平成18(行ケ)10543審決取消請求事件
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裁判所 |
審決取消 知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成19年6月27日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官中嶋誠 原告パウトリミテッド
|
法令 |
商標権
商標法4条1項11号4回
|
キーワード |
審決20回 優先権1回 商標権1回
|
主文 |
1 特許庁が不服2004−65044号事件について平成18年8月7日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告は POUT の欧文字を書してなる国際登録第791489号の商標,「 」
( 〔 〕, ( )優先権主張2002年8月2日 英国 国際登録日2002年 平成14年
11月1日,指定商品は第3類「Perfumery; cosmetics; skin care products
; eye care lotions and products; toiletries, shampoos,conditioners, ha
ir care products, hair spray, hair dyes and colorants;dentifrices; nai
l care preparations;essential oils; depilatories; sun tanning preparat
ions; cotton wool and cotton sticks for cosmetic purposes;non-medicate
d toilet preparations. (以下「本願商標」という )について,平成16年」 。
3月18日発送の拒絶査定を受け,同年6月16日,同査定に対する不服の審
判(不服2004−65044号事件)を請求した。 |
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判決文
平成19年6月27日判決言渡
平成18年(行ケ)第10543号 審決取消請求事件
平成19年5月14日口頭弁論終結
判 決
原 告 パ ウ ト リ ミ テ ッ ド
(審決上の表示) Pout Limited
訴訟代理人弁護士 五 十 嵐 敦
訴訟代理人弁理士 稲 葉 良 幸
同 石 田 昌 彦
同 森 本 久 実
被 告 特 許庁長 官 中 嶋 誠
指 定 代 理 人 岩 崎 良 子
同 大 場 義 則
主 文
1 特許庁が不服2004−65044号事件について平成18年8月
7日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文第1項と同旨
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は, POUT」
「 の欧文字を書してなる国際登録第791489号の商標
(優先権主張2002年8月2日 英国 〕 国際登録日2002年 平成14年)
〔 , (
11月1日,指定商品は第3類「Perfumery; cosmetics; skin care products
; eye care lotions and products; toiletries, shampoos,conditioners, ha
ir care products, hair spray, hair dyes and colorants;dentifrices; nai
l care preparations;essential oils; depilatories; sun tanning preparat
ions; cotton wool and cotton sticks for cosmetic purposes;non-medicate
d toilet preparations.」(以下「本願商標」という 。)について,平成16年
3月18日発送の拒絶査定を受け,同年6月16日,同査定に対する不服の審
判(不服2004−65044号事件)を請求した。
特許庁は,平成18年8月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
審決(以下「審決 」という。 をし,同年8月21日 ,その謄本を原告に送達し
)
た。
2 審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願商標と,下記(1)ないし(3)
の商標(以下 ,これらを一括して「引用商標」という 。 とは ,外観及び観念に
)
おける相違点を考慮してもなお,称呼において類似するから,本願商標は商標
法4条1項11号に該当する,というものである。
(1) 登録第1811235号商標(以下「引用商標1」という 。)
別紙審決書写しの別掲のとおりの構成よりなり,昭和56年1月28日に
登録出願され,第4類の原簿に記載の商品を指定商品として,昭和60年9
月27日に設定登録され,平成7年10月30日,平成17年6月28日に
存続期間の更新登録がされ,その後,同年7月13日に指定商品について第
3類「せっけん類,歯磨き」に書換登録されたもの。
(2) 登録第1987345号商標(以下「引用商標2」という 。)
「PORT」及び「ポート」の文字を二段に書してなり,昭和60年1月
10日に登録出願され,第4類の原簿に記載の商品を指定商品として昭和6
2年9月21日に設定登録され,平成9年9月2日に存続期間の更新登録が
されたもの。
(3) 登録第3360774号商標(以下「引用商標3」という 。)
「PORT」及び「ポート」の文字を二段に書してなり,平成7年4月4
日に登録出願され,第3類の原簿に記載の商品を指定商品として平成9年1
1月21日に設定登録されたもの。
第3 取消事由に係る原告の主張
審決は,以下のとおり,本願商標と引用商標の類否判断を誤った違法がある
から,取り消されるべきである。
1 本願商標の称呼の認定の誤り
審決は,「本願商標は『パウト』の外『ポウト』の称呼をも生ずる 」(審決書
2頁29行)との認定を前提として , 本願商標と引用商標とは ,外観及び観念
「
における相違点を考慮してもなお,称呼において類似するものというべきであ
る。 (審決書3頁5行∼6行)と判断した。
」
しかし,本願商標からは ,次のとおり, パウト」の称呼が生じるのみで , ポ
「 「
ウト」の称呼は生じないから,本願商標と引用商標が類似するとした審決の判
断は,その前提において誤りである。
(1)ア 本願商標に係る「POUT」の欧文字は ,「ふくれっ面をする,口をと
がらす」又は「ナマズの一種」等の意味を有する英単語を表し(甲5の1 ,
2) 造語ではないから ,
, 我が国で最も親しまれている外国語である英語風
に「パウト」と発音するのが自然である。
「OUT」の欧文字は, 外へ ,出して,除外して 」という意味内容を有
「
する親しまれた英語であり(甲6 ,7)「オウト」ではなく , アウト」と
, 「
容易に発音される。また , OUT」の綴りを含み,日本人に親しまれた英
「
単語には, SHOUT 」 シャウト ) 甲8の1 ,2) 「TROUT 」 ト
「 ( ( , (
ラウト) 甲9の1 , ) SPROUT 」 スプラウト) 甲10の1, )
( 2 ,
「 ( ( 2 ,
「STOUT」 スタウト ) 甲11の1 ,2)「 SCOUT」 スカウト )
( ( , (
( 甲12の1,2) 「GROUT」 グラウト) 甲13の1,2) 「BO
, ( ( ,
UT 」 バウト) 甲14) 「CLOUT」 クラウト ) 甲15) 「 FLO
( ( , ( ( ,
UT 」 フラウト ) 甲16)「GOUT 」 ガウト) 甲17)「LOUT 」
( ( , ( ( ,
(ラウト) 甲18) 「ROUT 」 ラウト) 甲19) 「SNOUT」 ス
( , ( ( , (
ナウト) 甲20) 「SPOUT 」 スパウト) 甲21)など , OUT」
( , ( ( 「
の部分を アウト」
「 と発音するものが多数存在する 。したがって , OUT」
「
の綴りを伴う語は,その単語自体が特に親しまれたものでなくても , アウ
「
ト」と発音するものと容易に類推されるというべきである。
そして, POUT 」という語は,特に親しまれているものではないとし
「
ても ,中学程度の英語学習に使われる 初級クラウン英和・和英辞典」 ,
「 に
その意味内容とともに,カタカナで発音が掲載されている(甲5の2)よ
うに,平易な語であり,また,平均的な日本の取引者・需要者は,その綴
りから最も自然と考えられる音で発音しようとするのが一般的である。
イ 本願商標は,原告の製造に係る化粧品等の商品(以下「原告商品」とい
う。 につき使用している商標であり ,
) 我が国においては販売準備中ではあ
るが,既に化粧品のブランドとしてインターネット等で我が国の消費者に
紹介されており,ネット通販業者のホームページを利用して,我が国の消
費者は原告商品を購入することができる(甲25∼39)。
また,一般需要者に人気があり,使用頻度の高いインターネットの検索
サイト「Google 」 http://www.google.co.jp/)及び「Yahoo!
(
JAPAN(http://www.yahoo.co.jp/)において , パウト」を検索する
「
と,ヒット数は相当程度あり,ほとんどすべてが原告商品に関するもので
ある(甲23,24 )。
このように,本願商標に係る POUT 」 ,
「 は 我が国において , パウト」
「
の称呼をもって,広く紹介されている。
ウ 特許電子図書館の商標出願・登録情報検索における書誌情報では,本願
商標の称呼は, パウト,ポート」とされている(甲1 )が,本願商標と同
「
一の構成からなり,指定商品を第25類「ティーシャツ,ワイシャツ類及
びシャツ,上半身用衣類・・・ベルト」とする国際登録第791489号
の商標(原告は,この商標について,平成17年7月1日,商標権設定登
録を受けた 。 の称呼は , パウト ,プート」とされており , ポート」の称
) 「 「
呼は付されていない(甲44) 上記書誌情報における称呼は,特許庁が参
。
考称呼として付加したものではあるが, POUT 」
「 の欧文字から生じる称
呼として統一的に付加されているのは,「パウト」のみであり,「ポート」
との称呼は,参考称呼として付加されたり,付加されなかったりする程度
のものにすぎない。したがって, ポート」との称呼は,本願商標から生じ
「
得る自然な称呼ということはできない。
(2)ア 被告は,「POU」の欧文字を「ポー」とカタカナ表記する場合がある
として,和製英語である「POUCH」 ポーチ)の例を挙げるが,英語と
(
して , POU」の欧文字を「ポー 」と読むものではないから,原告の前記
「
(1)アの主張の当否に影響するものではない。
イ 被告は,本願指定商品中「 化粧品」について, POUT 」が「 ポート」
「
とカタカナ表記されている例として , LIP
「 POUT」の表記のある容
器の写真とともに,「リストレーション リップポート(5ml )」と表記
したホームページ(乙3の6)を挙げる。しかし,上記ホームページに掲
載された「LIP POUT 」なる商品は ,外国製であり, リップ
「 パウ
ト」と発音・表示されるべきものであり,現に別のインターネット通販サ
イトでは,「LIP POUT」を「リップパウト」と表記され ,「リップ
ポート」とは表記していない(甲40,41 ) このように ,カタカナ表記
。
を誤った態様で記載した一例をもって,本願指定商品中「化粧品」につい
て「POUT」が「ポート」とカタカナ表記されている例があるとする被
告の主張は,妥当でないというべきである。
(3) 以上のとおりであるから,本願商標は ,「パウト」の称呼のみを生ずると
いうべきであり, ポウト」
「 と称呼されることも少なくないとした審決の認定
は,誤りである。
2 本願商標と引用商標の類否判断の誤り
(1) 本願商標からは,上記1のとおり,「パウト」の称呼のみを生ずるという
べきであるところ,これと引用商標から生ずる「ポート」の称呼とは,とも
に全体で3音の音構成をとり,かかる少ない音数の中で,識別上重要な要素
を占める第1音の母音に加え,第2音が「ウ」であるか,長母音であるかと
いう点で相違するから,両者は語音感覚が異なり,取引者・需要者が明確に
聴別し得るものであって,誤認混同を来すおそれはなく,類似しないという
べきである。
(2) 仮に ,本願商標から「ポウト」の称呼が生じるとしても,次のとおり,本
願商標と引用商標とは類似しないから,審決の上記判断は誤りである。
ア 本願商標と引用商標は,ともに全体で3音の音構成からなるところ,こ
のような短い音構成においては,通常,各音ははっきり明瞭に発音される
から ,本願商標は, ポ」「ウ」「ト」と明瞭に聴取できる一方 ,引用商標
「 , ,
は,第2音が長音であり, ポー 」と「ト」の2音として聴取できるから ,
「
両者は,その称呼において,明確に聴別し得る。
イ 本願商標は,前記1(1)アのとおり,その構成文字から,「ふくれっ面を
する,口をとがらす」又は「ナマズの一種」等の意味を有する英単語であ
る「POUT」を表す。一方,引用商標を構成する「PORT」の欧文字
は,「港」や「 パソコンなどの)入出力ターミナル」を意味する英単語と
(
して ,我が国において,広く知られ,親しまれている(甲22の1∼3 )。
したがって,本願商標と引用商標は,その観念において大きく異なる。
ウ 本願商標に係る「POUT」と引用商標を構成する「PORT」は,と
もに4文字の欧文字からなるが,3番目の文字が「U」と「R」である点
で相違する。かかる相違は,全体で4文字という短い綴りの中で際立って
おり,視覚的に看者に異なった印象を与えるものである。特に,引用商標
を構成する「PORT」の語は,上記イのとおり,我が国においてその綴
りと共に広く知られた英単語であるから,本願商標と引用商標との綴りの
相違は,明白に識別できるものである。したがって,本願商標と引用商標
とは,その外観において大きく異なる。
エ 以上のとおり,仮に本願商標から「ポウト」の称呼が生じるとしても,
本願商標と引用商標とは,称呼,外観及び観念のいずれにおいても,類似
しないし,仮に本願商標と引用商標の称呼が近似するとしても,本願商標
と引用商標とは,上記イ,ウのとおり,観念及び外観において大きく相違
する 。そして ,前記1(1)イのような取引の実情に鑑みると,本願商標は ,
引用商標とは,何ら商品の出所に誤認混同をきたすおそれはなく,非類似
というべきである。
第4 取消事由に係る被告の反論
以下のとおり,本願商標と引用商標は類似し,その指定商品も同一又は類似
するから,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定判断
に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1 本願商標の称呼の認定の誤りについて
(1) 我が国において ,英語が最も親しまれて使用されている外国語であるとし
ても,一般に,すべての英単語が正しく発音され,その意味が正しく理解さ
れるとはいえない。一方,ローマ字は,我が国において英語と同様に一般に
親しまれている。それゆえ,造語と理解される欧文字に接する取引者・需要
者は,英語風及びローマ字風の読みで称呼することが一般的である。しかる
ところ,本願商標に係る「POUT」は,大学教養程度又はそれ以降に学習
される英単語であって(乙2の1 ,2) 一般に親しまれた語ではないから ,
,
取引者・需要者は,これを造語と理解して,ローマ字風に「ポウト」と称呼
することも少なくないというべきである。
また,商標は,その作成者の意図如何にかかわらず,しばしば,1個の商
標から2個以上の称呼の生ずることがあることは,経験則の教えるところで
ある。
さらに,本願商標の指定商品の取引者・需要者は ,老人から子供をも含み ,
老若男女を問わず一般大衆がその消費者の対象といえるところ,これらの者
のすべてが大学教養程度の英語を習得しているわけではないから,本願商標
の指定商品の取引者・需要者が,本願商標に係る「POUT」の欧文字を常
に英語読みで「パウト」とのみ称呼するということはできない。
(2) 原告は,本願商標に係る「POUT 」は,インターネット等で , パウト 」
「
の称呼をもって,我が国の消費者に広く紹介されている旨主張するが,①イ
ンターネット上のホームページには,「POUT」の欧文字のみでなく ,「パ
ウト 」のカタカナ文字が併記されていること ,②本願商標の指定商品は , 化
「
粧品」以外の商品を含むから,化粧品に興味を有する一部の若い女性等はと
もかく, 化粧品」
「 以外の指定商品に係る取引者・需要者までが, POUT 」
「
を「パウト」とのみ称呼し ,かつ,その意味を熟知しているとは考えがたい 。
(3) 以上のとおり,本願商標に係る「POUT 」の欧文字に接した取引者・需
要者は, ポウト 」
「 の称呼をもって取引に当たる場合が多いとみるのが自然で
あり ,審決が「本願商標は『パウト』の外『ポウト 』の称呼をも生ずる 」 審
(
決書2頁29行)と認定したことに,誤りはない。
2 本願商標と引用商標の類否判断の誤りについて
本件商標と引用商標は,以下のとおり,称呼,外観及び観念において顕著な
差異を有せず,類似するというべきである。
(1) 本願商標からは,前記1のとおり,「ポウト」の称呼が生じるところ,①
音声学上,二重母音「オウ」は長母音化されて「オー」となることがあるこ
と(乙3の1 ,2) ②外来語の表記に関する内閣告示第2号では ,長音は原
,
則として長音記号「ー」を用いて書くが,「オー」と書かず,「オウ」と書く
ような慣用がある場合は,それによるとされていること(乙3の3 ) ③「P
,
OU」の欧文字を「ポー」とカタカナ表記する例として ,「POUCH 」(ポ
ーチ )が知られていること(乙3の4,5) ④「LIP
, POUT」の表記
のある容器の写真とともに,「リストレーション リップポート(5ml )」
と表記したホームページ(乙3の6)があり,本願指定商品中「化粧品」に
ついて, POUT 」が「ポート」とカタカナ表記されていることがうかがわ
「
れることなどの事情に照らせば, POUT 」は「 ポート」とカタカナ表記さ
「
れることがあり, POUT 」の語に接する取引者・需要者は ,これを「ポウ
「
ト」又は「ポート」と称呼する場合も少なくないというべきである。
したがって,本願商標は,その構成文字「POUT」より「パウト」のほ
か, ポウト」又は「ポート」の称呼をも生ずるというべきであり ,他方 ,各
「
引用商標からは「ポート」の称呼が生ずること明らかであるから,本願商標
と引用商標とは,称呼上類似するというべきである。
(2) 本願商標に係る「POUT」の欧文字は,「口をとがらす」又は「うなぎ
の一種」等の意味を有する英単語であるとしても,大学教養課程又はそれ以
上の学習課程において習得又は学習されるものであり,また,前記1のとお
り,本願指定商品との関係でも,一般に親しまれた英語といえないから,こ
れに接する取引者・需要者をして,一種の造語と理解ないし認識させること
も少なくないというべきである。
一方 ,引用商標の構成中の「PORT 」の欧文字は, 港,空港 」の意味を
「
有する比較的平易な英語として,日常親しまれていることから,これより
「港,空港」の観念を生ずることは明らかである。
したがって,本願商標と引用商標とは,観念において比較すべくもないも
のである。
(3) 本願商標と引用商標は,外観において ,それぞれ区別できるものであるが ,
看者の記憶に残る程の特徴的な構成における相違はない。
(4) 上記のとおり,本願商標及び引用商標の構成自体は特異なものではなく,
また ,本願商標は特定の意味を有しない造語と理解ないし認識され得るから ,
その観念と結びついて,看者に連想,記憶されるものとはいえない上,本願
商標の指定商品の需要者は老若男女にわたり得ることからすれば,常に注意
深く商品に付された商標の外観,観念の相違点を吟味し,選択するというこ
とはできず,むしろ簡易迅速を尊ぶ商品の取引の実情等を考慮すると,商標
の外観,観念の相違点にかかわらず,比較的記憶しやすい称呼をもって,取
引されることが少なくないというべきである。
なお,最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決(民集22巻2号39
9頁)は,指定商品の特殊性,新規参入の困難性など,当該事案に固有の取
引の実情ないし経験則の下で,称呼の対比考察が比較的緩やかになされた事
例であり,本願商標の指定商品については,上記のような特殊事情は認めら
れない。
(5) 以上のとおりであるから,取引の実情等を考慮しても,本願商標と引用商
標とは,称呼,外観及び観念の3点のうち,①外観及び観念において著しく
相違するとまではいえず,②称呼において類似するから,本件商標と引用商
標は類似するというべきである。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は,審決は本願商標と引用商標の類否判断を誤ったものであり,こ
れを取り消すべきものと考える。その理由は,以下のとおりである。
1 商標法4条1項11号は, 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他
「
人の登録商標又はこれに類似する商標であつて,その商標登録に係る指定商品
若しくは指定役務‥‥‥又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用
をするもの」については,商標登録を受けることができない旨規定している。
この場合,商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品・役務に使
用された場合に,商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否
かによって決すべきであり,誤認混同を生ずるおそれがあるか否かは,そのよ
うな商品・役務に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者及
び需要者に与える印象,記憶,連想等を考察するとともに,その商品・役務の
取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に照らし,その商品
・役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合
的に判断すべきものと解される(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43
年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
2 本件商標と引用商標の類否の検討
そこで,上記の見地から,本件商標と引用商標の類否について検討する。
(1) 観念について
証拠(甲5の1,2,22の1∼3,乙2の1,2)及び弁論の全趣旨に
よれば,①本願商標を構成する POUT」
「 の欧文字は , ふくれっ面をする,
「
口をとがらす」又は「ナマズの一種」等の意味を有し,我が国では,大学教
養程度又はそれ以降に学習される英単語であり(乙2の1,2 ) あまり親し
,
まれてはいないものの,中学程度の英語学習に用いられる辞典にも掲載され
ており(甲5の2 ) ごく平易な単語であること,②引用商標の構成中の「P
,
ORT」の欧文字及び「ポート」のカタカナ文字は, 港」等の意味を有する
「
英単語又はそのカタカナ表記であって ,我が国において広く親しまれている ,
平易で分かりやすい語であることが認められる。
したがって,本願商標と引用商標とは,その観念において相違する。
(2) 外観について
本願商標を構成する「POUT」の文字列と引用商標の構成中の「POR
T」の文字列は,3番目の文字である「U」と「R 」が相違するが , POR
「
T」の欧文字は我が国において広く親しまれた英単語である点を考慮すると ,
取引者,需要者にとって,上記綴りの相違により,視覚的に異なる印象を与
えるものいうことができる。
また,引用商標は,いずれも「PORT」の欧文字以外の構成を含む(す
なわち,引用商標1は,円の中に牛を描いた図形 , PORT 」の欧文字及び
「
「ポート」のカタカナ文字を3段に書してなるものであり,引用商標2は, ポ
「
ート」のカタカナ文字及び「PORT」の欧文字を2段に書してなるもので
あり ,引用商標3は, PORT 」の欧文字及び「ポート 」のカタカナ文字を
「
2段に書してなるものである 。)のに対して,本願商標は,「POUT」の欧
文字のみを横1段に書してなるものである点での相違からしても,視覚的に
異なる印象を与えるものといえる。
したがって,本願商標と引用商標とは,外観において相違する。
(3) 称呼について
ア 前記のとおり ,本願商標を構成する「POUT 」の欧文字は, ふくれっ
「
面をする,口をとがらす」又は「ナマズの一種」等の意味を有するごく平
易な英単語であるところ,これを英語として発音すれば, パウト」の称呼
「
を生ずる(当事者間に争いがない。 。
)
また ,証拠(甲6∼21 )及び弁論の全趣旨によれば, OUT」の欧文
「
字又は「OUT」の綴りを伴う英単語として, OUT」 アウト) 甲6 ,
「 ( (
7)「SHOUT」 シャウト ) 甲8の1 , )「TROUT 」 トラウト )
, ( ( 2 , (
( 甲9の1 ,2) 「SPROUT 」 スプラウト ) 甲10の1,2) 「S
, ( ( ,
TOUT」 スタウト) 甲11の1 ,2) 「SCOUT」 スカウト ) 甲
( ( , ( (
12の1,2)「GROUT」 グラウト ) 甲13の1,2)「BOUT 」
, ( ( ,
(バウト) 甲14)「CLOUT」 クラウト) 甲15)「FLOUT」
( , ( ( ,
(フラウト ) 甲16) 「GOUT」 ガウト) 甲17) 「LOUT 」 ラ
( , ( ( , (
ウト ) 甲18) 「ROUT 」 ラウト) 甲19) 「 SNOUT」 スナウ
( , ( ( , (
ト) 甲20)「SPOUT」 スパウト) 甲21)など , OUT」を「ア
( , ( ( 「
ウト 」と発音する例が数多く存在すること,これらによれば, OUT」を
「
「アウト」と発音するのは通常であると,一般に理解されているものと認
められる。
さらに,証拠(甲23∼39)及び弁論の全趣旨によれば,本願商標を
構成する「POUT」の欧文字は,インターネット上の日本語で作成され
た様々なホームページにおいて,化粧品のブランドあるいは商品として,
紹介ないし掲載され , パウト」
「 とカタカナ表記されていることが認められ
る。
上記の事実を総合考慮すれば ,本願商標から生じる自然な称呼は , パウ
「
ト」であるということができる。
イ もっとも,証拠(乙3の1∼6)及び弁論の全趣旨によれば,本願商標
を構成する「POUT 」の欧文字をローマ字風に発音すれば, ポウト」と
「
の称呼を生ずるところ,①音声学上,二重母音「オウ」は長母音化されて
「オー 」となることがあること(乙3の1 ,2) ②外来語の表記に関する
,
内閣告示第2号では ,長音は原則として長音記号 ー」
「 を用いて書くが, オ
「
ー」と書かず , オウ 」と書くような慣用がある場合は,それによるとされ
「
ていること(乙3の3 ) ③「POU」の欧文字を「ポー 」とカタカナ表記
,
する例として,和製英語である POUCH」 ポーチ)
「 ( の例があること 乙
(
3の4,5) ④「LIP
, POUT 」の表記のある容器の写真とともに,
「リストレーション リップポート 5ml) と誤記したホームページ 乙
( 」 (
3の6)があることが認められ,上記の事実によれば,本願商標を構成す
る「POUT」の欧文字から,およそ「ポウト」ないし「ポート」の称呼
が生ずる余地がないとはいえない。
しかし,前記のとおり, POUT 」という英単語は,あまり親しまれて
「
はいないものの,中学程度の英語学習に用いられる辞典にも掲載されてい
るごく平易な単語であること, OUT」との綴りが「アウト」と発音され
「
る例が数多く知られていること ,インターネット上には, POUT 」の欧
「
文字を「パウト」とカタカナ表記した日本語のホームページ(甲23∼3
9) 「LIP
, POUT」についても「リップパウト」とカタカナ表記し
たホームページ(甲40,41)「POUT 」の語義を「不機嫌 」 唇を尖
, 「
らせる」などと説明したホームページ(甲34,36)等が多数存在する
ことに照らすならば , LIP
「 POUT 」を「 リップポート 」と誤記され
たホームページ 乙3の6 )
( という例が存在したことをもって , POUT 」
「
の欧文字に接する取引者・需要者が,これを「ポウト」又は「ポート」と
称呼する場合が,少なくないと認めることはできない。
なお,特許電子図書館の商標出願・登録情報検索における書誌情報にお
いて,本願商標と同一の構成からなる国際登録第791489号の商標の
称呼が「パウト,プート」とされ, ポート」の称呼は付されていない(甲
「
44 )ことも, POUT 」の欧文字から自然に生じる称呼は「パウト 」で
「
あって, ポート」
「 との称呼は当然には生じないことを推認させる事情の一
つというべきである(もっとも,同登録情報検索において,本願商標の称
呼については「パウト,ポート」とされている〔甲1 〕 )
。。
ウ そうすると,本願商標から「ポウト」ないし「ポート」の称呼が生じる
ことを全く否定することはできないとしても,取引状況に照らして,その
ような場合はごく例外的であるといって差し支えない。したがって,本願
商標から生じる自然な称呼である「パウト」と,引用商標から生じる「ポ
ート」の称呼とは,その3音のうち,最初の2音において異なり,聴覚的
に異なる印象を与えるものであるから,称呼において相違する。
(4) まとめ
以上によれば,本願商標と引用商標とは,観念及び外観において類似せず ,
本願商標から自然に生じる パウト」
「 の称呼と引用商標から生じる ポート 」
「
の称呼も類似しない。上記のとおり,本願商標から「ポウト」ないし「ポー
ト」の称呼が生じることを全く否定することはできないが,通常の需要者・
取引者において,そのような称呼を生ずる場合は極めて少ないものと解され
る。そうすると,本願商標は,その指定商品に使用された場合,引用商標と
は異なる印象,記憶,連想等を取引者・需要者に与えるものと認められ,商
品の出所につき誤認混同を生じるおそれはないというべきである。
そうすると,本願商標と引用商標とが類似するとした審決の判断には誤り
があることになる。
なお,審決には,本願商標と引用商標の指定商品が同一又は類似すること
につき,何ら判断を明示することなく,本願商標が商標法4条1項11号に
該当するとした点においても理由不備の誤りがある。
3 結論
したがって,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとし,
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁 判 長 裁 判 官 飯 村 敏 明
裁 判 官 大 鷹 一 郎
裁 判 官 嶋 末 和 秀
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