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平成19(行ケ)10180審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年12月25日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官肥塚雅博
原告株式会社カネミツ
法令 意匠権
意匠法3条1項3号1回
キーワード 審決40回
新規性2回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成17年5月2日,別紙審決書添付の図面第1(以下「図面第 1」という。)記載の意匠(以下,審決と同様に「本願意匠」という。)につ き,意匠に係る物品を「プーリー」とし,本意匠の表示を意願2005−12 995号とする関連意匠の意匠登録を出願した(意願2005−12996号。 以下,この出願に係る願書(甲第1号証)を「本件願書」という。)が,平成 18年2月8日付けの拒絶査定を受けたため,同年3月20日,これに対する 不服の審判を請求した。

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判決文

平成19年12月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成19年(行ケ)第10180号 審決取消請求事件
平成19年10月30日口頭弁論終結
判 決
原告 株式会社カネミツ
訴訟代理人弁理士 鈴江正二,木村俊之
被告 特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人 鍋田和宣,岩井芳紀,森山啓
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2006−5115号事件について平成19年3月30日にし
た審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成17年5月2日,別紙審決書添付の図面第1(以下「図面第
1」という。)記載の意匠(以下,審決と同様に「本願意匠」という。)につ
き,意匠に係る物品を「プーリー」とし,本意匠の表示を意願2005−12
995号とする関連意匠の意匠登録を出願した(意願2005−12996号。
以下,この出願に係る願書(甲第1号証)を「本件願書」という。)が,平成
18年2月8日付けの拒絶査定を受けたため,同年3月20日,これに対する
不服の審判を請求した。
特許庁は,上記審判請求を不服2006−5115号事件として審理した結
果,平成19年3月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
をし,同年4月23日,審決の謄本が原告に送達された。
2 審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願意匠は,別紙審決書添付
の図面第2記載の意匠(意匠登録第833605号(甲第2号証)。以下,審
決と同様に「引用意匠」という。)と類似するものであり,引用意匠は意匠に
係る物品を「動力伝導用プーリー」とするものであって,本願意匠の「プーリ
ー」と共通するから,意匠法3条1項3号の規定により意匠登録を受けること
ができないとするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,本願意匠と引用意匠との共通点及び差異
点を次のとおり認定した。
(1) 共通点
全体は,プーリーの外側を奥行きの短い略円筒状とし(以下,審決と同様
に「外側円筒部」という。),その背面中央より正面に向かって略短円筒状
の突出した部分(以下,審決と同様に「中央円筒部」という。)を背面で一
体状に形成し,外側円筒部の正面の前端寄りから斜め前方に突出した前方の
耳部および背面の後端寄りから斜め後方に突出した後方の耳部をそれぞれ形
成し,前後両方の耳部の間に等間隔複数の溝を形成してベルト受け部として
形成した態様が認められ,その具体的な態様の共通点として,
中央円筒部は,背面より前方に屈曲した部分および正面の内側に屈曲した部
分をいずれもやや大きな丸面状とし,正面中央に円形状の孔を設け,その前
端を前方の耳部よりも背面寄りの後方としている点,
前方の耳部は,正面に斜め内側向きの斜面部分を形成し,その前端が角張っ
ている点,
後方の耳部は,背面に斜め内側向きの斜面部分を形成し,その後端が角張っ
ている点,
前後両方の耳部先端のベルト受け部側をごく細幅の浅い溝状とし,いずれの
耳部も外径がほぼ同じである点,
ベルト受け部の溝は,谷部分と山部分を断面視略「V」字形状のほぼ相似形
とし,最大径が前後両方の耳部よりもやや短い点
(2) 差異点
具体的な態様の差異点として,
(1)外側円筒部の奥行きに対する中央円筒部の突出の程度について,本願
意匠は,中程よりもやや前端寄りであるのに対し,引用意匠は中程である点,
(2)外側円筒部に対する中央円筒部の外径の比について,本願意匠は約2
分の1であるのに対し,引用意匠は約3分の2である点,
(3)中央円筒部の内側について,本願意匠は,ベアリング機構を装着して
いるのに対し,引用意匠は,ベアリング機構を装着していない点,
(4)中央円筒部の背面の態様について,本願意匠は,ごく緩やかな外膨ら
み状であるのに対し,引用意匠は,外膨らみのない平滑面状である点,
(5)前方の耳部先端の正面側部分の態様について,本願意匠は,平滑面状
であるのに対し,引用意匠は,ごく浅い匙面状である点,
(6)後方の耳部先端の背面側部分の態様について,本願意匠は,小さな丸
面状であるのに対し,引用意匠は,ごく浅い匙面状である点,
(7)外側円筒部の内側の側面の態様について,本願意匠は,凹凸のない平
滑面状であるのに対し,引用意匠は,複数の低い畝状の凹凸を形成している

(以下,(1)ないし(7)の各差異点をそれぞれ「差異点1ないし7」と
いう。)
第3 審決取消事由の要点
審決は,差異点3及び4の判断を誤り(取消事由1及び2),本願意匠と引
用意匠との意匠全体としての類似性の判断を誤ったものであるところ,これら
の誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものと
して取り消されるべきである。
1 取消事由1(差異点3の判断の誤り)
(1) 本願意匠の要部の看過
本願意匠におけるベアリングと他の部分との具体的関係は,本願意匠の要
部に係る態様であるから,ベアリングを装着していない引用意匠と本願意匠
とは要部において相違するものである。
本願意匠の要部は,中央円筒部の開口縁から後方の耳部の付根部に至る幅
広(背面視で中央円筒部の内径の約2分の1程度)の環状部分を,径方向中
心寄りに頂部が偏った凸面状に後方に膨出させるとともに,中央円筒部内に
ベアリングを収容し,上記凸面状の環状部分からベアリングの背面に向かっ
て急激に落ち込ませて中央円筒部に大きな段差(中央円筒部の奥行きの約3
分の1の段差)の凹陥部を形成した点(以下「形態α」という。)である。
意匠登録第1292128号の意匠(甲第4号証。以下「甲4意匠」とい
う。)は,形態αを主要部分とする「プーリー」についての部分意匠であり,
形態αに新規性及び創作非容易性が認められたからこそ登録されたものにほ
かならないから,形態αは本願意匠の要部というべきである。
審決は,本願意匠の要部である形態αを看過し,差異点3の評価を誤った
ものである。
(2) 引用意匠にベアリングを装着した場合の類否
引用意匠にベアリングを装着した場合には,本願意匠と別異の印象を与え
ることになるから,差異点3は両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすもの
である。
JIS B1512「転がり軸受−主要寸法」の規格(甲第6号証)に規
定された寸法表(甲第6号証付表1.1∼1.8)を参照し,軸受外径が3
2mm前後かつ軸受内径が17mmよりも小さい寸法のものを引用意匠に圧入し
た場合に,「深みぞ玉軸受」の厚さがどの程度になるかについて検討すると,
引用意匠の中央円筒部にどのような寸法のベアリングを装着した場合でも,
引用意匠の中央円筒部内に引っ込んだ状態で収容されることはなく,ベアリ
ングが背面側へ出っ張ってしまう,あるいは,せいぜいベアリングの背面が
環状部分の平坦面と面一となる状態になり,本願意匠のよう凹陥部(形態α
において特定した凹陥部)が形成されることはない。
したがって,引用意匠にベアリングを装着した場合には,外観上,本願意
匠と大きく相違することになるから,両意匠は非類似というべきであり,審
決は,このような意匠的意義を考慮しなかったため,差異点3の判断を誤っ
たものである。
2 取消事由2(差異点4の判断の誤り)
差異点4の外膨らみ形状は,形態αに示すとおり,中央円筒部の凹陥部と相
侯って本願意匠の要部を構成しており,凹陥部が存在するがゆえに外膨らみ形
状が視覚的に強調されることになるから,差異点4は当然にこの凹陥部と組み
合わされて評価されるべきである。
本願意匠の環状部分は,幅広(背面視で中央円筒部の内径の約2分の1)で
あるのに対し,引用意匠の環状部分は幅狭(背面視で中央円筒部の内径の約4
分の1)である点で差異がある。審決は,環状部分の広狭について差異点とし
てすら認定していないが,形態αに示すとおり,差異点4は,かかる環状部分
の広狭に係る差異点と組み合わされて本願意匠の要部を構成しているものであ
る。
したがって,環状部分の広狭に係る差異点と組み合わされて評価すべきとこ
ろ,審決は,環状部分の広狭を差異点として認定していないから,差異点4の
評価を誤ったものである。
第4 被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(差異点3の判断の誤り)について
(1) 本願意匠の要部の看過について
原告が本願意匠の要部であると主張する形態αについて,「径方向中心寄
りに頂部が偏った」点は,図面からは判然とせず,形態全体としてみれば,
限られた部分の態様についての軽微な差異であるから,差異点としてあえて
摘記するまでもないことである。
次に,審決は,「中央円筒部内にベアリングを収容」した点は差異点3と
して認定しており,「環状部分からベアリングの背面に向かって急激に落ち
込ませて中央円筒部に大きな段差の凹陥部を形成した」とする点は具体的な
態様の共通点として「中央円筒部は,背面より前方に屈曲し」と認定してい
るから,原告主張の形態αについては,審決において実質的に認定され,判
断されていることは明らかであり,看過はない。
甲4意匠は,中央円筒部の突出側(本願意匠では前方)の大半部分及び後
方の耳部(本願意匠では前方の耳部)等の形態を除いた部分意匠であり,原
告主張の形態αとは形態の骨格的態様が異なるから,本願意匠と引用意匠と
の類否判断に影響するものではない。
原告主張の形態αは,この種の物品の分野においては,本願意匠の出願前
からありふれた形態であって,本願意匠の形態全体を特徴づける要素とはな
り得ないものである。
(2) 引用意匠にベアリングを装着した場合の類否について
本願意匠に使用されているベアリングの形状及び当該部位にベアリングを
装着することは,この種の物品の分野において周知であるから,本願意匠と
引用意匠の類否判断に際しては,審決における差異点3に認定した内容で十
分である。
審決は,ベアリングを装着した本願意匠とベアリングを装着していない引
用意匠を対比して,両意匠の類否判断をしたものであるから,引用意匠がベ
アリングを装着した場合を仮定して本願意匠と対比することは,失当である。
ベアリングを装着しているか否かがプーリーの形態全体の外観に与える影
響は,軽微なものにすぎない。
2 取消事由2(差異点4の判断の誤り)について
本願意匠の背面側全体は,環状部分と中央円筒部の凹陥部のみからなるもの
ではなく,耳部先端から斜面部分を経て前方(図面上は正面側)へ凹陥した環
状部分が更に中央円筒部の凹陥部と組み合わされ,耳部先端から中央円筒部の
内側に至る2段階の段落ち状に構成した態様である。
形態α(耳部の付け根部から中央円筒部の凹陥部に至る構成態様)が本願意
匠の形態全体を特徴づける要素となり得ないことは前記のとおりであり,「中
央円筒部の背面」(環状部分)を緩やかな外膨らみ状に形成した態様は,あり
ふれたものである。環状部分の円心方向の長さの長短,すなわち広狭がベアリ
ングの装着やベアリングの直径の大小などの機構上の必然性に左右される点を
考慮すると,環状部分の単なる広狭に伴う形態の構成比率についての多少の差
異は,形態全体を特徴づける要素とはなり得ないものであり,意匠の構成要素
として格別評価すべきものでもない。
そうすると,本願意匠の環状部分は,それ自体が耳部先端から斜面部分を経
て前方へ凹陥した部位であって,2段階の段落ち状に構成した態様の部分を形
成するに止まり,その外膨らみの態様はごく緩やかなものにすぎず,本願意匠
の背面側全体としてみれば,目立たない態様となるから,格別評価すべきもの
でもない。
したがって,差異点4に係る態様が環状部分の広狭に係る差異点と組み合わ
された意匠的な効果を考慮したとしても,両意匠の類似性についての判断を左
右するほどのものとして評価することはできない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(差異点3の判断の誤り)について
(1) 本願意匠の要部の看過について
原告は,形態α,すなわち「中央円筒部の開口縁から後方の耳部の付根部
に至る幅広(背面視で中央円筒部の内径の約2分の1程度)の環状部分を,
径方向中心寄りに頂部が偏った凸面状に後方に膨出させるとともに,中央円
筒部内にベアリングを収容し,上記凸面状の環状部分からベアリングの背面
に向かって急激に落ち込ませて中央円筒部に大きな段差(中央円筒部の奥行
きの約3分の1の段差)の凹陥部を形成した点」が本願意匠の要部であり,
審決は,これを看過したと主張する。
原告の主張する形態αのうち,「中央円筒部の開口縁から後方の耳部の付
根部に至る幅広の環状部分(審決の「中央円筒部の背面」に相当する。)を,
径方向中心寄りに頂部が偏った凸面状に後方に膨出させ」た点は,審決にお
いて,差異点4として「中央円筒部の背面の態様について,本願意匠は,ご
く緩やかな外膨らみ状である」と認定されている。
形態αの「径方向中心寄りに頂部が偏った」点について,本件願書の【斜
視図(2)】(図面第1の【斜視図(2)】と同じ)からはその態様が判然としな
いし,【A−A線断面図】(図面第1の【A−A線断面図】と同じ)で見る
と,指摘されて分かる程度のごくわずかな外膨らみであるものと認められる。
したがって,上記の点は,形態全体としてみれば,限られた部分の態様につ
いての軽微な差異にすぎず,この差異点をもって両意匠の差異を特徴づける
ほどのものとまで認定することはできない。
形態αの「中央円筒部内にベアリングを収容」した点は,審決において,
差異点3として「中央円筒部の内側について,本願意匠は,ベアリング機構
を装着しているのに対し,引用意匠は,ベアリング機構を装着していない
点」と認定されている。また,形態αの「環状部分からベアリングの背面に
向かって急激に落ち込ませて中央円筒部に大きな段差の凹陥部を形成した」
とする点は,審決において,具体的な態様の共通点として「中央円筒部は,
背面より前方に屈曲した部分」と認定されている。
以上のとおり,原告の主張する形態αについては,審決において実質的に
認定されていることは明らかであり,要部の看過は認められない。
なお,原告は,形態αを主要部分とする「プーリー」についての部分意匠
である甲4意匠が登録されたことから,形態αに新規性及び創作非容易性が
認められると主張するが,甲第4号証によれば,甲4意匠は,中央円筒部の
突出側(本願意匠では前方)の大半部分及び後方の耳部(本願意匠では前方
の耳部)等の形態を除いた部分意匠であり,原告の主張する形態αを含んだ
本願意匠とは形態の骨格的態様が異なるから,本願意匠と引用意匠との類否
の判断を左右するものではない。
(2) 引用意匠にベアリングを装着した場合の類否について
原告は,引用意匠に係るプーリーにベアリングを装着した場合には,本願
意匠と別異の印象を与えることになるから,差異点3は両意匠の類否判断に
大きな影響を及ぼすとし,引用意匠に係るプーリーに種々の大きさのベアリ
ングを装着した場合を想定して主張する。
しかし,審決は,ベアリングを装着した本願意匠とベアリングを装着して
いない引用意匠(ベアリングを装着しなくてもプーリーとしての機能を有す
ることは後記のとおりである。)を対比して,両意匠の類否判断をしたもの
であるから,引用意匠に係るプーリーにベアリングを装着した場合を仮定し
て本願意匠との外観上の対比をしても,審決の判断の誤りを指摘することに
はならず,この点に関する原告の主張は失当である。
原告は,引用意匠に係るプーリーにベアリングを装着することが可能であ
るものの,ベアリングを装着するか否かは選択的事項であること,すなわち,
引用意匠に係るプーリーにベアリングを装着すれば,アイドルプーリーとし
て使用されるが,ベアリングが装着されなくても,原動プーリー又は従動プ
ーリーとして使用され得ることを認めている。他方,本願意匠に係るプーリ
ーはベアリングが装着されたもののみを意味するから,アイドルプーリーと
して使用されることはあるが,原動プーリー又は従動プーリーとして使用さ
れることはないという差異がある。しかし,上述のとおり,引用意匠に係る
プーリーは,ベアリングを装着しなくても原動プーリーとして使用可能であ
る以上,両意匠に係る物品は共に「プーリー」として共通するものであり,
あえて引用意匠にベアリングを装着した態様の意匠を想定して本願意匠と類
否を対比する必要はない。そして,ベアリング装着の有無の差異は機能上の
要請から生ずるものであるため,直ちに美感に対する影響が生ずるものでは
ないから,意匠の類否の判断において重視することはできない。したがって,
審決がベアリングの有無を差異点に挙げたとしても,機能的差異を類否の判
断において重視しなかったことに誤りはない。
(3) 上記のとおり,差異点3についての審決の判断に,原告の主張する誤りが
あるとは認められない。
2 取消事由2(差異点4の判断の誤り)について
(1) 本件願書によれば,本願意匠の背面側全体は,図面第1に示されるとおり,
環状部分と中央円筒部の凹陥部のみからなるものではなく,後方の耳部先端
から斜面部分を経て前方(図面上は正面側)へ凹陥した環状部分が更に中央
円筒部の凹陥部と組み合わされ,耳部先端から中央円筒部の内側に至る2段
階の段落ち状に構成した態様であることが認められる。
(2) 原告の主張する形態αにおける後方の耳部の付け根部から中央円筒部の凹
陥部に至る構成態様が本願意匠の形態全体を特徴づける要素とはいえないこ
とは上記1のとおりである。また,登録第786474号意匠公報(乙第3
号証),登録第794230号意匠公報(乙第4号証)及び実開平3−12
4061号公開実用新案公報(乙第5号証)によれば,環状部分(審決にい
う「中央円筒部の背面」)を外膨らみ状に形成した態様は,プーリーにしば
しば見られる形態であり,ありふれたものであると認められる。さらに,環
状部分の円心方向の長さの長短(広狭)は,ベアリングを装着するか否か,
ベアリングの直径の大小等の機構上の必然性に左右されるものであるから,
環状部分の広狭に多少の差異があっても,形態全体を特徴づける要素とはな
り得ず,意匠の構成要素として格別に評価すべきものでもない。
そうすると,本願意匠の環状部分は,それ自体が後方の耳部先端から斜面
部分を経て前方へ凹陥した部位であって,2段階の段落ち状に構成した態様
の部分を形成するに止まり,その外膨らみの態様は,前記1(1)のとおり,
指摘されて分かる程度のごく緩やかなものにすぎず,本願意匠の背面側全体
としてみれば目立たない態様であるから,これを格別に評価することはでき
ない。
(3) 以上のとおり,差異点4について,「差異点に係る態様を総合した場合に
生じる意匠的な効果を考慮したとしても,未だ,両意匠の類似性についての
判断を左右するほどのものとして評価」することができないとした審決の判
断に誤りはない。
3 前記1及び2のとおり,差異点3及び4についての判断の誤りはないところ,
これらを含めた全体として本願意匠と引用意匠を対比し考察しても,本願意匠
と引用意匠とは,意匠に係る物品が共通し,形態において前記差異点があるに
もかかわらず,類否判断を左右する要部,すなわち,前方及び後方に耳部を有
する略短円柱形の外側円筒部及びこれと一体的に後方耳部のつけ根部分から環
状部分を介して繋がる円孔を有する中央円筒部を有するという骨格的構成にお
いて共通しているから,全体として類似するとの審決の判断に誤りはない。
4 結論
以上に検討したところによれば,審決取消事由にはいずれも理由がなく,審
決を取り消すべきその他の誤りも認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田 中 信 義
裁判官
古 閑 裕 二
裁判官
浅 井 憲

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