平成19(行ケ)10219審決取消請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成20年3月27日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告Y 原告アルゼ株式会社
|
対象物 |
遊技用回路装置 |
法令 |
特許権
特許法150条5項3回 特許法150条1項1回 特許法29条2項1回
|
キーワード |
審決117回 無効22回 実施8回 進歩性3回 刊行物1回 特許権1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「遊技用回路装置」とする特許第3706274号の
特許(平成11年7月21日出願,平成17年8月5日設定登録。請求項の数
は4である。以下「本件特許」という )の特許権者である。。
被告は,平成18年6月30日,本件特許を無効とすることについて審判を
, 。請求し この請求は無効2006−80122号事件として特許庁に係属した
その審理の過程で 原告は 平成18年11月15日付けの無効理由通知書 以, , (
下 無効理由通知書 という により 無効理由の通知を受けたので 平成1「 」 。) , ,
8年12月20日,本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲及び発
明の詳細な説明の記載を訂正する請求をした(以下,この訂正を「本件訂正」
といい 本件訂正後の上記明細書を 図面と併せ 本件明細書 という 特, , ,「 」 。)。
許庁は 審理の結果 平成19年5月11日 訂正を認める 特許第3706, , ,「 。
274号の請求項1乃至4に係る発明についての特許を無効とする との審決。」
( 「 」 。) , , ( ,以下 審決 という をし 同月23日 その謄本を原告に送達した なお
審決には 平成18年11月14日付けで当審の職権による無効理由が通知さ,「 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
平成20年3月27日判決言渡
平成19年(行ケ)第10219号 審決取消請求事件
平成20年2月21日口頭弁論終結
判 決
原 告 ア ル ゼ 株 式 会 社
訴訟代理人弁理士 正 林 真 之
同 井 口 嘉 和
同 鈴 木 康 介
被 告 Y
訴訟代理人弁理士 北 口 智 英
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2006−80122号事件について平成19年5月11日に
した審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「遊技用回路装置」とする特許第3706274号の
特許(平成11年7月21日出願,平成17年8月5日設定登録。請求項の数
は4である。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成18年6月30日,本件特許を無効とすることについて審判を
請求し,この請求は無効2006−80122号事件として特許庁に係属した 。
その審理の過程で,原告は,平成18年11月15日付けの無効理由通知書 以
(
下「無効理由通知書 」という。 により,無効理由の通知を受けたので,平成1
)
8年12月20日,本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲及び発
明の詳細な説明の記載を訂正する請求をした(以下,この訂正を「本件訂正」
といい,本件訂正後の上記明細書を,図面と併せ, 本件明細書」という 。 。特
「 )
許庁は,審理の結果,平成19年5月11日, 訂正を認める 。特許第3706
「
274号の請求項1乃至4に係る発明についての特許を無効とする 。 との審決
」
( 以下「審決 」という 。 をし ,同月23日,その謄本を原告に送達した(なお ,
)
審決には , 平成18年11月14日付けで当審の職権による無効理由が通知さ
「
れ」 審決書1頁下から3行目∼下から2行目〕 当審で平成18年11月14
〔 ,
「
日付けで通知した無効理由」 審決書8頁13行 〕 当審の職権による平成18
〔 ,
「
年11月14日付け無効理由通知」 審決書8頁22行〕との各記載があるが ,
〔
無効理由通知書の起案日は平成18年11月15日である〔甲8〕から,審決
における上記記載中の「平成18年11月14日付け」との部分は,いずれも
「平成18年11月15日付け」の誤記と認める。 。
)
2 特許請求の範囲
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4の各記載は,次のとおりで
ある(以下 ,これらの請求項に係る発明を項番号に対応して, 本件発明1」な
「
どという 。 。
)
「 請求項1】
【
遊技機に設けられる回路基板と,該回路基板を覆うカバーとを備えた遊技用
回路装置において,前記回路基板と前記カバーとを組み合わせた際に互いに
重なる重なり部を形成すると共に,前記回路基板と前記カバーの前記重なり
部を構成する部位に各々,前記回路基板に対して前記カバーを固定するため
の複数の固定可能部を,前記回路基板と前記カバーから切断可能な切断部を
含んで一体に形成し,前記回路基板に対して前記カバーを固定するときは,
前記固定可能部で固定手段により前記回路基板の固定可能部に対して前記カ
バーの固定可能部を固定すると共に,前記回路基板から前記カバーを引き離
すときは,前記切断部にて,前記固定可能部を,前記回路基板と前記カバー
から切断することを特徴とする遊技用回路装置。
【請求項2】
請求項1記載の遊技用回路装置において,前記カバーは,前記回路基板の上
面を覆う上部カバー及び前記回路基板の下面を覆う下部カバーから成り,前
記複数の固定可能部は,前記回路基板と前記上部カバー又は前記下部カバー
との前記重なり部を構成する部位に各々一体に形成されることを特徴とする
遊技用回路装置。
【請求項3】
請求項1記載の遊技用回路装置において,前記カバーは,前記回路基板の上
面を覆う上部カバー及び前記回路基板の下面を覆う下部カバーから成り,前
記複数の固定可能部は,前記回路基板と前記上部カバー及び前記下部カバー
との前記重なり部を構成する部位に各々一体に形成されることを特徴とする
遊技用回路装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか記載の遊技用回路装置において,前記回路基板は ,
前記回路基板の固定可能部において,前記固定手段を止める複数の固着部を
形成し,前記回路基板に対して前記カバーを固定するときは,前記固着部に
対して前記固定手段を止めることによって,前記回路基板の固定可能部に対
して前記カバーの固定可能部を固定することを特徴とする遊技用回路装置。」
3 審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに ,本件発明1ないし本件発明4は ,
本件特許の出願前に頒布された刊行物である特開平11−447号公報(以下
「引用例」という。甲9 )に記載の発明(以下「引用発明」という。 及び周知
)
技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,
これらの発明についての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたもの
であり,同法123条1項2号の規定により無効とすべきである,というもの
である。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明の内容及び本件発明1と引用発
明との一致点・相違点を下記(1)ないし(3)のとおり認定した。
(1) 引用発明の内容
「遊技機に設けられる制御回路基板30と,該制御回路基板30を覆う上蓋
部材26及びベース部材25とを備えた制御回路装置17において,
上蓋部材26をベース部材25に対して閉じたときに,上蓋部材26の上
方連結部70および上方結合部71と,ベース部材25の下方連結部72お
よび下方結合部73とが重合結合する重合結合部60∼63,64∼67を
形成すると共に,
前記重合結合部60∼63,64∼67の重合結合時に,同重合結合部6
0∼63,64∼67にて挟着される金属片52を,制御回路基板30にハ
ンダ付けにより取り付け,
前記重合結合部60∼63,64∼67と金属片52は,制御回路基板3
0に対して上蓋部材26及びベース部材25を固定するものであり,
前記金属片52は輪状の先端部53と脚部54とを備え,
制御回路装置17を組立てるときは,金属片52が挟着された状態で前記
重合結合部60∼63,64∼67を重合すると共に,上方結合部71と下
方結合部73をワンウェイネジ75で締めて重合結合部60,64を結合・
固定し,
上蓋部材26を開くときは,前記上方連結部70と下方連結部72と金属
片52の脚部54をニッパ等で切断するようにした制御回路装置17 。 (審
」
決書14頁12行∼29行)
(2) 一致点
「遊技機に設けられる回路基板と,該回路基板を覆うカバーとを備えた遊技
用回路装置において,
前記回路基板と前記カバーとを組み合わせた際に互いに重なる重なり部を
形成すると共に,前記回路基板と前記カバーの前記重なり部を構成する部位
に各々,前記回路基板に対して前記カバーを固定するための複数の固定部材
を,前記回路基板と前記カバーから切断部を含んで形成し,
前記回路基板に対して前記カバーを固定するときは,前記固定部材で固定
手段により前記回路基板の固定部材に対して前記カバーの固定部材を固定す
ると共に,
前記回路基板から前記カバーを引き離すときは,前記切断部にて,前記固
定部材を ,前記回路基板と前記カバーから切断する遊技用回路装置。 である
」
点(審決書15頁13行∼24行)
(3) 相違点
Ⅰ) カバー側に設けられた固定部材と当該カバーとが ,本件発明1では,一
「
体に形成されているのに対し,引用例に記載の発明では,一体に形成され
ているのか否か不明である点」(以下「相違点Ⅰ )」という。審決書15頁
27行∼29行)
Ⅱ) 本件発明1では ,
「 回路基板側に設けられた固定部材である固定可能部が ,
該回路基板と一体に形成されているのに対し,引用例に記載の発明では,
固定部材である金属片52が,制御回路基板30にハンダ付けにより取り
付けられている点」(以下「相違点Ⅱ)」という。審決書15頁30行∼3
3行)
第3 取消事由に係る原告の主張
審決は,以下のとおり,これに至る審理手続の瑕疵(取消事由1) 引用発明
,
の認定を誤った結果,本件発明1と引用発明との一致点・相違点の認定を誤っ
た違法(取消事由2) 周知技術の認定を誤り ,本件発明1の顕著な効果を看過
,
した結果 ,本件発明1と引用発明との相違点の判断を誤った違法 取消事由3 )
( ,
本件発明2及び3についての認定判断を誤った違法 取消事由4) 本件発明4
( ,
についての認定判断を誤った違法(取消事由5)があるから,取り消されるべ
きである。
1 取消事由1(審理手続の瑕疵)
審決に至る審理手続には,以下のとおり,瑕疵があり,この瑕疵は審決の結
論に影響を及ぼすものである。
審決は,特開平4−83391号公報(甲12 ) 特開平8−316607号
,
公報(甲13),特開平8−18197号公報(甲14)を引用して ,「複数の
部品で構成される部材を一体に形成すること」なるものを認定したが,これら
の技術はいずれも顕著な事実(特許法151条により準用される民事訴訟法1
79条)ではないから,審判官が職権証拠調べ(特許法150条1項)を行っ
たことは明らかである。すなわち,無効理由通知書(甲8)では,周知技術に
関する文献は示されておらず,審決において,初めて甲12ないし14が示さ
れたのは,審決時までに審判官が職権証拠調べをし,その内容を知ったからに
ほかならない。
したがって,甲12ないし14について原告に意見陳述の機会(特許法15
0条5項)が付与されるべきところ,かかる機会が原告に与えられなかった点
において,審決に至る審理手続に瑕疵がある。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明との一致点・相違点の認定の誤り)
審決は,以下のとおり,本件発明1と引用発明との対比を誤った結果,一致
点及び相違点Ⅱ)の各認定を誤った違法がある。
(1) 本件発明1と引用発明との対比の誤り
以下のとおり,本件発明1の「固定可能部 」 「重なり部」及び「切断部」
,
に相当する構成は,引用例には記載されていない。
ア 「固定可能部」
審決は,引用発明の「重合結合部60∼63,64∼67」及び制御回
路基板30にハンダ付けされた「金属片52」が,上蓋部材26及びベー
ス部材25を固定するものであり,本件発明1の「固定可能部」に相当す
る旨認定した。しかし,以下のとおり,審決の上記認定は誤りである。
(ア) 本件発明1の「固定可能部」
本件明細書の図3,4,9及び10に示されるとおり,本件発明1の
「固定可能部」は,回路基板に対してカバーを固定するための複数の固
定可能部が,回路基板とカバーの重なり部分に,回路基板とカバーから
切断可能な切断部を含んで一体に形成されているものである。
(イ) 引用発明の「重合結合部60∼63」
引用例には,引用発明の下方結合部73及び下方連結部72の上面部
に,金属片52を介在させて,重合結合部60∼63が形成されること
を示す記載はない。引用例の記載(段落【0036 】 【0044】 【0
, ,
045】【0054 】【0055 】【0056】 図4 ,図5 )に示され
, , , ,
るとおり,引用発明の重合結合部60∼63において,金属片52は,
制御回路基板30 ,上蓋部材26及びベース部材25を固定していない 。
重合結合部60∼63は,対応する金属片52が設けられておらず(図
4及び5 ),金属片52を介在させことなく形成される(段落【004
5】 。このことは,引用例に,重合結合部64∼67が金属片52の周
)
囲を覆っている旨の記載があるにもかかわらず(段落【0055 】 【0
,
056】 ,重合結合部60∼63についてはその旨の記載がないことか
)
らも明らかである。
また,引用例には,重合結合部60∼63が,制御回路基板30に対
して上蓋部材26及びベース部材25を固定するとの記載もない。
このように,引用発明における金属片52を介在しない「重合結合部
60∼63」が,本件発明1における「回路基板とカバーの重なり部位
に各々,前記回路基板に対して前記カバーを固定するための複数の固定
可能部」に相当するということはできない。
(ウ) 引用発明の「重合結合部64∼67 」 「金属片52」
,
引用例の記載( 段落 【0036】 【0051】 【 0067 】 【 010
, , ,
7】【0112 】【0118 】【0119 】【0123 】 図9 )に示さ
, , , , ,
れるとおり,引用発明の金属片52は,ベース部材25に収容された制
御回路基板30とは別の部材であり,回路を構成する配線部材ではある
が,回路基板とはいえない。そして,金属片52は,制御回路基板30
を支えるための十分な強度を持ち得ず,制御回路基板30と,上蓋部材
26及びベース部材25とを物理的に固定するものではない。また,金
属片52は,上蓋部材26及びベース部材25の一箇所でしか重ならず
(段落【0056 】 ,上蓋部材26,ベース部材25及び制御回路基板
)
30を固定するには安定性が悪い。引用例には,金属片52が制御回路
基板30を支えることができる旨の記載はなく,金属片の材質も具体的
に記載されていない。
引用発明では,金属片52は制御回路基板30をベース部材に固定で
きるものではないから,止着用ボス36なしに回路基板とカバーとを固
定することはできないところ(段落【0051】 ,本件発明1では,引
)
用発明の止着用ボス36に相当する部材がなくても,固定可能部によっ
てカバーと回路基板とを固定することが可能であり,引用発明の止着用
ボス36に相当する部材があれば,カバーと回路基板との固定の補強に
なる。
このように,引用発明における「重合結合部64∼67」 「金属片5
,
2」は,制御回路基板30,上蓋部材26及びベース部材25を固定す
るものではなく,本件発明1における回路基板とカバーを固定する「固
定可能部」ないし「固定部」に相当するということはできない。
イ 「重なり部」
審決は,引用発明の「金属片52」が,重合結合時に,同重合結合部6
0∼63,64∼67に金属片52が狭着されることで,金属片52と重
合結合部60∼63 ,64∼67が重なるから ,本件発明1の 重なり部 」
「
に相当する旨認定した。しかし,以下のとおり,審決の上記認定は誤りで
ある。
(ア) 本件発明1の「重なり部」
本件発明1における重なり部は「前記回路基板と前記カバーとを組み
合わせた際に互いに重なる」というものである。遊技機の認定及び型式
の検定等に関する規則(甲37∼49参照)によれば,遊技機の回路基
板では, 板面に印刷された配線以外の配線が行われているものでないこ
「
と」が求められている。
(イ) 引用発明の「重合結合部60∼63」
前記アにおいて主張したとおり ,引用発明の重合結合部60∼63は ,
そもそも金属片52とは重なっていない。
(ウ) 引用発明の「重合結合部64∼67 」 「金属片52」
,
引用発明の金属片52は,上蓋部材26とベース部材25に重なって
いるかもしれないが,引用例の記載(段落【0036】 図6 )に示され
,
るとおり ,電気配線部材であって , 板面に印刷された配線以外の配線が
「
行われているものでないこと」が求められる遊技機の回路基板には該当
しないから,本件発明1における 重なり部 」
「 に相当するとはいえない 。
また,本件発明1の「回路基板」は,固定可能部が切断されると回路
基板に痕跡が残るが,仮に,引用発明の金属片52を切断しても,回路
基板に痕跡は残らないし,新たに金属片をハンダ付けすれば,金属片自
体の痕跡もなくなるのであり,引用発明の金属片52は,本件発明1の
「回路基板」とそもそも構成が異なるし,作用も異なる。
このように,引用発明の金属片52は,本件発明1における「回路基
板」に相当しない。したがって,引用発明の重合結合部64∼67,及
び金属片52は,「回路基板とカバーとを組み合わせた際に互いに重な
る」本件発明1における 重なり部 」
「 に相当するということはできない 。
ウ 「切断部」
審決は,引用発明の「上方連結部70」「 下方連結部72」「 金属片5
, ,(
2の)脚部54」が,切断可能に形成された部材であるから,本件発明1
における「切断部」に相当する旨認定した。
しかし,前記イのとおり ,引用発明は, 重なり部 」に相当する構成を備
「
えていないから , 切断部」
「 に相当する構成も備えていないというべきであ
って,審決の上記認定は誤りである。
(2) 一致点の認定の誤り
前記(1)のとおり,引用発明は,本件発明1の「固定可能部」「重なり部 」
, ,
「切断部」に相当する構成を備えていないから,本件発明1と引用発明との
一致点は , 遊技機に設けられる回路基板と,
「 該回路基板を覆うカバーとを備
えた遊技用回路装置」である点にとどまるというべきであり,審決における
一致点の認定には誤りがある。
(3) 相違点Ⅱ)の認定の誤り
審決は,相違点Ⅱ)において,引用発明の「固定部材である金属片52」
としているが ,前記(1)アのとおり ,引用発明の「金属片52」は,電気配線
部材であって,制御回路基板30と上蓋部材26とベース部材25とを固定
する「固定部材」ではない。したがって,審決における相違点Ⅱ)の認定に
は誤りがある。
3 取消事由3(本件発明1と引用発明との相違点の判断の誤り)
審決は,以下のとおり,周知技術の認定を誤り,本件発明1の顕著な効果を
看過した結果,本件発明1と引用発明との相違点の判断を誤った違法がある。
(1) 周知技術の認定の誤り
審決は,甲12ないし14を引用して , 回路基板の分野において,回路基
「
板に設けられる回路パターン形状の導体回路部と,回路基板から突出する導
体部とを,単一の金属板から打ち抜いて形成し,前記打ち抜いて形成した導
体部材を回路基板と一体に形成することは,本件出願前周知・慣用の技術事
項」(審決書16頁21行∼24行)にすぎないと認定した。
しかし,以下のとおり,審決の上記認定は誤りである。
ア 技術分野
(ア) 甲12ないし14は,リードフレームや導電薄板を回路と一体に成
形するモールド成形基板の技術分野に関するものである。これに対し,
本件発明1の技術分野である遊技機の回路基板は ,前記2(1)イ(ア)のと
おり ,遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則によって , 板面に印
「
刷された配線以外の配線が行われているものでないこと」が定められて
いるため,プリント基板である。したがって,甲12ないし14は,回
路基板を用いた遊技機の技術とは無関係であり,本件発明1の回路基板
から切断可能な切断部を含んで回路基板と一体に固定可能部を形成する
技術とは異なるものである。
(イ) 前記2(1)アのとおり ,引用発明の 金属片52」
「 は本件発明1の 固
「
定部」に該当しないから,仮に甲12ないし14に記載された技術が,
導電薄板やリードフレーム(これらは,本件発明1の「固定部」に該当
しない。 を回路基板と一体成形できる技術であるとしても,
) 回路基板と
固定部を一体形成する技術ではないから,本件発明1の回路基板から切
断可能な切断部を含んで回路基板と一体に形成される固定可能部を形成
する技術とは異なる。
イ 目的
甲12ないし14は,遊技機用回路装置の不正防止を目的とする本件発
明1とは異なり,回路の小型化やコスト削減を目的とする技術に関するも
のにすぎない。
(2) 相違点Ⅱ)の判断の誤り
前記(1)のとおり,甲12ないし14に記載された技術は,本件発明1とは ,
技術分野及び目的を異にするから,これらの技術を適用することは,容易と
はいえない。
審決は,前記2のとおり,一致点・相違点の認定に誤りがあることに加え ,
相違点の認定に際しては,引用発明の「金属片52」を「固定部材」に相当
するとしたにもかかわらず,相違点の判断に際しては,これを導体部材とと
らえていることから明らかなように,異なった技術分野の技術を適用するこ
とが容易に想到し得ると誤って判断したものである。
引用例及び甲12ないし14には,少なくとも本件発明1の「前記回路基
板と前記カバーとを組み合わせた際に互いに重なる重なり部を形成するとと
もに……前記切断部にて,前記固定可能部を,前記カバーから切断する」と
の構成は記載も示唆もされていないから,相違点Ⅱ)に係る本件発明1の構
成に容易に想到することができるとはいえない。
(3) 顕著な効果の看過
本件発明1は,以下のとおり,当業者が引用発明の構成から予想し得る範
囲を超えた格別に顕著な作用効果を奏するものであり,進歩性が認められる
べきところ,審決はこれを看過した。
ア 不正行為の防止
引用発明では,不正行為を行う場合,仮に金属片52に痕跡が残ったと
しても,不正ROMを交換し ,新たな金属片をハンダ付けするだけですむ 。
これに対し,本件発明1では,不正行為を行う場合,不正ROMを含む回
路基板も変更する必要が出てくる。不正ROMを組み込んだ回路基板を作
成することは,不正ROMのみを作成するよりも費用がかかり,また,回
路基板を交換することは,不正ROMと金属片52を交換することよりも
大変であるから,本件発明1は,不正行為を防止できるという顕著な効果
を奏する。
イ 製造コストの低下
引用発明は,止着用ボス36など固定するための固定部材が別途必要で
ある。これに対し,本件発明1は,止着用ボス36に相当する固定部材が
必要とされず,製造コストを低下するという顕著な効果を奏する。
4 取消事由4(本件発明2及び3についての認定判断の誤り)
審決は,以下のとおり,本件発明2及び3についての認定判断を誤った違法
がある。
(1) 本件発明1と同様の誤り
請求項2及び3はいずれも請求項1を引用するものであるから,本件発明
2及び3についての審決の認定判断には,本件発明1と同様の誤りがある。
(2) 本件発明2の容易想到性判断の誤り
ア 本件明細書の記載(段落【0023 】【0025 】 図4 )に示されると
, ,
おり,本件発明2は,本件発明1の「回路基板とカバーから切断可能な切
断部を含んで一体に形成し」という構成により「固定する」ところ(本来
強化されるべきところ)に,切断可能な弱い部分(例えば,ミシン目49 ,
ミシン目68)をあえて設ける一方,必要がないときに切断されないよう ,
「回路基板とカバーとを組み合わせた際に互いに重なる重なり部を形成す
る」こととしたものである。
そして,本件発明2は, 複数の固定可能部は ,前記回路基板と前記上部
「
カバー又は前記下部カバーとの前記重なり部を構成する部位に各々一体に
形成される」という構成により,回路基板と重なり部を構成するカバーを
使用することによって剛性を担保しつつ,切断可能部を備えないカバーを
使用することができるため,切断可能部を備えないほうのカバーでは,切
断可能部を設ける必要がなく,金型の設計などを簡略化でき,製造コスト
を低下することができる。
イ 一方,引用例には,回路基板を伸ばしてさらにそこに切断部を設けると
いう発想もなく,当然のことながらそれに相当する構成も引用例には存在
しない。このように,引用例には, 固定する 」ところにあえて切断可能な
「
弱い部分を作るという発想もなく,当然のことながらそれに相当する構成
も引用例には存在しない。
ウ したがって,本件発明2は,引用発明及び周知技術事項に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたとした審決の判断は,誤りである。
(3) 本件発明3の容易想到性判断の誤り
ア 本件発明3は,本件発明1に「回路基板と前記上部カバー及び前記下部
カバーとの前記重なり部を構成する部位に各々一体に形成される」複数の
固定可能部という新たな構成を付加するものであり ,本件明細書の記載 段
(
落【0037 】【0028 】【0039】【0040 】 図10)に示され
, , , ,
るとおり,上部カバー及び下部カバーによって回路基板(例えば,遊技制
御基板92)を挟み込む構成であるため,本件発明1の不正行為の防止と
いう効果に加えて,回路基板の切断部の剛性を強化するという効果を奏す
るものである。
イ これに対して,引用発明では,上蓋部材26及び,ベース部材25によ
って,金属片52が挟み込まれるという構成を備えているため,本件発明
1の効果を奏することができないだけでなく,本件発明3の回路基板自体
の剛性を強化するという効果を奏することができない。
引用発明は,制御回路基板30自体を伸ばすという技術的思想を有して
いない上,完成した回路基板である制御回路基板30自体に切断部を設け
るという技術的思想を有していないし,上蓋部材26と,ベース部材25
に切断部を設けるという技術的思想を有していない。
ウ したがって,本件発明3は,引用発明及び周知技術事項に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたとした審決の判断は,誤りである。
5 取消事由5(本件発明4についての認定判断の誤り)
審決は,以下のとおり,本件発明4についての認定判断を誤った違法がある 。
(1) 本件発明1と同様の誤り
請求項4は請求項1を引用するものであるから,本件発明4についての審
決の認定判断には,本件発明1と同様の誤りがある。
(2) 相違点Ⅲ)の判断の誤り
審決は,本件発明4と引用発明とを対比して,相違点Ⅰ)及びⅡ)に加え ,
本件発明4では,回路基板側に設けられた固定部材である固定可能部に,固
定手段を止める固着部を形成しているのに対し,引用発明では,そのような
部材を備えていない点(以下「相違点Ⅲ)」という 。)で相違すると認定した
上,引用発明における金属片52の先端部53に,前記ネジ止め用ボスを設
けて,上蓋部材26と制御回路基板30を固定することは,当業者であれば
容易に想到し得たと判断した。
しかし,以下のとおり,審決の上記判断は誤りである。
ア 本件明細書の記載 ( 段落【 0004 】 【 0048 】 【 0049 】 【00
, , ,
50 】【0051 】 図14)によれば ,本件発明4は,本件発明1の効果
, ,
に加え,カバーに切断の痕跡を残さないように固定手段の部分で切断して
も,固着部と固定手段との係合具合が容易に認識でき,不正行為の痕跡が
容易にわかるため,不正行為を防止できるという効果を奏する。
イ これに対し,引用発明では,金属片52に固着部に相当する構成を備え
ておらず,ネジ頭と胴体部との間の位置を切断すると,ネジが金属片52
と係合していないためネジが金属片52に残らず,不正の痕跡が容易にわ
からない。
また,引用発明の金属片52は,電気的な配線部材にすぎないから,本
件発明4を想到するために,電気的な配線部材である金属片52と,上蓋
部材26とを固定するために板同士を固定する技術を用いることはできな
いし,仮に,板同士を固定する技術を用いたとしても,本件発明4の構成
を導くことはできない。
さらに,仮に,金属片52が回路基板に相当するとしても,金属片52
の先端に固着部を設けるという技術的思想は,審決が引用した特開平9−
276481号公報(甲15)及び特開平9−220333号公報(甲1
6)には記載されていない。
第4 取消事由に係る被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(審理手続の瑕疵)について
無効理由通知書(甲8)において , 一般に,複数の部品で構成される部材を
「
一体的に成形することは,種々の技術分野でごく普通に行われている周知・慣
用の技術事項である 」 1頁下から10行目∼下から9行目)
( との指摘がされた
ところ,原告は,本件訂正を請求し(甲6 ) 平成18年12月20日付け意見
,
書(乙1)で意見陳述をしたが,上記「周知・慣用の技術事項」それ自体につ
いては何ら争っていない。
原告は,審決が,甲12ないし14の職権証拠調べに基づいて , 複数の部品
「
で構成される部材を一体に成形すること 」を認定したと論難するが ,審決は, 本
「
件出願前周知・慣用の技術事項」である「複数の部品で構成される部材を一体
に成形すること」の例示として,甲12ないし14を示したにすぎず,これら
の例示がなくても,審決の説示は十分理解可能である。
このように,審決に至る審理手続において,原告は,周知・慣用の技術事項
について,意見陳述の機会を与えられていたにもかかわらず,あえてこれをし
なかったものであり,また,審決は,当該周知・慣用の技術事項について,新
たな認定を付加したものでない。
したがって,審決に至る審理手続に特許法150条5項違反の瑕疵があると
の原告主張は失当である。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明との一致点・相違点の認定の誤り)につ
いて
(1) 本件発明1と引用発明との対比の誤りについて
原告は,本件発明1の「固定可能部 」 「重なり部」及び「切断部」に相当
,
する構成が引用例に記載されていないと主張するが,以下のとおり,失当で
ある。
ア 「固定可能部」について
(ア) 引用発明の「重合結合部60∼63」について
引用例の図8及び9の記載から,引用発明の上方結合部71と下方結
合部73との間に金属片52が互いに重なった状態で位置していること
は明らかである。引用例の段落【0045】の記載は,溝82を設けな
い状態で(金属片52を)直接サンドイッチするように設けることも可
能であると解釈すべきである。なお,仮に原告主張の解釈が可能である
としても,それは単なる一実施例に関するものにすぎないから,引用例
の図8及び9から読み取れる事項に影響を及ぼすものではない。
(イ) 引用発明の「重合結合部64∼67 」 「金属片52」について
,
引用例の図5及び9から,金属片52が制御回路基板30と連結して
いることは明らかであり,このことは,金属片52が制御回路基板30
を構成するということにほかならない。
原告は ,引用発明の「金属片52」は,電気配線部材であって , 固定
「
部材」ではないと主張するが,金属片52が配線部材であるからといっ
て,十分な強度がないとはいえないし,安定性が悪いとする根拠もない 。
仮に,金属片52の安定性が悪いとしても,その材質次第で固定するこ
とは可能である。また,そもそも,本件発明1において,固定可能部が
「制御回路基板30を支えるための十分な強度」を有することは,請求
項1には規定されていない。なお,引用例記載の一実施例において,止
着用ボス36によって制御回路基板30が固定されているからといっ
て,金属片52が制御回路基板30を固定できないということはできな
い。
イ 「重なり部」について
引用例の図8及び9から,引用発明の上方結合部71と下方結合部7
3との間に金属片52が互いに重なった状態で位置していることは明ら
かである。金属片52は,ハンダ付けされる結果,一体となって回路を
形成するのであり,制御回路基板30の一部を構成することになる。そ
して,金属片52が上蓋部材26とベース部材25に重なっていること
は,原告も自認している。
原告は,引用発明の金属片52を切断しても,回路基板に痕跡は残ら
ないし,新たに金属片をハンダ付けすれば,金属片自体の痕跡もなくな
ると主張するが,引用発明の金属片52は回路基板を構成するのである
から,これを切断すれば,回路基板の一部としての金属片52に切断痕
は残るものであり,新たに金属片をハンダ付けしたとしても,新たにハ
ンダ付けした痕跡は残るから,原告の主張は失当である。
なお,原告は,遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則を根拠と
する主張をしているが,同規則の定める要件は本件明細書に記載がなく ,
また ,同規則において, 板面に印刷された配線以外の配線が行われてい
「
るものでないこと」は,平成16年1月30日の改正で初めて規定され
たものであるから(甲37∼46 ),原告の主張は失当である。
ウ 「切断部」について
原告は,引用発明は,本件発明1の「重なり部」に相当する構成を備え
ていないから,「切断部」に相当する構成も備えていないと主張する。
しかし,引用発明が「重なり部」に相当する構成を備えていることは,
前記イのとおりであるから,原告の上記主張は失当である。
(2) 一致点の認定の誤り,相違点Ⅱ)の認定の誤りについて
原告の主張は,前記(1)のとおり ,その前提を欠くものであり ,失当である 。
3 取消事由3(本件発明1と引用発明との相違点の判断の誤り)について
(1) 周知技術の認定の誤り及び相違点Ⅱ)の判断の誤りについて
ア 審決は,甲12ないし甲14を,無効理由通知書(甲8)が指摘した周
知・慣用の技術事項の例として示したにすぎない。これらを示すまでもな
く, 一般に,複数の部品で構成される部材を一体に形成することは ,本件
「
出願前に種々の技術分野でごく普通に行われている周知・慣用の技術事項
であり」(審決書16頁19行∼20行),このこと自体は原告も争ってい
ない。
イ 原告は,甲12ないし甲14に示される技術と本件発明1との技術分野
や目的の相違を指摘するものの,審決が容易に想到し得たと判断した「引
用例に記載の発明に上記周知・慣用の技術事項を適用し,制御回路基板3
0に金属片52をハンダ付けして取り付けるのに代えて,制御回路基板3
0に設けられる導体回路部と,同制御回路基板30から突設される金属片
52とを,単一の金属板から打ち抜いて形成し,同打ち抜いて形成した導
体部材と制御回路基板30とを一体に形成すること 」 審決書16頁27行
(
∼31行)という構成自体については,何ら主張していない。進歩性の判
断に際しては,構成の対比が重要であり,これをさしおいて技術分野や目
的の相違のみを議論することに意味はない。
(2) 顕著な効果の看過について
発明の進歩性は,発明の構成により論じられるものであって,構成上の差
違があって初めて作用効果の有無を論じる意味があるところ,前記2及び前
記(1)のとおり ,本件発明1の構成に係る原告の主張は ,いずれも理由がない 。
また,不正行為が行われた場合,引用発明の回路基板の一部である「金属
片52」に切断痕は残るものであり,新たにハンダ付けしても,その痕跡は
残るのであるから,痕跡が残るという点において,本件発明1と何ら異なる
ものではない。
4 取消事由4(本件発明2及び3についての認定判断の誤り)について
(1) 本件発明1と同様の誤りについて
本件発明1についての審決の認定判断に誤りがないことは,前記2及び3
のとおりである。
(2) 本件発明2及び3の容易想到性判断の誤りについて
本件発明2及び3は ,本件発明1における「カバー」を, 回路基板の上面
「
を覆う上部カバー」と「回路基板の下面を覆う下部カバー」に特定するもの
であるから,これらの発明の容易想到性の判断に際し考慮すべき作用効果は ,
「回路基板の上面を覆う上部カバー」あるいは「回路基板の下面を覆う下部
カバー」の存在に起因するものでなければならないはずである。原告の主張
は,上記の点に関するものではなく,理由がない。
5 取消事由5(本件発明4についての認定判断の誤り)について
(1) 本件発明1と同様の誤りについて
本件発明1についての審決の認定判断に誤りがないことは,前記2及び3
のとおりである。
(2) 相違点Ⅲ)の判断の誤りについて
原告は,引用発明の金属片52が電気的な配線部材にすぎないことを指摘
するが,電気的配線部材であることが,回路基板を構成しない理由とはなら
ないから,原告の上記指摘は理由がない。
原告は,仮に金属片52が回路基板に相当するとしても,金属片52の先
端に固着部を設けるという技術的思想は,審決が引用した甲15及び16に
は記載されていないと主張するが ,審決は, ネジで固定される部材側にネジ
「
止めボスを設けること」が周知・慣用技術であると認定した上,これを踏ま
えて,当業者であれば容易に想到し得たものと認められると判断したのであ
るから,原告の上記主張は理由がない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(審理手続の瑕疵)について
原告は,審決に至る審理手続には,甲12ないし14について原告に意見陳
述の機会(特許法150条5項)が与えられなかった点で,特許法150条5
項違反の瑕疵がある旨主張する。しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失
当である。
(1) 事実認定
ア 無効理由通知書の記載
無効理由通知書(甲8 )には , 一般に,複数の部品で構成される部材を
「
一体的に成形することは,種々の技術分野でごく普通に行われている周知
・慣用の技術事項であることから,引用例記載の発明における制御回路基
板と金属片(本願発明の『固定可能部』に相当)とを一体的に形成するこ
とは,当業者であれば容易に想到し得たものと認められる 。 (1頁下から
」
10行目∼下から6行目)との記載がある。
上記記載によれば ,無効理由通知書は, 一般に,複数の部品で構成され
「
る部材を一体的に形成すること」が本件特許の出願前に種々の技術分野で
ごく普通に行われている周知・慣用の技術事項であること,当該技術事項
を引用発明に適用することが容易であることを,それぞれ指摘したものと
認められ,上記指摘は, 複数の部品で構成される部材を一体的に形成する
「
こと 」との技術事項が,本件発明1及び引用発明に係る 遊技用回路装置 」
「
の分野においても妥当することを前提としているものと解される。
イ 意見書の記載
無効理由通知書を受けて,原告が特許庁に提出した平成18年12月2
日付け意見書(乙1)には ,「審判官殿は,『一般に,複数の部分で構成さ
れる部材を一体的に成形することは,種々の技術分野でごく普通に行われ
ている周知・慣用の技術事項である』と指摘されていますが,本件特許発
明1が属する遊技機に対する不正行為防止の分野においては,ご指摘には
同意できかねます。そもそも,本件特許発明1は, 不正行為がされた場合 ,
『
その事実が回路基板自体に痕跡として残るようにした遊技用回路装置を提
供する』(本件発明の段落【0008 】)ことを目的とするものです。この
不正行為を防止するという観点からですと,引用文献のようにハンダ付け
するよりは,本件特許発明1のように一体成形するほうが,不正行為を防
止することが可能になります。もしも,ハンダ付けの場合ですと,一度取
り外して不正行為を行ったとしても,再びハンダ付けを行い新たな固定部
を取り付ければ不正行為を隠すことが容易にできます。これに対して,本
件特許発明1のように一体成形であれば,このような不正行為を行う虞が
ありません。ハンダ付けと一体成形とではどちらの技術が不正行為に対し
てより効果的であるかは明確であると思慮いたします。このように,本件
特許発明1は,引用文献の発明よりも格別にすぐれた効果を奏します 。 と
」
の記載がある。
上記記載によれば ,原告は, 一般に,複数の部品で構成される部材を一
「
体的に形成すること」が,本件特許の出願前に種々の技術分野でごく普通
に行われている周知・慣用の技術事項であるとの無効理由通知書の指摘に
対し , 遊技機に対する不正行為防止の分野 」については,当該指摘は妥当
「
しない旨の意見陳述をしたことが認められる。
ウ 審決の説示
審決は, 一般に,
「 複数の部品で構成される部材を一体に形成することは ,
本件出願前に種々の技術分野でごく普通に行われている周知・慣用の技術
事項であり,また,回路基板の分野において,回路基板に設けられる回路
パターン形状の導体回路部と,回路基板から突出する導体部とを,単一の
金属板から打ち抜いて形成し,前記打ち抜いて形成した導体部材を回路基
板と一体に形成することは,本件出願前周知・慣用の技術事項(例えば,
特開平4−83391号公報〔判決注 ,甲12〕 特開平8−316607
,
号公報 判決注,
〔 甲13 〕 特開平8−18197号公報 判決注,
, 〔 甲14〕
等参照)にすぎない 。 (審決書16頁19行∼26行)と説示している。
」
上記説示によれば,審決は,無効理由通知書(甲8)と同様に,本件特
許の出願前に「種々の技術分野」でごく普通に行われている周知・慣用の
技術事項として , 一般に,
「 複数の部品で構成される部材を一体に形成する
こと 」を認定した上,さらに, 回路基板の分野 」における周知・慣用の技
「
術事項として, 回路基板に設けられる回路パターン形状の導体回路部と,
「
回路基板から突出する導体部とを,単一の金属板から打ち抜いて形成し,
前記打ち抜いて形成した導体部材を回路基板と一体に形成すること」を認
定し,その例として甲12ないし14を示したものということができる。
(2) 判断
前記(1)ア及びウによれば,審決は,無効理由通知書(甲8 )における「一
般に,複数の部品で構成される部材を一体的に成形すること」が「種々の技
術分野」における周知・慣用の技術事項であるとの指摘を敷衍し,当該周知
・慣用の技術事項の「回路基板の分野」における例として,甲12ないし1
4を例示し, 回路基板に設けられる回路パターン形状の導体回路部と ,
「 回路
基板から突出する導体部とを,単一の金属板から打ち抜いて形成し,前記打
ち抜いて形成した導体部材を回路基板と一体に形成すること」が「回路基板
の分野」における周知・慣用の技術事項であることを指摘したにすぎず,原
告が主張するように,甲12ないし14を職権により証拠調べした結果とし
て, 複数の部品で構成される部材を一体に形成すること」
「 を公知技術と認定
したものではない。原告の主張は,審決を正解せずにこれを論難するものに
すぎず,採用することができない。
なお,前記(1)ア及びイによれば,原告は,「一般に,複数の部品で構成さ
れる部材を一体に形成すること」が「種々の技術分野」における周知・慣用
の技術事項であるとの審判官の指摘に対し,意見陳述の機会があったことは
明らかであり ,現に , 遊技機に対する不正行為防止の分野」については,当
「
該指摘は妥当しない旨の意見陳述をしたことが認められるから,この点にお
いても,原告の主張は失当である。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明との一致点・相違点の認定の誤り)につ
いて
(1) 本件発明1と引用発明との対比の誤りについて
ア 「固定可能部」について
(ア) 引用発明の「重合結合部60∼63」について
原告は,引用発明における金属片52を介在しない「重合結合部60
∼63」が,本件発明1における「回路基板とカバーの重なり部位に各
々,前記回路基板に対して前記カバーを固定するための複数の固定可能
部」に相当するということはできないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張に係る審決の誤りは,審決の
結論に影響しないから,審決を取り消すべき理由とならない。
a 引用例(甲9)には,図面と共に次の各記載がある。
「 0001 】
【 【発明の属する技術分野】この発明は,遊技機の制御
回路装置に関する。」
「 0013 】そこで ,本発明の目的は ,制御回路基板を収容した基
【
板ボックスすなわち制御回路装置の不正な開放を防止可能とし,検査
や修理の際の開放を可能とした上で,封印部分が不正に開,封された
場合に早期発見を可能とし,不正行為による被害を防止可能な遊技機
の制御回路装置を提供することにある。
【0014 】 課題を解決するための手段 】第1の発明は ,遊技機に
【
設けられる電気的作動装置の制御を行うためにROM等の電子部品を
実装した制御回路基板と,該制御回路基板を収容する基板ボックスと ,
からなる遊技機の制御回路装置において,前記基板ボックスを構成す
る上蓋部材とベース部材とには,当該基板ボックスを閉じた状態にお
いて対向状態となる対向部を形成し,前記対向部の所定部位には,前
記上蓋部材とベース部材とから各々突出して重合する重合結合部を複
数形成して,このうちのいずれか一つの重合結合部に対し締結部材に
より固着せしめて開放不能に封印する不正開放防止結合手段を設けて
おり,前記制御回路基板の所定電子部品への検査時等に基板ボックス
を開放する際には,締結部材により固着されている重合結合部を切除
すると共に,基板ボックスを閉止する際には,切除されていない重合
結合部に対し締結部材を固着可能に形成しており,前記各重合結合部
の状態を電気的に検出するための重合結合部状態検出部を設ける 。」
「 0021 】
【 【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態を図
面に基づいて説明する 。」
「 0027 】図4は制御回路装置17の正面図で ,図5は分解斜視
【
図であり,25は基板ボックス24のベース部材,26は同じく基板
ボックス24の上蓋部材,27は下部保護板,28は上部保護板,3
0は制御回路装置17の制御回路基板,101は制御回路基板30に
実装された電子部品のうちのROM,32は制御回路基板30の一側
部に形成された配線コード群の接続領域33に設けられたコネクタ部
である 。」
「 0030 】
【 ベース部材25の底部34の2つの隅および周壁35
a,35cに沿う所定の位置には,下部保護板27,制御回路基板3
0,上部保護板28をネジ止めする止着用ボス36が形成される。制
御回路基板30の配線コード群の接続領域33側の周壁35dには,
その接続領域33の基板端部の受け(図示しない)が設けられ,底部
34の中央付近には,制御回路基板30のROM101に対応する位
置に,ROM101の着脱時に制御回路基板30が曲がったりしない
ように,支えボス37が設けられる。」
「 0036 】制御回路基板30の一辺部(ベース部材25の周壁3
【
5cおよび上蓋部材26の周壁38cに対応する側)には,後述する
重合結合部64∼67に対応する位置に,それぞれ重合結合部64∼
67の状態を検出するための検出回路(第1∼第4検出回路)46∼
49の金属片52が突設される。それぞれ金属片52は,輪状の先端
部53と脚部54とを備え,脚部54の基部が制御回路基板30に設
けられた検出回路46∼49にハンダ付けされる 。」
「 0040 】
【 この基板ボックス24の上蓋部材26をベース部材2
5に対して閉じたときに対向する周壁のうち,制御回路基板30の配
線コード群の接続領域33側の周壁38d,35dおよび蝶着部40
側の周壁38a,35aを除く周壁38b,35b,38c,35c
の所定の位置に,即ち上蓋部材26側から見て複数ある辺部のうち,
配線コード群の接続領域33側および蝶着部40側にない二つの辺部
の所定の位置に,それぞれ不正開放防止結合手段を構成する複数の重
合結合部60∼63,64∼67が形成される。
【0041】重合結合部60∼63,64∼67は,それぞれ図8
のように上蓋部材26の周壁38b,38cから突出させた連結部 上
(
方連結部)70の先端に上方結合部71が,ベース部材25の周壁3
5b,35cから突出させた連結部(下方連結部)72の先端に下方
結合部73が形成される。
【0042】上方結合部71には,中央に所定径の通し穴74が,
通し穴74の上部にワンウェイネジ75等(締結部材)の頭部を囲う
埋め込み穴76が,下部に通し穴74の回りに段状の係合突部77が
設けられる。下方結合部73には,上部に上方結合部71の係合突部
77が嵌まる係合受部78が,その中央に上方結合部71の通し穴7
4につながる通し穴74とほぼ同径の所定深さの穴79が形成され
る。下方結合部73および下方連結部72の上面部には,前記制御回
路基板30の金属片52が,この場合下方結合部73の上面部に金属
片52の先端部53が,下方連結部72の上面部に金属片52の脚部
54が嵌まるように,周囲に設けた覆い壁81によって囲われる溝8
2が形成される。上方連結部70,下方連結部72は,それぞれニッ
パ等で切断可能に形成されており,切断される際には,金属片52の
脚部54も同時に切断される。」
「 0045 】なお ,重合結合部60∼63の下方結合部73および
【
下方連結部72の上面部には,溝82を形成せずとも良い 。」
「 0050 】次に ,この制御回路装置17の組立ておよび遊技機へ
【
の組付けについて説明する。
【0051】基板ボックス24のベース部材25の底部34に下部
保護板27,制御回路基板30,上部保護板28を重ね,ネジにより
止着用ボス36にネジ止めする。制御回路基板30より突出されてい
る検出回路46∼49の金属片52は,それぞれ対応する重合結合部
64∼67の下方結合部73および下方連結部72の上面部に形成さ
れた溝82に嵌まる。」
「 0054 】
【 この上蓋部材26とベース部材25との蝶着部40を
掛け合わせ(監視位置表示器85,第1検出結果表示器86を上蓋部
材26の天板部57に配設した場合は,これらの制御回路装置17の
ドライバへの接続を行う) 上蓋部材26を閉じる。この際 ,上蓋部材
,
26とベース部材25との係止部43の突起が係止片42に嵌まっ
て,上蓋部材26がベース部材25に係止され,位置決めされると共
に,重合結合部60∼63,64∼67の各上方結合部71の係合突
部77が各下方結合部73の係合受部78に嵌まり,それぞれが位置
決めしながら,重合する。
【0055】この重合状態にて,制御回路基板30より突出されて
いる検出回路46∼49の金属片52(それぞれ重合結合部64∼6
7の下方結合部73および下方連結部72の上面部の溝82内に嵌め
られている)が,図9のようにそれぞれ重合結合部64∼67にて挾
着されると共に,それぞれ金属片52の周囲を重合結合部64∼67
が覆う。
【0056】そして,重合結合部60∼63のうちの一つと,重合
結合部64∼67のうちの一つとを,それぞれ上方結合部71に仮止
めしてあるワンウェイネジ75を下方結合部73まで確実に締めて,
結合,固着する。この場合,識別符号1の重合結合部60,64を結
合,固着する。」
「 0105 】制御回路装置17を外して検査を行う場合 ,また裏メ
【
カベース盤10に取付けたまま検査を行う場合,基板ボックス24の
重合結合部60∼63,64∼67のうち,ワンウェイネジ75によ
って固着されている識別符号1(第1回目の検査の場合)の重合結合
部60,64の上方連結部70,下方連結部72をニッパ等で切断し
て,その重合結合部60,64を取り除く。この場合,識別符号1の
重合結合部64に挾着されている第1検出回路46の金属片52は,
その上方連結部60,下方連結部62と共に切断される。
【0106】この重合結合部60,64を除くと,基板ボックス2
4の上蓋部材26は係止部43によって閉止しているだけのため,係
止部43を外せば,上蓋部材26が開く。
【0107】上蓋部材26を開くと,制御回路基板30のROM1
01を外して検査を行うことになる。
【0108】検査を終了すると,ROM101を制御回路基板30
に装着して上蓋部材26を閉じる。この際,上蓋部材26が位置決め
しながら係止部43が係止する。同時に,切除されていない識別符号
2∼4の重合結合部61∼63,65∼67の各上方結合部71の係
合突部77が各下方結合部73の係合受部78に嵌まり,位置決めす
る。この場合,識別符号2∼4の重合結合部65∼67に,再び第2
∼第4検出回路47∼49の金属片52が挾着される。
【0109】この状態にて,識別符号2の重合結合部61,65の
上方結合部71に仮止めされているワンウェイネジ75を下方結合部
73まで締めて,識別符号2の重合結合部61,65を結合,固着す
る。上蓋部材26を閉じると,識別符号2∼4の重合結合部65∼6
7に第2∼第4検出回路47∼49の金属片52が挾着されると共
に,重合結合部61∼63,65∼67が確実に重合するため,識別
符号2の重合結合部61,65の結合,固着が容易に行え,不完全な
状態でワンウェイネジ75を締める心配はない 。」
「 0112 】
【 検出回路47∼49の金属片52が重合結合部65∼
67の下方結合部73,下方連結部72の溝82にあるため,上蓋部
材26の開閉によって検出回路47∼49の金属片52の位置がずれ
ることがない。」
b 上記記載によれば,引用例には,上蓋部材26及びベース部材25
の二つの辺部の所定位置に,それぞれ複数の重合結合部60∼63,
及び重合結合部64∼67が形成されることが記載されているが(段
落【0040】 ,他方で,金属片52については,二つの辺部の一方
)
に位置する重合結合部64∼67に対応する制御回路基板30の一辺
部に形成され,重合結合部64∼67にて挟着されることが一貫して
記載されており (段落 【0036 】 【 0051 】 【 0055 】 【01
, , ,
05】 【0108 】【0109 】 【0112 】 ,二つの辺部の他方に
, , , )
位置する重合結合部60∼63に金属片52が挟着されることは,記
載も示唆もされていない。
また,引用例には,下方結合部73および下方連結部72の上面部
に,金属片52が嵌まるように溝82が形成されることが記載されて
いるところ(段落【0042】 ,引用例の「重合結合部60∼63の
)
下方結合部73および下方連結部72の上面部には,溝82を形成せ
ずとも良い 。 との記載は ,重合結合部60∼63には ,金属片52が
」
挟着されるものではないことを前提とするものと解される。
したがって,引用発明において,二つの辺部の他方に位置する重合
結合部60∼63には ,金属片52は挟着されないというべきである 。
c そうすると,審決が,引用発明の内容として, 前記重合結合部60
「
∼63,64∼67の重合結合時に,同重合結合部60∼63,64
∼67にて挟着される金属片52」との構成を認定したことは,重合
結合部60∼63をも含めて重合結合時に金属片52が挟着されるも
のとした点において誤りというべきであり,また,審決が,引用発明
と本件発明1とを対比するに当たり,引用発明における 『重合結合部
「
60∼63,64∼67』及び『金属片52』は,重合結合時に,同
重合結合部60∼63 ,64∼67に金属片52が挟着されることで ,
金属片52と重合結合部60∼63,64∼67が重なることは明ら
かであるから,本件発明1における『重なり部 』に相当し」 引用発明
,
における「 上方連結部70 』 『下方連結部72』 『 金属片52の)
『 , ,(
脚部54』の三者は,切断可能に形成された部材であるから,本件発
明1における『切断部』に相当し」,引用発明における「 重合結合部
『
60∼63,64∼67』及び『金属片52』と,本件発明1におけ
る『固定可能部』とは,固定手段により回路基板とカバーを固定する
『固定部材 』である点 ,及び , 切断部』を含んでいる点で共通する 」
『
(審決書14頁36行∼15頁11行 )と認定したことは, 重合結合
「
部60∼63」を含めた点において誤りというべきである。
しかし,前記bのとおり,引用発明の重合結合部64∼67には,
金属片52が挟着されるのであるから,審決の上記誤りは,引用発明
と本件発明1との一致点・相違点の認定を左右するものではない。し
たがって,審決の上記誤りは ,その結論に影響するものではないから ,
これをもって審決を取り消すべきことにはならない。
(イ) 引用発明の「重合結合部64∼67 」 「金属片52」について
,
原告は,引用発明の「重合結合部64∼67」 「金属片52」は,本
,
件発明1における回路基板とカバーを固定する 固定可能部」
「 ないし 固
「
定部」に相当するということはできないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は理由がない。
a 引用例には,重合結合部64∼67の各上方結合部71の係合突部
77が各下方結合部73の係合受部78に嵌まり,それぞれが位置決
めしながら重合し,重合結合部64∼67の下方結合部73及び下方
連結部72の上面部の溝82内に金属片52が嵌められた状態で,ワ
ンウェイネジ75を締めて ,結合 ,固着することが記載されている 段
(
落【0054】∼【0056】 。そして,引用発明の金属片52は,
)
金属であって,引用例の図8に一定の厚みを有する平板状のものとし
て示されることからしても,一定の強度を有するものと認められると
ころ,これが制御回路基板30にハンダ付けされたときに,上記の状
態で重合結合部64∼67が結合,固着されれば,金属片52が制御
回路基板30を重合結合部に固定する相応の機能を有することは,明
らかである。
したがって,審決が,引用発明につき, 重合結合時に ,重合結合部
「
……64∼67と金属片52とが,制御回路基板30に対して上蓋部
材26及びベース部材25を固定する作用を奏するのは明らかであ
る。(審決書14頁6行∼8行 )とし ,引用発明の内容として , 前記
」 「
重合結合部……64∼67と金属片52は,制御回路基板30に対し
て上蓋部材26及びベース部材25を固定する 」 審決書14頁21行
(
∼22行)ことを認定し,引用発明における「 重合結合部……64∼
『
67』及び『金属片52』と,本件発明1における『固定可能部』と
は,固定手段により回路基板とカバーを固定する『固定部材』である
点……で共通する。 (審決書15頁8行∼11行)と認定したことに
」
誤りはない。
b 原告は,引用発明の金属片52は電気的な接続部材であることを指
摘するが,金属片52が制御回路基板30を重合結合部に固定する相
応の機能を有することは,前記aのとおりであり,金属片52が電気
的な接続部材であることは上記認定を妨げるものではない。
c 原告は,引用発明では,止着用ボス36がなければ,回路基板と,
カバーとを固定できないのに対して,本件発明1は,固定可能部によ
ってカバーと回路基板とを固定可能であり,引用発明の止着用ボス3
6に相当する部材がなくても固定が可能であると主張する。
しかし,本件明細書の請求項1には,固定可能部のみでカバーと回
路基板とを固定可能であることは規定されていないし,引用例記載の
止着用ボス36は,ベース部材25に下部保護板27,制御回路基板
30,上部保護板28をネジ止めするためのものと認められる(段落
【0051 】 ところ,本件明細書には ,第1実施例の説明として , 下
) 「
部カバー61は,遊技制御基板41をビス44で止めるためのボス6
2……を備えている。(段落【0022】 との記載があり ,このビス
」 )
44は ,回路基板を下部カバーにネジ止めするためのものである点で ,
引用例記載の止着用ボス36と異なるものではない。
原告の主張は本件明細書に基づかないものであって,採用すること
ができない。
イ 「重なり部」について
(ア) 引用発明の「重合結合部60∼63」について
原告は,引用発明の「重合結合部60∼63」は,金属片52と重な
っていないから,本件発明1における「重なり部」に相当するというこ
とはできないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張に係る誤りは,審決の結論に
影響しないから,審決を取り消すべき理由とはならない。
前記ア(ア)cのとおり ,審決が,引用発明の内容として , 前記重合結
「
合部60∼63,64∼67の重合結合時に,同重合結合部60∼63 ,
64∼67にて挟着される金属片52」との構成を認定したことは,重
合結合部60∼63をも含めて重合結合時に金属片52が挟着されるも
のとした点において誤りというべきであり,また,審決が,引用発明と
本件発明1とを対比するに当たり ,引用発明における 『重合結合部60
「
∼63,64∼67』及び『金属片52』は,重合結合時に,同重合結
合部60∼63,64∼67に金属片52が挟着されることで,金属片
52と重合結合部60∼63,64∼67が重なることは明らかである
から ,本件発明1における『重なり部 』に相当」すると認定したことは ,
「重合結合部60∼63 」を含めた点において誤りというべきであるが ,
引用発明の重合結合部64∼67には,金属片52が挟着されるのであ
るから,審決の上記誤りは,引用発明と本件発明1との一致点・相違点
の認定を左右するとはいえず,審決の結論に影響しないから,これをも
って審決を取り消すべきこととはならない。
(イ) 引用発明の「重合結合部64∼67 」 「金属片52」について
,
原告は,引用発明の金属片52は,本件発明1における「回路基板」
に相当しないから,引用発明の重合結合部64∼67,及び金属片52
は, 回路基板とカバーとを組み合わせた際に互いに重なる」
「 本件発明1
における「重なり部」に相当するということはできないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は理由がない。
a 「基板」とは ,一般に, 電気回路が組み込まれている板 」をいうと
「
ころ(甲35〔松村明編「大辞林」株式会社三省堂昭和63年11月
3日第1刷発行 〕 ,引用発明における金属片52は,制御回路基板3
)
0の一部を構成することが明らかな検出回路46∼49にハンダ付け
されるものであるから,制御回路基板30の一部を構成するものとい
うことができる。金属片52が電気配線部材であることは,上記認定
を妨げるものではない。
そうすると,引用発明は,重合結合部64∼67の重合結合時には ,
重合結合部64∼67に制御回路基板の一部を構成する金属片52が
挟着されるとの構成を備えるものであり,この構成は,本件発明1に
おける「前記回路基板と前記カバーとを組み合わせた際に互いに重な
る重なり部を形成する」との構成に相当するというべきである。
したがって,審決が,引用発明と本件発明1とを対比して,引用発
明における「 重合結合部……64∼67 』及び『金属片52』は ,重
『
合結合時に,同重合結合部……64∼67に金属片52が挟着される
ことで,金属片52と重合結合部……64∼67が重なることは明ら
かであるから,本件発明1における『重なり部 』に相当」 審決書14
(
頁36行∼15頁4行)すると認定したことに誤りはない。
b 原告は,遊技機の回路基板では, 板面に印刷された配線以外の配線
「
が行われているものでないこと」が求められていると主張し,その根
拠として,遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則(甲37∼4
9参照)に言及する。
しかし,本件明細書(甲5,6)を検討しても,回路基板が「板面
に印刷された配線以外の配線が行われているものでない」ものに限ら
れることを示す記載は見当たらない。また,遊技機の認定及び型式の
検定等に関する規則において, 板面に印刷された配線以外の配線が行
「
われているものでないこと」は,本件特許の出願日(平成11年7月
21日 )から4年以上も経過した平成16年1月30日の改正により ,
初めて規定されたものである(甲37∼46 ) そして,本件記録を検
。
討しても,遊技機の回路基板が「板面に印刷された配線以外の配線が
行われているものでないこと」が,本件特許の出願当時,当業者の技
術常識であったと認めるに足りる証拠は見当たらない。
原告の上記主張は,採用することができない。
c 原告は,本件発明1の「回路基板」は,固定可能部が切断されると
回路基板に痕跡が残るが,引用発明の金属片52を切断しても,回路
基板に痕跡は残らないし,新たに金属片をハンダ付けすれば,金属片
自体の痕跡もなくなるから,引用発明の金属片52は,本件発明1の
「回路基板」と構成及び作用が異なると主張する。
原告の上記主張は,本件発明1では,回路基板側に設けられた固定
可能部が回路基板と一体に形成されているのに対し,引用発明では,
金属片52が制御回路基板30にハンダ付けにより取り付けられてい
るとの構成の相違,及びこれに基づく作用の相違をいうものと解され
るが,審決は,この点を本件発明1と引用発明との相違点 相違点Ⅱ )
( )
と認定した上,その容易想到性について判断している。そして,原告
主張に係る構成及び作用の相違が,引用発明における「重合結合部6
4∼67」 「金属片52」と本件発明1における「重なり部」との対
,
比について,上記aのとおり認定することを妨げるものではない。
原告の上記主張は,審決を正解しないでこれを論難するものであっ
て,採用することができない。
ウ 「切断部」について
原告は,引用発明は,本件発明1の「重なり部」に相当する構成を備え
ていないから,「切断部」に相当する構成も備えていないと主張する。
しかし,前記イのとおり,引用発明が,本件発明1の「重なり部」に相
当する構成を備えていないということはできないから ,原告の上記主張は ,
その前提を欠くものであり,採用することができない。
審決が,引用発明と本件発明1とを対比して ,引用発明における「 上方
『
連結部70 』『下方連結部72 』『 金属片52の )脚部54 』の三者は ,
, ,(
切断可能に形成された部材であるから,本件発明1における『切断部』に
相当し」 審決書15頁5行∼7行) 引用発明における「 重合結合部……
( , 『
64∼67』及び『金属片52』と,本件発明1における『固定可能部』
とは ,固定手段により回路基板とカバーを固定する 固定部材 』
『 である点 ,
及び , 切断部』
『 を含んでいる点で共通する 」 審決書15頁8行∼11行 )
(
と認定したことに誤りはない。
(2) 一致点の認定の誤りについて
原告は,引用発明は,本件発明1の「固定可能部」 「重なり部」及び「切
,
断部」に相当する構成を備えていないから,本件発明1と引用発明との一致
点は , 遊技機に設けられる回路基板と ,
「 該回路基板を覆うカバーとを備えた
遊技用回路装置」とすべきであって,審決は一致点の認定を誤っていると主
張する。
しかし,前記(1)のとおり,引用発明は,本件発明1の「固定可能部 」「重
,
なり部」及び「切断部」に相当する構成を備えているというべきであって,
審決における一致点の認定に誤りがあるということはできない。
(3) 相違点Ⅱ)の認定の誤りについて
原告は,引用発明の金属片52は,電気配線部材であって,制御回路基板
30と上蓋部材26とベース部材25とを固定する「固定部材」ではないか
ら,審決が,相違点Ⅱ)について,引用発明の金属片52が固定部材である
と認定したことは誤りであると主張する。
しかし,引用発明の金属片52は,制御回路基板30を重合結合部に固定
する相応の機能を有するものであり,引用発明における 『重合結合部……6
「
4∼67 』及び『金属片52』と,本件発明1における『固定可能部 』とは ,
固定手段により回路基板とカバーを固定する『固定部材』である点……で共
通する。 (審決書15頁8行∼11行)とした審決の認定に誤りがないこと
」
は,前記(1)で検討したとおりであるから ,審決が,相違点Ⅱ )において ,引
用発明につき「固定部材である金属片52」と認定したことに誤りはない。
3 取消事由3(本件発明1と引用発明との相違点の判断の誤り)について
(1) 周知技術の認定の誤り及び相違点Ⅱ)の判断の誤りについて
ア 検討
(ア) 審決は, 一般に,
「 複数の部品で構成される部材を一体に形成するこ
とは,本件出願前に種々の技術分野でごく普通に行われている周知・慣
用の技術事項である」 審決書16頁19行∼20行)と認定しており ,
(
弁論の全趣旨によれば,かかる認定はこれを是認することができる(原
告も,上記認定それ自体を争うものではない 。 。
)
(イ) 原告は,審決が ,甲12ないし14を例示して , 回路基板の分野に
「
おいて,回路基板に設けられる回路パターン形状の導体回路部と,回路
基板から突出する導体部とを,単一の金属板から打ち抜いて形成し,前
記打ち抜いて形成した導体部材を回路基板と一体に形成することは,本
件出願前周知・慣用の技術事項」 審決書16頁21行∼24行)
( にすぎ
ないと認定したのは,誤りであると主張するので,検討する。
甲12には , 第1図には,
「 実施例に係るモールド成形回路基板の製造
ユニットによって製造されたモールド成形回路基板10の外観が示され
ている。この基板10は,……絶縁樹脂16内にリードフレーム18を
埋め込んで製造されるものである。……第2図にはリードフレーム18
の構成が示され,……リードフレーム18は所定の回路パターンを構成
するものであり,燐青銅をプレス加工により板圧0 .2mmに成形され ,
所定間隔で複数の嵌合孔18aが形成されている 。 (2頁右上欄16行
」
∼左下欄12行)との記載があり,第1図には,所定の回路パターンを
構成するリードフレーム18が回路基板10から突出した様子が示され
ている。
甲13には , 本発明の図1に示すコネクタ一体形回路基板の製造方法
「
を図2ないし図4を用いて説明する。先ず図2に示す厚肉部6と薄肉部
7を一体に圧延加工した金属製圧延板5を用いて図3に示すリードフレ
ーム8を形成した。……リードフレーム8は,従来より行われているプ
レス抜き加工,エッチング加工,ワイヤカットなどで加工される。……
次に図4に示すように,リードフレーム8の曲げ加工を行いコネクタの
プラグピン部3とする。……曲げ加工後,コネクタのプラグピン部3及
びランド部4に金めっき,錫めっき,はんだめっき又はニッケルめっき
などの表面処理を施す。……曲げ加工及び表面処理したリードフレーム
を金型に取付け,合成樹脂を注入して一体に成形する。これにより図1
に示すコネクタ一体形回路基板が製造できる 。 (3頁第4欄36行∼4
」
頁第5欄7行)との記載があり,図1には,コネクタのランド部4が回
路基板2から突出した様子が示されている。
甲14には , 図1は,
「 本発明により製造されるモールド成形回路基板
の一例の外観を示したものであり,モールド成形回路基板10は,絶縁
樹脂1内にリードフレーム2を埋め込み一体成形してなるものである。
……図2は,リードフレーム2の配線パターンを示したものである。リ
ードフレーム2は,燐青銅をプレス加工により板厚0.2mmに成形さ
れている 。 (2頁2欄13行∼21行)との記載があり,図1には,リ
」
ードフレーム2が回路基板10から突出した様子が示されている。
甲12ないし14の上記各記載によれば,回路基板の技術分野におい
ても,回路基板に設けられる導体部であるリードフレームについて,回
路基板内部にあって回路を形成する部分と回路基板から突出する部分と
を一体のものとして構成することは,本件特許の出願当時,周知であっ
たと認められる。
(ウ) 引用発明における金属片52は,回路基板とカバーを固定する「固
定部材」である一方,引用例の「前記各重合結合部の状態を電気的に検
出するための重合結合部状態検出部を設ける 」(段落【0014】 ,
) 「制
御回路基板30の一辺部(ベース部材25の周壁35cおよび上蓋部材
26の周壁38cに対応する側)には,後述する重合結合部64∼67
に対応する位置に,それぞれ重合結合部64∼67の状態を検出するた
めの検出回路(第1∼第4検出回路)46∼49の金属片52が突設さ
れる 。(段落【0036】 との各記載及び図5によれば ,制御回路基板
」 )
30から重合結合部64∼67側に突出し,検出回路46∼49の導体
部にハンダ付けされて重合結合部の状態を電気的に検出するための重合
結合部状態検出部を構成するものでもあると認められる。
(エ) 前記(ア)のとおり,一般に,複数の部品で構成される部材を一体に
形成することは,本件出願前に種々の技術分野でごく普通に行われてい
る周知・慣用の技術であり,前記(イ)のとおり,回路基板の技術分野に
おいても ,回路基板に設けられる導体部であるリードフレームについて ,
回路基板内部にあって回路を形成する部分と回路基板から突出する部分
とを一体のものとして構成することは,本件特許の出願当時,周知であ
ったと認められるから,引用発明において,金属片52を検出回路49
∼49の導体部と一体に形成し,制御回路基板30の一部として一体に
構成されたものとすることによって,相違点Ⅱ)に係る本件発明1の構
成(回路基板側に設けられた固定可能部が回路基板と一体に形成されて
いる)を得ることは,当業者が容易になし得たものと認めるのが相当で
ある。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は,甲12ないし14に記載された技術は,モールド成形回路
基板におけるリードフレームの一体成形に関するものであり,回路の小
型化やコスト削減を目的とするものであって , 板面に印刷された配線以
「
外の配線が行われているものでない」回路基板(プリント基板)からな
る遊技機用回路装置の不正防止を目的とする本件発明1とは,技術分野
及び目的を異にするから,これらの技術を適用することは容易とはいえ
ない旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
a 前記ア(イ)において認定した甲12ないし14の各記載によれば,
甲12ないし14に記載された技術は,モールド成形回路基板におけ
るリードフレームの一体成形に関するものということができる。
しかし,前記2(1)イ(イ)bのとおり ,本件明細書には ,本件発明1
の回路基板が「板面に印刷された配線以外の配線が行われているもの
でない」ものに限られることを示す記載は見当たらず,遊技機の回路
基板が「板面に印刷された配線以外の配線が行われているものでない
こと」が,本件特許の出願当時,当業者の技術常識であったと認める
に足りる証拠もない。そして,引用例にも,制御回路基板30がプリ
ント基板に限られることを示す記載はないから,本件発明1及び引用
発明は,いずれもプリント基板からなる遊技機用回路装置に関するも
のに限られず,モールド成形回路基板を用いるものでも構わないと解
される。
したがって,技術分野の相違に関する原告の指摘は,その前提を欠
くものであり,採用することができない。
b 甲12には, 従来は ,
「 リードフレームの厚さや幅を大きくすること
により ,リードフレーム自体の剛性を向上させていたが,回路 配線 )
(
の自由度を低下するとともに基板のコンパクト化の妨げになるという
問題点があった 。 (1頁右下欄16行∼2頁左上欄1行)
」 ,甲13に
は, 本発明の目的は,
「 これらの従来技術の問題点を解消することにあ
り,工程を簡略にして大幅なコスト低減をはかり,また,接続信頼性
の高いコネクタ一体回路基板を提供することにある。 (2頁2欄46
」
行∼49行 ),甲14には,「従来は,リードフレームの厚さや幅を大
きくすることにより,リードフレーム自体の剛性を向上させていたが ,
回路(配線)の自由度を低下させると共に基板のコンパクト化の妨げ
になるという問題点があった。 (2頁1欄33行∼37行)との各記
」
載がある。
これらの記載によれば,甲12ないし14記載の各技術は,回路の
小型化やコスト削減を目的とするものであることがうかがえる。
しかし,前記アのとおり,一般に,複数の部品で構成される部材を
一体に形成することは,本件出願前に種々の技術分野でごく普通に行
われている周知・慣用の技術であり,回路基板の技術分野においても ,
回路基板に設けられる導体部であるリードフレームについて,回路基
板内部にあって回路を形成する部分と回路基板から突出する部分とを
一体のものとして構成することは,本件特許の出願当時,周知であっ
たと認められるから,甲12ないし14記載の各技術の目的がどのよ
うなものであれ,制御回路基板30がモールド成形回路基板であって
もよい引用発明に,上記技術を適用し,引用発明の金属片52を,制
御回路基板30の一部として一体に構成されたものとすることは,当
業者が容易になし得たものというべきである。
したがって,目的の相違に関する原告の指摘も,採用することがで
きない
(イ) 原告は,引用例及び甲12ないし14には,本件発明1の「前記回
路基板と前記カバーとを組み合わせた際に互いに重なる重なり部を形成
するとともに……前記切断部にて,前記固定可能部を,前記カバーから
切断する」との構成は記載も示唆もされていないから,相違点Ⅱ)に係
る本件発明1の構成に容易に想到することができるとはいえないと主張
する。
原告の上記主張は,審決における一致点の認定に誤りがあることを前
提とするところ,前記2のとおり,審決がした一致点の認定に誤りはな
い。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 顕著な効果の看過について
原告は,審決が本件発明1の顕著な効果を看過した旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
ア 検討
(ア) 本件明細書には,次の記載がある。
「 0013 】
【 【作用及び効果】本発明によれば,回路基板とカバーと
の重なり部分に複数の固定可能部を形成する。そして,回路基板を覆う
ときは,固定可能部を固定し,回路基板とカバーとを引き離すときは,
固定した固定可能部を除去する。このため,固定可能部を一旦固定した
後,回路基板とカバーとを引き離すには,固定した固定可能部を除去し
なくてはならない。この固定可能部は,回路基板とカバーとの重なり部
分に形成されているので,固定した固定可能部を除去すると,回路基板
及びカバーの当該固定可能部を形成している部分が除去されることとな
り,回路基板とカバーとを引き離した痕跡がカバーのみならず,回路基
板にも残る。
【0014】つまり,回路基板に不正処理がされた場合,カバー及び
回路基板にその痕跡が残るので,不正処理の事実を容易に発見できる。
また,回路基板の不正な処理のために回路基板とカバーとが引き離され
た後,その痕跡を残さないようにするには,新たな回路基板及びカバー
を用意せざるを得なくなり,あえてそれ程の不正をすることは考え難い
ので,回路基板の不正な処理を防止できる。」
本件明細書の上記記載によれば,本件発明1は,固定可能部を回路基
板とカバーとの重なり部分に形成して,回路基板とカバーとを引き離す
ために固定可能部を除去する際に,回路基板とカバーとを引き離した痕
跡が回路基板にも残るようにすることにより不正処理の事実を容易に発
見できるようにして,回路基板の不正な処理を防止できるとの作用効果
を奏するものと認められる。
(イ) 前記(1)のとおり ,引用発明において,金属片52を検出回路49∼
49の導体部と一体に形成し,制御回路基板30の一部として一体に構
成されたものとすることによって,相違点Ⅱ)に係る本件発明1の構成
(回路基板側に設けられた固定可能部が回路基板と一体に形成されてい
る)を得ることは,当業者が容易になし得たというべきであるところ,
かかる構成のものにおいても,制御回路基板30と上蓋部材26及びベ
ース部材25とを引き離すために,制御回路基板30と一体に構成され
た金属片52が切断され,その結果,引き離した痕跡が制御回路基板3
0にも残ることとなり,本件発明1と同様の作用効果を奏するものと認
められる。
したがって , 本件発明1によって奏せられる効果は,
「 引用例に記載の
発明及び周知技術事項に基づいて当業者であれば予測し得るものであ
り,格別顕著なものではない 。 (審決書16頁36行∼17頁1行)と
」
した審決の判断に誤りはない。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は,引用発明では,不正行為を行う場合,仮に金属片52に痕
跡が残ったとしても,不正ROMを交換し,新たな金属片をハンダ付け
するだけですむのに対し,本件発明1では,不正行為を行う場合,回路
基板も変更する必要が出てくるから,より不正行為を困難とすることが
できる旨主張する。
しかし,前記アのとおり,本件発明1のかかる効果は,引用発明及び
周知技術事項から当業者が予測可能なものであり,格別顕著なものとい
うことはできない。
(イ) 原告は,引用発明は,止着用ボス36など固定するための固定部材
が別途必要であるのに対し,本件発明1は,止着用ボス36に相当する
固定部材が必要とされず,製造コストを低下することができると主張す
る。
しかし,本件明細書の請求項1では,固定可能部のみでカバーと回路
基板とを固定可能であることは規定されておらず,引用例に制御回路基
板30をベース部材25にネジ止めする止着用ボス36の記載があるこ
とをもって,本件発明1と相違するとはいえないことは,前記2(1)ア
(イ)cのとおりである。
原告の主張は,本件明細書の記載に基づかないものであって,採用す
ることができない。
4 取消事由4(本件発明2及び3についての認定判断の誤り)について
(1) 本件発明1と同様の誤りについて
原告は,請求項2及び3は請求項1を引用するものであるから,本件発明
2及び3についての審決の認定判断には,本件発明1と同様の誤りがあると
主張する。
しかし,本件発明1についての審決の認定判断に誤りがないことは,前記
2及び3のとおりである。原告の主張は採用することができない。
(2) 本件発明2及び3の容易想到性判断の誤りについて
本件発明3と引用発明とを対比すると,引用発明における 上蓋部材26 」
「 ,
「ベース部材25」は,それぞれ本件発明3における「上部カバー」 「下部
,
カバー」に相当するものと認められるから,両者は,本件発明1と引用発明
との一致点(前記第2,3(2))のほか,「前記カバーは,前記回路基板の上
面を覆う上部カバー及び前記回路基板の下面を覆う下部カバーから成」る点
においても一致しており,相違点Ⅰ)及びⅡ )(前記第2,3(3))を除き,
相違する点はない。
また,本件発明2は,その一態様として,本件発明3を含むものであるか
ら,本件発明2と引用発明とは,相違点Ⅰ)及びⅡ)(前記第2,3(3))を
除き,相違する点はない。
そして,本件発明1についての審決の認定判断に誤りがないことは,前記
2及び3のとおりであるから,本件発明2及び3の容易想到性判断の誤りを
いう原告主張に理由がないことは明らかである。
なお,原告は,本件発明2及び3の効果として縷々述べるが,本件明細書
の記載を検討しても,原告主張に係る効果を裏付ける記載は見当たらず,本
件発明2及び3について,本件発明1が奏する以上の格別の効果を奏するも
のとは認められない。
5 取消事由5(本件発明4についての認定判断の誤り)について
(1) 本件発明1と同様の誤りについて
原告は,請求項4は請求項1を引用するものであるから,本件発明4につ
いての審決の認定判断には,本件発明1と同様の誤りがあると主張する。
しかし,本件発明1についての審決の認定判断に誤りがないことは,前記
2及び3のとおりである。原告の主張は採用することができない。
(2) 相違点Ⅲ)の判断の誤りについて
ア 原告は,本件発明4は,本件発明1の効果に加え,カバーに切断の痕跡
を残さないように固定手段の部分で切断しても,固着部と固定手段との係
合具合が容易に認識でき,不正行為の痕跡が容易にわかるため,不正行為
を防止できるという効果を奏すると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
本件明細書の図12ないし14 本件発明4の実施例と認められる 。 に
( )
記載された例では,固定手段たるワンウェイネジ47は凹部102を介し
て固着部たる固着ボス112にねじ込まれて固定されており(段落【00
51 】 ,切断部たる上部ミシン目103及び基板ミシン目113にて固定
)
可能部を回路基板とカバーから切断するものと認められるところ 段落 0
( 【
054】 ,ネジ頭と胴体部との間で切断することは記載されていないし,
)
凹部102を介して固定されるワンウェイネジ47のネジ頭と胴体部との
間をどのようにして切断するのかを想定することも困難であるから,実施
例においてすら ,原告の主張に係る効果が奏されるものとは認められない 。
その他,本件明細書の記載を検討しても,原告の主張に係る「固定手段の
部分で切断しても不正行為の痕跡が容易にわかる」との効果を裏付ける記
載は見当たらない。
原告の主張は,本件明細書の記載に基づかないものであって,採用する
ことができない。
イ 原告は,引用発明の金属片52は,電気的な配線部材にすぎないから,
本件発明4を想到するために,電気的な配線部材である金属片52と,上
蓋部材26とを固定するために板同士を固定する技術を用いることはでき
ないし,仮に,板同士を固定する技術を用いたとしても,本件発明4の構
成を導くことはできないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
引用発明の金属片52が電気的な配線部材であるとしても,制御回路基
板30を重合結合部に固定する相応の機能を有することは,前記2(1)ア
(イ)のとおりである。
そして,引用例の「止着用ボス36」,甲15の「取付ボス部33 」,甲
16の「ボス14」にみられるように,ネジ等の固定手段を用いる際にボ
ス部等の固着部を設けることは従来から周知・慣用の技術であると認めら
れる。
ところで,本件明細書には,回路基板の固定可能部に固着部を設けると
する本件発明4の構成について何らかの特有の技術的意義を説明する記載
はなく,相違点Ⅲ)に係る本件発明4の構成とすることについて,当業者
が適宜なし得る設計事項以上の技術的意義があるものとは認められない。
そうすると,ワンウェイネジ75を用いる引用発明において,金属片5
2に固着部を設け,相違点Ⅲ)に係る本件発明4の構成とすることは,当
業者が適宜なし得たものと認めるのが相当である。
原告の主張は採用することができない。
6 結論
上記検討したところによれば,原告主張の取消事由はいずれ理由がなく,そ
の他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。また,審決に,これを取
り消すべきそのほかの誤りがあるとも認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 三 村 量 一
裁判官 嶋 末 和 秀
裁判官 上 田 洋 幸
最新の判決一覧に戻る