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平成18(行ケ)10425審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年12月28日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官肥塚雅博同前田幸雄
原告株式会社コスメック同井上裕史
対象物 データム機能付きクランプ装置及びその装置を備えたクランプシステム
法令 特許権
特許法29条2項2回
キーワード 刊行物102回
審決56回
無効7回
訂正審判6回
実施3回
特許権2回
進歩性2回
分割1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,発明の名称を「データム機能付きクランプ装置及びその装置を 備えたクランプシステム」とする特許第3527738号(平成11年8月 3日出願,平成16年2月27日設定登録。以下「本件特許」という。)の 特許の特許権者である。

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判決文

平成19年12月28日判決言渡
平成18年(行ケ)第10425号 審決取消請求事件
平成19年12月12日口頭弁論終結
判 決
原 告 株 式 会 社 コ ス メ ッ ク
訴訟代理人弁護士 村 林 隆 一
同 井 上 裕 史
訴訟代理人弁理士 梶 良 之
同 桂 川 直 己
被 告 特許庁長官 肥塚雅博
指 定 代 理 人 菅 澤 洋 二
同 前 田 幸 雄
同 高 木 彰
同 大 場 義 則
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が訂正2006−39048号事件について平成18年8月18日に
した審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,発明の名称を「データム機能付きクランプ装置及びその装置を
備えたクランプシステム」とする特許第3527738号(平成11年8月
3日出願,平成16年2月27日設定登録。以下「本件特許」という。)の
特許の特許権者である。
(2) 本件特許については,平成16年7月14日,これを無効とすることを
求めて審判の請求があり,無効2004−80102号事件として特許庁に
係属した。特許庁は,審理の結果,平成17年4月8日,本件特許の請求項
1ないし3に係る発明についての特許を無効とするとの審決(以下「第一次
審決」という。)をした。これに対し,原告は同年5月12日,知的財産高
等裁判所に対して,第一次審決の取消しを求める訴訟を提起した(平成17
年(行ケ)第469号)が,原告が同年7月19日に訂正審判を請求したの
で,同裁判所は,同年7月25日に第一次審決を取り消す旨の決定をした。
特許庁は,審理の結果,平成17年12月14日,「特許第3527738
号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決
をした。原告は,この審決を不服として,平成18年1月24日,上記審決
の取消訴訟を提起し,同訴訟は当庁において係属している(当庁平成18年
(行ケ)第10031号)。
(3) 原告は,平成18年4月3日,本件特許に係る明細書(甲1)の訂正
(以下この訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の明細書を「本件訂正明
細書」という。)を求める審判を請求した(甲6)。特許庁は,これを訂正
2006−39048号事件として審理した結果,平成18年8月18日,
「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
2 本件訂正の内容
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は次のとおりである
(下線部は,本件訂正に係る箇所である。)。
(1)【請求項1】「機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材
(R)にワークパレット(3)を固定する複数のクランプ装置のうちの少な
くとも一つとして用いられて,上記の基準部材(R)に上記ワークパレット
(3)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記ワークパレッ
ト(3)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装
置であって,
上記ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)に開口させたソケット穴
(11)に,軸心方向へ移動する環状のシャトル部材(23)の外周面が係合
するテーパ位置決め孔(12)と,半径方向の外方の係合位置(X)に切り換
えられた係合具(34)が係合する係止孔(13)とを,開口端から順に形成
し,
上記ワークパレット(3)の上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプ
ラグ部分(21)であって,上記の環状のシャトル部材(23)の内周面と,
半径方向の内方の係合解除位置(Y)に切り換えられた上記の係合具(3
4)とを,前記の基準部材(R)から前記ワークパレット(3)へ向けて順
に支持したプラグ部分(21)を,上記の基準部材(R)から突設させ,
上記の基準部材(R)に設けた上記プラグ部分(21)と上記ワークパレット
(3)に形成した上記テーパ位置決め孔(12)との間に,直径方向へ拡大お
よび縮小される前記シャトル部材(23)を配置し,そのシャトル部材(23)
の内周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材
(23)の外周面をテーパ面(28)によって構成し,上記シャトル部材(23)
の上記のストレート面(27)を上記の基準部材(R)の前記プラグ部分(21)
に軸心方向へ移動自在に支持し,上記シャトル部材(23)の上記のテーパ面
(28)を,上記ワークパレット(3)の前記の係止孔(13)へ向けてすぼま
るように形成すると共に同上ワークパレット(3)の前記のテーパ位置決め
孔(12)にテーパ係合させ,上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によ
って上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し,
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ
移動自在に挿入して,そのプルロッド(31)の外周空間で上記プラグ部分
(21)に,半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置
(Y)とに移動される前記の係合具(34)を配置し,
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)
を基端方向へクランプ駆動することにより,そのプルロッド(31)の出力部
(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止
孔(13)へ係合させて,前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ
向けて移動させ,
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクラ
ンプ駆動することにより,同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換
わるのを許容すると共に,上記プルロッド(31)が前記ソケット穴(11)の
頂壁(11a)を押し上げ,そのアンクランプ状態では,前記ワークパレット
(3)を上記プルロッド(31)を介して前記の基準部材(R)に受け止めるよ
うに構成した,
ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。」(以下「本件訂正発
明1」という。)
(2)【請求項2】「機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材
(R)にワークパレット(3)を固定する複数のクランプ装置のうちの少
なくとも一つとして用いられて,上記の基準部材(R)に上記ワークパレット
(3)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記ワークパレッ
ト(3)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装
置であって,
上記ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)に開口させたソケット穴
(11)に,環状のシャトル部材(23)の外周面を軸心方向へ移動自在に支
持するストレート位置決め孔(12)を,半径方向の外方の係合位置(X)に
切り換えられた係合具(34)が係合する係止孔(13)よりも開口端側に形
成し,
上記ワークパレット(3)の上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプ
ラグ部分(21)であって,上記の環状のシャトル部材(23)の内周面がテ
ーパ係合するプラグ部分(21)を,上記の基準部材(R)から突設させ,
上記の基準部材(R)に設けた上記のプラグ部分(21)と上記ワークパレッ
ト(3)に形成した上記ストレート位置決め孔(12)との間に,直径方向へ
拡大および縮小される前記シャトル部材(23)を配置し,そのシャトル部材
(23)の外周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル
部材(23)の内周面をテーパ面(28)によって構成し,上記シャトル部材
(23)の上記のストレート面(27)を上記ワークパレット(3)の前記スト
レート位置決め孔(12)に軸心方向へ移動自在に支持し,上記シャトル部材
(23)の上記のテーパ面(28)を,上記ワークパレット(3)の前記の係止
孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に上記の基準部材(R)の前
記プラグ部分(21)にテーパ係合させ,上記シャトル部材(23)を弾性部材
(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し,
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ
移動自在に挿入して,そのプルロッド(31)の外周空間で上記プラグ部分
(21)に,半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置
(Y)とに移動される前記の係合具(34)を配置し,
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)
を基端方向へクランプ駆動することにより,そのプルロッド(31)の出力部
(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止
孔(13)へ係合させて,前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ
向けて移動させ,
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクラ
ンプ駆動することにより,同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換
わるのを許容すると共に,上記プルロッド(31)が前記ソケット穴(11)の
頂壁(11a)を押し上げ,そのアンクランプ状態では,前記ワークパレット
(3)を上記プルロッド(31)を介して前記の基準部材(R)に受け止めるよ
うに構成した,
ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。」(以下「本件訂正発明
2」という。)
(3)【請求項3】「請求項1又は2に記載したデータム機能付きクランプ装置
を少なくとも一つ備える,ことを特徴とするクランプシステム。」(以下
「本件訂正発明3」といい,本件訂正発明1ないし3を併せて「本件各訂正
発明」という。)
3 審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件各訂正発明は,特開平7
−314270号公報(甲2。以下「刊行物1」といい,刊行物1記載の発明
を「引用発明」という。)並びに特開昭64−11743号公報(甲3。以下
「刊行物2」という。),特許第2784150号公報(甲4。以下「刊行物
3」という。)及び米国特許第4747735号公報(甲5。以下「刊行物
4」という。)記載の各事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たものであって,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を
受けることができないから,本件訂正は許されないというものである。
審決は,引用発明の内容並びに本件各訂正発明と引用発明との一致点及び相
違点を次のとおり認定した。
(1) 引用発明の内容
「マシニングセンタ等のテーブル1にメス側テーパブッシュ34を一体化
したパレット20を固定する複数のクランプ機構30,30,31,31の
うちの2つとして用いられ,上記テーブル1に上記パレット20を心合わせ
して上記のテーブル1の端面28に上記のパレット20の端面26を固定す
るようにしたクランプ機構30,30であって,
上記パレット20の上記の端面28に開口させた凹部に,メス側テーパ穴
25の下部部分と半径方向の外方の係合位置に切り換えられたボール58が
係合する環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形
成し,
上記パレット20の上記凹部へ挿入される環状のオス側テーパピン40で
あって,半径方向の内方の係合解除位置に切り換えられたボール58を支持
したオス側テーパピン40を上記のテーブル1から突設させ,
上記オス側テーパピン40の筒孔にピストン51を軸心方向へ移動自在に
挿入して,そのピストン51の外周空間で上記オス側テーパピン40に,半
径方向の外方の係合位置と半径方向の内方の係合解除位置とに移動される前
記のボール58を配置し,
上記のテーブル1に設けた圧力油流路54,55の圧力油及びコイルばね
57によって上記ピストン51を先端方向へクランプ駆動することにより,
そのピストン51のテーパ面61が上記のボール58を上記の係合位置へ切
り換えて前記の環状溝59へ係合させて,前記パレット20を前記のテーブ
ル1へ向けて移動させ,
同上の圧力油流路54,55の圧力油及びコイルばね57によって上記ピ
ストン51を基端方向へアンクランプ駆動することにより,同上のボール5
8が係合解除位置へ切り換わるのを許容するように構成した,
クランプ機構30,30,及び,
当該クランプ機構30,30を複数備えるクランプシステム。」
(2) 一致点
ア 本件訂正発明1と引用発明との一致点
「機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材にワークパレ
ットを固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも1つとして用いら
れて,上記の基準部材に上記ワークパレットを心合わせして上記の基準部
材の支持面に上記ワークパレットの被支持面を固定するようにしたデータ
ム機能付きクランプ装置であって,
上記ワークパレットの上記の被支持面に開口させたソケット穴に,テー
パ位置決め孔と,半径方向の外方の係合位置に切り換えられた係合具が係
合する係止孔とを形成し,
上記ワークパレットの上記ソケット穴へ挿入される環状のプラグ部分で
あって,半径方向の内方の係合解除位置に切り換えられた上記の係合具を
支持したプラグ部分を,上記の基準部材から突設させ,
上記の基準部材に設けた上記プラグ部分と上記ワークパレットに形成し
た上記のテーパ位置決め孔とをテーパ係合させ,
上記のプラグ部分の筒孔にプルロッドを軸心方向へ移動自在に挿入して,
そのプルロッドの外周空間で上記プラグ部分に,半径方向の外方の係合位
置と半径方向の内方の係合解除位置とに移動される前記の係合具を配置し,
上記の基準部材に設けた駆動手段によって上記プルロッドをクランプ駆
動することにより,そのプルロッドの出力部が上記の係合具を上記の係合
位置へ切り換えて前記の係止孔へ係合させて,前記ワークパレットを前記
の基準部材へ向けて移動させ,
同上の駆動手段によって上記プルロッドをアンクランプ駆動することに
より,同上の係合具が係合解除位置へ切り換わるのを許容するように構成
した,データム機能付きクランプ装置。」である点(以下「一致点1」と
いう。)。
イ 本件訂正発明2と引用発明との一致点
「機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材にワークパレ
ットを固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも1つとして用いら
れて,上記の基準部材(R)に上記ワークパレットを心合わせして上記の基
準部材の支持面に上記ワークパレットの被支持面を固定するようにしたデ
ータム機能付きクランプ装置であって,
上記ワークパレットの上記の被支持面に開口させたソケット穴に,位置
決め孔と,半径方向の外方の係合位置に切り換えられた係合具が係合する
係止孔とを形成し,
上記ワークパレットの上記ソケット穴へ挿入される環状のプラグ部分を,
上記の基準部材から突設させ,
上記のプラグ部分の筒孔にプルロッドを軸心方向へ移動自在に挿入して,
そのプルロッドの外周空間で上記プラグ部分に,半径方向の外方の係合位
置と半径方向の内方の係合解除位置とに移動される前記の係合具を配置し,
上記の基準部材に設けた駆動手段によって上記プルロッドをクランプ駆
動することにより,そのプルロッドの出力部が上記の係合具を上記の係合
位置へ切り換えて前記の係止孔へ係合させて,前記ワークパレットを前記
の基準部材へ向けて移動させ,
同上の駆動手段によって上記プルロッドをアンクランプ駆動することに
より,同上の係合具が係合解除位置へ切り換わるのを許容するように構成
した,
データム機能付きクランプ装置。」である点(以下「一致点2」とい
う。)。
(3) 本件訂正発明1,3と引用発明との相違点
ア 本件訂正発明1,3では,プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動
することにより,前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ向け
て移動させ,上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動するこ
とにより,上記プルロッド(31)が前記ソケット穴(11)の頂壁(11a)
を押し上げ,そのアンクランプ状態では,前記ワークパレット(3)を上
記プルロッド(31)を介して前記の基準部材(R)に受け止めるように構成
したのに対して,引用発明では,プルロッドを先端方向へクランプ駆動す
ることによってワークパレットを基準部材へ向けて移動させるものであり,
また,プルロッドを基端方向へアンクランプ駆動するものであって,その
アンクランプ駆動されたプルロッドがソケット穴の頂壁を押し上げず,そ
のアンクランプ状態では,前記ワークパレットを上記プルロッドを介して
前記の基準部材に受け止めるものではない点(以下「相違点1」とい
う。)。
イ 本件訂正発明1,3では,ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)
に開口させたソケット穴(11)に,軸心方向へ移動する環状のシャトル部
材(23)の外周面が係合するテーパ位置決め孔(12)と,半径方向の外
方の係合位置(X)に切り換えられた係合具(34)が係合する係止孔
(13)とを,開口端から順に形成し,
上記ワークパレット(3)の上記ソケット穴(11)へ挿入される環状の
プラグ部分(21)であって,上記の環状のシャトル部材(23)の内周面
と,半径方向の内方の係合解除位置(Y)に切り換えられた上記の係合具
(34)とを,前記の基準部材(R)から前記ワークパレット(3)へ向
けて順に支持したプラグ部分 (21)を,上記の基準部材(R)から突設さ
せ,
上記の基準部材(R)に設けた上記プラグ部分(21)と上記ワークパレッ
ト(3)に形成した上記テーパ位置決め孔(12)との間に,直径方向へ拡
大および縮小される前記シャトル部材(23)を配置し,そのシャトル部材
(23)の内周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャト
ル部材(23)の外周面をテーパ面(28)によって構成し,上記シャトル部
材(23)の上記のストレート面(27)を上記の基準部材(R)の前記プラグ
部分(21)に軸心方向へ移動自在に支持し,上記シャトル部材(23)の上
記のテーパ面(28)を,上記ワークパレット(3)の前記の係止孔(13)
へ向けてすぼまるように形成すると共に同上ワークパレット(3)の前記
のテーパ位置決め孔(12)にテーパ係合させ,上記シャトル部材(23)を
弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢してい
るのに対し,引用発明では,テーパ位置決め孔は,メス側テーパ穴25の
下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順
に形成したものであり,プラグ部分は,パレット20の凹部へ挿入され,
半径方向の内方の係合解除位置に切り換えられたボール58を支持した環
状のオス側テーパピン40であり,シャトル部材を備えておらず,そのシ
ャトル部材とテーパ位置決め孔とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢す
る弾性部材も備えていない点(以下「相違点2」という。)。
(4) 本件訂正発明2,3と引用発明との相違点
ア 本件訂正発明2,3では,プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動
することにより,前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ向け
て移動させ,上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動するこ
とにより,上記プルロッド(31)が前記ソケット穴(11)の頂壁(11a)
を押し上げ,そのアンクランプ状態では,前記ワークパレット(3)を上
記プルロッド(31)を介して前記の基準部材(R)に受け止めるように構成
したのに対して,引用発明では,プルロッドを先端方向へクランプ駆動す
ることによってワークパレットを基準部材へ向けて移動させるものであり,
また,プルロッドを基端方向へアンクランプ駆動するものであって,その
アンクランプ駆動されたプルロッドがソケット穴の頂壁を押し上げず,そ
のアンクランプ状態では,前記ワークパレットを上記プルロッドを介して
前記の基準部材に受け止めるものではない点(以下「相違点3」とい
う。)。
イ 本件訂正発明2,3では,ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)
に開口させたソケット穴(11)に,環状のシャトル部材(23)の外周面
を軸心方向へ移動自在に支持するストレート位置決め孔(12)を,半径方
向の外方の係合位置(X)に切り換えられた係合具(34)が係合する係
止孔(13)よりも開口端側に形成し,上記ワークパレット(3)の上記ソ
ケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)であって,上記の環
状のシャトル部材(23)の内周面がテーパ係合するプラグ部分(21)
を,上記の基準部材(R)から突設させ,上記の基準部材(R)に設けた上記
プラグ部分(21)と上記ワークパレット(3)に形成した上記ストレート
位置決め孔(12)との間に,直径方向へ拡大および縮小される前記シャト
ル部材(23)を配置し,そのシャトル部材(23)の外周面をストレート面
(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の内周面をテーパ
面(28)によって構成し,上記シャトル部材(23)の上記のストレート面
(27)を上記ワークパレット(3)の前記ストレート位置決め孔(12)に
軸心方向へ移動自在に支持し,上記シャトル部材(23)の上記のテーパ面
(28)を,上記ワークパレット(3)の前記の係止孔(13)へ向けてすぼ
まるように形成すると共に上記の基準部材(R)の前記プラグ部分(21)
にテーパ係合させ,上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上
記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢しているのに対し,引用発明では,
位置決め孔はメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ
穴25の上部部分とを開口端から順に形成したものであり,シャトル部材
を備えておらず,そのシャトル部材とプラグ部分とのテーパ係合を緊密に
する方向へ付勢する弾性部材も備えてない点(以下「相違点4」とい
う。)。
第3 原告主張の取消事由
審決には,下記のとおりの取消事由(取消事由1ないし8)が存するところ,
これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法な
ものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点4の認定の誤り)
本件訂正発明2においては,「位置決め孔」の形状が「ストレート」形状の
「位置決め孔」に限定されているにもかかわらず,審決は,相違点4の認定に
おいて当該相違点を看過した。
2 取消事由2(相違点1,3の判断の誤り)
引用発明は,ワークパッドのクランプ装置であるのに対し,刊行物4記載の
事項はツールホルダーに関する技術であり,両者はその技術的課題等を異にす
るものであるから,当業者において,これらを組み合わせることは容易に想到
し得たものではない。
3 取消事由3(相違点2の判断の誤り〔その1〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の1〕)
審決は,本件各訂正発明と引用発明を対比して抽出した相違点を,さらに細
分化し,それぞれの細分化された構成が,各刊行物に記載されているとして,
当業者において本件各訂正発明が容易想到であると認定する。しかしながら,
上記認定は,各構成の技術的な一体性を看過し,各刊行物に記載された構成を,
事後的な視点から恣意的に組み合わせたものであり,進歩性の判断手法として
誤りである。
すなわち,審決は,相違点2,4をそれぞれ,①係止孔と位置決め孔及びシ
ャトル部材の位置関係,②シャトル部材と弾性部材について,③位置決め孔と
プラグ部分について,の3つに分けて検討している。しかし,発明は単に各構
成の集合体ではなく,各構成同士が相互に作用し,目的とする作用効果を奏す
るものであるから,本件各訂正発明の構成を把握する上で,同一の作用に関連
した構成を一塊りとして分説し,相違点を抽出することはよいとしても,その
分説した相違点をさらに細分割して,それぞれの構成が,各刊行物に記載され
ていることを理由に進歩性を判断することは許されない。
4 取消事由4(相違点2の判断の誤り〔その2〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の2〕)
審決は,相違点2の判断において,「係止孔」及び「シャトル部材」と「被
支持面(開口端)」との位置関係の判断を遺脱しており,誤りがある。
すなわち,本件各訂正発明では,「係止孔」,「シャトル部材」,「被支持
面」の順に構成されているのに対し,刊行物2記載の事項では,「係止孔」,
「被支持面」,「リング22」の順に構成されており,仮に「リング22」が
「シャトル部材」に相当するとしても,それらの位置関係は異なり,具体的な
二面拘束構造が異なるにもかかわらず,審決はこの位置関係の判断を看過して
いる。
5 取消事由5(相違点2の判断の誤り〔その3〕)
審決は,「‥‥‥環状のシャトル部材(23)の内周面と,‥‥‥係合具
(34)とを,前記の基準部材(R)から前記ワークパレット(3)へ向けて
順に支持したプラグ部分(21)」とし本件訂正発明1,3のプラグ部分の構
成を限定している。他方,審決は「シャトル部材と係合具」の位置関係につい
て検討されていない。そして,刊行物1ないし3には,「シャトル部材」と
「係合具」の両者がプラグ部分に設けられた技術事項が記載されておらず,そ
の示唆もない。
よって,当業者において,プラグ部分を上記構成とすることは容易に想到し
得ない。
6 取消事由6(相違点2の判断の誤り〔その4〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の3〕)
(1) 審決は,刊行物2の「リング22」について,「プラグ部分の軸線方向
に相対移動自在であるテーパ面が形成された部材という限りにおいて,本件
訂正発明1と同様,『シャトル部材』ということができるものである。」と
認定したが,誤りである。
すなわち,①本件訂正発明1の「シャトル部材」は,軸心方向へ移動自在
に支持される部材であるのに対し,刊行物2の「リング22」は,スプリン
グ26により肩材19,19’内に固定支持され,軸心方向へ移動自在の構
成ではなく,②本件訂正発明1の「シャトル部材」は,位置決め孔(12)
に支持された移動自在の独立の物品であり,よって,ワークパッド(3)の
位置決めをするのは当該部材ではなく,「位置決め孔(12)」であるのに
対し,刊行物2の「リング22」は,肩材19,19’の一部であって,独
立の部材ではなく,③本件訂正発明1の「シャトル部材」に関する「軸心方
向へ移動自在」とは,被支持面と支持面との両者を確実に接当させる程度に
シャトル部材そのものが全体的に大きく変位することを意味し,刊行物2の
「リング22」の弾発動作(金属の弾性変形)によるごく僅かな変位を意味
しているのではなく,両者はその技術的意義が異なり,④本件訂正発明1の
「シャトル部材」は,直径方向へ拡大及び縮小されることにより,その外周
面及び内周面が直径方向へ拡大及び縮小されるのに対し,刊行物2の「リン
グ22」は,その外周面が直径方向へ拡大及び縮小し得ないから,「リング
22」は「シャトル部材」に該当しない。
よって,リング22は,部材の独立性・機能が共に本件訂正発明1の「シ
ャトル部材」には該当しない。
(2) 審決は,「刊行物2における前記リング22は,特にFIG1及び2の
記載からみて上下2つのスプリング26により固定支持されており,いわゆ
る平行ばねとして弾発動作する。」と認定するが,リング22に設けた上下
のスプリング26,26は,技術的な意義において「平行ばね」には該当し
ないから,上記誤った認定に基づく相違点2の判断も誤りである。
被告は,乙1に,取付軸58が2枚の板ばね材62からなる平行ばね機構
により軸心方向に移動されることが記載されていることを理由に,スプリン
グ26が平行ばねとして機能すると主張する。しかし,刊行物2のスプリン
グ26は,テーパ密着のための弾性力を有しつつも,ワークパレット2に加
わる水平方向の力に耐え得る横剛性が必須であるのに対し,乙1の平行ばね
機構は,軸方向の変位を達成するために極めて薄い肉厚の板ばね材から構成
され,横剛性が小さいから,スプリング26と異なる。よって,被告の主張
は理由がない。
7 取消事由7(相違点2の判断の誤り〔その5〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の4〕)
引用発明に刊行物2記載の「リング22」を適用するについては,下記の阻
害事由が存在するから,引用発明に刊行物2記載の事項を適用して本件各訂正
発明を想到することはできない。
(1) 刊行物1には,位置決め精度の向上を実現するために,押圧点Sが,互
いに密接する両端面26,28の近傍に位置することが必須であることが開
示されている(段落【0033】)。これに対し,引用発明の別紙「γ」部
分に,刊行物2記載の「リング22」を適用すれば,「γ」部分の高さ方向
の寸法は高くなるから,押圧点Sが両端面26,28から遠ざかることにな
り,引用発明の作用を実現するための必須の構成が実現できない(以下「原
告主張の阻害事由1」という。)。
(2) 刊行物2の「リング22」によって位置決めさせるためには,引用発明
の「テーパブッシュ34」の上側部分の「テーパ穴25」が「テーパピン4
0」の「テーパ面27」と係合しないように改造しなければならず,そもそ
も「テーパ面27」と「テーパ穴25」を係合させて二面拘束状態を達成す
るとした引用発明の位置決め作用(甲2段落【0026】)を阻害するし,
「テーパブッシュ34」の改造も必要となる(以下「原告主張の阻害事由
2」という。)。
(3) 引用発明には,ワークパレットを精密かつ強力に固定するために,テー
パ穴25にテーパ面27が密着する構成を採用している。これに対して,引
用発明の別紙の「γ」部分に刊行物2の「リング22」を適用して,リング
22が位置決め機能を発揮するためには,テーパ穴25とテーパ面27との
間には,いわゆる「あそび」となる隙間を設ける必要がある。よって,刊行
物2記載の「リング22」を引用発明に適用すれば,引用発明の上記構成を
阻害する(以下「原告主張の阻害事由3」という。)。
8 取消事由8(相違点2の判断の誤り〔その6〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の5〕)
引用発明は,ワークパレットのクランプ装置であるのに対し,刊行物3記載
の事項はツールホルダーに関する技術であり,両者はその技術課題等を異にす
るものであるから,当業者において,これらを組み合わせることは容易に想到
し得たものではない。
第4 被告の反論
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(相違点4の認定の誤り)に対し
審決は,相違点4に関して,本件訂正発明2の「位置決め孔」について「ス
トレート位置決め孔(12)」と認定しており,相違点4の認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点1,3の判断の誤り)に対し
引用発明と刊行物4記載の事項とは,ともに工作機械に使用されるクランプ
装置であり,2つの部材をテーパ係合によって心合わせするデータム機能付き
のクランプ装置であって,技術分野を共通にする。そして,刊行物1には,テ
ーパ係合に端面同士の密着を加えた二面拘束を行うことが示されているから,
引用発明に刊行物4に記載の事項の二面拘束構造を組み合わせることは当業者
が容易になし得ることである。
したがって,引用発明に刊行物4に記載の事項を組み合わせることに困難性
はないから,審決における相違点1の判断に誤りはない。
3 取消事由3(相違点2の判断の誤り〔その1〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の1〕)に対し
審決は,①係止孔と位置決め孔及びシャトル部材の位置関係について,刊行
物2に記載された基準部材に設けたプラグ部分と被固定部材とをシャトル部材
を用いてテーパ係合させるという事項に基づいて判断し,②テーパ面を有する
シャトル部材と弾性部材とをプラグ部分に設けることについて,刊行物2に記
載された前記シャトル部材を用いてテーパ係合させるという事項に基づき,刊
行物2に記載の事項を適用するに当たり,具体的なシャトル部材の係合構造に
ついては刊行物3に記載された事項を採用することにより容易になし得たと判
断し,③引用発明に刊行物2及び刊行物3に記載の事項を採用することにより
位置決め孔とプラグ部分の構成が本件訂正発明1の構成となることが自明の事
項であると判断したものである。
したがって,上記①ないし③については,基本的には刊行物2に記載された
事項に基づき,それぞれ,基準部材に設けたプラグ部分と被固定部材とをシャ
トル部材を用いてテーパ係合させるという事項と関連づけて容易になし得たと
判断したものであり,細分化された構成が単に各刊行物に記載されているとし
て容易想到と判断したものではない。すなわち,相違点2についての判断は,
①ないし③の相互の関係を考慮してされたものであり,①ないし③を一体と捉
えて当業者が容易になし得たものと判断したものであることは明らかである。
よって,上記判断手法に誤りはなく,相違点2について当業者が容易に想到
できたものであるとした審決の判断にも誤りはない。
4 取消事由4(相違点2の判断の誤り〔その2〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の2〕)に対し
審決は,被支持面(開口端),テーパ位置決め孔下部部分,係止孔,テーパ
位置決め孔上部部分の順に形成されている引用発明における係止孔と位置決め
孔との位置関係を,刊行物2に記載の,シャトル部材(位置決め孔)を係止孔
より基も準部材側に設けるという事項のように変更してシャトル部材(位置決
め孔)を係止孔よりも開口端側に設けることは当業者が容易になし得た事項で
あると判断している。すなわち,審決では,被支持面(開口端)との位置関係
も含めて判断しており,被支持面(開口端)との位置関係を看過したものでは
なく,相違点2の判断に遺脱はない。
5 取消事由5(相違点2の判断の誤り〔その3〕)に対し
審決は,「シャトル部材と係合具」の位置関係について,シャトル部材の内
周面と係合具とを,基準部材からワークパレットへ向けて順に支持したものと
なることが自明の事項であると認定し,その上で引用発明に刊行物2及び3記
載の事項を採用することによりプラグ部分を上記構成とすることが容易に想到
し得ると判断しているから,原告の主張は誤りである。
6 取消事由6(相違点2の判断の誤り〔その4〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の3〕)に対し
(1) 刊行物2には,「これらのスプリング26の配置により,リング22従
ってその円錐面25がZ方向すなわち前述の軸16と平行な方向に弾発動作
可能となる。」と記載されている。そうすると,「リング22」は,軸16
と平行な方向に弾発動作可能,すなわち軸心方向に移動自在であることは明
らかである。
(2) 原告は,スプリング26,26は,技術的な意義において「平行ばね」
には該当しないと主張する。しかし,乙1に,取付軸58が,2枚の板ばね
部材62からなる平行ばね機構により軸心方向に移動されることが記載され
ているように,刊行物2において,上下のスプリング26が平行ばねとして
機能し,リング22が軸心方向に移動自在であることは明らかである。した
がって,リング22がそもそも軸心方向に移動自在の構成ではないとの原告
の主張は失当である。そして,リング22は,移動自在であることから独立
の部材といえる。
以上のとおりであるから,「リング22」が,「プラグ部分の軸線方向に
相対移動自在であるテーパ面が形成された部材という限りにおいて,本件訂
正発明1と同様,「シャトル部材」ということができる」とした審決の判断
に誤りはない。
7 取消事由7(相違点2の判断の誤り〔その5〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の4〕)に対し
(1) 原告主張の阻害事由1に対し
引用発明に刊行物2に記載の事項を採用する上で各部材の寸法等をどの程
度にするかは当業者が適宜設定し得る事項であるから,別紙「γ」部分の高
さを変えないように設定することも可能であり,「γ」部分の高さ方向の寸
法が増加するとの根拠はない。
(2) 原告主張の阻害事由2に対し
引用発明に刊行物2記載の事項を適用するということは,引用発明の構成
を変更して刊行物2記載の事項のように構成することであるから,上側部分
のテーパ穴及びテーパブッシュの改造が必要となることが格別阻害要因にな
るということはできない。
(3) 原告主張の阻害事由3に対し
刊行物2には,「ハウジング3の円錐面15が工作テーブル2の円錐面2
5に係合したときのリング22の弾性のため両ストッパ面17および21同
士の当接は確実に行なわれる。」と記載されており,リング22が軸心方向
に弾発動作すなわち移動自在であることにより,テーパ穴とテーパ面,及び
端面同士の二面拘束が行われるものである。そうすると,引用発明における
テーパ穴とテーパ面とを刊行物2記載の事項のように構成することにより端
面同士の当接と同時にテーパ穴とテーパ面との密着ができるものである。
したがって,リング22が位置決め機能を発揮するために「あそび」とな
る隙間が必要であったとしても,そのことがテーパ穴とテーパ面とが密着す
る構成を阻害し,強固な二面拘束状態を損なうということはできない。
8 取消事由8(相違点2の判断の誤り〔その5〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の4〕)に対し
引用発明と刊行物3に記載の事項とは,共に工作機械に使用されるクランプ
装置であり,2つの部材をテーパ係合によって心合わせするデータム機能付き
のクランプ装置であって,技術分野を共通にする。そして,刊行物1には,テ
ーパ係合に端面同士の密着を加えた二面拘束を行うことが示されているから,
引用発明に刊行物3に記載の事項の二面拘束構造を組み合わせることは当業者
が容易になし得ることである。
したがって,引用発明に刊行物3に記載の事項を組み合わせることに困難性
はないから,審決における相違点2の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 本件訂正明細書(甲1,6)及び刊行物1ないし4(甲2ないし5)の各記

(1) 本件訂正明細書(甲1,6)には,次の記載がある。
ア 「上記の請求項1の発明は次の作用効果を奏する。
基準部材にワークパレットをクランプするときには,まず,シャトル部
材のテーパ面のガイド作用によって上記のワークパレットが自動的に調心
移動されて,そのワークパレットの位置決め孔の軸心が上記の基準部材の
プラグ部分の軸心に精密に合致する。次いで,上記シャトル部材が弾性部
材を圧縮して軸心方向へ移動し,上記のワークパレットの被支持面が上記
の基準部材の支持面によって受け止められる。このため,上記のワークパ
レットは,上記シャトル部材のテーパ面を介してプラグ部分によって拘束
されると共に上記の支持面によっても拘束される。その結果,そのワーク
パレットを基準部材に精密かつ強力に位置決め固定できる。‥‥‥」(段
落【0005】)
イ 「より詳しくいえば,上記の環状のシャトル部材23は,その内周面を
ストレート面27によって構成すると共に外周面をテーパ面28によって
構成してあり,その環状壁にスリットを設けたり又は内周面に溝を設けた
りすることにより(いずれも図示せず),上記のテーパ面28及びストレー
ト面27が直径方向へ拡大および縮小可能になっている。また,上記スト
レート面27を上記プラグ部分21の外周面に軸心方向へ移動自在に支持
してある。上記テーパ面28は,前記のテーパ位置決め孔12にテーパ係
合するように上向きにすぼまるように形成してある。‥‥‥」(段落【0
019】)
ウ 「‥‥‥また,前記シャトル部材23が前記の皿バネ24によって上昇
位置に保持されている。‥‥‥」(段落【0022】)
エ 「上記の図3の状態で前記の油圧室18の圧油を前記の給排路48から
排出すると,前記クランプバネ19がピストン17を介してプルロッド3
1を強力に下降させていく。すると,まず,上記プルロッド31の下降に
追従して前記ワークパレット3が自重で下降していき,前記のテーパ位置
決め孔12が前記シャトル部材23のテーパ面28に接当する。これによ
り,上記ワークパレット3が上記シャトル部材23を介して前記の皿バネ
24を僅かに圧縮すると共に,上記テーパ位置決め孔12が調心移動され
て,その軸心が前記プラグ部分21の軸心に合致する(段落【002
5】)
オ 「これとほぼ同時に,図4に示すように,上記プルロッド31の各押圧
面36が前記の各ボール34を半径方向の外方の係合位置Xへ押圧し,そ
の半径方向の押圧力が前記のテーパ係止孔13を介して下向きの力へ変換
され,その下向き力によって上記ワークパレット3を強力に下降させる。
すると,前記のテーパ位置決め孔12が前記シャトル部材23のテーパ面
28に強力にテーパ係合して調心移動されて,そのテーパ位置決め孔12
の軸心が前記プラグ部分21の軸心に精密に合致すると共に,前記の皿バ
ネ24に抗して上記シャトル部材23がさらに下降され,前記の被支持面
Tが前記の支持面Sによって受け止められる。これにより,上記ワークパ
レット3は,上記シャトル部材23のテーパ面28を介してプラグ部分2
1によって水平方向へ拘束されると共に上記の支持面Sによって上下方向
へ拘束されることになり,その結果,上記のワークパレット3を上記クラ
ンプパレット2に精密かつ強力に位置決め固定できる」(段落【002
6】)
(2) 刊行物1(甲2)には,次の記載がある。
ア 「【産業上の利用分野】本発明は,パレットのクランプ装置に関し,特
に工作機械のテーブルに対してパレットを正確に位置決めするパレット
のクランプ装置に関する。」(段落【0001】)
イ 「従来のパレットのクランプ装置としては,‥‥‥実開昭63−423
9号公報及び実開平5−26241号公報のように,テーパ面を有する複
数(通常4個)のコーンパッド(テーパピン)を,テーパ穴を有するテー
パブッシュにそれぞれ装着してパレットをクランプするものが提案されて
いる。」(段落【0003】)
ウ 「一方,後者のクランプ装置では,コーンパッドとテーパブッシュとが
テーパ部で密着するので水平方向の精度は比較的良いが,端面が非接触な
ので縦方向(例えば上下垂直方向)の繰り返し精度のばらつきが大きかっ
た。また,テーパ部のみでクランプしているのでクランプ力が弱く,パレ
ットを強固にクランプすることが難しかった。そのため,ワーク加工中に
パレットに反力が加わるとパレットが不安定となって動くこともあり,加
工精度が低下する虞れがあった。」(段落【0005】)
エ 「本発明は,斯かる課題を解決するためになされたもので,横方向と縦
方向双方の繰り返し位置決め精度が高精度で且つパレットを強固にクラン
プできるパレットのクランプ装置を提供することを目的とする。‥‥‥」
(段落【0006】)
オ 「【作用】本発明においては,パレット側装着部のメス側テーパ穴及び
端面に,テーブル側のオス側テーパ面及び端面をそれぞれ同時に密着させ
て二面拘束とし,またこの構造のクランプ機構を少なくとも4組設けてパ
レットをテーブルに装着している。‥‥‥」(段落【0011】)
カ 「図1及び図2に示すように,クランプ装置22は,少なくとも4組の
クランプ機構30,31を備えている。クランプ機構30,31は,パレ
ット20の裏面23側に設けられたパレット側装着部24のメス側テーパ
穴25及び端面26に,テーブル1に設けられたオス側テーパ面27及び
端面28をそれぞれ密着させて,パレット20をテーブル1に着脱可能に
装着している。これにより,パレット側装着部24はテーブル1に対して
テーパ面部と端面部との二面拘束によりクランプされる。」(段落【00
20】)
キ 「テーパブッシュ34及びテーパピン40は,テーパ穴25にテーパ面
27が密着し,且つ平面状のメス側端面26に平面状のオス側端面28
が密着して二面拘束状態になるように高精度に形成されている。」(段
落【0026】)
ク 「なお,両端面26,28の密着の有無の確認のために,テーパピン4
0には,端面28に開放する空気流路63が形成されている。また,圧
縮空気により矢印Dに示すようにエアーブローをしてテーパピン40と
テーパブッシュ34との間の密着部のごみ等を除去するための空気流路
64が,テーパピン40及びテーブル1に形成されている。これにより,
クランプ装置22の密着部が常に清浄な状態に保たれ,高精度でクラン
プされる。」(段落【0032】)
ケ 「また,本実施例では‥‥‥押圧点Sが,互いに密着する両端面26,
28の近傍に位置するようになっている。また,各押圧点Sはクランプ
機構30,31の中心位置から半径方向外方にかなり離れた位置にある。
従って,テーパピン40に対してテーパブッシュ34が傾くことなく安
定した姿勢で装着されることとなり,位置決め精度が向上する。」(段
落【0033】)
コ 「次いで,油圧装置を動作させて流路54を介して圧油を下側シリンダ
室52に供給すると,ピストン51は油圧とばね57のばね力により押
し上げられる。すると,ピストン上部のテーパ面61に押圧されたボー
ル58が,テーパピン40の半径方向外方に押されて,環状溝59側に
移動する。ボール58は,テーパピン40の貫通孔65内に遊嵌されて
いるので,貫通孔65の上部内周面66に当接した状態でテーパブッシ
ュ34のテーパ状底面60を矢印Pに示すように略下方に押圧する。こ
れにより,テーパブッシュ34はテーパピン40側に強く引っ張られる。
こうしてピストン51が十分に上昇すると,ボール58の押圧力を介し
てテーパブッシュ34とテーパピン40とはテーパ面部と端面部とが二
面拘束状態で強い圧力で密着してクランプ状態となる。その後,ワーク
21を加工する作業工程に移行する。」(段落【0035】)
サ 図3
テーパピン40に形成された右側の空気流路64に示された矢印(符号
無し)は,ピストン51に向かっている。また,テーパピン40の内方に
おいてピストン51の上側部外側を始端とする矢印D(図3中で右側)は,
ピストン51の頂部を経て,テーパピン40の上端開口部を覆うキャップ
47に穿設された小孔48を通ってテーパピン40の外方(メス側テーパ
穴25内)を指向している。テーパピン40の外方においてテーパブッシ
ュ34に形成された環状溝59内を始端とする矢印D(図3中で左側)は,
テーパピン40の貫通孔65を通ってテーパピン40とピストン51との
間を経て,テーパピン40に形成された空気流路64内に入り,空気流路
64内をピストンから離れる方向に向かっている。さらに,その下流側に
示された矢印(符号無し)は,空気流路64内にて,さらにピストンから
離れる方向に向かっている。
(3) 刊行物2(甲3)には,次の記載がある。
ア 「[実施例]
‥‥‥図面において,1は装置テーブルを示し,2は工作テーブルま
たは固定台を示す。工作テーブル1(判決注:「装置テーブル1」の誤記
と認められる。)には‥‥‥円筒形ハウジング3が固定される。
‥‥‥ハウジング3にはさらに上部外周部に切頭円錐面15‥‥‥が設
けられる。
工作テーブル(固定台)2は‥‥‥凹所18を有しその縁部には環状の
肩材19が設けられる。この肩材19の上面には凹所18内の方向に面す
るクランプ面20が形成され下面にはストッパ面21が形成される。この
環状肩材19のフランジ部19’にはリング22が固定される。この環状
肩材19,19’は‥‥‥工作テーブル2に固定される。リング22の内
面にはハウジング3の円錐面15と協働するための円錐面25が形成され
る。リング22はその外周部に2つの半径方向のスプリング26を有し,
これらのスプリングによりリング22が肩材19,19’内に固定支持さ
れる。これらのスプリング26の配置により,リング22従ってその円錐
面25がZ方向すなわち前述の軸16と平行な方向に弾発動作可能とな
る。」(2頁右下欄14行∼3頁右上欄15行)。
イ 「‥‥‥この環状肩材19のフランジ部19’にはリング22が固定さ
れる。‥‥‥リング22はその外周部に2つの半径方向のスプリング26
を有し,これらのスプリングによりリング22が肩材19,19’内に固
定支持される。これらのスプリング26の配置により,リング22従って
その円錐面25がZ方向すなわち前述の軸16と平行な方向に弾発動作可
能となる。」(3頁右上欄3行∼15行)
ウ 「‥‥‥締付け手段9は第2図に示すように内側に回転する。これによ
り,鼻部12は肩材19のクランプ面20から離れる。この状態で工作テ
ーブル2のストッパ面21をハウジング3のストッパ面17上に当接させ
工作テーブル(固定台)2を装置テーブル1上に装着することができる。こ
れにより,工作テーブル2のZ方向の位置は正確に位置決めされる。ハウ
ジング3の円錐面15が工作テーブル2の円錐面25に係合したときのリ
ング22の弾性のため両ストッパ面17および21同士の当接は確実に行
なわれる。両円錐面15および25により工作テーブル2は装置テーブル
1上のXおよびY方向(第2図)の正確な位置に固定される。」(3頁左
下欄6∼19行)
(4) 刊行物3(甲4)には,次の記載がある。
ア 「前記従来の工具ホルダーは,そのフランジ部の外周面に凹設された周
溝部を自動工具交換装置のアームで把持することにより,工作機械の主軸
のテーパ孔に着脱自在に装着される。この装着の時,スリーブ外周面のテ
ーパ面が主軸のテーパ孔に嵌合し,主軸端面とフランジ端面との間には,
所定の間隙が形成されている。」(段落【0005】)
イ 「そして,主軸に内装された引張手段により工具ホルダーが主軸内方に
引き込まれることによりフランジ端面が主軸端面に当接する。このとき,
スリーブは,弾性部材によって押圧され,主軸のテーパ孔との結合を強固
にすると共に,スリーブの内径が縮径して,スリーブとシャンク部との結
合が強化される。即ち,前記従来の工具ホルダーは,工作機械の主軸のテ
ーパ孔と工具ホルダーのシャンク部のテーパ面,及び,主軸端面と工具ホ
ルダーのフランジ部端面の二個所で主軸に密着当接し,且つ,スリーブと
シャンク部との結合を強化することにより,同じ引っ張り力において,テ
ーパ孔とテーパ面の一個所のみにより結合されるものよりも強固な結合剛
性を得ようとするものであった。」(段落【0006】)
ウ 「‥‥‥本発明の工具ホルダーは,工作機械の主軸1のテーパ孔2に嵌
合するスリーブ3と,‥‥‥シャンク部4と一体的に設けられて前記主軸
の端面に当接するフランジ部5と‥‥‥」(段落【0017】【実施
例】),
エ 「前記フランジ部5のシャンク部側の端面は,前記工作機械の主軸1の
端面に面接当する‥‥‥」(段落【0021】),
オ 「‥‥‥このプルスタッド14の外周部に前記シャンク部4の外径より
も大径とされた突出部16を有し,該突出部16が前記スリーブ3の抜
け止めを行っている。この突出部16とスリーブ3との間にプリロード
付与手段17が介在されている。」(段落【0023】)
カ 「このプリロード付与手段17は,‥‥‥スリーブ端面とフランジ面5
の平坦面との組立距離を一定にするものである。」(段落【0024】)
キ 「このとき,主軸1のテーパ孔2と,工具ホルダーのスリーブ3のテー
パ面とが密着嵌合する。‥‥‥」(段落【0029】)
ク 「このとき,スリーブ3は弾性部材6の圧縮による反発力により軸方向
に押圧され,該押圧力により,スリーブ3のテーパ面と主軸1のテーパ孔
2とのテーパ接触結合が得られる。‥‥‥」(段落【0031】)
ケ 図1によると,主軸1の端面と工具ホルダーのフランジ部5のシャンク
部側の端面とが密着し,主軸1のテーパ孔2と工具ホルダーのスリーブ3
の外周面に形成されたテーパ面とが密着している。
(5) 刊行物4(甲5)には,次の記載がある。
ア 「この力の前向き回転面52は,半径方向内側に面しており,後方側に
向かって小径化するようにテーパになっており,図示のように好ましくは
円錐状であり,シャンク14の第1回転面20と同じ角度でテーパ化して
いる。シャンク14の第1回転面20と穴の前向き回転面52は,弾性的
に互いに締り嵌めされると,ツールホルダ10の後向き面16がツール支
持部材34の前向き面54に当接する」(4欄19行∼29行)。
イ 図2
ツール支持部材34の前向き面52とツールホルダの後向き面16とが
密着し,ツール支持部材34の穴51の前向き回転面52(テーパ)とツ
ールホルダのシャンク14の第1回転面20(テーパ)とが密着している。
2 取消事由1(相違点4の認定の誤り)について
審決は,相違点4の認定に当たって,位置決め孔が「ストレート」位置決め
孔か否かについて明示的に認定していないが,本件訂正発明2,3では「スト
レート位置決め孔」と認定しているのに対し,引用発明では単に「位置決め
孔」と認定しており,両者の位置決め孔を区別して認定している。
そして,審決は,相違点4の判断において,「(ii)シャトル部材と弾性部
材について‥‥‥刊行物3記載の事項では,シャトル部材とプラグ部分及び位
置決め孔のそれぞれの対向面であるストレート面とテーパ面が設けられる部位
が訂正発明2とは逆となっているが,プラグ部分と位置決め孔の間にテーパ係
合を利用して係合させるためのシャトル部材を配置するに当たり,いずれの対
向面にテーパ面及びストレート面を採用するかは設計的事項にすぎないもので
あり,しかも,刊行物2には,内周にテーパ面を有しプラグの軸線方向へ移動
自在のリングによりプラグ部分の円錐面とテーパ係合させることが記載されて
いる。」(28頁35行∼29頁4行),「(iii)位置決め孔とプラグ部分
について 引用発明に上記刊行物2及び3記載の事項を採用することにより,
位置決め孔が『環状のシャトル部材の外周面を軸心方向へ移動自在に支持する
ストレート位置決め孔』となること,及び,プラグ部分が『環状のシャトル部
材の内周面がテーパ係合するプラグ部分』となることは自明の事項である。」
(29頁13行∼17行)と判断しており,引用発明の「位置決め孔」が「ス
トレート位置決め孔」ではないことを前提に引用発明の「位置決め孔」の形状
をストレートとすることの容易想到性を判断しているといえる。
したがって,審決は,本件訂正発明2,3と引用発明との対比において,位
置決め孔が「ストレート」位置決め孔か否かについて相違点4において認定し
ているというべきであり,原告の主張は採用できない。
3 取消事由2(相違点1,3の判断の誤り)について
(1) 前記1で認定した刊行物1の記載によると,引用発明は,工作機械のテ
ーブル又はクランプパレットにワークパレットを固定するクランプ装置にお
いて,パレット側装着部の端面及びメス側テーパ穴に,テーブル側の端面及
びオス側テーパ面をそれぞれ同時に密着させて二面拘束によりクランプする
という構成を採用したものであると認められる。これに対し,「刊行物4記
載の事項」が「ツール支持部材34にツールホルダ10のシャンク14を固
定するようにしたクランプ装置において,ロックロッド38を基端方向へク
ランプ駆動することによってシャンク14をツール支持部材へ向けて移動さ
せるものであり,また,ロックロッド38を先端方向へアンクランプ駆動す
るものであって,そのアンクランプ駆動により,ロックロッド38がシャン
ク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68を押し上げる」ものであるこ
とは当事者間に争いがないところ,上記事項に加えて,前記1で認定した刊
行物4の記載を併せ考慮すると,刊行物4には,ツール支持部材34にツー
ルホルダ10のシャンク14を固定するクランプ装置において,第1回転面
20(テーパ)と前向き回転面52(テーパ)とのテーパ係合及び後向き面
16と前向き面54との端面密着の二面拘束を行うものであることが記載さ
れていると認められる。そして,引用発明の「工作機械のテーブル又はクラ
ンプパレット」と刊行物4記載の事項の「ツール支持部材34」は,その構
造及び機能からみて,本件各訂正発明の「基準部材(R)」に相当し,引用
発明の「ワークパレット」と刊行物4記載の事項の「ツールホルダ10」は,
被固定部材という限りにおいて本件各訂正発明の「ワークパレット(3)」
に相当するといえる。
そうすると,引用発明と刊行物4記載の事項とは,基準部材に被固定部材
を固定するクランプ装置である点で技術分野を共通にし,テーパ係合によっ
て心合わせしつつ固定するテータム機能付きのクランプ装置であり,かつ,
テーパ係合に端面同士の密着を加えた二面拘束を行うものであって,その構
造及び機能を共通にし,その限りにおいて技術的課題等を共通にするもので
ある。よって,両者を組み合わせることは容易に想到し得るところである。
(2) 原告は,引用発明の二面拘束構造の一部の構造を刊行物4に記載された
二面拘束構造の一部の構成に置き換える動機付けはないと主張するが,前記
認定判断したとおり,両者は技術分野のみならずその構造及び機能が共通で
あり,両者を組み合わせる動機付けは存在するというべきである。原告の主
張は採用できない。
4 取消事由3(相違点2の判断の誤り〔その1〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の1〕)について
審決は,①係止孔と位置決め孔及びシャトル部材の位置関係について,刊行
物2に記載された基準部材に設けたプラグ部分と被固定部材とをシャトル部材
を用いてテーパ係合させるという事項に基づいて判断し,②テーパ面を有する
シャトル部材と弾性部材とをプラグ部分に設けることについて,刊行物2に記
載された前記シャトル部材を用いてテーパ係合させるという事項に基づき,刊
行物2に記載の事項を適用するに当たり,具体的なシャトル部材の係合構造に
ついては刊行物3に記載された事項を採用することにより容易になし得たと判
断し,③引用発明に刊行物2及び刊行物3に記載の事項を採用することにより
位置決め孔とプラグ部分の構成が本件訂正発明1の構成となることが自明の事
項であると判断したものである。
したがって,審決は,相違点2,4の判断に当たって,上記①ないし③につ
いては,刊行物2に記載された事項に基づき,それぞれ,基準部材に設けたプ
ラグ部分と被固定部材とをシャトル部材を用いてテーパ係合させるという事項
と関連づけて容易になし得たと判断したものである。相違点2についての判断
は,①ないし③の相互の関係を考慮してされたものであり,①ないし③を一体
と捉えて当業者が容易になし得たものと判断したものであり,それらを別個独
立に判断したものではない。
したがって,審決の上記判断手法に誤りはなく,原告の主張は失当である。
5 取消事由4(相違点2の判断の誤り〔その2〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の2〕)について
(1) 審決は,被支持面(開口端),テーパ位置決め孔下部部分,係止孔,テ
ーパ位置決め孔上部部分の順に形成されている引用発明における係止孔と位
置決め孔との位置関係を,刊行物2に記載の,シャトル部材(位置決め孔)
を係止孔よりも基準部材側に設けるという事項のように変更してシャトル部
材(位置決め孔)を係止孔よりも開口端側に設けることは当業者が容易にな
し得た事項であると判断している。すなわち,審決では,被支持面(開口
端)との位置関係も含めて判断しており,被支持面(開口端)との位置関係
を看過したものではなく,相違点2,4の判断に遺脱はない。
(2) 原告は,審決が刊行物2の「リング22」と「係止孔」の位置関係のみ
を捉え,「リング22」と「被支持面」との位置関係を看過していると主張
する。
しかし,審決は,「そして,鼻部12がクランプ面20を押付けてクラン
プするから,クランプ面20が設けられる凹所18の縁部は係止孔というこ
とができ,前記リング22内面に形成される円錐面25は,位置決め孔とい
うことができる。そうすると,刊行物2には,位置決め孔を,工作テーブル
に開口させた凹所に形成した係止孔よりも装置テーブル(基準部材)側だけ
に形成することが記載されているとすることができる。」(22頁19行∼
25行),「刊行物2において,内面に円錐面25が形成されたリング22
は,軸16と平行な方向に弾発動作可能すなわち移動できるものであって,
円筒形ハウジング3(プラグ部分)の円錐面15とテーパ係合するものであ
るから,プラグ部分の軸線方向に相対移動自在であるテーパ面が形成された
部材という限りにおいて,訂正発明1と同様,「シャトル部材」ということ
ができるものである。」(23頁13行∼18行)と認定しており,「シャ
トル部材」と「位置決め孔」とが同位置であることを前提としている。そう
すると,刊行物2を上記(1)記載の順に形成されている引用発明に適用する
際に,「係止孔」よりも基準部材側にあるテーパ位置決め孔下部部分を,刊
行物2のシャトル部材が係合する位置決め孔とすることは容易に想到し得る
ことであり,そうすると,引用発明は本件訂正発明1と同様に,「係止孔」,
「シャトル部材」,「被支持面(開口端)」の順に構成されることになる。
原告の主張は採用できない。
6 取消事由5(相違点2の判断の誤り〔その3〕)について
審決は,「引用発明に上記刊行物2及び3記載の事項を採用することにより,
位置決め孔が『軸心方向へ移動する環状のシャトル部材の外周面が係合するテ
ーパ位置決め孔』となること,及び,プラグ部分が『シャトル部材の内周面と,
半径方向の内方の係合解除位置に切り換えられた上記の係合具とを,前記の基
準部材から前記ワークパレットへ向けて順に支持したプラグ部分』となること
は自明の事項である。」と判断しており(24頁31行∼36行),「シャト
ル部材と係合具」の位置関係も併せて検討した上で,プラグ部分を上記構成
とすることが自明の事項と判断しており,その判断に誤りがあるとはいえない
から,原告の主張は失当である。
7 取消事由6(相違点2の判断の誤り〔その4〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の3〕)について
(1) 前記1で認定した刊行物2の記載によると,「リング22」は「軸1
6」と平行な方向に弾発動作可能とされているのであるから,軸心方向に移
動自在であることは明らかである。よって,「リング22」が本件各訂正発
明の「シャトル部材」に相当すると判断した審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,本件各訂正発明の「シャトル部材」は,位置決め孔(12)に
支持された移動自在の独立の物品であるのに対し,刊行物2の「リング2
2」は,肩材19,19’の一部であって,独立の部材ではないから,「リ
ング22」は本件訂正発明1の「シャトル部材」に相当しないと主張する。
しかし,刊行物2の「FIG.1」及び「FIG.2」によると,「リン
グ22」は「環状肩材19」とは別の部材として図示されているし,前記1
で認定した刊行物2の記載においても,「リング22」はスプリング26を
通して環状肩材19内に固定されているというにとどまり,両者が一体の部
材であると記載されているわけではない。さらに,上記(1)で認定判断した
おとおり,「リング22」は移動可能な部材である。原告の主張は採用でき
ない。
(3) 原告は,本件各訂正発明の「シャトル部材」に関する「軸心方向へ移動
自在」とは,被支持面と支持面との両者を確実に接当させる程度にシャトル
部材そのものが全体的に大きく変位することを意味し,刊行物2の「リング
22」の弾発動作によるごく僅かな変位を意味しているのではなく,両者は
その技術的意義が異なると主張する。
前記1で認定したとおり,本件訂正明細書には,「シャトル部材」に関し
て,ワークパレットの被支持面が基準部材の支持面に接当することを許容す
る旨の記載があるが,本件各訂正発明に係る特許請求の範囲には,「軸心方
向へ移動自在」とあるのみであり,その程度をことさら上記記載のものに限
定する理由はないから原告の主張は失当である。また,前記1で認定した本
件訂正明細書及び刊行物2の各記載によると,本件各訂正発明も刊行物2に
記載された発明も,その技術的意義は,基準部材に対して可動部材を水平方
向へ正確に位置決めすることであり,両者の技術的意義は共通であるから,
原告の主張は理由がない。
(4) 原告は,本件各訂正発明の「シャトル部材」は,直径方向へ拡大及び縮
小されることにより,その外周面及び内周面が直径方向へ拡大及び縮小され
るのに対し,刊行物2の「リング22」は,その外周面が直径方向へ拡大及
び縮小し得ないから,「リング22」は「シャトル部材」に該当しないと主
張する。
前記1で認定した本件訂正明細書には,「シャトル部材」は直径方向へ拡
大および縮小されることにより,その外周面および内周面が直径方向へ拡大
および縮小されるとの記載があるが,本件各訂正発明に係る特許請求の範囲
には,「シャトル部材」に関して「直径方向へ拡大及び縮小される」とある
のみで,ことさら上記記載のものに限定する理由がないから,原告の上記主
張は失当である。
(5) 原告は,スプリング26,26は,技術的な意義において「平行ばね」
には該当しないと主張する。しかし,乙1には「前記平行ばね機構は,ドー
ナツ状に形成された2枚の板ばね部材62,62が回転軸52の軸心P2に
対して直交方向に且つ平行に配置されている。これらの板ばね部材62,6
2の内周部に前記取付軸58が固着され,外周部に前記支持環60が固着
されている。この平行ばね機構によれば,取付軸58に図2中矢印方向の力
が加わると,取付軸58は回転軸52の軸心P2方向にのみ上方に移動され
る。」(段落【0016】)との記載があるように,刊行物2において,
上下のスプリング26が平行ばねとして機能し,リング22が軸心方向に移
動自在であるということができる。原告は,スプリング26と乙1の板ばね
材62との具体的相違から両者は異なると主張するが,板ばね材62に平行
ばねとしての機能があることは上記記載から明らかであるから,原告の主張
は採用できない。
8 取消事由7(相違点2の判断の誤り〔その5〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の4〕)について
(1) 原告主張の阻害事由1について
引用発明に刊行物2に記載の事項を採用する上で各部材の寸法等をどの程
度にするかは当業者が適宜設定し得る事項であるから,別紙の「γ」部分の
高さを変えないように設定することも可能であり,「γ」部分の高さ方向の
寸法が増加するとの根拠はない。
また,前記1で認定した刊行物1の段落【0033】の記載によると,押
圧点Sが,互いに密接する両端面26,28の近傍に位置することの効果に
ついて記載がなく,また「位置決め精度が向上する」との効果は,「各押圧
点Sはクランプ機構30,31の中心位置から半径方向外方にかなり離れた
位置にある」ことによって奏されるのであって,引用発明の「γ」部分の高
さ方向の寸法が増加しても押圧点Sの位置は変わらないし,むしろ引用発明
の「γ」部分に刊行物2に記載された「リング22」を適用すれば,互いに
密着する両端面26,28がクランプ機構30,31の中心位置から半径方
向外方に位置し,さらに位置決め精度が高くなるから,原告の主張は採用で
きない。
(2) 原告主張の阻害事由2について
引用発明に刊行物2記載の事項を適用するということは,引用発明の構成
を変更して刊行物2記載の事項のように構成することであるから,上側部分
のテーパ穴及びテーパブッシュの改造が必要となることが格別阻害要因にな
るということはできない。原告の主張は採用できない。
(3) 原告主張の阻害事由3について
前記1で認定した刊行物2の記載によると,リング22が軸心方向に移動
自在であることにより,テーパ穴とテーパ面及び端面同士の二面拘束が行わ
れるものであり,両者の密着により二面拘束状態が形成されるのである。し
たがって,リング22が位置決め機能を発揮するために「あそび」となる隙
間が必要であるとしても,そのことがテーパ穴とテーパ面とが密着する構成
を阻害し,強固な二面拘束状態を損なうということはできない。原告の主張
は失当である。
9 取消事由8(相違点2の判断の誤り〔その6〕・相違点4の判断の誤り〔そ
の5〕)について
前記1で認定した刊行物1及び3の各記載によると,引用発明と刊行物3に
記載の事項とは,共に工作機械に使用されるクランプ装置であり,2つの部材
をテーパ係合によって心合わせするデータム機能付きのクランプ装置であって,
技術分野を共通にする。そして,刊行物1には,テーパ係合に端面同士の密着
を加えた二面拘束を行うことが示されており,その限りにおいて技術的課題等
を共通にするから,引用発明に刊行物3に記載の事項の二面拘束構造を組み合
わせることは当業者が容易になし得ることである。
したがって,引用発明に刊行物3に記載の事項を組み合わせることが困難で
あるとはいえないから,審決における相違点2,4の判断に誤りはない。
10 結論
(1) 上記に検討したところによれば,本件各訂正発明は,いずれも引用発明
及び刊行物2∼4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明すること
ができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際に独
立して特許を受けることができないものであり,同法126条5項の規定に
適合しないことは,審決の判断のとおりである。
(2) ところで,昭和62年法律第27号による特許法の改正により導入され
た,いわゆる改善多項制の下において,複数の請求項について訂正審判が請
求された場合における訂正の許否については,①改善多項制導入前と同様に
訂正審判請求全体を一体のものとして,一部の請求項に係る訂正につき特許
法所定の要件を満たさない点があれば,他の請求項に係る訂正について要件
充足の有無を判断するまでもなく,請求に係るすべての請求項についての訂
正を許さないものとすべきか(以下,「一体説」という。),あるいは,②
請求項ごとに訂正が特許法所定の要件を満たすものかどうか判断した上で,
訂正審判請求のうち,要件を満たさない請求項に係る部分のみについて訂正
を許さないものとし,要件を満たす請求項に係る部分については訂正を許す
ものとすべきか(以下,「請求項基準説」という。)という点で,検討すべ
き問題が存在する。
(3) 審決は,本件において,本件訂正発明1に係る訂正が許されないと判断
したにもかわらず,このことのみをもって審決の結論を導くことをせず,進
んで本件訂正発明2,3に係る訂正の許否についての検討を行っている。こ
のような審決の措置は,前記第2,1記載のとおり,本件訂正請求に先だっ
て特許庁によりされた無効審決(無効2004−80102号)において本
件特許の請求項1ないし3に係る特許が無効とされ,特許権者(原告)によ
り審決の取消しを求めて提訴された訴訟(当庁平成18年(行ケ)第1003
1号)が当庁に係属していることに照らし,本件訂正審判請求人(原告)に
おいて,本件特許の請求項1ないし3について,一部の請求項に係る訂正で
あっても,これを許す旨の審決を求めていると善解する余地があることを配
慮しての措置と理解することが可能である。本件における審判合議体のこの
ような措置は,改善多項制の下における訂正審判請求のあり方について,前
記の請求項基準説を採用したものと即断することはできないにしても,適切
な措置と評価することができる。
(4) 以上によれば,審決の判断には誤りがない。原告はその他縷々主張する
が, いずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りも認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 三 村 量 一
裁判官 嶋 末 和 秀
裁判官 上 田 洋 幸
(別紙)

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