知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成19(行ケ)10132 審決取消請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成19(行ケ)10132審決取消請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年12月25日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官
原告エシコン・インコーポレイテッド
法令 特許権
特許法29条2項1回
特許法184条の51回
キーワード 実施147回
審決50回
分割2回
進歩性2回
優先権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 本件は,原告が後記特許出願をしたところ拒絶査定を受けたので,これを不 服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その 取消しを求めた事案である。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

判決言渡 平成19年12月25日
平成19年(行ケ)第10132号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成19年12月18日
判 決
原 告 エシコン・インコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士 熊 倉 禎 男
訴訟代理人弁理士 村 社 厚 夫
訴訟代理人弁護士 吉 田 和 彦
訴訟代理人弁理士 井 野 砂 里
同 北 村 博
訴訟代理人弁護士 奥 村 直 樹
被 告 特 許 庁 長 官
肥 塚 雅 博
指 定 代 理 人 中 田 誠 二 郎
同 阿 部 寛
同 高 木 彰
同 内 山 進
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2004−16592号事件について平成18年12月4日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が後記特許出願をしたところ拒絶査定を受けたので,これを不
服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その
取消しを求めた事案である。
争点は,本願の補正後の発明が,米国特許5141520号明細書(引用例
1)に記載された発明と特開平4−250155号公報(引用例2)に記載さ
れた発明との関係で進歩性を有するかどうかである。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,平成6年(1994年)12月13日,名称を「縫合糸アンカー
装置」とする発明についてパリ条約による優先権(平成5年[1993年]
12月13日 米国)を主張して国際特許出願をし(以下「本願」という。
請求項の数49。特願平7−516929号),平成8年6月13日付けで
特許法184条の5第1項の規定による書面(甲1の1)並びに明細書及び
請求の範囲の翻訳文(甲1の2・3)を日本国特許庁に提出した。そして,
原告は,平成13年11月30日付けで,本願について請求の範囲を補正
(第1次補正。請求項の数16。甲3)をしたが,特許庁から平成16年4
月26日拒絶査定を受けた。
そこで原告は,平成16年8月9日付けで不服の審判請求を行うと共に,
同日付けで特許請求の範囲を補正し(第2次補正。請求項の数15。以下
「本件補正」という。甲4),これを受けた特許庁は,同請求を不服200
4−16592号事件として審理したが,平成18年12月4日,本件補正
(第2次補正)を却下した上「本件審判の請求は,成り立たない」との審決
をし,その謄本は平成18年12月18日原告に送達された。
(2) 発明の内容
ア 第1次補正時(平成13年11月30日,甲3)のもの
第1次補正時の請求の範囲は,請求項1∼16から成るが,そのうち請
求項1の内容は次のとおりである(以下この発明を「本願発明」とい
う。)。
「【請求項1】縫合糸アンカー装置であって,
遠位端および近位端を有する細長いアンカー部材と,
前記アンカー部材の前記近位端から近位方向に延び,かつ,遠位端およ
び近位端を有するシャフトと,
前記アンカー部材の前記近位端から近位方向かつ半径方向外方に延び,
かつ,遠位固定端および近位自由端を有し,かつ,長手方向に延び対向す
る側部を有する複数の翼状部材と,
少なくとも1つの翼状部材の少なくとも1つの側部に沿った切断部材
と,
前記シャフトの縫合糸保持手段とを備え,
前記アンカー部材の前記遠位端は,短い鼻部に終端している,
ことを特徴とする縫合糸アンカー装置。」
イ 第2次補正(本件補正)時(平成16年8月9日,甲4)のもの
本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1∼15から成るが,そのうち
請求項1の内容は次のとおりである(以下この発明を「本願補正発明」と
いう。下線部は第2次補正に係る部分)。
「【請求項1】縫合糸アンカー装置であって,
遠位端および近位端を有する細長いアンカー部材と,
前記アンカー部材の前記近位端から近位方向に延びるシャフトとを備
え,前記シャフトは,遠位端および近位端を有しており,
さらに,前記アンカー部材の前記近位端から近位方向かつ半径方向外方
に延びる複数の翼状部材を備え,前記翼状部材は,遠位固定端および近位
自由端を有し,かつ,長手方向に延び対向する側部を有しており,前記翼
状部材は弾性を有し,前記翼状部材は,前記翼状部材の外側に延びる位置
から内方に変形されるとき,前記翼状部材の予備変形した形状に戻るよう
にバイアスされており,
さらに,少なくとも1つの翼状部材の少なくとも1つの側部に沿った切
断部材と,
前記シャフトの縫合糸保持手段とを備え,
前記アンカー部材の前記遠位端は,短い鼻部に終端している,
ことを特徴とする縫合糸アンカー装置。」
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,①本
願補正発明は,米国特許5141520号明細書(以下「引用例1」とい
う。甲5)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)と特開平4
−250155号公報(以下「引用例2」という。甲6)に記載された発
明(以下「引用発明2」という。)に基づいて容易に発明をすることがで
きたから,特許法29条2項により特許出願の際独立して特許を受けるこ
とができず,本件補正は認められない,②本願発明は,引用発明1及び引
用発明2に基づいて容易に発明することができたから,特許法29条2項
により特許を受けることができない,というものである。
イ なお,審決が認定する引用発明1の内容,本願補正発明と引用発明1と
の一致点及び相違点は,次のとおりである。
〈引用発明1の内容〉
「縫合糸アンカー装置であって,
遠位端および近位端を有する胴部分(62)と,
前記胴部分(62)の前記近位端から近位方向に延びる円筒状の本体
(66)とを備え,前記円筒状の本体(66)は,遠位端および近位端を
有しており,
さらに,前記胴部分(62)の前記近位端から近位方向かつ半径方向外
方に延びる複数のスカート部分(64)を備え,前記スカート部分(6
4)と隣り合うスカート部分(64)との間には縦溝或いはスロット(6
3)が形成され,前記スカート部分(64)は可撓性を有し,前記スカー
ト部分(64)が外側に広がった位置から内方に撓んだ後,広がって元の
形状に戻るように構成されており,
前記円筒状の本体(66)の後端面に縫合糸が固定される縦穴(68)
とを備えた
縫合糸アンカー装置。」
〈一致点〉
「縫合糸アンカー装置であって,
遠位端および近位端を有する細長いアンカー部材と,
前記アンカー部材の前記近位端から近位方向に延びるシャフトとを備
え,前記シャフトは,遠位端および近位端を有しており,
さらに,前記アンカー部材の前記近位端から近位方向かつ半径方向外方
に延びる複数の翼状部材を備え,前記翼状部材は,遠位固定端および近位
自由端を有し,かつ,長手方向に延び対向する側部を有しており,前記翼
状部材は弾性を有し,前記翼状部材は,前記翼状部材の外側に延びる位置
から内方に変形されるとき,前記翼状部材の予備変形した形状に戻るよう
にバイアスされており,
さらに,少なくとも1つの翼状部材の少なくとも1つの側部に沿った切
断部材と,
前記シャフトの縫合糸保持手段とを備えた
縫合糸アンカー装置。」
〈相違点〉
本願補正発明においては,「(前記)アンカー部材の(前記)遠位端
は,短い鼻部に終端している」のに対し,引用発明1にみられる「アンカ
ー部材」(胴部分(62))の遠位端は,短い鼻部に終端していない点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,本願補正発明と引用発明1を対比し本願補正発明には独立
特許要件がないとして本件補正を却下した審決には,以下に述べるとおりの
誤りがあるので,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(相違点の看過(1))
(ア) 本願補正発明における「翼状部材」の「弾性を有し,…翼状部材の
外側に延びる位置から内方に変形されるとき,前記翼状部材の予備変形
した形状に戻るようにバイアス」された構成につき,特許請求の範囲及
び本願明細書には,以下の記載が存在するから,本願補正発明における
「バイアスされ」との構成は,「十分(な)弾性」によって,「半径方
向外方」に,予備変形した形状(元の形状)へ「自動的に」,すなわ
ち,外力の付加を必要とせずに自然と戻ることによって,翼状部材が骨
に係合される構成を有するものである。
a 特許請求の範囲請求項1には,以下の記載が存在する。
「前記翼状部材は,前記翼状部材の外側に延びる位置から内方に変形
されるとき,前記翼状部材の予備変形した形状に戻るようにバイアス
されており」
そして,「予備変形した形状に戻るようにバイアスされて」は,
「bias」の用語が,「一方に片寄らせる」(「新英和大辞典」研究社
205頁[甲7])という意味を有し,かつ,「バイアス」の前に
「予備変形した形状に戻るように」とされているところからも明らか
なように,翼状部材が外力の付加なしに自動的に元の位置に戻るよう
に構成されていることを意味するものと解釈される。以上の解釈は,
特許請求の範囲請求項1の記載から一義的に明確に理解可能である。
b 次に,本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」中の「発明の開
示」には,「翼状部材」が「予備変形した形状に戻るようにバイア
ス」された構成につき,以下の記載が存在する。
「本発明の目的は,骨に移植されたとき機械的に安定し,適用が簡単
である縫合糸アンカーを提供することにある。」(10頁3行∼4
行)
「翼状部材は,閉位置に内方に曲げられた後,常開位置に自動的に戻
るように働く。」(11頁9行∼10行)
これらの記載も,本願補正発明における「翼状部材」が「予備変形
した形状に戻るようにバイアス」された構成とは,縫合糸アンカーが
骨に挿入されたとき,いったん翼状部材が骨の孔の大きさに合わせて
内方に曲がった後,自動的に元の位置(常開位置)へ戻る力を有する
ことにより,骨に係合され,機械的に安定されることを意味すること
を示している。
c また,本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」中の「実施例」
の記載も,次のとおり,「予備変形した形状に戻るようにバイアス」
との構成が上記特徴を有することを裏付けている。
(a) 縫合糸アンカー装置の実施例
本願補正発明にかかる縫合糸アンカー装置の最初の実施例の説明
中に,「翼状部材60は,挿入中,半径方向内方に効果的に曲げら
れるが,その後,半径方向外方に移動して戻り,骨に係合し,か
つ,装置を所定位置に係止するのに十分な(原告注:「あ」は誤
記)弾性を有するように構成されるのが好ましい。」(14頁8行
∼10行)との記載があり,翼状部材が,骨への挿入時に一旦曲げ
られた後,再度,外方に移動して骨に係合されることが示されてい
る。その上で,「翼60の切断作用によって,網状層の孔の少なく
とも一部が皮質層を貫通するボア孔径より大きい直径のものである
ように,網状層内の骨の孔径が増大する。次いで,翼60の近位端
64は,アンカー5がボア孔から引き抜かれるのを効果的に防止す
るように骨の網状層内で十分に係合する。」(14頁27行∼15
頁2行)と記載され,ボア孔に挿入されたアンカーの翼が,何ら外
力の付加を必要とせずに,骨孔内で骨の網状層へ自動的に係合され
ることが示されている。同実施例にはアンカー5を回転させること
が記載されているが,これは,回転によって,切断縁70を「網状
層に効果的に切り込ませ」ることを目的としており,翼状部材が常
開位置に戻るかどうかとは関係がない。
次に,縫合糸アンカー装置の別の実施例として,「翼部材160
は,ボア孔への挿入後,予備変形した形状をとって,穿孔用尖端1
70がボア孔を取り囲む網状層に効果的に押し込まれるのにほぼ十
分な弾性および復元性を有する一方で,挿入中,半径方向内方に効
果的に曲げられるのに十分な弾性を有するように構成されるのが好
ましい。」(15頁下3行∼16頁2行),「次いで,アンカー1
05がボア孔から引き抜かれるのを効果的に防止するのに十分に,
翼160の先端170は骨の網状層内で係合する。」(16頁14
行∼16行)と記載され,上記の最初の実施例と同様,「翼部材1
60」は,何ら外力が加えられることなしに,骨の網状層内に係合
されるものであることが示されている。同実施例において,アンカ
ーを手前に引くことが記載されているが,これは,アンカーを手前
に引けば,網状層に引っかかっている先端170がさらに強く網状
層に係合されることを意味するものであって,外力の付加によって
先端170が常開位置へと戻ることを意味するものではない。ま
た,「所望なら,アンカー105をボア孔内で回転させてもよ
い。」(16頁16行)という記載に示されるとおり,同実施例に
おいてもアンカーの回転はあくまで任意のものである。なお,同実
施例は,後記イ(ウ)のとおり,本願補正発明1そのものの実施例で
はない。
さらに,別の実施例についての説明でも,「翼状部材360は,
骨のボアに挿入されるために半径方向内方に撓まされたときに効果
的に拡張して自身を骨の癌部分に定着するほど十分に弾力的であ
る。定着を助けるためにアンカー305は随意に回転されてもよ
い。」(17頁下5行∼下1行)と記載され,「翼状部材360」
がそれ自体の弾力によって自動的に骨に係合される構成を有するこ
と,アンカーの回転は定着を助けるためのものであって,しかも,
任意のものであることが明らかにされている。
(b) 手術時における実施例
実際の手術時における実施例のうち,実施例1には,「ボア孔の
直径は,アンカー5の翼状部材60が,挿入中,半径方向内方に十
分に曲がって,アンカー5がボア孔内で動くことを効果的に防止す
るように,選択される。この曲がりは,実質的には弾性変形であ
る。」(22頁3行∼7行),「翼状部材60は,ボア孔の直径よ
りも大きな最大外径を有した状態にある。したがって,網状層の中
に,もぐり込んだ翼状部材60が,アンカー5に働く近位方向への
力に抗して,最終的には,皮質層の内側面に係合して,これによっ
て,アンカー5がボア孔から抜けなくなる。」(22頁10行∼1
4行)との記載があり,また,実施例2においても,「ボア孔の直
径は,アンカー5の翼状部材60が,挿入中,半径方向内方に十分
に曲がって,アンカー5がボア孔内で動くことを効果的に防止する
ように選択される。この曲がりは,実質的には弾性変形である。」
(23頁2行∼4行),「翼状部材60は,ボア孔の直径より大き
な最大外径を有した状態にある。したがって,網状層の中にもぐり
込んだ翼状部材60が,アンカー5に働く近位方向への力に抵抗
し,最終的には,皮質層の内側面に係合して,これにより,アンカ
ー5がボア孔から抜けなくなる。」(23頁9行∼12行)との記
載が存在する。
これらの実施例の記載も,本願補正発明における「予備変形した
形状に戻るようにバイアス」との構成が,孔内への挿入により曲が
った翼状部材が何ら外力の付加を要せず骨に係合するものであるこ
とを裏付けている。
(イ) これに対して,審決が引用発明1の認定の基礎とする,引用例1
(甲5)記載の第3実施例の「スカート部分(64)」は,撓ませるこ
とはできるようになっているが,骨内に挿入された際,一旦撓んだスカ
ート部分が挿入前の元の位置に戻るためには外力を付加する必要性が存
在する。以下,この点について引用例1(甲5)の記載に基づき説明す
る。
a 引用例1(甲5)の特許請求の範囲請求項2においては,「2. A
harpoon suture anchor as recited in claim 1, wherein the harpoon
end means skirt allows flexure of said skirt sections towards the
cylindrical body surface during harpoon suture anchor
installation.」(特許請求の範囲第1項に記載の銛タイプ縫合糸ア
ンカーにおいて,銛タイプ縫合糸アンカーを取り付けるときに,銛端
部手段のスカートにより,円筒形の本体構造に向って前記スカート部
分を撓ませることができるようになっていることを特徴とする銛タイ
プ縫合糸アンカー。)[8欄21行∼24行,訳文4頁下4行∼下1
行]と記載され,あくまで挿入時における「flexure」(撓み)しか
規定されておらず,撓んだスカート部分が挿入後にどのような機能を
有するかについては触れられていない。
b 引用例1(甲5)の「BACKGROUND OF THE INVENTION」(発明の背
景)においては,「Unlike these and like devices, the present
invention is arranged to be driven into a bone and is configured
for locking therein against an anticipated tensile force as could
be applied to the connected suture.」(これらの装置,及び,それ
に類似の装置とは異なり,本発明は,骨の中に打ち込まれるように構
成され,かつ,連結構造に加えることができる予想される引っ張り力
に抗して,骨の中に固定することができるように構成されている。)
[1欄51行∼54行,訳文1頁13行∼16行]と記載され,引用
発明1は,縫合糸に対して加えられる張力に対して,抵抗するように
設計された構成を有するものとされている。
c 引用例1(甲5)には,明確に,スカート部分64を外方に曲げる
ために,張力を加えることが必要であることが,「Accordingly, a
tensile force applied through suture 42 tends to outwardly flex
the skirts sections 64 into which essentially undisturbed bone
materials, providing a better anchor support than is provided to
the skirt sections 54 of seated suture anchor 50.」(したがって,
縫合糸42によって加えられる引っ張り力は,スカート部分64を外
方に撓ませる傾向があり,本質的に骨の材料を乱すことがなく,取り
付けられた縫合糸アンカー50のスカート部分54によって与えられ
るアンカーの支持よりも優れたアンカーの支持を提供することができ
る。)[7欄24行∼28行,訳文4頁9行∼13行]と記載されて
いる。
(ウ) 以上説明してきたとおり,本願補正発明におけるバイアスされてい
る翼状部材は,いったん骨の穴の内側に配置されると張力の引加なしに
翼状部材の予備変形した形状(元の形状)に,自動的に戻るように構成
されているものである。これに対して,引用発明1の「スカート部分
(64)」は,骨内に挿入された際,一旦撓んだ後に挿入前の元の位置
に戻るため外力の付加される必要性が存在し,本願補正発明における
「予備変形した形状に戻るようにバイアスされている」に相当する構成
を有しない。
それにもかかわらず,審決は,上記相違点を看過して「引用発明1に
おける『スカート部分(64)』は,『可撓性を有し,前記スカート部
分(64)が外側に広がった位置から内方に撓んだ後,広がって元の形
状に戻るように構成』されているものであるから,本願補正発明におけ
る『翼状部材』同様,『外側に延びる位置から内方に変形されるとき
』,『予備変形した形状に戻るようにバイアスされ』ている」(6頁1
行∼5行)と認定しており,審決には相違点を看過した誤りが存在す
る。
また審決は,引用発明1について「図10及び図11には,縫合糸ア
ンカー打ち込まれる様子が図示され,特に,縫合糸アンカー21が縫合
糸アンカーマウント28にマウントされて骨皮質に打ち込まれている時
は,スカート37が円筒状の本体39表面の方へと撓んでいる様子が
(図10),縫合糸アンカーの設置後の状態においては,スカート37
が外に広がっている様子が(図11)示されている。」(4頁22行∼
26行)と認定するが,上記の各図示は,審決が引用発明1の認定の基
礎とする,引用例1(甲5)の第3実施例ではなく,第1実施例に関す
るものである。また,上記の各図示には,「前記スカート部分(64)
が外側に広がった位置から内方に撓んだ後,広がって元の形状に戻る」
との認定に結びつける開示ないし示唆は存在しない。これらの各図示か
らは,アンカーのスカートが元の形状まで自動的に完全に戻っているか
どうかは明らかでない。むしろ,上記のとおり,引用例1記載の第3実
施例では,引っ張りの付加が必要であることを明示され,第1実施例の
メカニズムも第3実施例と異ならないわけであるから,引用例1の
Fig.10及びFig.11はスカート37が自動的に元の形状に戻り,骨に係合
することまでを開示したものではないと見るのが自然である。
(エ) 仮に,引用例1(甲5)の第1実施例を検討したとしても,以下の
とおり,スカート部分が自動的に元の形状へと戻る構成をとることの開
示ないし示唆は存在しない。
a 引用例1(甲5)の第1実施例については,「この撓みは,縫合糸
アンカーが完全に取り付けられるまで続き,その結果,ハンマーの力
がなくなると,スカート37は,外方に撓む」(5欄59行∼62
行,訳文3頁7行∼8行)という記載があるが,この記載は,スカー
ト37が単なる撓みを超えて骨内に挿入される前の元の形状にまで自
動的に戻ることについて何ら開示するものではない。また,引用例1
の同実施例では,「flex」という用語が用いられているところ,
「flex」という用語は「曲げる」「曲がる」という意味を有するのみ
であって,形状が元通りの位置まで自動的に戻ることを意味するもの
ではない。しかも,引用例1の第1実施例にかかるFig.3,Fig.4及
びFig.9を見ると,スカート部分には切り込みが入っておらず,撓む
力も弱くなると考えられる。この図面も,引用例1の第1実施例の構
成が,到底スカート部分を元通りの位置にまで自動的に戻すものでは
ないことを裏付けている。
b 引用例1(甲5)のFig.10及びFig.11については,上記(ウ)のとお
りである。
(オ) 以上のとおり,引用例1中には,スカート部分が自動的に元の形状
へと戻る構成をとることの開示ないし示唆は存在しないから,当業者が
引用発明1に基づきこのような構成を採用することは容易ではない。し
たがって,審決が引用発明1と本願補正発明との相違点を看過した誤り
は審決の結論に影響を及ぼすものである。
イ 取消事由2(相違点の看過(2))
(ア) 本願補正発明は,「前記翼状部材は…長手方向に延び対向する側部
を有し」との構成を有する。この構成について説明すると,特許請求の
範囲の請求項1には,「前記翼状部材は…長手方向に延び対向する側部
を有し」との記載が存在する。また,本願明細書(甲2)の「発明の詳
細な説明」中の実施例には,「翼状部材60は,図示のように,遠位固
定端62および近位自由端64と,対向する側面68,69とを有して
いる。翼状部材60は,スロット80によって互いに分離されている。
翼状部材60は,図示のように,各翼状部材60の側面68から延びる
切断縁70を有している。」(13頁26行∼14頁1行)との記載が
存在し,「図面の簡単な説明」には,「図1は,切断エッジを備えた翼
状部材を有する本発明の縫合糸アンカーの斜視図である。」(11頁下
3行∼下2行)との説明がなされ,さらに図1をみると,側面68及び
69が軸方向に延び,先端に切断縁70がもうけられている様子が図示
されている。
そして本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」には,「遠位端,
近位端,及び長手軸線を有する軸はアンカー部材の近位端から延び
る。」(10頁10行∼11行),「アンカー部材10は,その長手軸
線に沿って直径が変化する円形断面を有していることが好ましい。」
(13頁10行∼11行),「シャフト20は,図示のように,長手軸
線25を有している。シャフト20は,長手軸線25を横断する方向に
貫通して延びる縫合糸孔30を有している。」(13頁14行∼16
行)などの記載があり,シャフトの軸線に沿った方向が「長手」として
表現されている。
これらの記載から,本願補正発明は,翼状部材に側部がもうけられ,
該側部が長手方向すなわち軸方向に延びていることを特徴とすることが
明らかである。
(イ) これに対して,審決は,引用発明1と本願補正発明との一致点とし
て,「前記翼状部材は,…長手方向に延び対向する側部を有してお
り,」(6頁23行∼24行)と認定する。
しかし,審決が引用発明1の認定の根拠とした,引用例1(甲5)の
第3実施例についての図であるFig.12及びFig.13には,約15度の円弧
角度でらせん状に側面の延びたアンカーが図示され,さらに,同実施例
についての説明でも,「Distinct from suture anchor 50, the body
sections 62 and adjacent flutes or slots 63 therebetween of suture
anchor 60 are formed to have an identical spiral of approximately
fifteen(15) degrees of arc.」(縫合糸アンカー50とは異なり,縫合
糸アンカー60の本体部分62,および,本体部分62の間に設けられ
た隣接する縦溝(フルート)又はスロット63は,約15度の円弧角度
の同一の螺旋を有するように形成されている。)[7欄11行∼14
行,訳文3行下3行∼下1行]とされている。
このように,引用発明1における「スカート部分」の側部は,らせん
状に延びるものであって,「長手方向に延び対向する側部」に相当する
構成を有しない。したがって,審決には,引用発明1と本願補正発明と
の相違点を看過した誤りが存在する。
そして,引用発明1におけるらせん構造と,らせん状に延びるボディ
部分62及びスカート部分64の目的は,木又は他の固体材料の中にド
リルを貫通させるときにドリルを作動させる方法と同様に,骨の材料の
中に縫合糸アンカー60をねじりこませて,骨の材料を移動させること
を容易にすることにある(引用例1[甲5]のFig.12及びFig.13の
各矢印D,並びに「During installation, as the suture anchor is
forced into a bone cortex 70, as shown in FIG. 12,the bone materials
passing through the flutes or slots 63 imparting a twist to the
suture anchor 60,」(縫合糸アンカー60を取り付けている間,縫合
糸アンカーが骨皮質70の中に押し進められるとき,図12に示すよう
に,縦溝(フルート)又はスロット63の中を通る骨の材料は,図12
および図13において曲がった矢印「D」で示すように,縫合糸アンカ
ー60にねじりを与える。)[7欄14行∼18行,訳文4頁2行∼5
行]との記載を参照)。引用発明1のFig.12及びFig.13に示されている
縫合糸アンカー60において,らせん状に延びる側面ではなく,長手方
向に延びる側面を有するようにボディ部分62及びスカート部分64を
変更すると,縫合糸アンカー60のドリルのような作動とねじりを達成
することが不可能となってしまう。この変更は引用発明1における骨の
材料の中に縫合糸アンカーをねじりこませるという目的に反するもので
あって,当業者として容易に想到し得たものではない。したがって,上
記誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。
(ウ) なお,被告が主張する,本願明細書(甲2)の15頁9行∼16頁
20行,図9∼16記載の実施例は,後に平成13年11月30日付け
の補正(第1次補正。甲3)によって削除された出願当初の請求項38
の実施例であり,この実施例をもって,「長手方向」が「シャフト軸線
に対して斜めの方向に延びるものを含む」とすることはできない。
ウ 取消事由3(相違点についての判断の誤り)
(ア) 本願補正発明における「短い鼻部」という用語の意義
a 本願補正発明における「短い鼻部」という用語の意義は,それ自体
で一義的に明確ではないので,本願明細書の記載からその意味を解釈
すると,まず,「発明の開示」の項においては,「随意の鈍らせた先
端がアンカー部材の遠位端から遠位方向に延びる。」(甲2,10頁
14行∼15行)との記載が存在する。また,「本発明を実施するた
めの最良の態様」の項においては,「先の尖っていない遠位鼻部40
がアンカー部材10の遠位端14から延びている。」(13頁20行
∼21行)との記載が存在し,対応する図1ないし7においては先端
が丸まった遠位端が描かれている。さらに,本願補正発明そのものの
実施例ではないが,「短い遠位鼻部分140が,アンカー部材110
の遠位端114から延びている。」(15頁18行∼19行)との記
載も存在し,対応する図9ないし16においては,先端の丸まった遠
位端が描かれている。別の実施例においては,「アンカー部材310
の遠位端314から鈍い遠位鼻状部分340が延びている。」(17
頁16行∼17行)との記載が存在し,対応する図19ないし21に
おいても,同じく,先端の丸まった遠位端が描かれている。
上記の各記載における用語は,元のPCT国際公開第WO95/1
6398号公報(甲8)においては,「blunted」あるいは「blunt」
という用語が使用されており,また,後記のとおり補正の根拠となっ
た出願当初の請求項4についても,元の国際公開公報(甲8)では
「blunted nose」という用語が使用されている。そして,英語の
「blunt」という用語には,形容詞として「鈍い,とがっていない,
なまくらの」「(先の)丸い」という意味が,さらに,名詞として
「先がとがっていないもの(遊戯用の矢,短い縫い針,短く太い葉巻
など)」(「ランダムハウス英和辞典第2版」株式会社小学館199
6年2月10日第2版第4刷発行303頁[甲10])という意味が
存在し,その意味するところは,結局のところ,先端が尖っていな
い,丸まったものであるということである。
本願明細書においては,鼻部先端の長さを短くすることについての
具体的説明は存在せず,鼻部先端の長さを短くすること自体に何らの
技術的意義を見い出すことはできない。
したがって,本願補正発明における「短い鼻部」という用語は,先
端部分が丸まったものを意味することが明確である。
なお,この点については,審決においても,「…引用発明2におけ
る『丸まった先端』は,本願補正発明における『短い鼻部に終端して
いる』ことに相当する」(6頁下1行∼7頁1行)として,「短い鼻
部」が先端の丸まった先端を意味することを明確に認めている。
b 本願明細書(甲2)には,被告が指摘するとおり,「所望ならば,
遠位鼻部40は,先細りであってもよく,或いは,先が尖っていても
よい」(13頁21行∼22行)という記載が存するが,この記載
は,特許請求の範囲請求項1に,「前記アンカー部材の前記遠位端
が,短い鼻部に終端している」という限定が付加されていなかった出
願当初の特許請求の範囲請求項1の構成を前提としたものであって,
平成13年11月30日付けの補正(第1次補正。甲3)によって特
許請求の範囲の請求項1に入った「前記アンカー部材の前記遠位端
が,短い鼻部に終端している」という構成(出願当初には請求項4に
あったもの)について説明したものではない。本願明細書の上記被告
指摘部分には「遠位鼻部」の用語のみが記載されており,「blunt」
の用語の訳語に相当するものは何ら存在しないことも,このような理
解の正しさを裏付けている。
したがって,本願明細書の上記被告指摘部分の記載に基づき,本願
補正発明における「短い鼻部に終端」との構成は,先端が尖っている
場合も意味するものと解釈することはできない。
(イ) 引用発明1と引用発明2を組み合わせることは容易想到でない
審決は,「引用発明1にみられる『縫合糸アンカー装置』の遠位端
に,引用発明2にみられる『短い鼻部に終端している』構成を採用
し」,「相違点に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得た」
(7頁4行∼6行)と判断する。しかし,以下に説明するとおり,引用
発明1と引用発明2は,その構成及び課題の解決手段において大きく相
違しており,引用発明1に対して引用発明2を組み合わせることは「当
業者が容易に想到し得たこと」とはいえない。
a 引用発明1におけるアンカー部材の遠位端については,次のとおり
である。
(a) 引用例1(甲5)の特許請求の範囲請求項1には,「1. A
harpoon suture anchor comprising, …a harpoon end means …which
harpoon end means is a regular cone having a pointed end …; and
driver means for urging said harpoon suture anchor end means
into a bone.」(銛タイプ縫合糸アンカーにおいて,…銛端部手段
を備え,…銛端部手段は,尖った先端をもつ直円錐であり,…前記
銛タイプ縫合糸アンカーを骨の中に進めるためのドライバ手段を備
えることを特徴とする銛タイプ縫合糸アンカー。)[8欄6行∼2
0行,訳文4頁14行∼16行]との記載が存在し,引用発明1に
おけるアンカー銛は尖った先端を有し,さらに,その先端が骨の中
に進められるとされている。また,他の請求項(請求項2∼6)は
すべて請求項1に従属するものとなっている。
(b) 引用例1(甲5)の「BACKGROUND OF THE INVENTION」(発明の
背景)において,以下のような記載が存在し,引用発明1では,
「a pointed suture anchor」に対して叩く力(a hammer force)が
加えられ,アンカーの尖った先端により骨を破壊しつつ孔を形成す
ることを明確にしている。
「Whereas, the present invention involves a pointed suture
anchor that is intended to be driven as by applying a hammer
force through a driver for seating which suture anchor in a
bone.」(これに対して,本発明は,縫合糸アンカーを骨の中に配
置するためのドライバによって加えられる打ち込み力によって打ち
込まれることを意図する,尖った縫合糸アンカーに関連してい
る。)[1欄28行∼31行,訳文1頁5行∼7行]
また,引用発明1が,従来技術とは異なり,アンカーを骨中に設
置するための事前の穴あけ(drilling)が不要であることを特徴と
していること,あらかじめ骨に開けられている「cavity」(穴)に
挿入されることを予定する従来技術のアンカーが引用発明1とは異
なることが,以下のとおり明らかにされている。
「Which arrangement is unlike the present invention that does
not involve drilling into a bone surface prior to driving the
anchor therein.」(このような構造は,アンカーを骨の中に打ち込
む前に,骨表面に穴開けすることを伴わない本発明と異なったもの
である。)[1欄38行∼40行,訳文1頁9行∼11行]
「The above are examples of anchor devices for turning into a
bone or for fitting into a hole formed into a bone. Unlike these
and like devices, the present invention is arranged to be driven
into a bone and is configured for locking therein against an
anticipated tensile force as could be applied to the connected
suture.」(上述した内容は,骨の中に回転して入るアンカー装
置,或いは,骨の中に形成された穴の中に嵌り込むアンカー装置の
例である。これらの装置,及び,それに類似の装置とは異なり,本
発明は,骨の中に打ち込まれるように構成され,かつ,連結構造に
加えることができる予想される引っ張り力に抗して,骨の中に固定
することができるように構成されている。)[1欄49行∼54
行,訳文1頁12行∼16行]
さらに,同様に,従来技術と引用発明1との対比について,以下
の記載が存在し,銛構造を有しない従来技術は,引用発明1と機能
的に異なるものであるとされている。
「none of which staple and pin arrangements have involved a
harpoon pointed anchor like that of the present invention and
are functionally dissimilar therefrom.」(前記の従来技術にお
けるステープル・ピン構造のいずれもが,本発明のアンカーの構造
に似た,尖った先端をもつ銛タイプのアンカーを伴うものでなく,
本発明と機能的に異なるものである。)[2欄3行∼6行,訳文1
頁18行∼20行]
(c) 引用例1(甲5)の「SUMMARY OF THE INVENTION」(発明の概
要)には,以下の記載が存在する。
「It is a principal object of the present invention to provide a
harpoon suture anchor and driver where a surgeon, applying a
hammer force to the driver end, can permanently seat the suture
anchor harpoon pointed end in a bone surface,」(本発明の主な目
的は,外科医がドライバの端部に打ち込む力を加えて,縫合糸アン
カーの銛タイプの尖った先端を骨に恒久的に取り付けることができ
る,銛タイプの縫合糸アンカーおよびドライバを提供することにあ
る。)[2欄9行∼13行,訳文1頁22行∼24行]
「Another object of the present invention is to provide a suture
anchor that can be installed in a bone that does not require a
prior site preparation」(本発明の他の目的は,事前の部位調整
を必要とすることなしに,骨に取り付けることができる縫合糸アン
カーを提供することにある。)[2欄20行∼22行,訳文1頁下
3行∼下2行]
「Another object of the present invention is to provide a suture
anchor that includes, as a harpoon pointed end, a cone that
slopes outwardly from a pointed cone apex into a skirt, the
pointed apex to penetrate a bone surface when a hammer force is
applied through the driver, the sloping surface of which
harpoon end pushing away the bone materials as the suture anchor
is driven into that bone material」(本発明の他の目的は,銛タ
イプの尖った先端として,尖った円錐形部材の頂部からスカートに
外方に傾斜する円錐形部材を含み,ドライバによってハンマの力が
加えられると,尖った頂部が骨を貫通し,縫合糸アンカーが骨の材
料の中に打ち込まれるときに,銛タイプの端部の傾斜面が骨の材料
を押しのけるようになっている縫合糸アンカーを提供することにあ
る。)[2欄23行∼30行,訳文2頁1行∼5行]
これらの記載もまた,引用発明1の最も重要な目的が, 叩く力
をかけることによって銛構造のアンカーを骨の中に打ち込み,設置
させることにあることを示すものであり,それゆえ引用発明1にお
いてはあらかじめ骨に穴を開けておく必要がないことを示すもので
ある。
(d) 引用例1(甲5)の「DETAILED DESCRIPTION」(発明の詳細な
説明)には,以下の記載が存在する。
「The broad head 27 end is to be struck by a surgeon, as with a
hammer, to impart a hammer force through which driver 22 and
into the suture anchor 21,」(広いヘッド27の端部は,外科医が
ハンマで打つことができ,ドライバ22から縫合糸アンカー21に
ハンマの力を与えるようになっている。)[4欄37行∼40行,
訳文2頁12行∼13行]
「A hammer force applied to the insert head 25 is thereby
transmitted through the rod 23 and into the collar 30, wherefrom
that force acts through the suture anchor mount 28 and into a
suture anchor mounted thereto」(それによって,インサートヘッ
ド25に加えられたハンマの力は,ロッド23からカラー30に伝
達され,前記ハンマの力は,前記カラー30から縫合糸アンカーマ
ウント28を通して,縫合糸アンカーマウント28に取り付けられ
た縫合糸アンカーに作用する。)[4欄49行∼53行,訳文2頁
15行∼17行]
これらの記載は,ヘッド27が医者によって打たれ,アンカー2
1まで叩く力が伝わり,その結果アンカー21が骨に打ち込まれる
ことを当然の前提としている。
さらに,実施例についての記載においても,上記特徴はより明ら
かに示されている。
まず,引用例1(甲5)の第1実施例においては,「A first
embodiment of suture anchor 21 is shown best in FIGS.3 and 4,
and is shown in FIGS.9 through 411, being hammered into a bone
33 for seating in the bone cortex 34. The suture anchor 21
incorporates a pointed forward end 35 that, as shown in FIG.9,
is for penetrating a bone 33 surface.」(縫合糸アンカー21の
第1実施例は,図3および図4に最も良く示されており,また,骨
33の中に打ち込まれ骨皮質34に取り付けられる様子は,図9か
ら図411(原告注:「図11」の誤記)に示されている。)[5
欄22行∼27行,訳文2頁19行∼21行],「In practice, as
illustrated in FIG.10, the suture anchor is driven through a
bone 33 surface and into the bone cortex 34.」(実際には,図1
0に示すように,縫合糸アンカーは,骨表面33を貫通して骨皮質
34の中に打ち込まれる。)[5欄43行∼45行,訳文2頁下2
行∼下1行]とされていて,縫合糸アンカー21が骨表面33を抜
けて骨皮質34まで届くとされている。また,第3実施例において
も,「Still another or third embodiment of a harpoon suture
anchor 60, hereinafter referred to as suture anchor, is shown in
the views of FIGS. 7 and 8, and is shown installed in FIGS.12 and
13.」(縫合糸アンカー60(以下,「縫合糸アンカー」という)
のなお更なる実施例,すなわち,第3実施例は,図7および図8に
示されており,また,取り付けられた状態は図12および図13に
示されている。)[6欄65行∼68行,訳文3頁下14行∼下1
2行]との記載が存在し,Fig.12及びFig.13には,尖った先端を有
するアンカーが骨の中を回転しつつ,骨表面70から進んでいく様
子が描かれている。
(e) 以上のとおり,引用発明1は,とがった先端を有するハープー
ン(harpoon:銛)構造のアンカーであって,このとがった先端
は,アンカーを骨の中に打ち込むことに適用され,アンカーを骨の
中に打ち込む前に,骨には穴が形成されていない。
b 審決は,引用例2(甲6)の段落【0001】及び【0011】の
記載と図2及び図7の記載を引用した(5頁9行∼21行)上で,引
用例2には「先端部分が丸まった先端である,骨のまたは縫合用のア
ンカー。」が開示されているものと認定し,これと引用発明1を組み
合わせて相違点に係る構成を得ることは容易であるとする。
しかし,引用発明1及び引用発明2の両者を検討すれば,当業者
が,引用発明1に対して引用発明2を組み合わせることができないこ
とは明らかである。
(a) 以下のとおり,引用発明2はあらかじめ骨に設けられた穴のな
かにアンカーを挿入し,固定することをその構成・技術原理として
おり,それゆえ,引用発明2における丸まった先端は骨を破壊して
孔を開ける機能を有しないものである。
α 引用例2(甲6)の特許請求の範囲請求項2には「…骨または
骨に似た構造物の中に開けられた穴に縫合用アンカー部材を配置
するためのアセンブリー」との記載が,特許請求の範囲請求項3
には「…骨または骨に似た構造物に開けられた穴の中に縫合部材
を固定するためのアンカー」との記載が存在し,また,「発明の
詳細な説明」には,「アンカーは骨のまたは縫合用のアンカーで
あって,円錐形のまたは先が細くなった丸まった先端をもち,周
囲の回りには1個またはそれ以上の突起縁部をもち,これは骨ま
たは組織の中にあらかじめ開けられた穴に装着(力をかけて嵌め
込む)するのを助けるのに使用される。該突起縁部は所期の目的
に使用される場合アンカーを穴の中の適切な位置に保持する役目
をする。」(段落【0011】)との記載が存在し,引用発明2
におけるアンカーが,あらかじめ骨に穴が開けられていることを
前提とした上で,その穴に対して挿入されるものであることを示
している。
また,引用発明2のアンカーが「丸まった先端」によって骨に
孔を開けることを示唆する記載は,引用例2(甲6)には何ら存
在しない。
β 引用例2(甲6)の図2及び図7に関する以下の記載も,引用
発明2におけるアンカーが,あらかじめ骨に開けられた穴に対し
挿入されるものであることを裏付けている。
「好適なアンカーの形および配置は図2,3,5および7に最も
良く示されている。アンカーは前方の端,即ち先端60を有し,
これは丸められ,円錐形をなして,即ち先端が細くなっており,
配置および挿入が容易になっている。先端が細くなったアンカー
は容易に柔らかい組織に突き刺すことができるであろう。多数の
円形の突起縁部62がアンカーの周囲の周りに延びており,アン
カー16を穴の中の適切な位置にしっかりと固定するのに使用さ
れる。」(段落【0027】)
「アンカー16のための穴が骨または組織の中に開けられるか作
られる場合には,ドリルの直径は突起縁部62の外径よりも僅か
に小さくしなければならない。このようにすればアンカー16を
穴の中の位置に押し込み,突起縁部62により穴の内壁に及ぼさ
れる圧縮力および摩擦力によってアンカーを適切な位置にしっか
りと保持することができる。」(段落【0028】)
「骨または組織に穴を開けた後…アンカー16をドライバーのシ
ャフトの端22の適切な位置に嵌め込み,縫合部材18を固定用
支柱にしっかりと巻き付ける。次に外科医がアンカーとドライバ
ーから成るアセンブリーを操作するかまたは適切な位置に動かし
…,アンカーの先端60を穴の中に入れる。次に例えば外科医が
木槌または同様物でドライバーの端を叩いてアンカー16を軸方
向に穴の中に押し込む。」(段落【0031】)
「縫合用アンカーの他の具体化例を図16に示す。…縁の周りに
45°の食付き部が付いており,アンカーが骨に開けられた穴に
容易に入るようになっている。」(段落【0038】)
また,引用例2(甲6)の図12から図14には,あらかじめ
骨72の中に設けられた穴の中にアンカー16が挿入されている
様子が図示されている。
γ なお,引用例2(甲6)の段落【0027】における「先端が
細くなったアンカーは容易に柔らかい組織に突き刺すことができ
るであろう」との記載について説明すると,「図面の簡単な説
明」欄における「【図14】柔らかい組織を骨に固定するのに本
発明を使用する方法を示す。」との記載や「一般にアンカーは柔
らかい組織,靱帯および腱を骨に取り付けたり…」(段落【00
26】)との記載からも明らかなとおり,「柔らかい組織」はあ
くまで靱帯や腱などを意味するものであって,骨とは異なる。し
たがって,この記載を根拠に,引用発明2の丸い先端が骨を破壊
する機能を持つと考えることはできない。
δ このように,引用発明2にかかるアンカーはあらかじめ骨に設
けられた穴のなかにアンカーを挿入した上で,骨内にアンカーを
設置することをその構成・技術原理としているものである。
(b) 上記のとおり,引用発明2は,あらかじめ,骨の中に開けられ
た穴の中にアンカーを挿入する発明であるのに対して,引用発明1
はアンカーの先端をとがった構成とすることにより,アンカー自体
が骨を破壊して,骨内に穴をつくるものである。
そして,骨を破壊することによりアンカー自体で穴を開けること
を特徴とする引用発明1に対して,骨に穴を開けることを想定して
いない引用発明2における丸くなったアンカー先端部分の構成とを
組み合わせると,アンカー自体で骨に穴を開けるという引用発明1
の発明の目的に正面から反する方向に変更されることとなる。換言
すれば,この置換を行うことによって,引用発明1の縫合糸アンカ
ー60は,打ち込む力を受けたときに,骨を貫通する能力を全く失
うこととなるものである。
したがって,骨を破壊することによりアンカー自体で穴を開ける
ことを目的とする引用発明1において,引用発明2の丸い先端を採
用することは,引用発明1の目的に反するものであって,当業者と
してありえないものである。引用発明1に対して,引用発明2の丸
い先端を採用することは積極的に排除されていると解さざるを得な
い。
c よって,相違点にかかる構成は,当業者が容易に想到できたもので
はなく,したがって本願補正発明の進歩性を否定した審決の判断は誤
りであって,かつその誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。
エ 取消事由4(相違点の看過(3))
(ア) 審決は,「縦溝或いはスロット(63)との境となる『スカート部
分(64)』の側部,特に,第8図において『スカート部分(64)』
の時計回りで進行方向に位置する側部が,侵入時には骨皮質(70)の
組織を切断する役割を果たすものであるから,『切断部材』を有してい
ることが明らかである。」(6頁10行∼14行)と認定した上,本願
補正発明と引用発明1とは「少なくとも1つの翼状部材の少なくとも1
つの側部に沿った切断部材」(6頁28行∼29行)を有する点におい
て一致するものと認定している。
(イ) しかし,引用例1(甲5)の第3実施例について,引用例1には,
「…as the suture anchor is forced into a bone cortex 70, as shown in
FIG. 12, the bone materials passing through the flutes or slots 63
…」(縫合糸アンカーが骨皮質70の中に押し進められるとき,図12
に示すように,縦溝(フルート)又はスロット63の中を通る骨の材料
は…)[7欄15行∼17行,訳文4頁2行∼4行]との記載が存在
し,縦溝又はスロット63は,縫合糸アンカーが骨皮質の中に進むにし
たがって生じる,削り取られた骨材料を外側に通す通路であることが明
らかにされている。
また,引用例1(甲5)の第2実施例においても,「In that passage
bone materials are displaced by the pointed end 51 and flow through
the flutes or spaces 53, alongside the body sections 52…」(前記通
路において,骨の材料は尖った端部51によって移動され,本体部分5
2にそって縦溝(フルート)又は間隙(スペース)53を通して流れ
…)[6欄36行∼38行,訳文3頁16行∼18行]とされている。
これらの記載から,引用発明1におけるスカート部分(64)と縦溝
・スロット(63)の境目部分は,アンカー先端部分によって破壊され
た骨の組織が骨孔内にとどまりさらなるアンカーの回転を阻害すること
がないようにすることを目的としたものであり,スカート部分と縦溝・
スロット(63)の境目部分とによって骨組織を切断すること自体を目
的としたものではないことが明らかとなっている。
以上のとおり,引用発明1における「スカート部分(64)」の側部
は切断部材を有さず,それゆえ,本願補正発明における「少なくとも1
つの翼状部材の少なくとも1つの側部に沿った切断部材」に相当するも
のではない。
(ウ) したがって,審決には,上記の相違点を看過した誤りが存在し,こ
の誤りは結論に影響を及ぼすものである。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論
(1) 取消事由1に対し
ア 本願の特許請求の範囲の記載は明瞭であって,本願補正発明の「前記翼
状部材は弾性を有し,前記翼状部材は,前記翼状部材の外側に延びる位置
から内方に変形されるとき,前記翼状部材の予備変形した形状に戻るよう
にバイアスされており」との記載は,翼状部材は弾性を有していることに
より,挿入時にいったん内方に曲がった翼状部材には挿入前の形状(予備
変形した形状)に戻る方向に弾性力が働くことを意味しているものと理解
される。
イ 一方,引用発明1における「外側に広がった位置から内方に撓んだ後,
広がって元の形状に戻る」スカート部分(64)(翼状部材)も,引用例
1(甲5)の「縫合糸アンカーが完全に打ち込まれるまで撓んだ状態を保
ち,そこで,ハンマー力が中止されてスカート37は外に広がる」(5欄
59行∼62行)との記載や,骨組織への挿入後に挿入前の形状に戻って
いる様子が示されたFig.10及びFig.11の記載から,一旦内方に曲がったス
カート部分(翼状部材)に挿入前の形状(予備変形した形状)に戻る方向
に弾性力が働くことは明らかである。
ウ したがって,引用発明1は,「スカート部分(64)(翼状部材)は,
前記スカート部分(64)(翼状部材)の外側に延びる位置から内方に変
形されるとき,スカート部分(64)(翼状部材)の予備変形した形状に
戻るようにバイアスされ」ている点で本願補正発明と一致するものとした
審決の認定に誤りはない。
エ 原告は,本願補正発明においては一旦撓んだスカート部分が挿入前の元
の位置に戻るために外力を付加する必要が無い旨を主張するが,特許請求
の範囲の記載に基づく主張ではないから,失当である。
そして,本願明細書(甲2)の「次いで,アンカー5を,装置200あ
るいは別の適当な把持装置により(被告注:「にり」は誤記)回転させる
ことによって,好ましくは時計方向に,縫合糸アンカー5を孔内で回転さ
せる。翼60の切断縁70をボア孔を取り囲む網状層に効果的に切り込ま
せ,それによって曲げられた翼60を半径方向外方に広げるのに十分な回
転数にわたって,アンカー5を回転させる。」(14頁23行∼27
行),「次いで,アンカーを十分に回転させ,各翼状部材60の側部68
の切断刃70を,網状層の中に,切り込ませ,これによって,翼状部材6
0の近傍で,ボア孔の直径を大きくし,翼状部材60を半径方向外方に曲
げる。」(22頁7行∼10行),「次いで,アンカーを十分に回転さ
せ,各翼状部材60の側部68の切断刃70を,網状層の中に,切り込ま
せ,これによって,翼状部材60の近傍で,ボア孔の直径を大きくし,翼
状部材60を半径方向外方に曲げる。」(23頁4行∼7行)との記載か
らみて,あるいは,「アンカー105を手前に強く引いて,尖端170に
さらに係合させるのがよい。次いで,アンカー105がボア孔から引き抜
かれるのを効果的に防止するのに十分に,翼160の尖端170は骨の網
状層内で係合する。所望なら,アンカー105をボア孔内で回転させても
よい。」(16頁13行∼16行)との記載からみて,本願補正発明にお
いては,「縫合糸アンカー装置」を回転させる,あるいは,手前に引くこ
とによって,すなわち,外力を付加することによって翼状部材は骨に挿入
する前の形状(予備変形した形状)へと戻るものであるから,原告の上記
主張は誤りである。
オ さらに,引用例1(甲5)の7欄24行∼28行の記載は,引用発明1
のスカート部分(64)(翼状部材)が,使用に際して張力に耐えるよう
に働くことが説明されているのであって,スカート部分(64)(翼状部
材)を広げるために張力を加えなければいけないことを意味するものでは
ないとの原告の主張にも根拠はない。
そして,引用発明1がスカート部分(64)(翼状部材)を広げるため
に張力を加える必要があったとしても,上述のとおり,本願補正発明はア
ンカー装置を手前に引くことによって骨に挿入する前の形状(予備変形し
た形状)へと戻すものを含んでいるから,この点で本願補正発明とは相違
する旨の原告の主張は失当である。
(2) 取消事由2に対し
ア 本願の特許請求の範囲には,「長手方向」とはどこまでの範囲の方向を
含むのかについては明記されていないが,本願明細書(甲2)の15頁9
行∼16頁20行,図9∼16には,シャフト軸線(125)に対して斜
めの方向に延びる側部(168,169)を備えた縫合糸アンカー装置が
実施例として記載されていることから,本願補正発明における「長手方向
に延び」とは,シャフト軸線に対して斜めの方向に延びるものをも含むこ
とが明らかである。
イ そして,引用発明1におけるスカート部分の側部(側部)は,引用例1
(甲5)の7欄11行∼14行に記載されているように,そのシャフト軸
線に対してらせん状に所定の角度をもって延びるもの,すなわち斜めの方
向に延びるものであるから,本願補正発明同様,「長手方向」に延びるも
のということができ,引用例1(甲5)のFig.8にみられるように,スカ
ート部分は縦溝あるいはスロット(63)によって分割されているのであ
るから,分割されたスカート部分の側部(側部)同士は「対向」している
ことも明らかであり,引用発明1は,本願補正発明同様,「長手方向に延
び対向する側部を有」するものといえる。
ウ したがって,引用発明1のスカート部分の側部(側部)が「長手方向に
延び対向する側部を有」するとした審決の認定に誤りはない。
(3) 取消事由3に対し
ア 引用例1(甲5)及び引用例2(甲6)には原告の主張している技術事
項も記載されてはいるが,審決で引用例1の記載から認定した引用発明1
は,その遠位端の形状及び骨組織への挿入方法を特定することなく,可撓
性を有するスカート部分(64)(翼状部材)等の構成によって「縫合糸
アンカー装置」を骨組織への挿入後に抜けにくくしたことを特徴とする発
明であり,引用発明1に適用する引用例2に記載された技術思想は,「遠
位端が短い鼻部に終端している,骨のまたは縫合用のアンカーの発明」で
ある。
イ そして,審決では,引用発明1の遠位端を構成する鼻部の長さが不明で
あることに基づく相違点について,引用例2に記載された技術思想を適用
して,引用発明1の遠位端を「短い鼻部に終端している」ものとすること
が容易であるとしている。
このように,審決は,引用発明1の遠位端を短くすることが容易である
としているのであって,「尖った先端」を「丸くなった先端」に置換する
ことが容易としているものではないから,原告の主張は失当である。
また,本願明細書(甲2)中には,「所望ならば,遠位鼻部40は,先
細りであってもよく,或いは,先が尖っていてもよい。」(13頁21行
∼22行)と記載されていることからも,本願補正発明の「前記アンカー
部材の前記遠位端は,短い鼻部に終端している」という発明特定事項は,
鼻部の形状を特定することなくその長さを特定したものであることが明ら
かである。
ウ 仮に,引用発明1及び引用例2に記載された技術思想が原告の主張する
とおりのものであったとしても,次に述べるとおり,引用発明1に対し引
用例2に記載された技術思想を適用することに困難性はない。
まず,「縫合糸アンカー装置」の骨組織への挿入形態としては,「縫合
糸アンカー装置」自体で骨に穴を開けて挿入するものも,あらかじめ骨に
穴を開けておいて挿入するものも,当該技術分野において慣用的に採用さ
れている(例えば,国際公開第93/15666号パンフレット[乙1
],特開昭62−90148号公報[乙2]及び特開平4−250151
号公報[乙3]参照)から,これらの挿入形態のどちらを採用するかは必
要に応じて当業者が適宜選択し得ることであるといえ,挿入形態を変更す
ることに阻害要因は認められない。
そして,「縫合糸アンカー装置」の遠位端の形状は,必要に応じて適宜
変更することができるものであることは,上述の「所望ならば,遠位鼻部
40は,先細りであってもよく,或いは,先が尖っていてもよい。」との
本願明細書の記載や乙1の記載からも明らかである。
そうすると,引用発明1の縫合糸アンカー装置の骨組織への挿入方法を
あらかじめ骨に穴を開けた後に挿入して用いるものに変更して,その際,
原告が「丸まった先端」であるものと主張する引用例2に記載された「短
い鼻部に終端している」構成を採用することは,当業者にとって容易なこ
とといえる。
(4) 取消事由4に対し
引用発明1の縫合糸アンカー装置は,引用例1(甲5)のFig.12及び
Fig.13に図示されているように,アンカーの先端部分のみならず「胴部分
(62)」及び「スカート部分(64)」が先端側から順次骨に当接して,
先端側で形成した穴を後端側で広げるようにして骨に穴を開けるものであ
り,「胴部分(62)」及び「スカート部分(64)」には,「複数の縦溝
或いはスロット(63)」に面する側部によってその表面に角が形成されて
いる(甲5のFig.7及びFig.8参照)から,縫合糸アンカー装置の前進によっ
てその角は骨の中に食い込み,骨が切断されることは明らかである。
したがって,引用発明の「縫合糸アンカー装置」は「切断部材」を有して
いるとの審決の認定に誤りはない。
なお,引用発明において,縦溝又はスロットが削り取られた骨材料を外側
に通す通路であることは,「スカート部分(64)」の側部が「切断部材」
として機能するものではないとする根拠にはならない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2 本願補正発明の意義
(1) 本願明細書(甲2)には,「発明の詳細な説明」として,次の記載があ
る。
ア 技術分野
「本発明が関係する技術分野は,縫合糸アンカー,特に,軟組織を骨に取
り付けるための縫合糸アンカーである。」(8頁4行∼5行)
イ 背景技術
「関節や軟組織の負傷の治療が整形外科医療技術で進歩してきたので,
腱,靱帯及びその他の軟組織を骨に取り付けるのに使用しうる医療装置の
要求があった。負傷した関節を外科的に修復するときには,損傷した軟組
織を人工材料で置き換えるのではなく損傷した軟組織を再び取り付けるこ
とによって関節を回復させることが好ましい。典型的には,このような回
復には,靱帯や腱のような軟組織を骨に取り付ける必要がある。

在来の骨トンネルの使用と関連した問題点の幾つかを解消するために,
縫合糸アンカーが開発されてきており,しばしば,軟組織を骨に,或いは
骨を骨に取り付けるのに使用されている。縫合糸アンカーは,典型的には
骨にあけられたキャビテイに移植される整形外科医療装置である。これら
の装置は又骨アンカーとも称される。キャビテイは典型的にはボア孔と称
され,通常は骨を貫通しない。このタイプのボア孔は典型的には骨の外側
皮質層から内側網状層へあけられる。骨等の網状層へ押し入れられる摩擦
嵌めあごを含む種々の機構によってボア孔に縫合糸アンカーを係合させ
る。縫合糸アンカーは,骨の外傷を減らし,適用処置を簡単化し,縫合の
失敗を減じる等多くの利点を有することが知られている。縫合糸アンカー
は,上腕関節窩靱帯を修復するためのバンカート肩再形成に用いられ,そ
して回旋腱板修復,足関節及び手根関節修復,ブラッダー首懸垂,及び股
関節部置換を伴う外科処置にも用いられる。
縫合糸アンカーは典型的には縫合糸を受け入れるための孔又は開口を有
する。縫合糸はボア孔から外に延び,そして軟組織を取り付けるのに用い
られる。…
軟組織を骨に取り付けるための縫合糸アンカーは整形外科医による使用
のために入手できるけれども,挿入のし易さやより大きな「引き抜き」抵
抗のような改善された性能特性を有する新規な縫合糸アンカーの要求がこ
の分野では絶えずある。」(8頁6行∼10頁1行)
ウ 発明の開示
「したがって,本発明の目的は,骨に移植されたとき機械的に安定し,適
用が簡単である縫合糸アンカーを提供することにある。
本発明の更成る目的は,製造が容易である縫合糸アンカーを提供するこ
とにある。
本発明の更成る目的は,吸収性縫合糸アンカーを提供することにある。
したがって,縫合糸アンカー装置を開示する。縫合糸アンカーは遠位
端,近位端及び好ましくは円形断面を有するアンカー部材を有している
が,他の幾何学的断面を使用してもよい。断面はアンカー部材の長さに沿
って変化してもよい。遠位端,近位端,及び長手軸線を有する軸はアンカ
ー部材の近位端から延びる。随意の把持手段が軸の近位端から延びる。把
持手段は縫合糸アンカー装置を挿入したり手で扱ったりするのに用いられ
る。少なくとも2つの翼状部材がアンカー部材の近位端から近位方向に且
つ半径方向に延びる。随意の鈍らせた先端がアンカー部材の遠位端から遠
位方向に延びる。翼状部材は固定遠位端及び近位自由端並びに両側を有す
る。翼状部材はまた,縫合糸アンカー装置を骨のボア孔の中で回転させた
ときに骨に切り込むための,少なくとも一方の側から延びる切断手段を有
するのがよい。縫合糸保持手段が軸に,好ましくは,軸の近位端に取り付
けられる。
本発明の他の観点は,侵入作用によって骨に更に固着される縫合糸アン
カー装置である。縫合糸アンカー装置は遠位端,近位端及び好ましくは円
形断面を有するアンカー部材を有しているが,他の幾何学的断面を使用し
てもよい。断面はアンカー部材の長さに沿って変化してもよい。遠位端,
近位端,及び長手軸線を有する軸はアンカー部材の近位端から延びる。随
意の把持手段が軸の近位端から延びる。把持手段は縫合糸アンカー装置を
挿入したり手で扱ったりするのに用いられる。少なくとも2つの翼状部材
がアンカー部材の近位端から近位方向に且つ半径方向に延びる。随意の鈍
らせた先端がアンカー部材の遠位端から遠位方向に延びる。翼状部材は固
定遠位端および近位自由端ならびに両側を有する。翼状部材は又,縫合糸
アンカー装置を骨孔への挿入後強く引いたときに骨に食い込むための,各
近位端から延びる先の尖った部分を有する。翼状部材の先の尖った部分は
適用器の作用で,又は別のやり方で,或いはアンカーに取り付けられた随
意の縫合糸によって及ぼすことができる力と組み合わせて,骨に入り込む
ように作られてもよい。縫合糸保持手段は軸に,好ましくは軸の遠位端に
取り付けられる。
本発明の更に他の観点は,縫合糸のアンカー部材である。アンカー部材
は遠位端と近位端とをもった細長い本体部材を有する。常開位置を有する
複数の翼状部材が,近位方向に且つ半径方向外方に延びる。各翼状部材
は,前記本体部材に固定された遠位端及び近位自由端を有する。翼状部材
は,閉位置に内方に曲げられた後,常開位置に自動的に戻るように働く。
縫合糸が細長い本体部材に取り付けられる。
本発明の更に他の観点は,外表面から延びるねじ山を付加的に有する上
記の縫合糸アンカーの任意の1つである。」(10頁3行∼11頁13
行)
エ 本発明を実施するための最良の態様
(ア) 「本発明の縫合糸アンカー装置5を図1ないし図7に示す。図1な
いし図6を参照すると,縫合糸アンカー装置5は,図示のように,遠位
端14と近位端12とを備えたアンカー部材10を有している。アンカ
ー部材10は,その長手軸線に沿って直径が変化する円形断面を有して
いることが好ましい。アンカー部材10は,正四角形,矩形,三角形,
多角形,楕円などの他の幾何学断面を有していてもよい。アンカー部材
10の近位端12から中心シャフト20が延び,このシャフト20は近
位端22と遠位端24とを有している。シャフト20は,図示のよう
に,長手軸線25を有している。シャフト20は,長手軸線25を横断
する方向に貫通して延びる縫合糸孔30を有している。縫合糸孔30
は,シャフト20の近位端22の近くに配置されているのが好ましい。
好ましいものではないが,縫合糸孔30は,シャフト20ではなく,ア
ンカー部材10を貫通して延びていてもよい。縫合糸孔30は,円形の
形状であるのが好ましいが,他の幾何学形状を有していてもよい。先の
尖っていない遠位鼻部40がアンカー部材10の遠位端14から延びて
いる。所望ならば,遠位鼻部40は,先細りであってもよく,或いは,
先が尖っていてもよい。任意である把持部材50が,図示のように,シ
ャフト20の近位端22から近位方向に延びている。
アンカー部材10の近位端12から翼状部材60が延びている。翼状
部材60は,図示のように,近位端12から近位方向に,かつ,半径方
向外方に延びている。翼状部材60は,図示のように,遠位固定端62
および近位自由端64と,対向する側面68,69とを有している。翼
状部材60は,スロット80によって互いに分離されている。翼状部材
60は,図示のように,各翼状部材60の側面68から延びる切断縁7
0を有している。切断縁70は,翼状部材60の一方の側部の半径方向
に測定した厚さを増大させることによって形成されている。この実施例
においては,翼状部材60の側面68は,半径方向に測定したときに,
側面69よりも厚く,これにより切断縁70が形成されている。
別の実施例(図示せず)では,両側面68および69は切断縁70を
有していてもよい。かかる実施例では,両側面68,69は,半径方向
に測った厚さが,翼状部材60の中間部分の厚さより大きくてもよい。
翼状部材60は,挿入中,半径方向内方に効果的に曲げられるが,そ
の後,半径方向外方に移動して戻り,骨に係合し,かつ,装置を所定位
置に係止するのに十分な弾性を有するように構成されるのが好ましい。
本発明の縫合アンカー5は,図7(通常の外科用穿孔器具を使用)に
見られるように,アンカー5を効果的に受け入れるのに十分な深さのボ
ア孔315を,骨に最初に穿孔することによって用いられる。孔315
は,骨の外皮質層305を貫通し,下に位置する網状層306の中に延
びる。次いで,縫合糸350を縫合糸孔30に通すことによって,縫合
糸アンカー5の孔315への挿入準備がなされ,アンカー5,縫合糸3
50および針360を,ユニットとして,孔315に挿入する。骨に穿
孔された孔315の直径は,縫合糸アンカー5がアプリケータ200
(図8)あるいは従来の一対の外科ピンセットのような適当な把持装置
あるいは適当な外科用把握器を用いて,孔315に挿入されるとき,ア
ンカー5の翼315が半径方向内方に曲げられるような大きさにされ
る。次いで,縫合糸孔30が骨の皮質の上面306より下方(網状層に
向かって)に位置決めされ,さらに,翼部材60の切断縁70が網状層
に係合するのに十分な深さまで縫合糸アンカー5を孔315内で調整す
る。次いで,アンカー5を,装置200あるいは別の適当な把持装置に
り回転させることによって,好ましくは時計方向に,縫合糸アンカー5
を孔内で回転させる。翼60の切断縁70をボア孔を取り囲む網状層に
効果的に切り込ませ,それによって曲げられた翼60を半径方向外方に
広げるのに十分な回転数にわたって,アンカー5を回転させる。翼60
の切断作用によって,網状層の孔の少なくとも一部が皮質層を貫通する
ボア孔径より大きい直径のものであるように,網状層内の骨の孔径が増
大する。次いで,翼60の近位端64は,アンカー5がボア孔から引き
抜かれるのを効果的に防止するように骨の網状層内で十分に係合する。
アンカー5を骨のボア孔に設定するのに必要なアンカー5の回転量
は,アンカー5が作られている材料の性質および骨の状態を含む多数の
要因の関数である。数回転が代表的である。ボア孔315は,翼部材の
切断縁70上への従来の微細なダイアモンドフィルム(図示せず)を含
有させることによって容易に拡径することができる。これは,カーボン
蒸着を含む従来のプロセスを用いて製造することができる。」(13頁
8行∼15頁8行)
(イ) 「本発明の縫合糸アンカーの別の実施例を図9ないし図16に示
す。図9ないし図13を参照すれば,縫合糸アンカー装置105は,遠
位端114および近位端112を備えたアンカー部材110を有するも
のとして示されている。アンカー部材110は,その長手軸線125に
沿って,直径が変化する円形断面を有することが好ましい。部材110
は正方形,長方形,三角形,多角形,楕円などを含む他の断面形状を有
してもよい。近位端122および遠位端124を有する中心シャフト1
20は,アンカー部材110の近位端112から延びている。シャフト
120は,長手軸線125を有するものであることがわかる。シャフト
120は長手方向軸線125に直交して延びる縫合糸孔130を有して
いる。縫合糸孔130は円形形態が好ましいが,他の幾何形状を有して
もよい。短い遠位鼻部分140が,アンカー部材110の遠位端114
から延びている。選択的な把持部材150がシャフト120の近位端1
22から近くに延びるものとして示されている。
翼部材160は,アンカー部材110の近位端112から延びてい
る。翼部材160は,近位端112から近くに,かつ,半径方向外方に
延びるものとして示されている。各翼部材160は,固定遠位端162
および自由近位端164ならびに側面168,169を有するものとし
て示されている。翼部材160は,スロット180により互いに分離さ
れている。各翼部材160は,遠位端164から延びる穿孔用尖端17
0を有するものとして示されている。翼部材160は,ボア孔への挿入
後,予備変形した形状をとって,穿孔用尖端170がボア孔を取り囲む
網状層に効果的に押し込まれるのにほぼ十分な弾性および復元性を有す
る一方で,挿入中,半径方向内方に効果的に曲げられるのに十分な弾性
を有するように構成されるのが好ましい。
本発明の縫合糸アンカー105は,図示されているように取り付けら
れた縫合糸350および針360を備えたアンカー105を効果的に受
け入れるのに十分な深さの骨のボア孔315(図16)を最初に穿つこ
とによって用いられる。孔は骨の外皮質層を貫通して,下方に位置する
網状層310の中に延びるが,骨を貫通しないのが好ましい。骨に穿孔
された孔径は,縫合糸アンカー105がアプリケータ200あるいは別
の適当な把持装置を用いて孔に挿入されるとき,アンカー105の翼1
60が半径方向内方に曲げられるような大きさに決められる。次いで,
縫合糸通し孔130が骨の皮質の上面306より下方(網状骨に向かっ
て)に位置決めされ,さらに,翼部材が外方に曲がるとき,翼部材16
0の切断用尖端170が網状層310に効果的に係合するのに十分な深
さに縫合糸アンカー105をボア孔で調整する。アンカー105を手前
に強く引いて,尖端170にさらに係合させるのがよい。次いで,アン
カー105がボア孔から引き抜かれるのを効果的に防止するのに十分
に,翼160の尖端170は骨の網状層内で係合する。所望なら,アン
カー105をボア孔内で回転させてもよい。
ここで,図7および図16を参照すると,本発明の縫合糸アンカー
5,105が,骨300のボア孔315に移植された後,腱320は,
針360を腱320に挿入し,縫合糸を腱320を通して引くことによ
り,骨300の表面306,特に外側皮質305の表面306に固着さ
れる。」(15頁9行∼16頁20行)
(ウ) 「縫合糸アンカー5の別の実施例が図17に示されている。縫合糸
アンカー5のこの実施例の形状は,前に説明した形状と同様であるが,
在来のねじ山90,すなわちタッピンねじ山がアンカー部材10および
翼60の外側表面60から延びている。ねじ山90はアンカー部材10
だけにあってもよく,或いは,図17に示すように翼状部材60まで延
びていてもよい。縫合糸アンカー105の別の実施例が図18に示され
ている。縫合糸アンカー105のこの実施例の形状は,前に説明した形
状と似ているが,在来のねじ山,たとえば,タッピンねじ山がアンカー
部材110の表面から延びており,また,翼160まで延びていてもよ
い。ねじ山190はアンカー部材だけにあってもよく,或いは,図17
に示すように翼状部材160まで延びていてもよい。ねじ山90および
190は,在来の技術を利用して,成形によって作ってもよいし,ある
いは,縫合糸アンカー5および105に切り込みをいれて作ってもよ
い。」(16頁21行∼17頁3行)
(エ) 「縫合糸アンカー5の更に別の実施例が図19−図21に示されて
いる。縫合糸アンカー305は,遠位端314および近位端312を有
するアンカー部材310を有していることがわかる。アンカー部材31
0は好ましくは,その長手軸線に沿って直径が変化することのある円形
横断面を有する。部材310は,正方形,長方形,三角形,多角形,楕
円形等の他の形状を有してもよい。近位端322および遠位端324を
有する中央シャフト320がアンカー部材310の近位端312から延
びている。シャフト320は,長手軸線325を有していることがわか
る。シャフト320は,長手軸線325を横切って貫通して延びている
縫合糸孔330を有する。縫合糸孔330は,好ましくはシャフト32
0の近位端322に向かって位置決めされている。好ましくはないけれ
ども,縫合糸孔330は,シャフト320ではなくて部材310を貫通
して延びていてもよい。縫合糸孔330は,好ましくは断面が円形であ
るが,他の形状を有していてもよい。アンカー部材310の遠位端31
4から鈍い遠位鼻状部分340が延びている。随意の把持部材350が
シャフト320の近位端322から遠位方向に延びている。
アンカー部材310の近位端312から翼状部材360が延びてい
る。翼状部材360は,遠位端324から近位方向に半径方向外方に延
びていることがわかる。翼状部材360は,固定された遠位端362
と,自由な近位端364と,対向した側部368および369と,を有
していることがわかる。翼状部材360は,スロット380によって互
いに分離されている。対向した側部368および369は等しい厚さを
有していることがわかる。アンカー5の刃のような刃70は翼状部材3
60の側部に沿って存在しない。翼状部材360は,骨のボアに挿入さ
れるために半径方向内方に撓まされたときに効果的に拡張して自身を骨
の癌部分に定着するほど十分に弾力的である。定着を助けるためにアン
カー305は随意には回転されてもよい。アンカー305は,随意の遠
位ねじ山を有してもよい。
アンカー305は,アンカー105と同様な仕方で使用され,アンカ
ー5と同様な仕方で回転させることができる。」(17頁4行∼18頁
2行)
(オ) 「本発明の縫合糸アンカー装置は数々の利点を有している。本発明
の縫合糸アンカーは製造が大変容易である。アンカー装置は骨の中に定
置されるとき安定性を有し,また使用が容易である。本発明の縫合糸ア
ンカーは,骨の中での位置を維持するために,装置と骨の中にあけられ
た孔の側壁との間の摩擦に単に頼らず,むしろ,翼の近位端と骨皮質の
内面との間の機械的干渉を利用している。
本発明の縫合糸アンカー装置は,柔らかい組織を骨に,肩関節,股関
節,膝関節等を含む種々の解剖位置に,切開又は関節鏡又は内視鏡外科
的処置で再度取付けるのに使用することができる。また,縫合糸アンカ
ー装置は,好ましくは大きい寸法のものを骨折の固定のために使用して
もよい。」(21頁12行∼20行)
(カ) 「実施例1
通常の手術準備手法を用いて,患者に手術の準備を施す。効果的な麻
酔状態にするのに十分な量の通常の麻酔薬で,患者を麻酔する。通常の
外科手法により,患者の膝関節への切開箇所を作り,患者の大腿骨の膝
関節に隣接した端を露出させる。整形外科用ドリルなどの通常のドリル
あるいは穿孔器具を使用して,患者の大腿骨にボア孔を空ける。盲孔を
患者の大腿骨に空けて,骨の表面から組織片を除去した後,アプリケー
タ200を用い,縫合糸350および外科用針360を有している本発
明の外科用アンカー装置5を,中央シャフト20の近位端22および縫
合糸孔30が,ボア孔の回りの骨の皮質の外面の下方に位置決めされる
ように,ボア孔の中に挿入する。翼状部材60の近位端64は,皮質の
最も内側の面の下方に,位置決めされ,網状層内に位置している。ボア
孔の直径は,アンカー5の翼状部材60が,挿入中,半径方向内方に十
分に曲がって,アンカー5がボア孔内で動くことを効果的に防止するよ
うに,選択される。この曲がりは,実質的には弾性変形である。次い
で,アンカーを十分に回転させ,各翼状部材60の側部68の切断刃7
0を,網状層の中に,切り込ませ,これによって,翼状部材60の近傍
で,ボア孔の直径を大きくし,翼状部材60を半径方向外方に曲げる。
次いで,アンカー5を,アプリケータ200から放す。翼状部材60
は,ボア孔の直径より大きな最大外径を有した状態にある。したがっ
て,網状層の中に,もぐり込んだ翼状部材60が,アンカー5に働く近
位方向への力に抗して,最終的には,皮質層の内側面に係合して,これ
によって,アンカー5がボア孔から抜けなくなる。次いで,外科用針3
60および縫合糸350を使って,腱あるいは靱帯を,アンカー5に固
定する。次いで,通常の外科手法によって,患者の膝の切開部を閉じ
る。」(21頁21行∼22頁16行)
(キ) 「実施例2
通常の手術準備手法を用いて,患者に関節鏡による肩の手術の準備を
施す。効果的な麻酔状態にするのに十分な量の通常の麻酔薬で,患者を
麻酔する。通常の関節鏡の使用法によって,患者の肩の中に配置する。
関節鏡を一つのカニューレの中に挿入して,検査し,軟組織を確認す
る。トロカールカニューレの中に挿入されるドリルビットあるいは整形
外科用ピンのような,従来からの穿孔器具を使用して,適切に寸法決め
された孔を,患者の肩甲骨に穿孔する。患者の肩甲骨および骨の表面か
ら組織片を除去した後,縫合糸350および外科用針360を有する本
発明の外科用アンカー装置5を,トロカールカニューレの中に挿入し,
そして,中央シャフト20の近位端22および縫合糸孔30が,ボア孔
の回りの骨の皮質の外面の下に位置決めされるように,(遠位端がトロ
カールカニューレの中に挿入された)アプリケータ200を用い,ボア
孔の中に挿入する。翼状部材60の近位端64を,皮質の最も内側の面
の下に,位置決めし,網状層内に位置させる。ボア孔の直径は,アンカ
ー5の翼状部材60が,挿入中,半径方向内方に十分に曲がって,アン
カー5がボア孔内で動くことを効果的に防止するように選択される。こ
の曲がりは,実質的には弾性変形である。次いで,アンカーを十分に回
転させ,各翼状部材60の側部68の切断刃70を,網状層の中に,切
り込ませ,これによって,翼状部材60の近傍で,ボア孔の直径を大き
くし,翼状部材60を半径方向外方に曲げる。次いで,アンカー5を,
アプリケータ200から放して,アプリケータ200の遠位端をトロカ
ールカニューレから取り出す。翼状部材60は,ボア孔の直径より大き
な最大外径を有した状態にある。したがって,網状層の中にもぐり込ん
だ翼状部材60が,アンカー5に働く近位方向への力に抵抗し,最終的
には,皮質層の内側面に係合して,これにより,アンカー5がボア孔か
ら抜けなくなる。次いで,外科用針360および縫合糸350を使っ
て,腱あるいは靱帯を,アンカー5に固定する。トロカールカニューレ
を取り出し,次いで,関節鏡による通常の手術法にしたがって,患者の
肩の切開部を閉じる。」(22頁17行∼23頁15行)
(2) 前記第3の1(2)イの特許請求の範囲請求項1の記載に,上記(1)の「発
明の詳細な説明」の記載を総合すると,本願補正発明は,縫合糸アンカー,
特に,軟組織を骨に取り付けるための縫合糸アンカーに関する発明であっ
て,特許請求の範囲請求項1の記載の構成を採るものであり,骨の中で安定
性を有し,使用が容易である等の利点を有するものであると認められる。
そして,上記(1)の「発明の詳細な説明」には,装置の実施例として,上
記(1)エ(ア)∼(エ)の四つの態様が記載され,手術における使用態様の実施
例として,上記(1)エ(カ),(キ)の二つの実施例が記載されている。このう
ち,①上記(1)エ(ア)の実施例は,アンカー5の翼状部材60に切断縁70
を設けておき,ボア孔315の中で,曲げられた翼状部材60を半径方向外
方に広げるのに十分な回転数だけアンカー5を回転させ,翼状部材60の切
断作用によって,ボア孔の孔径を増大させて,アンカー5が骨に十分に係合
するようにするというものである。②上記(1)エ(イ)の実施例は,アンカー
105の翼部材160に遠位端164から延びる穿孔用尖端170を設けて
おき,ボア孔315の中で,アンカー105を手前に強く引いて,尖端17
0を骨に係合させるというものであり,アンカー105をボア孔内で回転さ
せてもよい,とされている。③上記(1)エ(ウ)の実施例は,上記(1)エ(ア)の
実施例において,ねじ山90を,アンカー部材10あるいはアンカー部材1
0と翼状部材60に設けるというものと,上記(1)エ(イ)の実施例におい
て,ねじ山90を,アンカー部材110あるいはアンカー部材110と翼部
材160に設けるというものである。④上記(1)エ(エ)の実施例は,上記(1)
エ(ア)の実施例において切断縁70を有しないアンカー(アンカー305)
であるが,アンカー305は随意には回転されてもよく,随意の遠位ねじ山
を有してもよい,とされている。
このうち,上記(1)エ(イ)の実施例につき,原告は,後に平成13年11
月30日付けの補正(第1次補正。甲3)によって削除された出願当初の請
求項38の実施例であり,本願補正発明そのものの実施例ではないと主張す
る。しかし,同実施例は,同補正後も削除されることなく「発明の詳細な説
明」中に存するものである。また,同実施例は,上記②のとおり,「ボア孔
315の中で,アンカー105を手前に強く引いて,尖端170を骨に係合
させるというものであり,アンカー105をボア孔内で回転させてもよい」
というものであるから,アンカー105を手前に強く引いたときやアンカー
105をボア孔内で回転させたときには,アンカー105の翼部材160の
側面168,169は,骨を切断するものと解される。そうすると,同実施
例は,本願補正発明の要件のうち「少なくとも1つの翼状部材の少なくとも
1つの側部に沿った切断部材」を有する。さらに,同実施例は,後記5(1)
のとおり,本願補正発明の要件のうち「長手方向に延び対向する側部」を有
する。そして,同実施例は,その余の本願補正発明の要件も充足することか
らすると,本願補正発明の実施例であるということができる。
3 引用発明1の意義
(1) 一方,引用例1(甲5)には,次の記載がある(訳文は,原告が提出し
た訳による。)。
ア 発明の背景
「この発明は,骨の表面の上に縫合糸を取り付けることを必要とする整形
法の外科的処置において使用される縫合糸アンカー装置に関する。」(1
欄6行∼8行,訳文1頁2行∼3行)
「これに対して,本発明は,縫合糸アンカーを骨の中に配置するためのド
ライバによって加えられる打ち込み力によって打ち込まれることを意図す
る,尖った縫合糸アンカーに関連している。」(1欄28行∼31行,訳
文1頁5行∼7行)
「このような構造は,アンカーを骨の中に打ち込む前に,骨表面に穴開け
することを伴わない本発明と異なったものである。」(1欄38行∼40
行,訳文1頁9行∼10行)
「上述した内容は,骨の中に回転して入るアンカー装置,或いは,骨の中
に形成された穴の中に嵌り込むアンカー装置の例である。これらの装置,
及び,それに類似の装置とは異なり,本発明は,骨の中に打ち込まれるよ
うに構成され,かつ,連結構造に加えることができる予想される引っ張り
力に抗して,骨の中に固定することができるように構成されている。」
(1欄49行∼54行,訳文1頁12行∼16行)
「前記の従来技術におけるステープル・ピン構造のいずれもが,本発明
のアンカーの構造に似た,尖った先端をもつ銛タイプのアンカーを伴うも
のでなく,本発明と機能的に異なるものである。」(2欄3行∼6行,訳
文1頁18行∼20行)
イ 発明の概要
「本発明の主な目的は,外科医がドライバの端部に打ち込む力を加えて,
縫合糸アンカーの銛タイプの尖った先端を骨に恒久的に取り付けることが
できる,銛タイプの縫合糸アンカーおよびドライバを提供することにあ
る。」(2欄9行∼13行,訳文1頁22行∼24行)
「本発明の他の目的は,事前の部位調整を必要とすることなしに,骨に取
り付けることができる縫合糸アンカーを提供することにある。」(2欄2
0行∼22行,訳文1頁下3行∼下2行)
「本発明の他の目的は,銛タイプの尖った先端として,尖った円錐形部材
の頂部からスカートに外方に傾斜する円錐形部材を含み,ドライバによっ
てハンマの力が加えられると,尖った頂部が骨を貫通し,縫合糸アンカー
が骨の材料の中に打ち込まれるときに,銛タイプの端部の傾斜面が骨の材
料を押しのけるようになっている縫合糸アンカーを提供することにあ
る。」(2欄23行∼30行,訳文2頁1行∼5行)
「本発明の他の目的は,縫合糸アンカーを骨の中に打ち込むときに,円錐
形のスカートを内方に撓ませることができ,打ち込む力がなくなると,前
記スカートを骨の中に外方に撓ませるように構成されている縫合糸アンカ
ーの円錐形の端部およびドライバの端部を提供することにある。」(2欄
31行∼36行,訳文2頁7行∼10行)
ウ 発明の詳細な説明
(ア) 「広いヘッド27の端部は,外科医がハンマで打つことができ,ド
ライバ22から縫合糸アンカー21にハンマの力を与えるようになって
いる。」(4欄37行∼40行,訳文2頁12行∼13行)
「それによって,インサートヘッド25に加えられたハンマの力は,ロ
ッド23からカラー30に伝達され,前記ハンマの力は,前記カラー3
0から縫合糸アンカーマウント28を通して,縫合糸アンカーマウント
28に取り付けられた縫合糸アンカーに作用する。」(4欄49行∼5
3行,訳文2頁15行∼17行)
(イ) 第1実施例
「縫合糸アンカー21の第1実施例は,図3および図4に最も良く示
されており,また,骨33の中に打ち込まれ骨皮質34に取り付けられ
る様子は,図9から図11(判決注:「図411」は誤記)に示されて
いる。縫合糸アンカー21は,尖った先端35を含んでおり,この尖っ
た先端35は,図9に示すように,骨33の表面を貫通するためのもの
である。縫合糸アンカーの銛端部本体36は,尖った先端35から直円
錐として外方に一様にテーパし,スカート37で終端している。スカー
ト37のところで,次に,銛端部本体は内方に曲がり平らな壁部38に
なり,この平らな壁部38は尖った先端35に向って傾斜し,前記縫合
糸アンカーの円筒形本体39と交差している。前記縫合糸アンカーの円
筒形本体39の後端40は,縫合糸42の端部を受け入れて固着するた
めに前記後端40に形成された中央の長手方向の穴41を含んでい
る。」(5欄22行∼35行,訳文2頁19行∼28行)
「実際には,図10に示すように,縫合糸アンカーは,骨表面33を貫
通して骨皮質34の中に打ち込まれる。」(5欄43行∼45行,訳文
2頁下2行∼下1行)
「図10に示すように,縫合糸アンカー21は,縫合糸アンカーマウン
ト28に取り付けられて骨皮質の中に打ち込まれ,そこでカラー表面3
0bは骨33の表面に係合する。その挿入のときに,縫合糸アンカーの
スカート37は,縫合糸アンカーの円筒形本体39の表面に向って撓ま
され,この撓みは,角度「C」として示されるように,前記スカート3
7の下面壁38と,縫合糸アンカーマウントの傾斜している先端31の
表面との間の隙間によって可能にされている。この撓みは,縫合糸アン
カーが完全に取り付けられるまで続き,その結果,ハンマーの力がなく
なると,スカート37は,外方に撓む。それによって,スカートは,図
11に示すように,縫合糸アンカーの通過によって形成された通路の中
に撓んで戻った骨皮質材料の中に移動し,前記通過によって影響を受け
なかった骨材料の中に移動する。」(5欄51行∼66行,訳文3頁2
行∼11行)
(ウ) 第2実施例
「しかしながら,縫合糸アンカー50を取り付けるとき,縫合糸アン
カーの本体部分52は,その面積が小さいので,縫合糸アンカー21の
スカート部分よりも,スカート部分のところで,たやすく内方に撓む傾
向にあり,それによって,縫合糸アンカーを打ち込むところで,骨の材
料を破壊することが少ない。前記通路において,骨の材料は尖った端部
51によって移動され,本体部分52にそって縦溝(フルート)又は間
隙(スペース)53を通して流れ,縫合糸アンカー21の円錐形本体3
6よりも,骨の材料を破壊することが少ない。それによって,移動され
る骨の材料の流れは,縫合糸アンカー21に続いて存在するものより
も,骨の材料が縫合糸アンカー51の後ろに満たされるときのほうが高
密度である傾向にあり,縫合糸アンカー51のスカート部分54の間に
高密度の骨の材料が形成される傾向にあり,縫合糸アンカーの引き戻し
に抵抗し,したがって,縫合糸42に加えられると予想することができ
る引張り強さよりも,はるかに大きい引張り強さを得ることができ
る。」(6欄30行∼47行,訳文3頁13行∼24行)
(エ) 第3実施例
「銛タイプ縫合糸アンカー60(以下,「縫合糸アンカー」という)
のなお更なる実施例,すなわち,第3実施例は,図7および図8に示さ
れており,また,取り付けられた状態は図12および図13に示されて
いる。縫合糸アンカー60は,縫合糸アンカー50と同様に,尖った先
端61を有しており,間隔をもって外方にテーパしている本体部分62
が尖った先端61から後方に延びており,前記本体部分62はスカート
部分64で終端しており,縦溝(フルート)又はスロット63が,前記
本体部分62の間に形成されている。縫合糸アンカー60は,縫合糸ア
ンカー50と同様に,スカート部分64から円筒形本体66と交差す
る,内に曲がった前方の傾斜している壁部65を含んでいる。前記円筒
形本体66は,平らな後端67を有しており,中央の長手方向の穴68
が,縫合糸42の端部を中に受け入れて固着するために形成されてい
る。」(6欄65行∼7欄10行,訳文3頁下14行∼下5行)
「縫合糸アンカー50とは異なり,縫合糸アンカー60の本体部分6
2,および,本体部分62の間に設けられた隣接する縦溝(フルート)
又はスロット63は,約15度の円弧角度の同一の螺旋を有するように
形成されている。」(7欄11行∼14行,訳文3頁下3行∼下1行)
「縫合糸アンカー60を取り付けている間,縫合糸アンカーが骨皮質7
0の中に押し進められるとき,図12に示すように,縦溝(フルート)
又はスロット63の中を通る骨の材料は,図12および図13において
曲がった矢印「D」で示すように,縫合糸アンカー60にねじりを与え
る。」(7欄14行∼19行,訳文4頁2行∼5行)
「それによって,前記縫合糸アンカー60のスカート部分64は,縫合
糸アンカーの入口通路から外に移動され,図13に示すように,前記ス
カート部分64から骨の表面への直線上に位置する最小限に乱された骨
の材料と本質的に整列される。したがって,縫合糸42によって加えら
れる引っ張り力は,スカート部分64を外方に撓ませる傾向があり,本
質的に骨の材料を乱すことがなく,取り付けられた縫合糸アンカー50
のスカート部分54によって与えられるアンカーの支持よりも優れたア
ンカーの支持を提供することができる。」(7欄19行∼28行,訳文
4頁7行∼13行)
エ 特許請求の範囲
「1 銛タイプ縫合糸アンカーにおいて,…銛端部手段を備え,…銛端部
手段は,尖った先端をもつ直円錐であり,…前記銛タイプ縫合糸アンカー
を骨の中に進めるためのドライバ手段を備えることを特徴とする銛タイプ
縫合糸アンカー」(8欄6行∼20行,訳文4頁14行∼16行)
「2 特許請求の範囲第1項に記載の銛タイプ縫合糸アンカーにおいて,
銛タイプ縫合糸アンカーを取り付けるときに,銛端部手段のスカートによ
り,円筒形の本体構造に向って前記スカート部分を撓ませることができる
ようになっていることを特徴とする銛タイプ縫合糸アンカー」(8欄21
行∼24行,訳文4頁下4行∼下1行)
オ 図3(Fig.3)には,上記ウ(イ)の第1実施例の縫合糸アンカー21が
縫合糸アンカーマウント28にマウントされている側面図が,図4
(Fig.4)には,同縫合糸アンカー21を先端35の側から見た図が,図
5(Fig.5)には,上記ウ(ウ)の第2実施例の縫合糸アンカー50が縫合
糸アンカーマウント28にマウントされている側面図が,図6(Fig.6)
には,同縫合糸アンカー50を先端51の側から見た図が,図7
(Fig.7)には,上記ウ(エ)の第3実施例の縫合糸アンカー60が縫合糸
アンカーマウント28にマウントされている側面図が,図8(Fig.8)に
は,同縫合糸アンカー60を先端61の側から見た図がそれぞれ示されて
いる。
図5(Fig.5)及び図6(Fig.6)によると,上記ウ(ウ)の第2実施例の
縫合糸アンカー50は,尖った先端51と,四方に広がりスカート部分5
4で終端する本体部分52と,縫合糸42の端部を受け入れ固着するため
の中央の長手方向の穴58が形成される平らな後端57を備えた円筒形本
体56とで構成されている。
図10(Fig.10)及び図11(Fig.11)には,上記ウ(イ)の第1実施例
の縫合糸アンカー21が骨に打ち込まれる様子が図示されている。図10
(Fig.10)には,縫合糸アンカー21が縫合糸アンカーマウント28にマ
ウントされて骨皮質34に打ち込まれているときは,スカート37が円筒
状の本体39表面の方へと撓んでいる様子が示され,図11(Fig.11)に
は,縫合糸アンカーの設置後の状態においては,スカート37が外に広が
って,元の形に戻る様子が示されている。
図12(Fig.12)及び図13(Fig.13)には,上記ウ(エ)の第3実施例
の縫合糸アンカー60が骨に打ち込まれる様子が図示されている。これら
の図には,縫合糸アンカーが骨皮質70の中を押し進むに従って通路が形
成され,削り取られる骨材料によってねじり力が生じる様子が,曲がった
矢印Dとして示されている。
(2) 上記(1)によると,引用例1には,骨表面上に縫合糸を固着させる整形法
の外科的処置で使用される縫合糸アンカー装置が記載されているところ,具
体的には,次のような縫合糸アンカーが記載されている。
ア 上記(1)ウ(イ)の第1実施例の縫合糸アンカー21
尖った先端35と終端のスカート37を有する縫合糸アンカーの銛端部
本体36と,縫合糸42の端部を受け入れて固着するために形成された中
央の長手方向の穴41を備えている円筒形本体39とで構成されている。
この縫合糸アンカーは,縫合糸アンカーマウント28にマウントされて骨
皮質34に打ち込まれるが,そのときには,スカート37は,スカート3
7の平らな壁部38と先端31の方に傾斜した縫合糸アンカーマウント2
8の表面との隙間によって許容される屈曲性によって,円筒形本体39表
面の方へと撓み,打ち込む力がなくなると,スカート37は,骨の中に外
方に広がり,元の形に戻る。
イ 上記(1)ウ(ウ)の第2実施例の縫合糸アンカー50
尖った先端51と,四方に広がりスカート部分54で終端する本体部分
52と,縫合糸42の端部を受け入れ固着するための中央の長手方向の穴
58が形成される平らな後端57を備えた円筒形本体56とで構成されて
いる。この縫合糸アンカーは,縫合糸アンカーマウント28にマウントさ
れて骨皮質34に打ち込まれるが,そのときには,上記(1)ウ(イ)の第1
実施例の縫合糸アンカー21と同様に,円筒形本体56表面の方へと撓
む。
ウ 上記(1)ウ(エ)の第3実施例の縫合糸アンカー60
尖った先端61と,間隔をもって外方にテーパしておりスカート部分6
4で終端する本体部分62と,縫合糸42の端部を受け入れ固着するため
の中央の長手方向の穴68が形成される平らな後端67を備えた円筒形本
体66とで構成されている。本体部分62及び本体部分62の間に設けら
れた隣接する縦溝又はスロット63は,約15度の円弧角度の同一の螺旋
を有するように形成されている。
4 取消事由1(相違点の看過(1))について
(1)ア 本件補正後の特許請求の範囲請求項1には,前記のとおり「…前記翼
状部材は,前記翼状部材の外側に延びる位置から内方に変形されるとき,
前記翼状部材の予備変形した形状に戻るようにバイアスされており」と記
載されている。バイアス(bias)は,「一方に片寄らせる」という意味で
ある(「新英和大辞典」研究社205頁[甲7])から,本願補正発明の
「翼状部材」は,外側に延びる位置から内方に変形されるとき,予備変形
した形状に戻るように,一方に片寄らせられている,ということになる。
しかし,翼状部材が予備変形した形状に戻るに際して,翼状部材の復元力
のみで戻るのか,外から加えられた力で戻るのか,その双方の力で戻るの
かについては,特許請求の範囲請求項1の記載のみでは明らかでない。
イ そこで,前記2で認定した本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」
の記載を参酌すると,次のようにいうことができる。
(ア) 前記2(1)エ(ア)の実施例は,「翼状部材60は,挿入中,半径方
向内方に効果的に曲げられるが,その後,半径方向外方に移動して戻
り,骨に係合し,かつ,装置を所定位置に係止するのに十分な(判決注
:「あ」は誤記)弾性を有するように構成されるのが好ましい。」(1
4頁8行∼10行)と記載されているから,翼状部材60はそれ自体が
復元力を有するものであるが,前記2(2)のとおり,同実施例は,翼状
部材60を回転させて半径方向外方に広げるものであって,その場合,
予備変形した形状に広がると解することができるから,翼状部材60
は,それ自体の復元力と回転する力によって予備変形した形状に戻るも
のと解される。
原告は,同実施例におけるアンカー5の回転は,回転によって,切断
縁70を「網状層に効果的に切り込ませ」ることを目的としており,翼
状部材が常開位置(元の位置)に戻るかどうかとは関係がないと主張す
る。前記2(1)エ(ア)の本願明細書(甲2)の記載によると,同実施例
におけるアンカー5の回転は,回転によって,切断縁70を「網状層に
効果的に切り込ませ」ることを目的にしていると認められるが,そうで
あるからといって,回転が翼状部材60が予備変形した形状に戻ること
と関係がないということはできない。同実施例は,回転によって,翼状
部材60が予備変形した形状に戻るようにするとともに,「網状層に効
果的に切り込ませ」るものと解することができる。
(イ) 前記2(1)エ(イ)の実施例は,「翼部材160は,ボア孔への挿入
後,予備変形した形状をとって,穿孔用尖端170がボア孔を取り囲む
網状層に効果的に押し込まれるのにほぼ十分な弾性および復元性を有す
る一方で,挿入中,半径方向内方に効果的に曲げられるのに十分な弾性
を有するように構成されるのが好ましい。」(甲2,15頁下3行∼1
6頁2行)と記載されているから,翼部材160はそれ自体が復元力を
有するものであるが,前記2(2)のとおり,同実施例は,アンカー10
5を手前に強く引いて,穿孔用尖端170を骨に係合させるというもの
であるから,その際に,翼160は半径方向外方に広げられ,予備変形
した形状に広がると解することができる。また,前記2(2)のとおり,
同実施例は,アンカー105をボア孔内で回転させてもよいとされてい
るから,回転させたときに,予備変形した形状に広がるということもあ
り得ると考えられる。そうすると,翼部材160は,それ自体の復元力
と手前に強く引く力(及び回転)によって予備変形した形状に戻るもの
と解される。
なお,前記2(1)エ(イ)のとおり,本願明細書(甲2)には,「翼部
材160は,ボア孔への挿入後,予備変形した形状をとって,穿孔用尖
端170がボア孔を取り囲む網状層に効果的に押し込まれるのにほぼ十
分な弾性および復元性を有する…」(15頁下3行∼下1行)との記載
があるが,そこでいう「復元性」は,それ自体のものに限られず,手前
に強く引く力や回転する力が加わったものも含めて考えることができる
から,上記認定を左右するものではない。
(ウ) 前記2(1)エ(ウ)の実施例は,前記2(1)エ(ア)の実施例及び前記2
(1)エ(イ)の実施例にねじ山90が付けられたものであるから,上記(ア
)(イ)で述べたところが当てはまる。
(エ) 上記(1)エ(エ)の実施例は,「翼状部材360は,骨のボアに挿入
されるために半径方向内方に撓まされたときに効果的に拡張して自身を
骨の癌部分に定着するほど十分に弾力的である。」(甲2,17頁下5
行∼下3行)と記載されているから,翼状部材360はそれ自体が復元
力を有するものであるが,前記2(2)のとおり,アンカー305は随意
に回転されてもよいとされているので,翼状部材360は,必ずしもそ
れ自体の復元力のみで予備変形した形状に戻るのではなく,その復元力
と回転する力によって予備変形した形状に戻ることがあるものと解され
る。
(オ) 前記2(1)エ(カ)(キ)の手術における使用態様の実施例は,前記2
(1)エ(ア)の実施例の装置を用いたものであるから,上記(ア)で述べた
ところが当てはまる。
(カ) また,本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」の「発明の開
示」には,前記2(1)ウのとおり,本願補正発明の説明として,縫合糸
アンカー装置を骨のボア孔の中で回転させたときに骨に切り込む態様
(前記2(1)エ(ア)の実施例のもの)や縫合糸アンカー装置を骨孔への
挿入後強く引いたときに骨に食い込む態様(前記2(1)エ(イ)の実施例
のもの)が記載されている。
(キ) 以上の本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」の記載を参酌す
ると,本願補正発明の「翼状部材」は,翼状部材の復元力又は翼状部材
の復元力と外から加えられた力の双方の力によって予備変形した形状に
戻るものということができる。
(ク) なお,本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」の「発明の開
示」には「翼状部材は,閉位置に内方に曲げられた後,常開位置に自動
的に戻るように働く。」(11頁9行∼10行)と記載されている。し
かし,実施例の記載は,上記(ア)∼(オ)のとおりであるし,また,「発
明の開示」の上記「翼状部材は,閉位置に内方に曲げられた後,常開位
置に自動的に戻るように働く。」の記載に先立つ部分には,前記2(1)
ウのとおり,前記2(1)エ(ア)の実施例や前記2(1)エ(イ)の実施例に対
応する説明が記載されているから,上記「翼状部材は,閉位置に内方に
曲げられた後,常開位置に自動的に戻るように働く。」の記載は,「本
願補正発明の『翼状部材』は,翼状部材の復元力又は翼状部材の復元力
と外から加えられた力の双方の力によって予備変形した形状に戻るもの
ということができる。」との上記(キ)の認定を覆すに足りるものではな
い。
(2) 引用例1(甲5)に記載されている縫合糸アンカーのうち,前記3(1)ウ
(イ)の第1実施例の縫合糸アンカー21は,スカート37の平らな壁部38
と先端31の方に傾斜した縫合糸アンカーマウント28の表面との隙間によ
って許容される屈曲性によって,円筒形本体39表面の方へと撓み,打ち込
む力がなくなると,スカート37は,骨の中に外方に広がり,元の形に戻る
ものであるから,スカート37には,それ自体に復元力が存するものと解さ
れる。そして,スカート37が外方に広がり,元の形に戻るには,それ自体
の復元力に加えて外力を加える必要があるとしても,上記(1)のとおり,本
願補正発明の「前記翼状部材は,前記翼状部材の外側に延びる位置から内方
に変形されるとき,前記翼状部材の予備変形した形状に戻るようにバイアス
されており」との要件は,外力を加えることを排除するものではなく,翼状
部材の復元力に加えて,外力によって予備変形した形状に戻るものも含む。
そうすると,前記3(1)ウ(イ)の第1実施例の縫合糸アンカー21は,本願
補正発明の「前記翼状部材は,前記翼状部材の外側に延びる位置から内方に
変形されるとき,前記翼状部材の予備変形した形状に戻るようにバイアスさ
れており」との要件を満たすものということができる。
原告は,引用例1(甲5)のFig.10及びFig.11からは,アンカーのスカー
トが元の形状まで完全に戻っているかどうかは明らかでないと主張する。し
かし,前記3(1)のとおり,引用例1(甲5)の図10(Fig.10)及び図1
1(Fig.11)には,縫合糸アンカー21が縫合糸アンカーマウント28にマ
ウントされて骨皮質34に打ち込まれているときは,スカート37が円筒状
の本体39表面の方へと撓んでいる様子,及び縫合糸アンカーの設置後の状
態においては,スカート37が外に広がって,元の形に戻る様子が示されて
いるから,アンカー21のスカート37は元の形状まで戻るものと解され
る。それが完全であるかどうかが明らかでないとしても,本願補正発明にお
いて,翼状部材が予備変形した形状に戻ることについて,「完全」というよ
うな限定はないから,この点を本願補正発明との相違点ということはできな
い。
また,原告は,引用例1(甲5)の第1実施例では,「flex」という用語
が用いられているところ,「flex」という用語は「曲げる」「曲がる」とい
う意味を有するのみであって,形状が元通りの位置まで自動的に戻ることを
意味するものではない,しかも,同実施例にかかるFig.3,Fig.4及びFig.
9を見ると,スカート部分には切り込みが入っておらず,撓む力も弱くなる
と考えられる,と主張する。しかし,「flex」という用語が用いられている
ことやスカート部分には切り込みが入っていないことは,いずれも,同実施
例のスカート37が外方に広がり,元の形に戻るとの上記認定を直ちに左右
するものではない。
(3) 審決は,引用発明1について,前記第3の1(3)イ〈引用発明1の内容〉
のとおり認定している。ここで,審決は,前記3(1)ウ(エ)の第3実施例の
縫合糸アンカー60を念頭に置いて,上記認定をしているものと解される。
これに対して,上記のとおり,「前記翼状部材は,前記翼状部材の外側に
延びる位置から内方に変形されるとき,前記翼状部材の予備変形した形状に
戻るようにバイアスされており」との要件を備えている縫合糸アンカーは,
前記3(1)ウ(イ)の第1実施例の縫合糸アンカー21である。しかし,引用
例1(甲5)において,前記3(1)ウ(エ)の第3実施例の縫合糸アンカー6
0については,「前記翼状部材は,前記翼状部材の外側に延びる位置から内
方に変形されるとき,前記翼状部材の予備変形した形状に戻るようにバイア
スされており」との要件を備えていることについての明示の記載があるとま
では認められないが,前記3(1)ウ(エ)の縫合糸アンカー60と前記3(1)ウ
(イ)の縫合糸アンカー21は,いずれも引用例1(甲5)に記載された実施
例であって,前記3(1)(エ)の縫合糸アンカー60が,前記3(1)(イ)の縫合
糸アンカー21と同様に,「前記翼状部材は,前記翼状部材の外側に延びる
位置から内方に変形されるとき,前記翼状部材の予備変形した形状に戻るよ
うにバイアスされており」との要件を備えているとしても不自然ではないか
ら,少なくとも,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識
を有する者)は,前記3(1)ウ(エ)の第3実施例の縫合糸アンカー60と前
記3(1)ウ(イ)の第1実施例の縫合糸アンカー21とを組み合わせることを
容易に想到することができたものと認められる。
なお,審決は,前記3(1)ウ(イ)の第1実施例の縫合糸アンカー21に関
する「発明の詳細な説明」の記載や図10(Fig.10)及び図11(Fig.11)
について認定した上で,上記認定をしているから,前記3(1)ウ(イ)の第1
実施例の縫合糸アンカー21が,本願補正発明の「前記翼状部材は,前記翼
状部材の外側に延びる位置から内方に変形されるとき,前記翼状部材の予備
変形した形状に戻るようにバイアスされており」との要件を満たすものと認
定して審決を維持することは,審決で審理判断されなかった公知事実との対
比における拒絶理由によって審決を維持したことにはならないというべきで
ある。
(4) 以上のとおり,審決は結論において誤りがあるとはいえないから,取消
事由1は理由がない。
5 取消事由2(相違点の看過(2))について
(1)ア 本件補正後の特許請求の範囲請求項1には,前記のとおり「前記アン
カー部材の前記近位端から近位方向かつ半径方向外方に延びる複数の翼状
部材を備え,前記翼状部材は,遠位固定端および近位自由端を有し,か
つ,長手方向に延び対向する側部を有しており,」と記載されている。特
許請求の範囲には,翼状部材の形状や延びる方向について,それ以上の限
定はない。
イ 前記2(1)の本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」の実施例の記
載によると,前記2(1)エ(ア)の実施例につき,「アンカー部材10の近
位端12から翼状部材60が延びている。翼状部材60は,図示のよう
に,近位端12から近位方向に,かつ,半径方向外方に延びている。翼状
部材60は,図示のように,遠位固定端62および近位自由端64と,対
向する側面68,69とを有している。翼状部材60は,スロット80に
よって互いに分離されている。翼状部材60は,図示のように,各翼状部
材60の側面68から延びる切断縁70を有している。」(13頁24行
∼14頁1行)との記載があり,【図1】(甲2の24頁)には,アンカ
ー部材10の近位端12から近位方向かつ半径方向外方に真っ直ぐに延ば
されており,その側面68,69がスロット80を挟んで対向している,
複数の翼状部材60の図が記載されている。
また,前記2(1)の本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」の実施
例の記載によると,前記2(1)エ(イ)の実施例につき,「翼部材160
は,アンカー部材110の近位端112から延びている。翼部材160
は,近位端112から近くに,かつ,半径方向外方に延びるものとして示
されている。各翼部材160は,固定遠位端162および自由近位端16
4ならびに側面168,169を有するものとして示されている。翼部材
160は,スロット180により互いに分離されている。各翼部材160
は,遠位端164から延びる穿孔用尖端170を有するものとして示され
ている。」(15頁22行∼27行)との記載があり,【図9】(甲2の
29頁)には,アンカー部材110の近位端112から近位方向かつ半径
方向外方に,先端が細くなる三角形状に延ばされており,その側面16
8,169がスロット180を挟んで対向している,複数の翼部材160
の図が記載されている。
さらに,前記2(1)の本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」の実
施例の記載によると,前記2(1)エ(エ)の実施例につき,「アンカー部材
310の近位端312から翼状部材360が延びている。翼状部材360
は,遠位端324から近位方向に半径方向外方に延びていることがわか
る。翼状部材360は,固定された遠位端362と,自由な近位端364
と,対向した側部368および369と,を有していることがわかる。翼
状部材360は,スロット380によって互いに分離されている。対向し
た側部368および369は等しい厚さを有していることがわかる。アン
カー5の刃のような刃70は翼状部材360の側部に沿って存在しな
い。」(17頁下11行∼下5行)との記載があり,【図19】(甲2の
36頁)には,アンカー部材310の近位端312から近位方向かつ半径
方向外方に真っ直ぐに延ばされており,その側面368,369がスロッ
ト380を挟んで対向している,複数の翼状部材360の図が記載されて
いる。
ウ 以上の特許請求の範囲の記載に実施例の記載を参酌すると,本願補正発
明において,翼状部材が「長手方向に延び」るとは,軸線に対して,平行
なもの(前記2(1)エ(ア)の実施例,前記2(1)エ(エ)の実施例)ばかりで
なく,傾斜があるもの(前記2(1)エ(イ)の実施例)も含むということが
できるのであって,前記2(1)エ(イ)の実施例も,「長手方向に延び対向
する側部」を有しているということができる。
なお,原告は,本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」には,「遠
位端,近位端,及び長手軸線を有する軸はアンカー部材の近位端から延び
る。」(10頁10行∼11行),「アンカー部材10は,その長手軸線
に沿って直径が変化する円形断面を有していることが好ましい。」(13
頁10行∼11行),「シャフト20は,図示のように,長手軸線25を
有している。シャフト20は,長手軸線25を横断する方向に貫通して延
びる縫合糸孔30を有している。」(13頁14行∼16行)などの記載
があり,シャフトの軸線に沿った方向が「長手」として表現されていると
主張するが,原告が指摘する本願明細書(甲2)の「長手軸線」は,長手
方向の軸線を意味するにすぎず,特許請求の範囲請求項1の「長手方向」
が軸線と平行なものでなければならないとまでいうことはできないから,
上記認定を左右するものではない。
(2) 引用例1(甲5)に記載されている縫合糸アンカーのうち,前記3(1)ウ
(エ)の第3実施例の縫合糸アンカー60は,前記3(2)ウのとおり,間隔を
もって外方にテーパしておりスカート部分64で終端する本体部分62を有
し,本体部分62及び本体部分62の間に設けられた隣接する縦溝又はスロ
ット63は,約15度の円弧角度の同一の螺旋を有するように形成されてい
る。引用例1(甲5)の図7(Fig.7)には,本体部分62が,アンカー部
材の近位端から近位方向かつ半径方向外方に延びることが示されており,図
8(Fig.8)には,本体部分62が両側に側面を有し,複数の本体部分62
の各側面は対向していることが示されている。
そして,上記(1)のとおり,本願補正発明において,翼状部材が「長手方
向に延び」るとは,軸線に対して,平行なものばかりでなく,傾斜があるも
のも含むということができるから,上記のとおり,軸線に対して傾斜を有す
る前記3(1)ウ(エ)の第3実施例の縫合糸アンカー60の本体部分62も
「長手方向に延び」るものであるということができる。
そうすると,前記3(1)ウ(エ)の第3実施例の縫合糸アンカー60の本体
部分62は,本願補正発明の「前記アンカー部材の前記近位端から近位方向
かつ半径方向外方に延びる複数の翼状部材を備え,前記翼状部材は,遠位固
定端および近位自由端を有し,かつ,長手方向に延び対向する側部を有して
おり,」との要件を備えているものと認められる。
なお,原告は,引用発明1のFig.12及びFig.13に示されている縫合糸アン
カー60において,らせん状に延びる側面ではなく,長手方向に延びる側面
を有するようにボディ部分62及びスカート部分64を変更すると,縫合糸
アンカー60のドリルのような作動とねじりを達成することが不可能となっ
てしまうから,この変更は引用発明1における骨の材料の中に縫合糸アンカ
ーをねじりこませるという目的に反するものであって,容易に想到し得たも
のではないと主張するが,この主張は,本願補正発明において,翼状部材が
「長手方向に延び」るとは,長手軸線に対して平行なもののみを意味するこ
とを前提としている点において,採用することができない。
(3) 審決は,前記第3の1(3)イ〈引用発明1の内容〉のとおり,引用発明1
について,「…前記胴部分(62)の前記近位端から近位方向かつ半径方向
外方に延びる複数のスカート部分(64)を備え,前記スカート部分(6
4)と隣り合うスカート部分(64)との間には縦溝或いはスロット(6
3)が形成され,」と認定し,「引用発明1における『胴部分(62)』…
『スカート部分(64)』はそれぞれ本願補正発明における『アンカー部材
』…『翼状部材』に相当し,…。そして引用発明1の「縫合糸アンカー装
置」は,図7及び図8によると,『胴部分(62)』は『細長い』形状を有
しており,『スカート部分(64)』の遠位端側は『胴部分(62)』に接
続されて固定端になり,近位端側は自由端となっている。」(審決5頁下1
0行∼下1行)と認定判断した上,前記第3の1(3)〈一致点〉のとおり,
「…前記アンカー部材の前記近位端から近位方向かつ半径方向外方に延びる
複数の翼状部材を備え,前記翼状部材は,遠位固定端および近位自由端を有
し,かつ,長手方向に延び対向する側部を有しており,」を,本願補正発明
と引用発明1の一致点としている。この認定は,前記3(1)ウ(エ)の第3実
施例の縫合糸アンカー60を念頭に置いたものと解されるところ,本願補正
発明の「翼状部材」に相当するものは,上記(2)のとおり,本体部分62で
あるから,これをスカート部分(64)とする審決の上記認定は正確ではな
いが,上記(2)のとおり,前記3(1)ウ(エ)の第3実施例の縫合糸アンカー6
0は「前記アンカー部材の前記近位端から近位方向かつ半径方向外方に延び
る複数の翼状部材を備え,前記翼状部材は,遠位固定端および近位自由端を
有し,かつ,長手方向に延び対向する側部を有しており,」との要件を備え
ているから,引用例1に同要件を備える縫合糸アンカーが記載されていると
の結論において誤りはない。
(4) 以上のとおり,取消事由2も理由がない。
6 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について
(1) 本願補正発明における「短い鼻部」という用語の意義
ア 本件補正後の特許請求の範囲請求項1には,前記のとおり「前記アンカ
ー部材の前記遠位端は,短い鼻部に終端している,」と記載されている。
これが,アンカー部材の遠位端の長さが短いことを述べたことは明らかで
あるが,それ以上に,先端が丸いことまで述べたものかは明確でなく,前
記2で認定した本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」の記載に,
「所望ならば,遠位鼻部40は,先細りであってもよく,或いは,先が尖
っていてもよい。」との記載(13頁21行∼22行)があることからす
ると,前記記載には,先端が丸いとの意義を含むものではないというべき
である。
そして,アンカー部材の遠位端の長さが短いといっても,どのような基
準で「短い」というのかは,本件補正後の特許請求の範囲請求項1はもと
より,前記2(1)認定の本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」によ
るも明らかでない。
そうすると,上記「前記アンカー部材の前記遠位端は,短い鼻部に終端
している,」は,単に一般的・抽象的にアンカー部材の遠位端の長さが短
いという程度の意義しかないというべきである。
イ 原告は,本願明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」や図面には,先端
の丸まった遠位端が描かれていること,本願の元となった国際出願の公開
公報(甲8)においては,「blunted」あるいは「blunt」という用語が使
用されており,出願当初の請求項4についても,上記国際公開公報(甲
8)では「blunted nose」という用語が使用されているところ,英語の
「blunt」という用語は,「先端が尖っていない,丸まったもの」という
意味を有することから,本願補正発明における「短い鼻部」という用語
は,「先端部分が丸まったもの」を意味することが明確である,と主張す
る。
しかし,特許請求の範囲に「短い鼻部」としか記載のないものを「先端
部分が丸まったもの」を意味すると解することは,上記のとおり日本語の
通常の意味から明確でない上,上記のとおり,本願明細書(甲2)の「発
明の詳細な説明」には,そのように解することを妨げる記載があるから,
原告の上記主張を採用することはできない。
また,原告は,本願明細書(甲2)の「所望ならば,遠位鼻部40は,
先細りであってもよく,或いは,先が尖っていてもよい」(13頁21行
∼22行)という記載は,特許請求の範囲請求項1に,「前記アンカー部
材の前記遠位端が,短い鼻部に終端している」という限定が付加されてい
なかった出願当初の特許請求の範囲請求項1の構成を前提としたものであ
って,平成13年11月30日付けの補正(第1次補正。甲3)によって
特許請求の範囲請求項1に入った「前記アンカー部材の前記遠位端が,短
い鼻部に終端している」という構成について説明したものではない,と主
張するが,上記補正後も,上記の「所望ならば,遠位鼻部40は,先細り
であってもよく,或いは,先が尖っていてもよい」という記載は存在して
いる上,本願補正発明における「短い鼻部」を上記アのとおり解すると,
上記補正後の特許請求の範囲請求項1の記載とも整合するから,原告の上
記主張を採用することはできない。
さらに,原告は,本願明細書においては,鼻部先端の長さを短くするこ
とについての具体的説明は存在しないとも主張するが,そのことも,上記
アの認定を直ちに左右するものではない。
(2) 前記3(1)の引用例1(甲5)の記載によると,引用発明1は,原告が主
張するように,とがった先端を有するハープーン(harpoon:銛)構造のア
ンカーであって,このとがった先端は,アンカーを骨の中に打ち込むことに
適用され,アンカーを骨の中に打ち込む前に,骨には穴が形成されていない
ものと認められる。そして,引用発明1がそのようものであるとしても,引
用発明1において,上記(1)のような意味でアンカー部材の遠位端の長さを
短くすること,すなわち,先端は尖っているが,その部分の長さを短いもの
とすることは,当業者が,縫合糸アンカーの機能等を考慮して,適宜なし得
る事項にすぎないというべきである。
(3) そうすると,引用例2(特開平4−250155号公報。甲6)を考慮
するまでもなく,相違点については,当業者が容易に想到することができた
というべきである。
したがって,本願補正発明は,引用例1(甲5)の記載に基づいて容易に
発明することができたというべきであり,審決の判断は結論において誤りは
ない。
なお,原告は,骨を破壊することによりアンカー自体で穴を開けることを
特徴とする引用発明1に対して,骨に穴を開けることを想定していない引用
発明2における丸くなったアンカー先端部分の構成とを組み合わせると,ア
ンカー自体で骨に穴を開けるという引用発明1の発明の目的に正面から反す
る方向に変更されることとなるから,引用発明1と引用発明2を組み合わせ
ることはできないと主張するが,そもそも,そのような組合せをするまでも
なく,本願補正発明は,引用例1(甲5)の記載に基づいて容易に発明する
ことができたというべきである。
(4) 以上のとおり,取消事由3も理由がない。
7 取消事由4(相違点の看過(3))について
(1) 前記3(1)オのとおり,引用例1(甲5)の図12(Fig.12)及び図13
(Fig.13)には,前記3(1)ウ(エ)の第3実施例の縫合糸アンカー60が骨
に打ち込まれる様子が図示されているところ,これらの図には,縫合糸アン
カーが骨皮質70の中を押し進むに従って通路が形成され,削り取られる骨
材料によってねじり力が生じる様子が,曲がった矢印Dとして示されてい
る。そして,これらの図及び引用例1(甲5)の図7(Fig.7)及び図8
(Fig.8)によると,同縫合糸アンカーの本体部分62は,表面に角が形成
されているから,縫合糸アンカー装置の前進によってその角は骨の中に食い
込み,骨が切断されることになるものと解される。したがって,前記3(1)
ウ(エ)の第3実施例の縫合糸アンカー60は,本体部分62に「少なくとも
1つの翼状部材の少なくとも1つの側部に沿った切断部材」を有していると
いうことができる。
(2) この点について,審決は,「縦溝或いはスロット(63)との境となる
『スカート部分(64)』の側部,特に,第8図において『スカート部分
(64)』の時計回りで進行方向に位置する側部が,侵入時には骨皮質(7
0)の組織を切断する役割を果たすものであるから,『切断部材』を有して
いることが明らかである。」(6頁10行∼14行)と認定した上,本願補
正発明と引用発明1とは「少なくとも1つの翼状部材の少なくとも1つの側
部に沿った切断部材」を有する点において一致するものと認定している。本
願補正発明の「切断部材」に相当するものは,上記(1)のとおり,本体部分
62であるから,これをスカート部分(64)とする審決の上記認定は正確
ではないが,前記3(1)ウ(エ)の第3実施例の縫合糸アンカー60が「少な
くとも1つの翼状部材の少なくとも1つの側部に沿った切断部材」を有して
いる以上,結論において審決の一致点の認定に誤りはない。
(3) なお,前記3(1)ウ(エ)認定のとおり,引用例1(甲5)には,第3実施
例について,「縫合糸アンカーが骨皮質70の中に押し進められるとき,図
12に示すように,縦溝(フルート)又はスロット63の中を通る骨の材料
は,…」(7欄16行∼17行,訳文4頁2行∼4行)との記載が存在し,
前記3(1)ウ(ウ)認定のとおり,引用例1(甲5)には,第2実施例につい
て,「前記通路において,骨の材料は尖った端部51によって移動され,本
体部分52にそって縦溝(フルート)又は間隙(スペース)53を通して流
れ…」(6欄36行∼38行,訳文3頁16行∼18行)との記載が存する
ことから,これらの実施例において,縦溝又はスロット63若しくは間隙
(スペース)53は,削り取られた骨の材料を通す通路の役割を果たしてい
ることが認められるが,そのことは,前記3(1)ウ(エ)の第3実施例の縫合
糸アンカー60の本体部分62に「少なくとも1つの翼状部材の少なくとも
1つの側部に沿った切断部材」が存することと矛盾するものではないから,
上記(1)の認定を左右するものではない。
(4) 以上のとおり,取消事由4も理由がない。
8 結論
以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がなく,審決はその理由付
けに正確でない箇所があるものの,結論において相当である。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 森 義 之
裁判官 澁 谷 勝 海

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

特許事務所の求人知財の求人一覧

青山学院大学

神奈川県相模原市中央区淵野辺

今週の知財セミナー (11月18日~11月24日)

来週の知財セミナー (11月25日~12月1日)

11月25日(月) - 岐阜 各務原市

オープンイノベーションマッチング in 岐阜

11月26日(火) - 東京 港区

企業における侵害予防調査

11月27日(水) - 東京 港区

他社特許対策の基本と実践

11月28日(木) - 東京 港区

特許拒絶理由通知対応の基本(化学)

11月28日(木) - 島根 松江市

つながる特許庁in松江

11月29日(金) - 東京 港区

中国の知的財産政策の現状とその影響

11月29日(金) - 茨城 ひたちなか市

あなたもできる!  ネーミングトラブル回避術

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

中井国際特許事務所

大阪府大阪市中央区北浜東1-12 千歳第一ビル4階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

IVY(アイビー)国際特許事務所

愛知県名古屋市天白区中平三丁目2702番地 グランドールS 203号 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

SAHARA特許商標事務所

大阪府大阪市中央区北浜3丁目5-19 淀屋橋ホワイトビル2階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング