平成18(ワ)5272等損害賠償請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成19年12月27日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
商標権
商標法2条3項8号8回 商標法38条1項6回 商標法3条1項4号3回 民法719条3回 商標法3条1項1号2回 商標法2条3項2号2回 商標法38条3項2回 商標法26条1項2号1回 特許法98条1項1号1回 商標法39条1回 商標法38条1回
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キーワード |
商標権176回 侵害65回 許諾29回 損害賠償19回 実施5回 特許権2回 意匠権2回 抵触2回 実用新案権2回
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主文 |
1 第1,第2事件原告の第1事件主位的請求及び第2事件主位的請求をいずれも棄却する。
2 第1事件被告株式会社千趣会は,第1,第2事件原告に対し,第2事件被告株式会社日動計画と連帯して34万5100円及びこれに対する平成18年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 第2事件被告株式会社日動計画は,第1,第2事件原告に対し,第2事件被告Aと連帯して39万5900円及びこれに対する平成16年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員(うち34万5100円及びこれに対する平成18年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員については第1事件被告株式会社千趣会と連帯して)を支払え。
4 第2事件被告Aは,第1,第2事件原告に対し,第2事件被告株式会社日動計画と連帯して39万5900円及びこれに対する平成16年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 第1,第2事件原告のその余の第1事件予備的請求及びその余の第2事件予備的請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,第1,第2事件原告に生じた費用の35分の12と第1事件被告株式会社千趣会に生じた費用との合計の300分の299を第1,第2事件原告の,300分の1を第1事件被告株式会社千趣会の各負担とし,第1,第2事件原告に生じた費用の35分の23と第2事件被告株式会社日動計画及び第2事件被告Aに生じた費用との合計の550分の549を第1,第2事件原告の,550分の1を第2事件被告株式会社日動計画及び第2事件被告Aの各負担とする。
7 この判決は,第2ないし第4項及び第6項に限り,仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
第1事件は,原告が,主位的に,被告千趣会が販売する被告日動計画の製造
に係るチーズケーキに付していた標章,あるいは,被告千趣会のカタログ等の
広告に使用していた標章等が,原告が独占的通常使用権を有する別紙商標権目
録記載の商標(以下,「本件商標」といい,この商標に係る商標権を「本件商
標権」という。)を侵害するものであり,さらに,被告日動計画が上記標章を
本件商標と類似しない標章に変更した際の広告方法等に照らし,被告千趣会が
被告日動計画と共同して行った上記変更後の販売又は広告行為は,本件商標に
生じたグッドウィルを不正に利用する行為であって,原告の上記独占的通常使
用権を侵害するものであるなどと主張して,被告千趣会に対し,前者について
上記独占的通常使用権に基づき,後者について民法719条及び709条に基
づき,それぞれ損害の賠償を求め,原告に上記独占的通常使用権が認められな
い場合に備え予備的に,被告千趣会の上記各行為は,本件商標権を有するBに
対する商標権侵害行為及び不法行為に当たるものであり,原告は,Bから被告
千趣会に対する各損害賠償請求権の譲渡を受けたなどと主張して,上記譲受債
権に基づき,その支払を求める事案である。 |
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判決文
平成19年12月27日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成18年(ワ)第5272号 損害賠償請求事件(以下「第1事件」という。)
平成18年(ワ)第8460号 損害賠償請求事件(以下「第2事件」という。)
口頭弁論終結日 平成19年9月13日
判 決
横浜市神奈川区<以下略>
第1,第2事件原告 株 式 会 社 ガ ト ー よ こ は ま
同訴訟代理人弁護士 會 田 恒 司
大阪市北区<以下略>
第 1 事 件 被 告 株 式 会 社 千 趣 会
同訴訟代理人弁護士 飯 島 歩
同 生 沼 寿 彦
同 花 井 淳
神奈川県秦野市<以下略>
第 2 事 件 被 告 株 式 会 社 日 動 計 画
神奈川県秦野市<以下略>
第 2 事 件 被 告 A
上記2名訴訟代理人弁護士 吉 原 省 三
同 小 松 勉
同 三 輪 拓 也
同訴訟復代理人弁護士 上 田 敏 成
主 文
1 第1,第2事件原告の第1事件主位的請求及び第2事件主位的請求を
いずれも棄却する。
2 第1事件被告株式会社千趣会は,第1,第2事件原告に対し,第2事
件被告株式会社日動計画と連帯して34万5100円及びこれに対する
平成18年3月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
3 第2事件被告株式会社日動計画は,第1,第2事件原告に対し,第2
事件被告Aと連帯して39万5900円及びこれに対する平成16年3
月10日から支払済みまで年5分の割合による金員(うち34万510
0円及びこれに対する平成18年3月17日から支払済みまで年5分の
割合による金員については第1事件被告株式会社千趣会と連帯して)を
支払え。
4 第2事件被告Aは,第1,第2事件原告に対し,第2事件被告株式会
社日動計画と連帯して39万5900円及びこれに対する平成16年3
月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 第1,第2事件原告のその余の第1事件予備的請求及びその余の第2
事件予備的請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,第1,第2事件原告に生じた費用の35分の12と第1
事件被告株式会社千趣会に生じた費用との合計の300分の299を第
1,第2事件原告の,300分の1を第1事件被告株式会社千趣会の各
負担とし,第1,第2事件原告に生じた費用の35分の23と第2事件
被告株式会社日動計画及び第2事件被告Aに生じた費用との合計の55
0分の549を第1,第2事件原告の,550分の1を第2事件被告株
式会社日動計画及び第2事件被告Aの各負担とする。
7 この判決は,第2ないし第4項及び第6項に限り,仮に執行すること
ができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 第1事件
第1事件被告株式会社千趣会(以下「被告千趣会」という。)は,第1,第
2事件原告(以下「原告」という。)に対し,金1億2000万円及びこれに
対する平成18年3月17日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
2 第2事件
第2事件被告株式会社日動計画(以下「被告日動計画」という。)及び第2
事件被告A(以下,被告日動計画と被告Aとを併せて「被告日動計画ら」とい
い,被告日動計画らと被告千趣会とを併せて「被告ら」という。)は,原告に
対し,連帯して,金2億2758万4020円及びこれに対する平成16年3
月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
第2 事案の概要等
第1事件は,原告が,主位的に,被告千趣会が販売する被告日動計画の製造
に係るチーズケーキに付していた標章,あるいは,被告千趣会のカタログ等の
広告に使用していた標章等が,原告が独占的通常使用権を有する別紙商標権目
録記載の商標(以下,「本件商標」といい,この商標に係る商標権を「本件商
標権」という。)を侵害するものであり,さらに,被告日動計画が上記標章を
本件商標と類似しない標章に変更した際の広告方法等に照らし,被告千趣会が
被告日動計画と共同して行った上記変更後の販売又は広告行為は,本件商標に
生じたグッドウィルを不正に利用する行為であって,原告の上記独占的通常使
用権を侵害するものであるなどと主張して,被告千趣会に対し,前者について
上記独占的通常使用権に基づき,後者について民法719条及び709条に基
づき,それぞれ損害の賠償を求め,原告に上記独占的通常使用権が認められな
い場合に備え予備的に,被告千趣会の上記各行為は,本件商標権を有するBに
対する商標権侵害行為及び不法行為に当たるものであり,原告は,Bから被告
千趣会に対する各損害賠償請求権の譲渡を受けたなどと主張して,上記譲受債
権に基づき,その支払を求める事案である。
第2事件は,原告が,主位的に,被告日動計画が製造,販売するチーズケー
キに付していた標章,あるいは,上記チーズケーキについて被告千趣会のカタ
ログ等の広告に使用していた標章等が,原告が独占的通常使用権を有する本件
商標を侵害するものであり,さらに,被告日動計画が上記標章を本件商標と類
似しない標章に変更した際の広告方法等に照らし,被告日動計画が被告千趣会
と共同して行った上記変更後の販売又は広告行為は,本件商標に生じたグッド
ウィルを不正に利用する行為であって,原告の上記独占的通常使用権を侵害す
るものであるなどと主張して,被告日動計画に対し,前者について上記独占的
通常使用権に基づき,後者について民法719条及び709条に基づき,また,
被告日動計画の代表取締役であった被告Aに対し,民法719条及び709条,
あるいは,平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」とい
う。)266条の3に基づき,損害賠償の連帯支払を求め,原告に上記独占的
通常使用権が認められない場合に備え予備的に,被告日動計画らの上記各行為
は,本件商標権を有するBに対する商標権侵害行為及び不法行為に当たるもの
であり,原告は,Bから被告日動計画らに対する各損害賠償請求権の譲渡を受
けたなどと主張して,上記譲受債権に基づき,その支払を求める事案である。
なお,第1事件における附帯請求は,不法行為の後の日である訴状送達の日
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求であり,
第2事件における附帯請求は,不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求である。
1 当事者間に争いのない事実等(認定事実については末尾に証拠を掲記す
る。)
(1) 当事者等
ア 原告は,平成4年11月20日に設立された,食料品の販売等を目的と
する株式会社である。原告は,平成14年12月16日に神奈川フルーツ
株式会社から株式会社ガトーしらはまに商号を変更し,さらに,平成15
年3月24日に現在の商号に変更した。また,原告は,平成14年12月
16日,会社の目的を,従前の「1.食料品の販売, 2.前号に附帯す
る一切の業務」から,「1.食料品の販売, 2.洋菓子の製造,販売,
3.前各号に附帯する一切の業務」に変更した。
Bは原告の代表取締役である。
イ 被告日動計画は,昭和60年8月22日に設立された,建物及びその附
属設備の維持管理業並びに洋菓子の製造及び販売等を目的とする株式会社
である。
被告Aは,平成16年1月7日まで,被告日動計画の代表取締役であっ
た。
ウ 被告千趣会は,書籍等の製造出版及び販売等を目的とする株式会社であ
る。
(2) ガトーしらはまの倒産
Cは,平成元年12月,有限会社白浜を設立してその代表取締役に就任し
た。
有限会社白浜は,平成11年4月,株式会社に組織変更をし,商号を株式
会社ガトーしらはまに変更した(以下,この会社を「旧会社」という。)。
Cは,この組織変更がされた後も,引き続き同社の代表取締役の地位にあっ
た。
旧会社は,平成12年5月31日時点で,約6379万円の欠損金を計上
するに至り,その後,平成15年5月9日に横浜地方裁判所小田原支部に,
破産申立てをし,同年7月11日,同支部から破産宣告決定を受けた。
(3) 商標権の譲渡
旧会社は,平成12年2月4日,特許庁に対し,本件商標について登録出
願をし,平成13年2月23日,本件商標は登録された。
旧会社は,平成14年12月27日,Bに対し本件商標権を譲渡し,平成
15年1月16日,その旨の移転登録がされた(甲1,2)。
(4) 本件商標と別紙被告標章目録記載1の標章との類似性
本件商標と別紙被告標章目録記載1の標章(以下,別紙被告標章目録記載
の各標章を,それぞれに付された番号に従って「被告標章1」などといい,
被告標章1ないし13をまとめて「各被告標章」という。)とは,前者の白
色部分が後者においては金色となり,円部分及び文字部分等が縁取りされて
いる点が異なるものの,両者は類似する。
2 争点
(1) 原告の本件商標の独占的通常使用権の有無
(2) 各被告標章と本件商標とが類似するか否か
ア 被告標章2及び9ないし12と本件商標とが類似するか否か
イ 被告標章3と本件商標とが類似するか否か
ウ 被告標章4と本件商標とが類似するか否か
エ 被告標章5及び7と本件商標とが類似するか否か
オ 被告標章13と本件商標とが類似するか否か
カ 被告標章6と本件商標とが類似するか否か
キ 被告標章8と本件商標とが類似するか否か
(3) 被告らによる各被告標章の使用の有無及び時期
ア 被告標章1の使用の有無及び時期
イ 被告標章2の使用の有無及び時期
ウ 被告標章3の使用の有無及び時期
エ 被告標章4の使用の有無及び時期
オ 被告標章5の使用の有無及び時期
カ 被告標章6の使用の有無及び時期
キ 被告標章7の使用の有無及び時期
ク 被告標章8の使用の有無及び時期
ケ 被告標章9ないし12の使用の有無及び時期
コ 被告標章13の使用の有無及び時期
(4) 被告らの各被告標章の使用についての過失の有無
(5) 被告日動計画が各被告標章の使用を止めた後の不法行為の成否
(6) 原告の商号続用者としての責任の有無
(7) 原告による権利濫用の有無
(8) 被告Aの責任の有無
(9) 損害の有無及び額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(原告の本件商標の独占的通常使用権の有無)について
〔原告の主張〕
Bは,遅くとも平成15年1月16日までに,原告に対し,本件商標につき
独占的通常使用許諾をした(甲4)。
次に述べるとおり,神奈川県秦野市内の「レストランガトーしらはま」及び
同県厚木市内の「シェヒロコ」並びに宮崎県日南市のC個人によるチーズケー
キの販売の事実は,原告の独占的通常使用権と矛盾するものではない。
秦野市内の「レストランガトーしらはま」においては,Cの弟であるDが,
原告から供給を受けた材料を使用し,当時原告の工場長であったCのレシピに
従ってチーズケーキを製造,販売しており,いわば原告の手足となってチーズ
ケーキの製造,販売に係る営業を行っているといえるし,パウンドケーキにつ
いては原告の商品をそのまま消費者に販売しているものである。
厚木市内の「シェヒロコ」に対しては,原告は,本件商標の使用を許諾して
いないものの,「シェヒロコ」による販売数量が少なく,任意に「シラハマチ
ーズケーキ」の標章の使用を止めたので,法的措置を講じなかったにすぎない。
「シェヒロコ」は,現在においては,本件商標とは類似しない「ヒロコチーズ
ケーキ」の標章を使用してチーズケーキを販売している。
Cは現在も原告の従業員であり,平成18年以降,日南市内において原告の
手足としてチーズケーキを製造,販売している。Cは,原告の商品との混同を
防止すべく,「ガトーしらはま」や「しらはまチーズケーキ」の標章を使用し
ていない。
〔被告千趣会の主張〕
否認する。Bは,C(「レストランガトーしらはま」における使用を含む)
や株式会社シェ・ヒロコに対して本件商標の使用を許諾しており,仮に原告が
本件商標の通常使用権を有しているとしても独占的なものではなく,非独占的
なものである。
〔被告日動計画らの主張〕
否認ないし争う。
2 争点(2)ア(被告標章2及び9ないし12と本件商標とが類似するか否か)
について
〔原告の主張〕
(1) 本件商標は,黒色の四角形の囲みの中の上段及び下段にアルファベット
で「SHIRAHAMA」の文字列が,上段は上下逆さまに,下段は上下正
しい方向で,1組表示されており,下部には「G â teau」の文字列が下
段の「SHIRAHAMA」の文字列の上部に表示されている外観を有する。
このように,本件商標の下半分においては,「G â teau」の文字列が下
段の「SHIRAHAMA」の文字列と2段にわたって表示され,1組の表
示となっている。
(2) 前記(1)の本件商標の外観からすると,本件商標からは,「ガトーシラハ
マ」又は「シラハマ」の称呼が生じる。
本件商標の構成のうち,「Restaurant」の文字列部分は普通名
詞たる「レストラン」を示す部分であり,識別力のない部分である。また,
「G â teau」の文字列部分も,普通名詞たる「ケーキ」を示すものとし
て認識されることが多く,このように認識される場合には同文字列部分に識
別力がない。そうすると,本件商標の要部は「SHIRAHAMA」の文字
列部分のみであるか,「SHIRAHAMA」の文字列部分及び「G â te
au」の文字列部分の双方であって,前者の場合には要部から「シラハマ」
の称呼が生じ,後者の場合には要部から「ガトーシラハマ」の称呼が生じる。
Cは,本件商標を付したチーズケーキを,「ガトーシラハマ」,「シラハ
マチーズケーキ」及び「シラハマノチーズケーキ」との称呼を用いて販売し,
Cが製造,販売するチーズケーキは被告千趣会のチーズケーキのランキング
でも2年連続で人気第1位となった。被告日動計画及び被告千趣会も本件商
標を付したチーズケーキを「ガトーシラハマ」及び「シラハマチーズケー
キ」などの称呼を用いて販売してきた。その結果,これらの称呼はCが製造
する商品(チーズケーキ)を示すものとして周知となった。かかる取引の実
情からすれば,本件商標から「ガトーシラハマ」又は「シラハマ」の称呼が
生じることは明らかである。
なお,本件商標権に係る商標公報(甲1)中の「称呼(参考情報)」欄に
おいても,本件商標から生じ得る称呼の1つとして「シラハマ」が最初に掲
げられている。
(3) 被告標章2は,「ガトーしらはま」と「しらはまチーズケーキ」の2つ
の文字列を上下に2段書きにして成る外観を有するものであり,前記(2)同
様,「ガトー」の部分は普通名詞である「ケーキ」を示すものとして認識さ
れることが多く,このように認識される場合には同部分に識別力がない。ま
た,下段のうち「チーズケーキ」の部分はケーキの一種を示す普通名称であ
って,同部分には識別力がない。
そうすると,被告標章2の要部は上段及び下段の「しらはま」の各部分の
みであるか,上段の「ガトーしらはま」の部分である。
なお,乙第12号証等では,被告日動計画のチーズケーキが評判の高い特
定のチーズケーキとして紹介されており,カタログ広告中で紹介される他の
チーズケーキと区別するために被告標章が用いられているから,「しらは
ま」ないし「ガトーしらはま」の部分には出所識別機能がある。
(4) 前記(2)及び(3)のとおり,本件商標の要部からも,被告標章2の要部か
らも,「ガトーシラハマ」ないし「シラハマ」という同一の称呼を生ずるか
ら,本件商標と被告標章2とは類似する。
(5) 被告標章9ないし12も,被告標章2と同様に,「ガトーしらはま」と
「しらはまチーズケーキ」の2つの文字列を上下に2段書きにして成る外観
を有するものであり,その要部は上段及び下段の「しらはま」の各部分のみ
であるか,上段の「ガトーしらはま」の部分である。後者のうち「ガトー」
の部分は普通名称である「ケーキ」を示すものとして認識されることが多く,
かかる場合には「ガトー」の部分に識別力がなく,「しらはま」の部分のみ
が要部となる。
本件商標の要部からも,被告標章9ないし12の要部からも,「ガトー
シラハマ」ないし「シラハマ」という同一の称呼を生ずるから,本件商標
と被告標章9ないし12とは類似する。
(6) 被告らの主張について
仮に,本件商標のうち「シラハマ」の称呼を生じる部分が商標法3条1
項4号に当たるとしても,同条2項によれば,「前項第3号から第5号ま
でに該当する商標であつても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に
係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同
項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」とされている。
本件商標は,その使用の結果需要者に周知となっているから,同条2項に
より,商標登録を受けることができるものであって,上記部分に識別力が
ないとはいえない。
〔被告千趣会の主張〕
次のとおり,本件商標と被告標章2及び9ないし12とは類似しない。
(1) 本件商標は,図形と文字とを組み合わせたものであって,個々の文字の
内容ではなく,その特徴的な外観である全体が一体として図形を形成する。
すなわち,本件商標のうち「シラハマ」の部分は,人の姓としても,地名
としてもありふれた識別力のない普通名称であって,この部分のみでは商標
の不登録事由(商標法3条1項4号)に当たり得るものであるし,「Res
taurant」及び「G â teau」の部分も,本件商標の指定商品であ
る「菓子及びパン」との関係では,同様に識別力のない普通名称であって,
この部分のみでは不登録事由(同項1号)に当たり得るものだからである。
(2) 前記(1)のとおり,本件商標は全体が一体として図形を形成するものであ
るから,単純に「シラハマ」等の称呼を生じない。
特に,本件商標の構成のうち,「G â teau」の文字列部分はフランス
語の単語であって,その読み方が一般に知られているとはいえない上,筆記
体で記されており,容易に認識し得る状態になっていない。
そうすると,本件商標からは,「シラハマ」又は「ガトーシラハマ」等の
称呼は生じない。
(3) 本件商標は,図形と文字とを組み合わせた外観を有するのに対し,被告
標章2及び9ないし12はいずれも文字列を2段書きした外観を有するもの
であって,両者の外観は全く異なる。
また,前記(2)のとおり,両者から生じる称呼は一致しない。
そうすると,本件商標と被告標章2及び9ないし12とは類似しない。
(4) 仮に,本件商標と被告標章2及び9ないし12が類似するとしても,本
件商標権の効力は,それぞれ普通名称にすぎない「しらはま」,「チーズケ
ーキ」,「ガトー」を組み合わせたにすぎない被告標章2ないし13には及
ばない(商標法26条1項2号)。
〔被告日動計画らの主張〕
次のとおり,本件商標と被告標章2及び9ないし12とは類似しない。
(1) 本件商標の外観は,次のとおりのものであり,図形と文字とを組み合わ
せたものであって,全体が一体として顕著性を有するものである。
ア 本件商標全体は縦長の黒枠で囲まれた矩形をしており,前記黒枠は左右
の枠の幅が上下の枠の幅よりも大きく(幅広に)なっている。
イ 前記黒枠の内側の上下に「SHIRAHAMA」の文字列を上下対称に
表示し,前記黒枠で囲まれた白色の矩形の中央部に,中央部分が白抜きの
円となっている黒色の円を,前記黒枠の内側に接して配している。
ウ 前記黒色の円の内側には,白抜きの飾り文字で,上部には「Resta
urant」,下部には「G â teau」の文字列をそれぞれ表示してい
る。
エ 前記白抜きの円の内側には,それぞれ黒色の「H」と「S」とを重ねて
組み合わせた文字が表示されている。
(2) 前記(1)のとおり,本件商標は全体が一体として顕著性を有するものであ
るから,単純に「シラハマ」,「ガトー」又は「レストラン」等の称呼を生
じるものではない。
そもそも,「しらはま」は,人の氏である「白浜」の音であるが,これは
ありふれた氏である。あるいは,「しらはま」は「白い砂浜」を意味し,海
に囲まれた我が国においては「白浜」の地名は各地に存在するありふれた地
名である。そうすると,「しらはま」の部分のみでは商標法3条1項4号の
不登録事由に当たり,商標登録を受けることができない。
また,本件商標の構成のうち,「Restaurant」(レストラン)
の部分や「G â teau」(ガトー)の部分は,いずれも普通名称であって,
本件商標の指定商品たる「菓子及びパン」については商標法3条1項1号の
不登録事由に当たり,それら自体では商標登録を受けることができない。
したがって,本件商標で識別力があるのは,その全体の外観であって,
「SHIRAHAMA」の文字列部分のみが本件商標の要部となるわけでは
ない。「SHIRAHAMA」の文字列部分と「G â teau」の文字列部
分の組合せについても,これらの部分のみが本件商標の要部となるわけでは
ない。
以上によれば,本件商標からは「シラハマ」又は「ガトーシラハマ」の称
呼は生じない。本件商標の一部である上記各文字列部分から生じる称呼「シ
ラハマ」又は「ガトーシラハマ」のみを取り出して類否判断をするのは相当
でない。
(3) 本件商標は,図形と文字とを組み合わせた外観を有する。
他方,被告標章2及び9ないし12のうち上段部分は,「株式会社ガトー
しらはま」という旧会社の商号を記述的に表現したものと解される。そうす
ると,被告標章2及び9ないし12のうち標章として機能する部分は下段部
分のみである。同下段部分の「しらはまチーズケーキ」は文字のみから成る
外観を有するから,本件商標の外観とは全く異なる。
したがって,本件商標と被告標章2及び9ないし12とは類似しない。
3 争点(2)イ(被告標章3と本件商標とが類似するか否か)について
〔原告の主張〕
次のとおり,本件商標と被告標章3とは類似する。
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔原告の主張〕のとおりであ
る。
(2) 被告標章3は,「ガトーしらはま」の文字列を縦1行で記した外観を有
するものであり,全体が要部であるか,「しらはま」の部分のみが要部であ
る。前者の場合には「ガトーシラハマ」の称呼が生じ,後者の場合には「シ
ラハマ」の称呼が生じる。
(3) 本件商標と被告標章3とは,「ガトーシラハマ」又は「シラハマ」とい
う同一の称呼を生じるから,両者は類似する。
〔被告千趣会の主張〕
次のとおり,本件商標と被告標章3とは類似しない。
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔被告千趣会の主張〕のとお
りである。
(2) 被告標章3は「ガトーしらはま」の文字列を縦1行で記した外観を有す
るもので,文字のみから成るものである。
そうすると,本件商標と被告標章3とは外観が全く異なる。
また,本件商標と被告標章3とは,称呼が異なる。
(3) 以上のとおり,本件商標と被告標章3とは,外観及び称呼がいずれも異
なるから,両者は類似しない。
〔被告日動計画らの主張〕
次のとおり,本件商標と被告標章3とは類似しない。
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔被告日動計画らの主張〕の
とおりである。
(2) 被告標章3は,「ガトーしらはま」の文字列を縦1行で記した外観を有
するもので,文字のみから成るものである。
そうすると,本件商標と被告標章3とは外観が全く異なる。
したがって,本件商標と被告標章3とは類似しない。
なお,被告標章3は,チーズケーキに付された標章(商品表示)ではなく,
被告千趣会のカタログにおいて商号「株式会社ガトーしらはま」の略称を記
述的に表現したもの(営業表示)にすぎない。
4 争点(2)ウ(被告標章4と本件商標とが類似するか否か)について
〔原告の主張〕
次のとおり,本件商標と被告標章4とは類似する。
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔原告の主張〕のとおりであ
る。
(2) 被告標章4は,「しらはまチーズケーキ」の文字列を横1行で記した外
観を有するものであり,「チーズケーキ」の部分はケーキの一種を示す普通
名称であって,同部分には識別力がない。
そうすると,被告標章4の要部は「しらはま」の部分のみであって,「シ
ラハマ」の称呼が生じる。
(3) 本件商標と被告標章4とは,その外観が異なるものの,「シラハマ」と
いう同一の称呼を生じるか,被告標章4から生じる称呼である「シラハマ」
が本件商標から生じる称呼である「ガトーシラハマ」の一部であるから,両
者は類似する。
〔被告千趣会の主張〕
次のとおり,本件商標と被告標章4とは類似しない。
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔被告千趣会の主張〕のとお
りである。
(2) 被告標章4は,「しらはまチーズケーキ」の文字列を横1行で記した外
観を有するもので,文字のみから成るものである。
そうすると,本件商標と被告標章4とは外観が全く異なる。
また,本件商標と被告標章4とは,称呼が異なる。
したがって,本件商標と被告標章4とは類似しない。
〔被告日動計画らの主張〕
次のとおり,本件商標と被告標章4とは類似しない。
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔被告日動計画らの主張〕の
とおりである。
(2) 被告標章4は,「しらはまチーズケーキ」の文字列を横1行で記した外
観を有するもので,文字のみから成るものである。
そうすると,本件商標と被告標章4とは外観が全く異なる。
したがって,本件商標と被告標章4とは類似しない。
5 争点(2)エ(被告標章5及び7と本件商標とが類似するか否か)について
〔原告の主張〕
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔原告の主張〕のとおりであ
る。
(2) 被告標章5は,「しらはまのチーズケーキ」の文字列を横1行で記した
外観を有するものであり,「チーズケーキ」の部分はケーキの一種を示す普
通名称であって,同部分には識別力がない。また「しらはま」と「チーズケ
ーキ」とを結ぶ「の」は,後者が前者の製造,販売する商品であることを示
す助詞にすぎない。
そうすると,被告標章5の要部は「しらはま」の部分のみであって,「シ
ラハマ」の称呼を生じる。
(3) 本件商標と被告標章5とは,その外観が異なるものの,「シラハマ」と
いう同一の称呼を生じるか,被告標章5から生じる称呼である「シラハマ」
は本件商標から生じる称呼である「ガトーシラハマ」の一部であるから,両
者は類似する。
(4) 被告標章7は,同一の「しらはまのチーズケーキ」の文字列を横2行で,
上の行は大きく,下の行は小さく記した外観を有し,被告標章5と同様に,
「シラハマ」の称呼を生じるから,本件商標と類似する。
〔被告千趣会の主張〕
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔被告千趣会の主張〕のとお
りである。
(2) 被告標章5は,「しらはまのチーズケーキ」の文字列を横1行で記した
外観を有するもので,文字のみから成るものである。
そうすると,本件商標と被告標章5とは外観が全く異なる。
また,本件商標と被告標章5とは,称呼が異なる。
したがって,本件商標と被告標章5とは類似しない。
(3) 被告標章7も,被告標章5と同様に,本件商標と類似しない。
〔被告日動計画らの主張〕
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔被告日動計画らの主張〕の
とおりである。
(2) 被告標章5は,「しらはまのチーズケーキ」の文字列を横1行で記した
外観を有するもので,文字のみから成るものである。
そうすると,本件商標と被告標章5とは外観が全く異なる。
したがって,本件商標と被告標章5とは類似しない。
なお,被告標章5は,チーズケーキに付された標章(商品表示)ではなく,
被告千趣会のカタログにおいて商号「株式会社ガトーしらはま」の略称を記
述的に表現したもの(営業表示)にすぎない。
(3) 被告標章7も,被告標章5と同様に,本件商標と類似しない。
6 争点(2)オ(被告標章13と本件商標とが類似するか否か)
〔原告の主張〕
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔原告の主張〕のとおりであ
る。
(2) 被告標章13は,「しらはまのチーズケーキ」の文字列を横1行で記し
た外観を有するもので,文字のみから成るものである(なお,甲第11号証
には,末尾の「キ」の文字がないが,これは,ホームページをプリントアウ
トする際,用紙が小さかったために,末尾の上記文字が印刷されなかったこ
とによる。上記ホームページ上では,被告標章13のとおり,「しらはまの
チーズケー」に続けて,末尾にこれと同様の書体及び大きさの「キ」が付さ
れていた。)。このうち,「チーズケーキ」の部分はケーキの一種を示す普
通名称であって,同部分には識別力がない。また「しらはま」と「チーズケ
ーキ」とを結ぶ「の」は,後者が前者の製造,販売する商品であることを示
す助詞にすぎない。
そうすると,被告標章13の要部は「しらはま」の部分のみであって,
「シラハマ」の称呼を生じる。
(3) 本件商標と被告標章13とは,その外観が異なるものの,「シラハマ」
という同一の称呼を生じるか,被告標章13から生じる称呼である「シラハ
マ」は本件商標から生じる称呼である「ガトーシラハマ」の一部であるから,
両者は類似する。
〔被告千趣会の主張〕
前記5〔被告千趣会の主張〕と同様に,本件商標と被告標章13とは類似し
ない。
〔被告日動計画らの主張〕
(1) 被告標章13は,「しらはまのチーズケーキ」という表記において
「キ」の字体が特定されていないから,「キ」の文字が表示されていたこと
を前提とする原告の主張は失当である。
(2) なお,「キ」の字体の特定を欠く「しらはまのチーズケーキ」という被
告標章13は,「しらはまのチーズケー」との文字列を横1行で記した外観
を有するもので,平仮名と片仮名の文字のみから成るものである。本件商標
の外観,要部及び称呼については,前記2〔被告日動計画らの主張〕のとお
りであり,本件商標と被告標章13とは外観が全く異なる。
したがって,本件商標と被告標章13とは類似しない。
7 争点(2)カ(被告標章6と本件商標とが類似するか否か)について
〔原告の主張〕
次のとおり,本件商標と被告標章6とは類似する。
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔原告の主張〕のとおりであ
る。
(2) 被告標章6は,「しらはま」の文字列を横1行で記した外観を有し,
「シラハマ」の称呼を生じる。
(3) 本件商標と被告標章6とは,その外観が異なるものの,「シラハマ」と
いう同一の称呼を生じるか,被告標章6から生じる称呼である「シラハマ」
は本件商標から生じる称呼である「ガトーシラハマ」の一部であるから,両
者は類似する。
〔被告千趣会の主張〕
次のとおり,本件商標と被告標章6とは類似しない。
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔被告千趣会の主張〕のとお
りである。
(2) 他方,被告標章6は,「しらはま」の文字列を横1行で記した外観を有
するもので,文字のみから成るものである。
そうすると,本件商標と被告標章6とは外観が全く異なる。
また,本件商標と被告標章6とは,称呼が異なる。
したがって,本件商標と被告標章6とは類似しない。
〔被告日動計画らの主張〕
次のとおり,本件商標と被告標章6とは類似しない。
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔被告日動計画らの主張〕の
とおりである。
(2) 他方,被告標章6は,「しらはま」の文字列を横1行で記した外観を有
するもので,文字のみから成るものである。
そうすると,本件商標と被告標章6とは外観が全く異なる。
したがって,本件商標と被告標章6とは類似しない。
なお,被告標章6は,チーズケーキに付された標章(商品表示)ではなく,
被告千趣会のカタログ広告において商号「株式会社ガトーしらはま」の略称
を記述的に表現したもの(営業表示)にすぎない。
8 争点(2)キ(被告標章8と本件商標とが類似するか否か)について
〔原告の主張〕
次のとおり,本件商標と被告標章8とは類似する。
(1) 本件商標の外観,要部及び称呼は,前記2〔原告の主張〕のとおりであ
る。
(2) 被告標章8は,上の行に「しらはま」と,下の行に「しらはまチーズケ
ーキ」と,横2行で,上の行は大きく,下の行は小さく記した外観を有し,
「シラハマ」の称呼を生じる。
(3) 本件商標と被告標章8とは,その外観が異なるものの,「シラハマ」と
いう同一の称呼を生じるか,被告標章8から生じる称呼である「シラハマ」
は本件商標から生じる称呼である「ガトーシラハマ」の一部であるから,両
者は類似する。
〔被告千趣会の主張〕
前記2〔被告千趣会の主張〕と同様に,本件商標と被告標章8とは類似しな
い。
〔被告日動計画らの主張〕
前記2〔被告日動計画らの主張〕と同様に,本件商標と被告標章8とは類似
しない。
9 争点(3)ア(被告標章1の使用の有無及び時期)について
〔原告の主張〕
(1) 被告日動計画らは,Bへの本件商標権の移転登録の日である平成15年
1月16日(以下「本件移転登録日」という。)以降も同年12月までは,
本件商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキを,その包装箱
(包装)に被告標章1を付して,譲渡(販売)していた。被告千趣会も,同
様の譲渡を行っていた。
また,被告千趣会は,本件移転登録日以降,自らのカタログ広告(甲7)
中に被告標章1を表示して,自ら又は被告日動計画らのために広告宣伝活動
を行った。後者は被告日動計画らの譲渡を幇助する行為に当たる。
なお,被告千趣会が被告標章1の上に,別の標章を印刷した紙片を貼付し,
被告標章1を覆い隠していた事実はない。仮に同事実があったとしても,商
品に被告標章1を付して譲渡していることに変わりはない。
(2) 被告らの主張について
通信販売業者の株式会社ベルーナ(以下「ベルーナ」という。)の平成1
5年9月26日当時のホームページ(甲9)では,被告標章1が蓋の中央に
付された黒い包装箱を表示して「しらはまのチーズケーキ」を販売している。
同ホームページを見てチーズケーキを購入した顧客に対し「デボンポー
ト」,「DEVONPORT」の文字列ないし標章が付された黒い包装箱や
黄色い包装箱で商品を発送したならば,顧客からクレームが付くはずであり,
ベルーナにおいても直ちに自らのホームページ上の包装箱の画像(写真)を
変更したはずである。
しかし,ベルーナは,被告日動計画が「デボンポート」の表示に変更した
と主張する平成15年7月より後である上記日付になっても,包装箱の画像
を変更していない。これは被告らが上記日付ころにおいても被告標章1を包
装箱に付して「使用」していたことを示すものである。
また,原告が入手した被告日動計画の商品は,平成16年6月1日を賞味
期限とするものであるところ,この商品の黒い包装箱(甲28の1ないし
5)には被告標章1が印刷されており,被告標章1の上に別の標章が印刷さ
れたシールが貼られていた。
〔被告千趣会の主張〕
チーズケーキが本件商標の指定商品である「菓子」に含まれることは認め,
その余は否認する。
被告日動計画は,従来被告標章1を使用していたが,平成15年3月8日以
降は,いったん上記標章が印刷されている黒色の包装箱の使用を中止し,同月
13日以降,被告千趣会に対し,上記標章が印刷されていない黄色無地の包装
箱に切り替えて,チーズケーキを販売した。
なお,原告の指摘する包装箱(甲28の1ないし5)は,被告千趣会の販売
にかかる商品を包装したものではない。
また,カタログ広告(甲7)中の被告標章1は極めて小さく,識別が困難で
あるから,同標章が掲載されているとしても,同標章を「使用」したとはいえ
ない。
〔被告日動計画らの主張〕
チーズケーキが本件商標の指定商品である「菓子」に含まれることは認め,
その余は否認する。
被告日動計画は,従来被告標章1を使用していたものの,平成15年3月8
日以降は,いったん上記標章が印刷されている黒色の包装箱の使用を中止し,
被告千趣会を含む販売先に対して,平成15年3月8日から同月12日の間は,
色見本で取り寄せたサンプルの包装箱を使用し,同月13日からは,上記標章
が印刷されていない黄色無地の包装箱に切り替えて,チーズケーキを販売した。
また,被告日動計画は,平成15年8月ころ以降,被告標章1が印刷された黒
色の包装箱の上記標章の上にシールを貼り,上記標章を隠してチーズケーキを
譲渡(販売)した。
なお,カタログ広告(甲9)に掲載されているチーズケーキを製造したのは
被告日動計画ではないものの,被告日動計画は平成15年10月,株式会社ベ
ルーナに対し,速やかにホームページの訂正を申し入れた。
10 争点(3)イ(被告標章2の使用の有無及び時期)について
〔原告の主張〕
被告千趣会は,本件移転登録日以降も,カタログ広告(甲13は平成14年
5月ころ配布されたものである。)において,本件商標の指定商品である「菓
子」に含まれるチーズケーキの広告に,被告標章2を付して展示し,同カタロ
グ広告を頒布させた。
また,被告日動計画らは,同被告らの意向を受けて被告千趣会が作成・頒布
する上記カタログ広告において,被告標章2を付してチーズケーキの広告を展
示し,同カタログ広告を頒布させた。
〔被告千趣会の主張〕
否認する。被告千趣会は本件移転登録日後は被告標章2を使用していない。
なお,カタログ広告(甲13)の配布がされたのは平成14年5月上旬ころで
ある。
〔被告日動計画らの主張〕
否認する。被告千趣会のカタログ広告(甲13)で被告標章2を使用したの
は同被告であって被告日動計画らではない。
11 争点(3)ウ(被告標章3の使用の有無及び時期)について
〔原告の主張〕
前記10〔原告の主張〕と同様,被告千趣会は,本件移転登録日以降も,カ
タログ広告(甲7は平成15年1月ころのものである。)中のチーズケーキの
広告に,被告標章3を付して展示し,同カタログ広告を頒布した。
また,被告日動計画らは,同被告らの意向を受けて被告千趣会が作成・頒布
する上記カタログ広告において,被告標章3を付してチーズケーキの広告を展
示し,同カタログ広告を頒布させた。
〔被告千趣会の主張〕
否認する。被告千趣会は本件移転登録日後は被告標章3を使用していない。
なお,カタログ広告(甲7)の配布がされたのは本件商標権の移転登録前であ
る平成15年1月上旬ころである。
〔被告日動計画らの主張〕
否認する。被告千趣会のカタログ広告で被告標章3を使用したのは同被告で
あって被告日動計画らではない。
12 争点(3)エ(被告標章4の使用の有無及び時期)について
〔原告の主張〕
(1) 前記10〔原告の主張〕と同様,被告千趣会は,本件移転登録日以降も,
カタログ広告(甲7)中のチーズケーキの広告に,被告標章4を付して展示
し,同カタログ広告を頒布した。
また,被告日動計画らは,同被告らの意向を受けて被告千趣会が作成・頒
布する上記カタログ広告において,被告標章4を付してチーズケーキの広告
を展示し,同カタログ広告を頒布させた。
(2) 被告日動計画らの主張について
被告標章4は,前記(1)のカタログ広告において,他の製造者が製造した
チーズケーキと識別するために用いられており,出所識別機能がある状態で
使用されている。
〔被告千趣会の主張〕
否認する。被告千趣会は本件移転登録日後は被告標章4を使用していない。
なお,カタログ広告(甲7)の配布がされたのは本件商標権の移転登録前であ
る平成15年1月上旬ころである。
〔被告日動計画らの主張〕
否認する。被告千趣会のカタログ広告(甲7)で被告標章4を使用したのは
同被告であって被告日動計画らではない。
なお,カタログ広告(甲7)において,被告標章4は,単に「しらはま」で
製造した「チーズケーキ」という意味を記述的に表現したものにすぎず,出所
識別のための標章として用いられているわけではない。
13 争点(3)オ(被告標章5の使用の有無及び時期)について
〔原告の主張〕
被告日動計画らは,本件移転登録日以降も,自らのインターネット・ホーム
ページ(以下単に「ホームページ」という。)において,本件商標の指定商品
である「菓子」に含まれるチーズケーキの広告に被告標章5を付して表示させ
(甲6(ページ最上段),9,24(ページ最上段),25(ページ最上段)。
甲6,24,25は平成15年6月16日,甲9は同年9月26日のものであ
る。),もってかかる広告を内容とする情報に被告標章5を付して電磁的方法
により提供した。
なお,上記ホームページにおいて,被告標章5が出所識別機能を有する態様
で用いられていることは,前記12〔原告の主張〕(2)と同様である。
〔被告日動計画らの主張〕
否認する。各ホームページ中の被告標章5の表示部分は,単に「しらはま」
で製造した「チーズケーキ」という意味を記述的に表現したものにすぎず,出
所識別のための標章として用いられているわけではない。
また,甲9号証のホームページで被告標章5を表示している者は被告日動計
画らではない。
14 争点(3)カ(被告標章6の使用の有無及び時期)について
〔原告の主張〕
被告日動計画らは,本件移転登録日以降も,自らのホームページ(ページ最
上段)において,チーズケーキの広告に被告標章6を付して表示させ(甲16
は平成15年6月16日のものである。),もってかかる広告を内容とする情
報に被告標章6を付して電磁的方法により提供した。
なお,上記ホームページにおいて,被告標章6が出所識別機能を有する態様
で用いられていることは,前記12〔原告の主張〕(2)と同様である。「チー
ズケーキ冷凍冷蔵」との表示は識別標識ではなく,識別標識として使用されて
いるのは,「しらはま」の部分である。
〔被告日動計画らの主張〕
否認する。被告日動計画らは被告標章6を使用していない。甲第16号証の
ホームページにおいては,「チーズケーキ冷凍冷蔵 しらはま」と記載されて
おり,「しらはま」は会社の略称であってチーズケーキの標章ではない。
15 争点(3)キ(被告標章7の使用の有無及び時期)について
〔原告の主張〕
被告日動計画らは,本件移転登録日以降も,自らのホームページにおいて,
チーズケーキの広告に被告標章7を付して表示させ(甲24は平成15年6月
16日のものである。),もってかかる広告を内容とする情報に被告標章7を
付して電磁的方法により提供した。
なお,上記ホームページにおいて,被告標章7が出所識別機能を有する態様
で用いられていることは,前記12〔原告の主張〕(2)と同様である。
〔被告日動計画らの主張〕
否認する。ホームページ中の被告標章7の表示部分は,単に「しらはま」で
製造した「チーズケーキ」という意味を記述的に表現したものにすぎず,出所
識別のための標章として用いられているわけではない。
16 争点(3)ク(被告標章8の使用の有無及び時期)について
〔原告の主張〕
前記10〔原告の主張〕と同様,被告千趣会は,本件移転登録日以降も,カ
タログ広告(甲8は平成15年5月ころのものである。)中のチーズケーキの
広告に,被告標章8を付して展示し,同カタログ広告を頒布した。
また,被告日動計画らは,同被告らの意向を受けて被告千趣会が作成・頒布
する上記カタログ広告において,被告標章8を付してチーズケーキの広告を展
示し,同カタログ広告を頒布させた。
〔被告千趣会の主張〕
認める。なお,カタログ広告(甲8)が配布されたのは平成15年5月上旬
ころである。
〔被告日動計画らの主張〕
否認する。カタログ広告(甲8)中で被告標章8を表示したのは,被告日動
計画らではない。
17 争点(3)ケ(被告標章9ないし12の使用の有無及び時期)について
〔原告の主張〕
前記10〔原告の主張〕と同様,被告千趣会は,本件移転登録日以降も,カ
タログ広告(甲14,乙7ないし9。甲14は平成15年1月ころのものであ
る。)中のチーズケーキの広告に,被告標章9ないし12を付して展示し,同
カタログ広告を頒布した。
また,被告日動計画らは,同被告らの意向を受けて被告千趣会が作成・頒布
する上記カタログ広告において,被告標章9ないし12を付してチーズケーキ
の広告を展示し,同カタログ広告を頒布させた。
なお,被告千趣会も,被告日動計画らも,カタログ広告中で,他社が製造,
販売するチーズケーキと識別するために被告標章9ないし12を使用している。
〔被告千趣会の主張〕
(1) 被告千趣会は本件移転登録日後は被告標章9を使用していない。なお,
カタログ広告(甲14)が配布されたのは平成15年1月上旬ころである。
(2) 被告千趣会が本件移転登録日後に被告標章10ないし12を使用したこ
とは認める。なお,被告千趣会のカタログ広告のうち,乙第7号証は平成1
5年2月上旬ころに,乙第8号証は同年3月上旬ころに,乙第9号証は同年
4月上旬ころにそれぞれ配布された。
〔被告日動計画らの主張〕
否認する。カタログ広告中で被告標章9ないし12を表示したのは,被告日
動計画らではない。
18 争点(3)コ(被告標章13の使用の有無及び時期)について
〔原告の主張〕
(1) 被告日動計画は,本件移転登録日以降も,自らのホームページにおいて,
本件商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキの広告に被告標
章13を付して表示させ(甲第11号証は平成15年10月9日のものであ
る。),もってかかる広告を内容とする情報に被告標章13を付して電磁的
方法により提供した。
なお,甲第11号証中の被告標章13に相当する標章に,末尾の「キ」の
文字がないのは,ホームページをプリントアウトする際に,用紙が小さかっ
たために,末尾の上記文字が印刷されなかったことによるものである。上記
ホームページ上では,被告標章13のとおり,「しらはまのチーズケー」に
続けて,末尾にこれと同様の書体及び大きさの「キ」が付されていた。
(2) 上記ホームページにおいて,被告標章13が出所識別機能を有する態様
で用いられていることは,前記12〔原告の主張〕(2)と同様である。
〔被告日動計画らの主張〕
(1) 被告標章13は,「しらはまのチーズケーキ」という文字から成るもの
であるにもかかわらず,「キ」の字体は特定されていないから,原告の主張
は失当である。
(2) また,「しらはまのチーズケー」という表記だけでは,商標的使用がさ
れたとはいえないし,そもそも,甲第11号証のページは,「特定商取引に
関する法律に基づく表示」を目的として作成されたページであり,その上部
のバナー広告は付随的なものにすぎないから,ここでの表記は商標的使用に
はあたらない。
19 争点(4)(被告らの各被告標章の使用についての過失の有無)について
〔原告の主張〕
(1) 被告千趣会には,各被告標章の使用につき少なくとも過失がある。
すなわち,被告千趣会は,被告日動計画が本件商標の使用許諾を受けたこ
とを確認すべき義務があったのに,これを怠って,各被告標章を使用したも
のであるから,被告千趣会には過失がある。
なお,被告千趣会は,チーズケーキの取引先を旧会社から被告日動計画に
変更するに当たっても,旧会社から,被告日動計画が本件商標の使用許諾を
受けていることを確認しなかった。
また,Bは,平成15年3月5日,被告千趣会の本店に赴いて食品事業部
の担当者と面談し,同担当者に対し,Bが本件商標権の権利者であり,各被
告標章が使用された被告日動計画のチーズケーキを販売することはBの商標
権を侵害する行為である旨を説明した。被告千趣会は,同日,Bの上記説明
の趣旨を了知したから,同日以降の各被告標章の使用については,故意があ
るというべきである。
(2) 被告日動計画らには,各被告標章の使用につき少なくとも過失がある。
すなわち,被告日動計画らは,平成15年1月20日ころ,原告の開店の
チラシを入手したか又は入手し得る状況にあったのであり,このころ,原告
が本件商標を使用してチーズケーキを販売することを認識し得たにもかかわ
らず,各被告標章を使用したものであるから,過失があるというべきである。
(3) 被告らの主張について
ア Cは被告日動計画との間で,本件商標の使用許諾契約を締結していない。
ノウハウ実施契約書(丙2の2)のCの作成部分は,同人が自ら作成した
ものでも,同人の意思に基づいて作成されたものでもなく,被告A等が無
権限で作成したもので,偽造に係るものである。むしろ,Cは,平成14
年11月以降は,被告日動計画に対し,「しらはま」の名称の使用を認め
ない旨明言していた。
イ 被告日動計画は,平成15年4月30日,株式会社東平商会に対し,原
告が同年1月に配布したリニューアルオープンのチラシを同封した書面を
送っている(甲33)。これは被告日動計画が平成15年1月の時点で,
本件商標権について移転登録がされ,原告が本件商標と類似の標章を使用
してチーズケーキを販売していた事実を知っていたことを示すものである。
ウ Bは,旧会社から,本件商標権の実質的な移転を受け,移転登録を完了
した。
〔被告千趣会の主張〕
被告日動計画は,従前,旧会社から本件商標の使用許諾を受けていた。被告
千趣会は,平成15年2月末ころにB及びCの訪問を受け,本件商標権がBに
移転されたことを告げられた。商標権の新規登録の場合と異なり,商標権の移
転登録の場合には,公報による公示がされないから,第三者は商標権の登録原
簿を確認しない限り商標権の移転の事実を知ることができない。
他方,被告千趣会は,被告日動計画に指示して,Bの上記告知を受けた後の
同年3月7日ころ,速やかに被告標章1が付された包装箱の使用を中止させた。
そうすると,被告千趣会が同年1月16日以降同年3月7日ころまでの間に
被告標章1を使用したことについては,過失がない。
〔被告日動計画らの主張〕
被告日動計画らには,本件商標の独占的通常使用権の侵害について過失がな
い。
すなわち,被告日動計画は,旧会社からBが本件商標権を譲り受ける前であ
る平成14年9月24日に,少なくとも被告千趣会に対する商品に本件商標を
使用することについて,また同年10月17日に,すべての顧客に対する商品
に本件商標を使用することについて,それぞれ,旧会社から許諾を受けた。
被告日動計画は,Bが本件商標権の移転登録を受けた平成15年1月16日
以降も,Bが被告千趣会に対して後記の警告をしたときまで,旧会社がBに対
して本件商標権を譲渡(移転登録)したことも,原告が「ガトーしらはま」等
の標章を用いてチーズケーキの製造,販売を開始したことも知らなかった。
被告日動計画が本件商標権の譲渡の事実を初めて知ったのは,同年3月7日
のことで,被告日動計画の現代表者であるEが同日に被告千趣会の本店に出向
いた際のことである。この際,Eは,被告千趣会から,同被告が同月5日にB
の訪問を受け,同人から,本件商標権の移転登録の事実の告知及び商標権侵害
の警告を受けたことを聞いた。また,Eは,この際,被告千趣会から,原告の
リニューアルオープンのチラシを入手した。
被告日動計画は,本件商標の使用権限があると信じており,各被告標章の使
用につき過失がない。
なお,被告日動計画の取引先が平成15年1月16日以降も各被告標章を使
用していたとしても,そのこと自体は被告日動計画らの関知するところではな
く,やむを得ないものである。
Bは貸金の担保として本件商標権を譲り受けたので,旧会社が本件商標権を
受け戻す可能性があり,旧会社の破産管財人がBとの間で訴訟上の和解をした
平成18年3月ころまで,本件商標権はBに対し確定的に移転していなかった
ものである。そうすると,被告日動計画が平成15年3月7日に本件商標権の
譲渡の事実を知ったとしても,本件商標権の実質的な移転を知ったことにはな
らず,その後の各被告標章の使用行為に過失があるとはいえない。
20 争点(5)(被告日動計画が各被告標章の使用を止めた後の不法行為の成否)
について
〔原告の主張〕
旧会社の製造,販売するチーズケーキは,被告千趣会の顧客による「チーズ
ケーキの会」において2年連続で1位となるなど,若い女性等の間で人気を博
し,遅くとも平成15年1月ころには,本件商標又はこれから生じる「ガトー
しらはま」ないし「しらはま」の称呼は,チーズケーキの需要者の間でおいし
いチーズケーキの製造,販売元を示すものとして周知となるに至っており,本
件商標には業務上の信用(グッドウィル)が化体するに至った。
他方,被告日動計画は,平成15年1月16日から少なくとも1年間にわた
って各被告標章を使用し,チーズケーキを販売してきたものであり,原告から
各被告標章の使用中止等を求める警告を受けて,平成16年3月ころ,各被告
標章の使用を中止し,「デボンポート」の文字列からなる標章に変更した。
しかし,被告千趣会は,被告日動計画らの指示に基づき,標章の変更をした
際,自らのカタログ広告等に,「店名が『ガトーしらはま』から『デボンポー
ト』に変わりました。これからもよろしくお願いいたします。」又は「店名が
『デボンポート』に変わりました。これからもよろしくお願いします。」と記
載して広告宣伝を行った。
被告日動計画らは,以後,上記「デボンポート」の標章を使用してチーズケ
ーキを販売しているものの,被告日動計画らのかかる一連の行為は,「デボン
ポート」の標章が付されたチーズケーキが本件商標が付されたチーズケーキな
いしCが工程を管理して製造したチーズケーキである原告のチーズケーキとそ
の出所が同一である旨を需要者ないし取引者に誤信させて(出所の混同),商
品を販売する行為であって,本件商標に付着した業務上の信用(グッドウィ
ル)を不正に利用するものであり,自由競争として許容される範囲を著しく逸
脱し,本件商標権の独占的通常使用権の許諾を受けた原告,あるいは,本件商
標権を有するBに対する不法行為に当たる。
そして,被告千趣会は,広告宣伝により,かかる被告日動計画らの不法行為
を幇助し又は共同で行っているものである。
なお,旧会社は被告日動計画との間で「ガトーしらはまチーズケーキ」の製
造,販売に係るノウハウ実施契約を締結したことはなく,同被告に対し,本件
商標の使用を許諾していない。同ノウハウ実施契約書(丙2の2)のうち旧会
社の代表者C作成部分は,被告日動計画が当時保管していた旧会社のゴム印や
Cの実印を冒用して勝手に作出したものである。
また,被告日動計画は,平成15年1月の時点で原告の店舗のリニューアル
オープンのチラシを入手しており,既に同月の時点で原告が本件商標に類似す
る標章を使用してチーズケーキを製造,販売していることを知っていた。
〔被告千趣会の主張〕
被告千趣会において,被告日動計画の店名が「ガトーしらはま」から「デボ
ンポート」に変わった旨の記載をパンフレットに表示したことは認める。しか
しながら,この点についての,被告千趣会の行為も被告日動計画の行為も違法
ではない。
被告日動計画が店名を変更した平成15年9月ころの当時,「ガトーしらは
ま」は商品の出所が被告日動計画であることを示すものとして需要者に知られ
るようになっており,また,「デボンポート」の標章は商品の出所が被告日動
計画であることを示すものである。
そうすると,上記表示の前後を通じて,商品の出所は一貫して被告日動計画
であり,出所の混同は惹起されていない。
むしろ,上記表示により,被告日動計画の商品と原告の商品との区別が明確
になり,出所の混同が回避されるところ,被告日動計画及び被告千趣会は商品
の出所の区別を積極的に明確にしたものである。
なお,一般の消費者が,「しらはまチーズケーキ」等の表示から,当該チー
ズケーキがC自身の手によって製造されているなどと期待することはなく,
「Cの下で作られたチーズケーキ」の限度で出所の混同が起きるということは
ない。
〔被告日動計画らの主張〕
(1) 不正競争防止法にいう「不正競争行為」に当たらなくても不法行為とな
り得るのは,競争行為がされたことに加えて,相手方に対する攻撃的意図を
持って販路を侵すなど,取引界における公正かつ自由な競争として許容され
る範囲を著しく逸脱し,相手方の法的利益を侵害する場合に限られる。本件
においてはかかる事情が全然ない。
なお,被告日動計画には,各被告標章の使用を開始した時点で,本件商標
を不正に利用して利益を得ようとする目的などはなく,また,店名がデボン
ポートに変更されたことを告知した行為を,本件商標を不正に利用して利益
を得た,と評価することはできない。
(2) 被告日動計画が店名(営業の名称)を「デボンポート」に変更した旨の
広告をすることは,標章を変更するに当たって通常行われる表現(名称変更
の説明)を逸脱するものではなく,何ら違法ではない。被告日動計画は,旧
会社「ガトーしらはま」からの事業の承継を強調しているわけではない。
被告日動計画が上記広告を行った前後で,営業の主体は変更されていない。
また,被告日動計画が使用する「デボンポート」の標章は本件商標と全然
類似していないから,「デボンポート」の標章を用いることにより,本件商
標により表示される出所との間で出所の誤認混同を生じるおそれはないし,
標章を類似しないものに変更した後に,変更前の標章の出所表示機能が移っ
てくることもない。
(3) 原告は,旧会社から営業譲渡を受けたわけでも,のれん(グッドウィ
ル)を譲り受けたわけでもなく,被告日動計画の行為によって原告のグッド
ウィルが害されることはない。
(4) 被告日動計画らには故意又は過失がない。
被告日動計画は,旧会社から本件商標の使用を許諾されていた。被告日動
計画は,Bが本件商標権の移転登録を受けた平成15年1月16日以降も,
原告が同年3月7日に被告千趣会に対して警告をしたことを知ったときまで,
旧会社がBに対して本件商標権を譲渡したことも,原告が「ガトーしらは
ま」等の標章を用いてチーズケーキの製造,販売を開始したことも知らなか
った。被告日動計画が原告のリニューアルオープンのチラシを入手したのは,
同年3月7日である。被告日動計画は,本件商標の使用権限があると信じて
おり,各被告標章の使用につき故意又は過失がない。
(5) 以上のとおり,上記広告を行った上で,本件商標とは全然類似しない標
章を使用して商品を販売することは,原告ないしBに対する不法行為に当た
らない。
21 争点(6)(原告の商号続用者としての責任の有無)について
〔被告千趣会の主張〕
旧会社は,遅くとも平成14年10月ころまでに,被告日動計画に対し本件
商標の使用を許諾した(通常使用権)。したがって,旧会社は,被告日動計画
及び被告日動計画から商品を仕入れている被告千趣会に対し,本件商標権に基
づく権利行使をしない不作為義務を負っていた。
ところが,旧会社は,その後,原告に対して旧会社の営業を譲渡し(甲1
9),原告は以後旧会社の商号「株式会社ガトーしらはま」を続けて使用した。
そうすると,原告は旧会社の商号の続用者として,旧会社からその債務(義
務)を承継したものである(商法17条1項)。
そうである以上,原告は,旧会社が負っていた被告日動計画及び被告千趣会
に対する上記不作為義務を承継するから,被告日動計画及び被告千趣会に対し
て本件商標の独占的通常使用権の侵害を主張することはできない。
〔原告の主張〕
否認ないし争う。
旧会社は原告に対してその営業を譲渡していない。原告が旧会社から譲り受
けたのは本件商標権のみである(すなわち,Bが旧会社から本件商標権を譲り
受け,原告は,Bから本件商標権につき,独占的通常使用権の設定を受けたの
みである。)。甲第19号証の新聞記事においては,法律知識の不足のために,
商標権の譲渡が営業譲渡と混同されたにすぎない。
22 争点(7)(原告による権利濫用の有無)について
〔被告千趣会の主張〕
旧会社は,本件商標権のBへの譲渡に先立つ遅くとも平成14年10月ころ,
被告日動計画に対し,同社の営業を譲渡し,この際,少なくとも被告日動計画
に対し,本件商標権の独占的通常使用権を許諾した。
他方,B及び原告は,Bが本件商標権を譲り受けた平成15年1月16日こ
ろ,被告日動計画が旧会社から本件商標権の独占的通常使用権を許諾されてい
ることを知っていた。
ところが,Bは,上記事情を知りながら,被告日動計画の通常使用権が登録
されていないことを奇貨として,旧会社から本件商標権の譲渡を受けたもので
ある。Bは,本件商標権の移転登録を経た後,Cと共に,被告日動計画の最大
の販売ルートである被告千趣会に働きかけ,被告日動計画との取引を原告との
取引に切り替えるよう求めている。このような事情に照らせば,Bは,Cと共
謀の上,被告日動計画が経営難に陥った旧会社から引き継いで多額の投資を行
って維持してきた市場を横取りする目的で,本件商標権の譲渡を受けたもので
ある。
また,原告は,「しらはま」,「しらはまのチーズケーキ」,「ガトーしら
はま」といった標章を一度も使用せず,積極的にこれらと異なる「ガトーよこ
はま」の標章を一貫して使用して別ブランドを確立している。上記事実に照ら
せば,原告には,もはや「しらはま」等の標章を使用する必要性はなく,本件
における原告の主張は,今後使用することがあり得ない商標について権利行使
をしようとするものであると言える。
さらに,被告千趣会は,平成15年3月5日,B及びCから,本件商標権の
移転の事実を知らされた。その際,Bらは,被告千趣会に対し,チーズケーキ
の取引先を被告日動計画から原告に変更するように求めたのみで,各被告標章
の使用の中止を求めることはなかった。被告千趣会は,この時点で各被告標章
の使用の中止を求められていれば,既に製作済みではあったものの,チラシ等
(乙9,甲8)を配布することはなかった。したがって,被告千趣会が上記チ
ラシ等を配布したことにはBの責めに帰すべき要素がある。
他方で,原告が被告日動計画及び被告千趣会に対して損害賠償を求めている
のは,被告日動計画及び被告千趣会がBらから連絡を受けた後各被告標章の使
用を止めるまでの間の短期間(平成15年2月末ころから同年5月初旬ころま
での間)の商品販売に基づくものである。しかしながら,このような短期間各
被告標章の使用を継続することは,顧客からの信用を維持しつつ標章の使用を
中止するのに必要な合理的期間の使用であってやむを得ないものというべきで
ある。
このようなBが代表者を務める原告が,被告日動計画及び被告千趣会に対し,
標章の変更に要する合理的期間に対応する使用についても,本件商標権又は独
占的通常使用権の侵害を理由とする損害賠償請求をすることは,権利の濫用で
あって許されない。
〔被告日動計画らの主張〕
被告千趣会の主張を援用する。
〔原告の主張〕
否認ないし争う。
(1) 旧会社は被告日動計画に対してその営業を譲渡することも,本件商標の
使用を許諾することもなかった。
(2) 原告は,平成15年当時,「しらはま」を含む標章を使用していた。
23 争点(8)(被告Aの責任の有無)について
〔原告の主張〕
(1) 被告Aは,被告日動計画に,各被告標章を使用してチーズケーキを製造,
販売させることを計画し,被告日動計画による上記商標権侵害行為を先導し
た。
売渡書(丙2の2)の買主欄に被告Aが表示されていることからも,被告
Aが上記商標権侵害行為を計画し,被告日動計画を先導して,同被告に上記
商標権侵害行為を行わせたことが分かる。
被告Aの上記行為は不法行為に当たり,同被告は,被告日動計画と共同不
法行為責任を負う。
(2) 被告Aは,被告日動計画の各被告標章の使用行為が,原告ないしBに対
する商標権(ないし独占的通常使用権)の侵害行為ないし不法行為に当たる
ことを知りながら,故意又は重過失により,被告日動計画に各被告標章の使
用行為を継続させた。
そうすると,被告Aは原告に対し,上記各行為によって生じた損害の賠償
につき,旧商法266条の3に基づく連帯債務を負う。
〔被告日動計画らの主張〕
(1) 否認ないし争う。各被告標章の使用やチーズケーキの製造,販売を行っ
たのは被告日動計画であって被告A個人ではない。
確かに,被告Aは旧会社から工場建物や機械を譲り受けているものの,こ
れを被告日動計画に賃貸し,被告日動計画が,賃借した工場建物等を使用し
てチーズケーキの製造,販売を行った。
(2) また,被告日動計画は,旧会社から本件商標の使用を許諾されており,
他方,当時被告日動計画の代表者であった被告Aは,旧会社がBに対して本
件商標権を譲渡したことを知らず,原告が本件商標を用いてチーズケーキの
製造,販売を開始したことを平成15年3月7日まで全く知らなかった。そ
して,平成15年3月7日に上記事実を知った後は,被告Aは,Eに命じて,
本件商標の使用を中止させた。以上に照らせば,被告Aには,任務懈怠につ
き悪意及び重過失がなかったと言える。
24 争点(9)(損害の有無及び額)について
〔原告の主張〕
(1) 独占的通常使用権侵害による損害等について
ア 「デボンポート」標章に変更前の不法行為等による損害について
(ア) 共同不法行為等
被告日動計画が被告千趣会の幇助の下に,又は被告千趣会と共同して,
被告千趣会を経由して一般消費者に対してした,各被告標章を使用して
のチーズケーキの販売行為は同被告らの共同不法行為に当たる。同被告
らには,同販売行為に係る損害の全部につき連帯して賠償する責任があ
る。
一方,被告日動計画が被告千趣会を経由せずに直接一般消費者に対し
てしたチーズケーキの販売行為は,被告日動計画の単独の不法行為であ
る。
なお,被告Aは,被告日動計画の代表取締役として,共同不法行為又
は旧商法266条の3に基づき,被告日動計画が賠償すべき損害につき,
同被告と連帯して賠償すべき義務を負う。
(イ) 商標法38条1項の類推適用
原告は本件商標の独占的通常使用権者であり,商標権侵害によって受
けた損害については商標法38条1項を類推適用すべきである。
(ウ) 被告らの販売個数
平成15年1月16日以降,「デボンポート」の標章に変更するまで
の間に,被告日動計画が被告千趣会を通じて一般消費者に販売した直径
14センチメートルのチーズケーキの個数は8万8000個を下らない。
また,被告日動計画が被告千趣会を経由せずに直接一般消費者に対し
て販売したチーズケーキの個数は,直径14センチメートルのものが6
60個,直径16センチメートルのものが495個,直径18センチメ
ートルのものが330個,直径20センチメートルのものが165個を
それぞれ下らない。
なお,被告千趣会を経由した販売における直径14センチメートルの
チーズケーキの小売価格(消費税を除く。)は2000円であり,被告
日動計画が被告千趣会を経由せずに販売したチーズケーキの小売価格
(消費税を除く。)は,直径14センチメートルのもので1500円,
直径16センチメートルのもので2000円,直径18センチメートル
のもので2500円,直径20センチメートルのもので3500円であ
った。
(エ) 原告の1個当たりの利益
原告のチーズケーキの利益率は60パーセントを下らないから,被告
千趣会らの販売したチーズケーキに対応する原告のチーズケーキ1個当
たりの利益額は,被告千趣会を経由して販売した直径14センチメート
ルのもので1200円,被告千趣会を経由せずに販売した,直径14セ
ンチメートルのもので900円,直径16センチメートルのもので12
00円,直径18センチメートルのもので1500円,直径20センチ
メートルのもので2100円をそれぞれ下らない。
(オ) 商標法38条1項類推適用による損害額のまとめ
前記(イ)ないし(エ)によれば,被告らが賠償すべき損害の額は次のと
おりの金額を下らない。
① 被告千趣会を経由した販売について 1億0560万円
(計算式)1,200円×88,000個=105,600,000円
② 被告千趣会を経由しない販売について 202万9500円
(計算式)900円×660個+1,200円×495個+1,500円×330個+2,1
00円×165個=2,029,500円
(カ) 一部請求
原告は,被告日動計画らに対しては,それぞれ上記損害全部の賠償請
求をするが,被告千趣会に対しては,前記(オ)①の損害の一部である9
000万円を請求する。
イ 「デボンポート」標章に変更後の不法行為等による損害について
被告日動計画は,被告千趣会の幇助の下で,又は被告千趣会と共同で,
前記20〔原告の主張〕のとおり,平成16年1月ころ以降,被告千趣会
を経由してチーズケーキを販売し,原告に対する不法行為を行ったもので
ある。被告日動計画及び被告千趣会には,上記販売に係る損害につき,連
帯して賠償する責任がある。
また,被告Aは被告日動計画の代表取締役として,共同不法行為又は旧
商法266条の3に基づき,被告日動計画が賠償すべき損害につき,同被
告と連帯して賠償すべき義務を負う。
被告日動計画が平成16年1月ころ以降に売り上げたチーズケーキの個
数は24万個を下らず,売上金額は4億8000万円を下らない。そして,
被告日動計画のチーズケーキ販売による利益率は60パーセントを下らな
い。
そうすると,原告が上記不法行為によって受けた損害は,被告らの利益
相当額である2億8800万円を下らない。
あるいは,被告らによる上記不法行為(誤認混同惹起行為)がなければ,
原告は少なくとも10万個のチーズケーキを販売できたものであり,原告
のチーズケーキの小売価格は1個当たり2000円,利益率は60パーセ
ントを下らないから,原告が上記不法行為によって受けた損害は,原告の
利益減少額に相当する1億2000万円を下らない。
原告は,被告千趣会に対しては,上記損害の一部である3000万円の
支払を求め,被告日動計画らに対しては,上記損害の一部である1億19
95万4520円の支払を求める。
(2) 商標権侵害による損害(Bの損害)について
ア 「デボンポート」標章に変更前の不法行為等による損害について
原告の損害につき商標法38条1項が類推適用されない場合でも,商標
権者たるBが被告らの前記販売行為によって受けた損害については,同条
3項が適用される。
本件商標を付し,又はこれから生じる名称である「ガトーしらはま」な
いし「しらはま」を使用して販売されるチーズケーキは,被告千趣会が本
件商標権の譲渡前にしたチーズケーキの販売においても第一位の人気を有
した商品であり,本件商標又はこれから生じる称呼は需要者の間で周知で
あって,大きな顧客誘引力を有していた。
そうすると,Bが本件商標を使用したチーズケーキ1個当たりの販売に
よって受けるべき金銭の額は,各チーズケーキの小売価格の25パーセン
ト相当額を下らないというべきであり,すなわち,被告千趣会を経由した
販売における直径14センチメートルのチーズケーキについては500円,
被告千趣会を経由せずに販売されたものについては,直径14センチメー
トルのもので375円,直径16センチメートルのもので500円,直径
18センチメートルのもので625円,直径20センチメートルのもので
875円をそれぞれ下らないというべきである。
したがって,前記(1)(ウ)から,商標法38条3項により,被告らがB
に対して賠償すべき損害の額は,次のとおりの金額を下らない。
① 被告千趣会を経由した販売について 4400万円
(計算式)500円×88,000個=44,000,000円
② 被告千趣会を経由しない販売について 84万5625円
(計算式)375円×660個+500円×495個+625円×330個+875円×16
5個=845,625円
イ 「デボンポート」標章に変更後の不法行為等による損害について
前記(1)イの被告らによる行為は,Bに対する不法行為にも当たり,B
は被告らの不法行為によって前記(1)イ記載と同額の損害を被った。
ウ 債権譲渡
Bは,遅くとも平成16年11月15日,原告に対し,被告日動計画ら
に対する前記アの損害に係る各損害賠償債権を譲渡し,確定日付のあるそ
の旨の債権譲渡通知が,被告日動計画には同月16日に,被告Aには同月
17日にそれぞれ到達した。
Bは,遅くとも平成18年11月7日,原告に対し,被告日動計画らに
対する前記イの損害に係る各損害賠償債権を譲渡し,同月8日,確定日付
のあるその旨の債権譲渡通知が,被告日動計画らにそれぞれ到達した。
Bは,平成18年3月1日,原告に対し,被告千趣会に対する前記ア及
びイの損害に係る損害賠償債権を譲渡し,同月7日,確定日付のあるその
旨の債権譲渡通知が同被告に到達した。
エ 一部請求
(ア) 原告は,被告日動計画らに対しては,それぞれ前記アの損害全部
(4400万円+84万5625円)及びイの損害の一部である1億1
995万4520円の支払を求める。
(イ) 原告は,被告千趣会に対しては,前記ア①の損害である4400万
円及びイの損害の一部である3000万円の支払を求める。
(3) 損害額のまとめ
前記(1)及び(2)によれば,原告が被告らに対して請求する金額は,次のア
及びイのとおりである。
ア 被告日動計画ら
(ア) 原告が本件商標の独占的通常使用権を有する場合(原告の損害につ
き商標法38条1項を類推適用する場合)
各合計2億2758万4020円
(計算式)105,600,000円+2,029,500円+119,954,520円=227,584,
020円
(イ) 原告が本件商標の独占的通常使用権を有しない場合(原告の損害に
つき商標法38条1項を類推適用しない場合・債権譲受分)
各合計1億6480万0145円
(計算式)44,000,000円+845,625円+119,954,520円=164,800,145
円
イ 被告千趣会
(ア) 原告が本件商標の独占的通常使用権を有する場合(原告の損害につ
き商標法38条1項を類推適用する場合)
合計1億2000万円
(計算式)90,000,000円+30,000,000円=120,000,000円
(イ) 原告が本件商標の独占的通常使用権を有しない場合(原告の損害に
つき商標法38条1項を類推適用しない場合・債権譲受分)
合計7400万円
(計算式)44,000,000円+30,000,000円=74,000,000円
ウ 被告日動計画らは,それぞれ,原告に対し,上記イの金額の限度で,被
告千趣会と互いに連帯して損害を賠償すべき義務を負う。
〔被告千趣会の主張〕
否認ないし争う。ただし,被告千趣会に対し,債権譲渡の通知がされたこと
は認める。
(1) 独占的通常使用権侵害について
独占的通常使用権は債権的権利にすぎず,物権的独占権を有する商標権者
又は専用使用権者の権利行使を容易ならしめるために設けられた商標法38
条の規定は適用されないし,類推適用もされない。
被告千趣会によるチーズケーキの販売は,被告千趣会が主催するチーズケ
ーキの会の会員に対してのみされているものであって,顧客が「しらはまチ
ーズケーキ」を選択して購入しているわけではない。なお,被告千趣会も,
対象商品が「しらはまチーズケーキ」であることに着目してこれを被告日動
計画から購入していたわけではない。
そうすると,被告千趣会において,仮に被告日動計画が製造,販売したチ
ーズケーキを顧客に対して販売しなかったときには,原告からチーズケーキ
を購入したという補完関係にはなく,被告日動計画及び被告千趣会の行為と
原告の損害との間には相当因果関係がない。
(2) 「デボンポート」標章へ変更後の不法行為等について
否認ないし争う。
被告千趣会の行為によって原告に損害は生じない。
被告千趣会において,仮に被告日動計画が製造,販売したチーズケーキを
顧客に対して販売しなかったときには,原告からチーズケーキを購入したと
いう補完関係にはなく,被告日動計画及び被告千趣会の行為と原告の損害と
の間には相当因果関係がない。
(3) 平成15年3月5日以降,被告千趣会が配布した被告標章目録記載の標
章を使用した「チーズケーキの会」に関するチラシ及びカタログに基づく,
チーズケーキの出荷数は,以下のとおりである。
ア 平成15年3月30日に配布した新聞折込みチラシ(乙9)に基づく出
荷数は,1509個である。
イ 平成15年5月8日に配布した新聞折込みチラシ(甲8)に基づく出荷
数は,1942個である。
〔被告日動計画らの主張〕
否認ないし争う。ただし,被告日動計画らに対し,債権譲渡の通知がされた
ことは認める。
(1) 被告日動計画が前記20〔原告の主張〕のとおりの広告を行うなどした
としても,原告ののれん(グッドウィル)の毀損はなく,原告に損害は生じ
ない。被告日動計画が平成15年3月7日から同年10月9日の間に被告千
趣会を経由せずに出荷したチーズケーキの個数は,直径14センチメートル
のものが557個,直径16センチメートルのものが459個,直径18セ
ンチメートルのものが109個,直径20センチメートルのものが14個で
ある。
(2) 商標法38条1項を類推適用すべきである旨の原告の主張は失当である。
すなわち,本件において,原告は,平成15年当時「ガトーよこはま」の商
号でチーズケーキの製造,販売を行い,本件商標も使用していなかったので
あるから,商標権者が登録商標を現に使用していることを前提とする商標法
38条1項の規定は適用されない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告の本件商標の独占的通常使用権の有無)について
(1) 原告は,遅くとも平成15年1月16日までに,Bから,本件商標につ
き独占的通常使用権を付与された旨主張する。
Bが,原告の代表者であり,原告は,その株式をB,Bの妻及びBの子で
所有している同族会社であること(甲4,弁論の全趣旨),Bが本件商標権
の譲渡を受けた後,平成15年1月ころには,Bが代表者を務める原告にお
いて,チーズケーキ等の菓子類を販売する店舗を出店し,同店において,本
件商標と類似する標章(本件商標の上部の「SHIRAHAMA」の文字列
を「YOKOHAMA」に変えたもの)を使用していたこと(甲41,丙
4)等に照らすと,Bは,本件商標権を取得した後速やかに,原告に対し,
本件商標の通常使用権を付与したものと認められる。
この原告の有する通常使用権が,独占的なものであったか否かについては
争いがあり,Bの陳述書(甲4,47)中には,「Bが,原告に対し,本件
商標の独占的な使用権を与えている」旨の記載がある。
(2) しかしながら,前記当事者間に争いのない事実等,証拠(甲5,19,
41,46,47,乙1,乙2の1・2,乙3,乙10の1・2,丙9,1
2,丙17の1ないし6,丙31の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,以
下の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
ア Cは,平成元年12月,有限会社白浜を設立して,代表取締役に就任し
た。同社は,平成11年4月には株式会社に組織変更をし,商号を「株式
会社ガトーしらはま」(旧会社)に変更した。その後も,Cが引き続き,
同社の代表取締役の地位にあった。
イ Cは,平成元年ころ,神奈川県秦野市<以下略>において,「レストラ
ンガトーしらはま」を経営し,同店において,デザートとしてチーズケー
キを提供し,また,販売していた。
また,Cは,「レストランガトーしらはま」のほかに,同市内に所在す
る短期大学の学生食堂においても,チーズケーキを販売していた。
上記チーズケーキは,「ガトーしらはまのチーズケーキ」として次第に
評判となり,メディアで取り上げられたほか,通信販売やデパート等へ出
店しての販売も行われるようになった。
旧会社は,平成12年2月4日,特許庁に対し,本件商標について登録
出願をし,平成13年2月23日,本件商標は登録された。
ウ 旧会社は,取り込み詐欺の被害に遭うなどして,平成12年5月31日
の時点で,約6379万円の欠損金を計上するに至り,その後,平成15
年5月9日に横浜地方裁判所小田原支部に破産申立てをし,同年7月11
日,同支部から破産宣告決定を受けた。
また,Cも,同年5月9日に同支部に破産申立てをし,同年7月11日,
同支部から破産宣告決定を受けた。
破産宣告決定当時,旧会社の代表取締役はCであり,Cの弟であるDは
取締役であった。
エ 旧会社の資金繰りが悪化する中で,旧会社は,平成14年12月27日,
Bに対し,本件商標権を譲渡し,Bは,平成15年1月16日,その旨の
移転登録を了した。
なお,本件商標について,専用実施権の設定登録や通常実施権の設定登
録は一切されていない。
オ Bが旧会社から本件商標の譲渡を受けた後,平成15年1月下旬ころに
は,Bが代表者を務める原告において,チーズケーキ等の菓子類を販売す
る店舗を出店した。
Cは,そのころ,原告のケーキ製造工場において,工場長として稼働す
るようになった。
カ Bは,平成15年3月5日,Cと共に,被告千趣会の本社を訪ね,同被
告に対し,Bが本件商標を譲り受けたことを告げ,被告日動計画の製造す
るチーズケーキに本件商標を付して販売することは本件商標権の侵害とな
ることなどを警告した。
キ 「レストランガトーしらはま」は,平成16年4月27日当時において
も,神奈川県秦野市<以下略>において,開設,運営されていた。
同店の店舗入口付近には,外に向かって,本件商標と類似する標章(本
件商標と上記類似標章とは,周囲を囲む四角形及び中央の「S」と「H」
とを重ねて組み合わせた文字の色彩が異なるのみである。)が表示され,
その両脇には,「ガトーしらはま」と横1行の文字列で表示されていた。
また,同店の店舗入口横には,外に向かって,上に「レストラン・ガト
ー」の文字列,下に「SHIRAHAMA」の文字列を配した横2行の標
章の下にチーズケーキの写真を配したボード,チーズケーキの写真に重ね
て「しらはまチーズケーキ」の文字列を横1行に表示し,さらに,下部の
端に,上に「レストラン・ガトー」の文字列,下に「SHIRAHAM
A」の文字列を配した横2行の標章を配したボードが掲示されていた。
ク 「レストランガトーしらはま」は,平成18年5月25日当時において
も,上記の場所において開設,運営されており,同店舗には,上記と同様
の表示がされていた。
ケ また,上記「レストランガトーしらはま」は,平成18年4月19日当
時,そのホームページにおいて,チーズケーキの写真を掲載すると共に,
本件商標と類似する標章(本件商標と上記類似標章とは,周囲を囲む四角
形の枠の有無,色彩及び上部の「SHIRAHAMA」の文字列の有無の
点で異なる。)を使用し,また,上に「レストラン・ガトー」の文字列,
下に「SHIRAHAMA」の文字列を配した横2行の標章を使用してい
た。
コ 平成18年7月当時の「レストランガトーしらはま」の食品衛生法上の
届出者(営業者)は,Cの弟であるDであった。
サ Cは,平成18年初めころから,宮崎県日南市内において「Chez
Shirahama」,「シェ・しらはま」の標章等を用いてチーズケー
キを製造,販売している。
上記のチーズケーキを紹介するデパートのチラシ(丙31の1)には,
「しらはまチーズケーキ」との表示がされ,商品パンフレット(丙31の
2)にも,「しらはまチーズケーキ」との表示がされていた。
(3) 上記認定事実によると,「レストランガトーしらはま」は,Cが平成元
年ころに開店した後,チーズケーキをデザートとして提供し又は販売してお
り,少なくとも,商標登録がされた平成13年2月ころ以降,上記チーズケ
ーキの販売又は広告等に本件商標又はこれに類似する標章を継続的に使用し
ていたこと,上記「レストランガトーしらはま」は,本件商標権がBに譲渡
された平成14年12月27日以降も,CないしCの弟であるDにより運営
され,同店において提供又は販売されるチーズケーキに本件商標又はこれに
類似する標章を継続的に使用していたこと,Bは,本件商標権を旧会社から
譲り受けた後,Bが代表者を務める原告の工場においてCを稼働させており,
また,本件商標権の侵害行為について警告等をするために被告千趣会の本社
を訪ねた際にも,Cを同行させるなど,本件商標権の譲渡を受けた当時,上
記「レストランガトーしらはま」の存在及びこれによる本件商標又はこれに
類似する標章の使用を認識していたこと,が認められる(Bの陳述書(甲4
7)においても,Cの弟であるDが経営する「レストランガトーしらはま」
において販売しているチーズケーキの原料は原告が供給しており,製造方法
もCのものが使用されている,上記店舗では,本件商標を使用している,と
の記載があるにとどまり,Bが,上記店舗の存在や本件商標の使用を知らな
かったなどとは一切記載されていない。)。
そうすると,Bは,本件商標権を譲り受けた後も,C又はDに対し,「レ
ストランガトーしらはま」による本件商標又はこれに類似する標章の使用を
許諾していたものと推認することができる。
この点につき,原告は,「レストランガトーしらはま」は原告の手足とな
ってチーズケーキの製造,販売に係る営業を行っているものである旨主張す
るものの,「レストランガトーしらはま」が原告の意図に基づき,その計算
において運営されていることを認めるに足りる証拠はなく,これを設置,運
営する主体が原告であると認めることはできない。
(4) 以上のとおりであるから,Bの原告に対する本件商標の通常使用権の許
諾が,独占的なものであったと認めることはできない。
よって,本件商標の独占的通常使用権を前提とする主位的請求は,その余
の点について判断するまでもなく,理由がない。
(5) そこで,以下においては,まず,譲受債権に基づく予備的請求について,
本件商標権を有するBの被告らに対する商標権侵害による損害賠償請求権の
有無を検討し,さらに,民法719条及び709条に基づく損害賠償請求権
の有無(争点(5))等について検討する。
2 争点(2)ア(被告標章2及び9ないし12と本件商標とが類似するか否か)
について
(1) 本件商標と被告標章1とが類似することについては,当事者間に争いが
ない。
そこで,被告標章2ないし13について,本件商標と類似するか否かにつ
いて順に検討する。
(2) 本件商標について
ア 外観
本件商標は,文字と図形とから成る結合商標であり,次のとおりの外観
を有する。
(ア) 黒色の四角形の囲み(縦長の長方形)があり,その内側の上段及び
下段にアルファベットで「SHIRAHAMA」の文字列が,上段は上
下逆さまに右から左に向けて,下段は上下正しい方向で左から右に向け
て,それぞれ横1行で表示されている。
(イ) 上記囲みの内側中央部には黒色の円が左右の黒色の枠に接触するよ
うに配されており,その中心部は白抜きの円となっている。上記黒色の
円の内側で上記白抜きの円の外側である黒色のリング状の部分には,白
抜きの飾り文字で,上半分の部分には左から右に向けて「Restau
rant」の文字列が,下半分の部分には左から右に向けて「Gâte
au」の文字列が,それぞれ表示されている。
(ウ) 上記白抜きの円の内側中央部には,黒色のアルファベット「H」と
「S」とが重ね合わされて表示されている。
(エ) 上記のとおり,本件商標の下半分においては,「Gâteau」の
文字列と下段の「SHIRAHAMA」の文字列とが2段にわたって表
示され,1組の表示となっていると見ることができる。
イ 称呼
(ア) 本件商標の上記各構成部分は,それを分離して観察することが取引
上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認めら
れないから,取引の実際において構成部分の一部が分離されて称呼,観
念されることがあり得るというべきである。
本件商標のうち,「Restaurant」は「レストラン」すなわ
ち,「料理店」や「飲食店」を意味する語として一般に認知された英単
語,又は仏単語であり,特段の識別力を有しない部分であるといえる。
また,本件商標のうち,白抜きの円の内側中央部のアルファベットが
重ね合わされた組み合わせ文字の部分も,本件商標の外観に重点を置い
て観察すれば格別,そうでない場合には,識別力に乏しい部分であると
いえる。
これに対し,前記のとおり一組の表示であると見ることができる「G
âteau」と「SHIRAHAMA」の部分は,取引者,需要者に対
し商品の出所の識別標識として強い印象を与える部分であるといえるか
ら,本件商標の上記の部分から,「ガトーシラハマ」の称呼を生じる。
(イ) さらに,「Gâteau」は「ケーキ」や「菓子」を意味する仏単
語であり,ケーキや菓子の名称や店舗等にフランス語が用いられること
も少なくない状況においては,本件商標の指定商品(菓子及びパン)と
の関係では,識別力に乏しい部分であると考えることができるから,前
記(ア)の一組の表示のうち,「Gâteau」の部分を除いた,「SH
IRAHAMA」の部分も,独立して,商品の出所の識別標識として強
い印象を与える部分であるといえる。
そうすると,本件商標からは,「シラハマ」の称呼も生じる(なお,
本件商標の登録商標情報(甲1)においても,「称呼(参考情報)」と
して,「シラハマ」が挙げられている。)。
(ウ) 被告らは,本件商標のうち「Restaurant」や「Gâte
au」の部分は,本件商標の指定商品である「菓子及びパン」との関係
では,識別力のない普通名称であり,この部分のみでは不登録事由(商
標法3条1項1号)に当たり得るし,本件商標のうち「SHIRAHA
MA」の部分も,ありふれた氏又は地名(名称)であり,識別力を有し
ないから(同項4号),上記部分のみを本件商標の要部と見ることはで
きず,本件商標から,「ガトーシラハマ」や「シラハマ」の称呼は生じ
ない旨主張する。
確かに,前述のとおり,「Restaurant」(レストラン)や
「Gâteau」(ガトー)の部分は,本件商標の指定商品との関係で
は識別力に乏しい部分であると言い得る。しかしながら,本件商標の指
定商品(菓子及びパン)の領域においては,「SHIRAHAMA」
(シラハマ)が普通名称化しているとは言い難いから,「Gâtea
u」(ガトー)の部分と「SHIRAHAMA」(シラハマ)の部分と
を一体として識別力のある要部であると見ることができるというべきで
ある。
さらに,「SHIRAHAMA」(シラハマ)の部分が,ありふれた
氏又は名称であると言い得るとしても,後記認定のとおり,Cが平成元
年ころから,「レストランガトーしらはま」等でチーズケーキを販売等
するようになり,その後,上記チーズケーキは,「ガトーしらはまのチ
ーズケーキ」などとして次第に評判となって,ラジオ番組やテレビ番組
等でも取り上げられ,通信販売やデパート等へ出店しての販売も行われ
るようになり,さらに,旧会社は,平成12年10月ころから,被告千
趣会との間でチーズケーキの継続的な売買取引を開始し,平成15年当
時には,「3万人を超える会員をもつ被告千趣会の『チーズケーキの
会』で,2年連続人気1位となった」旨紹介されるに至ったこと等に照
らすと,Cが,チーズケーキを販売するについて「SHIRAHAM
A」,「シラハマ」,あるいは「しらはま」などと使用した結果,需要
者において,C(あるいは旧会社)の業務に係る商品であることを認識
することができる状況に至ったものといえる。
したがって,被告ら主張の上記の点は,本件商標から「ガトーシラハ
マ」又は「シラハマ」との称呼が生じると解することの妨げとはならな
いというべきである。
ウ 観念
イで述べたところによれば,本件商標の指定商品(菓子及びパン)との
関係では,本件商標からは,「シラハマ」(菓子職人,あるいは,会社又
は店舗)の製造するケーキや菓子,あるいは,「ガトーシラハマ」(会社,
あるいは店舗)の製造するケーキや菓子との観念を生じるというべきであ
る。
(3) 被告標章2及び9ないし12について
ア 外観
被告標章2及び9ないし12は,いずれも,上段に「ガトーしらはま」
の文字列を,下段に「しらはまチーズケーキ」の文字列を,上段は大きく,
下段はやや小さく表示している。
イ 称呼
被告標章2及び9ないし12からは,それぞれ,全体として,「ガトー
シラハマシラハマチーズケーキ」の称呼を生じ得る。
ところで,上記外観からすると,上段の文字列は下段の文字列に比して
大きく表示されていることから,上段と下段とは取引上分離して観察され
得るものであり,上段の「ガトーしらはま」の部分から「ガトーシラハ
マ」の称呼を生じる。
さらに,「ガトー」が「ケーキ」や「菓子」を意味する普通名称であり,
「チーズケーキ」がケーキの種類を示す普通名称であって,これらの部分
は識別力が乏しいことからすれば,これらの部分を除いた「しらはま」の
部分から「シラハマ」との称呼を生じる。
ウ 観念
被告標章2及び9ないし12は,いずれもチーズケーキの販売に関して
使用された標章であり,チーズケーキとの関係では,「シラハマ」(菓子
職人,あるいは,会社又は店舗)の製造するチーズケーキ,あるいは,
「ガトーシラハマ」(会社,あるいは店舗)の製造するチーズケーキとの
観念を生じる。
エ なお,被告日動計画らは,被告標章2及び9ないし12のうち上段部分
は,「株式会社ガトーしらはま」という旧会社の商号を記述的に表現した
部分であり,この部分は標章として機能しない旨主張するものの,上記の
被告標章は,被告日動計画らが製造,販売する商品について使用された標
章であり,被告日動計画らが製造,販売する商品について旧会社の商号を
記述的に表現したとは考え難い。また,被告日動計画らが主張するように,
旧会社の商号を記載したものであるとすれば,まさに,出所識別のために
ほかならないから,上段部分も標章として機能するものといえる。いずれ
にせよ,被告日動計画らの上記主張は採用することができない。
(4) 対比
以上によれば,本件商標と被告標章2及び9ないし12とは,称呼及び観
念が一致するから,類似する。
なお,被告千趣会は,仮に,本件商標と被告標章2及び9ないし12が類
似するとしても,本件商標権の効力は,それぞれ普通名称にすぎない「しら
はま」,「チーズケーキ」,「ガトー」を組み合わせたにすぎない被告標章
2ないし13には及ばない旨主張するものの,前述のとおり,本件商標の指
定商品(菓子及びパン)の領域において,「シラハマ」が普通名称化してい
るとは言い難いから,被告千趣会の上記主張は採用することができない。
3 争点(2)イ(被告標章3と本件商標とが類似するか否か)について
(1) 本件商標の外観,称呼及び観念については,前記2(2)で認定したとおり
である。
(2) 被告標章3について
ア 外観
被告標章3は,「ガトーしらはま」の文字列を縦1行で表示している。
イ 称呼
被告標章3からは,全体として,「ガトーシラハマ」の称呼を生じる。
さらに,「ガトー」が「ケーキ」や「菓子」を意味する普通名称であり,
この部分は識別力が乏しいことからすれば,この部分を除いた「しらは
ま」の部分から「シラハマ」との称呼を生じる。
ウ 観念
被告標章3は,チーズケーキの販売に関して使用された標章であり,チ
ーズケーキとの関係では,「シラハマ」(菓子職人,あるいは,会社又は
店舗)の製造するチーズケーキ,あるいは,「ガトーシラハマ」(会社,
あるいは,店舗)の製造するチーズケーキとの観念を生じる。
エ 被告日動計画らは,被告標章3はチーズケーキに付された標章ではなく,
旧会社の略称を記述的に表現したものにすぎない旨主張するものの,同主
張を採用することができないことは,前記2(3)エで述べたとおりである。
(3) 対比
以上によれば,本件商標と被告標章3とは,称呼及び観念が一致するから,
類似する。
4 争点(2)ウ(被告標章4と本件商標とが類似するか否か)について
(1) 本件商標の外観,称呼及び観念については,前記2(2)で認定したとおり
である。
(2) 被告標章4について
ア 外観
被告標章4は,「しらはまチーズケーキ」の文字列を横1行で表示して
いる。
イ 称呼
被告標章4からは,全体として,「シラハマチーズケーキ」の称呼を生
じる。
さらに,「チーズケーキ」がケーキの種類を示す普通名称であって,こ
の部分は識別力が乏しいことからすれば,この部分を除いた「しらはま」
の部分から「シラハマ」との称呼を生じる。
ウ 観念
被告標章4は,チーズケーキの販売に関して使用された標章であり,チ
ーズケーキとの関係では,「シラハマ」(菓子職人,あるいは,会社又は
店舗)の製造するチーズケーキとの観念を生じる。
(3) 対比
以上によれば,本件商標と被告標章4とは,称呼及び観念が一致するから,
類似する。
5 争点(2)エ(被告標章5及び7と本件商標とが類似するか否か)について
(1) 本件商標の外観,称呼及び観念については,前記2(2)で認定したとおり
である。
(2) 被告標章5について
ア 外観
被告標章5は,「しらはまのチーズケーキ」の文字列を横1行で表示し
ている。
イ 称呼
被告標章5からは,全体として,「シラハマノチーズケーキ」の称呼を
生じる。
さらに,「チーズケーキ」がケーキの種類を示す普通名称であって,こ
の部分は識別力が乏しいことからすれば,この部分及び「しらはま」と
「チーズケーキ」の関係を示す助詞である「ノ」を除いた「しらはま」の
部分から「シラハマ」との称呼を生じる。
ウ 観念
被告標章5は,チーズケーキの販売に関して使用された標章であり,チ
ーズケーキとの関係では,「シラハマ」(菓子職人,あるいは,会社又は
店舗)の製造するチーズケーキとの観念を生じる。
(3) 被告標章7について
ア 外観
被告標章7は,「しらはまのチーズケーキ」の文字列を上下2段に配し,
上段は大きく,下段は小さく横2行で表示している。
イ 称呼
「しらはまのチーズケーキ」の文字列は,上段と下段ではその文字の大
きさが異なるものの,それ以外は同一の1組のものであるから,全体とし
て,「シラハマノチーズケーキ」の称呼を生じる。
さらに,「チーズケーキ」がケーキの種類を示す普通名称であって,こ
の部分は識別力が乏しいことからすれば,この部分及び「しらはま」と
「チーズケーキ」の関係を示す助詞である「ノ」を除いた「しらはま」の
部分から「シラハマ」との称呼を生じる。
ウ 観念
被告標章7は,チーズケーキの販売に関して使用された標章であり,チ
ーズケーキとの関係では,「シラハマ」(菓子職人,あるいは,会社又は
店舗)の製造するチーズケーキとの観念を生じる。
(4) 被告日動計画らは,被告標章5及び7はチーズケーキに付された標章で
はなく,旧会社の略称を記述的に表現したものにすぎない旨主張するものの,
同主張を採用することができないことは,前記2(3)エで述べたとおりであ
る。
(5) 対比
以上によれば,本件商標と被告標章5及び7とは,称呼及び観念が一致す
るから,類似する。
6 争点(2)オ(被告標章13と本件商標とが類似するか否か)について
(1) 本件商標の外観,称呼及び観念については,前記2(2)で認定したとおり
である。
(2) 被告標章13について
ア 外観
被告標章13は,「しらはまのチーズケーキ」の文字列を横1行で表示
している。
イ 称呼
被告標章13からは,全体として,「シラハマノチーズケーキ」の称呼
を生じる。
さらに,「チーズケーキ」がケーキの種類を示す普通名称であって,こ
の部分は識別力が乏しいことからすれば,この部分及び「しらはま」と
「チーズケーキ」の関係を示す助詞である「ノ」を除いた「しらはま」の
部分から「シラハマ」との称呼を生じる。
ウ 観念
被告標章13は,チーズケーキの販売に関して使用された標章であり,
チーズケーキとの関係では,「シラハマ」(菓子職人,あるいは,会社又
は店舗)の製造するチーズケーキとの観念を生じる。
(3) 被告日動計画らは,被告標章13では,「しらはまのチーズケーキ」の
うち「キ」の字体が特定されていないから,主張自体失当である旨主張する。
しかしながら,被告標章13は,商標権者たるBの被告らに対する本件商
標権侵害による損害賠償請求権の有無の審理において,本件商標と被告標章
との類否を判断するに十分な特定がされているものというべきである(すな
わち,欠けている「キ」の文字は,「チーズケーキ」の一部を成す部分であ
ると推認することができる上,「チーズケーキ」の部分は,前述のとおり,
識別力が乏しいから,上記「キ」の字体が厳密に特定されていなくても,本
件商標と被告標章13の類否を判断するのに不足はない。)から,被告日動
計画らの上記主張は採用できない。
(4) 対比
以上によれば,本件商標と被告標章13とは,称呼及び観念が一致するか
ら,類似する。
7 争点(2)カ(被告標章6と本件商標とが類似するか否か)について
(1) 本件商標の外観,称呼及び観念については,前記2(2)で認定したとおり
である。
(2) 被告標章6について
ア 外観
被告標章6は,「しらはま」の文字列を横1行で表示している。
イ 称呼
被告標章6からは,「シラハマ」の称呼を生じる。
ウ 観念
被告標章6は,チーズケーキの販売に関して使用された標章であり,チ
ーズケーキとの関係では,「シラハマ」(菓子職人,あるいは,会社又は
店舗)の製造するチーズケーキとの観念を生じる。
エ 被告日動計画らは,被告標章6はチーズケーキに付された標章ではなく,
旧会社の略称を記述的に表現したものにすぎない旨主張するものの,同主
張を採用することができないことは,前記2(3)エで述べたとおりである。
(3) 対比
以上によれば,本件商標と被告標章6とは,称呼及び観念が一致するから,
類似する。
8 争点(2)キ(被告標章8と本件商標とが類似するか否か)について
(1) 本件商標の外観,称呼及び観念については,前記2(2)で認定したとおり
である。
(2) 被告標章8について
ア 外観
被告標章8は,「しらはま」の文字列を上段に,「しらはまチーズケー
キ」の文字列を下段に配し,上段の文字列を大きく,下段の文字列を小さ
く横2行で表示している。
イ 称呼
被告標章8からは,全体として,「シラハマシラハマチーズケーキ」の
称呼を生じる。
さらに,「チーズケーキ」がケーキの種類を示す普通名称であって,こ
の部分は識別力が乏しいことからすれば,この部分を除き「シラハマ」と
の称呼を生じる。
ウ 観念
被告標章8は,チーズケーキの販売に関して使用された標章であり,チ
ーズケーキとの関係では,「シラハマ」(菓子職人,あるいは,会社又は
店舗)の製造するチーズケーキとの観念を生じる。
エ なお,被告日動計画らは,被告標章8のうち上段部分は,「株式会社ガ
トーしらはま」という旧会社の商号を記述的に表現した部分であり,この
部分は標章として機能しない旨主張するものの,同主張を採用することが
できないことは,前記2(3)エで述べたとおりである。
(3) 対比
以上によれば,本件商標と被告標章8とは,称呼及び観念が一致するから,
類似する。
9 争点(3)ア(被告標章1の使用の有無及び時期)について
(1) 原告は,被告日動計画らは,原告が本件商標権の移転登録を経た平成1
5年1月16日以降も同年12月まで,本件商標の指定商品である「菓子」
に含まれるチーズケーキを,その包装箱に被告標章1を付し,又は付したも
のを譲渡(販売)していた旨主張する。
これに対し,被告らは,被告日動計画が平成15年3月8日以降,被告標
章1が印刷されている黒色の包装箱の使用を中止し,被告標章1が印刷され
ていない包装箱に切り替えて,チーズケーキを被告千趣会又はその他の販売
先に対して販売した旨主張する。
また,原告は,被告千趣会は,上記譲渡(販売)のほか,自らのカタログ
広告中に被告標章1を表示し,これを頒布して広告宣伝活動を行った旨主張
する。
チーズケーキが,本件商標の指定商品である「菓子」に含まれることは当
事者間に争いがない。
(2) 被告標章1を付した包装箱の使用について
証拠(甲7,9,11,14,15,27,甲28の1ないし5,甲29,
30,46,47,乙7,8,17ないし23,47,丙1,21,24な
いし26)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,この認定を
覆すに足りる証拠はない。
ア 被告日動計画は,平成14年9月24日,被告千趣会との間で,売買基
本契約(丙1)を締結した後,「ガトーしらはま」,「しらはまチーズケ
ーキ」などの名称を用い,被告標章1を付した黒色の包装箱を使用して,
チーズケーキの販売を始めた。
イ 平成15年1月1日発行で,同月上旬ころまでには配布された被告千趣
会の商品カタログ(同月25日を有効期限とするもの。甲7)中には,被
告日動計画の商品であるチーズケーキの写真と共に,「それぞれのお店の
箱でお届けします」との記載の下に小さく被告標章1を付した黒色の包装
箱が写っていた(なお,甲第7号証中における上記被告標章1の表示は,
小さいものであって,その文字列を判読することができないものであるか
ら,上記表示自体が出所識別力を発揮する態様での使用,すなわち商標的
使用に当たるということはできない。)。
また,被告日動計画の商品であるチーズケーキの写真と共に,被告標章
3,被告標章4が表示されていた。
さらに,上記カタログのほか,被告日動計画のチーズケーキの写真と共
に,平成15年1月1日発行で,同月上旬ころまでには配布されたもの
(同月25日を有効期限とするもの。甲14)では被告標章9が,同年2
月1日発行で,同月上旬ころまでには配布されたもの(同月25日を有効
期限とするもの。乙7)では被告標章10が,平成15年3月1日に発行
され,同月上旬ころまでには配布されたと推認することができるもの(同
月25日を有効期限とするもの。乙8)では被告標章11が,それぞれ表
示されていた。
ウ Bは,平成15年3月5日,Cを同行して,被告千趣会の本社を訪ね,
同被告の食品頒布開発部係長であったF及び同部次長であったGと面談し,
同人らに対し,Bが本件商標権の譲渡を受けたことを告げると共に,被告
千趣会の「しらはまチーズケーキ」の取引先を被告日動計画から原告に変
更するように求め,被告日動計画による本件商標の使用は商標権侵害とな
るものであるから,上記使用を止めるように警告するなどした。
被告千趣会は,Cとの信頼関係の構築は困難であるとの判断から,Bか
らの上記取引の申出を断った。
エ 被告千趣会は,Bとの上記面談の後である同月7日,被告日動計画の現
代表者であるEと面談し,Bが本件商標権の譲渡を受けたことや上記警告
を受けたことなどについて協議し,被告標章1の使用を中止することを決
めた。
オ 被告日動計画は,被告千趣会との上記協議の後,同月8日以降,被告標
章1の付された黒色の包装箱の使用を中止した。
被告日動計画は,取引先である箱の製造業者から,同月13日に約20
00組,同月17日に4000組,同月24日に1500組,同月25日
に200組の黄色の包装箱(無地のもの。丙24)の納入を受け,同月に
出荷するチーズケーキを,従来の黒色の包装箱から上記黄色の包装箱(無
地のもの)に入れ替えるなどして対応した。
なお,同月7日から同月13日までの間に数個の出荷があったものの,
被告日動計画は,それらについては,上記箱製造業者から色見本のサンプ
ルとして取り寄せていた黄色の包装箱で対応した。
また,被告日動計画は,同月6日に同じ箱製造業者から既に納入されて
いた被告標章1を付した黒色の包装箱6000組については,これを使用
せず,倉庫に保管することにした。
カ 被告日動計画は,平成15年6月までは,同社のチーズケーキを「しら
はまのチーズケーキ」,「しらはまチーズケーキ」などとして販売してい
たものの,同年7月以降,「デボンポート」の名称を用いて販売するよう
になった。
被告日動計画は,平成15年7月ころ,もともと使用していた営業所名
である「デボンポート」(丙26の添付資料1)について,マーク(以下
「デボンポートマーク」という。)を作成し,同年8月4日,シールの作
成業者から,デボンポートマークの入ったシールの納入を受けた。
そして,被告日動計画は,上記シールの納入を受けた後から,倉庫に保
管していた黒色の包装箱の被告標章1の上に,上記デボンポートマークの
入ったシールを貼付し,黄色の包装箱(無地のもの)にも上記シールを貼
付し,これらの包装箱を用いてチーズケーキを出荷するようになった(甲
28の1ないし5。ただし,同包装箱は,平成16年6月1日を賞味期限
とする(甲28の5,甲30)チーズケーキの販売の際に使用されたもの
である。)。
また,被告日動計画は,平成15年12月ころからは,箱製造業者に対
し,デボンポートマークを印刷した黄色の包装箱の製作を依頼し,同包装
箱(丙25)の納入を受けて,これを用いてチーズケーキを出荷するよう
になった。
キ 平成15年9月26日当時,ベルーナの通信販売用のホームページ(甲
9)には,被告日動計画の商品が「デボンポート『しらはまのチーズケー
キ(16㎝)』」,「しらはまのチーズケーキ(16㎝)」と紹介され,
被告標章1を付した黒色の包装箱や,同包装箱に入れられたチーズケーキ
の写真が掲載されていたため,被告日動計画は,ベルーナに対し,上記ホ
ームページの訂正を申し入れた(被告標章1の付された黒色の包装箱が掲
載された商品カタログやホームページは,平成15年3月8日以降では,
上記ベルーナのもの以外には見当たらない。なお,甲第9号証中の上記被
告標章1の表示は,小さいものであって,その文字列を判読することがで
きないものであるから,上記表示自体が出所識別力を発揮する態様での使
用,すなわち商標的使用に当たるということはできない。)。
ク また,平成15年10月9日当時,被告日動計画のホームページのうち,
特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)に基づく表示
のページ(甲11)の上部には,チーズケーキの写真の掲載と共に,「大
切な方へのご贈答品に」の下に「しらはまのチーズケーキ」という文字列
(被告標章13)が表示されていた(ただし,最後の一文字である「キ」
は,プリントアウトした用紙のサイズが小さく左端で切れてしまったため,
甲第11号証上では表示されていない。)。
しかしながら,平成15年9月1日に発行され,平成16年1月26日
を有効期限とする被告千趣会の商品カタログ(乙19),平成15年10
月27日を有効期限とする被告千趣会の商品カタログ(甲27,乙18),
平成15年10月27日を有効期限とする被告千趣会の商品カタログ(乙
20),平成15年11月27日を有効期限とする被告千趣会の商品カタ
ログ(乙21),平成15年11月1日に発行され,同月25日を有効期
限とする被告千趣会の商品カタログ(乙22),平成16年1月26日を
有効期限とする被告千趣会の商品カタログ(甲29),平成16年3月2
5日を有効期限とする被告千趣会の商品カタログ(甲15,乙23)では,
被告日動計画のチーズケーキに関し,各被告標章は表示されていない(た
だし,甲第27号証,乙第18号証,乙第20号証,乙第21号証には,
「店名が『デボンポート』に代わりました。」との記載があり,甲第15
号証,乙第23号証には,「店名が『ガトーしらはま』から『デボンポー
ト』に変わりました。」との記載がある。)。
ケ 被告日動計画は,被告千趣会との間で,平成14年9月24日に売買基
本契約書(丙1)を締結した上で,被告千趣会に対し,継続的にチーズケ
ーキを販売し,被告千趣会は,被告日動計画のチーズケーキを顧客に対し
てカタログ販売していた。
被告千趣会は顧客から注文を受けると,被告日動計画に対して,数量と
商品の送付先を通知し,チーズケーキを発注し,被告日動計画において,
被告千趣会の顧客に対し,商品を直送していた。
(3) 上記認定事実によれば,被告日動計画は,当初,被告標章1を付した黒
色の包装箱にチーズケーキを入れて,販売していたものの,平成15年3月
7日,Bから警告等を受けた被告千趣会と協議し,被告標章1の使用中止を
決定し,同月8日以降,上記包装箱を使用していないことが認められる。
(4) なお,上記のとおり,平成15年9月26日当時,ベルーナの通信販売
用のホームページ(甲9)には,被告標章1を付した黒色の包装箱や,同包
装箱に入れられたチーズケーキの写真が掲載されていたことが認められるも
のの,被告日動計画は,当時,既に「デボンポート」の名称でチーズケーキ
を販売しており,被告千趣会の商品カタログにおいても,「店名が『デボン
ポート』に代わりました。」などの記載をし,各被告標章は使用していなか
ったこと(上記のとおり,平成15年10月9日当時,被告日動計画のホー
ムページのうち,特定商取引法に基づく表示のページ(甲11)の上部には,
被告標章13が表示されていたことが認められる。しかしながら,同表示が
あるのは特定商取引法に基づく表示のページのみであり,上記ホームページ
が存在するだけでは,被告日動計画が,チーズケーキの販売について,被告
標章1を付した黒色の包装箱を使用していたと認めるに足りない。そもそも,
丙第32号証及び弁論の全趣旨によれば,上記の特定商取引法に基づく表示
のページは,被告日動計画において,旧会社からの依頼により,「ガトーし
らはま」のホームページを作成した際に表紙ページ等と共に作成したもので
あり,同年6月にデボンポートのホームページを新たに作成した際に,上記
「ガトーしらはま」のホームページの表紙ページ及び注文ページについては
削除したものの,特定商取引法に基づく表示のページについては,これを削
除し忘れたために,このページだけが残ってしまったものと認められる。),
被告日動計画は,ベルーナに対し,上記ホームページの訂正を申し入れたこ
となどに照らすと,上記事実から,被告日動計画が,平成15年9月26日
当時,チーズケーキを販売するにつき,被告標章1を付した黒色の包装箱を
使用していたとの事実を認めるには足りないものと言わざるを得ない(なお,
平成15年10月27日を有効期限とする被告千趣会のカタログ(乙18)
に掲載された被告日動計画のチーズケーキの包装箱は,黄色のものに,「デ
ボンポートマーク」を付したものである(各月のチーズケーキを一覧的に表
示したページの「12月」の欄参照)。)。
この点につき,原告は,ベルーナのホームページ(甲9)には,被告標章
1を付した黒色の包装箱が掲載されており,仮に,同ホームページを見て,
チーズケーキを購入した顧客に対し,「デボンポート」,あるいは,「DE
VONPORT」の文字列ないし標章が付された包装箱で商品を発送した場
合には,顧客からクレームがついたはずであるのに,このような事実が認め
られないことは,被告日動計画が,当時においても,被告標章1を付した包
装箱を使用していたことの証左である旨主張する。しかしながら,上記ホー
ムページにおいては,「商品名」が「デボンポート『しらはまのチーズケー
キ(16㎝)』」と記載されていることからすれば,「デボンポート」,あ
るいは,「DEVONPORT」の文字列ないし標章が付された包装箱で商
品が届いたとしても,注文した商品とは異なる商品が届いたわけではないか
ら,包装箱の相違のみを特に問題とすることはないものと考え得るし,少な
くとも,上記の点についてクレームをつけることが当然であるなどとは認め
難い。さらに,被告千趣会による販売分についても,商品カタログ(甲7)
において,「お届けする商品のデザインが写真と異なる場合があります。」
と注記してあり,届いた商品の包装箱が同カタログの包装箱と異なっていた
としても,必ずしも,これを問題にするとは思われない(なお,被告千趣会
においては,被告日動計画が「デボンポート」の名称を使用するようになっ
た以降は,発送する商品に,「店名がガトーしらはまから『デボンポート』
に変わりました。」と注記したしおり(乙14)を同封していた。)。原告
の上記主張は採用することができない。
(5) また,原告は,黒色の包装箱の被告標章1の上に別の標章(デボンポー
トマーク)のシールを貼付し,被告標章1を隠していたとしても,商品(チ
ーズケーキ)に被告標章1を付して譲渡していることになる旨主張する。
しかしながら,被告標章1の上に別の標章のシールが貼付された状態(甲
28の1・2)では,需要者が被告標章1を視認することはできず,被告標
章1は出所識別機能を有しないから,商標法2条3項2号にいう「使用」に
は当たらない。原告の上記主張は失当である。
(6) 以上によれば,被告日動計画及び被告千趣会が,本件商標の指定商品で
ある「菓子」に含まれるチーズケーキを,その包装箱に被告標章1を付して
譲渡していたのは(商標法2条3項2号),平成15年3月7日までであり,
Bが本件商標権につき移転登録を経由した同年1月16日から同年3月7日
までの上記行為は,本件商標権の侵害行為に当たる。
他方,被告千趣会が商品カタログ(甲7)中に被告標章1を表示した行為
は,前述のとおり,商標的使用とはいえないから,本件商標権の侵害行為に
は当たらない。
10 争点(3)イ(被告標章2の使用の有無及び時期)について
原告は,被告千趣会が商品カタログ(甲13)において,被告標章2を付し
て展示し,頒布したことが,Bに対する本件商標権の侵害行為に当たる旨主張
する。
しかしながら,上記商品カタログは,Bが本件商標権について移転登録を経
由する前である平成14年5月1日に発行され,同月上旬ころまでには頒布さ
れたものであると認められるから(甲13,弁論の全趣旨),上記使用行為が
Bに対する本件商標権の侵害行為になることはない。
原告の上記主張は採用することができない。
11 争点(3)ウ(被告標章3の使用の有無及び時期)について
原告は,被告千趣会が商品カタログ(甲7)において,被告標章3を付して
展示し,頒布したことが,Bに対する本件商標権の侵害行為に当たる旨主張す
る。
しかしながら,上記商品カタログは,Bが本件商標権について移転登録を経
由する前である平成15年1月1日に発行され,同月上旬ころまでには頒布さ
れたものであると認められる(甲7,弁論の全趣旨。あるいは,少なくとも,
上記商品カタログが,Bが本件商標権について移転登録を経由した平成15年
1月16日以降に頒布されたとの事実を認めるに足りる証拠はない。)から,
上記使用行為がBに対する本件商標権の侵害行為になることはない。
原告の上記主張は採用することができない。
12 争点(3)エ(被告標章4の使用の有無及び時期)について
原告は,被告千趣会が商品カタログ(甲7)において,被告標章4を付して
展示し,頒布したことが,Bに対する本件商標権の侵害行為に当たる旨主張す
る。
しかしながら,上記使用行為がBに対する本件商標権の侵害行為とはならな
いことは,前記11で述べたところと同じである。
原告の上記主張は採用することができない。
13 争点(3)オ(被告標章5の使用の有無及び時期)について
(1) 原告は,被告日動計画らが,そのホームページ(甲6,9,24,2
5)において,本件商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキ
の広告に被告標章5を付して表示させたことが,Bに対する本件商標権の侵
害行為に当たる旨主張する。
(2) 証拠(甲6,9,24,25)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
が認められる。
ア 被告日動計画は,平成15年6月16日当時,自らのホームページのう
ち,被告日動計画のチーズケーキが,J−WAVE『TOKIO LIF
E』お正月にあると嬉しいデザート№1に選ばれたことや,新潟FM−P
ORTの『タイム・トラベル』という番組で取り上げられたこと,千趣会
チーズケーキの会で2年連続№1に選ばれたことなどを紹介するページ
(甲6)のタイトルに,「紹介されたメディア しらはまのチーズケー
キ」という文字列を使用しており,同日,上記ページをプリントアウトし
た紙面の左上部には,同文字列が表示された。
上記文字列の後半部分は被告標章5と一致する。
イ 被告日動計画は,平成15年6月16日当時,自らのホームページのう
ち,チーズケーキの写真を掲載すると共に,その特徴を紹介するページ
(甲24)のタイトルに「しらはまのチーズケーキ」という文字列を使用
しており,同日,上記ページをプリントアウトした紙面の左上部には,同
文字列が表示された。
上記文字列は被告標章5と一致する。
ウ 被告日動計画は,平成15年6月16日当時,自らのホームページのう
ち,取引先のホームページへのリンクを紹介するページ(甲25)のタイ
トルに,「リンク集 しらはまのチーズケーキ」という文字列を使用して
おり,同日,上記ページをプリントアウトした紙面の左上部には,同文字
列が表示された。
上記文字列の後半部分は被告標章5と一致する。
エ ベルーナは,平成15年9月26日当時,自らのホームページのうち,
通信販売用のページ(甲9)において,被告日動計画のチーズケーキにつ
いて,本文1行目に「しらはまのチーズケーキ(16㎝)」という文字列
を使用していた。
上記文字列のうち,「(16㎝)」を除いた部分は被告標章5と一致す
る(なお,上記文字列のうち「(16㎝)」の部分はチーズケーキのサイ
ズを記載したにすぎないから,「しらはまのチーズケーキ」の部分と
「(16㎝)」の部分とを分離して対比すべきである。)。
上記ページには,上記文字列のほか,「デボンポート『しらはまのチー
ズケーキ(16㎝)』」の文字列が2か所,「しらはまのチーズケーキ」
との文字列が1か所,それぞれ表示されていた。
(3) 上記(2)アないしウで認定した事実によれば,被告標章5は,これらのホ
ームページに,チーズケーキの販売促進のために表示され,被告日動計画の
チーズケーキとそれ以外のチーズケーキとを区別する機能(出所識別機能)
を有しているものといえる。被告日動計画が主張するように,単に商品の属
性を記述的に表現したものにすぎないとはいえない。
他方,上記(2)エで認定した行為は,ベルーナの行為であって,被告日動
計画の行為ではない(原告は,本件において,ベルーナの行為について被告
日動計画が責任を負うべき法律上の原因を主張立証していない。なお,被告
日動計画が,ベルーナに対し,上記ホームページの訂正を申し入れたことは,
前記認定のとおりであり,ベルーナが主体として行ったホームページの表示
について,紹介されている商品が被告日動計画のものであるからといって,
被告日動計画が法的責任を負うと解することはできない。)。
(4) そうすると,被告日動計画は,遅くとも平成15年6月16日までは,
本件商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキについて,その
広告を内容とする情報に被告標章5を付して電磁的方法により提供しており
(商標法2条3項8号),Bが本件商標権につき移転登録を経由した同年1
月16日から同年6月16日までの上記行為は,本件商標権の侵害行為に当
たる(丙第32号証及び弁論の全趣旨によれば,上記ホームページは,Cの
依頼で平成12年9月に被告日動計画が作成した旧会社のホームページに,
平成15年1月,製造者が旧会社から「(株)日動計画洋菓子製造所」に変
更になったことをアップロードしたものであると認められるから,遅くとも
Bが本件商標権につき移転登録を経由した当時から上記使用行為が行われて
いたものと推認することができる。)。
14 争点(3)カ(被告標章6の使用の有無及び時期)について
(1) 原告は,被告日動計画らが,そのホームページ(甲16)において,本
件商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキの広告に被告標章
6を付して表示させたことが,Bに対する本件商標権の侵害行為に当たる旨
主張する。
(2) 甲第16号証及び弁論の全趣旨によれば,被告日動計画は,平成15年
6月16日当時,自らのホームページのうち,「チーズケーキはクール宅急
便にてお送りいたします。」,「冷やしたままでお召し上がりください。」,
「賞味期限は冷凍状態で30日,冷蔵で5日となっております。」など,チ
ーズケーキの取扱い等を紹介したページ(甲16)のタイトルに,「チーズ
ケーキ冷凍冷蔵 しらはま」という文字列を使用しており,同日,上記ペー
ジをプリントアウトした紙面の左上部には,同文字列が表示されたこと,上
記文字列のうち,「チーズケーキ冷凍冷蔵」を除いた部分は被告標章6と一
致することが認められる。
(3) 上記認定事実によれば,被告標章6は,チーズケーキの取扱いに関する
情報を周知することにより販売を促進することを目的とするページに表示さ
れ,被告日動計画のチーズケーキとそれ以外のチーズケーキとを区別する機
能(出所識別機能)を有しているものといえる。被告日動計画が主張するよ
うに,会社の略称としての意味しか有せず,チーズケーキの標章ではないと
はいえない。
そうすると,被告日動計画は,遅くとも平成15年6月16日までは,本
件商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキについて,その広
告を内容とする情報に被告標章6を付して電磁的方法により提供しており
(商標法2条3項8号),Bが本件商標権につき移転登録を経由した同年1
月16日から同年6月16日までの上記行為は,本件商標権の侵害行為に当
たる(遅くともBが本件商標権につき移転登録を経由した当時から上記使用
行為が行われていたものと推認することができることは,前記13(4)で述
べたとおりである。)。
15 争点(3)キ(被告標章7の使用の有無及び時期)について
(1) 原告は,被告日動計画らが,そのホームページ(甲24)において,本
件商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキの広告に被告標章
7を付して表示させたことが,Bに対する本件商標権の侵害行為に当たる旨
主張する。
(2) 甲第24号証及び弁論の全趣旨によれば,被告日動計画は,平成15年
6月16日当時,自らのホームページのうち,チーズケーキの写真を掲載す
ると共に,その特徴を紹介するページ(甲24)の本文1行目に被告標章7
を表示したことが認められる。
(3) 上記認定事実によれば,被告標章7は,チーズケーキの特徴をその写真
と共に紹介することにより販売を促進することを目的とするページに表示さ
れ,被告日動計画のチーズケーキとそれ以外のチーズケーキとを区別する機
能(出所識別機能)を有しているものといえる。
そうすると,被告日動計画は,遅くとも平成15年6月16日までは,本
件商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキについて,その広
告を内容とする情報に被告標章7を付して電磁的方法により提供しており
(商標法2条3項8号),Bが本件商標権につき移転登録を経由した同年1
月16日から同年6月16日までの上記行為は,本件商標権の侵害行為に当
たる(遅くともBが本件商標権につき移転登録を経由した当時から上記使用
行為が行われていたものと推認することができることは,前記13(4)で述
べたとおりである。)。
16 争点(3)ク(被告標章8の使用の有無及び時期)について
(1) 原告は,被告千趣会が商品カタログ(甲8)において,被告標章8を付
して展示し,頒布したことが,Bに対する本件商標権の侵害行為に当たり,
また,被告日動計画は,被告千趣会に,上記行為をさせた旨主張する。
(2) 甲第8号証及び弁論の全趣旨によれば,平成15年5月1日発行で,同
月上旬ころまでには配布された被告千趣会の商品カタログ(同月26日を有
効期限とするもの。甲8)において,「チーズケーキ」の「12月」の欄
(12月発送分の欄)に,被告日動計画のチーズケーキの写真を掲載すると
共に,被告標章8が表示されていたこと,上記商品カタログは,顧客に対し,
毎月1回1年間にわたって,被告千趣会の選抜したチーズケーキが届けられ
ることを内容とするカタログ販売(「チーズケーキの会」との名称が用いら
れている。)に関する広告であることが認められる。
(3) 上記認定事実によれば,被告標章8は,チーズケーキをその写真と共に
紹介することにより販売を促進することを目的とする広告に表示され,被告
日動計画のチーズケーキとそれ以外のチーズケーキとを区別する機能(出所
識別機能)を有しているものといえる。
そうすると,被告千趣会は,遅くとも平成15年5月上旬ころまでは,本
件商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキに関する広告に被
告標章8を付して展示し,頒布しており(商標法2条3項8号),同年5月
1日から同月上旬ころまでの上記行為は,本件商標権の侵害行為に当たる。
(4) また,証拠(乙47,丙1,21,26)及び弁論の全趣旨によれば,
被告日動計画は,被告千趣会との間で,平成14年9月24日に売買基本契
約書(丙1)を締結した上で,被告千趣会に対し,継続的にチーズケーキの
販売を行っていたこと,被告千趣会は,前記のとおり,被告日動計画のチー
ズケーキをカタログ販売していたこと,被告千趣会は顧客から注文を受ける
と,被告日動計画に対して,数量と商品の送付先を通知し,チーズケーキを
発注し,被告日動計画において,被告千趣会の顧客に対し,商品を直送する
という取引形態を用いていたこと,上記契約書中で,売買の対象となる「商
品の意匠および規格,品質,性能,形状,デザイン,素材,ブランド等は,
被告日動計画が被告千趣会に予め提出した見本および商品台紙等の仕様とす
る。」旨約定されていたことが認められ,これらの事実に照らせば,被告日
動計画は,被告千趣会による上記行為(商品カタログ(甲8)に被告標章8
を付して展示し,頒布する行為)を共同して行ったものと認めるのが相当で
ある。
17 争点(3)ケ(被告標章9ないし12の使用の有無及び時期)について
(1) 原告は,被告千趣会が商品カタログ(甲14,乙7ないし9)において,
被告標章9ないし12を付して展示し,頒布したことが,Bに対する本件商
標権の侵害行為に当たり,また,被告日動計画は,被告千趣会に,上記行為
をさせた旨主張する。
(2) 被告標章9について
甲第14号証及び弁論の全趣旨によれば,被告千趣会の商品カタログ(甲
14)において,「チーズケーキ」の「3月」の欄(3月発送分の欄)に,
被告日動計画のチーズケーキの写真を掲載すると共に,被告標章9が表示さ
れていたことが認められるものの,上記商品カタログは,Bが本件商標権に
ついて移転登録を経由する前である平成15年1月1日に発行され,同月上
旬ころまでには配布されたものであると認められる(甲14,弁論の全趣旨。
あるいは,少なくとも,上記商品カタログが,Bが本件商標権について移転
登録を経由した平成15年1月16日以降に配布されたとの事実を認めるに
足りる証拠はない。)から,上記使用行為がBに対する本件商標権の侵害行
為になることはない。
この点に関する原告の上記主張は採用することができない。
(3) 被告標章10について
乙第7号証及び弁論の全趣旨によれば,平成15年2月1日発行で,同月
上旬ころまでには配布された被告千趣会の商品カタログ(同月25日を有効
期限とするもの。乙7)において,「チーズケーキ」の「10月」の欄(1
0月発送分の欄)に,被告日動計画のチーズケーキの写真を掲載すると共に,
被告標章10が表示されていたこと,上記商品カタログは,顧客に対し,毎
月1回1年間にわたって,被告千趣会の選抜したチーズケーキが届けられる
ことを内容とするカタログ販売(「チーズケーキの会」との名称が用いられ
ている。)に関する広告であることが認められる。
上記認定事実によれば,被告標章10は,チーズケーキをその写真と共に
紹介することにより販売を促進することを目的とする広告に表示され,被告
日動計画のチーズケーキとそれ以外のチーズケーキとを区別する機能(出所
識別機能)を有しているものといえる。
そうすると,被告千趣会は,遅くとも平成15年2月上旬ころまでは,本
件商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキに関する広告に被
告標章10を付して展示し,頒布しており(商標法2条3項8号),同年2
月1日から同月上旬ころまでの上記行為は,本件商標権の侵害行為に当たる。
また,前記16(4)で述べたところと同様に,被告日動計画は,被告千趣
会による上記行為を共同して行ったものと認めるのが相当である。
(4) 被告標章11について
乙第8号証及び弁論の全趣旨によれば,平成15年3月1日発行で,同月
上旬ころまでには配布された被告千趣会の商品カタログ(同月25日を有効
期限とするもの。乙8)において,「チーズケーキ」の「2月」の欄(2月
発送分の欄)に,被告日動計画のチーズケーキの写真を掲載すると共に,被
告標章11が表示されていたこと,上記商品カタログは,顧客に対し,毎月
1回1年間にわたって,被告千趣会の選抜したチーズケーキが届けられるこ
とを内容とするカタログ販売(「チーズケーキの会」との名称が用いられて
いる。)に関する広告であることが認められる。
上記認定事実によれば,被告標章11は,チーズケーキをその写真と共に
紹介することにより販売を促進することを目的とする広告に表示され,被告
日動計画のチーズケーキとそれ以外のチーズケーキとを区別する機能(出所
識別機能)を有しているものといえる。
そうすると,被告千趣会は,遅くとも平成15年3月上旬ころまでは,本
件商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキに関する広告に被
告標章11を付して展示し,頒布しており(商標法2条3項8号),Bが本
件商標権につき移転登録を経由した同年3月1日から同月上旬ころまでの上
記行為は,本件商標権の侵害行為に当たる。
また,前記16(4)で述べたところと同様に,被告日動計画は,被告千趣
会による上記行為を共同して行ったものと認めるのが相当である。
(5) 被告標章12について
乙第9号証及び弁論の全趣旨によれば,平成15年4月1日発行で,同月
上旬ころまでには配布された被告千趣会の商品カタログ(同月25日を有効
期限とするもの。乙9)において,「チーズケーキ」の「8月」の欄(8月
発送分の欄)に,被告日動計画のチーズケーキの写真を掲載すると共に,被
告標章12が表示されていたこと,上記商品カタログは,顧客に対し,毎月
1回1年間にわたって,被告千趣会の選抜したチーズケーキが届けられるこ
とを内容とするカタログ販売(「チーズケーキの会」との名称が用いられて
いる。)に関する広告であることが認められる。
上記認定事実によれば,被告標章12は,チーズケーキをその写真と共に
紹介することにより販売を促進することを目的とする広告に表示され,被告
日動計画のチーズケーキとそれ以外のチーズケーキとを区別する機能(出所
識別機能)を有しているものといえる。
そうすると,被告千趣会は,遅くとも平成15年4月上旬ころまでは,本
件商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキに関する広告に被
告標章12を付して展示し,頒布しており(商標法2条3項8号),Bが本
件商標権につき移転登録を経由した同年4月1日から同月上旬ころまでの上
記行為は,本件商標権の侵害行為に当たる。
また,前記16(4)で述べたところと同様に,被告日動計画は,被告千趣
会による上記行為を共同して行ったものと認めるのが相当である。
18 争点(3)コ(被告標章13の使用の有無及び時期)について
(1) 原告は,被告日動計画が,そのホームページ(甲11)において,本件
商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキの広告に被告標章1
3を付して表示させたことが,Bに対する本件商標権の侵害行為に当たる旨
主張する。
(2) 甲第11号証及び弁論の全趣旨によれば,平成15年10月9日当時,
被告日動計画のホームページのうち,特定商取引法に基づく表示のページ
(甲11)の上部に,商品の広告を掲げ,チーズケーキの写真を掲載すると
共に,「大切な方へのご贈答品に」の下に「しらはまのチーズケーキ」とい
う文字列が表示されていたこと(ただし,最後の一文字である「キ」は,プ
リントアウトした用紙のサイズが小さく左端が切れてしまったため,甲第1
1号証上では表示されていない。),同文字列は被告標章13と一致するこ
とが認められる。
(3) 上記認定事実によれば,被告標章13は,チーズケーキをその写真と共
に紹介することにより販売を促進することを目的とするページに表示され,
被告日動計画のチーズケーキとそれ以外のチーズケーキとを区別する機能
(出所識別機能)を有しているものといえる。
そうすると,被告日動計画は,遅くとも平成15年10月9日までは,本
件商標の指定商品である「菓子」に含まれるチーズケーキについて,その広
告を内容とする情報に被告標章13を付して電磁的方法により提供しており
(商標法2条3項8号),Bが本件商標権につき移転登録を経由した同年1
月16日から同年10月9日までの上記行為は,本件商標権の侵害行為に当
たる(遅くともBが本件商標権につき移転登録を経由した当時から上記使用
行為が行われていたものと推認することができることは,前記13(4)で述
べたとおりである。)。
(4) 被告日動計画らは,被告標章13では,「しらはまのチーズケーキ」の
うち「キ」の字体が特定されていないから,主張自体失当である旨主張する。
しかしながら,被告標章13は,商標権者であるBの被告らに対する本件
商標権侵害による損害賠償請求権の有無の審理において,被告による本件商
標と類似する被告標章の使用の有無を判断するに十分な特定がされているも
のというべきであることは,前記6(3)で述べたとおりであるから,被告日
動計画らの上記主張は採用することができない。
19 各被告標章の使用の有無及び時期に関するまとめ
前記9ないし18で認定した各被告標章の,Bが本件商標権の移転登録(効
力要件。商標法35条による特許法98条1項1号の準用)を経た平成15年
1月16日以降の使用の有無及び時期は,次のとおりである。
被告標章 使用の有無ないし使用者 使用時期
被告標章1 被告千趣会,被告日動計画 平成15年1月16日から
同年3月7日まで
被告標章2 ×(使用なし)
被告標章3 ×(使用なし)
被告標章4 ×(使用なし)
被告標章5 被告日動計画 平成15年1月16日から
同年6月16日まで
被告標章6 被告日動計画 平成15年1月16日から
同年6月16日まで
被告標章7 被告日動計画 平成15年1月16日から
同年6月16日まで
被告標章8 被告千趣会,被告日動計画 平成15年5月1日から
同月上旬ころまで
被告標章9 ×(使用なし)
被告標章10 被告千趣会,被告日動計画 平成15年2月1日から
同月上旬ころまで
被告標章11 被告千趣会,被告日動計画 平成15年3月1日から
同月上旬ころまで
被告標章12 被告千趣会,被告日動計画 平成15年4月1日から
同月上旬ころまで
被告標章13 被告日動計画 平成15年1月16日から
同年10月9日まで
20 争点(4)(被告らの各被告標章の使用についての過失の有無)について
(1) 原告は,被告日動計画及び被告千趣会には,前記認定に係る本件商標権
の侵害行為について,少なくとも過失があると主張する。
これに対し,被告らは,上記侵害行為については過失がない旨主張するの
で,以下検討する。
(2) 前記当事者間に争いのない事実等,証拠(甲5,19,20,33,4
1,46,乙7,8,47,丙1,丙2の1,丙4,丙5の1・2,丙6な
いし9,丙10の1・2,丙11ないし13,丙20の1・2,丙21,2
6)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,この認定を覆すに
足りる証拠はない。
ア 旧会社は,平成12年10月ころから,被告千趣会との間で,旧会社が
製造するチーズケーキの継続的な売買取引を開始した。
平成13年7月1日には,旧会社は,被告千趣会との間で,旧会社が製
造する商品の販売に係る売買基本契約書(甲20)を締結した。同契約書
中には,「旧会社はその商品につき,第三者が有する特許権,実用新案権,
意匠権,著作権,商標権等を侵害しないよう特に注意し,被告千趣会に対
し,これら第三者の権利に抵触しない商品を売渡すものとする。」旨の約
定があった(10条③)。
イ 一方で,旧会社は,取り込み詐欺の被害に遭うなどして,平成12年5
月31日時点で,約6379万円の欠損金を計上し,Cが知人から金銭を
借り入れるなどして急場をしのいだものの,その後も資金繰りが厳しい状
況が続き,平成14年8月には旧会社の取引先に対する債権が差し押さえ
られる事態となり,支払不能の状況に陥った。
結局,旧会社は,平成15年5月9日に横浜地方裁判所小田原支部に破
産を申し立て,同年7月11日,同支部から破産宣告決定を受けた。
また,C個人も,同年5月9日に同支部に破産を申し立て,同年7月1
1日,同支部から破産宣告決定を受けた。
なお,旧会社は,平成12年ころから賃金の遅配や不払を繰り返してお
り,旧会社及びCは,平成15年8月21日,平塚労働基準監督署から労
働基準法違反(賃金不払)の被疑事件で書類送検された。
ウ 被告千趣会は,税務署から旧会社の被告千趣会に対する売掛金債権につ
いての照会を受けたり,旧会社の債権者から売掛金債権の差押えを受けた
りすることがあったため,旧会社との間で,取引の停止も含めて事後の対
応を協議することにした。
エ 被告千趣会の担当者であるFは,平成14年8月ころ,上記の協議をす
るため,Cのもとを訪ねた。
Cは,旧会社が債権者から差押えを受けるなどしたために,信用を失い,
チーズケーキの原材料を買い掛けで仕入れることができなくなったことか
ら,被告Aに資金の提供等を求めていたこともあり,Fを被告Aのもとへ
連れて行った。なお,被告Aは,Cの知人で,同被告の所有する土地を旧
会社のチーズケーキ製造工場の敷地として賃貸する等しており,平成11
年4月の旧会社の組織変更時には,同社の監査役に就任していた。
被告日動計画の事務所において,C,被告A及びFは,旧会社の商品供
給について協議した。その際,被告Aから,被告日動計画が資金を拠出し
て商品の供給を継続すること,被告日動計画名義の取引口座を開設し,同
口座に被告千趣会からの売買代金の振込みを行うことなどの提案があった。
被告千趣会は,Cも上記提案内容を了承していたことから,上記提案を受
け入れることにした。
そして,被告日動計画は,平成14年9月24日,被告千趣会との間で,
被告日動計画の商品の販売に係る売買基本契約書(丙1)を締結し,被告
千趣会に対してチーズケーキの供給を開始した。同契約書中には,「被告
日動計画はその商品につき,第三者が有する特許権,実用新案権,意匠権,
著作権,商標権等を侵害しないよう特に注意し,被告千趣会に対し,これ
ら第三者の権利に抵触しない商品を売渡すものとする。」旨の約定があっ
た(10条③)。
オ 平成14年9月24日に上記契約を締結した後,被告日動計画が原材料
を調達し,旧会社の製造設備を用いてチーズケーキを製造し,これを被告
日動計画が被告千趣会に供給するようになった。
当時,旧会社は,工場で稼働する従業員に対する賃金も支払うことがで
きない状況にあったので,被告日動計画が上記賃金分の資金も拠出した。
なお,被告日動計画は,被告千趣会の他にも,旧会社の取引先と同様の
契約の締結を試みたが,契約の締結には至らなかった。
また,被告Aは,平成14年9月ころには,工場入り口の鍵を付け替え,
入り口には「日動計画」と記載したシールを貼り付けるなどした。
カ 平成14年10月ころ,旧会社の債権者であるIが,旧会社が借金の弁
済をしないことから,工場にあったチーズケーキ製造用の金型を担保とし
て持ち帰ってしまうという事態が発生した。
被告Aは,工場職員から,上記事態が発生したことを聞き,上記金型が
ないとチーズケーキの製造をすることができず,被告千趣会に対する商品
の供給も滞ることになってしまうことから,Iに連絡を取り,同人から,
被告Aが旧会社に600万円を貸し付け,旧会社がIに対して,600万
円を支払うことで解決する旨の了解を取り付けた。
Cは,平成14年10月17日,被告A立合いの下,Iとの間で,①旧
会社が,Iに対し,同日精算金として600万円を支払ったことを確認す
る,②本和解により,旧会社,C及びIは,相互に一切の債権,債務のな
いことを確認する,ことなどを内容とする和解書(丙2の1)を締結した。
上記和解により,Iから上記金型が返還された。
キ また,被告Aは,Cに対し,旧会社のゴム印や代表者印,Cの実印を,
被告日動計画の金庫において,保管しておくことを提案し,被告Cの了承
のもと,平成14年10月ころから,被告Aが,上記印鑑等を保管してい
た。
ク Cは,平成14年10月末ころ被告千趣会から被告日動計画の口座に入
金された売買代金について,被告日動計画において精算し,残額が旧会社
に対して支払われるものと考えていたものの,被告日動計画から旧会社に
対する支払はされなかった。
そこで,Cは,被告千趣会からの代金について,自身が想定していた処
理がされなかったことから,被告Aから上記印鑑等の返還を受けようと考
え,同年11月8日,知人の保険外交員であるHに上記印鑑等を取りに行
かせた。これに対し,被告Aは,同日,上記Hを通じて,Cに対し,上記
印鑑等を返還した。
なお,前記認定のとおり,被告日動計画は旧会社の工場やケーキの製造
設備を占有管理していたものの,Cが,これに対して,異議を述べたなど
の事情は認められない(破産管財人作成に係る旧会社の破産事件に関する
報告書(丙9)中には,「平成14年8月に至り,取引先の債権が差し押
さえられる事態になり結局支払不能の状況に陥った。なお,その後,破産
会社は,本店の事務所の地主でもあり監査役でもあった者に相談して,事
務所は,その者の経営する会社が管理占有し,その会社が,営業を継続し
ている。」との記載がある。)。
Cは,平成14年12月10日,所轄官署に対し,旧会社の廃業届を提
出した。
ケ 平成14年12月ころ,Cは,Bから,原告がチーズケーキの製造設備
や販売店を開設すること,Cは原告の開設する工場の工場長として稼働す
ること等の提案を受けた。
Cは,上記提案を受け入れることとし,平成14年12月27日,旧会
社からBに対し,本件商標権を譲渡し,Bは,平成15年1月16日,そ
の旨の移転登録を了した。
原告は,平成15年1月下旬ころ,本件商標の上段の「SHIRAHA
MA」の文字列を「YOKOHAMA」に変更しただけで他の構成はほぼ
同じ標章や「Yokohama G â teau Shirahama」と
の文字列から成る標章を使用して,チーズケーキ等の菓子類を販売する店
舗を横浜市内に出店した。この際,原告は菓子店を新装開店した旨のチラ
シ(甲41,丙4)を配布した。
また,Cは,上記のころから,原告のケーキ製造工場において,工場長
として稼働するようになった。
なお,CやBは,被告日動計画又は被告千趣会に対し,平成15年3月
5日に被告千趣会に対して後記の告知,警告をするまで,Bに対する商標
権の移転登録をしたこと等について,何ら説明をすることはなかった。
コ Bが本件商標の移転登録を経た後も,被告千趣会の商品カタログ(乙7,
8)には被告日動計画の商品が被告標章10や同11を表示して紹介され
ていたことから,平成15年3月5日,Bは,Cと共に,被告千趣会の本
社を訪ね,同被告の食品頒布開発部に在籍するFやGと面談した。Bは,
この際,上記Fらに対し,Bが本件商標を譲り受けたことを告げると共に,
被告千趣会の「しらはまチーズケーキ」の取引先を被告日動計画から原告
に変更するように求め,被告日動計画の製造するチーズケーキに本件商標
を付して販売することは本件商標権の侵害となることなどを警告し,原告
が菓子店を新装開店した旨のチラシ(甲41,丙4)を手渡した。
被告千趣会は,Bから上記の話を聞いて,初めて,Bに本件商標権が移
転された事実を知った。
サ 被告千趣会は,Cを含めて協議した結果,被告日動計画との取引を開始
したにもかかわらず,CがBに本件商標権を移転し,原告の下で稼働して
いることを知り,もはや,Cとの信頼関係の構築は困難であるとの判断か
ら,Bからの上記取引の申出を断った。
そして,被告千趣会は,Bとの上記面談の後である同月7日,被告日動
計画の現代表者であるEと面談し,Bが本件商標権の譲渡を受けたことや
上記警告を受けたことなどについて協議し,被告日動計画との間で,被告
標章1の使用を中止することを決めた。Eは,上記面談の際,被告千趣会
の担当者から,上記チラシ(甲41,丙4)を入手した。
なお,被告日動計画は,被告千趣会から上記の話を聞いて,初めて,B
に本件商標権が移転された事実を知った。
シ 被告日動計画は,被告千趣会との上記協議の後同月8日以降,被告標章
1の付された黒色の包装箱の使用を中止した。
(3) 上記認定事実によれば,旧会社は,資金繰りに窮するようになり,平成
14年8月ころには,債権者から取引先に対する売掛金債権の差押えを受け,
チーズケーキの原材料を仕入れることもできない状況に至っていたこと,被
告千趣会の担当者は,旧会社の上記のような状況に照らし,事後の取引につ
いての対応を協議するため,同月ころCのもとを訪ねたこと,被告千趣会の
担当者の訪問を受け,C,被告A及び上記担当者との間で協議が行われ,三
者の間で,被告日動計画が資金を拠出して商品の供給を継続することや被告
日動計画名義の取引口座を開設し,同口座に被告千趣会からの売買代金の振
込みを行うことが合意されたこと,その後の平成14年9月24日,被告千
趣会と被告日動計画との間で,売買基本契約書(丙1)が締結されたこと,
上記契約後,被告日動計画は,自ら原材料を調達し,旧会社の工場設備を用
いて,チーズケーキを製造して,被告千趣会に供給していたこと,被告日動
計画は,原材料費や工場従業員の賃金を,自己資金を拠出してまかなってい
たこと,Cは,被告日動計画が旧会社の工場,その製造設備を占有管理して,
チーズケーキを製造,販売していることを認識しながら,これに特段異議を
述べることはなく,かえって,平成14年10月中旬ころには,被告Aから
600万円を借り入れて旧会社の債務の返済を行っていること,その上,C
は,同年12月10日には,所轄官署に対し,旧会社の廃業届けを提出した
ことが認められ,これらの事実に照らせば,旧会社の代表者であるCは,被
告日動計画に対し,同被告がチーズケーキを販売するについて,本件商標を
その包装箱に付したり,あるいは,その広告等に付したりすることにより使
用することを許諾していた(通常使用権を付与していた)ものと推認するこ
とができる。
また,上記認定事実に照らせば,旧会社の代表者であるCは,被告千趣会
に対し,被告日動計画の製造,販売に係るチーズケーキを消費者に販売する
につき,本件商標をその包装箱に付したり,あるいは,その広告等に付した
りすることにより使用することを許諾していた(通常使用権を付与してい
た)ものと推認することができる(なお,前述のとおり,被告日動計画は旧
会社から本件商標につき通常使用権の許諾を受けたものと認められ,加えて,
上記で認定したところによれば,旧会社は,被告日動計画のチーズケーキが,
被告千趣会などの通信販売業者を通じて消費者に流通することも当然に予定
していたものと認められるから,被告日動計画の上記通常使用権は,被告日
動計画の取引先業者が,その販売において,被告日動計画の商品に関して本
件商標を使用することを許諾することもその内容として含んでいたものと考
えられる。そうすると,被告千趣会は,被告日動計画との間で締結した売買
基本契約書(丙1)により,被告日動計画の商品について各被告標章を使用
していたものであるから,被告千趣会による上記使用は,本件商標の通常使
用権を有する被告日動計画からの使用許諾に基づいたものといえる。)。
(4) なお,原告は,Cが被告日動計画に対し,平成14年11月以降は「し
らはま」の名称の使用を認めない旨明言していた旨主張し,Cの陳述書(甲
5)中には,「平成14年11月に入ってすぐだったと思いますが,私は日
動計画の本社事務所で同社のA氏に対し「今後屋号やロゴマークを含めて
『しらはま』の名前の使用は一切認めない」と告げました。」との記載があ
る。
しかしながら,上記陳述書中,上記に関する部分は,Cが発したとする上
記発言の前後のCと被告Aとの間のやりとりが記載されておらず(被告Aは,
旧会社に代わってチーズケーキを製造,販売するために,その原材料費や金
型を取り戻すための600万円の貸付等,既に相当の金銭の出捐をしていた
こと,被告千趣会との売買基本契約書(丙1)の締結により,「しらはま」
との名称を使用してチーズケーキを納品する債務を負っていたことに照らす
と,Cから「しらはま」の名前の使用を認めないと一方的に告げられたとす
れば,これに反論をし,その効力を争ったはずである。),具体性を欠くと
いわざるを得ないものである上,平成14年11月当時,被告日動計画が旧
会社の工場やケーキの製造設備を占有管理していたものの,Cが,これに対
して,異議を述べたなどの事情は認められないこと,Cは,平成14年12
月10日,所轄官署に対し,旧会社の廃業届を提出したこと,Cは,同月こ
ろ,Bから,原告がチーズケーキの製造設備や販売店を開設すること,Cは
原告の開設する工場の工場長として稼働すること等の提案を受け,同月27
日には旧会社からBに対し本件商標権を譲渡し,平成15年1月下旬ころか
らは,原告のケーキ製造工場において工場長として稼働するようになったこ
と,それにもかかわらず,CやBは,このことについて,同年3月5日に被
告千趣会に本件商標権の侵害を警告したにとどまり,被告日動計画,あるい
は,被告Aに対して,直接には,何ら通知や警告を発していないことなど,
前記(2)で認定した事実経過に照らせば,上記陳述書の上記部分は到底信用
することができず,他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
なお,そもそも,前述のとおり,旧会社は,被告日動計画に対し,本件商
標の通常使用権を許諾していたものと認められ,被告日動計画は,本件商標
を使用してチーズケーキを販売するために相当の金銭を出捐していたことか
らすれば,仮に,旧会社の代表者であるCが一方的に上記発言をしたとの事
実が認められるとしても,これをもって,旧会社と被告日動計画との間の本
件商標の通常使用権設定契約が解除されたと認めることはできない。
(5) 前述のとおり,被告日動計画及び被告千趣会は,本件商標権を有してい
た旧会社から本件商標につき通常使用権の設定を受けたものの,その登録を
経てはいないから(甲2),旧会社から本件商標権の譲渡を受け,その移転
登録を経由したBに対抗することはできない。
そうすると,前記認定に係る本件商標権の侵害行為について,被告日動計
画及び被告千趣会には,商標法39条が準用する特許法103条により,過
失が推定される。
しかしながら,前述のとおり,被告日動計画及び被告千趣会は,旧会社の
代表者であるCから本件商標につき通常使用権の設定を受けた者であって,
当該使用権に基づいて,本件商標と類似する各被告標章の使用を開始し,こ
れを継続していたのであるから,同被告らに本件商標権の移転の有無を調査
するため,常時商標原簿を調査する義務があったとまではいい難く,同被告
らが通常の注意力をもってすれば,本件商標権の移転の事実を知り得た時点
までは,本件商標権の侵害行為について過失はなかったものということがで
き,上記過失の推定は,覆るものというべきである。
なお,前記(2)で認定したところによれば,Bは,Cに対して,自身が代
表者を務める原告がチーズケーキの製造設備や販売店を開設することやCを
原告の開設する工場の工場長として雇用すること等を提案し,Cから,本件
商標権の譲渡を受けた上で,同人を,原告の工場長として稼働させていたも
のであるから,Cから本件商標の従前の使用状況を聴取することにより,あ
るいは,被告日動計画のホームページや被告千趣会のカタログを調査するこ
とにより,比較的容易に,被告日動計画及び被告千趣会による各被告標章の
使用の事実を把握し得たものと考えられることからも,上記のように解する
のが相当である。
そして,前記(2)で認定した事実によれば,被告千趣会については,平成
15年3月5日にBから,同人が本件商標権を譲り受けた旨の告知を受ける
までは,被告日動計画については,同月7日に上記告知を受けた被告千趣会
から,Bが本件商標権を譲り受けた旨の告知を受けるまでは,通常の注意力
をもってしても,本件商標権の移転の事実を知り得なかったものというべき
であり,それぞれ上記時点まで,各被告標章の使用につき過失がなかったも
のといえる。
なお,原告は,被告日動計画は,平成15年1月20日ころ,原告店舗の
開店のチラシを入手したか,又は入手し得る状態にあった旨主張するものの,
上記事実を認めるに足りる証拠は存しない(なお,甲第33号証によれば,
被告日動計画が株式会社東平商会に対して送付した同年4月30日付けの書
面に上記チラシが添付されていたことが認められるものの,前記(2)で認定
した事実及び弁論の全趣旨によれば,上記添付に係るチラシを被告日動計画
が入手したのは,同年3月7日であると認められる。)。
(6) 結局,被告千趣会については,平成15年3月5日以降の被告標章の使
用につき,被告日動計画については,同月7日以降の被告標章の使用につき,
それぞれ過失が認められるにとどまる。
なお,被告日動計画らは,Bが貸金の担保として本件商標権を譲り受けた
ので,旧会社が本件商標権を受け戻す可能性があったとか,旧会社の破産管
財人がBとの間で訴訟上の和解をするまで本件商標権がBに対して確定的に
移転していなかったなどとして,被告日動計画らには,平成15年3月7日
にBに対して本件商標権が譲渡されたことを知った後も,各被告標章の使用
につき過失はない旨主張する。しかしながら,仮に,被告日動計画らの主張
に係る上記事実が認められるとしても,旧会社が受け戻すまで,あるいは,
破産管財人による否認権の行使の効果が生じるまでは,移転登録を経ること
により,Bに本件商標権が移転していることに変わりはないのであるから,
上記事情があることによって,被告日動計画らの過失が否定されることはな
い(ちなみに,本件においては,旧会社が本件商標権を受け戻したことや,
破産管財人による否認権の行使により,本件商標権が破産財団に復したなど
の事情も認められない。)。
21 小括
前記19記載の被告千趣会及び被告日動計画の被告標章の使用行為のうち,
過失が認められる可能性のある時期以降のものについてまとめると,以下のと
おりである。
(1) 被告標章1について
証拠(丙1,26)によれば,被告日動計画によるチーズケーキの出荷は,
被告千趣会から,被告日動計画に対して,前月末に数量と送付先を通知し,
被告日動計画が,当月末に冷凍倉庫にあらかじめ保管していた製品をまとめ
て送付するという方法により行われていたこと,平成15年3月分の出荷は,
同月26日から28日にかけて行われており,同月5日から同月13日まで
の間に新たな出荷はなかったこと(前記認定のとおり,この間,数量訂正や
返品交換による出荷が数個あったものの,これらは,色見本の黄色のサンプ
ル包装箱に入れて出荷しており,被告標章1が付された黒色の包装箱は使用
していない。),被告千趣会以外の取引においても,出荷方法は同様であっ
たことが認められる。
上記認定事実によれば,被告千趣会が平成15年3月5日以降,被告日動
計画が同月7日以降,被告標章1を使用したものとは認められない。
(2) 被告標章11について
前記認定のとおり,平成15年3月1日発行で,同月上旬ころまでには配
布された被告千趣会の商品カタログ(乙8)において,被告標章11が表示
されていたことが認められるものの,上記カタログが,平成15年3月5日
以降に被告らによって配布されたとの事実を認めるに足りる証拠はない。
よって,被告千趣会が平成15年3月5日以降,被告日動計画が同月7日
以降,被告標章11を使用したものとは認められない。
(3) 以上によれば,過失が認められる被告標章の使用行為及びその期間は,
次のとおりである。
被告標章 使用者 過失の認められる使用時期
被告標章5 被告日動計画 平成15年3月7日から
同年6月16日まで
被告標章6 被告日動計画 平成15年3月7日から
同年6月16日まで
被告標章7 被告日動計画 平成15年3月7日から
同年6月16日まで
被告標章8 被告千趣会,被告日動計画 平成15年5月1日から
同月上旬ころまで
被告標章12 被告千趣会,被告日動計画 平成15年4月1日から
同月上旬ころまで
被告標章13 被告日動計画 平成15年3月7日から
同年10月9日まで
22 争点(5)(被告日動計画が各被告標章の使用を止めた後の不法行為の成否)
について
(1) 被告日動計画が,平成15年6月までは,同社のチーズケーキを「しら
はまのチーズケーキ」,「しらはまチーズケーキ」などとして販売していた
ものの,同年7月以降,「デボンポート」の名称を用いて販売するようにな
ったことは,前記9(2)で認定したとおりであり,証拠(甲15,27,乙
18,20,23)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 平成15年10月27日を有効期限とする被告千趣会の商品カタログ
(乙20)中で,被告日動計画のチーズケーキが,「デボンポート」との
表示の下で紹介され,その説明として,「ちっちゃくても,2年連続人気
№1!」などと記載され,製品の大きさや賞味期限の紹介の下に,「※店
名が『デボンポート』に変わりました。これからもよろしくお願いしま
す。」と記載されていた。
イ 平成15年10月27日を有効期限とする被告千趣会の商品カタログ
(甲27,乙18)中で,被告日動計画のチーズケーキが,「デボンポー
ト」との表示の下で紹介され,その説明として,「2年連続人気№1!」,
「“チーズケーキの会”で,2年連続№1を誇る人気の高さも大ナットク
の逸品です。」などと記載され,製品の特徴が説明された「パティシエか
ら」の欄及びチーズケーキの製造過程を写した写真の下に,「店名が『デ
ボンポート』に変わりました。これからもよろしくお願いします。」と記
載されていた。
ウ 平成15年11月27日を有効期限とする被告千趣会の商品カタログ
(乙21)中で,被告日動計画のチーズケーキが,「デボンポート」との
表示の下で紹介され,その説明として,「ちっちゃくても,2年連続人気
№1!」などと記載され,製品の大きさや賞味期限の紹介の下に,「※店
名が『デボンポート』に変わりました。これからもよろしくお願いしま
す。」と記載されていた。
エ 平成16年3月25日を有効期限とする被告千趣会の商品カタログ(甲
15,乙23)中で,被告日動計画のチーズケーキが,「デボンポート」
との表示の下で紹介され,その説明として,「3年続けて大人気」,「な
んと唯一の4年連続登場商品。昨年のアンケートではみごと第2位に輝い
た,チーズケーキの会の定番人気ケーキです。」とか,「なんと4年連続
登場。千趣会チーズケーキの会には欠かせない人気のケーキ。」などと記
載され,「デボンポート」の説明として,「神奈川県秦野市の住宅街にあ
るチーズケーキの専門店。」などとの説明の後に,「※店名が『ガトーし
らはま』から『デボンポート』に変わりました。これからもよろしくお願
いいたします。」(なお,印刷は赤字である。)と記載されていた。
(2) 原告は,被告日動計画が各被告標章の使用を中止し,「デボンポート」
の文字列からなる標章に変更した後,被告千趣会のカタログ広告に,被告日
動計画の商品について,「店名が『ガトーしらはま』から『デボンポート』
に変わりました。」とか,「店名が『デボンポート』に変わりました。」な
どと記載した上で,チーズケーキを販売することは,原告のチーズケーキと
出所を混同し,本件商標に付着した業務上の信用(グッドウィル)を不正に
利用するものであり,自由競争として許容される範囲を著しく逸脱する不法
行為に当たる旨主張する。
そして,被告日動計画が各被告標章の使用を中止し,「デボンポート」名
称を用いてチーズケーキを販売するようになった後,被告千趣会の商品カタ
ログの中には,被告日動計画の商品について,「店名が『ガトーしらはま』
から『デボンポート』に変わりました。」とか,「店名が『デボンポート』
に変わりました。」などと記載されたものがあったことは,上記認定のとお
りである。
しかしながら,前記20で認定したところによれば,被告日動計画は,平
成14年9月24日に被告千趣会との間で,売買基本契約書(丙1)を締結
した後,被告日動計画において原材料を調達し,旧会社の製造設備を用いて
チーズケーキの製造を開始し,これを被告千趣会に供給するようになったこ
と,被告日動計画や被告千趣会は,被告日動計画の商品を広告,販売するに
つき,各被告標章を使用していたものの,上記使用については,当時,本件
商標権を有していた旧会社から,本件商標の通常使用権の許諾を受けていた
こと,Bは,旧会社から本件商標権の譲渡を受けてその移転登録を経由した
後,平成15年3月5日に,被告千趣会に対し,被告日動計画の製品に本件
商標を付して販売することは本件商標権の侵害になる旨を警告したこと,こ
れを受け,被告千趣会と被告日動計画は,同月7日,対応を協議し,同月8
日以降,被告標章1の付された包装箱の使用を中止したこと,以上の経緯が
認められる。
これらの経緯に照らすと,被告日動計画,あるいは,被告千趣会が上記
(1)のとおり,「店名が『ガトーしらはま』から『デボンポート』に変わり
ました。」とか,「店名が『デボンポート』に変わりました。」などと記載
したのは,実際に,通常使用権の許諾に基づき,「ガトーしらはま」との名
称でチーズケーキを販売していた者が,通常使用権を新商標権者に対抗する
ことができないために,その名称を変更する旨告知したものにすぎず,上記
行為をもって,原告,あるいは,Bに損害を与えることを意図して,あえて
行われた加害行為であるなどということはできない。
また,前記(1)認定に係る上記商品カタログ中の記載の内容及び態様から
すると,これが,不公正な方法,態様で行われたものであるともいえない。
よって,被告日動計画,あるいは,被告千趣会による上記記載が自由競争
として許容される範囲を著しく逸脱する不法行為に当たるということはでき
ず,原告の上記主張は採用することができない。
さらに,上記(1)認定に係る記載のうち,「2年連続人気№1!」,「3
年続けて大人気」,「なんと唯一の4年連続登場商品」などとの記載は,旧
会社の製造,販売していたチーズケーキと被告日動計画が製造,販売してい
るチーズケーキを区別せず,同一の主体によるものとして混同して記述して
いるものであるといえるものの,Bは,本件商標権の移転を受けたにすぎず,
旧会社の製造,販売していたチーズケーキの品質に対する信用を含め旧会社
の業務上の信用そのものを承継したわけではないから,少なくとも,原告,
あるいは,Bに対する不法行為とはならない。
なお,上記(1)エのとおり,被告千趣会の商品カタログ(甲15,乙2
3)には,「※店名が『ガトーしらはま』から『デボンポート』に変わりま
した。」と記載されていたものの,これは,従前「ガトーしらはま」との名
称でチーズケーキを製造,販売していた主体と現在「デボンポート」との名
称でチーズケーキを製造,販売している主体とが同一である旨を説明する記
述であって,上記「ガトーしらはま」との記載は出所識別の機能を果たす態
様で使用されているものではないから,商標的使用にも当たらない。
(3) 以上のとおりであるから,いずれにせよ原告の上記主張は理由がない。
23 争点(6)(原告の商号続用者としての責任の有無)について
被告千趣会は,原告が旧会社から営業の譲渡を受け,かつ,旧会社の商号で
ある「株式会社ガトーしらはま」を続用したから,原告は,商法17条1項に
基づき,旧会社から,旧会社により本件商標の使用許諾を受けた被告日動計画
及び被告千趣会に対し,本件商標権に基づく権利行使をしない義務を承継した
旨主張する。
この点につき,被告千趣会は,原告が旧会社から営業譲渡を受けたことを証
する証拠として甲第19号証(新聞記事)を挙げるものの,同証拠の記述のみ
から,上記営業譲渡の事実を認定するに足りず,他に同事実を認めるに足りる
証拠はない。
被告千趣会の上記主張は採用することができない。
24 争点(7)(原告による権利濫用の有無)について
(1) 被告らは,①Bが,旧会社において,被告日動計画に対して本件商標の
独占的通常使用権を許諾していたことを知りながら,被告日動計画が上記独
占的通常使用権につきその登録を経ていないことを奇貨として,旧会社から
本件商標権の移転を受けたものである,②原告は,「しらはま」,「しらは
まのチーズケーキ」,あるいは,「ガトーしらはま」といった標章を一度も
使用せず,積極的にこれと異なる「ガトーよこはま」の標章を使用している
から,原告には,もはや,「しらはま」等の上記標章を使用する必要はない
こと,③Bは,平成15年3月5日に被告千趣会の担当者と面談した際,被
告千趣会に対し,チーズケーキの取引先を被告日動計画から原告に変更する
ように求めたのみで,各被告標章の使用の中止を求めることはなかったこと
を挙げ,これらの事情に照らすと,原告による本訴請求は,権利の濫用にわ
たるものであり許されない旨主張する。
(2) しかしながら,被告日動計画が本件商標につき通常使用権の許諾を受け
ていたと認められることは,前記20で述べたとおりであるものの,本件全
証拠によるも,これが独占的なものであったと認めるに足りる証拠はない。
また,そもそも,Bが,被告日動計画や被告千趣会が,本件商標につき通常
使用権を有することを知りながら,同被告らが上記通常使用権につき登録を
経ていないことを奇貨として,本件商標権の移転登録を経たものであると評
すべき背信的事情があることを認めるに足りる証拠もない(仮にBが,本件
商標権の移転登録を受けた当時,被告日動計画や被告千趣会が通常使用権を
有することを知っていたとしても,それだけでは背信的事情があったとはい
えない。)。
さらに,Bが本件商標権の移転につき登録を経た平成15年1月ころには,
Bが代表者を務める原告において,チーズケーキ等の菓子類を販売する店舗
を出店し,同店において,本件商標と類似する標章(本件商標の上部の「S
HIRAHAMA」の文字列を「YOKOHAMA」に変えたもの)を使用
していたことは,前記1認定のとおりであり,このようなBにおいて,新商
標権者であるBに使用権を対抗することができないにもかかわらず,前述の
とおり本件商標と類似するものと認められる各被告標章を使用する者に対し
て,本件商標権に基づき権利行使をすることが,権利濫用に当たるというこ
とはできない。
加えて,Bは,平成15年3月5日に被告千趣会の担当者と面談し,Bが
本件商標を譲り受けたことを告げると共に,被告千趣会の「しらはまチーズ
ケーキ」の取引先を被告日動計画から原告に変更するように求めたものの,
その際,被告日動計画の製造するチーズケーキに本件商標を付して販売する
ことは本件商標権の侵害となることをも警告していることは,前記20で認
定したとおりであり(被告千趣会は,同月7日には,被告日動計画の担当者
と協議し,被告標章1の使用を中止していることからも,Bが上記面談の際,
被告日動計画の製造する製品に本件商標を使用することについて警告をした
ことは明らかである。),上記Bの対応について,Bによる本件商標権に基
づく権利行使が権利濫用に当たると評価されるべき事情があるとは認められ
ない(B,あるいは,原告の対応に,過失相殺の対象とすべき事情も認めら
れない。)。
(3) 以上によれば,被告らの上記主張は理由がない。
なお,被告らは,Bが被告千趣会に対して本件商標権の移転を通知等した
平成15年3月5日以降,被告千趣会及び被告日動計画が各被告標章の使用
を中止するまでの短期間の使用継続は,顧客からの信用を維持しつつ,標章
の使用を中止するのに必要な合理的な期間の使用であり,止むを得ないもの
である旨主張するものの,自己の使用が他者の商標権の侵害行為に当たる旨
を認識し,あるいは,認識し得る以上は,直ちに,当該使用行為を止めるべ
きであって,商標権者において,使用の継続を受認すべきものとはいえない。
被告らの上記主張も理由がない。
25 争点(8)(被告Aの責任の有無)について
被告Aは,被告日動計画を昭和60年に起業し,平成16年1月7日に辞任
するまでの間,同被告の代表取締役であった者である(丙21,弁論の全趣
旨)。そして,前記20で認定したところによれば,被告Aは,被告日動計画
が各被告標章を使用してチーズケーキを販売するにつき,中心的な役割を担っ
ていたことが認められ,Bが平成15年3月5日に被告千趣会を訪れ,本件商
標権の移転を受けた旨告げると共に,被告日動計画による本件商標の使用が商
標権侵害に当たる旨の警告をし,同月7日,被告日動計画(現代表者のE)が
被告千趣会から上記の経緯を告げられたことにより,それ以降に被告日動計画
が各被告標章を使用すれば,Bの有する本件商標権を侵害することになること
は,被告Aにおいて容易に認識することができたものというべきであるから,
被告Aには重大な過失があったと認められる。
よって,被告Aは,旧商法266条の3第1項の規定により,本件商標権の
侵害によりBに生じた損害を,被告日動計画と連帯して賠償すべき責任を負う。
26 争点(9)(損害の有無及び額)について
原告は,商標法38条3項に基づき,本件商標権の侵害によりBに生じた損
害の賠償を求めるので,この点について検討する。
(1) 被告標章8及び同12の使用について
ア 被告標章12は,平成15年4月1日に発行され,同月上旬ころまでに
配布された被告千趣会の通信販売用商品カタログ(乙9)中で使用された
ものである。そして,乙第25号証及び弁論の全趣旨によれば,上記商品
カタログに基づく被告日動計画のチーズケーキ(直径14センチメートル
のもの)の出荷数量は1509個である。
イ 被告標章8は,平成15年5月1日に発行され,同月上旬ころまでに配
布された被告千趣会の通信販売用商品カタログ(甲8)中で使用されたも
のである。そして,乙第26号証及び弁論の全趣旨によれば,上記商品カ
タログに基づく被告日動計画のチーズケーキ(直径14センチメートルの
もの)の出荷数量は1942個である。
ウ 被告千趣会の上記販売に係る定価(上代)は1個当たり2680円であ
る(甲8,乙9,25,26)。
ところで,被告千趣会の上記各商品カタログによる販売形態は,顧客に
対し,毎月1回1年間にわたって,被告千趣会の選抜したチーズケーキが
届けられることを内容とするカタログ販売であり,上記定価には,少なく
とも送料が含まれているものと推認することができる。上記定価のうち送
料に相当する部分の金額を的確に認定することはできないものの,被告日
動計画の製品につき,インターネット販売分で,送料が本州につき630
円(税込み),北海道,四国,九州,沖縄で840円(税込み)とされて
いる例があること(甲32),原告が営む「ガトーよこはま」で販売され
ている「しらはまチーズケーキ」の販売価格(税抜き価格)は,直径14
センチメートルのもので2000円であること(甲31),Cが宮崎県日
南市において営む「シェ・しらはま」で販売されている「しらはまチーズ
ケーキ」の販売価格(税抜き価格)は,直径14センチメートルのもので
2000円であること(丙31の2)からすると,上記定価のうち,チー
ズケーキの価格に相当するのは,原告が主張するとおり,2000円であ
ると認めるのが相当である。
そうすると,被告千趣会の上記ア及びイの販売行為によるチーズケーキ
の売上額は,合計690万2000円となる。
エ Cは,平成元年ころから,「レストランガトーしらはま」等でチーズケ
ーキを販売等するようになり,その後,上記チーズケーキは,「ガトーし
らはまのチーズケーキ」として次第に評判となって,ラジオ番組やテレビ
番組等でも取り上げられ(甲6),さらに,通信販売やデパート等へ出店
しての販売も行われるようになった(甲37ないし40)こと,旧会社は,
平成12年10月ころから,被告千趣会との間でチーズケーキの継続的な
売買取引を開始し,平成15年当時には,「3万人を超える会員をもつ被
告千趣会の『チーズケーキの会』で,2年連続人気1位となった」旨紹介
されていたこと(甲7,乙8,13),原告によるチーズケーキの販売を
伝える新聞記事(平成15年10月23日付け)には,「“伝説”チーズ
ケーキ復活」との表題の下,「若い女性の人気を集めながら今年初め廃業
した神奈川県秦野市の菓子メーカー『ガトーしらはま』のチーズケーキが,
横浜ブランドに装いを変えて再登場した。」,「ガトーしらはまは198
0年代中ごろに創業した名店で,東京銀座や渋谷などの百貨店内に約十店
を展開していた。」などと紹介されていること(甲19)等に照らすと,
平成15年当時,本件商標に類似する「ガトーしらはま」,「しらはまチ
ーズケーキ」,「しらはまのチーズケーキ」,「しらはま」などの標章は,
需要者に対し,強い顧客吸引力を有していたものと考えられる。
上記に加え,Bが代表者を務める原告は,被告日動計画や被告千趣会の
販売する製品と競合関係にあるチーズケーキを「しらはまチーズケーキ」
との標章を用いて販売していること(甲31),その他本件に現れた諸事
情を勘案すると,被告千趣会が被告標章8及び同12を使用したことによ
ってBに対して支払うべき使用料相当額は,被告千趣会の上記売上額69
0万2000円に5パーセントを乗じた金額である34万5100円と認
めるのが相当である。
オ 前述のとおり,被告千趣会による上記使用行為は,被告千趣会と被告日
動計画の共同不法行為であるから,被告千趣会及び被告日動計画は,Bに
対し,連帯して34万5100円の損害賠償債務(不真正連帯債務)を負
う。
さらに,被告Aは,被告日動計画の不法行為につき,同被告と連帯して
その損害を賠償すべき責任を負うから,被告Aは,Bに対し,被告日動計
画と連帯して34万5100円の損害賠償債務(不真正連帯債務)を負う。
(2) 被告標章5ないし7及び13について
ア 平成15年3月7日から同年6月16日までの使用について
(ア) 被告日動計画が,平成15年3月7日から同年6月16日までの間,
自身のホームページ(甲6,11,16,24,25。いずれも,ドメ
イン名は「nichidou.co.jp」であり,ディレクトリ名は「shirahama」
である。)において,被告標章5ないし7及び13を表示して使用して
いたことは前記認定のとおりである。
(イ) 丙第32号証及び弁論の全趣旨によれば,被告日動計画が,平成1
5年3月7日から同年6月16日までの間に,被告千趣会を経由せずに
出荷したチーズケーキの個数は,次のとおりであると認められる。なお,
被告日動計画らは,上記出荷数の中には,後に返品となったものが含ま
れている可能性がある旨述べるものの,被告日動計画らにおいて返品数
を明らかにすることはできないというのであるから,上記出荷数を基礎
として損害額を算定するのが相当と認める。
a ベルーナに対する出荷
直径14センチメートルのもの 0個
直径16センチメートルのもの 6個
直径18センチメートルのもの 0個
直径20センチメートルのもの 0個
b 有限会社一の家
直径14センチメートルのもの 1個
直径16センチメートルのもの 9個
直径18センチメートルのもの 0個
直径20センチメートルのもの 0個
c ゆうゆ
直径14センチメートルのもの 27個
直径16センチメートルのもの 25個
直径18センチメートルのもの 0個
直径20センチメートルのもの 0個
d レインボーカントリー倶楽部
直径14センチメートルのもの 34個
直径16センチメートルのもの 33個
直径18センチメートルのもの 0個
直径20センチメートルのもの 0個
e その他の顧客
直径14センチメートルのもの 215個
直径16センチメートルのもの 101個
直径18センチメートルのもの 46個
直径20センチメートルのもの 8個
f 合計
直径14センチメートルのもの 277個
直径16センチメートルのもの 174個
直径18センチメートルのもの 46個
直径20センチメートルのもの 8個
(ウ) 原告は,被告日動計画が被告千趣会を経由せずに販売したチーズケ
ーキの価格は,直径14センチメートルのもので1500円,直径16
センチメートルのもので2000円,直径18センチメートルのもので
2500円,直径20センチメートルのもので3500円である旨主張
する。これに対し,被告日動計画らは,上記出荷に係るチーズケーキの
販売価格は,出荷先ごとに異なり,これを明らかにすることができない
とする。
丙第32号証によれば,上記(イ)bの有限会社一の家に対する販売価
格は,直径14センチメートルのもので1300円,直径16センチメ
ートルのもので1625円であったことが認められ,上記(イ)の販売に
係る売上額は,合計1万5925円(1300円+1625円×9個)
であったと認められる。
他方,その他の販売価格については,これを的確に示す証拠はない
(なお,有限会社一の家は,被告日動計画の現代表者であるEの友人が
営むレストランであること(丙32)に照らすと,これ以外の販売先に
対する販売価格が有限会社一の家と同じであったとは推認し難い。)。
ところで,証拠(甲31,丙31の2)によれば,原告が営む「ガト
ーよこはま」で販売されている「しらはまチーズケーキ」の販売価格
(税抜き価格)は,直径13センチメートルのもので1500円,直径
14センチメートルのもので2000円,直径16センチメートルのも
ので2500円,直径18センチメートルのもので3500円,直径2
0センチメートルのもので5000円であること,Cが宮崎県日南市に
おいて営む「シェ・しらはま」で販売されている「しらはまチーズケー
キ」の販売価格(税抜き価格)は,直径13センチメートルのもので1
500円,直径14センチメートルのもので2000円,直径16セン
チメートルのもので2500円,直径18センチメートルのもので35
00円であることが認められる。原告の製造,販売するチーズケーキ,
被告日動計画の製造,販売するチーズケーキ,Cの製造,販売するチー
ズケーキは,いずれもCのレシピに基づくものであることに照らすと,
上記(イ)a及びcないしeの販売に係る価格は,損害の控えめな認定と
の観点に依るとしても,原告の主張する,直径14センチメートルのも
ので1500円,直径16センチメートルのもので2000円,直径1
8センチメートルのもので2500円,直径20センチメートルのもの
で3500円を下らないものと推認することができ,この販売価格を基
礎として損害額を算定するのが相当と認める。
そうすると,上記(イ)a及びcないしeの販売に係る売上額は,合計
88万7000円(1500円×276個+2000円×165個+2
500円×46個+3500円×8個)となる。
結局,上記(イ)aないしeの販売に係る売上額の合計は,90万29
25円(1万5925円+88万7000円)となる。
(エ) そして,上記(1)エ記載の事情に加え,被告日動計画の上記ホーム
ページには,「オンラインショップ」との注文ページも用意されており,
同ホームページを通じて,被告日動計画のチーズケーキを購入すること
が可能であったこと(甲6,11,16,24,25),上記(イ)eの
販売態様は,上記ホームページの注文ページを通じての購入申込みによ
るものであり(丙32,弁論の全趣旨),上記(イ)で認定した販売数量
のうち多数を占めていること(合計505個のうち370個),その他
本件に現れた諸事情を勘案すると,被告日動計画が平成15年3月7日
から同年6月16日までの間に,被告標章5ないし7及び同13を使用
したことによってBに対して支払うべき使用料相当額は,被告日動計画
の上記売上額90万2925円に5パーセントを乗じた金額である4万
5146円(円未満切捨て)と認めるのが相当である。
イ 平成15年6月17日から同年10月9日までの使用について
(ア) 被告日動計画は,平成15年6月に,デボンポートのホームページ
を作成した際,上記アのホームページの表紙ページ及び注文ページを削
除したものの,特定商取引法に基づく表示のページ(甲11)を削除し
忘れ,平成15年6月17日から同年10月9日までの間,上記ページ
に被告標章13を表示して使用していたことは前記認定のとおりである。
(イ) 丙第32号証及び弁論の全趣旨によれば,被告日動計画が,平成1
5年6月17日から同年10月9日までの間に,被告千趣会を経由せず
に出荷したチーズケーキの個数は,次のとおりであると認められる。な
お,被告日動計画らは,上記出荷数の中には,後に返品となったものが
含まれている可能性がある旨述べるものの,前記アと同様に上記出荷数
を基礎として損害額を算定するのが相当と認める。
a ベルーナに対する出荷
直径14センチメートルのもの 0個
直径16センチメートルのもの 4個
直径18センチメートルのもの 0個
直径20センチメートルのもの 0個
b 有限会社一の家
直径14センチメートルのもの 20個
直径16センチメートルのもの 89個
直径18センチメートルのもの 0個
直径20センチメートルのもの 1個
c ゆうゆ
直径14センチメートルのもの 39個
直径16センチメートルのもの 31個
直径18センチメートルのもの 8個
直径20センチメートルのもの 0個
d レインボーカントリー倶楽部
直径14センチメートルのもの 37個
直径16センチメートルのもの 42個
直径18センチメートルのもの 0個
直径20センチメートルのもの 0個
e 秦野市名産品のれん会協同組合
直径14センチメートルのもの 73個
直径16センチメートルのもの 62個
直径18センチメートルのもの 20個
直径20センチメートルのもの 0個
f その他の顧客
直径14センチメートルのもの 111個
直径16センチメートルのもの 57個
直径18センチメートルのもの 35個
直径20センチメートルのもの 5個
g 合計
直径14センチメートルのもの 280個
直径16センチメートルのもの 285個
直径18センチメートルのもの 63個
直径20センチメートルのもの 6個
(ウ) 上記(イ)bの有限会社一の家に対する販売価格は,直径14センチ
メートルのもので1300円,直径16センチメートルのもので162
5円,直径20センチメートルのもので3250円であったから(丙3
2),上記(イ)bの販売に係る売上額は,合計17万3875円(13
00円×20個+1625円×89個+3250円)であったと認めら
れる。
他方,上記(イ)a及びcないしfの販売に係る価格は,アと同様に,
直径14センチメートルのもので1500円,直径16センチメートル
のもので2000円,直径18センチメートルのもので2500円,直
径20センチメートルのもので3500円を下らないものと推認するこ
とができ,この販売価格を基礎として損害額を算定するのが相当と認め
る。
そうすると,上記(イ)a及びcないしfの販売に係る売上額は,合計
95万7000円(1500円×260個+2000円×196個+2
500円×63個+3500円×5個)となる。
結局上記(イ)aないしfの販売に係る売上額の合計は,113万08
75円(17万3875円+95万7000円)となる。
(エ) そして,甲第11号証は特定商取引法に基づく表示のページである
こと,上記アのホームページのうち,上記特定商取引法に基づく表示の
ページが残っていたものの,既に注文ページは削除されていたこと,上
記(イ)fの販売態様は,上記ホームページとは異なるデボンポートのホ
ームページの注文ページを通じての購入申込みによるものが大半である
と考えられること(弁論の全趣旨),その他本件に現れた諸事情を勘案
すると,被告日動計画が平成15年6月17日から同年10月9日まで
の間に,被告標章13を使用したことによってBに対して支払うべき使
用料相当額は,被告日動計画の上記売上額113万0875円に0.5
パーセントを乗じた金額である5654円(円未満切捨て)と認めるの
が相当である。
ウ 以上によれば,被告日動計画は,Bに対し,上記ア及びイの合計5万0
800円の損害賠償債務を負う。
そして,前述のとおり,被告Aは,被告日動計画の不法行為につき,同
被告と連帯してその損害を賠償すべき責任を負うから,被告らは,Bに対
し,連帯して5万0800円の損害賠償債務(不真正連帯債務)を負う。
(3) Bから原告に対する債権譲渡
証拠(甲3,17,18,甲35の1・2,甲36の1・2)及び弁論の
全趣旨によれば,Bが原告に対し,被告千趣会,被告日動計画及び被告Aが
各被告標章を使用して本件商標権を侵害したことに基づく,被告らに対する
損害賠償請求権を譲渡したことが認められる。
そして,Bが,被告千趣会に対して平成18年3月7日,被告日動計画に
対して平成16年11月16日,被告Aに対して同月17日,それぞれ上記
債権譲渡を通知したことは,当事者間に争いがない。
(4) まとめ
ア 被告千趣会分
34万5100円(全額につき被告日動計画と連帯)
イ 被告日動計画分
39万5900円(全額につき被告Aと連帯,うち34万5100円は
被告千趣会と連帯)
ウ 被告A分
39万5900円(全額につき被告日動計画と連帯)
27 結論
以上によれば,原告の第1事件主位的請求は理由がないからこれを棄却し,
第1事件予備的請求は,被告千趣会に対し,被告日動計画と連帯して34万5
100円及びこれに対する不法行為の後の日である平成18年3月17日から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求める
限度で理由があるから,これを認容し,その余の第1事件予備的請求は理由が
ないからこれを棄却し,原告の第2事件主位的請求はいずれも理由がないから
これを棄却し,第2事件予備的請求は,被告日動計画に対し,39万5900
円及びこれに対する不法行為の後の日である平成16年3月10日から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を,被告Aと連帯し,うち3
4万5100円及びこれに対する平成18年3月17日から支払済みまで年5
分の割合による金員は被告千趣会と連帯して支払うことを,被告Aに対し,被
告日動計画と連帯して39万5900円及びこれに対する不法行為の後の日で
ある平成16年3月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金を支払うことを,それぞれ求める限度で理由があるから,これを認容
し,その余の第2事件予備的請求はいずれも理由がないからこれを棄却するこ
ととし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿 部 正 幸
裁判官 平 田 直 人
裁判官 柵 木 澄 子
(別紙)
商 標 権 目 録
登 録 番 号 第4454328号
出 願 年 月 日 平成12年2月4日
登 録 年 月 日 平成13年2月23日
商品及び役務の区分 第30類
指 定 商 品 菓子及びパン
商 標
(別紙)
被 告 標 章 目 録
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13 しらはまのチーズケーキ
「
ただし,
」
に続けて,末尾にこれと同様の書体及び大きさの「キ」を付したもの
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