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平成18(行ケ)10423審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年11月28日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官肥塚雅博
原告株式会社エスケイ工機
対象物 紐形結束部材
法令 特許権
特許法29条2項2回
キーワード 刊行物107回
審決21回
進歩性4回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「紐形結束部材」とする発明につき,平成7年7月1 0日に特許出願(平成7年特許願第173115号。以下「本願」という。請 求項の数は3である )をした。。 原告は,本願につき平成16年3月9日付けで拒絶査定を受けたので,同年 4月30日,これに対する不服の審判(不服2004−8986号事件)を請 求するとともに,同年5月31日付け手続補正書(甲3の4)による明細書の 補正をした(以下,補正を「本件補正」といい,同補正後の明細書を「本願補 正明細書」という。なお,上記補正書については,同年6月24日付け手続補 正書(方式 (甲3の6)により方式の補正がされている 。) 。) 特許庁は,平成18年8月1日 「本件審判の請求は,成り立たない 」との, 。 審決をし,その謄本は同月22日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲 ( ) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。1 「貫通孔2aを有し,この貫通孔2a内に揺動歯体3を設けた頭部2と,こ

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判決文

平成19年11月28日判決言渡
平成18年(行ケ)第10423号 審決取消請求事件
平成19年10月31日 口頭弁論終結
判 決
原 告 株式会社エスケイ工機
訴訟代理人弁理士 野 口 賢 照
被 告 特許庁長官 肥塚雅博
指 定 代 理 人 溝 渕 良 一
同 石 原 正 博
同 高 木 彰
同 大 場 義 則
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2004−8986号事件について平成18年8月1日にした
審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「紐形結束部材」とする発明につき,平成7年7月1
0日に特許出願(平成7年特許願第173115号。以下「本願」という。請
求項の数は3である 。)をした。
原告は,本願につき平成16年3月9日付けで拒絶査定を受けたので,同年
4月30日,これに対する不服の審判(不服2004−8986号事件)を請
求するとともに,同年5月31日付け手続補正書(甲3の4)による明細書の
補正をした(以下,補正を「本件補正」といい,同補正後の明細書を「本願補
正明細書」という。なお,上記補正書については,同年6月24日付け手続補
正書(方式)(甲3の6)により方式の補正がされている 。 。

特許庁は,平成18年8月1日,「本件審判の請求は,成り立たない 。」との
審決をし,その謄本は同月22日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「貫通孔2aを有し,この貫通孔2a内に揺動歯体3を設けた頭部2と,こ
の頭部2の側部より紐状体4を延長した紐形結束部材1であって,
前記頭部2は貫通孔2aの内壁に揺動歯体3の両側に沿うガイドレール2
dを設け,前記紐状体4は,前記頭部側にフィラメント部5を,自由端側に
平板状のバンド部6を有し,このバンド部6は両面に係止歯6aとこの係止
歯6aの両側に沿う縁部6bとを有し,この係止歯6aは前記揺動歯体3の
係止歯3aに係合可能であり,更に前記フィラメント部5は所定倍率で延伸
され,かつ円形の断面を形成して構成されている紐形結束部材1 。 (以下,

この発明を「本願発明」という。)
(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(下
線部が本件補正による補正箇所である。 。

「貫通孔2aを有し,この貫通孔2a内に揺動歯体3を設けた頭部2と,こ
の頭部2の側部より紐状体4を延長した紐形結束部材1であって,
前記頭部2は貫通孔2aの内壁に揺動歯体3の両側に沿うガイドレール2
dを設け,前記紐状体4は,前記頭部2側にフィラメント部5を,自由端側
に平板状のバンド部6を有し,このバンド部6は両面に連続する複数の係止
歯6aとこの係止歯6aの両側に沿う縁部6bとを有し,この係止歯6aは
前記揺動歯体3の係止歯3aに係合可能であり,更に前記フィラメント部5
は所定倍率で延伸され,かつ円形の断面を形成して構成されている紐形結束
部材1。 (以下,この発明を「本願補正発明」という場合がある 。
」 )
3 審決の理由
(1) 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願補正発明は,本願の出
願前に頒布された刊行物である米国特許第3102311号明細書(甲1。
以下「刊行物1」という 。)及び実願昭49−16417号(実開昭50−
107600号)のマイクロフィルム(甲2。以下「刊行物2」という 。)
に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので
あり,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,
本件補正は却下すべきであり,本願発明もまた,同様に,引用例1及び引用
例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである
から,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とする
ものである。
(2) 審決が,本願補正発明に進歩性がないとの結論を導く過程において,認定
した刊行物1に記載された発明の内容並びに本願補正発明と刊行物1に記載
された発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
【刊行物1に記載された発明の内容】
「開口30を有し,この開口30内に可撓性のつめ状歯(pawl-like tooth)
38を設けたヘッド端部( head-end portion)14と,このヘッド端部1
4から延長したボデー部( body − portion)16及びテール端部( tail-end
portion)12とからなり,上記ボデー部16は両面にのこぎり歯24の
列と,該のこぎり歯24の両端部に沿って堅固な壁26を有し,該のこぎ
り歯24は,前記可撓性のつめ状歯38に係合可能である結束ストラップ
10」
【一致点】
「貫通孔を有し,この貫通孔内に揺動歯体を設けた頭部と,この頭部の側
部より紐状体を延長した紐形結束部材であって,
前記紐状体は,平板状のバンド部を有し,このバンド部は両面に連続す
る複数の係止歯とこの係止歯の両側に沿う縁部とを有し,この係止歯は前
記揺動歯体の係止歯に係合可能である紐形結束部材」である点。
【相違点】
1 本願補正発明は ,「前記頭部2は貫通孔2aの内壁に揺動歯体3の両
側に沿うガイドレール2dを設け」ているのに対し,刊行物1に記載さ
れた発明は,結束ストラップ( bundling or tie-strap)10の開口30
に上記のようなガイドレールを設けていない点(以下「相違点1」とい
う。 。

2 本願補正発明は ,「前記紐状体4は,前記頭部2側にフィラメント部
5を,自由端側に平板状のバンド部6を有し,更に前記フィラメント部
5は所定倍率で延伸され,かつ円形の断面を形成して構成されている」
のに対し,刊行物1に記載された発明は,ボデー部( body − portion)
16に,上記のようなフィラメント部を有していない点(以下「相違点
2」という。 。

第3 原告の主張
審決は,以下のとおり,本願補正発明について,相違点2に係る容易想到性の
判断を誤り,その独立特許要件の判断を誤って本件補正を却下したものであり,
この誤りは,審決の結論に影響するから,取り消されるべきである。
なお ,原告は,審決のした,本願補正発明についての一致点及び相違点の認定 ,
相違点1に係る容易想到性の判断並びに本願発明についての判断は争わず,この
点を取消事由としていない。
1 刊行物1記載の発明と本願補正発明の機能,用途等の相違について
以下のとおり ,刊行物1に記載された結束ストラップは ,本願補正発明の 紐

形結束部材1」と機能,用途等において相違するから,刊行物1に記載された
結束ストラップを基礎として,本願補正発明の相違点2に係る構成を容易に想
到することはできない。
(1) 刊行物1に記載された結束ストラップは,本質的に1回巻きでしか使用で
きない合成樹脂製結束ストラップに関するものであり,結束工具(例えば,
特公昭58−55046号公報:甲9)を使用して張力を正確に制御(例え
ば,7∼10kg)して緊縛し,自動的に切断されるものであるから(手で
は緊縛できない ),被緊縛物の表面に対して正確に接触させて巻き付け,し
っかりと緊縛する用途にしか使用されない性質のものである。同結束ストラ
ップは,構造上の制約(バンド部が帯状であるので,捻ったり,捩ったりで
きない)から ,不定の雑な形状をした被緊縛物の周囲に ぐるぐる巻き付け 」

て使用することはできない。
これに対して,本願補正発明の紐形結束部材は,例えば,複数本の筆記具
のような被緊縛部材を,周囲をフィラメント部5で「ぐるぐる巻き」にして
頭部2の貫通孔2a内にバンド部6を挿入し,このバンド部6を引張り,頭
部2内の揺動歯3とバンド部6の両面の係止歯6aとの連続する歯合によ
り,簡単な操作によってフィラメント部5を縛りあげることのできる部材で
ある。本願補正発明は,従来の結束バンドの厳密に制約された使用法(比較
的高度な用途)とは異なり,紐や縄のように,縛ったり,捩ったり,捻った
りする操作ができ ,また ,結束は,従来の紐などで縛るような操作ではなく ,
結束バンドの表裏両面を使用して,頭部2の貫通孔2aへバンド部6を挿入
する簡単な操作で達成できる。
(2) 刊行物1に記載された結束ストラップは,バンド部に多数の精密な形状と
寸法の断面が三角形の係止歯が整然と配設されており,また,頭部の開口内
には前記係止歯に噛み合う揺動歯が設けられ,結束操作においてはこれらの
係止歯が次々と噛合することが緊縛の必須の条件であるから,精密な合成樹
脂成形品でなければ機能しない。また ,バンド部を「少しでも延伸する 」と,
バンド部の表面に設けられている多数の係止歯と頭部の係止歯との間の寸法
関係に不具合が発生し,結局,全体的に噛み合わなくなり,結束操作ができ
なくなったり,目的とする緊縛力を発揮し得ないことになる。さらに,この
結束ストラップは,合成樹脂製の精密な成形品であるから,射出成形(金型
のキャビティの中に高圧で溶融した樹脂を注入する 。)の樹脂の成形圧力と
流路(スプールなど)の抵抗などから流れる距離に大きな制約があり,バン
ド部の長さは長くても,せいぜい50∼60cm程度の長さのものしか製造
できないという短所がある。
これに対して,本願補正発明の紐形結束部材は,頭部2とバンド部6との
間を細長いフィラメント部5で連結しており,このフィラメント部5を,成
形直後の未延伸のものから3倍程度のものにまで延伸することにより,用途
に応じて自由に長さを変更できる。
このように,本願補正発明の結束バンドは,刊行物1に記載された結束ス
トラップと対比すると,結束バンドの歯合構造に伴うすぐれた緊縛性の利点
があり,頭部2とバンド部6の間に存在するフィラメント部5は,未延伸の
ものから延伸後のものに断面や長さを変化させることができるため,パイプ
や棒状体の荷造りなど,荒っぽく使用する分野においても利用することを可
能とする点で相違する。したがって,刊行物1に記載された結束ストラップ
を基礎として,本願補正発明の相違点2に係る構成を容易に想到することは
できない。
2 刊行物2記載の発明について
審決は,刊行物2に「特に中間部を細い紐状にした場合には各種ラベルの物
品への取付けあるいは各種物品の緊縛等に利用することができる 。」と記載さ
れていることを根拠として(審決書4頁35行∼37行の摘示事項(l) , 刊
)「
行物2には,物品の緊締に用いられる紐状体において,係止歯を有する尾部3
と,両面に係止歯を有する板状の頭部2との間に合成樹脂を所定倍率で延伸し
てなる細い紐状の中間部4を設けることが記載されており,‥‥‥上記刊行物
2に記載された中間部4は,合成樹脂を延伸して細い紐状となしたもので,上
記本願補正発明でいう『フィラメント部5 』に相当するものと認められる 」 審

決書6頁12行∼19行)とするが,審決の上記認定には誤りがある。
( 1) 刊行物2(甲2)の封止具1は,頭部2は尾部3の穴の中で揺動刃と噛
合して「行き止まり状態」となって封緘するので,中間部4(フィラメント
部)は所定の径のリングを形成し ,それ以外の径に変化することはないから ,
刊行物2に記載されたように「特に中間部を細い紐状にした場合には各種ラ
ベルの物品への取付けあるいは各種物品の緊縛等に利用することができる」
ことは理論的にあり得ず,刊行物2に記載された封止具において,パイプの
ような重量のあるものを緊縛する操作は不可能である。したがって,刊行物
2の「封止具」に関する記載が本願補正発明の相違点2に係る構成を示唆す
ることはない。
(2) 刊行物2に記載されている「緊縛」とは,「係合,連結,あるいは嵌合」
という意味に理解すべきであって,梱包に当たって,中間部を絞って縛り上
げるような意味に理解すべきではない。同封止具には,物品を周回して「緊
縛」したり,きつく物品を縛って分離しないようにしたりする機能はなく,
単なる紐状のものをリング状に連結したり,嵌め込む,という操作を可能と
するものである。同封止具は,中間部の切断がされることにより「開封禁止
の制限が破られた」ことを報知させる「セキュリティー機能」を有するもの
にすぎない。
以上のとおり,刊行物2の封止具は,単に頭部2と尾部3を嵌合して連結
して封止するものであり ,「細くすると,きつくしばることはできない」か
ら,刊行物2における「各種物品の緊縛等に利用することができる 。」との
記載は誤りである。
3 刊行物1,2記載の発明の組合せの困難性について
刊行物1に記載された結束ストラップは,電線のような同じ形状の製品を緊
縛する用途に使用されるものであるのに対して,本願補正発明の紐形結束部材
1は,雑物を,紐や縄で荒っぽく縛って纏めるなどの用途に使用される点で,
用途が異なる。
また ,刊行物1の電線用「結束ストラップ 」と,刊行物2の「封止具」とは ,
商品の分野が全く異なり,刊行物1記載の発明は,大きな張力を発生させるこ
とを目的としているのに対し,刊行物2記載の発明は,容器の蓋や袋の口に取
付けて蓋などの開閉を禁止するためのものであり,なるべく切れ易くすること
を目的としたものであって,両者は本質的に異なる技術的思想に基づくもので
ある。
したがって,刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明とを組み合わせると
いう技術的な必然性は存在しない。
以上のとおり,刊行物1に記載された結束ストラップを基礎として,本願補
正発明のように頭部2とバンド部6を分離し,その中間部に長いフィラメント
部5を設けるという構成を採用することを想到することはできない。
第4 被告の反論
審決の「刊行物2に記載された技術的事項を上記刊行物1に記載された『結束
ストラップ bundling or tie-strap)
( 10 』に適用して ,そのボデー部 body-portion)

16のヘッド端部(head-end portion)14側に所定倍率で延伸されたフィラメ
ント部を設けることは当業者が容易に想到しうる事項である 。 (審決書6頁2

3行∼27行)との相違点2についての容易想到性の判断に誤りはない。
1 刊行物1記載の発明と本願補正発明の機能,用途等の相違に対して
原告は,刊行物1に記載の「結束ストラップ」は,手で緊縛することができ
ず,所定の張力を作用させ,しかも1回巻きで縛り上げて連結するものである
から,結束ストラップを正確に被緊縛物の表面に沿わせて巻き付けてしっかり
と緊縛する用途にのみ使用されるものであって,しかも,バンド部を延伸して
長さを変え,のこぎり歯24の間隔を変化させることは技術的に困難であると
主張する。
しかし,刊行物1に記載のものが,手で緊縛することができず,所定の張力
を作用させて1回巻きで縛り上げて連結するものであることは,刊行物1に記
載された発明とは別異の技術であって,原告の主張は,その前提を欠くもので
あって,失当である。
2 刊行物2記載の発明に対して
原告は,刊行物2の封止具1は,頭部2は尾部3の穴の中で揺動刃と噛合し
て「行き止まり状態」となって封緘するので,中間部4(フィラメント部)は
所定の径のリングを形成し,それ以外の径に変化することはないから,パイプ
のような重量のあるものを緊縛するような操作は不可能であり,また,同封止
具には,物品を周回して「緊縛」したり,きつく物品を縛って分離しないよう
にする機能はなく,単なる紐状のものをリング状に連結したり,嵌め込む,と
いう操作を可能とするものであって,中間部の切断がされることにより「開封
禁止の制限が破られた」ことを報知させる「セキュリティー機能」を有する封
止具にすぎず,したがって,刊行物2に記載された「封止具」は,何ら本願補
正発明の構成を示唆するものはないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,刊行物2には,本願補正発明の「頭部2 」 「平板状のバンド部

6」及び「頭部2」と「バンド部6」の間を構成する「フィラメント部5」と
技術的意義を同じくする部材として「尾部3 」 「頭部2」及び「中間部4」

が記載されているし,刊行物2の7頁9行∼11行には「特に中間部を細い紐
状にした場合には各種ラベルの物品への取付けあるいは各種物品の緊縛等に利
用することができる 。」と記載されており,緊縛の強弱のある点はさておき,
刊行物2記載のものが縛るものにも用いられることが明記されているのである
から,刊行物2には本願補正発明の構成が示唆されているものというべきであ
る。
3 刊行物1,2記載の発明の組合せの困難性に対して
原告は,刊行物1に記載された結束ストラップは,電線のような同じ形状の
製品を緊縛する用途に使用されるものであるのに対して,本願補正発明の紐形
結束部材1は,雑物を,紐や縄で荒っぽく縛って纏めるなどの目的で使用され
る点で用途が異なると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
本願補正発明(請求項1,甲3の4)には,それらの用途を限定する記載は
一切なく,単に「紐形結束部材1」と記載されているだけであるから,本願補
正発明は,原告が主張する用途のみに限定されるものではなく,紐形で結束さ
れる用途を何ら排除するものではない。
他方,刊行物1に記載の「結束ストラップ」は紐形形状であるから,刊行物
1記載の「結束ストラップ」も電線に限らず,不定形の雑多な製品を紐形で結
束する用途に使用するものであるということができる。また ,刊行物2には 特

に中間部を細い紐状にした場合には各種ラベルの物品への取付けあるいは各種
物品の緊縛等に利用することができる 。」と記載されているから,中間部を細
い紐状にした場合には緊縛等に利用することができるものであり,緊縛の程度
はさておき,紐形で結束する用途に使用することができる。
したがって,本願補正発明の用途と刊行物1記載の「結束ストラップ」及び
刊行物2記載の「封止具」の用途とが異なるということはできず,当業者であ
れば刊行物2に記載された技術的事項を刊行物1に記載された「結束ストラッ
プ」に適用することを試みるのは自然であるといえる。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は,審決の認定判断には誤りはなく,原告主張の取消事由は失当で
あると判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 刊行物1記載の発明と本願補正発明の機能,用途等の相違について
( 1) 原告は,刊行物1に記載された結束ストラップは,本質的に1回巻きで
しか使用できない合成樹脂製結束ストラップに関するものであり,結束工具
を使用して張力を正確に制御して緊縛し,自動的に切断されるものであるか
ら(手では緊縛できない ),被緊縛物の表面に対して正確に接触させて巻き
付け,しっかりと緊縛する用途にしか使用されないものであり,同結束スト
ラップは,構造上の制約(バンド部が帯状であるので,捻ったり,捩ったり
できない)から,不定形状をした被緊縛物の周囲に「ぐるぐる巻き付け」て
使用することはできないのに対して,本願補正発明の紐形結束部材は,例え
ば,複数本の筆記具のような被緊縛部材を,周囲をフィラメント部5で「ぐ
るぐる巻き」にして頭部2の貫通孔2a内にバンド部6を挿入し,このバン
ド部6を引っ張り,頭部2内の揺動歯3とバンド部6の両面の係止歯6aと
の連続する歯合により,簡単な操作によってフィラメント部5を縛りあげる
ことのできるものである点において,機能,用途等が相違すると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア まず,刊行物1記載の発明は ,「開口30を有し,この開口30内に可
撓性のつめ状歯( pawl-like tooth)38を設けたヘッド端部( head-end
portion)14と,このヘッド端部14から延長したボデー部( body −
portion)16及びテール端部( tail-end portion)12とからなり,上記ボ
デー部16は両面にのこぎり歯24の列と,該のこぎり歯24の両端部に
沿って堅固な壁26を有し,該のこぎり歯24は,前記可撓性のつめ状歯
38に係合可能である結束ストラップ10」であって,その他の限定があ
るわけではない(当事者に争いはない 。 。したがって,上記構成から,

被緊縛物の表面に対して正確に接触させて巻き付け,しっかりと緊縛する
用途以外には使用できないものと断定することは到底できないから,この
点の原告の主張は失当である。
イ また,本願補正発明は ,「紐形結束部材」という物に関する発明である
こと,本願補正明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,被結束物の周
囲を何回巻くのか,結束時にどれ程の張力を付与するのかなどといった結
束方法及び「用途」を特定する記載はないこと ,「フィラメント部5」の
長さについて,所定倍率で延伸される旨の記載はあるものの,被結束物と
の関係では何らの記載がないこと等に照らすならば,本願補正発明の紐形
結束部材について,簡単な操作によって縛りあげることのできる場合にの
み機能すると限定的に解することはできない。したがって,刊行物1に記
載された結束ストラップと本願補正発明の紐形結束部材との間で,機能,
用途における相違はないことに帰するから,この点の原告の主張は,前提
において失当である。
( 2) 次に,原告は,刊行物1に記載された結束ストラップは,バンド部に多
数の精密な形状と寸法の断面が三角形の係止歯が整然と配設されており,ま
た,頭部の開口内には前記係止歯に噛合う揺動歯が設けられ,結束操作にお
いてはこれらの係止歯が次々と噛合することが緊縛の必須の条件であるか
ら,精密な合成樹脂成形品でなければ機能しない ,あるいは ,バンド部を 少

しでも延伸する」と,バンド部の表面に設けられている多数の係止歯と頭部
の係止歯との間の寸法関係に不具合が発生するなどの短所があるのに対し
て,本願補正発明の紐形結束部材は,頭部2とバンド部6との間を細長いフ
ィラメント部5で連結しており,このフィラメント部5を,成形直後の未延
伸のものから3倍程度のものにまで延伸することにより,用途に応じて自由
に長さを変更できる等の長所があり,その点で両者は相違すると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,原告が主張する刊行物1記載の発明における不具合は,被結束
物の周長によって決定される,開口30の可撓性つめ状歯38とボデー部1
6の延伸部位との相対的な関係によって生ずるにすぎないものであるから,
そのような点は,刊行物1記載の発明のボデー部16において,被結束物の
周回には供されるが結束に供しない領域を延伸させる等の設計により,容易
に回避することができるものといえる。したがって,原告の主張する不具合
が生ずるなどの短所は,刊行物1記載の発明の結束ストラップ10を基礎と
して当業者が本願補正発明に想到する際の妨げとなるものではない。
( 3) 以上のとおり,原告の主張は,いずれも刊行物1に記載の発明に刊行物
2に記載された技術的事項を適用して本願補正発明に想到することを否定す
る根拠にはなり得ないものであり,理由がない。
2 刊行物2記載の発明について
( 1) 原告は,刊行物2の封止具1は,頭部2が尾部3の穴の中で揺動刃と噛
合して「行き止まり状態」となって封緘するので,中間部4(フィラメント
部)は所定の径のリングを形成し,それ以外の径に変化しないから,刊行物
2に記載されたような「特に中間部を細い紐状にした場合には各種ラベルの
物品への取付けあるいは各種物品の緊縛等に利用することができる」ことは
理論的にあり得ず,刊行物2に記載された封止具は,パイプのような重量の
あるものを緊縛するような操作は不可能であると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア 刊行物2の記載
(ア) 刊行物2には,以下のとおりの記載がある。
「一体的に分子配向性の合成樹脂で成形された頭部2と,尾部3と,
これらの間に設けられた中間部4とからなり,前記頭部2の表裏には対
象的に係合歯が設けられ,前記尾部3は箱状になっており,その内方に
は係合歯が設けられており,前記中間部4は延伸されて機械的強度が向
上されていることを特徴とする封止具 。 (実用新案登録請求の範囲)

「第4図は頭部2と尾部3の係合状態を示すものであるが,先端16
(判決注: 先端16は」の誤記と認める 。
「 )担持部14と15に接触
すると共に,頭部2の最先端の係合歯は押圧壁19に接触して安定な状
態となっている。また,頭部2に設けた係合歯5もしくは6は尾部3に
設けた係合歯17もしくは18と係合し,頭部2を尾部3の挿通孔13
より抜き取ることができない状態となっている。 (5頁9∼16行)

「本考案に係る封止具は,例えば計器,自動販売機,ロッカー,各種
容器の封止等に使用できることは勿論,封止具を全体的に小型化するこ
とができ,特に中間部を細い紐状にした場合には各種ラベルの物品への
取付けあるいは各種物品の緊縛等に利用することができる 。 (7頁6

∼11行)
(イ) 上記各記載によれば,刊行物2に係る封止具について,合成樹脂で
成形された頭部2と,尾部3と,これらの間に設けられた中間部4とか
らなり,中間部4は延伸されて機械的強度が向上されていること,頭部
2と尾部3との係合状態では,頭部2は尾部3に対して進退移動不能と
なること ,特に中間部を細い紐状にした場合には, 封止 」用途以外に,

各種ラベルの物品への取付け,各種物品の緊縛等に利用できることが開
示されている。
イ 判断
確かに,刊行物2の封止具は,頭部2と尾部3との係合状態では,頭部
2が尾部3に対する関係で進退移動不能となるが,そのような係合状態を
前提としてもなお,各種物品の緊縛等に利用することを不可能とするもの
ではないと解される。すなわち,刊行物2の封止具は合成樹脂からなると
されているが,合成樹脂の組成等を特定せず,ある程度の伸張が可能な素
材を除外していないこと ,「各種物品の緊縛」について「特に中間部を細
い紐状にした場合」の利用形態が例示されていることから,細い紐状にし
た伸びやすい中間部の性質を利用した用途を示唆しているものと認められ
る。そうすると,刊行物2における「各種物品の緊縛」の記載は,同刊行
物の封止具を各種物品を周回させ,頭部2と尾部3とを引っ張ることによ
り中間部4を引き伸ばし,頭部2の係合歯を尾部3の係合歯に係合するこ
とによって,引き伸ばされた中間部4の復元力によって各種物品が緊縛さ
れることをも示唆しているものと認められる。
したがって,刊行物2の封止具1について,緊縛といった利用形態が不
可能であるとの原告の主張は理由がない。
なお,原告は,刊行物2に記載された封止具について,パイプのような
重量のあるものを緊縛するような操作は不可能であるとも主張する。しか
し,そもそも本願補正発明も被結束物に関して何らの限定をしていない以
上,原告の指摘する点が,本願補正発明と刊行物2記載の発明との相違点
を構成するとはいえないので,原告の主張は,その主張自体失当である。
( 2) また,原告は,刊行物2に記載の「緊縛」とは ,「係合,連結,あるい
は嵌合」を意味するものであって,梱包に当たって,中間部を絞って縛り上
げることを意味するものではなく,せいぜい,中間部の切断がされることに
より 開封禁止の制限が破られた 」
「 ことを報知させる セキュリティー機能 」

を有する封止具にすぎないなどと主張する。
しかし,この点の原告の主張も,以下のとおり理由がない。
すなわち,刊行物2には,封止具の用途として,封止のほかに,各種ラベ
ルの物品への取付,各種物品の緊縛が例示されていることに照らせば,この
点の原告の主張は採用できない。なお,刊行物2に接した当業者であれば,
刊行物2記載の封止具が「各種物品の緊縛」に利用でき,刊行物1記載の発
明と同一の用途に使用ができるものと解して,相違点2に対して刊行物2記
載の発明を適用することは容易に想到するものというべきである。
( 3) 上記のとおり,審決に,刊行物2記載の発明の内容について認定の誤り
はなく,この点に関する原告の主張は理由がない。
3 刊行物1,2記載の発明の組合せの困難性について
( 1) 原告は,刊行物1,2記載の発明の組合せの困難性をいうが,刊行物2
には紐状部材の両面に係止歯を有する平板状のバンド部の頭部側に所定倍率
で延伸されたフィラメント部を有するようにすることが示されており,これ
を物品の緊縛に用いることができることが開示されているから,刊行物2に
記載された技術的事項を刊行物1に記載された「結束ストラップ10」に適
用して,そのボデー部16のヘッド端部14側に所定倍率で延伸されたフィ
ラメント部を設けることは,当業者が容易に想到し得る事項というべきであ
る。
( 2) 原告は,本願補正発明の紐形結束部材は,パイプや棒状体の荷造りなど
の分野に使用するものであるから,刊行物1に記載の「結束ストラップ」及
び刊行物2に記載の「封止具」では到底使用できない,と主張する。
しかし,上記1( 1)において説示したとおり,本願補正発明は,その用途
を特定のものに限定するものではないから,原告の主張に係る,本願補正発
明の用途と刊行物1記載の「結束ストラップ」の用途と刊行物2記載の「封
止具」の用途の相違が容易想到性の有無に影響を与えることはないというべ
きである。原告の上記主張は,失当である。
(3) また ,原告は,刊行物1の電線用「結束ストラップ 」と,刊行物2の「封
止具」とは,商品の分野が全く異なり,刊行物1記載の発明は,大きな張力
を発生させることを目的としているのに対し,刊行物2記載の発明は,容器
の蓋や袋の口に取り付けて蓋などの開閉を禁止するためのものであり,なる
べく切れ易くすることを目的としたものであるから,刊行物1発明と刊行物
2発明とを組み合せることは困難であると主張する。
しかし,上記2(1),(2)において述べたように,刊行物2には,封止具の
用途として,封止のほかに,各種ラベルの物品への取付,各種物品の緊縛が
例示されているから,当業者であれば,緊縛に利用される刊行物2記載の発
明を,刊行物1に記載された「結束ストラップ10」に係る発明に適用する
ことは,格別困難とはいえない。
( 4) したがって,刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明との組合せの困
難性をいう原告の主張は,理由がない。
4 結論
以上のとおり,審決が本願補正発明の進歩性の判断(相違点2についての判
断)を誤り,その独立特許要件の判断を誤ったことをいう原告の主張は理由が
なく,本件補正を却下した審決の判断に誤りはない。したがって,審決が本願
の請求項1の発明の内容について本願発明1のとおり認定して,本願発明1は
特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたことに違法
はなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りは見当たらない(なお,原
告は,本願発明1についての審決の判断に関しては,取消事由を主張していな
いが,本願発明1に他の発明特定事項を付加した本願補正発明が進歩性を欠く
以上,本願発明にも進歩性がないことは明らかである。 。

よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 三 村 量 一
裁判官 上 田 洋 幸

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