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平成18(行ケ)10396審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年5月29日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官
原告旭化成エポキシ株式会社
法令 特許権
特許法126条3項2回
キーワード 審決61回
刊行物49回
実施36回
訂正審判7回
進歩性3回
優先権2回
特許権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 原告は,後記特許の特許権者であるが,特許庁が第三者からの申立てに基づ き特許取消決定をしたので原告がその取消訴訟を提起しているところ,原告に おいて上記特許に関し訂正審判請求をしたのに,特許庁が請求不成立の審決を したことから,原告が同審決の取消しを求めた事案である。

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判決文

判決言渡 平成19年5月29日
平成18年(行ケ)第10396号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成19年5月22日
判 決
原 告 旭化成エポキシ株式会社
訴訟代理人弁理士 伊 藤 穣
同 武 井 英 夫
同 鳴 井 義 夫
同 清 水 猛
被 告 特 許 庁 長 官
中 嶋 誠
指 定 代 理 人 井 出 隆 一
同 唐 木 以 知 良
同 高 原 慎 太 郎
同 内 山 進
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が訂正2006−39056号事件について平成18年8月3日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
原告は,後記特許の特許権者であるが,特許庁が第三者からの申立てに基づ
き特許取消決定をしたので原告がその取消訴訟を提起しているところ,原告に
おいて上記特許に関し訂正審判請求をしたのに,特許庁が請求不成立の審決を
したことから,原告が同審決の取消しを求めた事案である。
なお,前記特許取消決定の取消しを求める訴訟は,平成18年(行ケ)第1
0022号事件として当庁に係属中であり,本件訴訟と並行して審理が進めら
れている。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 特許庁等における手続の経緯
原告は,名称を「エポキシ樹脂組成物」とする発明につき,平成4年7月
29日(優先権主張平成3年8月15日,日本)に特許出願をし,平成14
年6月28日に特許第3322909号として設定登録を受けた(請求項の
数2。甲13〔特許公報〕。以下「本件特許」という。。

その後,本件特許につきSから特許異議の申立てがなされ,同事件は異議
2003−70623号事件として特許庁に係属したところ,同庁は,平成
17年12月1日,「特許第3322909号の請求項1,2に係る特許を
取り消す。」旨の決定をしたので,原告は,平成18年1月17日,同決定
の取消しを求める訴訟を提起した 当庁平成18年 行ケ)
( ( 第10022号)。
上記取消訴訟係属中の平成18年4月17日,原告は,本件特許につき訂
正審判請求(以下「本件訂正審判請求」という。)を行い,同請求は訂正2
006−39056号として特許庁に係属したところ,同庁は,平成18年
8月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,審決謄本は
平成18年8月7日原告に送達された。
(2) 訂正審判請求の内容
原告のなした訂正審判請求の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。
その要点は,特許請求の範囲の減縮等を目的として,下記訂正前発明を訂正
後発明のとおり訂正しようとするものである。
ア 訂正前発明
【請求項1】(A)オキサゾリドン環を含むエポキシ樹脂と(B)ハロ
ゲン含有エポキシ樹脂,及び(C)硬化剤を成分とし ,(A)成分樹脂及
び(B)成分樹脂の重量比が5∼95:95∼5であり,(A)成分樹脂
と(B)成分樹脂を混合した時のエポキシ樹脂の合計の加水分解性塩素量
が500ppm以下,該合計のα−グリコール基の含有量が100meq
/kg以下であることを特徴とする,エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】 C)成分がジシアンジアミドまたは芳香族アミンである,

請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
イ 訂正後発明(下線部分が訂正部分。以下「訂正発明1」などという。)
【請求項1】(A)イソシアネート化合物とグリシジル化合物を当量比
1:1.1∼1:10の範囲でオキサゾリドン環形成触媒の存在下で反応
させてなるオキサゾリドン環を含むエポキシ樹脂と(B)臭素含有量が3
0∼52重量%である臭素含有エポキシ樹脂,及び(C)芳香族アミン,
ジシアンジアミド,第3級アミン類,イミダゾール類,フェノール樹脂か
ら選択された硬化剤を成分とし,(A)成分樹脂及び(B)成分樹脂の重
量比が20∼80:80∼20であり,(A)成分樹脂と(B)成分樹脂
を混合した時のエポキシ樹脂の合計の加水分解性塩素量が500ppm以
下,該合計のα−グリコール基の含有量が100meq/kg以下である
ことを特徴とする,銅張り積層板用プリプレグ用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】 C)成分がジシアンジアミドまたは芳香族アミンである,

請求項1記載の銅張り積層板用プリプレグ用エポキシ樹脂組成物。
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,訂正発明1,2は,本件特許の出願優先権主張日前
に頒布された下記刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が
容易に発明をすることができたもので特許出願の際に独立して特許を受け
ることができないから,本件訂正審判請求は,平成6年法律第116号に
よる改正前の特許法126条3項の規定に適合しないので,本件訂正を認
めることができないとしたものである。
〔判決注〕平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項の規定
は次のとおりである。
「第1項ただし書第1号の場合は,訂正後における特許請求の範囲に記載され
ている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることが
できるものでなければならない。」

刊行物1:国際公開第90/15089号パンフレット(甲1 ),その
訳文として特表平4−506678号公報(甲2)
(これらに記載された発明を以下「刊行物1発明」という。)
刊行物2:特開昭50−5481号公報(甲3)
刊行物3: 住友化学
「 1988− I 」昭和63年5月25日 住友化
学工業株式会社発行 43ないし53頁(甲4)
刊行物4: コーティング時報
「 No.173 Jan.'87」昭和62年2月
10日 旭化成工業株式会社化学品第二事業部発行 9ないし23頁(甲
5)
刊行物5:特開昭60−187537号公報(甲6)
イ 審決は,刊行物1を主引例とする論理付けにおいて,訂正発明1と刊行
物1発明との一致点及び相違点を,次のとおり認定した。
〈一致点〉
「イソシアネート化合物とグリシジル化合物をオキサゾリドン環形成触
媒の存在下で反応させてなるオキサゾリドン環を含むエポキシ樹脂(以
下「 A)成分」という。 ,及び,芳香族アミン,ジシアンジアミド,
( )
第3級アミン類,イミダゾール類,フェノール樹脂から選択された硬化
剤を成分とする,銅張り積層板用プリプレグ用エポキシ樹脂組成物 。」
である点。
〈相違点1〉
(A)成分が,訂正発明1ではイソシアネート化合物とグリシジル化合
物を当量比1:1.1∼1:10の範囲で反応させてなるものであるの
に対し,刊行物1発明では該当量比が特定されていない点。
〈相違点2〉
訂正発明1では「臭素含有量が30∼52重量%である臭素含有エポキ
シ樹脂」(以下(B)成分という。)を(A)成分と(B)成分の重量比
が20∼80:80∼20であるように配合しているのに対し,刊行物
1発明ではそのような特定がなされていない点。
〈相違点3〉
訂正発明1では ,(A)成分と(B)成分を混合した時のエポキシ樹脂
の合計の加水分解性塩素量が500ppm以下,該合計のα−グリコー
ル基の含有量が100meq/kg以下であるのに対して,刊行物1発
明では,そのような特定がなされていない点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,審決は,以下に述べる次第により違法として取り消される
べきである。
ア 取消事由1(相違点2に関する判断の誤り)
(ア) 審決は,相違点2に関し,刊行物2には,臭素含有エポキシ樹脂を
配合することにより,各種エポキシ樹脂に難燃性を付与することが記載
されており,刊行物1発明において,臭素含有エポキシ樹脂を配合して
エポキシ樹脂組成物を難燃化することは容易であり,また,刊行物2の
第1頁右下欄第6∼19行には,ハロゲン含有エポキシ樹脂のハロゲン
は難燃性に寄与するもののハンダ耐熱性は低下せしめる旨の記載がある
から,臭素含有エポキシ樹脂の臭素は難燃性に寄与するもののハンダ耐
熱性は低下せしめることが認識でき,好適な難燃性とハンダ耐熱性のバ
ランスを考慮して,臭素含有エポキシ樹脂の臭素量を定めることは容易
であるとする。
しかし,刊行物2には,エポキシプリプレグにおいて,その表面層の
30μ以内の樹脂中の臭素含有量は低く(10%以下 ),その全体とし
ての樹脂中の臭素含有量は高く(15%以上)する,すなわち,表面層
樹脂と(表面層でない)中心層樹脂の臭素含有量に高低差を設けて,難
燃性と高温接着力およびハンダ耐熱性とを両立させる発明 技術的思想)

が記載されているのであり,訂正発明1のように,ハンダ耐熱性,銅箔
剥離強度,ワニス貯蔵安定性,ゲルタイム保存率(プリプレグ貯蔵安定
性),ガラス転移温度(Tg)において一定水準以上の性能をバランス
して維持しつつ,特に難燃性において相乗効果,あるいは当業者が予期
し得ない格別顕著な効果を期待して,臭素含有量が30∼52重量%で
ある臭素含有エポキシ樹脂(B)を,特定官能基(オキサゾリドン環)
を有するエポキシ樹脂(A)に組み合わせる(混合する)ことは,刊行
物2には記載も示唆もされていない。
(イ) また,審決では,刊行物2の第1頁右下欄第6∼8行,同第2頁左
上欄第12∼14行,及び同第2頁左上欄第16行∼第2頁右上欄第3
行の記載からみて,刊行物2には,臭素含有エポキシ樹脂を配合するこ
とにより,各種エポキシ樹脂に難燃性を付与することが記載されている
と判断している。
しかし,刊行物2の第2頁右上欄第7行の「上記エポキシ樹脂」は,
同第2頁左上欄第16行∼第2頁右上欄第3行に列挙されているような
表面層樹脂と中心層樹脂を調製するための極めて一般的で汎用のエポキ
シ樹脂のみを意味し,訂正発明1の特定官能基(オキサゾリドン環)を
有するエポキシ樹脂(A)までも含むものではない。
そのことは,刊行物2に記載された発明(技術的思想)が,表面層樹
脂と中心層樹脂の臭素含有量に高低差を設け,そのことにより難燃性と
高温接着力およびハンダ耐熱性とを両立させるものであり,特殊なエポ
キシ樹脂との組合わせにより両立を図るものではないことからみても明
らかである。
してみれば,刊行物2の第2頁左上欄第16行∼第2頁右上欄第3行
に列挙されている樹脂の記載からみて,難燃性を付与する対象は汎用の
一般的なエポキシ樹脂にとどまり,訂正発明1の特定官能基(オキサゾ
リドン環)を有するエポキシ樹脂(A)までも含むような各種エポキシ
樹脂までを意味するものでない。
したがって,審決の相違点2に関する判断は誤りである。
イ 取消事由2(訂正発明1についての顕著な効果の認定・判断の誤り)
(ア) 難燃性の相乗効果について
a 審決は, 相乗効果」とは,ある物質を単独で用いた場合に比べて ,

2種以上の物質を併用した場合の効果が著しく向上した場合の効果を
いうから,訂正発明1において ,(A)成分と(B)成分を併用した
場合に難燃性の相乗効果が発揮されているといえるためには,(A)
成分の単独使用の難燃効果,(B)成分の単独使用の難燃効果,(A)
成分と(B)成分を併用した場合の難燃効果を対比して,(A)成分
と(B)成分を併用した場合の難燃効果が,(A)成分の単独使用の
難燃効果と(B)成分の単独使用の難燃効果のいずれよりも著しく向
上していることが立証されなければならないところ,実験証明書Ⅰな
いしⅢ(甲7ないし9)からは相乗効果は確認できないとしたが,以
下のとおり誤りである。
b 実験証明書I(甲7)
実験証明書Iは,訂正明細書(甲14)の表7∼8の実施例5と比
較例1に相当する試料についての難燃性試験,すなわちUL−94の
燃焼試験(甲11)の結果に基づいて,作成されたものである。
この実験証明書Iによれば,オキサゾリドン環を含むエポキシ樹脂
にテトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂を配合した実施例5
と,オキサゾリドン環を含まない,一般に汎用されているエポキシ樹
脂にテトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂を配合した比較例
1(テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂とGY250(ビ
スフェノールA型エポキシ樹脂)との組合せ )(共に臭素含量21.
0重量%)を比較すると,表1にみられるように,双方ともV−0評
価となっているが,残炎時間の合計(t1+t2 ),残炎時間と残燼
時間の合計(t2+t3)が,前者では2秒,4秒であるのに対し,
後者では35秒,24秒であり,各々前者の17.5倍,6倍となっ
ており,前者では後者に対し極めて優れた難燃効果が発揮されている
ことが分かる。
c 実験証明書Ⅱ(甲8)
実験証明書Ⅱは,訂正明細書にはエポキシ樹脂組成物中の臭素含有
量については実施例1∼5で17.9∼21.0重量%の範囲での開
示しかないので ,エポキシ樹脂組成物中の臭素含有量が12重量%と,
31重量%の実験例を補充し,訂正発明1の臭素含有量のほぼ全範囲
において効果が発揮されることを一層明らかにするものである。
また,各エポキシ樹脂原料単独での難燃性等の各種データを補充し ,
訂正発明1の技術的優位性を一層明らかにするものである。
その結果,(A)オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂単独(比較実
験例1)やAER250単独(市販のビスフェノールA型エポキシ樹
脂;Br含量=0重量%,オキサゾリドン環濃度=0重量%)(比較
実験例3)の難燃性はクランプであるにもかかわらず,全臭素含量=
12重量%にした実験例2と同じ全臭素含量の比較実験例4を比較す
ると,(A)成分樹脂を併用した実験例2では,難燃性V−0でかつ
残炎時間,残燼時間も極めて良好であるが,(A)成分樹脂に代えて
オキサゾリドン環を含有しないAER250(市販のビスフェノール
A型エポキシ樹脂;Br含量=0重量%,オキサゾリドン環濃度=0
重量%)を併用した比較実験例4ではクランプであった。
すなわち,それ単独では難燃性はUL−94の評価外ランクの「ク
ランプ」(UL−94の難燃性試験評価は,「V−0 」「V−1」「V
, ,
−2」までで,クランプは支持クランプまで燃焼してしまう状態を示
し該評価外のものである。)であるオキサゾリドン環含有エポキシ樹
脂(A)に,高臭素型エポキシ樹脂(B )(Br含量=48.3重量
%)を配合して全臭素含量=12重量%にしたエポキシ樹脂組成物の
難燃性は,それ単独では難燃性はクランプであるAER250(市販
のビスフェノールA型エポキシ樹脂;Br含量=0重量%)に高臭素
型エポキシ樹脂(B)(Br含量=48.3重量%)を配合して全臭
素含量=12重量%にしたエポキシ樹脂組成物の難燃性「クランプ」
( )
と全く同じに「クランプ」であると推定されるところ,前者はUL−
94の試験評価の最高位のV−0である。
この結果からみて,実験証明書Iにおいて述べたと同様に,実験証
明書Ⅱにおいても難燃性において予期し得ない相乗効果が奏せられて
いることが分かる。
d 実験証明書Ⅲ(甲9)
実験証明書Ⅲには,難燃性が両者とも等しく クランプ」
「 である A)

成分樹脂単独(実験証明書Ⅱ;比較実験例1「樹脂組成物J」)と,
AER250単独(市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂;Br含
量=0重量%,オキサゾリドン環濃度=0重量% )(実験証明書Ⅱ;
比較実験例3)の各々の保持クランプまでの燃焼速度が同じ(14秒
/試料長さ)【表1】∼【表2】
( )であることが証明されている。
してみると,両者は保持クランプまでの燃焼速度が同じであること
からみて,両者の難燃性は同じくUL−94評価の分類外の低水準
( クランプ」
「 )にあり,かつ該「クランプ」内でも同程度であるとい
える。
すなわち,(A)成分樹脂単独は,オキサゾリドン環濃度0重量%
の市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂と同程度の難燃性しか有し
ないのである。
なお,以上のことから判断して,オキサゾリドン環はそれ単独では
何ら難燃性に寄与しないことが分かるから,希釈化されオキサゾリド
ン環濃度が低下したエポキシ樹脂の難燃性も該市販のビスフェノール
A型エポキシ樹脂と同程度に低いといえる。
そして,前記実験証明書ⅠないしⅢは,訂正発明1の難燃性等にお
ける相乗効果,若しくは当業者が予期し得ない格別顕著な効果を立証
するためのものであるから,訂正明細書(甲14)と一体となって理
解されるべきものであり,個々別々に分断して理解されるべき性質の
ものではない。
e 以上に述べた理由からみて,訂正発明1では,相違点2に係る構成
を採用したことにより,格別顕著な効果が奏せられることは明らかで
ある。したがって,審決における「相違点2に係る構成の採用による
格別顕著な効果は認められない 。」との判断は妥当でない。また,訂
正明細書に記載された前記実施例5と比較例1について,前記実験証
明書IないしⅢを一体として理解すれば,訂正明細書には,前記 A)

成分樹脂と(B)成分樹脂との併用について,難燃性の相乗効果が実
質的に記載されている,又は記載されているに等しいといえる。
よって,審決における「訂正明細書には難燃性の相乗効果を確認す
るに足る記載は存在しない。」との判断も妥当ではない。
(イ) 難燃性以外の相乗効果について
相違点2に係る構成の採用により,以下の(ろ)∼(ほ)の予期し得
ない効果が奏せられることは,訂正明細書の実施例1∼5と比較例1∼
3の対比,及び前記実験証明書Ⅱから読み取ることができるから,実質
上訂正明細書に記載されているといえる。
(ろ)銅箔剥離強度
実施例1∼5は比較例1,3と比較して,また前記実験証明書Ⅱの実
験例1∼2は比較実験例4に比べ,銅箔剥離強度(ピール強度)がいず
れも2kg/cm以上と予期し得ない程高い値を示しており,密着性に
優れている。
この理由は,オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂は,その構造中にカ
ルボニル基(−C=O基)を含有し,この基が金属表面の薄い酸化物層
と反応して新たな有機金属化合物を生成し,オキサゾリドン環含有エポ
キシ樹脂側と金属側 銅箔)
( との接着強度を強くするものと推認される。
(は)ハンダ耐熱性
実施例1∼5は比較例1∼3と比較して,また前記実験証明書Ⅱの実
験例1∼2は比較実験例4に比べ,ハンダ耐熱性は,予期し得ない程の
値を示しており優れている。
(に)ワニス貯蔵安定性
実施例1∼5は比較例1∼3と比較して,また前記実験証明書Ⅱの実
験例1∼2は比較実験例4に比べ,ワニス貯蔵安定性(40℃×14日
の条件下)がいずれも良くなっており,ワニス粘度変化が1.34倍以
下である。
この理由は,オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の構造中のカルボニ
ル基(−C=O基)の存在により,エポキシ基と硬化剤との反応が抑制
されて,ワニス貯蔵中でも反応による粘度上昇が抑えられ,また,プリ
プレグ保管中も反応によるゲルタイムが短縮することなく保持されると
推認される。
(ほ)ガラス転移温度
実施例1∼5は比較例1∼3と比較して,また前記実験証明書Ⅱの実
験例1∼2は比較実験例4と比べ,いずれよりも10℃以上改善されて
いる。
したがって,前記(A)成分樹脂の優れた前記(ろ)∼(ほ)の特性
が略維持されており,その低下傾向がより緩やか(すなわち,「損われ
ることがない」)という予測し得ない効果は,実質上訂正明細書に記載
されているといえる。
よって,審決がこれら効果が訂正明細書に記載がないとし,またその
効果を認めることができないとした判断は妥当ではない。
ウ 取消事由3(訂正発明2についての判断の誤り)
訂正発明2も上記と同じ理由で,刊行物1ないし5の発明に基づいて当
業者が容易に発明し得たものではなく,特許出願の際独立して特許を受け
ることができるものである。
したがって,審決の判断は妥当ではない。
2 請求原因に対する認否
請求の原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認める。同(4)は争う。
3 被告の反論
(1) 取消事由1(相違点2に関する判断の誤り)に対し
ア 審決で ,臭素含有エポキシ樹脂の配合を容易とした根拠は,刊行物2に,
臭素含有エポキシ樹脂を配合することにより,各種エポキシ樹脂に難燃性
を付与することが記載されているからである。
審決では,原告が刊行物2に記載されていると主張する,エポキシプリ
プレグにおいて ,表面層樹脂と中心層樹脂の臭素含有量に高低差を設けて,
難燃性と高温接着力およびハンダ耐熱性とを両立させる発明 技術的思想)

に関し,刊行物2の記載事項として引用しておらず,判断の根拠ともして
いない。したがって,刊行物2に上記の発明が記載されていることは,審
決の判断とは無関係である。
また,原告主張の各種効果を期待し,またはその効果の両立を図るため
に相違点2に係る構成を採用することが,刊行物2に記載若しくは示唆さ
れている旨の判断を審決では行っていない。
イ 刊行物2の第2頁左上欄第16行∼第2頁右上欄第3行は,審決で引用
した箇所であり,その記載は,審決で述べたとおり「本発明で云うエポキ
シ樹脂としては一般に公知の・・・等である 。」とのものである。ここに
は,刊行物2において,難燃性を付与する対象が汎用の一般的なエポキシ
樹脂だけであるとの記載は存在しない 。また, 等である 。 との記載から,
「 」
同箇所に記載された一般に公知のエポキシ樹脂は,単なる例示にすぎない
ことが分かる。しかも,この例示されたエポキシ樹脂は,ビスフェノール
A型,レゾルシン型,テトラヒドロキシフェニルエタン型,ノボラック型,
ポリアルコール型,ポリグリコール型,グリセリンポリエーテル型,ポリ
オレフィン型,脂環型と各種の構造のものである。このように構造の異な
る各種のエポキシ樹脂が例示されているのであるから,当業者であれば,
難燃性を付与する対象が任意のエポキシ樹脂であることを認識できるはず
である。
したがって,汎用であるか否かを問題にする原告の主張は失当である。
(2) 取消事由2(訂正発明1についての顕著な効果の認定・判断の誤り)に
対し
ア(ア) 訂正明細書(甲14)には,相違点2に係る構成を採用したことに
基づく,格別顕著な効果を確認するに足る記載は存在しない。このこと
は,以下に摘記するように,審決5頁第17∼23行に記載したとおり
である。
「 1) A)成分と(B)成分の併用について,訂正明細書の段落【0
( (
017 】 「適量のオキソザリドン環とハロゲン基を含むことにより,
には
驚くべき難燃性の相乗効果を発揮し」と記載され,また,段落【005
2】には「本発明樹脂組成物は,(B)成分樹脂にハロゲンを有するた
め難燃性の効果が高く,さらに(A)成分樹脂に含まれるオキサゾリド
ン環により難燃性に相乗効果が発揮される 。」と記載されているが,訂
正明細書には難燃性の相乗効果を確認するに足る記載は存在しない 。」
原告は,訂正発明1について ,(A)イソシアネート化合物とグリシ
ジル化合物を等量比1:1.1∼1:10の範囲でオキサゾリドン環形
成触媒の存在下で反応させてなるオキサゾリドン環を含むエポキシ樹脂
と,(B)臭素含有量が30∼52重量%である臭素含有エポキシ樹脂
との特定の組合せを採用し,かつその組合せを特定割合で行うことによ
り,ハンダ耐熱性,銅箔剥離強度,ワニス貯蔵安定性,ゲルタイム保存
率(プリプレグ貯蔵安定性),ガラス転移温度(Tg)において一定水
準以上の性能をバランスして維持しつつ,
特に難燃性において相乗効果 ,
あるいは当業者が予期し得ない格別顕著な効果を奏するものであると述
べている。
(イ) しかしながら,発明の作用効果については,その作用効果の裏付け
となる記載が存在することが必要不可欠であるところ,訂正明細書(甲
14)をみると,難燃性の相乗効果に関しては以下の記載がある。
「 0017】すなわち,本発明組成物は,オキサゾリドン環の導入に

より優れた強靱性と貯蔵安定性を有し,適量のオキサゾリドン環及びエ
ポキシ基を含むことにより,耐熱性や金属回路との密着性に優れ,かつ
適量のオキソザリドン環とハロゲン基を含むことにより,驚くべき難燃
性の相乗効果を発揮し,かつ,その結果,ハロゲン含有量の低減が可能
となり,耐熱性を有するとともに,特定の性状により絶縁性,耐水性に
優れた組成物を提供するものである。
【0025】用いるイソシアネート化合物が所定量より少ないと,オキ
サゾリドン環の量が少なくなり,耐熱性の改善効果が低下したり,貯蔵
安定性の向上ができなくなるほか,後述するハロゲン含有エポキシ樹脂
との難燃性の相乗効果が発揮できなくなり,組成物のハロゲン含有量の
低減ができなくなる。・・・
【0052】これら(A) (B) 成分樹脂は,夫々1種単独または2

種以上を組み合わせて使用される。本発明樹脂組成物は,(B)成分樹
脂にハロゲンを有するため難燃性の効果が高く,さらに(A)成分樹脂
に含まれるオキサゾリドン環により難燃性に相乗効果が発揮される 。」
(ウ) しかしながら,訂正明細書の作用効果に関する裏付けとして挙げら
れたものは,実施例1∼5,比較例1∼3,及び参考例4,5であるが,
難燃性について記載されているものは実施例1∼5,及び比較例1∼3
のみである。
そして,訂正明細書における実施例1∼5,及び比較例1∼3の難燃
性の程度は,いずれもUL規格でV−0であるから,実施例と比較例の
難燃性の程度は同一であって,両者は全く区別できない。
しかも,実施例1∼5及び比較例1∼3は難燃性の相乗効果を確認す
るための対比実験を構成していない。
したがって,「難燃性の相乗効果」なるものは訂正明細書において裏
付けられていない。
原告が難燃性の相乗効果を訂正発明1の中心的な効果として位置付け
ているにもかかわらず,その裏付けとなる記載は訂正明細書に全く存在
しない。
イ(ア) 原告は,実験証明書Ⅰ,実験証明書Ⅱ及び実験証明書Ⅲを提出して,
実験証明書Ⅰ∼Ⅲは,訂正発明1の難燃性等における相乗効果,若しく
は当業者が予期し得ない格別顕著な効果を立証するとしているが,そも
そも,訂正発明1の難燃性における相乗効果,若しくは当業者が予期し
得ない格別顕著な効果なるものは訂正明細書に裏付けられていないので
あるから,かかる立証手段を認めることは特許法が採用する先願主義に
反することであり,容認されるものではない。
しかも,実験証明書Ⅰ∼Ⅲをみても,難燃性の相乗効果は認められな
い。このことは審決で述べたとおりである。
(イ) 実験証明書Ⅰ∼Ⅲを考慮しても,難燃性の相乗効果が確認できない
点につき
相乗効果について,審決では以下のとおり判断した(5頁29行∼3
2行)。
「 相乗効果」とは,ある物質を単独で用いた場合に比べて,2種以上

の物質を併用した場合の効果が著しく向上した場合の効果をいう(該項
における「作用」の文字を「効果」に置き換えたものが「相乗効果」で
ある)」

上記判断に続いて,審決では,「したがって,(A)成分と(B)成分
を併用した場合に難燃性の相乗効果が発揮されている,と言えるために
は, A)成分の単独使用の難燃効果, B)成分の単独使用の難燃効果,
( (
(A)成分と(B)成分を併用した場合の難燃効果を対比して ,(A)
成分と(B)成分を併用した場合の難燃効果が ,(A)成分の単独使用
の難燃効果と(B)成分の単独使用の難燃効果のいずれよりも著しく向
上していることが立証されなければならない。(5頁32行∼37行)

と判断した。
a 原告は,該樹脂組成物におけるオキサゾリドン環と臭素の併用にお
ける相乗効果を検証するには,その低下したオキサゾリドン環濃度を
有するエポキシ樹脂(以下,単に(a)成分樹脂という。)と,その低下
した臭素濃度を有するエポキシ樹脂(以下,単に(b)成分樹脂という。)
とを,対比のための各々の単独の樹脂としなければ合理的な検証はで
きないと述べ,オキサゾリドン環と臭素の併用における相乗効果を主
張している。しかし,併用されているのは(A)成分と(B)成分で
あり,オキサゾリドン環と臭素ではない。相違点2について審決で判
断したのは, A)成分に(B)成分を併用することの容易性であり,

オキサゾリドン環に臭素を併用すること(つまり,基と基の併用)の
容易性ではない。
b また,訂正発明1における A)
( 成分はオキサゾリドン環を含むが,
臭素含量の特定はないから,臭素も含み得る 。(B)成分は,臭素を
含むが,オキサゾリドン環量の特定はないから,オキサゾリドン環も
含み得る。したがって ,(A)成分と(B)成分の併用により,臭素
含量やオキサゾリドン環含量が希釈するとは限らない。したがって,
基が希釈されることを前提としての主張自体が失当である。
c 原告は,上記のとおり低下したオキサゾリドン環濃度を有するエポ
キシ樹脂と,その低下した臭素濃度を有するエポキシ樹脂とを,対比
のための各々の単独の樹脂としなければ合理的な検証はできないと述
べているが,このような手法で相乗効果の判断ができないことは上記
の相乗効果の定義から明らかである。しかも,原告は(a)成分樹脂や
(b)成分樹脂を作成するのに希釈用の樹脂を配合するとしているが,
希釈用の樹脂の選択により(a)成分樹脂や(b)成分樹脂の難燃性が変
化し,その結果,相乗効果の有無の判断が変化することになる。この
ような,判断手法は,科学的な合理性がない。
d 実験証明書Iに関する原告の主張に対する反論
審決第6頁第1∼27行に記載のとおりであり,原告は,(A)成

分+(B)成分」の難燃効果が ,「ビスフェノールA型エポキシ樹脂
+(B)成分」の難燃効果よりもわずかに優れていることを,本件出
願後に確認したにすぎない。訂正明細書では,両者を共にV−0とし
ており,効果上の相違は示していない。
審決では,「ビスフェノールA型エポキシ樹脂+(B)成分」を引
用例としているのではないから,(A)成分+(B)成分」の効果と

「ビスフェノールA型エポキシ樹脂+(B)成分」の効果とを対比し
ても無意味である。(A)成分+(B)成分」の難燃効果と「ビスフ

ェノールA型エポキシ樹脂+(B)成分」の難燃効果を対比しても,
(A)成分と(B)成分の併用による相乗効果が確認できないことは
いうまでもない。
e 実験証明書Ⅱに関する原告の主張に対する反論
審決第6頁第28行∼第7頁第9行に記載したとおりであり,審決
に示したとおり,実験証明書Ⅱからは,相乗効果がないことも立証さ
れる。原告は,オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂(A)に,高臭素
型エポキシ樹脂(B)(Br含量=48.3重量%)を配合して全臭素
含量=12重量%にしたエポキシ樹脂組成物の難燃性は,それ単独で
は難燃性はクランプであるAER250(市販のビスフェノールA型
エポキシ樹脂;Br含量=0重量%)に高臭素型エポキシ樹脂 B)
( (B
r含量=48.3重量 %)を配合して全臭素含量=12重量 %にした
エポキシ樹脂組成物の難燃性(「クランプ」)と全く同じに「クランプ」で
あると推定されると主張しているが,この推定には何の根拠もない。
エポキシ樹脂の難燃性は,エポキシ樹脂毎に異なるはずであり,また,
高臭素型エポキシ樹脂の併用による難燃化効果の向上の程度も,エポ
キシ樹脂毎に異なるはずであるからである。
そして,上記d同様,(A)成分+(B)成分」の効果と「ビスフ

ェノールA型エポキシ樹脂+(B)成分」の効果を対比して主張した
ところで,審決に対しては無意味であるし,この対比から相乗効果が
確認できるものでもない。
f 実験証明書Ⅲに関する原告の主張に対する反論
実験証明書Ⅲについては,審決の第7頁第10行∼18行のとおり
であり,原告は,実験証明書Ⅲを原告主張の相乗効果判断の基礎とし
て主張しているが,原告主張の相乗効果判断の手法が誤りであること
は上記のとおりであるから,実験証明書Ⅲは相乗効果の立証の点で意
味を持たない。
原告は,オキサゾリドン環はそれ単独では何ら難燃性に寄与しない
ことが分かるから,希釈化されオキサゾリドン環濃度が低下した前記
(a)成分樹脂の難燃性も該市販のビスフェノール A 型エポキシ樹脂と
同程度に低いといえる,と述べている。
この主張は,要するに「 A)成分+X樹脂(希釈のための任意の

樹脂)」の難燃性が市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂の難燃性
と同程度であるというものである。しかし,市販のビスフェノールA
型エポキシ樹脂には各種のものがあり,そのいずれもが同じ難燃性と
は限らない。また,仮に,(A)成分の難燃性と市販のビスフェノー
ルA型エポキシ樹脂の難燃性とが同程度であるとしても,併用系の難
燃性は併用使用されたX樹脂自体の難燃性によって変化するし,併用
そのものが難燃性の向上や低下をもたらす場合もある。したがって,
「 A)成分+X樹脂(希釈のための任意の樹脂)
( 」の難燃性が市販の
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の難燃性と同程度であるなどとは到
底いえない。
仮にいえたとしても,そのことにより相乗効果があることにはなら
ないことは上記のとおりである。
g その他
実験証明書Iにおける実施例5と比較例1について,審決は「相違
点2に係る構成の採用による効果を立証するためには,相違点2に係
る構成の有無のみが相違する対比実験を行う必要があるが,実施例5
と比較例1は,このような対比実験に相当しない。(6頁23行∼2

5行)との判断を示した。これは,単に,実施例5と比較例1が,こ
のような対比実験に相当しないことを述べたのである。相違点2に係
る構成の有無のみが相違する対比実験が各実験証明書等のどこにもな
いなどとは述べていない。原告は,相違点2に係る構成の有無のみが
相違する対比実験が別の箇所で行われているから,上記判断は妥当で
はない旨の主張をしているが,失当である。
上記のとおりであり,訂正明細書と実験証明書I∼Ⅲをすべてを一
括して検討しても, B)
( 成分単独の場合に比較して, A)
( 成分と B)

成分を併用した場合の難燃性が優れることを示す実験データはどこに
もない。したがって,相乗効果があるとはいえない。それどころか,
実験証明書Ⅱでは相乗効果がないことが立証されている。
(ウ) 相違点2に係る構成の採用により,(ろ)銅箔剥離強度,(は)ハン
ダ耐熱性,(に)ワニス貯蔵安定性,及び(ほ)ガラス転移温度におい
て予期し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえない点につき
原告は,相違点2に係る構成の採用による効果が,実施例1∼5と比
較例1,3を対比して,また実験証明書Ⅱの実験例1∼2と比較実験例
4を対比して読み取ることができる旨の主張をしている。
ところで,相違点2に係る構成の採用による効果は, A)
( 成分と B)

成を併用した場合の効果と,(A)成分の単独使用の場合の効果を対比
して初めて明らかとなる。
ところが,比較例1,3と比較実験例4は,(A)成分以外のエポキ
シ樹脂と(B)成分を併用する例であり,(A)成分を使用するもので
はない。したがって,原告主張の対比からは,相違点2に係る構成の採
用による効果を示すことはできない。
また,原告は,相違点2に係る構成の有無のみが相違する対比実験と
して,実験証明書Ⅱの比較実験例1と,同証明書の実験例1,2を主張
している。
しかし,実験証明書Ⅱは,出願後になされた実験であり,そのような
実験に基づき本件発明の効果を主張することは,それ自体認められるべ
きではない。
しかも,上記比較実験例1と,実験例2を,実験証明書Ⅱの表2(第
5頁)で対比すると,難燃性以外は前者が優れている。したがって,相
違点2に係る構成の採用による効果は難燃性の向上以外は存在しない。
そして ,(B)成分の配合による難燃性の向上効果は,刊行物2から予
測できるものにすぎない。
さらに,原告は,実験証明書Ⅱに基づき,ビスフェノールA型エポキ
シ樹脂に高臭素型樹脂をブレンドすると,ビスフェノールA型エポキシ
樹脂単独の場合に比較して,(ろ)∼(に)は低下し(ほ)は同程度で
あるから,実験例2でも同様の傾向が予測されるのに,比較実験例1と ,
実験例2を対比すると,(ろ)∼(ほ)の特性が略維持されており,そ
の低下傾向がより緩やかであり,この点において予測できない効果が奏
されていると解すべきである,と主張している。
この原告の主張も,新たな効果の主張であるから,認められるべきで
はない。しかも,審決では,ビスフェノールA型エポキシ樹脂に高臭素
型樹脂をブレンドした発明を引用発明としているのではないから,それ
と対比した効果を主張しても,審決に対する主張として無意味である。
(エ) まとめ
上記のとおりであり,相違点2に基づく格別顕著な効果は存在せず,訂
正発明1を刊行物1∼5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発
明をすることができたものであるとした審決の判断に誤りはない。
(3) 取消事由3(訂正発明2についての判断の誤り)に対し
訂正発明1に対する原告の主張が失当であることは上記のとおりであるか
ら,訂正発明2に対する,原告の主張もまた失当である。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯) 2)(訂正審判請求の内容 )
,( ,
(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,原告主張の取消事由について,以下順次判断する。
2 取消事由1(相違点2に関する判断の誤り)について
(1) 原告は,刊行物2には,難燃性と高温接着力及びハンダ耐熱性とを両立
させるために,表面層樹脂と中心層樹脂の臭素含有量に高低差を設けること
が記載されるだけで,その両立を図るために臭素含有エポキシ樹脂を,特定
官能基を有するエポキシ樹脂と混合することは記載も示唆もされていないか
ら,審決における刊行物2の認定及び相違点2の判断は誤りである旨主張す
る。
(2) しかしながら,以下に述べる次第により,原告の上記主張は採用するこ
とができない。
ア 刊行物2(甲3)には,審決が引用した記載に加えて,以下の記載があ
る。
①「従来,エポキシプリプレグに難燃性を付与する方法としては,ハロ
ゲンを含むエポキシ樹脂または硬化剤が用いられる。この場合,その難燃
度はハロゲンの含有率が高いものほど優れていることは周知である。しか
し,プリント回路板においては,こうしたハロゲンを含むエポキシ樹脂ま
たは硬化剤を使用することによって難燃性は向上するが,回路銅箔との高
温(260℃付近)接着力およびハンダ耐熱性が低下し,基板と回路銅箔
が剥れ易くなったり,接着界面でふくれを生じたりするという大きな欠点
があった。上記の欠点は単にプリント回路板だけの問題でなく,同時に組
込まれた部品も使えなくなるために,その解決は重大な課題であった。」
(1頁右下欄6行∼19行)
②「難燃性を付与するものとしては臭素の他に塩素があるが難燃性の上
からは塩素よりも臭素の方が効果が大きい。(2頁左上欄第12行∼14

行)
③「本発明で云うエポキシ樹脂としては一般に公知のビスフエノールA
型エポキシ樹脂・・・等である 。(2頁左上欄16行∼右上欄3行)

④「上記エポキシ樹脂に難燃性を与えるハロゲン原としては,例えば臭
素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂,臭素化ノボラック型エポキシ樹脂
などを用いる・・・」(2頁右上欄7行∼10行)
イ 上記ア①∼④によれば,臭素含有エポキシ樹脂を配合することにより公
知の各種のエポキシ樹脂に対し難燃性が付与されることが記載され,さら
に,臭素含有エポキシ樹脂の臭素は,臭素含有エポキシ樹脂が配合される
エポキシ樹脂組成物において,難燃性の向上に寄与するものの,ハンダ耐
熱性を低下させることが記載されている。
したがって ,「刊行物1の発明において,臭素含有エポキシ樹脂を配合
してエポキシ樹脂組成物を難燃化することは容易である」(審決4頁下1
行∼5頁1行)「好適な難燃性とハンダ耐熱性のバランスを考慮して,臭

素含有エポキシ樹脂の臭素量を定めることは容易である・・・臭素含有量
を30∼52重量%とすることも容易である」(審決5頁5行∼10行),
「 A)成分と(B)成分の配合割合は,難燃化の程度や ,
( (A)成分の特
性の発現の程度を考慮して,適宜決定できるものと認められるから, A)

成分と(B)成分の重量比を20∼80:80∼20とすることは容易で
ある」(審決5頁11行ないし14行)とした審決の判断に誤りはない。
ウ 原告が「刊行物2には,難燃性と高温接着力及びハンダ耐熱性とを両立
させるために,表面層樹脂と中心層樹脂の臭素含有量に高低差を設けるこ
とが記載される」と主張する刊行物2の記載は,その特許請求の範囲に記
載された発明及びそれに関連する記載に基づくものであり,原告主張はこ
れらの記載に基づいて審決の認定が誤りであるというものである。
しかし,審決が刊行物2から引用した技術的事項は,上記のとおり臭素
含有エポキシ樹脂を各種エポキシ樹脂に配合することによりエポキシ樹脂
の難燃性を改善する手段であって,刊行物2の特許請求の範囲に記載され
た発明そのものを引用したのではなく,また,その発明を刊行物1記載発
明と組み合わせて判断しているものでもない。そして,刊行物2の記載に
基づいて容易であるとした審決の判断に誤りのないことは上記のとおりで
ある。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ 原告は,上記ア②の記載によれば,刊行物2で臭素化エポキシ樹脂で難
燃性を付与する対象は汎用の一般的なエポキシ樹脂のみを意味するから,
オキサゾリドリ環という特定の官能基を有する(A)成分のエポキシ樹脂
を選択する必然性はないと主張する。
しかし,刊行物2の上記ア③には,「一般に公知の 」(2頁左上欄16行
∼17行)とした上,構造の異なる各種のエポキシ樹脂が具体的に例示さ
れており,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有
する者)であれば,公知の各種エポキシ樹脂が適用対象になり得ると認識
できるというべきであり,刊行物2において難燃性を付与する対象は汎用
の一般的なエポキシ樹脂のみに限定されるものとは認められない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
3 取消事由2(訂正発明1についての顕著な効果の認定・判断の誤り)につい

(1) 難燃性の相乗効果につき
ア 原告は,訂正明細書(甲14)の【0017 】 【0025 】 【005
, ,
2】に「難燃性の相乗効果」の記載があることに加え,【0015】 【0

084 】 【0129】
, ,実施例1∼5の記載を挙げて,本件訂正発明1は
難燃性の相乗効果の点で顕著な作用効果を奏するものであるから,審決の
「相違点2に係る構成を採用したことに基づく,格別顕著な効果は認めら
れない 」(審決5頁15∼16行)とした認定判断は誤りであると主張す
る。
イ ところで,訂正明細書(甲14)には,難燃性等の作用効果に関して以
下の記載がある。
(ア)「 0007】また近年,安全性の観点から,広い産業分野において

樹脂素材として ,難燃性のあるエポキシ樹脂が使用されている 。一般に ,
難燃効果を発揮するためには,臭素が樹脂当たり20重量%必要とされ
ており,従って,通常は,臭素含有量20∼25重量%の低臭素型エポ
キシ樹脂が使用されてきたが,これら低臭素型エポキシ樹脂は,難燃性
や密着性に優れているものの,耐熱性が低いという欠点がある 。」
(イ)「 0008】そのため,耐熱性を改善する目的で,低臭素型エポキ

シ樹脂にノボラック型エポキシ樹脂を一部添加することが行われてい
る。しかし,これらの添加は樹脂素材の強度を低下させる傾向にあるば
かりか,組成物の可使時間をも短縮させるので,難燃性を保つための臭
素含有量を維持する必要上,その添加量は制限され,結果として耐熱性
も十分ではない。」
(ウ)「 0009】また,難燃性を高める手段として,テトラブロモビス

フェノールA型エポキシ樹脂や臭素化フェノールノボラック型エポキシ
樹脂等の高臭素型エポキシ樹脂が添加される場合があるが,耐熱性の改
善には殆ど無力である。」
(エ)「 0010】例えば,積層板用途においては,LSI等の電子部品

搭載の際にハンダ浴に浸漬され,積層板上の金属回路と電子部品が接続
されるが,この際,エポキシ樹脂の臭素含有量を多くすると臭素が遊離
する等の問題を生じ,金属箔にフクレ等が生じるなどのいわゆるハンダ
耐熱性が低下する。」
(オ)「 0011】ハンダ耐熱性の改善のために,臭素含有量を低減すれ

ば良いが,難燃性を発揮するために臭素含有量20重量%程度を必要と
し,この組成で使用されていた。積層板の耐熱性を改良するための例と
して,特公昭52−31000号公報には,多官能エポキシ化合物と多
官能イソシアネート化合物から得られる樹脂組成物を記載した例があ
る。」
(カ)「 0015】

【発明が解決しようとする課題】本発明は ,このような事情のもとで,
耐熱性,強靱性,貯蔵安定性及び,必要あれば難燃性のいずれにも優れ
た,信頼性の高いエポキシ樹脂組成物を提供するものである。」
(キ)「 0017】すなわち,本発明組成物は,オキサゾリドン環の導入

により優れた強靱性と貯蔵安定性を有し,適量のオキサゾリドン環及び
エポキシ基を含むことにより,耐熱性や金属回路との密着性に優れ,か
つ適量のオキソザリドン環とハロゲン基を含むことにより,驚くべき難
燃性の相乗効果を発揮し,かつ,その結果,ハロゲン含有量の低減が可
能となり,耐熱性を有するとともに,特定の性状により絶縁性,耐水性
に優れた組成物を提供するものである 。」
(ク)「 0025】用いるイソシアネート化合物が所定量より少ないと,

オキサゾリドン環の量が少なくなり,耐熱性の改善効果が低下したり,
貯蔵安定性の向上ができなくなるほか,後述するハロゲン含有エポキシ
樹脂との難燃性の相乗効果が発揮できなくなり,組成物のハロゲン含有
量の低減ができなくなる。また,所定量より多いと耐水性が低下する。」
(ケ)「 0052】これら(A ) (B)成分樹脂は,夫々1種単独または
【 ,
2種以上を組み合わせて使用される。本発明樹脂組成物は ,(B)成分
樹脂にハロゲンを有するため難燃性の効果が高く,さらに(A)成分樹
脂に含まれるオキサゾリドン環により難燃性に相乗効果が発揮される。
上記ハロゲンは,難燃性効果を発揮する点から臭素が好ましい 。」
(コ)「 0064】つぎに, B)成分が添加される。 A)成分樹脂と(B)
【 ( (
成分樹脂の重量比は,難燃性の観点からは,5∼95:95∼5であり,
好ましくは10∼90:90∼10,より好ましくは20∼80:80
∼20,更に好ましくは30∼70:70∼30,中でも40∼60:
60∼40が好ましい。なぜならば,(A)成分樹脂が所定の量より多
いと難燃性が低下し,所定の量より少ないと耐熱性が低下するからであ
る。」
(サ)「 0084】このようにして得られたオキサゾリドン環を含むエポ

キシ樹脂(A),ハロゲン含有エポキシ樹脂(B),および硬化剤(C)
からなる組成物は,耐熱性,および強靱性のいずれをも必要とし,さら
に難燃性,貯蔵安定性をも有するエポキシ樹脂組成物として好適に使用
される 。」
(シ) そして ,【0119 】【表7】 【0120 】
, 【表8】には,実施例1
∼5と比較例1∼3の試験結果が記載されており,臭素含有量 wt% )

については,実施例が17.9∼21.0,比較例が21.0であり,
難燃性 UL−94)
( については,上記実施例及び比較例のいずれも V

−0」である。
また,銅箔剥離強度(kg/cm)については,上記実施例が2.0
5∼2.23,上記比較例が0.95∼2.20と,Tg(ガラス転移
温度,℃)については,上記実施例が145∼152,上記比較例が1
22∼135と,ワニスの貯蔵安定性(倍)については,実施例が1.
04∼1.34,比較例が1.36∼3.20と,プリプレグのゲルタ
イム保存率(%)については,実施例が85∼94,比較例が68∼8
4と,ハンダ耐熱性については,290℃/30秒の試験条件では,実
施例が「〇 」(フクレなし),比較例が「△」(フクレ面積10%未満)
又は「×」(フクレ面積10%以上),という結果が示されている。
(ス)「 0128】実施例のいずれの樹脂も臭素含有量が18%でV−0

を達成している。ハンダ耐熱性についても,いずれも比較例よりも良好
な結果を得ている。」
(セ)「 0129】このように,本発明樹脂組成物は,積層板用樹脂組成

物,封止剤用樹脂組成物として耐熱性,難燃性,貯蔵安定性のすべてに
優れた性能を有していることが判る。」
ウ 一方,甲10,甲21によれば,「相乗効果」の一般的な定義として次
のような記載がある。
「ある物質を単独で用いた場合に比べて,2種以上の物質を併用した場
合の効果が著しく向上した場合の作用をいう」(甲10,共立出版「化学
大辞典5」498頁。ただし,「相乗作用」についての説明。,また「複

数の公知発明を寄せ集めた発明であっても,寄せ集めた各々の発明の果
たす効果を単に寄せ集めた以上の効果を奏することを指す。進歩性のあ
る発明の一類型である 。 (甲21,三省堂「知的財産権辞典」319頁

〔相乗効果〕,594頁〔寄せ集め〕)
エ 訂正明細書についての検討
(ア) 訂正明細書【0007】∼【0011】によれば,エポキシ樹脂
において難燃性を発揮するためには臭素含有量が20重量%程度を必
要とするが,臭素含有量を多くするとハンダ耐熱性が低下する。それ
に対し,訂正発明1は,同明細書【0017】【0025】【005
・ ・
2】記載のように,適量のオキサゾリドン環とハロゲン基(臭素)を
含むことにより,難燃性の相乗効果を発揮し,その結果,ハロゲン含
有量の低減が可能となり,耐熱性を有する樹脂組成物としたものであ
る。
しかし,訂正明細書の上記記載( 0017 】【 0025 】【00
【 ・ ・
52】)によれば,オキサゾリドン環が含まれる(A)成分と,臭素を
含む(B)成分とを併用したことにより,難燃性の相乗効果を奏する
と記載されるだけである。
また,同【0119】及び【0120】には,訂正発明1に該当す
る実施例1∼5と,訂正発明1の範囲外である比較例1∼3とを対比
した試験結果が記載されているが,難燃性については,いずれもUL
−94規格で最も優れた評価である「V−0」を示しており,実施例
1∼5と比較例1∼3とを区別することができない。
したがって,訂正明細書に記載された難燃性の相乗効果は,上記ウ
の一般的定義に対応したものであるのか明らかではない。
(イ) また,訂正発明1は,上記第3,1,(2),イの請求項1に記載さ
れているように,(A)成分と(B)成分とを併用したエポキシ樹脂組
成物であって,相違点2に係る構成は(B)成分を配合する点にある
から,上記ウの相乗効果の一般的定義によれば,訂正発明1のエポキ
シ樹脂組成物において相違点2に係る構成により難燃性の相乗効果が
あるというためには,(A)成分と(B)成分とを併用した場合の難燃
性を,(A)成分を単独使用した場合の難燃性と(B)成分を単独使用
した場合の難燃性とそれぞれ対比する必要がある。
しかるに,訂正明細書には,上記のとおり,単に相乗効果があると
記載されるだけである。また,訂正明細書の実施例及び比較例には,
いずれも同程度に優れた難燃性が示されている。
そうすると,訂正明細書において難燃性の相乗効果を裏付ける具体
的な記載に欠けることは明らかである。
オ なお,実験証明書Ⅰ∼Ⅲについて原告は,対比の対象となる(A)成
分単独,及び(B)成分単独の各樹脂組成物について,審決はその選定
を誤っている,すなわち,訂正発明1のような樹脂組成物においては,
(A)成分と(B)成分を併用(ブレンド)すると,各成分は互いに希
釈し合い,(A)成分のオキサゾリドン環濃度も(B)成分の臭素濃度も
低下するから,当該樹脂組成物におけるオキサゾリドン環と臭素の併用
における相乗効果を検証するには,ブレンドにより低下したオキサゾリ
ドン環濃度を有するエポキシ樹脂( a)成分樹脂)と,ブレンドにより

低下した臭素濃度を有するエポキシ樹脂( b)成分樹脂)とを,各々の

単独の樹脂として対比しなければ合理的な検証はできないと主張する。
しかし,訂正発明1において併用される配合成分は, A)成分と(B)

成分の各樹脂であるから,上記の相乗効果の一般的定義に基づけば,訂
正発明1の(A)成分と(B)成分とを併用した樹脂組成物において相
違点2に係る構成による難燃性の相乗効果を確認するためには ,(A)成
分と(B)成分をそれぞれ単独で使用した場合の難燃性と対比しなけれ
ばならない。
そうすると,原告が主張する,併用により低下したオキサゾリドン環
濃度又は臭素濃度を有する樹脂を対比の対象として選定することは,上
記の相乗効果の一般的定義に沿ったものとはいえないし,そのような対
比から相対的に優れた難燃性効果が得られたとしても,それをもって相
乗効果を奏するといえないことは明らかである。
よって,原告の上記主張は採用することができない。
カ また原告は,実験証明書Ⅱにおける「実験例2」の難燃性の相乗効果
を知るには,臭素含有量12%でオキサゾリドン環を有しないエポキシ
樹脂である「比較実験例4」と対比しなければならないと主張し,両者
を対比した結果から,(A)成分と(B)成分とを併用した相乗効果を知
ることができると主張する。
しかし,訂正発明1は,(B)成分が臭素含有量30∼52重量%であ
る臭素含有エポキシ樹脂であって,(A)成分と(B)成分を20∼80
:80∼20の重量比で混合したエポキシ樹脂組成物であるから,樹脂
組成物における臭素含有量は12%に限定されたものではない。
そして,実験証明書Ⅰ,Ⅱによれば,臭素含有量が21%以上の樹脂
組成物の場合,(A)成分を併用しても,それ以外の汎用樹脂を併用して
も,いずれも「V−0」の難燃性が得られている。すなわち(A)成分
以外と(B)成分との併用によっても優れた難燃性が得られている。
そうすると,臭素含有量12%において,(A)成分と(B)成分との
併用により優れた難燃性が得られたとしても,それをもって相違点2に
係る構成により難燃性の相乗効果を立証したものとはいえない。
したがって,原告が主張する対比は相乗効果を裏付けるものではない。
キ さらに原告は,甲21(三省堂「知的財産権辞典」 には, 寄せ集め 」
) 「
について ,「複数の公知の発明によって構成されている発明を指す。多く
の発明は,寄せ集め発明であるということもできるが,単なる寄せ集め
であって,各々の発明の果たす効果以上の効果を果たさない(相乗効果
のない)発明は,進歩性が否定される。進歩性なき発明の一類型である 。」
(594頁)と記載されているところ,第1の公知発明には,刊行物1
発明が相当し,第2の公知発明には,「臭素含有エポキシ樹脂の配合によ
り各種エポキシ樹脂に難燃性を付与すること」が相当し,訂正発明1は,
第1及び第2の公知発明を寄せ集めたものであり,各公知発明の難燃性
と対比し,いずれの公知発明よりも難燃性が優れていれば,甲21で定
義される単に寄せ集めた以上の効果である「相乗効果」を奏することに
なるところ,第1の公知発明である「比較実験例1」の難燃性は「クラ
ンプ」であり,また,第2の公知発明である「比較例1」及び「比較実
験例4」よりも,それらに対応する本件訂正発明1の「実施例5」及び
「実験例2」の難燃性は格段に優れているから,本件訂正発明1の難燃
性の相乗効果が立証されている,と主張する。
しかし,甲21の定義に基づいて相乗効果の意味を解したとしても,
(A)成分単独,(B)成分単独,(A)成分及び(B)成分併用,の3
者について対比する必要がある点では甲10 共立出版 化学大辞典5」
( 「 )
の定義によるものと変わりはない。
また,原告は,第2の公知発明として「臭素含有エポキシ樹脂の配合
により各種エポキシ樹脂に難燃性を付与すること」が相当すると主張す
るが,本件の相乗効果を確認する場合,第2の公知発明に「臭素含有エ
ポキシ樹脂」を対応させることもできるから,原告の主張はその前提に
おいて失当である。
しかも ,併用による難燃性の相乗効果は, A)
( 成分単独の場合又は B)

成分単独の場合の各効果を上回るだけでなく,寄せ集めた場合の効果を
上回る必要があるところ,実験証明書には寄せ集めた場合の効果を上回
ることを裏付けるデータが示されていない。
例えば,実験証明書Ⅱ(甲8)の難燃性評価についてみると ,(A)成
分単独の場合 比較実験例1) 「クランプ 」
( は であるが , A)
( 成分と B)

成分を併用した場合(実験例1,実験例2)と(B)成分単独の場合(比
較実験例2)は,いずれも「V−0」であり,併用した場合の難燃性効
果は単独使用の場合を上回るとはいえない。
また,残炎時間(t1,t2)及び残燼時間(t3)を合計した「t
1+t2 」 「t2+t3」で対比すると,実施例5の数値は比較例1の

ものよりも小さい(実験証明書Ⅰ,甲7)ことから,実施例5の難燃性
は比較例1よりも優れているかもしれないが,いずれの場合も難燃性評
価において最も優れる「V−0」の範囲内にあるから,t1∼t3に係
る合計値に差異があるとしても,それをもって格段に優れるとはいえな
いし,さらに寄せ集めた場合の効果を上回ると結論付けることもできな
い。
ク 小括
以上のとおりであるから,難燃性の相乗効果は確認できないとした審
決の判断に誤りはない。
(3 ) その他(ろ)∼(ほ)の効果につき
ア 原告は,審決が相違点2に係る構成の採用により, ろ)
( 銅箔剥離強度,
(は)ハンダ耐熱性,(に)ワニス貯蔵安定性,及び(ほ)ガラス転移温
度において予期し得ない格別顕著な効果が奏されるとの原告の主張は訂
正明細書に記載がないと判断したことは妥当ではないと主張する。
イ (ろ)∼(ほ)の効果については,訂正明細書(甲14)には,上記
(2)イの【0017】 【0025 】 【0084】 【0119】 【01
, , , ,
20】【0129】に記載があり,刊行物2(甲3)には,上記2( 2)ア

の記載がある。
また,刊行物4(コーティング時報,甲5)には,以下の記載がある。
「 1)エポキシ樹脂中の臭素含有量

・・・この規格のV−0のレベルを合格させるためには,エポキシ
樹脂中の臭素含有量として約20%以上が必要である。しかし樹脂中
の臭素は加熱によって分解してガス化するため,一般にハンダ耐熱性
を低下させる。・・・樹脂中の臭素量の変化は常態ハンダ耐熱性に大
きな影響を与えることがわかった。(16頁右欄14行∼17頁右欄

4行)
ウ 原告は,(ろ)∼(ほ)の効果について,訂正明細書の実施例1∼5と
比較例1∼3とを対比し,また,実験証明書Ⅱの実験例と比較実験例と
を対比し,それぞれ予期し得ない程の値が示されていることから,相違
点2に係る構成の採用により,(ろ)∼(ほ)の予期し得ない効果が奏せ
られることは実質上訂正明細書に記載されていると主張する。
しかしながら,相違点2に係る構成は,臭素含有の(B)成分を配合
することであり,(B)成分の配合により難燃性を向上させる効果が得ら
れることは訂正明細書の【0052】の記載(これら(A) (B)成分

樹脂は,夫々1種単独または2種以上を組み合わせて使用される。本発
明樹脂組成物は,(B)成分樹脂にハロゲンを有するため難燃性の効果が
高く,さらに(A)成分樹脂に含まれるオキサゾリドン環により難燃性
に相乗効果が発揮される。上記ハロゲンは,難燃性効果を発揮する点か
ら臭素が好ましい。)からも明らかである。
それに対し,(ろ)∼(ほ)の効果については,訂正明細書の【001
7 】 【0064】の記載のとおり ,
, (A)成分の特性に由来するものと
認められ ,(B)成分の配合によって改良されたものとは認められない。
したがって,相違点2に係る構成を採用したことにより, ろ)∼(ほ)

について予期し得ない効果が奏されるという原告の主張はその前提にお
いて失当である。
エ 原告は,実験証明書Ⅱ(甲8)に基づき,ビスフェノール A 型エポキ
シ樹脂に高臭素型樹脂をブレンドした場合(比較実験例4)とビスフェ
ノール A 型エポキシ樹脂単独の場合(比較実験例3)とを比較すると,
(ろ)∼(に)は低下し(ほ)は同程度であるから,実験例2でも同様
の傾向が当然予測されるところ,比較実験例1( A)成分単独)と実験

例2( A)成分と(B)成分の併用)とを対比すると,
( (ろ)∼(ほ)
の特性が略維持されており,その低下傾向がより緩やか(すなわち,「損
なわれることがない」)であり,この点について予測し得ない効果が奏さ
れていると解すべきである,と主張する。
また,原告は,汎用のエポキシ樹脂に高臭素化エポキシ樹脂をブレン
ドして難燃化すると,難燃性は向上するが銅箔剥離強度やハンダ耐熱性
等の物性を大きく低下させることは当業者において周知のことであり,
(A)成分に(B)成分を配合すれば,銅箔剥離強度やハンダ耐熱性等
の物性( ろ)∼(ほ)の効果)を大きく低下させることが当然に予想さ

れるところ,意外にも大きく低下せず略そのまま維持されることは,当
業者が予期し得ない格別有利な効果といえる,と主張する。
しかしながら,実験証明書Ⅱの比較実験例1と実験例2を対比すると ,
難燃性以外の(ろ)∼(ほ)の効果において,実験例2は比較実験例1
を下回っており,これらが略維持されているとはいい難い。しかも,こ
の点は,上記ウで説示した(A)成分及び(B)成分のそれぞれがもた
らす効果から予想できることである。
さらに,(A)成分から成る樹脂組成物の難燃性を改良するために臭素
含有の(B)成分を配合する場合,(B)成分が耐熱性等の物性を低下さ
せることが周知であるとすれば , B)
( 成分の配合割合を決定するに際し,
(A)成分に由来する(ろ)∼(ほ)の効果にどの程度の影響を及ぼす
かは当業者であれば当然に確認すべき事項というべきである。そして,
その結果 ,(ろ)∼(ほ)の効果が向上したのであればともかく,大きく
低下がなかったというだけであるから,それをもって予期し得ない格別
の効果であるとはいえない。
よって,原告の上記主張は採用することができない。
オ また原告は,実験証明書Ⅱの実験例2において,その加水分解塩素量
(31.25ppm)を比較実験例4と同じ380ppmに変更し,2
−エチル−4−メチルイミダゾール量(0.16)を比較実験例4と同
じ0.05と変更すると,この新たな実験(以下「実験例2’ という。
」 )
では,(A)成分のワニス貯蔵安定性が略そのままのレベルで維持されて
いるはずであり,このワニス貯蔵安定性の効果を考慮すれば,本件訂正
発明1のゲルタイム保存率も略そのままのレベルで維持されると主張す
る。
しかしながら,実験例2’を実施した具体例はなく,実験例2’と対
応する(A)成分からなる比較例との対比実験もないから,(に)効果に
係る原告の上記主張は推測の域を出るものではない。
カ 以上のとおりであるから,(ろ)∼(ほ)の効果が相違点2に係る構成
に基づいて得られることは訂正明細書に記載がないとした審決に誤りは
ない。
4 取消事由3(訂正発明2についての判断の誤り)について
原告は,上記1,2のとおり,訂正発明1は刊行物1∼5に記載された発明
に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから,訂正発明1を引用す
る訂正発明2についても当業者が容易に発明し得たものではない,したがって,
審決の「訂正発明2について・・・容易に発明をすることができたものであ
る。」との判断は妥当ではない,と主張する。
しかし,上記1,2のとおり,訂正発明1についての審決の判断に誤りはな
いから,訂正発明1についての審決の判断の誤りを前提にして訂正発明2の判
断の誤りをいう原告の主張には理由がない。
5 結語
以上のとおり,原告が取消事由として主張するところは,いずれも理由がな
い。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,棄却することとして,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 岡 本 岳
裁判官 今 井 弘 晃

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