平成18(行ケ)10272審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成19年5月30日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告株式会社小野測器 原告株式会社堀場製作所
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法令 |
実用新案権
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キーワード |
刊行物70回 審決17回 無効7回 訂正審判2回 進歩性2回 無効審判1回 実用新案権1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁等における手続の経緯
, 「 」( ) 原告は 考案の名称を シャシダイナモメータ上の自動車運転用ロボット1
とする実用新案登録第2602243号(平成5年7月21日実用新案登録
出願,平成11年10月29日設定登録 「本件実用新案登録」という )。 。
の実用新案権者である。 |
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判決文
平成19年5月30日判決言渡
平成18年(行ケ)第10272号 審決取消請求事件
平成19年4月16日 口頭弁論終結
判 決
原 告 株式会社堀場製作所
訴訟代理人弁護士 伊 原 友 己
同 加 古 尊 温
訴訟代理人弁理士 西 村 竜 平
同 角 田 敦 志
被 告 株式会社小野測器
訴訟代理人弁護士 小 林 幸 夫
同 村 西 大 作
訴訟代理人弁理士 國 分 孝 悦
同 南 林 薫
同 大 須 賀 晃
同 小 野 享
同 桂 巻 徹
同 栗 川 典 幸
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
( 1) 特許庁が無効2005−80016号事件について平成18年5月12
日にした審決のうち ,「実用新案登録第2602243号の請求項1に係る
考案についての実用新案登録を無効とする。」との部分を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁等における手続の経緯
(1) 原告は,考案の名称を シャシダイナモメータ上の自動車運転用ロボット 」
「
とする実用新案登録第2602243号(平成5年7月21日実用新案登録
出願,平成11年10月29日設定登録 。「本件実用新案登録」という 。)
の実用新案権者である。
(2) 被告は,平成17年1月19日,本件実用新案登録を無効にすることにつ
いて審判の請求をし,無効2005−80016号事件として特許庁に係属
した。原告は,同審判手続において,平成17年4月18日付けで訂正請求
を行った。特許庁は,平成17年8月30日 ,「訂正を認める。実用新案登
録第2602243号の請求項1に係る考案についての実用新案登録を無効
とする。」との審決をした。
(3) 被告は,知的財産高等裁判所に同審決の取消しを求める訴訟(平成17年
(行ケ)第10711号)を提起するとともに,実用新案登録請求の範囲の
減縮を伴う訂正審判請求(訂正2005−39224)を行ったところ,同
裁判所により,差戻決定がされた。
(4) 差戻し後に再開された無効審判事件の審理において,上記訂正審判請求は
訂正請求とみなされ,特許庁により,平成18年5月12日に「訂正を認め
る。実用新案登録第2602243号の請求項1に係る考案についての実用
新案登録を無効とする。」との審決がされた。
2 特許請求の範囲
上記みなし訂正請求後の本件考案の明細書(甲30の2)における実用新案
登録請求の範囲の請求項1の記載は ,次のとおりである 以下 ,
( この考案を 本
「
件考案」という 。)
【請求項1】
「運転者用シートに載置されるロボット本体に,作動対象物であるアクセ
ル,ブレーキ,クラッチの各ペダルに直接当接させてそれぞれを操作する
アクチュエータを設けたシャシダイナモメータ上の自動車運転用ロボット
において,前記各アクチュエータの軸の先端に,その軸線と光軸とを略合
致させることにより,各アクチュエータがその軸を伸縮させることなく各
ペダルとは離間した状態において,目視できるように,対向する各ペダル
をスポット的に照射するレンズ付きLEDを埋設したことを特徴とするシ
ャシダイナモメータ上の自動車運転用ロボット。」
3 審決の理由
(1) 別紙審決書の写しのとおり。
審決の理由は,要するに,本件考案は,実願平3−95083号(実開平
5−36341号)のCD−ROM(甲4 。以下 ,審決と同様に「刊行物4 」
という。他の書証についても,枝番号の記載の有無の点を除いて,書証に付
された番号は同一である 。)に記載された考案(以下「刊行物4考案」とい
う。 及び米国特許第4438567号明細書(甲6の1,以下「刊行物6 」
)
という。なお,枝番号の表記を省略する場合がある 。)に記載された考案並
びに周知技術に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができた,と
いうものである。
(2) 審決の認定した本件考案と刊行物4考案との一致点及び相違点は,次のと
おりである。
(一致点)
「運転者用シートに載置されるロボット本体に,作動対象物であるアクセ
ル,ブレーキ,クラッチの各ペダルに直接当接させてそれぞれを操作する
アクチュエータを設けたシャシダイナモメータ上の自動車運転用ロボッ
ト」である点。
(相違点)
本件考案では,各アクチュエータの軸の先端に,その軸線と光軸とを略
合致させることにより,各アクチュエータがその軸を伸縮させることな
く各ペダルとは離間した状態において,目視できるように,対向する各
ペダルをスポット的に照射するレンズ付きLEDを埋設した構成を有し
ているのに対し,刊行物4に記載の考案では,そのような構成は有して
いない点。
第3 取消事由に関する原告の主張
審決には,相違点についての容易想到性の判断を誤った違法がある。
なお,審決書の「当審の判断」における各刊行物(刊行物3,4,6,7及
び24)の記載事項並びに本件考案と刊行物4考案との一致点及び相違点の認
定に誤りがないことについては,認める。
1 本件考案の技術的意義
( 1) 本件考案は,自動車運転用ロボットの運転席への設置時のペダルアクチ
ュエータの位置決めの便宜という,固有の技術的課題の解決策を提示したも
のである。そして,本件考案は,稼働時に,ペダルに当接せしめて,押圧操
作するアクチュエータ自身の先端部に,割れやすいレンズ付きLEDを設け
た点に特徴がある。本件考案の「アクチュエータ」については,実用新案登
録請求の範囲には「作動対象物であるアクセル,ブレーキ,クラッチの各に
直接当接させてそれぞれを操作するアクチュエータ」と記載されていること
や一般的な解釈として,対象物に対して直接力を作用させるもの(押し子,
作動器)として解されるべきである(甲31,32)。
( 2) 本件考案の自動車運転用ロボットでは,アクチュエータは最大約200
N(20Kg)の力でペダルを押圧するのであって,かかる力でペダルを押
圧するアクチュエータに,レンズ付きLEDを先端に設ければ,レンズ付き
LEDに過大な力が加わり,破損等の問題が発生することは,当業者であれ
ば当然予期し得る。したがって,アクチュエータの先端に接触式の圧力セン
サを設けた技術が周知であったとしても,当業者は,そのような周知技術か
ら,非接触を前提としたレンズ付きLEDを設けることを発想することはな
い。
2 刊行物4考案に刊行物6の記載事項を適用することの困難性
(1) 刊行物4考案の内容は,「運転者用シートに載置されるロボット本体に,
作動対象物であるアクセル,ブレーキ,クラッチの各ペダルに直接当接させ
てそれぞれを操作するアクチュエータを設けたシャシダイナモメータ上の自
動車運転用ロボット」とするものである。
( 2) これに対し,刊行物6は,自動車運転用ロボットとは全く無関係な技術
領域にある「ドリル工作機械」である点で異なり,また,対象物に対して力
を作用させるのはドリル工具であり,ランプを設けている箇所は,当該ドリ
ル工具の先端ではない点で異なる。刊行物6は,位置決め専用の器具(ロケ
ーター)を用意し,ロケーターで,ワーク(工作対象)との関係における軸
の位置決めをした後,軸からロケーターを外し,ドリルと交換して,穴開け
加工する技術が記載されている。刊行物6は,アクチュエータの先端部にラ
ンプを設ける技術を示唆するものではない。
( 3) 上記のとおり,刊行物6と本件考案とは,位置決めを行うものが,対象
物に対して作用する器具そのものか,別の器具かという点で,根本的な点で
相違がある。したがって,刊行物4考案に刊行物6を適用しても,本件考案
を想到することはできない。
3 刊行物6以外の引例に示された技術思想について
( 1) 甲7(米国特許第4786848号明細書)においては,操作(加工)
対象に実際に作用するのは,ウォータジェット・トリムヘッド64から出力
されるジェット水流(water jet stream)であり,そのウォータジェット・ト
リムヘッド64と選択的に取り替えて使用されるシミュレータ70は,ペダ
ルを直接押圧する本件考案のアクチュエータと同等のものではない。
( 2) 離れた距離からレーザで対象物を指し示したり,位置を確認したりする
従来技術としては,レーザポインタやライフル銃のレーザ照準器がある。し
かし,レーザポインタは,その先端で,直接に黒板やパワーポイントのスク
リーン画像に触れるものではなく,また,ライフルの照準器も,照準器で標
的を破壊するものではない。レーザポインタやライフル銃のレーザ照準器等
は,いずれも直接対象物に力を作用させるものではない点で,本件考案と相
違する。
( 3) 上記の引例に,対象物に直接当接せしめて,これに力を加えるものの先
端部に(設置段階での位置決めのために)発光手段を設けたものはなく,開
示も示唆もされていない。いずれの引例にも,アクチュエータの先端部にレ
ンズ付きLEDを設ける技術思想は開示も示唆もされていない。
第4 被告の反論
本件考案の進歩性についての審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消
事由は理由がない。
1 本件考案の技術的意義
原告は,本件考案において,レンズ付きLEDを埋設することは,割れやす
いものを割れやすい部分に設けるという発想であって,この点を容易に想到す
ることはできないと主張する。
しかし,刊行物6において,ロケーター内の光学部材は周囲より後退した位
置となっており,対象物には直接接触しない構成が採用されており,本件考案
の構成は,刊行物6に開示されている構成と同じである。すなわち,刊行物6
では,その図2に示すように,本件考案のレンズ付きLEDに相当するレンズ
22及びランプ20のレンズ22は,ロケーターFのバレル部材12の先端に
埋設される構成とされている。また,レンズ付きLEDのように対象物との直
接の接触によって,機械的損傷を生じるおそれのあるものについて,保護のた
めに周囲からは埋設して設けることは,当業者が必要に応じて適宜採用するこ
とができる。
本件考案に格別の技術的な特徴はない。
2 刊行物4考案に刊行物6の記載事項を適用することの困難性について
( 1) 原告は,刊行物6は刊行物4考案の自動車運転用ロボットとは無関係な
技術領域にあるドリル工作機械であるから,両者を組み合わせることは困難
であると主張する。
しかし,刊行物4と刊行物6は,アクチュエータを用いた装置であるとい
う点で技術分野の関連性を有し,また,対象物に対してアクチュエータの先
端の位置決めを行う必要があるという技術的課題の共通性を有するから,刊
行物4考案に刊行物6の記載事項を組み合わせることに困難性はない。
「アクチュエータ」とは,電気,油圧,圧縮空気などを用いて機械的な仕
事をする機器を広く指称するものであり,対象物に対して直接力を作用させ
るものに限定されるものでない。刊行物6において,ロケーターFが先端に
取り付けられるボール盤Aのスピンドル軸(出力軸)は,機械的に上下動す
るものであるから,これがアクチュエータであることに疑いはない。
したがって,審決が,刊行物6のスピンドル軸及びこのスピンドル軸の先
端に設けられたロケーターFを,それぞれ本件考案のアクチュエータ及び発
光手段(レンズ付きLED)に相当するものとして ,「アクチュエータに関
しても,アクチュエータの先端の位置合わせの必要な場合に,スポット光を
照射する発光手段を,前記アクチュエータの軸と発光手段の光軸とを略合致
させて,その先端部に設け,前記アクチュエータの先端の到達位置を示す手
段とすることは,種々のタイプのアクチュエータにおいて採用されている 例
(
えば,上記刊行物6,刊行物7等参照)ように周知のことである 。 (審決
」
書10頁17行∼22行)と認定したことに誤りはない。
( 2) 原告は,刊行物6においては,軸の位置決めをしてからロケーターFを
ドリル工具と差し替えるものであるから,刊行物6にアクチュエータ自体で
位置決めをする技術は示唆されていないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,刊行物6において本件考案のアクチュエータに相当するのは,
スピンドル軸であることは,上述のとおりであるから,本件考案のアクチュ
エータに相当するのがドリル工具であるという原告の主張は,前提において
誤っている。そして,刊行物6には ,「アクチュエータ」に相当するスピン
ドル軸の先端部に,その軸線と光軸とを合致させてスポット光の発光手段で
あるロケーターFを設ける構成を開示しているから,刊行物6には,本件考
案の「アクチュエータの軸の先端に,その軸線と光軸とを略合致させてスポ
ット光の発光手段であるレンズ付きLEDを設ける」との構成が開示されて
いるといえる。
3 刊行物6以外の引例に示された技術思想について
( 1) 原告は,甲7のシミュレータ70は,ウォータージェット・トリムヘッ
ド64と取り替えて使用されるものであるから,本件考案のアクチュエータ
と同等ではないと主張する。
しかし,甲7には ,アクチュエータであるロボットアーム14の先端部に ,
ワーク90に対して位置合わせのためのスポット光を照射する発光手段であ
るシミュレータ70を設ける構成が開示されている。したがって,原告の主
張は,失当である。
( 2) 原告は,レーザポインタやライフル銃のレーザ照準器は,いずれも直接
対象物に力を作用させるものではないので,本件考案とは異なると主張する。
しかし,直接対象物に力を作用させるものであるか否かは,光線で対象位
置をスポット的に照射して指示するという思想が周知であることの妨げにな
るものではない。したがって,原告の主張は失当である。
第5 当裁判所の判断
当裁判所も,本件考案は,刊行物4考案及び刊行物6並びに周知技術に基づ
いて ,当業者が極めて容易に考案をすることができたとものであると判断する 。
その理由は,以下のとおりである。
1 刊行物4考案の内容
( 1) 刊行物4考案は ,「運転者用シートに載置されるロボット本体に,作動
対象物であるアクセル,ブレーキ,クラッチの各ペダルに直接当接させてそ
れぞれを操作するアクチュエータを設けたシャシダイナモメータ上の自動車
運転用ロボット」である。そして,刊行物4(甲4)には ,「前記ロボット
1は,図1∼2に示したように,アクチュエータ 25 を前側にして本体2を
運転者用シート 38 に載置する。そして,連結ボルト 16 の締付けで連結材7
を支持ロッド4に固定し,かつ締付けボルト 14 を弛めて,保持材 11 を上下
方向にスイングさせて支承棒 18 をほぼ垂直にするとともに,支承棒 18 の下
端を自動車の床などに当接して,本体2の前側を持上げ状に支承する。この
状態で各締付けボルト 14 を締付けて保持材 11 を軸受パイプ8に,保持材 11
に支承棒 18 をそれぞれ固定し ,かつベルト 39 で本体2を運転者用シート 38
に固定する。ペダル用の各アクチュエータ 25 は,各ペダルの相対する位置
に置き,かつペダルを操作することが可能な状態に調節して支持ロッド4に
固定する 。(9頁28行∼10頁7行,段落【0020 】 との記載がある 。
」 )
( 2) 同記載部分及び図1,2を併せると,刊行物4考案においては,ペダル
用のアクチュエータの軸部分が進退してペダルを操作すること,アクチュエ
ータをペダルに相対する位置に配置させて,ペダルを操作することが可能な
状態に位置調整をして,自動車運転用ロボットの支持ロッドを固定するもの
であると認められる。他方,位置調整のための具体的な手段についての記載
はない。
2 刊行物6の記載事項
(1) 刊行物6(甲6の1,訳文甲6の2)には,次の記載がある。
「この発明は,…特に,工作機械のスピンドル軸にマークもしくは穴を正確
に芯出しするようにワークを位置決めする装置に関する 。 (第1欄6行∼
」
9行,訳文1頁3行∼4行),
「図1において,工作機械のこの例ではボール盤Aが図示され,該ボール盤
Aは,その出力軸に結合されたチャックBの形態でツールホルダを有してい
る。ワークCは,バイスDにクランプ(固定)される。バイスDは,クラン
プ機構によって選択された所定位置で作業台Eにクランプされる 。 (第2
」
欄14行∼19行,訳文1頁6行∼9行),
「ワークに付されたセンタマーキングをスピンドル軸に合わせるために,ロ
ケーターFは,ボール盤のスピンドル軸に正確に芯出しされた適宜の画像を
投影する。ロケーター…Fは2つのバレル部材10,12からなり,一方の
部材10は一端に短い,実質的に円筒状のシャンク14を有し,チャックB
に結合するように設計されている。…バレル部材12の上端あるいは内側端
部には低電圧タングステン・フィラメントランプ20が装着され,また,バ
レル部材12の下端あるいは外側端部には屈折力6ないし8の両凸レンズ2
2が装着される。レンズ22はOリング24によって,バレル部材12の肩
部に保持される。(第2欄31行∼47行,訳文1頁11行∼下から3行 )
」 ,
「ランプ20およびレンズ22は,ワーク上の参照マークもしくはライン上
に画像を投影する。ワーク上にスポット(図4)…を投影可能である 。 (第
」
3欄18行∼22行,訳文2頁3行∼6行),
「 投影画像)の合焦後,ワークのセンターマークと投影画像の中心とを一
(
致させるために,バイスDの横方向移動が行われる。ワーク上の交差線(図
1)と投影画像の十字は,バレル部材12を回動させることによって相互に
平行にすることができる。位置決め完了後,ワークは作業台上に固定される
とともに,ドリル工具あるいは他の工具がチャックに装填される 。 (第3
」
欄35行∼42行,訳文2頁10行∼14行 )。
( 2) 上記によれば,刊行物6には,工作機械のスピンドル軸(出力軸)をワ
ークに合わせて正確に芯出しするために,ワーク上をスポット的に照射する
レンズ付きランプを有するロケーターをスピンドル軸の先端に設けること,
上記スピンドル軸は,ワークに向けて進退するものであり,ワークに当接さ
せることなく芯出しができるようにした技術が開示されているものと認めら
れる。
3 本件考案についての進歩性の有無
刊行物4考案におけるアクチュエータは,その軸部分がペダルに向けて進退
するものである。そこで,同考案に,これと同様にワークに向けて進退するス
ピンドル軸を,ワークに当接させることなく芯出しできるようにワーク上をス
ポット的に照射するレンズ付きランプを有するロケーターをスピンドル軸の先
端に設けるという刊行物6の技術を適用すれば,アクチュエータを,ペダルに
当接させることなくペダルに相対する位置に配置する調節を行うために,対向
する各ペダルをスポット的に照射するレンズ付きの光源をアクチュエータ先端
部に設けるとの発想を得ることは,当業者が極めて容易になし得たものという
ことができる。
そして,レンズ付きLEDは従来周知のものである(争いはない)から,レ
ンズ付きの光源としてレンズ付きLEDを用いることは,当業者が設計上適宜
なし得る程度のことである。また,刊行物4考案においては,アクチュエータ
先端部がペダルに当接するものであることから,損傷を防止するために光源を
埋設することは,当業者が当然考慮する程度の設計事項であって,格別の構成
とはいえない(刊行物6の図2においても,ランプは,レンズ部分を含めて,
ロケーターに埋設された位置に配置されていることが認められる。 。
)
したがって,刊行物6に開示された技術及び周知技術を適用すれば,刊行物
4考案において,相違点に係る本件考案の構成とすることは当業者が極めて容
易になし得たものであって,本件考案は,刊行物4考案,刊行物6に開示され
た事項及び周知技術に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができた
ものといえる。これと同旨の審決の判断に,誤りはない。
4 原告の主張に対し
( 1) 原告は,刊行物6の記載事項は,自動車運転用ロボットとは全く無関係
な技術領域にある「ドリル工作機械」であるから,このような技術領域の文
献を相互に組み合わせることは困難である旨主張する。
しかし,上記1において述べたとおり,刊行物6に開示された技術は,対
象物に向けて進退する軸を対象物に対して位置合わせする点で刊行物4考案
と共通するものであるから,刊行物4考案と無関係な技術領域にあるという
ことはできず,刊行物6の記載事項を刊行物4考案に適用することを妨げる
事情は存在しない。
( 2) 原告は,本件考案は,自動車運転用ロボットの分野の固有の技術的課題
の解決策を提示したものであり,ペダルに当接してこれを踏み込む(押圧操
作する)アクチュエータの先端部に割れやすいレンズ付きLEDを設けた点
に特徴があるのに対して,刊行物6においてアクチュエータの役割を果たす
のは,ドリル工具であるから,アクチュエータの先端部にランプを設ける技
術は,開示も示唆もされていない旨を主張する。
しかし,上記のとおり,刊行物6には,ワーク上をスポット的に照射する
レンズ付きランプを有するロケーターを,スピンドル軸の先端に設けること
によって,ワークに向けて進退するスピンドル軸をワークに当接させること
なく芯出しする目的を達成する技術が開示されている。刊行物4考案に刊行
物6の記載事項を適用して,本件考案をすることができるか否かの判断に際
しては,刊行物6記載において,ワーク上をスポット的に照射するレンズ付
きランプを有するロケーターをスピンドル軸の先端に設ける構成が用いられ
ていることが重要な考慮要素となるのであって,位置決め完了後にロケータ
ーを外して,ドリル工具等を装填するか否か,また,本件考案のアクチュエ
ータの役割を果たすものが,刊行物6記載のドリル工具であるか否かは,組
み合わせの容易性の有無を判断する際の重要な要素であるとはいえない。し
たがって,原告のこの点の主張は,失当である。
( 3) 原告は,甲7(米国特許第4786848号明細書)やレーザ照準器等
を含めて,従来技術のいずれにも,対象物に直接当接せしめて,これに力を
加えるようなものの先端部に(設置段階での位置決めのために)発光手段を
設けたものはなく,アクチュエータ自体の先端部にレンズ付きLEDを設け
るという技術は,開示も示唆もされていないと主張する。しかし,原告の主
張は,既に述べたとおりであって,刊行物4考案に刊行物6の記載事項を組
み合わせて,本件考案に至ることが極めて容易であるとした判断を左右する
主張とはいえない。この点の原告の主張は,失当である。
5 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,審決に,これを
取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯 村 敏 明
裁判官 三 村 量 一
裁判官 上 田 洋 幸
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