平成19(ワ)12863商号使用差止等請求事件
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裁判所 |
一部認容 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成19年9月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告有限会社エーザイ 原告エーザイ株式会社
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法令 |
不正競争
不正競争防止法3条2回 不正競争防止法2条1項2号1回
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キーワード |
差止5回 侵害2回
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主文 |
1 被告は,「有限会社エーザイ」の商号を使用してはならない。
2 被告は,その営業上の施設及び活動並びに商品に「エーザイ」,「E−ZAI」の表示を使用してはならない。
3 被告は,「e−zai.com」のドメイン名を使用してはならない。
4 被告は,別紙登記目録記載の商号「有限会社エーザイ」の抹消登記手続をせよ。
5 原告のその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
7 この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
本件は,自己の商品等表示として「エーザイ」及び「Eisai」の文字
(これらを併せて以下「原告表示」という。)並びに「eisai.co.
jp」のドメイン名(以下「原告ドメイン名」という。)を使用して,企業
活動をしている原告が,「有限会社エーザイ」の商号(以下「被告商号」と
い う。)の被告に対 し,被告は,「 エーザイ」及び「 E−ZAI」の 表示
( 以下「有限会社エ ーザイ」,「エ ーザイ」及び「E −ZAI」を併 せて
「被告表示」という。)を商品等表示として使用するとともに,「e−za
i.com」のドメイン名(以下「被告ドメイン名」という。)を使用して,
営業活動をしていると主張して,不正競争防止法3条,2条1項1号,同項
2号,同項12号に基づき,被告表示等の使用の差止め,及び被告商号の抹
消登記手続等を求めている事案である。 |
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判決文
平成1 9年 9月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成1 9年 (ワ)第12863号 商号使用差止等請求事件
口頭弁 論終 結日 平成19年8月22日
判 決
東 京都 文京区<以下略>
原 告 エ ー ザ イ 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 田 中 克 郎
同 中 村 勝 彦
同 藤 井 基
同 太 田 知 成
同 新 谷 美 保 子
東 京都 足立区<以下略>
被 告 有 限 会 社 エ ー ザ イ
主 文
1 被 告 は , 「 有 限 会 社 エ ー ザ イ 」 の 商 号 を 使 用 し て は な ら な い。
2 被 告 は , そ の 営 業 上 の 施 設 及 び 活 動 並 び に 商 品 に 「 エ ー ザ イ 」,
「E−ZAI」の表示を使用してはならない。
3 被告は,「e−zai.com」のドメイン名を使用してはな
らない。
4 被告は,別紙登記目録記載の商号「有限会社エーザイ」の抹消
登記手続をせよ。
5 原告のその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余
は被告の負担とする。
7 この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することが
できる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 主 文第1項ないし第4項同旨
2 被告は,平成16年7月16日付けで,ベリサインインク(VeriS
ign Inc)にて登録された「e−zai.com」のドメイン名の
登録 抹消申請手続をせよ。
第2 事案 の概要
本件は,自己の商品等表示として「エーザイ」及び「Eisai」の文字
( こ れ ら を 併 せ て 以 下 「 原 告 表 示 」 と い う 。 ) 並 び に 「 e i s a i . c o.
jp」のドメイン名(以下「原告ドメイン名」という。)を使用して,企業
活動をしている原告が,「有限会社エーザイ」の商号(以下「被告商号」と
いう。)の被告に対し,被告は,「エーザイ」及び「E−ZAI」の表示
(以下「有限会社エーザイ」,「エーザイ」及び「E−ZAI」を併せて
「被告表示」という。)を商品等表示として使用するとともに,「e−za
i . c o m 」 の ド メ イ ン 名 ( 以 下 「 被 告 ド メ イ ン 名 」 と い う 。 ) を 使 用 し て,
営業活動をしていると主張して,不正競争防止法3条,2条1項1号,同項
2号,同項12号に基づき,被告表示等の使用の差止め,及び被告商号の抹
消 登記 手続等を求めている事案である。
1 原告 の主張
(1) 原告表示
原告は,昭和16年12月に設立された医薬品の研究開発,製造,販売
及び輸出入等の業務を行う株式会社であり,昭和30年5月21日以降現
在に至るまでの間,自己の営業表示及び商品表示として原告表示を継続し
て使用している。また,原告は,原告の開設するウェブサイトのドメイン
名としても,原告ドメイン名を使用している。
(2) 被告の行為
ア 被告は,平成16年7月20日に,ペットフード,釣餌の販売及び輸
出入並びに医薬品の製造,販売及び輸出入などを目的として設立された
有限会社であり,設立以降,被告商号で,被告表示を商品等表示として
使用して,魚の餌である赤虫等の販売等をしている。
イ また,被告の前代表取締役の甲は,平成16年7月16日,被告ドメ
イン名を使用する権利を取得し,以後,被告は,ドメイン名として被告
ドメイン名を使用したウェブサイト(以下「被告サイト」という。)を
開設している。
(3) 原告表示の著名性,周知性
原告は,市販向け医薬品及び医療用医薬品を多数販売しており,その売
上 高 は , 平 成 1 1 年 以 降 , 年 間 3 0 0 0 億 円 以 上 と な っ て い る が , 原 告 は,
これらの商品に原告表示を付している。
また,原告は,莫大な宣伝広告費をかけて,全国紙,雑誌,テレビ及び
ラジオ等による積極的な宣伝活動を行い,平成7年度から平成18年度ま
での宣伝広告費を見ても,毎年30億円前後の巨費が投じられている。
上記の事実からすれば,原告の商号である「エーザイ株式会社」及び原
告表示は,被告が営業を開始した平成16年7月20日よりはるか以前か
ら,原告の商品等表示として周知・著名なものとなっていたことは明らか
である。
(4) 類似性,混同のおそれ
被告表示のうち,「有限会社エーザイ」中の「エーザイ」及び「エーザ
イ」の表示は,原告表示「エーザイ」と同一である。また,「E−ZA
I」の表示は,原告表示「Eisai」と称呼が同一であること,外観上
も,大文字の「E」で始まり,「AI」又は「ai」で終わっている点で
上記原告表示と酷似していること,「有限会社エーザイ」,「エーザイ」
の表示と常に一緒に用いられているという使用態様に鑑みれば,原告表示
と類似しているというべきである。同様に,被告ドメイン名も原告表示と
類似している。
また,消費者が,被告表示や被告ドメイン名,被告表示の付された商品
を見た場合,被告が原告又は原告と関係のある同一グループ内の会社であ
り,被告の商品が原告又は原告と関係のある同一グループ内の会社の商品
であると誤認混同する蓋然性は高い。
(5) 不正の利益を図る目的
被告は,平成16年以降,原告表示が著名であることを知りつつ,これ
と実質的に同一の被告表示を使用した上,ドメイン名として被告ドメイン
名を使用していることからすれば,原告が長年にわたって築き上げてきた
知名度や社会的信頼にただ乗りして,不正の利益を得ようとする目的を有
していることは明らかである。
(6) 被告の営業活動継続のおそれ
被告は,平成19年6月20日に解散しており,今後は被告表示を使用
しない旨主張する。
し か し , 被 告 は , 解 散 手 続 を 行 っ た も の の , 清 算 手 続 は 終 了 し て お ら ず,
以 下 の と お り , 今 後 も , 清 算 事 務 の 一 環 と 称 し て , 従 前 と 同 様 の 態 様 に て,
在庫品の販売を継続していく可能性がある。
すなわち,まず,被告が販売している魚の餌である赤虫は,在庫の数が
膨 大 に あ り , 被 告 自 身 も , 従 前 , 原 告 に 対 し , 「 現 在 社 名 変 更 方 向 で す が,
在庫,仕掛品,社名変更諸経費他多大な損失を発生させることはできませ
ん 。 在 庫 終 了 め ど が つ き ま す ま で お 待 ち 頂 き た く ご 報 告 致 し ま す 。 冬 場,
魚は冬眠しお客様がどれだけ買って頂けるのか。終了期日はわかりませ
ん。」と述べていることからしても,被告が従前と同様,被告表示を付し
て,商品を販売する可能性は高い。また,インターネット上の楽天市場の
ウェブサイト(以下「楽天市場」という。)には,依然として,被告の会
社名及び商品名が掲載されており,被告が解散した以降の平成19年7月
11日に,原告が依頼した第三者が,楽天市場の上記会社名及び商品名を
クリックすると表示される電話番号に電話をかけたところ,被告は,「は
い,エーザイです」と述べて電話を取り,その後,商品の販売を行い,後
日,被告から配達された商品は,「E−ZAI」と大きく記載された段ボ
ー ル 箱 に 入 っ て お り , そ の 包 装 に は , 大 き く 「 エ ー ザ イ の レ ッ ド ワ ー ム 」,
「エーザイ」,「E−ZAI」との文字が印刷されていた。以上の事実か
らすれば,被告が,その営業及び商品に被告表示を使用し続けていること
は明らかである。
また,被告は,解散手続と同時に被告ドメイン名の抹消登録の手続をし
た旨主張する。
しかし,被告は,現在も被告サイトを開設して被告ドメイン名を使用し
ており,また,被告ドメイン名の有効期限は平成20年7月16日まで延
長されており,被告が,今後も被告ドメイン名を使用していくことは明ら
かである。
(7) し た が っ て , 被 告 の 前 記 ( 2 )ア の 行 為 は , 不 正 競 争 防 止 法 2 条 1 項 2 号,
1号の不正 競争行為に,前記( 2 )イの行為は, 同項12号の不正競争行 為に
該当 し,被告は,現在も,同不正競争行為を継続している。
よって,原告は,被告に対して,不正競争防止法3条,2条1項2号又
は同項1号に基づき,被告表示の使用の差止めと被告商号の抹消登記手続
を,同法3条,2条1項12号に基づき,被告ドメイン名の使用の差止め
と被 告ドメイン名の抹消登録手続を請求する。
2 被告 の認否,反論
(1) 原告の主張の( 1 )ないし( 5 )は明らかに争わない。
(2) 原告の主張( 6 )は否認する。
被告は,平成19年6月20日に解散しており,以降,被告表示を使用
して営業活動を行っていない。また,被告は,既に,被告ドメイン名の抹
消 登 録 の 手 続 を 行 い , 楽 天 市 場 で の 営 業 に つ い て の 退 店 届 け も 提 出 し た。
第3 当裁 判所の判断
1 原 告 の 主 張 ( 1 )な い し ( 5 )は , 被 告 に お い て 明 ら か に 争 わ な い か ら 自 白 し た
も のと みなす。
2 被告は,既に解散しており,現在は,被告表示を使用して営業活動を行っ
ていない旨主張するので,本件において,原告の営業上の利益の侵害ないし
そ のお それがあるかについて検討する。
(1) 証拠(甲12,13,15,16ないし2 7。枝番も含む。)及び 弁論
の 全 趣 旨 に よ れ ば , 以 下 の 各 事 実 が 認 め ら れ , こ れ に 反 す る 証 拠 は な い。
ア 被告の営業形態
被 告 は , 平 成 1 6 年 7 月 2 0 日 に 設 立 さ れ , 赤 虫 等 の 観 賞魚 用の 餌 を,
被 告表示「エーザイ」を付して販売している。
また,被告は,「E−ZAI」の店名で楽天市場に出店しており,同
サイトにおいては,5種類の商品を出品し,同商品をインターネットを
通じて販売している。さらに,被告は,被告ドメイン名をドメイン名と
した被告サイトを開設しているが,同サイトには,「商品などに関する
お問い合わせは下記まで御願い致します。」との表示及び同表示の下に
被 告の住所と電話番号の表示がある。
イ 本件訴訟に至る経緯等
原 告 は , 「 エ ー ザ イ 」 の 表 示 を 商 号 に 使 用 し て い る 被 告 の 存 在 を 知 り,
平成18年8月,被告に対して,社名の変更を求め,以後,原告と被告
との間で,社名変更のための交渉がされるようになった。被告は,この
交渉の中で,平成19年2月20日,原告からの社名変更時期の報告の
要求に対する回答として,在庫品の販売終了まで社名の変更の猶予を嘆
願 する書面を原告に送付した。
原告は,被告との交渉の結果,被告は,任意には商号変更,被告表示
及 び 被 告 ド メ イ ン 名 の 使 用 の 中 止 を し な い も の と 考 え , 平 成 1 9 年 5 月,
本 件訴訟を提起した。
被告は,平成19年6月20日,臨時株主総会を開催し,同総会にお
いて被告を解散する決議をし,同月21日付けで解散の登記がされ,同
月 2 8 日 付 け の 本 訴 答 弁 書 に お い て , 前 記 「 被 告 の 認 否 , 反 論 」 ( 第 2,
2 ( 2 ))記載のとおり主張した。
ところが,平成19年7月5日ころ,原告代理人中村勝彦の妻である
乙が,被告サイト及び楽天市場に被告の電話番号として表示してある電
話番号に電話をかけ,商品についての問い合わせをしたところ,被告従
業 員 と 思 わ れ る 相 手 方 は , 乙 に 対 し , 販 売 し て い る 商 品 の 説 明 を し た。
さらに,同月11日,乙が,同様に,電話により,上記の説明にあった
商品である「キューブタイプ赤虫」を注文すると,相手方は,これを承
諾し,同月13日,上記商品が乙の自宅に届き,同商品の包装には「有
限会社エーザイ」,「エーザイのレッドワーム」及び「E−ZAI」の
表 記がなされていた。
なお,被告ドメイン名登録の有効期限は,本件提訴時点では,平成1
9年7月16日であったが,その後,平成20年7月16日まで延長さ
れ ている。
(2) 上 記 ( 1 )で 認 定 し た 事 実 か ら す れ ば , 被 告 は , 既 に 解 散 し , 現 在 は , 法
律上清算中の会社ではあるが,現在も,被告表示を付して被告の商品の在
庫 品 を 販 売 し て お り , ま た , 被 告 サ イ ト を 開 設 し て い る こ と か ら , 今 後 も,
上 記 の 販 売 及 び 被 告 ド メ イ ン 名 の 使 用 を 継 続 し て い く こ と は 明 ら か で あ る。
し た が っ て , 原 告 の 営 業 上 の 利 益 は 侵 害 さ れ て い る も の と 認 め ら れ る。
3 そうすると,原告の請求のうち,被告表示及び被告ドメイン名の使用の差
止 め並 びに被告商号の抹消登記手続の請求は理由がある。
しかしながら,被告ドメイン名の登録抹消申請手続の請求については,被
告ドメイン名の登録名義人が甲であって被告ではない以上,被告に対して上
記 請求 をすることはできない。
第4 結論
以上の次第で,本訴請求は,主文第1項ないし第4項の限度で理由がある
からこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却し,主文第4項につ
いては,相当でないので仮執行宣言を付さないこととして,主文のとおり判
決 する 。
東 京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清 水 節
裁判官 佐 野 信
裁判官 國 分 隆 文
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