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平成19(ネ)10013損害賠償等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成19年11月14日
事件種別 民事
当事者 控訴人大王製紙株式会社
被控訴人王子ネピア株式会社
法令 特許権
特許法70条2項1回
キーワード 進歩性3回
特許権2回
損害賠償2回
訂正審判1回
侵害1回
無効1回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事件の概要 1 事案の概要 , ( 「 」 。) , ( 「 」 。)本件は 控訴人 以下 原告 という が 被控訴人 以下 被告 という に対し,被告の製造販売する紙おむつが,原告の有する「紙おむつ」について の特許発明の技術的範囲に含まれるとして,特許権侵害に基づく損害賠償とし , 。 ,て 12億2100万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である 被告は 上記紙おむつは上記特許発明の技術的範囲に含まれず,また,上記特許権には 進歩性欠如等の無効理由が存するので権利行使が許されないなどと主張して, これを争った。 原判決は,上記紙おむつは上記特許発明の技術的範囲に含まれないとして, 原告の請求を棄却した。そこで,原告は,原判決を不服として(ただし,その 範囲は前記第1の2項に反する限度である ,本件控訴を提起した。。) なお,原判決の略語表示は当審においてもそのまま用いる。 2 前提となる事実及び本件における争点 次のとおり訂正付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事 案の概要 の 1 前提となる事実 ないし 2 本件における争点 原判決」 「 」 「 」(

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判決文

平成19年11月14日判決言渡
平成19年(ネ)第10013号損害賠償等請求控訴事件
(原審 東京地方裁判所平成17年(ワ)第5863号)
平成19年7月25日口頭弁論終結
判 決
控 訴 人 大 王 製 紙 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 小 池 豊
同 櫻 井 彰 人
訴訟代理人弁理士 永 井 義 久
被 控 訴 人 王 子 ネ ピ ア 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 辻 居 幸 一
同 富 岡 英 次
同 渡 辺 光
同 竹 内 麻 子
同 高 石 秀 樹
同 外 村 玲 子
同 奥 村 直 樹
補 佐 人 弁 理 士 平 山 孝 二
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を2項に反する限度で取り消す。
2 被控訴人は控訴人に対し,4億700万円及びこれに対する平成17年3月
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要等及び争点に関する当事者の主張
1 事案の概要
本件は,控訴人(以下「原告 」という。 が,被控訴人(以下「被告 」という。
) )
に対し,被告の製造販売する紙おむつが,原告の有する「紙おむつ」について
の特許発明の技術的範囲に含まれるとして,特許権侵害に基づく損害賠償とし
て,12億2100万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である 。被告は,
上記紙おむつは上記特許発明の技術的範囲に含まれず,また,上記特許権には
進歩性欠如等の無効理由が存するので権利行使が許されないなどと主張して,
これを争った。
原判決は,上記紙おむつは上記特許発明の技術的範囲に含まれないとして,
原告の請求を棄却した。そこで,原告は,原判決を不服として(ただし,その
範囲は前記第1の2項に反する限度である。 ,本件控訴を提起した。

なお,原判決の略語表示は当審においてもそのまま用いる。
2 前提となる事実及び本件における争点
次のとおり訂正付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事
案の概要 」の「1 前提となる事実 」ないし「2 本件における争点」 原判決

2頁9行∼6頁25行)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決6頁13行目の「1C」及び「3DⅡ」の後にそれぞれ「の」を挿
入する。
(2) 原判決別紙物件目録1の図2及び図3の「第1固定部 」 「第2固定部 」
, ,
「第3固定部」をそれぞれ「第1の固定部」 「第2の固定部 」 「第3の固定
, ,
部」と改める。
3 争点に関する当事者の主張(当審における当事者の補足的主張を含む 。)
次のとおり訂正付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争
点に関する当事者の主張 」 原判決6頁26行∼50頁7行)
( に記載のとおりで
あるから,これを引用する。
(1) 原判決8頁12行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「 本件各特許発明の「透液性」の意義につき , 透液性の程度は,撥水性

のものと比べ,より高度に液体が透過しやすいもの」と解する根拠はな
く,また , より高度に液体が透過しやすい」などという限界の曖昧な概

念を持ち込んで特許発明の技術的範囲を確定するすることは不当であ
る。
ウ 上記イのとおり , 透液性」と「撥水性」とは両立する概念であるから

(原判決54頁2行∼3行) 撥水処理がされているからといって ,不透

液性になるということはない。
被告は , 撥水性」であれば ,当然に「不透液性 」であると主張し,そ

の根拠として ,実願昭57−3857号 実開昭58−105405号 )

のマイクロフィルム(乙25) 特開昭62−231004号公報(乙2

6),特開平10−43234号公報(乙27 ),特許第2894770
号公報(乙29),特許第3414409号公報(乙30 ),特許第38
62528号公報(乙31)を挙げるが,以下のとおり,これらに基づ
く被告の主張は理由がない。
a) 乙25は ,紙おむつではなく,おむつカバーに関するものであるが ,
「防水機能は撥水加工による撥水効果にたよるものであるために洗濯
回数や洗剤の残留付着等で十分に効果を発揮し得ないという欠点を有
するものであった。 (3頁10行ないし13行)との記載のとおり,

撥水加工の程度により,防水機能は変化するものであって,防水機能
を発揮せずに透液性になる場合があることを示している。
b) 乙26には, 第2フラップ17」
「 が通気防水性シートで構成される
ことが記載されているが, その素材としては好ましくは繊維不織布に

例えばシリコン樹脂で撥水処理されたものが用いられる。 (4頁左上

欄1行ないし3行)との記載があるにとどまり,撥水処理の程度につ
いては何ら記載されていないことに照らせば,乙26の「第2フラッ
プ17」は,撥水処理を十分に施し,通気防水性シートとされたこと
がうかがわれ,撥水性不織布であれば,すべて不透液性を示すことを
裏付けるものではない。
c) 乙27の「カフ18」は,通気性不織布又は通気不透液性不織布の
シート部材31で構成され , その不織布には,
「 例えば坪量5∼50g
/m2の繊維からなるスパンボンド不織布,スパンレース不織布,メル
トブローン不織布であって,JIS−L1092の耐水度試験A法に
準ずる測定値が10cm以上の通気不透水性のものがある 。 (3頁右

欄42行ないし46行)と記載されている。
しかし,試験において,尿ではなく水を用いていること,条件が実
使用状態と異なるなど,透液性か不透液性かを耐水圧だけで議論する
ことには無理がある。現に,紙おむつの技術分野において不透液性に
関する耐水度として挙げられる数値は ,10cmH 2Oから200cm
H 2Oまで,大きなばらつきがある(甲34ないし38 )。
特に ,乙27と出願人を同じくする特開平6−63073号公報 甲

35)には , 従来 ,おむつにおいては,着用中におけるその内部の蒸

れを抑制又は軽減するため,そのバックシートとして,透湿性かつ不
透水性フィルム,例えば,樹脂に無機質の微粒子を混合して形成した
フィルムが使用されている 。・・・この種のバックシートの透湿度は約
1500∼3000g/m 224hs ASTM
( E96−66準拠)
であり ,かつ ,耐水圧は1000cmH2O以上(JIS L 109
2)であって,排泄尿に対する不透過性は満足させるが,湿気に対す
る透過性は不十分である。 (2頁1欄32行ないし42行)との記載

があり,不透液性に関する耐水度として,乙27とは異なる数値を挙
げている。
また,被告の親会社の出願に係る特開2000−325392号公
報(甲38 )には , 本発明において,脚周り伸縮弾性体としては ,ウ

レタン糸,糸ゴム等の通常の使いすておむつに使用される伸縮弾性体
をそのまま使用することができ,これらの伸縮弾性体はそれぞれ伸長
状態で,ホットメルト接着剤等の接着剤により外層シートとサイドシ
ートの間に接着固定される。前記接着剤の塗布領域は,前記脚周り伸
縮弾性体の領域にのみ設けられており,JIS L1092に準じて
測定される耐水圧が200mmH 2O以上になるよう,接着剤の塗布方
法,塗布量を適宜選択することにより調整される。耐水圧が200m
mH2O未満では,液体排泄物が脚周り伸縮弾性体近傍まで漏れでた状
態で圧力がかかった場合に,液体排泄物が脚周り伸縮弾性体領域を通
って滲みだしてくる。 (3頁4欄31行ないし43行)と記載され,

耐水度が20cmH2O未満で透液性であるとされている。
さらに,乙27には , 表面シート2には ,不織布や開孔プラスチッ

クフィルムからなる透液性の,より好ましくは透液性であって疎水性
のシート材料が使用される 。 (3頁右欄35行ないし38行)との記

載があり,疎水性であっても透液性を有するシートが明記されている 。
d) 乙29の「撥水性シート 」は, 前述の従来の紙おむつにおいては ,

フラップ部で汗などがでた場合には,逆に,撥水効果があるため,か
ぶれや蒸れの原因となるという問題があった。 (2頁3欄7行ないし

10行)と記載され,汗などを透過させない「撥水シート」について
言及している。しかし,乙29は , 撥水性シート 」で,かつ不透液性

を示す例があることの根拠になるが,すべての「撥水性シート」が液
透過性でないことを裏付けるものではない。
e) 乙30は,撥水性又は不透水性のバリヤーシートからなるバリヤー
カフスを紙おむつ本体に拘束された二つの近位端で固定することによ
り従来の紙おむつの内方に傾斜して起立するバリヤーカフスが伏倒し
やすいという問題を解決した発明に関するものであり(2頁4欄6行
ないし22行参照) 「本発明において,バリヤーシートは,透液性で

なく不透水性であるのが望ましい。また,透液性シートに対してシリ
コン処理などにより撥水性とするようにしてもよい。 (4頁8欄42

行ないし45行)との記載は,特許請求の範囲に記載された「撥水性
または不透水性のバリヤーシート」のうち,不透水性のバリヤーシー
トが好適であることを記載したものにすぎない 。むしろ, 撥水性また

は不透水性 」と使い分けていることからすれば, 撥水性」と「 不透水

性」とが同義でないことを裏付けるものである。
f) 乙31は,サイド撥水不織布に関する「耐水圧試験値が160㎜を
超える場合には透液性に乏しくサイド不織布7を体液が透過できず,
前記シート状吸収部材11を配置する意味が実質的に失われてしまう
ことになる 。 (6頁15行ないし17行)との記載のとおり,耐水圧

試験値が160㎜を超える場合には,透液性に乏しいとしているにと
どまり ,透液性を示さないとしたものではない。むしろ , 透液性と非

透液性とを兼ね備えた不織布」 6頁18行) 透液性と非透液性のバ
( ,

ランスのとれたサイド不織布」 6頁42行)との記載に照らせば,少

なくとも耐水圧試験値が160㎜の場合には透液性を示すとされてい
るものと解される。
なお,被告は,被告各製品のフラップ部の耐水圧試験値が180∼
203mmであり,本件各特許発明における「透液性」とはいえない
旨主張するが,乙31のサイド不織布7は,不透液性バックシート2
とは別の不織布であり,そのサイド不織布7単体での耐水圧試験値が
40∼160mmとしているのに対し,乙21の測定は,フラップ部
の耐水度を測定したものであって,その測定値はバリヤーシートとバ
ック不織布とが重ね合わされた状態で耐水圧試験を行った値であり,
被告各製品のバリヤーシート単体での測定値ではない。被告各製品に
ついて,バリヤーシート単体で耐水圧試験値を測定すれば,その値は
115∼159mmとなる(甲39) 」

(2) 原判決8頁13行目ないし同頁21行目を次のとおり改める。
「エ 特許請求の範囲には,「透液性」と記載されているから ,「撥水性」の
あるものを除外するものではない 。 透液性」の要件は ,液を透す性質を

有するか否かという基準で判断すれば足りることであって,その意義は
明確であり,特に明細書の詳細な説明の記載を参酌するまでもない。そ
して,詳細な説明や図面は,透液性を撥水性のないものと定義している
わけではなく,むしろ透液性の意味を明白に裏付けるものであり,被告
が主張するように「透液性の程度が高い」とか,撥水性のあるものを除
外するなどという解釈の根拠にはならない。また,本件明細書の【00
01 】 【0007 】 【0011 】 【0021 】 【0033】の記載に照
, , , ,
らしても,本件各特許発明の課題,作用,効果は,フラップ部が透液性
を有することによってもたらされるのであり , 撥水性」
「 のないという要
件を付加しなければ公知技術と同一になるとか, 撥水性」
「 があっては所
期の作用効果が得られないなどというものでもない。フラップ部が透液
性のものであれば,撥水性のものであっても蒸れを防止できるのであり
(甲29) このことは,水滴と水蒸気とがその大きさに10万倍以上の

違いがあることから(甲27) 理論的にも裏付けられるものである。し

たがって,特許請求の範囲の記載にない要件を付加して,本件各特許発
明の技術的範囲を限定解釈する理由は全くない。」
(3) 原判決8頁22行目ないし9頁6行目を次のとおり改める。
「 被告は,本件明細書の【0013】の記載を引用して,撥水性不織布は
液分の浸透を防止できるものとして記載されていると主張する。
しかし,以下のとおり,被告の主張は失当である。
【0013】の「軟便の阻止機能を有するバリヤーカフスを有する紙お
むつ 」とは ,引用文献4(乙9 )に示されるおむつであり , この種のバリ

ヤーカフスを構成する場合,軟便の阻止のために,軟便中の液分の紙おむ
つ側方への浸透を防止するために撥水性不織布を用いる」との記載は,バ
リヤーカフスを疎水性(撥水性)とすることによって,体液がバリヤーカ
フスを通って紙おむつ側方まで浸透することを防止することを意味し,撥
水性不織布が透液性を持たないなどというものではない。バリヤーカフス
は,液分のおむつ側方への浸透防止という目的で設けられるのであり,そ
の材質は透液性であっても,程度の違いはあれ,当該目的を果たせるもの
である。さらに, 0013 】の「そのバリヤーカフスを構成するバリヤー

シートを不透液性シートに固定してフラップ部を構成する思想が一般的で
ある 。したがって,フラップ部においては透液性を示さないものである。」
との記載は,バリヤーシートを紙おむつ側縁まで延在させた不透液性シー
トに固定してフラップ部を構成とするのが一般的だったこと,不透液性シ
ートが延在してフラップ部の構成部材となっているからフラップ部は透液
性を示さないことを ,それぞれ説明している 。そして, 0014】の記載

は,【0013】の記載を受け,本件各特許発明では ,「バリヤーカフスを
有する紙おむつにおけるフラップ部において,不透液性シートの側縁を製
品紙おむつの側縁まで延在させる構成を採らないで,透液性を有するもの
とし 」 バリヤーカフスを構成するバリヤーシートのみでフラップ部を構成

したことを説明したものである。このバリヤーシートは,引用文献4(乙
9)などに開示される撥水性不織布であるから,撥水性不織布は,正に本
件各特許発明における透液性のあるシートと位置付けられるのである。
このように,本件明細書の【0013】の記載は,従来技術の説明に際
し, バリヤーシートを不透液性シートに固定してフラップ部を構成する」

から「フラップ部においては透液性を示さないものである」ことを述べた
にとどまり,バリヤーカフスにおける起立部(自由部)において,撥水性
不織布を使用することと,フラップ部において「透液性を示す」こととを
関連付けて説明したものではなく,また,フラップ部材シートの水を通す
(透液性)程度を,バリヤーカフスを構成する撥水性不織布の水を通す 透

液性)程度と対比したものではない。
要するに , 0013】の記載は,バリヤーカフスを撥水性不織布にする

と共に,これを不透液性シートに固定することによって不透液性であるフ
ラップ部とするというのであるから,撥水性不織布は透液性のものとして
記載されているのである。そうでなければ,フラップ部を撥水性不織布の
みで構成するだけで,フラップ部は不透液性となるはずであって,わざわ
ざ不透液性シートと固定する必要はない。このことは , 0014 】 , 0
【 が【
013】で示した,撥水性不織布と不透液性シートからなるフラップ部か
ら,不透液性シートを除外し,フラップ部を撥水性不織布だけの構成とし
たものをもって透液性を有するものと説明していることからも明らかであ
る。」
(4) 原判決10頁8行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「 被告の主張は,本件明細書の【0013】ないし【0015】の記載中
に,フラップ部を撥水性不織布により構成した従来例が存在することを前
提にして初めて成立するものであるが,フラップ部を撥水性不織布とした
従来例は存在しない 。」
(5) 原判決10頁9行目の「エ」を「カ」と改める。
(6) 原判決10頁22行目の「実開平3−24118」を「実願平1−841
83号(実開平3−24118号)のマイクロフィルム」と改める。
(7) 原判決11頁13行目の「特開昭59−146651」を「特開昭59−
146651号公報」と改める。
(8) 原判決11頁17行目の「実開平1−98110」を「実願昭62−19
1407号(実開平1−98110号)のマイクロフィルム」と改める。
(9) 原判決11頁22行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「 要するに,本件意見書における意見の趣旨は,引用文献2のほか,引用
文献3においても,バリヤーカフスの外側にフラップ部をさらに設け,そ
のフラップ部を透液性とする思想は一切ないというものであって,引用文
献3のものは,本件各特許発明のように,紙おむつの全長にわたるフラッ
プ部全体を透液性とし,蒸れ防止効果を奏するように構成したものではな
いことを強調したものである。引用文献3の通気性であるが撥水性の股下
シート4自体とを対比しているのではないし,まして撥水性のものを除外
したものではない。」
(10) 原判決12頁22行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「 c) 原告は, 撥水性」はシート面の性状・特性の問題であること ,甲1

4及び引用文献2(乙7)に撥水性を有する透液性シートの例がある
ことから, 透液性」と「撥水性」は両立する概念であると主張する。

しかし,以下のとおり,原告の上記主張はいずれも失当である。
そもそも,本件では,本件各特許発明の特徴である「透液性」につ
いて,原告が,本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に
どのように記載したか,また,出願経過においてどのように説明した
かが,問題である。
甲14に記載されたスキンコンタクトシートは , 複数の開口部を有

し,前記トップシートの上に配置されてその長手方向両端部が前記ト
ップシート側に接合され」 0011 】 , おむつを着用した状態にお
(【 )「
いて,スキンコンタクトシートが着用者に密着状態で当接し,便はス
キンコンタクトシートに形成された複数の開口部から,このスキンコ
ンタクトシートとトップシートとの間に導かれる 」 0012 】 と記
(【 )
載されているとおり,大きな穴(開口部)を有するものであり, 網状

をなしていてもよく,果物などの輸送用緩衝材として使用されている
無架橋法による発泡ポリエチレンからなるミラネット 」 0017】
(【 )
と記載されているとおり,蒸れ防止どころか固形物を通過させる素材
が用いられたものである。
引用文献2(乙7)のトップシートが疎水性不織布であるというの
も,甲14と同様に,トップシートの網目を構成する材料が疎水性と
いうだけであって,本件各特許発明における「透液性」の解釈を示す
ものではない。このことは ,「トップシート26は,・・・開口化プラ
スチックフイルム,多孔発泡体等から製造され得る。 (6頁右下欄6

行ないし12行)との記載から明らかである。
d) 原告は,「撥水性」には程度があるから,「透過性の程度は,撥水性
のものと比べ,より高度に液体が透過しやすいもの」という解釈は曖
昧であると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
特許請求の範囲の「透液性」は, たとえば通気撥水性のシートを用

いる場合に比較して蒸れの防止効果はきわめて高い」(本件明細書の
【0015 】 もの ,すなわち,撥水性より透液性の程度が高いものを

意味するのは当然である。後記オa)②及びb)②のとおり,原告(出願
人)自身,本件意見書(乙4)において,水を通すという意味での透
液性の程度を強調しているのである。
そして,後記イのとおり,原告は,他の出願においても,特許請求
の範囲に「撥水性 」の文言を記載しているが(乙29ないし31 ) そ

の事実からも, 撥水性」という語が,不透液性という,明確な意味を

有するものと理解されていることが分かる。
イ 当業者の技術常識及び原告の他の出願について
以下のとおり,当業者が , 撥水性 」という語を「防水性」ないし「不

透液性」と同義に用いている事実(引用文献1〔乙6 〕 乙25ないし2

7)に加え,原告が,その特許出願において , 撥水性」を透液性でない

という意味で用いている事実(乙29ないし31)に照らせば,本件各
特許発明にいう「透液性」とは,トップシートが有すると同程度に液体
の透過性が高いことを意味し , 撥水性」を含まないというべきである 。

a) 引用文献1 乙6)
( では ,ポリエステル・ポリプロピレンなどが 疎

水性繊維の不織布」であって , 親水性」
「 でないものと位置付けられ 7

頁11行ないし12行参照 ) また ,
, ポリエステル・ポリプロピレンな
どのスパンボンド不織布が「液バリヤー性」とされている(7頁19
行ないし8頁1行参照 )。
b) 乙25には, 防水機能は撥水加工による撥水効果にたよるものであ

る」(3頁10行ないし11行)との記載があり ,「撥水加工」により
「防水機能」が付されることが記載されている。
c) 乙26には, 通気防水性シートで形成され,
「 その素材としては好ま
しくは繊維不織布に例えばシリコン樹脂で撥水処理されたものが用い
られる 。 (3頁右下欄末行ないし4頁左上欄3行)との記載があり,

「撥水処理」により「防水性シート」が形成されることが示されてい
る。
d) 乙27には, スパンボンド不織布 」が「通気不透液性」と,また ,

「JIS−L1092の耐水度試験A法に準ずる測定値が10cm以
上の通気不透水性のものがある 」 3頁右欄44行ないし46行 )
( との
記載があり,耐水度試験A法に準ずる測定値が10cm以上の場合を
「不透液性」としている。
e) 乙29には, トップシートを通してコアに吸収された体液は ,
「 下側
ではバックシートにより止められ,両側は撥水性シートにより止めら
れるため,裏面シートには ,しみ出し漏れることが避けられ る) 2
( 」

頁3欄48行ないし4欄2行,3頁6欄5行ないし8行)との記載が
ある。
f) 乙30には, 前記各バリヤーカフスは,
「 撥水性または不透水性の単
一のバリヤーシートにより形成され」 2頁3欄32行ないし34行)
( ,
「本発明に係る紙おむつの1つの態様におけるバリヤーカフスは,幅
方向に連続した撥水性または不透水性の単一のバリヤーシートと弾性
伸縮部とにより構成され」 同頁4欄6行ないし9行) 本発明におい
( ,

て,バリヤーシートは,透液性でなく不透水性であるのが望ましい。
また,透液性シートに対してシリコン処理などにより撥水性とするよ
うにしてもよい 。 (4頁8欄42行ないし45行)との記載がある。

g) 特許第3862528号公報(乙31)には , 耐水圧試験値が16

0mmを超える場合には透液性に乏しくサイド不織布7を体液が透過
できず 」(6頁15行ないし16行)との記載がある。
なお,被告各製品のフラップ部分の耐水圧試験値は180∼203
mmであり(乙21),乙31の上記記載に照らしても ,「透液性」と
はいえない。
ウ 作用効果について
原告は,撥水性でも透液性がある限り,蒸れ防止という本件各特許発
明の効果は達成できること,甲29の実験,水滴と水蒸気の大きさに基
づく理論から,撥水性のものを除外する理由はないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
そもそも,発明の作用効果からその構成を導くことは,誤りである。
また,後記エのとおり,本件明細書の【0003 】 【0005】 【0
, ,
015】の記載を素直に読めば,本件各特許発明の作用効果は , 通気防

水性シート」でもある程度の蒸れを防止できるが,これでは不十分であ
り,さらに, 通気撥水性のシート」よりも高い「蒸れの防止効果 」があ

るというものである。したがって,通気撥水性のものが有する蒸れ防止
効果があれば , 透液性」に該当するという原告の主張は ,誤りである 。

そして ,本件各特許発明の作用効果に関して比較すべき対象は , 撥水

性のシート」と「撥水性」を上回る蒸れ防止効果を有する「透液性のシ
ート 」であって, 撥水性のシート」と「透湿性防水シート」ではないか

ら,原告が行った甲29の実験は,本件各特許発明の作用効果を裏付け
るものではない。」
(11) 原判決12頁23行目の「イ」を「エ」と改める。
(12) 原判決14頁16行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「 原告は,本件明細書の【0013】の「軟便の阻止機能を有するバリヤ
ーカフスを有する紙おむつ」とは,引用文献4(乙9)に示されるおむつ
であり,撥水性不織布は透液性を持たないなどというものではないから,
【0013】の記載は,撥水性不織布が透液性シートであることを示した
ものである旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
そもそも , 0013】における「軟便の阻止機能を有するバリヤーカフ

スを有する紙おむつ」が,引用文献4(乙9)に示されるおむつであるこ
とは,本件明細書には一切記載がなく,根拠を欠くものである。
また , 0013 】には,従来例の「軟便の阻止機能を有するバリヤーカ

フス 」が挙げられており, この種のバリヤーカフスを構成する場合 ,軟便

の阻止のために,軟便中の液分の紙おむつ側方への浸透を防止するために
撥水性不織布を用いる」との記載,及び,バリヤーカフスとして「撥水性
不織布」を用いることにより,軟便中の液分がバリヤーカフスを透過して
紙おむつ側方へ浸透することを防止できるとの記載に照らすならば,本件
明細書において , 撥水性不織布」は,液分の浸透を防止できるものと理解

するのが合理的である。そして ,【0013】には,「バリヤーカフスを構
成するバリヤーシートを不透液性シートに固定してフラップ部を構成する
思想が一般的である 。 として,
」 従来技術のフラップ部の一般的な構成を説
明するとともに,浸透を防止できる撥水性不織布と,不透液シートを重ね
て構成するフラップ部が,当然には「透液性」を示さない旨が記載されて
いること,【0014】には ,「バリヤーカフスを有する紙おむつにおける
フラップ部 」について , 不透液性シートの側縁を製品紙おむつの側縁まで

延在させる構成を採らない」こと,及びフラップ部の材質を「透液性を有
する したがって当然に通気性も有する)
( もの 」に変更したことによって ,
透液性のフラップ部材を実現した旨が記載されていること,本件特許発明
1では, 0013 】
【 記載の撥水性不織布を用いた透液性を示さないフラッ
プ部を改善するために,フラップ部において透液性を有するものとしたと
記載されていることを総合すれば, 透液性」は「撥水性」を排除するもの

と解するのが自然である。
また ,上記【 0013 】及び【 0014 】の記載を受けて, 0015 】

には ,フラップ部に 透液性」
「 を有するシートを用いる本件特許発明1は ,
従来のフラップ部に「通気撥水性」のシートを用いる場合に比較して,蒸
れの防止効果が高いことが記載されている。
以上のとおり ,本件明細書では, 撥水性」不織布は蒸れが生じやすいの

に対して,本件各特許発明における「透液性」のものは蒸れ防止効果が高
いとするものであって, 撥水性 」と「透液性」を相対立する概念として解

するのが相当である。
さらに,【0016】においても,「バリヤーカフスを構成する場合,バ
リヤーシートを通しての液分の外側外方への浸出性 」について , バリヤー

シートをたとえば撥水性不織布を用いるで対処できる」と記載されている
ことからも ,本件明細書において, 撥水性不織布 」は,液分の浸透を防止

できるものと理解されるべきである。
このように,発明の詳細な説明の記載を参酌すれば,本件各特許発明の
「透液性」とは ,「撥水性」を排除するものであり,(トップシートが有す
ると同程度の)液体の透過性が高い性質を意味することは明らかである。
なお,原告は,撥水性不織布は透液性を有しないものを意味するわけで
はないと主張する。しかし,引用文献4(乙9 )には , バリヤカフス62

は,ポリプロピレン ,・・・プラスチックフィルム,成形フィルム,・・・
特に好ましいバリヤカフスは,これを不透液性となす」 9頁右下欄12行

ないし20行)と記載され ,同文献の請求項1における「疏水性 」 1頁左

下欄12行)が「不透液性」であることが明記されているので,原告の上
記主張は失当である 。」
(13) 原判決15頁16行目の ・・・技術思想が記載されている 。 の後に行
「 」
を改めて次のとおり挿入する。
「 すなわち,本件拒絶理由通知書(乙3 )で引用された引用文献3(乙8 )
には ,「撥水性を有し且つ通気性の股下シートを設け 」(2頁10行ないし
11行) 「股下シート4としては撥水性及び通気性を有するものであれば

何でも良い 」 6頁3行ないし4行)
( と記載されており ,原告 出願人) ,
( は
引用文献3との相違を明らかにするために,本件手続補正書(乙5)によ
り, たとえば ,
「 通気撥水性のシートを用いる場合に比較して蒸れの防止効
果はきわめて高いものとなる。」との記載を ,【0015】に追加した(平
成9年12月25日付け手続補正書(乙2)による補正後の本件明細書の
【0016】では,単に「通気性」と記載されていた 。 。

なお,原告の請求に係る訂正審判(訂正2006−39189号事件)
における訂正拒絶理由通知書(甲33の3。以下「本件訂正拒絶理由通知
書」という 。)においても,「通気撥水性」が「通気防水性」の誤記である
とは認められないとされている(7頁10行ないし21行参照 ) 」

(14) 原判決16頁12行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「 なお,原告は,本件各特許発明は,撥水性のないという要件を付加しな
ければ公知技術と同一になるとか,撥水性があっては所期する作用効果が
得られないなどというものではないと主張するが,引用文献3(乙8)の
股下シートは撥水性であるところ,原告(出願人)は,本件意見書(乙4 )
において,「引用文献3の股下シートは通気性であるが撥水性のものであ
る」 2頁20行)ことを本件各特許発明との相違点として主張し,本件各

特許発明の「透液性」は公知技術における「撥水性」と異なることを強調
して ,本件特許を取得したのであるから,原告の上記主張は理由がない。」
(15) 原判決16頁13行目の「ウ」を「オ」と改める。
(16) 原判決17頁9行目ないし同頁16行目を次のとおり改める。
「② 原告は,本件意見書において,次のとおり主張した。
「第2フラップ部分は,吸液性シート9と液バリヤー性で透湿性シー
ト10とからなるものであり,したがって,第2フラップ部は液を透過
しないものである 。 (1頁22行ないし23行)

「引用文献1と本願各請求項記載の発明とは,前者が液を透過しない
ものであるのに対して,後者は透液性である点において,明確に相違す
る。この相違点は,蒸気の透過性の高低に関する相違として現れる。し
たがって,本願各請求項記載の発明は引用文献1記載の発明と同一では
ない 。 (2頁6行ないし10行 )
」 」
(17) 原判決21頁4行目の「1C 」の後に「の 」を挿入し,同頁5行目の「3
DⅡ」の後に「の」を挿入し,同頁9行目の「1B」及び「1C」の後にそ
れぞれ「の」を挿入し,同頁11行目の「3DⅡ」の後に「の」を挿入し,
同頁21行目の「1B」及び「1C」の後にそれぞれ「の」を挿入し,同頁
23行目の「3DⅡ」の後に「の」を挿入する。
(18) 原判決24頁3行目の「3DⅢ」の後に「の」を挿入し,同頁8行目の
「3DⅢ」の後に「の」を挿入する。
(19) 原判決31頁2行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「キ そもそも,紙おむつ着用時の蒸れを防止するために,カフス又は股下
シート(本件特許発明1の「フラップ部」に相当する)を通気性のある
ものとすることは,引用文献2(乙7)及び引用文献3(乙8)に記載
されているように公知の事項である。
本件特許発明1は「透液性」のフラップシートを用いているが,通気
性シートも透液性シートも蒸れの原因となる蒸気を透過させるという点
では同様の効果を奏するものであるし,その透過性の程度に差があると
しても,蒸れ防止という効果を奏するためにどの程度の蒸気の透過性を
シートに付与すべきかは当業者が容易に定め得る程度のことにすぎな
い。
そして ,使い捨ておむつにおいて蒸れ防止という課題が存在しており ,
高い通気性素材を使用するという課題解決手段も公知であったことにつ
いては,例えば,乙26の「例えば,バックシート12として通気性素
材を用いる場合でも,より高い通気性素材でサイドフラップ14を形成
しておむつ内部の蒸れを少なくすることができる 」 4頁左上欄10行な

いし13行)との記載,乙25の「通気構造部分と防水構造部分とに分
離させた構成とすることで,おむつの濡れが外部に波及することなく,
しかもムレがなく・・・ 」 2頁17行ないし19行)
( との記載などから
も,明らかである。
したがって,引用発明4においてフラップ部を「透液性」とすること
は,当業者が容易になし得ることであるから,本件特許発明1は進歩性
を有しない(なお,特許庁も,本件訂正拒絶理由通知書(甲33の3)
において,同様の判断を示している。 。
)」
(20) 原判決34頁13行目の「1C」の後に「の」を挿入する。
(21) 原判決35頁22行目の「引用文献1の」の後に「公開日は本件特許発
明1の出願日より後であり,また,同文献の」を挿入する。
(22) 原判決35頁26行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「ウ 被告は,引用発明4においてフラップ部を「透液性」とすることは,
当業者が容易になし得ることであると主張する。
しかし,以下のとおり,被告の上記主張は失当である。
通気性シートを透過する水蒸気の大きさが0.0004μm以下であ
るのに対し,本件特許発明1の透液性シートを透過する汗などによる水
分の大きさは100μmで10万倍以上の違いがあり 甲27) 通気性
( ,
シートと透液性シートは同列に取り扱うことはできない。
また,フラップ部に通気性シートを用いた紙おむつに比較し,フラッ
プ部に透液性シートを用いた紙おむつは,汗に伴う水分が紙おむつ内部
から外部に移行し,紙おむつ内部の内部湿度が緩やかに上昇する異質・
顕著な効果がある(甲29)。
さらに,引用発明4において,バリヤカフス62のフラップ部分68
と,バックシート42によってシールを形成するガスケットフラップ5
8が必須であるにもかかわらず,不透液性のバックシート42を透液性
のバックシート42に置換した場合には,バリヤカフス62のフラップ
部分68と,透液性のバックシート42によってではシールを形成する
ことができず,引用発明4の目的である排泄物がバリヤカフス62の下
方を通ってオシメの縁まで流れることを防止することはできなくなる。
したがって,引用発明4のガスケットフラップ58を構成する不透液性
のバックシート42を透液性のバックシート42に置換することには,
阻害要因がある。
なお,引用発明4のバックシートの説明中には , バックシート42は

液体不透過であって,薄いプラスチックフィルムで製造することが好ま
しいが,他の可撓性不透液性材料を使用することもできる。 (7頁左上

欄5行ないし8行 ) 「さらに,バックシート42は,体液の通過を防止

しながら,吸収性コア44から蒸気を脱出させる事ができるものとす
る。 (7頁右上欄5行ないし7行)との記載に照らすならば,蒸気を脱

出させることができるシートでもよいことが示されており,引用文献2
(乙7)の通気性カフスにより置換することの意義を見出すことはでき
ない 。」
(23) 原判決42頁5行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「 そして,前記5(1)キのとおり ,通気性シートも透液性シートも,蒸れの
原因となる蒸気を透過させるという点では同様の効果を奏するものである
し,その透過性の程度に差があるとしても,蒸れ防止という効果を奏する
ためにどの程度の蒸気の透過性をシートに付与すべきかは当業者が容易に
定め得る程度のことにすぎない。したがって,引用発明4においてフラッ
プ部を 透液性」
「 とすることは ,当業者が容易になし得ることであるから ,
本件特許発明3は進歩性を有しない 。」
(24) 原判決44頁16行目ないし同頁22行目を次のとおり改める。
「e) 構成要件3CⅡ
引用発明5は, 透液性シートの側縁 」と「不透液性シートの側縁」が

同じ場所であり,前者が後者より内側とはいえないから,構成要件3C
ⅱが記載されているとはいえない。
しかし,シートの側縁をいかにに定めるかは設計事項にすぎないし,
また ,本件特許発明3の出願日以前の使い捨て紙おむつに, 透液性シー

トの側縁」を「不透液性シートの側縁」より内側に設計したものは多数
あり,使い捨て紙おむつの構成に関して周知技術であるから(引用文献
2〔乙7 〕,乙28ないし30など ),上記の相違は,実質的な相違点と
は認められない。」
(25) 原判決48頁5行目の「3DⅡ」の後に「の」を挿入し,同頁8行目の
「3BⅠ」の後に「の」を挿入し,同頁13行目の「3DⅡ」の後に「の」
を挿入し,同頁16行目の「3DⅡ」の後に「の」を挿入し,同頁19行目
の「3BⅡ」の後に「の」を挿入し ,同頁21行目の「3DⅡ」の後に「の」
を挿入する。
(26) 原判決49頁1行目の「Ⅱ」の後に「の」を挿入する。
(27) 原判決49頁4行目の後に行を改めて次のとおり挿入する。
「c) なお,被告は,引用文献5には構成要件3BⅡが記載されている旨主
張するが,引用文献5の第7図では,トップシート38がバリヤカフス
62をなし,オシメ20の外周28の縦縁30まで延在していることが
明らかであるから,同文献には構成要件3BⅡは記載されていない。
また,被告は ,引用文献5に構成要件3CⅡが記載されていない点は ,
実質的な相違点ではない旨主張するが,本件特許発明3の作用を記載し
た本件明細書の【0017】の記載のとおり,液の透液性シートでの伝
わりを阻止する効果を奏する重要な構成要件であることから,上記相違
点は実質的な相違点というべきである。」
第3 当裁判所の判断
当裁判所も,被告各製品は本件特許発明1の技術的範囲に属さず,また,被
告製品1は本件特許発明3の技術的範囲に属しないから,原告の本訴請求は理
由がなく,本件控訴はこれを棄却すべきものと判断する。
その理由は,次のとおり訂正付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄
の「第4 争点に対する判断」 原判決50頁8行∼59頁24行)に記載のと

おりであるから,これを引用する。
1 原判決の訂正(当審における補足的主張に対する判断を含む 。)
(1) 原判決50頁12行目ないし同頁22行目を次のとおり改める。
「(1) 本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮して,構成要件
1Bの「フラップ部材シートのほぼ全体が透液性」 構成要件3BⅠ,Ⅱ

及び3DⅠ,Ⅲの「透液性バリヤーシート」の意義を検討する(平成1
4年法律第24号による改正前の特許法70条2項 ) 」

(2) 原判決54頁2行目ないし同頁25行目を次のとおり改める。
「b) 一般に ,「撥水性」とは,水をはじく性質のことである(甲25,2
6) 一方 ,繊維製品の分野において, 透液 」とは , 圧力差を駆動力と
。 「 「
する繊維集合体内の液体の移動現象」を意味するから(甲27 ) 同分野

における 透液性」
「 とは ,液体の移動を許す性質を指すものと解される 。
したがって, 撥水性」と「透液性」とは ,両立し得る概念であるという

ことができる。
ところで,紙おむつを含む繊維製品の分野では,繊維を「撥水性」に
することにより,通気性を維持しつつ,防水機能を付与することが行わ
れていたが(乙25,26,29 ) 「撥水性」のものと「撥水性」でな

いものとを比較すれば, 撥水性」
「 のものの方が液体の移動の程度が低い
ことは明らかであるから , 透液性」の程度は「撥水性」と,必ずしも無

関係ではない。もっとも,上記技術分野において,液体の移動がどの程
度のものを「透液性」と呼ぶかについて,定量的な定義が確立している
ものではない(甲34ないし38,乙27,31 )。
c) 前記a)のとおり,従来技術において,撥水性不織布バリヤーカフスは ,
軟便中の液分の紙おむつ側方への浸透を防止するために用いられていた
ことに照らすと,従来技術における撥水性不織布は液の浸透を防止する
目的で用いられていたものであることは明らかである。もっとも,撥水
性不織布は直ちに不透液性を意味するものではないので,その浸透防止
効果が不透液といえる程度のものであったとまでいうことはできない。
このような状況下において,本件特許発明1は,蒸れ防止のために,
フラップ部材シートを単に「通気性」とするにとどまらず,特に「透液
性」としたのであるから,従来の撥水性不織布を用いていた場合(前記
のとおり,液分の浸透防止効果は不透液といえる程度のものではないも
のの ,蒸れを発生させる程度の透液性しか有していなかった 。 よりも高

度の透液性を要求したと考えられる。このことは, 通気撥水性」のシー

トと比較して蒸れの防止効果が極めて高くなったとの上記記載からも裏
付けられる。
したがって,本件特許発明1における「透液性」のフラップ部材シー
トは,通気撥水性のシートより高度の「透液性」があり,通気撥水性の
シートを用いた場合よりも蒸れ防止効果が大きいものと解するのが相当
であり,また,用語は,明細書全体を通じて統一して使用するのが原則
であるから(特許法施行規則様式29[備考 ]8) その「透液性 」の程

度は,構成要件1Aの「透液性シート」と同程度のものと解するのが相
当である 。」
(3) 原判決56頁21行目ないし同頁25行目を次のとおり改める。
「エ 本件意見書(乙4)には,次の記載がある。
「引用文献2・・・通気性とは蒸気通過性である。液に対して抵抗は
示すものである。」
「引用文献1と本願各請求項記載の発明とは,前者が液を透過しない
ものであるのに対して,後者は透液性である点において,明確に相違す
る。この相違点は,蒸気の透過性の高低に関する相違として現れる。し
たがって,本願各請求項記載の発明は引用文献1記載の発明とは同一で
ない 。」
「引用文献3の股下シートは通気性であるが撥水性のものである。股
下シートは,弾性部材7により,外向き状態で斜め外方に向いて起立す
るものである。この引用文献3においても,バリヤーカフスの外側にフ
ラップ部をさらに設け,そのフラップ部を透液性とする思想は一切な
い。 」

(4) 原判決58頁12行目ないし59頁4行目を次のとおり改める。
「(6) したがって,フラップ部材シートにおける 透液性 」 構成要件1B )
「 ( ,
フラップ部を構成する透液性バリヤーシートにおける 透液性」 構成要
「 (
件3BⅠ,Ⅱ及び3DⅠ,Ⅲ)の程度は,撥水性のものと比べ,より高
度に液体が透過しやすいものであり,その「透液性」の程度は,構成要
件1A,3Aの「透液性シート」と同程度のものと解するのが相当であ
る。
なお,原告は ,特許発明の技術的範囲を定めるに当たり, 透液性」に

ついて「より高度に液体が透過しやすい」というような曖昧な解釈をす
ることは相当でないと主張する。しかし,前記(3)b)のとおり, 透液性」

について,一般に承認された定量的な定義はなく,発明の詳細な説明に
明示的な定義がされていない以上 , 透液性」
「 の意義を上記のように解釈
することに何ら支障はない。また ,前記(4)のとおり,出願経緯における
出願人の陳述も, 透液性 」
「 につきその程度を問題としていたことは明ら
かである。原告の主張は採用することができない。
(7) 被告各製品のフラップ部及び被告製品1のバリヤーカフスの素材は,
ポリプロピレンスパンボンド不織布である。そして,ポリプロピレンス
パンボンド不織布は, 撥水性 」である(乙15の2。なお ,被告各製品

及び被告製品1の上記部分が撥水性であること自体は,争いがない 。 。

そして,証拠(乙21)によれば,被告各製品のフラップ部は,透液性
シート部分に比べて耐水度及び透水度が異なり,透液性シート部分に比
べて,試験水が透過しにくいことが認められる。
これらの点からすれば,被告各製品のフラップ部の透液性は,撥水性
のものが有するのと同等であって ,本件特許発明1の構成要件1Aの 透

液性シート」に要求される「透液性」を下回るものというべきであるか
ら,本件特許発明1の構成要件1Bの「フラップ部材シートのほぼ全体
が透液性であり」との構成を具備しない。また,被告製品1のバリヤー
カフスも,その透液性は撥水性のものが有するのと同等であって,本件
特許発明3の構成要件3Aの「透液性シート」に要求される「透液性」
を下回るものというべきであるから,本件特許発明3の構成要件3BⅠ ,
Ⅱ及び3DⅠ,Ⅲの「透液性バリヤーシート」との構成を具備しない。
したがって,被告各製品は本件特許発明1の,被告製品1は本件特許
発明3のいずれの技術的範囲にも属しないものである。」
(5) 原判決59頁5行目の「1C」の後に「の」を挿入し ,同頁6行目の「3
DⅡ」の後に「の」を挿入する。
2 結論
原告は,争点1及び2に関し ,その他縷々主張するが ,いずれも理由がない 。
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の被告に対
する本訴請求を棄却すべきものとした原判決は相当であり,本件控訴は理由が
ないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 嶋 末 和 秀

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