平成19(行ケ)10027審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成19年12月28日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官肥塚雅博 原告エーエスエムエルネザーランズビー.ブイ.
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対象物 |
リソグラフィ装置を操作する方法,リソグラフィ装置,デバイス製造方法,およびそれによって製造されるデバイスとする特許出願以下本 |
法令 |
特許権
特許法29条2項2回
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キーワード |
審決48回 実施11回 分割2回 刊行物1回 優先権1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
, ( , ),原告は 平成13年8月31日 優先権主張:2000年9月1日 欧州
発明の名称を「リソグラフィ装置を操作する方法,リソグラフィ装置,デバイ
ス製造方法,およびそれによって製造されるデバイス とする特許出願 以下 本」 ( 「
願 という をした その後 原告は 平成15年12月5日 本願に係る明」 。) 。 , , ,
細書 特許請求の範囲を含む を補正する手続補正をしたが 平成16年6月( 。) ,
4日付けの拒絶査定を受けたので,同年8月25日,これに対する不服の審判
(不服2004−17527号事件)を請求するとともに,本願に係る明細書
特許請求の範囲を含む を補正する手続補正をした 特許庁は 平成18年( 。) 。 ,
5月15日付けで,原告が平成16年8月25日にした手続補正を却下すると
ともに,拒絶理由通知をした。そこで,原告は,平成18年7月25日,本願
に係る明細書の特許請求の範囲の記載を補正(以下,この補正を「本件補正」
といい 本件補正後の本願に係る明細書及び図面を 本願明細書 という す, 「 」 。)
る手続補正をしたが 特許庁は 同年9月12日 本件審判の請求は 成り立, , ,「 ,
たない 」との審決(附加期間90日,以下「審決」という )をし,同月22。 。 |
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判決文
平成19年12月28日判決言渡
平成19年(行ケ)第10027号 審決取消請求事件
平成19年11月12日口頭弁論終結
判 決
原 告 エーエスエムエル ネザーランズ ビー. ブイ.
訴訟代理人弁理士 森 下 賢 樹
同 三 木 友 由
同 永 島 秀 郎
同 富 所 輝 観 夫
被 告 特許庁長官 肥 塚 雅 博
指 定 代 理 人 辻 徹 二
同 末 政 清 滋
同 小 池 正 彦
同 大 場 義 則
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2004−17527号事件について平成18年9月12日に
した審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成13年8月31日(優先権主張:2000年9月1日,欧州 ),
発明の名称を「リソグラフィ装置を操作する方法,リソグラフィ装置,デバイ
ス製造方法,およびそれによって製造されるデバイス 」とする特許出願 以下 本
( 「
願」という 。 をした。その後,原告は,平成15年12月5日,本願に係る明
)
細書(特許請求の範囲を含む。 を補正する手続補正をしたが ,平成16年6月
)
4日付けの拒絶査定を受けたので,同年8月25日,これに対する不服の審判
(不服2004−17527号事件)を請求するとともに,本願に係る明細書
(特許請求の範囲を含む。 を補正する手続補正をした。特許庁は ,平成18年
)
5月15日付けで,原告が平成16年8月25日にした手続補正を却下すると
ともに,拒絶理由通知をした。そこで,原告は,平成18年7月25日,本願
に係る明細書の特許請求の範囲の記載を補正(以下,この補正を「本件補正」
といい,本件補正後の本願に係る明細書及び図面を「本願明細書」という。 す
)
る手続補正をしたが ,特許庁は ,同年9月12日, 本件審判の請求は,成り立
「
たない。」との審決(附加期間90日,以下「審決」という。)をし,同月22
日,その謄本を原告に送達した(なお,原告は,同月19日,名称変更届及び
住所変更届を特許庁に提出した 。 。
)
2 特許請求の範囲
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は ,次のとおりである 以下 ,
(
この発明を「本願第1発明」という 。 。
)
「 請求項1】 放射投影ビームを供給する放射システムと,
【
マスク平面でマスクを保持する第1のオブジェクト・テーブルと,
基板平面で基板を保持する第2のオブジェクト・テーブルと,
少なくともマスクの一部分を基板の目標部分上に結像する投影システムと
を含んだリソグラフィ投影装置を操作する方法であって,
1つのピンホールを用いる前記装置内の前記マスク平面で前記投影ビーム
の少なくとも1つの部分から少なくとも1つの放射スポットを形成するステ
ップと,
前記ピンホールの回折格子に用いる前記放射スポットを回折するステップ
と,
前記スポットに関して焦点位置の外に置かれた単一のスポットセンサの1
つのピンホールで,前記スポットまたは前記スポットの像から焦点を外した
放射の強度の空間変動を測定するために前記センサをスキャンするステップ
と,
前記スキャンステップで得られた情報から前記装置の特性を決定するステ
ップとを含むことを特徴とする方法。」
3 審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願第1発明は,本願の優先日
前に頒布された刊行物である特開平3−65623号公報(甲2,以下「引用
例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定に
より特許を受けることができない,というものである。
審決は上記判断をするに当たり,引用発明の内容及び本願第1発明と引用発
明との一致点・相違点を次のとおり認定した(なお,審決書8頁2行ないし3
行に マスク平面でマスクを保持する第1のオブジェクト・テーブル」 同頁2
「 ,
1行に「放射の強度の空間変動を測定する」とあるのは,それぞれ「基板平面
で基板を保持する第2のオブジェクト・テーブル」 「放射を測定する」の誤記
,
と認める 。 。
)
(1) 引用発明の内容
「投影形露光装置において,レチクルの上に散乱板を挿入し,照明光束に
より,レチクル上のピンホールを通った光が入射瞳の全開口面積を通って縮
小レンズに入射するようにして,レチクル上のピンホールの像をレチクルと
共役となる位置すなわちウエハ面と同じ高さに結像させ,さらに,ウエハス
テージ上に設けた瞳上照度分布検出ユニットの受光側ピンホールを上記共役
となる位置からh離れた位置に設け,この受光側ピンホールと単一のセンサ
とを一体として,ウエハステージに乗せ,当該ウエハステージをXまたはY
方向に移動することにより,受光側ピンホールと単一のセンサを走査しなが
ら光量測定することにより照度分布を検出する方法。」
(2) 一致点
「基板平面で基板を保持する第2のオブジェクト・テーブルと,
少なくともマスクの一部分を基板の目標部分上に結像する投影システムと
を含んだリソグラフィ投影装置を操作する方法であって,
1つのピンホールを用いる前記装置内の前記マスク平面で前記投影ビーム
の少なくとも1つの部分から少なくとも1つの放射スポットを形成するステ
ップと,
前記スポットに関して焦点位置の外に置かれた単一のスポットセンサの1
つのピンホールで,前記スポットまたは前記スポットの像から焦点を外した
放射を測定するために前記センサをスキャンするステップと,
前記スキャンステップで得られた情報から前記装置の特性を決定するステ
ップとを含むことを特徴とする方法。」
(3) 相違点
ア 相違点1
本願第1発明は, 放射投影ビームを供給する放射システムと ,
「 マスク平
面でマスクを保持する第1のオブジェクト・テーブル 」を有するのに対し ,
引用発明は,上記構成の記載がない点。
イ 相違点2
本願第1発明は, 放射の強度の空間変動を測定する」のに対し,引用発
「
明は,上記構成の記載がない点。
ウ 相違点3
本願第1発明は, ピンホールの回折格子に用いる放射スポットを回折す
「
る」のに対し,引用発明は,上記構成の記載がない点。
第3 取消事由に係る原告の主張
審決は,本願第1発明と引用発明との一致点の認定を誤り,相違点を看過し
た違法(取消事由1)及び相違点3の容易想到性の判断を誤った違法(取消事
由2)があるから,取り消されるべきである。
なお ,引用発明の内容及び相違点1ないし3の各認定(前記第2 ,3(1)及び
(3) )並びに相違点1及び2に係る各容易想到性の判断に誤りがないことは認め
る。また,一致点の認定(前記第2,3(2))につき,「前記装置の特性を決定
する」との部分を除いて誤りのないことは認める。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り・相違点の看過)
審決は,引用発明の「照度分布を検出する」ことが本願第1発明の「装置の
特性を決定する」ことに相当すると認定した(審決書8頁10行∼11行,同
頁22行 )。
しかし,以下のとおり ,本願第1発明の「装置の特性」とは , 回折格子を利
「
用して決定される装置における特性 」 すなわち ,
, レンズの透過度の角度依存性
を意味するのに対し,引用例1には「回折格子」を利用することは何ら開示さ
れていないから,審決は,本願第1発明と引用発明との相違点を看過したもの
であり,一致点の認定に誤りがある。
(1)ア 本願第1発明において,「装置の特性」を決定するための「スキャンス
テップで得られた情報」とは , 回折格子」を利用し ,放射スポットが回折
「
されていることを前提として取得される情報を意味する。このことは,本
願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載から明らかである(請求項1
の「前記ピンホールの回折格子に用いる前記放射スポットを回折するステ
ップ」との記載は,特許を受けようとする発明を「回折格子」を使用する
実施形態〔本願明細書の段落【0059】ないし【0060】等〕に限定
するため,本件補正により追加されたものである。 。
)
したがって,本願第1発明における「装置の特性」とは,単に「スキャ
ンステップで得られた情報」から決定され得る「特性」であればよいので
はなく, 回折格子 」
「 を利用することにより決定される 特性」
「 を意味する。
イ そして,本願第1発明いう「装置の特性 」,すなわち,「回折格子」を利
用して決定される装置の特性が,回折格子からの0次回折光に加えて少な
くとも1次回折光を用いて得られる特性であることは,当業者には自明で
ある。なぜなら,一般に,回折格子を用いる場合には,強度において,も
との入射光に比較して弱い0次光のみでなく,少なくとも1次光を利用す
るからである。そうすると,請求項1に「回折格子」を用いることが明記
されている以上,当業者は,本願第1発明では,0次光に加え,少なくと
も1次光が利用されるものと理解する。
ところで ,本願明細書の段落【0060 】等は , 回折格子 」を利用する
「
ことにより決定される「特性 」の具体例として, 角度に依存するレンズ透
「
過度 」及び「NA絞りのサイズと大きさ」を挙げている。このうち , レン
「
ズ透過度」は,0次光及び1次光を利用することにより当然に測定可能で
あるのに対し, NA絞りの大きさ 」を測定するには ,入射瞳周縁部へ光を
「
重畳させるという調整が必要となる。そうすると,本願第1発明の測定対
象の主たる具体例は「レンズ透過度」と考えることができる。
ウ 被告は,①本願第1発明にいう「装置の特性」について,装置の特性で
あればどのようなものでもよい,②「回折格子」を用いて,角度に依存す
るレンズ透過度を測定するためには , 一次元回折ビーム27」
「 がNA絞り
の中に入ることが必要であるが,回折格子であればその条件を満たしてい
るとはいえず,当該条件を満たしていることが請求項1の「装置の特性を
決定する」との記載から自明であるともいえない,原告の主張は「この構
成を用いて角度に依存するレンズ透過度を測定すること」が可能な場合に
のみ成立する論理であると主張する。
しかし,被告の主張は,本願第1発明が「回折格子」を用いるものであ
ることや回折格子に関する技術常識を無視し,請求項1の記載の一部分を
他の記載から切り離して解釈するものであって,失当である。
(2) 引用例1の記載 3頁左上欄19行∼右上欄7行,
( 同頁右上欄9行∼14
行,4頁左下欄18行∼右下欄12行)によれば,引用発明は,露光装置の
解像性能を最大限に発揮させるために照明光学系の照度分布を測定する技術
を提案するものであり,試料面又はこれと光学的共役な位置に小さなピンホ
ールを置き,試料を搭載するステージ上の試料面から一定距離だけ離れた位
置に検出センサを置き,レンズとピンホールを透過してきた照明光の光束の
照度分布(具体的には,照明系の部分コヒーレンシ〔σ値〕及びテレセン度
〔光源の中心ずれ量 〕 を測定し,その結果に基づき光源の位置等の補正をす
)
るというもので,上記測定のためにすりガラス又は散乱板を用いるものであ
る。
すなわち,引用例1の第7図に示されるように,レチクル13上にすりガ
ラス17を挿入すると,このすりガラス17により照明系7からの光が散乱
して大きく広がるため,レチクル13上のピンホール12を通った光は,縮
小レンズ2の入射瞳9の径Diよりも大きい光束46となり,入射瞳9の全
開口面積を通って縮小レンズ2に入射することとなるが,同図において,4
6で示される光の幅がDiで示される入射瞳より広く描かれていることから
明らかなとおり,入射瞳より広い光を当てれば,ちょうど瞳の大きさの分だ
け切り取られた光が観察できるので,その結果,瞳の大きさが判明するとい
うものである。
そして,引用発明の「照度分布」は,瞳上照度分布検出ユニット16の走
査により検出される瞳上の照度分布であるところ,引用例1には,レチクル
13の上にすりガラス又は散乱板17の挿入がない場合とある場合それぞれ
の瞳上の照度分布の検出が記載されているものの(4頁右上欄13行∼5頁
右上欄2行) 回折格子 」
,
「 を利用することについては何ら開示されていない 。
(3) 上記のとおり,本願第1発明と引用発明とは ,測定対象及び測定原理が異
なり,そのため,本願第1発明では「回折格子」を用いるのに対し,引用発
明では「散乱板」又は「すりガラス」が用いられている。
「散乱板」又は「すりガラス」は,ガラス板に多量の砂粒を当てるなどし
て形成されたランダムで不規則な微細凹凸により,入射光を広範囲に拡散さ
せる光学素子であるのに対し , 回折格子 」は,規則的かつ周期的な微細凹凸
「
パターンにより,入射光を0次回折光及び1次回折光等に分離する光学素子
であり,両者は入射光に対し全く異なる作用を及ぼす光学素子である。
したがって ,引用発明の 照度分布を検出する 」
「 ことが本願第1発明の 装
「
置の特性を決定する」ことに実質的に相当するとした審決の認定は,誤りで
ある。
2 取消事由2(相違点3の容易想到性の判断の誤り)
(1) 審決は, 本願第1発明における『回折格子 』は ,本願明細書【0064 】
「
段落等を参照すると,散光器程度のものであって,散光器を用いた場合に比
べ回折格子を用いたことによる特段の意義は認められないから,本願第1発
明における『回折格子』は,引用例1に記載された発明の『散乱板』程度の
ものにすぎず ,引用例1に記載された発明の『散乱板』に代えて『回折格子 』
を用いることに格別の意義はない 。・・・相違点3は,引用例1に記載された
発明に基づいて当業者が容易に想到できたことである 。・・・本願発明の作用
効果も,引用例1に記載された発明の作用効果から当業者が予測できる範囲
のものである 。 (審決書9頁19行∼28行)と認定判断した。
」
しかし,以下のとおり,審決の上記認定判断は誤りである。
ア 審決は,上記認定判断の根拠として, 本願明細書【0064 】段落等」
「
を挙げている。
しかし,本願明細書の記載事項は,本願の優先日当時,公知でも周知で
もないから,相違点3に係る本願第1発明の構成の容易想到性の判断の根
拠とすることはできない。したがって,審決が,公知技術又は周知技術の
根拠とすべきでない事項を基礎として,本願第1発明に容易に想到し得る
と判断した点は誤りがある。
イ 審決は,以下のとおり,その判断の内容において,誤りがある。
(ア) 本願明細書には, 回折格子」が「散光器程度のもの」であるとする
「
記載は,審決が指摘する段落【0064】にも,その余の個所にも存在
しない。審決の指摘に係る段落【0064 】は, 回折格子 」や 散光器」
「 「
の配置箇所に関する具体例やこれらの上位概念である「回折素子」とい
う用語を説明するものであって, 回折格子 」と「散光器」の技術的意義
「
が等価であることを直接示す記載ではない。すなわち,ピンホールに併
設される光学素子である「従属点」 段落【0057 】∼【0058 】 ,
( )
「回折格子 」 段落【0059 】∼【 0060 】 及び「散光器」 段落【0
( ) (
062】 はそれぞれ異なる機能を有するものであるが, 【0064 】
) 段落
では,その配置箇所がいずれもピンホール近傍であること,その上位概
念が「回折素子」であることから,便宜的に上記光学素子を並記したに
すぎない。
そして , 回折格子」は光線を回折するものであって ,入射光線を0次
「
回折光,1次回折光などの複数の光線に分離するものであるのに対し,
「散光器」は入射光を単に広範囲に散乱により拡散させるものにすぎな
い。
したがって,本願第1発明の「回折格子」は「散光器程度のもの」と
はいえない。
なお,被告は,審決が「回折格子」と「散光器」が等価なものである
と認定したものではない旨主張するが,審決の「本願第1発明における
『回折格子』は,本願明細書【0064】段落等を参照すると,散光器
程度のものであって」との説示と矛盾するものであって,根拠がない。
(イ) 請求項1の記載及び技術常識に照らせば,本願第1発明の「装置の
特性」とは「回折格子を用いて得られる特性」を意味する。そして,本
願第1発明では, 回折格子」
「 により投影ビームを0次回折光と1次回折
光に分離し,両者の強度比に基づいて投影光学系のレンズ透過度を測定
することができる。
これに対し , 散乱板」
「 では投影ビームを0次回折光と1次回折光とに
分離することができないから,仮に本願第1発明の「回折格子」を「散
乱板 」に置き換えたとしても,本願第1発明の測定原理は機能し得ない 。
このように,本願第1発明の「回折格子」には,レンズ透過度を測定
可能にするという,引用発明の「散乱板」とは異なる技術的意義が存在
する。
したがって ,本願第1発明の「回折格子 」は,引用発明の「 散乱板』
『
程度のもの」とはいえない。
(ウ) 引用例1の記載(3頁左下欄18行∼右下欄12行)によれば,引
用発明は,入射瞳の全開口面積よりも大きい光束を入射瞳に照射して,
入射瞳の開口面積の大きさに相当する光束を生成することにより,入射
瞳の径Diに対応するセンサ面上での径D0を得るというものであって,
引用発明における「散乱板」(又は「すりガラス」)の役割は,照明光束
を入射瞳の全開口面積よりも広範囲に散乱させることにある 。すなわち ,
引用発明においては,入射瞳の周縁部で光束を切り取るように,入射瞳
の周縁部に光束が重畳されるように照射されることが必要である。
そして,単一波長の光が入射する場合,回折格子は入射光を離散的な
回折光(0次回折光,1次回折光,2次回折光等)へと変換する光学素
子として機能する。回折格子からの回折光の放射角度は回折格子を構成
する周期的パターンの寸法の大小によって異なるから,単に回折格子を
設けただけでは,1次回折光と2次回折光との間隙に入射瞳の周縁部が
位置する場合など,入射瞳の周縁部に光束が照射されないことがあり,
そのような場合,入射瞳の径を測定することができない。回折格子によ
って特定次数の回折光(例えば1次回折光)を入射瞳周縁部に重畳する
よう照射し,回折光の一部分だけを切り取って利用することは,公知で
も周知でもないのである。
そうすると,引用発明の「散乱板」を単に「回折格子」に置き換えた
としても,入射瞳の全開口面積よりも大きい光束が得られるとは限らな
いし,入射瞳の周縁部に光束が照射されるとも限らないから,引用発明
の目的を達することができない。
また,そもそも, 散乱板」は不規則な微細凹凸により入射光に散乱と
「
いう物理現象をもたらして光を広範囲に拡散させる光学素子であるのに
対し , 回折格子 」は,規則的な微細凹凸パターンにより入射光に回折と
「
いう物理現象をもたらすることにより,光を離散的な回折光に分離する
光学素子であり,両者は入射光に対し異なる作用を及ぼすものである。
すなわち , 回折格子」は光を0次回折光等に分離する分離器であって ,
「
当業者はわざわざ光を広げるためにこれを用いることなどはしない。
このように,引用発明の「散乱板」を「回折格子」に置き換える動機
付けはなく,むしろこれを阻害する要因がある。
したがって,引用発明の「散乱板」に代えて「回折格子」を用いるこ
とに格別の意義がないということはできないし,引用発明の「散乱板」
を「回折格子」に置き換えることが当業者にとって容易であるというこ
ともできない。
(エ) 本願第1発明と引用発明とは,測定対象や測定原理が相違し,本質
的に異なるものである。
引用発明は,σ値及びテレセン度という解像性能の向上のための基本
的なパラメタを測定するものであるのに対し,本願第1発明は,レンズ
透過度の角度依存性という新たな特性を簡易に測定することができると
いう顕著な作用効果があり,この測定結果を露光装置の調整に活用する
ことにより更なる精度向上ないし微細化を実現することができる。すな
わち,本願明細書では,基本的なパラメタであるσ値に加え,レンズ透
過度や楕円率エラー(段落【0066】 など ,他のエラーの測定方法も
)
説明されており,本願第1発明は,σ値の測定という光延命技術の初歩
的レベルを超える解像性能の追求を意図してレンズ透過度の角度依存性
を計測するものである。
したがって,本願第1発明の作用効果は,引用発明の作用効果から当
業者が予測できる範囲のものということはできない。
(2) 被告は,回折格子が当該回折格子に入射した光を0次回折光 ,1次回折光
等として,それぞれ異なる方向に光を「散乱」させるものであることは,当
業者において明らかであり,回折格子を用いて入射瞳の周縁部で光束を切り
取るように入射瞳の周縁部に光束が重畳されるように照射し,入射瞳径を測
定することは当業者が容易になし得たことにすぎないから, 回折格子 」「散
「 を
乱板」に代え,入射瞳径を測定することに阻害要因はない旨主張する。
しかし,被告の上記主張は,以下のとおり,失当である。
ア 日本光学測定機工業会編「実用 光キーワード事典」平成11年4月1
日発行(甲8)の「光を所定の方向に回折させるために,周期構造をもた
せた光学素子を回折格子と呼ぶ。回折格子の主要な目的は,入射する光を
その波長に応じて分割する ,分光である。 114頁左欄5行∼右欄1行 )
」
(
との記載のとおり,回折格子は当該回折格子に入射した光を0次回折光,
1次回折光等に分離するものである。したがって,回折格子が当該回折格
子に入射した光を0次回折光,1次回折光等として,それぞれ異なる方向
に光を「向ける」ことは,当業者において明らかであるといえる。
しかし,かかる回折格子の作用を「散乱」と称するのは適切でない。甲
8によれば ,「散乱」とは,「微小な粒子を含む媒質の中を光が通過する場
合に ,光の進行方向が多くの方向に変わる現象 」 33頁左欄2行∼4行 )
(
をいい,特に粒子が「不規則に分布している場合」 同9行)を意味する。
(
したがって,引用発明の散乱板による「散乱」は,入射光を不特定の多方
向に拡散させて光を広げることを意味することになり,入射光を0次回折
光,1次回折光等に分離し各回折光を特定方向に向けるという回折格子の
作用を「散乱」という用語で表現することは,当業者の認識に反するもの
というべきである。
このように,回折格子が当該回折格子に入射した光を0次回折光,1次
回折光等として,それぞれ異なる方向に光を「散乱」させるものであるこ
とは,当業者において明らかであるとする被告主張は,技術用語を混同し
たものであって,失当である。
なお,本願第1発明の「回折格子」による「回折」と,引用発明の「散
乱板 」による「散乱」とが ,全く別異の概念であることは ,甲8において ,
「 散乱 」と, 回折 」及び「回折格子 」とが ,異なる章において扱われてい
「
ることからも明らかである。
イ また,前記(1)イ及び後記(3)イのとおり,引用発明において,回折格子
を用いて入射瞳の周縁部で光束を切り取るように入射瞳の周縁部に光束が
重畳されるよう照射し,入射瞳径を測定することは当業者が容易になし得
たということはできない。
(3) 被告は,回折格子が当該回折格子に入射した光を0次回折光 ,1次回折光
等として,それぞれ異なる方向に光を「散乱」させるものであることは,特
開平5−72525号公報(乙1 ),特開平6−44813(乙2 ),特開平
7−104276号公報(乙3 ) 特開平10−11752号公報(乙4 )及
,
び特開平8−160442号公報(乙5)の記載からも,明らかである旨主
張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。
ア 引用例1の記載(3頁右上欄4行∼7行,4頁左下欄18行∼右下欄6
行)によれば,引用発明は,半導体回路製造の主要工程に用いられる露光
装置の内部特性の測定技術に関する発明であり,露光装置の解像性能を最
大限に発揮させるために照明光学系の照度分布を測定する技術を提案する
ものであり,かかる目的を実現するための構成の一部として,入射瞳より
も広範囲に照明光束を散乱させるすりガラスまたは散乱板が用いられてお
り,具体的には,散乱板で入射瞳の全開口面積よりも大きい光束を得て入
射瞳径を測定するものである。
これに対し,乙1ないし5には,後記イのとおり,いずれも引用発明と
は技術分野を異にする発明が記載されているにすぎない。そして,乙2及
び5には,散乱板と回折格子の置換についての言及はない。
また,乙1,3及び4記載の各発明では,光学素子が散乱板等であるか
回折格子であるかによらず,当該発明の目的が実現されるのに対し,引用
発明では,仮に回折格子を用いたとしても発明の目的を実現できるとは限
らない。すなわち,乙1及び3は,光学素子への入射光よりも出射光が少
しでも広がっていれば発明の目的が達せられるという意味で, 散乱板」
「 で
も「回折格子」でも用い得るとしているにすぎない。また,乙4は,光学
素子への入射光よりも出射光が少しでも均一化されていれば発明の目的が
達せられるという意味で,光散乱体でも回折格子でも用い得るとしている
にすぎない。
以上のとおり,乙1ないし5に記載された発明の構成の一部を,引用発
明における露光装置の内部特性の測定技術に転用し,あるいは引用発明に
組み合わせる合理的根拠は見出せない。したがって,引用発明において,
回折格子を用いて入射瞳の周縁部で光束を切り取るように入射瞳の周縁部
に光束が重畳されるように照射し,入射瞳径を測定することは当業者が容
易になし得たということはできない。
イ 乙1ないし5には,引用発明とは技術分野を異にする発明が記載されて
いるにすぎない。
(ア) 乙1には , この発明は,
「 液晶ディスプレイ等の複数の輝度情報出力
素子の各素子の境目を目立たなくすることができる輝度情報出力装置を
提供するものである。 (2頁2欄31行∼34行 ) 「図1において,1
」 ,
は輝度情報出力装置であり,透過形のカラー液晶パネル(複数の輝度情
報出力素子)2と,このカラー液晶パネル2の背面側に積層された拡散
板3と,この拡散板3に対向するように配置された蛍光灯及び反射板等
からなるバックライト4と,上記カラー液晶パネル2の前面に配置され ,
前面に微小複眼レンズ効果のある散乱面5aを有した透過型の散乱板
(散乱素子)5で構成されている 。 (3頁3欄24行∼31行) 「尚,
」 ,
前記各実施例によれば,散乱素子として散乱板を用いたが,回折格子等
他の散乱素子を用いてもよい 。 (5頁7欄20行∼22行)と記載され
」
ている。
上記記載によれば,乙1記載の発明は,液晶ディスプレイの画素間の
境目を目立たなくするという目的を,カラー液晶パネル2の各画素から
の光を広げる機能を有する光学素子を用いることにより実現するもので
あり,回折格子を用いてもよいとされているのは,多少なりとも光を広
げる機能を有する光学素子であれば,同発明の目的が当然に達せられる
からにすぎない。
(イ) 乙2には , 自動車において ,すれ違いビーム用前照灯,走行ビーム
「
用前照灯またはフォグランプとして可能であり」 3頁3欄16行∼18
(
行) 「公知の前照灯では,一般にそうであるように光学素子が設けられ
,
ており,この光学素子は光源から放射されてリフレクタによって反射さ
れた光線の光路に配置されている。この光学素子によって,光源から放
射された光線およびリフレクタによって反射された光線は変向させら
れ,かつ/または散乱させられ,この場合,この光線は所望の配光を形
成する。光学素子はプリズムおよび/またはレンズとして構成されてい
て,透光板に配置されている。この光学素子は場合によってはかなりの
厚さを有しており ,これによって透光板の重量が高められてしまう。 2
」
(
頁2欄5行∼15行) 本発明の課題は,
,
「 ・・・比較的軽量に形成されて
いて,しかも製造の手間が軽減されているような照明装置を提供するこ
とである 。 (2頁2欄27行∼30行) 「本発明の構成では,前記光学
」 ,
素子が回折光学素子として構成されていて,全体的に回折格子を形成し
ており,該回折格子が,透光板とは別個の部分に構成されているように
した 。 (2頁2欄33行∼36行) 「回折光学素子が散乱素子22とし
」 ,
て形成されており 」 3頁4欄48行∼49行 ) 散乱素子22は全体的
( ,
「
に線格子を形成していて,リブの形状を有している。これらのリブは基
面から突出しており,この場合,前記リブは方形または丸みを帯びて形
成されていてよく 」 3頁4欄50行∼4頁5欄4行)
( と記載されている 。
上記記載及び図3によれば,乙2には,車両用の照明装置に関する発
明が記載されており,回折格子表面に規則的に形成される微細凸部の1
つ1つを散乱素子22と称しているものの,従来のレンズ/プリズムに
代えて光方向変更/拡散用に照明装置の透光板に回折格子を付随させる
ことが記載されているにすぎない。また,乙2は,散乱板や散乱板と回
折格子の置換について,記載・示唆するものではない。
(ウ) 乙3には , 本発明・・・の目的は,
「 表示画像のボケを生じさせずに
視野角依存性を減らした液晶表示装置を提供することである 。 (2頁2
」
欄14行∼17行 ) 「本発明においては,表示面の表示側にマイクロレ
,
ンズアレイを配し,マイクロレンズアレイにより形成された表示面と共
役な面近傍に拡散素子を配置したので,画像のボケを引き起こさずに液
晶表示装置の視野角依存性を減らすことができる 。 (2頁2欄29行∼
」
33行) 「共役面に拡散板21を配置し,視野各依存性の高い表示光を
,
図示のように広い角度に拡散させるようにすることにより,視野角依存
性が少なくなり,かつ,拡散板21が配置されている面が画素表示面と
共役な面であるため,表示画像がボケない。 (3頁3欄15行∼20
」
行) 「回折格子は,拡散光の方向を制御できるので,拡散板21として
,
はより効果的である。 (3頁3欄25行∼26行)と記載されている。
」
上記記載によれば,乙3には,液晶ディスプレイに関する発明が記載
され,同発明は,画像のボケを引き起こさずに液晶表示装置の視野角依
存性を減らすという目的を,マイクロレンズアレイと拡散素子 拡散板)
(
を用い,拡散板により視野角依存性の高い表示光を拡散させることによ
り,実現するものである。
乙3記載の発明において,回折格子を用いてもよいとされているのは ,
乙1の場合と同様に,多少なりとも光を広げる機能を有する光学素子で
あれば,同発明の目的が当然に達せられるからにすぎない。
(エ) 乙4には , 高出力大口径のレーザビームの不均一な光強度を光散乱
「
体で均一にし,小数回のレーザビーム照射における光記録媒体の反射率
分布を改善して,生産性の良好な光記録媒体初期化方法を提供すること
を目的としている 。 (3頁3欄3行∼7行) 「光散乱体34は,上記光
」 ,
散乱粒子や表面に形成した凹凸等の粗さを用いたものに限るものではな
く,例えば,一軸に垂直な方向にのみ光を散乱する回折格子であっても
よい 。 (7頁12欄4行∼7行)と記載されている。
」
上記記載によれば,乙4には,光記録媒体の初期化に関する発明が記
載され,光散乱体により入射レーザビームよりも出射レーザビームが均
一化されるために,同発明の目的が達せられる。
同発明において,回折格子を用いてもよいとされているのは,回折格
子も光散乱体と同様に入射レーザビームよりも均一化されたレーザビー
ムを出射するという機能を有する点で共通し,同発明の目的が当然に達
せられるからにすぎない。
(オ) 乙5には , 本発明は ,
「 新規な液晶表示素子およびそれを用いた液晶
表示装置に関する 。 (3頁3欄35行∼36行) 「光散乱特性が高く,
」 ,
駆動電圧が低く,明るくコントラスト比が高く階調性に優れ,かつ階調
表示しても表示が反転することがない新規な構成のLCDを提供するこ
とを目的とする。 (4頁5欄46行∼49行 ) 「本発明のLCDは,各
」 ,
画素において実効的に一様な分子配列とすることにより光透過状態を実
現し,また,2種以上の電界方向をもって,屈折レンズ効果や回折格子
効果を得ることにより,光散乱状態を実現する。ここで,屈折レンズ効
果とは,液晶層厚方向に液晶分子が連続的に傾きを変え液晶層の屈折率
が連続的に変化することにより入射した光を屈折させる効果をいう。ま
た,回折格子効果とは,液晶分子の異常光屈折率neと常光屈折率no
とが液晶平面において,規則的に交互に出現することにより,液晶層に
回折格子が形成され,その結果平行光が散乱する効果をいう 。 (5頁7
」
欄47行∼8欄7行)と記載されている。
上記記載によれば,乙5には,新規な液晶表示素子を用いた液晶表示
装置が記載されているにすぎず,散乱板や散乱板と回折格子の置換につ
いては,記載・示唆がない。
なお,乙5にいう「回折格子効果」は,特に定義された上で使用され
ており,同号証に係る出願人が独自に用いた用語である。
ウ なお,乙1ないし5に基づく被告の主張は,審決の理由とは異なる新た
な拒絶理由の主張というべきであり,許されない。
第4 取消事由に係る被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り・相違点の看過)に対し
(1) 本願明細書の請求項1の記載において ,「装置の特性」がどのような特性
をいうのか,また , スキャンステップで得られた情報 」からどのようにして
「
「装置の特性」を決定するのかは,何ら限定されていないから,本願第1発
明にいう 装置の特性」
「 とは ,装置の特性であればどのようなものでもよく ,
例えば, NA絞り自体のサイズと形状を測定 」
「 することも本願第1発明にい
う「装置の特性を決定する」ことに含まれる。
そして,引用発明において瞳上照度分布検出ユニットにより「照度分布を
検出する 」ことは, 瞳」と「NA絞り 」とが同義であることに照らせば,本
「
願第1発明において「NA絞り自体のサイズと形状を測定」することに相当
するものであり,上記のとおり, NA絞り自体のサイズと形状を測定 」する
「
ことは本願第1発明にいう「装置の特性を決定する」ことにほかならないか
ら,引用発明における「照度分布」も本願第1発明にいう「装置の特性 」に相
当するということができる。
したがって ,引用発明の「照度分布を検出する」ことが本願第1発明の「装置
の特性を決定する」ことに相当し,両発明が「装置の特性を決定する」点にお
いて一致するとした審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は,本願第1発明にいう「装置の特性」とは ,回折格子を利用して決
定されるべき装置の特性であって,具体的にはレンズの透過度の角度依存性
を意味するものであると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
本願明細書の段落【0064】における「回折素子(点,格子,散光器な
ど) との記載 ,段落【0085】における「従属点,格子または散光器など
」
の回折素子」との記載によれば,本願第1発明における「回折格子」は,散
光器程度のものであるから,当該「回折格子」が,散光器に比べ回折格子特
有の「装置の特性を決定する」ことができるとはいえない。
また,本願明細書における,段落【0059】の「この原理の別の実施形
態を図7に示す。非透過的な領域22によって囲まれたピンホール21は十
分に定義された回折を生成する透過,非透過の交互の縞を含む格子24を含
む。図8は図7の格子−ピンホール21,22,24から生じる投影レンズ
内のひとみ平面での回折パターンを示す。図8で,ひとみはNA絞り25に
よって境界を付けられている 。 ,段落【0060】の「NA絞りのサイズと
」
大きさとを突き止めるだけでなく,この構成を用いて角度に依存するレンズ
透過度を測定することができる。0次元の各点の強度と1次元のそれに対応
する点の予測される割合は格子の回折効率から知られている。実際の強度率
を測定することで,予測率からの偏差を計算でき,異なる角度のレンズ透過
度が得られる 。」の各記載及び図8によれば,「回折格子」を用いて角度に依
存するレンズ透過度を測定するためには, 1次元回折ビーム27」が「NA
「
絞り」の中に入ることが必要であるところ,回折格子であれば当然に上記条
件を満たしているとはいえないし,上記条件が「装置の特性を決定する」と
いう請求項1の記載から自明であるともいえない。
そうすると,原告の主張は,本願明細書の段落【0060】の「NA絞り
のサイズと大きさとを突き止める」との記載に続いて例示された技術手段,
すなわち , この構成を用いて角度に依存するレンズ透過度を測定すること」
「
が可能な場合にのみ成立する事項を前提とした主張であるから,失当である
といえる。
2 取消事由2(相違点3の容易想到性の判断の誤り)に対し
(1)ア 原告は,本願第1発明の「回折格子」は「散光器程度のもの」とはいえ
ず,審決が「本願第1発明における『回折格子』は,本願明細書【006
4】段落等を参照すると,散光器程度のものであ(る ) (審決書9頁19
」
行∼20行)と認定したのは,誤りである旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
審決の上記説示は ,回折格子が当該回折格子に入射した光を0次回折光 ,
1次回折光等として,それぞれ異なる方向に光を「散乱」又は「散光」さ
せることは当業者において明らかであり,また,回折格子の使い方は光を
散乱させることも含め種々あるところ,本願第1発明における回折格子の
使い方は,請求項1には明示されていないが,本願明細書の段落【006
4】の「回折素子(点,格子 ,散光器など ) との記載( 回折格子 」と「散
」 「
光器」が同列に記載されている 。 ,段落【0060】の「NA絞りのサイ
)
ズと大きさとを突き止める」との記載,及び段落【0066】の「3.N
A絞り自体のサイズと形状を測定できる。 との記載に照らし,
」 0次回折光 ,
1次回折光の強度比の測定を要しない,光を散光させる散光器程度の使い
方であることを認定したものである。
本願第1発明の構成及び本願明細書の段落 0064 】 「回折素子 点,
【 の (
格子,散光器など) ,段落【0085】の「従属点,格子または散光器な
」
どの回折素子」などの記載からみて ,審決は, 回折格子」と「散光器」が
「
等価なものであると認定したのではなく,回折格子が当該回折格子に入射
した光を0次回折光 ,1次回折光等として ,それぞれ異なる方向に光を 散
「
乱」させることは当業者において明らかであるから,本願第1発明の回折
格子が散光器程度のものであると認定したのであり ,前記1(2)のとおり,
本願第1発明の「回折格子」を,本願明細書の段落【0060】に例示さ
れた「角度に依存するレンズ透過度を測定する」技術手段の作用効果を有
するものに限定しなければならない理由はないから,審決の認定に誤りは
ない。
イ 原告は,本願第1発明は , 回折格子 」により投影ビームを0次回折光と
「
1次回折光に分離し,両者の強度比に基づいて,投影光学系のレンズ透過
度を測定することができるものであって,本願第1発明の「回折格子」に
は,レンズ透過度を測定可能にするという,引用発明の「散乱板」とは異
なる技術的意義が存在するから,本願第1発明の「回折格子」は引用発明
の「 散乱板』程度のもの」とはいえないと主張する。
『
しかし,投影ビームの0次回折光と1次回折光の強度比に基づいて投影
光学系のレンズ透過度を測定するという原告の主張は,本願第1発明の構
成に基づかないものであり,失当である。
ウ 原告は,引用発明の「散乱板」を「回折格子」に単に置き換えたとして
も,入射瞳径の測定という引用発明における「散乱板」の使用目的を達す
ることはできず,置き換えることを阻害する要因がある旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
回折格子が当該回折格子に入射した光を0次回折光,1次回折光等とし
て,それぞれ異なる方向に光を「散乱」させることは,当業者において明
らかであり,回折格子を用いて入射瞳の周縁部で光束を切り取るように入
射瞳の周縁部に光束が重畳されるように照射し,入射瞳径を測定すること
は当業者が容易になし得たものといえるから, 回折格子 」を「散乱板」に
「
代え,入射瞳径を測定することに阻害要因はない。
また,本願明細書では,段落【0064】の「回折素子(点,格子,散
光器など) との記載,段落【0085 】の「従属点 ,格子または散光器な
」
どの回折素子」との記載に示されるように ,「回折格子」が「散光器 」(実
質的に「散乱板」といえる 。 の機能を有することを認識しており,この点
)
からも阻害要因はないといえる。
なお,原告は,回折格子は光を0次回折光等に分離する分離器であるか
ら,当業者はわざわざ光を広げるためにこれを用いない旨主張するが,本
願明細書の段落【0064】及び【0066】には ,(回折)格子」を含
「
む「回折素子 」を用いて, NA絞り自体のサイズと形状を測定 」する旨の
「
記載があるから,原告の上記主張は本願明細書の記載と矛盾するものであ
り,根拠がない。
エ 原告は,本願第1発明はレンズ透過度の角度依存性という新たな特性を
簡易に測定することができるという顕著な作用効果があり,本願第1発明
の作用効果は引用発明の作用効果から当業者が予測できる範囲のものとい
うことはできない旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,本願第1発明の測定対象がレンズ透過度で
あって,その測定原理は回折格子により得られる0次回折光と1次回折光
の強度比によるという,本願第1発明の構成に基づかない主張を前提とす
るものであるから,失当である。
(2) 回折格子が当該回折格子に入射した光を0次回折光,1次回折光等とし
て,それぞれ異なる方向に光を「散乱」させるものであることは,特開平5
−72525号公報(乙1),特開平6−44813(乙2),特開平7−1
04276号公報(乙3 ) 特開平10−11752号公報(乙4 )及び特開
,
平8−160442号公報(乙5)の記載からも,明らかである。
ア 乙1の「この拡散板3に対向するように配置された蛍光灯13及び凹面
鏡状の反射板14等からなるバックライト4と,上記カラー液晶パネル2
の前面に配置され,前面に微小複眼レンズ効果のある散乱面5aを有した
透過形の散乱板(散乱素子)5とを備えている 。 (4頁右欄28行∼33
」
行) 「散乱素子として散乱板を用いたが,回折格子等の他の散乱素子を用
,
いてよい。(5頁左欄20行∼22行 )との記載及び第6図には, 回折格
」 「
子」を「散乱板」と同様に用いることが示されている。
イ 乙2の 回折光学素子が散乱素子22として形成され」 3頁右欄48行
「 (
∼49行)との記載及び第3図には , 回折格子 」を「散乱素子 」として用
「
いることが示されている。
ウ 乙3の「微細周期で周期的に並べた回折格子は,拡散光の方向を制御で
きるので,拡散板21としてはより効果的である。 (3頁左欄24行∼2
」
6行 ) 「図4において,拡散板21として図2に示したような回折格子を
,
用い 」(3頁左欄50行∼右欄1行)」との記載及び第4図には,光を拡散
させるために「回折格子」を用いることが示されている。
エ 乙4の「光散乱体34は,上記光散乱粒子や表面に形成した凹凸等の粗
さを用いたものに限るものではなく,例えば,一軸に垂直な方向にのみ光
を散乱する回折格子であってもよい 。 (7頁右欄4行∼7行)との記載及
」
び第1図には,「回折格子」により光を散乱させることが示されている。
オ 乙5の「本発明のLCDの散乱像は,屈折効果と回折格子効果とを利用
しているため光が一定の角度に回折され点状散乱像となる 。 (10頁右欄
」
3行∼5行 )との記載及び第11図には, 回折格子 」により光を散乱させ
「
ることが示されている。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り・相違点の看過)について
引用発明の「照度分布を検出する」ことが本願第1発明の「装置の特性を決
定する」ことに実質的に相当するとした審決の認定の当否について,以下のと
おり判断する。
(1) 本願第1発明について
原告は,本願第1発明にいう「装置の特性」とは,回折格子を利用して決
定されるべき装置の特性であって,具体的にはレンズの透過度の角度依存性
を意味するものである旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
ア 請求項1の記載及び発明の詳細な説明の記載
本願明細書の特許請求の範囲(甲3)の請求項1の記載は,前記第2,
2のとおりである。また,本願明細書の発明の詳細な説明(甲1,4)に
は,次の記載がある。
(ア) 「 0010 】
【 この方法では投影システム内のひとみの特性を決定し ,
装置の角強度分布特性を決定することができる。」
「 0014 】大きい角度で放射を回折することで ,NA絞りのサイズと
【
形状を決定できる。回折効果の代わりに,放射の散乱または拡散を用い
て大きい角度の放射を生成することができる。放射の散乱は,例えば,
投影ビームが粗い表面を横切る時に発生する。同様に,放射の拡散は,
例えば,投影ビームが半透明の素子を横切る時に発生する。
【0015】好ましくは,前記装置の前記特性は少なくとも,前記装置
のひとみについて,NA絞りに関する角強度分布の形状,対称,精密構
造および/またはセンタリングと,前記装置内のNA絞りの形状および
/またはサイズと,前記投影システム内の放射伝達の角依存性と,マス
ク平面および/または基板平面における角強度分布と,前記装置内の光
学構成要素の位置合わせ,特に放射源の位置および角合わせと,マスク
平面および/または基板平面内の異なる位置,および/または前記装置
の異なる照明設定でのいずれか1つの,または複数の上記特性を含む。」
(イ) 「 0057 】本発明の実施形態の別の光学的特徴は ,スポットもピ
【
ンホールも透過性が一様の領域である必要はないということである。非
一様な透過性を散乱を含む回折効果を達成するために使用して,例えば ,
投影レンズ内の前記NA絞りの設定を測定することができる。その名前
からして当然,NA絞り(の設定)はひとみの縁部と投影レンズを通過
できる最大角光線を画定する。NA絞りの設定はNA絞りが照射される
場合にのみ測定できる。したがって,大きい角度の放射が必要で,本発
明によるこれを生成する1つの方法はレチクル・レベルでの回折による
方法である。
【0058】例えば,図6に示すように,非透過領域22によって囲ま
れたピンホール21は従属の非透過的な点23を含む。この例では,点
23はランダムな配列に置かれている。従属点23は放射の波長にほぼ
等しいサイズである。点によって衝突する放射は広範囲の角度に回折し ,
投影レンズ内のひとみ全体を照射して測定することができる。図6は原
寸ではない。好ましい実施形態では,ピンホール21の直径は約25μ
mで ,各点23の直径は0.2μmの領域内にある。別の実施形態では ,
散光器をピンホールと併用して点23のように大きい角度の放射を得
る。」
(ウ) 「 0059 】この原理の別の実施形態を図7に示す 。非透過的な領
【
域22によって囲まれたピンホール21は十分に定義された回折を生成
する透過,非透過の交互の縞を含む格子24を含む。図8は図7の格子
−ピンホール21,22,24から生じる投影レンズ内のひとみ平面で
の回折パターンを示す。図8で,ひとみはNA絞り25によって境界を
付けられている。0次元ビーム強度分布26はピンホールが位置するレ
チクル平面上に当たる投影ビーム放射の角分布に対応する。この図では ,
見やすくするために0次元ビームは小さく示している。実際には,0次
元ビームは1次元回折ビーム27と重畳することがあり,1次元回折ビ
ーム27はNA絞りの周縁部25に重畳することがある。ビーム26,
27が環状などになるように異なる照明設定を用いることもできる 。」
(エ) 「 0060 】
【 NA絞りのサイズと大きさとを突き止めるだけでなく ,
この構成を用いて角度に依存するレンズ透過度を測定することができ
る。0次元の各点の強度と1次元のそれに対応する点の予測される割合
は格子の回折効率から知られている。実際の強度率を測定することで,
予測率からの偏差を計算でき,異なる角度のレンズ透過度が得られる。
回折パターンと照明設定を変更することで,レンズ透過度の角依存を1
つの視野点で決定できる。測定は多数の視野位置,すなわち,レチクル
平面の異なる位置のピンホールに対応する位置で実行できる。
【0061】あるいは,角分布はレチクルおよびウエハ・レベルの両方
で測定できる。レンズの拡大率を考慮した両方の測定値の差が角依存レ
ンズ透過度を与える。」
(オ) 「 0065 】
【 本発明の実施形態の1つの動作モードは図5に示す線
スキャンを実行して角強度分布情報を得ることである。本発明の実施形
態による別の動作モードは焦点が外れる距離DFでx−y平面上でセン
サをスキャンすることである。そのようなプロットの図を図9に示す。
これは投影レンズ系内のひとみ平面での強度分布の像に対応する。図9
は高い,また低い強度を備えた別の縞を含むひとみでの空間強度分布内
の精密な構造を明らかに示す。
【0066】これらの動作モードのいずれかによって,以下の項目につ
いて情報を決定できる。1.精密構造を含むひとみでの放射分布の形状
と強度を含むひとみの対称性。2.NA絞りに関する角強度分布のセン
タリング。3.NA絞り自体のサイズと形状を測定できる。4.角依存
レンズ透過性も測定できる。5.照明システム内の特定の欠陥に特徴的
な特定のエラー。例えば,放射システムまたは投影システムのひとみの
近位側の平面で,投影ビーム断面は円形ではなく楕円形であるか,投影
ビーム断面内の投影ビームの強度分布は,例えば,円対称ではなく楕円
対称であることがある。両方のタイプのエラーは 投影ビームの楕円率 」
「
または単に「楕円率エラー」と呼ばれる。楕円率エラーはインテグレー
タのロッドの汚れか,照明装置内の他の光学素子内の欠陥の結果である 。
楕円率エラーの詳細については,例えば,本明細書に参照によって組み
込まれた欧州特許出願第01305740.1号を参照されたい。
【0067】上記測定の各々は複数の視野位置で実行して,例えば,視
野内の角強度分布の変動を測定することができる。
【0068】これを実行する1つの方法は,レチクルの異なる所望の視
野位置に1つずつ,複数のピンホールを提供することである。レチクル
が投影レンズ系の入口に配置された場合,投影レンズはウエハ・レベル
のスポットのセットとしてこれらのピンホールの各々の像を生成する。
あるいは,レチクルをウエハ・レベルに配置して直接スポットを形成す
ることもできる。次いで,専用のセンサまたは以前からある透過像セン
サTISなどのセンサを用いて各スポットから焦点を外れた位置にある
測定値を得ることができる。単一のセンサは各スポットの遠視野パター
ンを順次スキャンして,かつ/またはピンホールとスポットの異なる視
野位置に対応する複数のセンサを提供できる。
【0069】これらの測定の後で,リソグラフィ投影装置に修正を加え
て最適でない位置合わせオブジェクト対称性を補正することができる。
例えば,ひとみでの強度分布は理想的にはひとみの中心を横切る軸を中
心にしたミラー対称である。ひとみ像の精密構造を決定することで,ソ
フトウェア・アルゴリズムを用いて任意の非対称性を検出し,対称性を
最適化するビーム操縦でこれを補正することができる。これによって投
影された像の忠実度とオーバレイ性能の両方を向上させることができ
る。」
イ 「装置の特性」の意義について
(ア) 請求項1及び発明の詳細な説明における上記アの各記載によれば,
本願第1発明は, スキャンステップで得られた情報から前記装置の特性
「
を決定するステップ」を有するものであり , スキャンステップ」とは ,
「
回折格子を含むピンホールを用いて形成したスポットを焦点位置の外に
置かれた単一のスポットセンサの1つのピンホールで前記スポット又は
前記スポットの像から焦点を外した放射の強度の空間変動を測定するた
めにセンサをスキャンするものであることが理解できる。
前記ア(ア)の記載によれば ,発明の詳細な説明では, 装置の特性」 ,
「 は
少なくとも, 前記装置のひとみについて ,
「 NA絞りに関する角強度分布
の形状,対称,精密構造および/またはセンタリングと,前記装置内の
NA絞りの形状および/またはサイズと,前記投影システム内の放射伝
達の角依存性と,マスク平面および/または基板平面における角強度分
布と,前記装置内の光学構成要素の位置合わせ,特に放射源の位置およ
び角合わせと,マスク平面および/または基板平面内の異なる位置,お
よび/または前記装置の異なる照明設定でのいずれか1つの,または複
数の上記特性を含む」とされていることが理解できる。
前記ア(イ)の記載によれば,発明の詳細な説明では,NA絞りの設定
を測定するために,大きい角度の放射を,レチクル・レベルでの回折に
よる方法により得ることができること,及び,ランダムな配列の放射の
波長にほぼ等しいサイズの非透過的な点を含むピンホールにより,広範
囲の角度に回折させて,投影レンズ内のひとみ全体を照射して測定する
ことができるとされていることを理解することができる。
前記ア(ウ)の記載によれば,発明の詳細な説明には,回折を生成する
透過,非透過の交互の縞を含む格子を含むピンホールから生じる投影レ
ンズ内のひとみ平面での回折パターンにより,NA絞りのサイズと大き
さを測定することができるとともに,角度に依存するレンズ透過度を測
定することができることが示されている。
前記ア(オ)の記載によれば ,発明の詳細な説明には, 焦点が外れる距
「
離DFでx−y平面上でセンサをスキャンすること 」により, 1.精密
「
構造を含むひとみでの放射分布の形状と強度を含むひとみの対称性 。 .
2
NA絞りに関する角強度分布のセンタリング。3.NA絞り自体のサイ
ズと形状を測定できる。4.角依存レンズ透過性も測定できる。5.照
明システム内の特定の欠陥に特徴的な特定のエラー」を測定することが
示されている。
(イ) 上記によれば ,本願第1発明にいう 装置の特性」 , 少なくとも,
「 は「
前記装置のひとみについて,NA絞りに関する角強度分布の形状,対称 ,
精密構造および/またはセンタリングと,前記装置内のNA絞りの形状
および/またはサイズと ,前記投影システム内の放射伝達の角依存性と ,
マスク平面および/または基板平面における角強度分布と,前記装置内
の光学構成要素の位置合わせ,特に放射源の位置および角合わせと,マ
スク平面および/または基板平面内の異なる位置,および/または前記
装置の異なる照明設定でのいずれか1つの,または複数の上記特性を含
むものである 」ということができ, 角依存レンズ透過性 」という特性に
「
限定されるものではなく , NA絞り自体のサイズと形状の測定」
「 などを
含む意味であると判断することができる。
(2) 引用発明について
引用例1(甲2)の記載(3頁左上欄19行∼左下欄9行,4頁右上欄1
3行∼5頁左上欄2行,第2図,第5図∼第9図)に基づいて,審決が認定
した引用発明(前記第2 ,3(1))の内容に誤りがないことは ,原告の認める
ところである。
引用例1には,審決の摘記するとおり , 第5図・・・では ,レチクル13
「
として第19図(a) (b)に示すようにガラス板29に形成されたクロム
,
膜28にピンホール12のパターンを複数個又は,1個形成されたものを使
用する。 (4頁右上欄14行∼20行) 「第5図のレチクル13の上に,す
」 ,
りガラス又は散乱板17が挿入できるようになっている 。第7図に示す様に ,
レチクル13上にすりガラス17を挿入すると,このすりガラス17により ,
照明系7からの光が散乱して大きく広がるためレチクル13上のピンホール
12を通った光は,縮小レンズ2の入射瞳9の径Diよりも大きい光束46
となり,該入射瞳9の全開口面積を通って縮小レンズ2に入射する。・・・こ
れから入射瞳9の径Diに対応するセンサ面上での径D oが求められる 。 4
」
(
頁左下欄18行∼右下欄12行)との記載のほか , 第2図にこの構成を用い
「
た測定方法を示す。まず,縮小レンズ2の入射瞳9全体を通る最大光束10
は第2図に破線で示すようになるが,実際に照明系7から出る照明光束11
は斜線を付して示したようになる。この照明光束11を瞳上照度分布検出ユ
ニット8のピンホール3を通し,一定距離h離れた位置で観察することによ
り縮小レンズ2の入射瞳9上の照度分布に相当する照度分布を測定すること
ができる。したがって,2次元光センサを配置し,この照度分布を取り込む
事により,第3図に示す外周42を持つ入射瞳9上の光源の像43が得られ
る。これから縮小レンズ2の入射瞳に対応する大きさD o =D ox=D oy) ,
( と
測定により求めた光源像43の大きさd eから前掲の式(1)により部分的コ
ヒーレンシ(σ値)を求め,またその重心を求めることにより,光源像の中
心ずれ量Cox,C oy(テレセン度)を求めることが可能となる。 (3頁右下
」
欄11行∼4頁左上欄7行)との記載がある。
引用例1の上記記載によれば,引用発明は,照度分布を検出することによ
り,入射瞳の径Diと形状に対応するセンサ面上での径D oと形状を求めるも
のであることが認められる。
なお ,引用発明における「入射瞳の径Diに対応するセンサ面上での径D o」
は,本願明細書の発明の詳細な説明にいう「NA絞り自体のサイズ」に相当
すると認められる。
(3) 本願第1発明と引用発明との対比
本願第1発明にいう「装置の特性」は,前記(1)のとおり,「角依存レンズ
透過性」に限定されるものではなく, NA絞り自体のサイズと形状の測定 」
「
などを含む意味であるところ ,引用発明は,前記(2)のとおり,照度分布を検
出することにより ,入射瞳の径Diと形状に対応するセンサ面上での径D oと
形状を求めるものであり,また,引用発明における「入射瞳の径Diに対応
するセンサ面上での径D o」は,本願明細書の発明の詳細な説明にいう「NA
絞り自体のサイズ」に相当するから,引用発明は,照度分布を検出して得ら
れた情報から,装置の特性の1つである入射瞳の径と形状を決定するステッ
プを備えているものということができ,引用発明の上記ステップは,本願第
1発明にいう「前記スキャンステップで得られた情報から前記装置の特性を
決定するステップ」に相当するものと認められる。
審決は,本願第1発明と引用発明とを対比して,引用発明の「照度分布を
検出する」ことは本願第1発明の「装置の特性を決定する」ことに実質的に
相当すると認定しているところ,引用発明が , 照度分布を検出すること」に
「
より , 装置の特性を決定する」
「 ものといえることは上記のとおりであるから ,
審決の認定は,これを是認することができる。
なお,原告は,本願第1発明にいう「装置の特性」が「回折格子を利用す
ることで決定される」ものであるのに対し,引用例1には「回折格子を利用
する」ことは何ら開示されていない旨主張する。しかし,審決は,相違点3
として,本願第1発明が「ピンホールの回折格子に用いる前記放射スポット
を回折するステップ」を有するのに対して,引用発明がそのような手順を備
えていない点を認定し,この点に関する容易想到性を判断しているのである
から,原告の上記主張は,その前提において失当である。
2 取消事由2(相違点3の容易想到性の判断の誤り)について
(1) 以下のとおり,引用例1に接した当業者が ,引用発明における「散乱板」
に代えて「回折格子」を用いることは,容易になし得たものということがで
きる。
ア 引用発明について
前記1(2)のとおり,引用例1には ,「レチクル13上にすりガラス17
を挿入する 」ことにより, 照明系7からの光」を散乱させて大きく広げる
「
こととなり,その結果「レチクル13上のピンホール12を通った光」が
「縮小レンズ2の入射瞳9の径Diよりも大きい光束46となり,該入射
瞳9の全開口面積を通って縮小レンズ2に入射する」ようになることで,
「 入射瞳径Diに対応するセンサ面上での径D oが測定できる 」ことが記載
されていることからすれば,引用発明の「散乱板」が,通常使用時には,
縮小レンズ2の入射瞳9の径Diよりも小さなスポット光束を広げること
で,Diよりも大きな光束となるようにする機能を奏するものであること
は明らかであり , 散乱板 」でなくとも,当該機能を奏する光学要素を用い
「
れば,同様の測定を行うことができることは,当業者にとって明らかとい
うべきである。
イ 本願の優先日当時の技術水準について
(ア) 乙1(特開平5−72525号公報)には,次の記載がある。
「 0001 】
【 【産業上の利用分野】この発明は,マトリックス形液晶
ディスプレイ(LCD)の各画素間に形成された編目状のブラックスト
ライプ部分(ブラックマトリックス)等の複数の輝度情報出力素子の各
素子の境目を目立ちにくくする輝度情報出力装置並びに該装置を用いる
カメラ装置及び映像表示装置に関する。」
「 0005 】
【 【課題を解決するための手段】この発明の輝度情報出力
装置は,輝度情報を所定範囲単位毎に出力する複数の輝度情報出力素子
と,この複数の輝度情報出力素子の前面に配置され,その各素子より出
力される上記輝度情報を各素子の実質面積よりも散乱させる散乱素子と
からなり,上記散乱素子は上記複数の輝度情報出力素子の各素子の境目
に上記輝度情報を散乱するように構成してある。」
「 0027 】図6は,前記輝度情報出力装置1を,ビデオカメラ(カ
【
メラ装置 )10のビューファインダー11に適用した他の実施例を示す 。
【0028】このビューファインダー11の筒状のビューファインダー
本体11aは,撮像素子(図示せず)を有するカメラ本体10aの上面
に対して傾倒自在に設けてある。このビューファインダー11のビュー
ファインダー本体11aには,上記撮像素子より得られる映像情報を出
力する液晶ディスプレイ12を内蔵してある。この液晶ディスプレイ1
2は,前,後面に偏光板2A,2Bを取付けた透過形のカラー液晶パネ
ル(複数の輝度情報出力素子)2と,このカラー液晶パネル2の後面側
に配置された拡散板(白濁板)3と,この拡散板3に対向するように配
置された蛍光灯13及び凹面鏡状の反射板14等からなるバックライト
4と,上記カラー液晶パネル2の前面に配置され,前面に微小複眼レン
ズ効果のある散乱面5aを有した透過形の散乱板(散乱素子)5とを備
えている。尚,接眼レンズ6は視度調節レバー16により前後方向に移
動自在に設けられている。また,図6中,符号11bはアイカップであ
る。」
「 0033 】尚,前記各実施例によれば ,散乱素子として散乱板を用
【
いたが,回折格子等の他の散乱素子を用いてよい 。」
上記記載によれば,乙1には,液晶パネルの輝度情報を素子の面積よ
りも拡大するため,すなわち「光を広げる機能」を有する透過型の光散
乱素子として , 透過型の回折格子 」
「 を用いることが開示されていると認
められる。
(イ) 乙2(特開平6−44813号公報)には,次の記載がある。
「 0001 】
【 【産業上の利用分野】本発明は,照明装置であって,光
源とリフレクタとが設けられていて,該リフレクタによって,光源から
放射された光線が反射されるようになっており,さらに透光板と,リフ
レクタによって反射された光線の光路に位置する,この光線の散乱およ
び/または変向のための光学素子とが設けられている形式のものに関す
る。」
「 0002 】 従来の技術】
【 【 ・・・この公知の前照灯では ,一般にそう
であるように光学素子が設けられており,この光学素子は光源から放射
されてリフレクタによって反射された光線の光路に配置されている。こ
の光学素子によって,光源から放射された光線およびリフレクタによっ
て反射された光線は変向させられ,かつ/または散乱させられ,この場
合,この光線は所望の配光を形成する。光学素子はプリズムおよび/ま
たはレンズとして構成されていて,透光板に配置されている。この光学
素子は場合によってはかなりの厚さを有しており,これによって透光板
の重量が高められてしまう。さらに,前記光学素子は透光板の向き,つ
まり傾斜および/または旋回に正確に適合されていなければならないの
で,種々の異なる前照灯に合わせて,光学素子も同じく種々に構成され
ていなければならない。また,透光板も種々の形状,たとえば方形また
は円形の形状を有していることに基づき,透光板を製造するためには種
々の異なる成形工具が必要となる。この成形工具はその都度光学素子を
透光板に加工成形するので,極めて不経済なものである。したがって,
あらゆるタイプの前照灯に対して ,それぞれ専用の透光板が必要となり ,
ひいては大きな製造手間がかかってしまう。」
「 0003 】
【 【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は,冒頭
で述べた形式の照明装置を改良して,比較的軽量に形成されていて,し
かも製造の手間が軽減されているような照明装置を提供することであ
る。
【 0004 】 課題を解決するための手段】この課題を解決するために本
【
発明の構成では,前記光学素子が回折光学素子として構成されていて,
全体的に回折格子を形成しており,該回折格子が,透光板とは別個の部
分に構成されているようにした。」
「 0010 】光源10から放射された光線と,リフレクタ12によっ
【
て反射された光線の光路には,回折格子18が配置されている。この回
折格子18は回折光学素子を有しており,この回折光学素子によって,
透過光に影響が与えられる。回折光学素子は,たとえばマイクロプリズ
ムおよび/または線格子として形成されている。」
「 0017 】図3には ,同じく図1に示した回折格子18の部分的な
【
拡大図が示されているが,この場合,図2に示した範囲とは異なる範囲
が図示されている。この部分の範囲では,回折光学素子が散乱素子22
として形成されており,この散乱素子によって,光線は前記散乱素子に
対して垂直に位置する平面に散乱される。散乱素子22は全体的に線格
子を形成していて,リブの形状を有している。これらのリブは基面から
突出しており,この場合,前記リブは方形または丸みを帯びて形成され
ていてよく,各2つのリブの間の鉛直方向の間隔は格子定数dを成して
おり,間隔dに対して垂直な方向におけるリブ22の延び長さは数倍分
も大きく形成されている。格子定数dはλ≦d≦100・λの範囲にあ
る。このような散乱素子22によって,分散する光束が形成される。光
線強度は多数の回折次数に分割されるので,1平面内に位置する角度範
囲内に均一な強度分布が生じる。照明装置が自動車の前照灯として使用
される場合,散乱素子22は,その大きい方の延びがほぼ鉛直方向に延
びるように配置されていると有利である。その結果,このような延びに
基づき,水平平面内における光線散乱が生ぜしめられる。散乱素子22
の格子定数dはマイクロプリズム20の場合と同様に可変であってよ
く,これによって,種々の異なる散乱角を実現することができる。付加
的に,可変の格子定数dに基づき,回折次数の融合が得られる。」
上記記載によれば,乙2には ,透過型の回折格子を用いることにより ,
光線を1平面内に位置する角度範囲内に均一な強度分布が生じるように
散乱させることができることが開示されており,光を広げる散乱素子と
して透過型の回折格子を用いることが開示されていると認められる。
(ウ) 乙3には,次の記載がある。
「 0001 】
【 【産業上の利用分野】本発明は,液晶表示装置に関し,
特に,表示画像のボケを生じさせずに視野角依存性を減らした液晶表示
装置に関する 。」
「 0011 】
【 ・・・この画像が形成されている共役面に拡散板21を
配置し,視野各依存性の高い表示光を図示のように広い角度に拡散させ
るようにすることにより,視野角依存性が少なくなり,かつ,拡散板2
1が配置されている面が画素表示面と共役な面であるため,表示画像が
ボケない 。なお ,拡散板21としては,単にガラス板を砂摺りした物や ,
従来技術で説明した図6のような凹凸部等でもよく,また,その他あら
ゆる拡散板21が使用できる。また,図2に平面図を示したように,6
角形やその他の外形で格子方向も異ならせて微細周期で周期的に並べた
回折格子は,拡散光の方向を制御できるので,拡散板21としてはより
効果的である 。」
上記記載によれば,乙3には,「ガラス板を砂摺りした物」,すなわち
「すりガラス」と同様に ,広い角度で光を拡散する拡散板として, 回折
「
格子」を用いることができることが開示されていると認められる。
(エ) 上記(ア)ないし(ウ)によれば,本願の優先日当時,透過型の「回折
格子」を,光を広げる拡散板として用いることができることは,周知の
技術であったことが認められる。
ウ 容易想到性について
前記アのとおり,引用発明の「散乱板」は,通常使用時において縮小レ
ンズ2の入射瞳9の径Diよりも小さなスポット光束を広げてDiよりも
大きな光束となるようにする機能を奏するものであるところ,上記イのと
おり,本願の優先日当時,光を広げる「散乱板」として「回折格子」を用
いることは周知の技術であったから,引用発明の「散乱板」に代えて「回
折格子」を用いることは,当業者であれば,容易に想到し得たと認めるの
が相当である。
そして,本願第1発明における「回折格子 」は,本願明細書【0064 】
段落等を参照すると,散光器程度のものであって,散光器を用いた場合に
比べ回折格子を用いたことによる特段の意義は認められないから,本願第
1発明は,相違点3に係る構成を有することにより,引用発明と比較して ,
格別顕著な効果を奏するものということはできない。
エ 以上によれば ,審決における相違点3の判断は,後記(3)のとおり説示に
不適切な点があるものの,その結論において相当というべきである。
(2) 原告の主張に対し
ア 原告は,乙1ないし5に基づく被告の主張は,審決の理由とは異なる新
たな拒絶理由の主張であり,許されない旨主張する。
しかし,乙1ないし5は,引用発明において , 散光板」に代えて「回折
「
格子」を用いることの容易想到性を主張するに当たり,その前提となる本
願の優先日当時の技術水準を立証しようとするものにすぎず,新たな拒絶
理由を構成するものとまではいえない。原告の主張は採用することができ
ない。
イ 原告は,①乙1ないし3には,いずれも引用発明とは技術分野を異にす
る発明が記載されているにすぎない,②乙2には,散乱板と回折格子の置
換についての言及はない,③乙1及び3は,光学素子への入射光よりも出
射光が少しでも広がっていれば,発明の目的が実現されるのに対し,引用
発明では,仮に回折格子を用いたとしても発明の目的を実現できるとは限
らない,などと主張する。
しかし,引用発明の「散乱板」が,通常使用時において縮小レンズ2の
入射瞳9の径Diよりも小さなスポット光束を広げてDiよりも大きな光
束となるようにする機能を奏するものであることは明らかであり,「散乱
板」でなくとも,当該機能を奏する「光学要素」を用いれば,同様の測定
を行うことができることは ,当業者には明らかであることは ,前記(1)にお
いて既に説示したとおりである 。そして, 散乱板」 「回折格子」
「 と とが 入
「
射光よりも出射光を広げる 」 光学素子 」
「 である点で共通するものであれば ,
引用発明においても「散乱板」を「回折格子」に置き換えることが容易に
想到し得るものといえるのであるから,乙1ないし乙3において, 回折格
「
子」が用いられる対象が引用発明とは異なるものであるとしても,上記判
断が左右されるものではない。
ウ 原告は,引用発明における「散光板」を「回折格子」という全く異なる
光学素子に置き換えるに至る動機付けは,引用発明の開示にも技術常識に
も存在しないと主張する。
しかし,前記のとおり,本願の優先日当時, 入射光より出射光を広げる 」
「
光学素子として透過型の回折格子を用いることができることは周知であ
り,引用発明における 散乱板」
「 が奏する作用を有する光学素子として 回
「
折格子」が良く知られているといえる以上,両者は,その作用,機能にお
いて共通するものであるといえるのであって,引用発明における 散光板」
「
を「回折格子」に置き換える動機付けは存在するというべきであるから,
原告の主張は採用することができない。
エ 原告は,引用発明の「散乱板」を単に「回折格子」に置き換えたとして
も,入射瞳の全開口面積よりも大きい光束が得られるとは限らないし,入
射瞳の周縁部に光束が照射されるとも限らないから,引用発明の目的を達
することができない旨主張する。
しかし,前記のとおり,引用発明において,入射瞳径を測定するに当た
り入射瞳の全開口面積よりも大きい光束として,入射瞳の周縁部に光束を
照射する必要があることは明らかであるから,回折格子を用いるに当たり
そのように調整することは ,当業者であれば当然考慮する事項にすぎない 。
原告の主張は採用することができない。
(3) 審決の説示について
審決は,相違点3に係る容易想到性の判断について , 本願第1発明におけ
「
る『回折格子』は,本願明細書【0064】段落等を参照すると,散光器程
度のものであって,散光器を用いた場合に比べ回折格子を用いたことによる
特段の意義は認められないから,本願第1発明における『回折格子』は,引
用例1に記載された発明の『散乱板』程度のものにすぎず,引用例1に記載
された発明の『散乱板』に代えて『回折格子』を用いることに格別の意義は
ない。したがって,相違点3は,引用例1に記載された発明に基づいて当業
者が容易に想到できたところである。 (審決書9頁18行∼26行)とのみ
」
説示する。
しかし,審決の上記説示は,以下のとおりの理由から,特許法29条2項
に該当すると判断した論理過程を十分に記載したものとはいえず,適切な説
示とはいえない。
審決書においては,本願第1発明が同項に該当することを論理付けるため
に,まず,本願第1発明と本願の優先日前に公知な特定の発明(引用発明)
とが相違する構成部分を明らかにした上で,引用発明と,他の公知な発明又
は周知技術等から,当業者において,本願第1発明と相違する引用発明の構
成部分を,本願第1発明の構成とする(同発明の構成に換える)ことが容易
であるか否かを吟味し,容易であることを論証する(説示する)必要がある
といえる 。本件における論証の対象は , 引用発明における『散乱板』を ,本
「
願第1発明における『回折格子』とすることが容易であるか否か」であると
ころ,審決の上記説示を見ると,単に「本願第1発明における『回折格子』
は,引用例1に記載された発明の『散乱板』程度のものにすぎず」と述べる
だけであって,具体的な理由を何ら記載していない。
したがって,審決の説示内容には不備があるが,前記(1)及び(2)に示した
内容に照らして,審決の結論を維持するのが相当であり,取消事由には当た
らないものと判断した。
3 結論
上記検討したところによれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,
その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。また,審決に,これを
取り消すべきそのほかの誤りがあるとも認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 嶋 末 和 秀
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