平成18(行ケ)10416審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成19年5月30日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官中嶋誠 原告モトローラ・インコーポレイテッド
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法令 |
特許権
特許法159条2項3回 特許法29条2項1回
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キーワード |
審決41回 実施28回 刊行物3回 優先権2回 進歩性2回 拒絶査定不服審判1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告は,1997年(平成9年)12月31日(優先権主張:1997年2
月28日 米国 発明の名称を 2つの対置する側から視認可能なディスプレ, ), 「
イを有する電子装置」とする国際特許出願(特願平10−537627号,以
下 本願 という をした その後 原告は 平成14年1月16日付けで本「 」 。) 。 , ,
( 。) ,願に係る明細書 特許請求の範囲を含む を補正する手続補正をしたところ
( , 「 」 。)平成16年3月2日付けで拒絶理由通知 以下 単に 拒絶理由通知 という
を受けたので,更に同年6月3日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正を
( , 「 」 。)した 以下 この補正後の本願に係る明細書及び図面を 本願明細書 という
が 同年9月16日付けで拒絶査定 以下 原査定 という を受けた そこ, ( 「 」 。) 。
で,原告は,平成16年12月27日,拒絶査定不服審判を請求し,上記審判
請求は不服2004−26463号事件 以下 本件審判 という として特( 「 」 。)
許庁に係属した 特許庁は 審理の結果 平成18年5月8日 本件審判の請。 , , ,「
求は 成り立たない との審決 附加期間90日 をし 同年5月18日 そ, 。」 ( ) , ,
の謄本を原告に送達した。 |
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判決文
平成19年5月30日判決言渡
平成18年(行ケ)第10416号 審決取消請求事件
平成19年5月16日口頭弁論終結
判 決
原 告 モトローラ・インコーポレイテッド
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 鈴 木 修
同 山 口 裕 司
同 河 野 祥 多
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 小 林 泰
被 告 特許庁 長官 中 嶋 誠
指 定 代 理 人 工 藤 一 光
同 藤 内 光 武
同 竹 井 文 雄
同 大 場 義 則
同 山 本 章 裕
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2004−26463号事件について平成18年5月8日にし
た審決を取り消す。
第2 争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,1997年(平成9年)12月31日(優先権主張:1997年2
月28日 ,米国 ) 発明の名称を「2つの対置する側から視認可能なディスプレ
,
イを有する電子装置」とする国際特許出願(特願平10−537627号,以
下「本願」という。 をした。その後 ,原告は,平成14年1月16日付けで本
)
願に係る明細書(特許請求の範囲を含む。 を補正する手続補正をしたところ ,
)
平成16年3月2日付けで拒絶理由通知 以下 , 「拒絶理由通知 」
( 単に という。)
を受けたので,更に同年6月3日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正を
した 以下 ,
( この補正後の本願に係る明細書及び図面を 本願明細書 」
「 という。)
が,同年9月16日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。 を受けた 。そこ
)
で,原告は,平成16年12月27日,拒絶査定不服審判を請求し,上記審判
請求は不服2004−26463号事件(以下「本件審判 」という。 として特
)
許庁に係属した 。特許庁は ,審理の結果,平成18年5月8日, 本件審判の請
「
求は ,成り立たない 。 との審決(附加期間90日)をし ,同年5月18日,そ
」
の謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲
本願明細書の特許請求の範囲の請求項10の記載は,次のとおりである(以
下,この発明を「本願発明」という 。 。
)
「メッセージを処理するプロセッサと,
前記プロセッサに電気的に結合され,メッセージを含む画像を表示するデ
ィスプレイとを備え,
前記ディスプレイは,前記画像が前記ディスプレイの第1側及び第2側で
あって互いに対置している当該第1側及び第2側から視認可能であるように
構成且つ配置されている,電子装置。」
3 審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願の優先権主張
に係る日の前に頒布された刊行物である特開平5−53991号公報(以下,
審決と同じく, 引用例」という。甲2 )に記載された発明(以下 ,審決と同じ
「
く,「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができた
ものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,と
いうものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した引用発明の内容,本願発明と引用発
明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(引用発明の内容)
「ディスプレイデータを処理するコンピュータ本体と,前記コンピュータ本
体に電気的に結合され,ディスプレイデータを含む内容を表示するディスプ
レイモニタとを備え,前記ディスプレイモニタは,前記内容が前記ディスプ
レイモニタの前方及び後方であって互いに対置している当該前方及び後方か
ら画面の内容を確認することができるパーソナルコンピュータ」
(一致点)
「ディスプレイデータを処理するプロセッサと,前記プロセッサに電気的に
結合され ,ディスプレイデータを含む画像を表示するディスプレイとを備え ,
前記ディスプレイは,前記画像が前記ディスプレイの第1側及び第2側であ
って互いに対置している当該第1側及び第2側から視認可能であるように構
成かつ配置されている,電子装置」である点。
(相違点)
ディスプレイデータが,本願発明では,受信したメッセージ又は送信する
メッセージであるのに対して ,引用発明では ,メッセージとはしていない点 。
第3 取消事由に係る原告の主張
本件審判の手続は特許法159条2項により準用される同法50条本文の規
定に違背したものであり(取消事由1) また ,審決は本願発明と引用発明との
,
相違点を看過したものであって,この誤りが審決の結論に影響することは明ら
かである(取消事由2)から,審決は取り消されるべきである。
1 取消事由1(審判手続の法令違背)
原査定(甲9)及びその引用する拒絶理由通知(甲8)において拒絶の理由
を構成する公知発明とされたのは,特開平6−197077号公報(甲1)記
載の発明であり,引用例(甲2)は,特開平4−238515号公報(甲3)
及び特開平8−36440号公報(甲4)とともに,ディスプレイを表裏2面
に有し,メッセージを両面で確認することができるようにすることが周知技術
であることを示すため例示されたものにすぎない。一方,審決は,引用例(甲
2)を拒絶の理由を構成する公知発明を示すために引用したものであるから,
審決が,原査定とは異なる理由により,本願を拒絶すべきものと判断したこと
は明らかである。
しかるに,本件審判の手続において,拒絶理由は通知されておらず,また,
原告に,本願発明と引用発明との相違点について意見を陳述する機会がなかっ
たことも明らかである。
したがって,本件審判の手続は,特許法159条2項により準用される同法
50条本文の規定に違背したものであって,原告の防御の機会が奪われたまま ,
審決がなされたものであるから,審決は取り消されるべきである。
2 取消事由2(相違点の看過)
審決は,引用発明の認定を誤ったか,あるいは本願発明が一つのディスプレ
イの表裏両側から表示された画像を「視認可能」とするものであることを正し
く理解せず,二つのディスプレイを有する構成を包含するものと誤解したため ,
本願発明と引用発明との一致点の認定を誤り,相違点を看過したものであって ,
この誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから,審決は取り消され
るべきである。
(1) 審決が引用発明をどのように理解しているかは必ずしも明確ではないが,
引用発明は二つのディスプレイを背中合わせに配置したものに限られず,デ
ィスプレイモニタが一つしかないものを含むという趣旨であれば,かかる理
解は明らかに誤りである。
(2) 審決が,引用発明について ,二つのディスプレイを表示画面を外側にして
表裏に背中合わせとなるように配置した構成である旨正しく理解した上で,
一致点を認定したものであるとすれば,審決は本願発明の内容を誤解したも
のということになる。
本願発明は,引用例に記載された二つのディスプレイを表示画面を外側に
して背中合わせに配置し,二つのディスプレイに同じ内容を表示することに
よって,ディスプレイ上の画像等を両側から確認できるとする発明ではない 。
すなわち,本願発明は,一つのディスプレイが「第1側及び第2側から視認
可能であるように構成且つ配置されている,電子装置 」であって , 視認可能 」
「
とは,一つのディスプレイに対して,そこに表示される画像等を両側から見
ることができることを意味する。引用発明のように,パーソナルコンピュー
タの蓋の両側に二つのディスプレイを配置すれば,ディスプレイ上の画像等
を両側から見ることができるのは当然のことであり,本願発明において,わ
ざわざ「視認可能」としているのは,そのような当然の事柄を規定する趣旨
ではない。
「視認可能」の意味について,本願明細書は,第1図から第4図にその具
体的な構成を示し ,また , ディスプレイ114は ,ディスプレイの能動ピク
「
セル素子を形成する層を除いて透明であり,そのため表示された画像はディ
スプレイのいずれの側からも視認可能である 」 甲5 ,
( 6頁18行∼20行),
「好適な実施例の外面シール302は透明なので,画像ピクセル404およ
び背景ピクセル402はディスプレイ114のいずれの側からも見ることが
できる」 甲5 ,
( 8頁11行∼14行)と説明しており ,これらの記載からは,
本願発明が一つのディスプレイに表示される画像等を,ディスプレイを透明
なものとするなどの構成として両側から見ることができるようにしたこと
を,ディスプレイの第1側及び第2側から「視認可能である」という文言で
表現していることは明らかである。
なお,本願明細書には,第5図に二つのディスプレイを表裏一体に配置し
た構成が記載されているところ,当該構成は 別の実施例」
「 とされているが ,
「好適な実施例」に比べて「別の実施例」が欠点を有することが明確に指摘
されている。そして,二つのディスプレイを表裏に配置した「別の実施例」
では , 2つの側で同一の画像または2つの異なる画像を表示できる」
「 とされ
ており,ディスプレイに表示された画像を両側から視認可能であるとされて
おらず,その上,2つの異なる画像を表示することが示されているから,本
願発明の「ディスプレイは,画像が前記ディスプレイの……第1側及び第2
側から視認可能」との構成を欠くことになる。すなわち,本願発明は,本願
明細書記載の「好適な実施例」を対象としたものであり,第5図に示された
構成を含むものでないと理解すべきである。本願発明が , 全てのユーザは ,
「
バッテリ寿命が長いように,装置がほんのわずかのバッテリ電力しか利用し
ないことを希望する」 甲5 ,4頁21行∼23行 )ため , ディスプレイは,
( 「
……ほんのわずかのバッテリ電力しか利用しない 」 甲5 ,
( 4頁26行∼28
行)とされていることと整合性を有するものである。ディスプレイが単一で
あるからこそディスプレイの使用電力を抑えることができ,わずかのバッテ
リ電力しか利用しない構成となり得るのである。
第4 取消事由に係る被告の反論
本件審判の手続に法令違背はなく,また,審決の認定判断にも誤りはないか
ら,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(審判手続の法令違背)について
審決は,本願発明が引用発明,すなわち引用例(甲2)記載の発明に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものであるとしたものであるが,引
用例は拒絶理由通知(甲8)に示された公知刊行物である。審決は,拒絶理由
通知における拒絶の理由と同じ理由,すなわち引用例と一般的な電子装置によ
り,本願発明が進歩性を欠くと判断したものである(なお,一般的な電子装置
を記載した文献を示す必要がないことは,明らかである 。 。
)
本件審判の手続において,原告に,本願発明と引用発明との相違点について
意見陳述の機会があったことは明らかであり,また,現に,原告は,審判請求
書(甲11)において引用例に関する意見を述べている。
したがって,本件審判の手続に法令違背がないことは明らかである。
2 取消事由2(相違点の看過)について
(1) 審決は,引用発明におけるディスプレイモニタについて,「内容が前記デ
ィスプレイモニタの前方及び後方であって互いに対置している当該前方及び
後方から画面の内容を確認することができる」ものと認定したものである。
「 ディスプレイモニタが一つしかない構成を含むもの」とは認定しておらず ,
また , 表裏二つのディスプレイを表示画面を外側にして背中合わせとなるよ
「
うに配置した構成」とも認定していない。
(2) 本願発明は,ディスプレイに関し,「画像が前記ディスプレイの第1側及
び第2側であって互いに対置している当該第1側及び第2側から視認可能で
あるように構成且つ配置されている」と規定するのみで ,ディスプレイが 一
「
つ」又は「二つ」であるとは規定していない。すなわち,本願明細書の請求
項10には, 一つのディスプレイ 」
「 との記載はない。また ,広辞苑第四版 乙
(
1)によれば , 視認可能 」とは ,目で確認することが可能であることを意味
「
するにすぎない。
また , 一つのディスプレイが第1側及び第2側から視認可能であるように
「
構成かつ配置されている」発明は,請求項10の構成を更に限定した請求項
14に記載されており,本願発明はこれに限られるものではないし,本願明
細書には , 別の実施例」として第5図の構成が記載されているところ ,請求
「
項10の記載は「別の実施例」を排除するものではない。
なお,ディスプレイの使用電力は,ディスプレイの面積や材料などディス
プレイの数以外の要因によっても増減することは明らかであるから,ディス
プレイが単一であるからこそディスプレイの使用電力を抑えることができ,
わずかのバッテリ電力しか利用しない構成となり得るとの原告主張も,失当
である。
(3) 以上のとおり,原告の主張は,審決及び本願明細書の特許請求の範囲の記
載に基づかない主張であり,失当である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(審判手続の法令違背)について
原告は,審決が原査定とは異なる理由により本願を拒絶すべきものと判断し
ているにもかかわらず,拒絶理由を通知することなくされたものであって,原
告の防御の機会が奪われたまま,審決がなされたものであるから,本件審判の
手続は特許法159条2項により準用される同法50条本文の規定に違背した
ものである旨主張する。
(1) 審決が,引用例(甲2 )を,引用発明 ,すなわち「ディスプレイデータを
処理するコンピュータ本体と,前記コンピュータ本体に電気的に結合され,
ディスプレイデータを含む内容を表示するディスプレイモニタとを備え,前
記ディスプレイモニタは,前記内容が前記ディスプレイモニタの前方及び後
方であって互いに対置している当該前方及び後方から画面の内容を確認する
ことができるパーソナルコンピュータ」を開示するものとして,引用してい
ることは,審決の記載から明らかである。
(2) 一方,原査定(甲9)には ,「平成16年3月2日付け拒絶理由通知書に
記載した理由によって,拒絶をすべきものである。なお,意見書及び手続補
正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない 。 と
」
の記載があり,拒絶理由通知記載の理由により,本願を拒絶すべきものとし
たことが認められる。
そこで,原査定が引用する拒絶理由通知(甲8)をみると,次の記載があ
る。
「この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国に
おいて頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前
にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発
明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定によ
り特許を受けることができない 。」
「・請求項 1,2,4,9,10,11,13,18
・引用文献等 1∼4
・備考
引用例2乃至引用例4に記載されているように,ディスプレイを表裏
2面に有し,メッセージを両面で確認することができるようにすること
は周知であり,引用例1に記載されたような携帯無線メッセージング装
置及び電子装置に当該機構を設けることは当業者にとって容易である。
また,どのような表示を行うかは単なる設計的事項に過ぎない。」
「引用文献等一覧
1.特開平06−197077号公報
2.特開平05−053991号公報
3.特開平04−238515号公報
4.特開平08−036440号公報
……」
上記記載中の「引用例2」とは引用例(甲2)であり(拒絶理由通知にお
ける引用例1∼4は,それぞれ本訴における甲1∼4である 。 ,請求項10
)
とは本願発明を記載したものである(拒絶理由通知の後,平成16年6月3
日付けで特許請求の範囲が補正されているが,請求項10の記載は変更され
ていない 。 から ,拒絶理由通知において,引用例は,本願発明が進歩性を有
)
しないことを示す文献の一つとされており,「ディスプレイを表裏2面に有
し,メッセージを両面で確認することができるようにする」との技術事項を
開示するものとして引用されたものということができる。そして,拒絶理由
通知が引用例が開示するとして具体的に指摘した技術事項は,まさに審決が
認定した引用発明に係るパーソナルコンピュータにおけるディスプレイが有
する技術事項そのものである。
(3) また ,原査定が引用する意見書である原告が審査手続において提出した平
成16年6月3日付け意見書(甲10 )には ,引用例について , 反対方向に
「
面している2つのディスプレイ11及び12を有するラップトップタイプも
しくはブックタイプのパーソナルコンピュータを開示する」 3頁14行∼1
(
5行)との記載があり,原告が本件審判の手続において提出した同年12月
27日付け審判請求書(甲11)には ,引用例について, 二人が同じ情報を
「
同時に見るのを可能にするため反対方向に面している2つのディスプレイ1
1及び12を有するラップトップタイプもしくはブックタイプのパーソナル
・コンピュータを開示する」 4頁18行∼20行 ) 二人が例えば対話中に
( ,
「
同じパーソナル・コンピュータ(或いは携帯用コンピュータ)上の同じ情報
を同時に見るのを可能にするため2つのディスプレイを有するパーソナル・
コンピュータ(或いは携帯用コンピュータ )を教示する」 5頁5行∼8行 )
(
との記載がある。
これらの記載に照らせば,原告は,引用例に関して,審決が引用発明とし
て認定した技術事項について,意見を述べていたものというべきである。
(4) 以上検討したところによれば,審決が原査定とは異なる理由により本願を
拒絶すべきものと判断したということはできないし,原告の防御の機会が奪
われたまま,審決がなされたということもできない。
原告は,原査定及びその引用する拒絶理由通知において拒絶の理由を構成
する公知発明とされたのは甲1記載の発明であり,引用例(甲2)はディス
プレイを表裏2面に有し,メッセージを両面で確認することができるように
するという特定の技術が周知技術であることを示すために例示されたにすぎ
ない旨主張するが ,上記説示したところに照らし,採用することができない 。
なお ,付言するに ,上記(1)イで認定した拒絶理由通知の記載によれば,拒
絶理由通知は,請求項1,2,4,9,10,11,13,18に係る発明
について ,引用文献(引用例1∼4)として,甲1∼4を掲げているところ ,
平成14年1月16日付け手続補正書(甲6)によれば,拒絶理由通知にい
う請求項1,2,4,9に係る発明は「携帯無線メッセージング装置」に関
するものであり,請求項10,11,13,18に係る発明は「電子装置」
に関するものであることが認められる。しかるところ,拒絶理由通知におけ
る「引用例1 」 甲1 )は,その記載に照らし ,携帯型の無線電話装置ないし
(
無線データ通信装置に特化したものであることが認められるから,拒絶理由
通知の「備考」における「引用例1に記載されたような携帯無線メッセージ
ング装置及び電子装置に当該機構を設けることは当業者にとって容易であ
る」との記載中の「引用例1に記載されたような」は「携帯無線メッセージ
ング装置 」を修飾するにすぎず, 電子装置」
「 を修飾するものとは解されない 。
上記「備考 」において , 電子装置 」としていかなるものが想定されているか
「
は明示されていないといわざるを得ないが,拒絶理由通知にいう請求項10 ,
11 ,13 ,18に係る各発明は ,基本的な構成要素として , プロセッサ」
「
と「ディスプレイ」を有するのみであるから,技術的な概念として,一般的
な電子機器 装置 )
( と格別異なるものとは解されないから,拒絶理由通知は ,
そのような一般的な電子機器(装置)を想定しているものと解するのが相当
である。そうすると ,拒絶理由通知は , 携帯無線メッセージング装置 」に関
「
する請求項1,2,4,9に係る発明との関係で甲1に言及したものであっ
て, 電子装置 」に関する請求項10 ,11,13 ,18に係る発明との関係
「
でこれに言及したものではないというべきである。
(5) 以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点の看過)について
原告は,審決が,引用発明の認定を誤ったか,あるいは本願発明が二つのデ
ィスプレイを有する構成を包含するものと誤解したため,本願発明と引用発明
との一致点の認定を誤り,相違点を看過した旨主張する。
原告の上記主張の趣旨は,本願発明が一つのディスプレイに表示される画像
等を両側から見ることができるものであるのに対し,引用発明は二つのディス
プレイを背中合わせに配置したものであるから,審決における一致点の認定に
は誤りがあるというものと理解される。
(1) そこで,まず,本願発明の構成について検討する。
ア 本願明細書の特許請求の範囲の請求項10の記載は,前記第2,2のと
おりである。これによれば,本願発明の構成要素である「ディスプレイ」
は,①メッセージを含む画像を表示するものであること,②メッセージを
処理するプロセッサと電気的に結合されるものであること,③互いに対置
している第1側及び第2側を有し,当該第1側及び第2側からメッセージ
を含む画像が視認可能であるように構成かつ配置されていることが規定さ
れているが,ディスプレイの数は明示されておらず,単一又は二つのいず
れか一方であることが特定されているとはいえない。
原告は,請求項10の「視認可能」という文言が,一つのディスプレイ
に表示される画像等を両側から見ることができるということを意味する旨
主張するが ,本願明細書には, 視認可能 」という語について定義ないし説
「
明する記載は見当たらない。一般に「視認」とは「目で確認する」ことを
意味する(乙1 ),から,「視認可能」とは「目で確認することができる」
ことを意味するにとどまり,一つのディスプレイに表示される画像等を両
側から見ることができることを意味するということはできない。
原告は,請求項10の「画像が前記ディスプレイの第1側及び第2側で
あって」における「第1側 」 「第2側」との文言は1つのディスプレイの
,
両面を説明する記載である旨主張するが,そもそも「前記ディスプレイ」
が単一のものに限定されているとは認められないのであるから,原告の上
記主張はその前提を欠くというべきである。
イ 本願明細書(甲5,6,7)には,図面と共に次の記載がある。
(ア) 「第1図は,本発明による,第1(閉)位置のディスプレイ114
を有する携帯無線メッセージング装置100の等角図である。装置10
0は ,ディスプレイ部102およびベース部104によって構成される 。
ディスプレイ部102およびベース部104は,ヒンジ106によって
共通の端部にて回転可能に結合される。ディスプレイはさらに,互いに
対置する第1側116および第2側118(第2図)を有する。両方の
側116,118は,ディスプレイ114に表示される情報を見るため
に利用できる。また,ディスプレイ114は,第1図に示すようにディ
スプレイ部102が閉位置のとき,装置100のユーザ制御を提供する
ために,好ましくは第1側116上で従来のタッチスクリーン108を
なす。なお,メッセージ110は,閉位置のディスプレイ114上で読
めることに留意されたい 。 (甲5,6頁6行∼16行)
」
(イ) 「第2図は,本発明による,第2(開)位置のディスプレイ114
を有する携帯無線メッセージング装置100の等角図である。好ましく
は,ディスプレイ114は,ディスプレイの能動ピクセル素子を形成す
る層を除いて透明であり,そのため表示された画像はディスプレイのい
ずれの側からも視認可能である。なお,メッセージ110は,画像の適
切な方向を維持するために縦に回転されていることに留意されたい。好
ましくは,この縦回転(vertical flipping)は,以
下でさらに説明するように,ディスプレイ114が第1(閉)位置から
第2(開)位置に移動されることに応答して,自動的に行われる 。 (甲
」
5,6頁17行∼24行)
(ウ) 「第3図は,本発明による,ディスプレイ114の好適な実施例3
00の側面図である。好適な実施例300は,好ましくはガラスからな
る,2つの透明で硬質な外面シール(outer seal)302に
よって構成される。プラスチック・スペーサ304は,外面シール30
2の分離を維持する。透明ディスプレイ電極306および透明カウンタ
電極308のマトリクスは,酸化錫などの透明な導電材料をシールの内
面にメッキすることによって形成される。……ディスプレイは,画像お
よび背景を形成する電気化学材料をなす能動部分を除いて透明なので,
上で簡単に説明したように,ディスプレイの両側を画像および背景を表
示するために有利に利用できる。透明なディスプレイは,タッチスクリ
ーン108とあいまって,ディスプレイ114のいずれの側からもメッ
セージなど一つの画像を見ることができ,またディスプレイ部102を
開かずに装置100を操作できるという利点を提供する 。 (甲5,7頁
」
4行∼8頁7行)
(エ) 「第4図は,本発明による,ディスプレイの好適な実施例300の
一部の正面図である。第4図は,画像を表示するためのピクセル406
のフィールドを示す。画像は,画像ピクセル404を第1色,例えば,
黒,で描画し,背景ピクセル402を第2色,例えば,黄色,で描画す
ることによって表示される。好適な実施例の外面シール302は透明な
ので,画像ピクセル404および背景ピクセル402はディスプレイ1
14のいずれの側からも見ることができる。 甲5 ,
」
( 8頁8行∼14行 )
(オ) 「第5図は,本発明による,ディスプレイ114の別の実施例50
0の側面図である。別の実施例500は,好ましくはガラスからなる,
2つの透明で硬質な外面シール502によって構成される。硬質な内側
基板504は2つの外面シール502の間で支持され,いずれかの側で
2つの反射性カウンタ電極(reflective counter
electrode)510からなる。……透明ディスプレイ電極50
8の2つのマトリクスは,外面シール502の内面上に形成される。…
…別の実施例500は,ディスプレイ114の2つの側で同一の画像ま
たは2つの異なる画像を表示できる。しかし,別の実施例500の欠点
は,好適な実施例に比べてコストが高いことおよび厚さが大きくなるこ
とである 。 (甲5,8頁15行∼26行)
」
上記(ア)ないし(エ)及び第1図∼第3図の記載によれば,実施例300
におけるディスプレイ114は単一のものであるが,上記(オ)及び第5図
の記載によれば,実施例500におけるディスプレイ114は二つのディ
スプレイによって構成されていることが認められる。
そうすると,本願明細書には,ディスプレイが単一のものに加え,ディ
スプレイが二つのものが,共に実施例として記載されているということが
できる。
ウ 原告は,本願発明について,本願明細書記載の「好適な実施例」を対象
としたものであり,第5図に示された「別の実施例」を含むものではない
と主張する。
しかし,請求項10には,ディスプレイの数は明示されておらず,単一
又は二つのいずれか一方であることが特定されているとはいえないこと
は,前記アのとおりであり,本願発明が「別の実施例」を排除していると
は認められない。
付言するに,本願明細書の前記イ(オ)の記載は,第5図に示された「別
の実施例」について, 好適な実施例 」と比べた場合の欠点を指摘するもの
「
であるが,この点が本願発明から「別の実施例」を排除することの根拠と
なるものではないことは明らかであるし,「別の実施例」において,「ディ
スプレイ114の2つの側で同一の画像または2つの異なる画像を表示で
きる」とされているのは,表示可能な画像の種類を示したものにすぎず,
むしろ,画像を第1側及び第2側から視認可能であることを示すものとい
うべきである。
上記のとおり ,本願発明は, 別の実施例 」を包含するものであり ,これ
「
を排除するものではない。
なお,原告は,本願発明の作用効果に関し,ディスプレイが単一である
からこそディスプレイの使用電力を抑えることができ,わずかのバッテリ
電力しか利用しない構成となる旨主張するが,ディスプレイに限らず電力
を消費する構成要素を有する装置においては,その部品点数が少なくなれ
ば使用電力を抑えることができることは自明であるから,本願明細書にお
いて , 全てのユーザは,バッテリ寿命が長いように ,装置がほんのわずか
「
のバッテリ電力しか利用しないことを希望する 」 甲5 ,
( 4頁21行∼23
行) ディスプレイは,
,
「 ……ほんのわずかのバッテリ電力しか利用しない 」
(甲5,4頁26行∼28行)との記載があることは,本願発明における
ディスプレイが単一であることの根拠となるものではない。
エ 以上検討したところによれば,本願発明は,ディスプレイが単一の場合
のみならず ,二つの場合をも包含するものというべきである 。本願発明が ,
一つのディスプレイに表示される画像等を両側から見ることができるもの
であるとの原告主張は,採用することができない。
(2)ア 引用例(甲2)には,図面と共に次の記載がある。
(ア) 「……上記開閉蓋の両面に取り付けられるフラットパネルタイプの
ディスプレイモニタと,上記各表示モニタに対し同一内容を表示する…
…」【請求項1 】
( ,段落【0006】)
(イ) 「本発明は,ラップトップタイプもしくはブックタイプのパーソナ
ルコンピュータが持つ開閉蓋の両面にディスプレイモニタを埋め込み,
キーボードを操作する人とプレゼンテーションされる相手が,それぞれ
の画面をみながら向かい合って対話することを実現する。そのために,
上記の両ディスプレイモニタに対し共通に表示データを供給する……」
(段落【0007 】)
(ウ) 「……符号11はディスプレイモニタ1であり,通常のラップトッ
プタイプのパーソナルコンピュータが内蔵する液晶モニタである。符号
12はディスプレイモニタ2であり,解像度他性能はディスプレイモニ
タ11と同じであり,開閉蓋13の反対に取付けられている。開閉蓋1
3はディスプレイフレームとなっており,両面にディスプレイモニタ1
1,12が埋め込まれている 。 (段落【0009 】
」 )
(エ) 「本発明の特徴は,ラップトップあるいはブックタイプのパーソナ
ルコンピュータが持つ開閉蓋13の両面にディスプレイモニタ11,1
2が埋め込まれ,同一内容が表示されることにある。即ち,その蓋13
を開くと,図1のようにキーボードを操作する側とその反対側からもデ
ィスプレイ内容を見ることができる。 (段落【0013 】
」 )
イ 上記アの記載によれば,引用例には,ディスプレイモニタ11及び12
が開閉蓋13の両面に埋め込まれているものが記載されているにとどま
り,それ以外の配置構成は記載されていないから,引用発明においては,
ディスプレイモニタは一つではなく,二つあるというべきである。
審決は引用発明の内容を認定するに当たってディスプレイモニタの数に
ついて言及していないが,本願発明がディスプレイが一つの場合のみなら
ず,二つの場合をも包含することは前記(1)のとおりであるから ,審決が,
引用発明についてディスプレイモニタの数を明らかにしない形で認定した
ことは,一致点及び相違点の認定に影響するものではない なお ,
( 原告も ,
審決における引用発明の認定について,ディスプレイ(モニタ)の数を含
めたディスプレイ配置のとらえ方を除き,これを積極的に争うものではな
い。 。
)
(3) 以上によれば,審決における一致点の認定は ,これを正当として是認する
ことができる。原告主張の取消事由2は理由がない。
3 結論
上記検討したところによれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,
その他,審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁 判 長 裁 判 官 三 村 量 一
裁 判 官 嶋 末 和 秀
裁 判 官 上 田 洋 幸
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