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平成19(ワ)4544特許権侵害差止請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成19年12月25日
事件種別 民事
当事者 被告新電元工業株式会社
原告インターナショナルレクティファイヤー
法令 特許権
特許法29条1項2回
キーワード 実施12回
特許権8回
無効6回
進歩性5回
侵害3回
無効審判2回
差止2回
新規性1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
3 本件につき原告のために控訴の付加期間を30日と定める。
事件の概要 本件は 「最小限の内部および外部構成要素を有する安定制御IC」につい, ての特許権(特許番号第3808435号)を有している原告が,被告が製造 ・販売した別紙物件目録記載の半導体装置が上記特許権の特許発明と均等であ り,その生産・譲渡・輸入・譲渡の申出が上記特許権を侵害したものであると 主張して,被告に対し,上記半導体装置の生産・譲渡・輸入・譲渡の申出の差 止及び上記半導体装置の廃棄を求めている事案である。

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判決文

平成19年12月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成19年(ワ)第4544号 特許権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日 平成19年11月6日
判 決
アメリカ合衆国カリフォルニア州<以下略>
原 告 インターナショナル レクティファイヤー
コーポレーション
訴訟代理人弁護士 上 山 浩
同 川 井 信 之
訴訟代理人弁理士 谷 義 一
同 新 開 正 史
補佐人弁理士 濱 中 淳 宏
東京都千代田区<以下略>
被 告 新 電 元 工 業 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 松 本 直 樹
同 牧 野 知 彦
補佐人弁理士 畑 中 孝 之
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
3 本件につき原告のために控訴の付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載の製品を生産し,譲渡し,輸入し,又は譲渡の申
出をしてはならない。
2 被告は,その占有に係る前項記載の製品を廃棄せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
本件は ,「最小限の内部および外部構成要素を有する安定制御IC」につい
ての特許権(特許番号第3808435号)を有している原告が,被告が製造
・販売した別紙物件目録記載の半導体装置が上記特許権の特許発明と均等であ
り,その生産・譲渡・輸入・譲渡の申出が上記特許権を侵害したものであると
主張して,被告に対し,上記半導体装置の生産・譲渡・輸入・譲渡の申出の差
止及び上記半導体装置の廃棄を求めている事案である。
1 前提となる事実等(当事者間に争いがないか,該当箇所末尾掲記の各証拠及
び弁論の全趣旨により認められる。)
(1) 原告が有している特許権
原告は,次の特許権を有している(以下 ,「本件特許権」といい,その特
許を「本件特許」という 。 。
) (甲1,甲2)
ア 特許番号 第3808435号
イ 発明の名称 最小限の内部および外部構成要素を有する安定制御IC
ウ 出 願 日 平成13年6月18日
エ 優 先 日 2000年(平成12年)6月19日
オ 登 録 日 平成18年5月26日
カ 本件特許の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」とい
う。)の特許請求の範囲の請求項6の記載は,次のとおりである(以下,
請求項6の特許発明を「本件特許発明1」という。本判決添付の本件特許
の特許公報(以下「本件公報」という 。)参照。 。

「ランプ駆動回路に対して可変周波数発振信号を提供する安定器制御用
集積回路内の回路であって,各充電サブサイクル中に充電抵抗を通して充
電され,各放電サブサイクル中に放電抵抗を通して放電されるコンデンサ
の両端間の電圧の値に応答して,前記充電サブサイクルと前記放電サブサ
イクルを交互に行う発振回路と,上向きのランピング電圧に応答して前記
充電サブサイクルと前記放電サブサイクルの周波数を変動させる周波数可
変回路であって,前記周波数が変動するように前記ランピング電圧が上昇
するにつれて前記充電抵抗と前記放電抵抗の少なくとも一方を変更する周
波数可変回路と,を含むことを特徴とする回路 。」
キ 本件明細書の特許請求の範囲の請求項7の記載は,次のとおりである 以

下,請求項7の特許発明を「本件特許発明2」といい,本件特許発明1と
併せて「本件各特許発明」という。本判決添付の本件特許の特許公報参
照。 。

「前記周波数が円滑に変動するように前記ランピング電圧が上昇するに
つれて,前記周波数可変回路は前記充電抵抗と前記放電抵抗の少なくとも
一方を円滑に変更することを特徴とする請求項6に記載の回路 。」
(2) 構成要件
本件各特許発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説
した各構成要件をその符号に従い「構成要件1−A」のように表記する 。 。

ア 本件特許発明1
1−A ランプ駆動回路に対して可変周波数発振信号を提供する安定器制
御用集積回路内の回路であって,
1−B 各充電サブサイクル中に充電抵抗を通して充電され,各放電サブ
サイクル中に放電抵抗を通して放電されるコンデンサの両端間の電
圧の値に応答して,前記充電サブサイクルと前記放電サブサイクル
を交互に行う発振回路と,
1−C 上向きのランピング電圧に応答して前記充電サブサイクルと前記
放電サブサイクルの周波数を変動させる周波数可変回路であって,
1−D 前記周波数が変動するように前記ランピング電圧が上昇するにつ
れて前記充電抵抗と前記放電抵抗の少なくとも一方を変更する周波
数可変回路と,
1−E を含むことを特徴とする回路。
イ 本件特許発明2
2−A 構成要件1−Aに同じ(ランプ駆動回路に対して可変周波数発振
信号を提供する安定器制御用集積回路内の回路であって ,)
2−B 構成要件1−Bに同じ(各充電サブサイクル中に充電抵抗を通し
て充電され,各放電サブサイクル中に放電抵抗を通して放電される
コンデンサの両端間の電圧の値に応答して,前記充電サブサイクル
と前記放電サブサイクルを交互に行う発振回路と,)
2−C 構成要件1−Cに同じ(上向きのランピング電圧に応答して前記
充電サブサイクルと前記放電サブサイクルの周波数を変動させる周
波数可変回路であって,)
2−D 前記周波数が変動するように前記ランピング電圧が上昇するにつ
れて前記充電抵抗と前記放電抵抗の少なくとも一方を変更する周波
数可変回路とを含み,
2−E 前記周波数が円滑に変動するように前記ランピング電圧が上昇す
るにつれて,前記周波数可変回路は前記充電抵抗と前記放電抵抗の
少なくとも一方を円滑に変更すること
2−F を特徴とする回路。
(3) 被告製品
被告は,訴外松下電工株式会社(以下「松下電工」という 。)の指定した
仕様に基づき,松下電工の製造・販売するランプの安定器の部品として,別
紙物件目録記載の半導体装置(以下「被告製品」という 。)を製造・販売し
ている。
本件各特許発明との対比において,被告製品の構成を示すと,別紙回路図
のとおりである(乙3)。
(4) 本件各特許発明と被告製品との対比
被告製品の構成は,別紙回路図のとおりであり,これによれば,被告製品
は,ランプ駆動回路に対して可変周波数発振信号を提供する安定器制御用集
積回路内の回路である(構成要件1−A,1−E,2−A,2−F)。
したがって,被告製品は,本件特許発明1の構成要件のうち,構成要件1
−A及び1−Eを充足し,本件特許発明2の構成要件のうち,構成要件2−
A及び2−Fを充足する。
他方,被告製品は,充電サブサイクルと放電サブサイクルの周波数の変動
を,タイマ発振器の出力を受けたカウンタの計数(以下「クロック信号の計
数」という 。)が所定回数に達することに応答して行っており,上向きのラ
ンピング電圧に応答して行うものではない点で,構成要件1−C及び2−C
の「上向きのランピング電圧に応答して」並びに構成要件1−D,2−D及
び2−Eの 前記ランピング電圧が上昇するにつれて 」
「 を文言上充足しない 。
2 本件の争点
(1) 被告製品の構成は,構成要件1−B及び2−Bを充足するか(争点1 )。
(2) 被告製品の構成は,構成要件1−C及び2−Cと均等か(争点2)。
(3) 被告製品の構成は,構成要件1−D及び2−Dと均等か(争点3)。
(4) 被告製品の構成は,構成要件2−Eと均等か(争点4 )。
(5) 本件特許は無効とされるべきものか(争点5)。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(被告製品の構成は,構成要件1−B及び2−Bを充足するか 。)
について
ア 原告の主張
被告製品は,構成要件1−B及び2−Bをいずれも充足する。
a) 被告製品は,Ctピンに接続されるコンデンサCtの容量と,コンデ
ンサCtの充電又は放電経路に設けられる抵抗の抵抗値とにより定まる
発振周波数で自己発振する発振回路を含んでいる。すなわち,各充電サ
ブサイクル中に充電抵抗を通して充電され,各放電サブサイクル中に放
電抵抗を通して放電されるコンデンサの両端間の電圧の値に応答して,
前記充電サブサイクルと前記放電サブサイクルを交互に行う発振回路を
含んでいる。
b) 被告は,被告製品はカレントミラー回路を介して発振用コンデンサを
充電しており,抵抗を介してではないとして,構成要件1−B及び2−
Bを充足しないと主張する。
しかし,被告の主張は,請求項の文言が「抵抗」であり「抵抗器」で
はないことを看過しており,失当である。本件明細書は,例えば,段落
番号【0004 】 【0009】等にあるように ,
, 「抵抗」と「抵抗器」
とを区別して用いている。そして ,「抵抗」には ,「抵抗器」だけでな
く,カレントミラー回路のように構成素子や回路の一定の電気的特性を
利用することで回路を流れる電流量を制限し得るものが含まれる。カレ
ントミラー回路は,入力側の電流に比例した電流を出力側に発生させる
ようになっているから,抵抗値が入力側の電流量に依存して変化する点
において,一定の抵抗値を有する通常の抵抗器とは異なるものの,出力
側の電流を制限する機能を有しているという点では「抵抗」に該当する
ことは明白である。
イ 被告の反論
被告製品は,構成要件1−B及び構成要件2−Bを充足しない。
a) 被告製品は,カレントミラー回路を介して充電及び放電がされるもの
であり , 充電抵抗を通して充電され」「放電抵抗を通して放電される 」
「 ,
ものではない。
カレントミラー回路の出力側の電流は,基準側の電流に比例するだけ
であり,抵抗器の場合のようにかかった電圧に比例するものではないか
ら,この点で抵抗器と異なる。
被告製品がカレントミラー回路を介して充電している理由は,主に精
度のためである。すなわち,抵抗器を流れる電流で直接コンデンサに充
電する場合には ,充電が進むにつれて,コンデンサの電圧が上がるため ,
電流が小さくなっていき ,電圧の上昇がしきい値付近でゆっくりになる 。
このため,しきい値がばらつくと周波数が大きくずれてしまう。これに
対して,カレントミラー回路を介した場合には,コンデンサが一定の電
流で充電されるから,電圧が直線的に上昇することになり,しきい値の
前後でも電圧上昇率が一定で小さくならない。このため,ICのしきい
値がばらついても,発振器の周波数はそれほどずれなくなり,周波数精
度を高めるという利点がある。
b) 原告は,構成要件1−B及び2−Bの文言は「抵抗」であり「抵抗器」
ではないから,カレントミラー回路も「抵抗」に該当すると主張する。
しかし,原告主張では,あらゆる回路素子は何らかの値の「抵抗」であ
るから,要件として意味がないことになってしまう。構成要件1−B及
び2−Bの「抵抗」が「抵抗器」の意味であることは明らかである。
(2) 争点2(被告製品の構成は,構成要件1−C及び2−Cと均等か 。)につ
いて
ア 原告の主張
周波数の変動をクロック信号の計数が所定回数に達することにより行う
という被告製品の構成は,構成要件1−C及び2−Cの「上向きのランピ
ング電圧に応答して」と均等である。
a) 安定器制御用集積回路は,所定の周波数で発振する発振回路を含んで
おり,その周波数をプレヒートモード,イグニッションランプモード,
ランモードの順に低くなるよう制御する必要がある 。本件各特許発明は ,
この周波数の変動の制御を,発振回路の時定数を決定するコンデンサと
抵抗のうち,充電抵抗と放電抵抗の少なくとも一方を変更することで実
現する点に特徴がある。また,それぞれのモードを急激に切り換えるの
ではなく,プレヒートモード,イグニッションランプモード,ランモー
ドと円滑に切り換えることも,本件各特許発明の本質的部分に当たる。
ランピング電圧の上昇に伴って周波数を変動するようにしているの
は,プレヒートモード又はイグニッションランプモードに必要な時間を
設定するためであり,コンデンサが充電されて所定の電圧まで上昇する
時間を各モードに必要な時間として利用するのが,本件各特許発明にお
けるランピング電圧の役割である。
被告製品は,Ctimerピンに接続されたコンデンサCtimer
の容量により定まる周波数のクロックに基づいて,これらモードの移行
を制御するものの,ある動作 モード )
( に必要な時間を設定するために ,
コンデンサの充電時間を用いることも,クロック信号を計数することも ,
周知の事項であり,いずれを選択するかは設計事項に過ぎない。
したがって,この点の相違は本件各特許発明の本質的部分ではない。
被告は,本件各特許発明は,部品点数ないし構成素子数を減らすとこ
ろに意義があるのに対し,被告製品は構成素子が多くても確実に所定の
動作をするようにした回路構成となっているので,本質的部分が異なる
旨主張する。確かに,本件各特許発明は,従来技術において,充電抵抗
を変更する手段として用いられていたコンパレータを不要とすることで
回路の簡素化を可能とするものである。しかし,被告製品も,充電抵抗
を変更する手段においてコンパレータを不要とする構成を採用してお
り,この点では,本件各特許発明と同様に回路の簡素化を行っている。
被告製品の構成素子数が,本件各特許発明と無関係な部分でいくら多か
ろうと,それは本件とは無関係な議論である。したがって,本件各特許
発明と被告製品は,本質的部分において異なるところはない。
b) ある動作(モード)に必要な時間を設定するために,コンデンサの充
電時間を用いても,クロック信号を計数しても,結果は同じであり,周
波数の変動の制御を,発振回路の時定数を決定するコンデンサと抵抗の
うち,充電抵抗と放電抵抗の少なくとも一方を変更することで実現する
ことができる。
よって,この相違点を置換することは可能である。
被告は,本件各特許発明は,回路の簡素化を内容とするものであるの
に対し,被告製品は,回路の構成素子数が増加しているから,置換可能
性を欠くと主張する。しかし,ここで問題としているのは,充電抵抗の
変更とそれに伴う周波数の変動を,ランピング電圧の上昇により行うこ
とと,クロック信号の計数が所定回数に達することにより行うこととの
置換可能性であるから,被告の主張は的外れであり,反論になっていな
い。
c) ある動作(モード)に必要な時間を設定するために,コンデンサの充
電時間を用いることも,クロック信号を計数することも,周知の事項で
あり,いずれを選択するかは設計事項にすぎない。
したがって,この相違点を置換することは容易である。
d) 本件各特許発明のランピング電圧の上昇を被告製品のクロック信号の
計数に置換したとしても,本件各特許発明の構成は,公知技術と同一又
は当業者が出願時に容易に推考できたものとはいえない。
e) 被告製品が出願手続において本件各特許発明の請求項から意識的に除
外されたものに当たる等の特段の事情は認められない。
イ 被告の反論
周波数の変動をクロック信号の計数が所定回数に達することにより行う
という被告製品の構成は,構成要件1−C及び2−Cの「上向きのランピ
ング電圧に応答して」と均等とはいえない。
a) 本件明細書によれば,本件各特許発明は,コンパレータの数を節約し
て,最小の部品点数ないし構成素子数で構成できるようにするところに
意義がある。これに対し,被告製品は,むしろ反対に,コンパレータの
数も余計に使っており,構成素子数が多くても確実に所定の動作をする
ようにした回路であり,本件各特許発明とは本質的に違ったものである 。
また,本件各特許発明は ,「ランピング電圧」との文言のとおり,コ
ンデンサに充電が進むことによってダラダラと電圧が上昇することを利
用して変更のタイミングをとっており,その際,弊害を無視して,コン
パレータを省き ,FET 本件公報の 図5 〕
( 〔 の46がこれに該当する 。)
だけにするというものである。これに対し,被告製品は,発振周波数変
更のタイミングをデジタル回路でクロック信号をカウントして決めてお
り,デジタル信号であるカウンタの出力によって,カレントミラー回路
の電流値を切り換えている。両者はコンパレータが入っていない点で共
通するとしても,被告製品は,ダラダラとした上昇を利用するのではな
く,デジタル信号を利用するからコンパレータを必要としないのであり ,
本件各特許発明とは全く違う。
さらに,原告は ,「ランピング電圧」の「上昇」が少しずつ進むのに
つれて少しずつ抵抗,ひいては発振周波数が変化するという点に,本件
各特許発明と後記の乙4発明との差異があるというのであるから,この
点が本件各特許発明の本質的部分であることは明らかである。
被告製品において,周波数の変動をクロック信号の計数が所定回数に
達することにより行うことと,本件各特許発明の構成要件1−C及び2
−Cにおける「上向きのランピング電圧に応答して…周波数を変動させ
る」との差異は,本質的部分の一つである。
b) ボールスプライン事件最高裁判決は, 特許発明の目的」に照らして,

置き換えても同様に目的を達することが要件であるとしている。本件明
細書によれば,本件各特許発明が簡素化を内容とするものであるのに対
し,被告製品の構成素子数はむしろ増加しているのであるから,置換可
能ではない。原告は切替のところにはコンパレータがないと主張するも
のの,カウンタ等の回路がなければ動作しないのであるから,無意味な
比較である。
(3) 争点3(被告製品の構成は,構成要件1−D及び2−Dと均等か 。)につ
いて
ア 原告の主張
a) 被告製品における周波数の変動は,3つのカレントミラー回路をモー
ドの移行に伴い順次切り離すことにより,カレントミラー回路内の抵抗
を切断するよう制御することで実現されている。被告製品は,その周波
数の計測結果から明らかなとおり,周波数が円滑に変動するようになっ
ているから ,「前記ランピング電圧が上昇するにつれて」を除き,構成
要件1−D及び2−Dを充足する。
b) 上記(1)アと同じ理由により,被告製品のカレントミラー回路を用い
た構成は,構成要件1−D及び2−Dの 前記充電抵抗と前記放電抵抗 」

を充足する。
c) 上記(2)アと同じ理由により,周波数の変動をクロック信号の計数が
所定回数に達することにより行うという被告製品の構成は,構成要件1
−D及び2−Dの「前記ランピング電圧が上昇するにつれて」と均等で
ある。
イ 被告の反論
a) 被告製品の発振周波数が穏やかに変化するのは,別の回路(スイープ
回路)を加えることで達成されている。したがって,構成要件1−D及
び2−Dは「前記ランピング電圧」に合わせて円滑に「変更」すること
を意味するとの原告の主張によれば,被告製品は構成要件1−D及び2
−Dを充足しない。
b) 上記(1)イと同じ理由により,被告製品のカレントミラー回路を用い
た構成は,構成要件1−D及び2−Dの 前記充電抵抗と前記放電抵抗 」

を充足しない。
c) 上記(2)イと同じ理由により,周波数の変動をクロック信号の計数が
所定回数に達することにより行うという被告製品の構成は,構成要件1
−D及び2−Dの「前記ランピング電圧が上昇するにつれて」と均等と
はいえない。
(4) 争点4(被告製品の構成は,構成要件2−Eと均等か 。)について
ア 原告の主張
a) 被告製品における周波数の変動は,三つのカレントミラー回路をモー
ドの移行に伴い順次切り離すことにより,カレントミラー回路内の抵抗
を切断するよう制御することで実現されている。被告製品は,その周波
数の計測結果から明らかなとおり,周波数が円滑に変動するようになっ
ているから ,「前記ランピング電圧が上昇するにつれて」を除き,構成
要件2−Eを充足する。
原告は,被告主張のように,構成要件2−Eは 前記ランピング電圧 」

を直接にうけて 円滑に変更する 」
「 ことを意味するとは主張していない 。
本件各特許発明と後記の乙4発明との重要な相違は,乙4発明が点灯傾
斜用のコンデンサを用いている点にあるのではなく,乙4発明がモード
切替にコンパレータを用いていることにあるのである。
b) 上記(1)アと同じ理由により,被告製品のカレントミラー回路を用い
た構成は,構成要件2−Eの「前記充電抵抗と前記放電抵抗」を充足す
る。
c) 上記(2)アと同じ理由により,周波数の変動をクロック信号の計数が
所定回数に達することにより行うという被告製品の構成は,構成要件2
−Eの「前記ランピング電圧が上昇するにつれて」と均等である。
イ 被告の反論
a) 被告製品の発振周波数が穏やかに変化するのは,別の回路(スイープ
回路)を加えることで達成されている。したがって,構成要件2−Eは
「前記ランピング電圧」を直接にうけて「円滑に変更」することを意味
するとの原告の主張によれば,被告製品は構成要件2−Eの「円滑に変
更」を充足しない。
b) 上記(1)イと同じ理由により,被告製品のカレントミラー回路を用い
た構成は,構成要件2−Eの「前記充電抵抗と前記放電抵抗」を充足し
ない。
c) 上記(2)イと同じ理由により,周波数の変動をクロック信号の計数が
所定回数に達することにより行うという被告製品の構成は,構成要件2
−Eの 前記ランピング電圧が上昇するにつれて 」
「 と均等とはいえない 。
(5) 争点5(本件特許は無効とされるべきものか)について
ア 被告の主張
本件各特許発明は,特開平11−260583号公報(乙4 。以下 , 乙

4公報」といい,これに記載された発明を「乙4発明」という 。 ,EP

0059064A1公報(乙5。以下 ,「乙5公報」といい,これに記載
された発明を「乙5発明」という 。)に記載された公知の発明と同一であ
り,若しくは,これに基づいて当業者が容易に発明をすることができたも
のであるから,特許法29条1項又は同条2項の規定に違反して特許され
たものである。したがって,本件特許は,特許無効審判により無効にされ
るべきものであり,同法104条の3第1項により,原告の本件特許権の
行使は許されない。
a) 乙4発明による新規性の欠如について
① 乙4発明は,蛍光ランプの点灯のためのICであり,五つの基本動
作モードを持ち,これは可変周波数の発振によるものであるから,構
成要件1−A及び2−Aを充足する。
② 乙4文献の図13の抵抗6が放電抵抗で,これを通してコンデンサ
Ctが放電される。乙4発明は,その電圧に応じて,充電サブサイク
ルと前記放電サブサイクルを切り換えて交互に行う回路であり,これ
を以て発振する。充電の際は,Ctピンに接続された定電流源による
(すなわちカレントミラー回路を通す)から,抵抗を通していないも
のの,原告主張の充電抵抗にはカレントミラー回路を含むとの解釈を
前提とすれば,乙4発明は,構成要件1−B及び2−Bを充足する。
③ 乙4文献の図13のCPHピンに接続されたコンデンサ24に充電
が進むことで電圧が上昇し,これが「上向きのランピング電圧」に当
たる 。この電圧がコンパレータに入力され ,コンパレータの他端子 負

性側端子)に4ボルトがかけられているので,4ボルトよりも高くな
ると,切替が起こって周波数を変動させる。よって,乙4発明は,構
成要件1−C及び2−Cを充足する。
④ 乙4発明においては,予熱時(プレヒート時)は,Rtに加えて抵
抗16が並列になって充電抵抗となり,コンデンサ24の電圧が上昇
して4ボルトを越えると,コンパレータが切り換わって,抵抗16が
切り離され,これによって充電抵抗が「変更」されて周波数が変化す
る「周波数可変回路」であるから,構成要件1−D及び2−Dを充足
する。
原告は,構成要件1−D及び2−Dの「ランピング電圧が上昇する
につれて…抵抗…を変更する」とは,ランピング電圧の変化に応じて
抵抗値が変わることであり,抵抗値が階段状に切り換わる場合を含ま
ないから,乙4発明のように,充電抵抗・放電抵抗の切り換えにコン
パレータを用いた従来の回路は構成要件1−D及び2−Dを充足しな
いと主張する。しかし,字義からすれば,上昇に応じてさえいれば,
ある段階で不連続に切り換わるというのでも該当するというのが通常
の理解であるし,請求項6に従属する請求項7においては,構成要件
2−Eとして「円滑」に変化する旨が追加して規定されている。さら
に,同じく請求項6に従属する請求項8においては ,「コンパレータ
を含まない」とされている。これらの要件のない請求項6には ,「コ
ンパレータを用いた従来の回路」であっても含まれると解釈するのが
当然であり,構成要件1−D及び2−Dについての原告の主張は失当
であって,乙4発明は,構成要件1−D及び2−Dを充足する。
⑤ 構成要件2−Eの「円滑に変更する」の意味は不明瞭であるが,乙
4発明も発振が途切れないように切替がなされているから,構成要件
2−Eを充足する。
原告は,構成要件2−Eは「前記ランピング電圧」を直接にうけて
「円滑に変更」することを意味するから ,コンパレータを介した上で ,
点灯傾斜用のコンデンサ28を利用している乙4発明は,構成要件2
−Eを充足しないと主張する。そのような原告の主張に従えば,被告
製品は構成要件2−Eを充足せず非侵害であることは上記(4)イ a)の
とおりであるものの,そもそも,構成要件2−Eは ,「前記ランピン
グ電圧が上昇するにつれて」でありさえすれば ,「前記ランピング電
圧」の穏やかな上昇を直接にうけての「円滑」ではなくてもいいもの
と考えられる。そうであれば,別の点灯傾斜用コンデンサの働きによ
りスムーズな周波数変更という目的を達している乙4発明も,構成要
件2−Eを充足する。
b) 乙4発明による進歩性の欠如について
① 上記 a)のとおり,原告の解釈を前提とすれば,乙4発明は本件各
特許発明の構成要件をすべて充足する。
② 仮に,乙4発明が構成要件1−B及び2−Bの「充電抵抗を通して
充電され」を充足しないとしても,乙4発明は,放電については「放
電抵抗を通して」いるのであるから,当業者は,充電についても同様
にすることを容易に想到できる。
③ 仮に,構成要件1−D及び2−Dの「ランピング電圧が上昇するに
つれて」を限定解釈して,乙4発明が構成要件1−D及び2−Dを充
足しないとしても,乙4発明でも,円滑な周波数の変更は実現してい
るのであるから,乙4発明と構成要件1−D及び2−Dの相違は些末
であり,当業者は乙4発明に基づき構成要件1−D及び2−Dに容易
に想到できる。
④ 仮に,乙4発明が構成要件2−Eを充足しないとしても,乙4発明
でも,円滑な周波数の変更は実現しているのであるから,乙4発明と
構成要件2−Eの相違は些末であり,当業者は乙4発明に基づき構成
要件2−Eに容易に想到できる。
c) 乙4発明及び乙5発明による進歩性の欠如について
① 上記 a)のとおり,原告の解釈を前提とすれば,乙4発明は本件各
特許発明の構成要件をすべて充足する。
② 仮に,構成要件2−EがFETのゲート電圧が段々と変化している
のでゆっくり切断されるという限定した意味であり,乙4発明が構成
要件2−Eを充足しないとしても,乙5公報には,FETの伝導性が
段々と変化していくことを,蛍光灯などの放電灯の電子点灯回路の周
波数の切替のために利用することが開示されているから( FIG.

5A」のC17の電圧が次第に変化し,これに応じてFET2の伝導
性が次第に変化する 。 ,乙4発明と乙5発明とを組み合わせること

で,本件各特許発明は容易に想到し得るものであり,進歩性がない。
d) 乙5発明による進歩性の欠如について
上記 c)②のとおり,乙5公報には,FETの伝導性が段々と変化し
ていくことを,蛍光灯などの放電灯の電子点灯回路の周波数の切替のた
めに利用することが開示されているから,本件各特許発明は,乙5発明
に基づき,容易に想到し得るものであり,進歩性がない。
イ 原告の反論
本件各特許発明は,乙4発明と同一ではなく,乙4発明又は同発明と乙
5発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものでもなく,特
許法29条1項及び同条2項に該当するものではない。したがって,本件
特許は,特許無効審判により無効にされるべきものには当たらない。
a) 本件各特許発明の回路は,コンデンサ24の電圧の上昇に応じて,ス
イッチ(PMOS)46をゆっくり開き,RPHピンがRTピンからゆ
っくり切断される。
構成要件1−D及び2−Dの「ランピング電圧が上昇するにつれて…
抵抗…を変更する」とは,ランピング電圧の変化に応じて抵抗値が変わ
ることである。具体的には,RPHピンの回路を徐々に切り離すことに
より,抵抗器16を流れる電流を少なくして,実質的に抵抗値を滑らか
に変化させることであり,抵抗器を接続するか否かの択一的な切り換え
を行うことではない。
なお,コンパレータを用いて抵抗器を切り換える場合には,コンパレ
ータに入力される電圧が一定値を超えたところで抵抗器の切り換えが発
生し,抵抗値が階段状に段階的に切り換わることになるから,構成要件
1−D及び2−Dを充足しない。
b) 乙4公報の図13の回路では,コンデンサ24の電圧が4V以下のと
き,抵抗器16はアースに接続される。つまり,抵抗器16は,RTピ
ンとアースとの間の抵抗器RTと並列に接続される。コンデンサ24の
電圧が4Vを超えると,コンパレータが切り換わってMOSFETがO
FFになり,抵抗器16は回路素子として機能しなくなる。すなわち,
しきい値電圧4Vを境に,抵抗器16をRPHピンに接続するか否かの
択一的な制御を行っている。
また,乙4公報の図2,表4には,点灯傾斜のためのコンデンサ28
をRPHピンに接続することが記載されており,このコンデンサ28が ,
抵抗器16がアースから切り離されても,コンデンサ28に充電されて
いる間だけ抵抗器16に電流が流れるようにして,点灯傾斜を実現して
いる。
c) したがって,乙4発明は,構成要件1−D及び2−Dを充足しない。
また,本件各特許発明は,充電抵抗・放電抵抗の切り換え回路にコン
パレータを不要とすることで簡素化したのみならず,点灯傾斜用のコン
デンサも不要とするという技術的思想であり,従来の回路から単純にコ
ンパレータを削除しても円滑な点灯傾斜が実現されるわけではないか
ら,乙4発明に基づいて本件各特許発明のような回路構成を当業者が容
易に想到できるわけではない。
d) 被告は,構成要件1−D及び2−Dにはモード切替が円滑に行われな
いものを含む旨主張する。しかし,被告主張のように「ある段階で不連
続に切り換わる」ことを意味するのであれば ,「電圧が所定のしきい値
を越えた場合に」と規定すべきであるにもかかわらず,構成要件1−D
及び2−Dはそのように規定されていない。 上昇するにつれて 」とは,

その文言上,電圧の連続的変化に応じて連続的に変更する,すなわち円
滑に変更するという意味であることが明らかである 。「ランピング」と
いう文言も,傾斜という意味を有しているから ,「ある段階で不連続に
切り換わる」という解釈は妥当でない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告製品の構成は,構成要件1−B及び2−Bを充足するか 。)に
ついて
( 1) 構成要件1−B及び2−Bにおいて ,「抵抗」という文言は ,「各充電サ
ブサイクル中に充電抵抗を通して充電され,各放電サブサイクル中に放電抵
抗を通して放電されるコンデンサ 」(下線は当裁判所が付加した 。)という
文脈において用いられている。
すなわち,ここにいう「抵抗」とは,コンデンサの充電及び放電の際に,
それを介して電流を流すという役割を有する回路の一構成要素として,あえ
て記載されているものである。
また,本件明細書において,この「抵抗」を明確に定義した記載はないも
のの ,( 発明の実施形態の詳細な説明 )
「 」欄には,構成要件1−B及び2−
Bが規定する「発振回路」並びにコンデンサの充電及び放電に関し ,「図4
は,本発明による発振回路10の詳細回路図である 。 ( 0013 】 ,
」【 ) 「M
OSFET24を“オン”にし,それにより,タイミングコンデンサC Tは
デッドタイム抵抗器28を介してCOMに放電し続ける 。 ( 0016 】 ,
」【 )
「MOSFETスイッチ24は“開 ”になり ,スイッチ30は“閉”になる。
その結果,タイミングコンデンサC Tは,以下の式で示す速度でタイミング
抵抗器R T を介してVCCに向かって指数関数的に充電する 。 ( 002
」【
1】 ,
) 「スイッチ36は“閉”になり,スイッチ30は“開”になり,スイ
ッチ24は“閉”になる。その場合,タイミングコンデンサC Tは,以下の
式で示す速度でデッドタイム抵抗器28を介してCOMに向かって指数関数
的に放電する 。 ( 0024 】
」【 )と記載されており,タイミングコンデンサ
C T がデッドタイム抵抗器28,タイミング抵抗器R Tという「抵抗器」を
介して充電及び放電することが開示されている。
以上によれば,構成要件1−B及び2−Bの「抵抗」とは,回路に電気抵
抗を与えるために用いる器具ないし素子である「抵抗器」を意味すると解す
るのが相当である。
(2) 被告製品は,コンデンサへの充電及び放電をカレントミラー回路を介して
行っており,カレントミラー回路は「抵抗器」には該当しないものであるか
ら(弁論の全趣旨),構成要件1−B及び2−Bを充足しない。
(3) これに対し,原告は,構成要件1−B及び2−Bの「抵抗」には,カレン
トミラー回路のように構成素子や回路の一定の電気的特性を利用することで
回路を流れる電流量を制限し得るものが含まれると主張する。
しかし,単なる配線にも抵抗は存在するものであり,上記( 1)のとおり,
あえて特許請求の範囲に「充電抵抗を通して 」 「放電抵抗を通して」と記

載されていることからすると,原告の主張が単なる配線をもこれに含む趣旨
であれば,その主張を採用することはできない。また,抵抗器を介して流れ
る電流は,かかった電圧に比例し,コンデンサへの充電が進むにつれて,コ
ンデンサの電圧の上昇により小さくなっていくのに対し,カレントミラー回
路の出力側の電流は,基準側の電流に比例し,コンデンサの電圧の上昇にも
かかわらず,一定の大きさであり,抵抗器による電流量の制限とカレントミ
ラー回路による電流量の制限とはその性質を異にするものである(弁論の全
趣旨 )。本件明細書には,このように抵抗器とは性質を異にする電流量の制
限を達成し得るものが「抵抗」の中に含まれることを明らかにした記載がな
いことはもちろんのこと,このような解釈を示唆する記載も見当たらず,当
業者において,そのように解釈することは困難である。そうすると,仮に,
原告の主張が単なる配線は含まない趣旨であったとしても,原告の主張を採
用することはできない。
2 争点2(被告製品の構成は,構成要件1−C及び2−Cと均等か 。)につい

上記1によれば,被告製品は,本件各特許発明の技術的範囲に属しないとい
うべきであるが,事案の内容に鑑み,さらに進んで,争点2も判断する。
(1) 本件明細書には,次の記載がある(甲2。下線は当裁判所が付加した 。 。

ア「本発明は,蛍光ランプまたは高輝度放電ランプを制御するための電子安
定器(electronic ballast)に関し,より詳細には,必要とする内部および外
部構成要素がより少ない電子安定器に関する 。 ( 発明の背景 〕
」〔 【000
1】)
イ「一般に知られている安定器内のように ,’623号特許の安定制御回路
では,CPHピンを固定しきい値と比較するためのコンパレータを含むプ
レヒートタイマの実現が必要である。さらに,この発振回路では複数のコ
ンパレータを必要とする。上記および他の構成上の詳細により,チップの
内側と外側の両方で追加の構成要素が必要になる。したがって,内部およ
び外部構成要素の数を最小限にしながら,主要安定器機能を実行する安定
制御ICを提供することにより ,従来技術を改善することができる。 〔発


明の背景 〕【0007】)
ウ「本発明は,使用するコンパレータが少なく,サブ回路( sub-circuit)の
機能を結合し,それにより,必要な内部および外部構成要素の数を削減す
る電子安定器を提供することにより,前述のような従来技術の欠点を克服
するものである。 ( 発明の概要〕
」〔 【0008】)
エ「より具体的には,本発明のチップは,コンパレータ回路を1つ必要とす
るだけであることが好都合な発振回路を含む。さらに,ランププレヒート
回路はタイミング抵抗器( timing resistor)と並列のプレヒート抵抗器
(preheat resistor)を使用してプレヒート周波数(preheat frequency)をプ
ログラミングし,MOSFETスイッチのゲートの電圧はランピング
( ramp)し,周波数タイミング入力からプレヒートピンを(したがって
プレヒート抵抗器も)徐々に切り離す( disconnect) 」〔発明の概要 〕
。( 【0
009】)
オ「図4は,本発明による発振回路10の詳細回路図である。従来の安定器
ICとは対照的に,この発振回路はコンパレータ12を1つ必要とするだ
けであることが好都合であり,したがって,シリコン内に実施するのに必
要なレイアウト空間を大幅に削減する。したがって,ICの全体的なサイ
ズを縮小することができる 。 ( 発明の実施形態の詳細な説明 〕
」〔 【001
3】)
カ「本発明のこの好ましい発振器は,以前の安定器ICの発振回路より回路
数が少なくなり,特に,必要なコンパレータは1つだけになる 。 ( 発明
」〔
の実施形態の詳細な説明〕【0032】)
キ「図5は,本発明の好ましい実施形態によるプレヒート回路40の回路図
である。都合の良いことには,プレヒート回路40はコンパレータを一切
必要としない 。 ( 発明の実施形態の詳細な説明 〕
」〔 【0033】)
ク「プレヒート中は,このICがより高いプレヒート周波数で発振すること
が必要である。これに続いて,イグニッション周波数から最終的なランま
たは最小周波数への円滑な下方掃引が発生する。これを行うために,外部
コンデンサC PH は,CPHピンから流れ出る内部の5μAの電流源44
によりCOMからVCCへ線形に充電される。また,CPHピンはPMO
Sトランジスタ46のゲートにも接続され,このトランジスタがピンRP
HとピンRTを接続する。この構成では,プレヒート中に発振器周波数が
より高くなるように,抵抗器R Tが抵抗器RPHに並列に接続されている。
PMOSのしきい値は約1.5ボルトなので,プレヒート期間は,コンデ
ンサC PH がCOMから(VCC−1.5ボルト)までランプ( ramp)す
るのに要する時間として定義される。コンデンサC PH が(VCC−1.
5V)からVCCまで充電し続けるにつれて,スイッチ46はゆっくり開
き,それにより ,ピンRPHがRTからゆっくり切断される。これにより ,
周波数は ,プレヒート周波数から最終ラン周波数までゆっくり遷移する 図

7のタイミング図を参照) 」 発明の実施形態の詳細な説明〕 0034 】
。〔
( 【 )
ケ「プレヒート回路40の有利な特徴は,1)抵抗器R Tに並列な抵抗器R
PH を使用してプレヒート周波数をプログラミングすること,2)PMO
S46のゲートにおける電圧をランピング( ramping)してRPHピンを
RTピンから円滑に切断すること,3)既存のコンデンサC PH ランプを
イグニッション用のランプ( ramp)としても使用することである。プレ
ヒートタイマの古典的な実施例では,CPHピンを固定しきい値と比較す
るためのコンパレータが必要である。本発明のプレヒート回路40で上記
の3つの機能を結合することにより ,“コンパレータなし”のプレヒート
タイマが実現され,それにより,ICの全体的なサイズが縮小される 。」
( 発明の実施形態の詳細な説明〕
〔 【0035】)
(2) 本件明細書の上記記載によれば,本件各特許発明は,従来の安定制御回路
では,複数のコンパレータが必要となり,チップの内側と外側の両方で追加
の構成要素が必要になるという課題を解決するために(上記(1)イ ),コン
パレータの使用を少なくし,サブ回路の機能を結合することにより,必要と
される内部構成要素及び外部構成要素の数を削減した電子安定器を提供する
ものである(上記(1)アないしウ )。そして,本件明細書においては,本件
各特許発明では,従来の安定器ICとは対照的に,発振回路に必要なコンパ
レータが一つだけであること(上記(1)エないしカ ),プレヒート回路には
コンパレータを一切必要としないこと(上記(1)キ,ケ)が「好都合」であ
ることが強調され,使用するコンパレータの数を最小限としたことにより,
ICの全体的なサイズが縮小されることが記載されている 上記(1)オ , )
( ケ 。
そうすると,本件各特許発明は,安定制御ICで使用するコンパレータの
数を減らすこと,また,安定制御ICの内部構成要素及び外部構成要素の数
を最小限にすることをその目的とし,そのために次のような実施例を開示す
るものであると認められる。
「 発明の実施形態の詳細な説明 )
( 」欄に開示された実施例においては,
プレヒート回路に使用するコンパレータの数の減少は ,「CPHピンを固定
しきい値と比較するためのコンパレータ」を削減して,CPHピンをPMO
Sトランジスタ46のゲートに直接接続することにより実現されており,そ
の結果として,コンデンサC PH に接続されたCPHピンの電圧が上昇し続
けるにつれて,スイッチの役割を果たすPMOSトランジスタ46がゆっく
り開いて,抵抗器R Tと並列接続された抵抗器RPHの接続をゆっくり切断し ,
周波数をゆっくり遷移させていることが認められる。
これを前提に,構成要件1−C及び2−Cの「上向きのランピング電圧に
応答して」の意義を検討すると,本件各特許発明において,周波数の変更を
「上向きのランピング電圧に応答して」行うことは,使用するコンパレータ
の数を減らすという本件各特許発明の目的を達成するために,従来コンデン
サとMOSトランジスタのゲートの間に設けられていたコンパレータを削除
して,コンデンサとMOSトランジスタのゲートとを直結したことの必然的
な帰結であって,単に各モードに必要な時間を設定するためだけのものでは
ないと認められる。
したがって,構成要件1−C及び2−Cの「上向きのランピング電圧に応
答して…周波数を変動させる」ことと,被告製品の「クロック信号の計数が
所定回数に達することにより周波数を変動させる」という構成との差異は,
本件各特許発明の本質的部分に係る差異であると認められる。
また,被告製品は ,「クロック信号の計数が所定回数に達することにより
周波数を変動させる」という構成を採用するために,タイマ発振器及びカウ
ンタから成るタイマ回路を設けており,このような被告製品の構成は,IC
の内部構成要素の数を最小限にするという本件各特許発明の目的に反してい
ると考えられ,この点からも,上記の差異は,本質的な差異であるというこ
とができるし,上記構成に置換することで,本件各特許発明の目的を達する
ことができなくなったというべきである。
なお,構成要件1−C及び2−Cの「上向きのランピング電圧に応答して
…周波数を変動させる」とは,電圧の上昇に応じて周波数を徐々に変動させ
ることを意味すると解されるから,被告製品の「クロック信号の計数が所定
回数に達することにより周波数を変動させる」という構成自体では,同一の
作用効果を奏しているということもできない。
(3) 以上によれば,被告製品の構成は,構成要件1−C及び2−Cと均等なも
のであると解することはできない。
3 争点3(被告製品の構成は,構成要件1−D及び2−Dと均等か 。)及び争
点4(被告製品の構成は,構成要件2−Eと均等か 。)について
上記1及び2で述べたところによれば,被告製品の「クロック信号の計数が
所定の回数に達することによりカレントミラー回路により周波数を変動させ
る」との構成は,構成要件1−D及び2−Dの「前記ランピング電圧が上昇す
るにつれて前記充電抵抗と前記放電抵抗の少なくとも一方を変更する周波数可
変回路」と均等なものであると解することはできないし ,構成要件2−Eの 前

記周波数が円滑に変動するように前記ランピング電圧が上昇するにつれて,前
記周波数可変回路は前記充電抵抗と前記放電抵抗の少なくとも一方を変更す
る」と均等なものであると解することもできないことは明らかである。
4 結論
よって,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,いず
れも理由がないから,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 設 樂 隆 一
裁判官 関 根 澄 子
裁判官 古 庄 研

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