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平成18(行ケ)10379審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年6月28日
事件種別 民事
当事者 被告大宇電子ジャパン株式会社
原告船井電機株式会社
法令 実用新案権
キーワード 審決88回
実施9回
無効6回
進歩性3回
無効審判2回
訂正審判1回
刊行物1回
分割1回
新規性1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が有する後記実用新案登録(請求項1)について,被告が無効 審判請求をしたところ,特許庁が上記実用新案登録を無効とする旨の審決をし たことから,原告がその取消しを求めた事案である。

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判決文

判決言渡 平成19年6月28日
平成18年(行ケ)第10379号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成19年6月21日
判 決
原 告 船 井 電 機 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 安 江 邦 治
訴訟代理人弁理士 渋 谷 和 俊
被 告 大宇電子ジャパン株式会社
訴訟代理人弁護士 牧 野 利 秋
同 矢 部 耕 三
同 花 井 美 雪
同 河 野 祥 多
訴訟代理人弁理士 大 塚 就 彦
同 西 山 文 俊
同 松 山 美 奈 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2005−80334号事件について平成18年7月18日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が有する後記実用新案登録(請求項1)について,被告が無効
審判請求をしたところ,特許庁が上記実用新案登録を無効とする旨の審決をし
たことから,原告がその取消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,平成4年1月10日,名称を「ビデオテープ記録再生装置」とす
る考案について実用新案登録出願(実願平4−4159号)をし,平成10
年2月27日,実用新案登録第2571891号として設定登録を受けた
(請求項の数1。以下「本件実用新案登録」という。実用新案登録公報は甲
2の1)。その後,原告は,平成17年4月22日付けで,本件実用新案登
録の請求項1等について訂正審判請求(訂正2005−39068号)を行
い,特許庁は平成17年7月21日これを認める旨の審決をした(以下「本
件訂正」という。甲2の2)。
ところが,被告は,訂正後の本件実用新案登録について平成17年11月
21日付けで無効審判請求を行ったところ,特許庁はこれを無効2005−
80334号事件として審理した上,平成18年7月18日,「登録第25
71891号の実用新案登録を無効とする。」旨の審決をし,その謄本は平
成18年7月28日原告に送達された。
(2) 考案の内容
本件訂正後の請求項1に係る考案は,次のとおりである(以下「本件考
案」という。)。
「【請求項1】 電源回路の電子部品を1枚のプリント配線基板の1所定
領域である電源領域に実装し,前記電源回路以外のビデオ電子部品を前記
プリント配線基板の電源領域以外の領域であるビデオ回路領域に実装した
前記プリント配線基板と,前記プリント配線基板に対して平行に配置さ
れ,かつその上に搭載されたビデオヘッドシリンダのコアギャップが,そ
の面に対してほぼ垂直の方向になるように形成されたビデオ機構部品搭載
用シャーシとを具備し,
前記電源領域の電源回路はスイッチング・レギュレータ回路で構成し,
前記回路の高周波トランスは,そのコアのギャップによる高周波漏れ磁
束を生ずるコアギャップに面を前記プリント配線基板に平行に配置し,
前記電源領域にはAC商用電源端子を有し,前記ビデオ回路領域にはチ
ューナ,IFアンプおよびRFコンバータの回路端子を有することを特徴
とするビデオテープ記録再生装置。」
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件
考案は,下記の各文献に記載された考案からきわめて容易に考案すること
ができた,というものである。

・特開平2−281494号公報(甲3。以下同公報を「甲3」といい,
同公報記載の考案を「引用考案」という。)
・特開昭59−154486号公報(甲4。以下同公報を「甲4」とい
う。)
・実願昭55−111406号(実開昭57−35015号)のマイクロ
フィルム(甲5。以下同公報を「甲5」という。)
・特開平1−245597号公報(甲6。以下同公報を「甲6」とい
う。)
・特開平2−163995号公報(甲7。以下同公報を「甲7」とい
う。)
・特開平3−135371号公報(甲8。以下同公報を「甲8」とい
う。)
・特開昭58−30291号公報(甲9。以下同公報を「甲9」とい
う。)
・米国特許第4686570号明細書(甲10。以下同明細書を「甲1
0」という。)
・米国特許第4727591号明細書(甲11。以下同明細書を「甲1
1」という。)
イ なお,審決は,引用考案の内容(甲3),同考案と本件考案との一致点
及び相違点を,次のとおり認定している。
〈引用考案の内容〉
「ビデオテープレコーダ(VTR)1の筐体2と,
前記筐体2内(のプリント基板10の図中左側)に配設されたテープ走
行機構4と,
前記筐体2内(のプリント基板10の図中右側)に配設された電源供給
ボックス5と,
前記筐体2の下部に設けられた開口部2aに金属製の底板3を介して該
開口部2aを塞ぐように取り付けられ,ヘッドアンプブロック11,サー
ボ回路系ブロック12,オーディオ回路系ブロック13,システムコント
ロール回路系ブロック14,及び,チューナブロック15を実装したプリ
ント基板10と,を有し,
前記走行機構4の一部をなす回転ヘッド6と上記プリント基板10のヘ
ッドアンプブロック11にマウントされたヘッドアンプ(IC)はハーネ
ス7により接続されている
磁気記録再生装置。」
〈一致点〉
「電源回路の電子部品と,
前記電源回路以外のビデオ電子部品をビデオ回路領域に実装したプリ
ント配線基板と,
前記プリント配線基板に対して平行に配置され,かつその上に搭載さ
れたビデオヘッドシリンダのコアギャップが,その面に対してほぼ垂直
の方向になるように形成されたビデオ機構部品搭載用シャーシとを具備
し,
前記ビデオ回路領域にはチューナを有する
ビデオテープ記録再生装置。」
〈相違点〉
a 「プリント配線基板」に関し,本件考案は,電源回路の電子部品を1
枚のプリント配線基板の1所定領域である電源領域に,電源回路以外の
ビデオ電子部品を電源領域以外のビデオ回路領域に実装するものである
のに対し,引用考案は,電源回路以外のビデオ電子部品は(1枚の)プ
リント配線基板上に実装するものであるが,電源回路の電子部品の実装
箇所については特に具体的に示されていない点(以下「相違点a」とい
う。)
b 電源回路に関し,本件考案は,スイッチング・レギュレータ回路で構
成し,その回路の高周波トランスは,そのコアのギャップによる高周波
漏れ磁束を生ずるコアギャップに面をプリント配線基板に平行に配置す
るものであるのに対し,引用考案においては,特にこのことについて示
されていない点(以下「相違点b」という。)
c 本件考案においては,(1枚のプリント配線基板上の)電源領域に
は,AC商用電源端子を有し,ビデオ回路領域にはIFアンプおよびR
Fコンバータの回路端子を有するものであるのに対し,引用考案におい
ては,特にこのことについて示されていない点(以下「相違点c」とい
う。)
(4) 審決の取消事由
しかしながら,審決は,次に述べるとおり,本件考案と引用考案の一致点
及び相違点の認定を誤り,相違点についても誤った判断をしたから,違法と
して取り消されるべきである。
ア 取消事由1(相違点・一致点の認定の誤り)
(ア) 取消事由の主張に先立ち,本件考案の構成を分説すると,以下のと
おりとなる。
A 電源回路の電子部品を1枚のプリント配線基板の1所定領域である
電源領域に実装し,前記電源回路以外のビデオ電子部品を前記プリン
ト配線基板の電源領域以外の領域であるビデオ回路領域に実装した前
記プリント配線基板と,
B 前記プリント配線基板に対して平行に配置され,かつその上に搭載
されたビデオヘッドシリンダのコアギャップが,その面に対してほぼ
垂直の方向になるように形成されたビデオ機構部品搭載用シャーシと
を具備し,
C 前記電源領域の電源回路はスイッチング・レギュレータ回路で構成
し,
D 前記回路の高周波トランスは,そのコアのギャップによる高周波漏
れ磁束を生ずるコアギャップに面を前記プリント配線基板に平行に配
置し,
E 前記電源領域にはAC商用電源端子を有し,前記ビデオ回路領域に
はチューナ,IFアンプおよびRFコンバータの回路端子を有する
F ことを特徴とするビデオテープ記録再生装置。
(イ) 一致点の認定の誤り
引用考案(甲3)における「ヘッドアンプブロック11,サーボ回路
系ブロック12,オーディオ回路系ブロック13,システムコントロー
ル回路系ブロック14,及び,チューナブロック15」,すなわち電源
回路以外の「ビデオ回路部品」は,正にプリント基板10全体を占めて
搭載されているのであるから,これを,本件考案における「ビデオ回路
領域」と対比することは誤っている。なぜなら,「ビデオ回路領域」と
いう名称を使用するからには,プリント基板10の一部にあって,プリ
ント基板10の「他の領域」に本件考案でいうような電源領域が登載さ
れた1枚のコンパクトに実装したプリント配線基板上にあるものでなけ
ればならないからである。したがって,審決が「前記電源回路以外のビ
デオ電子部品をビデオ回路領域に実装したプリント配線基板」を一致点
としている点は誤りである。
また,本件考案は「ビデオ回路領域」に「チューナ,IFアンプ及び
RFコンバータの回路端子」を有している。この「チューナ,IFアン
プ及びRFコンバータの回路端子」は,いわゆる3in1チューナパッ
ケージ(1パッケージ内にチューナ,IFアンプ,RFコンバータが収
納されているもの。以下同じ)との接続用端子(接続用ランド)である
ため,本件考案は「ビデオ回路領域」に「チューナ」自体を有していな
い。したがって,「前記ビデオ回路領域にはチューナを有する」という
点も一致点とはなり得ない。
(ウ) 相違点の認定の誤り
a 相違点aにつき
(a) 引用考案では,プリント配線基板から独立した電源供給ボック
スの中に電源回路が格納されている。このことは,甲3の第1図か
ら明らかであり,以下のαβγの各記載から裏付けられる。
α 甲3には「上記プリント基板10の一端(図中左端)側の筐体
2内の図中左側に配設されたテープ走行機構4の下側には,ヘッ
ドアンプブロック11を配置してある。また,該プリント基板1
0の他端(図中右端)側の筐体2内の図中右側に配設された電源
供給ボックス5の下側には,サーボ回路系ブロック12とオーデ
ィオ回路系ブロック13及びシステムコントロール回路系ブロッ
ク14をそれぞれ配置してある。」(2頁左下欄8行∼16行)
という記載があり,この記載から,電源供給ボックス5がプリン
ト基板10から独立していることが明らかである。
β 電源供給ボックス5の下側に対応するプリント基板10の領域
には,サーボ回路系ブロック12とオーディオ回路系ブロック1
3及びシステムコントロール回路系ブロック14が既に実装され
ているため,1枚の「プリント基板10」上に電源供給ボックス
5が実装されることはあり得ない(甲3の第1図参照)。
γ ヘッドアンプブロック11から電源供給ボックス5を遠ざけな
ければ,ヘッドアンプ用のシールドケースを廃止できないこと
は,甲3の「1枚のプリント基板10にヘッドアンプブロック1
1を,影響を受け易いサーボ回路系ブロック12,オーディオ回
路系ブロック13,システムコントロール回路系ブロック14及
び電源供給ボックス5から遠ざけるようにそれぞれ配置したの
で,従来ヘッドアンプブロックを覆うように設けられていたヘッ
ドアンプ用のシールドケースを廃止することができる。」(3頁
左上欄1行∼8行)との記載から,明らかである。
(b) したがって,相違点aのうち,引用考案において「電源回路の
電子部品の実装箇所については特に具体的に示されていない」とす
る認定は誤っており,正しくは「電源回路の電子部品は前記(1枚
の)プリント配線基板から独立した電源供給ボックスの中に格納さ
れている」となる。
なお,被告は,本件考案における「実装」の意味は「同じ1枚の
基板に各電子部品の端子が直接取り付けられている」態様に限定さ
れず,「1枚の基板に各電子部品が間接的に取り付けられている」
態様も含むと主張するが,本件考案はビデオ回路と電源回路が別々
のプリント配線基板であった従来技術に対し,ビデオ回路を実装し
たプリント配線基板と電源回路を実装したプリント配線基板の間の
接続配線を削減し,1枚のプリント配線基板にコンパクトに実装し
たものであるから,被告の主張は失当である。
b 相違点bにつき
相違点bは,本件考案の構成要件Dだけを取り出してそれに対応す
るものについて判断しており,本件考案の構成要件BとDによってビ
デオ・ヘッド・シリンダのコアギャップと高周波トランスのコアギャ
ップとの配置関係が定まる点を看過している。
また,審決は,後記イ(ウ)bのとおり,「基板に対するこのような
コアの取付け方はごく通常の態様である。」(32頁下2行∼下1
行)の「基板」に「電源回路以外のビデオ電子部品を実装したプリン
ト配線基板」が含まれない点を看過している。
c 相違点cにつき
審決は,本件考案の「チューナ,IFアンプ及びRFコンバータの
回路端子」を「チューナ」と「IFアンプ及びRFコンバータの回路
端子」とに分けて,「チューナ」を一致点とし,「IFアンプ及びR
Fコンバータの回路端子」を相違点cとしている。
しかし,本件考案の「チューナ,IFアンプ及びRFコンバータの
回路端子」は,本件実用新案登録出願当時一般に用いられていた,い
わゆる「3in1チューナパッケージ」との接続用端子(接続用ラン
ド)であるから,上記「チューナ,IFアンプ及びRFコンバータの
回路端子」に関する審決の認定は,技術的に誤っている。
イ 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
(ア) 判断の脱漏
上記のとおり,本件考案と引用考案との一致点に誤認があり,相違点
a∼cについて誤認がある状態で相違点の検討を行っている審決の判断
には,脱漏がある。
(イ) 相違点aについての判断の誤り
審決は,「引用考案と甲第4号証とは,電源回路部と他回路部を備え
る装置という限りでは共通すると言える」(32頁18行∼19行)と
の理由で,「引用考案においても,甲第4号証に記載のもののように,
1枚のプリント配線基板上にビデオ電子部品に加え,別途電源領域を形
成し,単に,電源回路の電子部品をも実装するようにすることは当業者
がきわめて容易に想到できたものである」(32頁19行∼22行)と
判断している。
しかし,「引用考案においても,甲第4号証に記載のもののように,
1枚のプリント配線基板上にビデオ電子部品に加え,別途電源領域を形
成し,電源回路の電子部品をも実装するようにすること」は,以下の
a,bで述べるように,当業者がきわめて容易に想到できたものではな
い。
a 引用考案において,甲4に記載のもののように,1枚のプリント配
線基板上にビデオ電子部品に加え,別途電源領域を形成した場合,こ
の電源領域は,引用考案の電源供給ボックス5と比べて相対的にヘッ
ドアンプブロック11に近い位置となるか(甲3の第1図の正面視に
おいて,左側,前側又は後側に電源領域を設けた場合),若しくは,
プリント基板上の各ブロック(サーボ回路系ブロック12,オーディ
路回路系ブロック13,システム回路系ブロック14)が,甲3の第
1図に記載された各ブロックの位置よりも相対的にヘッドアンプブロ
ック11に近い位置となる(甲3の第1図の正面視において,右側に
電源領域を設けた場合)。
ここで,甲3の記載からは,ヘッドアンプブロック11と,プリン
ト基板上の各ブロック及び電源供給ボックス5とを,どの程度遠ざけ
れば,ヘッドアンプ用のシールドケースを廃止することができるのか
定かではないが,少なくとも,「引用考案においても,甲第4号証に
記載のもののように,1枚のプリント配線基板上にビデオ電子部品に
加え,別途電源領域を形成し,電源回路の電子部品をも実装するよう
にする」という構成をとることは,「影響を受け易い要素」(甲3の
3頁左上欄2行∼5行参照)であるサーボ回路系ブロック12,オー
ディオ回路系ブロック13,システムコントロール回路系ブロック1
4及び電源供給ボックス5の一部をヘッドアンプブロック11に近づ
けることに他ならず,甲3の目的に反する方向に変更することにな
る。したがって,「引用考案においても,甲第4号証に記載のものの
ように,1枚のプリント配線基板上にビデオ電子部品に加え,別途電
源領域を形成し,電源回路の電子部品をも実装するようにすること」
は明らかな阻害要因を有し,当業者がきわめて容易に想到できたもの
ではない。
以上のとおり,従来のノイズ対策で用いられてきたAC商用電源入
力のスイッチング電源回路を収納する弁当箱形状の電磁シールドケー
スを廃止することは,そもそも当業者の技術常識に反するものであっ
たのである。
b 本件考案の「電源回路」は,本件実用新案登録請求の範囲の請求項
1に「前記回路の高周波トランス」という記載があることから明らか
なように,「高周波トランス」を含むものである。一方,甲4の「電
源回路部(3a)」には「電源トランス(4)」が実装されていないの
で,本件考案の「電源回路」とは,明らかに異なるものである。
この点に関して,審決は「なお,スイッチング電源装置そのもので
あるが,複数の電子部品を搭載した前段回路とパルストランス(高周
波トランス)を含む後段回路を同一の基板上に実装すること,言い換
えると,一方の回路は高周波トランスを含むものである2種類の回路
を1枚の基板上に実装すること自体は甲第8号証に記載されていると
ころである。」(32頁22行∼26行)と判断している。
本件実用新案登録の出願(平成4年1月10日)当時,据置型ビデ
オ装置において,審決32頁下7行∼6行で取り上げられている特開
昭61−79393号公報及び特開昭63−253866号公報にみ
られるようにAC商用電源入力のスイッチング電源回路は広く用いら
れていたが,このスイッチング電源回路の据置型ビデオ装置への搭載
形態としては,弁当箱形状の電磁シールドケースの中に収納された状
態で,電源回路以外のビデオ電子部品を実装したプリント配線基板と
は独立して搭載される構造のものしか存在しなかった。このような本
件実用新案登録出願当時の状況を勘案すると,たとえ甲8(特開平3
−135371号公報)を考慮しても,電源回路用基板が1枚であ
り,その1枚の電源回路用基板に高周波トランスを含む電源回路が実
装されている構成を想到できるにすぎない。
なお,甲8に記載のスイッチング・レギュレータは,小型薄型化を
実現するものであるが,その実施例において,20cm×30cmサ
イズの基板が用いられており(甲8の3頁左上欄18行∼19行),
その基板サイズは据置型ビデオ装置にとっては大きすぎるため,据置
型ビデオ装置において甲8に記載のスイッチング・レギュレータを採
用すること自体がきわめて困難である。
また,本件実用新案登録の出願当時,ノイズレベルが大きいAC商
用電源入力のスイッチング電源回路は,独立したユニットとして外部
のメーカーから購入することを前提としており,購入した側がどのよ
うに取り付けるかは限定できないため,弁当箱形状の電磁シールドケ
ースに収納することでノイズ対策を施すことが技術常識であった。甲
4(特開昭59−154486号公報)は,ディスプレイ装置に関す
るものであって,上記技術常識を打ち破って,引用考案の電源供給ボ
ックス内の電源回路をビデオ電子部品が搭載されているプリント基板
に搭載する動機付けにはならない。
さらに,甲4記載の「電源トランス(4)」は,電源端子から直接
接続されていることから,50−60HZ(低周波)のドロッパ型ト
ランスと解される。甲4には,本件考案のように高周波に変換するス
イッチング電源回路も高周波トランスも記載されていない。しかも,
ノイズを拾いやすいビデオヘッドシリンダも存在しない。このことか
ら据置型ビデオテープ記録再生装置のように深刻なノイズ対策は必要
ないと見るべきであり,実際に甲4のどこにもノイズ対策に関する記
載はない。甲8は,スイッチング電源装置そのものに関するから,高
周波トランスから発生するノイズを受ける対象が何であって,どのよ
うにノイズ対策をすればよいか等については,甲8には開示も示唆も
されていない。
以上のとおり,甲4及び甲8に基づいて高周波トランスからのノイ
ズ対策を考慮することはできないので,「引用考案において,甲第4
号証に記載のもののように,1枚のプリント配線基板上にビデオ電子
部品に加え,別途電源領域を形成し,電源回路の電子部品をも実装す
るようにすること」は,当業者がきわめて容易に想到できたものでは
ない。
(ウ) 相違点bについての判断の誤り
a 審決は,「VTR等の磁気記録再生装置の電源回路として,スイッ
チングレギュレータ回路を使用することは,甲第6号証の外にも,特
開昭61−79393号公報,及び,特開昭63−253866号公
報にもみられるように本願出願前にごく周知の技術である」(32頁
下8行∼下5行)と認定している。
しかし,甲6(特開平1−245597号公報)で用いられている
スイッチングレギュレータは,DC電源入力のものであり,当業者の
技術常識に基づいて,本件考案の考察対象であるノイズ成分及びノイ
ズレベルに着目すると,甲6のスイッチングレギュレータとAC商用
電源入力のスイッチングレギュレータである特開昭61−79393
号公報及び特開昭63−253866号公報に記載のものとは明確に
区別されるべきである。これを同一のものとして「周知の技術であ
る」とする審決の上記認定には誤りがある。
b 審決は,「また,甲第5号証には,DC−DCコンバータ(スイッ
チング・レギュレータ)に用いる高周波トランスのE−I形コアのギ
ャップ面をプリント基板に平行に配置して取り付けることが記載され
ており,基板に対するこのようなコアの取付け方はごく通常の態様で
ある。」(32頁下4行∼下1行)と認定している。
しかし,審決の上記認定は,本件考案では,従来のノイズ対策で用
いられてきたAC商用電源入力のスイッチング電源回路を収納する弁
当箱形状の電磁シールドケースを廃止し,ビデオヘッドシリンダのコ
アギャップと高周波トランスのコアギャップとの相互の配置関係(構
成要件B及びD)によるノイズ対策を行っている点を考慮せず,構成
要件Dのみを取り出してこれに対応するものの判断を行っている点に
おいて,誤りがある。
また,本件実用新案登録の出願当時,ノイズレベルが大きいAC商
用電源入力のスイッチング電源回路(特開昭61−79393号公報
及び特開昭63−253866号公報にもみられるスイッチング電源
回路)に関しては,弁当箱形状の電磁シールドケースに収納すること
でノイズ対策を施すことが技術常識であって,据置型ビデオ装置にお
いて,AC商用電源入力のスイッチング電源回路を,電源回路以外の
ビデオ電子部品を実装したプリント配線基板上に設けるという技術思
想は存在しなかったことを考慮すると,「基板に対するこのようなコ
アの取付け方はごく通常の態様である。」(審決32頁下2行∼下1
行)の「基板」には,「弁当箱形状の電磁シールドケース内の電源用
基板」は含まれるが,「電源回路以外のビデオ電子部品を実装したプ
リント配線基板」は含まれない。審決は,「基板に対するこのような
コアの取付け方はごく通常の態様である。」(32頁下2行∼下1
行)の「基板」に「電源回路以外のビデオ電子部品を実装したプリン
ト配線基板」が含まれない点を看過している。
c 審決は,「してみると,磁気記録再生装置をその対象とする引用考
案において,電源回路として,単に,周知のスイッチング・レギュレ
ータ回路を使用し,回路に用いる高周波トランスのコアのギャップ面
をプリント配線基板に対し平行に配置する程度のことは当業者がきわ
めて容易に想到できたものである。」(33頁1∼4行)と判断して
いる。
しかし,審決の上記判断には,本件考案では,従来のノイズ対策で
用いられてきたAC商用電源入力のスイッチング電源回路を収納する
弁当箱形状の電磁シールドケースを廃止し,ビデオヘッドシリンダの
コアギャップと高周波トランスのコアギャップとの相互の配置関係
(構成要件B及びD)によるノイズ対策を行っている点を考慮せず,
構成要件Dのみを取り出してこれに対応するものの判断を行っている
点において,誤りがある。
d 甲9(特開昭58−30291号公報)は,「遅延素子のコイル軸
線とフライバック・トランスからの磁束が直交するようにして,シー
ルドケースなどのシールド部材を使用せずとも遅延素子がフライバッ
ク・トランスに対して磁気的に結合しないようにした遅延素子の配置
構造を提供する」(甲9の2頁右上欄6行∼11行)ことを技術課題
とするもの,すなわち,テレビ受像機においてノイズ対策を行うもの
である。
ここで,テレビ受像機において,遅延素子がフライバック・トラン
スに対して磁気的に結合した場合に発生するノイズは「水平妨害縞成
分」(テレビ受像機の画面上に明暗の縦縞模様が現れるノイズ)であ
る(甲9の2頁左上欄4行∼16行参照)。これは,「リンギング成
分」(通常,水平同期信号(NTSC方式では15.75kHz)の
数十倍から数百倍である約500kHzから5MHz)が,輝度信号
(数Hzから5MHz)に対して影響を及ぼすことにより発生するノ
イズである(甲9の2頁左上欄13行∼16行参照)。
一方,本件考案の対象であるビデオテープ記録再生装置において,
ビデオ・ヘッド・シリンダのヘッド・ギャップによって高周波トラン
スからの高周波漏れ磁束がピックアップされた場合に発生するノイズ
は,色信号に影響するものであり,該ビデオテープ記録再生装置に接
続されたモニター画面上には,不規則に動くノイズが発生し,見るに
耐えない状態となる。これは,高周波トランスの発振周波数(通常7
0kHzから170kHz)の数倍のノイズ成分が,低域変換された
色信号(NTSC方式では629kHz)に対して影響を及ぼすこと
により発生するノイズである。
また,ビデオ・ヘッド・シリンダのヘッド・ギャップは,磁気テー
プに記録されたきわめて微少な磁気を読み取るものであって,ノイズ
の影響をきわめて受けやすいものであるのに対し,甲9の「遅延素子
1」はコイルの周囲が金属で覆われたものである(甲9の第1図に
「アース端子4」が示されていることから,シールドが施されている
ことは当業者には自明である)から,比較的ノイズの影響を受けにく
いものである。
このように,甲9に開示されたノイズ対策と本件考案のノイズ対策
とでは,ノイズ成分の磁力線方向とノイズを受ける対象の磁力線方向
を直交させるという点で共通しているものの,対策の対象となるノイ
ズ成分も異なれば,実際にノイズの影響を受けた場合の問題の深刻さ
も異なっている。
さらに,甲9のフライバック・トランスは,ブラウン管駆動のため
の昇圧用トランスであるから,本件考案の構成要件Dの高周波トラン
スとは異なる。
したがって,甲9は本件考案のノイズ対策の動機付けにはなり得な
いものであるから,審決の「甲第9号証にもみられるように,トラン
スのコアギャップの面を基板に対して平行になるように配置して素子
の作用磁束と直交させれば,トランスからの磁束による素子に対する
磁気的影響を防止できることは明らかである」(33頁8行∼11
行)という認定は誤りである。
本件実用新案登録の出願(平成4年1月10日)当時,ノイズレベ
ルが大きいAC商用電源入力のスイッチング電源回路に関しては,弁
当箱形状の電磁シールドケースに収納することでノイズ対策を施すこ
とが工場あるいは市場での不測のトラブルを避けるための技術常識で
あった。審決の上記判断は,技術常識に反することを実行する際に
は,不測のトラブルが発生する危険性を実験や試作などにより回避し
なければならない点を看過している。
e 審決の「引用考案においても,上記のように,電源回路として周知
のスイッチング・レギュレータ回路を用いた場合,回転ヘッド(ビデ
オヘッドシリンダ)のコアギャップの面が,プリント配線基板と平行
に設けられるシャーシに対してほぼ垂直の方向に設けられることにな
ることを考えれば,高周波トランスからの磁束による回転ヘッドに対
する磁気的影響を防止できることは技術的に当然予測しうる作用効果
と言うべきである。」(33頁11行∼16行)という判断は,以下
の理由で誤りである。
本件考案においては,上記ノイズ対策を基礎として,「ビデオ記録
ヘッドへの影響を最小になるようにして,1枚のプリント配線基板に
電源回路とビデオ回路の領域を分けて,コンパクトに実装することが
可能となり,電源回路とビデオ回路間の接続端子を含む配線をプリン
ト配線にし,部品と工程時間の減少によるコストダウンと信頼性の向
上に効果がある。さらにビデオ回路の電子部品の配置方法によるコン
パクト化も計れる効果もある。」(甲2の1段落【0015】)とい
う効果をも可能ならしめたのであるから,もはや甲9から当然に予測
しうる効果ということはできない。
(エ) 相違点cについての判断の誤り
a 審決は,「甲第7号証,甲第8号証には,同一基板に設けられたパ
ルストランス(高周波トランス)とAC商用電源端子を有するスイッ
チング・レギュレータ回路が記載されているから,引用考案におい
て,1枚のプリント配線基板上に電源回路(スイッチング・レギュレ
ータ回路)の電子部品をも(電源領域に)実装しようとする場合,そ
のAC商用電源端子を設けることは当業者が適宜なし得た事項であ
る。」(33頁18∼23行)と判断している。
しかし,審決の上記判断は,甲7(特開平2−163995号公
報),甲8(特開平3−135371号公報)においては,「同一基
板」すなわちパルストランス(高周波トランス)とAC商用電源端子
が設けられた基板が,AC電源入力のスイッチング電源装置のケーシ
ング(電磁シールドケース)内に格納されたものであり,「電源回路
以外のビデオ電子部品を実装したプリント配線基板」でないことを無
視している。
前記(イ)において述べたとおり,「引用考案において,1枚のプリ
ント配線基板上に電源回路(スイッチング・レギュレータ回路)の電
子部品をも(電源領域に)実装しようとすること」自体が容易でない
ので,電源領域とビデオ回路領域とが設けられている1枚のプリント
配線基板の電源領域にAC商用電源端子を設けることも容易ではな
い。
したがって,審決の上記判断は誤りである。
b 審決は,「IFアンプ及びRFコンバータはビデオテープレコーダ
に一般的に必要な回路端子であり,甲第10号証の図2には,チュー
ナーモジュール210内にRF回路212が含まれ,RF回路212
とIFアンプ240がミキサー214を介して接続されている状態が
示されている。甲第11号証の図2には,チューナ22内にRFアン
プ24が含まれ,チューナ22とIFアンプ30が接続されている状
態が示されている。」(審決33頁下13行∼下8行)と判断してい
る。
しかし,甲10(米国特許第4686570号明細書),甲11
(米国特許第4727591号明細書)には,チューニングシステム
の回路ブロックが開示されているだけであって,本件考案の「チュー
ナ,IFアンプおよびRFコンバータの回路端子」の実装箇所に関す
る記載はない。また,甲10のRF回路210,甲11のRFアンプ
24はいずれも,アンテナからのRF信号を増幅するためのアンプで
あって,ビデオ再生信号を変換してテレビに出力するRFコンバータ
とは全く異なる回路である。
したがって,審決の上記判断は誤りである。
c 本件考案は,「ビデオ回路領域」に「チューナ,IFアンプ及びR
Fコンバータの回路端子」,すなわち,いわゆる「3in1チューナ
パッケージ」との接続用端子(接続用ランド)を有しているため,
「ビデオ回路領域」に「チューナ」,「IFアンプ」及び「RFコン
バータ」自体を有していない。
ところが,審決は,「引用考案のビデオ回路領域におけるチューナ
ブロック15内もしくはチューナブロック15に近接した位置にIF
アンプ及びRFコンバータを有することは当業者には自明のことであ
る。」(33頁下6行∼下4行)として,「ビデオ回路領域」が「チ
ューナ」,「IFアンプ」及び「RFコンバータ」自体を有する構成
が当業者に自明であるとの判断をしており,誤っている。
(オ) 本件考案が奏する効果についての判断の誤り
審決は,「そして,上記各相違点の判断を総合しても,本件考案が奏
する効果は引用考案から当業者が十分に予想可能なものであって,格別
のものとはいえない。」(33頁下3行∼下1行)と判断している。
しかし,本件考案でのビデオ・ヘッド・シリンダのヘッド・ギャップ
によって高周波トランスからの高周波漏れ磁束がピックアップされた場
合に発生するノイズに対する対策は,甲9を始めとする各引用例には記
載されていない。また,本件考案は,このようなノイズ対策を基礎とし
て,「ビデオ記録ヘッドへの影響を最小になるようにして,1枚のプリ
ント配線基板に電源回路とビデオ回路の領域を分けて,コンパクトに実
装することが可能となり,電源回路とビデオ回路間の接続端子を含む配
線をプリント配線にし,部品と工程時間の減少によるコストダウンと信
頼性の向上に効果がある。さらにビデオ回路の電子部品の配置方法によ
るコンパクト化も計れる効果もある。」(甲2の1段落【0015】)
という効果をも可能ならしめたのであり,このような効果は上記ノイズ
対策を基礎としていない引用考案から当業者が十分に予想可能なもので
あるとはいえない。
したがって,審決の上記判断は誤りである。
(カ) なお,被告は,本件考案と類似する発明についての米国特許の審査
過程において,原告が提示したパナソニックのPV−1231及びPV
− 1 2 2 5 に 基 づ く 主 張 を し て い る が , こ れ ら に は , 「 Luminance
C.B.A.」「Chrominance C.B.A.」の別基板が存し,また,電源装置が弁
当箱形状の電磁シールドケースと同等機能の電磁シールドで囲われたも
のである。したがって,それらから本件考案をきわめて容易に想到する
ことができるということはない。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の事実は認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論
(1) 取消事由1に対し
ア 「一致点の認定の誤り」の主張につき
(ア) 原告は,引用考案における電源回路以外の「ビデオ回路領域」は,
正にプリント基板10全体を占めて搭載されているのであるから,これ
を,本件考案における「ビデオ回路領域」と対比することは,誤ってい
る,と主張する。
しかし,引用考案においては,甲3の第1図に示されているように,
ヘッドアンプブロック11,サーボ回路系ブロック12,オーディオ回
路系ブロック13,システムコントロール回路系ブロック14及びチュ
ーナブロック15がそれぞれ区切られて示されており,これらすべてを
合計しても基板10のおよそ半分の領域を占めるにすぎないから,「『
ビデオ回路領域』は,正にプリント基板10全体を占めて搭載されてい
る」との原告の主張は誤りであって,審決の認定に誤りはない。
(イ) 原告は,本件考案の「チューナ,IFアンプ及びRFコンバータの
回路端子」は,いわゆる3in1チューナパッケージとの接続用端子で
あるため,本件考案は「ビデオ回路領域」に「チューナ」自体を有して
いないから,審決において「チューナ」を有していることを一致点とし
て認定したことが誤りである,と主張する。
しかし,本件実用新案登録請求の範囲の請求項1には「前記ビデオ回
路領域にはチューナ,IFアンプ及びRFコンバータの回路端子を有す
る」と記載されているのみであり,「3in1パッケージとの接続用端
子」を有するとは記載されていない。また,本件実用新案登録の明細書
(甲2の1・2)のどこにもそのようなことを示唆する記載すらない。
さらに,原告は,本件実用新案登録の出願当時,「チューナ,IFア
ンプ及びRFコンバータの回路端子」が「3in1パッケージとの接続
用端子」を意味することを裏付ける証拠を提出していない。
仮に,本件実用新案登録の出願当時,チューナとIFアンプとRFコ
ンバータが1パッケージ内に収納された「3in1パッケージ」が一般
的であったとすれば,甲3に記載されている「チューナブロック」にも
やはりチューナとIFアンプとRFコンバータが1パッケージとして含
まれていると当業者は解釈することになる。そうすると,甲3におい
て,「チューナ」又は「チューナとIFアンプとRFコンバータが1パ
ッケージ内に収納された3in1チューナパッケージ」がビデオ回路領
域に実装されていることになる。また,仮に部品をはんだ付けするラン
ドも「端子」と呼ぶのであれば,甲3においても,チューナははんだ付
けランドによりプリント基板に実装されているのであるから,プリント
基板がチューナの「端子」を有することは明らかである。
したがって,審決が「チューナ」を有していることを一致点として認
定したことに誤りはない。
イ 「相違点の認定の誤り」の主張につき
(ア) 「相違点a」につき
原告は,プリント配線基板から独立した電源供給ボックスの中に電源
回路が格納されている,と主張する。
原告は,甲3(引用考案)の「電源供給ボックス」内において,電源
回路がプリント基板に設けられていることを前提としているが,甲3は
単に「電源供給ボックス」と記載しているのみであり,その内部構造に
ついては何ら説明していない。したがって,電源供給ボックス内の電源
回路が電源供給ボックス内のプリント基板上に設けられているという主
張は,根拠のないものである。
また,電源供給ボックス5が宙に浮いていることはなく,甲3の第1
図においては,プリント基板10に電源供給ボックス5が実装されるこ
とが示されている(又は少なくとも強く示唆されている)。甲3には明
記されてはいないが,プリント基板10にはシステムコントローラ14
が制御する電源スイッチング部品が実装されかつ電源供給ボックス5が
端子を介して実装され得ることが当業者の通常の理解であるから,たと
え原告の主張するように電源ボックス5を外部のメーカから購入したと
しても,プリント基板10には電源供給ボックス5を連結する端子及び
実装された電源供給ボックス5を含む「電源領域」が必ず存在すること
は当業者に自明である。なお,本件実用新案登録の明細書(甲2の1・
2)には「…高周波トランス16とビデオヘッドシリンダ19を1枚の
プリント配線基板にコンパクトに実装可能となる」(段落【0014
】)と記載されていること,本件実用新案登録の【図1】には,ビデオ
ヘッドシリンダ19が高周波トランス16を実装するプリント配線基板
に直接実装されているわけではなくシャーシを介して間接的に実装され
ていることが示されていること,上記【図1】には高周波トランスが基
板上に実装されている様子が記載されているだけで他のビデオ電子部品
がどのように実装されているのか明らかでないことからすると,本件考
案における「実装」の意味は「同じ1枚の基板に各電子部品の端子が直
接取り付けられている」態様に限定されず,「1枚の基板に各電子部品
が間接的に取り付けられている」態様も含むことは明らかである。
甲3(引用考案)の第1図において,ヘッドアンプブロックはプリン
ト基板10の左端付近にあり,サーボ回路系ブロック12,オーディオ
回路系ブロック13,システムコントロール回路ブロック14及び電源
供給ボックス5はプリント基板の右側に寄せてあることから,ヘッドア
ンプブロックをこれらから「遠ざけて」いるといえるのであり,「ヘッ
ドアンプブロックから遠ざけて配置した」ということは,電源供給ボッ
クス5がプリント基板10に実装されていないことの根拠とはなり得な
い。
(イ) 「相違点b」につき
後記(2)ウ(イ)(ウ)のとおりである。
(ウ) 「相違点c」につき
前記ア(イ)のとおり,本件考案の「チューナ,IFアンプ及びRFコ
ンバータの回路端子」について,当業者が,3in1パッケージとの接
続用端子を意味すると理解することはないし,仮に本件実用新案登録の
出願時の技術常識において本件考案の「チューナ,IFアンプ及びRF
コンバータの回路端子」が「3in1パッケージとの接続用端子」の意
味であると解釈されるとするならば,甲3の「チューナブロック」には
「3in1パッケージとの接続用端子」が存在すると解釈されるべきで
ある。
したがって,審決の認定に誤りはない。
(2) 取消事由2に対し
ア 「判断の脱漏」につき
前記(1)のとおり,審決における相違点の認定に誤りはないのであるか
ら,審決に「判断の脱漏」はない。
イ 「相違点aについての判断の誤り」の主張につき
(ア) 原告は,引用考案に別途電源回路領域を形成した場合,この電源領
域又はプリント基板上の各ブロック(サーボ回路系ブロック12,オー
ディオ回路系ブロック13,システム回路系ブロック14)が,相対的
にヘッドアンプブロック11に近い位置になることから,1枚のプリン
ト配線基板上にビデオ電子部品に加え,別途電源領域を形成し,電源回
路の電子部品をも実装するようにすることは明らかな阻害要因を有し,
当業者がきわめて容易に想到できたものではないと主張する。
しかし,原告の主張は,模式的に描かれた甲3(引用考案)の第1図
における各ブロックの大きさをそのまま固定して当てはめることから生
じるものであって,意味がない。甲3には,ヘッドアンプブロックの影
響を受けやすいブロック及び電源供給ボックスを遠ざけるように配置し
たと記載されているのであるから,甲4(特開昭59−154486号
公報)に記載のように電源領域とその他の領域とを1枚の基板上に実装
する際に,ヘッドアンプブロックの影響を受けない位置に配置すること
は当業者の設計事項にすぎず,何ら阻害要因にはならない。仮に電源領
域又はプリント基板上の各ブロックが相対的にヘッドアンプブロック1
1に近づいたとしても,本件考案ではシールドケースを廃止するとはさ
れていないのであるから,「引用考案においても,甲第4号証に記載の
もののように,1枚のプリント配線基板上にビデオ電子部品に加え,別
途電源領域を形成し,単に,電源回路の電子部品をも実装するようにす
る」ことに阻害要因はない。進歩性の判断において,引用考案の目的を
達成するために阻害要因となるか否かは問題ではなく,本件考案の構成
を得るために阻害要因となるか否かを検討すべきである。
(イ) 原告は,AC商用電源入力のスイッチング電源回路を収納する弁当
箱形状の電磁シールドケースを廃止することは,そもそも当業者の技術
常識に反するものであった,と主張する。
しかし,本件実用新案登録の明細書(甲2の1・2)には,「AC商
用電源入力のスイッチング電源回路を収納する弁当箱形状の電磁シール
ドケース」を使用しない旨の記載も示唆もなく,また,本件考案は「電
磁シールドケースを廃止する」ことを目的とするものであるとか,その
ような構成に限定されるという記載もない。したがって,電磁シールド
ケースを廃止することが当業者の技術常識に反するか否かは,本件考案
の進歩性の判断に影響のないものである。
また,「電子技術」Vol.23No.10(1981年発行)日刊
工業新聞社96頁∼99頁(乙2)には,電子回路の組み立てにおいて
スイッチング電源の内製化が進行し,スイッチング用高周波トランスを
内製しはじめたこと,小型軽量を押し進めると結局は「1枚のプリント
基板に電源を組む」ことになること,内製化により電源のシールドと機
器本体のシールドを総合して対策できること,「筐体なしの電源」を販
売している電源メーカーもあること,トランスの2次側については普通
のロジック回路のようにいくら接近してパターンを描いてもよいこと等
が記載されており,フェライトコアをプリント基板に実装した実例(9
9頁の図3)も写真で紹介されている。したがって,乙2の発行から1
0年を経過した本件実用新案登録の出願時(平成4年1月10日)にお
いて,スイッチング電源回路が弁当箱形状の電磁シールドケースの中に
収納されたもの以外に存在しなかったというのは不自然である。
(ウ) 原告は,本件考案の「電源回路」が高周波トランスを含むものであ
るとの前提に基づき,甲4(特開昭59−154486号公報)の電源
回路部(3a)には,電源トランス(4)が実装されていないことか
ら,本件考案の「電源回路」とは異なる,と主張する。
しかし,甲4において,電源回路部(3a)に高周波トランスが含ま
れる旨が明示されていないとしても,「電源回路とは商用電源を安定化
直流電源に変換するものを言い」(甲4の1頁右欄5行∼6行)と規定
された電源回路であることが明示されており,高周波トランスを含むこ
とを否定していない。この点について,審決は,「複数の電子部品を搭
載した前段回路とパルストランス(高周波トランス)を含む後段回路を
同一の基板に実装すること,言い換えると,一方の回路は高周波トラン
スを含むものである2種類の回路を1枚の基板上に実装すること自体は
甲8号証に記載されているところである。」(32頁23行∼26行)
と判断して,高周波トランスを1枚の基板上に実装することも新規な構
成ではないことに言及している。
原告は,甲8(特開平3−135371号公報)を考慮しても1枚の
電源回路用基板に高周波トランスを含む電源回路が実装されている構成
に想到できるにすぎないと主張する。しかし,当業者は,単に甲3と甲
8に明示的に示されている構成をそのまま組み合わせることしかできな
いと断定するのは誤りである。甲8には「一方の回路は高周波トランス
を含むものである2種類の回路を1枚の基板上に実装すること」が示さ
れているのであるから,当業者が甲8から「1枚の電源回路用基板に高
周波トランスを含む電源回路が実装されている構成」しか想到できない
との主張は誤りである。
(エ) 原告は,本件実用新案登録の出願当時,弁当箱形状の電磁シールド
ケースに収納することでノイズ対策を施すことが技術常識であり,甲4
は,ディスプレイ装置に関するものであって,この技術常識を打ち破っ
て,甲3の電源供給ボックス内の電源回路をビデオ電子部品が搭載され
ているプリント基板に搭載する動機付けにならない,と主張する。
しかし,上記(イ)のとおり,本件実用新案登録の出願当時にはすでに
シールドケースを用いない電源回路部品が用いられており,原告の主張
はその前提において誤っている。また,甲3の第1図は,具体的にどの
ような態様で,プリント基板のどこに搭載するかを明らかにはしていな
いものの,ビデオ電子部品をブロックに区画して実装したプリント基板
上に,電源回路の電子部品が搭載されることを示している。したがっ
て,電源電子回路の電子部品をプリント基板上に搭載する動機付けは十
分にある。加えて,甲4において,電源回路の電子部品と映像信号処理
用電子部品が1枚の基板に実装されていることが示されているのである
から,甲3のプリント基板に電源回路を搭載することは当業者にとって
きわめて容易に想到することができることである。
(オ) 原告は,甲4(特開昭59−154486号公報)の電源トランス
(4)は,低周波のドロッパ型トランスであるとの前提に基づき,甲4
においてはノイズ対策の必要性もなく,ノイズ対策に関する記載がな
く,甲8(特開平3−135371号公報)は,スイッチング電源装置
そのものに関するもので,ノイズ対策について開示も示唆もされていな
いから,甲4及び甲8に基づいて高周波トランスからのノイズ対策を考
慮することはできず,引用考案において,1枚のプリント配線基板上に
ビデオ電子部品に加え,別途電源領域を形成し,電源回路の電子部品を
も実装することは容易ではない,と主張する。
しかし,甲4には電源トランスを低周波のドロッパ型トランスに限定
する旨の記載はない。本件実用新案登録の出願時よりも前に,ディスプ
レイ装置にスイッチングレギュレーター方式の電源を使用し,これとそ
の他の映像処理回路等とを1枚のプリント配線基板に実装した製品が市
販されていた(「テレビ技術」1987年9月臨時増刊・電子技術出版
株式会社160頁[乙1])のであるから,甲4の電源トランスを低周
波トランスに限定するのは誤りである。さらに,1枚の基板上に,電源
回路を含む電源領域と,他の電子部品の領域とに分けて実装しているV
CRが1980年に市販されていた(「Panasonic Service Manual」2
−31頁[乙3])ことからも,引用考案において,1枚のプリント配
線基板上に,電源領域と他の部品の領域を分けて電子部品を実装するこ
とは困難であったとはいえない。
また,甲8に記載のスイッチング電源装置を実装する対象に応じてノ
イズ対策を施すことは当業者の設計事項にすぎない。
さらに,甲4及び甲8にノイズ対策に関する記載がないとしても,引
用考案と組み合わせることが当業者にとって容易に想到できないことの
根拠にはならない。
ウ 「相違点bについての判断の誤り」の主張につき
(ア) 原告は,甲6(特開平1−245597号公報)で用いられている
スイッチング電源はDC電源であり,本件考案のAC電源入力のスイッ
チング電源回路とはノイズ成分・ノイズレベルが異なると主張する。
しかし,本件考案の「スイッチング・レギュレータ」がAC電源入力
のスイッチング電源回路であることは,本件実用新案登録の明細書に記
載されていないから,この点において相違しているとはいえない。
審決は,「VTR等の磁気記録再生装置の電源回路として,スイッチ
ング・レギュレータ回路を使用すること」が周知技術であったことの根
拠として,甲6のほかに,AC商用電源入力のスイッチング・レギュレ
ータである特開昭61−79393号公報及び特開昭63−25386
6号公報も挙げており(32頁下8行∼下5行),仮に,上記の根拠と
して甲6を挙げたことが誤りであったとしても,他の文献により十分裏
付けられている。
(イ) 原告は,スイッチング電源回路を収納する電磁シールドケースを廃
止し,本件考案が構成要件BとDとによって,ビデオヘッドシリンダの
コアギャップと高周波トランスのコアギャップとの相互の配置関係によ
るノイズ対策を行っている点を審決が考慮せず,構成要件Dのみを取り
出している点において誤りである,と主張する。
しかし,上記イ(イ)のとおり,本件考案はスイッチング電源回路を収
納する電磁シールドケースを廃止することについて何ら規定しておら
ず,原告の主張は本件実用新案登録の明細書の記載に基づかない主張で
ある。
また,ビデオヘッドシリンダは,そのコアギャップが基板に対して垂
直に配置するのが通常であるから,高周波トランスのコアギャップが基
板に対して平行である場合,ビデオヘッドシリンダのコアギャップとは
垂直になる。
さらに,審決は,「甲第9号証にも見られるように,トランスのコア
ギャップの面を基板に対して平行となるように配置して素子の作用磁束
と直行させれば,トランスからの磁束による素子に対する磁気的影響を
防止できることは明らかであるから,引用考案においても,上記のよう
に,電気回路として周知のスイッチング・レギュレータ回路を用いた場
合,回転ヘッド(ビデオヘッドシリンダ)のコアギャップの面が,プリ
ント配線基板と平行に設けられるシャーシに対してほぼ垂直の方向に設
けられることになることを考えれば,高周波トランスからの磁束による
回転ヘッドに対する磁気的影響を防止できることは技術的に当然予測し
得る作用効果と言うべきである。」(33頁8行∼16行)と判断して
いる。
したがって,審決は,ビデオヘッドシリンダのコアギャップと高周波
トランスのコアギャップとが垂直になるという配置関係により磁気的影
響を防止する,すなわちノイズ対策を行うことについて判断を示してい
ることは明らかであり,原告の主張は失当である。
(ウ) 原告は,本件実用新案登録の出願(平成4年1月10日)当時,ス
イッチング電源回路では電磁シールドケースに収納することでノイズ対
策を施すことが技術常識であり,AC商用電源入力のスイッチング電源
回路を電源回路以外のビデオ電子部品を実装したプリント配線基板上に
設けるという技術思想がなかったことから,コアを取り付けた「基板」
に「電源回路以外のビデオ電子部品を実装したプリント配線基板」が含
まれない旨の主張をする。
しかし,上記イ(イ)のとおり,本件考案は,スイッチング電源回路を
収納する電磁シールドケースを廃止することについて何ら規定しておら
ず,また,本件実用新案登録の出願当時には既に電磁シールドケースを
使用しないノイズ対策が用いられていたのであるから,原告の主張は前
提において誤っている。
甲5(実願昭55−111406号(実開昭57−35015号)の
マイクロフィルム)の教示内容は,基板に対する高周波トランスのコア
の取り付け方そのものであって,基板がどのようなものであろうとも教
示内容が変わるものではないから,原告の主張は誤りである。
(エ) 原告は,甲9(特開昭58−30291号公報)はテレビ受像機に
おいて,水平妨害縞成分のノイズ対策であるのに対して,本件考案のノ
イズは色信号に影響するものであるから,ノイズの成分とそれによって
生じる映像上の不具合が全く異なり,甲9は本件考案のノイズ対策の動
機付けになりえない,と主張する。
しかし,甲9も本件考案も,周波数(Hz)の値に違いがあるとして
も,ともに磁気的影響を与えるノイズ対策である点で共通している。そ
の上,トランスからの磁束による素子に対する磁気的影響を防止する方
法として,ノイズを生じるトランスのコアギャップを基板に対して平行
となるように配置して素子の作用磁束と直行させる構造による点でも共
通である。各々のノイズの結果生じる不具合が異なるとしても,磁気的
影響によるノイズ対策が必要である点では共通であり,ノイズ対策の動
機付けにならないとする理由にはならない。
また,原告は,甲9のフライバック・トランスは,ブラウン管駆動の
ための昇圧用トランスであるから,本件考案の構成要件Dの高周波トラ
ンスとは異なると主張する。
しかし,電子機器から放射される不要輻射による電波渉外(EMI)
に関してFCC(米国連邦通信委員会)が定める妨害電圧は10kHz
から30MHzであり,妨害電界強度は10kHzから1GHzであ
る。原告は,甲9のフライバック・トランスによるノイズ成分が15.
75kHzと主張しているのであるから,これは上記妨害電圧及び妨害
電界強度の範囲に含まれていることになる。したがって,フライバック
・トランスは高周波トランスである。
(オ) 原告は,審決が,AC商用電源入力のスイッチング電源回路を収納
する弁当箱形状の電磁シールドケースを廃止するには不測のトラブルが
発生する危険性を実験や試作などにより回避しなければならない点を看
過していると主張する。
しかし,上記イ(イ)のとおり,本件実用新案登録の明細書には電磁シ
ールドケースを廃止することは何ら規定されていないのであるから,原
告の主張は前提において誤っている。また,製品化するに当たり一定の
実験や試作などが必要となることは当然のことであり,当業者が容易に
想到できないことを根拠付けるものではない。
(カ) 原告は,本件考案はコンパクトに実装すること及び部品と工程時間
の減少によるコストダウンと信頼性の向上という効果を可能ならしめた
のであるから,これは甲9から当然に予測し得る効果とはいえないと主
張する。
しかし,審決は,甲9の教示内容(トランスのコアギャップの面を基
板に平行に配置すると,トランスからの磁束による素子に対する磁気的
影響が防止できる)に基づいて,引用考案における相違点bの構成(ト
ランスのコアギャップの面を基板に平行に配置する)もその作用効果
(トランスからの磁束による回転ヘッドに対する磁気的影響の防止)も
当業者には容易に予測し得ることにすぎないと述べているのである。
審決は,当業者が容易に想到できたことの根拠として,「甲9から本
件考案の効果を全て当然に予測し得ること」を挙げているのではない。
また,そもそも本件考案の効果を全て当然に予測し得ることは,当業者
が容易に想到できたことを基礎付けるために必要ではない。
さらに,本件考案の構成を想到することができれば,原告が主張する
コンパクトな実装及び部品・工程時間の減少によるコストダウンと信頼
性の向上という効果は生じるはずである。したがって,仮に,本件考案
の他の効果について当然に予測し得なかったとしても,相違点bについ
ての審決の判断が誤っていたことにはならない。なお,本件実用新案登
録の明細書には,どの程度コンパクトになるかについて何ら記載がな
く,その内容が明らかではない。
エ 「相違点cの判断についての誤り」の主張につき
(ア) 原告は,甲7(特開平2−163995号公報)及び甲8(特開平
3−135371号公報)においては,パルストランスとAC商用電源
端子が設けられた基板が,ケーシング内に格納されたものである点を審
決は無視している,と主張する。
しかし,上記イ(イ)のとおり,本件考案においては,電源回路の電子
部品をケーシング内に格納しないとは規定されていない。
甲7及び甲8においては,パルストランスとAC商用電源端子を同一
基板に設ける構成が示されている。このパルストランスとAC商用電源
端子が,ケーシング内に収納された状態であるとしても,ケーシングの
主たる目的は,パルストランスからのノイズを防止することにあるので
あり,パルストランスを実装したプリント基板にAC商用電源端子を設
けることを妨げる理由はない。したがって,引用考案において,1枚の
プリント配線基板上に電源回路の電子部品をも実装しようとする場合
に,AC商用電源端子を設けることは当業者が適宜なし得たことであ
る。
また,原告は,1枚のプリント配線基板上に電源回路の電子部品をも
電源領域に実装しようとすること自体が容易ではないから,電源領域と
ビデオ回路領域とが設けられている1枚のプリント配線基板の電源領域
にAC商用電源端子を設けることも容易ではないと主張するが,これ
は,結局のところ1枚のプリント配線基板上に電源回路を実装すること
が困難であるという主張の繰返しにすぎないのであり,これに対する反
論も既述のとおりである。
(イ) 原告は,甲10(米国特許第4686570号明細書),甲11
(米国特許第4727591号明細書)には,チューニングシステムの
回路ブロックが開示されているだけであり,本件考案の「チューナ,I
Fアンプ及びRFコンバータの回路端子」が記載されていないこと,及
び甲10,甲11のRFアンプは本件考案のRFコンバータとは異なる
ことを主張する。
しかし,前記(1)ア(イ)のとおり,本件考案の「チューナ,IFアン
プ及びRFコンバータの回路端子」が,原告の主張する3in1パッケ
ージであるとは認められない。
また,本件実用新案登録明細書において「RFコンバータ」の意味に
ついて特に限定されていないことからすると,RFコンバータとは,R
F信号を変換する物を意味すると解される。甲10においては,RF回
路210とIFアンプ240がミキサー214を介して接続されている
のであるから,ミキサー214はRFコンバータである。甲11におい
ては,チューナ22内にRFアンプ24が含まれ,チューナ22とIF
アンプ30が接続されていることから,RFコンバータが存在すること
は明らかである。したがって,RFコンバータを有することを認定した
審決の判断に誤りはない。
(ウ) 原告は,本件考案の「チューナ,IFアンプ及びRFコンバータの
回路端子」が,3in1パッケージとの接続用端子であることを理由と
して,「ビデオ回路領域」に「チューナ」,「IFアンプ」及び「RF
コンバータ」自体を有していないと主張する。
しかし,前記(1)ア(イ)のとおり,本件考案の「チューナ,IFアン
プ及びRFコンバータの回路端子」が,原告の主張する3in1パッケ
ージであるとは認められない。
また,チューナ,IFアンプ及びRFコンバータがプリント配線基板
上にあることが誤りであるとすれば,これらはどこに実装されるのかが
不明である。本件考案は,「電源回路の電子部品を1枚のプリント配線
基板の1所定領域である電源領域に実装し,前記電源回路以外のビデオ
電子部品を前記プリント配線基板の電源領域以外の領域であるビデオ回
路領域に実装した」(請求項1)ものであるから,1枚のプリント配線
基板には,電源領域とビデオ回路領域だけが存在し,電源回路以外のビ
デオ電子部品はビデオ回路領域に実装されるべきところ,原告の主張に
よれば,チューナ,IFアンプ及びRFコンバータは電源回路以外のビ
デオ電子部品であるにもかかわらず,プリント配線基板には実装されな
いことになる。これは大きな矛盾である。
仮に,本件考案の「チューナ,IFアンプ及びRFコンバータ」を,
当業者が当然に3in1パッケージであると認識し得るとすれば,コン
パクトに実装するために3in1パッケージを使用することは単なる設
計事項にすぎないことになる。
オ 「本件考案が奏する効果についての判断の誤り」の主張につき
(ア) 原告は,本件考案でのビデオ・ヘッド・シリンダのヘッド・ギャッ
プによって高周波トランスからの高周波漏れ磁束がピックアップされた
場合に発生するノイズに対する対策が各引用例において記載されていな
いと主張する。
しかし,ノイズの源が高周波トランスであっても低周波トランスであ
っても,いずれもノイズ対策であることは共通しており,少なくとも甲
9(特開昭58−30291号公報)においては,ノイズ対策という効
果作用が明記されている。
(イ) 原告は,本件考案は,ノイズ対策を基礎として,コンパクト実装,
部品・工程時間の減少によるコストダウン,信頼性の向上に効果がある
と主張する。
しかし,甲3(引用考案)においてはコンパクトに実装することが,
甲4(特開昭59−154486号公報)においてはコストダウンが明
記されており,原告が主張する効果は,特別に当業者にとって予測不可
能な効果ではない。なお,「信頼性の向上」はその内容が説明されてお
らず,実質的な意味が不明である。
カ パナソニックPV−1225等のサービス・マニュアル(「Service
Manual Panasonic Omnivision PV-1230 PV-1222 PV-1225」[乙5,6])
には,1枚のプリント配線基板上に,トランスを含む電源領域と,他の領
域とが区分けされて設けられていること,電源領域にはプリント配線基板
に対してコア・ギャップが水平方向になるようにトランスが実装されてい
る こ と , 他 の 領 域 の DEMODULATRO SIGNAL PROCESS SECTIONに は TV
DEMODULATOR UNITとRF CONVERTER(RFコンバータ)が実装されているこ
と,TV DEMODULATOR UNITにはUHF/VHF Tuner Unit(チューナ)が備えられ
ていることが記載されている。このパナソニックのサービス・マニュアル
は,原告が平成10年(1998年)6月18日に,本件考案と類似する
発明についての米国特許に関して,情報開示陳述書として自ら米国特許商
標庁に提出したものである(乙8)。さらに,原告は,同年8月26日に
補充の情報開示陳述書を提出し,昭和59年(1984年)7月発行の刊
行物「Audio Video International」14頁に「パナソニック1230」に
関する記載があること並びにパナソニックPV−1231及びPV−12
25プレイヤーの実物の形態等について陳述している(乙9)。これらの
陳述書に対して,米国特許商標庁審査官は,1999年(平成11年)5
月24日付け指令書を発し,「パナソニックPV−1231及びPV−1
225プレイヤーは,各々,電源が実装されている領域と電源が実装され
ていない他の領域とを有する回路基板と,ビデオヘッドシリンダが回路基
板に対して平行に且つ回路基板の上方に実装されているシャーシと,コア
ギャップに対応する少なくとも1つの水平スリット及び巻物を有するトラ
ンスとを有する。少なくとも1つのスリットまたはコアギャップと主張さ
れるものの面は,トランスが実装されている状況の回路基板に平行であ
る」と認定した上で,新規性がないと判断している(乙10の訳文)。
また,原告は,1999年12月2日付けの米国特許商標庁審査官に対
する異議の再提出書において,高周波トランスのコアギャップ面をプリン
ト基板に平行に配置して取付けるトランスの取付け方が通常の態様である
ことを認めている(乙11の訳文2枚目)。
以上のように,原告は,本件考案の構成(プリント配線基板が電源回路
の電子部品を実装した電源領域と,電源回路以外のビデオ電子部品を実装
した電源領域以外の領域とを具備する点,トランスがそのコアギャップの
面をプリント配線基板に平行に配置する点,電源領域にAC商用電源端子
を有する点,ビデオ回路領域にチューナ,IFアンプおよびRFコンバー
タの回路端子を有する点,ビデオヘッドシリンダのコアギャップがその面
に対して垂直の方向になるように形成されたビデオ機構部品搭載用シャー
シを具備する点)が新規なものでないことを遅くとも1999年(平成1
1年)には知っていた。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(考案の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2 取消事由1(相違点・一致点の認定の誤り)について
(1) 本件考案と引用考案の内容につき
ア 本件考案の内容
(ア) 本件実用新案登録の本件訂正後の「実用新案登録請求の範囲」は,
前記第3,1(2)のとおりであり,本件実用新案登録公報(甲2の1)
及び本件訂正を認める旨の審決(甲2の2)によると,本件訂正後の
「考案の詳細な説明」には次の記載がある。
「【産業上の利用分野】本考案は電源回路を含めたビデオ回路電子部品
を1枚のプリント配線基板に実装したビデオテープ記録再生装置に関す
る。」(段落【0001】)
「【従来の技術】従来は,ビデオ回路とその電源回路はそれぞれ別のプ
リント配線基板に実装し,ノイズや電源トランスの熱や磁界の影響をさ
けるため,距離をおいて配置した。」(段落【0002】)
「【考案が解決しようとする課題】しかしながらビデオ回路を実装した
プリント配線基板と電源回路を実装したプリント配線基板の間に多数の
接続配線をしなければならなかった。しかもこれらの配線はノイズの原
因ともなった。上記接続配線のた(め)の端子も基板に設ける必要があ
り,部品のコスト上昇,作業工程の増加,信頼性の相対的な低下はさけ
られなかった。
本考案は上述した事情に鑑みてなされたもので,ビデオ回路とその電
源回路を1枚のプリント配線基板にコンパクトに実装し,しかも電源回
路のノイズや熱および磁界などの影響を受けないビデオテープ記録再生
装置を提供することを目的とする。」(段落【0003】∼【0004
】)
「【課題を解決するための手段】本考案のビデオテープ記録再生装置は
電源回路の電子部品を1枚のプリント配線基板の1所定領域である電
源領域に実装し,前記電源回路以外のビデオ電子部品を前記プリント配
線基板の電源領域以外の領域であるビデオ回路領域に実装した前記プリ
ント配線基板と,前記プリント配線基板に対して平行に配置され,かつ
その上に搭載されたビデオヘッドシリンダのコアギャップが,その面に
対してほぼ垂直の方向になるように形成されたビデオ機器部品搭載用シ
ャーシとを具備し,前記電源領域の電源回路はスイッチング・レギュレ
ータ回路で構成し,前記回路の高周波トランスは,そのコアのギャップ
による高周波漏れ磁束を生ずるコアギャップに面を前記プリント配線基
板に平行に配置し,前記電源領域にはAC商用電源端子を有し,前記ビ
デオ回路領域にはチューナ,IFアンプおよびRFコンバータの回路端
子を有することを特徴とする。」(段落【0005】)
「【作用】本考案のビデオテープ記録再生装置によれば,そのビデオ回
路の電子部品とスイッチング・レギュレータ電源回路の電子部品とを1
枚のプリント配線基板にそれぞれ領域を分けて実装するので,前記プリ
ント配線基板でのノイズや熱および高周波磁界などの発生電源である電
源回路の領域境界に配置する電子部品の特性を考慮した配置設計を行い
コンパクトな実装にすることができる。またビデオ回路と電源回路間の
接続配線はプリント配線となり,このための端子は不要となる。
さらにスイッチングレギュレータ電源回路用高周波トランスのコア・
ギャップ面が前記プリント配線基板面に平行になるように配置してある
ので,前記コア・ギャップから漏れる高周波磁力線は前記プリント配線
基板面に平行な成分はない。一方高周波磁界に影響されやすいビデオヘ
ッドは,そのコアギャップはビデオ機構部品搭載用シャーシの水平底面
にほぼ垂直である。通常は前記シャーシ底面と前記プリント配線基板面
は平行であるので,結局ビデオヘッドのコアギャップ面は前記プリント
配線基板面とほぼ垂直となる。従って,高周波トランスからの漏れ磁力
線をビデオヘッドがピックアップする量を最小になり,これによりノイ
ズは少なくなる。」(段落【0006】∼【0007】)
「【実施例】図1は本考案の一実施例をビデオテープ記録再生装置ケー
スの後側から見た断面図を示す。ここで11はケース,11aはケース
11の底板,14はプリント肺線基板,14Aはプリント配線基板14
の電源領域,14Bはプリント配線基板14のビデオ回路領域,14
1,142はプリント配線基板ガイドである。
15はビデオ機構部品搭載用シャーシ,151,152はシャーシガ
イドである。シャーシガイド151,152およびプリント配線基板1
41,142はケース11の前板(図示せず)と一体に成形されて,底
板11aと平行に配設する。
16は高周波トランス,17はビデオテープ挿入孔,18はシールド
板,19はビデオヘッドシリンダである。
図1の実施例ではプリント配線基板14は,左側端から約1/5の面
積は電源領域14Aであり,残りの右側の約4/5の面積はビデオ回路
領域14Bである。電源領域14Aにはスイッチングレギュレータ回路
で実装され,その中に高周波トランス16が取付けられている。
この高周波トランス16は,その正面図を図2に,側面図を図3に示
す。ここで,30は高周波トランス16のコイル部,31は高周波トラ
ンス16のコア,32はコア31のコアギャップ,33はコアギャップ
32から発生する高周波磁力線を示す。
図1において,高周波トランス16のコアギャップ32はプリント配
線基板14に平行であるので,その高周波磁力線33はプリント配線基
板14に垂直な方向の成分だけとなり,基板14に平行な成分はない。
一方基板14と平行に配置されているビデオ機構部品搭載用シャーシ1
5は,ビデオシリンダ19を搭載している。このビデオヘッドシリンダ
19に取付けられているテープの映像信号をピックアップする2個の磁
気ヘッドのコアギャップはいづれもほぼシャーシ15の面に垂直の方向
にある。従ってこの磁気ヘッドはシャーシ15の面の垂直方向の磁界を
ピックアップするのは難しい。
従って高周波磁界33の磁気ヘッドによるピックアップは最小とな
る。これによって高周波トランス16とビデオヘッドシリンダ19を1
枚のプリント配線基板にコンパクトに実装可能となる。」(段落【00
08】∼【0014】)
「【考案の効果】以上詳細に説明した本考案によれば下記のような効果
を奏する。スイッチングレギュレータ電源回路の高周波トランスのコア
ギャップをプリント配線基板に平行になるように設置し,ビデオ記録ヘ
ッドへの影響を最小になるようにして,1枚のプリント配線基板に電源
回路とビデオ回路の領域を分けて,コンパクトに実装することが可能と
なり,電源回路とビデオ回路間の接続端子を含む配線をプリント配線に
し,部品と工程時間の減少によるコストダウンと信頼性の向上に効果が
ある。さらにビデオ回路の電子部品の配置方法によるコンパクト化も計
れる効果もある。」(段落【0015】)
(イ) 上記(ア)の記載及び本件実用新案登録公報(甲2の1)の【図1】
∼【図3】によると,本件考案は,ビデオ回路とその電源回路を1枚の
プリント配線基板にコンパクトに実装し,しかも電源回路のノイズや熱
および磁界などの影響を受けないビデオテープ記録再生装置を提供する
ことを目的とするもので,前記第3の1(2)(本件訂正後の「実用新案
登録請求の範囲」)のような構成を有するものである。
イ 引用考案の内容
(ア) 引用考案が記載されている特開平2−281494号公報(甲3)
には,次の記載がある。
a 「この発明は,筐体の下部に,サーボ回路系ブロック,オーディオ
回路系ブロック等をそれぞれ配置させた基板を取り付けた磁気記録再
生装置において,
上記筐体の下部に底板を介して取付けられる基板の一端側のテープ
走行機構の下側に,ヘッドアンプブロックを配置すると共に,該基板
の他端側にサーボ回路系ブロックとオーディオ回路系ブロック及びシ
ステムコントロール回路系ブロックをそれぞれ配置したことにより,
ヘッドアンプブロックを上記他の回路系ブロックより遠ざけ,ヘッ
ドアンプ用のシールドケース(電磁遮蔽板)を廃止してシールドケー
スレス化を実現することができるようにしたものである。」(1頁左
欄18行∼右欄12行)
b 「第1図中,1は磁気記録再生装置としてのビデオテープレコーダ
(VTR)である。このビデオテープレコーダ1の筐体2の下部に設
けられた開口部2aには,金属製の底板3を介して該底板3の形状と
略同形の1枚のプリント基板10を図示しないねじ等により該開口部
2aを覆うように取付けてある。
上記プリント基板10の一端(図中左端)側の筐体2内の図中左側
に配設されたテープ走行機構4の下側には,ヘッドアンプブロック1
1を配置してある。また,該プリント基板10の他端(図中右端)側
の筐体2内の図中右側に配設された電源供給ボックス5の下側には,
サーボ回路系ブロック12とオーディオ回路系ブロック13及びシス
テムコントロール回路系ブロック14をそれぞれ配置してある。さら
に,上記プリント基板10のサーボ回路系ブロック12の隣には,チ
ューナブロック15を配置してある。
上記テープ走行機構4の一部を成す回転ヘッドドラム6と上記プリ
ント基板10のヘッドアンプブロック11にマウントされた図示しな
いヘッドアンプ(IC)はハーネス7により接続されている。」(2
頁左下欄1行∼右下欄3行)
c 「また,上記プリント基板10の各ブロック11∼15には,所定
の回路配線を所定手段によりそれぞれ施してある。
以上実施例のビデオテープレコーダ(VTR)1によれば,1枚の
プリント基板10にヘッドアンプブロック11を,影響を受け易いサ
ーボ回路系ブロック12,オーディオ回路系ブロック13,システム
コントロール回路系ブロック14及び電源供給ボックス5から遠ざけ
るようにそれぞれ配置したので,従来ヘッドアンプブロックを覆うよ
うに設けられていたヘッドアンプ用のシールドケースを廃止すること
ができる。」(2頁右下欄17行∼3頁左上欄8行)
d 「また,テープ走行機構4の下側にヘッドアンプブロック11を配
置したので,テープ走行機構4の図示しないシャーシ(板金)に,従
来のシールドケースと同様のシールド効果を持たせることができ
る。」(3頁左上欄12行∼16行)
(イ) 上記(ア)の記載及び甲3の第1図の記載によると,甲3には,審決
が認定するとおり,次の考案(引用考案)が記載されているものと認め
られる。
「ビデオテープレコーダ(VTR)1の筐体2と,
前記筐体2内(のプリント基板10の図中左側)に配設されたテープ
走行機構4と,
前記筐体2内(のプリント基板10の図中右側)に配設された電源供
給ボックス5と,
前記筐体2の下部に設けられた開口部2aに金属製の底板3を介して
該開口部2aを塞ぐように取り付けられ,ヘッドアンプブロック11,
サーボ回路系ブロック12,オーディオ回路系ブロック13,システム
コントロール回路系ブロック14,及び,チューナブロック15を実装
したプリント基板10と,を有し,
前記走行機構4の一部をなす回転ヘッド6と上記プリント基板10の
ヘッドアンプブロック11にマウントされたヘッドアンプ(IC)はハ
ーネス7により接続されている
磁気記録再生装置。」
(2) 「一致点の認定の誤り」の主張につき
ア 本件訂正後の「実用新案登録請求の範囲」には,「電源回路の電子部品
を1枚のプリント配線基板の1所定領域である電源領域に実装し,前記電
源回路以外のビデオ電子部品を前記プリント配線基板の電源領域以外の領
域であるビデオ回路領域に実装した前記プリント配線基板」と記載されて
いるから,本件考案において,「ビデオ回路領域」とは,1枚のプリント
配線基板の電源領域(電源回路の電子部品が実装されている領域)以外の
ビデオ電子部品が実装されている領域を意味するものと解される。
引用考案における「ヘッドアンプブロック11,サーボ回路系ブロック
12,オーディオ回路系ブロック13,システムコントロール回路系ブロ
ック14,及び,チューナブロック15」は,電源回路以外の「ビデオ電
子部品」であるから,これらが実装される領域は「ビデオ回路領域」とい
うことができ,その旨の審決の判断に誤りはない。
もっとも,本件考案では,1枚のプリント配線基板上に電源領域とビデ
オ回路領域が存するのに対し,引用考案では,この点が特に具体的に示さ
れていない点が異なる(なお,この審決の認定に誤りがないことは,後記
(3)アのとおり)が,この点は審決においては〈相違点a〉として判断さ
れている。
したがって,審決の上記認定に誤りはなく,審決が「前記電源回路以外
のビデオ電子部品をビデオ回路領域に実装したプリント配線基板」を一致
点としている点にも誤りはない。
イ また,本件訂正後の「実用新案登録請求の範囲」には,「前記ビデオ回
路領域にはチューナ,IFアンプおよびRFコンバータの回路端子を有す
る」と記載されている。そして,前記(1)ア(ア)の本件訂正後の「考案の
詳細な説明」には,この構成をより具体的に説明した記載はないが,上記
「実用新案登録請求の範囲」の記載を文字通り解釈すると,ビデオ回路領
域に,「チューナ,IFアンプおよびRFコンバータ」の「回路端子」が
存することを意味するというべきである。
原告は,この「チューナ,IFアンプ及びRFコンバータの回路端子」
について,いわゆる「3in1チューナパッケージ」(1パッケージ内に
チューナ,IFアンプ,RFコンバータが収納されているもの)との接続
用端子(接続用ランド)であると主張する。原告が主張するようなもの
も,「チューナ,IFアンプ及びRFコンバータの回路端子」に含まれる
ものということはできるが,本件訂正後の「実用新案登録請求の範囲」や
「考案の詳細な説明」には,「3in1チューナパッケージ」を意味する
との記載はないから,「チューナ,IFアンプおよびRFコンバータ」の
「回路端子」が存ればよく,「3in1チューナパッケージ」に限られな
いものというべきである。
審決は,「前記ビデオ回路領域にはチューナを有する」という点を本件
考案と引用考案の一致点としているが,本件考案は,上記のとおり「ビデ
オ回路領域」に「チューナの回路端子」を有するものであるから,この審
決の一致点の認定には誤りがある。しかし,後記3(4)イのとおり,この
認定の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(3) 「相違点の認定の誤り」の主張につき
ア 相違点aにつき
(ア) 原告は,引用考案では,プリント配線基板から独立した電源供給ボ
ックスの中に電源回路が格納されていると主張するので,原告が主張す
る論拠について検討する。
a 甲3には,前記(1)イ(ア)のとおり,「上記プリント基板10の一
端(図中左端)側の筐体2内の図中左側に配設されたテープ走行機構
4の下側には,ヘッドアンプブロック11を配置してある。また,該
プリント基板10の他端(図中右端)側の筐体2内の図中右側に配設
された電源供給ボックス5の下側には,サーボ回路系ブロック12と
オーディオ回路系ブロック13及びシステムコントロール回路系ブロ
ック14をそれぞれ配置してある。」(2頁左下欄8行∼16行)と
いう記載があるが,この記載は,電源回路の場所について直接記載す
るものではなく,この記載から直ちに,引用考案ではプリント配線基
板から独立した電源供給ボックスの中に電源回路が格納されていると
認めることはできない。
b 甲3の第1図によると,引用考案においては,電源供給ボックス5
の下側に対応するプリント基板10の領域には,サーボ回路系ブロッ
ク12とオーディオ回路系ブロック13及びシステムコントロール回
路系ブロック14のみが存するように見えるが,第1図は,「概略分
解斜視図」であって,各部品の大まかな位置関係を示したものにすぎ
ないから,これから「『プリント基板10』上に電源供給ボックス5
が取り付けられることはあり得ない」とまで断ずることはできない。
c 甲3には,前記(1)イ(ア)のとおり,「1枚のプリント基板10に
ヘッドアンプブロック11を,影響を受け易いサーボ回路系ブロック
12,オーディオ回路系ブロック13,システムコントロール回路系
ブロック14及び電源供給ボックス5から遠ざけるようにそれぞれ配
置したので,従来ヘッドアンプブロックを覆うように設けられていた
ヘッドアンプ用のシールドケースを廃止することができる。」(3頁
左上欄1行∼8行)という記載があるが,後記3(2)エのとおり,プ
リント基板10上に電源供給ボックス5(電源回路)を取り付けたか
らといって,引用考案がその目的を達することができないということ
はない。
(イ) ところで,被告は,本件考案における「実装」の意味は「同じ1枚
の基板に各電子部品の端子が直接取り付けられている」態様に限定され
ず,「1枚の基板に各電子部品が間接的に取り付けられている」態様も
含むと主張し,原告は,「直接取り付けられている」態様に限定される
と主張する。しかし,いずれの解釈を採るとしても,引用考案において
は,上記(ア)のとおり,プリント基板10と電源供給ボックス5(電源
回路)との関係は明らかでないから,電源回路の電子部品の実装箇所に
ついては,明らかでないというほかない。したがって,それが「特に具
体的に示されていない」とする審決の認定に誤りがあるということはで
きない。
仮に,原告が主張するように,引用考案において「電源回路の電子部
品は前記(1枚の)プリント配線基板から独立した電源供給ボックスの
中に格納されている」としても,後記3(2)ウのとおり,相違点につい
ての判断の結論に影響はない。
イ 相違点bにつき
原告は,審決は,相違点bにつき,本件考案の構成要件D(前記回路の
高周波トランスは,そのコアのギャップによる高周波漏れ磁束を生ずるコ
アギャップに面を前記プリント配線基板に平行に配置し,)だけを取り出
してそれに対応するものについて判断しており,本件考案の構成要件B
(前記プリント配線基板に対して平行に配置され,かつその上に搭載され
たビデオヘッドシリンダのコアギャップが,その面に対してほぼ垂直の方
向になるように形成されたビデオ機構部品搭載用シャーシとを具備し,)
と上記Dによってビデオ・ヘッド・シリンダのコアギャップと高周波トラ
ンスのコアギャップとの配置関係が定まる点を看過していると主張する。
しかし,後記3(3)のとおり,相違点bについての審決の判断に誤りはな
く,審決が,本件考案の構成要件BとDによってビデオ・ヘッド・シリン
ダのコアギャップと高周波トランスのコアギャップとの配置関係が定まる
点を看過しているということはできない。
また,原告は,審決は,「基板に対するこのようなコアの取付け方はご
く通常の態様である。」(32頁下2行∼1行)の「基板」に「電源回路
以外のビデオ電子部品を実装したプリント配線基板」が含まれない点を看
過していると主張するが,この主張は,後記3(3)カのとおり採用するこ
とができない。
ウ 相違点cにつき
審決は,本件考案の「チューナ,IFアンプ及びRFコンバータの回路
端子」を「チューナ」と「IFアンプ及びRFコンバータの回路端子」と
に分けて,「チューナ」を一致点とし,「IFアンプ及びRFコンバータ
の回路端子」を相違点cとしている。
前記(2)イのとおり,本件考案の「前記ビデオ回路領域にはチューナ,
IFアンプおよびRFコンバータの回路端子を有する」は,ビデオ回路領
域に「チューナ,IFアンプおよびRFコンバータ」の「回路端子」が存
することを意味するというべきであるから,審決が,「チューナ」を一致
点とし,「IFアンプ及びRFコンバータの回路端子」を相違点cとした
ことには,誤りがある。しかし,後記3(4)イのとおり,この認定の誤り
は,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(4) 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
(1) 「判断の脱漏」の主張につき
前記2(2)イ及び(3)ウのとおり,本件考案と引用考案との一致点,相違点
の認定には一部に誤りがあるものの,後記(4)イのとおり,この認定の誤り
は,審決の結論に影響を及ぼすものではないから,取消事由にはならないと
いうべきである。一致点,相違点の認定に一部誤りがあるというのみで,審
決の「判断」に脱漏があるとして,取消事由になるというべき理由はない。
そして,前記2(2)ア及び(3)アイのとおり,本件考案と引用考案との一致
点,相違点のその余の認定には誤りがない。
(2) 「相違点aについての判断の誤り」の主張につき
ア 甲4につき
(ア) 特開昭59−154486号公報(甲4)の「発明の詳細な説明」
に は,次の記載がある。
「この発明は文字,図形等をブラウン管画面上に表示するディスプレイ
装置の改良に関するものである。
第1図は,従来のディスプレイ装置を示す概略図で,図において,
(1)は文字,図形等を表示するブラウン管,(2)はブラウン管
(1)にソケットにより結合され,ブラウン管(1)に信号を供給する
回路基板,(3)は回路基板(2)に接続され,電源回路,偏向回路,
映像信号回路などを形成するメイン基板で,重量の大きな電源トランス
(4)を除いて一枚の基板上に各回路が形成されている。なお,電源回
路とは商用電源を安定化直流電源に変換するものを言い,ディスプレイ
装置においては一般的に絶縁型に形成されている。このように各回路を
一枚のメイン基板(3)に集約することによって量産性を高めることが
できるが,一方,パーソナルコンピュータ部とディスプレイ部とを一体
化したオールインワンタイプの装置においては,電源を両者共通として
別に用意することがあり,このとき,当然メイン基板(3)における電
源回路部は不必要となる。
しかしながら,別途メイン基板(3)を製造することはディスプレイ
装置の生産効率を低下させることになるため,そのままメイン基板
(3)を流用することになるが,大きな基板を使用することによるキャ
ビネット内部への配置等に制約を与える原因となっていた。
この発明は上述の欠点を解消するためになされたもので,電源回路部
を他回路と分割可能に構成し,異なる用途にも対応させるようにしたデ
ィスプレイ装置を提供するものである。
以下,この発明を一実施例である第2図について説明する。
図において,メイン基板(3)は電源回路部(3a)と,映像信号回
路,偏向回路など他の回路部(3b)とに区分されてパターンが形成さ
れており,各回路部(3a)(3b)間にはミシン目状の切断用溝(3
c)が設けられている。また,電源回路部(3a)の出力端子(4a)
と,回路部(3b)の入力端子(4b)とは近接して相対向するように
形成されている」(1頁左欄15行∼2頁左上欄13行)
(イ) 上記(ア)の記載と甲4の第1図及び第2図によると,甲4には,商
用電源を直流電源に変換する電源回路部(3a)と他回路部(3b)と
が切断用溝で区分されて実装された1枚のプリント配線基板が記載され
ているものと認められる。
イ 甲8につき
(ア) 特開平3−135371号公報(甲8)には,次の記載がある。
a 「導電路(2)上には複数の電子部品が搭載され交流電源を整流す
る前段回路(6)と,その前段回路(6)によって整流された電源を
所定の出力電源に変換する後段回路(7)が同一平面上に形成されて
いる。」(3頁左下欄8行∼12行)
b 「前段回路(6)を構成する主な電子部品は,コンデンサ(8)と,
このコンデンサ(8)とLC共振フィルタ回路を構成してスイッチン
グ部分の10K∼500Kの比較的低い周波数のノイズを除去するた
めのノイズフィルタ(9)と,交流電源を直流電源に整流する整流回
路(10)とから構成されている。」(3頁左下欄13行∼19行)
c 「次に後段回路(7)を構成する主な電子部品はノイズフィルタ
(9)で除去されない外来ノイズを含む高周波および低周波のノイズ
を除去するデータフィルタ(11)と,整流回路(10)で整流され
た直流電源を平滑する第1の平滑コンデンサ(12)と,パルストラ
ンス(14)の1次巻線に流れる電流をスイッチングコントロールす
るスイッチングIC(13)と,1次巻線および2次巻線を備えたパ
ルストランス(14)と,パルストランス(14)より変換された2
次巻線側の出力を整流する整流ダイオード(15)と,パルストラン
ス(14)から出力された励磁電流を蓄積し外部の負荷へエネルギー
を放出するチョークコイル(16)と,チョークコイル(16)を介
してリップル成分を含んだリップル電流を平滑する第2の平滑コンデ
ンサ(20)とから構成されている。」(3頁右下欄16行∼4頁左
上欄11行)
d 「ところで,前段回路(6)および後段回路(7)が形成された基
板(1)上にはAC入力を行う外部コネクタ(17)が接続され
る。」(6頁左上欄1行∼3行)
e 「…スイッチングレギュレータ回路の前段回路と後段回路を全て同
一基板上に集積化することができ,小型薄型化を実現したスイッチン
グ電源装置を実現できる大きな利点を有する。そのため本発明を用い
た電子機器ではシステム全体の小型化に一層寄与できる大きな利点を
有する。」(8頁左下欄2行∼7行)
(イ) 上記(ア)の記載と甲8の第1図Aによると,甲8には,同一基板上
に集積化された「パルストランス(14)を含むスイッチングレギュレ
ータ回路」と「AC商用電源端子」とを有する小型薄型スイッチング電
源装置が記載されているものと認められる。
ウ そして,上記アのとおり,甲4には,1枚のプリント配線基板上に電源
回路部(3a)と他回路部(3b)とを搭載することが記載されている
が,甲4の「電源回路部(3a)」には「電源トランス(4)」が実装さ
れていない。しかし,上記イのとおり,甲8には,パルストランスを含む
スイッチングレギュレータ回路とを有する小型薄型スイッチング電源装置
が記載されている。これらの事実に,基板上に部品をどのように配置する
かは,基板の大きさ,部品の種類や大きさ,部品相互の接続関係やノイズ
等の問題を考慮して,回路の設計者が適宜設計すべきものであると考えら
れること,及び後記オのとおり,本件実用新案登録出願(平成4年1月1
0日)前において,据置形ビデオ装置において1枚のプリント配線基板に
トランスを含む電源領域を設けたものが存しなかったという技術常識が存
したとは認められないことを考慮すると,当業者(その発明の属する技術
の分野における通常の知識を有する者)は,相違点a(「プリント配線基
板」に関し,本件考案は,電源回路の電子部品を1枚のプリント配線基板
の1所定領域である電源領域に,電源回路以外のビデオ電子部品を電源領
域以外の領域であるビデオ回路領域に実装するものであるのに対し,引用
考案は,電源回路以外のビデオ電子部品は(1枚の)プリント配線基板上
に実装するものであるが,電源回路の電子部品の実装箇所については特に
具体的に示されていない点)にかかる構成をきわめて容易に想到すること
ができたものと認められる。
また,仮に,引用考案において「電源回路の電子部品は前記(1枚の)
プリント配線基板から独立した電源供給ボックスの中に格納されている」
としても,すでに述べたところからすると,当業者は,「電源回路の電子
部品を1枚のプリント配線基板の1所定領域である電源領域に,電源回路
以外のビデオ電子部品を電源領域以外の領域であるビデオ回路領域に実装
するもの」をきわめて容易に想到することができたものと認められる。
エ 原告は,引用考案と甲4(特開昭59−154486号公報)の記載と
の組合せについて,引用考案において,甲4に記載のもののように,1枚
のプリント配線基板上にビデオ電子部品に加え,別途電源領域を形成した
場合,この電源領域は,引用考案の電源供給ボックス5と比べて相対的に
ヘッドアンプブロック11に近い位置となるか(甲3の第1図の正面視に
おいて,左側,前側又は後側に電源領域を設けた場合),若しくは,プリ
ント基板上の各ブロック(サーボ回路系ブロック12,オーディ路回路系
ブロック13,システム回路系ブロック14)が,甲3の第1図に記載さ
れた各ブロックの位置よりも相対的にヘッドアンプブロック11に近い位
置となる(甲3の第1図の正面視において,右側に電源領域を設けた場
合)から,ヘッドアンプブロック11が,電源領域や他の回路系ブロック
の影響をより受けやすくなり,阻害要因を有すると主張する。
引用考案(甲3)は,前記2(1)イのとおり,ヘッドアンプブロックを
上記他回路系ブロックより遠ざけ,ヘッドアンプ用のシールドケース(電
磁遮蔽板)を廃止してシールドケースレス化を実現することができるよう
にしたものであるが,甲3には,ヘッドアンプブロックと他の回路系ブロ
ックをどの程度離せば,その目的を達するかについての記載はなく,電源
領域や他の回路系ブロックをヘッドアンプブロックをどの程度離せばよい
かは,当業者が回路を設計する際に適宜考慮すべき事項であることをも考
慮すると,原告が主張するように,引用考案において,甲4に記載のもの
のように,1枚のプリント配線基板上にビデオ電子部品に加え,別途電源
領域を形成した場合,そうでない場合に比べて,電源領域や他の回路系ブ
ロックが,ヘッドアンプブロックに近づくことがあったとしても,そのこ
とから,直ちに引用考案がその目的を達することができなくなるというこ
とはできない。したがって,原告が主張するような阻害要因が存するとい
うことはできない。
オ 原告は,本件実用新案登録の出願(平成4年1月10日)当時,据置型
ビデオ装置において,AC商用電源入力のスイッチング電源回路は広く用
いられていたが,このスイッチング電源回路の据置型ビデオ装置への搭載
形態としては,弁当箱形状の電磁シールドケースの中に収納された状態
で,電源回路以外のビデオ電子部品を実装したプリント配線基板とは独立
して搭載される構造のものしか存在しなかった,と主張する。
しかし,本件実用新案登録請求の範囲には,磁気シールドが存在しない
旨の記載はないし,「考案の詳細な説明」にも,その旨の記載はない。ま
た,本件考案のような構成を採った上で,磁気シールドをすれば,ビデオ
ヘッドに対するノイズ対策はより徹底したものになることは明らかである
から,本件考案のような構成を採ることが磁気シールドを必然的に排除す
るということはできない。そうすると,本件考案は,磁気シールドが存在
しないという内容のものではないから,本件実用新案登録の出願当時,電
源回路を弁当箱形状の電磁シールドケースの中に収納しないものが存在し
ていたかどうかということは,上記ウのように認定することの妨げとなる
ものではない。
また,原告の上記主張を証する確たる証拠があるとは認められない。か
えって,東京農工大学伊藤健一著「スイッチング電源内製化の時代がやっ
てくる!!」電子技術Vol.23No.10(1981年発行)日刊工
業新聞社96頁∼99頁(乙2)には,電子回路の組み立てにおいてスイ
ッチング電源の内製化が進行し,スイッチング用高周波トランスを自ら作
るようになってきたこと,小型軽量を押し進めると結局は「1枚のプリン
ト基板に電源を組む」ことになること,内製化により電源のシールドと機
器本体のシールドを総合して対策を打つことができること,「筐体なしの
電源」を販売している電源メーカーがあることが記載され,フェライトコ
アをプリント基板に実装した写真(99頁の図3(a))が掲載されてい
る。また,乙4(米国特許第5654778号の情報開示引用)によると
1980年に発行されたと認められるパナソニックのビデオ装置のサービ
ス・マニュアルである「Service Manual Panasonic Omnivision PV-1230
PV-1222 PV-1225」(Vol.1)[乙3]及び(Vol.5)[乙5]に
は,ビデオ装置において,1枚のプリント配線基板にトランスを含む電源
領域とビデオ回路領域を設けることが記載されている(なお,上記のとお
り,本件考案は,磁気シールドが存在しないとの内容を含むものではない
から,上記サービル・マニュアル記載のビデオ装置のトランスを含む電源
領域に磁気シールドが存在するかどうかは,考慮する必要がない。また,
乙3には,上記の「1枚のプリント配線基板」のほかに,「Luminance
C.B.A.」「Chrominance C.B.A.」という別基板が存することが記載されて
いるが,これらが存するとしても,上記のとおり,トランスを含む電源領
域とビデオ回路領域が設けられている「1枚のプリント配線基板」が記載
されている以上,上記認定は左右されない。)。
カ 原告は,甲8(特開平3−135371号公報)に記載のスイッチング
・レギュレータは,小型薄型化を実現するものであるが,その実施例にお
いて,20cm×30cmサイズの基板が用いられており,その基板サイ
ズは据置型ビデオ装置にとっては大きすぎるため,据置型ビデオ装置にお
いて甲8に記載のスイッチング・レギュレータを採用すること自体がきわ
めて困難である,と主張する。甲8の実施例においては,「絶縁基板
(1)…は20cm×30cmサイズの比較的大型の基板が用いられ
る。」(3頁左上欄18行∼19行)と記載されている。この基板が据置
型ビデオ装置にとっては大きすぎるとしても,甲8には,上記イのとお
り,パルストランスを含むスイッチングレギュレータ回路を有する小型薄
型スイッチング電源装置が記載されているから,上記ウのとおり,相違点
aについての判断に当たり,この技術思想を参しゃくすることができると
いうべきである。
また,原告は,①甲4(特開昭59−154486号公報)は,ディス
プレイ装置に関するものであって,甲4には,本件考案のように高周波に
変換するスイッチング電源回路も高周波トランスも記載されていないし,
ノイズを拾いやすいビデオヘッドシリンダも存在しないから,深刻なノイ
ズ対策は必要ないと見るべきであり,甲4にはノイズ対策が記載されてい
ない,②甲8は,スイッチング電源装置そのものに関するから,高周波ト
ランスから発生するノイズを受ける対象が何であって,どのようにノイズ
対策をすればよいか等については,甲8には開示も示唆もされていないと
主張する。甲4には,上記アのとおり,1枚のプリント配線基板上に電源
回路部と他の回路部とを搭載することが記載されており,甲8には,上記
イのとおり,パルストランスを含むスイッチングレギュレータ回路を有す
る小型薄型スイッチング電源装置が記載されているから,上記ウのとお
り,相違点aについての判断に当たり,この技術思想を参しゃくすること
ができるというべきであって,甲4や甲8にノイズ対策が記載されていな
いことは,そのことを左右するものではない。
キ したがって,審決の相違点aについての判断に誤りがあるということは
できない。
(3) 「相違点bについての判断の誤り」の主張につき
ア 審決は,「VTR等の磁気記録再生装置の電源回路として,スイッチン
グレギュレータ回路を使用することは,甲第6号証の外にも,特開昭61
−79393号公報,及び,特開昭63−253866号公報にもみられ
るように本願出願前にごく周知の技術である」(32頁下8行∼下5行)
と認定しているところ,原告は,甲6で用いられているスイッチングレギ
ュレータは,DC電源入力のものであり,甲6のスイッチングレギュレー
タとAC商用電源入力のスイッチングレギュレータである特開昭61−7
9393号公報及び特開昭63−253866号公報に記載のものとは明
確に区別されるべきである,と主張する。
しかし,特開平1−245597号公報(甲6)には,VTR等の磁気
記録再生装置の電源回路として,スイッチングレギュレータ回路を使用す
ることが記載されているから,それが,DC電源入力のものであったとし
ても,審決の上記認定に誤りがあるということはできない。
もっとも,甲6のスイッチングレギュレータ回路には,高周波トランス
が含まれていないが,高周波トランスを含むスイッチングレギュレータ回
路は,特開昭61−79393号公報(甲13)及び特開昭63−253
866号公報(甲14)に示されているから,VTR等の磁気記録再生装
置の電源回路として,高周波トランスを含むスイッチングレギュレータ回
路を使用することは周知であったということができる。
イ 甲5につき
(ア) 実願昭55−111406号(実開昭57−35015号)のマイ
クロフィルム(甲5)の「考案の詳細な説明」には,次の記載がある。
「本考案は増幅回路,発振回路などトランスを有する電気回路に係り,
特にプリント基板上に構成した電気回路において使用するトランスの取
付構造に関する。」(1頁11行∼14行)
a 「第1図は本考案の対象になるDC−DCコンバータの回路図を示
し,6は直流電源,13は電源スイッチ,30は直流電源6の電圧を
発振動作により高圧の交流に変換するための発振回路,8はその交流
出力を整流して高圧の直流に変換するためのダイオード,10はダイ
オード8の高圧直流出力を蓄電するコンデンサである。発振回路30
はスイッチングトランジスタ7aと,1次側巻線2と2次側高圧巻線
4を有するトランス5aと,コンデンサ9,22と,抵抗23及びト
ランジスタ保護用のダンパーダイオード25よりなり,第2図示のよ
うにこの発振回路30の構成に必要なパターン33を備えたプリント
基板34に,必要部品,即ちトランジスタ7a,トランス5a,コン
デンサ9,22,抵抗23及びダンパーダイオード25等を取付け配
線して構成される。そして必要部品中のトランス5aは互いに組み合
わされるコア31,32をプリント基板34に挟んで取付けられ
る。」(2頁5行∼3頁2行)
b 「例えばE形−I形のコア組合せの場合は第3図示のようにプリン
ト基板34にE形コア31の中心コア部31aを貫通させる孔34a
と両側コア31b,31cを嵌込む切欠部34b,34cを形成し,
この孔34a及び切欠部34b,34cにそれぞれE形コア31のコ
ア部31a及び31b,31cを挿通せしめ,基板34より突出した
中心コア部31aに1次側巻線2及び2次側高圧巻線4を嵌装して上
下2層に積層し,E形コア31の開放側にI形コア32を接着してト
ランス5aをプリント基板34に組立て取付けるものである。」(3
頁2行∼12行)。
(イ) 上記(ア)の「考案の詳細な説明」の記載及び甲5の第1図∼第3図
によると,甲5には,DC−DCコンバータに用いる高周波トランスの
E−I形コアのギャップ面をプリント基板に平行に配置して取り付ける
ことが記載されているものと認められる。
ウ 甲9につき
(ア) 特開昭58−30291号公報(甲9)には,次の記載がある。
a 特許請求の範囲
「(1)フライバック・トランスから発生する磁束が直交する仮想平
面に,遅延素子のコイル軸線が合致するように,該遅延素子を上記フ
ライバック・トランスに対して配置して成ることを特徴とするテレビ
受像機における遅延素子の配置構造。」
「(2)上記フライバック・トランスが,取付基板に垂直に取り付け
られ,上記仮想平面が該取付基板に対して平行な平面であることを特
徴とする特許請求の範囲第1項記載のテレビ受像機における遅延素子
の配置構造。」
b 発明に詳細な説明
(a) 「本発明は,テレビ受像機における遅延素子の配置構造に関す
る。」(1頁左欄19行∼20行)
(b) 「NTSO方式によるカラーテレビ受信機では,色信号が輝度
信号よりも遅れるために,このままでは色が右にずれた画面となる
不都合があり,これを改善するために,一般にはコイルを円筒状に
巻回して成る分布定数形の遅延素子を輝度信号経路に介在させて,
その輝度信号を遅延させ色信号とのタイミングを合わせるようにし
ている。そして,上記遅延素子は回路設計上などの制約から,フラ
イバック・トランスの近くの場所に取り付けられるのが一般であ
る。」(1頁右欄1行∼10行)
(c) 「第2図は,その遅延素子1の取付基板5に対する従来の取付
状態を示す図であり,遅延素子1は取付基板5上の部品取付パター
ンの設計上から上記したように,取付基板5にコイル軸線Y−Yが
直交するように取り付けられたフライバック・トランス6の近傍
で,しかもコイル軸線X−Xがそのフライバック・トランス6に向
けられるように,その取付基板5に直接取り付けられている。」(1
頁右欄16行∼2頁左上欄3行)
(d) 「ところで,フライバック・トランス6から発生する磁束F
は,磁界中心点を通る仮想水平面Z−Z(取付基板5に平行)とそ
の接線が直交し,その下側に配置されている取付基板5に対して
は,フライバック・トランス6に帰還する緩やかな円弧を描いて交
差する。この取付基板5上における磁束Fは,ベクトル的に水平磁
束成分FHと垂直磁束成分F Vに分解することができ,この内の水平
磁束成分F H がコイル軸線X−Xに沿って遅延素子1内を通過す
る。しかも,この場合この成分F H にはリンギング成分が多く含ま
れている。このため,遅延素子1に好ましくない電圧が誘起され,
これが水平妨害縞成分の発生原因となっている。」(2頁左上欄4
行∼16行)
(e) 「そこで従来では,このような原因を取り除くために,遅延素
子1にシールドケース7を被せているが,コスト的に割高となるば
かりか取り付けに手間がかかり,更にシールドケース7自体にも電
圧が誘起されるために,フライバック・トランス6との間と分布容
量を介してそのフライバック・トランス6と遅延素子1とが磁気的
に結合するおそれがあり,充分なものではなかった。」(2頁左上
欄17行∼右上欄4行)
(f) 「本発明は以上のような点に鑑みたもので,その目的は遅延素
子のコイル軸線とフライバック・トランスからの磁束とが直交する
ようにして,シールドケースなどのシールド部材を使用せずとも遅
延素子がフライバック・トランスに対して磁気的に結合しないよう
にした遅延素子の配置構造を提供することである。」(2頁右上欄
5行∼11行)
(g) 「本実施例は,第3図に示すように,フライバック・トランス
6から発生する磁束の接線が直交する前記した仮想水平面Z−Z
に,遅延素子1をそのコイル軸線X−Xが一致するように配置した
ものである。」(2頁右上欄13行∼17行)
(h) 「上記のように遅延素子1を位置づけすることにより,その遅
延素子1を通る磁束Fは,すべてそのコイル軸線X−Xに直交する
ことになり,その磁束Fに含まれているリンギング成分による電圧
誘導は効果的に抑制される。よって,シールドケースなどの磁気シ
ールド材を用いなくとも,遅延素子1とフライバック・トランス6
との磁気的結合は問題とならず,水平妨害縞成分が有効に除去され
る。」(2頁左下欄5行∼13行)
(i) 「また,仮想水平面Z−Zの決定は,ホール素子などの感磁素
子を用いて最小水平方向成分高さを測定することにより,容易に行
なうことができる。更に,上記仮想水平面Z−Zはこれに限られ
ず,磁束Fに直交すれば必ずしも水平(取付基板5に平行)である
必要はない。」(2頁左下欄18行∼右下欄4行)
c 図面
第2図及び第3図には,フライバック・トランス6のコアギャップ
の面を取付基板5に対して水平となるように配置していることが示さ
れている。
(イ) 上記(ア)の甲9の記載によると,甲9には,テレビ受像機における
「フライバック・トランス」から発生する磁束が直交する仮想平面に
「遅延素子」のコイル軸線が一致するように配置することにより,ノイ
ズを除去することが記載されている。
このノイズ除去の動作原理は,フライバック・トランスから発生した
磁束と,遅延素子のコイル軸線とを直交させることであるが,この原理
自体は広く知られたものであって,磁束の発生源となるトランスの種別
や,磁束に影響される回路素子の種別,回路を流れる信号の種類いかん
にかかわらず適用できるものと解される。
エ 上記アのとおり,VTR等の磁気記録再生装置の電源回路として,高周
波トランスを含むスイッチングレギュレータ回路を使用することは周知で
あったところ,上記イのとおり,甲5には,高周波トランスのコアのギャ
ップ面をプリント基板に平行に配置して取り付けることが記載されてお
り,また,上記ウのとおり,甲9には,フライバック・トランスから発生
した磁束と,遅延素子のコイル軸線とを直交させることによってノイズを
除去することが記載されているのであるから,引用考案の構成を有するも
のにおいて,電源回路を,高周波トランスを含むスイッチング・レギュレ
ータ回路で構成し,高周波トランスのコア・ギャップ面をプリント基板に
平行に取り付けることによって,高周波トランスからの漏れ磁束の磁力線
方向が,ビデオ・ヘッド・シリンダのヘッド・ギャップのピックアップし
やすい磁力線方向と略直交するように構成することを,当業者はきわめて
容易に想到することができたものと認められる。したがって,当業者は,
相違点b(電源回路に関し,本件考案は,スイッチング・レギュレータ回
路で構成し,その回路の高周波トランスは,そのコアのギャップによる高
周波漏れ磁束を生ずるコアギャップに面をプリント配線基板に平行に配置
するものであるのに対し,引用考案においては,特にこのことについて示
されていない点)にかかる構成をきわめて容易に想到することができたも
のと認められる。そして,そのような構成を採ることによりノイズが防止
できることは,当業者が予測することができる作用効果にすぎないという
べきである。
オ 原告は,本件考案では,従来のノイズ対策で用いられてきたAC商用電
源入力のスイッチング電源回路を収納する弁当箱形状の電磁シールドケー
スを廃止し,ビデオヘッドシリンダのコアギャップと高周波トランスのコ
アギャップとの相互の配置関係(構成要件B及びD)によるノイズ対策を
行っている点を考慮せず,構成要件Dのみを取り出してこれに対応するも
のの判断を行っている点において,審決には誤りがある,と主張する。
しかし,前記(2)オのとおり,本件考案は,従来のノイズ対策で用いら
れてきたAC商用電源入力のスイッチング電源回路を収納する弁当箱形状
の電磁シールドケースを廃止するものではないから,原告の主張は,前提
において採用することができない。また,本件考案は,ビデオヘッドシリ
ンダのコアギャップと高周波トランスのコアギャップとの相互の配置関係
(構成要件B及びD)によるノイズ対策を行っているということができる
が,上記エのとおり,当業者は,高周波トランスのコアのギャップ面をプ
リント基板に平行に配置して取り付けること(構成要件D)のみならず,
ビデオヘッドシリンダのコアギャップと高周波トランスのコアギャップと
の相互の関係(構成要件B及びD)も含めて,きわめて容易に想到するこ
とができたものと認められる。審決の判断に誤りがあるということはでき
ない。
カ また原告は,本件実用新案登録の出願当時,ノイズレベルが大きいAC
商用電源入力のスイッチング電源回路に関しては,弁当箱形状の電磁シー
ルドケースに収納することでノイズ対策を施すことが技術常識であって,
据置型ビデオ装置において,AC商用電源入力のスイッチング電源回路
を,電源回路以外のビデオ電子部品を実装したプリント配線基板上に設け
るという技術思想は存在しなかったことを考慮すると,審決の「基板に対
するこのようなコアの取付け方はごく通常の態様である。」(32頁下2
行∼下1行)の「基板」には,「弁当箱形状の電磁シールドケース内の電
源用基板」は含まれるが,「電源回路以外のビデオ電子部品を実装したプ
リント配線基板」は含まれないと主張する。
しかし,前記(2)オのとおり,本件考案は,従来のノイズ対策で用いら
れてきたAC商用電源入力のスイッチング電源回路を収納する弁当箱形状
の電磁シールドケースを廃止するものではないし,ビデオ装置において,
AC商用電源入力のスイッチング電源回路を,電源回路以外のビデオ電子
部品を実装したプリント配線基板上に設けるという技術思想が存在しなか
ったとも認められないから,原告の主張は,前提において採用することが
できない。そして前記(2)ウのとおり,当業者は,本件考案の相違点aに
かかる構成(電源回路の電子部品を1枚のプリント配線基板の1所定領域
である電源領域に,電源回路以外のビデオ電子部品を電源領域以外の領域
であるビデオ回路領域に実装すること)をきわめて容易に想到することが
できたのであり,また,上記アのとおり,VTR等の磁気記録再生装置の
電源回路として,高周波トランスを含むスイッチングレギュレータ回路を
使用することは周知であったから,高周波トランスのコアのギャップ面を
プリント基板に平行に配置して取り付ける「基板」には「電源回路以外の
ビデオ電子部品を実装したプリント配線基板」が含まれるということがで
きる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
キ 原告は,甲9(特開昭58−30291号公報)において,テレビ受像
機において遅延素子がフライバック・トランスに対して磁気的に結合した
場合に発生するノイズは「水平妨害縞成分」といわれるものであって,
「リンギング成分」が輝度信号に対して影響を及ぼすことにより発生する
ノイズであるのに対し,本件考案の対象たるビデオテープ記録再生装置に
おいてビデオ・ヘッド・シリンダのヘッド・ギャップによって高周波トラ
ンスからの高周波漏れ磁束がピックアップされた場合に発生するノイズ
は,色信号に影響するものであり,高周波トランスの発振周波数の数倍の
ノイズ成分が,低域変換された色信号に対して影響を及ぼすことにより発
生するノイズである点で異なると主張する。また,原告は,ビデオ・ヘッ
ド・シリンダのヘッド・ギャップは,ノイズの影響をきわめて受けやすい
ものであるのに対し,甲9の遅延素子は,比較的ノイズの影響を受けにく
いものであると主張する。さらに,原告は,甲9のフライバック・トラン
スは,ブラウン管駆動のための昇圧用トランスであるから,本件考案の高
周波トランスとは異なると主張する。
甲9の記載と本件考案ではノイズやトランスに関して原告が主張するよ
うな違いがあるとしても,上記イのとおり,甲9におけるノイズ除去の動
作原理は,フライバック・トランスから発生した磁束と,遅延素子のコイ
ル軸線とを直交させることであって,この動作原理は,磁束の発生源とな
るトランスの種別や,磁束に影響される回路素子の種別,回路を流れる信
号の種類によらないものであるから,本件考案にも適用することができる
ということができる。原告が主張するノイズやトランスに関する違いは,
上記ウの認定を左右するものではない。
ク 以上のとおり,審決の相違点bについての判断に誤りがあるということ
はできない。
(4) 「相違点cについての判断の誤り」の主張につき
ア AC商用電源端子につき
(ア) 前記(2)イのとおり,甲8(特開平3−135371号公報)に
は,1枚のプリント配線基板上にパルストランスを含むスイッチングレ
ギュレータ回路とAC商用電源端子とを設けることが記載されている。
また,特開平2−163995号公報(甲7)にも,「従来の技術」と
して,1枚のプリント配線基板上にトランスを含むスイッチングレギュ
レータ回路とAC商用電源端子とを設けることが記載されている(1頁
右欄9行∼2頁左上欄16行)。そうすると,引用考案において,1枚
のプリント配線基板上に電源回路(スイッチング・レギュレータ回路)
の電子部品をも(電源領域に)実装しようとする場合,そのAC商用電
源端子を設けることは,当業者がきわめて容易になし得たものというこ
とができ,その旨の審決の判断に誤りはない。
(イ) 原告は,甲7,甲8においては,トランスを含むスイッチングレギ
ュレータ回路とAC商用電源端子が設けられたプリント配線基板が,ケ
ーシング(電磁シールドケース)内に格納されており,「電源回路以外
のビデオ電子部品を実装したプリント配線基板」でないと主張する。
しかし,前記(2)オのとおり,本件考案は,ケーシング(電磁シール
ドケース)が存在しないというものではないから,この点は,本件考案
との相違点ということはできない。また,トランスを含むスイッチング
レギュレータ回路とAC商用電源端子が設けられたプリント配線基板が
「電源回路以外のビデオ電子部品を実装したプリント配線基板」でない
点については,甲7,甲8において,たとえそうであるとしても,甲
7,甲8に,1枚のプリント配線基板上にトランスを含むスイッチング
レギュレータ回路とAC商用電源端子とを設けることが記載されている
以上,それを,引用考案において1枚のプリント配線基板上に電源回路
(スイッチング・レギュレータ回路)の電子部品をも(電源領域に)実
装しようとする場合に適用することは,当業者がきわめて容易になし得
たものということができるから,原告が主張する上記の点は,上記(ア)
の認定を左右するものではない。
(ウ) 原告は,「引用考案において,1枚のプリント配線基板上に電源回
路(スイッチング・レギュレータ回路)の電子部品をも(電源領域に)
実装しようとすること」自体が容易でないので,電源領域とビデオ回路
領域とが設けられている1枚のプリント配線基板の電源領域にAC商用
電源端子を設けることも容易ではないと主張する。
しかし,「引用考案において,1枚のプリント配線基板上に電源回路
(スイッチング・レギュレータ回路)の電子部品をも(電源領域に)実
装しようとすること」自体が容易でないとの主張は,前記(2)のとおり
採用することができない。
イ 「チューナ,IFアンプおよびRFコンバータの回路端子」につき
前記2(2)イのとおり,本件考案は,ビデオ回路領域に,「チューナ,
IFアンプおよびRFコンバータ」の「回路端子」が存するものである。
一般にビデオ装置においては,アンテナ入力端子からテレビ信号を入力
するチューナ及びIFアンプと,テレビ信号を出力するRFコンバータが
必要であると考えられるから,それらの回路端子をビデオ回路領域に設け
ることは,当業者がきわめて容易になし得たものということができる。
また,前記2(2)イのとおり,原告が主張する,いわゆる「3in1チ
ューナパッケージ」の回路端子も,本件考案の「チューナ,IFアンプお
よびRFコンバータの回路端子」に含まれるところ,原告は,本件実用新
案登録出願当時「3in1チューナパッケージ」は一般的に用いられてい
たと主張しているから,そのような「3in1チューナパッケージ」の回
路端子をビデオ回路領域に設けることは,当業者がきわめて容易になし得
たものということができる。
以上のとおり,甲10(米国特許第4686570号明細書),甲11
(米国特許第4727591号明細書)について検討するまでもなく,
「チューナ,IFアンプおよびRFコンバータの回路端子」を設けること
は,当業者がきわめて容易になし得たものということができる。
なお,前記2(2)イのとおり,審決が,本件考案と引用考案の対比に当
たり,「チューナ」を一致点とし「IFアンプ及びRFコンバータの回路
端子」を相違点cとしたことには,誤りがあるが,上記のとおり,本件考
案は,ビデオ回路領域に「チューナ,IFアンプおよびRFコンバータ」
の「回路端子」が存するものであるとの正しい認定によって判断したとし
ても,本件考案に進歩性が認められないから,この認定の誤りは,審決の
結論に影響を及ぼすものではない。
ウ したがって,当業者は,本件考案の相違点cにかかる構成(本件考案に
おいては,(1枚のプリント配線基板上の)電源領域には,AC商用電源
端子を有し,ビデオ回路領域にはIFアンプおよびRFコンバータの回路
端子を有するものであるのに対し,引用考案においては,特にこのことに
ついて示されていない点)をきわめて容易に想到することができたという
ことができる。
(5) 「本件考案が奏する効果についての判断の誤り」の主張に対し
以上述べてきたとおり,本件考案と引用考案との相違点は,いずれも当業
者がきわめて容易に想到することができたものである。
本件考案は,前記2(1)ア(ア)のとおり,「ビデオ記録ヘッドへの影響を
最小になるようにして,1枚のプリント配線基板に電源回路とビデオ回路の
領域を分けて,コンパクトに実装することが可能となり,電源回路とビデオ
回路間の接続端子を含む配線をプリント配線にし,部品と工程時間の減少に
よるコストダウンと信頼性の向上に効果がある。さらにビデオ回路の電子部
品の配置方法によるコンパクト化も計れる効果もある。」(段落【0015
】)という効果を有するものであるが,この効果は,引用考案及びこれまで
認定した各文献記載の技術等から当業者が十分に予想可能なものであるとい
うことができる。
したがって,本件考案が奏する効果についての審決の判断に誤りがあると
いうことはできない。
(6) 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由2も理由がない。
4 結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 森 義 之
裁判官 澁 谷 勝 海

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