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平成19(行ケ)10103審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年5月30日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官中嶋誠
原告
対象物 発電機の発電稼働装置
法令 特許権
特許法36条4項1号5回
特許法36条6項1号2回
キーワード 審決8回
実施7回
特許権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「発電機の発電稼働装置」とする発明につき,平成1 7年2月18日,特許出願(特願2005−78069号。以下「本願」とい う。請求項の数は2である )をした。。 原告は,本願につき平成17年11月18日付けで拒絶査定を受けたので, 同年12月21日,これに対する不服の審判を請求した。

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判決文

平成19年5月30日判決言渡
平成19年(行ケ)第10103号 審決取消請求事件
平成19年5月16日 口頭弁論終結
判 決
原 告 X
被 告 特許庁長官 中嶋 誠
指 定 代 理 人 大 橋 康 史
同 石 井 孝 明
同 森 川 元 嗣
同 大 場 義 則
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が不服2005−25465号事件について平成19年1月29日に
した審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「発電機の発電稼働装置」とする発明につき,平成1
7年2月18日,特許出願(特願2005−78069号。以下「本願」とい
う。請求項の数は2である。)をした。
原告は,本願につき平成17年11月18日付けで拒絶査定を受けたので,
同年12月21日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,上記審判請求を不服2005−25465号事件として審理した
結果,平成19年1月29日,「本件審判の請求は,成り立たない 。」との審決
をした。
2 審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願は,特許法36条4項1
号,6項1号,2号に規定する要件を満たしておらず,拒絶すべきものである
というものである。
第3 原告の主張
本願に係る発明は,フレームの枠内をコマが重力によって落下する時におこ
る回転により発生するエネルギーを利用して,フレームワークの内枠をコマが
推進し,フレームワークが上下動する反復運動を繰り返すことにより,半永久
的にコマが回転し続け,そのエネルギーを利用して連続的に発電機を稼働させ
続けることができる装置である。
審決は,同発明の趣旨を正確に理解せずに,本願が特許法36条4項1号,
6項1号,2号に規定する要件を満たしていないとしたものであって,その認
定,判断には誤りがある。
第4 当裁判所の判断
1 特許庁における手続の経緯等
乙1ないし8(枝番号は省略する。以下,同じ 。)及び弁論の全趣旨によれ
ば,次のとおりの経緯が認められる。
(1) 本願(平成17年2月18日出願)に対して,平成17年6月28日付け
で拒絶理由通知がされたところ,原告は,平成17年8月25日に手続補正
書(乙3。平成17年9月2日付け。以下「手続補正書」という。その内容
は,特許請求の範囲の記載を補正するものである 。)を提出したが,特許庁
は,平成17年11月18日付けで拒絶査定をした。原告は,平成17年1
2月21日に拒絶査定に対する審判請求をしたところ,平成18年8月21
日付けで拒絶理由通知がされたが,原告は,補正することなく,平成18年
9月28日に意見書(乙8。平成18年9月28日付け。以下「意見書」と
いう 。)を提出した。
(2) 本願において,手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載は,次
のとおりである。
「 請求項1】

本発明は,シーソー(Seesaw)の上下運動の原理を利用してシー
ソーの台座部分をフレームワーク(Framework)に置き換え,そ
の内部にコマを組込み,コマが自重により回転して移動するときにシーソ
ー(フレーム)が上下降し,そのとき内部のコマが回転して移動するとき
に発生するエネルギー(Energie)を,コマの軸から外部に設置し
た発電機に伝動させて発電する,若しくはフレーム本体とコマ自体を発電
機にして発電させる装置に関するものある。
すなわち,フレームの枠内をコマ自体が自重による重力(Gravit
y)によって下降しフレームの円弧を利して上昇するときに,コマが回転
し発生するエネルギーをコマの軸に伝え,その軸(Shaft)の回転を
外部に伝えて発電する,又は,コマ自体の回転を発電機として機能させる
ことにより発電させるものである。さらに,この組み合わせによるダブル
(Double)発電の考えもある。
コマの重力よる回転運動と,フレーム上のコマの移動による昇降運動の
組み合わせにより発電が可能であるが,コマの回転運動のエネルギーが,
摩擦によるエネルギーロスとフレームの昇降運動によるエネルギーロスを
上回る限り,無害で連続的に発電させ続けることができる。コマの材質や
フレームワークの形状によりエネルギーロスを最小限にし,初期設定にか
かるエネルギーを押さえれば継続的な発電が可能である。また,コマ本体
の規模(大,中,小型)及び自重(重,中,軽量)による回転速度の使い
分けにより能力の異なる発電が可能である。
制御(Control)装置はコマがフレーム内を昇降運動を繰り返す
る過程で,上下降する際の回転数を制御するもので,バネ(Sprig)
又は,ピストン(Piston)によりクッション(Cushion)の
役目も果たすし,発電機の始動(ON)及び停止(OFF)の際にも利用
される。
火力発電は現時点で最高の発電方法でありグローバル的に普及している
が,化石燃料を燃焼させて発電しているため大量のCo2を大気中に放出
しており ,地球規模での大気汚染 ,温暖化等々の問題を引き起こしている 。
また,原子力発電は常に放射漏れ,爆発等の危険性があるために住民は常
に危険にさらされているが,他により良い発電方法がないのが現状でやむ
なく我慢に耐え忍んでいる。より良い発電方法があれば,即刻に廃止すへ
き発電方法である。
水力 ,風力 ,ソーラー発電等も普及は進みつつあるが,常に天候,気候,
昼夜,地域等の影響を受ける発電方法であるために,安定的な電気の供給
ができずグローバル的な規模での普及は望めない。
本発明は,重力を利用する発電装置であることから ,Co2を放出せず ,
従って温暖化も促進しない,放射能漏れ爆発等の危険性もない,天候,気
候,昼夜,地域等の制限や制約も受けず常に安定的に供給ができる。さら
に最大の利点は重力を利用するため無代,無制限,万国で平等,無公害で
負荷をかけず,全ての生物において安全,安心で優しくクリーンであると
いえる。
この発電装置がグローバル的に普及したとき,今,稼働している発電方
法は,如何に地球に負荷をかけており,コストがかかる欠陥的な発電方法
であるかが判る。
【請求項2】
(図面2)について
シーソーの台座①にフレームワーク②を取付け,その内部にコマ③をセ
ットする。コマの自重自体で回転運動が始まり,フレームワークの先端部
の円弧を利してコマの昇降運動が加わり,コマがフレーム内を移動すると
きに生じる回転エネルギーをコマの軸④のシャフトに伝達して外部の発電
機を稼働させて発電をする。又は,フレームワーク自体を発電機としてコ
マの回転により発電する。なお,外部と内部に発電機を装置して発電する
方法も考えられる。⑤シーソーの支点を図示している。⑥コマの回転の様
子を矢印(→)で図示している。⑦制御(Control)装置はコマが
フレームワーク内を上下降する際の回転数をバネ(Sprig)又は,ピ
ストン(Piston)により制御するもので,発電機の始動(ON)停
止(OFF)にも利用可能である。⑧⑨シーソーの昇降運動の移動の様子
を破線で図示。⑧はフレームワークが水平状態の位置を破線で図示。⑨は
フレームワークがコマの回転力により推進して上昇していき最高点に到達
した状態を破線で図示してある。フレームの反復運動にはコマの回転によ
る推進力をフレームの上昇運動にスムースに伝える必要があり,このため ,
フレームの形状は楕円形が不可欠である。このフレームワークとコマの組
合せにより回転エネルギーが摩擦等により減衰するまで持続し続ける様子
を破線で図示した。コマの回転と移動の際の水平の位置を⑩,下降の位置
⑪の様子を破線で図示した。コマによるシーソーの昇降運動をフレームワ
ーク②を通して伝達するとともに,フレームワークの先端部を円弧にする
ことでコマ③の回転を上部への上昇運動に変換し,上昇して頂点に達した
時点で下部へ下降する連続運動が生じ,その際,コマ自身の回転により発
生するエネルギーによって発電機を稼働させて発電する方法である。」
2 特許法36条4項1号に規定する要件について
(1) 本願の請求項1に係る発明については,請求項1において「コマの回転運
動のエネルギーが,摩擦によるエネルギーロスとフレームの昇降運動による
エネルギーロスを上回る限り ,無害で連続的に発電させ続けることができる 。
コマの材質やフレームワークの形状によりエネルギーロスを最小限にし,初
期設定にかかるエネルギーを押さえれば継続的な発電が可能である 。」と記
載されており,明細書の詳細な説明では,段落【0001】において「フレ
ームの枠内をコマが重力(Gravity)によつて落下することによる回
転により発生するエネルギーを利用してフレームワークの内枠をコマが推進
し,フレームワークが上下降する反復運動をくり返すことにより半永久的に
コマが回転し続け,そのエネルギーを使用して連続的に発電機を稼働させ続
けることができるものである 。」と記載されている(乙3 )。なお,意見書
には ,「シーソの原理を応用してフーレワーク内部にコマ組み込みコマ回転
移動によりフームワークが昇降運動をくり返し永久に運動をし続ける(金属
疲労等が無い場合を想定している ),そのコマが回転時に磁場を発生して発
電できることか(原文のまま)発明(特許権にあたいする)である」と記載
されている(乙8 )。
しかし,請求項1の発明において,コマが保有する最大の運動エネルギー
は,コマが最も高い位置と最も低い位置との差による有限の位置エネルギー
であるところ,エネルギー保存の法則に照らせば,この有限の位置エネルギ
ーを,運動エネルギーに変換して,すべて発電により電気エネルギーとして
取り出してしまえばコマは最も低い位置で静止することとなるから,半永久
的にコマが回転し続け,そのエネルギーを使用して連続的に発電機を稼働さ
せ続けることはあり得ない。
上記に照らせば,エネルギーロスを最小限としても,それを差し引いた残
りの有限のエネルギーで,半永久的に発電機を稼働させ続けることができる
とする構成は,明細書の詳細な説明において,意見書における原告の主張を
参酌しても不明であり,しかもエネルギーロスを最小限とする具体的構成・
構造も不明であって,この発明が属する技術の分野における通常の知識を有
する者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていると
は,到底,認められない(乙1)。
(2) 特許請求の範囲の請求項1における「コマが自重により回転して移動する
ときにシーソー(フレーム)が上下降し,そのとき内部のコマが回転して移
動する 」,及び「フレームの枠内をコマ自体が自重による重力(Gravi
ty)によって下降しフレームの円弧を利して上昇する」との記載及び請求
項2における「フレームワークの先端部の円弧を利してコマの昇降運動が加
わり,コマがフレーム内を移動する」との記載に関しては,明細書の発明の
詳細な説明において,コマがフレームの枠内にどのようにして拘束されて,
回転して移動するのか具体的構成・構造が不明であり,この発明が属する技
術分野における通常の知識を有する者が実施をできる程度に明確かつ十分に
記載されているとは,認められない(乙1,3)。
(3) 特許請求の範囲の請求項1における「そのとき内部のコマが回転して移動
するときに発生するエネルギー(Energie)を,コマの軸から外部に
設置した発電機に伝動させて発電する」との記載及び「コマが回転し発生す
るエネルギーをコマの軸に伝え,その軸(Shaft)の回転を外部に伝え
て発電する」との記載,並びに請求項2における「コマがフレーム内を移動
するときに生じる回転エネルギーをコマの軸④のシャフトに伝達して」との
記載に関しては,明細書の発明の詳細な説明において,コマの軸から外部に
設置した発電機に伝動する具体的手段が不明である。すなわち,コマがフレ
ームの枠内を回転して移動しており,かなりの移動範囲にわたって移動する
コマの軸から,どのようにして外部に設置した発電機に回転を伝動するのか
具体的実施手段が理解できない。したがって,この発明が属する技術分野に
おける通常の知識を有する者が実施をできる程度に明確かつ十分に記載され
ているとは,認められない(乙1,3 )。
(4) 特許請求の範囲の請求項1における「フレーム本体とコマ自体を発電機に
して発電させる」との記載及び「コマ自体の回転を発電機として機能させる
ことにより発電させる」との記載,並びに請求項2における「又は,フレー
ムワーク自体を発電機としてコマの回転により発電する」との記載に関して
は,明細書の発明の詳細な説明において ,具体的構成・構造が不明瞭であり ,
この発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が実施をできる程
度に明確かつ十分に記載されているとは,認められない(乙1,3)。
(5) 特許請求の範囲の請求項1における「制御(Control)装置は」 発

電機の始動(ON)及び停止(OFF)の際にも利用される 。」との記載及
び請求項2における「⑦制御(Control)装置は 」 発電機の始動(O

N)停止(OFF)にも利用可能である 。」との記載に関して,明細書の発
明の詳細な説明において,具体的構成・構造が不明瞭であり,この発明が属
する技術分野における通常の知識を有する者が実施をできる程度に明確かつ
十分に記載されているとは,認められない(乙1,3 )。
(6) 上記によれば,本願は,明細書の発明の詳細な説明の記載が,この発明が
属する技術分野における通常の知識を有する者が実施をできる程度に明確か
つ十分に記載されているとは,認められず,特許法36条4項1号に規定す
る要件を満たしていない。
3 特許法36条6項1号,2号に規定する要件について
(1) 特許請求の範囲の請求項1における「その軸(Shaft)の回転を外部
に伝えて発電する,又は,コマ自体の回転を発電機として機能させることに
より発電させるものである。さらに,この組み合わせによるダブル(Dou
ble)発電の考えもある 。」との記載及び「制御(Control)装置
はコマがフレーム内を昇降運動を繰り返する過程で,上下降する際の回転数
を制御するもので,バネ(Sprig)又は,ピストン(Piston)に
よりクッション(Cushion )の役目も果たすし,発電機の始動(ON )
及び停止(OFF)の際にも利用される 。」との記載については,どこまで
が請求項1の発明を特定するための事項か不明である(乙1,3 )。
(2) 特許請求の範囲の請求項1における「火力発電は現時点で最高の発電方法
でありグローバル的に普及しているが,化石燃料を燃焼させて発電している
ため大量のCo2を大気中に放出しており,地球規模での大気汚染,温暖化
等々の問題を引き起こしている。また,原子力発電は常に放射漏れ,爆発等
の危険性があるために住民は常に危険にさらされているが,他により良い発
電方法がないのが現状でやむなく我慢に耐え忍んでいる。より良い発電方法
があれば,即刻に廃止すへき発電方法である。水力,風力,ソーラー発電等
も普及は進みつつあるが,常に天候,気候,昼夜,地域等の影響を受ける発
電方法であるために,安定的な電気の供給ができずグローバル的な規模での
普及は望めない 。」との記載は,請求項1の発明の技術的事項とは認められ
ないから,この結果,特許請求の範囲の記載は不明確である。また,請求項
2において図面の記載を代用しており,請求項2の発明の範囲が不明確であ
る(乙1,3 )。
(3) また ,前記2(1),(3)ないし(5)に関する特許請求の範囲の記載に対して ,
明細書の発明の詳細な説明において記載されておらず,請求項1,2に記載
した発明と,明細書の発明の詳細な説明に記載した発明とが実質的に対応し
ていない(乙1,3)。
(4) 上記によれば,本願は,特許法36条6項1号,2号に規定する要件を満
たしていない。
4 結論
以上のとおり,本願は特許法36条4項1号,6項1号,2号に規定する要
件を満たしていないから,これと同旨の審決の判断は正当であり,その他,審
決に,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 三 村 量 一
裁判官 上 田 洋 幸

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