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平成18(行ケ)10428審決取消請求事件

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裁判所 審決取消 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年5月31日
事件種別 民事
当事者 被告翔佳億企業有限公司
原告レー・ラルイタナョルリテド
法令 実用新案権
実用新案法3条1項3号1回
キーワード 審決36回
無効6回
実施5回
無効審判3回
優先権1回
主文 1 特許庁が無効2005−40009号事件について平成18年8月29日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 本件は,原告が,現在は被告が名義人である後記実用新案登録(請求項の数 4)の無効審判請求をしたところ,特許庁が 「本件審判の請求は,成り立た, ない 」旨の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。。

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判決文

判決言渡 平成19年5月31日
平成18年(行ケ)第10428号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成19年5月24日
判 決
原 告 レー・ラルイタナョルリテド
ジナミク・ンーシナ・ミッ
訴訟代理人弁理士 谷 義 一
同 阿 部 和 夫
同 新 開 正 史
同 窪 田 郁 大
同 小 林 武 彦
被 告 翔 佳億 企 業有限 公司
主 文
1 特許庁が無効2005−40009号事件について平成18年8月
29日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨。
第2 事案の概要
本件は,原告が,現在は被告が名義人である後記実用新案登録(請求項の数
4)の無効審判請求をしたところ,特許庁が ,「本件審判の請求は,成り立た
ない 。」旨の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
第3 原告の主張(請求原因)
1 特許庁における手続の経緯
Aは,平成14年1月8日,名称を「一体成型によるブラジャーの構造」と
する考案について実用新案登録出願(優先権主張・平成13年〔2001年〕
1月10日,台湾)をし,平成14年4月24日,日本国特許庁から実用新案
登録第3087144号として設定登録を受けた(以下「本件実用新案登録」
という。甲6)。
本件実用新案登録の権利者はその後吉尚企業有限公司となったが,原告は同
公司を被請求人として,平成17年11月11日,同登録の無効審判請求を行
い,特許庁はこれを無効2005−40009号事件として審理することとし
た。本件実用新案登録の権利者はさらに被告(翔佳億企業有限公司)に変更さ
れたが,特許庁は,平成18年8月29日 ,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」旨の審決をし,その謄本は平成18年9月8日原告に送達された。
2 考案の内容
本件実用新案登録は,請求項1∼4から成り,その考案(以下,各請求項に
対応して「本件考案1」などといい,併せて「本件各考案」ということがあ
る。)の内容は,下記のとおりである。

【請求項1】外カップ層,内綿層,定型管,肩紐,背フックより構成される一
体成型によるブラジャーの構造において,
一体成型されており,且つカップ部と背帯とを含む該外カップ層と,
一体成型であり,該外カップ層の外形に対応しており,カップ部及び背帯を含
む該内綿層と,
該外カップ層と該内綿層との間のカップ部内側下縁に設けられている該定型管
と,
を含み,
高温でプレスされて一体成型された該外カップ層と内綿層とが緊密に貼合され
ていることを特徴とする一体成型によるブラジャーの構造。
【請求項2】該外カップ層と内綿層の間のカップ部内側にはパットが設置され
て胸部の張り出た感覚が強調されることを特徴とする請求項1記載の一体成型
によるブラジャーの構造。
【請求項3】高温によりプレスを経た後,該定型管個所の外カップ層及び内綿
層間にはまだ貼合されていない欠け口が残されて,ワイヤが装入される個所が
提供され,該ワイヤが装入された後には同様に高温でプレスされて該欠け口が
貼合されることを特徴とする請求項1記載の一体成型によるブラジャーの構造。
【請求項4】該型紐は高圧プレスによって該カップ部及び背帯一端上に貼合さ
れ,該背フックにおいては,高圧で背帯末端個所に貼合されていることを特徴
とする請求項1記載の一体成型によるブラジャーの構造。
3 審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要旨は,本件各考
案は,①下記の甲1,2に記載された考案(以下「甲1考案 」「甲2考案」と
いう 。)であるとすることはできず(実用新案法3条1項3号 ),かつ,②こ
れらに基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたともいえない
(同法3条2項 ),また,③下記の甲3に記載された発明(以下「甲3発明」
という 。)と同一の考案とすることもできない(同法3条の2 ),というもの
であった。

甲1:特開平10−88405号公報
甲2:特開2000−34604号公報
甲3:特開2002−201505号公報
4 審決の取消事由
(1) 取消事由1(本件考案1の認定の誤り)
審決は,本件考案1の「一体成型」につき ,「各々一つのものとして形づ
くられている」ことに加え ,「貼合するだけでブラジャーとなる程度に,カ
ップ部がカップ状に成型されている」ことを意味しているとする(6頁5行
∼6行)。
しかし,本件考案1の「一体成型」は,次に述べるとおり,それが「各々
一つのものとして形づくられている」ことを意味するとは言いえても ,「カ
ップ部がカップ状に成型されている」こと(すなわち,プレス前にカップ部
がカップ状に立体化されていること)までは意味しない。
ア 「一体成型」についての審決の認定の誤り
審決は,本件明細書(甲6)における効果欄の「…外カップ層及び内綿
層は一体成型であるため,生産時には高温によるプレスで貼合させるだけ
でよく,…見た目にも美しい製品が完成し,…」との記載(段落【000
7 】 ,及び課題欄の「…公知構造のブラジャーにおいては,…縫製の過

程においては左右の対称や位置などを注意深く縫い合わせなければならず,
…」との記載(段落【0003 】)を根拠として ,「一体成型」の語が,
プレス前にカップ状に成型されることを意味するものとする(6頁19行
∼21行 )。
① しかし,まず「…高温によるプレスで貼合させるだけで…製品が完成
…」の記載についてみると,プレス前にカップ状にされその後に貼合
される場合と同様に,プレス工程において貼合とカップ部の立体化と
が同時に行われる場合にも,左右カップ部と背帯とが一体でさえあれ
ば「高温によるプレスで貼合させるだけで製品が完成」することに変
わりはない。したがって ,「高温によるプレスで貼合させるだけでよ
く」との記載は ,「一体成型」をプレス前にカップ状に立体化させる趣
旨と限定的に解すべき根拠とはなり得ない。
② 次に ,「左右の対称や位置などを注意深く縫い合わせる必要」の記載
についてみると,プレス前にカップ状にされその後に貼合される場合
と同様に,プレス工程において貼合とカップ部の立体化とが同時に行
われる場合にも,左右カップ部と背帯とが一体でさえあれば「左右の
対称や位置などを注意深く縫い合わせる必要」を解消できる点に変わ
りはない。
すなわち ,「左右の対称や位置などを注意深く縫い合わせる必要」と
の技術的課題は,左右のカップ部と背帯とが「一体」か否かの問題で
あるから,内外層の貼合と立体化とが同時か否かの問題とは,そもそ
も本質的に無関係である。したがって課題欄の当該記載もまた ,「一体
成型」をプレス前に立体化させる趣旨と限定的に解すべき根拠とはな
り得ない。
③ したがって,本件明細書(甲6)の「考案の効果」欄及びこれに対応
する「考案が解決しようとする課題」欄の記載は,縫製の不要化を示
唆するものではあっても,審決の言うようなプレス前の立体化を一切
示唆していない。それにもかかわらず審決は,本件明細書(甲6)の
段落【0007】の「…貼合させるだけでよく,…」と「…見た目に
も美しい製品が完成し,…」とを,文脈を無視してあえて結合させた
上で解釈したものであって,誤りである。
イ 「一体成型」の意義についての検討
本件明細書(甲6)の実用新案登録請求の範囲欄には ,「一体成型」の
意味内容を直接定義する記載はなく,カップ部がプレス前にカップ状に変
形されることを要するかについて不明瞭である。したがって,その意義は
明細書の考案の詳細な説明及び図面の記載,ならびに出願時の技術常識を
考慮して検討する必要がある。
① 考案の詳細な説明欄及び図面の記載からの検討
a ところで,本件明細書(甲6)の考案の詳細な説明欄には ,「一体
成型」の語義を直接定義する記載はなく,且つこれを説明ないしサ
ポートする記載も全く存在しない。また,カップ部がプレス前にカ
ップ状に立体化される旨の具体的記載自体が,明細書に全く存在せ
ず,その示唆もないものである。
b 一方,図面について見ると,図1には,平坦なカップ部111を有
する外カップ層11,及び平坦なカップ部121を有する内綿層1
2が記載されているから,これら外カップ層11及び内綿層12は
プレス前にカップ状に立体化されていないことが明らかである。同
様に,図3はパット16を用いる実施形態の分解説明図であるが,
パット16が立体的に描かれている一方,外カップ層11及び内綿
層12は平坦に記載されているから,この実施形態においても外カ
ップ層11及び内綿層12はプレス前にカップ状に変形されていな
いことが明らかである。
以上の図面の記載からみて,本件考案1における外カップ層及び
内綿層の「一体成型」とは,それが「各々一つのものとして形づく
られている」ことを意味するとは言い得ても ,「カップ部がカップ状
に成型されている」こと(すなわち,プレス前にカップ部がカップ
状に立体化されていること)までは意味せず,むしろ請求項1にい
う「一体成型」された外カップ層・内綿層は,図1及び図3に示さ
れるようにプレス前にカップ状に立体化されていないことを意味す
るか,少なくともプレス前にカップ状に立体化されていないものを
含むというべきである。
c さらに,考案の詳細な説明中の「高温によるプレスで貼合させるだ
けでよく」及び「左右の対称や位置などを注意深く縫い合わせる必
要」の各記載については,上記のとおり ,「一体成型」をプレス前に
立体化させる趣旨と限定的に解すべき根拠とはなり得ない。
② 作用効果上の観点からの検討
a また,高温のプレスによる外カップ層と内綿層との貼合には,繊維
を構成する樹脂の溶融を要するものであるところ,溶融温度であれ
ば樹脂は当然に軟化するのであるから,高温によるプレス工程にお
いて貼合とカップ部の立体的な変形とを同時に行うのが1工程で済
む点でむしろ合理的であり,これを敢えてカップ部の立体化を内外
層で個別に行ってから,後工程で外カップ層と内綿層との貼合を行
うとする審決認定の製法では,少なくとも外カップ層のカップ部の
立体化,内綿層のカップ部の立体化,及び内外層の溶着の3工程を
要するため,全体の工程数,エネルギー消費,及び製造装置の数は
減少せず,むしろ増大することになる。このことは製品のコスト高
を招き,本件明細書(甲6)の段落【0003】に「…低コストで
見 た 目 に 美 し く , 着 け 心 地 の よ い ・・・ブ ラ ジ ャ ー の 構 造 を提 供 す
る。」と記載された本件考案1の目的ないし課題と相容れないもので
ある。
すなわち,カップ部の立体化のみを事前に行って貼合を後に行う
とする審決認定の製法は,貼合と立体化とを同時に単一工程で行う
製法に比べて無駄が生ずるのみであって具体的な利点が見出せず,
低コスト化を目的とする本件考案1において敢えてコスト高になる
ような不自然かつ不合理な解釈というほかないから,このような製
法を前提として行われた点においても審決の本件考案1の要旨認定
には誤りがある。
b また,カップ部の立体化のみを事前に行って貼合を後に行うとする
審決認定の製法では,既に立体化された外カップ層と内綿層とを正
確に重ね合わせなければならないが,立体化された柔軟な布 地を
「しわ」を寄らせることなく相対的に位置決めし正確に重ね合わせ
て貼合する工程は少なくとも熟練を要するものと考えられ,不自然
かつ不合理な解釈というほかない。したがって,このような不合理
な製法を前提として行われた点においても審決の本件考案1の要旨
認定には誤りがある。
c また,そもそも「内綿層」との部材名称からみて,当該部材は綿
(cotton)からなると解すべきところ,綿からなり化学繊維を含ま
ない布地は,合成樹脂層などの他の層の支持なしには,変形によっ
て得られた立体的形状を維持することが困難である。このことは,
被服の製造についての一般文献の記載,例えば「…延伸又は縮退が
可能でなければならないため,布地が編地であることが必須である
;合成物の含有量が少なくとも65%なければならない 。 ( Carr
」「
and Latham's Technology of Clothing Manufacture」Third Edition,
Revised by David J. Tyler, Blackwell Science.〔甲17〕の23
7頁11∼13行抄訳)といった記載からも明らかである。また,
本件考案1の内綿層が綿のほかに合成樹脂繊維を含有すると解して
も,内綿層は肌に触れる部材として一定の柔軟性が要求されるから,
そのような内綿層の立体形状の維持は,図1に記載のように中央に
カップ部121から背帯122にわたる空隙を有する枠状の内綿層
12にあっては困難であるし,これを外部からの支持なしに立体形
状が維持できるほど硬質かつ肉厚に形成することは,製品の使用目
的からみてあり得ないというべきである。したがって,内綿層の立
体化を事前に行って貼合を後に行うとする審決認定の製法は,この
内綿層が綿のみからなると解すればそもそも実施不可能であるし,
綿に合成樹脂を含有すると解すれば製品として非現実的というほか
ないから,このような製法を前提として行われた点においても審決
の本件考案1の要旨認定には誤りがある。
③ 要旨認定に方法的要素を考慮した点からの検討
a 審決は ,「…その製造方法,製造手順の特定が製品としての物品の
構造として何らの差異・痕跡を残さないものであるのであればまだ
しも,本件特徴構成のように,一体成型を行った2物品を貼合した
ことは,それが他の手順で作成された構造と物品の構造として区別
して認識されることは当然であり,これを物品の構造を特定する構
成とみることが通常である…」と認定している(7頁3行∼8行 )。
b しかし,外カップ層及び内綿層のカップ部がプレス前すなわち事前
に立体化されている場合と,貼合と同時に立体化される場合とで,
結果物としてのブラジャーの構造は同一である。審決は,プレス前
に立体化することで製品にどのような差異・痕跡が残るのか,どのよ
うに区別して認識されるのかを具体的に示していない。また,プレ
ス前に立体化することの影響は,プレスに用いられる上型と下型と
の相対的な寸法関係やプレス時の相対変位方向,温度分布・圧力分
布など,実施上の設計的事項によっていかようにも変化しうるもの
であって,少なくとも当該影響は,プレス前の立体化の有無自体か
ら画一的に導出しうるような共通の固有の性質を有するものではな
い。
④ 一般的語義からの検討
「一体成形」の語は当業者に普通に用いられているが ,「一体成型」
の語は使用頻度が比較的低く,樹脂成形分野の文献(小川伸著「英和
プラスチック工業辞典」昭和60年(1985年)6月10日株式会
社工業調査会発行〔甲18 〕)にも,財団法人日本規格協会編「JI
S工業用語大辞典第5版」平成13年(2001年)3月30日財団
法人日本規格協会発行〔甲19〕)にも掲載されていない。
広辞苑第4版(甲20)によれば ,「成型」は「成形」と同義であ
って「形をつくること。形成 。」を意味するが,その処理の結果物が
立体的な形状をなすものに限られるとの語義は有しないから ,「成
型」の語が,その処理の結果物が平面的であるものを排除していない
ことは,少なくとも一般的語義において明らかである。
審決は ,「成型」の語に含まれる「型」の文字が「鋳型 」(mold)を
連想させること,及び,処理される対象物が一般に平面的な布地であ
ることから ,「一体成型」が布地に立体形状を付与する処理を指すも
のと解したことが窺われる。しかしながら ,「型」には鋳型のような
流し型のほか ,「打ち抜き型」のように,平面的な対象物を平面的な
まま,その輪郭形状のみ所望の形状に変化させるものも多数存在する
から ,「型」の文字の存在を根拠に「成型」の語が立体形状を付与す
るものに限られると解すべき理由はない。
以上のとおり ,「一体成型」の語の一般的語義からみても ,「成型」
の語が立体形状を付与するものに限られると解した審決の本件考案1
の要旨認定は誤りである。
(2) 取消事由2(甲2考案の認定の誤り)
審決は,表地を折り返して接合することを理由に,裏地は「表地の外形に
対応した形状」ではないと認定する(13頁18行∼20行 )。
しかし,このような構成は,社会通念上,裏地が実質的に「表地の外形に
対応した形状」であるものと言いうるから,表地を折り返すことのみを根拠
に裏地が「表地の外形に対応した形状」でないとする審決の認定には誤りが
ある。
(3) 取消事由3(甲5の1,2の認定の誤り)
審決は,甲5の1(実公昭53−3867号公報)及び甲5の2(実開昭
62−44010号公報)について ,「…甲第5号証の1∼2に,ブラジャ
ーに係る技術として一体成型が記載されるが,何れも,本件特徴構成を示す
ものではない 。 (16頁19行∼20行)とするだけで,周知技術として,

外カップ層や内綿層を一枚の布状片によってシームレスに形成する構造につ
いて具体的に認定しなかった誤りがある。
(4) 取消事由4(甲4の1∼5の認定の誤り)
審決は,甲4の1(実開昭54−54436号公報 ),甲4の2(実開昭
54−54437号公報 ),甲4の3(実用新案登録第3023567号公
報),甲4の4(米国特許第3114374号明細書 ),甲4の5(米国特
許第5873768号明細書)につき,周知技術として,定型管及びその配
置について具体的に認定しなかった誤りがある。
(5) 取消事由5(本件考案1と甲1考案の対比<一致点の認定,相違点の認
定・判断>の誤り)
審決は,前記(1)(取消事由1)のとおり本件考案1の要旨認定を誤った
ことなどに起因して,本件考案1と甲1考案との対比(一致点の認定,相違
点の認定・判断)を誤った結果,本件考案1が甲1考案に基づいて容易に想
到することができないとしたものである。
(6) 取消事由6(甲3発明の認定の誤り)
審決は,甲3発明について ,「…身頃構成部片は,前身頃2Aの身頃構成
部片3c1と,後身頃2Bの身頃構成部片3d1,3d2であるから,一体
のものではなく,これらを接合シートにより接合したものであり,カップ部
も,別体のカップ部11を接着するのであるから,一体成形により身頃構成
部片に形成されたものではない。 (14頁下2行∼15頁3行)とするが,

かかる認定は,甲3(特開2002−201505号公報)の【図面の簡単
な説明】の【図12 】 【図13】の説明の欄,段落【0036】∼【00

38】の記載等に照らし,誤りである。
(7) 取消事由7(本件考案1と甲3発明の同一性判断の誤り)
審決は,上記カ(取消事由6)のとおり甲3発明の認定を誤ったことなど
に起因し,本件考案1の「外カップ層」に相当する甲3記載の部材は,図1
2に示す身頃構成部片全体であることを見落とすなどした結果,本件考案1
と甲3発明との同一性判断を誤ったものである。
第4 被告は,公示送達による呼出しを受けたが,本件口頭弁論期日に出頭しない。
第5 当裁判所の判断
1 請求原因1(特許庁における手続の経緯 ),2(考案の内容 ),3(審決の
内容)の各事実は,証拠(甲1∼3,甲4の1∼5,甲5の1∼2,甲6∼14)
及び弁論の全趣旨により,これを認めることができる。
2 取消事由1(本件考案1の認定の誤り)について
(1) 本件考案1の内容は,前記第3,2に記載したとおりであり,これを分
説すると,以下のとおりである(以下「構成A」などという )。
A.外カップ層,内綿層,定型管,肩紐,背フックより構成される一体
成型によるブラジャーの構造において,
B.一体成型されており,且つカップ部と背帯とを含む該外カップ層と,
C.一体成型であり,該外カップ層の外形に対応しており,カップ部及
び背帯を含む該内綿層と,
D.該外カップ層と該内綿層との間のカップ部内側下縁に設けられてい
る該定型管と,
E.を含み,高温でプレスされて一体成型された該外カップ層と内綿層
とが緊密に貼合されていることを特徴とする
F.一体成型によるブラジャーの構造。
(2) 本件明細書(甲6)の記載
ア 本件明細書(甲6)の〔考案の詳細な説明〕には,以下の記載がある。
(ア) 考案の属する技術分野
本考案は一体成型によるブラジャーの構造に係り,特に高温によるプ
レスを施して一体成型されることより,低コストで外観が美しく,また
着け心地の良いブラジャーの構造に関わる。(段落【0001 】)
(イ) 従来の技術
現在ブラジャーは女性にとって胸を包む機能だけでなく,胸の形がよ
く見えること,また着け心地の良さ等が追求されている。
図6に示すような公知構造のブラジャー50においては,二つのカッ
プ51の下方に下側部52を縫い付け,該下側部52の両側には背帯5
3を縫い付け,該背帯53には背フック531を縫い付け,更に肩紐5
4を縫い付けてブラジャー50がほぼ完成する。
このように,それぞれのパーツを縫い合わせることにより,公知構造
のブラジャー50は,カップが立体的で円弧形を描いていることから胸
を綺麗に見せると同時に,胸を理想の位置までアップさせる効果を提供
している 。(段落【0002】)
(ウ) 考案が解決しようとする課題
しかし上述のような公知構造のブラジャーにおいては,それぞれのパ
ーツを裁断してから,人手によって縫製されるのであり,縫製の過程に
おいては左右の対称や位置などを注意深く縫い合わせなければならず,
比較的難しい作業であることによりコストが必然的に高くなっている。
またこのようなブラジャーの使用においては,縫い跡のために着け心地
が悪かったり,糸がほつれ易くて寿命が短い等の欠点もある。
そこでこれらの欠点に鑑み,低コストで見た目に美しく,着け心地の
よい本考案の一体成型によるブラジャーの構造を提供する 。(段落【0
003】)
(エ) 課題を解決するための手段
カップ部及び背帯を含み一体成型で製造されている外カップ層と,カ
ップ部と背帯とを含み形状が該外カップ層の外形に対応しており且つ一
体成型で製造されている内綿層と,該外カップ層と内綿層との間のカッ
プ部内側下縁個所に設けられた定型管,並びに背フックと一対の肩紐と
より構成し,高温によりプレスを施して該外カップ層及び内面層を緊密
に貼合し,該肩紐及び背フックを高圧でブラジャー上に貼合する 。(段
落【0004 】)
(オ) 考案実施の形態
図1,2に示すように,本考案は主に外カップ層11と内綿層12,
定型管13,肩紐14及び背フック15より構成されている。
該外カップ層11は一体成型されており,カップ部111と背帯11
2を含み,該内綿層12は該外カップ層11の外形に対応するべく一体
成型されており,カップ部121及び背帯122を含む。また該定型管
13においてはゴム質の空洞管であり,該外カップ層11と内綿層12
との間のカップ部111,121内側下縁個所に設けられている。更に
該外カップ層11と内綿層12との間のカップ部111,121内側に
はパット16が設けられ ,(図3,4参照)該カップ部111,121
の突き出した感覚を強調している。
高温によるプレス処理が施されて,該外カップ層11と内綿層12が
緊密に貼合し,該型紐14は高温によるプレス方式で該ブラジャー10
のカップ部111,121及び背帯112,122の一端に貼合され,
該背フック15は同様に高温によるプレスで該背帯112,122の末
端個所に貼合される。(段落【0005】)
図5に示すように,プレスを経て貼合された外カップ層11及び内綿
層12の内,定型管13個所の外カップ層11及び内綿層12間には,
貼合されていない欠け口131が残されており,ワイヤ132を装入す
る個所を提供しており,該ワイヤ132が装入された後の該欠け口13
1は更にプレスが施されて貼合され,該ワイヤ132が該欠け口13か
ら出ないように加工される。(段落【0006 】)
(カ) 考案の効果
本考案によると,外カップ層及び内綿層は一体成型であるため,生産
時には高温によるプレスで貼合させるだけでよく,公知構造のように複
雑な縫製作業を行わなくともよいことで不良品の出る率が下がり,同時
に人件費が省かれることからコストが下がり,また完成時には縫製の跡
が見えなくて着け心地もよく,当然糸がほつれる心配もなく,見た目に
も美しい製品が完成し,使用上の寿命も長くなり,更にゴム質の定型管
を採用したことにより,ワイヤの硬い感触を好まない使用者にとって着
け心地がよく,しかも該定型管にワイヤを装入して胸部を固定する機能
を提供することもできるなど,多くの目的が一挙に達成された 。(段落
【0007】)
イ 上記ア(ア)∼(カ)の各記載によれば,従来,二つのカップ・下側部・背帯
・肩紐等のパーツを縫い合わせてブラジャーを完成させていたが,左右の
対称や位置などを注意深く縫い合わせる作業が比較的難しいためにコスト
が高くなり,また,縫い跡のために着け心地が悪かったり糸がほつれ易く
て寿命が短い等の欠点があったところ,本件考案1は,これらの欠点に鑑
み,低コストで見た目に美しく,着け心地のよいブラジャーの構造を提供
する(段落【0001】∼【0003 】)もので,請求項1記載の構成を
課題解決手段として(段落【0004 】 ,生産時には,一体成型された

外カップ層及び内綿層を高温によるプレスで貼合させるだけでよく,複雑
な縫製作業を行わなくともよいことでコストが下がり,また完成時には縫
製の跡が見えなくて着け心地もよく,当然糸がほつれる心配もなく,見た
目にも美しい製品が完成し,使用上の寿命も長くなり,更にゴム質の定型
管を採用すれば,ワイヤの硬い感触を好まない使用者にとって着け心地が
よく,しかも該定型管にワイヤを装入して胸部を固定する機能を提供する
こともできるなどの効果を奏する(段落【0007 】)ものとされている
ことが認められる。
(3) 以上を前提として,以下判断する。
ア 審決は ,『…各々,一体であり,かつ,成型されている「外カップ層」
と「内綿層」とについて,請求項1の記載をみれば,E.には ,「一体成
型された該外カップ層と内綿層」とが ,「高温でプレスされて 」「緊密に
貼合され」ることでブラジャーとなることを記載している。これは,段落
番号【0007】に , 【 考案の効果】本考案によると,外カップ層及び

内綿層は一体成型であるため,生産時には高温によるプレスで貼合させる
だけでよく,…,見た目にも美しい製品が完成し」と,明細書中に「一体
成型」の意味を記載することと符合している。したがって ,「外カップ
層」と「内綿層」とは,それぞれ一体であり,E.にある「高温でプレス
されて 」「緊密に貼合され」ることだけでブラジャーとなる程度に,それ
ぞれ形作られていることを請求項1は特定している 。 (5頁下12行∼

下2行 ) 『…請求項1の記載は ,
, 「一体成型された該外カップ層と内綿
層」とが,各々一つのものとして形づくられていることをB.C.に「一体
成型」であると記載するものである。そのことは,B.のカップ部を有す
る外カップ層は,貼合するだけでブラジャーとなる程度に,カップ部がカ
ップ状に成型されていると解することが通常の解釈であり,C.の「内綿
層」も,貼合するだけでブラジャーとなる程度に外カップ層の外形に対応
して成型されていると解される 。 (6頁2行∼8行 ) 『…「一体成型」
』 ,
は,貼合させるだけで製品が完成するように,事前に成型されることを意
図する用語として,本件明細書は,その意味を定めている 。 (6頁19

行∼21行 ) 『…本件請求項1に係る考案の一体成型によるブラジャー

のこの本件特徴構成は,一体成型された,即ち,一体でありカップ部が成
型された「外カップ層」及び一体でありカップ部が成型された「内綿層」
を有し,それらを「高温でプレス」という手段で緊密に貼合された構造を
意味するものである 。 (6頁下9行∼下5行)と説示する。

イ そこで,まず本件考案1の文言について検討する。
請求項1は,前記第3,2に記載したとおり,外カップ層の構造につい
て,カップ部と背帯とが一体成型されたものであること(構成B ),内綿
層の構造について,カップ部と背帯とが外カップ層の外形に対応するよう
に一体成型されたものであること(構成C ),及び,これらの接合構造に
ついて,高温でプレスされて緊密に貼合されていること(構成E)を要件
としているから ,「一体成型」については,各部材が複数の部材片に分か
れるものではなく,左右等が「一体」であることを記載したものというこ
とができる。
しかし,本件考案1の構成E.「を含み,高温でプレスされて一体成型
された該外カップ層と内綿層とが緊密に貼合されていることを特徴とす
る」との文言は,一体成型された外カップ層と内綿層との接合構造が,高
温でプレスされて緊密に貼合されているものであると理解することはでき
るが,その文言の内容自体から見ても,これを超えて,外カップ層のカッ
プ部が,高温プレスによる貼合の前にカップ状に成型されたものであると
か,内綿層が,貼合するだけでブラジャーとなる程度に外カップ層の外形
に対応して成型されていることまで記載していると読み取ることはできず,
「一体成型された外カップ層と内綿層」とが「高温でプレスされて 」「緊
密に貼合され」ることでブラジャーとなることまで記載していると解する
ことはできないというべきである。このことは ,「一体成型」の一般的な
意味内容について ,「成型」とは,一般に「形を作ること。形成 。 (広辞

苑第5版)を意味するものであるから,本件考案1の「一体成型」もかか
る一般的な語義と同様に「一体」のものとしての形を作ることを意味する
と解されるに止まることからも裏付けられる。
ウ また,本件明細書(甲6)の「 考案の効果】本考案によると,外カッ

プ層及び内綿層は一体成型であるため,生産時には高温によるプレスで貼
合させるだけでよく,…見た目にも美しい製品が完成し 」(段落【000
7】)との記載は,前記(2)ア(カ)に認定した段落【0007】の記載全体
を読めば,一体成型された外カップ層と内綿層とが高温プレスで貼合され
ることにより,従来必要とされた二つのカップ・下側部・背帯・肩紐等の
パーツを縫い合わせる作業を不要としたことに基づく効果をいうものであ
ることが明らかであるから,本件考案1が ,「一体成型された外カップ層
と内綿層」とが ,「高温でプレスされて 」「緊密に貼合され」ることでブ
ラジャーとなることを記載していることの裏付けとなるものではない。
また,本件明細書(甲6)には,左右の対称や位置などを注意深く縫い
合わせる作業が比較的難しいためにコストが高くなることが従来技術の欠
点として挙げられている(段落【0003 】 。しかし当該記載も ,
) 「一体
成型」の文言が,上記イに記載したとおり,各部材が複数の部材片に分か
れるものではなく左右等が「一体」であるという意味を有すると見ること
と符合するとはいえるが,前記(2)ア(ウ)に認定した段落【0003】の記
載全体を読めば,それを超えて,本件考案1が ,「一体成型された外カッ
プ層と内綿層」とが「高温でプレスされて 」「緊密に貼合され」ることで
ブラジャーとなることまで記載していることの裏付けとまでなるものとは
いえない。
エ また,本件考案1の構成B.のカップ部を有する外カップ層が,貼合す
るだけでブラジャーとなる程度に,カップ部がカップ状に成型されている
ことについては,請求項1にも,本件明細書(甲6)の考案の詳細な説明
にも何ら記載がなされていない。
かえって,図3をみると,外カップ層11のカップ部111,内綿層1
2のカップ部121がカップ状に成型された様子を示すものとは認められ
ず,一見しただけでは,これらの部分は平面状にもみえるから,むしろ,
貼合する際の高温プレスによってカップ状に成型されるものと解する余地
もある。また,図1をみると,内綿層12のカップ部121は,枠状部分
の内側に形成された単なる空間のようにもみえることからすれば,外カッ
プ層,内綿層の「カップ部」とは,カップとなることが予定される部分と
解する余地もある。
したがって,請求項1においては,外カップ層のカップ部が,高温プレ
スによる貼合の前にカップ状に成型されたものであるとか,内綿層が,
「貼合するだけでブラジャーとなる程度に」外カップ層の外形に対応して
成型されているということは,何ら特定されていないといわざるを得ず,
本件考案1のB.C.E.の各構成は,外カップ層の構造について,カップ
部と背帯とが一体成型されたものであること,内綿層の構造について,カ
ップ部と背帯とが外カップ層の外形に対応するように一体成型されたもの
であること,及び,これらの接合構造について,高温でプレスされて緊密
に貼合されているものであることを特定するにとどまり,それ以上の事項
は特定していないというほかない。
オ 以上によれば,審決が,前記アのように,本件考案1の構成について,
一体であり「カップ部が成型された」外カップ層,及び,一体であり「カ
ップ部が成型された」内綿層を有し,それらを「高温でプレス」という手
段で緊密に貼合された構造を意味するものと認定したことは誤りというべ
きであるから,審決は,本件考案1の要旨の認定を誤ったものである。
(4) 以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がある。したがって,特許
庁は,前記判示を前提として,改めて無効審判請求人たる原告主張の無効理
由の有無について審理すべきである。
3 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があり,その誤りが結論に影響
を及ぼすことは明らかであるから,その余の点について判断するまでもなく,
審決は違法として取消しを免れない。
よって,原告の本訴請求は理由があるから認容することとして,主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 森 義 之
裁判官 田 中 孝 一

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