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平成16(ワ)7663商標権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成19年11月5日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社フィッツコーポレーション
原告株式会社クラブコスメチックス
法令 商標権
商標法4条1項10号2回
商標法36条1項1回
商標法38条3項1回
キーワード 商標権38回
許諾18回
侵害17回
差止5回
無効3回
実施2回
無効審判1回
主文 原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が,被告は後記標章を使用して化粧品・香水を販売等している ところ,同標章は原告が商標権を有している後記登録商標と類似するから,被 告の前記行為は原告の商標権の侵害にあたると主張して,被告に対し,①商標 法36条1項に基づき同標章を付した化粧品・香水の販売等の差止め,②同法 36条2項に基づき同標章を付した容器・包装等の廃棄,③商標権侵害の不法 行為に基づく3000万円の損害(本件訴状送達日の平成16年7月17日ま での損害として1000万円,同月18日から平成17年6月30日までの損 害の一部として2000万円)の賠償及び上記1000万円については平成1 6年7月6日から,上記2000万円については平成17年7月1日から支払 済みまで各民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案で ある。 (なお原告は,平成19年9月13日付訴えの追加的変更の申立書により, 上記に加えて,被告が使用する別の標章の使用の差止め等の請求を追加する旨 を申し立てたが,当裁判所は,同年9月28日の第3回口頭弁論期日において, 同申立ては著しく訴訟手続を遅延させることとなるとして,これを却下し

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判決文

平成19年11月5日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成16年(ワ)第7663号 商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結の日 平成19年9月28日
判 決
原 告 株式会社クラブコスメチックス
訴訟代理人弁護士 山 本 忠 雄
同 内 藤 秀 文
同 安 部 朋 美
同 中 橋 紅 美
同 酒 井 一
訴訟復代理人弁護士 佐 々 木 優 雅
被 告 株式会社フィッツコーポレーション
訴訟代理人弁護士 服 部 秀 一
同 川 村 宜 志
訴訟復代理人弁護士 大 月 将 幸
同 上 岡 秀 行
主 文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙被告標章目録記載の標章を付した化粧品・香水を輸入し,又は
販売し,若しくは販売のために展示し,並びにその容器・包装・広告物に使用
してはならない。
2 被告は,その所持する前項の標章を付した容器・包装・広告物を廃棄処分せ
よ。
3 被告は,原告に対し,3000万円及び内1000万円については平成16
年7月6日から,内2000万円については平成17年7月1日から支払済み
まで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告は後記標章を使用して化粧品・香水を販売等している
ところ,同標章は原告が商標権を有している後記登録商標と類似するから,被
告の前記行為は原告の商標権の侵害にあたると主張して,被告に対し,①商標
法36条1項に基づき同標章を付した化粧品・香水の販売等の差止め,②同法
36条2項に基づき同標章を付した容器・包装等の廃棄,③商標権侵害の不法
行為に基づく3000万円の損害(本件訴状送達日の平成16年7月17日ま
での損害として1000万円,同月18日から平成17年6月30日までの損
害の一部として2000万円)の賠償及び上記1000万円については平成1
6年7月6日から,上記2000万円については平成17年7月1日から支払
済みまで各民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案で
ある。
(なお原告は,平成19年9月13日付訴えの追加的変更の申立書により,
上記に加えて,被告が使用する別の標章の使用の差止め等の請求を追加する旨
を申し立てたが,当裁判所は,同年9月28日の第3回口頭弁論期日において,
同申立ては著しく訴訟手続を遅延させることとなるとして,これを却下し
た。)
1 前提事実(争いがない)
(1) 原告は,別紙原告商標権目録(1)ないし(3)記載の商標権を有して いる
(以下これら商標権を「本件原告商標権」という。また,これら商標権に係
る登録商標を「本件原告商標1」ないし「本件原告商標3」といい,まとめ
て「本件原告商標」という。)。
(2) 被告は,香水の容器,包装箱,パンフレット等に,別紙被告標章目録記
載の標章(以下「被告標章」という。)を付して,各地の小売店,インター
ネット取引業者に販売して使用している。また,この香水を取り上げたパン
フレットに被告標章を掲載して,小売店で頒布している(以下,この被告販
売に係る香水を「被告香水」という。)。
被告香水は,本件原告商標権に係る指定商品の範囲に属する。
2 争点
(1) 被告標章は本件原告商標に類似するか。
(2) 原告に損害が発生していないか。
(3) 原告の損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(類似性)について
【原告の主張】
(1) 本件原告商標1はゴシック体英大文字で「LOVE」と横書きしてなる
もの,本件原告商標2はゴシック体のカタカナで「ラブ」と横書きしてなる
もの,本件原告商標3は特殊な字体にゴシック体の「ラブ」を下欄に記載し
てなるものである。
他方,被告標章は,大きく英大文字小文字混じりの筆記体で「Love」
と表示されたその下段に,同じく英大文字小文字混じりで小さく「Pass
port」と2段に横書きしたものである。
被告標章は,「Love」と「Passport」の2語により構成され
ているが,「Love」と「Passport」の文字の大きさを比較する
と著しく「Love」が「Passport」に比べて大きい。文字の線の
太さも「Love」の方が太く,明らかに「Passport」に比べて
「Love」が強調されている。したがって,一般需要者が時と場所を異に
して,全体的,離隔的観察を行った場合には,単に外観上は「Love」と
認識され,また「ラブ」と呼称され,かつ「愛」と観念されて取引されるの
が実情である。
よって,被告標章の要部は「Love」にあり,本件原告商標と類似する。
(2) 被告の主張に対する反論
ア 被告は,被告が使用する標章は,被告標章(「Love/Passpo
rt」)の右上に2つのハートマークが付されたものであると主張する。
そもそもハートマークが被告の使用する商標の一部といえるか否かには問
題があるが,仮にそうだとしても,ハートマーク自体は,極めて一般的に
汎用される図形であり,商標として元々観念されにくく,使用されている
図形も比較的に小さく被告標章にとって単なる付飾に過ぎないから,やは
り被告が使用する標章の要部は「LOVE」であると解すべきものである。
イ 被告は,香水について「LOVE」ないし「ラブ」を使用したものが多
数存するとして乙第6号証を提出している。しかし,株式会社マリークワ
ントコスメチックスジャパンの「ラブトークン」については,同社が原告
の関係会社であり同一グループ内の企業であるので,本件原告商標の通常
使用許諾を行っている。また,イブ・サンローラン・パルファン株式会社
(以下「イブ・サンローラン社」という。)については,「インラブアゲ
イン」標章について,特に「LOVE」を特徴的に使用されていたため,
その使用形態につき商標権侵害の警告を出し,相手方も誠意ある対応を行
ったため,その結果通常使用権を許諾することとした。また,カルバンク
ライン社の「エタニティーラブ」についても,「LOVE」の部分が容器
に独立して表示されていたため,その使用形態が商標的使用と評価され得
るものと認め,警告状を発したところ,輸入元より取扱中止の回答を得,
現在では取扱いは中止されている。このことから,乙第6号証に掲示され
ているものがすべて現在市場にて販売されているとは原告は考えていない。
ウ 被告は,被告が使用する標章は「レイモン・ペイネ氏のLove Pa
ssport」として需要者に認識されていると主張する。
確かにレイモン・ペイネ氏は若い男女の恋人達を幻想的に描いており,
同氏はフランスにおいては造形画家として評価を得ているが,他のヨーロ
ッパ諸国において同様に認知され周知されているわけではなく,わが国に
おける評価,周知性も部分的・局所的である。また,同氏の作品のイメー
ジが若い男女(恋人達)の恋愛であったとしても,だからといって文字商
標としての「LOVE」を自動的に使用し得るものではない。「愛」は仏
典や聖書のような宗教教典は勿論のこと,哲学,文学,絵画,造形芸術等
あらゆる領域におけるもっとも根元的テーマである。芸術家が画く愛の形
・世界は多様複雑かつ深遠なものであって「愛」を作品のモチーフにした
作家や作品は古今,洋の東西を問わず無数といってもよいほどであり,こ
のことは周知の事実である。レイモン・ペイネ氏の作品であれ,他の画家
の作品であれ,そのほんの一部を包装物の一部に使用しさえすれば作品の
イメージが「愛」を連想させるとの論理で「LOVE」を要部とする標章
を勝手に自己の商品の商標に使用してよいというような免罪符となるもの
ではない。しかも,被告は,何もレイモン・ペイネ氏の作品自体を宣伝し
広告しているのではなく,あくまで自社が取り扱う香水という化粧品を販
売し利益を追及しているのであって,あくまで経済活動を行っているので
ある。
エ 被告は,別紙被告登録商標目録記載の商標が,本件原告商標と類似しな
いとして設定登録されたと主張する。
しかし,本件原告商標は,原告にとって極めて重要な商標と位置づけら
れており,自己の商品群として「ラブ」シリーズ商品の開発を検討すると
ともに,代表者の直接の指揮の下,商標管理担当者を置いて常時監視を行
ってきた。
すなわち,本件原告商標の使用については,①原告は,昭和45年11
月20日に,英国人マリークワント女史のブランド化粧品を製造販売して
いた原告のグループ会社である株式会社マリークワントコスメチックスジ
ャパンに対し,「ラブ・ポーション」について使用許諾をし,②昭和48
年9月1日に,鐘紡株式会社に対して本件原告商標の使用許諾をし,③昭
和50年6月12日に,米国法人スミス・クライン・アンド・フレンチオ
ーバーシーズ・カンパニー及び株式会社ラブジャパン(以下「ラブジャパ
ン社」という。)に対し,本件原告商標の使用を7年間許諾する旨の裁判
上の和解をし,④昭和57年4月23日に,ラブ・ジャパン社の化粧品事
業を譲り受けた株式会社井田両国堂に対して,平成元年9月28日までの
約7年間にわたる本件原告商標の使用を許諾し,⑤それ以後は上記マリー
クワント社が販売する「LOVE STRUCK」「LOVE TOKE
N」の商品群について原告の関係会社がOEM供給をしていたこともあっ
て原告自身は使用を控えていたが,平成17年2月以降は,原告自身によ
る使用を決定し,化粧品について本件原告商標を使用している。
また原告は,①昭和51年3月の株式会社ミルボン,②昭和53年4月
の株式会社コッセル特殊化粧料本舗及び日本ベルム株式会社,③昭和57
年のアキホインターナショナル株式会社,④昭和62年の株式会社純ケミ
ファ及び株式会社純薬,⑤平成10年2月の株式会社コーセー,⑥平成1
0年4月のイブ・サンローラン社,⑦平成13年12月のニベア花王株式
会社,⑧平成16年8月のブルーベル・ジャパン株式会社といった事案に
おいて,警告・交渉を行い,各社にその商標使用を中止させるなどの措置
を講じてきた。
そして,これらの使用や措置により,本件原告商標は,平成16年の日
本有名商標集にも登載され,原告が保有する商標として周知なものとなっ
ている。よって,被告の前記商標登録は,商標法4条1項10号に反する
ものであって無効であり,被告による被告標章の使用は本件原告商標権を
侵害するものである。
【被告の主張】
(1) 被告が使用する標章は,被告標章(「Love/passport」)の右
上に2個のハートマークが付加されたものであり(以下「被告使用標章」とい
う。),常にこの状態で使用されるものである。
(2) 本件原告商標の「LOVE」ないし「ラブ」は,その商標登録出願がなさ
れた昭和46年,昭和48年当時,又は本件原告商標権の審査がなされた昭和
55年,昭和57年の当時には,恋愛をあからさまに表現しない日本人の国民
性やこれら単語が外来語であったことなどの理由から,現在のように一般的日
常的に使用されていなかった。そのため,これを標章として用いれば,商品の
識別や商品の出所の判断もすることができた。しかし,その後,若い世代を中
心とした国民性の変化から「LOVE」ないし「ラブ」が広く社会に普及し,
国語辞典に記載されるほどの日常用語に変化した。
このように現在では,「LOVE」ないし「ラブ」は,いずれも「愛」を
想起させるものとして日常的一般的に使用される単語であり,特に,思春期の
女性を中心とした若い女性にとっては,その憧れ・幻想等となじみやすい親し
み深い単語である。そのため,これらの単語は,女性を対象とした化粧品等の
商品表示に頻繁に用いられ,特に女性向け香水においては,香りの持つ神秘的
なイメージと相俟って,被告の知れる限りでも32の香水で用いられている
(乙5の各号,6)。また,香水又はこれに類似する商品を指定商品とする登
録商標は,「ラブ」の称呼がその商標の一番前にくるものだけでも560を数
え,「LOVE」ないし「ラブ」の文字をその商標のどこかに含む登録商標で
あれば8600個も存在する(乙47)。
そして,被告使用標章も,別紙被告登録商標目録のとおり,平成18年2
月3日に商標として登録された。
このように,香水の需要者は,「LOVE」ないし「ラブ」の外観,称呼及
び「愛」という観念のみをもって商品を識別することができず,これに付加さ
れた語句・図形,その商品の外観等をもってはじめて標章を区別し,商品ない
しその出所を判断している。
以上よりすれば,被告使用標章は,そこから「LOVE」ないし「ラブ」
のみが抽出されて印象,記憶,連想が生じることはなく,「ラブパスポー
ト」との称呼のみが生じ,「愛へのパスポート」,「愛のパスポート」とい
う観念を生じる。したがって,被告標章は,本件原告商標と出所の誤認混同
を生じさせず,本件原告商標と類似しない。
(3) 仮に取引者が被告使用標章のうち「Love」の部分のみに注目したと
しても,取引者が被告使用標章の「Love」と本件原告商標とを誤認混同
することはない。
すなわち,被告使用標章における「Love」は,本件原告商標と異なり,
「L」,「o」,「v」,「e」のいずれの文字をとっても,特徴的な書き
方によっており,取引者に強い印象を与える。
また,被告使用標章中の「Love」には右上に2個のハートマークが付加
されている。香水の主たる需要者である若い女性は,ハートマークを携帯メー
ルの絵文字などとして頻繁に利用しており,アルファベットなどと同じ文字と
して認識しているから,この2個のハートマークからも強い印象を受ける。ま
た,このハートマークには,赤色とピンク色が付されており,視覚的に暖かく
柔らかい印象を抱かせるのである。
さらに,被告香水は,フランスの著名な画家であるレイモン・ペイネ(RA
YMOND PEYNET)氏が描いた絵及び「Peynet」の表示ととも
に,ペイネ氏の作品や世界観「愛と平和」をイメージした香水であり,そのた
め被告は,被告香水のパッケージにペイネ氏の絵を記載し,また,同氏の絵を
記載した27種類もの販促品を使って被告香水を販売した。ペイネ氏が広く知
れ渡った画家であることからすれば,同氏の作品等を使用する被告の香水は,
ペイネ氏の作品・世界観と一体のものとして需要者に認識されている。その結
果,特徴ある書き方で描かれた被告使用標章の「Love」も,ペイネ氏の絵
と関連づけて認識されているのであり,本件原告商標とは明確に区別されてい
る。
以上のように被告使用標章は,単なる文字による標章ではなく,レイモン・
ペイネ氏のイメージの下,その色彩,ハートの絵文字を含む全体として1つの
絵画の著作物としての性格を有する個性的・個別的なもので,識別力を有する。
以上のような差異をもつ被告使用標章の「Love」と本件原告商標とが誤
認混同されることはないから,両者は類似しない。
(4) さらに,仮に被告使用標章から,本件原告商標と同一又は相紛らわしい
外観・観念・称呼が生じたとしても,需要者である女性は,香水を購入する
に当たり,テスターという噴霧器で匂いを嗅ぎ,それを自分の身体につける
という観点から香りを選定することに加え,外箱の絵柄や色,瓶のデザイン
や色,イメージを総合して,商品を購入するのである。したがって,需要者
が,単に「LOVE」ないし「ラブ」といった標章のみで商品を選定するこ
とはあり得ないのであり,この点からも被告使用標章と本件原告商標とは,
何ら商品の出所の誤認混同を来すおそれはなく,両者は類似しない。
2 争点(2)(損害の不発生)について
【被告の主張】
(1) 原告が本件原告商標権を取得したのは,使用許諾料を得る目的である。
仮にそうでないとしても,原告がかつて商標登録番号476087号の商標
権に関する商標権侵害禁止請求訴訟(大阪地方裁判所昭和46年(ワ)第45
21号)で主張したように,原告が有する著名商標「クラブ」ないし「CL
UB」から生ずる最も強い印象を与える「ラブ」の称呼を,他人の模倣盗用
から防衛するために出願し登録されたものである。そして,かかる意図に基
づいて商標登録したものであるため,原告は,本件原告商標を自ら使用して
いない。
このような事情に加え,先に争点(1)に関する被告の主張(2)で述べた事情
からすると,「LOVE」ないし「ラブ」を内容とする本件原告商標が顧客吸
引力を持つことはない。
(2) 被告は,被告香水について,①伊勢丹新宿店本館における被告香水の発売を
記念した「ペイネ 愛の世界フェア」の開催(期間:平成15年9月24日∼
10月6日),②ヒルトンホテル東京との提携によるLOVE PASSPO
RTヒルトンフロアプラン(宿泊プラン)の実施(期間:平成16年11月1
2日∼12月25日),③竹内結子,中村獅童ら人気俳優が出演する映画「い
ま,会いにゆきます」とのタイアップ(期間:平成16年10月12日∼平成
17年2月),④27種類にも及ぶ販促品の作成及び販売店等への提供等の大
規模な販促活動を行い,これら販促活動の結果,被告香水は多数のwebペー
ジや雑誌で紹介され,需要者に周知されるに至ったのである。被告が,被告香
水について,平成15年度日本国内での香水売上ランキングにおいて(2千数
百もの商品のうち)43位となるほどの販売実績をあげたのは,これら販促活
動の結果である。
また,被告は,「香りを通して社会的・哲学的なメッセージを伝える」との
考えに基づき,「すべての人々が愛の旅を進むためのパスポート」として被告
香水を作成し,この考えに基づいて上記販促活動を行ったが,このように被告
が被告香水についてそのメッセージを前面に押し出した販促活動を行った結果,
話題性ある商品として認知され,多数のwebページや雑誌で紹介されるに至
った。そのため,webページ・雑誌のいずれにおいても,被告香水は常に
「Love Passport」ないし「ラブパスポート」として紹介されて
いる。そしてこれらの結果,需要者は被告香水について「ラブパスポートって
名前もかわいい」等と感想を述べているように,被告使用標章を正確に把握す
るに至っており,被告使用標章中「Love」と表示された部分が本件原告商
標と誤認され,又は本件原告商標と何らかの関連があると誤解された例もない。
このように,需要者が,「LOVE」ないし「ラブ」の有無,その表示方法
を基準として香水を選ぶことなどないのであり,被告香水の売上げに,「LO
VE」ないし「ラブ」の表示,称呼,観念はいずれも全く寄与していない。
(3) 以上より,本件原告商標には顧客吸引力が全く認められず,被告使用標章
を使用することが被告香水の売上げに全く寄与していないことが明らかである
から,原告には,得べかりし利益としての使用料相当額の損害も生じていない
というべきである。
【原告の主張】
争う。
3 争点(3)(損害額)について
【原告の主張】
(1)ア 被告は,被告香水の販売開始から平成16年7月17日(本件訴状送
達日)までに被告香水を販売したことにより,少なくとも5億円の売上
げを得た。
イ また被告は,平成16年7月18日から平成17年6月30日までの
間に被告香水を販売したことにより,少なくとも10億円の売上げを得
た。
ウ 商標法38条3項により原告が本件原告商標の使用に対して受けるべ
き金銭の額は,かつて原告がラブジャパン社との間で締結した使用許諾
契約の例に準じて売上額の2%とするのが相当であるから,本件で原告
が被った使用料相当損害金の額は,アの分については1000万円(5
億円×2%),イの分については2000万円(10億円×2%)とな
るが,本件では,アの分の1000万円とイの分の2000万円の合計
3000万円を請求する。
(2) 被告が開示した資料によれば,上記期間の被告香水の売上高は1億98
16万9057円となっている。
しかし,①平成15年6月期決算での被告全体の売上高が約35億円で
あり,平成17年6月期決算での被告全体の売上高も横ばいであるにもか
かわらず,資本の部の額が約4億4400万円から約5億7700万円へ
と被告香水の発売後の2年間で大きく増加していること,②被告は被告香
水をすべて海外から輸入したと主張し,被告香水を海外から輸入したのは
平成16年12月28日が最後とされているが,その後も国内で被告香水
が販売されていることからして,被告香水には,利益率の高い国内生産分
もあるのではないかと思料される。
また,被告は,争点(2)に関する被告の主張のような大規模な販促活動を
行っているが,それにもかかわらず,被告の全売上高に占める被告香水の
売上げの割合が約2%にすぎない(全売上高約35億円に対し被告香水の
売上高は約2億円)のは,明らかにバランスを失している。
以上より,被告が開示した資料による被告香水の前記売上高は信用する
ことができない。
【被告の主張】
原告の主張は争う。
(1) 原告が指摘するラブジャパン社との間の使用許諾契約は,商標登録番号
542450号及び同476087号に関するものであり,本件原告商標
権に関するものではない。
また,原告とラブジャパン社との間の使用許諾契約は,先に争点(2)に関
する被告の主張(1)で触れた,同社ほか1名と原告との間の大阪地方裁判所
昭和46年(ワ)第4521号事件の控訴審段階における和解を前提になさ
れたものであるところ,同和解は,第一審被告の一人であったスミス・ク
ライン・アンド・フレンチオーバーシーズ・カンパニーが化粧品に関する
営業から撤退するに際してなされたものであり,また当時,同訴訟のほか
にも,登録無効審判2件,登録取消審判8件が係属するなど収拾がつかな
くなった紛争を収めるために締結されたものである。したがって,かかる
特殊な事情に基づいて締結された和解を前提になされたラブジャパン社と
の間の使用許諾契約における使用料率は,本件における使用料相当額を算
定する際の根拠にはならない。
(2) 争点(2)に関する被告の主張で述べた諸事情からすると,本件原告商標
権の使用料相当額は,限りなくゼロに近いものというべきである。
(3) 原告は,被告が開示した資料における被告香水の売上額に疑問を示して
いる。しかし,①被告は,被告香水を発売する直前の平成15年6月期決
算において既に売上高約35億円に達していた,②被告の資本の部の額が
増加していることと,被告香水の売上額が被告が開示したものより大きい
はずであるということの間には何ら関連がない,③被告は,平成16年1
2月28日までに輸入した被告香水の在庫に余力があるから,それ以降の
輸入がなくとも販売を行うことに支障はない,④被告は,大規模な販促活
動を行ったからこそ被告が開示したような販売実績を上げることができた
のである。したがって,原告の疑問は失当である。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(類似性)について
(1) 別紙原告商標権目録のとおり,本件原告商標1はゴシック体で「LOV
E」と記載したもの,本件原告商標2はゴシック体で「ラブ」と記載したも
の,本件原告商標3は,上段に「LOVE」を筆記体で記載し,下段に「ラ
ブ」と記載したものである。その外観は,それぞれ上記のとおりであり,い
ずれも「ラブ」の称呼と「愛」の観念を生ずるものである。
(2) 被告標章は,「Love」の文字を筆記体で大きく横書きし,その下部
に「passport」の文字を筆記体で上部の文字よりやや小さく表して
なるものであるが,実際の被告香水の容器やパッケージ等では,被告標章の
右上方に,やや大きさの異なるピンク又は赤色で彩色された二つのハート状
図形が配されている(被告使用標章。甲4の1及び2,乙2)。「Lov
e」と「passport」の両文字は,二段に表され,大きさも異なるが,
「passport」の文字が無視されるほど大きさが異なるわけではなく,
「Love」と「passport」は同一の書体から成るから,被告標章
は,一見してこれらの両文字より成ると把握することができる。
したがって,被告標章の外観は,「Love」と「passport」の
両文字(実際の使用態様においては更に二つのハート状図形)から成るもの
である。また,被告標章からは,「ラブパスポート」の称呼を生ずる。さら
に,「Love」は「愛」,「passport」は「旅券」を意味するこ
とは,我が国においても広く知られているから,被告標章から,「愛 旅
券」の観念が生ずるということができる。
(3) 本件原告商標と被告標章を対比すると,外観において「LOVE」が含
まれている点や「ラブ」を含む称呼と「愛」を含む観念を生ずる点は共通す
る。
しかし,被告標章は,上記(2)のとおり,一見して「Love」と「pa
ssport」の両文字より成ると把握することができるのであって,被告
標章の「Love」の書体は本件原告商標1及び2の「Love」の書体と
明らかに異なることや,被告標章の実際の使用態様においては二つのハート
状図形が存することをも併せ考えると,本件原告商標と被告標章は,外観に
おいて類似するということはできない。
また,称呼において,本件原告商標と被告標章は,「ラブ」と「ラブパス
ポート」という違いがあるし,観念においても,被告標章には,本件原告商
標にはない「旅券」という観念が生ずるから,本件原告商標と被告標章は,
称呼及び観念において類似するということもできない。
(4) これに対し原告は,被告標章においては,「Love」の文字が「pa
ssport」よりも著しく大きいことから,「Love」が要部として需
要者に認識されると主張する。
しかし,被告標章においては,「Love」の文字が「passpor
t」よりも大きいものの,「passport」の文字が無視されるほど大
きさが異なるわけではない。被告標章が,ひとまとまりの「Love pa
ssport」として認識されると認められることは前記認定のとおりであ
り,原告の主張は採用することができない。
(5) また原告は,本件原告商標は周知商標であると主張する。これは,本件
原告商標の周知性を根拠に,被告標章のうちで需要者の注意を惹く要部が
「Love」にあることを主張する趣旨であると解される。
ア 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 原告(昭和46年1月8日の商号変更前の商号は,株式会社中山太
陽堂)は,昭和45年11月20日,原告の関連会社である株式会社マ
リークワントコスメチックスジャパンに対し,同社が輸入又は製造販売
する香水「ラブポーション」について,商標登録542450号に係る
商標権(「LOVE」を筆記体で記載し,「V」の文字の右上部に点を
付けたもの)の通常使用権を許諾した(甲28)。
また原告は,昭和48年9月1日,鐘紡株式会社に対し,上記商標登
録542450号に係る商標権等の通常使用権を許諾した(甲29)。
(イ) 原告は,昭和46年9月に,米国法人スミス・クライン・アンド・
フレンチオーバーシーズ・カンパニーが,我が国において「LOVE」
又は「LOVE IS HERE」を商標として使用した化粧品を販売し
ようとしているとして,同社に対して,上記商標登録542450号に
係る商標権等の侵害等を理由として,「LOVE」及び「LOVE I
S HERE」の標章の使用差止め等を求める訴えを大阪地方裁判所に
提起したが,昭和50年6月12日,原告とスミス・クライン・アンド
・フレンチオーバーシーズ・カンパニー及び利害関係人ラブジャパン社
との間において,原告はラブジャパン社に対し,上記商標登録5424
50号に係る商標権等について,7年間の通常使用権を,対価1200
万円で許諾すること等を内容とする和解(甲15)が成立した。
また原告は,昭和57年4月23日,ラブジャパン社との間において,
①原告は,ラブジャパン社に対して,上記商標登録542450号に係
る商標権等について,昭和64年9月28日までの通常使用権を許諾す
ること,②ラブジャパン社は,原告に対し,使用料として,小売販売価
格総額の2%を支払うこと等を内容とする契約を締結した(甲16の
1)。以後,ラブジャパン社は,原告に対し,平成元年9月28日まで
の間,上記契約に基づいて使用料を支払った(甲16の2ないし8)。
原告は,上記の昭和50年6月12日の和解成立後は,「LOVE」
を含む商標を使用していないが,原告の関係会社が,ラブジャパン社が
販売する製品の一部を製造していた。
(ウ) また原告は,昭和51年3月1日付けで,株式会社ミルボンに対し,
同社が化粧品に「ラブ」の標章を使用することは,前記商標登録542
450号に係る商標権を侵害する旨の警告を行い(甲45の1),同社
は,「ラブ」のみの標章を使用しない旨の回答を行った(甲45の2)。
また原告は,昭和53年4月14日付けで,株式会社コッセル特殊化
粧料本舗(甲46の1)及び日本ベレム株式会社(甲47の1)に対し,
これらの会社が洗顔料に「ラブ」及び「LOVE」の標章を使用するこ
とは,上記商標登録542450号に係る商標権を侵害する旨の警告を
行い,これらの会社は,これらの標章を使用しない旨の回答を行った
(甲46の2,47の2)。
また,原告は,昭和57年10月19日,アキホインターナショナル
株式会社及び株式会社総合通信教育センターとの間で,これらの会社が
商標登録542450号に係る商標権等を尊重し,脱毛美容剤に「ラブ
・ハニー」等の標章を使用することを中止する旨の和解契約を締結した
(甲17)。
また,原告は,株式会社純薬及び株式会社純ケミファを被告として,
商標登録542450号に係る商標権等に基づき,化粧品に「JUN
E」と「LOVE」を2段に表記した標章等を使用することの差止めを
求めて東京地方裁判所に提起した訴訟において,昭和63年7月18日,
商標権の侵害の事実を確認し,上記標章を使用せず,上記標章を使用し
た商品を廃棄する旨の訴訟上の和解が成立した(甲18)。
(エ) 原告は,平成10年2月,株式会社コーセーに対し,同社が「リッ
プスティック」に,「Love」を赤字で表示した「RougeLov
elass」の標章を使用することは,本件原告商標1及び2に係る商
標権を侵害する旨の警告をし(甲48の1),同社は,上記標章の使用
を中止する旨の回答を行った(甲48の2)。
また,原告は,平成10年4月30日付けで,イヴ・サンローラン社
に対し,同社が「オーデトワレ」に「IN LOVE AGAIN」の
「LOVE」を他より大きく表示した標章を使用することは,本件原告
商標1及び2に係る商標権を侵害する旨の警告をし(甲19の1),原
告とイヴ・サンローラン社は,平成10年11月13日,①イヴ・サン
ローラン社は,原告に対し,金員を支払う,②原告は,イヴ・サンロー
ラン社に対し,平成11年2月末日まで,上記標章の使用を許諾する旨
の契約を締結した(甲19の2)。また原告は,平成16年3月10日
付けで,イヴ・サンローラン社に対し,同社が「オーデトワレ」に「I
N LOVE AGAIN」の「LOVE」を他より大きく表示した標章
を使用することは,本件原告商標権を侵害する旨の警告をし(甲20の
1),原告とイヴ・サンローラン社は,平成16年6月30日,①原告
は,イヴ・サンローラン社に対し,平成18年12月31日まで,上記
標章の使用を許諾する,②イヴ・サンローラン社は,原告に対し,その
対価を支払う旨の契約を締結した(甲20の2)。イヴ・サンローラン
社は,「IN LOVE AGAIN」の標章又は「IN L♥VE AG
AIN」の標章を付した商品(香水)を販売していた。
また,原告は,平成13年12月10日付けで,ニベア花王株式会社
に対し,同社が「LOVE & CARE」の「LOVE」をゴシック体
で表記した標章を使用していることにつき,標章の変更を検討すること
を求める文書(甲50の1)を送付し,平成14年3月7日,原告とニ
ベア花王株式会社は,「LOVE & CARE」標章の使用態様及び使
用対象等を定め,ニベア花王株式会社がその定めに反しない限り,原告
は本件原告商標1に係る商標権を行使せず,商標権不行使の対価は無償
とする旨の契約を締結した(甲50の2)。
また,原告は,平成16年8月2日付けで,ブルーベル・ジャパン株
式会社に対し,同社が販売しているカルバン・クラインの香水「エタニ
ティーラブ」について,「LOVE」を中央に表示することは,本件原
告商標権を侵害するおそれがある旨警告し(甲51の1),ブルーベル
・ジャパン株式会社は,その販売を中止する旨回答した(甲51の2)。
(オ) 原告は,平成14年8月1日,株式会社マリークワントコスメチッ
クスジャパンに対し,同社が「LOVE STRUCK」,及び「LO
VE TOKEN」の各標章を使用することを許諾し(甲27中の甲1
7),同標章を使用した製品を原告が製造していた。
(カ) 原告は,平成18年4月以降,「LOVE」を含む商標を使用した
化粧品を製造販売している。この原告の化粧品の発売開始については,
同年4月15日から5月6日にかけて各地方の14地方新聞(インター
ネットによる配信を含む)で各1回ずつ報じられた(甲30ないし4
3)。また,この原告の化粧品は,雑誌「mr.partner」20
06年7月号(同年6月10日発売)において,他の6社の商品と共に
「今月のCatch Up」として広告され,また同年6月24日に同
雑誌に関連してSHIBUYA−FMで放送されたラジオ番組中で商品
紹介がされた(甲44)。
(キ) AIPPI・JAPANが発行している平成16年発行の「日本有
名商標集」には,原告の商標として「LOVE」(本件原告商標ほか)
が掲載されている(甲14の1及び3)。
イ 前記アのとおり,原告は,「LOVE」に係る本件原告商標等の商標権
の侵害があると認めた場合には,警告をし,さらに訴訟をするなどして,
それらの権利が侵害されないよう,商標管理をしてきたものと認められる。
しかし,前記ア(イ)のとおり,原告は,昭和50年6月12日のスミス
・クライン・アンド・フレンチオーバーシーズ・カンパニー及びラブジャ
パン社との和解成立後は,「LOVE」を含む商標を使用していなかった
ものであり,通常使用権者であるラブジャパン社による使用も平成元年9
月28日までであった。
原告は,前記ア(オ)のとおり,平成14年ころから,株式会社マリーク
ワ ント コ ス メ チッ ク ス ジ ャパ ン に対 し , 「 LO V E S TR U C K 」,
「LOVE TOKEN」の各標章を付した商品を販売していたが,これ
らは,「LOVE STRUCK」,「LOVE TOKEN」であって,
「LOVE」とは異なるものである。
前記ア(カ)のとおり,原告は,平成18年4月以降,「LOVE」を含
む商標を使用した化粧品を製造販売し,宣伝広告をしているが,その販売
数量は不明であり,またその宣伝広告は,発売当初に各地方新聞で1回ず
つ,小さな囲み記事で商品紹介がされたほかは,雑誌とそれに関連するラ
ジオ番組で1回ずつ商品紹介がされたにとどまる。
したがって,原告が本件原告商標等の「LOVE」商標を使用していた
のは,昭和50年6月12日のスミス・クライン・アンド・フレンチオー
バーシーズ・カンパニー及びラブジャパン社との和解成立までであり,通
常実施権者の使用も平成元年9月28日までであるから,被告による被告
標章の使用開始時である平成15年8月(乙59及び60)まで長期間に
わたって本件原告商標等の「LOVE」商標は使用されていなかったもの
である。
そうすると,被告標章の使用開始時に,本件原告商標等の原告の「LO
VE」商標が周知であったと認めることはできないし,その後の原告によ
る使用状況を考慮しても,その後現在に至るまでにおいても本件原告商標
等の原告の「LOVE」商標が周知であると認めることはできないから,
そのような事実を取引の実情として考慮することはできない。
なお,前記ア(キ)のとおり,平成16年発行の「日本有名商標集」には,
原告の商標として「LOVE」(本件原告商標ほか)が掲載されているが,
この事実は,それのみでは,本件原告商標等の原告の「LOVE」商標が
周知であったと認めることはできないとの上記認定を左右するものではな
い。また,上記認定のとおり,原告は,原告商標権等の商標管理をしてき
たものと認められるが,これらの管理の事実があったからといって,上記
のとおり長期間にわたって使用されていない以上,本件原告商標等の原告
の「LOVE」商標が周知であったと認めることはできない(したがって,
別紙被告登録商標目録に係る商標登録に商標法4条1項10号に違反して
登録された無効理由があるともいえない。)。
したがって,原告の主張は採用できない。
(6) 証拠(甲52,53の1及び2,54)によると,原告が株式会社ケー
アンドリサーチデータに委託して,15歳(高校生)以上の男女814人を
対象に,東京都の街頭において,被告使用標章が付された包装箱を示して,
包装箱のブランド名を何と読むか尋ねる調査をしたところ,①最初に包装箱
のブランド名を何と読むか尋ねた結果は,「ラブパスポート」が49.6%,
「ラブ」が33.3%,「その他」6.9%,「わからない」10.2%で
あった,②そこで,他に読めるブランド名があるか重ねて尋ねた結果は,
「ある」が12%,「ない」が88%であった,③「ある」と答えた者に何
と読むか尋ねた結果は,「パスポート」が38.8%,「ラブパスポート」
が13.3%,「ラブ」が2%,「その他」45.9%であった,と認めら
れる。
上記調査結果によると,被告使用標章が付された包装箱について,最初に
包装箱のブランド名を何と読むか尋ねたときには,「ラブパスポート」と答
えた者が約半数存し,他に読めるブランド名があるか重ねて尋ねたときにブ
ランド名を答えた者では,「パスポート」と「ラブパスポート」の合計が約
半数存したのに対し,最初に包装箱のブランド名を何と読むか尋ねたときに
は,「ラブ」と答えた者は約3分の1であり,他に読めるブランド名がある
か重ねて尋ねたときにブランド名を答えた者では,「ラブ」と答えた者は2
%にすぎなかったのであるから,これらの調査結果から,被告使用標章は通
常「ラブ」と読まれるということはできない。なお,上記調査において,最
初に包装箱のブランド名を何と読むか尋ねたときに,15歳から19歳の女
性の51.1%が「ラブ」と答えたことが認められるが,15歳から19歳
の女性は,女性全体の5.5%にすぎず,これから直ちに被告使用標章は通
常「ラブ」と読まれるということはできない。
むしろ,上記調査結果からすると,被告使用標章は「ラブ」ではない読ま
れ方をするというべきである。
また,上記調査は,被告使用標章の称呼について尋ねたものであるが,商
標の類否は,称呼のみならず,外観や観念も総合して判断されるべきである。
(7) 以上を総合すると,本件原告商標と被告標章とは類似しないということ
ができるから,被告による被告標章の使用は本件原告商標権を侵害するとは
いえない。
2 まとめ
以上によれば,原告の本件請求はいずれも理由がないから,主文のとおり判
決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山 田 知 司
裁判官 高 松 宏 之
裁判官 村 上 誠 子

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