平成18(行ケ)10435審決取消請求事件
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裁判所 |
審決取消 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成19年4月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告エルピー技研工業株式会社 原告株式会社ニトムズ
|
法令 |
特許権
特許法29条1項3号1回
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キーワード |
審決33回 進歩性10回 新規性9回 無効6回 実施5回 刊行物2回 無効審判2回 特許権1回
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主文 |
1 特許庁が無効2005−80359号事件について平成18年8月17日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,原告が有する後記特許について,被告が無効審判請求をしたとこ
ろ,特許庁がこれを無効とする旨の審決をしたことから,原告がその取消しを
求めた事案である。 |
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判決文
判決言渡 平成19年4月26日
平成18年(行ケ)第10435号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成19年4月19日
判 決
原 告 株 式 会 社 ニ ト ム ズ
訴訟代理人弁護士 小 岩 井 雅 行
訴訟代理人弁理士 大 原 拓 也
同 熊 谷 浩 明
被 告 エルピー技研工業株式会社
訴訟代理人弁理士 八 田 幹 雄
同 奈 良 泰 男
同 宇 谷 勝 幸
同 藤 田 健
同 長 谷 川 俊 弘
同 河 合 貴 之
同 山 田 牧 人
主 文
1 特許庁が無効2005−80359号事件について平成18年8月
17日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,原告が有する後記特許について,被告が無効審判請求をしたとこ
ろ,特許庁がこれを無効とする旨の審決をしたことから,原告がその取消しを
求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,平成12年2月9日,名称を「粘着テープロール」とする発明に
ついて特許出願をし(特願2000−31312号),平成14年1月25
日特許権の設定登録がなされた(特許第3272710号。請求項の数6。
以下「本件特許」という。)。
これに対し被告は,平成17年12月16日付けで特許無効審判請求を行
ったところ,特許庁は,同請求を無効2005−80359号事件として審
理した上,平成18年8月17日,「特許第3272710号の請求項1な
いし6に係る発明についての特許を無効とする」旨の審決を行い,その謄本
は平成18年8月29日原告に送達された。
(2) 発明の内容
本件 特許 は ,請 求項 1∼ 6か ら 成り ,そ の内 容は 次の とおり で あ る
(以下,これらの発明を順に「本件特許発明1」∼「本件特許発明6」
という。また,これらの発明を総称して「本件特許発明」ということが
ある。)。
「【請求項1】所定幅の帯状シートからなる基材の一方の面が粘着面とされ
た粘着テープをその粘着面側が外側となるように巻回してなるとともに,上
記粘着テープにはその円周方向と交差する切れ目が所定の間隔で形成されて
おり,最外層の粘着テープを上記切れ目に沿って剥がし取ることにより,次
層の粘着テープが順次露出する粘着テープロールにおいて,
隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°未満であり,最外表面に
露出されている粘着面の一部に,上記次層の粘着テープの粘着面が含まれて
いることを特徴とする粘着テープロール。
【請求項2】上記基材が,紙製シートもしくは発泡樹脂シートである請求
項1に記載の粘着テープロール。
【請求項3】上記切れ目は,上記粘着テープの円周方向に対して直交する
方向に形成されている請求項1または2に記載の粘着テープロール。
【請求項4】上記切れ目は,上記粘着テープの円周方向に対して斜めに交
差するように形成されている請求項1または2に記載の粘着テープロール。
【請求項5】上記切れ目は,波状もしくは鋸刃状などの非直線状に形成さ
れている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の粘着テープロール。
【請求項6】上記粘着テープの少なくとも一端は,粘着性を持たない非粘
着面とされている請求項1ないし5のいずれか1項に記載の粘着テープロー
ル。」
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別紙審決写しのとおりである。その理由の要点は,
本件特許発明1∼6は,次の(ア)∼(オ)のとおり,本件特許出願前に
頒布された刊行物に記載された発明と同一であるか又は本件特許出願
前に頒布された刊行物に基づいて容易に発明することができたから,
本件特許は,特許法29条1項3号(新規性)又は29条2項(進歩
性)に違反する,というものである。
(ア) 本件特許発明1は,実願昭59−152427号(実開昭61−
67666号)のマイクロフィルム(甲3)に記載された発明(以下
「甲3発明」という。)と同一であり,また,甲3発明及び特開平8
−280600号公報(甲21)に示される周知の技術的事項に基づ
いて容易に発明することができたものである。
(イ) 本件特許発明2は,甲3発明,実開平6−73140号公報(甲
5)に記載された発明(以下「甲5発明」という。)及び周知技術に
基づいて容易に発明することができたものである。
(ウ) 本件特許発明3は,甲3発明,甲5発明,特開平11−3328
15号公報(甲6)に記載された発明(以下「甲6発明」という。)及
び周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。
(エ) 本件特許発明4は,甲3発明,甲5発明,特開平10−3281
21号公報(甲7)に記載された発明(以下「甲7発明」という。)及
び周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。
(オ) 本件特許発明5及び6は,いずれも甲3発明,甲5発明,甲6発
明,甲7発明,特開平9−173276号公報(甲8)に記載された発
明及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。
イ なお,審決は,本件特許発明1∼6と甲3発明との一致点及び相違点を
次のとおり認定している。
〈一致点〉
「所定幅の帯状シートからなる基材の一方の面が粘着面とされた粘着テ
ープをその粘着面側が外側となるように巻回してなるとともに,上記粘着
テープにはその円周方向と交差する切れ目が所定の間隔で形成されてお
り,最外層の粘着テープを上記切れ目に沿って剥がし取ることにより,次
層の粘着テープが順次露出する粘着テープロール。」
〈相違点1〉
本件特許発明1が,「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360
°未満であり,最外表面に露出されている粘着面の一部に,上記次層の粘
着テープの粘着面が含まれている」のに対し,甲3発明はこの点が明確で
ない点。
〈相違点2〉
本件特許発明2については,上記相違点1のほか,本件特許発明2が所
定幅の帯状シートからなる粘着テープの「基材が紙製シートもしくは発泡
樹脂シートである」のに対して,甲3発明では基材の材質について特定さ
れていない点。
〈相違点3〉
本件特許発明3については,上記相違点1・2のほか,本件特許発明3
が切れ目を粘着テープの円周方向に対して「直交する」方向に形成してい
るのに対して,甲3発明ではこの点が明確でない点。
〈相違点4〉
本件特許発明4については,上記相違点1・2のほか,本件特許発明4
が切れ目を粘着テープの円周方向に対して「斜めに交差する」方向に形成
しているのに対して,甲3発明ではこの点が明確でない点。
〈相違点5〉
本件特許発明5については,上記相違点1ないし4のほか,本件特許発
明5が切れ目を「波状もしくは鋸刃状などの非直線状」に形成しているの
に対して,甲3発明ではこの点が明確でない点。
〈相違点6〉
本件特許発明6については,上記相違点1ないし5のほか,本件特許発
明6が「粘着テープの少なくとも一端は,粘着性を持たない非粘着面とさ
れている」のに対して,甲3発明では,端部の粘着面の有無について特定
されていない点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,本件特許発明は甲3発明等との関係で新規性又は進歩
性を欠くとした審決の認定判断には,次のとおり誤りがあるから,違法とし
て取り消されるべきである。
ア 本件特許発明1,甲3発明及び特開平8−280600号公報(甲2
1)記載発明の意味
(ア) 本件特許発明1につき
本件特許発明1は,粘着テープロールの構成を「隣り合う切れ目の間
隔が周長にして360°未満」としたものであるが,このような構成と
すると,ゴミの付着した汚れた粘着テープを一巻き分剥がして,新たに
下層の粘着テープを露出させた場合,ゴミの付着した部分が残存する。
本来,ゴミの付いた部分が残存するということは,衛生上も望ましくな
いし,製品の美観上も問題であるから,何も役に立たないのに,わざわ
ざ粘着テープロールの構成を「隣り合う切れ目の間隔が周長にして36
0°未満」とすることはあり得ないはずである。
したがって,当業者が,あえて粘着テープロールの構成を「隣り合う
切れ目の間隔が周長にして360°未満」とするということは,その前
提として,当該構成がレール引き現象の防止に役立つと気付いている必
要がある。
しかし,「隣り合う切れ目の間隔が周長にして360°未満」の構成
を当業者が意識したとしても,このことから直ちに「隣り合う切れ目の
間隔が周長にして360°未満」の構成がレール引き現象の防止に利用
できると考え付くことは困難である。その理由は,次のとおりである。
a 「隣り合う切れ目の間隔が周長にして360°未満」の構成によ
り,レール引き現象を防止するメカニズムは,以下のとおりである。
① 「隣り合う切れ目の間隔が周長にして360°未満」とすると,
「最外表面に露出されている粘着面の一部に,上記次層の粘着テー
プの粘着面が含まれているため」,最外表面に露出されている粘着
面の一部に,上記次層の粘着テープの粘着面が含まれているように
なる。
② 最外表面に露出されている粘着面の一部に,上記次層の粘着テー
プの粘着面が含まれているため,最外表面に露出されている粘着面
の一部に,前回使われたゴミが付着した部分が,常に存在する。
③ このゴミの付着している部分は,粘着テープの端末部分に存在す
る。
④ レール引き現象は,粘着テープの端末部分が床に接触し,その接
触した端末部分が床に付着することにより発生するので,粘着テー
プの端末部分が非粘着であれば,レール引き現象は生じない。
⑤ したがって,「隣り合う切れ目の間隔が周長にして360°未
満」とすると,粘着テープの端末部分にゴミが付着し,非粘着とな
るので,レール引き現象を防止することができる。
b そうすると,少なくとも,上記aの①から⑤の流れに気づかなけれ
ば,「隣り合う切れ目の間隔が周長にして360°未満」の構成と
「レール引き現象の防止」とを結び付けることはできないから,当業
者が,「隣り合う切れ目の間隔が周長にして360°未満」の構成を
有する粘着テープロールを意識したとしても,このことから直ちに
「隣り合う切れ目の間隔が周長にして360°未満」の構成がレール
引き現象の防止に利用できると考え付くことは困難である。
(イ) 甲3発明につき
a 甲3発明は,「切り目を施した片面粘着テープを粘着面を外側に向
けて芯体上に巻きつけてなる粘着テープにおいて,上記切り目の間隔
をテープ巻き初め側に至るほど短かくしたことを特徴とする粘着クリ
ーナー用テープ」(甲3の「実用新案登録請求の範囲」)であり,そ
の作用効果は,「本考案に係る粘着クリーナー用テープは上述した通
りの構成であり,各巻回層における切り目をずらしてあるから,強い
衝突を受けても切り目での割れを充分に防止できる。また切り目を巻
回体外周に現わさないようにしてあるから,使用中切り目が物にひっ
かかるようなことがない」(甲3の4頁下6行∼5頁1行)ことであ
る。そして,「実施例の説明」として,「切り目間のずれ長さ△Lは
10∼15mmとすることが適当である。上記において第1層目テー
プにおけるテープ巻始め端側から最初の切れ目までの長さL 1は,芯
管1の半径をDとすれば2πDよりやや長く(10∼15mm)する
ことが必要であり,その切り目から次の切り目までの長さ,すなわち
2層目テープに対する切り目間隔L 2は2π(D+1.t)+1.△
Lとすればよく(tはテープの厚み),従って,n層目テープに対す
る切り目間隔Lnは2π(D+(n−1)t)+(n−1)△Lとす
ればよい。」(甲3の3頁下4行∼4頁8行)と記載されていて,甲
3発明においては,切れ目の位置をずらすために,「隣り合う上記切
れ目間の間隔が周長にして360°より越えた」構成とされている。
審決は,甲3の「従来,上記の粘着クリーナー用テープには,テー
プ状または長尺シート状の片面粘着テープに長さ方向の一定間隔ごと
にミシン目状の切り目を施し,これを粘着面を外側に向けて芯管上に
巻回したものを用いている。第3図はこの従来の粘着クリーナー用テ
ープを示しており,テープの厚みをtとすれば,互に上下のテープ巻
回層において,ミシン目状の切れ目3,…は2πtだけずれ,テープ
厚みは,0.2mm以下であるから,そのずれは1mm以下となり,
実質上重った状態となる」(2頁3行∼13行)という部分を引用し
ている(審決7頁6行∼12行)。当該引用部分には,「隣り合う上
記切れ目間の間隔が周長にして360°以上」なのか,「隣り合う上
記切れ目間の間隔が周長にして360°未満」なのかは記載されてい
ない。しかし,甲3発明が問題としているのは,上記のとおり「ミシ
ン目状の切り目3,…が実質上重った状態となる」ことであるから,
「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°以上」なのか,
「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°未満」なのかは
全く問題としていないし意識もしていない。切り目の位置をずらすた
めだけならば,「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°
未満」にしてもよいはずであるが,甲3には,このような構成は全く
記載されておらず,上記のとおり,「隣り合う上記切れ目間の間隔が
周長にして360°より越えた」構成のみが記載されている。
さらに,前記(ア)で述べたように,「隣り合う上記切れ目間の間隔
が周長にして360°未満」の構成にすると,粘着テープを剥がした
際に,ゴミの付着した部分が残存してしまう。本来,ゴミの付いた部
分が残存するということは,衛生上も望ましくないし,製品の美観上
も問題であるから,何も役に立たないのに,わざわざ粘着テープロー
ルの構成を「隣り合う切れ目の間隔が周長にして360°未満」とす
ることはあり得ない。
そうすると,甲3発明は,「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長に
して360°より越えた」構成であると解釈するのが自然である。
たとえ,この点が明確でないとしても,甲3発明においては,上記
のとおり「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°以上」
なのか「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°未満」な
のかは全く問題としていないし意識する必要性もないから,甲3発明
から,「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°以上」と
「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°未満」の2種類
の態様を考える動機は存在しない。
審決は,「甲第1号証発明(判決注 甲3発明)において『上記粘
着テープにはミシン目状の切れ目が長さ方向の一定間隔ごとに施』さ
れている場合,巻き初めから順次巻回の径が増大することに伴い,切
れ目間の周長は,角度にして順次減少することになるから,粘着テー
プロールの使い始めから使い終わりまで,次のような態様が想定され
る。(1)最初に使用する場合に,切れ目間の粘着面で全周にわたり
ゴミを付着できるよう,粘着テープの巻き終わり部分において,周長
を少なくとも360°となるよう一定間隔を選定する。(2)最後に
使用する場合でも,切れ目間の粘着面で全周にわたりゴミを付着でき
るよう,粘着テープの巻き始め部分から最初の切れ目までの周長を少
なくとも360°となるよう一定間隔を選定する。」と認定している
(審決12頁6行∼16行)。このうち,(1)は,「隣り合う上記
切れ目間の間隔が周長にして360°以上(越える)」の態様に,
(2)は「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°未満」
の態様にそれぞれ相当する(以下,(1)の態様を「外径基準」,
(2)の態様を「内径基準」ということがある。)ところ,上記のと
おり,甲3発明は,(1)の態様のものであって,(2)の態様のも
のは含まれない。
b 甲3発明の課題は,「先行技術と問題点」として,「ミシン目
状の切れ目3,…は2πtだけずれ,テープ厚みは,0.2mm
以下であるから,そのずれは1mm以下となり,実質上重った状
態となる。従って,クリーナーの使用中,ロール状粘着クリーナ
ー用テープの切り目箇所を硬い床面等に強く衝突させた場合,そ
の切れ目箇所が割れ易く,問題がある。考案の目的は,粘着クリ
ーナー用テープにおいて,各層におけるミシン目状切り目をずら
して,上記切れ目箇所での割れを防止することにある。」(2頁
10行∼3頁1行)と記載されていることから理解できるように,
ミシン目状の切れ目3,…が実質上重なった状態となるため,粘
着クリーナー用テープにおいて,ミシン目状の切れ目の重なった
部分が山状に盛り上がり,この部分から割れてしまうことが,当
業者間で技術的問題となっていたので,これを防止することであ
った。したがって,甲3発明は,従来技術として,切れ目箇所が
実質的に重なっており,切れ目箇所が割れやすくなっている態様
のものを前提としていることになる。
大体当業者間で平均的といえる,テープの厚み0.1mm,巻芯
内径38mmで90周巻のテープを,最内径(126.23mm)
で一定間隔の切れ目を入れて作成した(内径基準)場合,最も外
側の部分の切れ目の位置はテープのめくり始めから計測して25
0度の位置(=角度差250)にある(甲23[G作成書面]の
1頁の事例①最左側の図参照),1枚テープを剥がすと,2周目
のめくり始めと切れ目の位置の角度差は250度となり,最外周
のめくり始めの位置を0度とすると,切り目の位置は140度と
なる(甲23の1頁の事例①左から2番目の図参照)。さらに,
テープを剥がして3周目となると,2周目のめくり始めと切れ目
の位置の角度差は251度となり,最外周のめくり始めの位置を
0度とすると,切り目の位置は31度となる(甲23の1頁の事
例①左から3番目の図参照)。以下,同様に,テープを剥がすに
従って,最外周のめくり始めの位置を0度とすると,切れ目の位
置は,283度,176度,…となる。このように,内径基準で
は,切れ目の位置はテープの外側の部分では全く異なる位置にあ
り,切れ目が重なっているとはいえない。確かに,テープの終わ
りに近くなれば切れ目は実質的に重なるが,これでは切れ目で割
れることはない。したがって,甲3発明が前提としている,従来
技術の粘着クリーナーテープは,内径基準でないことは明らかで
ある。
これに対して,最外径(182.12mm)で一定間隔の切れ
目を入れた(外径基準)場合には,テープの外側において,切れ
目箇所が実質的に一致している(甲23の1ページ目事例②参
照)。
したがって,審決でいう態様(1)(外径基準)と態様(2)
(内径基準)とを分けて考えること自体,当業者にとって現実的
ではないが,甲3発明の従来技術に記載の「一定間隔」を,強い
て解釈するとすれば,外径基準のものだけ,すなわち,「最初に
使用する場合に,切れ目間の粘着面で全周にわたりごみを付着で
きるよう,粘着テープの巻き終わり部分において,周長を少なく
とも360°となるよう一定間隔を選定された」テープのみを指
すのは明らかである。
なお,被告は,巻き数が少ない粘着用クリーナーテープがあると主
張するが,市場に出ている粘着用クリーナーテープの中で巻き数が5
0周以下のものは,平成15年3月の原告の市場調査では6.5%に
すぎず,市場の1割にも満たないものである(甲24[G作成の報告
書]参照)。また,これらの巻き数が少ないものは,100円均一な
どの廉価販売において見本としてセットされているもので,通常の製
品とは異なるものである。
c 被告は,乙1(実公平1−11167号公報)の記載を根拠とし
て,甲3発明は,内径基準によるものであると主張する。
しかし ,乙1の3欄17行∼18行記載の「Ln=2π(D+
(n−1)t)+(n−1)ΔL」は,あくまで,乙1に記載した考
案を説明した式にすぎない。そして,式として表す場合「芯管1の半
径」を基準に巻き初め,すなわち1巻き目,2巻き目,……,n巻き
目と表すため,初期値(n=1)である「芯管1の半径をD」を基準
にしているのであって,従来の粘着用クリーナーテープが,内径基準
か外径基準かという問題とは別個の事柄である。このことは,乙1の
「ミシン目の間隔を一定としたものが公知(間隔はほぼ上記の2π
D)」(4欄10行∼11行)という記載からも理解できる。上記記
載においては,「間隔はほぼ上記の2πD」と記載されており,2π
Dであるとは言っていない。むしろ,「ほぼ上記の2πD」と言って
いるのであるから,2πDではない値,すなわち,2πD+αという
ことである。そして,乙1の2欄の2行∼11行に「第3図はこの従
来の粘着クリーナー用テープを示しており,テープの厚みをtとすれ
ば,互いに上下のテープ巻回層において,ミシン目状の切れ目3,…
は2πtだけずれ,テープの厚みは,0.2mm以下であるから,そ
のずれは1mm以下となり,実質上重った状態となる。従って,クリ
ーナーの使用中,ロール状粘着クリーナー用テープの切り目箇所を硬
い床面等に強く衝突させた場合,その切り目箇所が割れ易く,問題が
ある。」と記載されていることから明らかなように,乙1の従来技術
はあくまで割れ目が実質上重なっており割れやすい形状でなければな
らないのであり,そうであるならば,テープの外側で割れ目が重なっ
ていなければ割れなど生じないから,ここで言う「ほぼ上記の2π
D」(2πD+α)とは最外の周長,すなわち外径基準のことを指す
ものである。
また,乙1の4欄11行∼12行の「この構成では,上記①式の△
Lを負にしなければならず,」という記載も,従来技術においては切
れ目が実質上重なっているため,乙1の実用新案登録請求の範囲に記
載された考案よりもΔLが小さいという単なる状態を言っているにす
ぎない。
さらに,乙1の4欄12行∼14行における「これは巻回体外周に
ミシン目が表出することを意味する」との記載は,従来の粘着用クリ
ーナーテープは,テープの切れ目が実質上重なっているため,巻回体
外周にミシン目が表出している状態であることを意味しているにすぎ
ない。
したがって,乙1の記載を根拠として,甲3発明は内径基準によ
るものであるということはできない。
(ウ) 特開平8−280600号公報(甲21)記載の技術的事項につき
特開平8−280600号公報(甲21)記載の技術的事項は,「横
方向に手切れ性を有する基材の片面に粘着剤層を設けた粘着テープを粘
着剤層を外側に向け円筒状芯材に巻回してなる巻回体の側面に外周から
前記芯材に達する切れ目を周方向にほぼ等間隔を隔てた2箇所以上に設
け,該巻回体を上記円筒状芯材においてロールに装着したことを特徴と
する回転式粘着除塵クリーナ。」(甲21の「特許請求の範囲」【請求
項1】)であり,この構成により,「本発明によれば,回転式粘着除塵
クリーナにおいて,除塵した多量なゴミ・ホコリで汚れた最外層を剥離
除去してあらたな粘着剤層を表出する作業を,ナイフやハサミを使用し
ないで,スムーズに,しかも,整然とした切断線の横方向引き剥がで行
うことができ,回転式粘着除塵クリ−ナの取扱い易さを一層に向上させ
得る。」(甲21の【0015】)という効果を実現している。このよ
うに,甲21記載の技術的事項は,切れ目3を2箇所に入れ,これによ
って,切れ目から既に使用したテープを容易に剥がすことができるとい
う効果を実現しているのである。
甲21の【0003】には,「この最外層を剥離除去する仕方として
は,①最外層の粘着テープを一巻き層,引っ張って巻き戻し,この巻き
戻し部分をナイフやハサミで切り取る態様,②巻回体の側面に最外周か
ら円筒状芯材に達する切れ目を一本設けておき,最外層の粘着テープを
一巻き層,引っ張って巻き戻し,この巻き戻し部分を切れ目を引き裂く
ことにより除去する態様,③粘着テープに予め一定長さごとにミシン目
を設けておき,最外層の粘着テープを一巻き層,引っ張って巻き戻し,
この巻き戻し部分を引っ張ってミシン目で切断する態様等が知られてい
る。」との記載が存在し,【0003】の③に関して,【0006】に
「上記③の態様では,上記②と同じような不具合がある他,巻回体の一
巻き層の長さが内層側に至るに従って短くなるにもかかわらず,ミシン
目の相互間隔が一定である以上,内層側では,ミシン目の相互間隔が一
巻き層の長さよりも長くなって(これを回避するために,ミシン目の相
互間隔を一巻きの長さの減少に応じて狭くすることが考えられるが,製
造コストの増大となる),新な粘着剤層部分までも切り取ることにな
る。」と記載されている。したがって,甲21の③の態様は,「隣り合
う上記切れ目間の間隔が周長にして360°を越える」構成に該当する
ところ,甲21の【0006】には,当該③の「隣り合う上記切れ目間
の間隔が周長にして360°を越える」構成の短所として,上記のとお
り,「ミシン目の相互間隔が一定である以上,内層側では,ミシン目の
相互間隔が一巻き層の長さよりも長くなって(これを回避するために,
ミシン目の相互間隔を一巻きの長さの減少に応じて狭くすることが考え
られるが,製造コストの増大となる),新な粘着剤層部分までも切り取
ることになる。」と記載されている。しかし,③の当該短所は,甲21
においては,切れ目を2箇所に入れ,これによって,切れ目から既に使
用したテープを容易に剥がすことができるようにしているため,克服さ
れている。
以上のように,甲21記載の技術的事項は,「隣り合う上記切れ目間
の間隔が周長にして360°未満」か「隣り合う上記切れ目間の間隔が
周長にして360°を越える」かの議論とは全く関係がない。
それどころか,甲21の【0003】∼【0006】には,「隣り合
う上記切れ目間の間隔が周長にして360°を越える」構成しか記載さ
れていないから,当業者は,「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にし
て360°未満」の構成を認識していない。
イ 取消事由について
(ア) 取消事由1(本件特許発明1と甲3発明との相違点の認定の誤り)
前記ア(イ)で述べたとおり,〈相違点1〉は,「本件特許発明1が,
『隣り合う上記切れ目間の間隔が周長360°未満であり,最外表面に
露出されている粘着面の一部に,上記次層の粘着テープの粘着面が含ま
れている』のに対し,甲3発明は,『隣り合う上記切れ目間の間隔が周
長360°未満であり,最外表面に露出されている粘着面の一部に,上
記次層の粘着テープの粘着面が含まれている』ものではない点」とすべ
きである。
(イ) 取消事由2(本件特許発明1と甲3発明との相違点に関する新規性
及び進歩性判断の誤り)
上記(ア)のとおり,甲3発明は,「隣り合う上記切れ目間の間隔が周
長360°未満であり,最外表面に露出されている粘着面の一部に,上
記次層の粘着テープの粘着面が含まれている」ものではないから,本件
特許発明1は,甲3発明と同一ではない。
また,前記ア(ア)で述べたとおり,「隣り合う切れ目の間隔が周長に
して360°未満」の構成がレール引き現象の防止に利用できると考え
付くことは困難であり,前記ア(イ)で述べたとおり,甲3発明から「隣
り合う上記切れ目間の間隔が周長360°未満である」態様を考える動
機付けはなく,前記ア(ウ)で述べたとおり,甲21記載の技術的事項
も,「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°未満」かどう
かとは無関係であり,かえって「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長に
して360°を越える」構成しか記載されていないから,本件特許発明
1は甲3発明から容易に発明することができたものではない。
(ウ) 取消事由3(本件特許発明2∼6に関する判断の誤り)
上記(ア),(イ)のとおり,本件特許発明1に新規性及び進歩性がある
以上,本件特許発明2∼6にも新規性及び進歩性がある。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論
(1) 甲3発明についての主張に対し
ア 粘着テープロールは,およそ一巻き分(周長にして約360°)ずつ剥
がして使用するものであることは,当業者であれば当然意識するところで
ある。そして,隣り合う切れ目間の間隔が常に周長にして360°ちょう
どである場合には,一周分の粘着面を常時確保できるとともに使用しない
粘着面の破棄を生じさせないため,過不足無く粘着面を使用できる。
ところが,甲3記載の上記先行技術の粘着テープロールには,切れ目が
長さ方向の一定間隔ごとに施されている。この場合,巻き始めから順次巻
回の径が増大することに伴い,切れ目間の周長は,角度にして順次減少す
るように変化することになる。このため,当業者であれば,周長にして3
60°を確保する箇所を,粘着テープの巻き終わり部分(最外層)に選定
するか,あるいは粘着テープの巻き始め部分(最内層)に選定するかにつ
いて意識するのが自然である。すなわち,①最初に使用する場合に,切れ
目間の粘着面で全周にわたりゴミを付着できるよう,粘着テープの巻き終
わり部分において,周長を少なくとも360°となるよう一定間隔を選定
するか,②最後に使用する場合に,切れ目間の粘着面で全周にわたりゴミ
を付着できるよう,粘着テープの巻き始め部分から最初の切れ目までの周
長を少なくとも360°となるよう一定間隔を選定するか,の二つの態様
が想定されるのである。
そして,粘着テープの巻き始め部分(最内層)において切れ目間の周長
が360°となるように切れ目間の一定間隔を選定する場合,使用開始時
には径が最大となることから,結果的に切れ目間の間隔が周長にして36
0°未満となるのであるから,甲3に先行技術として記載されている発明
には,切れ目間の間隔が周長にして360°未満となるものが含まれる。
イ 甲3に実施例として記載されている発明は,切れ目の位置をずらすため
の具体的な手段の一つとして,「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にし
て360°より越えた」構成を採用しているが,甲3に実施例として記載
されている発明がそうだからといって,甲3に記載されている先行技術も
「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°より越えた」構成で
あるということにはならない。
また,甲3に実施例として記載されている発明は,「切り目を巻回体外
周に現わさないようにしてあるから,使用中切り目が物にひっかかるよう
なことがない」(甲3の4頁下3行∼5頁1行)という「考案の効果」を
得るために「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°より越え
た」構成を採用したものと推定することができる。そして,このような
「考案の効果」には先行技術では得られない特有の効果を記載するのが通
常であることを考慮すれば,むしろ先行技術は「隣り合う上記切れ目間の
間隔が周長にして360°未満」の構成を備えていると解釈する方がよほ
ど自然であり,少なくとも甲3に先行技術として記載されている発明には
「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°より越えた」構成の
みが記載されていると解釈することはできない。
ウ 甲3にかかる出願が審査され公告決定を受けて発行された実用新案公報
(実公平1−11167号。乙1)の4欄4行∼14行には,「本考案に
係る粘着クリーナ用テープは上述した通りの構成であり,各巻回層におけ
る切り目をずらしてあるから,強い衝突を受けても切り目での割れを充分
に防止できる。また切り目を巻回体外周に現わさないようにしてあるか
ら,使用中切り目が物にひっかかるようなことがない。(なお,従来,ミ
シン目の間隔を一定としたものが公知(間隔はほぼ上記の2πD)である
が,この構成では,上記①式のΔLを負にしなければならず,これは巻回
体外周にミシン目が表出することを意味する。)」と記載されている。こ
の括弧内の記載は,審査の過程において出願人によって補正により加入さ
れたものである。この補正は,出願当初の明細書等の記載内容の要旨を変
更しないものとして出願の審査において許容され,出願当初から記載され
ていたものとみなされたものである。
また,乙1の3欄12行(甲3の4頁1行)には,「芯管1の半径をD
とすれば」と記載されている。
そうすると,乙1には,ミシン目の間隔が,芯管1の直径(2D)に円
周率(π)を乗じたもの,すなわち芯管1の周長であることが記載されて
おり,このことは,周長にして360°を確保する箇所を粘着テープの巻
き始め部分(最内層)に選定していることに他ならない。
したがって,乙1には,従来公知の技術として,審決における態様
(2)(内径基準)の構成が記載されている。
また,乙1の4欄10行における「従来,ミシン目の間隔を一定とした
ものが公知」との記載は,甲第3号証の2頁3行∼7行(乙1の1欄22
行∼2欄2行)における「従来,上記の粘着クリーナー用テープには,テ
ープ状または長尺シート状の片面粘着テープに長さ方向の一定間隔ごとに
ミシン目状の切り目を施し,これを粘着面を外側に向けて芯管上に巻回し
たものを用いている。」との記載に対応するものであることは当業者なら
ずとも明らかであるから,乙1の4欄4行∼14行における上記記載は,
甲3発明の内容を的確に理解する上で,きわめて重要である。
しかも,乙1の4欄12行∼14行における「これは巻回体外周にミシ
ン目が表出することを意味する」との記載は,本件特許発明1における
「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°未満であり」との構
成と一致するものであり,審決の「そして,態様(2)の場合,使用開始
時は,径が最大となることから,切れ目間の間隔が全周未満,すなわち,
360°未満となり,剥ぎ取る毎に既にゴミが付着した次の切れ目間の一
部が残ることになる。このことは,まさに,甲第1号証発明(判決注 甲
3発明)が『隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°未満であ
り,最外表面に露出されている粘着面の一部に,上記次層の粘着テープの
粘着面が含まれている』という態様を包含することにほかならず,上記相
違点は実質的な相違点とはいえない。」(12頁34行∼13頁2行)と
の認定判断を裏付けるものということができる。
なお,原告は,甲3の出願人である日東電気工業株式会社(昭和63年
に日東電工株式会社に商号変更)が全株を保有する関連会社であり,甲3
において考案者の一人であるHは,過去に原告の代表取締役を務めたこと
がある。したがって,原告と日東電工株式会社とは,法人格は違うが,同
一視できるほどの極めて緊密な関係にある。さらに,甲3の実用新案は,
その後登録された(実用新案登録第1855111号)が,権利者は原告
(株式会社ニトムズ)である。これらのことからしても,上記乙1の記載
を考慮することができるというべきである。
エ 甲3には,「テープの厚みをtとすれば,互に上下のテープ巻回層にお
いて,ミシン目状の切れ目3,…は2πtだけずれ,テープ厚みは,0.
2mm以下であるから,そのずれは1mm以下となり,実質上重った状態
となる。」(2頁8行∼13行)と記載されている。このことから,甲3
における「実質上重った状態となる。」との記載は,基本的に「2πtだ
けずれ」た状態について述べていると,あるいは,少なくともずれが「2
πt」に近い状態について述べていると解することができる。
したがって,内径基準の場合には,最内層近傍において「実質上重なっ
た状態」となり,外径基準の場合には,最外層近傍において「実質上重な
った状態」となる,と解釈するのが自然である。クリーナーの使用中にお
いて,外表面に「実質上重なった状態」が現れるのは,外径基準の場合に
は使用初期であり,内径基準の場合には使用後期であるという点で両者は
相違するにすぎない。
また,例えば,巻き数が20,25,30,47といった,巻き数が少
ない粘着テープロールが存在している。甲3発明の粘着テープローラの巻
き数は,甲3に記載の技術事項を総合的に勘案して合理的に解釈されるべ
きであるところ,甲3発明は,少なくとも審決における態様(2)(内径
基準)の構成を包含するものと解するのが合理的であるから,このような
合理的な認定判断に沿って,甲3発明の粘着テープローラの巻き数を解釈
すべきである。そうすると,甲3発明の粘着テープローラの巻き数は,使
用開始時の最外表面において現れる次層の粘着面の幅が消費者や製造販売
者等にとって過大とみなされない程度の巻き数であると解釈して差し支え
ないものである。ここで,使用開始時の最外表面において現れる次層の粘
着面の幅が過大とみなされない程度の巻き数は,消費者や製造販売者等の
主観によって変動するものであって,具体的に何巻きと固定化することに
意味は無いが,巻き数が20,25,30,47といった,巻き数が少な
い粘着テープロールにおいては,内径基準によったとしても,使用開始時
の最外表面において現れる次層の粘着面の幅が消費者や製造販売者等にと
って過大であるとみなされないものである。このような巻き数であれば,
内径基準の粘着テープローラは外径基準のものと使用開始時の外観が多少
異なる程度であり,審決において態様(1)と態様(2)とが同じように
扱われているとしても問題となるものではない。
(2) 甲21記載の技術的事項についての主張に対し
ア 甲21(特開平8−280600号公報)にみられるように,粘着テー
プロールにおいて切れ目間の間隔を一定にした場合,内層側で切れ目間の
間隔が周長を超えて新たな粘着面を剥ぎ取ることになる,という周知の技
術的課題が本件特許出願前に存在していた。しかも,甲21に記載のもの
も,粘着テープロールに関するものである点で本件特許発明と技術分野が
同じである。してみれば,上記周知の技術的課題に基づいて使用されずに
剥ぎ取られる粘着面を可能な限り低減するという観点から,切れ目間の間
隔を一定にした粘着テープロールにおいて「隣り合う上記切れ目間の間隔
が周長にして360°未満」とする構成を採用することは当業者であれば
十分あり得ることである。ゴミが付着して衛生上,美観上の問題が多少あ
ったとしてもレール引き現象の発生という技術的課題に基づいて上記構成
を採用することがあり得るのと同様に,新たな粘着面を剥ぎ取ることにな
るという周知の技術的課題に基づいて上記構成を採用することも十分あり
得ることであり,後者のみが排除される理由はない。
イ 甲21の「従来の技術」には,最外層を剥離除去する仕方として,「①
最外層の粘着テープを一巻き層,引っ張って巻き戻し,この巻き戻し部分
をナイフやハサミで切り取る態様,②巻回体の側面に最外周から円筒状芯
材に達する切れ目を一本設けておき,最外層の粘着テープを一巻き層,引
っ張って巻き戻し,この巻き戻し部分を切れ目を引き裂くことにより除去
する態様,③粘着テープに予め一定長さごとにミシン目を設けておき,最
外層の粘着テープを一巻き層,引っ張って巻き戻し,この巻き戻し部分を
引っ張ってミシン目で切断する態様」が挙げられている(甲21の段落【
0003】)。そして,これら①∼③の態様に内在する,一つの切れ目に
よって一巻層分を引き裂くのでは手切れ性が良くないこと(甲21の段落
【0005】),新たな粘着剤層部分までも切り取ることになること(甲
21の段落【0006】)等のすべての技術的課題を解決する手段とし
て,粘着テープを巻回してなる巻回体の側面に外周から芯材に達する切れ
目を2箇所に設けるという手段が採用されたのである。このように,甲2
1では,一つの切れ目によって一巻層分を引き裂くのでは手切れ性が良く
ないという技術的課題をも解決する必要があったために,粘着テープを巻
回してなる巻回体の側面に外周から芯材に達する切れ目を2箇所に設ける
ことによって克服しているのであって,新たな粘着剤層部分までも切り取
ることになるという単独の技術的課題を解決するためには,「隣り合う上
記切れ目間の間隔が周長にして360°未満」の構成を採用することが何
ら排除されるものではない。しかも,甲21に記載の「新たな粘着剤層部
分までも切り取ることになる」という周知の技術的課題は,ミシン目の相
互間隔を一定にした粘着テープにおいて,「隣り合う上記切れ目間の間隔
が周長にして360°を越える」構成としたときの課題であるが,「隣り
合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°未満」としたときの課題で
はない。したがって,甲21記載の技術的事項は,「隣り合う上記切れ目
間の間隔が周長にして360°未満」か「隣り合う上記切れ目間の間隔が
周長にして360°を越える」かの議論と関係している。また,当業者が
上記課題を把握するためには,「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にし
て360°を越える」か「未満」であるかを認識していると考えるのが自
然であるから,当業者が「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして36
0°未満」の構成を認識していないということはない。
(3) 取消事由1に対し
甲3の「従来,上記の粘着クリーナー用テープには,テープ状または長尺
シート状の片面粘着テープに長さ方向の一定間隔ごとにミシン目状の切り目
を施し,これを粘着面を外側に向けて芯管上に巻回したものを用いている。
第3図はこの従来の粘着クリーナー用テープを示しており,テープの厚みを
tとすれば,互に上下のテープ巻回層において,ミシン目状の切れ目3,…
は2πtだけずれ,テープ厚みは,0.2mm以下であるから,そのずれは
1mm以下となり,実質上重った状態となる」(2頁3行∼13行)との先
行技術を記載した部分には,「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして3
60°以上」なのか,「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°
未満」なのかは記載されていないから,「本件特許発明1が,『隣り合う上
記切れ目間の間隔が周長にして360°未満であり,最外表面に露出されて
いる粘着面の一部に,上記次層の粘着テープの粘着面が含まれている』のに
対し,甲3発明はこの点が明確でない」との審決の〈相違点1〉の認定に誤
りはない。
(4) 取消事由2に対し
上記(1)及び(2)のとおり,本件特許発明1において「隣り合う上記切れ目
間の間隔が周長にして360°未満であり,最外表面に露出されている粘着
面の一部に,上記次層の粘着テープの粘着面が含まれている」点は実質的な
相違点とはいえない旨の審決の判断(12頁下2行∼13頁2行)に誤りは
ないし,また,本件特許発明1は,当業者が甲3発明及び甲21に示される
周知の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものである旨の
審決の判断(13頁17行∼19行)にも誤りはない。
原告は,レール引き現象の防止に役立つと気付いていない限り,粘着テー
プロールの構成を「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°未
満」とすることはあり得ない,と主張しているものと解されるが,上記のと
おり,新たな粘着面を剥ぎ取ることになるという周知の技術的課題に基づい
て「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして360°未満」とすることが
あり得るから,原告の主張は失当である。
(5) 取消事由3に対し
上記(4)のとおり本件特許発明1に新規性又は進歩性がない以上,本件特許
発明2∼6にも進歩性がない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2 甲3発明の意義について
(1) 実願昭59−152427号(実開昭61−67666号)のマイクロ
フィルム(甲3)には,次の記載がある。
ア 実用新案登録の範囲
「切り目を施した片面粘着テープを粘着面を外側に向けて芯体上に巻きつ
けてなる粘着テープにおいて,上記切り目の間隔をテープ巻き初め側に至
るほど短くしたことを特徴とする粘着クリーナー用テープ」(1頁4行∼
8行)
イ 先行技術と問題点
「カーペット等の清掃に使用するクリーナーとして,取手を有する水平軸
にロール状の粘着クリーナー用テープを回転自在に軸支したものが公知で
あり,その使用要領は,ロール状粘着クリーナー用テープの回転移動によ
りホコリをそのテープ最外層の粘着面に捕集させ,ホコリの多量付着によ
りテープ最外層の粘着力が低下すれば,テープの巻き解きにより新たな粘
着面を表出させることにある。
従来,上記の粘着クリーナー用テープには,テープ状または長尺シート
状の片面粘着テープに長さ方向の一定間隔ごとにミシン目状の切り目を施
し,これを粘着面を外側に向けて芯管上に巻回したものを用いている。第
3図はこの従来の粘着クリーナー用テープを示しており,テープの厚みを
tとすれば,互に上下のテープ巻回層において,ミシン目状の切れ目3,
…は2πtだけずれ,テープ厚みは,0.2mm以下であるから,そのず
れは1mm以下となり,実質上重った状態となる。
従って,クリーナーの使用中,ロール状粘着クリーナー用テープの切り
目個所を硬い床面等に強く衝突させた場合,その切れ目個所が割れ易く,
問題がある。
考案の目的は,粘着クリーナー用テープにおいて,各層におけるミシン
目状切り目をずらして,上記切り目箇所での割れを防止することにあ
る。」(1頁14行∼3頁1行)
ウ 実施例の説明
「…切り目間のずれ長さ△Lは10∼15mmとすることが適当である。
上記において第1層目テープにおけるテープ巻始め端側から最初の切れ
目まで長さL 1は,芯管1の半径をDとすれば2πDよりやや長く(10
∼15mm)することが必要であり,その切り目から次の切り目までの長
さ,すなわち2層目テープに対する切り目間隔L 2は2π(D+1.t)
+1.△Lとすればよく(tはテープの厚み),従って,n層目テープに
対する切り目の間隔Lnは2π(D+(n―1)t)+(n−1)△Lと
すればよい。」(甲3の3頁下4行∼4頁8行)
エ 考案の効果
「本考案に係る粘着クリーナー用テープは上述した通りの構成であり,各
巻回層における切り目をずらしてあるから,強い衝突を受けても切り目で
の割れを充分に防止できる。また切り目を巻回体外周に現わさないように
してあるから,使用中切り目が物にひっかかることがない」(4頁下6行
∼5頁1行)
(2) 審決は, 上記(1)イの「従来,上記の粘着クリーナー用テープには,テ
ープ状または長尺シート状の片面粘着テープに長さ方向の一定間隔ごとにミ
シン目状の切り目を施し,これを粘着面を外側に向けて芯管上に巻回したも
のを用いている。」との記載について,次のように認定している。
「甲第1号証発明(判決注 甲3発明)において『上記粘着テープにはミ
シン目状の切れ目が長さ方向の一定間隔ごとに施』されている場合,巻き
初めから順次巻回の径が増大することに伴い,切れ目間の周長は,角度に
して順次減少することになるから,粘着テープロールの使い始めから使い
終わりまで,次のような態様が想定される。
(1)最初に使用する場合に,切れ目間の粘着面で全周にわたりゴミを付
着できるよう,粘着テープの巻き終わり部分において,周長を少なくとも
360°となるよう一定間隔を選定する。
(2)最後に使用する場合でも,切れ目間の粘着面で全周にわたりゴミを
付着できるよう,粘着テープの巻き始め部分から最初の切れ目までの周長
を少なくとも360°となるよう一定間隔を選定する。
上記態様(1)の場合,粘着テープの巻き終わり部分において,切れ目
間の周長を360°より長くすることは,使用開始後,最初に粘着テープ
を剥がし取る場合,使用しない粘着面をも剥がし取ることになり,以後剥
がし取りを重ねるたびに,剥がし取られた粘着テープの厚さ分だけ新しい
粘着面の径は減少するに伴い,使用されずに剥ぎ取られる粘着面の長さ
は,次第に増大することになり,合理的なものではない。
また,同様に,上記態様(2)の場合,粘着テープの巻き始め部分にお
いて,周長を360°より長くすることは,最終的になんら使用しない粘
着面を破棄することになるから,これも合理的なものとはいえない。
そうすると,甲第1号証発明は,態様(1)として,最初に使用する場
合,切れ目間の粘着面で全周にわたりゴミを付着できるよう,粘着テープ
の巻き終わり部分において,切れ目間の周長が360°となるよう,切れ
目間の一定間隔を選定するか,あるいは,態様(2)として,最後に使用
する場合でも,切れ目間の粘着面で全周にわたりゴミを付着できるよう,
粘着テープの巻き始め部分において,切れ目間の一定の間隔を周長を36
0°となるよう,切れ目間の一定間隔を選定するかのいずれかの態様を包
含するものと解するのが合理的である。
そして,態様(2)の場合,使用開始時は,径が最大となることから,
切れ目間の間隔が全周未満,すなわち,360°未満となり,剥ぎ取る毎
に既にゴミが付着した次の切れ目間の一部が残ることになる。」(12頁
6行∼下3行)
(3) しかし,甲3には,「最初に使用する場合,切れ目間の粘着面で全周に
わたりゴミを付着できるよう,粘着テープの巻き終わり部分において,切れ
目間の周長が360 ° となるよう,切れ目間の一定間隔を選定するもの」
(態様(1)「外径基準」)と「最後に使用する場合でも,切れ目間の粘着
面で全周にわたりゴミを付着できるよう,粘着テープの巻き始め部分におい
て,切れ目間の一定の間隔を周長を360°となるよう,切れ目間の一定間
隔を選定するもの」(態様(2)「内径基準」)の二つの態様がある旨の明
示の記載がされているものではないばかりか,二つの態様があることを示唆
する記載もない。
(4) 上記(1)イのとおり,甲3には,粘着クリーナー用テープの「テープ状ま
たは長尺シート状の片面粘着テープに長さ方向の一定間隔ごとにミシン目状
の切り目を施し,これを粘着面を外側に向けて芯管上に巻回したものを用い
ている。」との記載に続いて,「テープの厚みをtとすれば,互に上下のテ
ープ巻回層において,ミシン目状の切れ目3,…は2πtだけずれ,テープ
厚みは,0.2mm以下であるから,そのずれは1mm以下となり,実質上
重った状態となる。従って,クリーナーの使用中,ロール状粘着クリーナー
用テープの切り目個所を硬い床面等に強く衝突させた場合,その切れ目個所
が割れ易く,問題がある。考案の目的は,粘着クリーナー用テープにおい
て,各層におけるミシン目状切り目をずらして,上記切り目箇所での割れを
防止することにある。」と記載されている。
そこで,粘着クリーナー用テープの長さ方向の一定間隔ごとにミシン目状
の切り目を施し,これを粘着面を外側に向けて芯管上に巻回したものは,審
決のいう「態様(2)(内径基準)」において,切れ目が実質上重なった状
態となり,その結果,その切れ目個所が割れ易いという問題があるかどうか
について,検討する。
ア 甲23(G作成書面)によると,テープの厚み0.1mm,巻芯内径
38mmで90周巻のテープを,最内周長(126.23mm)で一
定間隔の切れ目を入れて作成した(内径基準)場合,①最も外側の部
分の切れ目の位置はテープのめくり始めから計測して250度の位置
にある,②1枚テープを剥がすと,2周目のめくり始めと切れ目の位
置の角度差は250度となり,最外周のめくり始めの位置を0度とす
ると,切り目の位置は140度となる,③テープを剥がして3周目と
なると,2周目のめくり始めと切れ目の位置の角度差は251度とな
り,最外周のめくり始めの位置を0度とすると,切り目の位置は31
度となる,④以下,同様に,テープを剥がすに従って,最外周のめく
り始めの位置を0度とすると,切れ目の位置は,283度,176
度,70度,325度,221度,117度,15度,273度,1
73度,73度,334度,236度,139度,…となる,⑤ゴミ
付着残は,最外周から,55.89mm,55.26mm,54.6
3mm,54.01mm,53.38mm,52.75mm,52.
12mm,51.49mm,50.87mm,50.24mm,…と
なる。
以上のように,最内周長(126.23mm)で一定間隔の切れ目
を入れて作成した(内径基準)場合には,テープの切れ目の位置はテ
ープの外側の部分では全く異なる位置にあるから,切れ目が重なって
いるとはいうことはできず,「ロール状粘着クリーナー用テープの切り
目個所を硬い床面等に強く衝突させた場合,その切れ目個所が割れ易く,
問題がある。」というものでないことは明らかである。
イ また,前記甲23によると,最内周長(126.23mm)で一定
間隔の切れ目を入れて作成した(内径基準)場合,テープの内側にお
いては,切れ目位置の角度が,内側から,191度,191度,19
2度,196度,201度,208度,217度,227度,240
度,253度,…となり,ゴミ付着残が0mm,0.63mm,1.
25mm,1.88mm,2.51mm,3.14mm,3.77m
m,4.39mm,5.02mm,5.65mm,…となるから,既
に3周目において,切れ目のずれは,1mmを越え,あとは,そのず
れが拡大する一方である。このようなテープは,内側においては,切
れ目が一部実質上重なっているということができるとしても,その範
囲はきわめて狭く,内側に芯管が存在していることをも考慮すると,切
れ目箇所が割れやすいとの問題が生じるとは考え難い。そうすると,テー
プの内側においても,切れ目が実質上重なっていることにより,「ロ
ール状粘着クリーナー用テープの切り目個所を硬い床面等に強く衝突させ
た場合,その切れ目個所が割れ易く,問題がある。」ということはできな
い。
上記で検討した甲23は,テープの厚みを0.1mmとするものであると
ころ,甲3には,上記(1)イのとおり,「テープ厚みは,0.2mm以下
である」と記載され,「テープの厚みをtとすれば,互に上下のテープ巻
回層において,ミシン目状の切れ目3,…は2πtだけずれ」と記載され
るように,テープの厚みによって,切れ目のずれの程度は多少の違いがあ
るが,切れ目が実質上重なっているといえるのは,内側のきわめて狭い範
囲であるということに変わりないものと解される。
ウ 甲24(G作成の報告書)と弁論の全趣旨によると,ロール状粘着クリ
ーナー用テープは,甲23記載の90周巻きというようなテープ以外に,
20周巻き,25周巻き,30周巻きといったテープが存するものと認め
られるが,上記イのとおり,内径基準によった場合,内側においても切
れ目が実質上重なっていることにより「ロール状粘着クリーナー用テー
プの切り目個所を硬い床面等に強く衝突させた場合,その切れ目個所が割
れ易く,問題がある。」ということはできないから,このような巻き数が
少ないテープであっても,内径基準によった場合,切れ目が実質上重な
っていることにより「ロール状粘着クリーナー用テープの切り目個所を
硬い床面等に強く衝突させた場合,その切れ目個所が割れ易く,問題があ
る。」ということはできない。
エ したがって,審決のいう「態様(2)(内径基準)」によった場合,切
れ目が実質上重なっていることにより,「ロール状粘着クリーナー用テー
プの切り目個所を硬い床面等に強く衝突させた場合,その切れ目個所が割
れ易く,問題がある。」ということはできない。
(5) 以上を総合すると,上記(1)イの「従来,上記の粘着クリーナー用テープ
には,テープ状または長尺シート状の片面粘着テープに長さ方向の一定間隔
ごとにミシン目状の切り目を施し,これを粘着面を外側に向けて芯管上に巻
回したものを用いている。」との記載について,「最後に使用する場合で
も,切れ目間の粘着面で全周にわたりゴミを付着できるよう,粘着テープの
巻き始め部分において,切れ目間の一定の間隔を周長を360 ° となるよ
う,切れ目間の一定間隔を選定するもの」(態様(2)「内径基準」)が包
含されているものと解することはできない。
(6) 被告は,甲3にかかる出願が審査され公告決定を受けて発行された公報
(平1−11167号。乙1)の4欄9行∼14行の「(なお,従来,ミシ
ン目の間隔を一定としたものが公知(間隔はほぼ上記の2πD)であるが,
この構成では,上記①式のΔLを負にしなければならず,これは巻回体外周
にミシン目が表出することを意味する。)」との記載に基づいて,上記(1)
イの「従来,上記の粘着クリーナー用テープには,テープ状または長尺シー
ト状の片面粘着テープに長さ方向の一定間隔ごとにミシン目状の切り目を施
し,これを粘着面を外側に向けて芯管上に巻回したものを用いている。」と
の記載には,審決の「態様(2)(内径基準)」が包含されているものと主
張するが,乙1は,甲3とは別の文献であるから,甲3にはない乙1の記載
を根拠として審決取消訴訟において上記のような主張をすることはできない
し,乙1においても,審決のいう「態様(2)(内径基準)」によった場
合,切れ目が実質上重なることにより,「ロール状粘着クリーナー用テープ
の切り目個所を硬い床面等に強く衝突させた場合,その切れ目個所が割れ易
く,問題がある。」ということはできないことは,甲3と変わりがないか
ら,乙1の記載を考慮したとしても,上記(5)の結論が左右されることはな
い。
3 取消事由1(本件特許発明1と甲3発明との相違点の認定の誤り)について
前記2のとおり,甲3発明には,「最後に使用する場合でも,切れ目間の粘
着面で全周にわたりゴミを付着できるよう,粘着テープの巻き始め部分におい
て,切れ目間の一定の間隔を周長を360°となるよう,切れ目間の一定間隔
を選定する態様」(態様(2))が含まれるとはいえないから,本件特許発明
1と甲3発明は,「本件特許発明1が,『隣り合う上記切れ目間の間隔が周長
360°未満であり,最外表面に露出されている粘着面の一部に,上記次層の
粘着テープの粘着面が含まれている』のに対し,甲3発明は,『隣り合う上記
切れ目間の間隔が周長360°未満であり,最外表面に露出されている粘着面
の一部に,上記次層の粘着テープの粘着面が含まれている』ものではない点」
を相違点とすべきであったのであり,この点において,審決には誤りがある。
したがって,取消事由1は理由がある。
4 取消事由2(本件特許発明1と甲3発明との相違点に関する新規性及び進歩
性判断の誤り)について
前記2のとおり,甲3発明には,「最後に使用する場合でも,切れ目間の粘
着面で全周にわたりゴミを付着できるよう,粘着テープの巻き始め部分におい
て,切れ目間の一定の間隔を周長を360°となるよう,切れ目間の一定間隔
を選定する態様」(態様(2))が含まれているとはいえないから,本件特許
発明1は,甲3発明と同一であるということはなく,その旨の審決の判断には
誤りがある。
また,甲21(特開平8−280600号公報)には,粘着テープロールに
おいて切れ目間の間隔を一定にした場合,内層側で切れ目間の間隔が周長を超
えて新たな粘着面を剥ぎ取ることになることが記載されているにすぎず,上記
の態様(2)について,何らかの記載や示唆があるものではないし,上記3の
相違点に係る本件特許発明1の「隣り合う上記切れ目間の間隔が周長にして3
60°未満であり,最外表面に露出されている粘着面の一部に,上記次層の粘
着テープの粘着面が含まれている」との構成について,開示ないし示唆するも
のではないから,甲3発明に甲21の記載を総合したとしても,本件特許発明
1を容易に想到することができたとは認められない。したがって,その旨の審
決の判断にも誤りがある。
以上のとおり,取消事由2は理由がある。
5 取消事由3(本件特許発明2∼6に関する判断の誤り)について
前記4のとおり,本件特許発明1に新規性又は進歩性がないとは認められな
い以上,本件特許発明1に新規性又は進歩性がないことを前提とする,本件特
許発明2∼6についての審決の判断にも誤りがある。
したがって,取消事由3は理由がある。
6 結語
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 森 義 之
裁判官 田 中 孝 一
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