平成18(行ケ)10471等審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成19年8月8日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
特許権
特許法29条2項1回 特許法134条の31回 特許法181条2項1回
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キーワード |
審決154回 無効65回 実施5回 訂正審判3回 刊行物2回 優先権1回 特許権1回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は 発明の名称を 地下水中のハロゲン化汚染物質の除去方法 とす, 「 」
る特許第3079109号の特許(平成2年11月28日国際出願〔優先権
主張:1989年11月28日 英国 平成12年6月16日設定登録 登, 〕, ,
録時の請求項の数は6である )の特許権者である。。
(2) 上記特許に対し特許異議の申立てがあり 異議2001−70311号事,
件として,特許庁に係属した。その審理の過程で,原告は,平成13年11
月30日 上記特許に係る明細書 特許請求の範囲を含む の記載を訂正 以, ( 。) (
下,この訂正後の特許を「本件特許」と,本件特許に係る明細書及び図面を
「本件明細書」と,それぞれいう。この訂正により,請求項1の記載が訂正
, , ,され 請求項5が削除され 請求項6が請求項5に項番変更されるとともに
その記載が訂正された する請求をした 特許庁は 審理の結果 平成14。) 。 , ,
年1月16日 訂正を認める 特許第3079109号の請求項1ないし5,「 。
。」 , , 。に係る特許を維持する との決定をし 同年2月6日 上記決定は確定した
(3) 被告大成は 平成16年3月29日 被告成和は 同年4月28日 それ, , , , |
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判決文
平成19年8月8日判決言渡
平成18年 行ケ )
( 第10471号 審決取消請求事件 以下 第1事件 」
( 「 という。)
平成18年 行ケ )
( 第10472号 審決取消請求事件 以下 第2事件 」
( 「 という。)
平成19年7月9日口頭弁論終結
判 決
第1事件原告・第2事件原告 ユニバーシティー オブ ウォータールー
(以下 「原告 」という。)
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 浅 村 皓
同 浅 村 肇
同 岩 井 秀 生
同 安 藤 克 則
同 池 田 幸 弘
第 1 事 件 被 告 大 成 建 設 株 式 会 社
(以下「被告大成」という。)
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 磯 野 道 造
同 富 田 哲 雄
同 町 田 能 章
第 2 事 件 被 告 成和リニューアルワークス株式会社
(以下「被告成和」という。)
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 森 哲 也
同 内 藤 嘉 昭
同 崔 秀 喆
同 宮 坂 徹
同 吉 村 徳 人
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2004−35165号事件及び無効2004−80033号
事件について平成18年6月9日にした審決中 , 特許第3079109号の請
「
求項1∼5に係る発明についての特許を無効とする 。」との部分を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,発明の名称を「地下水中のハロゲン化汚染物質の除去方法 」とす
る特許第3079109号の特許(平成2年11月28日国際出願〔優先権
主張:1989年11月28日,英国〕 平成12年6月16日設定登録,登
,
録時の請求項の数は6である 。)の特許権者である。
(2) 上記特許に対し特許異議の申立てがあり,異議2001−70311号事
件として,特許庁に係属した。その審理の過程で,原告は,平成13年11
月30日 ,上記特許に係る明細書 特許請求の範囲を含む。 の記載を訂正 以
( ) (
下,この訂正後の特許を「本件特許」と,本件特許に係る明細書及び図面を
「本件明細書」と,それぞれいう。この訂正により,請求項1の記載が訂正
され ,請求項5が削除され,請求項6が請求項5に項番変更されるとともに ,
その記載が訂正された 。 する請求をした。特許庁は ,審理の結果 ,平成14
)
年1月16日 , 訂正を認める 。
「 特許第3079109号の請求項1ないし5
に係る特許を維持する 。 との決定をし ,
」 同年2月6日 ,上記決定は確定した 。
(3) 被告大成は ,平成16年3月29日 ,被告成和は,同年4月28日 ,それ
ぞれ本件特許を無効とすることについて審判を請求し,これらの請求はそれ
ぞれ無効2004−35165号事件(以下「本件審判(大成)事件」とい
う。 及び無効2004−80033号事件(以下「本件審判(成和 )事件 」
)
という。 として特許庁に係属し,その後 ,両事件(以下「本件審判事件」と
)
いう 。 は併合して審理された 。その審理の過程で ,原告は,平成16年8月
)
23日,本件明細書を訂正する請求をした(以下,この訂正を「前訂正」と
いう 。 。特許庁は,審理の結果,平成17年5月6日,前訂正を認めないと
)
した上で , 特許第3079109号の請求項1∼5に係る発明についての特
「
許を無効とする。」との審決(附加期間90日。以下「前審決」という 。)を
した。
(4) 原告が,前審決を不服として,知的財産高等裁判所に審決取消訴訟(平成
17年(行ケ)第10685号,同第10686号)を提起し,平成17年
10月31日 ,本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判 訂
(
正2005−39199号事件。以下「本件訂正審判 」という。 を請求した
)
ところ,同裁判所は,同年12月15日,特許法181条2項により前審決
を取り消す旨の決定をした。
(5) 上記決定を受けて,本件審判事件の審理が再開されたが ,平成18年1月
23日,特許法134条の3第5項の規定により,本件訂正審判の請求書に
添付された訂正明細書等を援用して訂正請求がされたものとみなされ 以下 ,
(
この訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の本件明細書を「本件訂正明細
書」という。本件訂正により,請求項1の記載が訂正された 。 ,また,同法
)
134条の2第4項の規定により,前訂正は取り下げられたものとみなされ
た。特許庁は ,審理の結果,平成18年6月9日 , 訂正を認める 。特許第3
「
079109号の請求項1∼5に係る発明についての特許を無効とする 。 と
」
の審決(附加期間90日 。以下「 審決 」という。 をし ,同年6月21日,そ
)
の謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲
本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5の各記載は,次のとお
りである(以下 ,これらの請求項に係る発明を項番に対応して , 本件発明1 」
「
などといい,これらをまとめて「本件発明」という。なお,審決書6頁6行に
「帯水層の地下水」とあるのは ,「帯水層中の地下水」の誤記と認める。 。
)
「1.帯水層中の地下水からハロゲン化有機汚染物質を化学的分解により取
り除く方法において,
該帯水層中の該地下水の流れが通過するのに充分である形の金属体であっ
て粒状体,切断片,繊維状物等の形態の該金属体を,該地下水の流れの流路
に与え,
該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に防
ぐことができるようなやり方で該金属体を覆い,
前記の汚染されている該帯水層中の該地下水の流れを,元の帯水層から前
記金属体の中へ,次いで該金属体を通過するように導き,
前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に,該地下水が大気中の
酸素と実質的に接触しないように,該地下水を前記帯水層から該金属体の中
に導き,次いで,
前記地下水が,前記金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし,
一定の時間,その中の金属と接触するように保持する,
諸工程を含み,前記金属は鉄である,上記方法。
2.一定の時間は,地下水の酸化還元電位が−100mV以下になるのに
充分長い,請求項1記載の方法。
3.汚染された地下水の流路の帯水層中にトレンチを掘り,次いで,前記
トレンチ中に金属体を設置する諸工程を更に含み,しかも,
前記トレンチの大きさ及び配置,並びに前記金属体の酸素欠如部分の大き
さ及び配置は,汚染された地下水が酸素欠如部分を通って通過するように設
定される,請求項1記載の方法。
4.水汲み上げ井戸に入り込む実質的に全ての水が金属体の酸素欠如部分
を通過し,一定の滞留時間の間,該酸素欠如部分内部に滞留するように,ト
レンチを設け,トレンチと前記酸素欠如部分との大きさを決定する工程を更
に有する,請求項3記載の方法。
5.汚染された地下水の流路の帯水層中に一連の複数のボアホールを設け ,
次いで,該複数のボアホールの中に金属を注入する諸工程を更に含み,しか
も,該複数のボアホールの間隔,及び注入される金属の量は,その注入され
た金属が充分に帯水層を貫通し,金属体本体及びその酸素欠如部分を形成す
るように決定する,請求項1記載の方法。」
なお,審決は,本件発明1の構成要件を次のとおり分説したが,本判決にお
いてもこれに従う(以下,本件発明1の各構成要件を「構成要件a」などとい
う。なお ,審決書26頁37行に「帯水層の地下水 」とあるのは, 帯水層中の
「
地下水」の誤記と認める 。 。
)
a)帯水層中の地下水からハロゲン化有機汚染物質を化学的分解により取り
除く方法において,
b−1)該帯水層中の該地下水の流れが通過するのに充分である形の金属体
であって
b−2)粒状体,切断片,繊維状物等の形態の該金属体を,
c)該地下水の流れの流路に与え,
d)該金属体の酸素欠如部分に大気中の酸素が到達するのを実質的に完全に
防ぐことができるようなやり方で該金属体を覆い,
e)前記の汚染されている該帯水層中の該地下水の流れを,元の帯水層から
前記金属体の中へ,次いで該金属体を通過するように導き,
f)前記地下水が前記金属体の酸素欠如部分に入る前に,該地下水が大気中
の酸素と実質的に接触しないように,該地下水を前記帯水層から該金属体
の中に導き,次いで,
g)前記地下水が,前記金属体の酸素欠如部分を通過して浸透するようにし ,
一定の時間,その中の金属と接触するように保持する,
h)諸工程を含み,前記金属は鉄である,上記方法。
3 審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件審判(大成)事件について
は後記(1)の理由(審決にいう「無効理由2 」。以下「無効理由(1)」という 。)
により,本件審判(成和 )事件については後記(2)の理由(審決にいう「無効理
由4 」 以下「無効理由(2)」という。 により,本件発明1ないし5についての
。 )
特許は,いずれも特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法
123条1項2号の規定により無効とすべきである,というものである。審決
において引用された刊行物(いずれも本件特許の優先日前に頒布されたもの。
以下 ,各刊行物を,下記のとおり, 引用例1」などといい ,これらに記載され
「
た各発明を「引用例1発明 」のようにいうことがある。 は,以下のとおりであ
)
る。
引用例1 David C.MeMurtry et al.「New Approach to In-SiTu
Treatment of Contaminated Groundwaters」Environmental
Progress,Vol.4,No.3,August ,1985,pp.168∼170(甲1)
引用例2 Bruce M.Thomson et al.「PERMEABLE BARRIERS;A NEW A
LTERNATIVE FOR TREATMENT OF CONTAMINATED GROUND WATE
RS」FOCUS Conference on Southwestern Ground Water Is
sues,March23-25,1988,National Water Well Association ,
pp.441∼453(甲2)
引用例3 特開昭64−27690号公報(甲3)
引用例4 特開平1−194993号公報(甲4)
引用例5 米国特許第4382865号明細書(甲5)
引用例6 中西香爾外著「モリソンボイド有機化学(上)第4版」1985
年9月11日,株式会社東京化学同人,126,127及び27
0∼273頁(甲6)
引用例7 新版土木工法事典編集委員会編「新版土木工法事典」昭和53年
2月20日,株式会社産業調査会 ,212∼213,469頁 甲
(
7)
引用例8 先崎哲夫外著「還元処理による有機塩素化合物の除去(第2報)
−鉄粉によるトリクロロエチレンの処理−」工業用水,No.3
69,1989年6月,社団法人日本工業用水協会,19∼25
頁(甲8)
引用例9 先崎哲夫外著「還元処理による有機塩素化合物の除去−鉄粉によ
る1,1,2,2−テトラクロロエタンの処理−」工業用水,N
o.357,1988年6月,社団法人日本工業用水協会,2∼
7頁(甲9)
(1) 無効理由(1)
本件発明1∼5は,引用例1発明ないし引用例7発明及び周知・慣用技術
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
審決は,無効理由(1)に関し,引用例1発明を主たる引用発明とする無効理
由(審決にいう「無効理由2〈その1 〉 。以下「無効理由(1)〈その1〉
」 」と
いう 。 と,引用例2発明を主たる引用発明とする無効理由(審決にいう「無
)
効理由2〈その2〉 。以下「無効理由(1)〈その2 〉 という 。 の2つを説示
」 」 )
した。審決がそれぞれの無効理由の理由付けをするに当たって認定した引用
例1発明,引用例2発明の各内容,本件発明1と引用例1発明,引用例2発
明との各一致点・相違点は,それぞれ次のとおりである。
ア 無効理由(1)〈その1〉
(引用例1発明)
「処理媒体層を,帯水層中の汚染地下水の流路に設置し,該帯水層の
汚染地下水をその処理媒体層中に通し浄化する方法」に関する発明。
(一致点)
「帯水層中の地下水から汚染物質を取り除く方法」である点。
(相違点1)
汚染物質を取り除く方法が ,本件発明1では, ハロゲン化有機汚染物
「
質を化学的分解方法により」取り除くものであるのに対して,引用例1
発明ではそのことが示されず,当該構成を具備しない点。
(相違点2)
汚染物質を取り除く方法が,本件発明1では,構成要件b−1,b−
2,c,d,e,f,g,hからなるものであるのに対して,引用例1
発明では,金属体及び金属を用いることが示されず,したがって,当該
構成を具備しない点。
イ 無効理由(1)〈その2〉
(引用例2発明)
「水は透過させるが,汚染物質を移動させないバリアを,帯水層中の
汚染地下水の流路に構築し,汚染地下水を処理する方法 」に関する発明 。
(一致点)
「帯水層中の地下水から汚染物質を取り除く方法」である点。
(相違点イ)
汚染物質を取り除く方法が ,本件発明1では, ハロゲン化有機汚染物
「
質を化学的分解により」取り除くのに対して,引用例2発明ではそのこ
とが示されず,当該構成を具備しない点。
(相違点ロ)
帯水層中の地下水から汚染物質を取り除く方法において,その具体的
方法が,本件発明1では,構成要件b−1,b−2,c,d,e,f,
g,hからなるものであるのに対して,引用例2発明では,金属体,金
属体の酸素欠如部分及び金属を用いることが示されず,したがって,一
連の当該構成を具備しない点。
(2) 無効理由(2)
本件発明1∼5は,引用例8発明,引用例1発明,引用例3発明ないし引
用例7発明,引用例9発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発
明をすることができたものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した引用例8発明の内容,本件発明1
と引用例8発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(引用例8発明)
「トリクロロエチレンを含有する原水を,電解鉄粉の層を通過させ,
該トリクロロエチレンを脱塩素化する方法」に関する発明。
(一致点)
「原水からハロゲン化有機汚染物質を化学的分解により取り除く方法 」
である点。
(相違点a)
原水が ,本件発明1では, 帯水層中の地下水」であるのに対して,引
「
用例8発明ではそのことが示されず,当該構成を具備しない点。
(相違点b)
ハロゲン化有機汚染物質を取り除く方法が,本件発明1では,構成要
件b−1,b−2,c,d,e,f,g,hからなるものであるのに対
して,引用例8発明では,原水が帯水層中の地下水ではなく,また,電
解鉄粉の層を地下水の流れの流路に与えるものでなく,したがって,一
連の当該構成を具備しない点。
第3 取消事由に係る原告の主張
審決には,以下のとおりの違法がある。
Ⅰ 無効理由(1)〈その1〉について ,本件発明1と引用例1発明との一致点の
認定を誤り,相違点1,2の容易相当性等の判断を誤った違法(取消事由1
−1,1−2,1−3)
Ⅱ 無効理由(1)〈その2〉について ,本件発明1と引用例2発明との一致点の
認定を誤り,相違点イ,ロの容易相当性等の判断を誤った違法(取消事由2
−1,2−2,2−3)
Ⅲ 無効理由(2)について,本件発明1と引用例8発明との一致点の認定を誤
り,相違点a,bの容易想到性等の判断を誤った違法(取消事由3−1,3
−2,3−3)
Ⅳ 本件発明2ないし5について,本件発明1に係る特許を無効とした認定判
断と同様に,認定判断を誤った違法(取消事由1−4 ,2−4,3−4) 本
(
件発明2ないし5について,固有の取消事由の主張はしない 。)
1 取消事由1(無効理由(1)<その1>に係る認定判断の誤り)
(1) 取消事由1−1(本件発明1と引用例1発明との一致点認定の誤り)
審決は,前記第1 ,3(1)アのとおり,引用例1発明を「処理媒体層を ,帯
水層中の汚染地下水の流路に設置し,該帯水層の汚染地下水をその処理媒体
層中に通し浄化する方法」に関する発明であると認定した上,本件発明1と
引用例1発明とが「帯水層中の地下水から汚染物質を取り除く方法」である
点で一致する旨認定した。
しかし,以下のとおり,引用例1には , 処理媒体を ,
「 汚染地下水に設置し,
汚染地下水をその処理媒体で浄化する方法」に関する発明が記載されている
にとどまり, 処理媒体層を ,帯水層中の汚染地下水の流路に設置し,該帯水
「
層の汚染地下水をその処理媒体層中に通し浄化する方法 」 下線部は引用例1
(
に記載のない事項を示す。 に関する発明は記載されていないから ,
) 審決にお
ける引用例1発明の認定には誤りであり,これを前提とする一致点の認定も
誤りである。
ア 引用例1には ,以下のとおり , 帯水層中の」汚染地下水の記載はない 。
「
(ア) 本件発明1の「帯水層中の地下水」は,一般的な「地下水」という
用語とは区別された技術的意義を有する 。甲15によれば ,地下水とは ,
「土,砂,砂レキなどの間ゲキに詰まっている間ゲキ水,岩石の割レ目
を満たす裂カ(罅)水,ほら穴にみられるドウクツ水のことをさし,重
力の作用で流動するものをいう。 とされ,
」 また ,帯水層については, 地
「
下水は同一点で1層以上の帯水層に存在することがあり,水質もそれぞ
れ異なる 。 とされており(849頁)「地下水」が直ちに「帯水層中の
」 ,
地下水」を意味するものではない。
(イ) しかるところ,引用例1(甲1)の「貯蔵池の直下の地層は,30
フィート(9m)の砂質シルト層で,その下部には厚い粘土層が存在し
ていた。その次の下部の帯水層は,地表では流出する泉を有し被圧状態
である。 169頁右欄17行∼20行 ,
」
( 審決書15頁30行∼32行 )
との記載によれば,地表面より第1層が砂質シルト層,第2層が厚い粘
土層 ,第3層が帯水層であり ,上記記載に引き続く , その貯水池はシル
「
ト沖積層の上に造られていた。サイトの直下には低透水性の粘土層が存
在していること及びその上部に実際の地下水流があったために,垂直方
向の浸水により下部の帯水層が汚染されるリスクは最小となる。 (16
」
9頁右欄20行∼24行,審決書15頁32行∼35行)との記載によ
れば,引用例1における「実際の地下水流」とは,帯水層(第3層)で
はなく,厚い粘土層(第2層)の上部を流れる地下水流である。
そうすると ,引用例1に記載された 実際の地下水流 」 , 帯水層中 」
「 は「
の地下水に相当するということはできない。
(ウ) 仮に,引用例1に記載された「実際の地下水流」を「帯水層中の」
地下水の一部と解する余地があるとしても,当該地下水は汚染物質を人
工的に浸透させた被処理水と同様の地下水にすぎず,本件発明1の「帯
水層中の地下水」に該当するとはいえない。
本件発明1の「帯水層中の地下水」は,化学的分解反応に直接関与す
るという技術的意義を有し,単なる被処理水(汚染水処理の対象)では
ないのに対し ,引用例1には , 汚染地下水」が化学的分解反応に寄与す
「
ることについて,開示も示唆もないからである。
(エ) 本件発明1の「帯水層中の地下水」は,汚染物質の発生源すら特定
できない場合をも含む当該帯水層中の地下水中に既に拡散していること
も意味する構成であるのに対し,引用例1発明の「汚染地下水」は,汚
染発生源が特定されている場合における当該汚染発生源及びその近傍の
汚染区域に存在する「汚染地下水」にすぎない。すなわち,引用例1に
は,汚染発生源が特定している場合に,その汚染物質を当該汚染源近傍
において除去し,その汚染物質が帯水層地下水系へ拡散することを防止
する方法(以下「事前の汚染水浄化方法 」という 。 が開示されているに
)
とどまるのに対し,本件発明1は,事前の汚染水浄化方法に限らず,汚
染源が特定できない場合に,汚染物質が帯水層地下水に既に拡散してし
まった後,その帯水層中を拡散通過している地下水からその汚染物質を
取り除く方法(以下「事後の汚染水浄化方法 」という。 をも対象として
)
いる。このことは,本件訂正明細書(甲21添付の訂正明細書)が,汚
染発生源が判明している場合(4頁11行∼13行)及び汚染発生源が
不明な場合(4頁5行∼11行)について,それぞれ説明していること
からも明らかである。
イ 引用例1には,以下のとおり ,「処理媒体層を ,・・・汚染地下水の流路
に設置し,該帯水層の汚染地下水をその処理媒体層中に通」す旨の記載は
ない。
(ア) 引用例1には,汚染地下水を「処理媒体を含有する遮蔽トレンチ」
に通すことが記載されているにとどまり,処理媒体「層」に相当する記
載はない。
引用例1発明における処理媒体は,粒状活性炭であって,本件発明1
における「鉄」である「金属体」とは異なるところ,一般に,活性炭の
内部は著しく多孔質であるから 甲14 ) これを処理媒体として用いる
( ,
場合には , 層中に通 」すといえるとしても, 鉄」である「金属体」は,
「 「
本来 , 層 」ではないから,当然には「層中に通 」すことが導かれるもの
「
ではない。
引用例1には,金属系還元剤からなる処理媒体「層」や,汚染地下水
を当該処理媒体「層中に通」すことについては記載されていないのであ
るから,本件発明1との対比を前提として,引用例1発明について,処
理媒体「層」を認定したり,処理媒体「層中に通」すことを認定するの
は,誤りである。
(イ) 引用例1における「遮蔽トレンチ」は , 貯水池からの漏水が粘土層
「
上の水面に浸透し,川の方向に横方向に移動する」位置に設置されてい
るにすぎず,地下水の「流路」に設置されるとの記載はない。
(2) 取消事由1−2 本件発明1と引用例1発明との相違点1の判断の誤り)
(
審決における相違点1の判断は,以下のとおり,誤りである。
ア 審決は,相違点1の判断に当たり , 帯水層中の汚染地下水から汚染物質
「
を取り除くところの引用例1発明においては,・・・そこで取り除かれる汚
染物質は特に限定されるものではなく,そこで例示される汚染物質を含め
広範な汚染物質を対象とし得るものであり ,また ,・・・そこで用いられる
処理媒体(又は処理媒体層)は,特定の処理媒体に限定されるものではな
く,そこで例示される処理媒体を含め汚染地下水の広範な処理媒体を対象
とし得る」(審決書28頁31行∼29頁7行)と認定した。
しかし,審決における引用例1発明の認定には ,前記1(1)のとおり,誤
りがあり,また ,審決の上記認定には,引用例1の開示事項を超えて汚染物
質,処理媒体の範囲を広く認定した誤りがある。
イ 審決は,特開昭57−209692号公報(甲10) 引用例8及び9に
,
基づいて, 人体ないしは環境への配慮から ,
「 地下水に汚染物質として含ま
れるハロゲン化炭化水素を除去することは,本件出願前において周知の課
題」となっている旨認定し ,引用例5及び8に基づいて, 水中のハロゲン
「
化炭化水素を化学的分解により除去することが可能であり且つ水透過性で
ある鉄粒子又は鉄粉・・・の層を用いることによって,水中のハロゲン化
炭化水素を化学的分解により除去することは,本件出願前に周知・慣用の
技術となっている。(審決書29頁21行∼25行)と認定し , 引用例1
」 「
発明において,上記周知の課題により,帯水層中の地下水からハロゲン化
炭化水素(即ち,ハロゲン化有機汚染物質)を除去しようとして,上記周
知・慣用の技術に従い,地下水を通し汚染物質を浄化するところの処理媒
体層として,水中のハロゲン化炭化水素を化学的分解により除去すること
が可能であり且つ水透過性である上記鉄粉粒子の層を採択し,そして,当
該鉄粉粒子の層が設置される帯水層中の流路として,帯水層中のハロゲン
化炭化水素を汚染物質として含有する地下水の流路を採択して,帯水層中
の汚染地下水を浄化することは ,当業者であれば,直ちに想到し得る 」 審
(
決書29頁26行∼34行)と判断した。
しかし,以下のとおり,審決の上記認定判断は誤りである。
本件特許の優先日当時,帯水層地下水のpHと鉄との溶解速度が平衡状
態となり,またそれぞれの酸素もTCE分解反応を妨害しない形態となる ,
という本件発明の新規な技術的知見は知られていなかった。
引用例1,2のように,処理媒体として活性炭を用いる場合は,水中の
汚染物質を捕捉し吸着するだけであるから,メンテナンス等を必要としな
いシステム(以下「受動的システム」という。 となるものであり,また ,
)
活性炭は,金属系還元剤のように当該汚染物質を化学的分解することはな
いから,比較的長期間にわたって交換が不要なタイプ(以下「長期交換不
要型」という。)ということができる。
これに対し,引用例3,4,5,8,9のように,処理媒体として金属
系還元剤を用いる場合は,水中の汚染物質を捕捉し,化学的分解すること
を要するから,それに適した条件を備える処理装置ないし施設が必須とな
り,メンテナンス等を必要とするシステム(以下「能動的システム」とい
う。 となる。そして,これを汚染処理装置・施設を地下に設置するシステ
)
ム(以下「地下浄化システム」という。 に採用することは ,困難ないし不
)
可能であるから ,汚染処理装置・施設を地上に設置するシステム 以下 地
( 「
上浄化システム 」という。 とならざるを得ない 。また ,金属系還元剤は,
)
汚染物質を化学的に分解するので,化学反応により還元剤の活性が比較的
短期に失われるから,短期間で交換が必要なタイプ(以下「短期交換必要
型」という。 ということができる 。特に,本件発明1が用いる鉄は ,腐食
)
の問題もあり,地下浄化システムに処理媒体として用いるには,技術的困
難性があったため,鉄による化学的分解は実験室段階での人工汚染水浄化
方法にとどまり,鉄単独の使用による地上浄化システムすら存在しなかっ
た。
このように,ハロゲン化有機汚染物質を化学的に分解するために,引用
例1発明における粒状活性炭を,金属系還元剤,特に金属が鉄である金属
体に置換する技術的示唆はなく,むしろこれを阻害する事由がある。
(3) 取消事由1−3 本件発明1と引用例1発明との相違点2の判断の誤り)
(
審決における相違点2の判断は,以下のとおり,誤りである。
ア 審決は,「この場合,・・・上記『鉄粉粒子の層』は本件発明1の『金属
体』に相当し,・・・更に,上記の「鉄粉粒子の層」は ,鉄粉というように
実質的に錆を有するものではなく,本件発明1の 金属体の酸素欠如部分 』
『
に相当する 。 (審決書30頁11行∼15行)と認定した。
」
しかし,以下のとおり ,審決は, 酸素欠如部分 」の認定が正確でなく,
「
「錆を有する部分」の積極的意義及び作用効果を看過したものであって,
誤りである。
(ア) 審決の上記認定では ,「鉄粉粒子の層」は ,「金属体」に相当すると
ともに, 金属体の酸素欠如部分 」にも相当することになるが ,その趣旨
「
は,①個々の「鉄粉粒子」からなる集合体が「鉄粉粒子の層」であり,
個々の「金属」からなる集合体が本件発明1の「金属体」であるから,
前者は後者に相当する,②鉄粉粒子の「層」は,その「層」の全部が「実
質的に錆 」を有しないから,本件発明1の「酸素欠如部分」に相当する ,
というものと理解される。
しかし ,時間の経過により, 鉄粉粒子 」ないし「鉄」である「金属 」
「
には必ず「錆」が発生する。 鉄粉 」であれば ,直ちに実質的に錆を有し
「
ないとはいえない。
審決の上記認定は,この点を無視したものであり,正確とはいいがた
い。
(イ) 本件発明1にいう「金属体」は,常に「酸素欠如部分」だけからな
るものではなく, 錆を有する部分」が存在することも前提としている 。
「
本件発明1は ,「金属体」のうち「酸素欠如部分」が,「帯水層中の地下
水」での「ハロゲン化有機汚染物質を化学的分解により取り除く方法」
において有効であり,また , 金属体 」のうち「錆を有する部分」が,密
「
閉作用により「酸素欠如部分 」を形成し , 酸素欠如部分」の有効性をよ
「
り持続させるという新規な知見に基づくものである。
ちなみに,引用例5 ,8では, 錆を有する部分」について ,汚染物質
「
の分解の促進が効率的でなくなるという消極的な評価のみをしている。
イ 審決は, そして ,このように ,引用例1発明において ,水中のハロゲン
「
化炭化水素を化学的分解により除去することが可能であり且つ水透過性で
ある上記鉄粉粒子の層を採択し,ハロゲン化炭化水素を汚染物質として含
有する地下水の流路を採択したときには,その発明は ,以下に示すとおり ,
本件発明の分説b−1)∼h)に係る構成を自ずと,ないしは,必然的に
具備することになる 。 (審決書30頁16行∼21行)などと判断した。
」
しかし,審決の上記判断は,以下のとおり,誤りである。
本件発明1は,自然環境条件を正確に選択し,かかる条件をそのまま活
用した巨大な自動制御反応装置に関する技術と評し得る画期的な発明であ
って , 帯水層中の地下水 」の特性に即した新規な方法を構築し ,受動的シ
「
ステムで,しかも長期交換不要型を実現したものであり,その詳細が構成
要件b−1ないしhであるから,これらの構成が「自ずと,ないしは,必
然的に具備することになる」などとは到底いえない。
前記(2)イで指摘したところによれば ,引用例1発明は ,受動的システム
であって,比較的長期交換不要型であるのは,その処理媒体が活性炭であ
るからであり,引用例1発明の処理媒体を金属系還元剤に置き換えた場合
には ,能動的システムであって,短期交換必要型となるというべきであり ,
本件発明1の構成要件を備えるものとはならないし,その効果を奏するも
のともならない。
(4) 取消事由1−4(本件発明2ないし5についての認定判断の誤り)
本件発明1についての特許を無効とした審決の認定判断には上記の誤りが
あるから,本件発明2ないし5についての特許を無効とした審決の認定判断
にも同様に誤りがある。
2 取消事由2(無効理由(1)<その2>に係る認定判断の誤り)
(1) 取消事由2−1(本件発明1と引用例2発明との一致点認定の誤り)
審決は,本件発明1と引用例2発明とが, 帯水層中の地下水から汚染物質
「
を取り除く方法」である点で一致する旨認定したが,誤りである。
前記1(1)ア(ウ)のとおり,本件発明1の「帯水層中の地下水 」は,化学的
分解反応に直接関与するという技術的意義を有し,単なる被処理水(汚染水
処理の対象)ではないのに対し,引用例2には, 汚染地下水」が化学的分解
「
反応に寄与することについて,開示も示唆もない。
(2) 取消事由2−2 本件発明1と引用例2発明との相違点イの判断の誤り)
(
審決における相違点イの判断は,以下のとおり,誤りである。
審決は,要するに,引用例2発明において,粒状活性炭を金属系還元剤に
置換し,ハロゲン化有機汚染物質を化学的に分解することは容易であるとし
たものである 。しかし,前記1(2)において詳述したように ,本件特許の優先
日願当時 ,本件発明の新規な技術的知見は知られていなかったのであるから ,
ハロゲン化有機汚染物質を化学的に分解するために,粒状活性炭を金属系還
元剤,特に金属が鉄である金属体に置換する技術的示唆はなく,また,置換
することについて阻害要因が存在するから,審決の判断は誤りである。
(3) 取消事由2−3 本件発明1と引用例2発明との相違点ロの判断の誤り)
(
審決における相違点ロの判断は,以下のとおり,誤りである。
ア 審決は, この場合 ,
「 ・・・上記 鉄粒子の層』
『 ・・・は・・・本件発明1
の『金属体』・・・に・・・相当し,更に ,上記の『鉄粒子の層 』は,鉄粉
というように実質的に錆を有するものではなく,本件発明1の『金属体の
酸素欠如部分』に相当するということができる 。 (審決書38頁36行∼
」
39頁1行 )と認定したが ,前記1(3)アと同様の理由により ,不正確であ
り,誤りである。
イ 審決は, そして ,上記のとおり,引用例2の発明につき,そのバリアと
「
して鉄粒子の層を採択し,そして,汚染地下水の流路として,ハロゲン化
炭化水素を含有する地下水の流路を採択したときには ,以下に示すとおり ,
本件発明1の分説のb−1)∼h)の構成は自ずと具備することになり,
また ,当業者が容易に導き出せるものである。 審決書39頁2行∼6行 )
」
(
などと判断したが,前記1(3)イと同様の理由により,誤りである。
(4) 取消事由2−4(本件発明2ないし5についての認定判断の誤り)
本件発明1についての特許を無効とした審決の認定判断には上記の誤りが
あるから,本件発明2ないし5についての特許を無効とした審決の認定判断
にも同様に誤りがある。
3 取消事由3(無効理由(2)に係る認定判断の誤り)
(1) 取消事由3−1(本件発明1と引用例8発明との一致点認定の誤り)
審決は,本件発明1と引用例8発明が, 原水からハロゲン化有機汚染物質
「
を化学的分解により取り除く方法」である点で一致する旨認定したが,誤り
である。
引用例8発明における「原水」は,前処理を施された供試水ないしイオン
交換水化された原液である。これに対し,本件発明1の 帯水層中の地下水 」
「
は,かかる前処理を施すことが不可能な原位置での地下水であり,その水質
も異なる。
(2) 取消事由3−2 本件発明1と引用例8発明との相違点aの判断の誤り)
(
審決における相違点aの判断は,以下のとおり,誤りである。
ア 審決は,引用例1には , 粒状活性炭,イオン交換体 ,pH調整物質 ,生
「
物反応媒体,その他の処理技術によるものから選ばれる処理媒体を,帯水
層中の汚染地下水の流路に設置し,該帯水層の汚染地下水をその処理媒体
に通し浄化する方法 」 審決書54頁20行∼23行 )
( に関する発明が記載
されている旨認定した。
しかし,審決の上記認定は,前記1(1)において指摘したところに照らし ,
誤りというべきであるから,これを前提とする相違点aの判断も誤りであ
る。
イ 審決は, 引用例8発明において,
「 地下水に含まれるトリクロロエチレン
を処理する場合において,上記公知事実に基づいて,その地下水として,
帯水層中の地下水を選択して,本件発明1のようにすることは当業者が困
難なく適宜実施し得るものである。 (審決書54頁31行∼34行)と判
」
断した。
しかし,審決の上記判断は,前記1(2)イにおいて指摘したところに照ら
し,誤りというべきである。
(3) 取消事由3−3 本件発明1と引用例8発明との相違点bの判断の誤り)
(
審決における相違点bの判断は,以下のとおり,誤りである。
ア 審決書54頁36行∼55頁7行における審決の判断は,相違点aの判
断を繰返したものであるから,上記(2)と同様の理由により ,誤りである 。
イ 審決書55頁8行∼55頁22行における審決の判断は,相違点1及び
相違点ロに関するものと同様であるから,前記1(3)及び2(3)と同様の理
由により,誤りである。
(4) 取消事由3−4(本件発明2ないし5についての認定判断の誤り)
本件発明1についての特許を無効とした審決の認定判断には上記の誤りが
あるから,本件発明2ないし5についての特許を無効とした審決の認定判断
にも同様に誤りがある。
第4 取消事由1及び2 無効理由(1)に係る認定判断の誤り )
( に係る被告大成の反
論
無効理由(1)に係る審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1及び
2はいずれも理由がない。
1 取消事由1(無効理由(1)<その1>に係る認定判断の誤り)に対し
(1) 取消事由1−1 本件発明1と引用例1発明との一致点認定の誤り)
( に対
し
以下のとおり,審決における引用例1発明の認定及び本件発明1と引用例
1発明との一致点の認定に誤りはない。
ア 引用例1には ,以下のとおり , 帯水層中の」汚染地下水が記載されてい
「
る。
(ア) 「帯水層」及び「地下水」という各用語の一般的意義(乙A1,A
2,甲15) 本件訂正明細書(甲21添付の訂正明細書 )の「帯水層と
,
は広義の意味での,地中にある砂,石,砕石等からなる保水している地
質学的構造を意味し」 1頁6行∼8行)との記載 ,本件審判事件におけ
(
る原告(被請求人)の主張(乙A3,A4)に照らせば,引用例1に記
載された汚染地下水が存在する層は「帯水層」に相当するというべきで
ある。原告の主張は,技術用語及び特許請求の範囲の記載に基づかない
ものである。
(イ) 原告は,本件発明1の「帯水層中の地下水」が化学的分解反応に関
与するものであるのに対し,引用例1発明の汚染地下水は化学的分解反
応に関与しない旨主張する。しかし,審決は,引用例1発明の汚染地下
水が化学的分解反応に関与すると認定したものではなく,この点を相違
点1とした上 ,その容易想到性の有無について判断したものであるから ,
原告の上記主張は,審決を正解しないものであって,その主張自体失当
である。
(ウ) 原告は,引用例1発明が事前の汚染水浄化方法に関するものである
のに対し,本件発明1は事後の汚染水浄化方法をも対象としている旨主
張する。
しかし,本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1には,汚染物質
の発生源を限定する記載も,汚染物質を除去する時期を汚染物質が拡散
した後に限定するような記載も存在しないから,原告の上記主張は特許
請求の範囲の記載に基づかないものである。
また,原告は,本件発明1には事前の汚染水浄化方法も含まれる旨主
張しているから,この点について,引用例1発明と本件発明1とは相違
しないというべきである。
さらに,引用例1(甲1)の「本論文で焦点としているのは,汚染地
下水の原位置での処理である。ここで目標としているのは,地下水源の
枯渇,処理水の処分,高価でエネルギー消費の激しい揚水井,高価な地
上での処理設備などに陥らない,地下水から有害成分を除去する技術や
手法を確立することである。 (168頁左欄15行∼22行,審決書1
」
4頁2行∼5行)との記載に照らせば,引用例1発明は事前の汚染水浄
化方法に関するものに限られないというべきである。
イ 引用例1には,以下のとおり ,「処理媒体層を ,・・・汚染地下水の流路
に設置し,該帯水層の汚染地下水をその処理媒体層中に通」すことが記載
されている。
(ア) 引用例1 甲1 )
( には , 適当な処理媒体を含有する遮蔽トレンチ i
「 (
nterceptor trench)を地中に構築し,汚染地下水をそこを通過させるこ
とによって浄化することが提案できる。 168頁左欄25行∼28行 ,
」
(
審決書14頁7行∼9行 ) 「現状においてこの技術の最も適した利用法
,
は,自然の地下水の流れを用いる受動的な設計とすることであり・・・ 」
(168頁左欄47行∼右欄1行,審決書14頁23行∼25行 ) 「処
,
理層を通過する水の流れは,プルームの全幅を横切る自然流と等しいか
それ以上とすべきである 。 (168頁右欄33行∼35行,審決書15
」
頁8行∼10行) 「サイトの直下には低透水性の粘土層が存在している
,
こと及びその上部に実際の地下水流があったために,垂直方向の侵水に
より下部の帯水層が汚染されるリスクは最小となる。図2に示されるよ
うに,貯水池からの漏水が粘土層上の水面に浸透し,川の方向に横方向
に移動する。 (169頁右欄21行∼27行,審決書15頁33行∼3
」
6行 ) 「粒状活性炭(GAC)の層(beds)の層で貫かれた低透水
,
性スラリ壁からなる原位置処理システムが提案されている。 (169頁
」
右欄48行∼50行,審決書15頁38行∼39行)と各記載され,同
記載及び図2によれば,引用例1発明について, 処理媒体層を帯水層中
「
の汚染地下水の流路に設置し,該帯水層の汚染地下水をその処理媒体層
中に通し浄化する方法」を認定することができるというべきである。
(イ) 原告も認めるように,処理媒体が粒状活性炭である場合には,汚染
地下水を「処理媒体層中に通」すことになる。
(ウ) 原告は,本件発明1と引用例1発明とでは,処理媒体が異なること
を指摘する。しかし,審決は,この点を相違点2として認定した上で,
その容易相当性の有無を判断しているのであるから,原告の上記主張は
審決を正解しないものであって,主張自体失当である。
(2) 取消事由1−2 本件発明1と引用例1発明との相違点1の判断の誤り)
(
に対し
引用例1発明に接した当業者が,地下水に含まれるハロゲン化有機汚染物
質を除去するという周知の課題を解決しようと考えて,ハロゲン化有機汚染
物質を化学的分解により除去可能な周知・慣用の処理媒体(鉄粉粒子の層)
を採択することは ,極めて容易かつ自然な行為であるし, 地下水から有害成
「
分を除去する技術や手法を確立する」という引用例1の目的を阻害するもの
でもない。そして,上記周知の課題に従って引用例1発明の処理媒体を周知
・慣用の鉄粉粒子の層に置き換えるだけで,帯水層中の地下水からハロゲン
化有機汚染物質を化学的分解反応により取り除くことができるのであるか
ら, 引用例1発明において,
「 上記相違点1に係る構成を具備するようにする
ことは,当業者であれば,直ちに想到し得るものであり,そこに何等の困難
性も伴わない 。 (審決書29頁37行∼39行)との審決の判断に誤りはな
」
い。
(3) 取消事由1−3 本件発明1と引用例1発明との相違点2の判断の誤り)
(
に対し
本件発明1は,結局のところ,引用例1発明における処理媒体を周知・慣
用の処理媒体(鉄粉粒子の層)に置き換えるとともに,当該処理媒体を掘削
残土等で埋め戻すだけで得られる浄化システムの作用を,方法として記載し
たものにすぎない。上記浄化システムと本件発明1との差異は,実質的なも
のではなく,単なるカテゴリー表現上の差異でしかない 。したがって, 引用
「
例1発明において,水中のハロゲン化炭化水素を化学的分解により除去する
ことが可能であり且つ水透過性である上記鉄粉粒子の層を採択し,ハロゲン
化炭化水素を汚染物質として含有する地下水の流路を採択したときには,そ
の発明は ,自ずと,ないしは ,必然的に本件相違点2に関する構成を ,悉く ,
具備することになる。 (審決書32頁23行∼27行)との審決の判断に誤
」
りはない。
なお ,特許請求の範囲に記載されているのは, 酸素欠如部分」
「 だけであり ,
原告が主張する「錆を有する部分」については何ら記載されていない。した
がって, 錆を有する部分」に関する原告の主張は ,特許請求の範囲の記載に
「
基づかない主張であり,失当である。
(4) 取消事由1−4 本件発明2ないし5についての認定判断の誤り )
( に対し
上記(1)ないし(3)のとおり,無効理由(1)<その1>に係る審決の認定判断
中,本件発明1についての特許を無効とした部分に誤りはないから,同様に
本件発明2ないし5についての特許を無効とした部分についても誤りはな
い。
2 取消事由2(無効理由(1)<その2>に係る認定判断の誤り)に対し
(1) 取消事由2−1 本件発明1と引用例2発明との一致点認定の誤り)
( に対
し
原告は,本件発明1の「帯水層中の地下水」が化学的分解反応に関与する
ものであるのに対し,引用例2発明の汚染地下水は化学的分解反応に関与し
ない旨主張するが,審決は,引用例2の汚染地下水が化学的分解反応に関与
するものであると認定したものではなく,この点を相違点イとした上で,そ
の容易想到性の有無について判断したものであるから,原告の上記主張は審
決を正解しないものであって,主張自体失当である。
(2) 取消事由2−2 本件発明1と引用例2発明との相違点イの判断の誤り)
(
に対し
地下水に含まれるハロゲン化有機汚染物質を除去するという周知の課題を
解決しようと考えた当業者が,引用例2発明のバリア(処理媒体)を,ハロ
ゲン化有機汚染物質を化学的分解により除去可能な周知・慣用の鉄粉粒子の
層を採択することは,極めて容易かつ自然な行為であるし, 地下水中の汚染
「
物質を安定化 ,除去 ,あるいは分解(degrade)させる透過性バリアが設計可
能であるという仮説を検証する」という引用例2の目的を阻害するものでも
ない。そして,上記周知の課題に従って引用例2発明のバリアを周知・慣用
の鉄粉粒子の層に置き換えるだけで,帯水層中の地下水からハロゲン化有機
汚染物質を化学的分解反応により取り除くことができるのであるから,審決
の判断に誤りはない。
(3) 取消事由2−3 本件発明1と引用例2発明との相違点ロの判断の誤り)
(
に対し
本件発明1は,結局のところ,引用例2発明におけるバリアを周知・慣用
の鉄粉粒子の層に置き換えるとともに,当該鉄粉粒子の層を掘削残土等で埋
め戻すだけで得られる浄化システムの作用を,方法として記載したものに過
ぎない。上記浄化システムと本件発明1との差異は ,実質的なものではなく ,
単なるカテゴリー表現上の差異でしかない。したがって,審決の判断に誤り
はない。
(4) 取消事由2−4 本件発明2ないし5についての認定判断の誤り )
( に対し
上記(1)ないし(3)のとおり,無効理由(1)<その2>に係る審決の認定判断
中,本件発明1についての特許を無効とした部分に誤りはないから,同様に
本件発明2ないし5についての特許を無効とした部分についても誤りはな
い。
第5 取消事由3(無効理由(2)に係る認定判断の誤り)に係る被告成和の反論
無効理由(2)に係る審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由3は理
由がない。
1 取消事由3−1(本件発明1と引用例8発明との一致点認定の誤り)に対し
(1) 引用例8で処理される原水は,ハロゲン化有機汚染物質を含む水であり,
本件発明1で処理される地下水もハロゲン化有機汚染物質を含む水である点
で一致しているのであるから,両者はともに「汚染水たる被処理水」という
ことができる。
(2) 原告は,引用例8では前処理が施されているのに対し,本件発明1の「帯
水層中の地下水」は前処理を施すことが不可能な「地下水」である旨主張す
る。
しかし,引用例8は,実験であり,その促進などのために前処理を行って
いるだけである。審決は,汚染水たる被処理水,つまり,ハロゲン化有機汚
染物質を含む水からハロゲン化有機汚染物質を化学的分解により取り除く方
法」である点について,本件発明1と引用例8に記載の発明が一致すること
を認定したものであり,この点に誤りはない。
(3) 原告は,地下水の水質に言及するが ,本件発明1は ,特定の水質の地下水
に限定されているものではない。また,本件発明1における「化学的分解」
とは,具体的には加水分解反応であるから,被処理水の組成として,ハロゲ
ン化有機汚染物質及び水以外の成分を問題にする余地はない。
2 取消事由3−2(本件発明1と引用例8発明との相違点aの判断の誤り)に
対し
(1) 原告は,審決には,引用例1の認定について誤りがあると主張するが,以
下のとおり,いずれも失当である。すなわち,
ア 原告は,引用例1には,ハロゲン化有機汚染物質,金属系還元剤は記載
されていないと主張する。
しかし,審決は,その処理媒体が金属系還元剤か,また汚染物質がハロ
ゲン化有機汚染物質かについて認定したものではないから,原告の上記主
張は失当である。
イ 原告は,引用例1の「汚染地下水」は, 帯水層中の地下水」ではないと
「
主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
本件発明1の「化学的分解によりハロゲン化有機汚染物質を取り除く」
という観点から考察すると,粘土層の上部の地下水と粘土層の下部の地下
水とによって,本件発明1の作用効果が何ら違うものではない。また,本
件発明1が粘土層の下部にある地下水に限定されることは,本件訂正明細
書に記載,示唆されていない。
これに対し,引用例1には,汚染地下水の例として,粘土層の上部を流
れる地下水流が開示されており,粘土層の上部の地下水も帯水層中の地下
水であるから(乙B−1添付の参考資料C) 引用例1の「汚染地下水」は
,
「帯水層中の」地下水であり,本件発明1にいう「帯水層中の地下水」に
該当する。
したがって,原告の上記主張は失当である。
ウ 原告は,引用例1記載の方法は,地下水を浄化する方法ではなく ,また ,
処理媒体に通し浄化するとの認定が妥当するのは,処理媒体が「粒状活性
炭」だけであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
引用例1(甲1 )には, 地表面下での処理プロセスとしては ,吸着 ,イ
「
オン交換,沈殿法,栄養塩や酸素による微生物分解などが考えられる。適
当な処理媒体を含有する遮蔽トレンチを地中に構築し,汚染地下水をそこ
を通過させることによって浄化することが提案できる 。 (168頁左欄2
」
2行∼28行,審決書14頁5行∼9行)との記載があり,止水壁によっ
て汚染水を処理媒体へ導くことが記載されている。したがって,汚染地下
水を浄化すること及び処理媒体に通す点について,引用例1に記載がある
のであるから,原告の上記主張は失当である。
エ 原告は,引用例1には,ケース1として事前の汚染水浄化方法が記載さ
ているにとどまり,事後の汚染水浄化方法は記載されていない旨主張する 。
しかし,審決は引用例1に事後の汚染水浄化方法が記載されていると認
定したものではないから,原告の上記主張は失当である。なお,本件発明
1は,事後の汚染水浄化方法には限定されていない。
(2) 原告は,審決における容易想到性の判断の誤りを主張するが ,以下のとお
り,いずれも失当である。
ア 引用例8は,実験として,被嫌気性である反応管中に充填した鉄粉層に
汚染処理水たる原水を通して,トリクロロエチレンを処理する化学的分解
方法が公知であることを示している。そして,引用例1により,帯水層中
の汚染地下水に,汚染物質を分解して処理する処理媒体をトレンチ式で汚
染地下水の流路に配置して処理する方法が公知である。したがって,引用
例8のトリクロロエチレンを処理する化学的分解方法の対象として,汚染
地下水を選択するのであれば,当業者は,本件発明1のようにすることを
容易に想到し得るというべきである。
したがって,審決の認定判断に誤りはない。
イ 原告は,無効理由(2)においては,引用例8発明が主たる引用発明である
ことを無視して,縷々主張するが,以下のとおり,理由がない。
(ア) 原告は,引用例1における処理媒体が活性炭であり,金属還元剤の
開示がないと主張する。しかし,主たる引用例である引用例8には,金
属還元剤である電解鉄粉の層が記載されている。
(イ) 原告は,本件発明1は,受動的システムであり,かつ長期交換不要
型であると主張する。しかし,本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求
項1には,それに対応した構成の記載はない。また,本件発明1におけ
る汚染物質の除去率及びその反応の持続期間については,何ら具体的に
示されていないから,本件発明1が,受動的システムであり,長期交換
不要型であるとの主張は,主張自体失当である。
3 取消事由3−3(本件発明1と引用例8発明との相違点bの判断の誤り)に
対し
(1) 審決は,本件発明1にいう「金属体」とは ,「その材質が金属であって,
かたちがあるものを指す」 審決書6頁39行∼7頁1行)と認定しており ,
(
かかる認定は原告も認めているところ , 電解鉄粉の層 」は,その材質が金属
「
であって,かたちがあるものであるから,本件発明1の「金属体」に該当す
るということができる 。また , 電解鉄粉の層 」は ,地下水の流れが通過する
「
のに充分な形であり,かつ粒状体の形態であるから,本件発明1の構成要件
b−1,b−2を満足する。
また ,審決は,本件発明1にいう「金属体の酸素欠如部分 」とは , 金属体
「
のうち錆を有しない部分」 審決書7頁7行)と認定しており ,かかる認定は
(
原告も認めているところ, 電解鉄粉の層 」
「 を構成する鉄粉のうち錆を有しな
い鉄粉は金属体の酸素欠如部分に該当する。
確かに,審決が 電解鉄粉というように実質的に錆を有するものではなく 」
「
と説示している点は,不正確であり,実質的に錆を有しない鉄粉だけの場合
もあれば,一部が錆びた鉄粉を含む場合も想定される。しかし,少なくとも
錆びていない鉄粉が,本件発明1の「金属体の酸素欠如部分」に相当すると
の点に誤りはないから,原告の主張は審決の結論に影響しない。
なお ,原告は, 錆を有する部分」について ,密閉作用により「酸素欠如部
「
分」を形成し,その有効性を持続させ得るなどと主張するが,密閉作用は,
構成要件dの「金属体」を覆う構成,すなわち, 金属体」とは別の構成の作
「
用であるから,原告の主張は失当である。
(2) 引用例8発明における「鉄粉の層」は,本件発明1の構成要件b−1,b
−2を満足している。そして, 鉄粉の層 」などからなる金属体を地下水の流
「
れの流路に配置すれば,本件発明1の構成要件cが実現され,構成要件e,
fをも満足することになる。また ,構成要件hは , 金属体」のうち,構成要
「
件gで特定される部分の金属が鉄であることを規定するだけであり,また,
原告の主張によれば,構成要件gは透水性,すなわち,金属体を地下水の流
れの流路に配置に関する構成であるから,構成要件hも透水性に関する構成
となる。なお,構成要件dを実現するには埋め戻しでなくてもよいが,本件
発明の実施例のように,金属体を地下水の流れの流路に配置した後,埋め戻
しをすることにより,構成要件dが実現されることは明らかである。
したがって,審決の判断に誤りはない。
4 取消事由3−4(本件発明2ないし5についての認定判断の誤り)に対し
本件発明1についての特許を無効とした無効理由(2)に係る審決の認定判断に
誤りはないから,本件発明2ないし5についての特許を無効とした審決の認定
判断にも同様に誤りはない。
第6 当裁判所の判断
1 取消事由1(無効理由(1)<その1>に係る認定判断の誤り)について
(1) 取消事由1−1 本件発明1と引用例1発明との一致点認定の誤り)
( につ
いて
原告は,審決における引用例1発明の認定には誤りがあり,これを前提と
する一致点の認定も誤りである旨主張する。そして,原告は,引用例1発明
の認定の誤りに関して,以下の5点を指摘するが,いずれも理由がない。以
下順に述べる。
ア 原告は, 帯水層中の地下水」は,一般的な「地下水 」とは区別された技
「
術的意義を有し,引用例1における汚染地下水が存在する層は「帯水層」
に当たらない旨主張する。しかし,原告の上記主張は失当である。
(ア) 本件訂正明細書(甲21添付の訂正明細書 )には, 本発明は ,地下
「
帯水層中に存在する地下水に関する。ここで帯水層とは広義の意味での ,
地中にある砂 , ,
石 砕石等からなる保水している地質学的構造を意味し ,
単に水を供給する構造だけに限定していない 。 (1頁6行∼8行)との
」
記載がある。
一般に ,「帯水層」とは ,「多量に地下水を含んでいる地層。したがっ
て,一般に透水層に地下水のたまったもの。 (乙A1,747頁右欄)
」
を意味し , 地下水は同一点で1層以上の帯水層に存在することがあり」
「
(甲15) 不圧帯水中の水も ,被圧帯水層中の水も,ともに地下水と呼
,
ばれていることが認められる(乙A2〔乙B−1添付の参考資料Cも同
じ。 ,図3.5 )
〕 。
そうすると ,本件発明1にいう「帯水層」は, 被圧帯水層」には限ら
「
れず ,「不圧帯水層」をも含むというべきである。
(イ) 他方 ,引用例1(甲1 )には , 貯蔵池の直下の地層は,30フィー
「
ト 9m )
( の砂質シルト層で ,その下部には厚い粘土層が存在していた 。
その次の下部の帯水層は,地表では流出する泉を有し被圧状態である。
その貯水池はシルト沖積層の上に造られていた。サイトの直下には低透
水性の粘土層が存在していること及びその上部に実際の地下水流があっ
たために,垂直方向の侵水により下部の帯水層が汚染されるリスクは最
小となる。図2に示されるように,貯水池からの漏水が粘土層上の水面
に浸透し,川の方向に横方向に移動する 。 (169頁右欄17行∼27
」
行,審決書15頁30行∼37行〔判決注,訳文3頁21行∼28行が
対応するが,複数の誤訳や脱落が認められるので,本判決では審決書の
摘記を採用した。 )との記載がある。
〕
引用例の上記記載において,砂質シルト層は不圧帯水層に,粘土層の
下部の帯水層は被圧帯水層に ,それぞれ該当すると認められる 。そして,
引用例1発明の汚染地下水は,透水層である砂質シルト層に含まれてい
るから,不圧帯水層中の地下水ということができるが,上記(ア)のとお
り, 不圧帯水層」は本件発明1にいう「帯水層」に含まれるから ,引用
「
例1発明1発明における汚染地下水は, 帯水層中の」
「 地下水に相当する
というべきである。
イ 原告は,本件発明1の「帯水層中の地下水」が化学的分解反応に関与す
るものであるのに対し,引用例1発明の「汚染地下水」は化学的分解反応
に関与しない旨主張する。
しかし,審決は,引用例1発明の汚染地下水が化学的分解反応に関与す
ると認定したものではない。審決は,本件発明1の「帯水層中の地下水」
が化学的分解反応に関与する点については ,相違点1として認定した上で ,
その容易想到性の有無について検討している。したがって,原告の上記主
張は,審決を正解しないものであって,失当である。
ウ 原告は,引用例1には,事前の汚染水浄化方法が開示されているにとど
まるのに対し,本件発明1は,事前の汚染水浄化方法に限らず,事後の汚
染水浄化方法をも対象としている点で相違する旨主張する。
しかし,原告の主張によれば,本件発明1は,事後の汚染水浄化方法に
限定されるものではなく,事前の汚染水浄化方法をも対象とするというの
であるから(なお,本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1には,汚
染物質の発生源を限定する記載もなければ,汚染物質を除去する時期を限
定する記載もない。 ,事前の汚染水浄化方法を対象とする態様に関する限
)
り,引用例1発明と本件発明1とが相違するといえないことは,明らかで
ある。原告の上記主張は,主張自体失当である。
なお ,付言するに,引用例1(甲1 )の「本論文で焦点としているのは ,
汚染地下水の原位置での処理である。ここで目標としているのは,地下水
源の枯渇,処理水の処分,高価でエネルギー消費の激しい揚水井,高価な
地上での処理設備などに陥らない,地下水から有害成分を除去する技術や
手法を確立することである 。 (168頁左欄15行∼22行,審決書14
」
頁2行∼5行)との記載に照らせば,引用例1発明が事前の汚染水浄化方
法に関するものに限られると理解することはできない。
エ 原告は,本件発明1と引用例1発明との処理媒体が異なることに鑑みれ
ば,引用例1発明は ,「処理媒体層を,・・・汚染地下水・・・に設置し,
該帯水層の汚染地下水をその処理媒体層中に通」すものとはいえない旨主
張する。
しかし,審決が本件発明1と引用例1発明との一致点として認定したの
は, 帯水層中の地下水から汚染物質を取り除く方法 」である点であって ,
「
「処理媒体層を ,・・・汚染地下水・・・に設置し,該帯水層の汚染地下水
をその処理媒体層中に通」すことを一致点としたものではないから,原告
の上記主張は,審決における一致点の認定の当否に影響するものとはいえ
ない。
なお,引用例1には,処理媒体として,粒状活性炭が具体的に記載され
ているところ,これを用いる場合には,処理媒体「層中に通」すことにな
ることは,原告も争わないところである。そして,審決は,本件発明1と
引用例1発明との処理媒体の相違については,相違点2として認定した上
で,その容易想到性の有無について検討している。したがって,原告の上
記主張は,その主張自体失当である。
オ 原告は,引用例1における「遮蔽トレンチ」は,地下水の「流路」に設
置されるものとはいえない旨主張する。
しかし,上記のとおり,審決が本件発明1と引用例1発明との一致点と
して認定したのは, 帯水層中の地下水から汚染物質を取り除く方法 」
「 であ
る点であって,「処理媒体層を,・・・汚染地下水の流路に設置し」たこと
を一致点としたものではないから,原告の上記主張は,審決における一致
点の認定の当否に影響するものとはいえない。
なお ,引用例1(甲1)の「適当な処理媒体を含有する遮蔽トレンチ(i
nterceptor trench )を地中に構築し ,汚染地下水をそこを通過させること
によって浄化することが提案できる 。 (168頁左欄25行∼28行,審
」
決書14頁7行∼9行) 「現状においてこの技術の最も適した利用法は,
,
自然の地下水の流れを用いる受動的な設計とすることであり・・・ 」 16
(
8頁左欄47行∼右欄1行,審決書14頁23行∼25行 ) 「処理層を通
,
過する水の流れは,プルームの全幅を横切る自然流と等しいかそれ以上と
すべきである。 (168頁右欄33行∼35行,審決書15頁8行∼10
」
行)との記載に照らせば,引用例1における「遮蔽トレンチ」は,正に汚
染地下水の「流路」に設置されるものというべきであり,原告の上記主張
は失当である。
カ 以上によれば,原告の主張はいずれも失当であり,審決における引用例
1発明の認定及び本件発明1と引用例1発明との一致点の認定はいずれも
是認することができる。原告主張の取消事由1−1は理由がない。
(2) 取消事由1−2 本件発明1と引用例1発明との相違点1の判断の誤り)
(
及び取消事由1−3 本件発明1と引用例1発明との相違点2の判断の誤り )
(
について
原告は,審決における相違点1,2の各判断は誤りである旨主張し,その
根拠として,以下の5点を指摘するが,いずれも理由がない。以下順に述べ
る。
ア 原告は,審決における引用例1発明の認定には誤りがあり,また,審決
は,相違点1の判断に際して,引用例1の開示事項を超えて,汚染物質,処
理媒体の範囲を広く把握した誤りがある旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張はいずれも理由がない。
(ア) 審決における引用例1発明の認定に原告主張の誤りがないことは,
前記(1)において説示したとおりである。
(イ) 引用例1(甲1)の「産業廃棄物の貯蔵,処理及び処分の過程また
は偶発的な漏出事故などに由来する土壌及び地下水汚染の問題は幅広く
関心を集めている。現在,これらに対しては,地下水を揚水して処理及
び処分するという手法が多く用いられている。この方法の欠点として,
汚染物質を捕捉することが不可能であること,揚水及び処理費用がかさ
むこと,適正に処分しなくてはならない水が多量に発生すること,汚染
地下水とともに清浄な地下水も汲み上げてしまい地下水が枯渇してしま
うことなどが挙げられる。次に一般的な方法としてスラリーなどによる
透水性の低い地中壁での囲い込みがあるが,これは単に汚染物質が域外
に達するのを遅延する措置でしかない。本論文で焦点としているのは,
汚染地下水の原位置での処理である。ここで目標としているのは,地下
水源の枯渇,処理水の処分,高価でエネルギー消費の激しい揚水井,高
価な地上での処理設備などに陥らない,地下水から有害成分を除去する
技術や手法を確立することである 。 (168頁左欄1行∼22行,審決
」
書13頁31行∼14頁5行)との記載に照らせば,引用例1発明にお
いて汚染地下水から取り除かれる汚染物質は,具体的に掲げられた汚染
事例におけるものに限られるものでないことは明らかであり,広範な汚
染物質を対象とし得ることが,少なくとも示唆されているということが
できる。
また,引用例1の「地表面下での処理プロセスとしては,吸着,イオ
ン交換,沈殿法,栄養塩や酸素による微生物分解などが考えられる。適
当な処理媒体を含有する遮蔽トレンチ interceptor
( trench)を地中に
構築し,汚染地下水をそこを通過させることによって浄化することが提
案できる。そのような処理媒体には,有機物を吸着する活性炭,無機イ
オン種を捕捉するイオン交換樹脂,溶解度をpH調整する物質,栄養塩
及び/又は酸素の供給によって活発化される固定フィルム生物学反応の
ための媒体,又はこれらのものの組み合わせ,及び,多くの他の処理技
術によるものを含む。 (168頁左欄22行∼34行,審決書14頁5
」
行∼13行)との記載によれば,引用例1発明において用いられる処理
媒体は,特定の処理媒体に限られるものでないことは明らかであり,汚
染地下水の広範な処理媒体を対象とし得ることが,少なくとも示唆され
ているということができる。
したがって,審決が,相違点1の判断に際して,引用例1の開示事項
を超えて ,汚染物質,処理媒体の範囲を広く把握したということはできな
い。
イ 原告は,本件特許の優先日当時,本件発明の新規な技術的知見は知られ
ていないところ,引用例1発明のように,処理媒体として活性炭を用いる
場合は,受動的システム・長期交換不要型であり,他方,処理媒体として
金属系還元剤を用いる場合は,能動的システム・短期交換必要型であるか
ら,引用例1発明における粒状活性炭を,金属系還元剤,特に金属が鉄で
ある金属体に置換する技術的示唆はない旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は理由がない。
(ア) 証拠(甲2,8,9)によれば,本件特許の優先日当時,汚染地下
水の浄化処理技術に関して,その処理対象を「帯水層」ないし「帯水層
中の地下水」に設定することは,実用化を目指す上で普通のことであっ
たと認められ,その一つとして,トレンチ型浄化壁から構成され,活性
炭が充填された透過性浄化壁を構築する方法が試みられ,また,分解性
を有する汚染物質については,帯水層において原位置処理する方法が,
実験レベルであるとはいえ,実用化に向けた試験・研究の段階にあった
ということができる。そして,特に,水中のハロゲン化有機汚染物質の
1つである有害な有機塩素化合物については,金属鉄との酸化還元電位
が約−300mV付近であるとの知見の下,金属鉄の粒子の層を通過さ
せ,酸化還元反応により分解処理する流通試験が実験室レベルで実施さ
れ, 金属鉄の反応活性維持期間の長期化 」を視野に入れつつ ,実用化に
「
向けて研究が行われていたということができる。
(イ) 上記(ア)のような本件特許の優先日当時の技術水準に照らせば,引
用例1に接した当業者は,地下水に含まれる有害な有機塩素化合物を帯
水層において無害化処理すべく,金属鉄による酸化還元反応を利用しよ
うと動機付けられるというべきであるから,これを具体化するために,
吸着材としての粒状活性炭が充填され帯水層に設置されるトレンチ型透
過性浄化壁において,その活性炭に代えて,金属鉄の粒子とし,帯水層
において地下水を接触・通過させ,還元反応させ得る金属体とすること
に,容易に想到することができたものと認めるのが相当である。
ウ 原告は,処理媒体として金属系還元剤を用いる場合は,能動的システム
・短期交換必要型であって,地下浄化システムに採用することが困難ない
し不可能であったから,引用例1発明における粒状活性炭を,金属系還元
剤,特に金属が鉄である金属体に置換することを阻害する事由がある旨主
張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は理由がない。
(ア) 本件発明1の構成要件aにおける「ハロゲン化有機汚染物質を化学
的分解方法により取り除く」という構成は,前記イのとおり動機付けら
れるというべきであり,原告の上記主張は,この点を阻害するような技
術的要因を指摘するものとはいえない。
なお,以下では,念のため,原告の上記主張を本件発明1の効果の顕
著性ないし予測困難性を指摘するものと理解した上で,その点の当否に
ついて検討することとする。
(イ) 活性炭粒子による吸着処理と,金属鉄による還元(化学的分解)処
理との相違は,処理媒体に直接起因する作用上の相違であるのに対し,
浄化処理システムにおけるメンテナンスの要否や反応活性維持期間の長
短は,個々の浄化処理システムにおいて処理媒体を機能させるための条
件設定に依存するものであり,採用する処理媒体のみに左右されるもの
ではない。したがって,浄化処理システムにおける条件設定と切り離し
て,原告の主張に係る受動的システムと能動的システムとの相違や,長
期交換不要型と短期交換必要型との相違を論ずることはできない。
(ウ) 本件訂正明細書 甲21添付の訂正明細書)
( には,次の記載がある 。
「本発明は相当な期間,高い還元状態の中におかれて残存しているハ
ロゲン化有機汚染物質を含む地下水をある一定期間,金属と密接に接触
せしめることよりなる。このような条件下で,有機物質中の塩素イオン
(或いは,他のハロゲンイオンでもよい)は,水酸化物イオンで置換さ
れることが可能であり,一方,離脱した塩素イオンは溶解したままであ
る。塩化物は,無機塩化物の許容限度より通常十分低い濃度で水中に残
存するか又は沈殿する。このように,有機分子は,加水分解反応と考え
られるものによって無害化され,また塩素は,その痕跡量では無害であ
る無機化合物に変化される。本発明で,この好都合な反応は,高い還元
状態のために生じるものと考えられる。本発明においては,汚染地下水
のEh(酸化還元)電位,即ち,Eh(酸化還元)プローブとメーター
を用いて測定される値は発明を実施後,−100mV以下 ,望ましくは ,
−200mV以下とする必要がある。本発明においては,まずはじめに
酸素の供給源を地下水から除去するか,あるいは,地下水から遠ざける
ことが好ましい。このことによって,ほとんどEh値が0近傍まで下が
った地下水を供給でき,また,金属との密接な接触によりEh値を速や
かに下げることが可能となる。金属と地下水の接触は非常に密接に,し
かも長くする必要がある。よって,金属は小接片あるいは繊維状である
ことが好ましく,このことにより,金属と地下水との接触面積を高める
ことが可能となり単位質量当たりの金属を効率的に活用することとな
る。接触面が大きければ大きいほど地下水のEh値が下がるのに必要な
金属本体との接触時間は少なくなるのである。ここで,金属は好ましく
は鉄であり,微紛状,切片状あるいはスティールウールの形態をとるこ
とが好ましい。帯水層中に存在する地下水の浄化についてはコスト面に
おいて地下水を常温で処理することが最も好ましい。本発明においては
ハロゲン化汚染物質の分解は,前述のように加水分解反応と考えられ,
前記のように常温で達成可能な高還元状態に地下水を保つことで実施可
能となる 。 (2頁18行∼3頁16行)
」
「汚染された水が金属と接触する際の充填物中での滞在時間が適当に
確保されるようにトレンチの大きさとその中に入れられる鉄の充填物の
量が決められなければならない。本発明において水の充填物中での滞在
時間は,1∼2日あることが好ましい。また,トレンチの幅は以上のこ
とを考慮して決定されなければならない。酸素との接触が完全にないよ
うに鉄はトレンチの中に充填されなければならない。従って鉄は,トレ
ンチの中に埋める必要がある。鉄が酸素に接した場合,腐食され,汚染
物質の分解の促進が効率的でなくなる。しかしながら,この酸素の接触
した鉄は,いったん錆を生じるとその下部にある鉄に対する密閉作用を
有する。これは鉄の酸素欠乏(anaerobic )部分と呼ばれる。しかし密閉
作用に関していえば,トレンチから掘り出された土等の安価な材料を用
いる方が鉄の場合好ましい。この鉄の酸素欠乏部分はトレンチの中にあ
り,実質上すべての汚染された水はトレンチの中,つまり鉄の酸素欠乏
部分を通過しなければならないので,かなりの期間,鉄の酸素欠乏部分
がトレンチの中に残留する。かさのある材料がトレンチの中に含まれる
ことにより,地下水はトレンチの中を流れる際に鉄と長時間にわたって
接触することが可能となり,しかも莫大な量の金属を使用するに伴って
生じる高コストを避けることが出来る。 (4頁25行∼5頁14行)
」
「本発明では,前述のような高い還元状態のもとで鉄自体が徐々に水
に溶解することが認められている。よって,ある一定期間の使用後,ト
レンチあるいは貯水槽の中に新規に鉄を充填する必要がある 。 (7頁8
」
行∼10行)
「最も反応性の高い金属を用いてもEh値を−100mVあるいは−
200mVにまで下げるのに必要な滞留時間は,偶然に生ずる接触時間
よりもかなり長い。本発明において長期間大きな接触面にわたり,金属
と水が密に接触しなければならない。従って,例えば,ただ単に,汚染
した水を金属パイプ中に流したり貯めることは本発明の範囲外である。」
(8頁18行∼21行)
(エ) 上記(ウ)の記載によれば,本件訂正明細書では,①ハロゲン化汚染
物質の加水分解反応が常温で達成されるためには,地下水を高い還元状
態に保つこと,具体的には,汚染地下水のEh(酸化還元)電位を−1
00mV以下とすることが必要であり,また,②地下水が鉄と「長時間
にわたって」接触するとともに,錆の密閉作用により,鉄と酸素との接
触が完全に断たれ , ある一定期間 」「かなりの期間 」にわたって,鉄の
「 ,
酸素欠乏部分が残留するためには,鉄はトレンチの中に充填され埋めら
れなければならない,とされているというべきである。
しかるに,本件発明1が上記のいずれの点をもその構成要件としてい
ないことは,特許請求の範囲の請求項1の記載に照らし ,明らかである 。
したがって,本件発明1は,本件訂正明細書において,その目的とす
る効果を奏するとはされていない態様を含んでいるといわざるを得な
い。
(オ) 前記イ(ア)において認定した本件特許の優先日当時の技術水準に照
らせば,金属鉄による還元処理を実用化に当たり,金属鉄の反応活性維
持期間の長期化のための条件設定が課題の一つとなっていたということ
ができるから,この観点から本件発明1を検討する。
確かに,構成要件d,f,gからは,地下水及び金属体が大気中の酸
素と接触することがないよう大気を遮断する環境を設定することを念頭
に置いた構成であると理解することができる 。しかし,これらの構成は ,
上記環境を実現するための技術的手段について,何ら具体的な規定をす
るものではない。
のみならず,本件訂正明細書を見ても,本件発明1の酸素欠如部分の
具体的維持期間,従来技術である活性炭粒子の場合の浄化処理能力の維
持期間との比較等の評価は何ら記載がないことに照らすと,構成要件d ,
f,gは ,具体的裏付けを伴うことなく , ある一定の期間」「かなりの
「 ,
期間」等の文言により,長期交換不要型に相当する構成を記載している
にとどまるものといえる。
(カ) 原告は,鉄のうち錆を有する部分が密閉作用を有する旨の主張もし
ているが ,金属鉄の反応活性維持期間の長期化という本件発明1の効果 ,
特に密閉作用については,例えば,トレンチの規模,鉄粉の量の如何に
よって,地下水と鉄粉との接触時間が変化し,影響を受けると考えられ
るから,本件訂正明細書にこれを裏付ける記載があるとはいえない。
(キ) このように,本件発明1は,その目的とする効果を奏するとはされ
ていない態様を含んでおり,本件訂正明細書の記載も,本件発明1の効
果を裏付けるに足りるものではないから,本件発明1の効果の顕著性な
いし予測困難性を認めることはできない。
エ 原告は,審決が,引用例1発明において,処理媒体層として,鉄粉粒子
の層を採択した構成について, 鉄粉粒子の層 」が本件発明1の「金属体」
「
に相当し,更に 金属体の酸素欠如部分」
「 に相当すると認定している点は ,
「酸素欠如部分 」の認定が正確でなく, 錆を有する部分 」の積極的意義及
「
び作用効果を看過したものであって,誤りである旨主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は理由がない。
(ア) 審決は,本件発明1にいう「金属体」を「その材質が金属であって ,
かたちがあるものを指す 」 審決書6頁39行∼7頁1行)と認定し ,こ
(
の点は原告も認めているところ, 鉄粉粒子の層」は,その材質が金属で
「
あって,かたちがあるものであるから,本件発明1の「金属体」に該当
するということができる。
また,審決は,本件発明1にいう「金属体の酸素欠如部分 」とは, 金
「
属体のうち錆を有しない部分 」 審決書7頁7行)と認定し,この点は原
(
告も認めているから, 鉄粉粒子の層 」
「 を構成する鉄粉のうち錆を有しな
い鉄粉は「金属体の酸素欠如部分」に該当する。
そして,引用例1発明において,処理媒体層として,鉄粉粒子の層を
採択した構成における「鉄粉粒子」は,ハロゲン炭化水素を化学的分解
により除去するためのものであるから,少なくとも錆を有しない鉄粉を
含むものでなければならないことは自明である。
(イ) 本件発明1の構成要件dにおいて, 大気中の酸素が到達するのを実
「
質的に完全に防ぐようなやり方で」覆われる「該金属体」とは,構成要
件dより前の工程である構成要件b−1,b−2,cを経て,地下水の
流路に与えられた金属体であるから,その金属体の一部が自ら錆となっ
て覆うのではなく ,地下水の流路に与えられた金属体とは別体のもの 例
(
えば,トレンチ採掘土の埋め戻しによる土)が「該金属体」を覆うもの
と理解するのが相当である。
したがって,本件発明1にいう「金属体」に錆を有する部分が存在す
るとしても,それは,構成要件dにおいて「該金属体」を覆うためのも
のということはできない。
その他 , 金属体」中の錆を有する部分について ,本件発明1が何らか
「
の規定をしているとは認められない。
したがって,原告が「錆を有する部分」に積極的意義があると主張す
る点は,本件発明1の構成と関係がないといわざるを得ない。
(ウ) なお ,原告の主張が , 金属体」中の錆を有する部分が ,地下水に溶
「
存する酸素が到達するのを防ぐとの密閉作用を有するとの趣旨と理解す
ることができなくはないので,念のため,この点について検討すること
とする。
本件訂正明細書(甲21添付の訂正明細書)の「本発明は,帯水層に
ある汚染地下水,即ち深い地下からの水,を浄化することに関して述べ
てきた。通常,そのような地下水は,本質的にほとんどが完全に無酸素
状態であると想定される 。 8頁23行∼25行 )
」
( との記載に照らせば ,
金属体に発生した錆がいかなる作用機序で酸素欠如部分の長期維持に寄
与するものであるのか,理解しがたいといわざるを得ない。むしろ,錆
は,鉄粒子が相互に接する鉄粒子の群の内部に先んじて,鉄粒子群の外
界との界面において発生しやすく,錆の発生領域が時間の経過とともに
内部へ拡がるように見える現象をとらえたものすぎず,この現象が,さ
らに,鉄粒子群内部の酸素欠如部分の「かなりの期間」に及ぶ「残留」
にまで寄与するものではないとも考え得るところである。
したがって,原告が主張する「錆を有する部分」の作用効果は,裏付
けを欠くものといわざるを得ない。
オ 原告は,本件発明1では,自然環境条件を正確に選択し,かかる条件を
そのまま活用した巨大な自動制御反応装置に関する技術と評し得る画期的
な発明であって , 帯水層中の地下水」
「 の特性に即した新規な方法を構築し ,
受動的システム,それも長期交換不要型を実現したものであり,その詳細
が構成要件b−1ないしhであるから,これらの構成が「自ずと,ないし
は,必然的に具備することになる」などとは到底いえないと主張する。
しかし,前記イ及びウにおいて検討したところによれば,引用例1発明
において,鉄粉粒子の層を採択し,ハロゲン化炭化水素を汚染物質として
含有する地下水の流路を採択することは,当業者には容易であったという
べきである,
そして,本件発明1の構成要件b−1ないしhは,上記構成を採択した
場合に当然具備すべき事項を規定したにすぎず,技術的手段を特定するも
のではないから,上記構成を採択した結果,本件発明1の構成要件b−1
ないしhを具備することになるとした審決の判断も,これを是認すること
ができる。原告は,各構成要件について縷々主張するが,いずれも採用す
ることができない。
なお,原告は,ハロゲン化有機汚染物質の化学的分解につき,種々の化
学反応式を示し,これらに基づく化学平衡論的な理解なくしては,本件発
明1の作用効果を理解することはできず,帯水層中の地下水に金属鉄を浄
化処理媒体として適用することはできないなどとも主張するが,上記の判
断を左右するものではない。
カ 以上検討したところによれば,相違点1,2をそれぞれ容易想到とした
審決の判断に誤りはない。原告主張の取消事由1−2及び1−3はいずれ
も理由がない。
(3) 取消事由1−4 本件発明2ないし5についての認定判断の誤り )
( につい
て
上記(1)ないし(3)のとおり,本件発明1についての特許を無効とした無効
理由(1)<その1>に係る審決の認定判断に誤りはないから ,本件発明2ないし
5についての特許を無効とした審決の認定判断にも同様に誤りはない。
(4) 小括
その他,原告は縷々主張するがいずれも理由がない。
以上検討したところによれば,無効理由(1)<その1>についての審決の認定
判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がないから,無効理由(1)<
その2>についての審決の認定判断の誤りを指摘する原告主張の取消事由2に
ついて検討するまでもなく,無効理由(1)についての審決の認定判断はこれを
是認することができる。したがって,本件審判(大成)事件に関し,審決に
これを取り消すべき違法はない。
2 取消事由3(無効理由(2)に係る認定判断の誤り)について
(1) 取消事由3−1 本件発明1と引用例8発明との一致点認定の誤り)
( につ
いて
原告は,引用例8発明における「原水」は,前処理を施された供試水ない
しイオン交換水化された原液であるのに対し,本件発明1の「帯水層中の地
下水」は,かかる前処理を施すことが不可能な原位置での地下水であり,そ
の水質も異なる旨主張する。
しかし,審決は,引用例8発明では「帯水層中の地下水」であることが示
されていないことを,相違点aとして認定した上で,その容易想到性につい
て検討している。したがって,原告の上記主張は審決を正解しないものであ
り,失当である。
(2) 取消事由3−2 本件発明1と引用例8発明との相違点aの判断の誤り)
(
及び取消事由3−4 本件発明1と引用例8発明との相違点bの判断の誤り )
(
について
原告は,審決における相違点a,bの各判断は誤りである旨主張し,その
根拠として,取消事由1−1,1−2,1−3として主張する点と同様の点
を指摘する。
しかし,原告主張の取消事由1−1,1−2,1−3はいずれも理由がな
いことは,前記1のとおりである。
したがって ,原告主張の取消事由3−2,3−3は ,いずれも理由がない 。
(3) 取消事由3−4 本件発明2ないし5についての認定判断の誤り )
( につい
て
本件発明1についての特許を無効とした無効理由(2)に係る審決の認定判断
に誤りはないから,本件発明2ないし5についての特許を無効とした審決の
認定判断にも同様に誤りはない。
(4) 小括
その他,原告は縷々主張するがいずれも理由がない。以上検討したところ
によれば ,無効理由(2)についての審決の認定判断に誤りはなく ,これを是認
することができ,原告主張の取消事由3は理由がない。したがって,本件審
判(成和)事件に関し,審決にこれを取り消すべき違法はない。
3 結論
以上のとおり ,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし ,
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 嶋 末 和 秀
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