平成19(行ケ)10344審決取消請求事件
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裁判所 |
審決取消 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成20年3月31日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官肥塚雅博 原告ピレリ・タイヤ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
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法令 |
意匠権
意匠法9条1項1回
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キーワード |
審決31回 優先権1回
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主文 |
1 特許庁が不服2006−9504号事件について平成19年6月4日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成17年1月7日,意匠に係る物品を「自動二輪車用タイヤ」と
し,別紙意匠目録第1の意匠(以下「本願意匠」という。)の意匠登録出願
(意願2005−317号,以下「本件出願」という。パリ条約に基づく優先
権主張2004年7月9日)をしたところ,平成18年2月10日,拒絶査定
- -2
を受けたので,同年5月11日,これに対する不服審判(不服2006−95
04号事件)を請求した。特許庁は,平成19年6月4日,「本件審判の請求
は,成り立たない。」との審決をし,同月14日,その謄本を原告に送達した。 |
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判決文
平成20年3月31日判決言渡
平成19年(行ケ)第10344号審決取消請求事件
平成20年3月13日口頭弁論終結
判 決
原 告 ピレリ・タイヤ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
訴訟代理人弁理士 稲 葉 良 幸
訴訟代理人弁護士 中 村 勝 彦
同 新 谷 美 保 子
訴訟代理人弁理士 林 美 和
被 告 特許庁長官 肥塚雅博
指 定 代 理 人 山 崎 裕 造
同 岩 井 芳 紀
同 大 場 義 則
主 文
1 特許庁が不服2006−9504号事件について平成19年6月4日
にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文と同じ。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成17年1月7日,意匠に係る物品を「自動二輪車用タイヤ」と
し,別紙意匠目録第1の意匠(以下「本願意匠」という。)の意匠登録出願
(意願2005−317号,以下「本件出願」という。パリ条約に基づく優先
権主張2004年7月9日)をしたところ,平成18年2月10日,拒絶査定
-1 -
を受けたので,同年5月11日,これに対する不服審判(不服2006−95
04号事件)を請求した。特許庁は,平成19年6月4日,「本件審判の請求
は,成り立たない。」との審決をし,同月14日,その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願意匠は,平成15年1月3
1日に意匠登録出願され,平成16年12月10日に設定登録のされた別紙意
匠目録第2の意匠(意匠登録第1229157号。以下「引用意匠」とい
う。)に類似するものであり,意匠法9条1項に規定する最先の意匠登録出願
人に係る意匠に該当しないから,意匠登録を受けることができない,とするも
のである。
審決が認定した本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点は,次のとおりで
ある。
(共通点)
全体が断面形状を概略半円弧状とした環状体の外側周面に溝を設けたもので
あり,トレッド部中央について,周方向に鈍角で交互に屈曲したジグザグ状の
細溝(以下「中央溝」という。)を設け,その各屈曲角部の外側からサイド部
側へ各ジグザグ構成溝を分岐するように,各構成溝の延長方向より僅かに外側
へ角度を付けてサイド部付近まで細溝(以下「主傾斜溝」という。)を設け,
さらに,各主傾斜溝間の中央に,中央溝からやや離れた位置からサイド部付近
まで,主傾斜溝とほぼ平行状に細溝(以下,「副傾斜溝」という)を設けた点。
(差異点)
(ア) 中央溝の各ジグザグ構成溝について,本願意匠は,直線状としているの
に対して,引用意匠は,湾曲方向を交互に変えた緩やかな弧状としている点。
(イ) 副傾斜溝の形状について,本願意匠は,中央寄りで僅かに屈曲した略
「へ」の字状としているのに対して,引用意匠は,両先端部を僅かに湾曲し
た直線状としている点。
-2 -
(ウ) 主傾斜溝の長さ幅のほぼ中央に,本願意匠は,僅かに突出する溝を設け
ているのに対して,引用意匠は,そのような溝がない点。
(以下,順に「差異点(ア)」などという。)
第3 原告主張の取消事由
審決は,本願意匠と引用意匠との共通点の評価を誤るとともに,構成態様の
主要な点を看過し,その結果,本願意匠と引用意匠とが類似するとの誤った結
論に至ったものであるから,取り消されるべきである。
1 共通点に関する評価の誤り
以下のとおり,審決が,本願意匠と引用意匠との共通点のうち「トレッド部
中央に周方向に走る中央溝を有し,当該中央溝の両サイドに主傾斜溝及び副傾
斜溝が設けられている」との共通点に基づいて,両意匠が類似すると判断した
ことには誤りがある。
すなわち,「トレッド部中央に周方向に走る中央溝を有し,当該中央溝の両
サイドに主傾斜溝及び副傾斜溝が設けられている」との点は,自動車用タイヤ
においては,ありふれた形状である。自動車用タイヤでは,その用途及び機能
は走行時の操縦安定性や駆動力の確保にあるから,用途及び機能を確保するた
めには,意匠の創作の幅も狭まり,上記の態様において共通となる。「トレッ
ド部中央に溝を有し,当該中央溝両サイドに傾斜溝が設けられている点」にお
いて共通するにもかかわらず,登録された先行意匠例は多数存在する(甲1)。
以上のとおり,上記共通点は,自動車用タイヤにおいて,ありふれた形態で
あるから,本願意匠は引用意匠と類似するとした審決の判断には誤りがある。
2 差異点に関する評価の誤り
以下のとおり,審決が,本願意匠及び引用意匠との差異点は,いずれも微弱
な差異に止まると判断したことには誤りがある。
自動車用タイヤのトレッドパターンは,一般的に,① リブ型(周方向に連
続した縦溝を主体として構成されるもの),②ラグ型(横方向に連続した横溝
-3 -
を主体として構成されるもの),③リブラグ型(周方向に連続した縦溝と横方
向に連続した横溝の組み合わせからなるもの),④ブロック型(独立したブロ
ックを配列したもの)の4類型に分類される(甲2)。
自動車用タイヤの意匠は,用途,機能の確保等の観点から,おのずと創作の
幅に制約があり,4つに類型化できるほど創作面での自由度は低い。したがっ
て,それぞれのトレッドパターンの具体的態様における微細な差異により,意
匠の類否を判断すべきである。
(1) 差異点(ア)(中央溝の形状)について
審決は,差異点(ア)(中央溝の形状)について,「引用意匠の弧状は,緩
やかなものであるから,本願意匠の直線状と大差なく,形態全体としてみた
場合,この差異は,共通するとした溝全体の態様に吸収されてしまう程度の
わずかな差に過ぎないものであり,微弱なものというほかない。」と判断し
た(審決書2頁28行∼32行)。
しかし,本願意匠の中央溝が,周方向に対し傾斜した直線状の細溝が,交
互に傾斜方向を変えて連なっており,強く,シャープな印象を呈しているの
に対して,引用意匠における中央溝は,湾曲方向を交互に変えた緩やかな弧
状の溝が交互に連なっており,引用意匠は全体が流れるようなソフトな印象
を作り出している。中央溝の形状における差異が醸し出す美感は,両意匠の
全体の美感の形成に強く作用する要素であり,わずかな差であるとはいえな
い。
(2) 差異点(イ)(副傾斜溝の形状)について
審決は,差異点(イ)(副傾斜溝の形状)について,「本願意匠の屈曲の程
度が僅かなものであり,また,引用意匠の湾曲部は,先端部のみで緩やかで
あるから,その部位のみを注視すればともかく,形態全体としてみた場合,
さほど目立たないものであり,この差異は,共通するとした溝全体の態様に
吸収されてしまう程度の微弱なものといわざるを得ない。」と判断した(審
-4 -
決書2頁33行∼37行)。
しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。
すなわち,本願意匠の副傾斜溝は,中央溝寄りの一端から屈曲点までと,
屈曲点から他端までの長さとを,略1:2としている。これは,中央溝にお
ける各屈曲点間の長さと,主傾斜溝の長さとの比率とほぼ同一である。さら
に,屈曲点の角度もほぼ同一であり,本願意匠における中央溝,主傾斜溝,
副傾斜溝には規則性,統一性がある。これに対して,引用意匠における副傾
斜溝は,主傾斜溝とほぼ同じ角度で配されてはいるものの,長さ,湾曲方向
も自由であり,中央溝との関係についても本願意匠に見られるような整然と
した規則性はない(甲4)。
本願意匠の規則性及び統一性は,本願意匠の持つシャープで規則的な美感
を増幅させているのに対し,引用意匠は,規則的な美感を与えない。両意匠
の差異点(イ)の美感に与える影響は甚大であり,これを微弱なものであると
判断した審決には誤りがある。
(3) 差異点(ウ)(主傾斜溝の突出溝の有無)について
審決は,差異点(ウ)(主傾斜溝の突出溝の有無)について,「本願意匠の
突出溝は,わずかに突出しているに過ぎないものであり,格別目立つものと
はいえないから,この差異は,部分的なところにおける微弱なものというほ
かない。」と判断した(審決2頁38行∼3頁1行)。
しかし,過去に並存して登録されている意匠においては,突出溝の有無に
創作性が認められて登録を受けた例があり,突出溝という視覚的には微弱と
もいえる部分であっても類否判断において支配的要素を形成している例もあ
り,このような差異点を軽視すべきではない(甲5)。
特に,本願意匠における突出溝は,本願意匠の持つ規則的かつ統一感のあ
る美感を高めている。当該突出溝は,主傾斜溝の中央部よりややショルダー
部に近い箇所に,主傾斜溝下部に配された副傾斜溝の屈曲部に向けて突出し
-5 -
ており,上記のパターンはすべての突出溝に共通してみられる特徴である。
これにより,突出溝,副傾斜溝,主傾斜溝との間に規則的な一体感が生じ,
本願意匠の持つシャープで規則的な美感を増加させている。
以上のとおり,差異点を「部分的」で「微弱」なものと判断した審決には
誤りがある。
3 差異点の看過
側面視において,本願意匠では,各主傾斜溝及び副傾斜溝の終端がほぼ同一
の曲率,長さ,並びに方向に整然と配されており,本願意匠の持つ規則的な美
感を増している(甲6の1)のに対して,引用意匠では,このような規則性が認
められない点において差異がある(甲6の2)。
本願意匠及び引用意匠とは,上記のような差異が存在するにもかかわらず,
この点を看過した審決には誤りがある。
4 結論
以上のとおり,本願意匠と引用意匠は,意匠に係る異なる美感を有するもの
であり,非類似の意匠というべきである。
第4 被告の反論
審決が,本願意匠と引用意匠とが類似するとした判断に誤りはない。
1 共通点に関する評価の誤りに対し
審決のした共通点の評価に誤りはない。
原告は,上記第2の2記載の共通点のうち「トレッド部中央に周方向に走る中
央溝を有し,当該中央溝の両サイドに主傾斜溝及び副傾斜溝が設けられている」
との共通点に基づいて,審決は両意匠の類似性を判断した点に誤りがあると主張
する。しかし,審決は,上記第2の2記載の共通点の全体を総合して,両意匠の
類否を判断したのであるから,原告の主張は,前提において失当である。
また,原告は,トレッド部中央に溝を有し,当該中央溝両サイドに傾斜溝が
設けられている点において共通する先行意匠登録が多数存在することに照らす
-6 -
と,本願意匠と引用意匠の共通点は,極めてありふれたものであるから,審決
が,共通点が類否の判断に大きな影響を及ぼすと判断した点には誤りがあると
主張する。しかし,「トレッド部中央に溝を有し,当該中央溝両サイドに傾斜
が設けられている点」において共通する先行登録意匠が多数存在するとしても,
トレッドパターンが概略において共通する登録意匠が多数存在するにすぎず,
本願意匠及び引用意匠が共通する構成態様は,ありふれたものではない。
2 差異点の評価の誤りに対し
原告は,自動車用タイヤの意匠は,用途,機能の確保等の観点から,おのず
と創作の幅に制約があり,創作面での自由度が低いから,それぞれのトレッド
パターンの具体的態様における微細な差異により,意匠の類否を判断すべきで
あると主張する。
しかし,用途及び機能から創作が制約されるとしても,そのような制約は,
すべての意匠の創作に当てはまることであって,自動車用タイヤのトレッドパ
ターン特有のものではない。仮に,自動車用タイヤのトレッドパターンについ
て,用途及び機能により4類型に分類できるとしても,本願意匠の分野(自動
二輪車用タイヤの分野)における意匠創作上の自由度の幅と直接的な関係はな
い。
(1) 差異点(ア)(中央溝の形状)について
原告は,本願意匠の中央溝が,周方向に対し傾斜した直線状の細溝が,交互
に傾斜方向を変えて連なっており,強く,シャープな印象を呈しているのに対
して,引用意匠における中央溝は,湾曲方向を交互に変えた緩やかな弧状の溝
が交互に連なっており,引用意匠は全体が流れるようなソフトな印象を作り出
している点で,大きく異なると主張する。
しかし,本願意匠における直線形状は,一般的な態様であって格別の特徴
はなく,引用意匠の中央溝の湾曲はわずかなものであること,本願意匠と引
用意匠は,中央溝のジグザグ形成角度がほぼ共通している点に照らすと,湾
-7 -
曲の有無の差異より,「鈍角で交互に屈曲したジグザグ状」の共通点の視覚
的効果の方が優っている。したがって,(ア)の差異点は,トレッドパターン
全体として観察した場合,交互規則的に繰り返される主傾斜溝と副傾斜溝の
存在により希釈化されるため,わずかな差にすぎないといえる。
(2) 差異点(イ)(副傾斜溝の形状)について
原告は,本願意匠における副傾斜溝の屈曲位置に関し,中央溝における各
屈曲点間の長さと,主傾斜溝の長さに関する比率とはほぼ同一であり,屈曲
点の角度もほぼ同一であり,本願意匠における中央溝,主傾斜溝,副傾斜溝
には規則性,統一性が生じているのに対して,引用意匠における副傾斜溝は,
整然とした規則性はない点において,大きく相違すると主張する。
しかし,本願意匠の副傾斜溝における曲げ角度は僅かであること,他方,
本願意匠と引用意匠の副傾斜溝は,各主傾斜溝間の中央に,中央溝からやや
離れた位置からサイド部付近まで,主傾斜溝とほぼ平行状に設けた点におい
て共通し,主傾斜溝と,副傾斜溝が交互に繰り返す規則性,統一性は共通し
ていることに照らすならば,差異点(イ)は,わずかなものにすぎない。
(3) 差異点(ウ)(主傾斜溝の突出溝の有無)について
原告は,過去並存して登録されている意匠においては,突出溝の有無に創作
性が認められ登録を受けた例があり,突出溝という視覚的には微弱ともいえる
部分であっても類否判断において支配的要素を形成している例もあることに照
らすならば,差異点(ウ)を軽視すべきではないと主張する。
しかし,本願意匠における「突出する溝」は,短く,細く,微小なもので
あり,また,本願意匠に特有といえるほどのものではないから,審決が,差
異点(ウ)について,部分的な微弱なものとした点に誤りはない。
3 差異点の看過に対して
原告は,審決は,側面視における差異を看過していると主張する。
しかし,原告の主張における差異は,実質的には「側面図」における図形上
-8 -
の差異にすぎず,本願意匠及び引用両意匠相互に側面図に表れる終端付近にお
ける湾曲の態様にわずかな差異があるとしても,類否判断に及ぼす影響が極め
てわずかであるから,審決が差異点として摘示しなかったことに誤りはない。
4 結論
本願意匠と引用意匠の差異点に基づく視覚効果の差異を考慮しても,両意匠
の類似性を否定することはできないので,審決の認定判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 本願意匠と引用意匠の類否
(1) 本願意匠と引用意匠の共通点及び差異点
本願意匠と引用意匠の共通点及び差異点は,おおむね審決の認定した前記
第2の2記載のとおりである(ただし,以下の認定と異なる部分を除く。)。
本願意匠と引用意匠の各意匠の特徴は,以下のとおりである。
ア 本願意匠
(ア) 中央溝は,すべてが直線で構成され,全体としてジグザグ形状を示
している。その角度は,正面図における中央付近のものがおおむね14
0度である。
(イ) 副傾斜溝も,直線で構成され,中央からおおむね1対2に分けた部
分で屈曲されているため,全体として「へ」の字ないし逆「へ」の字形
状を示している。屈曲角度は,曲面で構成されるタイヤ表面を正面図や
斜視図等で示しているため正確には確認できないが,正面図上における
中央付近のものがおおむね150度である。また,先端部分は直線で切
り取られているため,細長い長方形状(棒状)のものを2つ連結した形
状を示している。
(ウ) 主傾斜溝は,直線で構成され,先端部分は直線で切り取られている
ため,細長い長方形(棒状)のもの1本が,中央溝から枝分かれしたよ
うな形状を示している。また,すべての主傾斜溝のほぼ中央に,同一方
-9 -
向に小さく突出した溝(突出溝)が設けられている。突出溝の先端は2
本の直線で切り取られ,屋根様形状を示している。
(エ) 中央溝,主傾斜溝及び副傾斜溝は,いずれも溝の中央最深部が直線
状に刻まれている。中央溝,主傾斜溝及び副傾斜溝は,直線で囲まれた
棒状形状からなり,全体は木の枝状の模様を形成している。側面図にお
いて,主傾斜溝は副傾斜溝より長く伸びて,両者が交互に等間隔で現れ,
その傾斜角度がほぼ同一であるため,平行に伸びているとの印象を与え
ている。また,側面図においても,主傾斜溝の突出溝が視認できる。
イ 引用意匠
(ア) 中央溝は,湾曲方向を交互に変化させた円弧状の細い曲線で構成さ
れている。
(イ) 副傾斜溝も,全体が細い曲線で構成されている(中央部に直線で構
成されている部分があるか否かは確認できない。)。両端部は細くすぼ
まり,最先端が尖っている。また,各副傾斜溝の先端部は,それぞれ,
互いに逆方向に湾曲していることから,「S」字を,縦方向に細長くの
ばした形状を示している。
(ウ) 主傾斜溝も,全体が細い曲線で構成されている(直線で構成されて
いる部分があるか否かは確認できない。)。先端部は,細くすぼまり,
最先端が尖っており,かつ,副傾斜溝の湾曲方向と同一の方向に湾曲し
ている。
(エ) 中央溝,主傾斜溝及び副傾斜溝は,いずれも,細い曲線で構成され
ている。また,側面図において,主傾斜溝は副傾斜溝より長く伸びて,
両者が交互に等間隔で現れているが,その傾斜角度が同一でないため,
不揃いに伸びているという印象を与える。
(2) 本願意匠と引用意匠の類否
上記認定した事実を基礎として,本願意匠と引用意匠の類否を判断する。
ア 両意匠の特徴
(ア) 本願意匠においては,①中央溝は,すべてが直線で構成され,全体
としてジグザグ形状を示していること,②副傾斜溝は,直線で構成され,
1対2に内分した部分で屈曲されているため,全体として「へ」の字な
いし逆「へ」の字状形状を示していること,その先端部分は直線で切り
取られているため,細長い長方形状(棒状)のものを連結した形状を示
していること,③主傾斜溝は,直線で構成され,先端部分は直線で切り
取られているため,細長い一本の棒状のものが,中央溝から枝分かれし
たような形状を示し,また主傾斜溝のほぼ中央に,同一方向に小さく突
出した溝が設けられていること,④中央溝,主傾斜溝及び副傾斜溝は,
いずれも溝の中央最深部が直線状に刻まれ,直線で囲まれた棒状形状か
らなり,全体は木の枝状の模様を形成していること,⑤側面視で,主傾
斜溝は,副傾斜溝より長く伸び,かつ,傾斜溝の突出溝が視認され,主
傾斜溝と副傾斜溝とは交互に等間隔で現れ,平行に伸びているとの印象
を与えている点で特徴がある。
(イ) これに対して,引用意匠においては,①中央溝は,湾曲方向を交互
に変化させた円弧状の細い曲線で構成されていること,②副傾斜溝も,
全体が細い曲線で構成されており,両端部は細くすぼまり,最先端が尖
っており,「S」字を縦方向に細長くのばした湾曲形状を呈しているこ
と,③主傾斜溝も,全体が細い曲線で構成され,先端部は,細くすぼま
り,最先端が尖っており,副傾斜溝の湾曲方向と同一の方向に湾曲して
いること,④中央溝,主傾斜溝及び副傾斜溝は,いずれも,細い曲線で
構成されていること,⑤側面視で,主傾斜溝は副傾斜溝より長く伸び,
両者が交互に等間隔で現れているが,その傾斜角度が同一でないため,
不揃いに伸びているという印象を与えている点で特徴がある。
イ 類否の判断
本願意匠は,溝のすべてが直線で構成され,主傾斜溝に突出溝が設けら
れていること,主傾斜溝における突出溝が,副傾斜溝における「へ」ない
し「逆へ」文字と対応するように配置されていること,他方,側面視にお
いて主傾斜溝と副傾斜溝とは交互に等間隔で平行に伸びていること等を総
合すると,同意匠は,全体として,「ゴツゴツ」とした,荒削りで,男性
的な印象を与えているとともに,規則的な模様であるとの美的な印象を生
じさせている。
これに対して,引用意匠は,溝のすべてが,細く柔らかい曲線で構成さ
れ,先端がすぼまり,最先端が尖っていること,他方,主傾斜溝は副傾斜
溝より長く伸びて,その傾斜角度が同一でないために,伸びる方向が不揃
いであること等を総合すると,同意匠は,全体として,柔らかく,繊細で
洗練されていて,女性的な印象と与えているとともに,不揃いで,不規則
的で,より自由な模様であるとの美的な印象を生じさせている。
(3) 上記によれば,本願意匠と引用意匠とは,前記第2の2記載のとおり,前
記中央溝,主傾斜溝及び副傾斜溝の配置ないし相互の位置関係という基本的
な構成において共通する点を有するが,具体的な中央溝,主傾斜溝及び副傾
斜溝の構成や配置において,上記のとおり,見る者に異なる美感を与えてい
るものというべきである。したがって,本願意匠は,引用意匠に類似しない。
(4) 被告は,本願意匠と引用意匠の差異点はいずれも微弱であって,両意匠に
共通する溝全体の態様に吸収されてしまう程度のわずかな差にすぎないと主
張するが,上記の説示したところに照らし,採用することができない。
2 上記によれば,本願意匠は引用意匠と類似しないから,これと異なる審決の
判断は誤りであり,審決は取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるので,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁 判 長 裁 判 官 飯 村 敏 明
裁 判 官 三 村 量 一
裁 判 官 上 田 洋 幸
(別紙)
意匠目録第1
意匠目録第2
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