平成18(行ケ)10560審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成19年5月31日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官中嶋誠 原告株式会社丸山園本店
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法令 |
商標権
商標法4条1項11号6回
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キーワード |
審決17回 商標権1回
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主文 |
原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,原告が,後記商標登録の出願をしたところ,商標法4条1項11号に該
当するとして拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,「本件
審判請求は成り立たない」との審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案で
ある。 |
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判決文
平成18年(行ケ)第10560号 審決取消請求事件
平成19年5月31日判決言渡,平成19年4月24日口頭弁論終結
判 決
原 告 株式会社丸山園本店
訴訟代理人弁理士 木村高明
被 告 特許庁長官 中嶋誠
指定代理人 小林和男,山田清治,田中敬規
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が不服2005−1501号事件について平成18年11月15日にし
た審決を取り消す。」との判決
第2 事案の概要
本件は,原告が,後記商標登録の出願をしたところ,商標法4条1項11号に該
当するとして拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,「本件
審判請求は成り立たない」との審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案で
ある。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本願商標(甲6)
-1 -
出願人:原告
商標の構成:別紙商標目録のとおり
出願日:平成15年10月28日(商願2003−94866号)
指定商品:第30類「茶」
(2) 本件手続(甲9,10)
拒絶査定日:平成16年12月20日(起案日)
審判請求日:平成17年1月26日(不服2005−1501号)
審決日:平成18年11月15日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成18年11月28日
2 審決の理由の要点
審決は,下記商標(以下「引用商標」という。)を引用し,本願商標と引用商標
とは,全体として類似する商標というべきであり,かつ,その指定商品も同一又は
類似するものであるから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当し,登録すべ
きではないとした。
(引用商標)(甲1)
登録番号:第4344977号
商標権者:島根県茶商工業協同組合
商標の構成:「一葉」(標準文字使用)
指定商品:第30類「茶」
登録出願日:平成10年5月29日(商願平10−45276号)
設定登録日:平成11年12月17日
審決の理由中,本願商標と引用商標とが類似するとの認定判断に係る部分は,以
下のとおりである。
-2 -
本願商標は,別紙商標目録に表示するとおり,黒色の一枚の葉を背景とし,その一枚の葉に
白抜きした「一葉」の文字を葉のほぼ全体に重なる大きさで表し,該文字の下段に小さく白抜
きした「KAZUHA」の欧文字を配した構成よりなるところ,構成中の「一葉」の文字は,
黒色の一枚の葉に大きく重ねて白抜きした書体で書してなることから,黒色の一枚の葉を背景
に浮き出て顕著に印象づけられるものであり,本願商標に接する取引者,需要者は,その構成
中顕著に印象づけられる「一葉」の文字部分に強く惹き付けられ,該文字部分をもって取引に
当たる場合も決して少なくないものといわなければならない。
そうすると,本願商標からは,「一葉」の文字部分に相応して,「イチヨウ」(一枚の葉)の
称呼,観念を生ずるものとみるのが自然である。
他方,引用商標・・・は,標準文字で「一葉」の文字を書してなるものであるから,該構成
文字に相応して,「イチヨウ」(一枚の葉)の称呼,観念を生ずるものである。
してみれば,本願商標と引用商標とは「イチヨウ」(一枚の葉)の称呼及び観念を同一にす
るものといわざるを得ない。
また,本願商標に接する取引者,需要者が「一葉」の文字をもって取引に当たる場合のある
ことは上述したとおりであり,引用商標も「一葉」の文字をもって取引に資されるものといえ
るから,取引者,需要者が時と場所を異にしてこれらに接する場合には,当該構成文字の綴り
を共通にする点で外観上近似した印象,連想等を生じさせるおそれがあることも否定できない。
なお,本願商標から「カズハ」の称呼が生ずることを否定するものではないが,一般に市販
されている辞典(広辞苑等)においては,「一葉」の文字は「一枚の葉」を意味し,その読み
は「いちよう」と記載されており,「一葉」を「イチヨウ」と発音することがむしろ自然とい
うべきである。
また,本願商標の下段には「KAZUHA」の欧文字が表されているが,「一葉」の文字に
比べるとはるかに小さく下段に置かれ,この部分はサインのような外観を呈していることから,
これに接する取引者,需要者がこれを「一葉」の読みを表すものと認識するとはいい難く,
「一葉」の文字部分に着目し,該文字より生ずる「イチヨウ」の自然な称呼をもって取引に資
されるとみるのが相当である。
-3 -
してみれば,本願商標と引用商標とは,「イチヨウ」(一枚の葉)の称呼,観念を共通にし,
外観上もある程度近似した印象を与えるものであって,全体として類似する商標というべきで
あり,かつ,その指定商品も同一または類似するものであるから,結局,本願商標は商標法4
条1項11号に該当し,登録すべき限りでない。
第3 当事者の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由(類否判断の誤り)の要点
(1) 本願商標の称呼の認定の誤り
本願商標は,黒色の葉の図形,当該図形をベースにし,白抜きで反転して記載さ
れた「一葉」の漢字及び当該図形内において「一葉」の文字の下段に,「一葉」の
文字と同様に白抜きで反転して併記され,「一葉」の文字の30%の長さで記載さ
れた「KAZUHA」のローマ字により構成される結合商標であり,「一葉」の文
字と「KAZUHA」の文字は,その記載態様からみて,これらの間における連携
状態を看取させるものである。また,上記3つの構成要素は,統一化されたデザイ
ンコンセプトにより図案化されている。そして,取引者及び需要者が本願商標に接
した場合に最初に最も注意を引かれるのは,葉の図形であり,取引者及び需要者は,
本願商標から,まず,「葉」の観念をイメージし,これに対応する「ハ」又は「ハ
ッパ」の称呼が生じる可能性を持って「一葉」の文字を認識し,さらには,葉の図
形内に「KAZUHA」のローマ字が併記されていることから,「一葉」の文字の
称呼を「カズハ」と特定するものである。このように,本願商標の構成態様に照ら
すと,本願商標からは,「カズハ」の称呼のみが生じ,「イチヨウ」の称呼は生じ
ない。
したがって,本願商標中の「一葉」の文字以外の構成要素を捨象し,「一葉」の
文字のみを抽出した上,本願商標から「イチヨウ」の称呼が生じるのが自然である
とした審決の認定は誤りであるというべきである。
(2) 本願商標と引用商標とが類似であるとの判断の誤り
-4 -
上記(1)において主張したとおり,本願商標から生じる称呼は「カズハ」のみで
あるのに対し,引用商標は,「一葉」の文字のみからなる商標であり,読み仮名も
振られていないとともに,「葉」の図形等も存在せず,その他,「ハ」という称呼
を生じさせる事情も一切ないことから,引用商標から生じる称呼は,「一葉」の伝
統的な読み方である「イチヨウ」であり,本願商標と引用商標とは,称呼上明らか
に非類似である。そして,引用商標が文字商標であり,これに接した取引者及び需
要者が本願商標と引用商標とを区別する際には,「漢字の読み方」をもって判断す
るものと解されるから,両商標の類否判断に当たっては,第一義的には,称呼の観
点からこれを行うのが相当である。
したがって,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断は誤
りであるというべきである。
2 被告の反論の要点
(1) 「本願商標の称呼の認定の誤り」との主張に対し
本願商標の構成中,「一葉」の文字は,黒色で背景的に描かれた一枚の葉の図形
のほぼ全体にわたる大きさで,当該図形の上に重ね合わせたように白抜きの太線で
表されている(「一」及び「葉」の各文字のうち,当該図形から突出する部分は,
黒色で表されている。)のに対し,「KAZUHA」の文字は,「一葉」の文字に
比して極めて小さく,かつ,当該図形内の下端部に白抜きの細線で表されている。
そうすると,本願商標に接した取引者及び需要者は,その構成全体のうち,まず,
視覚的に顕著に表された「一葉」の文字部分に着目するといえるところ,「一葉」
の文字は,各種辞典類に掲載されているとおり,本来,「イチヨウ」と発音し,
「一枚の葉」の意味を有する語として一般に広く知られているものであるから,本
願商標からは,「カズハ」の称呼のほか,「イチヨウ」の称呼及び「一枚の葉」の
観念も生じ,これをもって取引に資することも少なくないというべきである。
なお,「一葉」の文字と「KAZUHA」の文字の上記記載態様に照らすと,両
-5 -
者の間に,原告が主張するような連携状態が看取されるとはいい難い。かえって,
一枚の葉の図形と「一葉」の文字との間には,「一枚の葉」という観念上の共通性
があり,一枚の葉の図形と「一葉」の文字とを重ね合わせた本願商標の構成態様か
らみても,一枚の葉の図形と「一葉」の文字こそが相互に結びつくものと認識され
得るものである。
(2) 「本願商標と引用商標とが類似であるとの判断の誤り」との主張に対し
上記(1)において主張したとおり,本願商標からは,「イチヨウ」の称呼及び
「一枚の葉」の観念が生じるところ,引用商標からも,その構成文字に相応して,
「イチヨウ」の称呼及び「一枚の葉」の観念が生じるものであるから,両商標は,
その称呼及び観念において共通している。
また,本願商標は,その構成中に看者の注意を強く引くような態様で「一葉」の
文字を配してなるものであるから,本願商標と引用商標は,外観上,近似した印象
を与えるものである。
そうすると,本願商標と引用商標をこれらの指定商品である「茶」について使用
するときは,商品の出所について混同を生じるおそれが極めて高いというべきであ
り,その他,「茶」に係る取引の実情において,商品の出所の混同を来すおそれは
ないとする特別の事情が存在するものとは認められない。したがって,本願商標と
引用商標は類似するものであり,かつ,これらの指定商品も同一であるから,本願
商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 「本願商標の称呼の認定の誤り」との主張について
(1) 本願商標は,別紙商標目録記載のとおり,黒色の一枚の葉の図形,当該図
形を背景として,そのほぼ全体にわたる大きさで白抜きの太線(ただし,該図形か
らはみ出している部分は,黒色の太線である。)により描かれた「一葉」の文字及
び当該図形の下端部に,小さく白抜きの細線により描かれた「KAZUHA」の文
-6 -
字から構成されるものであるところ,本願商標に接した取引者及び需要者は,本願
商標の上記構成に照らし,まず,視覚的に顕著に表された一枚の葉の図形及び「一
葉」の文字に着目するとみるのが相当である(原告は,本願商標に接した取引者及
び需要者が最初に最も注意を引かれるのは葉の図形である旨主張するが,本願商標
の上記構成に照らし,最初に最も注意を引かれるのが,葉の図形のみであって,
「一葉」の文字には注意を引かれないということはできない。)。
(2) そして,我が国の代表的な国語辞典である株式会社岩波書店発行の「広辞苑
第五版」(平成10年11月11日発行,乙2)や,株式会社三省堂発行の「大辞
林新装第二版」(平成11年10月1日発行,乙3)に,「一葉」の語につき,
「イチヨウ」の読みと,「一枚の(木の)葉」,「(一隻の)小舟」等の語義が掲
載されていることによれば,一般にも,「一葉」の語がそのような読みと意味とを
有するものと理解されていると認められ,そうであれば,上記(1)のとおり,本願
商標に接し,一枚の葉の図形及び「一葉」の文字に着目した取引者及び需要者は,
当該図形と「一葉」の語に係る上記のような一般的な読み及び意味とに基づいて,
自然に「イチヨウ」の称呼と「一枚の葉」の観念を得るものと認めることができる。
(3) 原告は,本願商標中に「KAZUHA」の文字が併記されていることから,
「一葉」の文字の称呼は「カズハ」と特定され,「イチヨウ」の称呼は生じない旨
主張する。確かに,本願商標に接した取引者及び需要者が,一枚の葉の図形及び
「一葉」の文字に着目するとともに,「KAZUHA」の文字にも着目することが
ないとまではいえず,したがって,本願商標から,「KAZUHA」の文字の構成
に相応して「カズハ」の称呼が生じ得ることも否定し得ないが,当該「KAZUH
A」の文字は,一枚の葉の図形の下端部に小さく白抜きの細線により描かれたもの
であり,その文字の長さも,原告自らが主張するとおり,「一葉」の文字よりはる
かに短く,前後の端部が「一葉」の文字と揃えられているものでもないから,「K
AZUHA」の文字が「一葉」の文字の読みを示していると理解することは,必ず
しも容易であるとはいえず,そうすると,たとえ,取引者及び需要者が,本願商標
-7 -
から「カズハ」の称呼を得た場合であっても,併せて「イチヨウ」の称呼が生ずる
ことを妨げるものではない。
(4) 以上のとおりであるから,本願商標から「イチヨウ」の称呼が生じるのが
自然であるとした審決の認定に誤りはないというべきである。
2 「本願商標と引用商標とが類似であるとの判断の誤り」との主張について
(1) 本願商標から,「イチヨウ」の称呼及び「一枚の葉」の観念が生じると認
められることは,上記1のとおりである。他方,引用商標(甲1)は,標準文字で
「一葉」の文字を書してなるものであるから,上記1の(2)において認定した「一
葉」の語の一般的な読み及び意味に対応して,引用商標からも「イチヨウ」の称呼
及び「一枚の葉」の観念が生じると認められ,したがって,両商標は,同一の称呼
及び観念を有するものである。
(2) そうすると,本願商標と引用商標とは,少なくとも,称呼及び観念が同一
であるから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するものと認めるのが相当
であり,これと同旨の審決の判断に誤りはないというべきである。
第5 結論
以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由は理由がないから,原告の請求
は棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
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石 原 直 樹
裁判官
古 閑 裕 二
裁判官
浅 井 憲
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商 標 目 録
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