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平成18(行ケ)10533審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年9月12日
事件種別 民事
当事者 被告
原告サミー株式会社
対象物 スロットマシン
法令 特許権
特許法134条の21回
特許法29条の21回
特許法181条2項1回
キーワード 審決20回
無効6回
訂正審判3回
実施1回
特許権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「スロットマシン」とする特許第2784879号の 特許(平成5年11月29日出願,平成10年5月29日設定登録,請求項の 数は1である。以下,この特許を「本件特許」と,本件特許に係る明細書及び 図面を「本件明細書」と,それぞれいう )の特許権者である。。 被告は,平成17年4月21日,本件特許を無効とすることについて審判を 請求し,この請求は無効2005−80126号事件(以下「本件審判事件」 という として特許庁に係属した その審理の過程で 原告は 平成17年7。) 。 , , 月20日,本件明細書を訂正する請求をした(以下,この訂正を「前訂正」と いう 特許庁は 平成18年1月4日 訂正を認める 特許第278487。)。 , ,「 。 9号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする との審決 以下 前。」 ( 「 審決」という )をした。。 原告が,前審決を不服として,知的財産高等裁判所に審決取消訴訟(平成1 8年(行ケ)第10061号)を提起し,平成18年3月10日,本件特許の 特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判請求(訂正2006−3903

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判決文

平成19年9月12日判決言渡
平成18年(行ケ)第10533号 審決取消請求事件
平成19年7月23日口頭弁論終結
判 決
原 告 サ ミ ー 株 式 会 社
訴訟代理人弁理士 黒 田 博 道
同 石 井 豪
被 告 Y
訴訟代理人弁理士 安 富 康 男
同 玉 井 敬 憲
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2005−80126号事件について平成18年10月26日
にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「スロットマシン」とする特許第2784879号の
特許(平成5年11月29日出願,平成10年5月29日設定登録,請求項の
数は1である。以下,この特許を「本件特許」と,本件特許に係る明細書及び
図面を「本件明細書」と,それぞれいう 。)の特許権者である。
被告は,平成17年4月21日,本件特許を無効とすることについて審判を
請求し,この請求は無効2005−80126号事件(以下「本件審判事件」
という。 として特許庁に係属した。その審理の過程で,原告は,平成17年7

月20日,本件明細書を訂正する請求をした(以下,この訂正を「前訂正」と
いう 。 。特許庁は ,平成18年1月4日 , 訂正を認める 。特許第278487
) 「
9号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする 。 との審決(以下「前

審決」という。)をした。
原告が,前審決を不服として,知的財産高等裁判所に審決取消訴訟(平成1
8年(行ケ)第10061号)を提起し,平成18年3月10日,本件特許の
特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判請求(訂正2006−3903
6号事件 。以下「本件訂正審判 」という。 をしたところ ,同裁判所は,同年3

月30日,特許法181条2項により前審決を取り消す旨の決定をした。
上記決定を受けて,本件審判事件の審理が再開されたが,原告は,平成18
年4月17日,本件訂正審判の請求書に添付された訂正明細書を援用して訂正
請求をし(以下,この訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の本件明細書を
「本件訂正明細書」という 。 ,また ,特許法134条の2第4項の規定により,

前訂正は取り下げられたものとみなされた。特許庁は,審理の結果,平成18
年10月26日 , 訂正を認める 。
「 特許第2784879号の請求項1に係る発
明についての特許を無効とする 。」との審決(以下「審決」という。)をし,同
年11月8日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲
本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は ,次のとおりである 以

下,この発明を「本件訂正発明」という 。 。

「 請求項1 】 フロントパネルに設けた表示部に複数の図柄を順次高速で移

動表示した後,該図柄の移動表示を停止させて,該停止表示態様が予め定め
た所定の図柄の組み合わせである場合に,遊技者に所定数のメダルを払い出
したり特別の遊技を行わせたりするスロットマシンにおいて,
予め定めた所定の図柄の組合せを記憶する図柄記憶手段と,
この図柄記憶手段に記憶された図柄の組合せが,停止した図柄と一致して
いるか否かを判断する図柄判断手段と,
この図柄判断手段の判断にもとづいて,停止した図柄の組合せが,上記所
定の図柄の組合せのうち,メダルの払い出しが伴う図柄の複数の組合せと,
メダルの払い出しが伴わない図柄の複数の組合せとがあり,更にメダルの払
い出しが伴わない図柄の複数の組合せとして,一の組合せである特別図柄の
組合せと,他の一の組合せであるリプレイの図柄の組合せとがあり,停止し
た図柄がメダルの払い出しを伴う図柄の組合せの場合には,メダル払い出し
手段から遊技者に対してメダルを払い出し,
上記図柄判断手段の判断にもとづいて,停止した図柄の組合せが,上記所
定の図柄の組合せのうちの特別図柄の組合せである場合に,遊技者に対して
メダルを払い出すことなく,特別の遊技を行わせる特別遊技手段とからなり ,
上記メダル払出手段は,図柄判断手段の判断にもとづいて,停止した図柄
の組み合わせが,予め定められたリプレイの図柄の組み合わせである場合に
は,再遊技を行わせるようにし,
乱数発生手段から発生させた一の乱数値と比較して入賞を判断するために
入賞抽選手段で用いる抽選確率データとして,通常抽選確率データと,この
通常抽選確率データの抽選確率よりも特別図柄の組合せが出現する確率が高
い高抽選確率データとを備えたことを特徴とするスロットマシン 。」
3 審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件訂正発明は,本件特許の出
願の日前の特許出願であって,その出願後に出願公開された特願平5−472
88号の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「先願明細書」という。
特開平6−238035号公報〔甲1 〕参照。 に記載された発明(以下「先願

発明 」という 。 と同一であり ,本件訂正発明の発明者が先願発明の発明者と同

一であるとも,本件特許の出願時にその出願人が先願発明に係る特許出願の出
願人と同一であるとも認められないから,本件訂正発明についての特許は特許
法29条の2の規定に違反してされたものであって,同法123条1項2号の
規定により無効とすべきである,というものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,下記(1)のとおり,先願発明の内容を認定
した上,下記(2)のとおり,本件訂正発明と先願発明とは実質的に同一である旨
判断した。
(1) 先願発明の内容
「機体の前面に設けたリール表示窓3に3個のリール1a,1b,1cの周
面に表示された複数のシンボルを順次高速で移動表示した後,該3個のリー
ル1a,1b,1cの回転を停止させて,該停止表示態様が特定のシンボル
の組合せである場合に,遊戯者に所定数のメダルを払い出したり通常のゲー
ムから特別ゲーム(ボーナスゲームA∼D)に移行するようにしたスロット
マシン2において,
特定のシンボルの組合せを記憶するROM17と,
このROM17に記憶されたシンボルの組合せが,停止したシンボルと一
致しているか否かを判断するCPU16内の判定部32と,
このCPU16内の判定部32の判断にもとづいて,停止したシンボルの
組合せが,上記特定のシンボルの組合せのうち,メダルの払い出しが伴うシ
ンボルの複数の組合せと,メダルの払い出しが伴わないシンボルの組合せと
があり,更にメダルの払い出しが伴わないシンボルの組合せとして,一の組
合せであるサクランボのシンボル52の組合せがあり,停止したシンボルが
メダルの払い出しを伴うシンボルの組合せの場合には,CPU16からの指
令を受けてホッパ駆動部24から遊戯者に対してメダルを払い出し,
上記CPU16内の判定部32の判断にもとづいて,停止したシンボルの
組合せが,上記特定のシンボルの組合せのうちのサクランボのシンボル52
の組合せである場合に,遊戯者に対してメダルを払い出すことなく,特別ゲ
ーム(ボーナスゲームD)を行わせるCPU16内のゲーム制御プログラム
切り換え手段とからなり,
乱数発生器29が出力する乱数値を取り込み,この乱数値がROM17内
に記憶された乱数値の範囲に含まれるか否かを特別ゲーム(ボーナスゲーム
A∼D)またはその他の通常入賞毎に判断するためにCPU16内の抽選部
31で用いる特別ゲーム(ボーナスゲームA∼D)とその他の通常入賞にか
かる出現確率を備え,特別ゲーム(ボーナスゲームA∼D)とその他の通常
入賞にかかる出現確率のうちのメダルを払い出すことなく特別ゲーム(ボー
ナスゲームD)を行わせる出現確率を自由に変更できるようにしたスロット
マシン2 。」
(2) 本件訂正発明と先願発明の対比・判断
本件訂正発明と先願発明とは,下記アの点で一致するが,下記イ(ア)ない
し(ウ)の各点で形式的に相違する。しかし,これら形式的な相違点に係る本
件訂正発明の構成は,先願発明に既に内在されていた技術事項であるか,先
願発明における技術事項に対する周知慣用技術の単なる付加又は置換であっ
て,課題解決のための具体化手段における微差であるから,本件訂正発明と
先願発明とは実質的に同一である。
ア 一致点
「フロントパネルに設けた表示部に複数の図柄を順次高速で移動表示し
た後,該図柄の移動表示を停止させて,該停止表示態様が予め定めた所定
の図柄の組み合わせである場合に,遊技者に所定数のメダルを払い出した
り特別の遊技を行わせたりするスロットマシンにおいて,
予め定めた所定の図柄の組合せを記憶する図柄記憶手段と,
この図柄記憶手段に記憶された図柄の組合せが,停止した図柄と一致し
ているか否かを判断する図柄判断手段と,
この図柄判断手段の判断にもとづいて,停止した図柄の組合せが,上記
所定の図柄の組合せのうち,メダルの払い出しが伴う図柄の複数の組合せ
と,メダルの払い出しが伴わない図柄の組合せとがあり,更にメダルの払
い出しが伴わない図柄の組合せとして,一の組合せである特別図柄の組合
せがあり,停止した図柄がメダルの払い出しを伴う図柄の組合せの場合に
は,メダル払い出し手段から遊技者に対してメダルを払い出し,
上記図柄判断手段の判断にもとづいて,停止した図柄の組合せが,上記
所定の図柄の組合せのうちの特別図柄の組合せである場合に,遊技者に対
してメダルを払い出すことなく,特別の遊技を行わせる特別遊技手段とか
らなり,
乱数発生手段から発生させた一の乱数値と比較して入賞を判断するため
に入賞抽選手段で用いる抽選確率データを備えたスロットマシン。 である

点。
イ 形式的な相違点
(ア) 相違点1
「メダルの払い出しが伴わない図柄の組合せ」について,本件訂正発
明が , 一の組合せである特別図柄の組合せと ,
「 他の一の組合せであるリ
プレイの図柄の組合せと」があるのに対し,先願発明では,一の組合せ
である特別図柄の組合せ(サクランボのシンボル52の組合せ)はある
ものの,他の一の組合せであるリプレイの図柄の組合せがあるのか否か
定かでない点。
(イ) 相違点2
上記相違点1に関連して,本件訂正発明が , メダル払出手段は ,図柄

判断手段の判断にもとづいて,停止した図柄の組み合わせが,予め定め
られたリプレイの図柄の組み合わせである場合には,再遊技を行わせる
ようにした」のに対し,先願発明では,メダル払い出し手段(CPU1
6からの指令を受けるホッパ駆動部24)がそのような機能を有するの
か否か定かでない点。
(ウ) 相違点3
「抽選確率データ 」について ,本件訂正発明が , 入賞抽選手段で用い

る抽選確率データとして,通常抽選確率データと,この通常抽選確率デ
ータの抽選確率よりも特別図柄の組合せが出現する確率が高い高抽選確
率データとを備え 」ているのに対し,先願発明では ,抽選確率データ 出

現確率)のうちの特別の遊技(特別ゲーム(ボーナスゲームD ) を行わ

せる抽選確率データ(出現確率 )を自由に変更できるものの, 通常抽選

確率データ」と「高抽選確率データ」とを備えているのか否か定かでな
い点。
第3 取消事由に係る原告の主張
審決のした,①先願発明の認定,本件訂正発明と先願発明との一致点及び相
違点1ないし3の各認定,②相違点2及び3に係る本件訂正発明の各構成が先
願発明に比して格別のものでないとの各判断に,いずれも誤りがないことにつ
いては認める。
しかし,以下の理由により,相違点1に係る本件訂正発明の構成は格別のも
のであるから,本件訂正発明と先願発明とは,実質的に同一の発明とはいえな
い。したがって,両者を実質的に同一であるとした審決の判断には誤りがある 。
1 スロットマシンとは,ゲーム開始のためにメダルを投入し,ゲーム終了時に
「予め定めた所定の図柄の組合せ」となっていた場合に,メダルを払い出すゲ
ーム機である。スロットマシンにおいて, 予め定めた所定の図柄の組合せ」と

なったにもかかわらず,メダルを払い出さないという考え方は極めて例外的な
ものであったから,本件訂正発明のように , 予め定めた所定の図柄の組合せ 」

に「メダルの払い出しが伴わない図柄の複数の組合せ」を設けることも例外的
な態様といえる。
そして, メダルの払い出しを伴わない図柄の複数の組合せ」
「 の種類を増加さ
せると,スロットマシン(ゲーム開始のためにメダルを投入し,ゲーム終了時
に「予め定めた所定の図柄の組合せ」となっていた場合に,メダルを払い出す
というゲーム機)とは異種のゲーム機になってしまうから,スロットマシンと
いうゲーム機の特性を維持しようとすれば, 予め定めた所定の図柄の組合せ」

には,例外な形態である「メダルの払い出しが伴わない図柄の複数の組合せ」
は設けないか,仮に設けるとしても少なくすべきであるといえる。
そうすると,スロットマシンにおいて,例外的な形態である「メダルの払い
出しを伴わない図柄の複数の組合せ」を複数種設けるという技術思想は,本来
のスロットマシンから離れてしまうため望ましくないと考えられ,そのような
着想に至ることを妨げる事情があったというべきである。
2 先願発明に係る特許出願がされた当時 平成5年2月12日 ) 甲2等に記載
( ,
されているように, リプレイの図柄の複数の組合せ 」
「 を設けて リプレイ」 再
「 (
遊技 )を行わせる技術は,広く採用されていた 。 リプレイ」が周知技術である

以上,先願発明において「リプレイの図柄の複数の組合せ」を採用するのであ
れば ,その点を記載するはずである 。先願発明で, リプレイ 」の記載がないの

は,例外的な形態を重複させることを避けようとしたからに他ならない。
また , リプレイ 」あるいは類似技術について記載されている甲3∼6にも ,

「リプレイ 」以外には , メダルの払い出しが伴わない図柄の複数の組合せ」は

想定されていない。
3 以上のとおり ,スロットマシンにおいて , 予め定めた所定の図柄の組合せ 」

として, メダルの払い出しを伴わない図柄の複数の組合せ」
「 を複数種設けるこ
とは,当業者には到底想起できない事項であったというべきである。
本件訂正発明は, メダルの払い出しが伴わない図柄の複数の組合せ」
「 を複数
種設けるという ,スロットマシンとしては極めて例外的な構成を採用し , 一の

組合せである特別図柄の組合せ」と「他の一の組合せであるリプレイの図柄の
組合せ」が同時に存在するようにした点に技術的意義があり,この点は, 先願

発明における技術事項に対する周知慣用技術の単なる付加又は置換であって,
課題解決のための具体化手段における微差である」ということはできない。
第4 取消事由に対する被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
原告は, メダルの払い出しが伴わない図柄の複数の組合せ」
「 を複数種設ける
という構成を採用したところに本件訂正発明の技術的意義がある旨主張する
が,当該構成は,単なる周知技術の付加であって,新たな効果を奏するもので
はないから,技術的意義は認められない。
スロットマシンにおいて, 予め定めた所定の図柄の組合せ」
「 となったにもか
かわらず,メダルを払い出さないという考え方は,本件特許の出願前から存在
しており(甲1,2 ),例外的なものではない。また ,「リプレイ」の機能は,
本件特許の出願前に搭載が義務付けられたものであって 甲2 ) スロットマシ
( ,
ンというゲーム機械の観念を否定するような構成ではない。
先願発明に係る特許出願は, リプレイ 」
「 の機能の搭載が義務付けられた後に
出願されたものであるから,先願明細書に「リプレイ」の記載がないのは,こ
れを排除する趣旨でないことは自明である。原告が主張するように「メダルの
払い出しが伴わない図柄の複数の組合せ」を複数種設けることを避けたものと
解することは到底できない。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は,相違点1に係る本件訂正発明の構成は,先願発明において,当然
の前提としていた技術事項というべきであり,仮にそうでないとしても,先願発
明と対比して格別な技術的意義を有するものではないので,本件訂正発明と先願
発明とは実質的に同一であるとした審決に誤りはないと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
1 審決の挙げた相違点1について
審決が挙げた相違点1は,要するに,メダルの払い出しが伴わない図柄の組
合せについて,本件訂正発明は , 一の組合せである特別図柄の組合せと ,他の

一の組合せであるリプレイの図柄の組合せ」の両方が存在するのに対して,先
願発明では,一の組合せである特別図柄の組合せ(サクランボのシンボル52
の組合せ)は存在するが,他の一の組合せであるリプレイの図柄の組合せにつ
いては,明記されていないという点である。そこで,以下,同相違点の技術的
な意義について検討する。
2 本件訂正発明と先願発明との対比
(1) 本件訂正発明について
本件訂正明細書(甲13添付の訂正明細書)の段落【0001】∼【00
03 】 【0007 】∼【0016】 【0032 】 【0033 】等の記載によ
, , ,
れば,本件訂正発明の内容は,期待値を所定範囲内におさめる手段として,
停止した図柄の組合せが,メダルの払い出しを伴わない特別図柄の組合せで
ある場合に,遊技者にメダルを払い出すことなく,特別の遊技を行わせる構
成を採用した点にあり,これにより,特別図柄の出現する抽選確率が高確率
となっても,入賞図柄の出現に伴うメダルの払出枚数,ひいては期待値を増
加させることがなく,入賞図柄の組み合わせが出現する確率を操作せずに,
いわゆる期待値を所定の範囲内におさめることができるようにするものであ
ると認められる。
(2) 先願発明について
ア 先願明細書(甲1,段落【0001 】∼【0007 】【0046】 によ
, )
れば,先願明細書には,通常のゲームにおけるメダルの払出枚数の期待値
を所定の値以内におさめるスロットマシンでは,ボーナスゲームの出現率
を高く設定しようとすると,他の通常の入賞にかかるシンボルの組合せが
出現する確率やメダルの払出枚数を変更する必要があるが,特定のシンボ
ルの組合せの成立に対してメダルを払い出さずにボーナスゲームへと移行
させることにより,通常のゲームにおけるメダル払出枚数の期待値を一定
に保持したまま特別ゲームを頻繁に出現させる技術が開示されているもの
と認められる。
イ 先願発明は, 停止したシンボルの組合せが,
「 上記特定のシンボルの組合
せのうちのサクランボのシンボル52の組合せである場合に,遊戯者に対
してメダルを払い出すことなく,特別ゲーム(ボーナスゲームD)を行わ
せるCPU16内のゲーム制御プログラム切り換え手段」との構成を備え
るが,同構成は,特定のシンボルの組合せの成立に対してメダルを払い出
さずにボーナスゲームへと移行させるものであって,通常のゲームにおけ
るメダル払出枚数の期待値を一定に保持したまま特別ゲームを頻繁に出現
させることを可能とし,遊技者の関心等を高める作用効果を奏するといえ
る。
(3) 相違点1に対する判断
ア 先願発明では,特定のシンボルの組合せの成立に対してメダルを払い出
さずにボーナスゲームへと移行させることにより,通常のゲームにおける
メダル払出枚数の期待値を一定に保持したまま特別ゲームを頻繁に出現さ
せるという構成を採用しているのに対し,本件訂正発明では,期待値を所
定範囲内におさめる手段として,停止した図柄の組合せが,メダルの払い
出しを伴わない特別図柄の組合せである場合に,遊技者にメダルを払い出
すことなく,特別の遊技を行わせる構成を採用した点に特徴を有し,これ
により,特別図柄の出現する抽選確率が高確率となっても,入賞図柄の出
現に伴うメダルの払出枚数,ひいては期待値を増加させることがなく,入
賞図柄の組み合わせが出現する確率を操作せずに,いわゆる期待値を所定
の範囲内におさめることができるようにしている。したがって,先願発明
と本件訂正発明とは,課題及び解決手段において共通し,差異はないとい
える。
イ 確かに,先願明細書には,停止した図柄の組み合わせが予め定められた
リプレイの図柄の組み合わせである場合に,メダルを払い出すことなく再
遊技を行わせる機能を有することは明示的に記載されていない。
しかし,証拠(甲2,4∼6)及び弁論の全趣旨によれば,先願発明に
係る特許出願がされた当時に,スロットマシンにおいて,停止した図柄の
組み合わせが予め定められたリプレイの図柄の組み合わせである場合に,
メダルを払い出すことなく再遊技を行わせる機能を持たせることは,従来
から当業者に広く知られた周知技術であったのみでなく,我が国における
スロットマシンの市場では , リプレイ 」
「 の機能を搭載することが当然の前
提とされていたことが認められるから,先願発明がかかる機能を搭載する
ことに技術的な妨げはないと解される。
そうすると,先願明細書に明示的に記載がないことは,先願発明がかか
る機能を有していないと理解すべきではなく,むしろ先願発明の具体的な
実施に際して, リプレイ 」の機能を搭載することを ,当然の前提としてい

るものと理解するのが合理的である。
3 原告の主張に対し
原告は,審決の認定判断が誤りであるとする根拠として,以下の2点を主張
する。しかし,原告の各主張は,いずれも失当である。
(1) 原告は,スロットマシンにおいて,例外的な形態である「メダルの払い出
しを伴わない図柄の複数の組合せ」を複数種設けることは,本来のスロット
マシンから離れてしまうため望ましくないと考えられ,そのような構成を採
用することには阻害事由があったというべきであると主張する。
しかし,原告の上記主張は失当である。
前記2(3)のとおり ,スロットマシンに「リプレイ」の機能を持たせること
は,周知技術であり,先願発明がかかる機能を搭載することに技術的な妨げ
があるとは認められない。また,本件訂正明細書の段落【0029 】の「 リ

プレイ』の組み合わせに対しては,実際には,リプレイが成立したゲームに
おいて投入されたメダル枚数と同一のメダル枚数を投入した場合と同一のゲ
ームが可能となるため,払い出されるメダルの枚数が3枚と換算し」との記
載に示されるように, リプレイ」
「 はメダルの払い出しに換算され得るもので
あるから,スロットマシンの特性に反するものとはいえない。
(2) また,原告は,本件訂正発明は ,「メダルの払い出しが伴わない図柄の複
数の組合せ」を複数種設けるという,スロットマシンとしては例外的な構成
を採用し , 一の組合せである特別図柄の組合せ」と「他の一の組合せである

リプレイの図柄の組合せ」が同時に存在するようにした点に技術的意義があ
る旨主張する。
しかし,原告の上記主張は失当である 。すなわち , メダルの払い出しが伴

わない図柄の複数の組合せ」として「リプレイの図柄の組合せ」を設けると
いう相違点1に係る本件訂正発明に係る構成がもたらす作用効果は,既に,
周知技術においてもたらされていた作用効果であり,前記1で認定した本件
訂正発明の特徴と関係するものではないから , 一の組合せである特別図柄の

組合せ」と「他の一の組合せであるリプレイの図柄の組合せ」が同時に存在
することに,格別な技術的意義があるとはいえない。
4 結論
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は理由がない(なお,相違点
2及び3に係る本件訂正発明の各構成が格別のものでないことは争いがない 。)
その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がなく,審決にこれを取り消す
べき違法はない。したがって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 嶋 末 和 秀

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