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平成18(行ケ)10546審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年11月14日
事件種別 民事
当事者 被告丸善株式会社
原告日本ファイリング株式会社
対象物 図書保管管理装置
法令 特許権
特許法29条1項3号2回
特許法29条2項1回
特許法181条2項1回
キーワード 審決36回
無効8回
刊行物7回
訂正審判2回
実施1回
優先権1回
無効審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「図書保管管理装置」とする特許第2532820号 ( 〔 , 〕,の特許 平成6年3月28日出願 優先権主張:平成5年7月20日 日本 平成8年6月27日設定登録。登録時の請求項の数は5である。以下「本件特 許 といい 本件特許に係る明細書及び図面を 本件明細書 という の特許」 , 「 」 。) 権者である。

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判決文

平成19年11月14日判決言渡
平成18年(行ケ)第10546号 審決取消請求事件
平成19年10月17日口頭弁論終結
判 決
原 告 日本ファイリング株式会社
訴訟代理人弁理士 鈴 江 武 彦
同 河 野 哲
同 野 河 信 久
被 告 丸 善 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 細 谷 義 徳
訴訟代理人弁理士 津 国 肇
同 束 田 幸 四 郎
同 柳 橋 泰 雄
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2005−80272号事件について平成18年11月14日
にした審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「図書保管管理装置」とする特許第2532820号
の特許(平成6年3月28日出願〔優先権主張:平成5年7月20日,日本 〕,
平成8年6月27日設定登録。登録時の請求項の数は5である。以下「本件特
許」といい,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。 の特許

権者である。
被告は,平成17年9月21日,本件特許の請求項1ないし5に係る発明に
ついての特許を無効とすることについて審判を請求した。
特許庁は ,上記請求を無効2005−80272号事件として審理した結果 ,
平成18年11月14日 , 特許第2532820号の請求項1∼5に係る発明

についての特許を無効とする。」との審決(以下「審決」という 。)をし,平成
18年11月27日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5の各記載は,次のとおりで
ある(以下 ,これらの請求項に係る発明を項番号に対応して, 本件発明1」な

どという 。 。

「 請求項1】 図書の寸法別に分類された複数の棚領域を有する書庫と,こ

の書庫の各棚領域に収容されそれぞれが収容された棚領域に対応する寸法の
複数の図書を収容する複数のコンテナと,この複数のコンテナの前記書庫内
における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを
対応させて記憶する記憶手段と,取り出しが要求された図書の図書コードを
入力することにより,前記記憶手段の記憶内容に基づいて,該要求図書が収
容されているコンテナを前記書庫から取り出してステーションに移送し,前
記要求図書が取り出されたコンテナに対する前記記憶手段の記憶内容を更新
する取り出し制御手段と,返却が要求された図書の寸法情報を入力すること
により,該返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナの中から空きのあ
るコンテナを前記書庫から取り出して前記ステーションに取り出し,前記返
却図書が収容されたコンテナに対する前記記憶手段の記憶内容を更新する返
却制御手段とを具備してなることを特徴とする図書保管管理装置。
【請求項2】 前記複数のコンテナは,収容される図書の寸法に応じてそれ
ぞれ大きさの異なる複数種類が用意されることを特徴とする請求項1記載の
図書保管管理装置。
【請求項3】 前記書庫の複数の棚領域は,それぞれが同一寸法の前記コン
テナを専用に収容する形状に構成されることを特徴とする請求項2記載の図
書保管管理装置。
【請求項4】 前記書庫は複数の書棚を有し,各書棚それぞれが複数の棚領
域に区分けされることを特徴とする請求項3記載の図書保管管理装置。
【請求項5】 前記書庫は複数の書棚を有し,各書棚単位で複数の棚領域に
区分けされることを特徴とする請求項3記載の図書保管管理装置 。」
3 審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件発明1ないし5は,本件特
許の優先日前に頒布された刊行物である特開平5−151233号公報(以下
「 甲4公報 」という。甲4 )に記載された発明( 以下「甲4発明 」という 。 及

び「カリフォルニア州立大学オビアット図書館 第II期 プロジェクト仕様
書」と題する書面(以下「甲1仕様書」という。甲1の3〔甲2の3,3の3
も同じ。以下,甲1の3のみを摘示する 。 )に記載された発明(以下「甲1発

明」という。 に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか

ら,本件発明1ないし5についての特許は特許法29条2項の規定に違反して
されたものであり,同法123条1項2号の規定により無効とすべきである,
というものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,甲4発明内容及び本件発明1と甲4発明
との一致点・相違点を次のとおり認定した。
(1) 甲4発明
「書棚11を有する書庫と,書庫内に設置された書棚11に複数の図書3
3を(ケース13とともに)収容する複数のコンテナ12と,この複数のコ
ンテナ内の図書33の前記書庫内における格納ロケーションと各コンテナ1
2に収容された複数の図書に付されたバーコード35のデータとを(ケース
13のデータとともに)対応させて記憶するハードディスク47と,中央処
理装置39と,貸し出しが要求された図書33のコードを入力することによ
り,前記ハードディスク47の記憶内容に基づいて,該要求図書33が(ケ
ース13とともに)収容されているコンテナ12を前記書庫から取り出して
ステーション(例えば,第10図の26,30,31)に自動的に移送し,
前記要求図書33に対する格納ロケーションや各コンテナ12に収容された
ケースと図書のデータを対応させて記憶していた前記ハードディスクの記憶
内容を削除する制御手段と,返却が要求された図書に付されたバーコード3
5のデータとを(任意のケース13のデータとともに)入力し,該返却図書
を収容したケース13の書棚11内における格納ロケーションをハードディ
スク47へ新たに記憶させることにより,前記返却図書が(ケース13とと
もに)収容されたコンテナを書棚11内における格納ロケーションに自動的
に移送する手段とを具備する図書入出庫管理装置 。」
(2) 一致点
「複数の棚領域を有する書庫と,この書庫の各棚領域に収容された複数の
図書を収容する複数のコンテナと,書庫内における収容位置と各コンテナに
収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と,
取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより,前記記憶手
段の記憶内容に基づいて,該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫
から取り出してステーションに移送し,前記要求図書に関する前記記憶手段
の記憶内容を更新する取り出し制御手段と,返却が要求された図書の情報を
入力することにより,前記返却図書に関する前記記憶手段の記憶内容を更新
する返却制御手段とを具備する図書保管管理装置 。」である点。
(3) 相違点1
書庫の複数の棚領域と複数の図書を収容する複数のコンテナに関して,本
件発明1は「図書の寸法別に分類された複数の棚領域を有する書庫」と「そ
れぞれが収容された棚領域に対応する寸法の複数の図書を収容する複数のコ
ンテナ」とを採用しているのに対し,甲4発明は,このような図書の寸法別
に分類された複数の棚領域や棚領域に対応する寸法の図書を収容する複数の
コンテナを用いていない点。
(4) 相違点2
要求図書の取り出し制御や返却図書の返却制御と書庫内における収容位置
と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶す
る記憶手段に関して,本件発明1は ,要求図書の取り出し制御に際しては 前

記要求図書が取り出されたコンテナに対する前記記憶手段の記憶内容を更新
する」と共に,返却図書の返却制御に際しては「返却が要求された図書の寸
法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する複数の前記コン
テナの中から空きのあるコンテナを前記書庫から取り出して前記ステーショ
ンに取り出し,前記返却図書が収容されたコンテナに対する前記記憶手段の
記憶内容を更新する」ものであるのに対し,甲4発明は,このような図書の
寸法情報の入力や図書の寸法に対応するコンテナに対する記憶手段の記憶内
容を更新する構成を具備していない点。
第3 取消事由に係る原告の主張
審決は,本件発明1の容易想到性の判断を誤った違法があり,本件発明2な
いし5についても,本件発明1と同様の理由で,容易想到性の判断を誤った違
法があるから,取り消されるべきである(なお,原告は,本件発明2ないし5
について,本件発明1と別個の違法事由を主張しておらず,また,甲1仕様書
が本件特許の優先日前に頒布された刊行物であることは争っていない。 。

1 本件発明1の容易想到性の判断の誤り
審決は,本件発明1の容易想到性の判断に当たり,以下のとおり,甲4発明
と甲1発明とを組み合わせることを阻害する要因があることを看過し,また,
相違点2の判断を誤ったものである。
(1) 甲4発明と甲1発明との組合せの阻害要因
審決は,甲4発明が「ケース」を用いることを前提として,本件発明1と
甲4発明との一致点を認定した。しかるに,審決は,相違点の判断に際して ,
甲4発明における「ケース」の存在を看過し,甲4発明に甲1発明を組み合
わせることを阻害する要因があることを見落した 。すなわち , ケース」を用

いる甲4発明に甲1発明を適用することは,次のとおり,甲4発明の目的に
相反するものであり,当業者は,甲4発明に甲1発明を組み合わせようとは
しない。
ア 甲4発明は,図書を1冊単位で規格化された大きさのケースに収容し,
このケースを複数個コンテナに収容してコンテナ単位で自動入出庫させる
という従来の入出庫管理システムでは,図書とケースとが1対1に対応し
ているので,図書が返却された場合,相当数のケースの中から返却された
図書に対応するケースを探し出さなければならず作業の効率が悪くなると
ともに,多量の空ケースを常時カウンター付近に保管する必要が生じると
いう問題点があったことに鑑み,図書とケースとの対応関係を固定的なも
のとせずに,返却された図書を任意のケースに収容して書庫に入庫するこ
とができ,貸し出し及び返却時の作業を容易化することを目的とするもの
である(甲4公報の段落【0004】 【0006】 【 0009 】 。したが
, , )
って,甲4発明において,図書が返却された場合に探し出す対象となるケ
ースの数を増加させることは,作業能率の悪化につながり,発明の目的に
反することになる。
また,甲4発明では,1冊の図書が収容されるケースは,規格化された
一定の大きさのものが基準となっており,この基準の大きさに対して収納
する図書の厚みによって幾種類かの厚みを有するものが用意されており,
これらのケースがコンテナに収容されている(甲4公報の段落【001
2】 。つまり,甲4発明では,A4判やB5判といった図書の寸法にかか

わらず,ケースの大きさが規格化されており,厚みが異なる幾種類かのケ
ースが使用されている。そして,甲4発明では,厚みによって幾種類かあ
るケースを用いて様々な寸法の図書を規格化されたケースに収納するので
あるから,一番大きな寸法の図書が収納できるようにケースの大きさが定
められていることは明らかである。
イ これに対し,甲1発明では,自動保管取り出しシステムにおいて,寸法
別に分類された図書に対応する寸法の複数種類のコンテナ(容器)を用い
ている。
ウ 甲4発明に,甲1発明のような寸法別に分類された図書に対応する寸法
の複数種類のコンテナ(容器)を用いると,それらのケースを収納するコ
ンテナに合わせて,寸法別に分類された図書に対応する寸法の複数種類の
ケースが必要となる。そのようにしなければ,ケースがコンテナに収容で
きなくなったり,複数種類のコンテナを使用する意味がなくなったりする
からである。
そうすると,甲4発明に甲1発明を適用しようとすると,厚みによって
幾種類かのケースが必要とされることに加えて,寸法別に分類された図書
に対応する寸法のコンテナの種類だけ,更にケースの種類を増加させなけ
ればならないから,甲4発明と比較して,図書が返却された場合に探し出
す対象となるケースの数が増加し,作業能率が著しく低下する。
したがって,甲4発明に甲1発明を適用することは,甲4発明の目的に
反するものであり,両発明を組み合わせることを阻害する要因がある。
(2) 相違点2の判断の誤り
ア 以下のとおり,甲4発明に甲1発明を適用しても,本件発明1の構成と
はならないから,審決における相違点2の判断は誤りである。
(ア) 本件発明1では,図書の取り出しに際しては ,図書の 図書コード 」

を入力することにより,要求図書が収容されているコンテナを書庫から
取り出すのに対し,図書の返却に際しては,図書の「寸法情報」を入力
することにより,返却図書の寸法に対応する空きのあるコンテナを書庫
から取り出している。すなわち,本件発明1は,図書の取り出しと返却
とでは,あえて異なる情報を入力する点に特徴がある。
(イ) これに対し,甲1発明では ,図書のサイズに関する情報ではない 連

番」の情報を入力することにより,空きのあるコンテナ(容器)を呼び
出しており,入力されたサイズコードに基づいて,返却図書の寸法に適
合したコンテナ(容器)を取り出すものではない。
甲1仕様書には,コンピュータシステム内部においてサイズコードを
用いることは何ら記載されておらず,甲1発明では,サイズコードは図
書を手動で仕分けするためにのみ用いられているものである 。すなわち ,
甲1発明では,所定の位置に収納された図書を取り出すために,システ
ムにとって必要不可欠なデータを貸し出し後も消去しないで活用するこ
とにより,図書の識別番号を用いるものの,サイズコードは用いずに,
上記識別番号が付された図書の寸法に応じた容器(コンテナ)を取り出
す制御を行っているものである。
当業者は,甲1発明から,人手によりサイズコードを入力するシステ
ムを想起することはなく,また,必要不可欠なデータであって既にコン
ピュータ内部に存在しているものを活用せずに,あえて新たなサイズコ
ードデータをコンピュータ内部に記憶させようとも考えない。
(ウ) したがって,審決が ,甲1仕様書に , 図書入出庫管理装置において ,

………コンピュータシステムが,………『図書コード』 ……やサイズコ

ード)等の情報を利用することが記載されているといえる。 (審決書2

4頁4行∼8行)と認定したのは誤りであって,甲4発明に甲1発明を
適用しても,本件発明1の構成とはならないから,審決における相違点
2の判断は誤りである。
イ 仮に審決が,甲1仕様書がサイズコードに言及していることから,甲1
発明における図書コードに代えてサイズコードを用いることにより空きコ
ンテナを取り出すことに想到することが容易である旨判断したものである
としても,以下のとおり,かかる判断は誤りである。
(ア) 本件特許の優先日前は,いわゆるフリーロケーションで管理がなさ
れている入出庫システムの場合,入庫時に空きコンテナを取り出す際に
は,入庫する物自体を識別する情報を入力する方式が主流(甲11,1
2)であり,本件発明1のように,寸法情報を入力することにより空き
コンテナを取り出す方法はなかった。
甲1発明でも,入庫する物自体を識別するために付与されているコー
ドを入力する方式が採用されている。
このように,図書の返却に際して,入力されたサイズコードを用いて
空きコンテナを取り出すという思想は,甲1仕様書にも甲4公報にも開
示されていないのであるから,本件発明1は,甲4発明と甲1発明とを
組み合わせても容易になし得ない。
(イ) 被告は,特開平3−264396号公報(乙7 ) 実開平2−722

225号公報(乙8 )及び特開平2−70603号(乙9)を挙げた上 ,
物品を特定するデータを入力してあらかじめ記憶した物品の寸法を得る
ことに代えて,物品の寸法を直接入力する制御とすることは,単なる設
計事項であると主張する。
しかし,以下のとおり,被告の上記主張は失当である。
a 被告が挙げる乙7ないし9に記載された技術事項は,周知技術(す
なわち,当該技術分野において一般的に知られており当業者であれば
当然知っている技術)ではない。したがって,被告の主張は,審決取
消訴訟において,審判手続の段階において審理判断されていない公知
事実に基づく新たな無効理由を主張するものであって ,許されない 最

高裁昭和51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号第79頁 )。
b また ,次のとおり,乙7ないし9に基づく被告の主張は失当である 。
甲1発明では,不変ロケーションアイテムとランダムロケーション
アイテムのいずれのアイテムのための容器を呼び出すかを判断するた
めに,スキャンによりバーコードナンバーを取得することが必要不可
欠であることから 訳文30頁8行∼10行) 物品の寸法を直接入力
( ,
する制御に変更することは設計的にあり得ない。
また,乙8に読み取られたバーコードの内容から,乙9に入力され
た物品を特定するデータの内容から,それぞれA4判,B5判等の規
格,すなわち図書の寸法情報を判別することが記載されているとして
も,甲1発明は,システム内部においてサイズコードを全く必要とし
ていないから,乙8の上記判別処理により取り出された図書の種別を
示すデータ,あるいは乙9の読み出された物品の寸法に関するデータ
を必要とするものではない。
2 本件発明2ないし5の容易想到性の判断の誤り
審決は,本件発明2ないし5について,甲4発明及び甲1発明に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものと判断したが,本件発明2ないし5
は本件発明1に対し更に構成を付加したものであるから,本件発明2ないし5
の容易想到性の判断についても,本件発明1と同様の誤りがある。なお,本件
発明2ないし5について,独立した取消事由は主張しない。
第4 取消事由に係る被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1 本件発明1の容易想到性の判断の誤りをいう主張について
(1) 甲4発明と甲1発明との組合せの阻害要因について
甲4発明では,「ケース」は1冊の本だけを収容するものであり ,「コンテ
ナ」の中に複数の「ケース」が収容されるようになっている(甲4公報の段
落【0012 】 。原告は,1冊の本だけを収容する「ケース」と,複数の「ケ

ース」を収容する「コンテナ」とを混同している。
また,甲4発明における「ケース」は,甲1発明には含まれていない部材
であるから,その存在を理由として,甲4発明に甲1発明を適用することに
阻害要因があるということはできない。
(2) 相違点2の判断の誤りについて
ア 原告の主張アに対し
甲1発明では,バーコードの読込みによりシステム入力を行い,データ
ベースに基づいて入力された識別番号に対応するサイズコードを読み出し
て,これを制御処理に用いている。このことは,甲1発明が,図書のサイ
ズに基づく制御処理を行っていることから明らかであり,甲1仕様書記載
の自動保管取り出しシステムを紹介した雑誌記事(甲5)の記載もこれを
裏付けるものである。
したがって,本件発明1の「返却が要求された図書の寸法情報を入力す
ることにより,該返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナの中から
空きのあるコンテナを前記書庫から取り出して前記ステーションに取り出
すこと」の構成は,甲1仕様書に実質的に記載された内容といえる。
イ 原告の主張イに対し
(ア) 本件明細書の記載に照らせば,本件発明1の「図書の寸法情報を入
力すること」との構成は,オペレータが図書の寸法情報の「入力操作を
行うこと」やオペレータの入力操作により図書の寸法情報を含む信号を
「入力手段から発信する」ことを意味しているのではなく,図書の寸法
情報を含む信号を「返却制御手段に入力すること」を意味している。し
たがって,審決の認定判断に誤りはない。
(イ) 仮にそうでないとしても,寸法情報を直接入力するようにすること
は,周知技術を用いた単なる設計事項にすぎないから,原告の主張は失
当である。
データ(例えば,寸法情報)を直接システムに入力して制御に用いる
こと,複数のデータ(例えば,識別番号及び寸法情報)を対応させて記
憶させたデータベースを備え,1つのデータ(例えば,識別番号)をシ
ステムに入力することによってそれに対応する他のデータ(例えば,寸
法情報)をデータベースから取り出して制御に用いることは,乙7ない
し10に示されるように,いずれも周知技術である。
2 本件発明2ないし5の容易想到性の判断の誤りをいう主張について
原告は,審決が,本件発明2ないし5の容易想到性の判断に当たり,本件発
明1と同様の誤りをした旨主張する。
しかし,前記1のとおり,本件発明1についての審決の判断に誤りはないか
ら,同様の理由により,原告主張は失当である。
第5 当裁判所の判断
1 原告主張の取消事由について
(1) 本件発明1の容易想到性の判断の誤りをいう主張について
ア 甲4発明と甲1発明との組合せの阻害要因をいう点について
原告は, ケース」を用いる甲4発明に甲1発明を適用することには,甲

4発明の目的に反するという阻害要因がある旨主張する。しかし,以下の
とおり,原告の上記主張は失当である。
確かに,甲4発明では,それぞれ1冊の図書を収容する「ケース」が使
用され,この「ケース」は規格化された一定の大きさのものが基準となっ
ており,この基準の大きさに対して収納する図書の厚みによって幾種類か
の厚みを有するものが用意されており,このような「ケース」についての
記載がない甲1発明や本件発明1とは異なる。
しかし,甲4発明が,複数の書棚領域を有する書庫と複数の図書を収納
するコンテナとを備え,図書コードに基づいてコンテナの出し入れをする
ことにより図書の貸出と返却を行うものであることに変わりはなく,甲4
発明における具体的な実施態様の前提となる技術要素として,審決が一致
点として認定した技術事項(前記第2 ,3(2))を把握することができる 。
そして,甲4公報には,「ケース」を用いる理由として,「図書は,その
寸法や形状が様々であるため,このままでは書庫に対する入出庫動作を自
動化することができない。(段落【0002】 , 図書を1冊単位毎に自動
」 )「
でコンテナから取り出しあるいは返却する際にケースに入れることによ
り,ハンドリングやロケーションの管理が容易になり,個別にて搬送する
際にも図書を保護することができる 。(段落【0003】 との記載がある
」 )
が,コンテナ単位の入出庫管理システム(段落【0042 】【図10】 で
, )
は,上記の理由が妥当するものではなく,現に,コンテナ(容器)単位の
入出庫管理システムが採用されている甲1発明では「ケース」は用いられ
ていない。
そうすると,甲4発明に対し,甲1発明における寸法別に分類された図
書に対応する寸法の複数種類のコンテナ(容器)などの技術事項を適用す
るに際して,甲4発明における「ケース」を不可欠のものとする必要はな
く,甲1発明のように「ケース」を使用しない構成とすることが,当業者
にとって格別困難であったとは認められない。
したがって,甲4発明が「ケース」を使用していること自体は,甲1発
明の適用を妨げるものということはできない。
イ 相違点2の判断の誤りをいう点について
原告は,本件発明1では ,図書の返却に際して, 寸法情報 」という図書

の取り出しの際の「図書コード」とは異なる情報を入力することにより,
返却図書の寸法に対応する空きのあるコンテナを書庫から取り出すのに対
し,甲1発明では,図書のサイズに関する情報ではない「連番」の情報を
入力することにより,空きのあるコンテナ(容器)を呼び出しており,入
力されたサイズコードに基づいて返却図書の寸法に適合したコンテナ(容
器)を取り出すものではないから,甲4発明に甲1発明を適用しても,本
件発明1の構成とはならない旨主張する。しかし,以下のとおり,原告の
上記主張は失当である。
甲1仕様書(甲1の3)の記載によれば,甲1発明は,アイテム(書籍
等)を収納する大きさの異なる寸法別の容器を備え,アイテムに付された
バーコードナンバー(図書コード)を光学的にスキャンすることにより,
自動的に要求されたアイテムを収納する容器を書庫から取り出す自動保管
取り出しシステム(ASRS)であることを理解することができる。そし
て,ランダムロケーション保管においては,空,部分的にフル,及びフル
の容器取り出しの優先規則があり,オプションの場合(図書返却のみのた
めにコンテナを取り出す場合)は,上記優先規則を用いて適切な容器を取
り出すとされている。もっとも,甲1仕様書の記載からは,アイテムのサ
イズ(寸法)に適合した容器の取り出しをどのような制御によって実現す
るのかは,明らかでない。
しかし,乙7∼9によれば,図書管理装置の技術分野において,図書の
寸法情報を使って図書管理のための制御を行うこと自体は,本件特許の優
先日当時,既に周知の技術であったことが認められ,また,甲1仕様書に
おいても,ランダムロケーション保管アイテムは,サイズコード 例えば ,

A,B又はC)を有するとされているから,このサイズコード自体は目視
に使うとしても ,甲1発明においても,アイテムのサイズ情報 寸法情報 )

を使って制御を行うものと解するのが合理的である。
そして,このことは,甲1仕様書の自動保管取り出しシステムを紹介し
た雑誌記事(甲5 )に, 図書館は,自動保管取り出しシステム中の図書の

配置を指定することができるが,一方,コンピュータが各々のアイテムの
ロケーションを把握しているので,そのようなことを行う必要がない。事
実,各々のアイテムの高さ及び各々のアイテムの識別番号が,自動保管取
り出しシステムに収容されるマテリアルについて,自動保管取り出しシス
テムが必要とする唯一の情報である 。 (訳文2頁8行∼13行)と記載さ

れ,アイテムのサイズ(寸法)と識別番号が制御に必要な唯一の情報であ
るとされていることとも整合する。
そして,図書管理システムにおいて,アイテム(図書等)のサイズ情報
(寸法情報)を特定する手段としては,システム内に図書コード単位で図
書管理データを持たせ,図書管理データを参照して当該図書に関するデー
タを特定する方法(乙7)のほかに,サイズ情報に対応する情報を直接入
力する方法(乙8)が知られており,読み取った図書コードからシステム
内の情報を参照してサイズ情報を得るか,サイズ情報を直接入力するよう
にするか,あるいは,両方の方式を可能とするかは,当業者が必要に応じ
て選択する設計事項にすぎないというべきである。
そうすると, 相違点2に係る本件発明1の構成は ,上記『相違点1につ

いて』で説示したところの甲4発明に甲第1号証の3らに記載の寸法別の
コンテナ等の構成を適用するに際して,同じく甲第1号証の3らに記載の
寸法別のコンテナ等の構成を用いたところの要求図書の取り出し制御,返
却図書の返却制御,並びに書庫内における収容位置と各コンテナに収容さ
れた複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する手法を採用するこ
とにより,当業者が容易に想到し得たものといわざるを得ない 。 (審決書

24頁17行∼23行)との審決の認定判断は,図書のサイズ情報を入力
する点についての説示が十分とはいえないが,その結論において相当とい
うべきである。
ウ 小括
以上のとおりであるから,審決における本件発明1の容易想到性の判断
に誤りはない。
(2) 本件発明2ないし5の容易想到性の判断の誤りをいう主張について
原告は,審決が,本件発明2ないし5の容易想到性の判断に当たり,本件
発明1と同様の誤りをした旨主張する。
しかし,本件発明1の容易想到性についての審決の判断に誤りのないこと
は前記1のとおりであり,本件発明2ないし5の容易想到性についての審決
の各判断は,これを是認することができる。
2 付言
甲1仕様書が本件特許の優先日前に頒布された刊行物と認められることにつ
いて,補足して述べる。
審決は,最高裁昭和55年7月4日判決・民集34巻4号570頁を参照し
つつ ,甲1仕様書について, その原本自体が公開されて公衆の自由な閲覧に供

され,かつ,その複写物が公衆からの要求に即応して遅滞なく交付される状況
が整っていたということが推認でき,このような状況にあれば公衆からの要求
をまってその都度原本から複写することができたということが推認できるから
……少なくとも当該仕様書が州建築部に提出された日より以降の1989年3
月22日に,いいかえれば,本件特許出願の優先日(1993年7月20日)
前の時点で頒布された刊行物であったということができる 。 (審決書18頁2

5行∼33行)と認定するとともに ,『頒布された刊行物』とは必ずしも現実

に(例えば,具体的な第三者に対して)頒布されていた事実の存在が要件とな
るものではない 」 審決書19頁13行∼14行 )と説示している。これによれ

ば,審決は,甲1仕様書それ自体が,公衆により閲覧・複写できる状態に置か
れた時点をもって,特許法29条1項3号にいう「頒布された刊行物」に該当
するに至った旨認定判断したものと解される。
甲1の1ないし甲3の3及び弁論の全趣旨によれば,①甲1仕様書は,カリ
フォルニア州立大学ノースリッジ校において,本件特許の優先日(平成5年7
月20日)前である平成元年(1989年)3月22日の時点において,公衆
が閲覧可能な状態で保管され,また,希望者は,1セット当たり100ドルの
保証金の預託することにより,甲1仕様書の貸出を受けることができたこと,
②甲1仕様書は,昭和63年(1988年)8月25日前に,同州の州建築部
(州建築事務所,アーキテクトの事務所)に提出され,遅くとも平成元年(1
989年)3月22日の時点において,同建築部(同建築事務所,アーキテク
トの事務所)において,公衆が閲覧可能な状態で保管され,かつ,希望者はそ
の写しを入手することができたこと ,③甲1の3(甲2の3,3の3も同じ 。)
は,上記州建築部(州建築事務所,アーキテクトの事務所)に提出された甲1
仕様書の写しであることが,それぞれ認められるところ,これらの事実によれ
ば,甲1仕様書は,遅くとも1989年3月22日までに,公衆の閲覧に供す
ることを目的として複数セット用意され,かつ,公衆がその複写物を入手する
ことができるようになっていたということができる。
そうすると,甲1仕様書は,同一内容のものが複数セット用意されていたの
であるから,それぞれを複製物ということができ,また,公衆による閲覧が可
能な状態に置かれていたのであるから,これを特許法29条1項3号にいう 頒

布された刊行物」であるとした審決の認定判断は,相当というべきである(最
高裁昭和61年7月17日判決・民集40巻5号961頁参照 )。
3 結論
上記検討したところによれば,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,
原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。また,審決に,これを取り消す
べきそのほかの誤りがあるとも認められない。
なお,原告は,本訴を提起した上,平成19年3月23日に,本件特許に係
る明細書を訂正する訂正審判 訂正2007−390036号事件)
( を請求し ,
特許法181条2項により審決を取り消す旨の決定を求めているが,当裁判所
は,当該訂正審判に係る訂正の内容に照らせば,本件特許の請求項1ないし5
に係る発明についての特許を無効にすることについて,特許無効審判において
さらに審理させることが相当であるとは認められないと判断した。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 三 村 量 一
裁判官 嶋 末 和 秀
裁判官 上 田 洋 幸

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