平成18(行ケ)10491審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成19年10月17日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官肥塚雅博 原告コーニンクレッカフィリップス
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対象物 |
口金付高圧放電ランプ |
法令 |
特許権
特許法29条2項1回
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キーワード |
刊行物115回 審決53回 実施5回 分割2回 優先権1回 拒絶査定不服審判1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成5年5月10日(優先権主張:1992年5月11日,オラン
ダ王国 に出願された特願平5−108507号 以下 原出願 という の) ( 「 」 。)
一部を分割して,平成12年3月15日に新たな特許出願とされた特願200
0−72775号の一部を更に分割して,平成16年1月23日に,発明の名
称を「口金付高圧放電ランプ」とする新たな特許出願(特願2004−163
10号,以下「本願」という)をした。 |
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判決文
平成19年10月17日判決言渡
平成18年(行ケ)第10491号 審決取消請求事件
平成19年9月10日口頭弁論終結
判 決
原 告 コーニンクレッカ フィリップス
エレクトロニクス エヌ ヴィ
訴訟代理人弁理士 津 軽 進
同 宮 崎 昭 彦
同 笛 田 秀 仙
被 告 特許庁長官 肥 塚 雅 博
指 定 代 理 人 山 口 敦 司
同 高 木 彰
同 大 場 義 則
同 二 宮 千 久
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2005−16126号事件について平成18年6月19日に
した審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成5年5月10日(優先権主張:1992年5月11日,オラン
ダ王国)に出願された特願平5−108507号(以下「原出願」という。 の
)
一部を分割して,平成12年3月15日に新たな特許出願とされた特願200
0−72775号の一部を更に分割して,平成16年1月23日に,発明の名
称を「口金付高圧放電ランプ」とする新たな特許出願(特願2004−163
10号,以下「本願」という)をした。
その後,原告は,平成17年5月26日発送の拒絶査定を受けたので,同年
8月24日,拒絶査定不服審判を請求し,同年9月22日,本願に係る明細書
(特許請求の範囲を含む。 を補正する手続補正をした(以下 ,この補正後の本
)
願に係る明細書及び図面を「本願明細書」という。 。
)
特許庁は,上記審判請求を不服2005−16126号事件として審理した
上,平成18年6月19日 , 本件審判の請求は ,成り立たない。 との審決(附
「 」
加期間90日,以下「審決 」という。 をし ,同年6月29日 ,その謄本を原告
)
に送達した。
2 特許請求の範囲
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は ,次のとおりである 以下 ,
(
この発明を「本願発明」という 。 。
)
「 請求項1】
【
イオン化可能な充填剤が収容され気密に封じられたランプ容器を有する光
源であって,
前記ランプ容器は,それぞれ封じ部を具え互いに対向している第1及び第
2頸状部を有し,第1及び第2電流供給導体がそれぞれ前記封じ部を貫通し
て前記ランプ容器内に配置された一対の電極まで延在している当該光源と,
絶縁材料の口金であって,前記第1電流供給導体に接続された第1接点部
材と,第2接点部材とを有する当該口金と,
前記ランプ容器の側方に沿って前記口金まで延在し,前記第2電流供給導
体及び第2接点部材に接続されている接続導体と,
空気が充填されたほぼ同心的な管状外側エンベロープと,
を有している口金付高圧放電ランプにおいて,
前記接続導体が前記外側エンベロープの外側に延在し,この外側エンベロ
ープはガラスより成っており,この外側エンベロープは,ほぼ円筒状である
とともに小径部分を有し,前記ランプ容器の放電空間の領域と前記外側エン
ベロープとの最小隙間が1.5mm以下であり,前記外側エンベロープがそ
のそれぞれの小径部分により前記ランプ容器の双方の頸状部に結合され,前
記ランプ容器がその第1頸状部及び/又は前記外側エンベロープを以て前記
口金に固着され,前記外側エンベロープは気密とならないように前記ランプ
容器に結合されていることを特徴とする口金付高圧放電ランプ。」
3 審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は原出願の優先日前に
頒布された刊行物である実願平2−12780号 実開平3−104949号 )
(
のマイクロフィルム(以下「刊行物1 」という 。甲1 ) 欧州特許出願公開46
,
5083号明細書(以下「刊行物2」という。甲2の1)及び特開平1−29
2740号公報(以下「刊行物3 」という。甲3 )に記載された各発明(以下 ,
刊行物の番号に対応して ,「刊行物1発明」などという。)並びに周知事項に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項
の規定により特許を受けることができない,というものである 。 なお ,
( 審決は ,
刊行物2の翻訳文として,特開平4−229942号公報(甲2の2)を採用
しているところ,本訴において,訳文としての正確性は争われていない 。)
審決は上記判断をするに当たり,刊行物1発明の内容及び本願発明と刊行物
1発明との一致点・相違点を次のとおり認定した。
(刊行物1発明)
「始動用希ガス,水銀及び金属ハロゲン化物が封入され放電空間を形成す
る密閉ガラス球13,前記密閉ガラス球13の両端部に形成されたピンチ部
14,14,前記放電空間内に対向配置された放電電極15,15,前記放
電電極15,15に接続されピンチ部14,14に封着されたモリブデン箔
16,16,モリブデン箔16,16に接続されピンチ部14,14の端部
から導出するリード線18,18からなる放電ランプ12と,
裏側から突出する長短一対のリードサポート(22,24または22,2
3)が設けられた絶縁性ベース20であって,短い方のリードサポート(2
4,23)は前記放電ランプ後端側のリード線18に接続され,長い方のリ
ードサポート(22)は放電ランプ後端側のリード線18が接続されるとと
もに放電管12の側方に沿ってベース20まで延在している絶縁性ベース2
0と,
前記放電ランプ12を取り囲む紫外線遮蔽用のグローブ(30Hまたは3
0I)と,
を有している放電ランプ装置において,
前記長い方のリードサポート(22)は,前記グローブ(30Hまたは3
0I)の外側に配置され,前記グローブ(30Hまたは30I)は,ガラス
材からなり,前端部が球面で,後端部が開口した円筒形状とされ,前記ベー
ス20およびグローブ前端部に設けたリード線挿通用小孔21,36等を介
してグローブ内の空気は外気と連通し ,前記グローブ 30Hまたは30I )
(
は気密状態にはなく,前記グローブ(30Hまたは30I)は,前記ベース
20に固定されている放電ランプ装置 。」
(一致点)
「イオン化可能な充填剤が収容され気密に封じられたランプ容器を有する
光源であって,前記ランプ容器は,それぞれ封じ部を具え互いに対向してい
る第1及び第2頸状部を有し,第1及び第2電流供給導体が前記ランプ容器
内に配置された一対の電極に接続されている当該光源と,
絶縁材料の口金であって,前記第1電流供給導体に接続された第1接点部
材と,第2接点部材とを有する当該口金と,
前記ランプ容器の側方に沿って前記口金まで延在し,前記第2電流供給導
体及び第2接点部材に接続されている接続導体と,
空気が充填されたほぼ同心的な管状外側エンベロープと
を有している口金付高圧放電ランプにおいて,
前記接続導体が前記外側エンベロープの外側に延在し,この外側エンベロ
ープはガラスより成っており ,この外側エンベロープは ,ほぼ円筒状であり ,
前記ランプ容器が前記外側エンベロープを以て前記口金に固着され,前記
エンベロープは気密とならないようにされていることを特徴とする口金付高
圧放電ランプ 。」である点。
(相違点a)
「第1及び第2電流供給導体」について,本願発明では , それぞれ封じ部
「
を貫通して電極まで延在している」としているのに対して,刊行物1発明で
は,リード線(電流供給導体)は,モリブデン箔を介して放電電極に接続さ
れている点。
(相違点b)
「外側エンベロープ 」について ,本願発明では , 小径部分を有し,ランプ
「
容器の放電空間の領域と外側エンベロープとの最小隙間が1.5mm以下で
あり,外側エンベロープがそのそれぞれの小径部分によりランプ容器の双方
の頸状部に結合されている」としているのに対し,刊行物1発明では,その
ようにはされていない点。
第3 取消事由に係る原告の主張
審決は,本願発明と刊行物1発明との相違点を看過した違法(取消事由1)
及び相違点bの判断を誤った違法(取消事由2)があるから,取り消されるべ
きである。なお,審決における相違点aの認定及び判断は認める。
1 取消事由1(相違点の看過)
審決は,本願発明と刊行物1発明との一致点の一部として, 前記ランプ容器
「
が前記外側エンベロープを以て前記口金に固着され,前記エンベロープは気密
とならないようにされていることを特徴とする口金付高圧放電ランプ」 審決書
(
11頁30行∼32行)であることを認定した。
しかし,以下のとおり,審決の上記認定は誤りであり,この誤りは審決の結
論に影響する。
(1)ア 刊行物1では ,どの実施例においても ,ランプ容器が外側エンベロープ
を以て口金に固着されていない。刊行物1の第1図,第4図,第7図,第
10図,第13図,第18図,第21図及び第23図に記載された放電ラ
ンプ装置(口金付高圧放電ランプ)において,グローブ30A∼I(外側
エンベロープ)は,ベース20(口金)に固着されているが,放電ランプ
12(ランプ容器)は,リード線18を以て,グローブ30A∼I(外側
エンベロープ)とは別個に,ベース20(口金)に固着されている。すな
わち,ベース20に近い放電ランプ12のピンチ部14は,リード線18
及びリードサポート24を以て当該ベース20に固着されており,また,
ベース20から離れた側の放電ランプ12のピンチ部14は,リード線1
8及びリードサポート22を以て当該ベース20に固着されている。第2
1図及び第23図においても,リード線18はグローブ30H,Iの小孔
36を貫通しているだけで,放電ランプ12(ランプ容器)がグローブ3
0H,Iを以てベース20に固着されているわけではない。その他,刊行
物1に,ランプ容器が外側エンベロープを以て口金に固着されていること
を示す記載はない。
このように,刊行物1発明では,ランプ容器は外側エンベロープを以て
口金に固着されていないから, 前記ランプ容器が前記外側エンベロープを
「
以て前記口金に固着され,前記エンベロープは気密とならないようにされ
ていることを特徴とする口金付高圧放電ランプ」であることを,本願発明
と刊行物1発明との一致点とすることはできない。
したがって,審決は ,本願発明では , ランプ容器がその第1頸状部及び
「
/又は前記外側エンベロープを以て口金に固着され」ているのに対し,刊
行物1発明では,そのようにされていないという相違点を看過したもので
ある。
イ 刊行物2,3も,刊行物1と同様に,いずれもランプ容器が,ランプ容
器から導出するリード線を以って口金に固着されているにすぎない。すな
わち,刊行物2では,管状囲み部20が内側エンベロープ12の管状部1
6,18に設けられた円盤状膨出部30,32に気密に結合され,管状囲
み部と内側エンベロープとがユニットを構成しているが,内側エンベロー
プ12の管状部分16,18から導出するリード線48,50及び支持ワ
イヤ134 ,136を以って反射器112に接続されている 図1 ,
( 図7 )。
また,刊行物3では,シュラウド部材48が内部エンベロープ46の首部
に結合され,シュラウド部材と内部エンベロープとがユニットを構成して
いるが,内部エンベロープ46の首部から導出するリード線38,40及
び比較的重いリード線34 ,36を以って反射板12に接続されている 図
(
1,図2及び図3)。
そうすると,刊行物1発明に,刊行物2及び3記載の技術事項を適用し
たとしても,外側エンベロープがそのそれぞれの小径部分によりランプ容
器の双方の頸状部に結合され,ランプ容器及び外側エンベロープが極めて
頑丈なユニットを構成した状態で,ランプ容器が外側エンベロープを以て
口金に固着される構成を備える口金付高圧放電ランプを得ることはできな
い。これでは,耐衝撃性及び耐振動性が劣ってしまう。
ウ 審決は,前記アで指摘した本願発明と刊行物1発明との相違点について
判断していない。
また,前記イのとおり,刊行物2,3も,ランプ容器がランプ容器から
導出するリード線を以って口金に固着されていることを記載するにとどま
り,ランプ容器が外側エンベロープを以て口金に固着されていることを開
示・示唆するものではない。
したがって,審決における上記相違点の看過が,審決の結論に影響する
ことは明らかである。
(2)ア 被告は,本願発明と刊行物1発明とは,「外側エンベロープが口金に固
着されている」との点で一致するが , ランプ容器と外側エンベロープとを
「
結合する」との点は刊行物1には記載されていないから,この点は一致点
から除外すべきであったとしながら,審決は,相違点bにおいて,上記の
点を相違点として採り上げ,これについて判断しているから,審決の結論
に影響しない旨主張する。
しかし,以下のとおり,被告の主張は失当である。
そもそも,本願発明の「前記ランプ容器が……前記外側エンベロープを
以て前記口金に固着され」という構成は, 外側エンベロープが口金に固着
「
されている 」との点と , ランプ容器と外側エンベロープとを結合する」と
「
の点に,分けられるものではない。ランプ容器と外側エンベロープとが結
合されているからこそ,ランプ容器が外側エンベロープを以て口金に固着
されているということができるからである。
また ,審決は, ランプ容器と外側エンベロープとを結合する 」との点に
「
関しては,相違点bにおいて,本願発明の「前記外側エンベロープがその
それぞれの小径部分により前記ランプ容器の双方の頸状部に結合され」と
の構成を検討したにとどまり,刊行物1発明の「外側エンベロープが口金
に固着される」との点と,刊行物2発明の「ランプ容器と外側エンベロー
プとを結合する」との点の組合せの容易想到性の判断をしていない。した
がって,この点からも ,本願発明において , 外側エンベロープが口金に固
「
着されている」との点と, ランプ容器と外側エンベロープとを結合する 」
「
との点とを,切り離して把握することは許されない。
イ 被告は,普通に行われている技術事項を示すものとして,特開平1−1
00845号公報 乙1 )
( 及び欧州特許出願公開478058号明細書 乙
(
2の1。その訳文として,特開平4−233123号公報〔乙2の2〕を
用いる。 を挙げ,これらに基づき,刊行物1発明に刊行物2記載の技術事
)
項を適用することに困難性がない旨主張する。
しかし,乙1,2の1に示される事項のみをもって,普通に行われてい
る技術事項とはいえない。また,乙1,2の1には,本願発明の「外側エ
ンベロープ」に相当する構成の記載がなく,ランプ容器が外側エンベロー
プを以って口金に固着されている事項を開示していない。したがって,刊
行物1発明の「外側エンベロープが口金に固着される」点と,刊行物2発
明の「ランプ容器と外側エンベロープとを結合する」点との組合せの容易
想到性を判断するに当たり,乙1,2の1は参酌されるべきではない。
なお ,刊行物1発明において , グローブ 」 外側エンベロープ」 が, ベ
「 (「 ) 「
ース 」「口金 」 に固定されるのは , グローブ 」が, 放電ランプ 」「ラン
( ) 「 「 (
プ容器」)を覆い ,「放電ランプ」から出る紫外線を遮蔽するためである。
一方,刊行物2発明において,ランプ容器と外側エンベロープとが結合さ
れているのは,外側エンベロープを気密にするためである。このように,
刊行物1発明及び刊行物2発明は,いずれも,本願発明のように耐衝撃性
及び耐振動性に優れたランプを得ることを目的とするものではないから,
刊行物1発明の「外側エンベロープが口金に固着される」との点と,刊行
物2発明の「ランプ容器と外側エンベロープとを結合する」との点とを組
み合わせることが,容易とはいえない。
2 取消事由2(相違点bの判断の誤り)
審決は,相違点bについて, 刊行物2記載のランプにおいて ,気密にしない
「
ためには ,本願発明の『外側エンベロープ 』に相当する『管状囲み部 』と, ラ
『
ンプ容器』に相当する『内側エンベロープ』との結合を気密にしないようにす
ればよいから,刊行物1記載の発明に刊行物2に記載された技術事項を適用す
ることに妨げとなるものはない 。(審決書14頁1行∼6行)とした上 , 当業
」 「
者であれば,刊行物1記載の発明に,刊行物2及び3に記載された発明並びに
周知事項を適用して,相違点bに係る構成とする点に格別な創意を要するもの
とは認められない。 (審決書14頁31行∼33行)と判断した。
」
しかし,以下のとおり,審決の上記判断は誤りである。
刊行物2発明において ,「管状囲み部 」「外側エンベロープ」
( )と「内側エン
ベロープ 」「ランプ容器」
( )とを結合するのは,「密閉部」を形成するためであ
る。そして ,刊行物2発明では , 管状囲み部」をへこませることによって , 密
「 「
閉部」を形成するが,審決は,この「へこみ」が本願発明の「小径部分」に相
当する旨認定している。つまり,刊行物2発明では ,「密閉部」を形成し ,「気
密」になるようにへこませるのであるから,この技術を,エンベロープが「気
密」とならないようにすることを特徴とする刊行物1発明に適用することはで
きない。
また ,刊行物2は , 密閉部」を形成すること以外には , 管状囲み部」と「内
「 「
側エンベロープ」とを結合する動機付けを示していない(刊行物3も同様であ
る。 。これに対し,刊行物1発明では, 密閉部」を形成しないのであるから ,
) 「
刊行物2記載の技術事項を適用する動機付けはない。
第4 取消事由に係る被告の反論
審決の認定判断には,審決の結論に影響する誤りはなく,原告主張の取消事
由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(相違点の看過)について
審決の一致点の認定には,原告が指摘するように一部に誤りがあるが,以下
のとおり,この点は相違点の認定及び判断を左右する事項ではなく,審決の結
論に影響を及ぼすものではない。
(1) 本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の 前記ランプ容器がその第1頸
「
状部及び/又は前記外側エンベロープを以て前記口金に固着され」との記載
によれば,本願発明におけるランプ容器が口金に固着される態様には,ラン
プ容器の第1頸状部は口金に固着されないが,ランプ容器と外側エンベロー
プが結合され,外側エンベロープが口金に固着されることにより,ランプ容
器が口金に固着される態様が含まれる。
審決は,上記態様を念頭に置きつつ,本願発明と刊行物1発明との対比を
したものである。そして,審決は,刊行物1発明について,本願発明の「外
側エンベロープ」及び「口金」にそれぞれ相当する「グローブ」及び「ベー
ス」の関係を , 前記グローブ(30Hまたは30I)は ,前記ベース20に
「
固定されている」 審決書10頁2行∼3行)と認定しており ,本願発明と刊
(
行物1発明とは, 外側エンベロープが口金に固着されている 」
「 との点で一致
するということができる。もっとも , ランプ容器と外側エンベロープとを結
「
合する」との点は刊行物1には記載されていないから,確かにこの点は一致
点から除外すべきであったといえる。
しかし,審決は ,「外側エンベロープ」について,本願発明では ,「小径部
分を有し,ランプ容器の放電空間の領域と外側エンベロープとの最小隙間が
1.5mm以下であり,外側エンベロープがそのそれぞれの小径部分により
ランプ容器の双方の頸状部に結合されている」としているのに対し,刊行物
1発明では,そのようにはされていない点を相違点bとして認定した上 , 結
「
局,刊行物2には,上記相違点bに係る『外側エンベロープがそのそれぞれ
の小径部分によりランプ容器の双方の頸状部に結合され』る点の構成が示さ
れ,また,空気の対流によるランプ容器の冷却効果も示されているものと認
められる 。(審決書13頁35行∼38行)などと説示しているから , ラン
」 「
プ容器と外側エンベロープとを結合する」との点を本願発明と刊行物1発明
との相違点として採り上げ,その容易想到性について判断している 。そして ,
この判断に誤りがないことは,後記2のとおりである。
(2)ア 原告は,本願発明の「前記ランプ容器が……前記外側エンベロープを以
て前記口金に固着され」という構成は , 外側エンベロープが口金に固着さ
「
れている」との点と「ランプ容器と外側エンベロープとを結合する」との
点に分けられるものではない旨主張するが , 口金 」「外側エンベロープ 」
「 ,
及び「ランプ容器」の間の関係について,切り離して把握することが許さ
れないとする特段の事情はない。
イ 一般に,ランプ容器を口金に固着するに当たり,ランプ容器自体を口金
に固着する等,リード線を介することなく行うことは,普通に行われてい
た技術事項である(乙1 ,2) したがって ,刊行物1発明に,刊行物2記
。
載の技術事項を適用し,リード線を介することなくランプ容器を口金に固
着する構成として,ランプ容器が外側エンベロープを以て口金に固着され
るようにすることに,何ら困難性はない。
2 取消事由2(相違点bの判断の誤り)について
原告は,刊行物2記載の技術事項を刊行物1発明に適用することはできず,
適用する動機付けもない旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。
刊行物2には,本願発明の「外側エンベロープ」に相当する「管状囲み部」
に空気を充填すること,その空気の充填圧力として大気圧(760トル)が選
択され得ることが記載されている(甲2の2の段落【0013 】【0014】
, ,
【0036】 【0046】 。
, )
また,刊行物1には,放電ランプ装置の組立を大気中で行い,不活性ガスの
封入や真空状態とするための設備を不要とする点,本願発明の「外側エンベロ
ープ 」に相当する「グローブ」の内部は大気と連通し, 気密 」状態とはなって
「
いない点が示唆されている。なお,本願明細書の段落【0002】及び【00
03】の記載によれば,外側エンベロープの内部を大気と連通させることは,
原告も既知の技術として認識していたものである。
このように,外側エンベロープの内部を大気と連通させることは既知の事項
であり,刊行物2において,外側エンベロ−プ内に充填される空気を大気圧と
なし得ることに照らせば,刊行物2記載の技術事項を刊行物1発明に適用する
ことを妨げる事情はなく,むしろこれらを組み合わせるための動機付けが存在
する。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について
(1) 本願明細書の記載
ア まず,本願発明の「ランプ容器がその第1頸状部及び/又は前記外側エ
ンベロープを以て口金に固着され」との構成の意義について検討するに,
本願明細書(甲5)には,次の記載がある。
「 0019 】がたがたする異常音を防止するためには ,口金と外側エン
【
ベロープとが,又第2電流供給導体と外側エンベロープとが適切に共働す
るようにするのが好ましい。……」
「 0020】
【 ……好適な例では,本発明による口金付高圧放電ランプが ,
ランプ容器の頸状部に結合させた小径部分を有する外側エンベロープを具
えるようにする。本例のランプの製造に当っては,ほぼ円筒状のガラス管
をランプ容器にかぶせ,このガラス管の一部分を加熱してこの一部分を軟
化させる。次に,この軟化部分をつぶし,すなわち工具により,頸状部の
方向に押圧し,小径部分を形成する。このようにしてランプ容器との機械
的な結合を達成する。……」
「 0021】例えば,外側エンベロープを,第1頸状部の,一端が開放
【
したほぼ円筒状の部分に押圧してつぶすことにより,外側エンベロープを
第1頸状部に結合するのが好ましい。この場合,口金は,ランプ容器を固
着させるために外側エンベロープを,又はランプ容器を,又はこれらの双
方を押圧するようにしうる。機械的には,口金が頸状部よりも大きな直径
を持つ外側エンベロープを押圧するようにするのが好ましい。或いはまた ,
小径部分が外側エンベロープを,第2頸状部に,例えばその一端が開放し
たほぼ円筒状の部分に結合させるようにすることができる。この場合,例
えば前記の第1の例のように外側エンベロープを口金によって支持するこ
ともできる 。」
「 0037 】
【 図3の本発明放電ランプの例においても前述した例に対応
する部分に同じ符号を付した。本例の場合,ほぼ円筒形の外側エンベロー
プ50がその小径部分52,51によりランプ容器1′の頸状部2,3に
それぞれ結合されている。これらの小径部分52,51はわずかな距離で
頸状部2,3に橋絡するようにする必要がある。図3では,外側エンベロ
ープ50が小径部分52より第1頸状部2の,一端が開放したほぼ円筒状
の管状部2′に直接結合されているばかりではなく,小径部分51により
第2頸状部3に直接結合されている。第1頸状部2には封じ部10が存在
する。第2頸状部は同様な封じ部によりほぼ完全に占められており,小さ
な管状部3′のみを有する。第1頸状部2は封じ部10に続いて,一端が
開放したほぼ円筒状の管状部を有し,この管状部上に金属套管53が固着
され,この金属套管上で口金に対する固着を達成しうる。しかし,この套
管を他の寸法とした場合には,外側エンベロープ50の周りを,或いは小
径部分52を越えて延在させるこの外側エンベロープの管状延長部の周り
をこの套管が把持するようにすることができる。……」
イ 本願明細書の上記アの各記載によれば,本願発明の「ランプ容器がその
第1頸状部及び/又は前記外側エンベロープを以て口金に固着され」との
構成は,ランプ容器を口金に「がたがたする異常音」を発生させることな
く頑丈に支持し,耐衝撃性及び耐振動性を高めることを目的とするものと
解される。
そして,本願発明におけるランプ容器を口金に固着する態様としては,
請求項1の「ランプ容器がその第1頸状部及び/又は前記外側エンベロー
プを以て口金に固着され」との記載から,次の3つの態様があることが認
められる。
① ランプ容器がその第1頸状部を以て口金に固着される態様 。すなわち ,
外側エンベロープは口金に固着されず,ランプ容器の第1頸状部のみが
口金に固着される態様(以下「態様①」という。 。
)
② ランプ容器がその第1頸状部及び外側エンベロープを以て口金に固着
される態様。すなわち,ランプ容器の第1頸状部が口金に固着されると
ともに,ランプ容器と外側エンベロープが結合されているため,外側エ
ンベロープが口金に固着されることにより,ランプ容器が口金に固着さ
れる態様(以下「態様②」という 。 。
)
③ ランプ容器が外側エンベロープを以て口金に固着される態様。すなわ
ち,ランプ容器の第1頸状部は口金に固着されないが,ランプ容器と外
側エンベロープが結合され,外側エンベロープが口金に固着されること
により,ランプ容器が口金に固着される態様(以下「態様③」という。 。
)
態様①ないし③は ,いずれもランプ容器を口金に がたがたする異常音 」
「
を発生させることなく頑丈に支持し,耐衝撃性及び耐振動性を高めること
ができる手段であると解され,また , ランプ容器」「 外側エンベロープ」
「 ,
及び「口金 」からなる部材によって, ランプ容器」を「口金 」に支持する
「
組合せは,態様①ないし③以外にはない。
(2) 一致点の認定について
ア 審決は,本願発明と刊行物1発明との一致点において, 前記ランプ容器
「
が前記外側エンベロープを以て前記口金に固着され」との点を認定してい
るから,本願発明の態様③について,刊行物1発明と対比したものと解さ
れる。
イ 刊行物1(甲1)の記載及び弁論の全趣旨によれば,刊行物1発明にお
いて , 前記グローブ(30Hまたは30I )は ,前記ベース20に固定さ
「
れている」 審決書10頁2行∼3行 )と認められ,また ,刊行物1発明の
(
「グローブ 」及び「ベース」は,本願発明の「外側エンベロープ」及び「口
金」にそれぞれ相当すると認められるから ,本願発明と刊行物1発明とは ,
「外側エンベロープが口金に固着されている」との点で一致するというこ
とができる 。しかし, ランプ容器と外側エンベロープとを結合する 」との
「
点は,刊行物1には記載されているとは認められない。
したがって,審決が, 前記ランプ容器が前記外側エンベロープを以て前
「
記口金に固着され」との点を一致点として認定したことは,本願発明では
「ランプ容器と外側エンベロープとを結合する」とされているのに対し,
刊行物1発明はそのようにされていないとの相違点を踏まえたものでない
との限りで,誤りといわざるを得ない。
(3) 一致点認定の誤りの審決の結論への影響の有無
被告は,本願発明では「ランプ容器と外側エンベロープとを結合する」と
されているのに対し,刊行物1発明はそのようにされていないとの相違点を
認めた上で,審決は,相違点bの認定及び判断において,上記相違点を採り
上げ,その容易想到性について判断しているから,審決における一致点認定
の誤りは,審決の結論に影響しない旨主張する。
検討するに,審決は,前記第2,3のとおり,相違点bを認定しているか
ら,審決が,本願発明では, 外側エンベロープ」が「小径部分を有し ,……
「
外側エンベロープがそのそれぞれの小径部分によりランプ容器の双方の頸状
部に結合されている」のに対し,刊行物1発明ではそのようにはされていな
い点を,両発明の相違点として認定し,この相違点について容易想到性の判
断をしていることは明らかである。
そうすると,審決は,本願発明では「ランプ容器と外側エンベロープとを
結合する」とされているのに対し,刊行物1発明はそのようにされていない
との点について,相違点として採り上げた上,その容易想到性を判断してい
るということができる。
したがって,審決は,本願発明と刊行物1発明の相違点を看過したものと
はいえず,一致点の認定に前記の誤りがあることは,審決の結論に影響しな
いというべきである(なお,審決における相違点bの判断に誤りがないこと
は,後記2のとおりである。 。
)
(4) 原告の主張に対し
原告は,本願発明において , 外側エンベロープが口金に固着されている 」
「
との点と , ランプ容器と外側エンベロープとを結合する」との点とを ,切り
「
離して把握することは許されない旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
前記(1)のとおり,本願発明の ランプ容器がその第1頸状部及び/又は前
「
記外側エンベロープを以て口金に固着され」との構成は , ランプ容器」「外
「 ,
側エンベロープ」及び「口金 」からなる部材によって , ランプ容器」を「口
「
金」に, がたがたする異常音 」を発生させることなく頑丈に支持し,耐衝撃
「
性及び耐振動性を高めることができる手段を規定したものであり , 口金 」
「 と
「ランプ容器」の関係を第1頸状部及び/又は外側エンベロープを介しての
結合関係をもって特定しているものであるから,このような結合関係を発明
の特定事項とする本願発明の容易想到性の判断に際し,各部材の結合関係に
ついて検討すべきことは当然である。
そして,刊行物2には,後記2において検討するとおり,本願発明の「ラ
ンプ容器」及び「外側エンベロープ」にそれぞれ相当する「内側エンベロー
プ」及び「管状囲み部」との結合に関する発明が開示されている。また,ラ
ンプ容器を口金に固着するに当たり,ランプ容器自体を口金に固着する等,
リード線を介することなく行うことも,原出願の優先日前から知られていた
ところである(乙1 ,2の1 ) したがって ,口金付高圧放電ランプの技術分
。
野においては ,原出願の優先日当時 , 口金 」「外側エンベロープ 」及び「ラ
「 ,
ンプ容器」の間の結合関係について,さまざまな工夫がなされていたという
ことができ,上記各部材間の結合関係について三つの部材が一連の結合関係
をもったものでなければならないという特段の理由はなく,二つの部材間の
結合関係を切り離して把握することが誤りということはできない。
その他,原告の主張は前記説示したところに照らし,採用することができ
ない。
(5) 小括
以上検討したところによれば,審決は,本願発明と刊行物1発明の相違点
を看過したものとはいえず,一致点の認定に誤りがあることは,審決の結論
に影響しない。原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点bの判断の誤り)について
原告は,刊行物2記載の技術を刊行物1発明に適用することはできないし,
適用する動機付けもないと主張する。
(1) 刊行物2について
原告は,刊行物2発明では ,「密閉部」を形成し ,「気密になるようにへこ
ませるのであり,「密閉部」を形成すること以外には,「管状囲み部」と「内
側エンベロープ」とを結合する動機付けを示していない旨主張する 。そこで,
まず,刊行物2の記載について検討する。
ア 刊行物2の訳文であることに争いのない甲2の2によれば,刊行物2に
は次の記載がある(なお,以下に摘示する段落番号等は,甲2の2のもの
である。 。
)
(ア) 「本発明は,内側エンベロープおよび該内側エンベロープに両端で
接合されて内側エンベロープを間をおいて取り囲む囲み部を有する放電
型ランプに関する。また,本発明は,このようなランプの製造方法,特
に前記囲み部をエンベロープに接合する方法に関する。 ( 0001 】
」【 )
(イ) 「囲み部および真空チャンバまたはガスチャンバから所望の結果を
達成する機能は囲み部と内側エンベロープとの間に形成される接合部ま
たは密閉部の特性に実質的に依存している。……(Ⅱ)囲み部が拡大さ
れた中心領域よりも大きな内径を有する石英管で形成され,この管が内
側エンベロープの管状部上に単に収縮して2つの密閉部を形成するもの
であると仮定すると,各密閉部は前記管状部のかなりの長手部を取り囲
む石英からなる非常に厚い領域で構成される。このような密閉部を形成
するには,比較的多量の熱を比較的長時間加え,それから比較的長時間
冷却することを必要とし,この結果この領域の熱的特性は密閉部の形成
処理におけるわずかな変動によってかなり変化しやすくなる。熱特性に
おけるこれらの変化はランプの性能に悪い影響を与える。……」【00
(
03 】)
(ウ) 「本発明の目的は,内側エンベロープと周囲の囲み部との間の高品
質な密閉部を非常にわずかな熱で迅速に形成できる汎用型の放電ランプ
を提供することにある。他の目的は,ランプの全体の長さを実質的に増
大することなく内側エンベロープと囲み部との密閉部が箔密閉部から離
隔して設けられているような汎用型のランプを構成することにある。他
の目的は,内側エンベロープと囲み部との密閉部の領域におけるランプ
の熱特性が密閉部を形成する過程におけるわずかな変動によって比較的
影響を受けないように内側エンベロープと囲み部との密閉部が形成され
る汎用型の放電ランプを提供することにある。更に他の目的は,メタル
ハライド放電ランプのガラス質の内側エンベロープとガラス質材料から
なる囲み部との間に真空密閉部またはガスが漏れない密閉部を形成する
改良された方法を提供することにある。他の目的は,この種の囲み部と
内側エンベロープとの密閉部を形成するために該密閉部を迅速かつ非常
にわずかな熱で形成することができる改良された方法を提供することに
ある。更に他の目的は,囲み部と内側エンベロープとの密閉部がランプ
の他の密閉部,例えばランプの同じ端部における箔密閉部から比較的離
隔して設けられる方法によって囲み部と内側エンベロープとの密閉部を
形成することにある。他の目的は,自動化装置で容易に製造しやすい汎
用型のランプを形成する改良された方法を提供することにある。 【00
」
(
06】∼【0012】)
(エ) 「本発明の一態様においては, Ⅰ)中空の球根状部分および該球根
(
状部分から延びているガラス質材料の2つの管状部分からなる内側エン
ベロープと, Ⅱ)
( 前記球根状部分および管状部分を取り囲むガラス質材
料の管状囲み部とを備えている。内側エンベロープの管状部の各々にお
いては,管状部の局限された領域をその軟化点までまず加熱して,この
軟化した局限領域に圧縮力を加えることによって円盤状膨出部を形成す
る。前記圧縮力は , Ⅰ)
( 前記管状部の長手方向に沿って急激に加えられ ,
(Ⅱ)軟化したガラス質材料を半径方向の外側に押し出して円盤状に形
成するものにする。前記円盤状膨出部が囲み部の所定の部分に整列する
とともに,膨出部の外周部が前記囲み部の所定の部分の内周部にわずか
に間隔をあけて隣接して位置決めされるように内側エンベロープを管状
囲み部の中に入れて,囲み部と内側エンベロープとの間で両円盤状膨出
部の間に密閉されないチャンバを形成する。それから,囲み部の前記所
定の部分の一方を加熱して軟化させて,それからこの囲み部を前記整列
した膨出部の外周部の周りにへこませることによって前記囲み部の所定
の部分の一方の内周部と前記対応する円盤状膨出部の外周部との間に第
1の密閉部を形成する。前記囲み部の所定の部分の他方の内周部とこの
内周部に整列した円盤状膨出部の外周部との間に第2の密閉部を形成す
る。 ( 0013】
」【 )
(オ) 「本発明の一実施例においては,上述したチャンバを高真空状態に
する 。他の実施例においては,チャンバに適当なガス充填材を充填する 。
更に他の実施例においては,内側エンベロープの管状部の一方のみに
上述した円盤状膨出部を設け ,他方の管状部から円盤状膨出部を省略し ,
他方の管状部とこの管状部に対応する囲み部の周囲部との間に通常の密
閉部を形成する。 ( 0014】∼【0015 】
」【 )
(カ) 「この囲み部と内側エンベロープの密閉部の重要な特徴は,各密閉
部がエンベロープの同じ端部の箔密閉部から比較的離れていることであ
る。……ランプの各端部の囲み部と内側エンベロープとの密閉部が関連
する円盤状膨出部30または32の半径Rにほぼ等しい距離だけ,ラン
プの同じ端部の箔密閉部から半径方向外側に位置していることに注意さ
れたい。囲み部の密閉部を箔密閉部からこのように離すことは,囲み部
の密閉部を形成する場合に発生する熱によって箔密閉部が悪い影響を受
ける機会を実質的に減らすので有益である。また,2つの密閉部の間が
軸方向よりも半径方向により多く分離しているので,ランプの全体の長
さを実質的に増大することなく2つの密閉部の間をこのように離すこと
ができることにも注意されたい。……この囲み部と内側エンベロープの
密閉部の別の重要な利点は,これらの密閉部が比較的わずかな熱をほん
の短い時間加えることによって形成されることである。この点に関して
は,円盤状膨出部30および32が図5によく示されているように半径
方向外側に延出してほとんど完全に囲み部の管状部の内周面まで延びて
いるので,囲み部の材料を密閉される内側エンベロープの部分に接触す
るように動かすために囲み部をほんのわずかな距離半径方向内側に変位
させることが必要なだけであることに注意されたい。この変位の量は小
さいので,非常にわずかな熱と時間が必要なだけであり,密閉部の近く
のランプ材料が密閉部を形成する処理の熱によって悪影響を受ける機会
はかなり減っている。この加熱処理の低減は上述した離れているという
機能と協力して,箔密閉部が囲み部の密閉処理による悪影響を受けるこ
とを防止している 。 ( 0035】∼【0036】
」【 )
(キ) 「上述したランプにおいては,内側エンベロープと囲み部との間の
チャンバ36が高度の真空状態になるものであるが,本発明のより広い
態様においては,チャンバ36内に適当な特性のガスを含むことを除い
て図1および図6に示すものと実質的に同じ構造のランプを含むもので
あることを理解されたい。例えば,あるランプにおいては,アーク管の
動作によって発生する熱の所定の部分は高度の真空状態が存在するとき
のように主に放射によるよりも伝導または対流によってチャンバ36を
横切って伝達されることが望ましい。この考えを心に留めながら,チャ
ンバ36はアルゴン,クリプトン,キセノン,窒素,空気,ヘリウムお
よび水素のようなガスの1つまたはこれらの混合物を充填することがで
きる 。典型的な充填圧力はゼロないし1500トルの範囲である 。 【0
」
(
046】)
(ク) 「 Ⅰ)
( ガラス質材料の中空の球根状部およびこの球根状部に接合さ
れて球根状部から互いに反対方向に延びているガラス質材料の2つの管
状部を有する内側エンベロープと , Ⅱ)
( 前記球根状部および前記管状部
を取り囲んでいるガラス質材料の管状囲み部とを含む放電ランプを製造
する方法であって:
(a)前記管状部の局限された領域を軟化点まで加熱して,前記軟化
した局限領域に,前記管状部の長手方向に沿って急激に加えられて軟化
したガラス質材料を半径方向外側に押し出して円盤状に形成する圧縮力
を加えることによって,前記管状部の各々に円盤状膨出部を形成し,
(b)前記円盤状膨出部の各々が前記囲み部の所定の部分に整列して
位置決めされるとともに前記膨出部の外周部が前記囲み部の所定の部分
の内周部にわずかに間隔をあけて隣接して位置決めされるように前記内
側エンベロープを前記管状囲み部の中に入れ,これにより前記囲み部と
内側エンベロープとの間で前記両円盤状膨出部の間に密閉されていない
チャンバを形成し,
(c)前記囲み部の所定の部分の一方を加熱して軟化させて,前記囲
み部の所定の部分の一方を対応した前記膨出部の外周部の周りにへこま
せることによって前記囲み部の所定の部分の一方の内周部とこの内周部
に対応する円盤状膨出部の外周部との間に第1の密閉部を形成し,
(d)前記囲み部の所定の部分の他方の内周部とこの内周部に対応す
る円盤状膨出部の外周部との間に第2の密閉部を形成するステップを有
する前記方法 。 ( 請求項1 】
」【 )
(ケ) 「 Ⅰ)
( ガラス質材料の中空の球根状部および該球根状部に接合され
て球根状部から互いに反対方向に延びるガラス質材料の2つの管状部を
有する内側エンベロープと, Ⅱ)
( 前記球根状部および前記管状部を取り
囲むガラス質材料の管状囲み部とを含む放電ランプを製造する方法であ
って,
(a)前記管状部の局限された領域をその軟化点まで加熱して,この
軟化した局限領域に,前記管状部の長手方向に沿って急激に加えられて
軟化したガラス質材料を半径方向外側に押し出して円盤状に形成する圧
縮力を加えることによって,前記管状部の一方に円盤状膨出部を形成し ,
(b)前記円盤状膨出部が前記囲み部の第1の所定の部分に整列して
位置決めされるとともに,前記膨出部の外周部が前記囲み部の第1の所
定の部分の内周部にわずかに間隔をあけて隣接して位置決めされるよう
に前記内側エンベロープを前記管状囲み部の中に入れ,
(c)前記囲み部の第1の所定の部分を加熱して軟化させて,前記の
整列した膨出部の外周部の周りに前記囲み部の第1の所定の部分をへこ
ませることによって前記囲み部の第1の所定の部分の内周部と該内周部
に対応する円盤状膨出部の外周部との間に接合部を形成するステップを
有する前記方法。 ( 請求項7】
」【 )
イ 前記ア(ア)及び(ウ)の記載によれば ,刊行物2には , 内側エンベロープ 」
「
(本願発明の「ランプ容器」に対応する。)とその周囲の「囲み部」(本願
発明の「外側エンベロープ 」に対応する。 との間に ,高品質な「密閉部」
)
を非常にわずかな熱で迅速に形成することが記載されているということが
できる。
しかし,前記ア(イ)の記載によれば,刊行物2には,従来技術に関して
ではあるが , 囲み部」と「内側エンベロープ 」とを「接合 」及び「密閉 」
「
することが併記されているということができ,また,前記ア(ク)及び(ケ)
の各記載によれば,刊行物2には , 囲み部」の所定の部分の一方の内周部
「
とこの内周部に対応する「円盤状膨出部」の外周部との間に第1及び第2
の「密閉部」を形成することが記載されているとともに, 囲み部」の第1
「
の所定の部分の内周部と該内周部に対応する「円盤状膨出部」の外周部と
の間に「接合部」を形成することも記載されているということができる。
そうすると,刊行物2には,「内側エンベロープ」(本願発明の「ランプ
容器」に対応する。)とその周囲の「囲み部 」(本願発明の「外側エンベロ
ープ 」に対応する。 とを「密閉 」して結合することにとどまらず, 接合 」
) 「
して結合することも記載されているということができる。そして, 接合 」
「
は, 気密 」の状態だけを示すものではないと解されるから ,刊行物2に ,
「
「外側エンベロープ」を「気密」にすることだけが記載されているという
ことはできない。
また,刊行物2発明は,前記ア(エ)に記載された構成とすることによっ
て前記ア(カ)に記載されているように,円板状膨出部を形成し , 接合部」
「
及び「密閉部」が箔密閉部と離れた位置とし, 囲み部」の変形をわずかに
「
し,結合のための加熱による熱影響を減らすことができるものと解される
から,刊行物2発明を適用し得る対象は,外側エンベロープを「気密」に
結合するものだけに限定されないというべきである。
さらに,前記ア(オ)の記載によれば,刊行物2には ,実施例として , 内
「
側エンベロープ」と「管状囲み部」との間に形成されたチャンバが,真空
の場合及びガスが充填された場合のほか,チャンバの一部を通常の密閉部
とする場合が記載されており,また,前記ア(キ)の記載によれば,刊行物
2には, 管状囲み部」に空気を充填すること,その空気の充填圧力として
「
大気圧(760トル)を含む広い範囲が選択され得ることが記載されてい
る。したがって,刊行物2には , 気密 」とする必要がない場合についても
「
示唆があるということができる。
ウ 加えて,刊行物1(甲1 )には , 紫外線をカットする技術としては ,特
「
開昭60−138845号(第24図参照)に示されているように,放電
ランプ2の回りに紫外線カット用のガラス管4が配置された構造と,特公
昭62−53904号(第25図参照)に示されるように,放電ランプ2
が紫外線カット用のガラス管6内に密封された構造のものとがある 。 (2
」
頁8行∼14行)との記載があり,これと刊行物2の前記アの記載を併せ
考えると,口金付高圧放電ランプの技術分野において, 外側エンベロープ 」
「
を大気連通にすること(刊行物1の第24図) 「気密」にして真空状態に
,
すること(刊行物1の第25図,刊行物2 ) 「気密」にして不活性ガスを
,
封入すること(刊行物2)は,当業者が必要に応じ適宜採用し得る事項と
認められる。
したがって,刊行物2の記載に接した当業者は,刊行物2発明を外側エ
ンベロープとランプ容器の双方の頸状部との結合構造が, 気密 」
「 な密閉構
造のみにしか適用できないと限定して解することはなく,真空状態の「気
密」な密閉構造にも,不活性ガスが封入された「気密」な密閉構造にも,
大気に連通する接合構造にも適用できるものと理解するというべきであ
る。
(2) 容易想到性について
既に検討したとおり ,刊行物2には , 外側エンベロープ」を「気密 」にす
「
ることだけが記載されているということはできず , 気密 」
「 とする必要がない
場合についても示唆があるのであって,刊行物2発明を適用し得る対象は,
「外側エンベロープ」を「気密」に結合するものだけに限定されるものでは
なく,大気に連通する接合構造にも適用することができると解するのが相当
である。
そうすると , グローブ」を気密状態としない刊行物1発明に,刊行物2記
「
載の技術事項を適用するに際し, 管状囲み部」と「内側エンベロープ 」との
「
結合を「気密」にしないようにして行うことに格別な困難性があるとは認め
られない。
したがって , 当業者であれば ,刊行物1記載の発明に,刊行物2及び3に
「
記載された発明並びに周知事項を適用して,相違点bに係る構成とする点に
格別な創意を要するものとは認められない。 審決書14頁31行∼33行 )
」
(
とした審決の判断は,これを是認することができる。
原告の主張は,上記説示に照らし,採用することができない。
3 結論
上記検討したところによれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,
その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。また,審決に,これを
取り消すべきそのほかの誤りがあるとも認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁 判 長 裁 判 官 三 村 量 一
裁 判 官 嶋 末 和 秀
裁 判 官 上 田 洋 幸
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