平成18(行ケ)10048審決取消請求事件
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裁判所 |
審決取消 知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成19年7月30日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告梶原工業株式会社 原告株式会社荒井鉄工所
|
対象物 |
可塑性食品の移送装置 |
法令 |
特許権
特許法123条1項6号1回
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キーワード |
審決35回 無効7回 実施4回 無効審判2回
|
主文 |
1 特許庁が無効2005−80175号事件について平成17年12月27日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「可塑性食品の移送装置」とする特許第350404
3号の特許(平成7年11月22日出願,平成15年12月19日設定登録。
以下 この特許を 本件特許 といい その出願を 本件出願 という の特, 「 」 , 「 」 。)
許権者である。本件出願の出願人は,被告であり,その願書には,発明者とし
, ( 「 」 。) 。て 被告の代表取締役であるY 以下 Y という の氏名が記載されている
原告は 平成16年10月6日 本件特許について無効審判の請求をした 無, , (
効2004−80175号事件 以下 別件審判 という が 平成17年6。 「 」 。) ,
月3日,別件審判を取り下げるとともに,改めて本件特許について無効審判の
請求をした(無効2005−80175号事件。以下「本件審判」という 。。)
特許庁は 審理の結果 平成17年12月27日 本件審判の請求は 成り立, , ,「 ,
たない 」との審決(以下「審決」という )をした。。 。
2 特許請求の範囲
( , 「 」 。本件特許に係る明細書 以下 この明細書及び図面を 本件明細書 という
甲10)の特許請求の範囲の請求項1ないし3の各記載は,次のとおりである |
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判決文
平成19年7月30日判決言渡
平成18年(行ケ)第10048号 審決取消請求事件
平成19年5月28日口頭弁論終結
判 決
原 告 株 式 会 社 荒 井 鉄 工 所
訴訟代理人弁理士 丹 羽 宏 之
同 野 口 忠 夫
同 吉 澤 大 輔
被 告 梶 原 工 業 株 式 会 社
訴訟代理人弁理士 須 藤 雄 一
主 文
1 特許庁が無効2005−80175号事件について平成17年12
月27日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文1項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「可塑性食品の移送装置」とする特許第350404
3号の特許(平成7年11月22日出願,平成15年12月19日設定登録。
以下 ,この特許を「本件特許 」といい,その出願を「本件出願 」という。 の特
)
許権者である。本件出願の出願人は,被告であり,その願書には,発明者とし
て,被告の代表取締役であるY 以下 Y」
( 「 という。 の氏名が記載されている。
)
原告は,平成16年10月6日 ,本件特許について無効審判の請求をした 無
(
効2004−80175号事件 。以下「別件審判」という 。 が,平成17年6
)
月3日,別件審判を取り下げるとともに,改めて本件特許について無効審判の
請求をした(無効2005−80175号事件。以下「本件審判」という 。 。
)
特許庁は ,審理の結果 ,平成17年12月27日, 本件審判の請求は,成り立
「
たない。」との審決(以下「審決」という 。)をした。
2 特許請求の範囲
本件特許に係る明細書(以下 ,この明細書及び図面を「本件明細書」という 。
甲10)の特許請求の範囲の請求項1ないし3の各記載は,次のとおりである
(以下,請求項1ないし3に係る各発明を請求項に対応してそれぞれ「本件発
明1」などといい,これらをまとめて「本件発明」という 。 。
)
「 請求項1 】 基端部に餡などの可塑性食品の供給口を設けかつ先端に前記
【
食品の送出口を形成した外筒内に軸方向ほぼ全長にわたって,外周面に前記
供給口と対向する部分から先端に至る条溝が形成してある軸を挿入し,前記
軸の外周面と前記外筒の内周面とに内縁と外縁とがそれぞれ摺接して回転す
る螺旋状の送出用ブレードを,軸と外筒との間に介在させ,前記送出用ブレ
ード回転用の電動機を外筒外に設置すると共に,前記軸を非回転または送出
用ブレードの回転より低速に回転するようにしたことを特徴とする可塑性食
品の移送装置。
【請求項2】 軸の外周面に螺旋状に条溝を形成したことを特徴とする請求
項1に記載の可塑性食品の移送装置。
【請求項3】 軸の外周面に軸方向に沿う直線状に条溝を形成したことを特
徴とする請求項1に記載の可塑性食品の移送装置 。」
3 審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,原告(請求人)が,①本件発明
1ないし3は原告の代表取締役であるX(以下「X」という。 を発明者とする
)
発明であり,本件特許はXからその特許を受ける権利を承継することなくなさ
れた特許出願に対してなされたものであるから,特許法123条1項6号の規
定により無効とされるべきであるか,又は,②本件発明は荒井を共同発明者と
する発明であり,本件特許は共同発明者であるXと共同することなく出願され
た特許出願に対してなされたものであるから,同条1項2号の規定により無効
とされるべきである,と主張したのに対し,審決は,本件発明の発明者がXで
あるとは認められず,また,本件発明の共同発明者としてXが存在するという
こともできないから,原告の主張及びその提出に係る証拠によっては,本件発
明1ないし3についての特許を無効とすることはできない ,としたものである 。
第3 取消事由に係る原告の主張
次のとおり,Yが本件発明を発明したことを示す客観的な証拠は存在しない
一方,本件発明の基本的な構成は,すべてXからYに伝達された技術情報と符
合するから,本件発明は,Yを発明者とする発明ではなく,Xを発明者とする
発明であるか,少なくともXを共同発明者とする発明というべきである。した
がって,審決は,本件発明の発明者についての認定を誤ったか,少なくとも本
件発明の共同発明者についての認定を誤ったものであり,違法として,取り消
されるべきである。
1 Yの発明者性について
(1) 本件出願の願書には発明者としてYの氏名が記載されているが ,Yが本件
発明を発明したことを示す客観的な証拠は,本件出願の出願手続を担当した
門間正一弁理士 以下 門間弁理士」
( 「 という 。 が保管していた書類 乙19,
) (
25)以外には,存在しない。上記書類中には,Yが門間弁理士に提出した
原稿・指示等がある。しかし,これらは ,Yが ,Xから , 内外円筒面摺動ス
「
クリュの構想」と題する図番「OTO−154」の図面(甲15の2。以下
「甲15図面 」という。 及び「スクリュ 」と題する図番「OTO−164−
)
1」の図面(甲7。以下「甲7図面 」という。 を入手し,甲7図面に基づい
)
て原告が作製した試作機を用いて,Xないし原告とYないし被告が共同して
実施した試験の結果(甲39)を知った上で,作成されたものであるから,
これをもって,Yが本件発明を発明したということはできない。Yが門間弁
理士に対し行った本件出願に関する指示等の記録(乙19,25)と,甲1
5図面,甲7図面,甲39に示される甲7試作品のテスト結果を突き合わせ
れば,Yは,Xから入手した技術情報を利用し,本件出願に関する原稿・指
示等を起案・作成したことは明らかである。
Yが,門間弁理士に対する指示において,当初記載した濾過機能を備えた
移送手段の部分を削除していること,本人尋問において,Xの先行きの開発
に支障のあるような特許は取らないほうがいいだろうと考えていた旨供述を
していることに照らせば,本件出願は,Xの発明のうちYにとって必要な部
分について,特許を取得しようとしたものというべきである。
そして,後記2のとおり,本件発明の特徴的構成である,外筒に挿入する
軸の外周面に形成する条溝についての設計・製作は,もっぱらXがこれを行
ったものであり,Yはこれに関与していない。したがって,本件発明は,Y
を発明者とする発明ということはできない。
(2) 被告は,Yが被告従業員(FEラボ所属)A(以下「A」という。)に作
成させた「あんルーダテスト」と題する平成7年7月4日付け書面(甲21
の3 )に,本件発明の発想が示されていると主張するが,これには , 最大の
「
ポイント 」 「共廻り防止リブ」と記載されるとともに,エレメントのポンチ
,
絵の断面図の外筒箇所に「リブ」が記載されているにとどまり,外筒に溝を
設ける従来技術において, 溝」に代えて「リブ 」を設けた構成を示したもの
「
にすぎず,インナースリーブや軸の外周面に条溝を形成することは,何ら示
されていない。
2 Xの発明者性について
(1) 審決は,本件発明の構成のうち ,「外周面に前記供給口と対向する部分か
ら先端に至る条溝が形成してある軸を挿入し,前記軸の外周面と前記外筒の
内周面とに内縁と外縁とがそれぞれ摺接して回転する螺旋状の送出用ブレー
ドを,軸と外筒との間に介在させ,前記送出用ブレード回転用の電動機を外
筒外に設置すると共に,前記軸を非回転または送出用ブレードの回転より低
速に回転するようにしたこと 」 以下「本件特徴構成」という。審決書9頁1
(
3行∼17行)を,先行技術には見られない部分として抽出した上,本件特
徴構成と ,甲7図面に示される発明(以下「甲7発明 」という。 及び甲15
)
図面に示される発明(以下「甲15発明」という。 とを別々に対比している
)
が,XからYに伝達された技術情報は,これらをすべて総合して,本件発明
と対比すべきである。
しかるところ,次のとおり,本件発明の基本的な構成は全てXからYに伝
達された技術情報と符合するから,Xからの本件技術情報の伝達なく,本件
発明が発明されたものでないことは明らかであって,本件発明は,Xを発明
者とする発明であるか,少なくともXを共同発明者とする発明というべきで
ある。
(2)ア 本件発明の基本的な構成は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の
記載に照らし,次のとおりまとめることができる(以下,下記<A>ないし
<D>の各構成を,それぞれ「構成<A>」などという 。 。
)
<A> 基端部に餡などの可塑性食品の供給口を設けかつ先端に前記食品の
送出口を形成した外筒を備えること。
<B> 外筒内に軸方向ほぼ全長にわたって,外周面に前記供給口と対向す
る部分から先端に至る条溝が形成してある軸を挿入してあること。
<C> 前記軸の外周面と前記外筒の内周面とに内縁と外縁とがそれぞれ摺
接して回転する螺旋状の送出用ブレードを,軸と外筒との間に介在させ ,
前記送出用ブレード回転用の電動機を外筒外に設置すること。
<D> 前記軸を非回転または送出用ブレードの回転より低速に回転するよ
うにしたこと。
イ 本件出願に至る経緯(後記(3)において詳述する。)を総合すれば,次の
技術情報がXないし原告からYないし被告に伝達されたということができ
る(以下 ,下記<イ>ないし<ニ>の各技術情報を,それぞれ「技術情報<イ>」
などという 。 。
)
<イ> 基端部に被処理流体を濾過または移送する供給口を設けかつ先端に
前記被処理流体の送出口を形成した外筒を備えること(甲15発明 )。
<ロ> 外筒内に軸方向ほぼ全長にわたって,外周面に前記供給口と対向す
る部分より先端に亘る条溝が形成してある軸を挿入してあること(甲7
発明 )。
<ハ> 前記軸の外周面と前記外筒の内周面とに内縁と外縁とがそれぞれ摺
接して回転する螺旋状の送出用ブレードを,軸と外筒との間に介在させ ,
前記送出用ブレード回転用の駆動歯車を外筒外に設置すること(甲15
発明 )。
<ニ> 前記軸を非回転または送出用ブレードの回転より低速に回転させて
相対回転できるようにしたこと(甲15発明 )。
ウ 構成<A>∼<D>は,それぞれ技術情報<イ>∼<ニ>と符合する。このよう
に,本件発明の基本的な構成はすべてXからYに伝達された技術情報と符
合するから,本件発明をもって,これらの技術情報とは関係なくYが独自
に発明した発明ということはできない。
(3)ア Xは ,平成7年6月下旬 ,送出用ブレードと外筒に挿入する軸とを分離
し,外筒に挿入する軸の外周面に溝を形成するという発想に至ったが,平
成7年8月1日に被告の取締役であったB(以下「B」という。 に送付し
)
た甲15図面には,軸の外周の溝は記載されていない。しかし,甲15図
面の送付後,Xは,Bと電話連絡し,溝の形状,構造について打ち合わせ
た。Yは,Bから,甲15図面と共に,外筒に挿入する軸に条溝を設ける
というXの発想を伝えられたはずである。
イ Xは,コストを下げるため,軸を半分近くまで切断したインナースリー
ブを採用することとした甲7図面を,平成7年10月17日,被告にファ
ックスで送付した。甲7図面には,溝の具体的な形状は図示されていない
が,「インナスリーブ外径部の『溝』の諸元を指示願いたい 。」との記載が
あり,外筒に挿入する軸に条溝を設けるという発想が示されている。
そして,Xは,甲15図面及び甲7図面を被告に送付した後,被告がス
クリューの構成としていずれを採用するかをBに問い合わせたところ,甲
7図面のものとする旨の回答を受けた。この際,軸の外周に設ける溝の具
体的形状は,Xないし原告に一任された。
なお,被告は,甲7図面のインナースリーブの外周に具体的ならせん状
の溝を書き込んだ図面(乙17)を,原告に送付した旨主張するが,当該
図面は,本件出願前には,原告に送付されていない。
ウ 原告は,甲7図面に示されるスクリューの構成をもとに,被告に対し供
給することを目的として,可塑性流体物である「さらしあん」の濾過を対
象とした移送装置を試作し ,平成7年11月7日 ,これを被告に持ち込み ,
Yの同席のもとで,テストを実施した(甲39 )。
なお,試作機は,溝付のインナースリーブ構造であったが,インナース
リーブを全長の軸とすることも可能であることは,甲15図面によって容
易に理解することができる。
エ 原告及びXは,本件出願前,被告又はYから,本件発明に関する技術情
報について,何らの開示も受けていない。Yが,本人尋問において,本件
発明について,自らXに伝えた事実のないことを明言し,甲15図面及び
甲7図面を見たことがある旨供述していることからすれば,Yが,Xから
技術情報を入手し,本件出願の資料として活用したことは明らかである。
なお,Yの平成7年11月9日の業務日誌(甲23の1)における「B
より,X社長より共同出願の件はご勘弁願いたい由」との記載は,Xの発
明について原告及び被告が共同して出願するという被告の要求を,Xが拒
否した旨,BがYに伝えたことを意味すると考えられる。
3 甲7発明について
審決は,甲7発明について,本件発明とは別異の技術である旨認定判断した
が,次のとおり,誤りである。
(1) 審決は,甲7発明では,条溝が形成されるインナースリーブは ,給口と対
向する部分から先端に至る全長の後半部分のみに設けられており , 詰まり現
「
象」が, 共に回転」することとは異なり,移送の開始時点において起こるも
「
のではないことを考慮すると , 共に回転 」
「 することを防止するために採用さ
れる本件発明の条溝が形成してある軸とは,目的,作用効果,構成(設ける
範囲)のいずれにおいても異なる,別異の技術である旨認定判断した。
しかし,甲7発明の条溝も,本件発明の条溝と同じ作用効果を奏する。す
なわち,甲7発明の条溝は,「詰まり現象」の防止のみでなく ,「共に回転」
することの防止という作用効果をもたらすものである。このことは,別件審
判におけるXの供述のほか,同審判における証人C(以下「C」という。 の
)
供述によっても,裏付けられている(甲20 )。
審決は,上記認定判断をするに際し,別件審判におけるCの供述を摘示し
ているが,同人の供述のごく一部分のみを抽出し,同人の供述中原告の主張
に沿う部分やXの供述を無視している。
(2) 審決は,甲7発明の骨が,移送する可塑性食品を外筒に挿入する軸の外周
面から剪断することを理由として,甲7発明の条溝が,本件発明の条溝のよ
うに , 共に回転 」
「 することの防止を目的としないものであると認定している
が,本件発明もブレードにより,外筒に挿入する軸の外周面から可塑性食品
を剪断する作用を奏するものである。また,甲7発明の骨は,構造上必要な
構成である。
審決の認定判断は,本件発明におけるブレードの回転による剪断作用を無
視するとともに,甲7発明の骨が構造上必要な構成であることを考慮してお
らず,客観性を欠くというべきである。
(3) 審決は,甲7発明に係る作動の基本的原理は ,Xを発明者とする甲18記
載の発明(以下「甲18発明 」という。 と同趣旨のものと認定しているが,
)
甲18発明は,原告が,本件出願の事実を知った後,やむなく濾過という特
定の用途に限定して,独自に出願したものであり,甲7発明が奏する作用効
果のうち ,「詰まり現象」の防止に重点をおいて表現したものにすぎない。
濾過であれ ,移送であれ,ブレードによって行う限り, 共に回転」するこ
「
とは不可避であるから,固定した軸に移送物質の軸周面上を摺動する部分を
保持する溝などの係止手段を設けることが望ましいが,ブレードと軸とが分
離されているものは,ブレードと軸が一体となっているものに比べ, 共に回
「
転」する作用が逓減する。
本件発明も,甲7発明も,甲18発明も,条溝の構成自体は同一であり,
移送物を軸と分離したブレードを用いて移送する構成を共通するものである
から,軸と垂直方向に切断した状態であれば,移送物の保持,すなわち移送
物が「共に回転」することを防止し,軸と平行状態であれば,濾過の場合に
は,「詰まり現象」を防止するバイパス状態として働くのである。
4 甲15発明について
(1) 本件発明の特徴的構成は,軸に条溝を設けた点と,軸を送出用ブレードの
回転より低速に回転させた点とに集約されるが,いずれの構成も,甲15発
明として,Xないし原告からYないし被告に伝達されていたものである。
ア 確かに甲15には条溝についての記載はない。しかし,甲15に引き続
いて被告に送付された甲7に記載されているように ,条溝を設けることは ,
原告・被告間の当然の了解事項であり,現に,甲7発明について,外筒に
挿入する軸の外周面に条溝を形成するという技術情報が伝達されているこ
とに照らせば,甲15発明についても,当然,軸に条溝を設けるという技
術情報が伝達されたものというべきである。
イ 軸を送出用ブレードの回転より低速に回転させた点についても,甲15
図面からそのように動作させることが可能であることは容易に理解するこ
とができる。
(2) Yが ,別件審判において ,乙1 ,2記載の公知技術を知らなかった旨供述
していること(甲20)に照らせば,Xから甲15発明に関する技術情報の
伝達を受けることなく,本件発明に至ることはなかったといえる。したがっ
て,仮に甲15発明が公知技術と同一であったとしても,本件発明は,Xを
発明者とする発明であるか,少なくともXを共同発明者とする発明というべ
きである。
第4 取消事由に対する被告の反論
本件発明は,以下のとおり,Yの単独発明であって,X井は発明者ではない
から,審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がな
い。
1 Yの発明者性について
原告は,Yが本件発明を発明したことを示す客観的な証拠は存在しないと主
張する。
しかし,Yが,試行錯誤を経て,本件発明に至ったことは,平成7年11月
22日の本件出願に先立って,①同年7月4日の業務日誌に,あんルーダーに
関し , スクリューによる送りが停滞するところに問題あり,
「 チョッパーの説明
をし,食品素材そのものが回転しないよう楔効果を出すよう意見を述べた」と
記載し(甲21の2 ),また,同日,Aに,ポンチ絵で断面図等とともに ,「最
大のポイントは共回り防止リブ 」 「くさび効果」などと記載した書面を作成さ
,
せていること(甲21の3 ) ②遅くとも同年10月26日までに,甲7図面に
,
溝を書き加えていること(乙17,18 ) ③同年11月10日,本件出願を担
,
当した門間弁理士に対し,本件発明に関する技術内容を具体的に記載した書面
をファックス送信していること(乙19の1,2,24,25)などの経緯に
照らし,明らかである。
原告は,インナースリーブの軸に溝を設けるという技術はXが発想したもの
である旨主張するが,当該技術を発想したのは,Yである。Bの作成に係る平
成13年3月14日付け書簡(乙16)において,同人とXとの打合わせの際
のXの発言として, カジワラから外側にグルーブを彫るヒントを頂いたのも確
「
かだがXとしても考えてはいたし,それを設計し実用化したのはX側である 。」
と記録されていることに照らしても,Xないし原告は,Yないし被告の指示ど
おり,機械加工したにすぎないと評価されるべきである。
なお,Yの平成7年11月9日の業務日誌(甲23の1)に記載されている
「共同出願」は,本件出願とは関係ない。Yは,本件発明を,Xないし原告と
は無関係に発明した上,本件発明の技術を 横型フィルタースクリュープレス 」
「
に応用した関連技術をも発想した。Yは,この関連技術に関し,好意で共同出
願することを提案したものである。
2 Xの発明者性について
(1) 審決は,甲7発明,甲15発明を特定した上 ,甲7発明は本件発明とは別
異の発明であるから,Xを本件発明の発明者ということはできないとし,甲
15発明は本件出願前に公知であった発明であるから,Xが共同発明者とし
て存在するということもできないとしたものであって,審決のかかる認定判
断の手法及び結論に何ら誤りはない。
原告は,甲7発明について,外筒に挿入する軸の外周面に条溝を形成する
という技術情報が,Xないし原告からYないし被告に伝達された旨主張する
が,甲7には,条溝は示されていない。甲7の インナスリーブ外径部の 溝』
「 『
の諸元を指示願いたい 。 との記載は,原告の主張とは反対に ,被告側に指示
」
を願ったものである。
Xの本人尋問の結果は,甲15図面だけでは分かりにくいので,口頭で補
足説明したというものであるが,一般に口頭では分かりにくいので図面で説
明するというのが常識的であり,特に技術者ではないBを通じて伝達させる
というのであれば,なおさら,甲15図面に溝を書き入れて説明するのが通
常であるから,Xの供述は信用できない。
(2) 仮にXが,軸の外周に溝を形成することを発想したことがあるとしても,
それは,出口側で詰まって動かない流動物をバイパス流動させ,入り口方向
に戻す技術であり , 共に回転 」
「 することを防止する本件発明とは全く異なる
技術である。Xの本人尋問の結果は,同人が「共に回転」するという問題と
「詰まり現象」の問題とが異なる問題であることを正確に理解せず,混同し
ていることを示しているが,これは,同人が条溝の有無と「共に回転」する
ことの防止との関係を見い出していないことの証左である。
なお,Xの発明と本件発明とが実質上同一であるという原告の主張によれ
ば,本件出願の公開後に特許出願された甲18発明は,その出願前に公知で
あった発明ということになり,そのままでは特許されなかったはずである。
3 甲7発明について
次のとおり,甲7発明と本件発明とは別異の技術であるとした審決の認定判
断に誤りはない。
(1) 審決は,Cの供述の一部のみを抽出し,他を無視したのではなく,甲7発
明における条溝の技術的意義を認定判断するため ,同人の供述中 , 詰まり現
「
象」の防止についての理解を述べた部分を採用したにすぎない。
なお ,別件審判における尋問より前に作成されたXの陳述書 甲19) ,
( は
条項について , 詰まり現象」の防止のための「バイパス流路」としての認識
「
しか示していない 。また ,別件審判の審判請求書(乙3 )において ,原告は ,
本件発明の溝がバイパス流路としての機能をも有するから,甲7発明,甲1
5発明の技術内容と同一である旨主張していたが,その後,甲7発明の条溝
が, 共に回転 」することの防止をも意図しているから ,本件発明と同一であ
「
る旨主張するに至っている。
(2) 審決は,ブレードには ,甲7発明の骨のような切断作用がないと認定判断
したものであり,この認定判断に誤りはない。
すなわち,乙5に示されるように,移送物が軸の条溝に係合している部分
を見ると,ブレードの回転により移送物はブレードに押されて排出方向に移
動するが,このとき,条溝に係合している移送物は,前後のブレードに挟ま
れた移送物と常時結合した状態を維持しながら後方のブレードに押されて移
動するのと等価であり,条溝に係合しつつ排出方向へ移動する移送物の条溝
に係合する部分がブレードにより剪断作用を受けることはない。これに対し ,
ブレード間の軸側に3本の骨がある構造では,3分の1回転毎に,骨が条溝
に対して周方向へ横切り,ブレード間の移送物と条溝に係合している移送物
とが剪断作用を受ける。
(3) 審決は,本件発明の条溝の構成及び作用効果と ,甲7発明の条溝の構成及
び作用効果とを対比するに際し,甲18発明と甲7発明とが同一であるか否
かは定かではないとした上で,甲18発明と甲7発明とはXがなした一連の
発明である旨の原告(請求人)の主張,甲18発明の原理と甲7発明に係る
Cの供述の共通性,甲7図面が作成された経緯等を総合考慮して,甲7発明
について認定判断したものである。
4 甲15発明について
(1) 審決は,甲7における「溝」に関する記載を無視して ,甲15発明を認定
したものではなく,甲7発明,甲15発明それぞれについて,Xないし原告
からYないし被告に伝達された技術内容を合理的に認定したものである。甲
7,甲15いずれにも , 溝」について具体的な記載はなく,また ,前記のと
「
おり ,甲7の「インナスリーブ外径部の『溝』の諸元を指示願いたい 。 との
」
記載は,原告の主張とは反対に,被告側に指示を願ったものとなっている。
原告の主張は失当である。
(2) 公知技術はもちろん ,自明な技術を提供したすぎない者は,単なる補助者
であり,共同発明者とは認められない。
軸とブレードとを分離し,軸に「共に回転」することを防止する条溝を設
ける構造が可塑性食品の移送に適しているというYの着想に対し,部分的に
公知技術を提供したにすぎないXを共同発明者とする理由はない。原告の主
張は失当である。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は,本件発明は,Yを発明者の一人とする発明ではあるものの,同
人の単独発明ではなく,Xをも発明者(共同発明者)とする発明と認められ,
本件発明の共同発明者としてXが存在するということはできないとした審決の
認定は誤りであって,この誤りが審決の結論に影響することは明らかであるか
ら,審決を取り消すべきものと考える。その理由は,次のとおりである。
1 発明者(共同発明者)の意義について
発明者とは,特許請求の範囲に記載された発明について,その具体的な技術
手段を完成させた者をいう。ある技術手段を発想し,完成させるための全過程
に関与した者が一人だけであれば,その者のみが発明者となるが,その過程に
複数の者が関与した場合には,当該過程において発明の特徴的部分の完成に創
作的に寄与した者が発明者となり,そのような者が複数いる場合にはいずれの
者も発明者(共同発明者)となる。ここで,発明の特徴的部分とは,特許請求
の範囲に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分,すなわ
ち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分をいう。けだし,特許法が
保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術課
題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく
解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にあるから,特許請求の
範囲に記載された発明の構成のうち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付け
る特徴的部分の完成に寄与した者でなければ,発明者ということはできないと
いうべきだからである。
2 本件発明の特徴的部分について
そこで,本件発明の特徴的部分について,検討する。
(1) 本件明細書(甲10)には,特許請求の範囲(前記第2 ,2)のほか ,次
の記載がある。
「 0001】
【
【発明の属する技術分野】この発明は,餡,ジャム,パン生地,菓子生地
などの可塑性食品,とくに流動性が低い可塑性食品を外筒内で移送する移
送装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来,前記のような可塑性食品の移送装置として,外筒内
に回転軸と一体にスクリューを形成し,前記回転軸を外筒外に設置した電
動機の駆動によって回転させることで,外筒の基端部に設けた供給口から
供給した餡などの可塑性食品を,回転軸とスクリューとの一体的な回転に
よって外筒の先端側に移送し,その先端に設けた送出口から送り出すもの
が一般に用いられている。
【0003】
【 発明が解決しようとする課題】前述した従来の可塑性食品の移送装置は ,
前記食品が液状に近く流動性が高い場合には,外筒内でのスクリューの回
転に対し,前記食品の重力がスクリューの回転と異なる方向に食品を引き
つけ,スクリューの送りに対する回り止めとなるため,有効に前記食品を
移送できる。しかし,可塑性食品の流動性が低い,すなわち固形物に近い
場合や前記食品が若干粘着性を有する場合などには,食品がスクリューに
絡みついて ,これと共に回転してしまい,食品の移送ができない。そこで ,
外筒の内周面に,その軸方向に沿う直線状に条溝を形成し,前記食品の一
部が前記条溝に入り,食品自体が部分同士連結して,互いに千切れない範
囲で,条溝に入った食品で食品全体の回り止めをして,食品の移送が有効
にできるようにしている。
【0004】また,流動性が低い可塑性食品をより千切れにくくするため
に,外筒の内周面に螺旋状の条溝を形成したものもあった。しかし,条溝
を外筒の内周面に形成することは,加工がしにくく,場合によっては加工
ができないこともあり,また,移送装置の使用後に洗浄する際,外筒は,
電動機に連結した軸が基端部を貫通していたり,供給口にホッパーが設け
てあったりし,取り外しにくいため,外筒の条溝内に付着した食品を除去
して,外筒の内周面を洗浄することが困難であるという問題点があった。
【0005】この発明は,前述した問題点を解決して,外筒の内周面に条
溝を形成しないことで,加工が比較的容易にでき,また,装置の使用後に
洗浄が容易かつ充分にできて,衛生的な可塑性食品,とくに流動性が低い
可塑性食品に好適する,その移送装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明に係る可塑性食品の移送装
置は,基端部に餡などの可塑性食品の供給口を設けかつ先端に前記食品の
送出口を形成した外筒内に軸方向ほぼ全長にわたって,外周面に前記供給
口と対向する部分から先端に至る条溝が形成してある軸を挿入し,前記軸
の外周面と前記外筒の内周面とに内縁と外縁とがそれぞれ摺接して回転す
る螺旋状の送出用ブレードを,軸と外筒との間に介在させ,前記送出用ブ
レード回転用の電動機を外筒外に設置すると共に,前記軸を非回転または
送出用ブレードの回転より低速に回転するようにしたものである。
【0007】請求項2の発明は,請求項1に記載した可塑性食品の移送装
置において,軸の外周面に螺旋状に条溝を形成したものである。
【0008】請求項3の発明は,請求項1に記載した可塑性食品の移送装
置において,軸の外周面に軸方向に沿う直線状に条溝を形成したものであ
る。」
「 0029】
【
【発明の効果】以上説明したように,請求項1の発明に係る可塑性食品の
移送装置は,従来外筒の内周面に形成していた共回り防止用の条溝を,軸
の外周面に螺旋状または直線状(請求2または3参照)などに形成したこ
とで,外筒の基端部に設けた供給口から外筒内に可塑性食品を供給し,前
記軸と外筒との間にこれらと摺接するように介在させた螺旋状の送出用ブ
レードを,外筒外に設けた電動機の駆動によって回転させることで,餡な
どの流動性の低い可塑性食品や粘着性がある可塑性食品を,前記ブレード
と共回りすることなく,外筒の先端に設けた送出口に移送し,その前方に
送り出すことができる。そして,前記条溝を軸の外周面に形成することで ,
外筒の内周面に条溝を形成するに比べて,条溝の加工が容易にでき,また ,
外筒の内周面が,条溝のない平滑面であるため,軸,送出用ブレードを取
り外しての洗浄時に,外筒の内周面の洗浄が容易にかつ充分にできて衛生
的である。」
(2) 本件明細書の上記(1)の各記載によれば,従来 , 可塑性食品の移送装置 」
「
として, 外筒内に軸方向ほぼ全長にわたって ,
「 外筒内に回転軸と一体にスク
リューを形成し,前記回転軸を外筒外に設置した電動機の駆動によって回転
させることで,外筒の基端部に設けた供給口から供給した餡などの可塑性食
品を ,回転軸とスクリューとの一体的な回転によって外筒の先端側に移送し ,
その先端に設けた送出口から送り出すもの」が用いられていたところ,可塑
性食品の流動性が低い場合などに,食品がスクリューに絡みついてこれと共
に回転してしまい,食品の移送ができないという問題の解決手段として,外
筒の内周面に,その軸方向に沿う直線状又は螺旋状に,条溝を形成していた
が,このような従来技術には,外筒の内周面の加工や使用後の洗浄が困難で
あるという課題があったので,本件発明は,これを解決するため,外筒の内
周面に条溝を形成することに代えて,外筒に挿入する軸の外周面に条溝を形
成することにより,加工及び使用後の洗浄を容易にするとともに,餡などの
流動性の低い可塑性食品や粘着性がある可塑性食品を,ブレードと共回りす
ることなく,外筒の先端に設けた送出口に移送し,その前方に送り出すこと
ができるようにしたものということができる。
そうすると,本件明細書の特許請求の範囲に記載された本件発明の構成の
うち , 外筒内に軸方向ほぼ全長にわたって,
「 外周面に前記供給口と対向する
部分から先端に至る条溝が形成してある軸を挿入し,前記軸の外周面と前記
外筒の内周面とに内縁と外縁とがそれぞれ摺接して回転する螺旋状の送出用
ブレードを,軸と外筒との間に介在させ, 「前記軸を非回転または送出用ブ
」
レードの回転より低速に回転するようにした」点(以下「特徴的部分」とい
う。 が,上記の従来技術にはない構成であって,本件発明における課題解決
)
手段を基礎付ける特徴的部分であると解するのが相当である。
3 事実認定
(1) 証拠(甲4∼8 ,15∼24,34∼43,乙1,2,4∼25〔甲 ,乙
号証とも,枝番のあるものを含む。なお,以下では,枝番を省略することが
ある 。 ,原告代表者X及び被告代表者Yの各本人尋問の結果)及び弁論の全
〕
趣旨によれば,次の各事実が認められる。
ア 原告及び被告は,餡製造用横型フィルタースクリュープレスを原告が製
造して,被告に供給することに関し,平成3年10月24日付け製品取引
契約(甲4)及び同年10月29日付け売買契約(甲5)を締結し,これ
に基づき,MM−1横型フィルタースクリュープレスS型2台が原告から
被告に納入された(乙6,甲6 )。
被告は,平成6年8月2日,原告に対し,上記製品の性能が満足し得る
ものではないとして,上記製品取引契約の更新を拒絶し,上記売買契約を
解除するとともに,善後策について協議することを申し入れた(乙8 ) こ
。
れを受けて ,原告及び被告間で協議がされたが ,原告は,同年9月27日 ,
被告に対し ,製品をもって精算したい旨通知した(乙9) その後,原告及
。
び被告は,餡製造用横型フィルタースクリュープレスの設計・開発を再開
することで,いったん合意した。
イ(ア)Xは,C(当時,原告の社内でコンピュータを用いた製図(CAD)を
扱える者は,同人のみでであった。 に指示して,平成7年7月28日こ
)
ろ,左上に「参考図」,右下に ,「内外円筒面摺動スクリュの構想,OT
O−154,H7.7.28」などと記載された甲15図面を作成させ
た。
甲15図面には,次の記載等があるが,軸に溝を設けることを示す記
載等はない。
① 「本構想における スクリュの加工法・諸元(ピッチ・条数・内径
等)は未定であるが 次の事項は確かであると考えられる。
1.スクリュはブッシングによって駆動されねばならぬ。図ではピ
ン数本で駆動している。
2.スクリュの心棒は今までのスクリュとは逆に,ブッシングの方
はテフロンブッシュで滑動,バルブシートの方はキーで固定され
る。」
② 甲15図面には,基端部に供給口が設けられること,出口を形成し
た外筒に軸方向に全長にわたって軸である心棒が挿入されること,心
棒の外周面と外筒の内周面に螺旋状の送出用ブレードからなるスクリ
ュウが心棒と外筒との間に介在されること ,スクリュウのブレードは ,
回転させるための外部の装置から回転される歯車,及びピンが設けら
れること,心棒は出口側のキーにより非回転にされることなどが,図
示されている。
(イ) Xは,同年8月1日,甲15図面を被告のBに宛ててファックス送信
した。その後ほどなく,Xは,甲15図面に接した。
(ウ) Xは,Cに指示して,平成7年10月12日ころ,右下欄に , 株式会
「
社X鉄工所,名称 スクリュSCREW,類別 Y工業殿向,図番 OT
O−164」などと記載された図面(甲16。以下「甲16図面」とい
う。)を作成させた。
甲16図面には,次の記載等がある。
① 「注(1)スクリュの諸元(条数,ピッチ,底径など)は濾過対
象物の種類により,その都度指示する。
本図の寸法は みぞ深さ17.5mm・不等ピッチ で描いてい
る。」
② 甲16図面には,情報軸長の略半分の長さ部分に軸が図示され,
同軸に一体に螺旋状のブレードが図示され,残余の軸長部分には,
インナースリーブが図示され,ブレードの内縁の内側には,骨が図
示され,インナースリーブとの配置関係は,骨の内面がインナース
リーブの外面を摺接する状態に図示されている。また,軸やインナ
ースリーブに設けられるネジ穴等が記載され,寸法等が付記されて
いる。
(エ) Xは,Cに指示して,平成7年10月16日ころ,右下欄に , 株式会
「
社X鉄工所,名称 スクリュ SCREW,類別 Y工業殿向,図番 O
TO−164−1」などと記載された甲7図面を作成させた。
甲7図面には,次の記載等がある。
① 「 2)インナスリーブ外径部の『溝』の諸元を指示願いたい。
(
注(1)スクリュの諸元(条数,ピッチ,底径など)は濾過対象
物の種類により,その都度指示する 。」
② 甲7図面には,軸長の略半分の長さ部分に軸が図示され,同軸に
一体に螺旋状のブレードが図示され,残余の軸長部分には,インナ
ースリーブが図示され,ブレードの内縁の内側には ,骨が図示され ,
インナースリーブとの配置関係は,骨の内面がインナースリーブの
外面を摺接する状態に図示されている。
(オ) Xは,平成7年10月17日,甲7図面を被告にファックス送信した 。
なお,Xは,甲16図面についても,同じころ,被告に送付した。
(カ) Xは,餡ルーダの試作機 インナースリーブに条溝を形成したものと ,
(
条溝を形成しないもの)を作製し,平成7年11月7日,これを被告方
に持参し ,Y及び被告の従業員等の立会の下,試験を実施した 甲39)
( 。
ウ(ア) Yは,平成7年7月4日の業務日誌 甲23の2) 「予定/実作業」
( の
の欄(15時台∼16時台)に, あんルーダー打合」「X社長,D」と,
「 ,
「アクションリスト(本日の計画 )」の欄に ,「あんルーダー打合わせ」
と,「報・連・相・会議」の欄に,「あんルーダー 」 「スクリューによる
,
送りが停滞するところに問題あり,チョッパーの説明をし,食品素材そ
のものが回転しないよう楔効果を出すよう意見を述べた」と,それぞれ
記載するとともに ,ポンチ絵で断面図等とともに , 最大のポイントは共
「
回り防止リブ 」 「くさび効果」などと記載した書面(甲21の3)を添
,
付した。
(イ) Yは,Xからファックス送信された甲7図面中に,インナースリーブ
に設ける条溝と,その断面の形状と思われる書き込みをし(乙17) こ
,
れを,平成7年10月26日,送付先は明らかでないが,被告の社内か
らファックス送信した。
(ウ) Yは,平成7年11月9日の業務日誌(甲23の1)の「文書送受」
の欄に, Bより,X社長より共同出願の件はご勘弁願いたい由(予として
「
は不本意なり。これからの取引のことを考え熟慮の要あり)」と ,「アク
ションリスト(本日の計画)」の欄に ,「スクリューとシリンダーの条溝
との関係を更に考える。」とそれぞれ記載した。
(エ) Yは,平成7年11月10日,本件出願の準備のため,門間弁理士に
対し,指示ないし説明を手書きで記載した書面(乙19の1,2)をフ
ァックス送信した。
上記書面には,図面と共に次の記載等がある。
「可塑性(体)物質の送り装置」
「断面円形内面を有する管の内部に粘度,あん,ジャム,パン生地,
菓子生地などの可塑性物質を送る場合……スクリューを管内に挿入し回
転して送る方法……は『物質』がかなり液状に近く流動性が高い場合に
有効である。これは管内におけるスクリューの回転に対して『物質』そ
のものの重力がスクリューの回転と異なる方向に『物質』を引きつけス
クリューの送りに対するまわりどめ(1種のクサビ効果)を与えて,有
効に 物質 』
『 を移送することができる。しかし可塑性物質の流動性が 固
(
形物に近い方法に)低い場合,或いは若干の粘着性を有する場合におい
ては『物質』はスクリューそのものにからみつき,スクリューと共に回
転してしまい,移送されることがない。従来これを防ぐ方法として,円
型管の内面に條溝を設け ,『物質』が部分的にその條溝に入り ,『物質』
自体が部分同士連結して挙動する範囲において,條溝に入った『物質』
は全体の廻りどめ(くさび効果)となり , 物質』の移送が有効に行われ
『
る。この條溝は通常廻り止めと移送の方向性を考えて,スクリュー回転
軸に平行した直線状に形成されるが, 物質 』の連結挙動(ちぎれない )
『
を有利にする為にスクリューにまつわりつき乍ら,回転することを許容
しつつ廻りどめ効果をもたせる様にスパイラル状に形成されたものがあ
る。」
「本案はこの様な円管内面に條溝を加工し得ない場合のスクリュー移
送を可能にするものである。」
「スクリューの構造
① 設けられるスクリューの構造のうち『物質』を移送するスパイラル
(ネジ状)送り面(ブレード)と,スパイラルを保持し回転していた基
底部(軸部)を相互に回転自由に分離した構造で,且つ分離した基底部
(ローター)の表面に,移送された『物質』の共廻りを防ぐ為の條溝を
設置した構造。
② スパイラルブレードの回転に対して,基底部(ローター)は非回転
或いはブレードより低い回転する①の装置。
③ 共廻りを防ぐ條溝は物質を移送するスパイラルブレードの進行方向
に対して平行な直線か或いはスパイラルブレードの回転と同方向に回転
しつつ『物質』を進行方向に移動させるスパイラル状の條溝であっても
よい。
④ 基底部の外径はスパイラル外径(又は円筒又はパイプ内径)の1/
2以上が効果的である。
⑤ 條溝の断面−廻り止め効果があるようにブレードの回転方向に対し
て,物質がすべり込み易く,且つ廻り止め効果を有する形状が望ましい 。」
「このスクリューの効果は
1.内面に條溝加工が出来ない,或いは加工が困難なパイプ内で,可塑
性を有する粘性又は弱弾性物質の移送に適する。 あん ,
( ジャムなどの可
塑性半流動性を有し,且つ損傷を嫌う物質の移送に適している。)
2.パイプの外側に加熱又は冷却用装置を設けて,加熱又は冷却によっ
て生ずる可塑性物質の加工に利用できる
3.パイプ又は円管部に代えて内面円形のスクリーンに代えることによ
り,スクリューの押出し移送効力によって含水物質の脱水,濃縮を行う
ことができる
4.スバイラルブレードの先端のリード面を漸次狭の,或いは先端出口
管径を狭めることにより『物質』を圧密することが可能であり,一定の
密度を有する吐出する機能を発揮する。」
(2) 上記(1)の各事実を総合考慮すれば,本件に関し,次の各事項を認めるこ
とができる。
ア 甲15図面は,餡製造用横型フィルタースクリュープレスの構成に関す
るXの構想を ,参考図として図面化し ,外筒 ,外筒に挿入する軸 ,送出用ブ
レード等,装置の重要部分を図示したものである なお,
( 甲15図面では ,
ブレード(スクリュ−)の加工法,諸元(ピッチ・条数・内径等)を未定
としている 。 。
)
「フィルタースクリュープレス」とは,濾過を行う装置であるが,外筒
内の供給口と送出口の間で餡の移送を行うことは明らかであり,また,送
出用ブレードを外部の動力源により回転することは自明である。
そうすると,甲15発明の構成を,本件特許の特許請求の範囲の記載の
表現にあわせて記載すると , 基端部に餡などの可塑性食品の供給口を設け
「
かつ先端に前記食品の送出口を形成した外筒内に軸方向ほぼ全長にわたっ
て,前記供給口と対向する部分から先端に至る軸を挿入し,前記軸の外周
面と前記外筒の内周面とに内縁と外縁とがそれぞれ摺接して回転する螺旋
状の送出用ブレードを,軸と外筒との間に介在させ,前記送出用ブレード
回転用の動力装置を外筒外に設置すると共に,前記軸を非回転とした可塑
性食品の移送装置」となるというべきである。なお ,審決は, 餡ルーダー」
「
という表現を用いているが,この用語が,餡などの「可塑性食品の移送装
置」を意味することは明らかであるから,審決における甲15発明の認定
(審決書16頁28行∼33行)は,上記認定と同旨であり,これを是認
することができる。
なお,Xの本人尋問の結果並びに別件審判における同人の供述及びCの供
述(甲20)中には,Xは ,外筒に挿入する軸の外周面に溝を形成すること
を平成7年6月ころ発案し ,甲15図面には記載がないものの,Xは ,甲1
5図面に記載された装置は外筒に挿入する軸の外周面に溝を形成するもの
である旨,Cに口頭で伝えたとする部分があるが ,具体性に乏しい供述であ
り,にわかに措信することができない。
イ 甲7図面及び甲16図面は,Xが被告に甲15図面を送付した後 ,1か月
半ほどして被告に送付した図面であり, ,
軸 ブレード ,インナースリーブ ,
ブレードに形成する骨等を図示しているが,装置を構成する外筒その他の
部分は記載されていない。これは,甲7図面及び甲16図面が,甲15図
面では未定とされていたブレード(スクリュ−)の加工法,諸元(ピッチ
・条数・内径等)についてより具体化したXの構想を図面化したからであ
り,餡製造用横型フィルタースクリュープレスの構成のうち ,図示した軸 ,
ブレード,インナースリーブ,骨等以外の部分については,甲15図面と
同様とするという趣旨と解される。すなわち ,甲7図面及び甲16図面は ,
甲15発明におけるスクリュー部の構成に代えて,軸を半分近くまで切断
したインナースリーブを用いる構成を採用した装置に関するものと理解す
るのが相当である。
なお,甲7図面は,平成7年10月16日付けで図番「OTO−164
−1」とされ,甲16図面は,同月12日付けで図番「OTO−164」
とされていること,両図面は,図示されている骨の構成に若干の差異があ
るものの,軸,ブレード,インナースリーブについて,ほぼ同様の構成を
示していること ,甲7図面は, インナスリーブ外径部の『溝』の諸元を指
「
示願いたい 。 という甲16図面にはない記載を含むことからすれば , ,
」 Xは
Bに対し ,インナースリーブに溝を設けることを伝えるとともに,その具体
的構成を確定するため被告の意見を求めたものであり,そのことを確認す
る趣旨で,甲7図面を送付したものと考えられる。
以上を前提に,甲7発明の構成を本件特許の特許請求の範囲の記載の表
現にあわせて記載すると, 基端部に餡である可塑性食品の供給口を設けか
「
つ先端に前記食品の送出口を形成した外筒内に軸方向の全長の前半部分に
わたって,軸を挿入し,前記全長の後半部分にわたって,条溝が形成して
ある軸状のインナースリーブを挿入し,前記インナースリーブの外周面と
前記外筒の内周面とに内縁に設けた骨と外縁とがそれぞれ摺接して回転す
る螺旋状の送出用ブレードを軸と一体に回転するように設けることによ
り,インナースリーブと外筒との間に介在させ,前記送出用ブレード回転
用の動力を外筒外に設置すると共に,前記インナースリーブを非回転とす
る可塑性食品の移送装置」ということになる。
審決における甲7発明の認定(審決書8頁26行∼33行)は,上記と
同旨であり,これを是認することができる。
ウ Yは,XからBに甲15図面がファックス送信された後,ほどなく甲15図
面に接し,また,Yは ,遅くとも同年10月26日までに,甲7図面中にイ
ンナースリーブに設ける条溝に関する書き込みをしているから 前記(1)イ
(
(イ),ウ(イ) ),Yは,門間弁理士に対する指示・説明をファックス送信し
た平成7年11月10日に先立って,甲15発明及び甲7発明を知得する
に至ったことが認められる。
エ Yは,平成7年7月4日,X及びYを含む原被告の関係者が協議を行った席
で,餡ルーダーに関し,スクリューにより移送されるべき固形分がスクリ
ューと共に回転してしまうという問題があることを指摘するとともに,チ
ョッパー(肉挽機)においては,食品素材そのものが外筒の内面に設けら
れたリブ又は条溝に食い込むことにより,くさびとしての機能を発揮し,
スクリューと共に回転しないという効果が奏されていることを説明した
(前記(1)ウ(ア) )。
したがって,Yは ,甲15図面 ,甲7図面に接する前から ,可塑性食品の
流動性が低い場合などに,食品がスクリューに絡みついてこれと共に回転
してしまい,食品の移送ができないという問題を意識していたことが認め
られる。
しかし,Yの上記指摘・説明は ,外筒の内側にリブ又は条溝を設けるとい
う従来技術ないしそのバリエーションについての説明にとどまり, ,
Yが そ
の当時,外筒に挿入する軸の外周面に条溝を形成するという発想に至って
いたとは認められず ,まして,かかる発想をXないし原告に教示したものと
いうことはできない 。もしYが ,平成7年7月4日の時点で,外筒に挿入す
る軸の外周面に条溝を形成するという発想をXに教示していたとすれば ,そ
の後に作成された甲15図面に当然反映されるはずであるが,甲15図面
に,外筒に挿入する軸に溝を設けることを示す記載等はないことは,前記
のとおりである。
オ 被告は,乙16に,平成13年3月ころ行われたXとBとの話し合いの席
で, 「Yから外側にグルーブを彫るヒントを頂いたのも確かだがXとして
Xが
も考えてはいたし,それを設計し実用化したのはX側である 。」と発言した
との記載があることを指摘するので,検討する。
本件出願前,Xが検討していたのは ,移送のみでなく,濾過をも行う餡製
造用横型フィルタースクリュープレスであるから,濾過膜となるべき外筒
の内側に条溝等を設けることは技術的に困難であったはずである。したが
って ,Yから,平成7年7月4日 ,餡の固形分がスクリューと共に回転して
しまうという問題と,外筒の内面に条溝等を設ける従来技術について教示
されたXは,これを契機として,外筒の内側に条溝等を設けることに代えて ,
何らかの解決策を見い出そうとしたはずであり,その結果として,甲7発
明においてインナースリーブ外径部に溝を設けるという発想に至ったとす
れば,それはごく自然である。
他方 ,Yが,甲7図面に接するに先立って,外筒に挿入する軸の外周面に
条溝を形成するという発想に至っていたことを認めるに足りる証拠はな
い。
そうすると,乙16にいう「ヒント」の具体的内容は明らかでないが,
Xは,平成7年7月4日にYから受けた餡の固形分がスクリューと共に回転
してしまうという問題及び外筒の内面に条溝等を設ける従来技術について
の教示を念頭に ,「ヒント」と発言したのであって,Yから外筒に挿入する
軸の外周面に条溝を形成するという発想について教示を受けたことについ
て,「ヒント」と発言したものではないと解するのが相当である。
カ Yは,平成7年11月10日,本件発明について詳細に説明した書面を門
間弁理士にファックス送信しているから 前記(1)ウ(エ) ) Yは,
( , 甲7図面 ,
甲15図面,平成7年11月7日の試験の結果等を踏まえて,上記書面を
作成したものと推認される。
そして,Yが門間弁理士にファックス送信した上記書面は,本件発明の特
徴的部分を含め,すべての構成を,その作用効果と共に記載しているとい
うことができる。
なお ,前記のとおり , ,
Yは 平成7年11月9日の業務日誌 甲23の1)
(
に, Bより,X社長より共同出願の件はご勘弁願いたい由(予としては不本
「
意なり。これからの取引のことを考え熟慮の要あり) と記載しているが ,
」
これは,本件出願をするに際して ,Yが原告及び被告の共同出願とすること
を提案したのに対し ,これをXが拒否したことを意味すると解するのが合理
的であるところ ,この事情からは ,当時 ,Yにおいて,本件発明は自らの単
独発明ではなく ,少なくともXとの共同発明であるとの認識を有していたこ
とを認めることができる。
4 本件発明の発明者(共同発明者)について
(1) Xを単独発明者とする原告の主張について
以上を前提として,本件発明の特徴的部分の完成に寄与した者を検討する 。
原告は,Xが本件発明の単独発明者であるとし ,その理由として ,甲7発明と
本件発明が実質的に同一である旨を主張していると解されるから,まず,両
者を対比する。
ア 本件発明では , 外筒内に軸方向ほぼ全長にわたって,
「 外周面に前記供給
口と対向する部分から先端に至る条溝が形成してある軸を挿入し」てあり ,
このような形状の 軸」
「 が特徴的部分を構成するのに対し ,甲7発明では ,
「外筒内に軸方向の全長の前半部分にわたって,軸を挿入し,前記全長の
後半部分にわたって,条溝が形成してある軸状のインナースリーブを挿入
し」てある。甲7発明の「軸」及び「条溝が形成している軸状のインナー
スリーブ」は,本件発明1の「軸」に相当し得る部材であるが,条溝が形
成される範囲が相違している。
イ そうすると,甲7発明をもって本件発明と同一の発明とまでは評価でき
ないから,Xが甲7発明を発明したことをもって ,同人が本件発明の特徴的
部分すべてを完成させたとまではいえず,本件発明の完成は ,その後にYの
関与の下においてされたものというべきである 。したがって,Xが本件発明
の単独発明者であるということはできない。
(2) Xを共同発明者とする原告の主張について
ア 上記(1)のとおり,甲7発明は本件発明の同一の発明とはいえない。
しかしながら,従来技術のように外筒の内周面に条溝を形成することに
代えて,外筒に挿入する軸の外周面に条溝を形成したという点において,
本件発明と甲7発明は共通するものであり,また,加工及び使用後の洗浄
を容易にするという作用効果においても,格別異なるものではない。そし
て,甲7発明においても,条溝が形成してある軸状のインナースリーブが
挿入されている後半部分(出口側)において,餡などの流動性の低い可塑
性食品をブレードと共回りすることなく,外筒の先端に設けた送出口に移
送し,その前方に送り出すことができるという作用効果を奏することは,
その構成から明らかである。
イ 本件発明では , 前記軸の外周面と前記外筒の内周面とに内縁と外縁とが
「
それぞれ摺接して回転する螺旋状の送出用ブレードを,軸と外筒との間に
介在させ」ているところ,甲7発明では, 前記インナースリーブの外周面
「
と前記外筒の内周面とに内縁に設けた骨と外縁とがそれぞれ摺接して回転
する螺旋状の送出用ブレードを軸と一体に回転するように設けることによ
り,インナースリーブと外筒との間に介在させ」ている。しかし,本件明
細書の特許請求の範囲の記載において,送出用ブレードに骨を設けること
は排除されているとはいえず,また,本件明細書には,実施例として,軸
の外周面に軸方向に沿う直線状に条溝を形成した態様が記載されていると
ころ,少なくともそのような態様のものに関する限り,ブレードが可塑性
食品を剪断することは明らかであり,その程度も骨がある場合とさほど変
わらないというべきであるから,甲7発明において,骨が設けられている
ことをもって,本件発明とは原理を異にするとはいえない。
ウ 本件発明では , 前記軸を非回転または送出用ブレードの回転より低速に
「
回転するようにした 」のに対し ,甲7発明では, 前記インナースリーブを
「
非回転」としているから,軸を非回転とする態様に関する限り,甲7発明
と本件発明とは原理を異にするものではない。
エ 前記(1)イのとおり甲7発明をもって本件発明と同一の発明とまでは評価
できないものの,上記ア∼ウによれば,本件発明の特徴的部分のほとんど
は,甲7発明において既に見受けられるものというべきである。
オ そして,本件出願に先立って,甲7発明の記載された甲7図面が ,Xから
被告に対してファクシミリ送信され ,Yがその内容を知ったことは既に認定
のとおりである。
カ そうすると, ,
Xは 本件発明の特徴的部分の完成に対して創作的に寄与し
たものと認めることができるから,Xは ,本件発明につき ,少なくとも共同
発明者であるというべきである(なお,このことは,前記のとおり,本件
出願につき ,原告と被告の共同出願とすることを提案したYの行動とも ,符
合するものである。 。
)
(3) 被告の主張について
ア 被告は,Xが軸の外周に溝を形成することを発想したことがあるとして
も,それは,出口側で詰まって動かない流動物をバイパス流動させ,入り
口方向に戻す技術であり,可塑性食品がブレードと共に回転することを防
止する本件発明とは全く異なる技術であると主張する。
確かに,Xの本人尋問の結果及び別件審判におけるCの供述(甲20)に
よれば,X及びCは,甲7発明において,インナースリーブ外径部に溝を設
けることの作用効果を,移送の開始時点ではなく,出口付近で発生する可
塑性食品が詰まる現象の防止という観点から認識していることがうかがわ
れる。
しかし,本件明細書の段落【0003】の「食品が液状に近く流動性が
高い場合には,外筒内でのスクリューの回転に対し,前記食品の重力がス
クリューの回転と異なる方向に食品を引きつけ,スクリューの送りに対す
る回り止めとなるため,有効に前記食品を移送できる。しかし,可塑性食
品の流動性が低い,すなわち固形物に近い場合や前記食品が若干粘着性を
有する場合などには,食品がスクリューに絡みついて,これと共に回転し
てしまい,食品の移送ができない。 との記載が示すとおり ,可塑性食品が
」
ブレードと共に回転してしまうという問題は,可塑性食品が液状に近く流
動性が高い場合ではなく,固形物に近いなど流動性が低い場合に生じるも
のである。そして,移送のみでなく,濾過をも行う餡製造用横型フィルタ
ースクリュープレスに関する甲7発明においては,可塑性食品がブレード
と共に回転するという問題は,脱水が進んでいない移送の開始時点ではあ
まり顕著でなく,脱水が進行した出口付近でより顕著となるものであるか
ら,甲7発明において,外径部に条溝が形成されたインナースリーブが,
給口と対向する部分から先端に至る全長の後半部分のみに設けられている
ことをもって,本件発明と別異の技術ということはできない。
そして,インナースリーブ外径部に条溝を形成することにより,可塑性
食品がブレードと共に回転することが防止できることは,当該構成が客観
的に有する作用効果であるから ,Xが当該構成について発想している以上,
その作用効果を認識していなかったとしても,当該構成について創作的に
寄与したことを否定することはできない。
イ 審決は,甲7発明の骨が,移送する可塑性食品を外筒に挿入する軸の外
周面から剪断することを理由として,甲7発明と本件発明とは解決のため
原理を異にする旨認定しており,被告はかかる認定に誤りはない旨主張す
る。
しかし,前記のとおり,少なくとも軸の外周面に軸方向に沿う直線状に
条溝を形成した態様に関する限り,ブレードが可塑性食品を剪断され,そ
の程度も骨がある場合とさほど変わらないところであり,また,本件明細
書の特許請求の範囲は, 前記軸の外周面と前記外筒の内周面とに内縁と外
「
縁とがそれぞれ摺接して回転する螺旋状の送出用ブレードを,軸と外筒と
の間に介在させ」たと規定しているにとどまり,ブレードに骨を設ける構
成を排除しているとはいえない。
したがって,ブレードに骨が設けられていることから直ちに甲7発明と
本件発明とは解決のため原理を異にするということはできない。
ウ 上記のとおり ,本件発明が, 外周面に前記供給口と対向する部分から先
「
端に至る条溝が形成してある軸を挿入し,前記軸の外周面と前記外筒の内
周面とに内縁と外縁とがそれぞれ摺接して回転する螺旋状の送出用ブレー
ドを ,軸と外筒との間に介在させ 」との構成を採用していることについて ,
「甲7発明とは,解決のための原理を異にする視点からの独自の構成の採
用」であるとした審決の認定判断は,誤りというべきである。
(4) 小括
以上検討したところによれば,本件発明と甲15発明とを対比検討するま
でもなく(原告は,本件発明と甲15発明が実質上同一でないことを認めて
いると解される。 ,
) 本件発明については ,Yの関与の下において完成されたも
のであるが,その特徴的部分についてXが創作的に寄与したものと認められる
から,本件発明は,Yの単独発明ではなく,Xを共同発明者とする発明と認め
るのが相当である。
5 結論
以上のとおり ,本件発明について ,Xを単独発明者とする発明であるとの原告
主張は採用できないが,本件発明は,少なくともXを共同発明者とする発明であ
るとの原告主張は是認すべきものであり,これと異なる認定判断を前提とする
審決は,取消しを免れない。
したがって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁 判 長 裁 判 官 三 村 量 一
裁 判 官 大 鷹 一 郎
裁 判 官 嶋 末 和 秀
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