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平成19(行ケ)10161審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成20年2月21日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官肥塚雅博
原告
対象物 ネットワークに接続するコンピュータに全数字コードを用いてアドレスを割り当てる方法
法令 特許権
特許法29条2項2回
キーワード 審決60回
優先権2回
刊行物1回
実施1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「ネットワークに接続するコンピュータに全数字コー ドを用いてアドレスを割り当てる方法」とする発明について,1999年(平 成11年 10月25日 優先権主張:1998年12月4日 中国 国際特) ( , ), 許出願(特願2000−587275号。以下「本願」という )をした。。 その後,原告は,平成16年5月25日付けの手続補正書により,本願に係 る明細書の特許請求の範囲の記載を補正する手続補正をしたが,同年6月11 日付けの拒絶査定を受けたので,同年9月14日,これに対する不服の審判を 請求し 不服2004−18980号事件 更に同年10月14日付けの手続( ), 補正書により,上記明細書の特許請求の範囲の記載を補正(以下,この補正を 「本件補正」という )する手続補正をした。。 , , , ,特許庁は 審理の結果 平成18年12月18日 本件補正を却下した上で 「 , 。」 ( 。 「 」本件審判の請求は 成り立たない との審決 附加期間90日 以下 審決 という )をし,平成19年1月9日,その謄本を原告に送達した。。 2 特許請求の範囲

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判決文

平成20年2月21日判決言渡
平成19年(行ケ)第10161号 審決取消請求事件
平成20年1月29日口頭弁論終結
判 決
原 告 X
訴訟代理人弁護士 尾 関 孝 彰
訴訟代理人弁理士 長 谷 川 芳 樹
同 城 戸 博 兒
同 三 上 敬 史
被 告 特 許庁長 官 肥 塚 雅 博
指 定 代 理 人 小 林 正 明
同 山 本 章 裕
同 大 場 義 則
同 大 日 方 和 幸
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2004−18980号事件について平成18年12月18日
にした審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「ネットワークに接続するコンピュータに全数字コー
ドを用いてアドレスを割り当てる方法」とする発明について,1999年(平
成11年 )10月25日(優先権主張:1998年12月4日 ,中国 ) 国際特

許出願(特願2000−587275号。以下「本願」という 。)をした。
その後,原告は,平成16年5月25日付けの手続補正書により,本願に係
る明細書の特許請求の範囲の記載を補正する手続補正をしたが,同年6月11
日付けの拒絶査定を受けたので,同年9月14日,これに対する不服の審判を
請求し 不服2004−18980号事件) 更に同年10月14日付けの手続
( ,
補正書により,上記明細書の特許請求の範囲の記載を補正(以下,この補正を
「本件補正」という 。)する手続補正をした。
特許庁は ,審理の結果,平成18年12月18日 ,本件補正を却下した上で ,
「本件審判の請求は ,成り立たない。 との審決(附加期間90日。以下「審決 」

という。)をし,平成19年1月9日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲
(1) 本件補正前の本願に係る明細書における特許請求の範囲の請求項1の記載
は,次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。 。

「接続番号と電話番号と類別番号とを組み合せて編成され,ネットワーク
に接続するコンピュータに割り当てられる全数字コードアドレスを用いて,
インターネットにアクセスする方法であって,
前記接続番号は ,国又は地域が指定したウェブサイトの数字コードであり ,
前記電話番号は,ユーザーの所在国の国際ダイレクトダイヤル電話の国コー
ドと,ユーザーの所在地域の国内長距離ダイレクトダイヤル電話の地域コー
ドと,ユーザの勤務先或は個人の電話番号との組み合せであり,前記類別番
号は,国或は地域が統一的に分類した業務の類別に指定した数字コードであ
って,
前記全数字コードアドレスにおいて,接続番号或は電話番号の後に暗証数
字番号を付すことができ,
電話のポッシュボタンでダイヤルアップ或いはコンピュータのキーボード
入力でコンピュータのモデムに入力して,相応するデジタルコードをリンク
し,専用ソフトウエアによって変換してから,電子メールボックスにアクセ
スしたりインターネットをブラウジングすることを特徴とする,方法 。」
(2) 本件補正後の本願に係る明細書(以下「本願明細書」という。)における
特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を
「本願補正発明」という。下線部は,本件補正による補正箇所を示す 。 。

「接続番号と電話番号と類別番号とを組み合せて編成され,ネットワーク
に接続するコンピュータに割り当てられる全数字コードアドレスを用いて,
インターネットにアクセスする方法であって,
前記接続番号は ,国又は地域が指定したウェブサイトの数字コードであり ,
前記電話番号は,ユーザの所在国の国際ダイレクトダイヤル電話の国コード
と,ユーザの所在地域の国内長距離ダイレクトダイヤル電話の地域コードと ,
ユーザの勤務先或は個人の電話番号との組み合せであり,前記類別番号は,
国或は地域が統一的に分類した業務の類別に指定した数字コードであって,
前記全数字コードアドレスにおいて,ユーザが自分のアドレスを秘密にし
たい場合,接続番号或は電話番号の後に暗証数字番号を付すことができ,
電話のポッシュボタンでダイヤルアップ或いはコンピュータのキーボード
入力でコンピュータのモデムに入力して,相応するデジタルコードをリンク
し,専用ソフトウエアによって変換してから,電子メールボックスにアクセ
スしたりインターネットをブラウジングすることを特徴とする,方法 。」
3 審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに ,下記(1)の理由により ,本件補正
は却下すべきであり ,下記(2)の理由により,本願は特許を受けることができな
い,というものである。
(1) 本願補正発明は,本願の優先権主張日(以下「本願優先日」という 。)前
に頒布された刊行物である特開平10−78928号公報 以下 引用例1 」
( 「
という。甲1)及び特開平9−321894号公報(以下「引用例2」とい
う。甲2)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることが
できたものであり,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特
許を受けることができないから,本件補正は,特許法17条の2第5項にお
いて準用する同法126条5項の規定に違反し,同法159条1項の規定に
おいて読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきである。
審決は上記判断をするに当たり,本願補正発明と引用例1(甲1)の特許
請求の範囲の請求項1 2頁1欄2行∼18行)
( に記載された発明 以下 引
( 「
用発明」という。)との一致点・相違点を次のとおり認定した。
(一致点)
「ネットワークに接続するコンピュータに割り当てられる全数字コード
アドレスを用いて,インターネットにアクセスする方法であって,全数字
コードアドレスとして電話番号を用い,専用ソフトウエアによって変換し
てから,電子メールボックスにアクセスしたりインターネットをブラウジ
ングする方法。」である点(審決書4頁16行∼20行)。
(相違点1)
「全数字コードアドレス 」の電話番号が ,本願補正発明においては , 接

続番号と電話番号と類別番号とを組み合せて編成され 」 「接続番号は,国

又は地域が指定したウェブサイトの数字コードであり,電話番号は,ユー
ザの所在国の国際ダイレクトダイヤル電話の国コードと,ユーザの所在地
域の国内長距離ダイレクトダイヤル電話の地域コードと,ユーザの勤務先
或は個人の電話番号との組み合せであり,類別番号は,国或は地域が統一
的に分類した業務の類別に指定した数字コード」であるのに対し,引用発
明においては, 電話番号」
「 の記載があるものの ,その余の示唆がない点 審

決書4頁21行∼28行)。
(相違点2)
本願補正発明においては ,「ユーザが自分のアドレスを秘密にしたい場
合,接続番号或は電話番号の後にユーザが数字番号を付加することができ 」
るものであるのに対し,引用発明においては,この点につき特段の記載が
ない点(審決書4頁29行∼32行 )。
(相違点3)
コンピュータのモデムに入力する際に,本願補正発明においては , 電話

のポッシュボタンでダイヤルアップ或いはコンピュータのキーボード入
力」するのに対し,引用発明においては,特段の記載がない点(審決書4
頁33行∼35行)。
(2) 本願発明は ,引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて ,当業者
が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定
により特許を受けることができない。
第3 取消事由に係る原告の主張
審決は,以下のとおり,本件補正を誤って却下した結果,判断の対象である
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明について,その要旨の認定を誤っ
た違法があるから,取り消されるべきである。
1 一致点・相違点の認定の誤り
審決は,以下のとおり,本願補正発明と引用発明との対比を誤り ,相違点を
看過した点において ,一致点・相違点の認定に誤りがある。なお ,本願補正発
明と引用発明とが相違点1ないし3において相違することは認める。
(1) 本願補正発明と引用発明との対比の誤り
ア 審決は, 引用発明の クライアント側のインターネットへのアクセス機
「 『
器』は,本願補正発明の『ネットワークに接続するコンピュータ』に相当
する 。 (審決書4頁4行∼5行)と認定した。

しかし,以下のとおり,審決の上記認定は誤りである。
本願補正発明の ネットワークに接続するコンピュータ 」 審決書2頁3
「 (
行∼4行)は,インターネットによりアクセスされるサーバ側のコンピュ
ータを指すと解すべきであって,同発明の「相応するデジタルコード」が
「入力 」される「コンピュータ 」 審決書2頁14行及び同頁15行 ,以下

「第2のコンピュータ 」ということがある 。 を指すと解すべきではないか

ら,引用発明の クライアント側のインターネットへのアクセス機器」 ,
「 は
これに相当しない。
すなわち,①インターネットにおけるアクセスが少なくとも2つのコン
ピュータ間で行われることは自明であるところ,本願補正発明の「ネット
ワークに接続するコンピュータ」と第2のコンピュータとが同じであると
考えると,自分のコンピュータに割り当てられた全数字コードアドレスと
相応するデジタルコードを自分のコンピュータに入力することになり不合
理であること,②第2のコンピュータに関し,本願明細書の特許請求の範
囲には「前記」との記載はないこと,③仮に,本願補正発明の「ネットワ
ークに接続されたコンピュータ」が,引用発明のような「クライアント側
のインターネットへのアクセス機器」であるとするならば,本願補正発明
の「第2のコンピュータ」はその通信相手先となり,クライアントが通信
相手先のコンピュータにキーボード入力することになり,不合理であるこ
とに照らせば,本願補正発明の「ネットワークに接続するコンピュータ」
は,第2のコンピュータを指すと解すべきでないから,引用発明の「クラ
イアント側のインターネットへのアクセス機器」には相当しない。引用発
明の「クライアント側のインターネットへのアクセス機器」は,本願補正
発明の「相応するデジタルコード」が「入力」される「電話」や「第2の
コンピュータ」に相当するものである。
イ 審決は, 引用発明の『URLに対応する任意の桁数の番号』は,本願補

正発明の『全数字コードアドレス』に対応する 。 (審決書4頁11行∼1

2行)と認定した。
しかし,以下のとおり,審決の上記認定は誤りである。
(ア) 一般に,IPアドレスとは,インターネットに接続するホストコン
ピュータに割り当てられた固有のグローバル識別子であって,インター
ネットによって使われる真のアドレスである。IPアドレスは,10進
数の数値群及びドットにより表記され,機械によって容易に認識される
が,人間が記憶することは困難である。
そこで,さらなる利便性のため開発されたのが,言語のキャラクタ群
(文字,数字,シンボル)から構成されるドメインネームである。オペ
レータがドメインネームを入力すると,ドメインネームサーバがドメイ
ンネームをIPアドレスに変換する。すなわち,ドメインネームは,I
Pアドレスと対応するものであるが,オペレータのために割り当てられ
たツールであって,インターネット上のホストコンピュータの物理的な
場所を反映したものではない。ネットワークの実体が最下層となり,オ
ペレータが最上層となるようなネットワークのレイヤー構造(上位〔オ
ペレータ〕から下位〔ネットワークの実体〕までの順番)は,/オペレ
ータ/ドメインネーム/IPアドレス/ネットワークの実体/となる。
ネットワークの拡大とともに,ドメインネームは複雑となり,記憶す
ることが困難となったため,簡単かつ特徴のある記号及び文字から構成
されるネットワークエイリアスが開発された。オペレータがネットワー
クエイリアスを入力すると,ドメインネームにマッピングされ,ドメイ
ンネームはさらにIPアドレスを発見するために変換される。レイヤー
構造(最上層〔オペレータ〕から最下層〔ネットワークの実体〕までの
順番)は,/オペレータ/ネットワークエイリアス/ドメインネーム/
IPアドレス/ネットワークの実体/となる。
(イ) これに対し,本願補正発明の「全数字コードアドレス」は, ネット

ワークに接続するコンピュータに割り当てられる」ものであって,ネッ
トワークにおける物理的な場所を反映したアドレスであるから,本願明
細書の段落【0010】等に記載されているように,/オペレータ/全
数字コードアドレス/ネットワークの実体/とすることも可能であり,
論理的には,IPアドレスを使用する必要はない。しかし,現在のイン
ターネットと互換性を保つため,本願補正発明は, 入力して ,相応する

デジタルコードをリンクし,専用ソフトウエアによって変換」する工程
を有する 。すなわち ,オペレータが入力する 相応するデジタルコード 」

は,インターネットで使われるIPアドレス等に一時的に変換されるが ,
ネットワークに接続するホストとなるコンピュータにアクセスするため
に,再び全数字コードアドレスに変換されるものである 。つまり, 相応

するデジタルコード」は,アクセスされるコンピュータの全数字コード
アドレスと一対一に対応する,同一のものである。レイヤー構造(最上
層〔オペレータ〕から最下層〔ネットワークの実体〕までの順番)は,
/オペレータ/相応するデジタルコード/IPアドレス等の他のアドレ
ス/全数字コードアドレス/ネットワークの実体/となる。
(ウ) 一方 ,引用発明は, URLに対応する任意の桁の番号を割り当て 」

るものである。URL(uniform resource locator)とは,IPアドレ
スのようにコンピュータに割り当てられたアドレスではなく,インター
ネット上のHTML文書,イメージ,ビデオ,プログラムのようなリソ
ースの場所の特定のために用いられる識別子である。そして,引用発明
では , URLに対応する任意の桁の番号 」は,すべてIPアドレスに変

換され,IPアドレスにより目的とするコンピュータにアクセスしてい
るものであるから,引用発明における「URLに対応する任意の桁の番
号」は,ドメインネームないしネットワークエイリアスの一類型という
ことができる。引用発明におけるレイヤー構造は,/オペレータ/UR
Lに対応する番号/IPアドレス/ネットワークの実体/となってい
る。
(エ) そうすると,引用発明の「URLに対応する任意の桁の番号」は,
本願補正発明の「相応するデジタルコード」に相当するとしても, コン

ピュータに割り当てられる全数字コードアドレス」には相当しない。
ウ 審決は,本願補正発明の「相応するデジタルコードをリンクし」との構
成について考慮しておらず,これを無視した点に誤りがある。
なお,本願補正発明の「相応するデジタルコード」を解釈することを通
じて ,前記ア及びイにおいて主張したように, ネットワークに接続された

コンピュータ」ではない,第2のコンピュータに「相応するデジタルコー
ド」をオペレータが入力することが理解され,また , 全数字コードアドレ

ス」が単なるエイリアスではなく, ネットワークに接続するコンピュータ

に割り当てられた」 アドレス 」であって,ホスト側の「ネットワークに接

続するコンピュータ」により直接使用されることができることが明らかと
なる。
エ 審決は, 引用発明の 検索エンジンにより前記URLと前記割り当てら
「 『
れた番号との対応関係を示す記憶テーブルを用いて前記URLに逆変換』
することは,本願補正発明の『専用ソフトウエアによって変換』すること
に相当する 。 (審決書4頁8行∼10行) 「引用発明の『インターネット
」 ,
上の探査を行う』ことは,本願補正発明の『インターネットにアクセスす
ること』に相当する 。 (審決書4頁6行∼7行)と認定した。

しかし,審決の上記各認定はいずれも,前記ア及びイにおいて指摘した
誤解に基づくものであり,誤りである。
(2) 相違点の看過
本願補正発明は , 全数字コードアドレス」が,リソースに対するエイリア

スとしてでなく, アドレス 」として「ネットワークに接続されたコンピュー

タに割り当てられる」点において,引用発明と相違することは,前記(1)にお
いて指摘したところから明らかである。審決は,上記の相違点を看過した点
に誤りがある。
2 相違点に係る容易想到性判断の誤り
審決は,以下のとおり,本願補正発明と引用発明との相違点について ,進歩
性の判断を誤った。
(1) 相違点1の容易想到性判断の誤り
審決は,相違点1について , 本願補正発明のように構成することは ,格別

の創意を要することなくなし得たものである 。 審決書5頁24行∼25行 )


と判断した。
しかし,以下のとおり,審決の上記判断は誤りである。
まず,引用例1における「ネットワーク上に置かれている情報提供サーバ
の蓄積する情報資源をアクセスするためのURL・・・を用いる 」 審決書4

頁37行∼5頁3行)旨の記載から ,直ちに, 国又は地域が指定したウェブ

サイトの数字コード」である 接続番号 」
「 を用いることが容易とはいえない 。
また ,本願補正発明は, 接続番号と電話番号と類別番号とを組み合わせて

編成され」た「全数字コードアドレス」を用いることにより,覚えやすく,
管理が便利になり,アドレスの重複がないという顕著な効果を奏する(本願
明細書の段落【0008 】参照 。 のであり ,上記各番号それ自体がそれぞれ

周知であったとしても,上記効果を奏する組合せを用いることが容易とはい
えない。
なお ,審決は, 本願補正発明のようなウェブサイトを特定するための『国

又は地域が指定したウェブサイトの数字コード』である『接続番号』 (審決

書5頁3行∼5行 )と説示しているが ,前記1のとおり,本願補正発明の 全

数字コードアドレス」は,エイリアスとしてURLに対応する番号を割り当
てる引用発明とは異なり, ネットワークに接続されたコンピュータに割り当

てられる 」 アドレス 」
「 であり ,コンピュータの特定を行うものであって, ウ

ェブサイトを特定するため」のものではないから,前提が異なる。
(2) 相違点2の容易想到性判断の誤り
審決は,相違点2について , 本願補正発明のように構成することは ,格別

の創意を要することなくなし得たものである 。 審決書5頁32行∼33行 )


と判断した。
しかし,以下のとおり,審決の上記判断は誤りである。
引用例1には,重複を防いでユニークに番号を割り当てるために,ユーザ
名のアルファベットに応じて自動生成した番号に対して,さらに3桁の番号
を付与していることが記載されているにすぎず,アドレスを秘密にするため
に暗証番号を付与することは記載されていない。
本願補正発明は,ユーザ名のアルファベットに応じて自動生成された数字
ではなく,接続番号と電話番号と類別番号とを組み合わせて編成された全数
字コードアドレスを用いる,簡単で覚えやすいアドレスシステムである。ユ
ーザによっては,全数字コードアドレスを推測した第三者からのアクセスを
防止したいという課題が発生するが, 接続番号或いは電話番号の後に暗証数

字番号を付すこと」により,セキュリティ性能を高めることができる。この
ような思想は,引用例1及び2には記載も示唆もされていない。
また ,そもそも ,引用例1及び2には , ネットワークに接続するコンピュ

ータ 」に「全数字コードアドレス 」を割り当てることは,開示されていない 。
(3) その他の誤り
ア 前記1(2)のとおり,本願補正発明は ,「全数字コードアドレス」が,リ
ソースに対するエイリアスとしてでなく, アドレス 」として「ネットワー

クに接続されたコンピュータに割り当てられる」点において,引用発明と
相違するところ,引用例1及び2には,オペレータとIPアドレスとの間
に位置するネットワークエイリアスに関する技術が記載されているにとど
まり,本願補正発明のような,IPアドレスとネットワークの実体との間
に位置する技術については,何らの記載も示唆もない。
イ 本願補正発明は,①「ネットワークに接続するコンピュータに割り当て
られる全数字コードアドレス」が,ネットワーク及びネットワークに接続
されたコンピュータによって直接使用されることができ,アドレッシング
処理が非常に簡単にされる ,②「全数字コードアドレス」は, 接続番号と

電話番号と類別番号とを組み合せて編成され」たものであり ,覚えやすく ,
管理が簡単となり,アドレスの重複がないものとなる,③「前記全数字コ
ードアドレスにおいて,ユーザが自分のアドレスを秘密にしたい場合,接
続番号或は電話番号の後に暗証数字番号を付すことができ 」 セキュリティ

の向上も可能である,という作用効果を奏する。これらの作用効果は,い
ずれも「引用例1及び引用例2の記載から当業者が予測できる範囲のもの
である。 (審決書5頁38行∼39行)とはいえない。

第4 取消事由に係る被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1 一致点・相違点の認定の誤りに対し
(1) 本願補正発明と引用発明との対比の誤りに対し
ア 本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には , ネットワークに接続する

コンピュータ」と記載されているにとどまり, ネットワークに接続するコ

ンピュータ」がサーバ側のコンピュータであるか,クライアント側のイン
ターネットへのアクセス機器であるかは,特定されていない。
そもそも ,サーバとクライアントとはそれぞれ ,IPアドレス等により ,
相手方と自分とをはっきりさせない限り,通信(データのやり取り)はで
きないから , ネットワークに接続するコンピュータ 」は,サーバ側のコン

ピュータでもあり,クライアント側のインターネットへのアクセス機器で
もある。
本願補正発明は, ネットワークに接続するコンピュータ 」
「 が何かを特定
していない以上,引用発明の「クライアント側のインターネットへのアク
セス機器」がこれに相当するとした審決の認定に誤りはない。
イ 本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には , 電話のポッシュボタンで

ダイヤルアップ或いはコンピュータのキーボード入力でコンピュータのモ
デムに入力して,相応するデジタルコードをリンクし,専用ソフトウエア
によって変換してから,電子メールボックスにアクセスしたり,インター
ネットをブラウジングすることを特徴とする」と記載されているが,当該
記載からは,何が入力され何に変換されるのかが,必ずしも明確でない。
そこで,本願明細書の発明の詳細な説明の記載(段落【0003 】 【0

005】【0007 】【0010 】【0012 】 を参酌すると ,本願補正
, , , )
発明の「電話のポッシュボタンでダイヤルアップ或いはコンピュータのキ
ーボード入力でコンピュータのモデムに入力して,相応するデジタルコー
ドをリンクし,専用ソフトウエアによって変換してから,電子メールボッ
クスにアクセスしたりインターネットをブラウジングすること」とは,電
話のポッシュボタンでダイヤルアップ或いはコンピュータのキーボード入
力でコンピュータのモデムに正確な全数字コードを連続的に入力し,これ
を相応するデジタルコードである全数字コードアドレスとして,変換器の
専用の翻訳ソフトウエアによって,IPアドレス或はドメイン名或いは中
国ドメイン名システムに変換し,相手先のコンピュータに識別を実行させ
ることができるということを意味するということができる。
そうすると,本願補正発明において,入力されるのは「全数字コードア
ドレス」であり,上記「全数字コードアドレス」は,IPアドレス,ドメ
イン名又は中国ドメイン名システムを求めるために入力されるものであっ
て, ネットワークにおける物理的な場所を反映したアドレス 」ではない 。

ウ 本願補正発明の 相応するデジタルコード 」
「 が実体的に何を指すのかは ,
本願明細書において明示されていないが,上記イで検討したところによれ
ば,本願補正発明は,電話のポッシュボタンでダイヤルアップ又はコンピ
ュータのキーボード入力でコンピュータのモデムに,正確な全数字コード
を連続的に入力し,これを相応するデジタルコードである全数字コードア
ドレスとして,変換器の専用の翻訳ソフトウエアによって ,IPアドレス ,
ドメイン名又は中国ドメイン名システムに変換し,相手先のコンピュータ
に識別を実行させるというものであることが理解される。
審決は, 2.
「 平成16年10月14日付の手続補正についての補正却下
の決定」の「 4)判断 」の欄(審決書4頁36行∼6頁4行 )において ,

全数字コードを連続的に入力する点,これを相応するデジタルコードであ
る全数字コードアドレスとする点,さらに全数字コードアドレスをIPア
ドレス,ドメイン名又は中国ドメイン名システムに変換し,相手先のコン
ピュータに識別を実行させる点を指摘しており,また,これらの点に係る
検討は適切である。
エ 以上のとおり,審決は,本願補正発明及び引用発明について適切に認定
しており,原告の主張に係る認定の誤りはない。
(2) 相違点の看過に対し
前記(1)で検討したところによれば,本願補正発明の 全数字コードアドレ

ス」が「アドレス」として「ネットワークに接続されたコンピュータに割り
当てられる」ものである旨の原告主張は,根拠を欠くものであり,審決にお
ける一致点・相違点の認定に原告主張の誤りはない。
2 相違点に係る容易想到性判断の誤りに対し
(1) 相違点1の容易想到性判断の誤りに対し
ア 電話番号として「ユーザの所在国の国際ダイレクトダイヤル電話の国コ
ードと,ユーザの所在地域の国内長距離ダイレクトダイヤル電話の地域コ
ードと,ユーザの勤務先或は個人の電話番号との組み合せ」を用いること
は,引用例2にも記載があるように,本願優先日前の周知技術である。
また,本願補正発明における「類別番号」は,国或は地域が統一的に分
類した業務の類別に指定した数字コードであって,引用例1には「所定の
桁数の番号を,特定のグループに分類した職業別,地域別などの目的に応
じたグループ毎に自動的に割り当てる」旨の記載があり, 業務の類別に指

定した数字コード」も,本願優先日前の周知技術である。
したがって,ネットワークに接続するコンピュータにアドレスを割り当
てる際に,コンピュータを識別するための「全数字コードアドレス」とし
て, 番号 」をいくつどのように用いるかは ,それぞれの「番号 」の用い方

が周知であることを考慮すれば,当業者が適宜に行う選択事項であり,本
願補正発明のように構成することは,格別の創意を要することなくなし得
たものである。
イ 全数字コードアドレスとして , 接続番号と電話番号と類別番号」
「 とを用
いること,また,これらのいくつかを組み合わせて編成することも,周知
技術であり,また,これが,インターネットという同一技術分野における
周知技術であることを考慮すれば,組み合わせに格別困難な点はなく,ま
た,その奏する効果も格別のものではない。
(2) 相違点2の判断の誤りに対し
秘密にしたい情報に暗証番号を付加することは例示するまでもなく周知技
術であり,その際に,暗証番号を付加する場所として,接続番号又は電話番
号の後にすることは,引用例1に「接続番号或いは電話番号の後」に3桁の
数字を付加する事例が記載されている点を考慮すれば,当業者が格別の創意
を要することなく,なし得たものである。
(3) その他の誤りに対し
ア 本願補正発明における「全数字コードアドレス」が, ネットワークに接

続するコンピュータ」それ自体に割り当てられたものではないことは,前
記1のとおりであり,原告の主張は失当である。
イ ①本願補正発明の「全数字コードアドレス」が, ネットワークに接続す

るコンピュータ」自体に割り当てられたものでないこと,②「全数字コー
ドアドレス 」 「接続番号と電話番号と類別番号とを組み合せて編成する 」

ことが容易であること, 「ユーザが自分のアドレスを秘密にしたい場合 ,

接続番号或は電話番号の後に暗証数字番号を付す」ことが容易であること
は,いずれも既に主張したとおりである。
また,本願補正発明の作用効果は,引用発明の「覚えやすく,管理が簡
単となり,アドレスの重複がなく,セキュリティの向上も可能」であると
いう作用効果にほかならず,両発明の作用効果に差異はない。
第5 当裁判所の判断
1 一致点・相違点の認定の誤りについて
(1) 本願補正発明と引用発明との対比の誤りについて
ア 原告は,本願補正発明の「ネットワークに接続するコンピュータ」はイ
ンターネットによりアクセスされるサーバ側のコンピュータを指すものと
解すべきであるから,引用発明の「クライアント側のインターネットへの
アクセス機器」は,これに相当しないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
(ア) 本願明細書の記載
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載(前記第2,2(2))に
よれば,本願補正発明において,「全数字コードアドレス」は ,「接続番
号と電話番号と類別番号とを組み合せて編成され 」 「インターネットに

アクセスする 」ために「用い 」られるものとして , ネットワークに接続

するコンピュータに割り当てられる」ものであること, ネットワークに

接続するコンピュータ」は, 全数字コードアドレス」が「割り当てられ

る」対象であることがそれぞれ認められるが , 全数字コードアドレス 」

とネットワークとの物理的な接続関係については何ら特定されておら
ず,また,第2のコンピュータ(請求項1の「電話のポッシュボタンで
ダイヤルアップ或いはコンピュータのキーボード入力でコンピュータの
モデムに入力して 」との記載における「コンピュータ」 については,何

が入力され,何に変換されるのかが,明確に記載されていない。
一方,本願明細書の発明の詳細な説明(甲5 )では ,本願補正発明は ,
国内外で採用されている3つのアドレスの編成方式(IPアドレス,ド
メイン名及び中国ドメイン名システム)では , インターネットに接続す

るコンピュータに独自のアドレスを与えることができるが,アドレスの
編成が複雑で,方式が統一されておらず,覚えにくく,更に入力が難し
いという欠点がある」ことに鑑み(段落【0003】参照) 「ネットワ

ークに接続するコンピュータのアドレスの編成方式に存在する上記の欠
点を克服するために,簡単で覚えやすい全数字コードにより編成方法を
提供することであり,それを用いて,電話のポッシュボタンでダイヤル
アップ或いはコンピュータのキーボード入力によって,電子メールボッ
クスにアクセスしたりインターネットをブラウジングすること」を目的
とし(段落【0004】参照 ) 「全数字コードを用いて,ネットワーク

に接続するコンピュータにアドレスを割り当てる方法」によりこれを実
現するものであって, その特徴は,
「 接続番号と電話番号と類別番号とを
組合せて,全数字コードアドレスを編成すること」であり(段落【00
05】参照) 「全数字コードアドレスを使用する場合,電話ダイヤル又

はコンピュータのキーボード入力により正確な全数字コードを連続的に
入力」すると(段落【0010】参照) 「全数字コードアドレスは,専

用の翻訳ソフトウエアによって,IPアドレス或いはドメイン名或いは
中国ドメイン名システムに変換され」 段落【0007】参照 )「 1つの
( ,
全数字コードアドレスを指定すると,それに対応するIPアドレス或い
はドメイン名或いは中国ドメイン名システムに変換することができ」る
が, コンピュータはIPアドレスしか識別できないため ,
「 本発明が使用
される場合,全数字コードアドレスを世界通用のドメイン名とIPアド
レスに変換するための変換器を設立する必要があり,さらに,本発明の
数字アドレスをIPアドレスに翻訳する機能をもつサーバーを指定する
必要もあり,それによって,コンピュータが識別を実行することができ
る」こと(段落【0012】参照 ),などが説明されている。
(イ) 引用例1(甲1)の記載
引用例1(甲1)には , クライアント側のインターネットへのアクセ

ス機器」に関し,次の記載がある。
「 請求項23 】 複数のクライアントと複数の情報提供サーバとがネ

ットワーク上に接続され,このネットワーク上に置かれている前記情報
提供サーバの蓄積する情報資源をアクセスするためのURLを用いたイ
ンターネットへのアクセスシステムであって,
前記URLに対応する任意の桁数の番号を割り当てる手段と,この割
り当てられた番号と前記URLとの対応関係を示す記憶テーブルと,前
記割り当てられた番号を前記URLに逆変換する検索エンジンとを有
し,
前記割り当てる手段により割り当てられた番号を前記クライアント側
の前記インターネットへのアクセス機器から入力し,この入力された番
号を前記検索エンジンにより前記記憶テーブルを用いて前記URLに逆
変換し,この逆変換されたURLで前記インターネット上の探査を行い ,
該当するデータを表示または取得することを特徴とするインターネット
へのアクセスシステム。 (3頁3欄28行∼43行)

(ウ) 対比
a 本願明細書の請求項1には, 全数字コードアドレスを用いて 」 イ
「 ,

ンターネットにアクセスする」と,その「全数字コードアドレス」が
「割り当てられ」た「ネットワークに接続するコンピュータ」に,ネ
ットワークを通して接続されると記載されているから , ネットワーク

に接続するコンピュータ」とは , コンピュータ 」を,全数字コードア

ドレスが割り当てられて,ネットワークに接続されるものという機能
によって規定されたものと解される。そして,本願補正発明の「第2
のコンピュータ 」 請求項1の 電話のポッシュボタンでダイヤルアッ
( 「
プ或いはコンピュータのキーボード入力で 」 モデムに入力 」する「コ

ンピュータ 」)は ,「全数字コードアドレス」を入力するときに使用さ
れるものであるから, コンピュータ」を,キーボード又はモデムを有

し,かつ,上記の入力機能及び通信機能を果たすという機能によって
規定されたものと解される。
本願補正発明における ネットワークに接続するコンピュータ 」 ,
「 は
上記で規定された機能,目的以外の要素によって格別限定されるもの
ではないから, 第2のコンピュータ」
「 としての機能を有することを排
除しないというべきである。
b 他方,引用発明における「クライアント側のインターネットへのア
クセス機器」は,URLに対応して割り当てられた任意の桁数の番号
の入力を受けて,この番号から逆変換して得た対応するURLでイン
ターネット上の探査を行い,該当するデータを表示又は取得すること
から,本願補正発明において入力機能又は通信機能を果たす第2のコ
ンピュータに相当するということができ,また,インターネット上を
探査することで得たデータを表示又は取得することから, ネットワー

クに接続するコンピュータ」にも相当するということができる。
(エ) 小括
以上によれば, 引用発明の クライアント側のインターネットへのア
「 『
クセス機器』は,本願補正発明の『ネットワークに接続するコンピュー
タ』に相当する 。 とした審決の認定は,本願補正発明における「ネット

ワークに接続するコンピュータ」と第2のコンピュータとが,その目的
及び機能において書き分けている点を十分に説示しているものではない
が,上記認定に誤りがあるということはできない。
イ 原告は,引用発明の「URLに対応する任意の桁の番号」は,本願補正
発明の「コンピュータに割り当てられる全数字コードアドレス」には相当
しないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
(ア) 原告は,本願補正発明の「全数字コードアドレス」は, ネットワー

クに接続するコンピュータに割り当てられる」ものであって,ネットワ
ークにおける物理的な場所を反映したアドレスであると主張する。
しかし,原告の主張は採用の限りでない。すなわち,前記ア(ア)のと
おり,本願補正発明の「全数字コードアドレス」とネットワークとの物
理的な接続関係は,請求項1には何ら記載されていない。そして,本願
明細書の発明の詳細な説明(甲5)における「全数字コードアドレスを
使用する場合,電話ダイヤル又はコンピュータのキーボード入力により
正確な全数字コードを連続的に入力して 」(段落【0010】 ,
) 「全数字
コードアドレスは,専用の翻訳ソフトウエアによって,IPアドレス或
いはドメイン名或いは中国ドメイン名システムに変換され」 段落 00
( 【
07 】 , 1つの全数字コードアドレスを指定すると,
)「 それに対応するI
Pアドレス或いはドメイン名或いは中国ドメイン名システムに変換す
る」 「コンピュータはIPアドレスしか識別できないため,本発明が使

用される場合,全数字コードアドレスを世界通用のドメイン名とIPア
ドレスに変換するための変換器を設立する必要があり,さらに,本発明
の数字アドレスをIPアドレスに翻訳する機能をもつサーバーを指定す
る必要もあり,それによって,コンピュータが識別を実行することがで
きる 」(段落【0012】)などの記載によれば,本願補正発明の「全数
字コードアドレス」は,ネットワークにおける物理的な場所を反映した
アドレスであるということはできず,むしろ, インターネットにアクセ

スする」ために「ネットワークに接続するコンピュータに割り当てられ
る」ものであって,IPアドレス,ドメイン名又は中国ドメイン名シス
テムを求めるために第2のコンピュータに入力されるものにすぎないと
いうべきである。
(イ) 引用例1(甲1)の「本実施の形態1のURLの番号割り当て方法
は,たとえばパーソナルコンピュータ,ゲーム機,家電などのアクセス
機器から,ネットワーク上に置かれている情報資源を統一的にアクセス
するためのURLを用いてインターネットにアクセスする際に,予め長
く複雑な文字列で表現されているURLを比較的短い桁数の番号に割り
当てることで,ユーザの抱える煩わしさを解消することを可能とするも
のである 。(段落【 0021 】 との記載が示すように ,引用発明の「U
」 )
RLに対応する任意の桁数の番号」は,ネットワーク上に置かれている
情報資源を統一的にアクセスするためのURLを用いてインターネット
にアクセスするに際し,予め長く複雑な文字列で表現されているURL
に対して比較的短い桁数で割り当てられた番号であるということができ
る。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)で検討したところによれば,本願補正発明の「コ
ンピュータに割り当てられる全数字コードアドレス 」 ,
と 引用発明の U

RLに対応する任意の桁の番号」とは,インターネット上に接続された
様々なハードウェアをアクセスするために使用する識別子として,数字
(番号)のみを用いるようにした点において,共通する。
なお,数字 番号 )
( のみからなる識別子の対象であるハードウェアは ,
本願補正発明では , ネットワークに接続するコンピュータ」
「 であるのに
対し,引用発明では,サーバとなるホストコンピュータにとどまらず,
当該コンピュータ内の具体的なファイル名ないしサービス名 情報資源 )

まで指定するものであるが,サーバとなるホストコンピュータのアドレ
ス指定までは共通するということができ,前記(ア)のとおり,本願補正
発明の「全数字コードアドレス」はネットワークにおける物理的な場所
を反映したアドレスであるということはできないから, 引用発明の U
「 『
RLに対応する任意の桁数の番号』は,本願補正発明の『全数字コード
アドレス 』に対応する。 とした審決の認定を誤りということはできない 。

ウ 原告は,審決が本願補正発明の「相応するデジタルコードをリンクし」
との構成について検討していない旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
すなわち ,審決には , ネットワークに接続するコンピュータにアドレス

を割り当てる際に,当該コンピュータを識別するための『全数字コードア
ドレス』として,上記『番号』を,いくつ,どのように用いるかは,それ
ぞれの『番号』が周知技術であることを考慮すれば,当業者が適宜に行う
選択事項であり 」(審決書5頁20行∼23行)との説示がある。
ところで,本願補正発明の「相応するデジタルコードをリンク」すると
は,本願明細書の段落【0010】の記載に照らせば,全数字コードアド
レスを,電話ダイヤル又はコンピュータのキーボード入力により正確な全
数字コードを連続的に入力することを意味すると解されるところ,電話ダ
イヤル又はコンピュータのキーボード入力それ自体は,通常行われている
ことであって,格別な技術事項とはいえない。そうすると,本願補正発明
の「相応するデジタルコードをリンクし」との構成について,審決が検討
をしていないとの原告の主張は理由がないというべきである。
エ 原告は, 引用発明の 検索エンジンにより前記URLと前記割り当てら
「 『
れた番号との対応関係を示す記憶テーブルを用いて前記URLに逆変換』
することは,本願補正発明の『専用ソフトウエアによって変換』すること
に相当する 。 , 引用発明の『インターネット上の探査を行う』ことは,本
」「
願補正発明の『インターネットにアクセスすること』に相当する 。 との各

認定が誤りであると主張する。
しかし,原告が上記主張の前提とする前記第3,1(1)ア及びイの各主張
を採用することができないことは,既に説示したとおりである。
そして,検索エンジンによる記憶テーブルを用いた逆変換は専用ソフト
ウェアによる変換の範ちゅうに含まれるものであり,インターネット上の
探査もインターネットにアクセスすることに変わりないことに照らせば,
審決の上記各認定はいずれもこれを是認することができる。
(2) 相違点の看過について
本願補正発明は , 全数字コードアドレス」が,リソースに対するエイリア

スとしてでなく, アドレス 」として「ネットワークに接続されたコンピュー

タに割り当てられる」点において,引用発明と相違すると主張する。
しかし,前記(1)イのとおり ,本願補正発明の「全数字コードアドレス」は
ネットワークにおける物理的な場所を反映したアドレスではなく,IPアド
レス,ドメイン名又は中国ドメイン名システムを求めるためのものにすぎな
いから,原告の上記主張は採用することができない。
2 相違点の容易想到性判断の誤りについて
(1) 相違点1の容易想到性判断の誤りについて
ア 原告は,引用例1における「ネットワーク上に置かれている情報提供サ
ーバの蓄積する情報資源をアクセスするためのURL・・・を用いる 」 審

決書4頁37行∼5頁3行 )旨の記載から ,直ちに, 国又は地域が指定し

たウェブサイトの数字コード」である「接続番号」を用いることが容易と
はいえないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は審決を正解せずにこれを非難
するものであり,失当である。
審決は,「接続番号」について ,「引用例1・・・に『ネットワーク上に
置かれている情報提供サーバの蓄積する情報資源をアクセスするためのU
RL・・・を用いる』旨記載されており,本願補正発明のようなウェブサ
イトを特定するための 国又は地域が指定したウェブサイトの数字コード 』

である『接続番号』を用いることは,KDDIや日本テレコムなど新電電
を利用する場合は『0077』や『0088』が接続番号であり,また,
NTTにも東日本0036,西日本0039,NTTコム0033という
識別番号が付与されていることからみて,格別の技術ではなく , 接続番号 』

を用いることに ,困難性は見いだせない。 審決書4頁37行∼5頁9行 )


との説示から明らかなとおり,URLを用いてネットワーク上の情報資源
(リソース)をアクセスすることが引用例1に記載されている一方,アク
セス対象の特定に「接続番号」を用いることは格別の技術ではないから,
この 接続番号」
「 を用いることに困難性はないと判断したものであって, 国

又は地域が指定したウェブサイトの数字コード」である「接続番号」を用
いることが , ネットワーク上に置かれている情報提供サーバの蓄積する情

報資源をアクセスするためのURLを用いる」との記載から直ちに容易と
なると判断したものではない。
なお,審決は,何に対して「接続番号」を用いるかについて明瞭に説示
していないが,上記説示に引き続き , ネットワークに接続するコンピュー

タにアドレスを割り当てる際に,当該コンピュータを識別するための『全
数字コードアドレス』として,上記『番号』を,いくつ,どのように用い
るかは,それぞれの『番号』が周知技術であることを考慮すれば,当業者
が適宜に行う選択事項であり,本願補正発明のように構成することは,格
別の創意を要することなくなし得たものである 。 (審決書5頁20行∼2

5行)と説示していることに照らせば,審決は,URLに対応する任意の
桁数の番号を割り当てる引用発明において,その割り当てる番号の一部と
して「接続番号」を用いることに困難性はない旨判断したものと理解する
ことができる。
イ 原告は,本願補正発明は , 接続番号と電話番号と類別番号とを組み合わ

せて編成され」た「全数字コードアドレス」を用いることにより,覚えや
すく,管理が便利になり,アドレスの重複がないという顕著な効果を奏す
るのであり,上記各番号それ自体がそれぞれ周知であったとしても,上記
効果を奏する組み合わせを用いることが容易とはいえないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
まず ,「覚えやすく,管理が便利」との点につき検討するに,「全数字コ
ードアドレス」を割り当てる対象が「ネットワークに接続するコンピュー
タ」であることに照らせば,その数は膨大と考えられる一方,本願補正発
明における全数字コードアドレスの編成に用いられる電話番号には「ユー
ザーの・・・個人の電話番号」が含まれる。そして,このような個人の電
話番号を当該ユーザー(個人)自身及び同人と関係が深い者が覚えている
としても,それ以外の者が覚えていることが通常とはいえないこと,そも
そも覚えることができる電話番号の数は限定的であること,馴染みが深い
ものとはいえない接続番号及び類別番号を電話番号の前後に加えて覚える
ことには困難を伴うことからすれば , 覚えやすい」
「 という効果は普遍的な
ものとはいえない。また ,同様に, 管理が便利 」という効果も普遍的とは

いえない。したがって,本願補正発明が「覚えやすく管理が便利」との効
果を奏するものということはできない。
次に , アドレスの重複がない」との点につき検討するに ,アドレスに重

複があれば,個々のコンピュータが一義的に決まらず特定できないことに
なるから, アドレスの重複がない 」ことは,アドレスとして採用するに当

たっての必須事項(必要条件)であり,本願補正発明に特有の効果という
ことはできない。
ウ 原告は,審決が「本願補正発明のようなウェブサイトを特定するための
『 国又は地域が指定したウェブサイトの数字コード』である『接続番号 』」
(審決書5頁3行∼5行)と説示した点につき,本願補正発明の「全数字
コードアドレス」は,エイリアスとしてURLに対応する番号を割り当て
る引用発明とは異なり, ネットワークに接続されたコンピュータに割り当

てられる」 アドレス」であり,コンピュータの特定を行うものであって ,

「ウェブサイトを特定するため」のものではないから,前提が異なると主
張する。
しかし,原告の上記主張が失当であることは,前記1において既に説示
したとおりである。
(2) 相違点2の容易想到性判断の誤りについて
ア 原告は,引用例1には,重複を防いでユニークに番号を割り当てるため
に,ユーザ名のアルファベットに応じて自動生成した番号に対して,さら
に3桁の番号を付与していることが記載されているにすぎず,アドレスを
秘密にするために暗証番号を付与することは記載されていないのに対し,
本願補正発明は,ユーザ名のアルファベットに応じて自動生成された数字
ではなく,接続番号と電話番号と類別番号とを組み合わせて編成された全
数字コードアドレスを用いる,簡単で覚えやすいアドレスシステムであっ
て,ユーザによっては,全数字コードアドレスを推測した第三者からのア
クセスを防止したいという課題が発生するが, 接続番号或いは電話番号の

後に暗証数字番号を付すこと」により,セキュリティ性能を高めることが
できるものであり,このような思想は,引用例1及び2には記載も示唆も
されていないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には , 全数字コードアドレスに

おいて,ユーザが自分のアドレスを秘密にしたい場合,接続番号或は電話
番号の後に暗証数字番号を付すことができ」との記載があり,発明の詳細
な説明(甲5)には ,暗証数字番号に関し , 使用中に ,ユーザが自分のア

ドレスを秘密にしたい場合,接続番号或は電話番号の後に暗証数字番号を
付すことができる。その暗証数字番号は,ユーザが自ら提出して,アドレ
ス編成先に登録することができる」(段落【0010】)との記載があり,
本願補正発明において, 接続番号或いは電話番号の後に暗証数字番号を付

すこと」の目的は,ユーザが自分のアドレスを秘密にすることにあると認
められる。しかし ,本願補正発明は ,上記目的を達成するために , 接続番

号或は電話番号の後に暗証数字番号を付すこと」を特定しているのみであ
り,本願明細書には,暗証数字番号自体の特徴(例えば,桁数)や暗証数
字番号を付す位置(接続番号或は電話番号の後)の技術的意義について,
何らの記載もない。したがって, 接続番号或いは電話番号の後に」付され

る「暗証数字番号」とは,暗証のための数字番号であり,それを取り込ん
だ番号列は , 接続番号或いは電話番号の後に 」相応の数字(番号)を追加

することにより,単に番号の桁数を増やしたものにほかならない。
一方 ,引用例1(甲1 )には,所定の番号列に対して番号を付加(追加 )
することについて,「(4).上位8桁∼10桁の番号も,必要に応じてユー
ザが望む場合には上位1∼5桁,さらに上位1∼7桁のユニーク性を高め
るために3桁の数字を付加する 。(段落【0026 】 との記載があり,ユ
」 )
ーザが望む場合,番号列のユニーク性を高めるために3桁の数字を付加す
る技術が開示されている。本願補正発明と引用発明とは,番号の桁数を増
やした点において共通し,異なる点はない。
そして,弁論の全趣旨によれば,情報を秘密にしたい(秘匿性を高めた
い)場合に,当該情報に暗証番号を付加することは,本願優先日前に周知
の技術であったと認められる。
そうすると,引用例1には,引用発明において,元の番号列のユニーク
性(特異性)を高めるため,新たな数字を付加することが開示されている
ところ,情報を秘密にする(秘匿性を高める)ことは,情報の特異性を高
めることの一態様といえるから ,引用発明において,情報を秘密にする 秘

匿性を高める)ために,暗証数字番号という新たな数字を付加(追加)す
ることは,当業者であれば容易に想到し得たものというべきである。
イ 原告は,引用例1及び2には , ネットワークに接続するコンピュータ 」

に「全数字コードアドレス」を割り当てることは開示されていないと主張
する。
しかし,前記1(1)イのとおり ,本願補正発明の 全数字コードアドレス 」

はネットワークにおける物理的な場所を反映したアドレスであるというこ
とはできず , 引用発明の『URLに対応する任意の桁数の番号 』は,本願

補正発明の『全数字コードアドレス』に対応する 。 とした審決の認定に誤

りはないから,原告の上記主張は失当である。
(3) その他の誤りについて
ア 原告は,本願補正発明は , 全数字コードアドレス 」が,リソースに対す

るエイリアスとしてでなく , アドレス 」として「ネットワークに接続され

たコンピュータに割り当てられる」点において,引用発明と相違するとこ
ろ,引用例1及び2には,オペレータとIPアドレスとの間に位置するネ
ットワークエイリアスに関する技術が記載されているにとどまり,本願補
正発明のような,IPアドレスとネットワークの実体との間に位置する技
術については,何らの記載も示唆もないと主張する。
しかし,本願補正発明は , 全数字コードアドレス 」が,リソースに対す

るエイリアスとしてでなく , アドレス 」として「ネットワークに接続され

たコンピュータに割り当てられる」ものであり,IPアドレスとネットワ
ークの実体との間に位置する技術である旨の原告主張が失当であること
は,前記1(1)ア,イ及び(2)のとおりである。したがって,原告の上記主
張はその前提を欠くものであって,採用することができない。
イ 原告は,本願補正発明は,①「ネットワークに接続するコンピュータに
割り当てられる全数字コードアドレス」が,ネットワーク及びネットワー
クに接続されたコンピュータによって直接使用されることができ,アドレ
ッシング処理が非常に簡単にされる ,②「全数字コードアドレス」は, 接

続番号と電話番号と類別番号とを組み合せて編成され」たものであり,覚
えやすく,管理が簡単となり,アドレスの重複がないものとなる,③「前
記全数字コードアドレスにおいて,ユーザが自分のアドレスを秘密にした
い場合,接続番号或は電話番号の後に暗証数字番号を付すことができ 」 セ

キュリティの向上も可能である,という作用効果を奏し,これらの作用効
果は,引用例1及び2の記載から当業者が予測できる範囲のものであると
はいえないと主張する。
しかし,①本願補正発明が, ネットワークに接続するコンピュータに割

り当てられる全数字コードアドレス」が,ネットワーク及びネットワーク
に接続されたコンピュータによって直接使用されることができ,アドレッ
シング処理が非常に簡単にされるとの原告主張の作用効果を奏するといえ
ないことは ,前記1(1)ア ,イ及び(2)に説示したところから明らかであり ,
②「接続番号或は電話番号の後に暗証数字番号を付すこと 」は,前記(2)の
とおり,引用発明及び周知技術から容易に想到し得たものであって,これ
によるセキュリティの向上も可能であるという作用効果も当業者が予測で
きないものではなく ,③本願補正発明が, 覚えやすく,
「 管理が簡単となり ,
アドレスの重複がない」との作用効果を奏するといえないことは,前記(1)
イのとおりである。
3 結論
上記検討したところによれば,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,
原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。また,審決に,これを取り消す
べきそのほかの誤りがあるとも認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 嶋 末 和 秀

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