納している収納袋を積み重ねても,その積み重ねた荷重
が弁板をさらに押し下げようとする力として作用し,不測に弁板を開放させること
なく,弁板のロック状態を確実に保持しておくことができる。また,この蓋体の回
動によるロック機構に代えて,上記蓋体から両端部が突出している操作部材を水平
方向の一方側の位置へ移動操作することによって上記弁板を下方に押圧して排気孔
を閉止状態に保持し,上記操作部材を水平方向の他方側の位置へ移動操作すること
によって弁板の上下動を許容するように構成したロック機構を蓋体の下面側に設け
たものであっても同様な作用効果を奏する」ことが記載され 段落 0023】【0024】,
( 【 ∼ )
さらに,本件発明1に係る「発明の効果」として , ロック機構として,請求項1 ,
「
2に係る発明(判決注:請求項1に係る発明が本件発明1)によれば,蓋体に水平
方向に一方側と他方側との位置間を移動自在に操作部材を支持すると共にこの操作
部材と弁板との対向面における一方にカム突起を,他方に係合突起を突設してなり ,
上記操作部材を一方側の位置へ移動させた時にカム突起と係合突起とを係止させて
弁板を閉止状態に保持し,操作部材を他方側の位置へ移動させた時にカム突起と係
合突起と係止を解いて弁板の上下動を許容するように構成しているので,収納袋内
の脱気後にはこのロック機構によって排気孔が不測に解放するのを確実に防止して
おくことができると共に,収納物を圧縮状態で収納している収納袋を積み重ねても,
その積み重ねた荷重が弁板をさらに押し下げようとする力として作用させることが
できてロック状態を確実に保持しておくことができ,また弁板のロック及びロック
解除操作が簡単かつ確実に行うことができる」ことが記載されている 段落 0061】
( 【 )
ものの,本件発明1の作用効果として,収納や移送の際に,複数の収納袋が積み重
ねられたり,上に物を置かれたりした場合に,収納袋の排気弁に水平方向の外力が
作用したとしても,操作部材にはその外力の作用が及び難いことなどは,本件訂正
明細書に記載がない。
そもそも,収納や移送の際に,収納袋の上に他の収納袋その他の物が積み重ねら
れたとしても,収納袋の排気弁に水平方向の(すなわち,横向きの)外力が作用す
ること自体,通常は想定し難いところであるのみならず,上記のとおり,本件訂正
明細書には,収納袋の上に積み重ねられた物の荷重が弁板をさらに押し下げようと
する力として作用し,弁板のロック状態を確実に保持することが,本件発明1の作
用効果として記載されているのであるから,本件発明1においては,弁板の上部に
位置する操作部材にも荷重が作用することは明らかであって,本件発明1の構成に
より,操作部材に外力の作用が及び難いとの効果が生ずるということはできない。
したがって,被告の上記主張は,その前提が誤っているといわざるを得ない。
(ウ) 被告は,さらに,本件発明1の「蓋体から両端部が突出している操作部材」
との構成につき,操作の際に,一方の端部を摘み,あるいは他方の端部を摘み,さ
らに両端部を同時に摘むなど,操作性の自由度が増すものであり,収納袋において
操作部材自体が小さく,操作し難い上に,弁板のロック操作の際には,電気掃除機
の給気ノズルを蓋体の上面に当てたまま操作部材を操作しなければならないという
制約を解決する構成であって,かかる構成は,甲1発明,甲第2号証記載の発明,
参考資料1∼4のいずれにも開示されていないとも主張する。
しかしながら,本件訂正明細書には,収納袋においては,操作部材自体が小さく ,
操作し難い上に,弁板のロック操作の際には,電気掃除機の給気ノズルを蓋体の上
面に当てたまま操作部材を操作しなければならないという制約ないし課題があるこ
とは記載されていない。また,本件発明1の「蓋体から両端部が突出している操作
部材」との構成についても ,「上記蓋体2から突設している操作部材10aの両端
部を摘んで該操作部材10aを水平方向に往動させ,係合突起12の頂面にカム突
起11をその傾斜端面11aから水平頂面11bに乗り上げさせることにより,弁
板6を下方に押圧してそのシール材9を便座7に圧縮状態で圧着させて排気孔3を
閉止状態にロックする一方,操作部材10aを水平方向に復動操作することより,
カム突起11を係合突起12から離脱させて弁板6のロックを解くようにしてい
る。 (段落【 0058】
」 )との記載はあるが,それ以上に,この構成に対応した特有の
作用効果の記載や,この構成の技術的意義についての記載は見当たらない。そうす
ると,被告の上記主張は,明細書の記載に基づかないものといわざるを得ない。
のみならず,本件発明1の要旨は,操作部材の両端部が蓋体から突出している程
度については規定していないから,本件発明1の操作部材は,本件訂正明細書の上
記記載のように,その両端部を同時に摘んで操作することができるものに特定され
ているとはいえるとしても,一方の端部のみを摘んで操作部材の操作ができるもの
に特定されているということはできない。そうであれば,本件発明1の「蓋体から
両端部が突出している操作部材」との構成により,操作性の自由度が増すとの主張
は,本件発明1の要旨に基づかないものともいうべきである。
したがって,被告の上記主張を採用することもできない。
3 結論
( 1) 以上によれば,本件審決の本件発明1と甲1発明との相違点2の認定の一部
は誤りであり,また,同相違点1についての判断及び上記相違点2のうちのその余
の部分 相違点としての認定に誤りのない部分)
( についての判断も誤りであるから,
本件審決が,本件発明1につき,相違点3についての判断を経ないまま,「本件発
明1は,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明及び周知技術
に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,特許
法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえな
い」とした部分には,結論に影響を及ぼすべき誤りがある。
( 2) 本件審決が,本件発明3につき「本件発明3は,甲第1号証に記載された発
明ではなく,特許法第29条第1項第3号に規定される発明とすることはできない 」
とした判断については,原告はこれを争わず,その判断に結論に影響を及ぼすべき
誤りは認められない。
(3) ところで,一次審決は,原告の無効審判の請求に対し,「訂正を認める。特
許第3681379号の請求項1,3に係る発明についての特許を無効とする。特
許第3681379号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たな
い。」との審決(甲第12号証の11)をしたものである(なお,請求項2に係る
発明は,上記訂正の対象となっていない 。。そして ,原告は,一次審決のうちの「特
)
許第3681379号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たな
い。」とした部分に対し,出訴期間内に審決取消しの訴えを提起しなかったのであ
るから,一次審決のうちの本件発明2についての無効審判請求を不成立とした部分
が,独立して既に確定したことは,特許法123条1項柱書き後段に照らして明ら
かであり,もとより,一次審決に対し被告が提起した審決取消しの訴えや,一次審
決に対する取消決定の対象となっているものではない。
しかるに,本件審決の説示には,本件発明2について,無効事由の有無を審理し
た上,無効事由がないと判断した部分があるが,上記のとおり,一次審決のうち,
本件発明2についての無効審判請求を不成立とした部分は,独立して既に確定して
いるのであるから,本件審決において,本件発明2についての無効判断をすること
はもはやできないものというべきであり,そうすると,本件審決の説示中,本件発
明2についての無効事由の有無を審理判断した部分は,全く意味のないものと考え
ざるを得ない。
したがって,本判決は,本件審決の上記部分を対象とするものではないことを,
念のため付言しておく。
( 4) よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田 中 信 義
裁判官
石 原 直 樹
裁判官
杜 下 弘 記
最新の判決一覧に戻る