平成16(ワ)12975実用新案権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成20年1月23日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告大宇電子ジャパン株式会社 原告船井電機株式会社
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法令 |
実用新案権
特許法104条の33回 特許法29条の22回 実用新案法39条1項1号1回 実用新案法37条1項3号1回 特許法100条1回
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キーワード |
刊行物145回 無効43回 進歩性39回 分割22回 新規性15回 審決13回 実施12回 特許権8回 訂正審判7回 無効審判6回 実用新案権6回 差止6回 侵害3回 損害賠償3回 優先権1回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,原告が被告に対し,被告製品が原告の有する実用新案権及び特許権を侵
害するとして,特許法100条及び実用新案法27条に基づく被告製品の輸入,販
売等の差止め及び廃棄,並びに不当利得返還請求権(民法703条)及び損害賠償請
求権(同法709条)に基づく金員の支払を求めたのに対し,被告が,構成要件の非
充足及び特許権等の無効を主張して争った事案である。 |
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判決文
平成20年1月23日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成16年(ワ)第12975号 実用新案権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成19年10月12日
判 決
大阪府大東市〈以下略〉
原告 船井電機株式会社
訴訟代理人弁護士 安江邦治
訴訟復代理人弁護士 北原潤子
東京都台東区〈以下略〉
被告 大宇電子ジャパン株式会社
訴訟代理人弁護士 牧野利秋
同 矢部耕三
訴訟代理人弁理士 松山美奈子
訴訟復代理人弁護士 花井美雪
補佐人弁理士 大塚就彦
同 西山文俊
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載1ないし4の物件を生産し,使用し,譲渡し,貸
し渡し若しくは輸入し,又は譲渡若しくは貸渡しの申し出をしてはならない。
2 被告は,前項記載の物件を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,7億9000万円及びこれに対する平成16年6月2
4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が被告に対し,被告製品が原告の有する実用新案権及び特許権を侵
害するとして,特許法100条及び実用新案法27条に基づく被告製品の輸入,販
売等の差止め及び廃棄,並びに不当利得返還請求権(民法703条)及び損害賠償請
求権(同法709条)に基づく金員の支払を求めたのに対し,被告が,構成要件の非
充足及び特許権等の無効を主張して争った事案である。
1 前提事実
(1) 当事者
ア 原告は,各種電機器具の製造販売等を業とする株式会社である。
イ 被告は,家庭用電気製品及びその部品の販売,輸出入,修理等を業とする株
式会社である。
(以上,争いのない事実)
(2) 本件特許権等
ア 第一権利
(ア) 原告は,以下の実用新案権を有していた(以下,この実用新案権を「第一
権利 」,その考案を「本件考案1」といい,第一権利に係る明細書及び図面を「第
一権利明細書」といい,別紙としてその登録公報(甲3)を添付する。)。
登録番号 実用新案登録第2530916号
考案の名称 磁気テープ装置
出願日 平成4年6月12日
登録日 平成9年1月10日
実用新案登録請求の範囲【請求項1】
第一権利明細書の該当欄に記載のとおり
(イ) 構成要件の分説
本件考案1を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,各構成要件を
「構成要件A」のように表記する。)。
A 記録及び/または再生部をシャーシ内に組み込んだデッキ本体を,プリント
配線基板を底部に装備した装置筐体内に配置し,上記装置筐体を構成するシャーシ
底部から起立したデッキ取付け部に,上記デッキ本体のシャーシの後部を取付け,
支持するように構成した磁気テープ装置において,
B 上記装置筐体のシャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して,上記デ
ッキ取付け部を配置,形成した
C ことを特徴とする磁気テープ装置。
(以上,争いのない事実)
(ウ) 対象製品
原告が第一権利に基づき差止め等を求める対象製品は,別紙物件目録記載1のイ
号物件①である(以下「イ号物件①」といい,他の物件についても同様に略称す
る。)。
イ 第三権利
(ア) 原告は,以下の特許権を有していた(以下,この特許権を「第三権利 」,
その請求項1の発明を「本件発明3」といい,第三権利に係る明細書及び図面を
「第三権利明細書」といい,別紙としてその特許公報(甲10)を添付する。)。
特許番号 特許第2921538号
発明の名称 ビデオ装置及び映像装置
出願日 平成4年2月28日
優先権主張 平成3年11月6日(日本国)
登録日 平成11年4月30日
特許請求の範囲【請求項1】
第三権利明細書の該当欄に記載のとおり
(イ) 構成要件の分説
本件発明3を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
D 回路基板上に高周波トランスを含む電源回路が設けてあり,該回路基板の上
方にビデオ機構部品搭載用シャーシが略平行に配置され,かつ該ビデオ機構部品搭
載用シャーシ上にビデオ・ヘッド・シリンダが搭載されたビデオ装置であって,
E 前記高周波トランスは,その高周波磁束を生ずるコア・ギャップの面を前記
回路基板の面に対して水平となるように配置し,該高周波トランスからの漏れ磁束
の磁力線方向が,前記ビデオ・ヘッド・シリンダのヘッド・ギャップのピックアッ
プしやすい磁力線方向と略直交するように構成した
F ことを特徴とするビデオ装置。
(以上,争いのない事実)
(ウ) 対象製品
原告が第三権利に基づき差止め等を求める対象製品は,イ号物件①及び②である。
ウ 第四権利
(ア) 原告は,以下の特許権を有している(以下,この特許権を「第四権利 」,
その請求項1の発明を「本件発明4の1 」,その請求項2の発明を「本件発明4の
2」といい,第四権利に係る明細書及び図面を「第四権利明細書」といい,別紙と
してその特許公報(甲11)を添付する。)。
特許番号 特許第3293116号
発明の名称 映像信号受信装置
出願日 平成6年10月26日
登録日 平成14年4月5日
特許請求の範囲【請求項1】及び【請求項2】
第四権利明細書の該当欄に記載のとおり
(イ) 構成要件の分説
本件発明4の1及び本件発明4の2を構成要件に分説すると,以下のとおりであ
る。
a 本件発明4の1
G 混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回路と,前記局部発振信号の出
力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,前記局部発振回路の局部発振
信号の周波数を受信周波数に対応した周波数に設定するPLL回路とを備えた映像
信号受信装置において,
H 第2の基準信号を用いて,前記混合回路から出力される中間周波信号を検波
することにより得られた映像信号から色信号を復調する色信号回路を備え,
I 前記第2の基準信号を前記第1の基準信号として前記PLL回路に与えた
J ことを特徴とする映像信号受信装置。
b 本件発明4の2
K 混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回路と,前記局部発振信号の出
力と第1の基準信号との位相比較を行うことにより,前記局部発振回路の局部発振
信号の周波数を受信周波数に対応した周波数に設定するPLL回路と,装置本体の
動作を制御するマイクロコンピュータとが設けられた映像信号受信装置において,
L 前記マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号と前記第1の基準
信号とを,同一信号源から得る
M ことを特徴とする映像信号受信装置。
(以上,争いのない事実)
(ウ) 対象製品
原告が第四権利に基づき差止め等を求める対象製品は,イ号物件①及びロ号物件
である。
エ 第五権利
(ア) 原告は,以下の実用新案権を有していた(以下,この実用新案権を「第五
権利 」,後記(イ)の訂正後の考案を「本件考案5」といい,訂正前の考案を「本件
訂正前考案5」といい,第五権利に係る明細書及び図面を「第五権利明細書」とい
い,別紙としてその登録公報(甲12)を添付する。)。
登録番号 実用新案登録第2571891号
考案の名称 ビデオテープ記録再生装置
出願日 平成4年1月10日
登録日 平成10年2月27日
実用新案請求の範囲【請求項1】(本件訂正前考案5)
第五権利明細書の該当欄に記載のとおり
(イ)a 原告は,平成17年4月22日,本件訂正前考案5につき,次の内容の
訂正審判請求(訂正2005−39068)を行った(甲39)。
b 上記訂正審判請求は,構成要件Nを後記(ウ)の下線部のとおり訂正し,そ
れに合わせて【0005 】【課題を解決するための手段】等の記載を訂正するもの
である。
c 上記訂正審判請求につき,特許庁は,平成17年7月21日,訂正を認め
る旨の審決をした(甲45)。
(ウ) 構成要件の分説
本件考案5を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
N 電源回路の電子部品を1枚のプリント配線基板の1所定領域である電源領域
に実装し,前記電源回路以外のビデオ電子部品を前記プリント配線基板の電源領域
以外の領域であるビデオ回路領域に実装した前記プリント配線基板と,前記プリン
ト配線基板に対して平行に配置され,かつその上に搭載されたビデオヘッドシリン
ダのコアギャップが,その面に対してほぼ垂直の方向になるように形成されたビデ
オ機構部品搭載用シャーシとを具備し,
O 前記電源領域の電源回路はスイッチング・レギュレータ回路で構成し,
P 前記回路の高周波トランスは,そのコアのギャップによる高周波漏れ磁束を
生ずるコアギャップに面を前記プリント配線基板に平行に配置し,
Q 前記電源領域にはAC商用電源端子を有し,
R 前記ビデオ回路領域にはチューナ,IFアンプおよびRFコンバータの回路
端子を有する
S ことを特徴とするビデオテープ記録再生装置。
(以上,争いのない事実)
(ウ) 対象製品
原告が第五権利に基づき差止め等を求める対象製品は,イ号物件①ないし③であ
る。
(3) 被告の行為
ア 輸入等
被告は,平成14年7月から,業として,イ号物件①ないし③及びロ号物件を輸
入し,我が国において販売している。
(争いのない事実(明らかに争わない事実を含む。))
イ 第一権利
(ア) 原告は,イ号物件①の第一権利に対応する構成として,別紙「第一権利用
イ号物件①説明書」のとおり主張した。
(イ) 被告は,同説明書3(3)の「近接して」の点を否認し,その余を認めた。
(ウ) 上記「近接して」は,「一体として」と認定する。
(甲16∼23)
ウ 第四権利
(ア) イ号物件①
a 原告は,イ号物件①の第四権利に対応する構成として,別紙「第四権利用
イ号物件①説明書」のとおり主張した。
b 被告は,同説明書2(2)アの点(復調),2(2)イ及び(4)イの点(第2の基準
信号)並びに2(3)及び(5)イの点(同一信号源)を否認し,その余を認めた。
c 同説明書2(2)ア「復調」の点については,「再生モードにおいて,色信号
IC18は,第2の基準信号(水晶発振子17からの出力)を用いて,低域搬送色信
号を搬送色信号に周波数変換している。」と認定する。
(甲16∼23,弁論の全趣旨)
(イ) ロ号物件
a 原告は,ロ号物件の第四権利に対応する構成として,別紙「第四権利用ロ
号物件説明書」のとおり主張した。
b 被告は,弁論の全趣旨により,その構成を否認した。
(4) 審決等
ア 第一権利
(ア)a 被告は,平成16年10月4日,第一権利につき,無効審判請求(無効
2004−80173)を行い,特許庁は,平成17年6月9日,第一権利を無効
とする旨の審決をした(乙52)。
b これに対し,原告は,平成17年6月28日,審決取消訴訟(平成17年
(行ケ)第545号)を提起した(甲37)。
(イ)a 原告は,同月30日,本件考案1につき,訂正審判請求(訂正2005
−39113)を行った(甲38)。
b 上記訂正審判請求は,構成要件Aを次のように訂正し,それに合わせて
【0005 】【課題を解決する手法】の記載を訂正するものである(以下,訂正後
の本件考案1を「本件訂正考案1」という。)。
「A’ 記録及び/または再生部をシャーシ内に組み込んだデッキ本体を,パル
ス・トランスを取り付けたプリント配線基板を底部に平面的に配設した装置筐体内
に配置し,上記装置筐体を構成するシャーシ底部から起立したデッキ取付け部に,
上記デッキ本体のシャーシの後部を取付け,支持するように構成した磁気テープ装
置において,」
c 特許庁は,平成18年8月7日,上記訂正審判請求を認めない旨の審決を
した。
d これに対し,原告は,平成18年9月13日,審決取消訴訟(平成18年
(行ケ)第10412号)を提起した。
(以上,争いのない事実)
イ 第三権利
(ア) 被告は,平成17年11月21日,本件発明3につき,無効審判請求(無
効2005−80332)を行い(乙72),特許庁は,平成18年7月31日,本
件発明3についての特許を無効とする旨の審決をした(乙98)。
(イ) これに対し,原告は,平成18年9月5日,審決取消訴訟(平成18年(行
ケ)第10402号)を提起したが,知的財産高等裁判所は,平成19年6月28日,
請求棄却の判決をし(乙126),同判決は確定した。
(以上,争いのない事実)
ウ 第四権利
(ア)a 被告は,平成17年4月14日,第四権利につき,無効審判請求(無効
2005−80117)を行い,原告は,同年7月21日,本件発明4の1につき
訂正請求を行った(甲40)。
b 上記訂正請求は,構成要件Hを次のように訂正し,それに合わせて【00
05 】【課題を解決する手法】の記載を訂正するものである(以下,訂正後の本件
発明4の1を「本件訂正発明4の1」といい,訂正後の本件発明4の2を「本件訂
正発明4の2」という。)。
「H’ 前記混合回路から出力される中間周波信号を検波することにより得られ
た映像信号から, 略3.58MHzの第2の基準信号を用いて, 色信号を復調す
る略3.58MHzの色信号回路を備え,」
c 上記各請求につき,特許庁は,平成18年1月19日,訂正を認め,無効
審判請求は成り立たないとする審決をした(甲51)。
(イ)a これに対し,被告は,平成18年2月15日,審決取消訴訟(平成18
年(行ケ)第10076号)を提起した。
b 知的財産高等裁判所は,平成19年6月28日,上記訂正は適法であるが,
本件訂正発明4の1及び本件訂正発明4の2は進歩性欠如の無効理由があるとの理
由で,上記審決を取消す旨の判決をした(乙127)。
(以上,争いのない事実)
エ 第五権利
(ア) 被告は,平成17年11月21日,第五権利につき,無効審判請求(無効
2005−80334)を行い(乙73),特許庁は,平成18年7月18日,本件
考案5についての実用新案登録を無効とする旨の審決をした(乙97)。
(イ) これに対し,原告は,審決取消訴訟(平成18年(行ケ)第10379号)を
提起したが,知的財産高等裁判所は,平成19年6月28日,請求棄却の判決をし
(乙128),同判決は確定した。
(以上,争いのない事実)
(5) 第三権利及び第五権利についての結論
前記(4)イ及びエのとおり,本件発明3についての特許及び本件考案5について
の実用新案登録は,無効審判請求による無効が確定した。
よって,原告の請求のうち,第三権利(請求項1)及び第五権利に基づくものは,
その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
(6) 構成要件の充足
ア 第一権利
(ア) イ号物件①は,構成要件A及びCを充足する。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(イ)a また,前提事実(3)イで認定したイ号物件①の構成によれば,イ号物件
①は,構成要件Bを充足すると認められる。
b 被告は,構成要件Bの「近接」は,近接関係にある2種類以上の部材が連
続形成される一体構造を含まない旨主張する。
確かに,構成要件Bの「近接」が一体配置を含むか否かは,実用新案登録請求の
範囲の記載からは一義的に明確でないが,第一権利明細書の考案の詳細な説明【0
008】には,デッキ取付け部をバックパネル部に「連続して形成されている」実
施例が記載されている。したがって,構成要件Bの「近接」は「一体配置」を含む
ものであり,被告の上記主張は採用することができない。
(ウ) したがって,イ号物件①は,本件考案1の構成要件をすべて充足する。
イ 第四権利
イ号物件①は,構成要件G及びJ(本件発明4の1)並びに構成要件K及びM(本
件発明4の2)を充足する。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
2 争点
(1) 被告製品の構成要件充足性
ア 構成要件H(本件発明4の1)
イ 構成要件I(本件発明4の1)
ウ 構成要件L(本件発明4の2)
(2) 第一権利及び第四権利の無効
ア 第一権利
(ア) 新規性欠如(乙1)
(イ) 進歩性欠如(乙1)
(ウ) 進歩性欠如(乙2)
(エ) 新規性欠如(乙10)
(オ) 新規性又は進歩性欠如(乙35)
(カ) 記載不備(近接)
(キ) 本件訂正考案1の無効
イ 本件発明4の1
(ア) 新規性欠如(乙43)
(イ) 進歩性欠如(乙43)
(ウ) 新規性欠如(乙44)
(エ) 進歩性欠如(乙44)
(オ) 進歩性欠如(乙45)
(カ) 本件訂正発明4の1の無効
ウ 本件発明4の2
(ア) 新規性欠如及び進歩性欠如(乙42)
(イ) 進歩性欠如(乙30)
(ウ) 進歩性欠如(乙31)
(エ) 進歩性欠如(乙32)
(オ) 進歩性欠如(乙33)
(カ) 特許法29条の2違反(乙29)
(3) 不当利得及び損害の額
3 争点(1)(被告製品の構成要件充足性)についての当事者の主張
(1) 構成要件H(本件発明4の1)
ア 原告の主張
(ア) クレーム解釈
a 構成要件Hにいう「復調」は,再生モードにおいて,混合回路から出力さ
れる中間周波信号を検波することにより得られた映像信号(低域搬送色信号)を色信
号(搬送色信号)に周波数変換することを含む。
b このような周波数変換の動作について ,「復調」という用語が使用さ
れている(家電製品協議会編「家電修理技術資格シリーズ ビデオとテープレ
コーダ 増補版」(甲32)の90頁)。
(イ) まとめ
イ号物件①(前提事実(3)ウ(ア))及びロ号物件では,再生モードにおいて,混合回
路から出力される中間周波信号を検波することにより得られた映像信号(低域搬送
色信号)を色信号(搬送色信号)に周波数変換しているから,構成要件Hを充足する 。
イ 被告の主張
(ア) クレーム解釈
a(a) 原告の主張(ア)aは争う。
(b) 「復調」とは,変調過程の1つであり,受信した既変調信号を用いて,
原信号の特性を得ることである(乙27)。
b(a) 同(ア)bは認める。
(b) 「復調」を周波数変換や混合(ミクサ)の動作の意味で用いることがある
が,不適切な用法である(乙27)。
(イ) まとめ
同(イ)は否認する。
(2) 構成要件I(本件発明4の1)
ア 原告の主張
(ア) クレーム解釈
構成要件Iの「前記第2の基準信号」は,バースト信号に位相同期するように生
成された信号に限られない。
(イ) 被告製品
a イ号物件①
(a) イ号物件①の第1の基準信号と第2の基準信号は,いずれも水晶発振子
7の信号である。
(b) 仮に ,「前記第2の基準信号」がバースト信号に位相同期する信号に限
られるとしても,色信号ICが混合回路から出力される中間周波信号を検波するこ
とにより得られた映像信号の一部である搬送色信号を低域変換して低域搬送色信号
を得ている時(記録モード時)に,バースト信号と第1の基準信号とは位相同期して
いる(甲28)。
b ロ号物件
ロ号物件においても,上記aと同様である。
(ウ) まとめ
以上によれば,イ号物件①及びロ号物件は,構成要件Iを充足する。
イ 被告の主張
(ア) クレーム解釈
原告の主張(ア)は争う。
構成要件Iの「前記第2の基準信号」は,第四権利明細書の発明の詳細な説明
【0012】から明らかなように,ランダムに発振される水晶発振子7の信号を制
御し,ランダムに入力されたバースト信号に位相同期するように生成された信号を
意味する。
(イ) 被告製品
a イ号物件①
(a) 同(イ)a(a)は,認める。
ただし,イ号物件①におけるPLL回路で用いられる基準信号は,色信号と同期
される前の段階で水晶発振子の出力(3.58MHz)を増幅したものであるから,
構成要件Iの「前記第2の基準信号」には当たらない。
(b) 同(イ)a(b)は否認する。
原告が行った測定(甲28)は,外部の周波数の変化に応じて第1の基準信号の周
波数が変化することを示しているが,第1の基準信号がバースト信号に位相同期す
ることを実証するものではない。
被告が行った測定(乙46)によれば,第1の基準信号とバースト信号は同期して
いない。
b ロ号物件
同(イ)bは否認する。
(ウ) まとめ
同(ウ)は否認する。
(3) 構成要件L(本件発明4の2)
ア 原告の主張
(ア) 被告製品
a イ号物件①
(a) イ号物件①では,まず, 水晶発振器の出力(fsc)がA/V IC内部の
PLL回路内の「Phase divider」に供給され,次いで,上記PLL回路は,
水晶発振器の出力(fsc)に基づいて水晶発振器の出力(fsc)の4逓倍出力(4fs
c)をマイクロコンピュータに出力している。
(b)一 また,原告の実験(甲28)によると,色信号IC18で使用され
る基準信号の信号源である水晶発振子17をショートさせない状態ではマイク
ロコンピュータIC19のピン39からの出力が安定し,逆に,水晶発振子1
7をショートさせた状態ではマイクロコンピュータIC19のピン39からの
出力が安定しなかった。
二 この結果は,マイクロコンピュータIC19は水晶発振子17から
クロック信号の供給を受けていることを示している。
b ロ号物件
ロ号物件においても,上記a(a)と同様である。
(イ) まとめ
したがって,イ号物件①及びロ号物件は,チューナの局部発振器用PLL回路で
使用される基準信号と,マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号とを
同一の信号源(水晶発振器)から得ており,構成要件Lを充足する。
イ 被告の主張
(ア) 被告製品
a イ号物件①
(a) 原告の主張(ア)a(a)は否認する。
イ号物件① においては,チューナの局部発振用PLL回路で使用される基準
信号は,A/V ICに接続された水晶発振子から出力されるのに対し,マイ
クロコンピュータの基準信号となるクロック信号は,上記A/V IC内部の
PLL回路自体内にある電圧制御発振器(VCO:voltage controlled oscill
ator)という別の発振器を通して発振された信号である。
(b) 同(ア)a(b)のうち,一は不知,二は否認する。
b ロ号物件
同(ア)bは否認する。
(イ) まとめ
同(イ)は否認する。
4 争点(2)(第一権利及び第四権利の無効)についての当事者の主張
(1) 第一権利
第一権利には,次の無効理由があるから,原告は,第一権利を行使することがで
きない(実用新案法30条,特許法104条の3)。
ア 新規性欠如(乙1)
(ア) 被告の主張
a 乙1刊行物
(a) 大韓民国特許庁発行の91−3347号公開実用新案公報(乙1。公開日
平成3年2月27日。以下「乙1刊行物」といい,それに記載された考案を「乙1
考案」といい,他の刊行物等についても同様に略称する。)の第1図及び第3図に
は,「メインデッキ(3)」を「キャビネット(1)」内に配置し ,「キャビネット(1)」
を構成する下部キャビネットから起立した「ボス(2)」に ,「メインデッキ(3)」の
シャーシの後部を取り付け,支持するように構成したVTR装置において ,「キャ
ビネット(1)」のシャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して ,「ボス(2)」
を配置,形成したVTR装置が開示されている。
(b) 後記原告の主張a(b)(一枚基板)は,明細書の記載に基づかない主張にす
ぎない。
b まとめ
よって,本件考案1は,乙1考案と実質上同一である。
(イ) 原告の主張
a 乙1刊行物
(a) 被告の主張a(a)のうち,乙1刊行物に ,「メインデッキ(3)」を「キャ
ビネット(1)」内に配置したこと,及び「ボス(2)」に「メインデッキ(3)」のシャ
ーシの後部を取り付け,支持するように構成したVTR装置が開示されていること
は認め,その余は否認する。
(b)一 後記キ(イ)b(c)八のとおり,本件考案1の「プリント配線基板」は,
「装置筐体の底部の左右いっぱいに延伸した大きさのプリント配線基板で,その上
に電源ユニットであるパルス・トランスを実装したもの」(以下,このような構成
を「一枚基板」ということがある。)を意味するところ,乙1考案には,このよう
な構成は存しない。
二 また,乙1考案の「ボス(2)」は,キャビネット(1)の側面隅の平面上に
形成されているから,構成要件Aの「装置筐体を構成するシャーシ底部から」起立
したデッキ取付け部の構成は存せず,バック・パネル部に「近接して」上記デッキ
取付け部を配置・形成した構成も存しない。
b まとめ
同bは否認する。
イ 進歩性欠如(乙1)
(ア) 被告の主張
a 一致点及び相違点
本件考案1と乙1考案との間に相違点があるとしても,乙1刊行物に①「記録及
び/または再生部をシャーシ内に組み込んだデッキ本体 」,及び②プリント配線基
板を「底部に」装着した装置筐体が明確に記載されていない点で相違し,その余の
点で一致する。
b 副引用例
(a) 乙2刊行物
後記ウ(ア)aのとおり,乙2刊行物には ,「記録及び/または再生部(録画,再生
部26)をシャーシ内に組み込んだデッキ本体(メカデッキ12)を,プリント配線
基板(主基板ユニット17)を底部(底面11a)に装備した装置筐体(シャーシ枠体
11)内に配置し」た構成が記載されている。
(b) 乙10刊行物
後記エ(ア)aのとおり,乙10刊行物には ,「記録及び/または再生部をシャー
シ内に組み込んだデッキ本体(テープメカニズム2を載置するメカブラケット1)を,
プリント配線基板(配線基板4)を底部に装備した装置筐体(ロワーケース6,アッ
パーケース5,フロントケース7,リアケース25)内に配置し」た構成が記載さ
れている。
(c) 技術常識
「記録及び/または再生部をシャーシ内に組み込んだデッキ本体」及びプリント
配線基板を「底部に」装着した装置筐体は,従来,常識的に採用されていた構成に
すぎない(後記乙35P装置の写真8及び9)。
(d) 副引用例等の開示内容
よって,①「記録及び/または再生部をシャーシ内に組み込んだデッキ本体」及
び②プリント配線基板を「底部に」装着した装置筐体は,そもそも技術常識であり,
必要があれば,乙2刊行物及び乙10刊行物に開示されている。
c 組合せの容易性
したがって,乙1刊行物に記載されている「メーンデッキ(3)(デッキ本体に相
当)をキャビネット(1)(装置筐体に相当)内に配置し,キャビネット(1)を構成する
下部キャビネット(装置筐体を拘置するシャーシ底部に相当)から起立したボス(2)
(デッキ取付け部に相当)に,メーンデッキ(3)のシャーシの後部を取り付け,支持
するように構成したVTR装置(磁気テープ装置に相当)で,キャビネット(1)のシ
ャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して,ボス(2)を配置,形成したも
の」において,メーンデッキ(3)を①記録及び/または再生部をシャーシ内に組み
込んだ構成とすること,並びに②プリント配線基板を下部キャビネットに装着した
構成とすることに,何ら困難性はない。
d まとめ
以上からすれば,本件考案1は,乙1考案(前記ア(ア)a)に基づいて,技術常識
(乙35供述書の前半),又は乙2考案及び乙10考案を考慮することにより,当業
者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから,進歩性欠如の無効理
由を有する。
(イ) 原告の主張
a 一致点及び相違点
被告主張の相違点は認め,一致点は否認する。
本件考案1と乙1考案とは,③本件考案1のプリント配線基板は「一枚基板」で
あるのに対し,乙1考案には,このような一枚基板の構成は存しない点,④乙1考
案の「ボス(2)」は,キャビネット(1)の側面隅の平面上に形成されているから,乙
1考案には ,「装置筐体を構成するシャーシ底部から」起立したデッキ取付け部の
構成は存せず,バック・パネル部に「近接して」上記デッキ取付け部を配置・形成
した構成は存しない点でも相違する。
b 副引用例
(a) 乙2刊行物
同b(a)は否認する。
(b) 乙10刊行物
同b(b)は否認する。
(c) 技術常識
同b(c)は否認する。
(d) 副引用例等の開示内容
同b(d)は否認する。
c 組合せの容易性
同cは否認する。
d まとめ
同dは否認する。
ウ 進歩性欠如(乙2)
(ア) 被告の主張
a 乙2刊行物
(a)一 特開昭61−122990号公報(乙2刊行物)の第1図には,磁気記
録再生装置のシャーシ構造を概略的に示す分解斜視図が示されており ,「11はプ
ラスチックなどで一体成形されたシャーシ枠体で」(2頁右下欄13行∼14行),
「上記シャーシ枠体11の前部にはメカデッキ12の前部を保持するための第1保
持部14が設けられており,これはシャーシ枠体の底面11aからボス状に一体形
成されており」(2頁右下欄17行∼20行)と記載されている。
二 この記載によれば,乙2刊行物には ,「プラスチックなどで一体成形さ
れた装置筐体(シャーシ枠体11)を構成するシャーシ底部(底面11a)から起立し
たデッキ取付け部(第1保持部14)」が記載されている。
(b)一 また,乙2刊行物の第2図には,シャーシ枠体11の底面11aのす
ぐ上で,メカデッキ12の下方に,主基板ユニット17が配置されていることが示
されている。主基板ユニット17については ,「17はほとんどの主要回路部品が
搭載された主基板ユニット」(3頁左上欄13行∼14行)と記載されている。
二 この記載によれば,乙2刊行物には ,「プリント配線基板(主基板ユニッ
ト17)を底部(底面11a)に装着した装置筐体(シャーシ枠体11)」が記載され
ている。
(c)一 さらに,乙2刊行物の第6図には,録画,再生部26が載置されてい
るメカデッキ12が,主基板ユニット17を底面11aに装備したシャーシ枠体1
1内に配置した状態が示されている。
二 この記載によれば,乙2刊行物には ,「記録及び/または再生部(録画,
再生部26)をシャーシ内に組み込んだデッキ本体(メカデッキ12)を,プリント
配線基板(主基板ユニット17)を底部(底面11a)に装備した装置筐体(シャーシ
枠体11)内に配置し」た構成が記載されている。
(d) 以上のことから,乙2刊行物には ,「記録及び/または再生部(録画,再
生部26)をシャーシ内に組み込んだデッキ本体(メカデッキ12)を,プリント配
線基板(主基板ユニット17)を底部(底面11a)に装備した装置筐体(シャーシ枠
体11)内に配置し,装置筐体(シャーシ枠体11)を構成するシャーシ底部(底面1
1a)から起立したデッキ取付け部(第1保持部14)に,デッキ本体(メカデッキ1
2)の前部を取付け,支持するように構成した磁気テープ装置において,装置筐体
(シャーシ枠体11)のシャーシ前部を構成するフロントパネル部に近接して,デッ
キ取付け部(第1保持部14)を配置,形成した磁気テープ装置」が記載されている。
b 一致点及び相違点
(a) 本件考案1と乙2考案とを対比すると,「記録及び/または再生部(録画,
再生部26)をシャーシ内に組み込んだデッキ本体(メカデッキ12)を,プリント
配線基板(主基板ユニット17)を底部(底面11a)に装備した装置筐体(シャーシ
枠体11)内に配置し,装置筐体(シャーシ枠体11)を構成するシャーシ底部(底面
11a)から起立したデッキ取付け部(第1保持部14)に,デッキ本体(メカデッキ
12)を取付け,支持するように構成した磁気テープ装置において,装置筐体(シャ
ーシ枠体11)のシャーシを構成するパネル部に近接して,デッキ取付け部(第1保
持部14)を配置,形成した磁気テープ装置」である点で一致する。
(b) しかし,本件考案1においては,デッキ取付け部がシャーシ後部を構成
するバックパネル部に近接しているのに対し,乙2考案においては,デッキ取付け
部(第1保持部14)が装置筐体(シャーシ枠体11)のシャーシ前部を構成するフロ
ントパネル部に近接している点で異なる。
c 相違点についての判断
(a) ビデオテープレコーダなどの磁気記録装置において,小型軽量化は,普
遍的な技術課題である。
(b) 従来の磁気テープ装置においては,デッキ本体とバックパネル部との間
にチューナ等の部品を配置していたために,デッキ取付け部はバックパネル部から
当然に離隔して設けられていたが,デッキ本体とバックパネル部との間のチューナ
等の部品を排除することによって,デッキ本体の位置をバックパネル部に近付け,
デッキ取付け部もバックパネル部に近接させることは,当業者の設計的事項にすぎ
ない。
(c)一 さらに,デッキ本体と装置筐体のバックパネル部との間にチューナ等
の部品を配置しない構成にすることによってデッキ本体をバックパネル部に近接さ
せて配置できることは,乙1刊行物の第1図,後記乙10刊行物の第1図及び第3
図,並びに後記乙35P装置の写真8及び9からも,明らかである。
二 したがって,乙2考案において,フロントパネル部に近接して配置,形
成されている第1保持部14(デッキ取付け部)を,装置筐体内のチューナなどの部
品の配置に応じてバックパネル部にも近接して配置,形成する程度のことは,当業
者であればきわめて容易になし得たことにすぎない。
三 また,デッキ取付け部をバックパネル部に近接して配置,形成すること
により得られる効果も,予測される範囲内のものにすぎない。
d まとめ
以上によれば,本件考案1は,乙2考案に基づいて,乙1刊行物,乙10刊行物
及び乙35P装置に示されている技術常識を考慮することにより,当業者がきわめ
て容易に考案をすることができたものであるから,進歩性欠如の無効理由を有する。
(イ) 原告の主張
a 乙2刊行物
被告の主張a(a)のうち,一は認め,二は否認する。
同a(b)のうち,一は認め,二は否認する。
同a(c)のうち,一は認め,二は否認する。
同a(d)は否認する。
b 一致点及び相違点
(a) 同bのうち,被告主張の相違点は認め,一致点は否認する。
本件考案1と乙2考案とは,②乙2考案には ,「一枚基板」の構成は存しない点 ,
③乙2考案のメカデッキ12の後部を取り付ける第2保持部15の縦辺部15dは,
「シャーシ枠体11の底面11aに対してアーチ状に」(3頁左上欄7行∼8行)形
成されているから,本件考案1の装置筐体を構成する「シャーシ底部から起立した
デッキ取付け部」の構成は存しない点でも相違する。
c 相違点についての判断
(a) 同c(a)は認める。
(b) 同c(b)は否認する。
(c) 同c(c)は否認する。
従来の技術では ,「装置筐体1内の一側に,記録及び/または再生部を有するデ
ッキ本体2を装着し,その後側にチューナ3,入出力用のジャック4を配設し」て
いたため(第一権利明細書【0002】),このままでは,デッキ本体と装置筐体の
後壁部との間隔を空けることなく,近接して配置することができないという阻害要
因があった。装置筐体全体の重量バランスをとり,剛性を高めるために,比較的重
量のあるメカデッキの取付け位置をできるだけシャーシ枠体壁面に近接して取り付
ければよいが,本件考案1の出願当時,これを実現するためには,上記の阻害要因
を取り除かなければならなかった。
そこで,本件考案1では,デッキ本体と後壁部とを「近接」して配置するために,
「チューナ3およびジャック4は,上記デッキ本体2の側方に位置して,装置筐体
1内に装備」すること(同【0007】)を明確にした。
一般論として,装置筐体内の空間を有効に活用するという目的から,筐体内の各
部材の配置関係を工夫することが考慮され,高い剛性を確保する手段として「壁面
への接近配置」が考えられるとしても,これらのことから直ちに ,「保持部」を
「シャーシ枠体」の中央部より更に後部寄りの位置に配置,形成する具体的構成が
想到されるものではない。
d まとめ
同dは否認する。
エ 新規性欠如(乙10)
(ア) 被告の主張
a 乙10刊行物
(a) 特開平2−230592号公報(乙10刊行物)の第1図には,配線基板
3及び4が,テープメカニズム2を載置するメカブラケット1の下部に配設されて
おり,配線基板4はロワーケース6のすぐ上に配設されていることが示されている。
この第1図から,テープメカニズム2に磁気テープの記録及び/または再生部が
組み込まれていることは,当業者であれば容易に理解できる事項である。
(b) また,乙10刊行物には,ロワーケース6のねじ穴6aを直立に上方向
に貫通するねじ8と,メカブラケット1の後部に位置するボス1eとを締め付け固
定することが記載されている(第1図,2頁右下欄14行∼3頁左下欄16行)。
b まとめ
よって,本件考案1は,乙10刊行物に記載された考案と実質的に同一である。
(イ) 原告の主張
a 乙10刊行物
(a)一 被告の主張a(a)は明らかに争わない。
二 乙10考案は,一枚基板を有しないから,本件考案1の「プリント配線
基板」の構成は存しない。
(b)一 同a(b)は明らかに争わない。
二 しかし ,「メカブラケット1」は ,「メカブラケットの両面に記録媒体駆
動機構と配線基板とを取付けられると共に,メカブラケットをケースに取付けられ
ることから,一体化された内部構造物をケースに取付ける形となるため」(乙10
の2頁左下欄8行∼12行) ,「メカブラケット1の両面にテープメカニズム2と
第1,第2の配線基板3,4とを取付け,一体化された内部構造物」(同3頁左下
欄19行∼右下欄1行)の記載から明らかなとおり ,「一体化された内部構造物」
を形成するための部材であって,構成要件Aにおける「デッキ本体」に相当するも
のではない。
三 また,ロワーケース6に設けられたねじ穴6a,及びねじ穴6aを貫通
するねじ8は,構成要件Aにおける「シャーシ底部から起立したデッキ取付け部」
に相当するものとはいえない。
四 したがって,乙10考案には ,「装置筐体を構成するシャーシ底部から
起立したデッキ取付け部に,上記デッキ本体のシャーシの後部を取付け,支持す
る」構成は存在せず,したがって ,「バックパネル部に近接して,上記デッキ取付
け部を配置,形成した」構成も存在しない。
b まとめ
同bは否認する。
オ 新規性又は進歩性欠如(乙35)
(ア) 被告の主張
a 乙35P装置
1990年9月11日製造に係る松下電器産業株式会社製「PANASONIC
AG−101CR」 製造番号I0C200338(乙35供述書の前半)は,以
下の構成を具備する磁気テープ装置である(以下「乙35P装置」という。)。
(a) デッキ本体は,シャーシ内に組み込んだ磁気テープの再生を行うシリン
ダヘッドを有する(乙35P装置の写真6,写真7及び写真7−1)。
(b) デッキ取付け部は,装置筐体を構成するシャーシ底部から起立して設け
られている(同写真7,写真8,写真8−1,写真8−2及び写真9)。
(c) 装置筐体を構成するシャーシ底部から起立したデッキ取付け部に,デッ
キ本体のシャーシに設けられたデッキ取付け部を取り付けて,支持するように構成
されている(同写真6,写真7及び写真9)。
(d) 装置筐体のシャーシを構成するバックパネル部に近接して,デッキ取付
け部が配置,形成されている(同写真6,写真7,写真8,写真8−1,写真8−
2,写真9及び写真11)。
b 一致点及び相違点
(a) 本件考案1と乙35P装置とを対比すると,次の点で一致する。
① 再生部をシャーシ内に組み込んだデッキ本体を,装置筐体内に配置し,装置筐
体底部を構成するシャーシから起立したデッキ取付け部に,デッキ本体のシャーシ
を取り付け,支持するように構成した磁気テープ装置において,
② 装置筐体のシャーシ後部を構成するバックパネル部に近接して,デッキ取付け
部を配置,形成した
③ ことを特徴とする磁気テープ装置
(b) これに対し,本件考案1と乙35P装置との相違点は,乙35P装置に
おいては,プリント配線基板を装置底部ではなく装置上部に装備している点である。
c 相違点についての判断
(a) 第一権利明細書の【0002 】【従来の技術】に ,「従来,この種の磁気
テープ装置は,図3および図4に示すように,…装置筐体1の底部に平面的に配設
したプリント配線基板5上に,パルス・トランス6などの部品を装着した構造にな
っている」と記載されている。
(b) 乙2刊行物には,磁気記録再生装置のシャーシ構造として,主基板ユニ
ット17がシャーシ枠体底面11a(装置筐体底部に相当する。)に設けられている
ことが記載されている(第1図,第2図,第4図及び第6図)。
(c) 乙10刊行物には,配線基板3及び4がロワーケース6(装置筐体の底部
に相当する。)に設けられている記録媒体再生装置(第1図),及びメイン配線基板
32がロワーケース31に設けられている記録媒体再生装置(第4図)が記載されて
いる。
(d) 第一権利の出願前である1986年3月製造の大宇電子株式会社製磁気
テープ装置「VCR−41QA」(乙35供述書の後半。以下「乙35D装置」と
いう。)では,プリント配線基板は,装置筐体底部に設けられている(乙35D装置
の写真7,写真8及び写真9)。
(e) 以上のとおり,プリント配線基板を装置筐体底部に設けることは,第一
権利の出願前に周知であった。
(f) また,装置筐体内部に構成部品を実装するに際して,その配置を考慮す
ることは,きわめて当然のことである。
(g) したがって,当業者が乙35P装置において,プリント配線基板を装置
筐体底部に設けるようにすることに,何ら困難はない。
(h) そして,そのように構成したものが奏する効果も,格別のものではない 。
d まとめ
したがって,本件考案1は,乙35P装置と実質的に同一であるか,少なくとも
乙35P装置と周知技術(必要であれば,乙2考案,乙10考案及び乙35D装置)
からきわめて容易に考案をすることができたものであり,新規性欠如又は進歩性欠
如の無効理由を有する。
(イ) 原告の主張
a 乙35P装置
被告の主張aのうち,製造年月日は不知。乙35P装置に刻印されている日付の
みから,同装置の公然性の時期について証明があったとすることはできない。
同a(a)は明らかに争わない。
同a(b)は否認する。
同a(c)は明らかに争わない。
同a(d)は否認する。乙35P装置の写真7,写真8及び写真8−1から明らか
なとおり,デッキ取付け部である4つのブラケットは,いずれも装置筐体の側面側
に形成されている。
b 一致点及び相違点
同b(a)の①のうち ,「装置筐体底部を構成するシャーシから起立したデッキ取
付け部」は否認し,その余は明らかに争わない。②は否認する。③は明らかに争わ
ない。
同b(b)は認める。
c 相違点についての判断
同cのうち,(a)ないし(d)は明らかに争わず,その余は否認する。
d まとめ
同dは否認する。
カ 記載不備(近接)
(ア) 被告の主張
a 考案の構成に欠くことのできない事項
構成要件Bの「近接」は,比較の基準及び程度が不明瞭であり,考案の構成に欠
くことができない事項が不明瞭である。
b 考案の詳細な説明の記載
また,本件考案1は,実施例との対応関係が不明瞭であって,考案の詳細な説明
において具体的に記載されていない。
c まとめ
よって,本件考案1についての出願は,平成5年法律第26号による改正前の実
用新案法37条1項3号に規定する無効理由(同法5条5項1号,2号違反)を有
する。
(イ) 原告の主張
被告の主張はいずれも否認する。
キ 本件訂正考案1の無効
(ア) 被告の主張
a 当初明細書の範囲内
後記原告の主張aは明らかに争わない。
b 独立特許要件
(a) 一致点及び相違点
本件訂正考案1と乙2考案との一致点及び相違点は,プリント配線基板にパル
ス・トランスを取り付けた点が更に相違点となる点を除き,上記ウ(ア)bのとおり
である。
(b) 近接の相違点についての判断
上記ウ(ア)cのとおりである。
(c) パルス・トランスの相違点についての判断
一 特開平1−245597号公報(乙36)には,以下の記載がある。
「第1図は,本発明の一実施例における磁気記録再生装置の要部の構成を示すもの
である。第1図において,6は平滑用のコイル,9はシールドケース,10は部品
及びシールドケース9を実装するプリント基板,11は映像信号をテープ上へ記録
再生する回転シリンダ,12はテープ走行機構及び回転シリンダ11を固定するメ
カ基板,13はシリンダ11に搭載された磁気ヘッドにより前記テープ上から再生
された微弱信号を約1000倍に増幅するヘッドアンプ,14は強磁性体のパーマ
ロイ等よりなる2重シールド用のシールド材,15,16は基板間で信号を接続す
るためのフレキシブル線材である。」(2頁左下欄2行∼14行)
「第3図において,1はバッテリ入力端子である。2と3はスイッチングノイズが
ラインへ出ないように防止するLCフィルタを構成するコイル及びコンデンサ,4
はスイッチングトランジスタ,5はスイッチングトランジスタ4を制御するスイッ
チングパルス入力端子である。6と7はスイッチングトランジスタ4の出力を平滑
するLCフィルタを構成するコイル及びコンデンサである。8はスイッチングされ
て平滑されたDC電圧の出力端子である 。」(1頁右欄10行∼19行)
二 特開昭58-30291号公報(乙37)には,テレビ受像機における遅延
素子の配置構造として,取付基板5の上にフライバック・トランス6が取り付けら
れている様子が記載されている(第2図及び第3図)。
三 特開昭59-154486号公報(乙38)には,以下の記載がある。
「図において,メイン基板(3)は電源回路部(8a)と,映像信号回路,偏向回路な
ど他の回路部(8b)とに区分されてパターンが形成されており,各回路部(8a)
(8b)間にはミシン目状の切断用溝(8c)が設けられている。また,電源回路部
(8a)の出力端子(4a)と,回路部(8b)の入力端子(4b)とは近接して相対向す
るように形成されている 。」(2頁左上欄7行∼13行)
四 実願昭55−111406号(実開昭57-35015号)のマイクロフィ
ルム(乙39)には,以下の記載がある。
「第1図は本考案の対象になるDC-DCコンバータの回路図を示し,6は直流電
源,13は電源スイッチ,30は直流電源6の電圧を発振動作により高圧の交流に
変換するための発振回路,8はその交流出力を整流して高圧の直流に変換するため
のダイオード,10はダイオード8の高圧直流出力を蓄電するコンデンサである。
発振回路30はスイッチングトランジスタ7aと,1次側巻線2と2次側高圧巻線
4を有するトランス5aと,コンデンサ9,22と,抵抗23及びトランジスタ保
護用のダンパーダイオード25よりなり,第2図示のようにこの発振回路30の構
成に必要なパターン33を備えたプリント基板34に,必要部品,即ちトランジス
タ7a,トランス5a,コンデンサ9,22,抵抗23及びダンパーダイオード2
5等を取付け配線して構成される。」(2頁5行∼20行)
五(一) 特開平2−163995号公報(乙66)の第7図及び第8図には,
AC商用電源端子120と,トランス108と,スイッチ回路114とを具備する
スイッチング電源装置が記載されている。
(二) 第一権利出願時に公開されていた特開平3−135371号公報(乙6
7)の第1図Aには,スイッチングレギュレータ回路と,パルストランスとAC商
用電源端子を有する基板が記載されている。
(三) このように,パルス・トランスを取り付けたプリント基板が第一権利出
願当時,周知であった。
六 また,ビデオテープレコーダなどの磁気記録装置において,小型軽量化
は,普遍的な技術課題であった。
七 したがって,乙2考案の「基板ユニット」として,上記一ないし五のと
おり周知のパルス・トランスを取り付けたプリント基板を用いることには,何ら困
難がなかった。
八(一) 原告は,後記原告の主張b(c)八で,「一枚基板」なる用語を用いて ,
基板割れを考慮しなければならない特別の基板を想定して主張しているが,本件訂
正考案1は,デッキ取付け部を装置筐体の壁面に近接させることにより,デッキ本
体の荷重によって生じるシャーシ底部及びデッキ本体の振幅動作を防ぎ,デッキ本
体とその下方に位置するプリント配線基板等との衝突・接触を避けるというもので
ある。このような問題は,プリント配線基板にパルス・トランスが装着されていな
かったとしても生じる問題である。
また,デッキ取付け部をバックパネルに近接配置することによってデッキ本体の
重さによって生じる振幅を防ぐという点について,プリント配線基板上にパルス・
トランスがあるか否かは,全く影響しない。
(二) 第一権利明細書の【0003 】【考案が解決しようとする課題】にお
いても,パルス・トランスが装着されたプリント配線基板にかかる重さによって生
じる問題や基板割れについて全く触れられていない。
(三) したがって,本件訂正考案1のように訂正したとしても,乙2刊行物
に記載の「主基板ユニット」又は乙10刊行物に記載の「配線基板4」と異なると
ころはない。
九 よって,本件訂正考案1は,独立して実用新案登録を受けることができ
たものではない。
(イ) 原告の主張
a 当初明細書の範囲内
本件訂正考案1(平成17年6月30日付け訂正審判請求。前提事実(4)ア(イ))は,
第一権利の実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものであり,願書に添付し
た明細書に記載した事項の範囲内のものであるから,実質上実用新案登録請求の範
囲を拡張し,又は変更するものではない(平成5年改正前実用新案法39条1項1
号,2項)。
b 独立特許要件
(a) 一致点及び相違点
プリント配線基板にパルス・トランスを取り付けた点が更に相違点となることは,
認める。
その余は,上記ウ(イ)bのとおりであり,一枚基板の点は,本件訂正考案1のよ
うに訂正したことにより,相違点であることがより明らかとなった。
(b) 近接の相違点についての判断
上記ウ(イ)cのとおりである。
(c) パルス・トランスの相違点についての判断
一 同(c)一(乙36)は認める。ただし,乙36刊行物には ,「平滑用コイル
6」が取り付けられたプリント配線基板が開示されているのみである。
二 同二(乙37)は認める。ただし,乙37刊行物の「取付基板5」上に取
り付けられた「フライバック・トランス6」は,テレビ受像機に特有のものであっ
て,本件訂正考案1における「パルス・トランス6」とは全く異なるものである。
三 同三(乙38)は認める。ただし,乙38刊行物に記載のものは,第1図
に明示されているように,電源トランス(4)を回路基板(3)上に取り付けないこと
を前提としたものである。
四 同四(乙39)は認める。ただし,乙39刊行物のプリント基板34は,
電源回路部品専用のプリント基板であって,「一枚基板」とは異なる。
五 同五(乙66)(一)及び(二)は明らかに争わず,(三)は否認する。
六 同六(普遍的課題)は認める。
七 同七(容易想到)は否認する。
八 八(一) 本件訂正考案1は,1枚のプリント配線基板を使用した磁気テ
ープ装置において,シャーシの厚さを補うことなく,振動に対して十分な剛性を確
保し,基板割れを含む必要部品に対する機械的損傷を与えないように工夫した磁気
テープ装置の提供を目的としたものである。
このような課題は,原告が世界に先がけて開発し,平成4年1月10日に出願し
た第五権利の考案において初めて採用した大きなプリント配線基板により初めて生
じたものであり,このような課題の認識なくしては,本件訂正考案1の構成に至る
ことはできなかった。
(二) デッキ取付け部の荷重によってシャーシ底部に振幅動作が働いた場合 ,
シャーシ底部に装備されたプリント配線基板にもその影響が及ぶことになる。そし
て,プリント配線基板に重量のあるパルス・トランスが装着されている場合,プリ
ント配線基板の振幅と相乗して当該振幅の影響が増幅される。
第一権利明細書には ,「上記装置筐体1の底部に平面的に配設したプリント配線
基板5上に,パルス・トランス6などの部品を装着した構造になっている」(【0
002】)及び「プリント配線基板5に組み込まれたスイッチ回路および上記プリ
ント配線基板5の上に取り付けたパルス・トランス6」(【0007】)という記載
があり,また,図1及び図2には,装置筐体の底面全体にわたる大型のプリント配
線基板5が記載されているから,構成要件A’の「プリント配線基板」は,一枚基
板である。
九 同九は否認する。
(2) 本件発明4の1
本件発明4の1には,次の無効理由があるから,原告は,本件発明4の1につい
ての特許を行使することができない(特許法104条の3)。
ア 新規性欠如(乙43)
(ア) 被告の主張
a 乙43刊行物
(a) 1987年8月11日に付与された米国特許第4686570号公報(乙
43刊行物)には,以下の記載がある。
一 「図2は本発明を内蔵するテレビジョン受信機のブロック図である 。」
(2欄48行∼49行)
二 「無線周波数(r.f.)信号はアンテナ208から受信され,チューナ
モジュール210のr.f.回路212に供給される。r.f.回路212は,増
幅されたr.f.信号を第1の検出器即ち混合器214の一方の入力への増幅され
たr.f.信号を与える周波数選択および増幅回路を含む。チューナモジュールの
チャンネル選択回路222は選択されたチャンネルに対応するデジタル信号を生成
する。デジタル信号は,位相ロックループ(PLL)220を制御して局部発振器2
16を制御する粗同調電圧V CT を生成し,その周波数は水晶221により示される
水晶発振器により生成される基準周波数と,チャンネル番号により決定される比例
関係となる。同調電圧V CTは,スイッチ224と結合され,r.f.回路212と
局部発振器216の入力となる。r.f.回路212に供給される同調電圧V CTは,
局部発振器216の周波数との関係を追跡して選択されたテレビジョンチャンネル
用の周波数選択回路の同調を調整する。」(5欄5行∼24行)
三(一) 「中間周波数フィルタ(i.f)を通過する中間周波数(i.f)信号
は中間増幅器240に供給される。中間増幅器240からの増幅された中間周波数
信号はベースバンド複合ビデオ信号CVを生成する従来のエンベロープ検出器24
2に供給される。従来の同期分離回路244は信号CVに応答して複合ビデオ信号
から複合同期信号CSを除去し,それを水平および垂直偏向同期信号成分に分離す
る。同期分離回路244はまた,バーストゲート信号BGを生成し,BGはビデオ
信号の各水平ラインから色同期バースト信号成分を抽出するためのに使用でき
る。」(5欄50行∼62行)
(二) 「DAC285により供給されるこのアナログ復号ビデオ信号は,バ
ーストゲート信号BGに応答する従来のバーストセパレータ288に供給され,B
Gは復合ビデオ信号の各水平ラインから色同期バースト成分を分離するための同期
分離器回路244により与えられる。分離されたバースト信号は,例えば9fcの
共振周波数を有する共振水晶261を含むPLL260に供給される。PLL26
0は,バースト信号により制御され,上記混合器250に供給されるサイン9fc
出力信号を与える。9fc信号はまた,9fc方形波信号を生成するためのハード
制限増幅器を含む波形整形回路262に供給される。9fc方形波は周波数3分割
回路264に供給され,ここで3fcと12.5%のデューティサイクル(即ち,
23nsの間論理1状態,そして79nsの間は論理ゼロ状態)に実質的に等しい
周波数を有する方形波クロック信号位相φ₁を生成する。信号φ₁は上述した位相
検出器268と移相回路266に供給される 。」(8欄20行∼40行)
(三) 「直交ADC274は,2つのデジタル信号R IとR Qを生成する。R I
は変調複合ビデオ信号の同相ベースバンド成分を,R Qは同直角位相ベースバンド
成分を表す。」(6欄51行∼54行)
(四) 「DACからの複合ビデオ信号はまた,従来のビデオ信号プロセッサ
290,インターキャリア音声変換器,IF増幅器および検出回路292に供給さ
れる。ビデオ信号プロセッサ290は例えば,複合ビデオ信号からの輝度および色
成分を分離し,表示装置(図示されていない)への適用のために赤,緑,青の主色信
号(R,G,B)を生成する回路を含んでも良い。インターキャリア音声回路292
は,4.5MHzの音声搬送波を複合ビデオ信号から分離する共振同調回路,4.
5MHzif増幅器,およびオーディオ信号生成のためのFM検出器を含んでも良
い。」(8欄45行∼58行)
四(一) 「フィルタ252からの信号は搬送波基準信号抽出回路254に供
給される。回路254は例えば,3fcに同調される周波数選択回路を含み,3f
c画像信号と実質的に周波数および位相ロック関係にある信号を生成する。抽出さ
れた搬送波信号は波形整形回路256により方形波に変換され,回路256は例え
ばハード制限増幅器を含む。画像搬送信号に対応する3fc方形波は位相検出回路
268の一方の入力端子に供給され,以下に説明されるPLL260により与えら
れる,9fcから生成された3fcクロック信号φ₁が他方の入力端子に供給され
る。」(6欄18行∼31行)
(二) 「位相検出器268は搬送信号と3fcクロック信号φ₁との位相差
に比例する出力を与える。この信号はチューナモジュール210用の制御信号VFT
を生成する。信号V FTは局部発振器216の周波数を調整し,混合器214に生成
されたi.f.搬送波信号を受信された複合ビデオ信号の色バースト基準信号成分
と同位相にロックを維持し,または色バースト基準信号が無いとPLLにより生成
された自由走行fc信号に同位相にロックを維持する。」(6欄31行∼42行)
(b) 乙43刊行物の上記(a)の記載及び図2からすると,乙43刊行物は,以
下の構成等を開示している。
一 乙43刊行物の技術分野は,本件発明4の1のそれと同一の映像信号受
信装置である。
二 本件発明4の1の混合回路は,乙43刊行物の混合器214に,局部発
振回路は局部発振器216に,PLL回路は位相ロックループ220に,それぞれ
対応している。
三 本件発明4の1の色信号回路は,乙43刊行物の同期セパレータ244 ,
ADC274,DAC286,バーストセパレータ288,ビデオ信号プロセッサ
290,PLL260等に対応している。
さらに,デジタル信号RIとR Qは,放送局で複合映像信号を作る時,RGB信号
を色副搬送波で変調する段階で発生される色信号である。つまり,上記のADC2
74は,デジタル色信号復調器になるので,色復調回路の構成も備えている。
四 混合器250,フィルタ252の信号は,搬送波基準信号抽出回路25
4,波形整形回路256を経て,3fc画像信号と実質的に周波数及び位相ロック
関係にある信号となり,位相検出器268の一方の入力に供給されている。
また,バーストセパレータ288により分離されたバースト信号がPLL260
に供給され,PLL回路260はバースト信号に同期する信号を位相検出器268
の他方の入力に供給している。
五 乙43刊行物の「第2の基準信号」は,乙43刊行物のPLL260か
ら出力され,位相検出器268の他方の入力に与えられるバースト信号に同期する
信号に相当している。
六 位相検出器268から出力された信号V FTは,フィルタ270,スイッ
チ224を経て局部発振器216に供給されている。ここで,位相検出器268は,
波形整形回路256を経て一方の入力に与えられる3fc画像信号を,PLL回路
260から出力されるバースト信号に同期する色バースト基準成分と同位相にロッ
クするものでPLL回路の一部である。
(c)一 本件発明4の1は ,「局部発振信号の出力」が局部発振回路からの直
接出力のみであると限定していないから,位相検出器268の一方の入力である混
合器250,フィルタ252,搬送波基準信号抽出回路254,波形整形回路25
6を経た信号も ,「局部発振信号の出力」に含まれる。
二 乙43刊行物には,色信号回路(PLL260)から出力される第2の基
準信号をPLL回路(位相検出器268)に基準信号として与え,このPLL回路
(位相検出器268)が局部発振回路(局部発振器216)の発振周波数を制御する構
成が開示されている。
三 したがって,乙43刊行物には,本件発明4の1がすべて開示されてい
る。
b まとめ
よって,本件発明4の1は,乙43発明と実質的に同一である。
(イ) 原告の主張
a 乙43刊行物
(a) 被告の主張a(a)(記載内容)は認める。
(b) 同a(b)(開示内容)五及び六は否認し,その余は認める。
殊に,同a(b)五のように解釈したとすると,乙43刊行物の図2に記載さ
れたテレビジョン受信機は,構成要件Hの色信号回路が第2基準信号を用いて
復調を行うという要件を満たしていないことになる。
また,同a(b)六については,構成要件Gの「局部発振信号の出力と第1の
基準信号との位相比較を行うことにより」との記載に従えば,本件発明4の1
のPLL回路は,乙43刊行物のPLL220と対応していると考えるべきで
ある。
(c) 同(c)のうち,一(クレーム解釈)は争い,その余は否認する。
b まとめ
同bは否認する。
イ 進歩性欠如(乙43)
(ア) 被告の主張
a 乙43刊行物
(a) 本件発明4の1の「局部発振信号の出力」は,局部発振信号の直接の出
力であり,この点が相違点になるとしても,乙43刊行物には,前記ア(ア)a(a)の
記載に加え ,「粗同調電圧V CT は,所望のチャンネル信号の受信のために局部発振
器を同調すると,局部発振器の制御は精密同調電圧VFTにより維持される。精密同
調電圧V FTは,スイッチ224により局部発振器に選択的に供給される。スイッチ
224は,PLL220により制御され,PLL220が粗いロックを達成された
時に局部発振器にV FTを供給する。」(5欄30行∼38行)との記載がある。
(b) 上記(a)によれば,乙43刊行物には,局部発振器216の粗同調はPL
L220により,精密同調は位相検出器268により行われることが記載されてい
る。
b 容易想到
乙43刊行物のように粗同調と精密同調の2段階の同調を実行しない場合,位相
検出器268の基準信号をPLL220の基準信号として採用することは,当業者
であれば容易に想到することができたことである。
c まとめ
よって,本件発明4の1には,進歩性欠如の無効理由がある。
(イ) 原告の主張
a 乙43刊行物
被告の主張a(a)は認め,(b)は否認する。
b 容易想到
(a) 同bは否認する。
(b) 乙43発明において,仮に出力「V FT」が「PLL220」に与えら
れているとしても,この出力は直流電圧であるから ,「PLL220」の基準
クロック信号とはなり得ない。
したがって,位相比較器268からの出力は,粗同調と精密同調の2段階の
同調を実行するか否かにかかわらず,PLL回路の基準信号とはなり得ないも
のであるから,被告の容易想到との主張は理由がない。
c まとめ
同cは否認する。
ウ 新規性欠如(乙44)
(ア) 被告の主張
a 乙44刊行物
(a) 1987年2月10日に付与された米国特許第4642675号公報(乙
44刊行物)には,以下の記載がある。
一 「カラーテレビジョン受信機においてテレビジョン信号の受信に適用」
(1欄58行∼60行)
二 「2つの同期復調器16と18は,正規の位置および逆位置で完全なビ
デオ信号を搬送する。加算器19は正規位置にある2つのビデオ信号を増幅し ,そ
して逆位置にある2つのビデオ信号を抑制する。2つの移相器4,17の移相の方
向に依存して,正規位置の信号を得るために減算器が加算器19の代わりに要求さ
れる。
得られたビデオ信号はビデオ低域通過フィルタ22を通過し,その帯域はビデオ
帯域上の周波数が抑制されるように選択され,同期復調器から生じる,主に画像I
F搬送波の4倍の周波数(この例では,4×2.2MHz−8.8MHz)であり,
同期復調のために,全波整流に相当する加算は2.2MHzサイン波を4.4MH
zの半波電圧に変える。90°位相の異なる2つの4.4MHzの半波電圧は共に
加算され,低リップル8.8MHzの半波電圧が直流電圧成分に加えて得られる。
ビデオ信号または複合色信号(FBAS)はさらに既知の方法で処理される。例えば,
色信号は櫛フィルタにより画像信号から分離される。それから,2軸,即ちPAL
の場合はR−YそしてB−Y,NTSCの場合はⅠおよびQに従って直角復調され
る。また,5.5MHzサウンド信号が既知の方法でビデオ信号から分離され得る。
色副搬送波発振器13と同期するために要求されるバーストがフィルタ23により
フィルタ出力され,そして色副搬送波発振器13に供給される 。」(6欄51行∼
7欄15行)
三 「色副搬送波発振器は既知の方法でビデオ信号のバーストと同期される 。
その出力信号は周波数分割器14に供給され,その出力信号は同期復調器16に,
そして90°移相器17を介して同期復調器18にそれぞれ供給される 。」(2欄
62行∼68行)。
四 「図1において,受信テレビジョン信号は2つのRF混合器1,2に供
給される。図示の例では,RFプリセレクションは取られていない。しかし,もし
受信テレビジョン信号が混合器1,2において非正弦波電圧と混合されるならば,
RFプリセレクションが必要になる。このような場合,受信される周波数の倍数に
等しい少なくともこれらの周波数は,フィルタリングにより除去されなければなら
ない。RF発振器3の出力信号のひとつはRF混合器1に直接供給され,そして他
方は,ここではRF発振器3の一部と見なされる90°移相器4を通過し,そして
第2のRF混合器2に供給される。RF発振器3が既知の方法で所望のテレビジョ
ンチャンネルに同調できる同調手段は図示されていない。RF発振器3の公称周波
数は画像搬送周波数と受信されるテレビジョンチャンネルの色副搬送波周波数の中
間に正確に置かれる。RF混合器1,2はそれぞれ低域通過フィルタ5,6に続き,
低域通過フィルタ5,6はそれぞれ増幅器7,8へと続く。2つの同期復調器16,
18はそれぞれ増幅器7,8の出力信号を復調する。同期復調器16,18の出力
は加算器19に供給され,そこで加算されて約5−6MHzの帯域幅でビデオ低域
通過フィルタに供給される。低域通過フィルタ22の出力は所望のビデオ信号(複
合カラー信号FBAS)を与える。
同期復調器16,18に挿入される搬送周波数を形成するために,色副搬送波発
振器13,2分割周波数分割器14,90°移相器17が存在する。色副搬送波発
振器13は約4.433MHzの色副搬送波周波数である 。」(2欄26行∼61
行)
五(一) 「RF発振器3の周波数は受信される画像搬送周波数と色副搬送周
波数の中間に正確にならなければならない。僅かな偏差さえもモアレとなる。そこ
で,RF発振器3の正確な調整が,画像IF搬送波と色IF搬送波が同期している
時に達成されるために,位相および周波数比較器15が提供されている。その比較
器は,周波数分割器14で半分になった周波数の色副搬送波信号と,リミッタ9で
導き出される画像搬送波が供給される。それは,2つの信号が等しい周波数である
時に位相に従う制御電圧を形成する。制御電圧はRF発振器3に供給されて画像I
F副搬送波と同期する。」(3欄24行∼38行)
(二) 「位相および周波数比較器15は ,「離調依存」制御電圧を生成する
ように設計される,即ち,その入力信号が主な周波数差を禁じる時に,制御電圧の
極性が離調の方向に従う。それは,周波数比較によってのみ得られた制御電圧と違
って,周波数制御効果を消失しない制御電圧である。この制御電圧が周波数偏差を
大きく減少した後に,位相依存制御電圧は,位相ロック動作が達成されることによ
り得られる。」(6欄6行∼16行)
(b) 乙44刊行物の上記(a)の記載及び図2からすると,乙44刊行物は,以
下の構成等を開示している。
一 乙44発明の技術分野は,本件発明4の1のそれと同一の映像信号受信
装置である。
二 本件発明4の1の色信号回路は,乙44発明と,色副搬送波発振器13 ,
加算器19,ビデオ低域通過フィルタ22,フィルタ23において対応している。
三 乙44発明では,色信号回路により生成されたビデオ信号のバーストと
同期する信号が色副搬送波発振器13から周波数分割器14に与えられている。
本件発明4の1の「第2の基準信号」は,乙44発明における色副搬送波発振器
13から出力され,周波数分割器14に与えられるバースト信号に位相同期する信
号に相当する。
四 乙44発明では,RF発振器3はRF混合器1,2へ発振信号を送出し
ている。
五 乙44刊行物には,周波数比較器15,リミッタ9,周波数分割器14
が位相ロックループを構成していること,周波数比較器15は色副搬送波発振器1
3から出力されるバースト信号に位相同期する信号を,周波数分割器14を経て入
力し,この位相同期する信号にリミッタ9から導出される画像搬送波を位相ロック
し,その出力をRF発振器3に与えて発振周波数を制御し,RF発振器3はこの制
御に従って混合器1,2に発振信号を与えていることが示されている。
(c)一 ここで,構成要件Gの「局部発振信号の出力と第1の基準信号との位
相比較を行うことにより」との記載には,それ以上の限定はないことから ,「局部
発振信号の出力」を局部発振器からの出力を含む信号と広く解すべきである。
二 乙44刊行物には,色信号回路(色副搬送波発振器13)から出力される
第2の基準信号を第1の基準信号(周波数比較器15の基準信号)としてPLL回路
(周波数比較器15)に与える構成が開示されている。
三 したがって,周波数比較器15の一方の入力である混合器7,フィルタ
5,増幅器7,リミッタ9を経た信号は,構成要件Gの「局部発振信号の出力」に
相当する。
b まとめ
よって,本件発明4の1は,乙44発明と実質的に同一である。
(イ) 原告の主張
a 乙44刊行物
(a) 被告の主張a(a)は明らかに争わない。
(b) 同a(b)(開示内容)は否認する。
一 殊に,同a(b)二の主張は誤りである。すなわち,乙44刊行物の色
副搬送波発振器13,加算器19,ビデオ低域通過フィルタ22,フィルタ2
3を被告主張のように解釈すると,乙44刊行物の図1に記載されたテレビジ
ョン受信機は,構成要件Hの色信号回路が第2基準信号を用いて復調を行うと
いう要件を満たしていないことになる。
二 さらに,同a(b)三の主張は誤りである。すなわち,構成要件Gの
「PLL回路」は,チューナに設けられた選局用のPLL回路である。
一方,乙44刊行物の「OSCILLATOR3」及び「OSCILLAT
OR13」は,PLL回路ではあるが,選局用のPLL回路ではない。
したがって,乙44刊行物には,構成要件Gの「PLL回路」に対応してい
るものは,開示も示唆もされていない。
(c) 同(c)のうち,一(クレーム解釈)は争い,その余は否認する。
b まとめ
同bは否認する。
エ 進歩性欠如(乙44)
(ア) 被告の主張
a 容易想到
(a) 本件発明4の1の「局部発振信号の出力」を局部発振信号自身と解し,
この点が相違点になるとしても,前記ア(ア)a(a)(乙43刊行物5欄5行∼24行
及び第2図)に示すように,局部発振器216の出力をPLL220に入力して混
合器214を同調する構成は,周知である。
(b) 色信号回路(色副搬送波発振器13)から出力される第2の基準信号を第
1の基準信号(周波数比較器15の基準信号)としてPLL回路(周波数比較器15)
に与える構成が乙44刊行物に開示されている以上,上記(a)の周知の構成のPL
L回路の基準信号として,色副搬送波発振器13から出力されるバースト信号に位
相同期する信号を採用することは,当業者であれば容易に想到することができたこ
とである。
b まとめ
よって,本件発明4の1には,進歩性欠如の無効理由がある。
(イ) 原告の主張
a 容易想到
被告の主張a(a)は認め,(b)は否認する。
b まとめ
同bは否認する。
オ 進歩性欠如(乙45)
(ア) 被告の主張
a 乙45刊行物
(a) 1986年6月17日に付与された米国特許4595953号公報(乙4
5刊行物)には,以下の記載がある。
一 「テレビジョン受信機」(1欄8行)
二 「・・・バーストキー位相ロックループ(PLL)により複数の色副搬送
波周波数にロックされる 。」(1欄54行∼57行) ,「・・・色副搬送波基準周波
数にロックされたクロックの使用はクロスカラー影響および表示される画像におけ
る他の不所望のアーティファクトを最小化し,色復調を簡略にする 。」(1欄67
行∼2欄3行)
三 「受信機は,チューナを介して結合されたアンテナ(ANT)入力端子1
0,アナログデジタル変換器14の入力に対する従来の設計のIF増幅器およびビ
デオ検出ユニット12を含む。ユニット12は,端子10に供給されるRF変調ビ
デオ信号を処理して(A/D)変換器14においてデジタル形態(信号S2)に変換さ
れるベースバンドアナログビデオ信号S1を与える。RF信号はアンテナまたはケ
ーブルソースにより与えられる標準放送信号か,テープレコーダ,ビデオゲーム,
コンピュータまたは他のソースにより与えられる非標準信号(前に定義されたよう
に)の何れでも良い。補助(AUX)入力端子16はベースバンドビデオ信号の供給
を有するソースからアナログベースバンド信号S1を獲得するために提供される。
デジタル化されたビデオ信号S2は,バス24を介してクロック18,ビデオプ
ロセッサ20,および水平/垂直同期(H−V SYNC)ユニット22に供給され
る。クロック18はバーストに適合される(キー)位相ロックループ(PLL)を含み,
ビデオ信号S2の色副搬送波成分の周波数の倍数(例えば,4倍)にロックされた周
波数を有するクロック(CL)出力信号を与える 。」(3欄47行∼68行)
四 「クロック信号CLは,バス26(矢頭で示される)を経てA/D変換器
14に供給され,信号S2のサンプリングを制御し,またデジタルビデオ信号S2
と共にデジタルビデオプロセッサ20に供給され,ここで信号CLは,プロセッサ
により与えられる各種の処理機能(例えば,色分離,ピーキング,コントラスト制
御,色相および飽和制御など)のタイミングを制御する 。」(4欄6行∼13行)
(b) 上記(a)の記載からすると,乙45刊行物は,以下の構成等を開示してい
る。
一 乙45刊行物は ,「テレビジョン受信機」に関するもので,本件発明4
の1と技術分野が同一である。
二 上記(a)二の利点の記載は,第四権利明細書に記載された「・・・PLL
回路には,第1の基準信号を生成するための専用の発振素子を設けなくとも,所定
精度を有する信号が第1の基準信号として与えられることになる 。」(【002
6】)との効果を示していることに等しい。
三 乙45刊行物では,PLLを含むクロック18は,ビデオ信号S2の色
搬送波成分の周波数の倍数にロックされた周波数を有するクロック(CL)出力信号
を与えている。
(c) 以上によれば,乙45刊行物は,バーストにロックされた信号が,各処
理の基準信号として有効であること及びこの信号を基準信号として使用すると画像
の復調精度がよく,色復調も簡略にできることを開示している。
b 容易想到
以上によれば,本件発明4の1は,乙43刊行物,乙44刊行物及び乙45刊行
物を組み合わせることで,当業者が容易に発明することができたものである。
c まとめ
よって,本件発明4の1には,進歩性欠如の無効理由がある。
(イ) 原告の主張
a 乙45刊行物
(a) 被告の主張a(a)は 明らかに争わない。
(b) 同a(b)は否認する。
同a(b)二(発明の利点の共通)は誤りである。すなわち,本件発明4の1の
本質は,色信号回路の基準信号(第2の基準信号)を,位相比較用基準信号(第
1の基準信号)として局部発振周波数を制御するPLL回路に与えることにあ
り,乙45発明の「他の不所望のアーティファクトを最小化し,色復調を簡略
にする」こととは全く関係がない。
また,乙45刊行物には,選局用のPLL回路の基準信号(「TUNER
IF AMP.VID.DET.12」部に与えられる基準クロック信号)に
ついては,開示も示唆も一切されておらず,本件発明4の1の「第1の基準信
号」に相当するものは存しない。
b 容易想到
同bは否認する。
乙45発明は,テレビジョン装置又はモニタにおいて,非標準ビデオ信号を
受信する時に生ずる可能性のある表示された文字の一時的な空間歪みを防止す
ることを技術課題とする。これは,本件発明4の1の技術課題とは異なる。
さらに,乙43発明,乙44発明及び乙45発明は, 互いに技術課題,構成及
び効果を著しく異にしている。
したがって,このような 乙43発明,乙44発明及び乙45発明を組み合わせ
て本件発明4の1のように構成することはできない。
c まとめ
同cは否認する。
カ 本件訂正発明4の1の無効
(ア) 被告の主張
本件訂正発明4の1も,上記アないしオと同様の理由で無効である。
(イ) 原告の主張
被告の主張は否認する。
(3) 本件発明4の2
本件発明4の2には,次の無効理由があるから,原告は,本件発明4の2につい
ての特許を行使することができない(特許法104条の3)。
ア 新規性欠如及び進歩性欠如(乙42)
(ア) 被告の主張
a 乙42刊行物
(a) 1988年2月23日に発行された米国特許第4727591号公報(乙
42刊行物)には,以下の記載がある。
一 「この発明は,一般には受信機用の同調(チューニング)システムに関係
し,特に,自動周波数制御特徴を有するマイクロプロセッサ制御の同調システムに
関し,特に衛星信号受信機における使用に良く適用される 。」(1欄7行∼11行)
二 「受信機18の同調装置は,通常は図2の参照番号36により指示され
るマイクロプロセッサ制御の位相ロックトループを含む。ボード上の位相ロックト
ループを有する適切なマイクロプロセッサはMOTOROLAシリーズ6805T
2である。マイクロコンピュータはチャンネルセレクタ40からの入力を受けるC
PU38を含む。CPU38はランダムアクセスメモリ(RAM)42およびリード
オンリーメモリ(ROM)44を使用し,データおよび入力チャンネル選択情報を処
理し且つボード上の位相ロックトループを同調するために要求される命令を記憶す
る。位相ロックトループはプログラム可能分割器46,基準発振器48および位相
検出器50を含む。プログラム可能分割器46はCPU38によって制御される。
CPU38により供給され且つ分割器46にラッチされるN分割は位相検出器50
の電圧出力を制御し,そしてVCO26の電圧入力を制御してチューナにおける局
部発振器周波数を変えられるようにする。基準発振器48は,好ましくは4MHz
で動作する水晶52により制御され,CPU38と位相検出器50のための基準周
波数として動作する安定出力周波数を供給するために提供される。位相検出器50
は基準発振器48から入力する信号とプログラム可能分割器46との間の位相差を
検出し,そして調整のためにアクティブフィルタ54へこの差を供給する。フィル
タ54は位相検出器50の出力を,チューナ22におけるVCO26を制御するた
めに入力として与えられる安定DC電圧へ変化するアクティブロウパスフィルタで
ある。VCO26の出力はプリスケーラ56を介してプログラム可能分割器46に
フィードバックされ,選択されたチャンネルに局部発振器周波数をロックする。プ
レスケーラ56は,局部発振器信号の周波数を位相ロックトループによりより容易
に処理されるレートに減少する分割比Kを持つ周波数分割器である 。」(4欄63
行∼5欄30行)
三 「本発明の目的は,以前の既知のシステムよりも製造により経済的であ
り且つ動作においてより柔軟性がある自動周波数制御構成を有する改良されたマイ
クロプロセッサ制御の同調システムを提供することである 。」(2欄28行∼32
行)
「本発明の別の目的は,比較的少ないハードウエア構成要素により実現できるA
FC特徴を有するマイクロプロセッサ制御の同調システムを提供することであ
る。」(2欄36行∼39行)
四 「ABSTRACT」(要旨)の「A tuning system receives signals
from a radio frequency source and supplies an intermediate frequency s
ignal to a signal detector under the control of a microprocessor.」(和
訳:チューニングシステムは無線周波数源から信号を受信し,そしてマイクロ
プロセッサの制御下で信号検出器に中間周波数信号を供給する。)(1頁)
(b) 乙42刊行物の上記(a)の記載及び図2からすると,乙42刊行物は,以
下の構成等を開示している。
一(一) 乙42発明は,衛星信号受信機に使用されるマイクロプロセッサ制
御同調装置についてのものである。
(二) 乙42発明は,本件発明4の2と技術分野を共通にする
二 本件発明4の2と乙42発明との対応関係は,以下のとおりである。
(一) 本件発明4の2の「混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回
路」の混合回路は,乙42刊行物図2の混合器(MIXER)28に,局部発振回路
は,同図2のVCO28にそれぞれ対応している。
(二) 本件発明4の2のPLL回路は,乙42刊行物図2のプログラム可能
分割器46,基準発振器48,位相検出器50に対応している。
本件発明4の2のマイクロコンピュータは,乙42刊行物図2のCPU38に対
応している。
(三) CPU38から信号検出器34へ,制御信号(制御出力113に相
当)が出力されている。
(四) 乙42刊行物には,マイクロコンピュータ(CPU38)の基準信号と
なるクロック信号とPLL回路(プログラム可能分割器46,基準発振器48,位
相検出器50)の第1の基準信号とを,同一信号源(基準発振器48)から得ること
が明確に記載,図示されている。
さらに ,「基準発振器48は,好ましくは4MHzで動作する水晶52により制
御され」る(上記(a)二)ものであるから,基準発振器48の信号源は唯一の信号源
である水晶52である。
したがって,乙42発明では,マイクロコンピュータ(CPU38)の基準信号と
なるクロック信号とPLL回路の第1の基準信号を同一の信号源(水晶52)から得
ている。
(c) 水晶の周波数を逓倍又は分周して必要な周波数を得ることは,日常慣
用されている技術である。
b 同一
したがって,本件発明4の2は,乙42の発明と実質的に同一である。
c 容易想到
本件発明4の2と乙42発明とは,構成要件Mで相違するとしても,映像信号受
信装置に乙42発明を適用して本件発明4の2のように構成することは,当業者で
あれば容易に想到することができたことである。
d まとめ
よって,本件発明4の2は,新規性欠如又は進歩性欠如の無効理由を有する。
(イ) 原告の主張
a(a) 被告の主張a(a)は認め,(b)及び(c)は否認する。
(b) 乙42刊行物の「ABSTRACT」(要旨)中のマイクロプロセッ
サは,チューニングシステムを制御する指令に基づく不定期のパルス信号を発
しているのみで,本件発明4の2でいう基準信号(周期的信号)を発しているも
のではない。
(c) さらに,同a(c)(逓倍)については,水晶の周波数を逓倍又は分周し
て必要な周波数を得ることが慣用技術であったとしても,PLL回路において
UHF帯,VHF帯のすべてをカバーできるようにするために,基準周波数の
幅に厳しい制限のある基準信号を10MHz台の高速処理が要求されるビデオ
テープレコーダの装置本体を制御するクロック信号の基準信号として比較的少
ない逓倍数(4逓倍)で得られることを突き止めた本件発明4の2の技術思想は,
容易に想到できたものではない。
b 同一
同bは否認する。
c 容易想到
同cは否認する。
d まとめ
同dは否認する。
イ 進歩性欠如(乙30)
(ア) 被告の主張
a 乙30刊行物との対比
(a) 本件発明4の2と実願平2−81949号(実開平4−39737号)の
マイクロフィルム(乙30刊行物)に記載された発明とを対比すると,構成要件Kの
「局部発振回路」は乙30発明の「FM局発振回路(VCO)14」に ,「PLL回
路」は「PLL部17」に ,「マイクロコンピュータ」は「PLLシンセサイザ用
マイコン12」(以下「マイコン12」という。)に,構成要件Lの「同一信号源」
は乙30発明の「水晶発振器18」に,構成要件Mの「映像信号受信装置」は乙3
0発明の受信機全体に,それぞれ対応している。
(b)一 乙30発明では,図1の「PLL部17」の基準信号及び「マイコン
12」の基準信号となるクロック信号は,同一の「水晶発振子18」からの信号源
から得られている。
二 乙30刊行物には ,「(12)は掃引選局を行うPLLシンセサイザ用マ
イクロコンピュータ・・・であり,キー入力部(13)の選局キー操作に従って,掃
引選局のための基準信号に対する分周比設定,FM局発回路(VCO)(14)及びA
M局発回路(VCO)(15)からの信号との位相比較等が行われ,マイコン(12)よ
り出力された位相誤差信号がローパスフィルタ(16)を介して両局発回路(14),
(15)に入力され,混合回路(3)及び受信復調回路(5)のAM用混合回路に出力さ
れる局部発振周波数が制御される 。」(5頁14行∼6頁4行)と記載されている。
三 また,乙30刊行物には ,「なお,マイコン(12),局発回路(14),
(15)及びローパスフィルタ(16)等によりPLL部(17)が構成されている。
(18)は水晶発振器,(19)は受信周波数等を表示する液晶表示器である 。」(6
頁13行∼17行)と記載され,第1図には ,「水晶発振子18」からのクロック
信号が「マイコン12」に直接入力されている回路が図示されている。
四 さらに,高価な水晶発振子を1つにして製造コストを低減することは当
業者であれば回路設計において日常的に考慮している課題であるから,当業者であ
れば,上記の記載から,乙30発明における「PLL部17」の基準信号及び「マ
イコン12」の基準信号となるクロック信号は,同一の「水晶発振子18」からの
信号源から得られていると理解する。
b 容易想到
(a) 上記aのとおり,乙30刊行物には,本件発明4の2の主要な構成が開
示されている。
(b) そして,本件発明4の2のその余の構成は,従来の映像信号受信装置に
一般に採用されている構成である。
(c) したがって,乙30発明に上記(b)の一般的な構成を組み合わせて本件発
明4の2のように構成することは,当業者であれば容易に想到することができたこ
とである。
c まとめ
よって,本件発明4の2は,進歩性欠如の無効理由を有する。
(イ) 原告の主張
a 乙30刊行物との対比
(a) 被告の主張a(a)は明らかに争わない。
(b) 同a(b)のうち,一は否認し,二は認め,三は認め,四は否認する。
乙30刊行物には,第1図に,マイコン12に水晶振動子18が接続されている
ことが図示されているが,マイコン12が水晶振動子18をどのように用いている
かについては記載されていない。マイコンのクロック信号源やPLL回路の基準信
号源は,図示が省略されることが一般的であり,いずれか一方の図示が省略された
場合に乙30刊行物の第1図のようになる。
したがって,マイコン12に水晶振動子18が接続されていることのみに基づい
て,PLL部17の基準信号とマイコン12の基準信号となるクロック信号とが同
一の信号源(水晶振動子18)から得られていると理解することはできない。
b 容易想到
(a) 同bのうち,(b)は明らかに争わず,その余は否認する。
(b)一 仮に,乙30刊行物において,PLL部17の基準信号とマイコン1
2の基準信号となるクロック信号とが同一の信号源(水晶振動子18)から得られて
いるとしても,容易想到ではない。すなわち,乙30刊行物の第1図より,マイコ
ン12は,ラジオ受信のためのPLLシンセサイザに関連する制御とミュート出力
とを行うだけであり,構成要件Lにあるマイクロコンピュータのような高速動作
(第四権利明細書【0015】)が要求されていない。このため,PLL部17の基
準信号の周波数とマイコン12の基準信号となるクロック信号の周波数とは近い値
となり,PLL部17とマイコン12とは周波数において密接な関係を有している
から,PLL部17の基準信号とマイコン12の基準信号となるクロック信号とを
同一の信号源から得ることは,当業者であれば比較的容易に想到することができる。
これに対し,本件発明4の2は,互いに周波数に密接な関係のない2つのブロッ
ク(PLL回路とマイクロコンピュータ)の基準信号を同一の信号源から得ているた
め,乙30発明に基づいて当業者が容易に想到することができた発明ではない。
二 また,乙30刊行物の第1図について,乙30発明の目的を考慮すると ,
同第1図に示されたラジオ受信機は携帯型カセットレコーダに付加されるはずであ
る。そして,携帯型カセットレコーダに同第1図に示されたラジオ受信機を付加し
た構成のヘッドホンステレオは,携帯型カセットレコーダ全体の動作を制御するカ
セットレコーダ制御用マイコンを備えており,カセットレコーダ制御用マイコンは,
水晶振動子18とは別の信号源からクロック信号を得ているはずである。
このカセットレコーダ制御用マイコンとマイコン12(ただし,内蔵する位相比
較器を除く。)とからなる制御部は,構成要件Lにあるマイクロコンピュータに対
応するが,カセットレコーダ制御用マイコンは水晶振動子18とは別の信号源から
クロック信号を得ているので,構成要件Lにあるマイクロコンピュータとは相違す
る。
c まとめ
同cは否認する。
ウ 進歩性欠如(乙31)
(ア) 被告の主張
a 一致点及び相違点
本件発明4の2と特開平5−29882号公報(乙31刊行物)に記載された発明
とを対比すると,両者は,乙31発明においては「基準周波数発生回路27」に接
続する信号源が示されていない点で相違し,構成要件Lのその余の点で一致する。
b 相違点についての判断
(a) 乙31刊行物には「基準周波数発生回路27」に接続される信号源は図
示されていないが,当業者であれば,少なくとも技術常識により ,「基準周波数発
生回路27」には,マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号の信号源
に基づくクロックが与えられていると理解する。
(b) そして,本件発明4の2のその余の構成は,従来の映像信号受信装置に
一般に採用されている構成である。
(c) したがって,乙31発明に上記(b)の一般的な構成を組み合わせて本件発
明4の2のように構成することは,当業者であれば容易に想到することができたこ
とである。
c まとめ
よって,本件発明4の2は,進歩性欠如の無効理由を有する。
(イ) 原告の主張
a 一致点及び相違点
被告の主張aは明らかに争わない。
b 相違点についての判断
(a) 同bのうち,(b)は明らかに争わず,その余は否認する。
(b) 乙31刊行物では,マイクロコンピュータによって実現される制御回路
24のクロック信号源は図示されておらず,基準周波数発生回路27に接続される
信号源も図示されていないから,マイクロコンピュータによって実現される制御回
路24のクロック信号源と基準周波数発生回路27に接続される信号源とが同一で
あるか同一でないかは,当業者においても不明である。
(c) 仮に同一信号源の点が認定できたとしても,上記イ(イ)b(b)と同様の理
由から,本件発明4の2は,乙31発明から容易に想到できたものではない。
エ 進歩性欠如(乙32)
(ア) 被告の主張
a 乙32刊行物
(a) 1993年11月16日に発行された米国特許第5262957号公報
(乙32刊行物)の図4には ,「PLLチップ(μC COMP PLL)100」と「マイクロコント
ローラ(CMOS MICROCONTROLLER)76」に共通のクロック(CLOCK)が供給されている回
路図が示されている。
(b) 構成要件K及びLの「PLL回路」が乙32発明の「PLLチップ100」に ,
構成要件K及びLの「マイクロコンピュータ」が乙32発明の「マイクロコントロ
ーラ76」にそれぞれ相当する。
(c) したがって,乙32刊行物には,マイクロコンピュータ(「マイクロコン
トローラ76」)の基準信号となるクロック信号とPLL回路(「PLLチップ100」)の
第1の基準信号とを同一信号源から得るとする構成要件Lに相当する発明が開示さ
れている。
b 相違点についての判断
(a) 本件発明4の2のその余の構成は,従来の映像信号受信装置に一般に採
用されている構成である。
(b) したがって,乙32発明に上記(a)の一般的な構成を組み合わせて本件発
明4の2のように構成することは,当業者であれば容易に想到することができたこ
とである。
c まとめ
よって,本件発明4の2は,進歩性欠如の無効理由を有する。
(イ) 原告の主張
a 乙32刊行物
(a) 被告の主張aは否認する。
(b) 乙32刊行物の図4では,クロック(CLOCK)の回路ブロックがPL
Lチップ100の回路ブロックとマイクロコントローラ76の回路ブロックそれぞ
れにクロック信号を供給していることが図示されているが,クロック(CLOCK)
の回路ブロックの信号源(水晶振動子)は図示されていないから,クロック(CLO
CK)の回路ブロックに接続されている水晶振動子が,PLLチップ100及びマ
イクロコントローラ76のために共用される水晶振動子1つだけであるのか,PL
Lチップ100用水晶振動子とマイクロコントローラ76用水晶振動子の2つであ
るのかは,当業者においても不明である。
(c) また,乙32刊行物では,好適な形態として,PLLチップ100の回
路ブロックに供給されるクロック信号の周波数は62.5kHzとなっているが
(8欄16行∼19行)。この62.5kHzという値は,マイクロコントローラ7
6のクロック周波数の値としては低すぎ,PLLチップ100の回路ブロックとマ
イクロコントローラ76の回路ブロックとは,互いに周波数において密接な関係に
ない。
互いに周波数に密接な関係のない2つのブロックの基準信号は別々の信号源から
得ることが当業者の常識であるから,当業者は,互いに周波数において密接な関係
にない2つのブロックの基準信号は別々の信号源から得ていると認識する。
b 相違点についての判断
同bのうち,(a)は明らかに争わず,(b)は否認する。
c まとめ
同cは否認する。
オ 進歩性欠如(乙33)
(ア) 被告の主張
a 乙33刊行物
(a) 特公昭58−29655号公報(乙33刊行物)には ,「・・・上記プロ
グラム可能な分周器の出力と,上記基準発振器手段と上記局部発振器手段のうちの
他方のものの出力とに結合されていて,制御信号を生成し,その制御信号を上記局
部発振器手段に供給してその動作周波数を制御する手段(例えば後述する位相検波
器36,ユニット46,スイッチ48)と;上記自動微同調回路手段の出力に結合
され,且つ上記プログラム可能な分周器に結合されていて,この分周器を制御して,
上記自動微同調信号の予め定められた信号条件に応答して上記第1の予め定められ
た範囲によって決定される第2の予め定められた範囲内において上記プログラム可
能な数を変化させる制御手段(例えば後述する計数器42,ユニット56,68)」
(4欄21行∼35行),「この時,VCO50,1/Kプリスケーラ分周器52,
プログラム可能1/N分周器34,位相検出器36,プログラム可能1/R分周器
38,水晶発振器40及び低域通過フィルタ・増幅器ユニット46に対応する位相
固定ループによって,VCO50の出力に,水晶発振器40の出力の周波数fxosc
に対して次の関係を有する周波数fLOの局部発振信号が発生する 。」(9欄4行∼1
2行)と記載されている。
(b) これらの説明を前提として,乙33刊行物の図1を参照すると ,「VC
O50 」 「1/Kプリスケーラ分周器52 」 「プログラム可能1/N分周器3
, ,
4 」 「位相検出器36 」 「プログラム可能1/R分周器38 」 「水晶発振器4
, , ,
0」及び「低域通過フィルタ・増幅器ユニット46」に対応する位相固定ループは,
構成要件K及びLにおける「PLL回路」に相当し,この「PLL回路」は「水晶
発振器(基準発振器手段)40」から基準信号を受けていることになる。
(c) 他方,プログラム可能な数を変化させる制御手段(「アップダウン計数器
42」 「クロック付勢ユニット68」)は,構成要件K及びLにおける「マイクロ
,
コンピュータ」に相当し ,「1/A分周器66」を経て「水晶発振器40」から基
準信号を受けている。
(d) つまり,乙33発明における位相固定ループ及び制御手段は,同一信号
源である「水晶発振器40」から基準信号を受けるから,構成要件Lがここに開示
されている。
b 相違点についての判断
(a) 本件発明4の2のその余の構成は,従来の映像信号受信装置に一般に採
用されている構成である。
(b) したがって,乙33発明に上記(a)の一般的な構成を組み合わせて本件発
明4の2のように構成することは,当業者であれば容易に想到することができたこ
とである。
c まとめ
よって,本件発明4の2は,進歩性欠如の無効理由を有する。
(イ) 原告の主張
a 乙33刊行物
(a) 被告の主張aは否認する。
(b)一 乙33発明におけるプログラム可能な数を変化させる制御手段(「アッ
プダウン計数器42 」 「クロック付勢ユニット68」)は ,
, 「1/R分周器38の
数Rを変化させており」(4欄20行∼21行,同33行∼35行,11欄15行
∼24行),装置本体の動作を制御するわけではないので,構成要件Lのマイクロ
コンピュータに相当しない。
二 また,チャンネル番号レジスタ28,計数プリセット論理ユニット62 ,
アップダウン計数器42,走査停止論理ユニット70,クロック付勢ユニット68,
及びスイッチ論理ユニット56からなる制御部の基準信号については,乙33刊行
物には何ら記載されていないから,上記制御部は,構成要件Lにあるマイクロコン
ピュータに相当するとはいえない。
b 相違点についての判断
同bのうち,(a)は明らかに争わず,(b)は否認する。
c まとめ
同cは否認する。
カ 特許法29条の2違反(乙29)
(ア) 被告の主張
a 乙29刊行物
(a) 平成6年7月22日に出願され,平成8年2月6日に公開された特開平
8−37629号公報(乙29刊行物)は,AFC直流電圧に基づき周波数の変動を
調整して基準信号となるクロック信号を得ている構成を開示している(【002
4】)。
(b) 乙29発明においては,マイコン18はデジタルAFC内蔵FM復調器2
2と共にAFC手段を構成しており,水晶発振子15に基づいて周波数のずれを補
正する機能を有している。
b クレーム解釈
構成要件Lは ,「マイクロコンピュータの基準信号となるクロック信号と前記第
1の基準信号とを,同一の信号源から得る」とのみ記載しているから,マイクロコ
ンピュータの基準信号のすべてを同一の信号源から得る必要はない。
c まとめ
乙29発明においては,マイコン18は一部の基準信号を第1の基準信号と同一
の信号源から得ているから,本件発明4の2は,乙29発明と実質的に同一である。
(イ) 原告の主張
a 乙29刊行物
(a) 被告の主張aは否認する。
(b) 乙29刊行物の【0024】からは,マイコン18は,直流電圧20を
基に,周波数(第2のIF信号の中心周波数)の変動を調整しているだけである。
(c) 同【0029】には ,「尚,上記実施例では,衛星放送及び衛星通信を
受信するセカンドコンバータにおける複数のPLLシンセサイザ方式の回路(又は
IC)での基準水晶発振子の共用について説明した」と記載されている。
マイコン18は,セカンドコンバータ19外にあるから,マイコン18のクロッ
ク信号源は,図示されていないだけで,水晶発振子15とは別に存在する。
(c) また,デジタルAFC内蔵FM復調回路22及びマイコン18は,その
一部であるデジタルAFC回路が選局回路14と水晶発振子15を共用しているだ
けである。
b クレーム解釈
同bは争う。
構成要件Lを満たすためには,前記マイクロコンピュータのクロック信号と第1
の基準信号とが同一信号源から得られなければならず,一部の基準信号を共用する
だけでは足りない。
c まとめ
同cは否認する。
5 争点(3)(不当利得及び損害の額)についての当事者の主張
(1) 原告の主張
ア 販売台数
(ア) 被告は,平成10年から平成13年9月2日までに,別紙「損害額の算定
資料」の「不当利得対象台数」欄のとおり,イ号物件①ないし③を合計●省略●販
売した。
(イ) 被告は,平成13年9月3日から平成18年12月31日までに,同算定
資料の「損害賠償対象台数」欄に記載のとおり,イ号物件①ないし③を合計●省略
●販売し,同算定資料の「COMBO損害賠償対象台数」欄に記載のとおり,ロ号
物件を合計●省略●販売した。
イ 相当実施料
(ア) イ号物件①ないし③の平均販売価格は,●省略●である。
(イ) 相当実施料は,その●省略●すなわち●省略●が相当である。
ウ 不当利得額
したがって,平成10年から平成13年9月2日までの間のイ号物件①ないし③
についての不当利得額は,●省略●である。
●省略●
エ 損害額
(ア) 原告の利益額
被告の侵害行為がなければ,イ号物件①ないし③及びロ号物件1台当たり,同算
定資料の「原告VCR1台あたりの利益額」欄のとおり,●省略●の利益を上げる
ことができた。
(イ) 1項の計算
上記ア(ア)の台数の●省略●につき原告が販売することができたものとして,上
記(ア)の利益額を乗ずると,その損害額は,同算定資料の●省略●欄のとおり,●
省略●となる。
(ウ) 3項の補充適用
残りの●省略●の台数につき,実施料相当額の計算をすると,その損害額は,同
算定資料の●省略●欄のとおり,●省略●となる。
オ 合計
よって,損害額合計は,●省略●となる。
カ 1項ただし書の事情
後記被告の主張カは否認する。
(2) 被告の主張
ア 販売台数
原告の主張アは認める。
イ 相当実施料
同イのうち,(ア)(平均販売価格)は認め,(イ)(相当実施料)は否認する。
ウ 不当利得額
同ウは否認する。
エ 損害額
同エは否認する。
オ 合計
同オは否認する。
カ 1項ただし書の事情
(ア) 被告を除くVCRメーカーにおける原告のシェアは,●省略●にすぎない。
(イ) したがって,上記シェアに相当する台数を超える台数については,原告に
おいて販売することができない事情があった。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)ア(構成要件H−本件発明4の1)の充足
(1) クレーム解釈
ア(ア) 証拠(乙27)によれば ,「MARUZEN IEEE 電気・電子用語辞典」(平成
元年9月30日発行)608頁には ,「復調」のデータ伝送における意味として,
「変調過程の1つであり,受信した既変調信号を用いて,原信号の特性を得ること。
注:この用語は,周波数変換や混合(ミクサ)の動作を記述するのに用いることがあ
るが,不適切な用法である。」と記載されていることが認められる。
(イ) この事実によれば ,「復調」の有する通常の意味は,上記のとおり ,「変
調過程の1つであり,受信した既変調信号を用いて,原信号の特性を得ること 。」
であると認められる。
イ さらに,第四権利明細書の発明の詳細な説明【0012】には,実施例に
ついての説明の一部として ,「色信号回路6は,映像検波回路5によって検波され
た映像信号から,赤,緑,青の3種の色信号62を生成する・・・詳細には,色信
号回路6は,水晶発振子7の発振の制御を行うことにより,バースト信号に位相同
期した信号である第2の基準信号を生成する 。」と記載されている。
ウ 上記アの「復調」の有する通常の意味及び上記イの発明の詳細な説明の記
載によれば,構成要件Hにいう「復調」は,変調過程の1つであり,受信した既変
調信号を用いて,原信号の特性を得ることであることを意味し,低域搬送色信号を
搬送色信号に周波数変換することを含まないものと認められる。
エ この点は, 略3.58MHzを加えた 本件訂正発明4の1のようにする
訂正後であっても同様であると認められる。
オ(ア) 原告は,周波数変換の動作について ,「復調」という用語が使用され
ているように(甲32), 構成要件Hにいう「復調」は,再生モードにおいて,低
域搬送色信号を高域変換(周波数変換)して搬送色信号を得ることを含む旨主張する。
(イ) しかしながら,原告が引用する家電製品協議会編「家電修理技術資格シ
リーズ ビデオとテープレコーダ 増補版」(甲32)の90頁に おいては,
「・・・再生時は低域変換搬送色信号とアイドラ信号とで周波数変換し,搬送色信
号に復調するための回路である 。」と記載されており,文脈上「復調」を周波数変
換と解するほかない場合である。したがって,上記甲32の使用法があるからとい
って,構成要件Hの「復調」を周波数変換を意味すると認めることはできない。
(ウ) しかも,第四権利明細書中に,原告主張の解釈を裏付ける発明の詳細な説
明又は図面の記載を見いだすことはできない。かえって,上記イのとおり,第四権
利明細書の発明の詳細な説明の記載は,被告の主張に沿うものである。
(エ) したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(2) まとめ
ア(ア) 前提事実(3)ウ(ア)のとおり,イ号物件①では,再生モードにおいて,混
合回路から出力される中間周波信号を検波することにより得られた低域搬送色信号
を搬送色信号に周波数変換しているだけであるから,構成要件Hを充足しない。
(イ) ロ号物件が構成要件Hを充足する構成を有することの立証はないから,ロ
号物件は,構成要件Hを充足しない。
イ よって,原告の本件発明4の1に基づく請求は,その余の点について判断
するまでもなく,理由がない。
2 争点(2)ア(ウ)及び(キ)(第一権利の無効)
(1) 進歩性欠如(乙2)
ア 乙2刊行物
(ア) 乙2刊行物に次の記載があることは,当事者間に争いがない。
a 第1図には,磁気記録再生装置のシャーシ構造を概略的に示す分解斜視図
が示されており ,「11はプラスチックなどで一体成形されたシャーシ枠体で」
(2頁右下欄13行∼14行),「上記シャーシ枠体11の前部にはメカデッキ12
の前部を保持するための第1保持部14が設けられており,これはシャーシ枠体の
底面11aからボス状に一体形成されており」(2頁右下欄17行∼20行),
b 第2図には,シャーシ枠体11の底面11aのすぐ上で,メカデッキ12
の下方に,主基板ユニット17が配置されていることが示されている。主基板ユニ
ット17については ,「17はほとんどの主要回路部品が搭載された主基板ユニッ
ト」(3頁左上欄13行∼14行),
c 第6図には,録画,再生部26が載置されているメカデッキ12が,主基
板ユニット17を底面11aに装備したシャーシ枠体11内に配置した状態が示さ
れている。
(イ) 上記記載によれば,乙2刊行物には ,「記録及び/または再生部(録画,
再生部26)をシャーシ内に組み込んだデッキ本体(メカデッキ12)を,プリント
配線基板(主基板ユニット17)を底部(底面11a)に装備した装置筐体(シャーシ
枠体11)内に配置し,装置筐体(シャーシ枠体11)を構成するシャーシ底部(底面
11a)から起立したデッキ取付け部(第1保持部14)に,デッキ本体(メカデッキ
12)の前部を取付け,支持するように構成した磁気テープ装置において,装置筐
体(シャーシ枠体11)のシャーシ前部を構成するフロントパネル部に近接して,デ
ッキ取付け部(第1保持部14)を配置,形成した磁気テープ装置」が記載されてい
ると認められる。
イ 一致点及び相違点
(ア) 本件考案1と乙2考案とを対比すると,乙2考案においては,デッキ取付
け部(第1保持部14)が装置筐体(シャーシ枠体11)のシャーシ前部を構成するフ
ロントパネル部に近接しており,本件考案1においては,デッキ取付け部がシャー
シ後部を構成するバックパネル部に近接している点で異なるが,その余の点で一致
すると認められる。
(イ)a 原告は,本件考案1と乙2考案とは,②乙2考案には,一枚基板の構成
は存しない点,③乙2考案のメカデッキ12の後部を取り付ける第2保持部15の
縦辺部15dは ,「シャーシ枠体11の底面11aに対してアーチ状に」(3頁左
上欄7行∼8行)形成されているから,本件考案1の装置筐体を構成する「シャー
シ底部から起立したデッキ取付け部」の構成は存しない点でも相違する旨主張する。
b ②の一枚基板の点は,第一権利明細書の実用新案登録請求の範囲には,構
成要件Aの「プリント配線基板」につき原告主張のような限定はなく,考案の詳細
な説明及び図面の記載を参酌しても,同「プリント配線基板」を原告主張のように
限定して解釈することはできないから,原告主張の一枚基板の点を相違点と認める
ことはできない。
c(a) ③の「デッキ取付け部」の点については,証拠(乙2)によれば ,「保
持部4」について,乙2刊行物に ,「従来の一般的なVTRのシャーシ構造を第7
図,第8図に概略的に示す。図において,1はプラスチック等で一体成形されたシ
ャーシ枠体,2はメカデッキで,これは取付穴3aを有する取付部3を備え,上記
シャーシ枠体1に設けられた保持ボス4にネジ5aで螺着されている 。」(2頁左
上欄2行∼7行)と記載されていることが認められる。この記載並びに乙2刊行物
の第7図及び第8図によれば ,「保持部4」は,シャーシ枠体1に設けられ,シャ
ーシ枠体から起立した状態にあることが認められる。
(b) 次に,証拠(乙2)によれば ,「保持部15」について,乙2刊行物には,
以下の記載があることが認められる。
一 「本発明は,磁気記録再生装置のシャーシ構造において,天面が開放さ
れた箱状のシャーシに上部のみから部品を取付けるようにし,またメカデッキの後
部をシャーシ枠体にアーチ状に形成された第2保持部により保持し,このアーチ状
の第2保持部とシャーシ枠体の底面との間に1ブロックに集約された基板ユニット
を摺動自在に装着するようにしたものである 。」(2頁左下欄16行∼右下欄3行),
二 「第1図はこの発明の一実施例を概略的に示す斜視図であり,第2図は
その断面側面図である。図において,11はプラスチック等で一体成形されたシャ
ーシ枠体で,天面が開放された箱状となっている。12はメカデッキで,従来例と
同じく取付穴13aを有する取付部13を備えている。上記シャーシ枠体11の前
部にはメカデッキ12の前部を保持するための第1保持部14が設けられており,
これはシャーシ枠体11の底面11aにボス状に一体形成されており,また上記シ
ャーシ枠体11の略中央部には,メカデッキ12の後部を保持するための第2保持
部15が形成されている。この第2保持部15は平面L字状のもので,その縦辺部
15dの先端,横辺部15cはそれぞれシャーシ枠体11の側面11e,底面11
aに一体形成され,これにより上記縦辺部15dはシャーシ枠体11の底面11a
に対してアーチ状になっており,また該縦辺部15dには固定用ボス15aと仮止
め穴15bが形成されている。このようにしてメカデッキ12はその前部を第1保
持部14に,後部を第2保持部15の固定用ボス15aにネジ16aにより固着さ
れている 。」(2頁右下欄11行∼3頁左上欄12行),
三 第1図には,メカデッキ12後部の取付部13の取付穴13aと,第2
保持部15の固定用ボス15aを,ネジ16aにより固着することが,図示されて
いる。
四 これらの記載によれば,乙2刊行物の第1図の実施例において ,「保持
部15」は,縦辺部15dと,横辺部15cとからなる平面L字状のものであり,
横辺部15cはシャーシ枠体11の底面11aに一体形成され,メカデッキ12後
部の取付部13の取付穴13aと「保持部15」の固定用ボス15aとを,ネジ1
6aにより固着することが認められる。
(c) このように,保持部4及び保持部15は,これらを全体としてみれば,
メカデッキの後部を保持し,しかも底面に一体形成されているから,本件考案1の
「デッキ取付け部」に相当すると認められる。
よって,原告主張のデッキ取付け部の点を相違点と認めることはできない。
ウ 相違点についての判断
(ア) ビデオテープレコーダなどの磁気記録装置において,小型軽量化は,普遍
的な技術課題であることは,当事者間に争いがない。この事実に,弁論の全趣旨に
よれば,装置筐体内の各部品の配置を,該筐体内の限られた空間をできるだけ有効
に活用するために,各部品同士の間隔及び各部品とシャーシ壁部との間隔を近接し
て配置しようとすることは,当業者が当然行うことであると認められる。
(イ) さらに,弁論の全趣旨によれば,装置筐体全体の重量バランスを取り,剛
性を高めようとする場合,比較的重量のあるデッキ本体等をバックパネル部を含む
いずれかのパネル部に近接して取り付ければよいことは,機械工学的に明らかであ
り,当業者が当然行うことであると認められる。乙1刊行物の第1図,乙10刊行
物の第1図及び第3図並びに乙35P装置の写真6,7,8,8−1,8−2及び
9には,比較的重量のあるデッキ本体等をバックパネル部に近接して取り付けたも
のが開示されていることが認められるが,これらの例は,上記機械工学的に明らか
な事項を実際の機械に適用し,取り付ける先としてバックパネル部を選択した例で
あると認められる。
(ウ) したがって,乙2考案において,フロントパネル部に近接して配置,形成
されている第1保持部14(デッキ取付け部)を,装置筐体内のチューナなどの部品
の配置に応じてバックパネル部に近接して配置,構成することは,当業者であれば
きわめて容易になし得たことと認められる。
(エ) そして,デッキ取付け部をバックパネル部に近接して配置,形成すること
により得られる効果も格別のものとはいえないと認められる。
(オ) 原告は,従来の技術では,装置筐体1に装着されたデッキ本体2の後側に
チューナ3,入出力用のジャック4を配設していたため,デッキ本体と装置筐体の
後壁部とを近接して配置することができないという阻害要因があったものであり,
「保持部」を「シャーシ枠体」の中央部より更に後部寄りの位置に配置,形成する
具体的構成に想到することは容易ではなかった旨主張する。
しかしながら,上記(ア)及び(イ)に説示したところによれば,デッキ本体を近接さ
せる先として装置筐体の後壁部を選択し,その実現のためにチューナ3や入出力用
のジャック4の配置位置を調整する程度のことは,当業者が設計事項として適宜行
う程度のことにすぎないと認められ,原告の上記主張は採用することができない。
エ まとめ
以上によれば,本件考案1は,乙2考案に基づいて,乙1刊行物,乙10刊行物
及び乙35P装置に示されている技術常識を考慮することにより,当業者がきわめ
て容易に考案をすることができたものであるから,進歩性欠如の無効理由を有する。
(2) 本件訂正考案1の無効等
ア 実質的不拡張
原告の本件訂正考案1が,第一権利の実用新案請求の願書に添付した明細書に記
載した事項の範囲内のものであり,実用新案登録請求の範囲を拡張し,又は変更す
るものではないことは,原告において明らかに争わないから,これを自白したもの
とみなす。
イ 独立特許要件
(ア) 一致点及び相違点
a 乙2考案と本件訂正考案1との相違点につき,プリント配線基板にパル
ス・トランスを取り付けた点が更に相違点となることは,当事者間に争いがない。
その余の一致点及び相違点は,前記(1)イのとおりである。
b 原告は,一枚基板の点は,本件訂正考案1のように訂正したことにより,
相違点であることがより明らかとなった旨主張するが,上記訂正後であっても,そ
の実用新案登録請求の範囲には,プリント配線基板の大きさを限定した記載はなく,
考案の詳細な説明や図面を参照しても,実用新案登録請求の範囲に記載された文言
を原告主張のように限定して解釈することはできないから,一枚基板の点は,相違
点ではないといわなければならない。
(イ) 近接の相違点についての判断
a 近接の相違点についての判断は,前記(1)ウのとおりである。
b 上記aのとおり,近接の点の構成に想到することがきわめて容易である以
上,本件訂正考案1のようにプリント配線基板にパルス・トランスを取り付けた点
が加われば,近接の点の構成に想到することがより容易になることはあっても,困
難になることはないと認められる。
(ウ) パルス・トランスの相違点についての判断
a(a) 特開平2−163995号公報(乙66)の第7図及び第8図には,A
C商用電源端子120と,トランス108と,スイッチ回路114とを具備するス
イッチング電源装置が記載されていること,並びに第一権利出願時に公開されてい
た特開平3−135371号公報(乙67)の第1図Aには,スイッチングレギュレ
ータ回路と,パルストランスとAC商用電源端子を有する基板が記載されているこ
とは,原告において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。
(b) したがって,乙66刊行物及び乙67刊行物には,パルス・トランスを
取り付けたプリント配線基板が開示されているものである。
b(a) 上記a(a)によれば,乙66考案及び乙67考案は,本件訂正考案1と
同一の技術分野に属するものと認められる。
(b) したがって,乙2考案に乙66考案及び乙67考案を組み合わせて,本
件訂正考案1のパルス・トランスの相違点のように構成することは,当業者にとっ
てきわめて容易に想到できたことと認められる。
(エ) まとめ
よって,本件訂正考案1のように訂正しても,進歩性欠如の無効理由を解消する
ことはできない。
(3) まとめ
以上によれば,原告の第一権利に基づく請求は,その余の点を判断するまでもな
く,理由がない。
3 争点(2)ウ(ア)(新規性欠如及び進歩性欠如(乙42)−本件発明4の2)
(1) 乙42刊行物
ア 乙42刊行物の記載
1988年2月23日に発行された乙42刊行物に,被告の主張a(a)の記載が
あることは,当事者間に争いがない。
イ 乙42刊行物の開示
(ア) 上記ア及び乙42刊行物の図2によれば,乙42刊行物には,次の点の開
示があるものと認められる。
一 乙42発明は,衛星信号受信機に使用されるマイクロプロセッサ制御同
調装置についてのものである。
二 本件発明4の2と乙42発明との対応関係は,以下のとおりである。
(一) 本件発明4の2の「混合回路に局部発振信号を送出する局部発振回
路」の混合回路は,乙42刊行物図2の混合器(MIXER)28に,局部発振回路
は,同図2のVCO26にそれぞれ対応している。
(二) 本件発明4の2のPLL回路は,乙42刊行物図2のプログラム可能
分割器46,基準発振器48,位相検出器50に対応している。
本件発明4の2のマイクロコンピュータは,乙42刊行物図2のCPU38に対
応している。
(三) CPU38からプログラム分割器46及びカウンタ58へ,制御信
号(制御出力113に相当)が出力されている。
(四) 乙42刊行物には,マイクロコンピュータ(CPU38)の基準信号と
なるクロック信号とPLL回路(プログラム可能分割器46,基準発振器48,位
相検出器50)の第1の基準信号とを,同一信号源(基準発振器48)から得ること
が記載,図示されている。
基準発振器48の信号源は,唯一の信号源である水晶52である。
したがって,乙42発明では,マイクロコンピュータ(CPU38)の基準信号と
なるクロック信号とPLL回路の第1の基準信号を同一の信号源(水晶52)から得
ている。
(イ) これに反する原告の主張は,採用することができない。
(2) 一致点と相違点の認定
ア 上記(1)イによれば,本件発明4の2と乙42発明とは,本件発明4の2は
映像信号受信装置であるのに対し,乙42発明は衛星信号受信機に使用されるマイ
クロプロセッサ制御同調装置である点 で相違し, その余の点で一致すると認めら
れる。
イ 原告は,水晶の周波数を比較的少ない4逓倍で得られることを発見した点
は容易に想到できた点ではない旨主張するが,本件発明4の2の特許請求の範囲に
は逓倍数について限定する記載はないから,この点を相違点と認めることはできな
い。
(3) 相違点についての判断
ア 弁論の全趣旨によれば,本件発明4の2の映像信号受信装置と,乙42発
明の衛星信号受信機に使用されるマイクロプロセッサ制御同調装置とは,技術分野
を共通にすると認められる。
イ したがって,乙42発明のマイクロコンピュータの基準信号となるクロッ
ク信号とPLL回路の基準信号を同一の信号源から得るという技術思想を映像信号
受信装置に適用して,本件発明4の2のように構成することは,当業者であれば容
易に想到することができたことであると認められる。
(4) 逓倍の 点についての判断
ア 仮に, 逓倍の 点が相違点になるとしても,弁論の全趣旨によれば,水晶の
周波数を逓倍又は分周して必要な周波数を得ることは,日常慣用されている技
術であることが認められる。
イ したがって, 逓倍の点の構成は,格別のことではないと認められる。
(5) まとめ
よって,本件発明4の2は,進歩性欠如の無効理由を有し,原告は,本件発明4
の2についての特許権を行使することができない。
4 結論
よって,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとお
り判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
市 川 正 巳
裁判官
大 竹 優 子
裁判官
宮 崎 雅 子
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