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平成18(行ケ)10129審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年10月31日
事件種別 民事
当事者 被告日本特殊陶業株式会社
原告株式会社デンソー
対象物 内燃機関用スパークプラグ
法令 特許権
特許法29条2項4回
民事訴訟法258条1回
キーワード 刊行物68回
審決66回
無効43回
実施14回
無効審判7回
進歩性4回
優先権2回
特許権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「内燃機関用スパークプラグ」とする特許第2921 524号(優先権主張平成9年4月16日,平成10年4月16日特許出願, 平成11年4月30日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は6で ある )の特許権者である(以下,設定登録時明細書及び図面(甲3)を「本。 件明細書」という 。。) 被告は,平成17年2月2日,本件特許の請求項1ないし6に係る発明につ いての特許を無効とすることを求めて,2つの審判請求(無効2005−80 036号事件及び無効2005−80037号事件)をした。

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判決文

平成19年10月31日判決言渡
平成18年(行ケ)第10129号 審決取消請求事件
平成19年9月26日 口頭弁論終結
判 決
原 告 株 式 会 社 デ ン ソ ー
訴訟代理人弁理士 碓 氷 裕 彦
同 伊 藤 高 順
被 告 日本特殊陶業株式会社
訴訟代理人弁護士 高 橋 譲 二
同 川 崎 修 一
訴訟代理人弁理士 富 澤 孝
同 奥 田 誠
同 小 林 武
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2005−80036号事件及び無効2005−80037号
事件について平成18年2月20日にした審決中 ,「特許第2921524号
の請求項1ないし4,6に係る発明についての特許を無効とする 。」との部分
を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「内燃機関用スパークプラグ」とする特許第2921
524号(優先権主張平成9年4月16日,平成10年4月16日特許出願,
平成11年4月30日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は6で
ある 。)の特許権者である(以下,設定登録時明細書及び図面(甲3)を「本
件明細書」という。 。

被告は,平成17年2月2日,本件特許の請求項1ないし6に係る発明につ
いての特許を無効とすることを求めて,2つの審判請求(無効2005−80
036号事件及び無効2005−80037号事件)をした。
無効2005−80036号事件は特許法29条2項に該当すること等を無
効理由とするものであり,無効2005−80037号事件は同法36条4項
を充足していないことを無効理由とするものである。
特許庁は,各審判請求を併合審理し,平成18年2月20日に ,「特許第2
921524号の請求項1ないし4,6に係る発明についての特許を無効とす
る。特許第2921524号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成
り立たない。」との審決(以下 ,「審決」という 。)をした。
2 特許請求の範囲
特許請求の範囲の請求項1ないし6の記載は,次のとおりである(以下「本
件発明1」∼「本件発明6」という 。 。

【請求項1】
「貫通孔を有する絶縁碍子と,少なくとも上記貫通孔の一端に配設した中心電
極と,上記絶縁碍子を保持するハウジングと,上記ハウジングに設けられ上記
中心電極と対向配設し,中心電極と共に火花ギャップを形成する接地電極とを
有し,
かつ上記中心電極と接地電極とが対向する少なくとも一方の面には,貴金属
チップを少なくとも溶融固着層にて接合してなる内燃機関用スパークプラグに
おいて,
上記貴金属チップは,上記中心電極又は接地電極の電極母材の少なくとも一
部に対して溶融固着層を介して設けられていると共に,少なくともIrを含有
する融点が2200℃以上のイリジウム材よりなり,
また,上記溶融固着層中には,融点が1500∼2100℃,線膨張係数が
8∼11×10 −6/℃の貴金属が1重量%以上含有されており,
さらに,上記溶融固着層中において上記貴金属が1重量%以上含有されてな
る貴金属含有層は,上記貴金属チップの半径の半分の位置における軸方向の厚
みが0.2mm以上であることを特徴とする内燃機関用スパークプラグ 。」
【請求項2】
「請求項1において,上記溶融固着層中の貴金属は,Pt,Pd又はRhの1
種以上であることを特徴とする内燃機関用スパークプラグ 。」
【請求項3】
「請求項1において,上記貴金属チップは,上記中心電極に対して溶接されて
いることを特徴とする内燃機関用スパークプラグ。」
【請求項4】
「請求項3において,上記溶融固着層中の貴金属は,貴金属チップ中の貴金属
が溶融されたものであることを特徴とする内燃機関用スパークプラグ。」
【請求項5】
「請求項3において,貴金属は,レーザによって接合される中心電極と貴金属
チップとの間に設けられるとともに,溶融固着層中の貴金属は,中心電極と貴
金属チップとの間に設けられた貴金属から溶融される貴金属であることを特徴
とする内燃機関用スバークプラグ。」
【請求項6】
「請求項3において,上記貴金属チップは,上記中心電極に対して上記溶融固
着層のみを介して設けられていることを特徴とする内燃機関用スパークプラ
グ。」
3 審決の理由
(1) 別紙審決書の写しのとおりである。
審決が本件発明1ないし4,6(以下,これらを総称して ,「本件発明」
という 。)に係る特許を無効とした理由は,要するに,本件発明は,優先権
主張日前に頒布された刊行物である特開平6−36856号公報(審決及び
本訴における甲1。以下 ,「刊行物1」という 。)及び特開平9−7733
号公報(審決及び本訴における甲2。以下 ,「刊行物2」という 。)に記載
された各発明(以下 ,刊行物に対応して「刊行物1記載発明 」などという 。)
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法
29条2項の規定に反して特許されたものであり,同法123条1項2号に
該当するというものである。
審決は,本件発明1が特許法29条2項に該当する理由として,①刊行物
1記載発明を主たる引用例として,本件発明1と刊行物1記載発明との相違
点に関する構成は,刊行物記載2発明を適用することによって容易に発明す
ることができたと判断し(以下「判断1」という場合がある 。 ,また,②

刊行物2記載発明を主たる引用例として,本件発明1と刊行物2記載発明と
の相違点に関する構成は,刊行物1記載発明を適用することによって容易に
発明することができたと判断(以下「判断2」という場合がある 。)した。
そして,本件発明2ないし4,6についても,同様の理由により刊行物1と
刊行物2に記載された各発明に基づいて容易に発明することができたと判断
した(なお,審決は,本件発明1ないし6は,同法36条4項の要件を充足
しないとの無効理由は存在しないとの判断を示している 。)
(2) 審決の判断1についての刊行物1記載発明の内容並びに本件発明1と刊行
物1記載発明との一致点及び相違点の認定は,以下のとおりである。
(刊行物1記載発明の内容)
「軸孔32を有する絶縁碍子3と,絶縁碍子3の軸孔32の一端に配設し
た中心電極4と,絶縁碍子3を保持する主体金具2と,主体金具2の先端
面に設けられ,中心電極と対向配設し,中心電極と共に火花ギャップを形
成する外側電極1とを有し,中心電極4の放電側端部の直棒径小部4Aの
面に貴金属チップ6を楔状の溶融凝固合金部7にて接合したスパークプラ
グにおいて,貴金属チップ6はPtーIr合金材からなり,溶融凝固合金
部7は,中心電極4の母材41の成分と貴金属チップの成分が溶け合って
形成されていて,白金(Pt ),イリジウム(Ir)が含有されており,
さらに,溶融凝固合金部7は,溶融凝固合金部7の溶け込み深さをA,貴
金属チップ6の半径をR,中心電極4の外周面での溶融凝固合金部7の幅
をBとしたとき,R/3≦A≦R,0.3mm≦B≦0.8mmを満足す
るスパークプラグ」
(一致点)
「貫通孔を有する絶縁碍子と,少なくとも上記貫通孔の一端に配設した中
心電極と,上記絶縁碍子を保持するハウジングと,上記ハウジングに設け
られ上記中心電極と対向配設し,中心電極と共に火花ギャップを形成する
接地電極とを有し,
かつ上記中心電極と接地電極とが対向する中心電極の面には,貴金属チ
ップを少なくとも溶融固着層にて接合してなる内燃機関用スパークプラグ
において,
上記貴金属チップは,上記中心電極の電極母材の少なくとも一部に対し
て溶融固着層を介して設けられていると共に,少なくともIrを含有する
イリジウム材よりなり,
また,上記溶融固着層中には,融点が1500∼2100℃,線膨張係
数が8∼11×10 −6/℃の貴金属が含有されており,
さらに,上記溶融固着層は,上記貴金属チップの半径の半分の位置にお
ける軸方向の厚みが0.2mm以上であることを特徴とする内燃機関用ス
パークプラグ」である点。
(相違点)
① 貴金属チップを構成している少なくともIrを含有するイリジウム材
に関し,本件発明1は,融点が2200℃以上であるのに対して,刊行
物1記載発明は,該イリジウム材の融点が明確でない点(相違点1 )。
② 溶融固着層中に含有されている,融点が1500∼2100℃,線膨
張係数が8∼11×10 −6/℃の貴金属の含有量に関し ,本件発明1は ,
1重量%以上含有されているのに対して,刊行物1記載発明は,どの程
度含有されているか明確でない点(相違点2 )。
(3) 審決の判断2についての刊行物2記載発明の内容並びに本件発明1と刊行
物2記載発明との一致点及び相違点の認定は,以下のとおりである。
(刊行物2記載発明の内容)
「 貫通孔を有した絶縁碍子と ,前記貫通孔の一端に保持された中心電極と ,
前記絶縁碍子を保持するハウジングと,前記ハウジングの先端面に前記中
心電極と対向するように設けられた接地電極と,前記中心電極と前記接地
電極とによって形成される火花ギャップとを備え,前記接地電極の先端部
の放電部位に貴金属チップをレーザ溶接により接合した内燃機関用スパー
クプラグにおいて,前記貴金属チップは,IrーRh合金からなり,Rh
添加量が1wt%∼60wt%の範囲(例えば,Ir−30wt%Rh)
である内燃機関用スパークプラグ」
(一致点)
「貫通孔を有する絶縁碍子と,少なくとも上記貫通孔の一端に配設した中
心電極と,上記絶縁碍子を保持するハウジングと,上記ハウジングに設け
られ上記中心電極と対向配設し,中心電極と共に火花ギャップを形成する
接地電極とを有し,
かつ上記中心電極と対向する接地電極には,貴金属チップを少なくとも
溶融固着層にて接合してなる内燃機関用スパークプラグにおいて,
上記貴金属チップは,上記接地電極の電極母材の少なくとも一部に対し
て溶融固着層を介して設けられていると共に,少なくともIrを含有する
融点が2200℃以上のイリジウム材よりなり,
また,上記溶融固着層中には,融点が1500∼2100℃,線膨張係
数が8∼11×10 −6/℃の貴金属が1重量%以上含有されている内燃機
関用スパークプラグ」である点。
(相違点)
本件発明1は,接地電極の面に貴金属チップを溶融固着層にて接合し,
さらに,上記溶融固着層中において上記貴金属が1重量%以上含有されて
なる貴金属含有層は,上記貴金属チップの半径の半分の位置における軸方
向の厚みが0.2mm以上であるのに対して,刊行物2記載発明は,接地
電極の面に貴金属チップを接合しているか否か明確でなく,また,上記軸
方向の厚みが0.2mm以上であるか否かも明確でない点
第3 取消事由に係る原告の主張
審決の本件発明1についての認定判断には,次の①∼③の誤りがあり,本
件発明2∼4,6についての判断にも同様の誤りがあるから,審決のうち本
件発明についての特許を無効とした判断は違法であり,取消を免れない。
① 本件発明1の内容について認定の誤りがある(その結果,判断1における
一致点及び相違点の認定を誤り,相違点についての容易想到性の判断を誤り ,
また,判断2における相違点についての容易想到性の判断を誤った 。 。
) 〔取
消事由1 〕。
② 刊行物1記載発明の内容について認定の誤りがある(その結果,判断1に
おける一致点及び相違点の認定を誤り,判断2における相違点についての容
易想到性の判断を誤った。 。
) 〔取消事由2〕
③ 刊行物2記載発明の内容について認定の誤りがある(その結果,判断1に
おける相違点についての容易想到性の判断を誤り,また,判断2における一
致点及び相違点の認定を誤った。 。
) 〔取消事由3〕。
1 取消事由1(本件発明1の認定の誤りに係る取消事由)
(1) 審決は,本件発明1について「溶融固着層中には,融点が1500∼21
00℃,線膨張係数が8∼11×10−6/℃の貴金属が含有されているので
あるから,溶融固着層全体が貴金属含有層であると解することができる 。」
(審決書10頁22行∼24行)とした上で ,「本件発明1の貴金属含有層
の軸方向の厚さは,溶融固着層の軸方向の厚さのことであると云える。 (同

11頁2行∼3行)として本件発明1と刊行物1記載発明の一致点及び相違
点を認定し ,また ,判断2においても同様の認定 同16頁26行∼29行 )

をした上で本件発明1の容易想到性を判断した。
しかし,本件明細書(甲3)の特許請求の範囲の請求項1に ,「上記溶融
固着層中において上記貴金属が1重量%以上含有されてなる貴金属含有層」
と記載されているとおり,「貴金属含有層」は特定の貴金属が1重量%以上
含有されてなる層であるのに対して ,「溶融固着層」は特定の貴金属が1重
量%未満の箇所も含むものであって,両者は相違する。
審決は,特許請求の範囲(請求項1)において,「溶融固着層」と「貴金
属含有層」とが明確に区別して記載されているにもかかわらず,本件発明1
の「溶融固着層」と「貴金属含有層」を同じものと認定した点において,誤
りがある。
( 2) 審決は,本件明細書の段落【0034】∼【0038】の記載及び図1
1,図12の記載を根拠として ,本件発明1における「溶融固着層」と「 貴
金属含有層」が同一であると認定している。しかし,そもそも本件明細書
の段落【0034】∼【0038】は,実施形態例3として,貴金属チッ
プと中心電極との間に溶融固着層と未溶融部とを有する例を説明したもの
であり ,「溶融固着層」と「貴金属含有層」が同義であることは一切記載さ
れていない。また,図11,図12は,貴金属含有層の厚みTが貴金属チ
ップの半径の半分の位置におけるものであることを示したものにすぎず,
「溶融固着層」と「貴金属含有層」が同義であることを示唆する記載はな
い。図11,図12において,貴金属チップの半径の半分の位置における
「溶融固着層の厚み」と「貴金属含有層の厚みT」が一見同じ厚みである
かのように示されているが,この点は,貴金属含有層が溶融固着層11内
で形成されることを示したもので ,「溶融固着層」と「貴金属含有層」が同
義であることを示すものではない。以上のとおり,本件明細書には,図面
を含めて ,「溶融固着層」と「貴金属含有層」が同義であることは一切記載
されていない。
したがって,審決は ,「貴金属含有層」が「溶融固着層」内に形成される
ことを示した図11,図12から,溶融固着層と貴金属含有層とが同義で
あると認定した点において,誤りがある。
( 3) 本件発明1の 「貴金属含有層」は特定の貴金属が1重量%以上含有され
てなる層であるのに対して ,「溶融固着層」は特定の貴金属が1重量%未満
含有される部位も含むものと理解すべきである。
本件発明1の「溶融固着層」は,電極母材と貴金属チップとをレーザ溶
接することによって形成されるものであるから,全領域にわたって各種元
素の濃度が均一になるものではない 。「溶融固着層」の電極母材近傍の部位
では,その成分は電極母材に近い状態であるため,いずれの部位でも,特
定の貴金属の含有量は1重量%未満である。これに対して,本件発明1に
おける「貴金属含有層」は,請求項1において ,「上記溶融固着層中におい
て上記貴金属が1重量%以上含有されてなる貴金属含有層」と規定すると
おり,特定の貴金属が1重量%以上含有されている部位を指す。電極母材
近傍の特定の貴金属の含有量が1%未満の領域は「 溶融固着層」に該当し,
「貴金属含有層」には該当しない。
(4) 特許請求の範囲の請求項1においては , 溶融固着層」と「貴金属含有層 」

が明確に区別して記載されている。しかし,審決は,明細書の「発明の詳
細な説明」欄の記載及び図面を参酌して,特許請求の範囲の記載と異なる
解釈をし,本件発明1の溶融固着層全体が貴金属含有層であると認定した
もので,この点は,いわゆるリパーゼ事件最高裁判決(最高裁平成3年3
月8日判決)にも反する。
2 取消事由2(刊行物1記載発明の認定の誤りに係る取消事由)
( 1) 審決は,刊行物1記載発明について ,「溶融凝固合金部7(溶融固着層)
は,溶融凝固合金部7(溶融固着層)の溶け込み深さをA,貴金属チップ6
の半径をR ,中心電極4の外周面での溶融凝固合金部7の幅をBとしたとき,
R/3≦A≦R,0.3mm≦B≦0.8mmを満足するものであって,楔
状(V字状)であることから,貴金属チップの半径の半分の位置における軸
方向の厚みが0.2mm以上であるものを含む‥‥‥ 」(審決書10頁16
行∼22行,審決書16頁23行∼25行)と認定しているが,審決の上記
認定は誤りである。
(2) 刊行物1における「楔状」の語について,審決は,何らの根拠も示すこと
なく ,「楔状(V字状 )」と認定し ,「楔状」と「V字状」が同義であるとし
ている。しかし,刊行物1における溶融凝固合金部の形状は,不明確であっ
て,その形状を特定することは不可能であり,溶融凝固合金部の形状をV字
状とした審決の認定は誤りである。そして,刊行物1の溶融凝固合金部の形
状を特定できない以上, 貴金属チップの半径の半分の位置における溶融凝
固合金部の軸方向の厚みが0.2mm以上であると認定することはできな
い。
したがって,刊行物1の溶融凝固合金部について, 貴金属チップの半径
の半分の位置における軸方向の厚みが0.2mm以上であるものを含むとし
た審決の認定は,誤りである。
3 取消事由3(刊行物2記載発明の認定の誤りに係る取消事由)
(1) 審決は,刊行物2記載発明について ,「刊行物2には,貴金属チップとし
て,IrーRh合金からなり,Rh添加量が1wt%∼60wt%の範囲の
ものが記載されており,少なくともIrを含有する融点が2200℃以上の
イリジウム材を含むもの(例えば,Ir−30wt%Rh)が記載されてい
る‥‥‥。また,Rhは,融点が1970℃,線膨張係数が9.6×10−6
/℃であるから‥‥‥,融点が1500∼2100℃,線膨張係数が8∼1
1×10−6/℃の貴金属である。そして,例えば,Ir−30wt%Rhの
貴金属チップを通常のレーザ溶接で中心電極に接合した場合,溶融固着層中
に,Rhが1重量%以上含有されることは明らかである(甲第9号証〔判決
注:本訴における甲6 〕,本件特許明細書段落【0027】参照 )。そうす
ると,刊行物2には,溶融固着層中に,融点が1500∼2100℃,線膨
張係数が8∼11×10 −6/℃の貴金属が1重量%以上含有されている発明
が記載されていると云える 。 (審決書12頁5行∼17行)と認定した。

また,審決は,刊行物2記載発明について ,「後者〔判決注:刊行物2記
載発明を指す 。〕の『貴金属チップは,IrーRh合金からなり,Rh添加
量が1wt%∼60wt%の範囲 例えば,
( Ir−30wt%Rh)である』
は,貴金属チップが,少なくともIrを含有する融点が2200℃以上のイ
リジウム材から成っているものを含むものであり‥‥‥,また,Rhは,融
点が1970℃,線膨張係数が9.6×10 −6/℃であるから‥‥‥,融点
が1500∼2100℃,線膨張係数が8∼11×10 −6/℃の貴金属であ
り,そして,例えば,Ir−30wt%Rhの貴金属チップを通常のレーザ
溶接で中心電極に接合した場合,溶融固着層中に,Rhが1重量%以上含有
されることは明らかである(無効2005−80036号の甲第9号証〔判
決注:本訴における甲6〕参照及び本願特許明細書の段落【0027】の記
載参照 ) 」
。 (審決書15頁24行∼35行)と認定した上で,本件発明1と
刊行物2記載発明との一致点の中に ,「溶融固着層中には,融点が1500
∼2100℃,線膨張係数が8∼11×10 −6/℃の貴金属が1重量%以上
含有されている」という点を含めている(審決書16頁10行∼11行 )。
しかし,以下のとおり,審決の刊行物2記載発明の上記認定は,いずれも
誤りである。
( 2) 審決は,甲6 及び本件明細書の段落【0027】の記載を根拠として,
刊行物2に「溶融固着層中にRhが1wt%以上含有されることは明らか 」
と認定した。
しかし,刊行物2の貴金属チップ接合部は,構造(電極母材の形状)の
点において,甲6及び本件明細書とは相違する。このため,刊行物2の溶
融固着層が,甲6や本件明細書の「溶融固着層」と同じ状態であるとの前
提に立つことは誤りである。
( 3) 仮に,刊行物2に示されたスパークプラグにおいてレーザ溶接を実施し
て特定の貴金属を1重量%以上含有する溶融固着層を形成することができ
るとしても,刊行物2にはどのようなレーザ溶接が好ましいかに関する開
示も示唆もないことからすれば,特定の貴金属を1重量%以上含有しない
溶融固着層を備えたスパークプラグも製造され得ることは明らかであるか
ら,審決が,溶融固着層中に,Rhが1重量%以上含有されると認定した
点に誤りがあるといえる。
すなわち,刊行物2 に,溶融固着層の状態について,どのようにすべき
かの開示も示唆もないことからすれば,刊行物2のレーザ溶接において,
採り得るレーザ溶接条件の幅は相当に広いものというべきであるから,本
件発明1の構成を備えるものが製造されるとともに,同構成を備えないも
のも製造され得る。したがって,刊行物2において,本件発明1の構成を
備えるものが製造されることがあり得るからといって,当業者が容易に実
施し得る程度に本件発明の構成を持つスパークプラグのレーザ溶接が刊行
物2に開示されているとはいえない。
( 4) 上記によれば,審決が,刊行物2の記載から「溶融固着層中にRhが1
wt%以上含有されることは明らか」と認定した点には誤りがある。
第4 被告の反論
原告主張の取消事由は,以下のとおり理由がない。
1 取消事由1(本件発明1の認定の誤り)に対し
( 1) 特許請求の範囲の 請求項1では,溶融固着層と貴金属含有層の特性は,
貴金属含有割合のみによって規定されている。ところで,請求項1の要件
を満たす「溶融固着層」と「貴金属含有層」とは,貴金属含有割合が1重
量%以上含まれているという点において,何ら差異はない。両者は,差異
がない以上,区別することは不可能であるから,両者を同義であるとした
審決に誤りはない。また ,「溶融固着層」中の「貴金属が1重量%以上含有
されている」部分と「貴金属が1重量%未満である」部分の別個の層とし
てとらえることもできない 。仮に,溶融固着層中に , 貴金属含有層」と「 貴

金属含有層でない層」の別個の層が存在するのであれば,その境界を数値
で特定できるはずであり,特定の領域がいずれの層に該当するか区別がで
きるはずである。しかし,このように截然とした区別ができない以上,2
つの「層」が存在するということはできない。
( 2) 仮に,溶融固着層中の電極母材近傍の部位では,その成分は電極母材に
近い状態であって,特定の貴金属の含有量が他の溶融固着層に比べて低い
ことがあり得るとしても,溶融固着層中の,どの部分が,貴金属含有量を
1重量%未満を含有する層であり,その境界がどこにあるかは不明である 。
原告の主張を前提とすると,溶融固着層中に2つの層があって,その境
界の一方は「貴金属含有層」として貴金属含有量が1重量%以上であり,
他方は「貴金属含有層以外の溶融固着層」として貴金属含有量が1重量%
未満であり ,「貴金属含有層」中には貴金属含有量が1重量%未満の箇所は
存在せず ,「貴金属含有層以外の溶融固着層」では貴金属含有量が1重量%
以上の箇所は存在しないという点で例外がないことになる。仮に,溶融固
着層中に「貴金属含有層」と「貴金属含有層以外の溶融固着層」の境界が
存在しないのであれば ,「貴金属含有層」中にも貴金属含有量が1重量%未
満の箇所があり ,「貴金属含有層以外の溶融固着層」にも貴金属含有量が1
重量%以上の箇所があるということになるはずであるが ,そうだとすると ,
「貴金属含有層」と「貴金属含有層以外の溶融固着層」を区別することは
できなくなる。本件明細書には,このような区別を可能とする技術内容等
について,何ら開示していない。
特許請求の範囲には「溶融固着層」と「貴金属含有層」と記載されてい
るが,本件明細書中では「溶融固着層」と「貴金属含有層」を別異のもの
と理解することを窺わせる記載はなく,また実施例図面においても ,「溶融
固着層」と「貴金属含有層」が同時に図示されたものはない。仮に,2つ
の層が異なるのであれば,本件明細書又は実施例図面において説明・図示
されてしかるべきであるが,その点の説明はない。貴金属含有層の厚みT
について述べた実施形態例3に関する図11,図12においても2つの層
に関する説明はない。
(3) 「 特許請求の範囲」の記載のみでは ,「貴金属含有層」の意義や「溶融固
着層」との関係及び異同が判然としない。しかも ,「溶融固着層」と「貴金
属含有層」とは ,「貴金属含有量が1重量%以上」という性質の上で全く同
一であるから,その技術的意義を理解することはできない。したがって,
審決が「貴金属含有層」の技術的意義を理解するに当たって ,明細書の「 発
明の詳細な説明」欄の記載及び図面を参酌したのは当然であり,最高裁判
所平成3年3月8日判決(民集45巻3号123頁,いわゆるリパーゼ事
件)の趣旨に反するものではない。
2 取消事由2(刊行物1記載発明の認定の誤り)に対し
刊行物1記載発明の内容を認定する際に重要な点は,「貴金属チップの半径
の半分の位置における軸方向の厚みが0.2mm以上である」との技術思想
が刊行物1に表れているか否かということであって,溶融凝固合金部がどの
ような形状であるか,又は,その形状が本件発明1の溶融固着層と同じであ
るかということではない。
審決は,刊行物1では,溶融凝固合金部の形状は,ほぼ半円状,又はお椀
型に近い形状であるが,貴金属チップの半径の半分の位置の厚みが最も小さ
くなる楔形(V字状)に近い形状を前提として算定したとしても,軸方向の
厚みは0.2mm以上であるから,そのような技術が開示されていると判断
したのであり,審決の認定に誤りはない。
3 取消事由3(刊行物2記載発明の認定の誤り)に対し
刊行物 2には貴金属チップとしてIr―Rh合金からなり,Rh添加量が
1wt%∼60wt%の範囲のものが記載されており,少なくともIrを含
有する融点が2200℃以上のイリジウム材を含むもの(例えばIr―30
wt%Rh)等が記載されていることから,Ir―30wt%Rhの貴金属
チップを通常のレーザ溶接で中心電極に接合した場合,溶融固着層中にRh
が1重量%以上含有されることは明らかである。
審決の認定に誤りはなく,原告の主張は失当である。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は,本件発明1に係る特許請求の範囲記載の「溶融固着層」と「貴金
属含有層」との関係について ,「溶融固着層全体が貴金属含有層である」ないし
「溶融固着層と貴金属含有層と同義である」と判断する。したがって,本件発明
1ないし4,6は,刊行物1,2各記載発明により当業者が容易に発明すること
ができたとする審決の判断に誤りはないことになり,原告の主張に係る取消事由
は,いずれも理由がないことになると解するものである。
以下,順に判断する。
1 取消事由1(本件発明1の認定の誤り)について
原告は,審決が,本件発明1の「溶融固着層」と「貴金属含有層」を同じも
のであると認定した点に誤りがあると主張するが ,以下のとおり理由がない。
(1) 本件明細書(甲3)の記載
ア 特許請求の範囲(請求項1)の記載
特許請求の範囲(請求項1)の記載は,第2「当事者間に争いのない事
実」2記載のとおりである。
イ 「発明の詳細な説明」欄の「溶融固着層」に係る記載
「発明の詳細な説明」欄には ,「溶融固着層」に関して ,「溶融固着層
は,貴金属チップと中心電極又は接地電極の電極母材との間に形成されて
いる。溶融固着層は,レーザ溶接によって貴金属チップと電極母材との間
が溶融し,次いで固化することによって形成された接合層である 。それ故,
溶融固着層はIr合金と電極母材との合金層を形成している。なお,上記
溶融固着層は貴金属チップと電極母材との間に全て設ける必要はなく,両
者の間に末溶融部が残存していてもよい(図11,図12参照 ) 」
。 (段落
【0012 】 ,
) 「溶融固着層中には融点が1500∼2100℃で線膨張
係数が8∼11×10 −6 /℃の貴金属が1重量%含有されている 。 (段

落【0013 】 ,
) 「溶融固着層中における貴金属が1重量%未満の場合に
は,後述するが冷熱繰り返しで使用する環境下で強度が低下する問題があ
る。なお,貴金属の上限は,加工性ならびにコスト面より10重量%とす
ることが好ましい 。 (段落【0014 】 ,
」 ) 「溶融固着層中の貴金属は,中
心電極と貴金属チップとの間に設けられた貴金属から溶融される貴金属で
あることが好ましい。これにより,溶融固着層中に,融点が1500∼2
100℃であり,所定の線膨張係数を有する貴金属を1重量%以上確実に
含有させることができる 。 (段落【0018 】 ,
」 ) 「貴金属チップは,上記
中心電極に対して上記溶融固着層のみを介して設けられていることが好ま
しい。これにより,中心電極に対して貴金属チップを確実に溶接固定させ
ることができる 。 (段落【0019 】 ,
」 ) 「貴金属チップ1と中心電極2の
先端部21との間がレーザエネルギによって溶融される。レーザ光4の照
射を終了し,放冷することにより,貴金属チップと中心電極2との間に溶
融固着層11が形成される(図1D ) 」
。 (段落【0023 】 ,
) 「貴金属チ
ップ1としてRhを含有するIr合金を用いた場合には,レーザエネルギ
強度の大小に影響されることなく,優れた接合強度を得ることができるこ
とが分かる 。 (段落【0026 】 ,
」 ) 「貴金属チップ中のRhが増加すると
共に接合強度が向上し,Rh含有量が2%以上では100N以上の強度が
得られることが分かる。なお,貴金属チップ中におけるRh含有量が2%
の場合には,溶融固着層中における「Rh含有量が1重量%以上のRh含
有量 」の軸方向の厚みTは,約0 .2mmであった。(段落【0027】 ,
」 )
「溶融固着層中のRh量1%以上の場合には優れた接合強度を有すること
が分かる 。 (段落【0032 】 ,
」 ) 「溶融固着層11は ,「該溶融固着層中
に上記貴金属が1重量%以上含有されている貴金属含有層の厚みT 」が0 .
2mm以上であることが好ましい。これにより,上記未溶融部116が残
存していても,本発明の効果を確実に発揮することができる。 (段落【0

035 】 ,
) 「貴金属チップ10と中心電極2との間にRh板15を介在さ
せて,これら三者の間に溶融固着層11を設ける場合,Rh板15の一部
が末溶融部として残存している場合を示している。この場合とも,上記と
同様に,貴金属チップ10の半径Rの半分の位置Sにおける軸方向の,上
記貴金属含有量の厚みTは0.2mm以上であることが好ましい。その理
由は,図11の場合と同様である 。 (段落【0037 】 ,
」 ) 「上記図11,
図12においては,末溶融部を有している場合について述べたが,上記貴
金属含有層の厚みTについては,未溶融部を有しない実施形態例1,実施
形態例2の場合についても同じである 。 (段落【0038 】
」 )と記載され
ている。
ウ 「発明の詳細な説明」欄の「貴金属含有層」に係る記載
「発明の詳細な説明」欄には ,「貴金属含有層」に関して ,「溶融固着
層中には,融点が1500∼2100℃,線膨張係数が8∼11×10−6
/℃の貴金属が1重量%以上含有されており,さらに,上記溶融固着層中
において上記貴金属が1重量%以上含有されてなる貴金属含有層は,上記
貴金属チップの半径の半分の位置における軸方向の厚みが0.2mm以上
であることを特徴とする内燃機関用スパークプラグである。本発明におい
て最も注目すべきことは,貴金属チップが少なくともIr(イリジウム)
を含有する2200℃以上の融点を有する上記イリジウム材であること,
上記貴金属チップと電極母材との間には溶融固着層を有し,該溶融固着層
中には上記融点及び線膨張係数を有する貴金属が1重量%以上含有されて
いること,さらに,上記溶融固着層中において上記貴金属が1重量%以上
含有されてなる貴金属含有層は,上記貴金属チップの半径の半分の位置に
おける軸方向の厚みが0.2mm以上であることである。‥‥‥また,上
記貴金属含有層は,上記貴金属チップの半径の半分の位置における軸方向
の厚みが0.2mm以上である。これにより,本発明の効果を確実に発揮
させることができる。これらのことは,図11,図12に示すごとく,貴
金属チップと中心電極との間に,後述する未溶融部を有する場合について
も同様である 。 (段落【0008】∼【0011 】
」 )と記載されている。
(2) 判断( 溶融固着層」と「貴金属含有層」との関係)

上記各記載に基づいて ,「溶融固着層」と「貴金属含有層」との関係につ
いて判断する。
ア 特許請求の範囲(請求項1)には ,「溶融固着層」について,溶融固着
層は貴金属チップを中心電極と接地電極とが対向する少なくとも一方の面
に接合するものであること,溶融固着層中には,融点が1500∼210
0℃,線膨張係数が8∼11×10 −6/℃の貴金属が1重量%以上含有さ
れていること,また「貴金属含有層」については,溶融固着層中に存在す
るものであり,貴金属が1重量%以上含有されてなるものであること,及
び貴金属チップの半径の半分の位置における軸方向の厚みが0.2mm以
上であることが特定されている。
イ そうすると,まず ,「溶融固着層」と「貴金属含有層」は,貴金属を1
重量%以上含有するものである点において共通する。
この点について,原告は,請求項1に ,「上記溶融固着層中において上
記貴金属が1重量%以上含有されてなる貴金属含有層は」と記載されてい
ることを根拠として ,「溶融固着層」は貴金属が1重量%未満の箇所を含
むものであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,特許請求の範囲には ,「上記溶融固着層中には,融点が15
00∼2100℃,線膨張係数が8∼11×10−6/℃の貴金属が1重量
%以上含有されており」と,その特性について厳格に特定されている点に
鑑みれば ,「溶融固着層」の一部について1重量%未満の箇所を含むと解
することはできない 。また ,発明の詳細な説明を見ても,①「溶融固着層 」
について,貴金属が1重量%以上含有されてなるものであることは記載さ
れているが,1重量%未満の箇所も含むものであるとの記載はないこと,
②本件発明の実施例との比較例の記載においても,実施形態例1では,溶
融固着層中にRhを含有しているため,耐久テスト前後とも200N近い
接合強度を有しているのに対し,比較例1(図13)では,それよりも低
い接合強度しか得られていない(段落【0041 】)とされて,その関係
で,Rhの含有についての記載はあるが,貴金属含有の分布についての記
載はないこと,③図面においても ,「溶融固着層」中の「貴金属含有層」
を区分するものは何ら図示されていないこと等を総合すれば ,「溶融固着
層」は,貴金属が1重量%未満の箇所を含むものであるとの原告の主張は
根拠がないものと判断される。
ウ 次に ,「貴金属含有層」は ,「溶融固着層」中に存在し,貴金属チップ
の半径の半分の位置における軸方向の厚みが0.2mm以上であることが
特定されているが,「溶融固着層」との区別は何ら示されていない。
これに関して,実施形態例3として,図11,図12と共に ,「かかる
末溶融部116は,レーザ溶接時のレーザエネルギを,貴金属チップ1と
中心電極2との間が完全に溶融しないようにコントロールすることによっ
て形成される。そして,このとき,上記溶融固着層11は ,『該溶融固着
層中に上記貴金属が1重量%以上含有されている貴金属含有層の厚みT』
が0.2mm以上であることが好ましい。これにより,上記未溶融部11
6が残存していても,本発明の効果を確実に発揮することができる。上記
厚みTは,同図に示すごとく,上記貴金属チップ1の半径Rの半分の位置
Sにおける軸方向の厚みをいう。上記半分の位置Sとは,半径Rの貴金属
チップにおいて,貴金属チップの中心線Pから,上記半径Rの半分(R/
2)の位置,つまり半径Sの円の位置をいう。また,図12は,実施形態
例2のように,貴金属チップ10と中心電極2との間にRh板15を介在
させて,これら三者の間に溶融固着層11を設ける場合,Rh板15の一
部が末溶融部として残存している場合を示している。この場合とも,上記
と同様に,貴金属チップ10の半径Rの半分の位置Sにおける軸方向の,
上記貴金属含有量の厚みTは0.2mm以上であることが好ましい。その
理由は,図11の場合と同様である。なお,上記図11,図12において
は,末溶融部を有している場合について述べたが,上記貴金属含有層の厚
みTについては,未溶融部を有しない実施形態例1,実施形態例2の場合
についても同じである 。 (段落【0034】∼【0038 】
」 )と記載され
ているように ,「貴金属含有層 」,すなわち特定の貴金属が1重量%以上
の箇所( 貴金属チップの半径の半分の位置における軸方向の厚みが0.

2mm以上である」こと)については記載されているが,それ以外の箇所
が特定の貴金属が1重量%以上であるのかそれ未満であるのかの記載はな
い。
そして,上述したように ,「溶融固着層」は,貴金属が1重量%以上含
有されてなるものであることは記載されているが,1重量%未満の箇所も
含むものであるとの記載はなく,また添付された図面を見ても ,「溶融固
着層」中において ,「貴金属含有層」を区分することも表示されていない
のであるから ,「溶融固着層」と「貴金属含有層」とは,共に融点が15
00∼2100℃,線膨張係数が8∼11×10−6/℃の貴金属を1重量
%以上含有する層であり,互いに区別することができず,同じ領域に分布
することを含むものであると解さざるを得ない。
したがって,審決が「溶融固着層全体が貴金属含有層であると解するこ
とができる」と認定した点に誤りはない。
エ 原告は, 本件発明1は,特許請求の範囲において「溶融固着層」と「貴
金属含有層」とを明確に区別して記載しているにもかかわらず,審決が ,
明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載及び図面を参酌して,本件発明
1の溶融固着層全体が貴金属含有層であると認定した点は,最高裁判所
平成3年3月8日判決(民集45巻3号123頁)に反するとも主張す
る。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。すなわち, 本件発
明1に係る特許請求の範囲の記載には , 溶融固着層」と「貴金属含有層 」

との語が用いられているが,両者は,共に貴金属を1重量%以上含有す
ると記載され,また,溶融固着層中において上記貴金属が1重量%以上
含有されてなる貴金属含有層と記載され,特許請求の範囲では,両者の
意義を理解することはできないというべきであるから,両者の関係を把
握するため,発明の詳細な説明及び図面を参酌することは許される。し
たがって,審決が,明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載及び図面を
参酌して ,特許請求の範囲の記載の「溶融固着層」及び「貴金属含有層」
の技術的意味を認定したことに誤りはなく,この点の原告の主張は失当
である。
(3) 小括
以上のとおりであって,取消事由1に係る原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(刊行物1記載発明の認定の誤り)について
原告は,審決には,刊行物1記載発明について ,「溶融凝固合金部7(溶
融固着層)は,溶融凝固合金部7(溶融固着層)の溶け込み深さをA,貴金
属チップ6の半径をR,中心電極4の外周面での溶融凝固合金部7の幅をB
としたとき,R/3≦A≦R,0.3mm≦B≦0.8mmを満足するもの
であって,楔状(V字状)であることから,貴金属チップの半径の半分の位
置における軸方向の厚みが0.2mm以上であるものを含む」と認定した点
に誤りがあると主張するが,以下のとおり理由がない。
(1) 刊行物1(甲1)の記載
刊行物1には,刊行物1記載発明の溶融凝固合金部の形状に関し,次の
事項が記載されている。
「 請求項1】ニッケル合金より成る中心電極の放電側端部に直棒径小部を

有し,前記直棒径小部端面に該直棒径小部とほぼ同径の貴金属チップを有
するスパークプラグにおいて,前記貴金属チップは,前記中心電極と貴金
属チップとの境界部を全周にわたり,レーザーを照射して楔状の溶融凝固
合金部を設けて接合したことを特徴とするスパークプラグ。
【 請求項2】請求項1に記載のスパークプラグであって ,貴金属チップは,
該貴金属チップの直径をD,厚さをT,前記中心電極の直棒径小部の長さ
をL,前記溶融凝固合金部の溶け込み深さをA,前記貴金属チップの半径
をR,中心電極の外周面での前記溶融凝固合金部の幅をBとしたとき
0.5mm≦D≦1.5mm,0 .3mm≦T≦0 .6mm,
0.2mm≦L≦0.5mm,R/3≦A≦R,0.3mm≦B≦0 .8mm
を満足することを特徴とするスパークプラグ 。 (特許請求の範囲の請求項

1,2)
「 0010】請求項2に記載の発明では,中心電極の直棒径小部に溶接さ

れる貴金属チップの形状や,中心電極の直棒径小部と貴金属チップとの溶
接部分の形状を規定しているために,高価な貴金属を適量使用するだけで ,
電極消耗を最小限に抑えて放電電圧を低くすることができる。このため,
安価で着火性に優れたスパークプラグを得ることができる 。 (段落【00

10 】)
「 0015】貴金属チップ6は,白金(Pt )
【 ,イリジウム(Ir ),Ir
に稀土類酸化物を添加したもの,またはPtーIr合金材などからなり,
中心電極4の直棒径小部4Aと同径の円柱である。図3に示すようにこの
貴金属チップ6の溶接は,一発の熱量が2JのYAG(イットリウム,ア
ルミニウム,ガーネット)レーザービームLBを間欠的に母材41の先端
面43と貴金属チップ6との境界部を境界面に対し平行方向に照射し,こ
れによって母材41の成分と貴金属チップ6の成分の溶け合った溶融凝固
合金部7を作る。またこのレーザービームLBは,その照射面71が互い
に重なる間隔で,母材41と貴金属チップ6の側面全周に渡って複数回照
射される 。 (段落【0015】
」 )
「 0019】貴金属チップ6の直径Dを0.5mm以上,1.5mm以下

にする理由を図4に示す。図4は,2000cc,6気筒ガソリンエンジ
ン,5000rpm全開で300時間の耐久試験を行ったときの火花放電
ギャップ増加量の変化を示す。このグラフから分かるように,貴金属チッ
プ6の直径Dが0.5mmよりも小さいと火花放電が集中して,ギャップ
増加量が急激に高くなってしまう。つまり貴金属チップ6の直径Dは,小
さい程飛火し易く放電電圧は低下するが,一方火花放電の集中が顕著とな
り,電極消耗が早く進んでしまうこととなる。また,直径Dが1.5mm
を過ぎると,ギャップ増加量はほとんど変化がないが,火花放電面が大き
くなることによって着火性が低下してしまう。さらに,高価な貴金属の使
用量が増えコスト高となる。
【0020】貴金属チップ6の厚さTを0.3mm以上としている理由は,
図5に示すように,厚さTが0.3mmよりも薄いと,レーザービームL
Bの照射時に貴金属チップ6の端面61のエッジ部62までが溶融して丸
みを帯びてしまい,放電電圧が高くなってしまうためである。また,貴金
属チップ6の厚さTを0.6mm以下としているのは,0.6mmより厚
いと耐電極消耗に関与しない貴金属の使用量が増大し,コスト高となるた
めである。
【0021】中心電極4の直棒径小部4Aの長さLを0.2mm以上として
いるのは,貴金属チップ6と母材41とを溶接する際に,直棒径小部4A
が短いとレーザー溶接時の熱が母材41から芯42を通じて熱引きされて
しまい,貴金属チップ6の溶融不足になり,溶融凝固合金部7の母材41
の成分と貴金属チップ6の成分の均一な溶け込みが期待できなくなってし
まうからである。また,直棒径小部4Aの長さLを0.5mm以下として
いるのは,0.5mmよりも長くすると,貴金属チップ6と比べて融点の
低い母材41は,レーザービームLBの熱により温度が上昇しすぎて,ブ
ローホールやクラックが発生し易くなるためである。
【0022】中心電極2での溶融凝固合金部7の溶け込み深さAを,貴金属
チップ6の半径Rの1/3以上,R以下の深さである理由を図6に示す。
図6は,2000cc,6気筒のガソリンエンジン,5500rpm×ス
ロットル全開1分とアイドリング1分のサイクリックパターン耐久テスト
で,溶融凝固合金部7の溶け込み深さAを変化させたときの貴金属チップ
6の脱落するまでの繰り返し数を示す。このグラフの(あ)は溶け込み深
さAがR/5よりも小さく , い)
( は溶け込み深さAがR/5∼R/4 , う)

は溶け込み深さAがR/4∼R/3 ,(え)は溶け込み深さAがR/3∼R
/2 ,(お)は溶け込み深さAがR/2∼2R/3 ,(か)は溶け込み深さ
Aが2R/3∼3R/4 ,(き)は溶け込み深さAが3R/4∼R ,(く)
は溶け込み深さAがRよりも大きいときである。
【0023】このグラフから分かるように,溶け込み深さAが(え)のR/
3∼R/2以上深いときは10000サイクルの繰り返しでも脱落が生じ
なかった。しかし ,(く)は脱落が生じなかったが,溶融凝固合金部7の交
差する中央部71にブローホールを生ずるため好ましくない。
【0024 】溶融凝固合金部7の幅Bを0 .3mm以上としているのは ,0.
3mmよりも小さいと,レーザービームLBの入熱不足で,上記貴金属チ
ップ6の直径Dの1/5以上である溶け込み深さの条件を満たすことがで
きずに,剥離し易くなってしまうためである。また,溶融凝固合金部7の
幅Bを0.8mm以下としているのは,0.8mmよりも大きくなってし
まうと貴金属チップ6の火花放電部端面61のエッジ部62までも溶融さ
せてしまう恐れがあり,入熱過大となって,溶融凝固合金部7にブローホ
ールやクラックが発生してしまうことがあるからである。また,望ましく
は0.4mm以上,0.5mm以下がよい 。 (段落【0019】∼【00

24 】)
(2) 判断
上記各記載に基づいて,溶融凝固合金部の形状等について判断する。
溶融凝固合金部7は,図2(断面図)において半円形状であること,溶
融凝固合金部の溶け込み深さをA,中心電極の外周面での前記溶融凝固合
金部の幅をB,貴金属チップの半径をRとすると,溶融凝固合金部の溶け
込み深さAの条件は,R/3≦A≦Rであること,レーザー溶接による溶
け込み深さと貴金属の脱落までのサイクル数の関係を示すグラフである【図
6】の(く)は溶け込み深さAがRよりも大きいときであり ,( く)は脱

落が生じなかったが,溶融凝固合金部7の交差する中央部71にブローホ
ールを生ずるため好ましくない 。」とされていること ,(き)は溶け込み深
さAが3R/4∼Rであり,脱落までのサイクル数が最大値を維持してい
る溶け込み深さであるから,問題のない溶け込み深さの最大値はA=Rで
あることに照らすならば,B(溶融凝固合金部の幅)を底辺とし,高さを
Aとする「二等辺三角形」すなわち「楔状」を形成することができること
は明らかである。
刊行物1の特許請求の範囲(請求項1 )記載の 「楔状の溶融凝固合金部 」
の「 楔状 」は,上記の技術思想から導かれたものと判断され ,また ,同( 請
求項2)において,溶融凝固合金部の溶け込み深さをAとし,中心電極の
外周面での前記溶融凝固合金部の幅をBとしたこととも矛盾しない。
そして,溶融凝固合金部の形状は,その溶け込み深さAが最大,すなわ
ちA=Rのとき,半長円状になる。そして,溶融凝固合金部の形状を半長
円状ではなく,上記の近似した楔状の形状であるとし,その幅Bは,0.
3mm≦B≦0.8mm であることから,最大値0.8mmとき,貴金属
チップの半径の半分の位置における溶融凝固合金部の軸方向の厚みは ,0 .
4mmとなる。
したがって ,審決が, 楔状」を「V字状」と同義であると認定したこと ,

及び「溶融凝固合金部7(溶融固着層)は,溶融凝固合金部7(溶融固着
層)の溶け込み深さをA,貴金属チップ6の半径をR,中心電極4の外周
面での溶融凝固合金部7の幅をBとしたとき,R/3≦A≦R,0.3m
m≦B≦0.8mmを満足するものであって,楔状(V字状)であること
から,貴金属チップの半径の半分の位置における軸方向の厚みが0.2m
m以上であるものを含むことは明らかである 。」とした認定に誤りはない。
小括
以上のとおりであって,取消事由2に係る原告の主張は理由がない。
3 取消事由3(刊行物2記載発明の認定の誤り)について
原告は,審決には ,「刊行物2には,溶融固着層中に,融点が1500∼2
100℃,線膨張係数が8∼11×10 −6/℃の貴金属が1重量%以上含有さ
れている発明が記載されている」と認定した点に誤りがあると主張するが,以
下のとおり理由がない。
(1) 刊行物2(甲2)の記載
刊行物2には,次の各記載がある。
「 請求項1】貫通孔を有した絶縁碍子と,前記貫通孔の一端に保持された

中心電極と,前記絶縁碍子を保持するハウジングと,前記ハウジングの先
端面に前記中心電極と対向するように設けられた接地電極と,前記中心電
極と前記接地電極とによって形成される火花ギャップとを備え,前記中心
電極および/または前記接地電極の先端部の放電部位に貴金属チップを接
合した内燃機関用スパークプラグにおいて,前記貴金属チップは,Irー
Rh合金からなり,Rh添加量が1wt%∼60wt%の範囲であること
を特徴とする内燃機関用スパークプラグ。
【請求項9】前記接地電極はNi合金を母材として構成されており,この
接地電極の放電部位に前記貴金属チップがレーザ溶接又は抵抗溶接によっ
て接合されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記
載の内燃機関用スパークプラグ。 (特許請求の範囲の請求項1,9)

「 0013 】
【 【発明の作用効果】請求項1∼11記載の発明によれば,中
心電極,接地電極の放電部を形成する貴金属チップとして,従来使用され
ていた,IrないしはIrーPt合金に対して,高融点であるIrのメリ
ットを生かしつつ,Irの高温揮発性を防止するために,Ptより更に融
点の高いRh(融点は1960℃)を添加することにより,高温耐熱性に
優れていると同時に,耐消耗性を向上させることができる 。 (段落【00

13 】)
「 0017】‥‥‥(中略)‥‥‥これら中心電極3の先端部3a及び

これに対向する接地電極4の放電部位には,貴金属チップ5,6がレーザ
ー溶接,または抵抗溶接等の接合手段にて接合され,この両者5,6の間
に火花ギャップ7が形成されている。 (段落【0017 】
」 )
「 0024】また,高さBは0 .3mmから2 .5mmの範囲が望ましい 。

すなわち,貴金属チップ5の安定した溶接性を得るためには,高さBとし
て少なくとも0.3mm以上は必要となり,また材料強度から高さBが2.
5mmを越えると,貴金属チップ5の折損等の不具合が発生する傾向にあ
る。‥‥‥」(段落【0024】 。

また,図4には,No.6にチップ材料としてIr−30wt%Rhが
記載されている。
(2) 判断
上記各記載に基づいて判断する。
刊行物2には,刊行物1記載発明と 同様に,接地電極の先端部の放電部
位に貴金属チップをレーザ溶接により接合する技術が開示されている。そ
して,貴金属チップの安定した溶接性を得るためには,貴金属チップの高
さが0.3mm以上必要であることが記載され,またレーザ溶接を行う際
のレーザは,溶接接合する箇所の外側から照射するのが技術常識であるか
ら,貴金属チップを中心電極に接合する場合には,貴金属チップと中心電
極の先端部の外周からレーザ照射が行われるものと解される 。そうすると ,
このレーザ溶接によって 貴金属チップと中心電極の先端部との外周部に
は,溶融固着層が生じるものと解される。
ところで,甲6(名古屋大学工学研究科沓名助教授作成の鑑定書)には
「Ⅳ理由 a.設問①について」中の「貴金属チップを中心電極(母材)
に強固に固着するという溶接の使命を果たしながら,母材の希釈率を95
%以上にすること,つまり母材は溶融させるが貴金属チップ材はほとんど
溶融させないで両者を強固に溶接することは,製品を量産しているときの
レーザ溶接作業ではもとより,研究室においても不可能に近く,おそらく
物理的にも不可能に近い。従って,前提条件の場合,通常のレーザ溶接を
行う限り,必然的に1wt%以上のロジウム含有率とならざるを得ない 。」
(甲6の本文2頁17行∼22行)と記載され,同記載は技術常識である
というべきであるから,刊行物2に記載されている「チップ材料としてI
r−30wt%Rh」を使用した場合,溶融固着層の貴金属の含有率は,
1重量%以上になるものと解するのが自然である。
したがって,審決の認定に誤りはない。
刊行物2の溶融固着層を当業者が想定することは到底できないとする原
告の主張は,採用できない。
4 付言(無効審判請求事件の係属について)
念のため,無効審判請求事件の係属に関して,当裁判所の見解を述べる。
前記(第2の1)のとおり,被告は,平成17年2月2日,本件特許の請求
項1ないし6に係る発明について,無効2005−80036号事件(進歩性
欠如等に係る無効理由)及び無効2005−80037号事件(法36条4項
の要件欠如に係る無効理由)の2つの特許無効審判を請求した。
これに対して,特許庁は,各審判請求を併合審理した上,平成18年2月2
0日に審決をした。その審決書を見ると ,「第5 無効理由についての判断」
欄において,①無効2005−80036号事件について,本件発明1ないし
4,6には,進歩性欠如の無効理由が存在するが,本件発明5には進歩性欠如
の無効理由は存在しない等の判断を示し,②無効2005−80037号事件
について,本件発明1ないし6には,同法36条4項の要件を充足しないとの
無効理由は存在しないとの判断が示されているものの, 結論 」欄においては,

「特許第2921524号の請求項1ないし4,6に係る発明についての特許
を無効とする。特許第2921524号の請求項5に係る発明についての審判
請求は,成り立たない。」との記載がされただけである。
以上の手続の経緯及び審決書の内容を総合して判断すると,本件無効審判事
件の中,無効2005−80036号事件部分 進歩性欠如等に係る無効理由 )

は,原告から取消訴訟が提起されたことによって ,当庁に係属するに至ったが ,
無効2005−80037号事件部分(法36条4項の要件欠如に係る無効理
由)は,未だ,審決がされておらず,依然として特許庁に係属していると解す
るのが相当である。
けだし,本件においては,審決書の結論である「特許第2921524号の
請求項1ないし4,6に係る発明についての特許を無効とする。特許第292
1524号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない 。」に
ついて,無効2005−80036号及び無効2005−80037号事件の
両事件に対するものと理解することは,審決の理由の内容に照らして採用の余
地はない 。また ,無効2005−80037号事件につき, 無効審判不成立 」

との黙示的な審決がされたと理解することも,法的関係を不安定にすること,
及び被告(請求人)の不服申立ての機会を奪うこと等の理由から,到底採用の
限りでない。
したがって,本件審決書の「結論」は,無効2005−80036号事件の
みに対するものと理解するのが相当である。すなわち,本件は審決の脱漏と解
すべき筋合いといえる(民事訴訟法258条参照 )。この場合,脱漏審決に対
して,そのことを理由として,取消訴訟を提起することができないことはいう
までもない。
被告の請求した無効審判事件(無効2005−80037号事件)は,依然
として,特許庁に係属していることになるから,追加審決又は無効審判請求の
取下げなどによって,審判係属を終了させることを要する。
5 結語
以上のとおり,審決が本件発明1につき特許法29条2項に違反して特許さ
れたとした判断が誤りであるとする原告の取消事由はいずれも理由がない。し
たがって,本件発明1についての審決の判断が誤りであることを前提として,
本件発明2ないし4,6についての審決の判断が誤りであるとする原告の主張
も,理由がない。また,審決に,その他,これを取り消すべき誤りは見当たら
ない。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 三 村 量 一
裁判官 上 田 洋 幸

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