平成18(行ケ)10209審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成19年5月22日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告シルトロニック・ジャパン株式会社 原告SUMCOTECHXIV株式会社
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法令 |
特許権
特許法29条1項3号2回 特許法36条4項1回 特許法29条の21回 特許法29条2項1回 特許法181条2項1回
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キーワード |
実施88回 審決83回 無効20回 進歩性4回 特許権2回 刊行物2回 新規性2回 無効審判1回
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主文 |
原告の請求を棄却する。訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本判決においては 公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分があり 引用箇所を含め ウェ, , ,「
ハ 「ウエハ 「ウエーハ」は「ウエハ」に統一した。」 」
本件は,原告の有する「シリコンウエハの製造方法」に係る本件特許(後記)に
ついて,被告が無効審判請求をしたところ,特許庁は,当該特許は特許法29条1
項3号,29条2項及び29条の2に該当するので,これを無効とするとの審決を
したため,原告がその取消しを求めた事案である。 |
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判決文
平成18年(行ケ)第10209号 審決取消請求事件
平成19年5月22日判決言渡,平成19年2月13日口頭弁論終結
判 決
原 告 SUMCO TECHXIV株式会社
(旧商号) コマツ電子金属株式会社
訴訟代理人弁理士 正林真之,相川俊彦
訴訟復代理人弁護士 磯部健介
被 告 シルトロニック・ジャパン株式会社
訴訟代理人弁理士 内藤俊太,田中久喬
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が無効2004−80070号事件について平成18年3月22日にし
た審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
本判決においては,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分があり ,引用箇所を含め , ウェ
「
ハ」「ウエハ」「ウエーハ」は「ウエハ」に統一した。
本件は,原告の有する「シリコンウエハの製造方法」に係る本件特許(後記)に
ついて,被告が無効審判請求をしたところ,特許庁は,当該特許は特許法29条1
項3号,29条2項及び29条の2に該当するので,これを無効とするとの審決を
したため,原告がその取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件特許
特許権者:原告(特許公報上の特許権者であるコマツ電子金属株式会社は,原告
の変更前の商号)
発明の名称: シリコンウエハの製造方法」
「
特許出願日:平成11年8月27日
設定登録日:平成15年10月3日
特許番号:第3479001号
(2) 本件手続
審判請求日:平成16年6月4日(無効2004−80070号)
審決日:平成17年3月2日
審決取消決定日:平成17年7月22日 特許法181条2項に基づく取消決定)
(
訂正請求日:平成18年2月24日(以下「本件訂正」という。本件訂正後の明
細書(甲9)を,以下「本件明細書」という。)
審決日:平成18年3月22日
審決の結論: 訂正を認める。特許第3479001号の請求項1及び2に係る
「
発明についての特許を無効とする。」
審決謄本送達日:平成18年4月3日(原告に対し。)
2 本件発明の要旨(本件訂正後のもの。以下「本件発明1」などという。)
【請求項1】V/G1(V:引上速度,G1:固液界面近傍の温度勾配)を0.13
∼0.4mm2/min℃とするCZ法若しくはMCZ法で製造され,窒素濃度が1
×1014atoms/cm3から4×10 14atoms/cm3の範囲内(但し,3
×1014atoms/cm 3を除く)にある熱処理用シリコンウエハに非酸化性熱
処理を施した,半導体デバイス用シリコンウエハ(但し,エピタキシャルウエハを
除く)。
【請求項2】V/G1(V:引上速度,G1:固液界面近傍の温度勾配)を0.13
∼0.4mm2/min℃とするCZ法若しくはMCZ法で製造され,窒素濃度が1
×1014atoms/cm3から4×10 14atoms/cm3の範囲内にある熱処
理用シリコンウエハに水素,アルゴン,若しくは,水素及びアルゴンの混合ガス 但
(
し,水素50%及びアルゴン50%を除く)雰囲気下で非酸化性熱処理を施した,
半導体デバイス用シリコンウエハ(但し,エピタキシャルウエハを除く)。
第3 審決の要旨(以下,審決の引用部分も含めて,本訴の証拠番号で表示する。)
審決は,以下のとおり,本件訂正を認めた上で,本件発明1及び2は本訴甲3に
記載された発明であり,又は,本訴甲3,5,6,10∼14に記載された発明と
周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるなどと判断
した。
1 審判手続における提出証拠
・特開平10−98047号公報(本訴甲3)
・特開平11−63612号(特開2000−211995号)の願書に最初に添付した明
細書及び図面に替わる特開平2000−211995号公報 (本訴甲4)
・特開平11−168106号公報(本訴甲5)
・ MOSデバイスエピタキシャルウェーハ 」
「 ,平成10年6月30日,株式会社リアライ
ズ,13∼22頁(本訴甲6)
・志村史夫著, 半導体シリコン結晶工学」 平成12年5月20日 ,
「 , 丸善株式会社,67∼68
頁(本訴甲7)
・特開平10−152395号公報(本訴甲10)
・特開平8−12493号公報(本訴甲11)
・特開平10−208987号公報(本訴甲12)
・ シリコンの科学」 株式会社リアライズ社,1996年6月28日 ,190∼193頁(本
「 ,
訴甲13)
・特開平11−130592号公報(本訴甲14)
2 無効理由
(1) 無効理由1
本件発明1及び2は,本件出願前に頒布された刊行物である甲3に記載された発
明であって,特許法29条1項3号の規定に該当する。
(2) 無効理由2
本件発明1及び2は,本件出願前に頒布された刊行物である甲3,5,6,10
∼14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので
あって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3) 無効理由3
本件発明1及び2は,本件の出願日前の他の出願であってその出願後に出願公開
された特願平11−63612号(特開2000−211995号,甲4)の願書
に最初に添付した明細書及び図面に替わる甲4に記載された発明と同一であり,し
かも,本件発明の発明者が上記他の出願の発明者と同一であるとも,また,本件出
願の時に,その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので,
本件発明1及び2は特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
(4) 無効理由4(なお,無効理由4についての審決の判断の記載は省略する。)
本件発明1及び2の特許は,特許法36条4項に規定する要件を満たしていない
特許出願に対してなされたものである。
3 無効理由1及び2についての判断
3-1 理由その1
3-1-1 本件発明1について
(1) 甲3に記載された発明
「甲3の前記摘示(A−2 )(判決注:本件明細書等の摘示事項の記載は省略する。以下同
14 3
様。)によれば,窒素ドーピング濃度が少なくとも1×10 /cm であるシリコン単結晶を
加工してシリコンウエハを形成し,該シリコンウエハをアニーリングして低欠陥密度を有する
シリコンウエハを製造することが記載されているので,甲3には ,「窒素ドープ濃度が少なく
14 3
とも1×10 /cm であるシリコン単結晶を加工してシリコンウエハを形成し,該シリコ
ンウエハをアニーリングしてなる低欠陥密度シリコンウエハ」が記載されているということが
できる。そして,そのシリコン単結晶は,前記(A−7)によれば,CZ法で製造する場合を
含むものである。そしてまた,そのシリコンウエハはシリコン単結晶を加工して得られるもの
であって,通常その加工時にはその成分組成が変動しないものであるから,当該シリコンウエ
14 3
ハの窒素ドープ濃度が単結晶と同じように少なくとも1×10 /cm であるということが
できる。この場合,当該濃度は,当分野の常法により,立方センチメートル当たりの原子数で
表示されたものであることは明白なことである。
以上のことから,甲3には,
「CZ法で製造されたシリコン単結晶から形成された,窒素ドープ濃度が少なくとも1
14 3
×10 atoms/cm であるシリコンウエハを,アニーリングしてなる低欠陥密度シリ
コンウエハ」に関する発明(以下,必要に応じて ,「甲3発明a」という)が記載されている
といえる。」
(2) 甲3発明aと本件発明1との対比
「そこで,本件発明1と甲3発明aとを対比する。
…両者は , CZ法で製造され,窒素を含有する熱処理用シリコンウエハに熱処理を施した ,
「
半導体デバイス用シリコンウエハ(但し ,エピタキシャルウエハを除く ) である点で一致し,
」
以下の点で一応相違する。
【相違点1】該CZ法が,本件発明1では ,
「V/G1(V:引上速度,G1:固液界面近傍
2
の温度勾配)を0.13∼0.4mm /min℃とする」のに対して,甲3発明aではその
ことが明示されない点
【相違点2】施される熱処理が,本件発明1では ,
「非酸化性」熱処理であるとするのに対し
て,甲3発明aではそのことが明示されない点
14
【相違点3】該窒素の含有量につき,本件発明1では,
「窒素濃度が1×10 atoms/
3 14 3 14 3
cm から4×10 atoms/cm の範囲内(但し,3×10 atoms/cm を除
く)にある」というのに対して,甲3発明aでは上記数値範囲が明示されない点」
(3) 相違点についての判断
「 相違点1について】
【
《検討1》
CZ法とは炉中において融液から液を所定の速度で引き上げながら固化,冷却させて単結晶
を成長させるものであって,その単結晶においては融液と接する高温部分から炉上部の低温部
分に向かって所定の温度勾配が生ずるものであり,このことからみて明らかなとおり,CZ法
によりシリコン単結晶を形成する甲3発明aにおいては,V/G1につき,必ず,何らかの数
値を採るものである。
2
一方,甲10の前記(E−1)及び(E−4)によれば〔そこでのV/G1(mm /℃m
2
in)はその単位を含めて本件発明1のV/G1(mm /min℃)に相当する ) ,甲10
〕
で は C Z 法 に よ り シ リ コ ン 単 結 晶 を 実 際 に 製 造 す る と き の V / G 1
が,0.4952,0.3549,0.3943,0.3943,0.4786,0.342
9,0.3424,0.3211,0.2845及び0.3214であると記載され,そこで
の具体例の殆どのものが,V/G1につき0.25∼0.4の範囲に属することが示され,ま
2
た,甲11の(F−1)及び(F−5)によれば〔そこでのfp/G(mm /℃・min)
2
はその単位を含めて本件発明1のV/G1(mm /min℃)に相当する 〕
,甲11ではCZ
法によりシリコン単結晶を実際に製造するときのfp/Gが ,0 .26 ,0 .28及び0 .26
であると記載され,そこでの具体例のものが,fp/Gにつき0.26∼0.28の範囲に属
することが示される。更には ,甲14の前記(G−1 )及び(G−4 )によれば〔そこでの(V
2 2
/G)cri(mm /℃min)はその単位を含めて本件発明1のV/G1(mm /min
℃)に相当する 〕,甲14ではCZ法によりシリコン単結晶を製造するときの(V/G)cr
iの条件として0.15,約0.22,約0.25とすることが記載され,そこでの条件のも
のが ,(V/G)criにつき0.15∼約0.25の範囲に属することが示される。
このように,CZ法によりシリコン単結晶を形成する場合において ,「V/G1(V:引上
2
速度 ,G1:固液界面近傍の温度勾配)を0 .13∼0 .4mm /min℃とする 」ことは ,
本件出願時において通常採用される周知・慣用の事項に外ならないものである。
そして,甲3発明aにおいては,その低欠陥密度シリコンウエハはシリコン単結晶を経て形
成されるものであるものの,当該シリコン単結晶を製造する際においてはそのV/G1値の選
定につき特段制限を受けるものではない。
そうであれば,甲3発明aのシリコン単結晶につき,それを製造する際のV/G1は,当該
周知・慣用のV/G1の数値を含むということができる。
してみれば,本件発明1が相違点1に係る特定事項を具備することは,両者の実質上の相違
点とはなり得ない。
《検討2》
上記検討1で記載したとおり,CZ法によりシリコン単結晶を形成する甲3発明aにおいて
も,V/G1につき,必ず,何らかの数値を採るものである。
そして,上記検討1で記載したとおり,甲10,11及び14において,CZ法によりシ
2
リコン単結晶を製造する場合にV/G1につき0.13∼0.4mm /min℃の範囲の数
値を用いることは本件出願前の公知の事項となっている。
その上,甲10,11及び14に記載の技術は ,その前記(E−2 )(F−2)
, 及び(G−1)
で示されるように,単結晶中に存在するLSTD密度の低減を図り,ウェーハ面内の酸素析出
物の密度の低減化を図り,又は,リング状の熱酸化誘起積層欠陥が結晶中心に消滅することを
意図するものであり,このように,甲10,11及び14に記載の技術はウエハ又はウエハの
母材たる単結晶中の欠陥密度を低減することを目的とするものである。
そうであれば,低欠陥密度シリコンウエハとすることを目的とする甲3発明aにおいて,そ
の原材料であるシリコン単結晶を製造する際に,V/G1として,甲10,11及び14で公
知の数値を適用して,本件発明1のようにすることは当業者にとって何らの困難も伴わない。
しかも,そのことによって,格別予想し難い効果を奏したものであるということもできない 。
【相違点2について】
甲3の前記摘示(A−9)によれば,甲3発明aのアニーリング(熱処理)において使用さ
れる雰囲気は ,「好ましくは貴ガス,酸素,窒素,酸素/窒素混合物及び水素からなる群から
選択されるガスである。水素又はアルゴンが,好ましい 。」とされ,このように,好ましい雰
囲気として ,水素又はアルゴンが重ねて推奨されるものであるので ,甲3発明aにおけるアニー
リング(熱処理)雰囲気には,水素又はアルゴン雰囲気が最も典型的なものとして含まれると
いうことができる。
また,甲3発明aのアニーリングは,甲3の前記(A−2)及び(A−4)∼(A−6)に
よれば,シリコンウエハの表面近傍の領域における欠陥密度を低減化するために実施するもの
であるといえるところ,シリコンウエハないしはシリコン基板の表面層近傍の欠陥を低減化す
るための熱処理ないしはアニール雰囲気として水素又はアルゴン雰囲気を採用すること ,且つ ,
その水素又はアルゴン雰囲気が他の雰囲気である酸素等の雰囲気よりも有効であることは周知
・慣用の事項 必要ならば ,
〔 甲5の前記 C−2 ) (C−4 ) 甲5の前記 D−2) D−4 )
( ∼ , ( ,
(
及び(D−5)等を参照〕となっているものであり,したがって,甲3発明aの当該アニーリ
ングの雰囲気には,当該周知・慣用であって有効である水素又はアルゴン雰囲気が含まれるも
のであるといえる。
このように,甲3の記載内容及び周知・慣用技術のいずれからみても,甲3発明aのアニー
リング雰囲気に,水素又はアルゴン雰囲気を採択することが主たる態様として含まれるもので
ある。また,水素又はアルゴンが主たる態様として含まれるのであるから,その混合ガスの雰
囲気も水素又はアルゴンの雰囲気と同効のものとして同様に含まれるものである。
一方,本件発明1の非酸化性熱処理とは,その段落【0017】の記載からみて明らかなと
おり,水素,アルゴン,若しくは,水素及びアルゴンの混合ガス雰囲気での熱処理をいうもの
である。
してみれば,甲3発明aのアニーリングと本件発明1の「非酸化性」熱処理とは相違すると
はいえず,本件発明1が相違点2に係る特定事項を具備することは両者の実質上の相違点とは
なり得ない。
【相違点3について】
《検討1》
甲3発明aでは,その前記摘示(A−4)によれば ,「表面近傍の領域において低欠陥密度
を有する低欠陥密度シリコンウエハを得ること 」を目的とするものであり ,そして , (A−6 )
同
14 3
によれば ,「窒素濃度が少なくとも1×10 /cm である単結晶から製造したシリコンウエ
ハはそこに存在する結晶欠陥のサイズ分布を小欠陥に有利にシフトし,これを工程c(すなわ
ち,アニーリング)にしたがって処理した後の欠陥密度は小さくなる」旨記載されるものであ
り,このように,甲3発明aでは,表面近傍の領域において欠陥密度の低い低欠陥密度シリコ
ンウエハを得る過程で,シリコンウエハに存在する結晶欠陥の欠陥サイズを微細化するために ,
14 3
そのシリコンウエハの窒素濃度(窒素ドーピング濃度)を少なくとも1×10 /cm とす
ることが示される。この場合,甲3発明aはCZ法で製造したシリコンウエハに関するもので
ある。
そして,甲3の前記摘示(A−11)及び図4の記載によれば,CZ法により製造したシリ
14 3
コンウエハにおいてその窒素濃度が3×10 /cm である場合には結晶欠陥につきそのサ
イズ分布が微細化したことが明示されるものである。
そうすると,甲3発明aの表面近傍の領域において欠陥密度の低い低欠陥密度シリコンウエ
14 3
ハを得る過程で必要である窒素濃度につき,少なくとも1×10 /cm であるというよう
14 3
にその下限を含む数値範囲が示される外に,3×10 /cm である上方の数値も示される
のであるから,甲3発明aにおいては,CZ法によるシリコンウエハの窒素濃度の範囲とし
14 3 14 3
て,1×10 /cm ∼3×10 /cm の数値が,実質上,示されているといえる。
これによれば,甲3発明aの窒素濃度の数値範囲は,本件発明1のその数値範囲に含まれ,
その結果,両者の窒素濃度は一致するといえる。
してみれば,本件発明1が相違点3に係る特定事項を具備することは,両者の実質上の相違
点とはなり得ない。
《検討2》
訂正明細書の段落【0016 】 【0039 】
, ,表1,表2,図1及び図2の記載によれば,
本件発明1では,当該特定事項を具備することにより,その表面部及びその3μm深部におい
て,酸化膜耐圧試験による良品率が95%以上と優れ,且つ,定電流TDDB試験で正常値を
示す半導体デバイス用のシリコンウエハを得ることができたという効果を奏するものである。
これに対して,甲3発明aはCZ法で製造したシリコンウエハに関するものであるが,この
発明においては,上記《検討1》で記載したように,表面近傍の領域において欠陥密度の低い
低欠陥密度シリコンウエハを得る過程で,シリコンウエハに存在する結晶欠陥の欠陥サイズを
微細化するために,そのシリコンウエハの窒素濃度(窒素ドーピング濃度)を少なくとも1
14 3
×10 /cm とすることが示される。
これに加え,その具体例として,前記摘示(A−11)及び図4の記載によれば,CZ法に
14 3
より製造したシリコンウエハの窒素濃度が3×10 /cm であれば,結晶欠陥のサイズを
微細化するうえで有効であることも明示されるのである。
してみれば,甲3発明aにおいて,表面近傍の領域が低欠陥密度である低欠陥密度シリコン
14 3
ウエハにつき,所望の特性のものを得るために ,上記窒素濃度が少なくとも1×10 /cm
14 3
であるとの数値範囲と窒素濃度が3×10 /cm であるとの数値の具体例に基づいて,シ
リコンウエハについて試験等を実施することによりその特性を確認しつつ ,本件発明1の如く ,
14 3 14 3 14
「1×10 atoms/cm から4×10 atoms/cm の範囲内 但し ,
( 3×10
3
atoms/cm を除く)
」という数値範囲を選定することは,当業者が困難なく適宜実施し
得ることにすぎない。
なお,甲3発明aにおいては,その前記摘示(A−4)によれば,その低欠陥密度シリコン
ウエハは表面近傍の領域につき低欠陥密度化するものであり,この場合,表面近傍というので
あるからその低欠陥密度化はそのシリコンウエハの表面だけでなく表面下の部位にまで及ぶも
のであるところ,本件発明1の上記酸化膜耐圧試験及び定電流TDDB試験に基づく効果は,
訂正明細書の段落【0003 】【0006 】【0009】及び【0021】の記載によれば,
, ,
半導体デバイス用のシリコンウエハの表面部及びその3μm深部における欠陥密度が低いこと
をいうにすぎないものであり ,このように ,両者の窒素濃度(後に ,非酸化性熱処理理を経る )
の意味するものは,シリコンウエハの表面部と深部の両部位における欠陥密度の低減化という
点で異なるものでなく,これにより,本件発明1の奏する効果が,甲3発明aのものに比べて
格別予想し難いものであるといえるものではない。
したがって,上記相違点3に関する特定事項を採択することは,格別の創意工夫を要するこ
となく当業者の容易になし得るものである。
《検討3》
14 3
窒素濃度に関する両者の具体的相違点は,本件発明1は,
「1×10 atoms/cm か
14 3 14 3
ら4×10 atoms/cm の範囲内(但し,3×10 atoms/cm を除く)に
14 3
ある 」というのに対して,甲3発明aでは ,その濃度が少なくとも1×10 atoms/cm
であるとされ,その範囲の下限の数値が本件発明1のものと一致するものの,上限の数値まで
は示されない点にある。
14 3
この場合,本件発明1のこの相違点に係る上限の数値である4×10 atoms/cm
は,訂正明細書の段落【0016 】 【0039 】
, ,表1及び表2の記載によれば,その表面部
及びその深部における定電流TDDB試験で正常値を示す半導体デバイス用のシリコンウエハ
を得るために採択されたというものである。
これに対して,半導体デバイス用のシリコンウエハの分野では,シリコンウエハのボイド欠
陥等の結晶欠陥とTDDB(Time Dependent Dielectric Breakdown)特性とは相互に関連す
ることからシリコンウエハの結晶欠陥を当該TDDBで確認することは,周知・慣用の事項
〔甲5の前記摘示(C−1)∼(C−4 ),甲6の同(D−5 ),等を参照〕となっている。
そして,甲3発明aにおいては,上記《検討1》で記載したように,表面近傍の領域におい
て欠陥密度の低い低欠陥密度シリコンウエハを得る過程でシリコンウエハに存在する結晶欠陥
14 3
のサイズを微細化するうえで必要な窒素につき ,その濃度範囲が少なくとも1×10 /cm
であることが示され,更に,その具体例として,前記摘示(A−11)及び(A−12)によ
14 3 14 3 15 3
れば ,3×10 /cm (実施例2 ) 2.
, 5×10 /cm , .
1 0×10 /cm , .
3 0
15 3
×10 /cm (以上,実施例3)である数値も明示されるのである。
してみれば,甲3発明aにおいて,表面近傍の領域が低欠陥密度である低欠陥密度シリコン
14 3
ウエハにつき,所望の特性のものを得るために ,上記窒素濃度が少なくとも1×10 /cm
14 3
であるとの数値範囲と窒素濃度が3×10 /cm 等であるとの数値の具体例に基づいて,
シリコンウエハについてTDDB試験等を実施することによりその特性を確認して,当該上限
14 3
を,本件発明1の如く,「4×10 atoms/cm 」として選定することは,当業者が困
難なく適宜実施し得ることにすぎない。
したがって,上記相違点3に関する特定事項を選定することは,格別の創意工夫を要するこ
となく当業者の容易になし得るものである。
以上のとおりであり,上記相違点の内,相違点2については,実質上の相違点とはなり得な
いものであり,そして,相違点1及び3については,同じく実質上の相違点とはなり得ないも
のであり,また,当業者が困難なく容易になし得るものに他ならないといえる。
なお,甲3発明aにおいて上記相違点1及び3に係る特定事項を組み合わせて具備すること
により格別予想し難い効果を奏したということもできない。
したがって,本件発明1は,甲3に記載された発明である。
また,本件発明1は,甲3,5,6,10,11及び14に記載の発明及び周知技術に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものである 。
」
3-1-2 本件発明2について
(1) 甲3発明aと本件発明2との対比
「CZ法で製造され,窒素を含有する熱処理用シリコンウエハに熱処理を施した,半導体デ
バイス用シリコンウエハ(但し,エピタキシャルウエハを除く )」である点で一致し,以下の
点で一応相違する。
【相違点4】該CZ法が,本件発明2では ,
「V/G1(V:引上速度,G1:固液界面近傍
2
の温度勾配)を0.13∼0.4mm /min℃とする」のに対して,甲3発明aではその
ことが明示されない点
【相違点5】該熱処理用シリコンウエハに,本件発明2では ,
「水素,アルゴン,若しくは,
水素及びアルゴンの混合ガス(但し,水素50%及びアルゴン50%を除く)雰囲気下で非酸
化性」熱処理を施すとするのに対して,甲3発明aでは熱処理を施すこととしているものの,
その雰囲気及び条件が明示されない点
14
【相違点6】該窒素の含有量につき,本件発明2では,
「窒素濃度が1×10 atoms/
3 14 3
cm から4×10 atoms/cm の範囲内にある」というのに対して,甲3発明aで
は上記数値範囲が具体的に明示されない点」
(2) 相違点についての判断
「 相違点4について】
【
…相違点1の《検討1》及び《検討2》の箇所で説示したとおり,甲3発明aのシリコン単
2
結晶を製造する際のV/G1は,周知・慣用の0.13∼0.4mm /min℃の数値を含
むものであり,したがって,本件発明2が相違点4に係る特定事項を具備することは,両者の
実質上の相違点とはなり得えず,また,甲3発明aにおいて,V/G1につき,甲10,11
及び14で公知の数値を適用して,本件発明2のようにすることは当業者にとって何らの困難
も伴わないものである。
【相違点5について】
…相違点2の箇所で説示したとおり,甲3の記載内容〔前記(A−9 )〕及び周知・慣用技
術〔必要ならば,甲5の前記(C−2)∼(C−4 ),甲6の前記(D−2 ) (D−4)及び
,
(D−5)等を参照〕のいずれからみても,甲3発明aのアニーリング雰囲気に,水素,アル
ゴン,水素及びアルゴンの混合ガス雰囲気を採択することが主たる態様として含まれるもので
ある。この場合,アニーリング雰囲気は非酸化性であるので,そこでの熱処理は非酸化性であ
るということができる。
してみれば,甲3発明aのアニーリングと本件発明2の「水素,アルゴン,若しくは,水素
及びアルゴンの混合ガス(但し,水素50%及びアルゴン50%を除く )雰囲気下で非酸化性 」
熱処理とは相違するとはいえず,本件発明2が相違点5に係る特定事項を具備することは両者
の実質上の相違点とはなり得ない。
【相違点6について】
…相違点3の《検討1》∼《検討3》の箇所で説示したとおり,甲3発明aでは,その窒素
14 3 14 3
濃度の具体的範囲として,1×10 /cm ∼3×10 /cm の数値が実質上示されて
いるといえるものであり,したがって,本件発明2が相違点6に係る特定事項を具備すること
は,両者の実質上の相違点とはなり得えず,また,表面近傍の領域の欠陥密度が低い低欠陥密
度シリコンウエハにつき,所望の特性を有するものを得るために,甲3発明aにおいて,その
14 3
シリコンウ エハの窒素濃度 を本件発明 2の如く ,「1×10 atoms/cm から4
14 3
×10 atoms/cm の範囲内にある」とすることは当業者が困難なく適宜実施し得る
ものである。
以上のとおりであり,上記相違点の内,相違点5については,実質上の相違点とはなり得な
いものであり,そして,相違点4及び6については,同じく実質上の相違点とはなり得ないも
のであり,また,当業者が困難なく容易になし得るものに他ならないといえる。
なお,甲3発明aにおいて上記相違点4及び6に係る特定事項を組み合わせて具備すること
により格別予想し難い効果を奏したということもできない。
したがって,本件発明2は,甲3に記載された発明である。
また,本件発明2は,甲3,5,6,10,11及び14に記載の発明及び周知技術に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものである 。
」
3-2 理由その2
3-2-1 本件発明1について
(1) 甲3に記載された発明
「甲3には,低欠陥密度を有するシリコンウエハの製造方法に関する記載があるが,以下,
その前記(A−11)で摘示される実施例2に記載される事項につき検討する。
甲3の実験例2の箇所には,甲3の前記摘示(A−11)によれば ,
「CZ法により窒素濃
14 3
度は3×10 /cm である単結晶を製造し,該単結晶を加工して形成してなるシリコンウ
エハ」が実質上記載されており,かつ,そのシリコンウエハはシリコン単結晶を加工して得ら
れるものであるが,通常その加工時にはその成分組成が変動しないものであるから,当該シリ
14 3
コンウエハの窒素ドープ濃度は単結晶と同じように3×10 /cm であるということがで
きる。この場合,当該濃度は,当分野の常法により,立方センチメートル当たりの原子数で表
示されたものであることは明白なことである。
以上のことから,甲3には,
14 3
「CZ法により製造された窒素濃度が3×10 atoms/cm であるシリコンウエハ」
に関する発明(以下,必要に応じて ,「甲3発明b」という)が記載されているということが
できる。」
(2) 甲3発明bと本件発明1との対比
「そこで,本件発明1と甲3発明bとを対比すると,甲3発明bのものはエピタキシャルウ
エハの用途に用いることを意図しておらず,よって,両者は,
「CZ法で製造され ,窒素を含有するシリコンウエハ(但し ,エピタキシャルウエハを除く )」
である点で一致し,次の点で相違する。
【相違点イ】該CZ法が,本件発明1では ,
「V/G1(V:引上速度,G1:固液界面近傍
2
の温度勾配)を0.13∼0.4mm /min℃とする」のに対して,甲3発明bではその
ことが明示されない点
【相違点ロ】窒素を含有するシリコンウエハが,本件発明1では ,
「熱処理用」シリコンウエ
ハであって,当該シリコンウエハに「非酸化性熱処理を施した」ことにより「半導体デバイス
用シリコンウエハ」を得ているのに対して,甲3発明bでは,そのことが示されない点
14
【相違点ハ】当該窒素の含有量につき,本件発明1では ,
「窒素濃度が1×10 atoms
3 14 3 14 3
/cm から4×10 atoms/cm の範囲内(但し,3×10 atoms/cm を
14
除く)にある」とするのに対して,甲3発明bでは,除外されたところの3×10 atom
3
s/cm であって,上記濃度を有さない点」
(3) 相違点についての判断
「 相違点イについて】
【
…相違点1の《検討1》及び《検討2》の箇所で説示した理由と同じ理由により,甲3発明
2
bのシリコン単結晶を製造する際のV/G1は,周知・慣用の0.13∼0.4mm /mi
n℃の数値を含むものであり,したがって,本件発明1が相違点イに係る特定事項を具備する
ことは,両者の実質上の相違点とはなり得えず,また ,甲3発明bにおいて ,V/G1につき ,
甲10,11及び14で公知の数値を適用して,本件発明1のようにすることは当業者にとっ
て何らの困難も伴わないものである。
【相違点ロについて】
甲3には,その前記摘示(A−2 ) (A−4)及び(A−6)によれば,窒素濃度が少なく
,
14 3
とも1×10 atoms/cm であるシリコンウエハをアニーリングすることにより,該
シリコンウエハの表面近傍領域における欠陥密度を低減化すること ,かつ ,その前記(A−9 )
によれば,そのアニーリングの条件として水素又はアルゴン雰囲気を推奨することが示される 。
更に ,当該アニーリング雰囲気に水素又はアルゴン雰囲気を採択することは周知・慣用事項 必
〔
要ならば,甲5の前記(C−2)∼(C−4) 甲6の前記(D−2 )(D−4)及び(D−5 )
, ,
等を参照〕となっている。
14 3
そして,甲3発明bのシリコンウエハは,その窒素濃度が3×10 atoms/cm で
14 3
あって,上記の少なくとも1×10 atoms/cm との条件を満たすものであって,上
記のアニーリングの処理に適合することは明白である。
そうすると,上記教示に従い,表面近傍領域における欠陥密度を低減化することを目的とし
て,甲3発明bのシリコンウエハに対してアニーリングを施すことにより低欠陥密度シリコン
ウエハとすること,そして,その際,そのアニーリングの条件として,上記の水素又はアルゴ
ン雰囲気を適用することは当業者であれば当然に実施するものである。
この場合,アニーリングは熱処理の一種であるので,甲3発明bのシリコンウエハは「熱処
理用」シリコンウエハといえることになる。そして,水素又はアルゴン雰囲気は非酸化性の雰
囲気に含まれるので,そのアニーリング(熱処理 )によりシリコンウエハに「非酸化性熱処理 」
が施されたことになる。更には,この種のウエハは,通常,半導体デバイスに用いられるもの
であるので,甲3発明bのシリコンウエハをアニーリングして得られた低密度シリコンウエハ
は,「半導体デバイス用シリコンウエハ」ということができるものである。
してみれば,甲3発明bのシリコンウエハにつき,それを熱処理用とすること,そして,そ
れに非酸化性熱処理を施すことにより半導体デバイスとすること,すなわち,当該相違点ロに
係る特定事項を採択することは,甲3におけるその他の記載及び周知技術に基づき,当業者が
容易に想到できるものである。
【相違点ハについて】
訂正明細書の段落【0016 】 【0039 】
, ,表1,表2,図1及び図2の記載によれば,
本件発明1では,当該特定事項を具備することにより,その表面部及びその3μm深部におい
て,酸化膜耐圧試験による良品率が95%以上と優れ,且つ,定電流TDDB試験で正常値を
示す半導体デバイス用のシリコンウエハを得ることができたとされるものである。
これに対して,甲3には,その前記摘示(A−4)によれば ,「表面近傍の領域において低
欠陥密度を有する低欠陥密度シリコンウエハを得ること」が記載されており,そして,同
14 3
(A−6)によれば ,「窒素濃度が少なくとも1×10 /cm である単結晶から製造したシ
リコンウエハはそこに存在する結晶欠陥のサイズ分布を小欠陥に有利にシフトし,これを工程
c(すなわち,アニーリング )にしたがって処理した後の欠陥密度は小さくなる 」旨記載され ,
このように,甲3には,表面近傍の領域において欠陥密度の低い低欠陥密度シリコンウエハを
得る過程で,シリコンウエハに存在する結晶欠陥の欠陥サイズを微細化するために,そのシリ
14 3
コンウエハの窒素濃度(窒素ドーピング濃度)を少なくとも1×10 /cm とすることが
示される。
してみれば,甲3発明bにおいて,表面近傍の領域において欠陥密度の低い低欠陥密度シリ
コンウエハにつき,所望の特性のものを得るために,シリコンウエハの窒素濃度として,3
14 3 14
×10 atoms/cm の近辺領域であって,上記窒素濃度の少なくとも1×10 /
3
cm である範囲内において,試験等によりその特性を確認しつつ,本件発明1の如く ,
「1
14 3 14 3 14
×10 atoms/cm から4×10 atoms/cm の範囲内(但し,3×10
14 3 14
atoms/cm3を除く )」ないしは「1×10 atoms/cm から3×10 at
3 14 3
oms/cm の範囲内(但し,3×10 atoms/cm を除く )」という数値範囲を選
定することは,当業者が困難なく適宜実施し得るものである。
そうすると,甲3発明bにおいて,上記相違点ハに関する特定事項を採択することは,甲3
におけるその他の記載に基づき当業者が容易に想到できるものである。
また,甲3発明bにおいて上記相違点イ∼ハに係る特定事項を組み合わせて具備することに
より格別予想し難い効果を奏したということもできない。
したがって,本件発明1は,甲3,5,6,10,11及び14に記載の発明及び周知技術
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである 。
」
3-2-2 本件発明2について
(1) 甲3発明bと本件発明2との対比
「そこで,本件発明2と甲3発明bとを対比すると,甲3発明bのシリコンウエハの窒素濃
14 3
度3×10 atoms/cm は本件発明2の数値範囲に含まれ,よって,両者は,
14 3 14
「CZ法で製造され,窒素濃度が1×10 atoms/cm から4×10 atoms
3
/cm の範囲内にあるシリコンウエハ(但し,エピタキシャルウエハを除く )
」である点で一
致し,次の点で相違する。
【相違点ニ】該CZ法が,本件発明2では ,
「V/G1(V:引上速度,G1:固液界面近傍
2
の温度勾配)を0.13∼0.4mm /min℃とする」のに対して,甲3発明bではその
ことが明示されない点
【相違点ホ】当該窒素濃度のシリコンウエハが,本件発明2では ,
「熱処理用」シリコンウエ
ハであって,当該シリコンウエハに「水素,アルゴン,若しくは,水素及びアルゴンの混合ガ
ス(但し,水素50%及びアルゴン50%を除く)雰囲気下で非酸化性熱処理を施した」こと
により「半導体デバイス用のシリコンウエハ」を得ているのに対して,甲3発明bでは,その
ことが示されない点」
(2) 相違点についての判断
「 相違点ニについて】
【
…相違点1の《検討1》及び《検討2》の箇所で説示した理由と同じ理由により,甲3発明
2
bのシリコン単結晶を製造する際のV/G1は,周知・慣用の0.13∼0.4mm /mi
n℃の数値を含むものであり,したがって,本件発明2が相違点ニに係る特定事項を具備する
ことは,両者の実質上の相違点とはなり得ず,また,甲3発明bにおいて,V/G1につき,
甲10,11及び14で公知の数値を適用して,本件発明2のようにすることは当業者にとっ
て何らの困難も伴わないものである。
【相違点ホについて】
14
…相違点ロの箇所で説示したとおり,甲3には,窒素濃度が少なくとも1×10 atom
3
s/cm であるシリコンウエハをアニーリングすることにより,該シリコンウエハの表面近
傍領域における欠陥密度を低減化すること,かつ,そのアニーリングの条件として水素又はア
ルゴン雰囲気が推奨されることが記載され,また,当該アニーリング雰囲気に水素又はアルゴ
ン雰囲気を採択することは周知・慣用事項となっているものである。更に,当該アニーリング
雰囲気として,水素又はアルゴンが主たる態様として含まれるのであるから,その混合ガスの
雰囲気も水素又はアルゴンの雰囲気と同効のものとして同様に含まれるものである。
14 3
そして,甲3発明bのシリコンウエハは,その窒素濃度が3×10 atoms/cm で
14 3
あって,上記の少なくとも1×10 atoms/cm との条件を満たすものであって,上
記のアニーリングの処理に適合することは明白である。
そうすると,上記教示に従い,表面近傍領域における欠陥密度を低減化することを目的とし
て,甲3発明bのシリコンウエハに対してアニーリングを施すことにより低欠陥密度シリコン
ウエハとすること ,そして,その際,そのアニーリングの条件として ,上記の水素 ,アルゴン ,
若しくは,水素及びアルゴンの混合ガス雰囲気を適用することは当業者であれば当然に実施し
得るものである。
この場合,アニーリングは熱処理の一種であるので,甲3発明bのシリコンウエハは「熱処
理用」シリコンウエハといえることになる。そして,そのアニーリングには水素,アルゴン,
若しくは,水素及びアルゴンの混合ガス雰囲気が用いられ,この雰囲気は非酸化性の雰囲気に
含まれるので,そのアニーリング(熱処理)によりシリコンウエハに「水素,アルゴン,若し
くは,水素及びアルゴンの混合ガス(但し,水素50%及びアルゴン50%を除く)雰囲気下
で非酸化性熱処理を施した」ことになる。更には,この種のウエハは,通常,半導体デバイス
に用いられるものであるので,甲3発明bのシリコンウエハをアニーリングして得られた低密
度シリコンウエハは ,「半導体デバイス用シリコンウエハ」ということができるものである。
してみれば,甲3発明bのシリコンウエハにつき,それを熱処理用とすること,そして,そ
れに水素,アルゴン,若しくは,水素及びアルゴンの混合ガス(但し,水素50%及びアルゴ
ン50%を除く)雰囲気下で非酸化性熱処理を施すことにより半導体デバイス用シリコンウエ
ハとすること,すなわち,当該相違点ホに係る特定事項を採択することは,甲3における記載
及び周知技術に基づき,当業者が容易に想到できるものである。
また,甲3発明bにおいて上記相違点ニ及びホに係る特定事項を組み合わせて具備すること
により格別予想し難い効果を奏したということもできない。
したがって,本件発明2は,甲3,5,6,10,11及び14に記載の発明及び周知技術
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである 。
」
4 無効理由3について
4-1 理由その1
4-1-1 本件発明1について
(1) 甲4に記載された発明
「…甲4には,
14 3
「CZ法により得られた単結晶棒から作製され,窒素を3×10 atoms/cm 及び3
13 3
×10 atoms/cm ドープしたシリコン単結晶ウエハを,水素50%とアルゴン50
%からなる雰囲気下でゲッタリング熱処理したシリコン単結晶ウエハ 」 以下,必要に応じて ,
(
「甲4発明a」という)に関する発明が記載されている 。
」
(2) 甲4発明aと本件発明1との対比
「 甲4発明aと本件発明1)は ,
( 「CZ法で製造され,窒素を含有する熱処理用シリコンウ
エハに非酸化性熱処理を施した半導体デバイス用のシリコンウエハ(但し,エピタキシャルウ
エハを除く )」である点で一致し,以下の点で相違する。
【相違点A】該CZ法につき,本件発明1では ,「V/G1(V:引上速度,G1:固液界面
2
近傍の温度勾配)を0.13∼0.4mm /min℃とする」のに対して,甲2の発明aで
はそのことが明示されない点
14
【相違点B】当該窒素の含有量につき,本件発明1では ,
「窒素濃度が1×10 atoms
3 14 3 14 3
/cm から4×10 atoms/cm の範囲内(但し,3×10 atoms/cm を
除く)にある」とするのに対して,甲4発明aでは,そのことが明示されない点」
(3) 相違点の検討
「以下,上記相違点につき検討する。
【相違点Aについて】
CZ法とは炉中において融液から液を所定の速度で引き上げながら固化,冷却させて単結
晶(単結晶棒)を成長させるものであって,その単結晶においては融液と接する高温部分から
炉上部の低温部分に向かって所定の温度勾配が生ずるものであり,このことからみて明らかな
とおり,CZ法によりシリコン単結晶を形成する甲4発明aにおいては,V/G1につき,必
ず,何らかの数値を採るものである。
2
一方,甲10の前記(E−1)及び(E−4)によれば〔そこでのV/G1(mm /℃m
2
in)はその単位を含めて本件発明1のV/G1(mm /min℃)に相当する ) ,甲10
〕
で は C Z 法 に よ り シ リ コ ン 単 結 晶 を 実 際 に 製 造 す る と き の V / G 1
が,0.4952,0.3549,0.3943,0.3943,0.4786,0.342
9,0.3424,0.3211,0.2845及び0.3214であると記載され,そこで
の具体例の殆どのものが,V/G1につき0.25∼0.4の範囲に属することが示され,ま
2
た,甲11の(F−1)及び(F−5)によれば〔そこでのfp/G(mm /℃・min)
2
はその単位を含めて本件発明1のV/G1(mm /min℃)に相当する 〕
,甲11ではCZ
法によりシリコン単結晶を実際に製造するときのfp/Gが ,0 .26 ,0 .28及び0 .26
であると記載され,そこでの具体例のものが,fp/Gにつき0.26∼0.28の範囲に属
することが示される。更には ,甲14の前記(G−1 )及び(G−4 )によれば〔そこでの(V
2 2
/G)cri(mm /℃min)はその単位を含めて本件発明1のV/G1(mm /min
℃)に相当する 〕,甲14ではCZ法によりシリコン単結晶を製造するときの(V/G)cr
iの条件として0.15,約0.22,約0.25とすることが記載され,そこでの条件のも
のが ,(V/G)criにつき0.15∼約0.25の範囲に属することが示される。
このように,CZ法によりシリコン単結晶を形成する場合において ,「V/G1(V:引上
2
速度 ,G1:固液界面近傍の温度勾配)を0 .13∼0 .4mm /min℃とする 」ことは ,
本件出願時において通常採用される周知・慣用の事項に外ならないものである。
そして,甲4発明aにおいては,そのシリコン単結晶ウエハは単結晶棒を経て形成され,そ
の単結晶棒を製造する際においては冷却速度の制御を受けるものであるが,そのV/G1値の
選定については基本的に制限を受けるものではない。
そうであれば,甲4発明aの単結晶棒につき,それを製造する際のV/G1は,当該周知・
慣用のV/G1の数値を含むということができる。
してみれば,本件発明1が相違点Aに係る特定事項を具備することは,両者の実質上の相違
点とはなり得ない。
【相違点Bについて】
12 15
甲4には,その前記摘示(B−8)によれば,ウエハの窒素濃度が1×10 ∼1×10
3
atoms/cm の範囲であれば,結晶欠陥のサイズを十分に小さくすることができ,ゲッ
タリング熱処理後のウエハの無欠陥層深さを深くすることができることが記載され,このよう
に,甲4に記載される技術は,ゲッタリング熱処理後のシリコン単結晶ウエハの無欠陥層深さ
12
を深くする観点から,同熱処理前のシリコン単結晶ウエハの窒素濃度を ,少なくとも1×10
15 3
∼1×10 atoms/cm の範囲とすることに着目するものである。
そして,甲4の前記(B−11 ) (B−12)と表1の記載によれば,当該ゲッタリング処
,
14 3 13
理して得られた窒素ドープ量が3×10 atoms/cm ,3×10 atoms/
3 12 3
cm ,2×10 atoms/cm 及び無しのシリコン単結晶ウエハの無欠陥層深さを,
TZDB(Time Zero Dielectric Breakdown)及びTDDB(Time Dependent Dielectr
14 3
ic Breakdown)にて評価した場合,窒素ドープ量が3×10 atoms/cm 及び3
13 3 12 3
×10 atoms/cm のものが同2×10 atoms/cm 及び無しのものに比べ
ウエハの無欠陥層深さがより深いことが記載され,このように,ゲッタリング熱処理前のシリ
14 3
コン単結晶ウエハにつき ,甲4発明aにおける窒素濃度が3×10 atoms/cm 及び3
13 3
×10 atoms/cm のものが,ゲッタリング熱処理後の無欠陥層深さを深くする点で
更に優れたものであることが示されるものである。
以上のことから,ゲッタリング熱処理後のシリコン単結晶ウエハの無欠陥層深さを深くする
12
観点から,同熱処理前のシリコン単結晶ウエハの窒素濃度を,少なくとも1×10 ∼1
15 3
×10 atoms/cm の範囲とすること,そして,同観点から,甲4発明aにおける窒
14 3 13 3
素濃度が3×10 atoms/cm 及び3×10 atoms/cm のものが,ゲッタ
リング熱処理後の無欠陥層深さを深くする点で更に優れたものであることが示されるものであ
る。
そうすると,甲4発明aでは,ゲッタリング熱処理前のシリコン単結晶ウエハの窒素濃度と
13
して,ゲッタリング熱処理後の無欠陥層深さを深くする点で有利な,3×10 atoms/
3 14 3
cm ∼3×10 atoms/cm の範囲の数値が実質上示されているといえるものであ
る。
そこで,改めて,甲4発明aの該シリコン単結晶ウエハの窒素濃度と本件発明1のその濃度
14 3 14 3
とを比べると,両者は,1×10 atoms/cm ∼3×10 atoms/cm (但
14 3
し,3×10 atoms/cm を除く)である点で重複し,一致することが明らかである 。
そうすると,この窒素濃度に関する特定事項については,両者の実質上の相違点とはなり得
ないものである。
したがって,本件発明1は,甲4に記載された発明aと同一である 。
」
4-1-2 本件発明2について
(1) 甲4発明aと本件発明2の対比
「 甲4発明aと本件発明2とは )
( 「CZ法で製造され,窒素を含有する熱処理用シリコンウ
エハに非酸化性熱処理を施した,半導体デバイス用シリコンウエハ(但し,エピタキシャルウ
エハを除く )」である点で一致し,以下の点で相違する。
【相違点C】該CZ法につき,本件発明2では ,「V/G1(V:引上速度,G1:固液界面
2
近傍の温度勾配)を0.13∼0.4mm /min℃とする」のに対して,甲4発明aでは
そのことが明示されない点
14
【相違点D】当該窒素の含有量につき,本件発明2では ,
「窒素濃度が1×10 atoms
3 14 3
/cm から4×10 atoms/cm の範囲内にある」とするのに対して,甲4発明a
ではそのことが明示されない点
【相違点E】該非酸化性熱処理が,本件発明2では ,
「水素,アルゴン,若しくは,水素及び
アルゴンの混合ガス(但し,水素50%及びアルゴン50%を除く)雰囲気下で」実施される
のに対して,甲4発明aではその雰囲気が明示されない点」
(2) 相違点の検討
「以下,上記相違点につき検討する。
【相違点Cについて】
…の相違点Aの箇所で説示したとおり,甲4発明aでは,その単結晶棒を製造する際のV/
2
G1は,当該周知・慣用のV/G1の数値0.13∼0.4mm /min℃を含むものであ
る。
そうであれば,本件発明2が相違点Cに係る特定事項を具備することは,両者の実質上の相
違点とはなり得ない。
【相違点Dについて】
…の相違点Bの箇所で説示したとおり,甲4発明aでは,ゲッタリング処理前のシリコン単
結晶ウエハの窒素濃度として ,ゲッタリング熱処理後の無欠陥層深さを深くする点で優位な ,3
13 3 14 3
×10 atoms/cm ∼3×10 atoms/cm の範囲の数値が,実質上,示さ
れているといえるものである。
そして,甲4発明aのシリコン単結晶ウエハの窒素濃度と本件発明2のその濃度とを比べる
14 3 14 3
と,両者は,1×10 atoms/cm ∼3×10 atoms/cm である点で一致
し,したがって,この窒素濃度に関する特定事項は,両者の実質上の相違点とはなり得ないも
のである。
【相違点Eについて】
甲4発明aのゲッタリング熱処理(非酸化性熱処理)とは,甲4の前記摘示(B−7)によ
れば ,「主に不純物酸素の外方拡散によるシリコン単結晶ウエハ表面近傍の結晶欠陥の消滅を
目的とする 」ものであって,甲4発明aで用いられる水素50%とアルゴン50%からなるゲッ
タリング熱処理雰囲気は,上記意味で用いられるものであり,その成分に限定されなければな
らないものではない。このことは,例えば,甲4の前記(B−9)により,ゲッタリング熱処
理を水素ガス100%雰囲気で実施していることからみても妥当なことである。
そして,シリコンウエハ又はシリコン基板につき,不純物酸素の外方拡散により表面近傍の
結晶欠陥を消滅させる場合,その熱処理雰囲気に,水素及びアルゴン雰囲気を同効のものとし
て用いることは周知・慣用の事項〔必要ならば ,甲5の前記摘示(C−2)∼(C−4) 甲6
,
の同(D−2 ) (D−4)及び(D−5 )
, ,等を参照〕となっている。更に,当該不純物酸素
の外方拡散における水素及びアルゴン雰囲気が同効のものとして周知・慣用となっているので
あるから,その混合ガスの雰囲気を用いることも水素又はアルゴンの雰囲気と同効のものとし
て同様に周知・慣用となっているということができる。
してみれば,甲4発明aにおいては,ゲッタリング熱処理の雰囲気として,水素50%とア
ルゴン50%からなる雰囲気を,同効の雰囲気である水素,アルゴン,若しくは,水素及びア
ルゴンの混合ガス(水素50%とアルゴン50%を除く)雰囲気に置換し得ることは自明なこ
ととして把握できるものである。
そこで,そのように置換した場合に,改めて,甲4発明aのゲッタリング熱処理の雰囲気と
本件発明2の非酸化性熱処理の雰囲気とを比べると,両者は,水素,アルゴン,若しくは,水
素及びアルゴンの混合ガス(水素50%とアルゴン50%を除く)雰囲気である点で一致する
ことが明らかである。
そうすると,この雰囲気成分に関する特定事項は,両者の実質上の相違点とはなり得ないも
のである。
したがって,本件発明2は,甲4に記載された発明aと同一である 。
」
4-2 理由その2
4-2-1 本件発明1について
(1) 甲4に記載された発明
「…甲4には,
「MCZ法を含むチョクラルスキー法により育成されたシリコン単結晶棒をスライスして得
12 15 3
た窒素濃度が1×10 ∼1×10 atoms/cm であるシリコン単結晶ウエハに,
ゲッタリング熱処理が施されてなるシリコン単結晶ウエハ」に関する発明(以下,必要に応じ
て,「甲4発明b」という)が記載されている 。
」
(2) 甲4発明bと本件発明1との対比
「 甲4発明bと本件発明1とは , 「CZ法若しくはMCZ法で製造され,窒素を含む熱処
( )
理用シリコンウエハに熱処理を施した ,半導体デバイス用シリコンウエハ(但し ,エピタキシャ
ルウエハを除く)」である点で一致し,次の点で相違する。
【相違点a】該CZ法につき,本件発明1では ,「V/G1(V:引上速度,G1:固液界面
2
近傍の温度勾配)を0.13∼0.4mm /min℃とする」のに対して,甲4発明bでは
そのことが明示されない点
14 3
【相違点b 】窒素の含有量につき ,本件発明1では , 窒素濃度が1×10
「 atoms/cm
14 14 3
から4×10 atoms/cm3の範囲内(但し,3×10 atoms/cm を除く)
にある」のに対し,甲4発明bではそのことが明示されない点
【相違点c】施される熱処理が,本件発明1では ,
「非酸化性」であるのに対して,甲4発明
bではそのことが明示されない点」
(3) 相違点の検討
「以下,上記相違点につき検討する。
【相違点aについて】
…CZ法によりシリコン単結晶を形成する場合において ,「V/G1(V:引上速度,G1
2
:固液界面近傍の温度勾配)を0.13∼0.4mm /min℃とする」ことは,本件出願
時において通常採用される周知・慣用の事項に外ならないものである。
そして,甲4発明bにおいては,そのシリコン単結晶ウエハは単結晶棒を経て形成されるも
のであるが,その単結晶棒を製造する際のV/G1値の選定については特段制限を受けるもの
ではない。
そうであれば,甲4発明bの単結晶棒につき,それを製造する際のV/G1は,当該周知・
2
慣用のV/G1の数値0.13∼0.4mm /min℃を含むということができる。
してみれば,本件発明1が相違点aに係る特定事項を具備することは,両者の実質上の相違
点とはなり得ない。
【相違点bについて】
14 3
本件発明1の熱処理用シリコンウエハの窒素含有量は 1×10
「 atoms/cm から4
14 3 14 3
×10 atoms/cm の範囲内(但し,3×10 atoms/cm を除く )
」である
12 15
が,甲4発明bのシリコン単結晶ウエハにおける窒素濃度は ,
「1×10 ∼1×10 at
3 14 3 14
oms/cm 」であって,両者の窒素濃度は「1×10 atoms/cm ∼4×10
3 14 3
atoms/cm (但し,3×10 atoms/cm を除く )」である点で一致するもの
であり,この点で,両者は同一であるといえる。
但し,被請求人は,本件発明1では,当該特定事項を具備する点で,甲4発明bに対して,
いわゆる選択発明を構成する旨,実質上,主張していると認められるので,この主張について
も検討する。
(1) 訂正明細書の段落【0016 】,段落【0039 】,表1,表2,図1及び図2の記載
によれば,本件発明1では,当該特定事項を具備することにより,その表面部及びその3μm
深部において,酸化膜耐圧試験による良品率が95%以上と優れ,且つ,定電流TDDB試験
で正常値を示す半導体デバイス用のシリコンウエハを得ることができたとされるものである。
しかし,上記の酸化膜耐圧試験及び定電流TDDB試験においては,訂正明細書の段落
【0003 】 【0006】 【0009】及び【0021】の記載によれば,半導体デバイス用
, ,
のシリコンウエハの表面部及びその3μm深部における欠陥密度の多寡をみるに過ぎないもの
である。そうであれば,本件発明1の窒素濃度に関する当該特定事項は,半導体デバイス用の
シリコンウエハの表面部及びその3μm深部における欠陥密度を低減させただけのものである
ということに帰結するものである。
12
(2) これに対して,甲4の前記摘示(B−8)によれば,ウエハの窒素濃度が1×10
15 3
∼1×10 atoms/cm の範囲であれば,結晶欠陥のサイズを十分に小さくすること
ができ,ゲッタリング熱処理後の無欠陥層深さを深くすることができることが記載され,この
ように,甲4発明bは,熱処理後のシリコン単結晶ウエハにつき,その無欠陥層深さを深くす
12 15 3
るためにシリコン単結晶ウエハの窒素濃度として1×10 ∼1×10 atoms/cm
の範囲を選定するものである。
この場合,無欠陥層深さを深くすることは,甲4の「これらの結晶欠陥はデバイスが形成さ
れるウエハの表層部に存在すると,デバイス特性を劣化させる有害な欠陥となるので,このよ
うな結晶欠陥を低減し,十分な深さを有する無欠陥層(DZ)を表層部に有するウエハを作製
することが望ましい 。 (2欄32∼36行)の記載からみて明らかなとおり,その表層部分の
」
結晶欠陥だけでなく十分な深さの部分の結晶欠陥についても低減化させることを意味するもの
である。
そうであれば,本件発明1と甲4発明bとの窒素濃度の数値は,共に,シリコンウエハの表
面部とその深部における欠陥密度を低下させる観点から設定されたものであり,その数値の設
定目的において相違するものではない。
(3) 次に,甲4の前記(B−11 )(B−12 )
, ,表1と図1の記載によれば,甲4発明b
においては,当該ゲッタリング熱処理して得られたシリコン単結晶ウエハにつき,本件発明1
の評価方法と同様ないしは類似するTZDB(Time Zero Dielectric Breakdown)及びT
DDB(Time Dependent Dielectric Breakdown)にて評価したものであるが,特に,その
14 3 13 3
表1によれば,窒素ドープ量が3×10 atoms/cm ,3×10 atoms/cm
12 3
及び2×10 atoms/cm のシリコン単結晶ウエハが示され,その中の窒素ドープ量
14 3 13 3
が3×10 atoms/cm のもの無欠陥層深さが,同3×10 atoms/cm 及
12 3
び2×10 atoms/cm のものに比べ向上していることが示され,このように,甲4
14 3
発明bにおけるシリコン単結晶ウエハの窒素濃度が3×10 atoms/cm が,ゲッタ
リング熱処理後の無欠陥層深さを深くする点でより一層良好なもの(ないしは最良のもの)で
あることが示されるものである(特に,表1を参照 )。このことからみれば,甲4発明bにお
14 3
けるシリコン単結晶ウエハの窒素濃度3×10 atoms/cm とその数値を挟む2
14 3 14 3 14
×10 atoms/cm ∼4×10 atoms/cm 程度(ないしは1×10 at
3 14 3
oms/cm ∼4×10 atoms/cm )の範囲のものが略同様に,無欠陥層深さを
深くする点で一層良好なものであって,その表層部だけでなく十分な深さまで結晶欠陥をより
低減化させることができることが無理なく予測できるものである。
そうすると,訂正明細書の上記の酸化膜耐圧試験及び定電流TDDB試験を表す表1 ,表2 ,
14 3
図1及び図2の記載によれば,仮に,その窒素濃度が1×10 atoms/cm から4
14 3
×10 atoms/cm の範囲内のものは,他の数値のものに比べてシリコンウエハの表
面部及びその3μm深部における欠陥密度を低減させたことが示されるとしても,その効果の
顕著性は甲4発明bで開示されるものを超えないということができる。
(4) 以上のとおり,本件発明1と甲4発明bは,その窒素濃度の数値範囲が元々互いに重
複・一致するだけでなく,その数値限定の目的及び効果においても実質上の差異はないもので
あり,したがって,熱処理用シリコンウエハの窒素含有量に関するこの特定事項を具備する点
で本件発明1が甲4発明bに対して選択発明を構成するといえるものでもなく,結局,当該特
定事項は,実質上の相違点とはなり得ないものである。
【相違点cについて】
甲4発明bのゲッタリング熱処理(非酸化性熱処理)の雰囲気として,水素50%とアルゴ
ン50%であるものだけでなく,甲4の前記摘示(B−9)によれば,水素ガス100%雰囲
気が選定できるものである。
更に,そのゲッタリング熱処理とは,同(B−7)によれば ,「主に不純物酸素の外方拡散
によるシリコン単結晶ウエハの表面近傍の結晶欠陥の消滅を目的とする」ものであるのである
から,その雰囲気は,上記したものに限られないものである。そして,シリコンウエハ又はシ
リコン基板につき,不純物酸素の外方拡散による表面近傍の結晶欠陥の消滅する場合,その熱
処理雰囲気成分として,水素及びアルゴンは同効のものであって共に雰囲気ガスとして採択さ
れることは周知・慣用の事項〔必要ならば,甲5の前記摘示(C−2)∼(C−4 ),甲6の
同(D−2 ) (D−4)及び(D−5 )
, ,等を参照〕となっている。そしてまた,当該不純物
酸素の外方拡散における水素又はアルゴン雰囲気が周知・慣用となっているのであるから,そ
の混合ガスの雰囲気も水素又はアルゴンの雰囲気と同効のものとして同様に周知・慣用となっ
ているということができる。
してみれば,甲4発明bにおいては,ゲッタリング熱処理の雰囲気に,水素,アルゴン,若
しくは,水素及びアルゴンの混合ガス雰囲気が,実質上,含まれるものである。この場合,当
該雰囲気は非酸化性であることはいうまでもない。
そこで,改めて,本件発明1の熱処理と甲4発明bのゲッタリング熱処理とを比べると ,甲4
発明bにおけるものは水素,アルゴン,若しくは,水素及びアルゴンの混合ガス(水素50%
及びアルゴン50%を除く)雰囲気で非酸化性ということができるものであって,両者は一致
する。
そうすると,相違点cに係る熱処理条件に関する特定事項は,両者の実質上の相違点とはな
り得ないものである。
したがって,本件発明1は,甲4に記載された発明bと同一である 。
」
4-2-2 本件発明2について
(1) 甲4発明bと本件発明2との対比
「CZ法若しくはMCZ法で製造され,窒素を含む熱処理用シリコンウエハに熱処理を施し
た,半導体デバイス用シリコンウエハ(但し,エピタキシャルウエハを除く )」である点で一
致し,次の点で相違する。
【相違点d】該CZ法につき,本件発明2では ,「V/G1(V:引上速度,G1:固液界面
2
近傍の温度勾配)を0.13∼0.4mm /min℃とする」のに対して,甲4発明bでは
そのことが明示されない点
【相違点e】熱処理用シリコンウエハの窒素の含有量につき ,本件発明2では , 窒素濃度が1
「
14 3 14 3
×10 atoms/cm から4×10 atoms/cm の範囲内にある」のに対し,
甲4発明bではそのことが明示されない点
【相違点f】施される熱処理が,本件発明2では ,
「水素,アルゴン,若しくは,水素及びア
ルゴンの混合ガス(但し,水素50%及びアルゴン50%を除く)雰囲気下で非酸化性」熱処
理であるのに対して,甲4発明bではそのことが明示されない点」
(2) 相違点の検討
「以下,上記相違点につき検討する。
【相違点dについて】
…相違点aの箇所で説示したとおり,甲4発明bにおいては,単結晶棒につき,それを製造
2
する際のV/G1は,周知・慣用のV/G1の数値0.13∼0.4mm /min℃を含む
ということができる。
してみれば,本件発明2が相違点dに係る特定事項を具備することは,両者の実質上の相違
点とはなり得ない。
【相違点eについて】
14 3
本件発明2の熱処理用シリコンウエハの窒素含有量は 1×10
「 atoms/cm から4
14 3
×10 atoms/cm の範囲内」であるが,甲4発明bのシリコン単結晶ウエハにおけ
12 15 3
る窒素濃度は ,「1×10 ∼1×10 atoms/cm 」であって,両者の当該窒素濃
14 3 14 3
度は「1×10 atoms/cm ∼4×10 atoms/cm 」である点で一致する
ものであり,この点で,両者は同一であるといえる。
また,…相違点bの箇所で説示したとおり,本件発明2と甲4発明bは,その窒素濃度の数
値範囲が互いに重複・一致するだけでなく,その数値限定の目的及び効果においても実質上の
差異はないものであり,したがって,熱処理用シリコンウエハの窒素含有量に関するこの特定
事項を具備する点で本件発明2が甲4発明bに対して選択発明を構成するといえるものでもな
く,結局,当該特定事項は,実質上の相違点とはなり得ないものである。
【相違点fについて】
…相違点cの箇所で説示したとおり,甲4発明bにおいては,ゲッタリング熱処理の雰囲気
に,水素及びアルゴン雰囲気が,実質上,含まれ,また,その水素とアルゴンが同効のもので
あるとされるのであるその混合ガスの雰囲気も,実質上,含まれるものである。
そこで,改めて,本件発明2と甲4発明bとを比べると,両者の熱処理は ,
「水素,アルゴ
ン,若しくは,水素及びアルゴンの混合ガス(但し,水素50%及びアルゴン50%を除く)
雰囲気下で非酸化性」熱処理である点で両者は一致するものである。
そうすると,相違点fに係る熱処理に関する特定事項は,両者の実質上の相違点とはなり得
ないものである。
したがって,本件発明2は,甲4に記載された発明と同一である 。
」
5 被請求人の主張について
「(1) 被請求人は ,「甲5と甲6には,窒素ドープしたシリコンウエハの熱処理に関する記
載がないところ,ウエハ内の窒素濃度や熱処理雰囲気が処理後のウエハに及ぼす影響が本件特
許の出願時に必ずしも明らかでないのであるから,極めて容易との主張は失当である 。 (平
」
成16年9月24日付け審判事件答弁書10頁24∼28行等)と,甲5及び6には窒素ドー
プしたシリコンウエハの熱処理に関する記載がなく,当該甲5及び6に記載される技術を甲3
に記載の発明に適用することは容易でない旨主張する。
しかし,甲3には ,その半導体ウエハにおいて ,その前記摘示 A−1 ) A−2) A−5)
( ,
( ,
(
及び(A−6)によれば,そこでの請求項1のように単結晶を早く冷却することにより欠陥の
サイズを微少化した場合にあっても,また,そこでの請求項2のように窒素をドープすること
により欠陥のサイズを微少化した場合にあっても,いずれの場合も,アニーリングにより表面
近傍の領域における欠陥密度の低減化が実現できることが明示されるものであり ,そして ,甲3
の他の記載をみても,半導体ウエハ中の窒素の有無に応じてアニーリングの雰囲気を異ならせ
ることなど記載されるものではない。そうすると,甲3に記載される発明においては,その半
導体ウエハに窒素が存在するか否かにかかわりなく,原則,同一の条件でアニーリングが実施
されることが示されているといえる。
してみれば,甲5及び6に記載のものでは,アニーリング雰囲気が窒素を含有しないシリコ
ンウエハにつき教示するものではないとしても,少なくとも甲5及び6には窒素を含有しない
場合のアニーリング雰囲気が記載され ,そして ,甲3における半導体ウエハのアニーリングは ,
その半導体ウエハに窒素が存在するか否かにかかわりなく,原則,同一条件で実施されるとい
うものであるから,当業者であれば,低欠陥密度のシリコンウエハを得るために,この甲5及
び6で示される技術を甲3に記載の窒素を含有するシリコンウエハに適用することは当然のこ
とである。したがって,被請求人のこの主張は合理的でない。
(2) 被請求人は ,上記(1)に続いて, 甲3の実施例3では,酸素/窒素雰囲気中でアニー
「
リングを行い,図6のような結果を得ているので,アルゴンあるいは水素雰囲気(非酸化性雰
囲気)を選択することが極めて容易であるとの主張は失当である 。(平成16年9月24日付
」
け審判事件答弁書10頁28行∼11頁2行,等)と主張するので,以下に,甲3の実施例3
の記載を考慮した場合のアニーリング雰囲気の選択につき検討する。
甲3の実施例3では,半導体デバイス用のシリコンウエハでは特殊ともいえる 必要ならば ,
(
甲7の68頁2∼3行の記載,等を参照)フロートゾーン法(FZ法)を経てシリコンウエハ
を製造していることから,そこで得られたシリコンウエハは,その酸素濃度が低いものとなっ
ている(必要ならば,甲3の1欄38∼41行,同2欄8∼13行,同6欄32∼33行 )。
そして,この実施例3では,このような酸素濃度の低いシリコンウエハにつき試験されたもの
であるから ,あえて酸素を含むアニーリング雰囲気(窒素は非酸化雰囲気といえるものであり ,
また,酸素の濃度も示されない)で処理したものと解し得るものである。
その上,甲3の実施例3及び図6では,酸素/窒素雰囲気でアニーリングした場合に欠陥密
度の低減化が実現できたことが示されるだけであって,そこでは,窒素を含有するFZ法又は
CZ法によるシリコンウエハに対して水素又はアルゴン雰囲気のアリーリングを施した場合に
は,意図した欠陥密度の低減化が実現できないことまでが示されるものでない。
そうであれば,甲3の実施例3の記載は,窒素を含有するFZ法によるシリコンウエハにつ
き,酸素/窒素雰囲気でアニーリングしたことが示されるとしても,このことからそれ以上の
ことを導き出すことはできない。
これに対して,CZ法によるシリコンウエハでは,前記摘示(A−10)によれば,アルゴ
ン雰囲気が適用されるものであり,更に,前記摘示(A−9)によれば,シリコンウエハのア
ニーリング雰囲気として水素又はアルゴンが重ねて(酸素又は酸素/窒素混合物よりも上位の
ものとして)推奨されるものであり,そうであれば,甲3に記載の発明においてCZ法による
窒素含有シリコンウエハにアニーリングを施す場合に,少なくとも水素又はアルゴン雰囲気を
用いることは当業者にとって自明のことであるといえる。
更に,甲5及び6に記載されるアニーリングないしは熱処理と甲3に記載されるアニーリン
グとは,共に,シリコンウエハの表面近傍(ないしは表層近傍)領域における欠陥密度を低減
化することを意図するものであって,その目的は実質上同一であるから,シリコンウエハをア
ニーリングする場合,甲5及び6に記載される水素又はアルゴンの熱処理雰囲気を参酌するこ
とは当然のことであり,このことを加味すれば,甲3に記載の発明においてCZ法による窒素
含有シリコンウエハのアニーリングに際し,水素又はアルゴン雰囲気を用いることはより一層
自明であるといえる。
(3) 被請求人は,「本件発明が,当業者が思いもよらなかった窒素添加の弊害の存在及びこ
れを防止するための上限数値の存在を新たに発見した 」(平成17年8月22日付け審判事件
答弁書16頁14∼15行)及び「本件発明には,それまで意識されていなかった窒素添加に
は弊害があることを新たに知見し,かかる弊害を防止しうる上限範囲を導き出したという独自
の技術的意義がある 」(平成17年8月22日付け審判事件答弁書21頁1∼3行)と主張す
るので,以下に検討する。
14 3
被請求人の主張する上限とは,シリコンウエハの窒素濃度1×10 atoms/cm ∼4
14 3 14 3
×10 atoms/cm の範囲の4×10 atoms/cm である。
14 3
そして,甲3に記載の発明では ,その窒素濃度を少なくとも1×10 /cm とした上で ,
14 3
その実施例2で3×10 /cm の数値が有効であると確認されるものであり,また,甲4
12 15 3
に記載の発明では,1×10 ∼1×10 atoms/cm とした上で,その実施例で3
13 3 14 3
×10 atoms/cm の数値と3×10 atoms/cm の数値が有効であると確
認されるものであり,このように,甲3及び4のいずれのものにあっても,少なくとも,3
14 14 3
×10 atoms/cm3を含む前後の領域が,すなわち,1×10 atoms/cm
14 3
∼4×10 atoms/cm 内の領域が,半導体デバイス用シリコンウエハに有効である
ことが実質上示されるものである。
そうであれば,被請求人の主張は ,上記有効である領域の範囲外であるところの窒素濃度が4
13 3 14
×10 atoms/cm を越える領域における効果が劣り ,場合によっては ,同1×10
3
/cm 未満領域における効果が劣るということを,ただ,確認したにすぎないということが
できる。
また,そもそも,シリコン単結晶ないしはシリコンウエハ(以下 ,「シリコンウエハ」とい
う)にあっては,窒素は甲3及び4に記載されるとおり有用な成分であるものの,それが,シ
15 3
リコンウエハに固溶限界(5× atoms/cm )近く多量に含有されるとなれば,その
窒素はシリコンウエハにとっては元来不純物ということができることから,他の観点からシリ
コンウエハの物性に悪影響を及ぼすに至ることが容易に予測できるものであり,このことは,
15 3 15
甲3に記載の発明においては,窒素が1.5 atoms/cm 及び3.0 atoms/
3
cm のもの(甲3の実施例3)についてはアニーリングをしておらず,また,甲4に記載の
14 3
発明では,その第4図によれば,窒素濃度が4×10 atoms/cm を越えたところか
らエピタキシャル層表面の積層欠陥密度が増大することからも窺い知ることができる。
したがって,当該シリコンウエハの窒素濃度に関する上限数値又は上限範囲の発見ないしは
知見は,被請求人が主張するように顕著といえるものではない 。
」
第4 原告の主張の要点
1 本件発明の意義について
本件発明は,従来技術では全く認識されていなかった,窒素添加には病理的側面
が存在することを新たに見出してこれを解決することを技術課題とし,かかる窒素
添加による弊害を阻止するという技術課題を解決する手段として,添加できる窒素
の臨界数値を求めるという技術思想を提示するものである。これに対して,甲3等
の引用発明は,いずれも,従前から公知であった窒素添加の生理的側面にのみ着目
し,その効用を生かそうとするものにすぎず,窒素添加による弊害を回避しようと
する思想や,窒素の固溶限界以外の臨界が存在するなどという発想は全く存在しな
かったのであるから,本件発明と従来技術とは,その根本的思想を全く異にしてい
る。
2 無効理由1及び2について
2-1 理由その1(甲3発明aとの対比判断)について
2-1-1 本件発明1について
(1) 取消事由1(甲3発明aの認定の誤り)
審決は,甲3には ,「CZ法で製造されたシリコン単結晶から形成された,窒素
ドープ濃度が少なくとも1×1014atoms/cm3 であるシリコンウエハを,
アニーリングしてなる低欠陥密度シリコンウエハ」に関する発明が記載されている
と認定した。
しかしながら,甲3のシリコン単結晶の製造方法は,CZ法には限定されておら
ず,CZ法とFZ法はいずれでもよいこととされている上(段落【0012 】 ,
)
アニーリングの雰囲気も,非酸化性雰囲気,酸化性雰囲気のいずれでもよいとされ
ている(段落【0017】)のであるから,甲3には,シリコン単結晶の製造方法
及びアニーリングの雰囲気について,審決が認定した方法が記載されているという
ことはできない。
また,甲3には,請求項1に係る発明と,請求項2に係る発明が記載されている
が,これら2つの発明は,窒素の有無により明確に区別され,互いに混同されるも
のではない。甲3の実施例1は,請求項1に係る発明の実施例であり,実施例3は,
請求項2に係る発明の実施例である。それ以外の実施例は,必須の発明特定事項を
欠いているので,いずれの発明の実施例ともなり得ない。
実施例1は,CZ法を採用し,結晶の850℃∼1100℃の範囲の温度におけ
る保持時間を80分未満とし,温度1200℃,アニーリング時間を2時間として,
アルゴン雰囲気中でシリコンウエハをアニーリングしたものであり,実施例3は,
FZ法を採用し,窒素濃度2.5 × 10 /cm ,酸素/窒素雰囲気中1200
14 3
℃で3時間アニーリングしたものである。
審決は,請求項2に基づいて甲3発明aを認定し,CZ法,窒素ドープ,アニー
リングを含むとしているが,この認定は誤りであり,正しくは,FZ法,窒素ドー
プ,酸素/窒素雰囲気アニーリングである。
(2) 取消事由2(相違点認定の誤り)
ア 相違点1の認定の誤り
審決は,本件発明1と甲3発明aとの間には,本件発明1では「V/G1(V:
引上速度,G1:固液界面近傍の温度勾配)を0.13∼0.4mm2/min℃と
する」のに対して,甲3発明aではそのことが明示されないという相違点があると
認定するが,相違点1は,明示されていないのではなく,考慮されていないのであ
り,両者は技術的な意義が異なる。
イ 相違点2の認定の誤り
審決は,本件発明1と甲3発明aとの間には,施される熱処理が,本件発明1で
は「非酸化性」熱処理であるのに対して,甲3発明aではそのことが明示されてい
ないとの相違点があるとするが,相違点2は,明示されていないのではなく,「非
酸化性でも酸化性でもいずれでもよい」と明記されているのであり,両者は技術的
な意義が異なる。
ウ 相違点3の認定の誤り
審決は,相違点3についても,本件発明1の数値範囲が 非酸化性アニーリング 」
「 ,
「CZ法」という限られた構成を前提とした数値であるのに対し,甲3発明aの数
値が「酸化性アニーリング」及び「FZ法」をも前提とした数値であることを看過
して認定したものである。
(3) 取消事由3(相違点の判断の誤り)
ア 相違点1の判断の誤り
審決は,甲3発明aにおいて,その原材料であるシリコン単結晶を製造する際に,
V/G1として,甲10,11,14に示されている公知の数値を適用して,本件
発明1のようにすることは当業者にとって何らの困難も伴わないと判断している。
しかしながら,甲10等では,窒素添加されないシリコンウエハの製造方法に言
及しているところ,その具体例のほとんどが0.13∼0.4mm 2/min℃の
範囲内に入っていたとしても,当該範囲に含まれないものもあるのであるから,本
件発明1のV/G1の数値は当業者が容易に想到し得たものということはできな
い。
イ 相違点2の判断の誤り
審決は,甲5,6に言及しつつ,「シリコンウエハないしはシリコン基板の表層
近傍の欠陥を低減化するための熱処理ないしはアニール雰囲気として水素又はアル
ゴン雰囲気を採用すること,且つ,その水素又はアルゴン雰囲気が他の雰囲気であ
る酸素等の雰囲気よりも有効であることは周知・慣用の事項」(審決書23頁9行
∼12行)であるから,相違点2は実質的な相違点とは認められないとする。
しかし,甲3発明aの実施例である実施例3は,FZ法により窒素ドーピングが
行われ,酸素/窒素雰囲気中でアニーリングされているので,本件発明1のように
非酸化熱処理ではない。したがって,実施例1のような場合は ,「水素又はアルゴ
ンが,好ましい」としても,実施例3においては, 水素又はアルゴンが,好まし」
「
いということはできない。
甲3発明aの実施例は,実施例3のみであるから,甲3発明aは,本件発明1の
ように非酸化熱処理ではなく,酸化熱処理に特徴があることを核とする発明でなけ
ればならないのであるから,酸化熱処理を前提としていない甲5及び6に記載され
ている技術常識とは完全に矛盾するものである。
以上のとおり,審決の「甲3発明aのアニーリングと本件発明1の『非酸化性』
熱処理とは相違するとはいえず,実質上の相違点とはなり得ない」との認定判断は
誤りである。
ウ 相違点3の判断の誤り
審決は,相違点3についての《検討1》において,甲3発明aでは「表面近傍の
領域において欠陥密度の低い低欠陥密度シリコンウエハを得る過程で,シリコンウ
エハに存在する結晶欠陥の欠陥サイズを微細化するために,そのシリコンウエハの
窒素濃度(窒素ドーピング濃度)を少なくとも1×1014/cm3とすることが示
される。この場合,甲3発明aはCZ法で製造したシリコンウエハに関するもので
ある。(審決書23頁下から3行∼24頁2行)と判断する。
」
しかしながら,甲3発明aは「CZ法により製造したシリコンウエハに関するも
の」ではなく,FZ法,窒素有り,熱処理雰囲気酸素/窒素を特徴とする実施例3
と同一の技術的思想に関するものである。また,本件発明1の相違点3にかかる数
値は,相違点2を前提として初めて意味を持つ数値であり,CZ法に限られておら
ず,非酸化性雰囲気にも限られていない甲3発明aの数値と同列に論ずることはで
きない。さらに,甲3発明aの数値のうちの下限値は,本件発明1のように表面及
び表層から3μmの深さのところにおいて,95パーセントの良品率を確保するた
めの下限値として規定されたものでもない。したがって,甲3に,本件発明1と同
じような意義を有するものとして,「少なくとも1×1014atoms/cm3」と
いう濃度が示されているという審決の認定は誤りである。
審決は,甲3の実施例2において窒素濃度が3×1014atoms/cm 3であ
る場合が示されていることを根拠として,上限についても示されているかのように
認定判断しているが,甲3の実施例2は,甲3発明aの実施例ではない。このよう
な審決の判断は,本件発明1の構成を知った後の事後的観点から,窒素添加の上限
数値があるとの課題を発見することまでも容易であったとするものであり,許され
ない認定判断の手法である。
本件特許の出願時点においては,窒素を添加すればするほど欠陥サイズが縮小す
るため,できる限り窒素を添加することが技術常識であったのであり,そこには,
窒素添加の上限数値を求めようとする思想など存在しなかった。したがって,結晶
欠陥の試験方法がどんなに周知・慣用技術であったとしても,これを用いて,窒素
添加の上限数値を求めようとする発想など存在しなかったのである。
実際,甲4においても,TZDBやTDDBといったシリコンウエハの欠陥を試
験する方法が記載されているにもかかわらず,窒素添加の弊害を防止しうる上限数
値を探ろうなどという考えは記載されていない。甲4には ,「ドープする窒素の濃
度は,…,またシリコン単結晶中の固溶限界である5×1015atoms/cm3t
を越えると,シリコン単結晶の単結晶化そのものが阻害されることがあるので,こ
の濃度を越えないようにすることが望ましい。 (段落【0029】
」 )と記載されて
いるが,窒素濃度の上限値は,固溶限界である5×1015atoms/cm 3であ
ることを当然の前提とする記載にすぎず,窒素添加の弊害を防止し得る上限値を探
ろうという発想が示されているわけではない。
審決は,《検討1》において,「CZ法により製造したシリコンウエハにおいてそ
の窒素濃度が3×10 14 atoms/cm 3である場合には結晶欠陥につきそのサ
イズ分布が微細化したことが明示される」(審決書24頁3∼6行)として,甲3
発明aの実施例ではない実施例2に基づいて,甲3発明aの窒素濃度の上方の値の
例であるとしているが,この認定判断は明らかに誤っている。仮に,この値を上方
の値として,その窒素濃度の範囲を考えるならば,それはアニーリングを行わない
シリコンウエハについて,結晶欠陥のサイズ分布を微細化するための窒素濃度の上
方の値にすぎず,アニーリングを行うことを前提とする甲3発明aの窒素濃度の上
方の値を示すものではない。
甲3の実施例2は,アニーリングを行っていないので,甲3には,CZ法による
シリコンウエハの窒素濃度の範囲として,1×1014/cm3∼3×1014/cm 3
の数値が実質示されているとはとてもいえず,上方の数値としてあえて使用するな
らば,実施例3の2.5×10 14/cm 3の値であり,このときは,FZ法による
製造及び酸素を含むアニーリング雰囲気での数値となる。
甲4記載の発明において,窒素濃度の上限について言及されているのは,請求項2
及び3だけであり,請求項2に係る発明では,窒素濃度が1×1012∼1×1015
atoms/cm3であり,請求項3に係る発明では,窒素濃度が1×10 13∼1
×10 14 atoms/cm3である。請求項2及び3で,上限として述べられてい
るのは,1×1015atoms/cm3及び1×1014atoms/cm 3のみであ
る。このうち,1×10 15 atoms/cm 3 は,実質的に固溶限を示唆し,1
×10 14 atoms/cm3は,本件発明1下限の値であり,本件発明1の上限の
値にはなり得ない。したがって,いずれの上限も,本件発明1の上限を示すもので
もなければ,暗示するものでもない。
以上によれば,相違点3について,実質上の相違点とはなり得ないものであり,
また,当業者が困難なく容易になし得るものであるとした審決の認定判断は,誤り
である。
エ 予期し得ない顕著な作用効果
本件発明における窒素濃度の数値限定(特に上限値)は,TDDBの生データを
直接精査することによって認識されたウエハへの窒素添加に伴う弊害,すなわち,
異常な素子の電界の経時変化を防止するという従来技術からは予測し得なかった作
用効果を有するものである。本件特許の発明は, 4×10 14 atoms/cm 3
以下の濃度の窒素を含有する窒素ドープウエハが,異常の素子の発生がなく非酸化
性熱処理用シリコンウエハとして好適であるということを初めて提示したものであ
る。
2-1-2 本件発明2について
審決は,本件発明2についても,本件発明1とほぼ同様の理由により,その新規
性及び進歩性を否定するが,本件発明1についての判断には,前記のとおりの誤り
があるため,本件発明2についての審決の認定判断も誤りである。
2-2 理由その2(甲3発明bとの対比判断)について
2-2-1 本件発明1について
甲3発明bは,窒素を添加すればするほど欠陥のサイズが小さくなり良いシリコ
ンウエハが製造できるという本件特許出願時の技術常識に基づくものであり,窒素
を添加すればするほど良いという本件発明1の着想に到達することが容易ではない
ことを示している。本件発明1に係る特許出願当時,窒素を添加すればするほど欠
陥サイズが小さくなり,欠陥の少ないシリコンウエハが製造できるということが技
術常識であったため,窒素添加には弊害があり,かかる弊害を防止するために窒素
添加に上限を設けるという発想に想到することは困難であった 。審決は,本件発明1
のみならず甲3発明bの技術的意義も全く理解していないため,正反対の結論に
至ってしまったのである。
審決は,シリコンウエハにおいて,窒素が固溶限界近く多量に含有されるとなれ
ば,他の観点からシリコンウエハの物性に悪影響を及ぼすに至ることが容易に予測
できるものであり,このことは,甲3記載の発明において,窒素が1.5×1015
atoms/cm3及び3.0×1015atoms/cm3のものについてはアニー
リングをしていないことからうかがい知ることができると判断している。しかしな
がら,4×10 1 4 atoms/cm 3 の窒素濃度は,固溶限界近くとはいい難
く,1.5×1015atoms/cm3及び3.0×1015atoms/cm3の窒
素濃度と比較することは妥当ではなく,さらに,実施例においてアニーリングが単
にされていないことをもって,そのシリコンウエハの特性を判断できるものでもな
い。
2-2-2 本件発明2について
審決は,本件請求項2に係る本件発明2についても,本件発明1に関する理由と
ほぼ同様の理由により,その新規性及び進歩性を否定するが,この判断は,前記の
とおり誤りである。
3 無効理由3について
3-1 理由その1について
3-1-1 本件発明1について
審決は,本件発明1と甲4発明aとの間には,相違点A,Bは存在するものの,
これらの相違点は実質的な相違点ではないと判断する。
しかし,前記のとおり,本件発明1は,窒素を添加したシリコンウエハの工業的
な製造において好ましい条件を見出したものであり,このような条件は,甲4には
全く記載されていない。また,本件発明1には,それまで意識されていなかった窒
素添加には弊害があることを新たに知見し,かかる弊害を防止しうる上限範囲を導
き出したという独自の技術的意義があるのであり,甲4に,単に,窒素濃度の固溶
限界を上限とする数値が記載されていたとしても,本件発明1を甲4発明aと実質
的に同一ならしめるものではない。また,窒素濃度が3×1013atoms/cm3
及び3×1014atoms/cm3の場合の実験結果がたまたま例示されているか
らといって,上記の数値範囲を見出した本件発明1と実質的に同一となるものでも
ない。
むしろ,表1の実験結果は,窒素濃度を高めれば高めるほど,無欠陥層の深さが
深くなることを表しており,これはまさしく,窒素を添加するほど結晶欠陥の発生
を防止できるという従来技術を示すものであり,本件発明1のような窒素添加の弊
害を防止し得る臨界数値を見出すという技術思想の意外性及び顕著な作用効果を裏
付けるものである。
このように,審決は,本件発明の窒素濃度の数値範囲(上限数値)の技術的意義
及び顕著な作用効果を全く考慮していないものであるから,その判断は誤りである 。
3-1-2 本件発明2について
審決は,本件発明2について,本件発明1とほぼ同様の理由により,その実質的
同一性を否定するが,これについても,前記のとおりの誤りがあるため,取消しを
免れない。
3-2 理由その2について
3-2-1 本件発明1について
審決は,甲4発明bと本件発明1との相違点a∼cを認定した上で,これらの相
違点は実質上の相違点とはなり得ないと判断した。
しかしながら,相違点aについては,甲4発明bに対応する構成はなく,明確な
相違点となっている。
相違点bに関し,本件発明1では,平均欠陥サイズは必ずしも最少ではないが,
非酸化性の熱処理後の酸化膜耐圧特性評価の1つであるTDDBにより評価すれ
ば,窒素の適正範囲は,4×1014atoms/cm3以下であることを新たに見
出したものである。甲4発明bでは,その平均欠陥サイズに注目する従来からの発
想であったために,実質的に固溶限界となる上限値1×1015atoms/cm 3
が提案されているのに対し,本件発明1では,平均欠陥サイズだけでなく,TDD
Bにより評価することにより,従来からの考えからでは想到できない上限値4
×1014atoms/cm 3を見出すことができたのである。審決は,本件発明1
の技術的意義を看過しているため,窒素濃度の数値限定の目的及び効果において実
質的に差異はないと誤って判断したものである 。「1×10 12 atoms/cm 3
∼1×1015atoms/cm3」と「1×1014atoms/cm3∼4×1014
atoms/cm3」は数値をみれば一致するものではない。
相違点cに関し,甲4発明bは,ゲッタリング熱処理の雰囲気として,酸素を含
むものを排除するのではないから,ゲッタリング熱処理は,酸化性もしくは非酸化
性の雰囲気を前提としており,本件発明1の非酸化性雰囲気と同一とはいえない。
以上のとおり,本件発明1と甲4発明bとは同一でないことは明白である。
3-2-2 本件発明2について
審決は,請求項2に係る本件発明2についても,本件発明1に関する理由とほぼ
同様の理由により,実質的同一性を肯定するが,前記のとおり,この認定判断は誤
りであり,審決は取消しを免れない。
第5 被告の主張の要点
1 本件発明の意義について
甲3には,窒素添加によってウエハ中の結晶欠陥を微細化した上でアニーリング
を行えば,表面近傍の領域において低欠陥密度シリコンウエハを得られることが記
載されている。そして,窒素濃度は少なくとも1×1014atoms/cm 3が好
ましいとした上で,実施例2では窒素濃度が3×10 14atoms/cm3である
場合に結晶欠陥のサイズ分布が微細化したことが明示されている。したがって,審
決の指摘するとおり,甲3には窒素濃度を1∼3×1014atoms/cm 3の範
囲とした上でアニーリングすることにより表面近傍の領域において低欠陥密度シリ
コンウエハを得られることが実質的に記載されている。
他方,本件発明では,窒素濃度を1∼4×1014atoms/cm3の範囲とす
ることにより良好な結果が得られるとされているのであるから,本件発明が限定す
る窒素濃度範囲は,甲3で良好とされている範囲を包含するものであり,何ら新し
い範囲を発見したものではない。
甲4についても同様であり,甲4の表1等の記載によれば,窒素ドープ量が3
×1014atoms/cm3及び3×10 13atoms/cm3の単結晶から作成し
て非酸化性雰囲気ゲッタリング処理したシリコン単結晶ウエハが記載され,窒素濃
度を3×1013atoms/cm3∼3×1014atoms/cm3の範囲とするこ
とで,ゲッタリング処理後の無欠陥層深さを深くすることができる点が実質上示さ
れている。
原告は,窒素濃度が4×10 14 atoms/cm 3を超えるとTDDB評価結果
が悪化する点を見出したのが本件発明であるというが,TDDB評価によって窒素
濃度範囲の上限を定めることは当業者が通常に行う数値範囲の好適化にすぎない。
2 無効理由1及び2について
2-1 理由その1(甲3発明aとの対比判断)について
2-1-1 本件発明1について
(1) 取消事由1(甲3発明aの認定の誤り)に対して
甲3のシリコン単結晶の製造方法はCZ法とFZ法の両方を含んでいるのである
から,CZ法を含んでいるのは当然であり,甲3に CZ法で製造された… ,
「 アニー
リングしてなる低欠陥密度シリコンウエハ」に関する発明が記載されているとの審
決の認定には誤りがない。
(2) 取消事由2(相違点認定の誤り)に対して
ア 相違点1の認定について
原告は,本件発明1では ,「V/G1(V:引上速度,G1:固液界面近傍の温度
勾配)を0.13∼0.4mm 2/min℃とする」のに対して,甲3発明aでは ,
そのことが明示されないという相違点1の認定について,相違点1は,明示されて
いないのではなく,考慮されていないと主張するが,いずれにしても相違点として
認定していることに変わりはないのであり,原告の主張に理由はない。
イ 相違点2の認定について
甲3発明aは,請求項2に基づいて認定されたのであるから,相違点2として,
同発明ではアニーリング熱処理が「非酸化性」熱処理であることが明示されていな
い点を相違点と認定したのは当然であり,相違点2の審決の認定に誤りはない。
ウ 相違点3の認定について
相違点3についての審決の認定にも誤りはない。
(3) 取消事由3(相違点の判断の誤り)に対して
ア 相違点1の判断について
甲3には,アニーリングの好ましい雰囲気として,水素又はアルゴンが重ねて推
奨されているので,甲3発明aのアニーリング雰囲気には水素又はアルゴン雰囲気
が最も典型的なものとして含まれている。また,シリコン基板の表面近傍の欠陥を
低減するためのアニール雰囲気として,水素又はアルゴン雰囲気が採用され,かつ
有効であることは周知・慣用の事項である。
このように,甲3の記載内容及び周知・慣用技術のいずれからみても,甲3発明
aのアニーリング雰囲気に,水素又はアルゴン雰囲気を採用することが主たる態様
として含まれるものであるから,甲3発明aと対比して本件発明1が相違点2に係
る特定事項を具備することは両者の実質上の相違点とはなり得ない。さらに,甲3
の記載内容及び周知・慣用技術を参酌し,本件発明1のようにすることは当業者に
とって何らの困難も伴わない。
イ 相違点2の判断について
甲3にはアニーリング(熱処理)において使用される雰囲気として「好ましくは
貴ガス,酸素,窒素,酸素/窒素混合物及び水素からなる群から選択されるガスで
ある。水素又はアルゴンが,好ましい。」と記載され,水素又はアルゴン雰囲気が
最も典型的なものとして挙げられているのであるから,相違点2は,本件発明1と
甲3発明aとの実質上の相違点とはなり得ない。
また,甲3発明aのアニーリング雰囲気を水素,アルゴン,もしくは水素及びア
ルゴンの混合ガス雰囲気とすることは,当業者にとって何らの困難も伴わないもの
である。
原告は,実施例2が甲3発明aの実施例には当たらないと主張する。しかしなが
ら,甲3記載の発明は,溶解物質を凝固して単結晶インゴットにする際に結晶中の
欠陥サイズを小さい欠陥へシフトし(工程(a)),単結晶を加工してシリコンウエハ
を製造し(工程(b)),シリコンウエハにアニーリングを施して結晶欠陥を著しく減
少させる(工程(c))ことにより,シリコンウエハを製造するものである。工程(a)
には,溶解物質を凝固し冷却する際に冷却中の所定温度範囲の保持時間を短くして
急冷却する手段(請求項1,段落【0008】)と溶解物質を凝固し冷却する際に
窒素による単結晶のドーピング手段(請求項2,段落【0009】)が含まれ,工
程(c)のアニーリング(熱処理 )において使用される雰囲気は「好ましくは貴ガス,
酸素,窒素,酸素/窒素混合物及び水素からなる群から選択されるガスである。水
素又はアルゴンが,好ましい。(段落【0017 】
」 )とされている。
甲3の実施例2は,工程(a)(b)までの工程が記載されたものであり,結果として
「窒素ドーピングにより欠陥サイズ分布がより小さい欠陥のほうにシフトしたこと
が分かった」 段落【0019】 と記載されているのであるから ,工程(c)のアニー
( )
リングを施すことによって結晶欠陥を著しく減少させることが可能なことは明らか
である。
実施例3はFZ法を適用して製造され,CZ法を用いた他の実施例に比較して酸
素濃度が低いことは間違いないが,このような酸素濃度の低いシリコンウエハにつ
いて試験を行うに際し,あえて酸素を含むアニーリング雰囲気で処理したものと解
したとしても,当業者の解釈としては不自然ではない。また,実施例3で酸素/窒
素雰囲気でアニーリングされているからといって,窒素を含有するCZ法ウエハに
対して水素又はアルゴン雰囲気のアニーリングを施した場合に,意図した欠陥密度
の低減化が実現できないことまでが示されるものでない。
以上のとおり,甲3発明aのアニーリング雰囲気として水素又はアルゴン雰囲気
を用いることは当業者にとって自明であり,また,甲3発明aのアニーリング雰囲
気として水素又はアルゴン雰囲気を用いることは,甲3の記載に基づいて当業者が
容易になし得ることである。
ウ 相違点3の判断について
甲3には「窒素ドープ濃度が少なくとも1×10 14atoms/cm3である」
ことが記載されていることは明らかであり,審決の《検討1》記載のとおり,甲3
に具体的に示される窒素濃度の数値範囲が,本件発明1の数値範囲に含まれ,重複
しているのであるから,両者の窒素濃度は一致するという審決の判断に誤りはない。
また,甲3発明aの表面近傍の領域において欠陥密度の低い低欠陥密度シリコン
ウエハを得る過程で必要な窒素濃度につき,1×10 14 /cm 3 ∼3×10 14 /
cm 3との数値が,実質上,示されているのであるから,低欠陥密度シリコンウエ
ハが得られる窒素濃度範囲をこの数値範囲からさらに上方に拡大する目的で,TD
DB試験を用いて品質評価を行い,本件発明のように上限数値4×1014atom
s/cm 3を選定することは,当業者が困難なく適宜実施し得ることである。した
がって,審決の《検討2》の結論についても何ら誤りはない。
エ 予期し得ない顕著な作用効果
本件発明1の作用効果は,甲3発明aに基づき予期し得る範囲内であり,顕著な
ものともいえない。
2-1-2 本件発明2について
本件発明1と同様,審決の本件発明2についての認定判断に誤りはない。
2-2 理由その2(甲3発明bとの対比判断)について
2-2-1 本件発明1について
審決の甲3発明b及び相違点イ∼ハの認定には誤りがない。
相違点イは,甲3発明aとの相違点1と同様,実質上の相違点とはなり得ない。
また,甲10,11,14に記載された公知の数値を適用して,本件発明1のよう
な構成にすることは当業者にとって何らの困難も伴わない。
相違点ロに関し,甲3の段落【0019】には,甲3発明bのシリコンウエハの
欠陥サイズ分布について,「窒素ドーピングにより欠陥サイズ分布がより小さい欠
陥の方にシフトしたことが分かった」と記載されており,窒素ドーピング濃度が少
なくとも1×1014atoms/cm3である単結晶については,欠陥サイズ分布
が小欠陥に有利にシフトし,製造方法の前記工程(c)にしたがって処理した後の欠
陥密度は小さいと記載されている(段落【0009 】)のであるから,表面近傍領
域における欠陥密度を低減化することを目的として,甲3発明bのシリコンウエハ
に対してアニーリングを施すことは,当業者が容易に想到できるものである。
相違点ハに関し,甲3発明bにおいて,所望の特性の低欠陥密度シリコンウエハ
を得るために,試験等によりその特性を確認しつつ,本件発明1のような窒素濃度
範囲を選定することは,当業者が困難なく適宜実施し得るものである。
したがって,本件発明1は,甲3,5,6,10,11,14に記載の発明及び
周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2-2-2 本件発明2について
本件発明2と甲3発明bとの対比判断についても,審決には何ら誤りがない。
3 無効理由3について
3-1 理由その1について
3-1-1 本件発明1について
審決は,本件発明1と甲4発明aとの間の相違点A,Bが,いずれも実質的な相
違点ではないと認定した。原告は,審決が,本件発明1の窒素濃度の数値範囲(上
限数値)の技術的意義及び顕著な作用効果を全く考慮していないなどと主張するが,
甲4の表1には,3×1013atoms/cm3及び3×1014atoms/cm3
のものが無欠陥層の深さを深くする点で優れていることが記載されているのである
から,これらの相違点は実質的な相違点ではないとの審決の認定に誤りはない。
3-1-2 本件発明2について
本件発明2についても,本件発明1と同様,審決の認定判断に誤りはない。
3-2 理由その2について
3-2-1 本件発明1について
審決の甲4発明b及び相違点a∼cの認定には誤りがなく,相違点a∼cは,実
質上の相違点とはいえないものである。
3-2-2 本件発明2について
本件発明2についても,本件発明1と同様,審決の認定判断に誤りはない。
第6 当裁判所の判断
1 無効理由1及び2(理由その1)について
1-1 本件発明1について
(1) 取消事由1(甲3発明aの認定の誤り)について
原告は,審決が,甲3発明aを 「CZ法で製造されたシリコン単結晶から形成
された,窒素ドープ濃度が少なくとも1×10 14atoms/cm 3であるシリコ
ンウエハを,アニーリングしてなる低欠陥密度シリコンウエハ」に関する発明と認
定したのは誤りであると主張する。
しかしながら,甲3の請求項2には,「低欠陥密度を有するシリコンウエハの製
造方法であって,a)酸素ドーピング濃度が少なくとも4×1017/cm3であり,
窒素ドーピング濃度が少なくとも1×10 14/cm 3であるシリコン単結晶を調製
し;b)前記単結晶を加工してシリコンウエハを形成し;そしてc)前記シリコン
ウエハを,少なくとも1000℃の温度で少なくとも1時間アニーリングすること,
を特徴とする製造方法。」と記載され,甲3の明細書には,「製造方法を実施するた
めに,単結晶を,CZ法又はFZ法を用いることにより製造する。 (段落
」
【0012 】)と記載されているのであるから,甲3には「CZ法で製造されたシ
リコン単結晶から形成された,窒素ドープ濃度が少なくとも1×10 14atoms
/cm3であるシリコンウエハを,アニーリングしてなる低欠陥密度シリコンウエ
ハ」に関する発明が記載されていると認められる。
これに対して,原告は,甲3のシリコン単結晶の製造方法は,CZ法には限定さ
れていないのであるから,甲3には,シリコン単結晶の製造方法及びアニーリング
の雰囲気について,審決が認定した方法が記載されているということはできないと
主張する。しかしながら,甲3の明細書には,上記摘示のとおり,「製造方法を実
施するために,単結晶を,CZ法又はFZ法を用いることにより製造する。(段落
」
【0012 】)と記載され,いずれの方法も採用し得ることが開示されているので
あるから,甲3発明aには,CZ法で製造されたシリコン単結晶も含まれることは
明らかである。
また,原告は,甲3には,請求項1に係る発明と,請求項2に係る発明が明確に
区別されて記載され,実施例1は請求項1に係る発明の実施例であり,実施例3は
請求項2に係る発明の実施例であると主張する。しかしながら,引用例に記載され
た発明の認定は,必ずしも実施例の構成や方法に限定されるものではなく,特許請
求の範囲や明細書等の記載に基づいて認定することもできるところ,前記判示のと
おり,甲3発明aは,請求項2の記載及び段落【0012】の記載から認定できる
のであるから,審決の同発明の認定に誤りはあるということはできない。
(2) 取消事由2(相違点認定の誤り)について
ア 相違点1の認定について
審決は,本件発明1と甲3発明aの相違点1を, 該CZ法が,本件発明1では ,
「
「V/G1 V:引上速度,
( G1:固液界面近傍の温度勾配 )を0.13∼0 .4mm 2
/min℃とする」のに対して,甲3発明aではそのことが明示されない点」と認
定した。
これに対し,原告は,本件発明1の上記構成は,甲3発明aにおいて,明示され
ていないのではなく,考慮されていないのであるから,審決の相違点1の認定は誤
りであると主張するが,甲3には,甲3発明aが本件発明1の上記構成を備えるか
どうかについての明示的な記載はないのであるから ,「甲3発明aではそのことが
明示されない点」との審決の認定に誤りがあるということはできない。
イ 相違点2の認定について
審決は,本件発明1と甲3発明aの相違点2を , 施される熱処理が,本件発明1
「
では ,「非酸化性」熱処理であるとするのに対して,甲3発明aではそのことが明
示されない点」と認定した。
これに対し,原告は,本件発明1の上記構成は,甲3発明aにおいて,明示され
ていないのではなく ,「非酸化性でも酸化性でもいずれでもよい」と明記されてい
るのであるから,審決の相違点2の認定は誤りであると主張するが,甲3には,熱
処理の雰囲気について,非酸化性でも酸化性でもよいとして,その雰囲気を特定し
ていないのであるから,甲3発明aでは熱処理の雰囲気が「明示されない点」と認
定した点に誤りがあるということはできない。
ウ 相違点3の認定について
審決は,本件発明1と甲3発明aの相違点3を,「該窒素の含有量につき,本件
発明1では,「窒素濃度が1×1014atoms/cm3から4×1014atoms
/cm3の範囲内(但し,3×1014atoms/cm3を除く)にある」というの
に対して,甲3発明aでは上記数値範囲が明示されない点」と認定した。
これに対し,原告は,審決は,甲3発明aの数値が「酸化性アニーリング」及び
「FZ法」を前提とした数値であることを看過していると主張するが,相違点3は
窒素濃度の数値範囲に関するものであり,甲3発明aではその数値範囲は明確には
記載されていないのであるから,この点を相違点とした審決の認定に誤りはない。
(3) 取消事由3(相違点の判断の誤り)について
ア 相違点1の判断について
原告は,相違点1に関し,甲10,11,14に記載された具体例のほとんどの
V/G1が,0.13∼0.4mm 2/min℃の範囲内に含まれるとしても,当
該範囲に含まれないものもあるのであるから,本件発明1のV/G1の数値は当業
者が容易に想到し得たものとはいえないと主張する。
しかし,甲10,11,14には,V/G1相当のものにつき,審決摘示のとお
り,甲10で0.25∼0 .4の範囲 ,甲11で0.26∼0 .28の範囲,甲14
で約0.15∼約0.25の範囲が記載され,加えて,甲11には,審決が「V/
G1(mm2/min℃)」に相当するものとして上記0.26∼0.28の数値を抽
出した「fp/G(mm 2/℃・min)」の具体例を示す表1の記載に加え,特許請
求の範囲には上記fp/G(mm 2/℃・min)を0.25以上とすることの記載が
あるから ,少なくとも, V/G1を0.25mm2/min℃程度とする」ことは,
「
周知慣用といえる。そうすると,相違点1のV/G1の数値範囲は,このような周
知慣用の数値範囲を含む以上,実質的な相違点とはなり得ず,また,
甲10,11,14の上記記載によれば,本件発明1のV/G1の数値は当業者が
容易に想到し得たものであるということができる。
したがって,相違点1についての審決の判断に誤りがあるということはできない。
イ 相違点2の判断について
原告は,甲3の実施例3が甲3発明aの実施例であることを前提とした上で,実
施例1のような場合は,「水素又はアルゴンが,好ましい」としても,実施例3に
おいては,「水素又はアルゴンが,好まし」いということはできず,酸化熱処理に
特徴がある甲3発明aと,酸化熱処理を前提としていない甲5及び6記載の発明と
は技術思想を異にする旨主張する。
しかし,前記判示のとおり,甲3の請求項1及び2には ,「c)…シリコンウエ
ハを,少なくとも1000℃の温度で少なくとも1時間アニーリングすること」と
の構成が含まれるところ,甲3の段落【0017】には,「工程c)のアニーリン
グは,少なくとも1000℃,好ましくは1100℃∼1200℃の温度,少なく
とも1時間のアニーリング時間で熱処理(アニーリング)する…使用される雰囲気
は,好ましくは貴ガス,酸素,窒素,酸素/窒素混合物及び水素からなる群から選
択されるガスであり,水素又はアルゴンが,好ましい。 (段落【0017】
」 )と記
載されている。
上記段落【0017】の記載のうち,貴ガス(アルゴンもこの1種),窒素,水
素は,非酸化性の雰囲気ガスであり,酸素,酸素/窒素混合物は酸化性の雰囲気ガ
スであるから,甲3発明aは,アニーリングが非酸化性熱処理である態様と酸化性
熱処理である態様とを包含するものと認められ ,「非酸化性」熱処理に関する相違
点2は,実質的な相違点とはいえないことになる。
原告の主張は,甲3の実施例3が甲3発明aの実施例であることを前提としたも
のであるが,引用発明の認定が実施例に限定されないことは前記判示のとおりであ
り,甲3の実施例3の記載に基づいて甲3発明aが認定されるべきであるとの原告
の前提は,審決を正解しないものであり,採用し得ない。
また,前記判示のとおり,甲3発明aは,アニーリングが非酸化性熱処理である
態様と酸化性熱処理である態様とを包含するのであるから,同発明が酸化熱処理に
特徴があることを前提とする原告の主張も失当である。
以上のとおり,相違点2が実質的な相違点とはいえないとした審決の判断に誤り
はない。
ウ 相違点3の判断について
審決は,相違点3について,甲3発明aにおいては,CZ法によるシリコンウエ
ハの窒素濃度の範囲として,1×1014/cm3∼3×1014/cm3の数値が,実
質上,示されているとした上で,甲3発明aの窒素濃度の数値範囲は,本件発明1
の対応する数値範囲に含まれ,その結果,両者の窒素濃度は一致すると判断した。
また,審決は,相違点3に係る構成は,甲3発明aに基づき,当業者が容易に想到
し得たものであると判断した。
これに対し,原告は,①本件特許の出願時点においては,窒素を添加すればする
ほど欠陥サイズが縮小するため,できる限り窒素を添加することが技術常識であっ
たのであり,そこには ,窒素添加の上限数値を求めようとする思想など存在しなかっ
た,②甲3発明aの実施例は,実施例2ではなく,実施例3であり,CZ法にも,
非酸化性雰囲気にも限られていない,③甲3発明aの数値のうちの下限値は,本件
発明1のように表面及び表層から3μmの深さのところにおいて,95パーセント
の良品率を確保するための下限値として規定されたものでもない,④本件発明1は
従来の技術からは予期し得ない顕著な効果を奏するものである,などと主張し,審
決の判断は誤りであると主張する。
(ア) 前記判示のとおり,甲3の請求項2に係る発明は,「窒素ドーピング濃度が
少なくとも1×10 14 atoms/cm 3である」シリコンウエハを「アニーリン
グする」ものであるから,甲3発明aの窒素ドーピング濃度は ,「少なくとも1
×1014/cm3」の範囲にあると認められる。
他方,甲3の段落【0019】には,実施例2について,以下のとおり記載され
ている。
「実施例2)
直径200mmの2つの異なる単結晶を,CZ法により製造し,加工して,シリコンウエハを
形成した。2つの単結晶のうちの一つだけを窒素によりドーピングし,その窒素濃度は3
14 3 17 3
×10 /cm であった。両方の単結晶とも,酸素濃度は,9×10 /cm であった。シリコン
ウエハについての欠陥サイズ分布の解析したところ(その結果を,図4に示す ),窒素ドーピ
ングにより欠陥サイズ分布がより小さい欠陥のほうにシフトしたことが分かった 。
」
上記記載によれば,実施例2は,CZ法により製造した2つの単結晶のうちの一
つだけを窒素濃度3×10 14/cm 3でドーピングし,シリコンウエハのアニーリング
前の欠陥サイズ分布を対比したものであり,図4に示すように,窒素ドーピングし
たものの方が欠陥サイズ分布がより小さい欠陥のほうにシフトしたとの結果を得た
ものと認められる。
原告は,実施例2について,甲3発明aの実施例ではないと主張する。確かに,
実施例2には,アニーリングの工程c)は記載されていないが,その理由は,窒素で
ドーピングした単結晶と,窒素なしでドーピングした単結晶の欠陥サイズ分布をア
ニーリング前の状態で対比するためであると考えられ,窒素でドーピングした実施
例2の単結晶についてアニーリングをできないとする理由はない。
そうすると,甲3の実施例2には,CZ法により製造したシリコンウエハにおい
てその窒素濃度が3×10 14/cm3である場合には結晶欠陥につきそのサイズ分
布が微細化したことが開示されているということができ,「窒素ドーピング濃度が
少なくとも1×10 14atoms/cm 3である」との前記請求項2の記載も参照
すると,甲3発明aにおいては,CZ法によるシリコンウエハの窒素濃度の範囲と
して,1×1014/cm3∼3×1014/cm 3の数値が,実質上,示されていると
いえる。
以上によれば,甲3発明aの窒素濃度の数値範囲は,本件発明1の数値範囲に含
まれることになるので,両者の窒素濃度は一致するということができ,また,前記
のとおり ,甲3にCZ法によるシリコンウエハの窒素濃度の範囲として,1×1014
/cm3∼3×1014/cm3の数値が示されていることによれば,シリコンウエハ
について試験等を実施して,最適な窒素濃度の上限として4×1014atoms/
cm3との数値を選定するのは ,当業者が困難なくなし得ることというべきである。
(イ) これに対し,原告は,本件特許の出願時点においては,できる限り多くの
窒素を添加することが技術常識であったのであり,窒素添加の上限数値を求めよう
とする思想など存在しなかったと主張する。
しかしながら,窒素を添加する場合に,目的とする効果を得ることのできる濃度
の数値範囲を確認することは,当業者であれば当然試みることであり,CZ法によ
り製造したシリコンウエハに窒素を添加すればするほど優れた作用効果を奏し,そ
の窒素濃度には上限がないことを明示した先行文献は存在しない。むしろ,シリコ
ンウエハに固溶限界(5×15atoms/cm 3)近く多量に含有されるとなれ
ば,シリコンウエハの物性に悪影響を及ぼす可能性があるのであるから,当業者で
あれば添加する窒素濃度の上限を確認しようとするのが当然であり,実際のところ,
甲4の請求項2には,シリコン単結晶ウエハの窒素濃度が1×1012∼1×1015
「
atoms/cm3であること」が開示され,窒素濃度の上限が示されている。
したがって,本件特許の出願時点において,上限なくできる限り多くの窒素を添
加することが技術常識であったとはいえないのであり,本件発明1が窒素添加の上
限数値を設定したことをもって,本件発明1の進歩性を基礎付けることはできない。
(ウ) 原告は,甲3発明aの実施例は,実施例2ではなく,実施例3であり,C
Z法にも,非酸化性雰囲気にも限られていないと主張するが,甲3発明aの実施例
が実施例3であるとの原告の主張の前提が採用し得ないことは前記判示のとおりで
あり,また,甲3発明aにはCZ法も非酸化性雰囲気も含まれていることも,前記
判示のとおりである。また,原告は,甲3発明aの数値のうちの下限値は,本件発
明1のように表面及び表層から3μmの深さのところにおいて,95パーセントの
良品率を確保するための下限値として規定されたものでもないと主張するが,原告
の主張する点は進歩性の判断に影響を及ぼすものではない。
(エ) 原告は,本件発明1における窒素濃度の数値限定(特に上限値)は,TD
DBの生データを直接精査することによって認識されたウエハへの窒素添加に伴う
弊害,すなわち,異常な素子の電界の経時変化を防止するという従来技術からは予
測し得なかった作用効果を有するものであると主張する。
しかしながら,本件明細書によれば,本件発明1の目的は,「窒素をドーピング
してシリコンウエハを製造する方法において,半導体デバイス用として十分な特性
を備えたシリコンウエハを製造することができる方法を提供すること 」(段落
【0009 】)にあり,その効果は「窒素がドーピングされたシリコンウエハにお
いて,製品として優れたウエハ特性を示すものを提供することができる 」(段落
【0040 】)点にあるものと認められる。このような作用効果は,甲3発明aに
示された窒素濃度の範囲である1×10 14/cm 3∼3×1014/cm3との数値に
基づき,その上限を4×1014atoms/cm3 とした場合に当然奏すると予測
し得るものであり,何ら予期し得ない顕著な効果ということはできない。
なお,本件明細書には,「定電流TDDBを測定した場合において,正常な素子
は,100秒を超えたあたりで瞬間的な破壊が生じるが,異常な素子の場合に
は,100秒経過前から徐々に破壊が進むこととなる。 (段落【0034】
」 )と記
載されているが,これは,定電流TDDBが正常値を示す場合と異常値を示す場合
に生ずる現象の叙述にすぎず,本件発明1の効果自体は,一般的な評価方法である
定電流TDDBの数値が正常値の範囲に含まれるかどうかにより評価されるべきも
のである。本件発明1の作用効果は ,「製品として優れたウエハ特性を示すものを
提供すること」にあり,「異常な素子の電界の経時変化を防止すること」にあると
いうことはできないのであって,本件明細書に記載された上記作用効果が,甲3発
明aに基づき容易に予測し得るものであることは,前記判示のとおりである。
1-2 本件発明2について
上記のとおり,本件発明1についての審決の認定判断に誤りはないというべきで
あるから,同発明についての認定判断の誤りを前提として本件発明2についての審
決の認定判断の誤りをいう原告の主張には理由がない。また,他に,本件発明2に
ついての審決の認定判断に誤りがあると認めるに足る的確な証拠はない。
2 結論
以上のとおり,無効理由1及び2についての審決取消事由はいずれも理由がなく,
本件発明1及び2に係る特許を無効とする旨の審決の判断は是認することができる
ので,原告の主張するその余の審決取消事由については検討するまでもなく,原告
の請求は棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
石 原 直 樹
裁判官佐藤達文は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官 塚 原 朋 一
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