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平成18(行ケ)10294審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年4月25日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官中嶋誠
原告ロレアル
法令 特許権
特許法50条1回
特許法29条2項1回
キーワード 刊行物90回
審決45回
実施39回
進歩性4回
優先権1回
拒絶査定不服審判1回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年7月28日,「少なくとも1つのアニオンポリマーと非 シリコーン有機モノマーがグラフトしたポリシロキサン骨格を有する少なくと も1つのグラフトシリコーンポリマーを含有するケラチン物質のトリートメン ト用組成物」とする発明について,平成8年9月16日にした特許出願(特願 平9−514004号)の一部を新たに特許出願(特願平11−214326 号,優先権主張1995年〔平成7年〕9月29日〔以下「本件優先日」とい う。〕・フランス)したが,平成16年2月20日付けで拒絶査定を受けたの で,同年5月24日,拒絶査定に対する不服の審判を請求し,同年6月23日 付けで特許請求の範囲について手続補正(以下「本件手続補正」という。)を した。

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判決文

平成18年(行ケ)第10294号 審決取消請求事件
平成19年4月25日判決言渡,平成19年4月11日口頭弁論終結
判 決
原 告 ロ レ ア ル
訴訟代理人弁理士 志 賀 正 武
同 渡 邊 隆
同 実 広 信 哉
同 服 部 妙 子
被 告 特 許 庁 長 官 中 嶋 誠
指 定 代 理 人 谷 口 博
同 森 田 ひ と み
同 徳 永 英 男
同 大 場 義 則
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2004−10832号事件について平成18年2月14日に
した審決を取り消す。
第2 当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成11年7月28日,「少なくとも1つのアニオンポリマーと非
シリコーン有機モノマーがグラフトしたポリシロキサン骨格を有する少なくと
も1つのグラフトシリコーンポリマーを含有するケラチン物質のトリートメン
ト用組成物」とする発明について,平成8年9月16日にした特許出願(特願
平9−514004号)の一部を新たに特許出願(特願平11−214326
号,優先権主張1995年〔平成7年〕9月29日〔以下「本件優先日」とい
う。〕・フランス)したが,平成16年2月20日付けで拒絶査定を受けたの
で,同年5月24日,拒絶査定に対する不服の審判を請求し,同年6月23日
付けで特許請求の範囲について手続補正(以下「本件手続補正」という。)を
した。
特許庁は,これを不服2004−10832号事件として審理し,平成18
年2月14日,本件手続補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をし,その謄本は,同月28日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載
(1) 本件手続補正により補正された明細書(甲4,3,以下「本件明細書」と
いう。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」
という。)の要旨
【請求項1】化粧品的に許容可能な媒体に,非シリコーン有機モノマーが
グラフトしたポリシロキサン骨格を有する,少なくとも1のグラフトシリコ
ーンポリマーと,少なくとも1のアニオンポリマーとを,0.25∼15の
アニオンポリマー/グラフトシリコーンポリマーの重量比で含有せしめてな
り,
前記グラフトシリコーンポリマーが,次の式(I)
【化1】
{上式(I)中,基G1は,同一でも異なっていてもよく,水素またはC1−
C 10のアルキル基,もしくはフェニル基を表し;基G 2は,同一でも異なっ
ていてもよく,C1−C 10のアルキレン基を表し;G3は,不飽和エチレンを
有する少なくとも1のカルボン酸型モノマーの(単独)重合により得られた
ポリマー基を表し;G 4は,イソブチル又はメチル(メタ)アクリル酸型の少
なくとも1のモノマーの(単独)重合により得られたポリマー基を表し;m
およびnは,0または1であり;aは0∼50の整数であり;bは10∼3
50の整数であり;cは0∼50の整数であり,ここでaおよびcの一方が
0とはならない}の単位をその構造体中に含有するシリコーンポリマーから
選択され,及び
前記少なくとも1のアニオンポリマーが,
A)アクリル酸/アクリル酸エチル/ N-tert-ブチルアクリルアミドのター
ポリマー;
B)アクリル酸エチルとメタクリル酸とのコポリマー;
C)クロトン酸から誘導されたコポリマー;
D)メチルビニルエーテル/モノエステル化無水マレイン酸のコポリマー;
及び
E)ポリアクリルアミドエチルプロパンスルホン酸
から選択されることを特徴とする,
毛髪の柔らかさを改善するための化粧品用組成物。
( 2) 本件手続補正前の,平成16年1月29日付け手続補正書により補正され
た明細書(甲8,3)の特許請求の範囲の請求項1の記載(以下,同請求項
に記載された発明を「本願発明」という。)
【請求項1】化粧品的に許容可能な媒体に,
非シリコーン有機モノマーがグラフトしたポリシロキサン骨格を有する,
少なくとも1のグラフトシリコーンポリマーと,少なくとも1のアニオンポ
リマーとを,0.25∼15のアニオンポリマー/グラフトシリコーンポリ
マーの重量比で含有せしめてなり,
前記グラフトシリコーンポリマーが,次の式(I)
【化1】
{上式(I)中,基G1は,同一でも異なっていてもよく,水素またはC1−
C 10のアルキル基,もしくはフェニル基を表し;基G 2は,同一でも異なっ
ていてもよく,C1−C 10のアルキレン基を表し;G3は,不飽和エチレンを
有する少なくとも1のカルボン酸型モノマーの(単独)重合により得られた
ポリマー基を表し;G 4は,イソブチル又はメチル(メタ)アクリル酸型の
少なくとも1のモノマーの(単独)重合により得られたポリマー基を表し;
mおよびnは,0または1であり;aは0∼50の整数であり;bは10∼
350の整数であり;cは0∼50の整数であり,ここでaおよびcの一方
が0とはならない}
の単位をその構造体中に含有するシリコーンポリマーから選択され,及び
前記少なくとも1のアニオンポリマーが,
A)アクリル酸またはメタクリル酸もしくはそれらの塩のコポリマー;アク
リルアミドとアクリル酸もしくはそれらの塩のコポリマー;ポリヒドロキシ
カルボン酸のナトリウム塩;
B)架橋していてもよく,ポリアルキレングリコールにグラフトされていて
もよい,アクリル酸またはメタクリル酸エステルモノエチレンモノマーと,
アクリル酸またはメタクリル酸のコポリマー;N−アルキル化および/また
はヒドロキシアルキル化アクリルアミド単位を任意にその鎖中に含有する種
のコポリマー;アクリル酸とC 1−C 4のメタクリル酸アルキルとのコポリマ
ー;
C)架橋またはグラフトしていてもよいクロトン酸から誘導されたコポリマ
ー;
D)マレイン酸,フマル酸又はイタコン酸又は無水物と,ビニルエステル,
ビニルエーテル,ビニルハライド,フェニルビニル誘導体,及びアクリル酸
とそのエステルから誘導されたポリマー;マレイン酸,シトラコン酸又はイ
タコン酸無水物と,その鎖中にアクリルアミド又はメタクリルアミド基,α
−オレフィン,アクリル酸又はメタクリル酸エステル,アクリル酸又はメタ
クリル酸又はビニルピロリドンを任意に含むアリル又はメタリルエステルと
のコポリマー,ここで該無水物官能基はモノエステル化又はモノアミド化さ
れる;
及び
E)カルボキシラート基を含有するポリアクリルアミド
から選択されることを特徴とする,毛髪の柔らかさを改善するための化粧品
用組成物。
3 審決の理由
( 1) 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,補正発明は,特開平6−928
25号公報(甲1,以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下
「刊行物1発明」という。)及び特開平8−217648号公報(甲2,以
下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「刊行物2発明」とい
う。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,
特許法29条2項の規定により独立して特許を受けることができないとして,
本件手続補正を却下した上,本願発明について,本願発明は補正発明を包含
し,刊行物1発明及び刊行物2発明に基づいて,当業者が容易に発明をする
ことができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受ける
ことができないとした。
(2) 審決が認定した刊行物1発明の要旨(審決謄本5頁第3段落)
ポリシロキサン基よりなる構成単位ならびに不飽和単量体の重合体よりな
る構成単位が,スルフィド結合を介して結合された,グラフト型共重合体ま
たは交互ブロック型共重合体を含有する毛髪化粧料であって,一般式(3)
[構造式省略]で示されるメルカプト基含有化合物の存在下に不飽和単量体を
ラジカル重合することにより,一般式(1)[構造式省略]で示されるポリシ
ロキサン基よりなる構成単位に,不飽和単量体の重合体よりなる構成単位が
スルフィド結合を介して結合されたグラフト型共重合体であり,一般式
(1)において,R1は水素原子,炭素数1∼10のアルキル基,フェニル
基,末端がヒドロキシル基置換されたポリオキシアルキレン基,またはアル
キルエーテルもしくは脂肪酸エステル置換されたポリオキシアルキレン基,
ポリアルキレンポリアミン基,脂肪酸基,又はポリシロキサン基を表し,R
2は炭素数1∼10のアルキレン基を表し,m,nおよびpは,ポリシロキ
サン基に含まれるそれぞれの基の数を示し,m=10∼350の整数,n=
1∼50の整数,p=0∼50の整数,但し,m,nおよびpは繰り返し単
位を示すものではなく,
該不飽和単量体の重合体よりなる構成単位が,(a)親水性不飽和単量体,
および/または(b)疎水性不飽和単量体より選ぶことができ,これらの単
量体は,それぞれ(a)または(b)各群内で併用することができるもので,
(a)親水性不飽和単量体は,カチオン性,アニオン性,ノニオン性,両性
のラジカル重合性を有する親水性の不飽和単量体であって,アニオン性不飽
和単量体として,(メタ)アクリル酸,マレイン酸等の不飽和カルボン酸単
量体等,(b)疎水性不飽和単量体として,メチル(メタ)アクリレート,
アリル(メタ)アクリレート,イソブチル(メタ)アクリレート等の疎水性
(メタ)アクリル系誘導体等で,親水性不飽和単量体(a)及び疎水性不飽
和単量体(b)の使用量は任意に選択することができるが,全不飽和単量体
に対して,各々0∼80,0∼75重量%で,
ポリシロキサン基よりなる構成単位/不飽和単量体の重合体よりなる構成
単位の重量比が,0.5∼85/99.5∼15の範囲であるもの。
( 3) 審決が認定した,補正発明と刊行物1発明の一致点及び相違点(審決謄本
6頁最終段落∼7頁第1段落)
ア 一致点
化粧品に許容可能な媒体に,非シリコーン有機モノマーがグラフトした
ポリシロキサン骨格を有する,少なくとも1のグラフトシリコーンポリマ
ーを含有せしめてなり,
前記グラフトシリコーンポリマーが,次の式(I)
[構造式省略]
{上式(I)中,基G1は,同一でも異なっていてもよく,水素または
C1−C10のアルキル基,もしくはフェニル基を表し;基G2は,同一
でも異なっていてもよく,C1−C10のアルキレン基を表し;G3は,
不飽和エチレンを有する少なくとも1のカルボン酸型モノマーの(単独)
重合により得られたポリマー基を表し;G4は,イソブチル又はメチル
(メタ)アクリル酸型の少なくとも1のモノマーの(単独)重合により得
られたポリマー基を表し;mおよびnは,0または1であり;aは0∼5
0の整数であり;bは10∼350の整数であり;cは0∼50の整数で
あり,ここでaおよびcの一方が0とはならない}の単位をその構造体中
に含有するシリコーンポリマーから選択されることを特徴とする,毛髪の
柔らかさを改善するための化粧品組成物
イ 相違点
前者(注,補正発明)が,i)化粧品組成物の構成成分として,更に,
A)アクリル酸/アクリル酸エチル/N− tert −ブチルアクリルアミドの
ターポリマー;B)アクリル酸エチルとメタクリル酸とのコポリマー;
C)クロトン酸から誘導されたコポリマー;D)メチルビニルエーテル/
モノエステル化無水マレイン酸のコポリマー;及びE)ポリアクリルアミ
ドエチルプロパンスルホン酸から選択されるアニオンポリマーを, ii)0.
25∼15のアニオンポリマー/グラフトシリコーンポリマーの重量比で,
併用しているのに対して,後者(注,刊行物1発明)は,該アニオンポリ
マーを該重量比で併用することは,明記されていない点
第3 原告主張の審決取消事由
審決は,補正発明と刊行物1発明の相違点についての容易想到性の判断を誤
り(取消事由1),本願発明の要旨認定を誤り(取消事由2),その結果,本
願発明は,当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤った結論
を導いたものであり,違法であるから取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点についての容易想到性の判断の誤り)
(1) 審決は,相違点についての容易想到性の判断に当たり,「刊行物1には,
補正発明における特定のアニオンポリマーの例示はされていないが,補正発
明におけるアニオンポリマーは,刊行物2に記載されるとおり([ 2-3]),
毛髪化粧料への配合ポリマーとして既によく知られている。そうすると,刊
行物1に,グラフト型共重合体と併用使用してもよいと記載された“従来使
用されている公知の天然系ポリマー,天然系変性ポリマー,合成系ポリマー
”として,刊行物2に記載されたアニオンポリマーを選択し,毛髪の柔らか
さを改善するための化粧品組成物とすることは当業者であれば容易になし得
ることである。」(審決謄本7頁第4段落)と判断したが,誤りである。
ア 補正発明は,本件明細書の段落【0002】及び【0003】の記載の
とおり,グラフトシリコーンポリマーを含む毛髪用化粧品組成物を使用し
た際の髪の感触を改善することを主目的としたものであり,化粧品的に許
容可能な媒体に,少なくとも1のグラフトシリコーンポリマーと,少なく
とも1のアニオンポリマーを,0.25∼15のアニオンポリマー/グラ
フトシリコーンポリマーの重量比で含有させ,上記のアニオンポリマーが,
A)アクリル酸/アクリル酸エチル/N−tert−ブチルアクリルアミドの
ターポリマー,B)アクリル酸エチルとメタクリル酸とのコポリマー,
C)クロトン酸から誘導されたコポリマー,D)メチルビニルエーテル/
モノエステル化無水マレイン酸のコポリマー,及び,E)ポリアクリルア
ミドエチルプロパンスルホン酸(以下,上記A)ないしE)で示された各
アニオンポリマーについて,「アニオンポリマーA」などといい,アニオ
ンポリマーAないしEを併せて,「アニオンポリマーA∼E」ともい
う。)から選択されるものであり,上記の特定のアニオンポリマーを特定
の割合で前記グラフトシリコーンポリマーと併用することによって,本件
明細書の段落【0004】に記載されるような髪の柔軟性,すなわち感触
を改善する効果を奏するものである。
補正発明で使用されているアニオンポリマーA∼E自体は公知であるが,
本件優先日当時,当該技術分野において,アニオンポリマーは毛髪のセッ
ト力を向上させる機能は優れているものの,毛髪の感触を悪化させる不都
合があることが周知であった。例えば,特開昭51−9732号公報(甲
5,以下「甲5公報」という。)には,毛髪用化粧品にアニオンポリマー
を配合することにより,毛髪の柔軟性が低下して感触が悪化するという不
都合があることが開示され,特開平6−128337号公報(甲6,以下
「甲6公報」という。)にも,毛髪用化粧品にアニオンポリマーを配合す
ると,上記と同様の問題点があることが記載されている。
また,刊行物1には,グラフトシリコーンポリマーと他のセット用ポリ
マーを組み合わせてもよい旨示唆する記載はあるものの,分子荷電状態の
異なる,アニオン性,ノニオン性,カチオン性及び両性の様々なセット用
ポリマーの中からアニオン性のセット用ポリマーを選択する点について何
らの記載も示唆もない。
以上によれば,本件優先日当時,当業者の通常の感覚であれば,グラフ
トシリコーンポリマーを含む毛髪用化粧品組成物の与える毛髪の柔軟性,
ひいては感触を改善するために,アニオン性,ノニオン性,カチオン性及
び両性の種々のセット用ポリマーの中から,髪の感触を悪化させることが
知られていたアニオンポリマーをわざわざ選択してグラフトシリコーンポ
リマーと組み合わせることを通常は想到しない。
したがって,相違点に係る補正発明の構成に当業者が容易に想到するこ
とはできない。
イ 審決で掲げられた刊行物2(甲2,平成8年8月27日公開)は本件優
先日(平成7年9月29日)前に頒布されたものではなく,刊行物2は,
相違点に係る構成の容易想到性の判断資料としての適格性を欠くものであ
るから,「刊行物1に,グラフト型共重合体と併用使用してもよいと記載
された“従来使用されている公知の天然系ポリマー,天然系変性ポリマー,
合成系ポリマー”として,刊行物2に記載されたアニオンポリマーを選択
し,毛髪の柔らかさを改善するための化粧品組成物とすることは当業者で
あれば容易になし得ることである。」(審決謄本7頁第4段落),「補正
発明は,刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて,当業者が容
易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定
により特許出願の際独立して特許を受けることができない」(同8頁第3
段落)とした審決の判断は誤りである。被告は,本件訴訟において,相違
点に係る構成についての容易想到性の判断の資料として,特開平7−69
842号公報(乙1,平成7年3月14日公開,以下「乙1公報」とい
う。),特開昭62−48615号公報(乙2,以下「乙2公報」とい
う。),特開平3−145413号公報(乙3,以下「乙3公報」とい
う。)及び特開平5−124936号公報(乙4,以下「乙4公報」とい
う。)を提出するが,これらは,審決には何ら引用されておらず,本来で
あれば,審判手続中において,特許出願人(原告)に意見を述べる機会が
与えられるべきであったのに,その機会が与えられなかったばかりでなく,
刊行物2に基づく審決の判断が誤りであることを自認するものにほかなら
ない。
ウ 被告が,本件訴訟において,相違点に係る構成の容易想到性の判断の資
料として提出した乙1公報ないし乙4公報のうち,乙1公報は,アニオン
ポリマーに属するいくつかの具体的なポリマーを開示するにすぎない。乙
2公報は,アニオンポリマーに属する幾つかの具体的なポリマーを開示す
るにすぎないし,乙2公報の「高分子量シリコーン物質」はポリマーでは
あるものの,補正発明で使用されるグラフトシリコーンポリマーではない。
乙3公報は,アニオンポリマーに属するいくつかの具体的なポリマーを開
示するにすぎず,乙3公報の「非硬質ポリジメチルシロキサンゴム」は,
補正発明で使用されるグラフトシリコーンポリマーではない。乙4公報は,
アニオンポリマーに属するいくつかの具体的なポリマーを開示しているが,
乙4公報に示されたポリマーは,補正発明で使用されるグラフトシリコー
ンポリマーではなく,ジメチコーンコポリオールと称される界面活性剤に
該当するものである。
したがって,乙1公報ないし乙4公報は,グラフトシリコーンポリマー
とアニオンポリマーとの組合せについて何らの示唆ないし教示を与えるも
のではなく,せいぜい,補正発明におけるアニオンポリマーA∼E自体が
本件優先日前に周知であることを示すにとどまるものであって,補正発明
の属する技術分野において,さまざまなセット用ポリマーの中から,なぜ,
アニオンポリマーを選択すべきなのか,さまざまなアニオンポリマーの中
から,なぜ,特定のアニオンポリマーA∼Eを選択すべきなのかを示唆す
るものではない。
( 2) 審決は相違点についての容易想到性の判断に当たり,「グラフトシリコー
ンポリマーとアニオンポリマーとの重量比を0.25∼15とする点につい
ては,刊行物1におけるグラフト型共重合体と併用ポリマーの重量比(実施
例10)と特に相違しないし,複数の樹脂を組み合わせて使用するに際して
適宜決定しうる事項でもあることから,当該重量比を設定することに,格別
の困難があったとは認められない。」(審決謄本7頁最終段落)と判断した
が,誤りである。
ア 補正発明は,グラフトシリコーンポリマーとアニオンポリマーを単に併
用するのではなく,アニオンポリマー/グラフトシリコーンポリマーの重
量比が0.25∼15となる範囲で併用することを規定している。そして,
本件明細書の実施例において,グラフトシリコーンポリマーとアニオンポ
リマーを単に併用するだけでは毛髪の感触改善効果を得ることはできず,
グラフトシリコーンポリマーとアニオンポリマーを特定の重量比で併用す
る必要があることが示されている。
刊行物1及び2は,この点,何ら記載も示唆もなく,アニオンポリマー
/グラフトシリコーンポリマーの重量比の点について,刊行物1及び2の
記載に基づいて,相違点に係る補正発明の構成に当業者が想到することが
容易であるとはいえない。本件明細書の実施例の実験結果(特に,グラフ
トシリコーンポリマーとアニオンポリマーとの重量比によっては毛髪の柔
軟性に悪影響を与えることを示す比較例E)によれば,グラフトシリコー
ンポリマーとアニオンポリマーとの重量比は,適宜決定し得る事項ではな
い。
イ 審決は,上記のとおり,「グラフトシリコーンポリマーとアニオンポリ
マーとの重量比を0.25∼15とする点については、刊行物1における
グラフト型共重合体と併用ポリマーの重量比(実施例10)と特に相違し
ない」とするが,刊行物1の実施例10で使用されている「併用ポリマ
ー」であるカーボポール940は,カルボキシビニルポリマー(架橋され
たアクリル酸のホモポリマー)であって,補正発明で使用されるアニオン
ポリマーA∼Eのいずれかに該当するものではない。
被告は,また,刊行物1の実施例8の両性ポリマー/グラフトシリコー
ンポリマーの重量比が1であることを挙げるが,刊行物1の実施例8は,
グラフトシリコーンポリマーと両性ポリマーの組合せを開示するにすぎず,
グラフトシリコーンポリマーとアニオンポリマーとの組合せを発明の本質
とする補正発明とは,発明の本質を異にしていて,グラフトシリコーンポ
リマーとアニオンポリマーの組合せ比率をどのように設定すべきかについ
ての知見を得ることは不可能である。
( 3) 審決は,「出願人(注,原告)は,平成16年1月29日付けの意見書に
記載の比較実験の結果から,補正発明が優れた効果を有していると主張して
いるが,複数の樹脂を組み合わせてより優れた毛髪用化粧品組成物とするこ
とは刊行物2にも記載([ 2-1]∼[2-4])されているとおり普通に行われてい
ることで,また組み合わされる樹脂によって多少の効果上の差が生じるのは
当然のことであるところ,比較実験の結果が予想外の顕著な効果を奏してい
るものとも認められないので,出願人の主張は採用できない。」(審決謄本
8頁第2段落)としたが,誤りである。
ア 審査段階において,原告が提出した平成16年1月29日付け意見書
(甲7,以下「甲7意見書」という。)には,補正発明の奏する効果が記
載されている。
すなわち,甲7意見書には,グラフトシリコーンポリマーにアニオンポ
リマーA∼Eのいずれかを組み合わせたものを組成物1∼5(実施例)と
し,グラフトシリコーンポリマーにカルボキシビニルポリマーを組み合わ
せたものを組成物6(比較例)とし,両者を比較して,どちらが毛髪の柔
軟性の点でより優れているかを比較した比較実験(以下「本件比較実験」
という。)の結果が記載されている。本件比較実験によれば,すべてのパ
ネラーが,組成物6よりも組成物1∼5の方が毛髪の柔軟性の点で優れて
いると評価した。
本件比較実験結果によれば,補正発明で使用されるアニオンポリマーA
∼Eが,他のアニオンポリマーに比較して毛髪の柔軟性の点でより優れた
効果を与え,また,パネラー全員が,組成物6よりも組成物1∼5の方が
毛髪の柔軟性の点で優れていると評価したのであるから,本件比較実験の
結果は,アニオンポリマーA∼Eを特に選択して使用する補正発明の奏す
る有利な効果を実証するものである。
イ 審決は,上記のとおり,「複数の樹脂を組み合わせてより優れた毛髪用
化粧品組成物とすることは刊行物2にも記載([ 2-1]∼[ 2-4])されている
とおり普通に行われている」とするが,刊行物2において,毛髪固定用樹
脂(B)と組み合わされている樹脂(A)はエステル基又はウレタン基を
有するポリアルキレンオキシドであり,明らかに非イオン性であるから,
刊行物2は,補正発明の特定のアニオンポリマーを選択して組み合わせる
ことを示唆するものではない。
ウ 被告は,本件比較実験に関する原告の主張が本件明細書の記載に基づか
ない旨主張するが,本件比較実験は,補正発明が,本願明細書の段落【0
004】に記載されるように,髪の柔軟性すなわち感触を改善する効果を
奏する点を実証するためのものであるから,本件明細書の記載に基づくも
のである。
また,被告は,本件比較実験で使用されているアニオンポリマーが,本
件優先日当時,市販され汎用されていることを問題とするが,本件比較実
験は,補正発明で使用されているアニオンポリマーA∼Eが,他のアニオ
ンポリマーよりも毛髪の柔軟性の点でより優れた効果を与えることを実証
するためのものであるから,各アニオンポリマーA∼Eが市販されている
か否かは,本件比較実験の趣旨及び結果とは全く関係がない。
そして,被告は,毛髪の柔らかさ等の評価が容易である等の点を挙げて,
本件比較実験の結果を格別の効果と評価できない旨主張するが,評価が容
易であるか否かと,評価結果が容易に予期できる範囲内であるか否かとは,
全く異なる次元の問題であるから,被告の主張は失当である。むしろ,本
件優先日当時,アニオンポリマーが毛髪の感触を悪化させる不都合がある
ことが既に知られていたにもかかわらず,グラフトシリコーンポリマーと
組み合わせて使用する場合には毛髪の柔軟性を改善することができるとい
うだけでも,当業者には驚くべきことであるのに,さらに,本件比較実験
は,アニオンポリマーの中でも,補正発明で使用される特定のアニオンポ
リマーA∼Eが,刊行物1の実施例10で使用されているアニオンポリマ
ーよりも毛髪の柔軟性をより高めるという,先行技術(刊行物1)からは
全く予期できない補正発明の有利な効果を実証し,補正発明が奏する格別
の効果を示すものである。
2 取消事由2(本願発明の要旨認定の誤り)
審決は,本件手続補正を却下し,本件手続補正前の特許請求の範囲の記載に
基づいて本願発明の要旨認定を行い,本願発明を進歩性判断の対象としたが,
本件手続補正の却下は誤りであるから,本願発明の要旨認定も誤りである。
第4 被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(相違点についての容易想到性の判断の誤り)について
( 1) 原告は,補正発明におけるアニオンポリマーの選択について,相違点に係
る補正発明の構成に当業者が容易に想到することはできない旨主張するが,
失当である。
ア 原告は,本件優先日当時,グラフトシリコーンポリマーを含む毛髪用化
粧品組成物の与える毛髪の柔軟性,ひいては感触を改善するために,髪の
感触を悪化させることが知られていたアニオンポリマーをわざわざ選択し
てグラフトシリコーンポリマーと組み合わせることを通常は想到しない旨
主張する。
しかし,原告がアニオンポリマーが髪の感触を悪化させることが知られ
ていたことの根拠として挙げる甲5公報及び甲6公報は,アニオンポリマ
ーについて,毛髪のセット力を向上させる機能は優れているとした上で,
その欠点を指摘しているだけであって,それらの公報において,セット力
を向上させる目的でアニオンポリマーを配合することが否定されているも
のではない。
そして,アニオンポリマーに欠点があるとしても,本件優先日当時,ア
ニオンポリマーは,セット用ポリマーとして,市販され広く利用されてい
たものであって,アニオンポリマーをシリコーンポリマーと組み合わせて
使用することは,刊行物1に記載されているとおり,本件優先日前から普
通に行われていることであるので,上記欠点の存在が知られていることが,
アニオンポリマーの使用を阻害するものではないことは明らかである。
また,本件明細書には,「本発明の組成物類は,特に,髪等のケラチン
物質の形を整える,またはヘアスタイルの保持,およびコンディショニン
グ,手入れ,洗浄のためのすすがれる製品,またはすすがれない製品とし
て使用することができる。さらにこれらの組成物類は,スタイリング製品,
例えばヘアセッティングローション類,ブロー乾燥用ローション類,固定
組成物類( fixing compositions: ラッカー類)およびスタイリング用組成物
類である。」(段落【0043】,【0044】)と記載されていて,補
正発明の「毛髪の柔らかさを改善するための化粧品組成物」が,「セット
用の毛髪化粧料」を対象として包含することは明らかであり,シリコーン
ポリマーとアニオンポリマーとの組合せに何ら阻害要因はない。
さらに,刊行物1には,ポリシロキサンのグラフト型共重合体を含有す
る毛髪化粧料について,これに「従来使用されている公知の天然系ポリマ
ー,天然系変性ポリマー,合成系ポリマーと併用使用してよい」(段落
【0025】)との記載がある。その代表例の1つとして記載された
「3)セット剤,マスカラの場合」の例では,「このセット剤とはエアゾ
ール形式スプレー,ポンプ方式ヘアスプレー,フォーム状エアゾール,ヘ
アミスト,セットローション,ヘアスタイリングジェル,ヘアリキッド,
ヘアクリーム,ヘアオイル等の整髪料を含むが,アニオン性,ノニオン性,
カチオン性,および両性の公知のセット用ポリマー,およびポリシロキサ
ン系ポリマーに代替して使用する。」こと,「またこれに,前述の公知の
セット用ポリマー・・・香料等の公知の添加剤を併用使用してもよい。」
(同段落)ことが記載されていることからすると,刊行物1には,ポリシ
ロキサンのグラフト型共重合体を含有するセット剤に,公知のセット用ア
ニオンポリマーを併用できることが示されていることとなる。そして,こ
のようなセット用ポリマーが,本件優先日当時周知の材料であることは,
刊行物2の段落【0023】∼【0026】(アニオンポリマーについて
は【0024】)に記載された各種商品から明らかである。
イ 毛髪のセット用ポリマーとして,補正発明のアニオンポリマーが周知で
あることは,乙1公報ないし乙4公報からも明らかであり,乙2公報ない
し乙4公報には,これらのアニオンポリマーが実際にシリコーンポリマー
と組み合わせて配合できることも具体例に示されている。すなわち,乙1
公報には,「セット用の補正発明のアニオンポリマー」が記載され,乙2
公報には,「セット用の補正発明のアニオンポリマー」及び「セット用の
毛髪化粧料の配合として,シリコーンポリマーとともに,アニオンポリマ
ーを組み合わせて含有させること」が記載され,乙3公報には,「セット
用の補正発明のアニオンポリマー」及び「セット用の毛髪化粧料の配合と
して,シリコーンポリマーとともに,アニオンポリマーを組み合わせて含
有させること」が記載され,乙4公報には,「セット用の補正発明のアニ
オンポリマー」及び「セット用の毛髪化粧料の配合として,シリコーンポ
リマーとともに,アニオンポリマーを組み合わせて含有させること」が記
載されている。
なお,審決は,刊行物2を引用するところ,刊行物2は,平成8年8月
27日に公開された公開特許公報であって,本件優先日前に頒布された刊
行物ではないことは,原告主張のとおりであり,周知性を示す例としては
適切なものではないが,上記のとおり,アニオンポリマーA∼Eを含む補
正発明におけるアニオンポリマー及び複数の樹脂を組み合わせてより優れ
た毛髪用化粧品組成物とすることが,本件優先日当時,「周知の技術的事
項」であることは,あえて刊行物2によらなくても,本件優先日前に発行
された刊行物である乙1公報ないし乙4公報にみられるとおり,周知であ
る。
したがって,刊行物1に記載されたアニオンポリマーとして,既に市販
され,入手がたやすいアニオンポリマーA∼Eを採用することが容易であ
るとした審決の判断に誤りはない。
( 2) 原告は,補正発明におけるアニオンポリマー/グラフトシリコーンポリマ
ーの重量比について,相違点に係る補正発明の構成に当業者が容易に想到す
ることはできない旨主張するが,失当である。
原告は,刊行物1の実施例10で使用されているカーボポール940は,
補正発明のアニオンポリマーA∼Eのいずれでもない旨主張し,カーボポー
ル940が補正発明のアニオンポリマーA∼Eには該当しないことは,その
主張のとおりである。しかし,刊行物1には,アニオン性,カチオン性等の
種類を問わず,同列にセット用ポリマーの併用使用が可能と記載されており,
実施例10の「カーボポール940」については,アニオンポリマー/グラ
フトシリコーンポリマーの重量比が1%/3%の0.33であることが示さ
れ,それ以外にも,実施例8には両性ポリマーを配合したフォーム状エアゾ
ール組成物の例として,両性ポリマー/グラフトシリコーンポリマーの重量
比が2部/2部の1であることが示されている。
このようにセット用ポリマー/グラフトシリコーンポリマーの重量比は製
品の形態やポリマーの種類により変動はするものの,0.33や1という使
用比率は他の種類のセット用ポリマーの使用比率の目安になるものであるか
ら,本願発明のアニオンポリマーA∼Eを使用する場合には,まず上記のポ
リマーの使用比率を目安に,各ポリマーに応じた使用に適する比率の範囲を
設定することは当業者が格別の困難なく行い得ることである。
そうすると,補正発明における重量比は,刊行物1の実施例10と特に相
違しないし,その重量比を適宜に設定できる事項であるとした審決の判断に
誤りはない。
( 3) 原告は,補正発明が顕著な効果を奏する旨主張するが,その根拠として主
張する甲7意見書に記載された本件比較実験は,本件明細書に記載がなく,
本件明細書の記載に基づかないから,主張の根拠を欠く。
また,刊行物1には,ポリシロキサンのグラフト型共重合体と公知のセッ
ト用ポリマーの併用が示唆され,刊行物2及び乙1公報ないし乙3公報によ
れば,ガントレッツES425(アニオンポリマーDに相当),ウルトラホ
ールド・ストロング(アニオンポリマーAに相当)などは,本件優先日当時,
既に市販され汎用されているセット用ポリマーである。
したがって,補正発明で使用するアニオンポリマーは,刊行物1の示唆に
基づき併用するセット用ポリマーとして当業者が通常採用する範囲のもので
あり,選択の困難性はない。
そして,柔らかさ等の評価も単に毛髪に塗布することで容易に行うことが
できるのであるから,これらの樹脂が刊行物1の実施例10のポリマーに比
して柔らかさの評価が高いとしても,組み合わせるセット用ポリマーによっ
て,整髪料の使用感触が変化することは当然であり,当業者が各種ポリマー
の検討の過程で容易に認識し得る程度の効果であって,これを格別の効果と
評価できるものとは到底いえない。
さらに,甲7意見書中に示された本件比較実験は,補正発明のアニオンポ
リマーA∼Eの5つに対して,比較の対象は, Synthalen K(ビニルアセテー
ト/ビニル tert −ブチルベンゾエート/クロトン酸(又はクロトン酸エステ
ル)のコポリマー)の1例にすぎない。刊行物1には,ポリシロキサンのグ
ラフト型共重合体を含有する毛髪化粧料に,公知のセット用アニオンポリマ
ーを併用使用することが示されているから,アニオンポリマー1例の比較実
験の結果だけから,補正発明のアニオンポリマーA∼Eを公知のセット用ア
ニオンポリマーの中から特に選択した,いわゆる選択発明を構成するほどの
顕著な効果を奏しているとすることは到底できない。
2 取消事由2(本願発明の要旨認定の誤り)について
審決は,本件手続補正を却下し,本件手続補正前の特許請求の範囲の記載に
基づいて本願発明の要旨認定を行い,本願発明を進歩性の判断の対象としたの
に対し,原告は,本件手続補正の却下は誤りであるから,本願発明の要旨認定
が誤りである旨主張するが,本件手続補正を却下した審決に誤りはないから,
失当である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点についての容易想到性の判断の誤り)について
( 1) 審決は,「刊行物1には,補正発明における特定のアニオンポリマーの例
示はされていないが,補正発明におけるアニオンポリマーは,刊行物2に記
載されるとおり([ 2-3]),毛髪化粧料への配合ポリマーとして既によく知
られている。そうすると,刊行物1に,グラフト型共重合体と併用使用して
もよいと記載された“従来使用されている公知の天然系ポリマー,天然系変
性ポリマー,合成系ポリマー”として,刊行物2に記載されたアニオンポリ
マーを選択し,毛髪の柔らかさを改善するための化粧品組成物とすることは
当業者であれば容易になし得ることである。」(審決謄本7頁第4段落)と
したのに対し,原告は,その判断が誤りである旨主張する。
(2) 刊行物1(甲1)には,以下の記載がある。
ア 「【請求項1】ポリシロキサン基よりなる構成単位ならびに不飽和単量
体の重合体よりなる構成単位が,スルフィド結合を介して結合された,グ
ラフト型共重合体または交互ブロック型共重合体を含有する毛髪化粧
料。」(特許請求の範囲)
イ 「【産業上の利用分野】本発明は,毛髪のセットおよびコンディショニ
ングの好適な毛髪化粧料に関するものである。さらに本発明は,毛髪化粧
料に配合するに適した新規ポリマーに関するものである。さらに詳しくは
本発明は,毛髪に優れた光沢と艶,および滑らかな感触を付与するポリシ
ロキサン基を有するポリマーに関するものである。本発明の毛髪化粧料は,
毛髪の形状保持(セット),または,毛髪に柔軟性,光沢,櫛通り性,ま
とまり易さ,ボリューム感の付与,損耗の修復等のコンディショニング機
能を与える目的で使用される。」(段落【0001】)
ウ 「【発明が解決しようとする課題】本発明は・・・べとつくことなく毛
髪に優れた光沢と艶,およびなめらかな感触を付与し,長期間繰り返し使
用しても蓄積することがなく,ポリシロキサン基の分子量に影響を受けず
容易にポリシロキサン基をポリマー中に組み込むことができ,さらに容易
にポリシロキサン基の効果を発現させることができる,配合上の問題のな
い新規なポリマーを含有する毛髪化粧料を提供することにある。」(段落
【0004】)
エ 「Ⅱ.使 用 形 態 前記の様にして得られるポリマー(注,スルフィ
ド結合を介して結合されたグラフト型共重合体または交互ブロック型共重
合体)は,毛髪化粧料用ポリマーとして公知のシャンプー,リンス,トリ
ートメント,セット剤,パーマネントウェーブ液,マスカラ等の組成物中
に,0.1重量%以上,好ましくは0.1∼10重量%の割合で添加使用
することが好ましい。添加使用される毛髪化粧料は,液体,クリーム,エ
マルジョン,ゲル等,如何なる形状でもよい。また,従来使用されている
公知の天然系ポリマー,天然系変性ポリマー,合成系ポリマーと併用使用
してよい。次に代表例で説明すると,・・・3)セット剤,マスカラの場
合,このセット剤とはエアゾール形式ヘアスプレー,ポンプ方式ヘアスプ
レー,フォーム状エアゾール,ヘアミスト,セットローション,ヘアスタ
イリングジェル,ヘアリキッド,ヘアクリーム,ヘアーオイル等の整髪料
を含むが,アニオン性,ノニオン性,カチオン性,および両性の公知のセ
ット用ポリマー,およびポリシロキサン系ポリマーに代替して使用する。
またこれに,前述の公知のセット用ポリマー,油脂類,保湿剤,可溶化剤,
乳化剤,増粘剤,乳濁剤,殺菌剤,香料等の公知の添加剤を併用使用して
もよい。」(段落【0025】)
オ 「【発明の効果】本発明は,上記のように構成したので,毛髪のセット
およびコンディショニングにおいて,毛髪に柔軟性,光沢,櫛通り性,ま
とまり易さ,ボリューム感等を付与し,毛髪の形状保持,損耗の修復等の
機能に優れた毛髪化粧料を提供することができる。」(段落【004
6】)
カ ポリマーの製造例につき,製造例1∼8として,それぞれ「P−1」∼
「P−8」のポリマーを製造したことが記載され(段落【0026】∼
【0033】),実施例1∼12が掲げられている(段落【0034】∼
【0045】)。
実施例8においては,「〔実施例8〕実施例6と同様に操作して,下記
組成のフォーム状エアゾール組成物を調製した。
希釈原液 88部
内 「P−4」 2部
ユカフォーマーAM-75 R205S(注2) 2部
ポリオキシエチレンセチルエーテル(10EO) 0.3部
ポリオキシエチレンセチルエーテル(2EO) 0.1部
純水 残部
液化石油ガス(3Kg/cm2G,20℃) 12部
注2 ユカフォーマーAM−75 R205S:三菱油化(株)より販売
のカルボキシベタイン型両性ポリマー。
この組成物を毛髪に塗布して使用するとき,実施例6と同様の優れた結果
が得られた。」(段落【0041】)として,製造例で得られたポリマー
(P−4)と両性ポリマーを併用使用して,実施例6と同様の「毛髪に対
して優れたセット保持力を与え,さらに,毛髪に優れた光沢と艶,および
なめらかな感触を与えた。また,このヘアスプレー組成物の塗布使用と洗
髪を繰り返した場合,べとつき,蓄積等による違和感等の悪い影響は出な
かった。」(実施例6についての段落【0039】)という「優れた効
果」が得られたことが記載され,実施例10においては,「〔実施例1
0〕次のヘアスタイリングジェル組成物を調製した。

カーボポール940(注3) 1
アミノメチルプロパノール 0.9
「P−6」 3
無水エタノール 15
純水 残部
100%
注3 カーボポール940:グッドリッチ社(株)より販売のカルボキシ
ビニルポリマー
この組成物を毛髪に塗布して使用するとき,実施例6と同様の優れた結果
が得られた。」(段落【0043】)として,製造例で得られたポリマー
(P−6)とアニオン性ポリマーを併用使用して,優れた効果が得られた
ことが記載されている。
(3) 上記によれば,刊行物1発明は,化粧品に許容可能な媒体に,補正発明の
グラフトシリコーンポリマーに相当するグラフト型共重合体を含有し,毛髪
になめらかな感触(上記( 2)ウ)や柔軟性(同イ,オ)等を与えるものであ
るところ,刊行物1には,上記グラフト型共重合体に,アニオン性,ノニオ
ン性,カチオン性,又は両性の公知のセット用ポリマーを併用使用すること
ができること(同エ),上記グラフト型共重合体に,同公知のセット用ポリ
マーとして,両性のポリマー(同カ),アニオン性のポリマー(カーボポー
ル940,同カ)を使用した実施例が示され,それらの実施例において,毛
髪になめらかな感触を与え,セット剤として優れた効果を得ることができた
ことが記載され,発明の目的に照らしても,毛髪に柔軟性を与えることがで
きたものと認められる。
すなわち,刊行物1には,毛髪に柔軟性を与えることも目的とする毛髪化
粧料において,補正発明のグラフトシリコーンポリマーに相当するグラフト
型共重合体に,アニオン性,ノニオン性,カチオン性,及び両性の公知のセ
ット用ポリマーを適宜併用使用できること,具体的な実施例において,アニ
オンポリマーを併用使用した場合においても,毛髪に柔軟性を与えることが
できることが記載されていると認められる。
(4) 次に,本件優先日当時の技術水準について検討する。
ア 乙1公報には,以下の記載がある。
(ア) 「【請求項1】(A)ベタイン類,及び(B)皮膜形成性樹脂を含有
する毛髪化粧料。」(特許請求の範囲)
(イ) 「本発明で用いられる(B)成分の皮膜形成性樹脂としては,毛髪に
付着して皮膜を形成し得るものであれば特に制限されず,両性ポリマー,
アニオンポリマー,カチオンポリマー,ノニオンポリマーのいずれでも
良く,更に水溶性合成高分子を使用することもできる。」(段落【00
10】)
(ウ) 「アニオンポリマーとしては,例えばガントレッツES−225,E
S−425,SP−215(以上,GAF社製)等のメチルビニルエー
テル/無水マレイン酸アルキルハーフエステル共重合体;レジン28−
1310(ナショナル・スターチ社製),ルビセットCA(BASF社
製)等の酢酸ビニル/クロトン酸共重合体;レジン28−2930(ナ
ショナル・スターチ社製)等の酢酸ビニル/クロトン酸/ネオデカン酸
ビニル共重合体;ルビセットCAP(BASF社製)等の酢酸ビニル/
クロトン酸/プロピオン酸ビニル共重合体;ADVANTAGECP
(ISP社製)等の酢酸ビニル/マレイン酸モノブチルエステル/イソ
ボロニルアクリレート共重合体;プラスサイズL53P(互応化学社
製),ダイヤホールド(三菱油化社製)等の(メタ)アクリル酸/(メタ)
アクリル酸エステル共重合体;ウルトラホールド8,ウルトラホールド
・ストロング(以上,BASF社製),アンフォーマーV−42(ナシ
ョナル・スターチ社製)等のアクリル酸/アクリル酸アルキルエステル
/アルキルアクリルアミド共重合体;ルビフレックスVBM35(BA
SF社製)等のポリビニルピロリドン/アクリレート/(メタ)アクリル
酸共重合体などが挙げられる。」(段落【0012】)
イ 乙2公報には,以下の記載がある。
(ア) 「1.( a)ヘアセット性重合体約0.5%∼約10%,(b)高分子量シ
リコーン物質約0.05%∼約2%,( c)エアゾール噴射剤約5%∼約
20%,および( d)残部の水からなり,前記シリコーン物質は前記噴射
剤がエアゾール容器に注入される前に前記噴射剤に溶解されることを特
徴とするエアゾール整髪ムース。」(特許請求の範囲)
(イ) 「2.ヘアセット性重合体が,陽イオン重合体,両性重合体,非イオ
ン重合体および陰イオン重合体からなる群から選択される特許請求の範
囲第1項に記載のエアゾール組成物。」(特許請求の範囲)
(ウ) 「重合体 本組成物で有用な重合体は,水相に可溶性またはコロイド
的に分散性の重合体である・・・。好適な種類の重合体は,陰イオン性,
非イオン性,両性および陽イオン性を包含する。特定の重合体は・・・
PVAとクロトン酸との共重合体,PVAと無水マレイン酸との共重合
体,・・・ポリスチレンスルホン酸ナトリウム,PVP/メタクリル酸
エチル/メタクリル酸三元共重合体・・・を包含する。」(3頁右上欄
19行目∼左下欄20行目)
(エ) 実施例のうち,陰イオン重合体を用いたものとして,例Ⅲがあり,
「ウルトラホールド( Ultrahold)S(エタノール中活性成分50%)」
を用いている。これは,「チバ・ガイギー・インコーポレーテッドによ
って提供されるアクリル酸,アクリル酸エチルおよび N-tert-プチルア
クリルアミドの三元共重合体の中和形」(5頁右下欄17行目∼6頁左
上欄9行目)と記載されている。
ウ 乙3公報には,以下の記載がある。
(ア) 「1.(a)組成物の約0.05∼約10.0重量%の,粘度約10
0 ,000センチストーク∼約300 ,000 ,000センチストークの非
硬質シリコーンゴム(上記ゴムには組成物の約0.01∼約8.0重量
%の,シリコーンゴムと相互作用しないであろう不溶化粒状物が分散さ
れている);(b)組成物の約0.05∼約5.0重量%の疎水変性粘
土剤;および(c)揮発性担体約20%∼約95%を含むことを特徴と
するヘアスプレー組成物。」(特許請求の範囲)
(イ) 「19.揮発性担体に可溶化される・・・から選ばれるヘア保持樹脂
約0.25%∼約20%を更に含む,請求項1に記載の組成物。」(特
許請求の範囲)
(ウ) 「ヘア保持樹脂 本発明のヘアスプレー組成物で好ましくは使用され
る追加の成分は,ヘアセッテイング重合体である。揮発性担体または溶
媒相に可溶性または分散性のいかなる重合体も,使用してもよい。・・
・好適な種類の重合体としては,陰イオン重合体物質,非イオン重合体
物質,両性重合体物質および陽イオン重合体物質が挙げられる。」(8
頁左下欄11行目∼20行目)
(エ) 「特定の重合体としては・・・PVAとクロトン酸との共重合体,P
VAと無水マレイン酸との共重合体,・・・ポリスチレンスルホン酸ナ
トリウム,PVP/メタクリル酸エチル/メタクリル酸三元共重合体,
酢酸ビニル/クロトン酸/ネオデカン酸ビニル共重合体,・・・ポリ
(メチルビニルエーテル−マレイン酸)のモノエチルエステル・・・が挙
げられる。」(同頁左下欄20行目∼右下欄14行目)
エ 乙4公報には,以下の記載がある。
(ア) 「【請求項1】次の成分(a)及び(b) (a)一般式(1)で表
されるシロキサン誘導体・・・(b)皮膜形成性ポリマーを含有するこ
とを特徴とする毛髪化粧料。」(特許請求の範囲)
(イ) 「(b)成分の皮膜形成性ポリマーとしては,例えばポリビニルピロ
リドン系高分子化合物,酸性ビニルエーテル系高分子化合物,酸性ポリ
酢酸ビニル系高分子化合物,酸性アクリル系高分子化合物,両性アクリ
ル系高分子化合物,塩基性アクリル系高分子化合物などを使用すること
ができる。」(段落【0020】)
(ウ) 「酸性ビニルエーテル系高分子化合物としては,例えばGANTRE
Z ES−225,ES−425,SP−215(以上,GAF社製)
等のメチルビニルエーテル/無水マレイン酸アルキルハーフエステル共
重合体などが挙げられる。酸性ポリ酢酸ビニル系高分子化合物としては,
例えば,RESIN28−1310(National Starch 社製),Luvi
set CA66(BASF社製)等の酢酸ビニル/クロトン酸共重合
体;RESIN28−2930(National Starch 社製)等の酢酸ビニル
/クロトン酸/ネオデカン酸ビニル共重合体;Luviset CAP
(BASF社製)等の酢酸ビニル/クロトン酸/プロピオン酸ビニル共
重合体などが挙げられる。酸性アクリル系高分子化合物としては,例え
ばプラスサイズ L53P(互応化学(株)製),ダイヤホールド(三菱
油化(株)製)等の(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合
体;Ultrahold 8(BASF社製),AMPHOMER V
−42( National Starch 社製)等のアクリル酸/アクリル酸アルキルエ
ステル/アルキルアクリルアミド共重合体などが挙げられる。」(段落
【0022】∼【0024】)
オ 乙1公報ないし乙4公報の以上の記載に,「BASF社のウルトラホー
ルド・ストロング」が補正発明のアニオンポリマーAに相当すること(本
件明細書の段落【0047】)を併せ考慮すると,毛髪化粧料への配合ポ
リマーとして,乙1公報及び乙2公報には,補正発明におけるアニオンポ
リマーAに相当するポリマーが記載され(上記ア(ウ)のウルトラホールド
・ストロング,同イ(エ)のアクリル酸,アクリル酸エチルおよびN-tert-プ
チルアクリルアミドの三元共重合体),乙1公報ないし乙4公報には,ア
ニオンポリマーCに相当するポリマーが記載され(同ア(ウ)の酢酸ビニル
/クロトン酸共重合体,レジン28−2930〔ナショナル・スターチ社
製〕等の酢酸ビニル/クロトン酸/ネオデカン酸ビニル共重合体;ルビセ
ットCAP〔BASF社製〕等の酢酸ビニル/クロトン酸/プロピオン酸
ビニル共重合体,同イ(ウ)のPVAとクロトン酸との共重合体,同ウ(エ)の
PVAとクロトン酸との共重合体,酢酸ビニル/クロトン酸/ネオデカン
酸ビニル共重合体,同エ(ウ)のLuviset CA66〔BASF社
製〕等の酢酸ビニル/クロトン酸/プロピオン酸ビニル共重合体;RES
IN28−2930〔 National Starch 社製〕等の酢酸ビニル/クロトン酸
/ネオデカン酸ビニル共重合体;Luviset CAP〔BASF社
製〕等の酢酸ビニル/クロトン酸/プロピオン酸ビニル共重合体),乙1
公報,乙3公報及び乙4公報には,アニオンポリマーDに相当するポリマ
ーが記載され(同ア(ウ)のガントレッツES−225,ES−425,S
P−215〔以上,GAF社製〕等のメチルビニルエーテル/無水マレイ
ン酸アルキルハーフエステル共重合体,同ウ(エ)のポリ(メチルビニルエー
テル−マレイン酸)のモノエチルエステル,同エ(ウ)のGANTREZ E
S−225,ES−425,SP−215〔以上,GAF社製〕等のメチ
ルビニルエーテル/無水マレイン酸アルキルハーフエステル共重合体)て
いる。
そして,上記各公報において,毛髪化粧料への配合ポリマーとして掲げ
られたもののうちのアニオンポリマーについてみると,乙1公報において,
アニオンポリマーとして掲げられた8つの共重合体のうち,5つがアニオ
ンポリマーA∼Eに含まれるものであり,乙2公報において,アニオンポ
リマーに相当する陰イオン重合体として掲げられた5つの重合体のうち,
2つがアニオンポリマーA∼Eに含まれるものであり,乙3公報において,
アニオンポリマーに相当する陰イオン重合体物質として掲げられた6つの
重合体のうち,3つがアニオンポリマーA∼Eに含まれるものであり,乙
4公報において,アニオンポリマーに相当する酸性高分子化合物(酸性ビ
ニルエーテル系高分子化合物,酸性ポリ酢酸ビニル系高分子化合物,酸性
アクリル系高分子化合物)として例示された6つのうち,4つがアニオン
ポリマーA∼Eに含まれるものであって,毛髪化粧料への配合ポリマーと
して用いられるアニオンポリマーとして,アニオンポリマーA∼Eに含ま
れるアニオンポリマーは,ごく普通に用いられているありふれたものであ
ったといえる。
なお,原告は,乙1公報ないし乙4公報は,審決には何ら引用されてお
らず,本来であれば,審判手続中において,特許出願人(原告)に意見を
述べる機会が与えられるべきであったのに,その機会が与えられなかった
旨主張するが,特許拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟において,特
許出願に係る発明の進歩性の有無を判断する前提として,審判手続に現れ
ていなかった資料に基づき,出願時における技術水準ないし技術常識を認
定することは,許されるところであり(最高裁昭和55年1月24日第一
小法廷判決・民集34巻1号80頁),特許法50条の趣旨に反するもの
でもない。
(5) 以上を総合すると,刊行物1には,毛髪に柔軟性を与えることも目的とす
る毛髪化粧料において,補正発明のグラフトシリコーンポリマーに相当する
グラフト型共重合体に,アニオン性,ノニオン性,カチオン性及び両性の公
知のセット用ポリマーを適宜併用使用できること,実施例において,アニオ
ン性ポリマーを併用使用した場合においても,毛髪に柔軟性を与えることが
できることが記載されているのであるから,本件優先日当時,当業者は,毛
髪の柔らかさを改善するための化粧品組成物として,刊行物1発明に記載さ
れたグラフトシリコーンポリマーに,アニオンポリマーを組み合わせること
を容易に想到することができたということができる。また,本件優先日当時
の技術水準からすると,毛髪化粧料への配合ポリマーとして用いられるアニ
オンポリマーとして,アニオンポリマーA∼Eのいくつかは,ごく普通に用
いられているありふれたものであって,そのようなアニオンポリマーA∼E
の存在は技術常識であったといえるから,当業者は,毛髪の柔らかさを改善
するための化粧品組成物として,刊行物1発明のグラフトシリコーンポリマ
ーに,アニオンポリマーA∼Eに該当するアニオンポリマーを選択して,併
用することを容易に想到することができたと認められる。
( 6) さらに,刊行物1には,前記(2)カのとおり,実施例10において,グラ
フトシリコーンポリマーにアニオンポリマーを組み合わせることが記載され
ているところ,そのアニオンポリマー/グラフトシリコーンポリマーの重量
比は,1%/3%の0.33であり,実施例8において,グラフトシリコー
ンポリマーに両性ポリマーを組み合わせることが記載されているところ,そ
の両性ポリマー/グラフトシリコーンポリマーの重量比は,2部/2部の1.
0であり,それらの重量比で併用使用して,毛髪の柔らかさを改善するため
の化粧品組成物として,優れた効果が得られたことが記載されている。
こうして,刊行物1には,グラフトシリコーンポリマーに公知のセット用
ポリマーを適宜併用して使用することが記載されているのであるが,そのよ
うな併用使用の場合,実施例10及び8で示された上記重量比は,良好な結
果を得るための目安といえるものであるから,当業者は,刊行物1に記載さ
れたグラフトシリコーンポリマーに,アニオンポリマーA∼Eを選択して併
用する場合においても,上記に示された重量比を目安として,選択されたポ
リマーに応じた適切な重量比を設定するといえる。そして,アニオンポリマ
ー/グラフトシリコーンポリマーの重量比が0.25∼15という補正発明
の重量比は,刊行物1に示された上記重量比を含むものであり,当業者が,
刊行物1に開示された上記重量比を目安として,補正発明の上記重量比に該
当する重量比に想到することが困難である事情は認められず,当業者は,ア
ニオンポリマー/グラフトシリコーンポリマーの重量比に係る補正発明の構
成に容易に想到することができたものと認められる。
(7) 原告は,補正発明は,毛髪用化粧品組成物を使用した際の髪の感触の改善
を主目的としたものであるところ,補正発明で使用されているアニオンポリ
マーA∼E自体は公知であるが,本件優先日当時,当該技術分野において,
アニオンポリマーは毛髪のセット力を向上させる機能は優れているものの,
毛髪の感触を悪化させる不都合があることが,周知であり,当業者の通常の
感覚であれば,グラフトシリコーンポリマーを含む毛髪用化粧品組成物の与
える毛髪の柔軟性,ひいては感触を改善するために,アニオン性,ノニオン
性,カチオン性及び両性の種々のセット用ポリマーの中から,髪の感触を悪
化させることが知られていたアニオンポリマーをわざわざ選択してグラフト
シリコーンポリマーと組み合わせることを通常は想到しない旨主張する。
ア 甲5公報には,「〔Ⅰ〕発明の背景 本発明は優れた整髪効果を発揮す
る両性イオンを有する,特にエアゾール化整髪剤として用いるのに適した
樹脂組成物に関する。従来整髪用固着剤としてはノニオン系,アニオン系
又はカチオン系の樹脂組成物が用いられている。ノニオン系樹脂としては
ポリビニルメチルエーテル,ポリビニルピロリドン等があるが,ポリビニ
ルピロリドン系樹脂は湿度条件の影響を受けやすく,吸湿前のフイルムは
硬くてフレーキング現象を起こしやすいのに対し,高温多湿時には非常に
柔軟となつてブロツキング現象を起こし,毛髪が互いに固着してくし入れ
やブラツシングを不可能にする虞れがある。またポリビニルメチルエーテ
ル系においては前記湿度による影響がさらに著しい。アニオン系樹脂とし
ては,ビニルカルボン酸たとえばアクリル酸,メタクリル酸等をイオン性
基とする共重合体樹脂があり,現在の整髪用樹脂の主流となつている。こ
のアニオン系樹脂は湿度による影響を受けにくく,ノニオン系樹脂よりも
良い性能を示しているが,アニオン性であることにより頭髪に対する親和
性が弱く,整髪効果を増すためにはフイルムは硬くなければならず,従つ
てフレーキング現象が起こる虞れがある。またアニオン性であることによ
り,カチオン性物質の添加は制限され,洗髪時のリンス剤等による固化現
象も懸念される。カチオン系樹脂は頭髪に対する親和性は前2者よりも大
であるが,ノニオン系樹脂と同様に湿度条件による影響を受けやすい。ま
たカチオン性であることにより毒性や皮膚刺激性が懸念され,アニオン系
物質の添加が制限され,洗髪時のシヤンプー(アニオン系)による固化現
象も問題である。」(1頁右下欄下から8行目∼2頁右上欄7行目)との
記載がある。
イ 甲6公報には,「【産業上の利用分野】本発明は,優れた整髪効果を発
揮し,ソープフリーでエアゾールフォームを形成する水溶性の両性イオン
系整髪用樹脂に関する。」(段落【0001】),「【従来の技術】整髪
用樹脂としては,従来,ノニオン系,カチオン系,両性イオン系の樹脂及
びそれらの樹脂の混合物が一般に使用されている。しかし,従来の樹脂は
必ずしも十分に満足すべきものではない。ノニオン系樹脂としては,ポリ
ビニルピロリドン,ポリビニルメチルエーテル等が知られている。前者は,
その形成フィルムが吸湿前には硬く,吸湿すると,急に柔軟になると共に,
ブロッキング現象を起こす等の欠点があり,後者は,湿度の影響が前者よ
り著しい。アニオン系樹脂としては,(メタ)アクリル酸等をイオン性基と
する共重合体樹脂が知られ,湿度の影響を受けやすいものと,湿度の影響
をあまり受けないものとがある。これらの樹脂は,毛髪に対する親和性が
弱く,整髪効果を増すために形成フィルムを硬くする必要があるので,フ
レーキング現象を起こしやすく,平滑性に欠ける等の欠点がある。カチオ
ン系樹脂としては,・・・これらの樹脂は,毛髪に対する親和性がノニオ
ン系樹脂,アニオン系樹脂より強く,帯電防止性も有しているが,湿度の
影響を受けやすく,ベタツキ,セット力の低下を生じ,洗髪時のシャンプ
ー(アニオン系)による析出固化を生じる等の欠点がある。両性イオン系
樹脂としては,・・・これらの樹脂は,毛髪に対する親和性が強く,ゴミ
・ホコリ等の付着や毛髪の絡み合い等の問題がノニオン系樹脂やアニオン
系樹脂に比べて少なく,吸湿性は,ノニオン系樹脂やカチオン系樹脂より
小さいが,高湿度下でのセット力が不十分である等の欠点がある。」(段
落【0002】∼【0006】)との記載がある。
ウ これらによれば,甲5公報及び甲6公報には,整髪剤のセット用ポリマ
ーについて,発明の背景の説明等において,アニオンポリマー,ノニオン
ポリマー等の一般的な特性等が記載されているところ,そこにおいて,ア
ニオンポリマーは,現在(注,甲5公報記載の発明の出願がされたのは昭
和49年)の整髪用樹脂の主流となっていること,湿度の影響を受けない
という特性を有すること,整髪効果を増すためには形成フィルムが硬くな
ければならず,フレーキング現象が起きやすいことなどが記載されている。
甲5公報及び甲6公報に記載されたアニオンポリマーの上記性質は,整
髪剤のセット用ポリマーとして,アニオンポリマーを単独で使用した場合
の一般的な性質を述べているものにすぎないところ,前記( 3)のとおり,
刊行物1には,毛髪に柔軟性を与えることも目的とする毛髪化粧料におい
て,一般的に,グラフト型共重合体に,アニオン性,ノニオン性,カチオ
ン性,及び両性の公知のセット用ポリマーを適宜併用使用できることが記
載されているだけでなく,上記のとおり,アニオンポリマーがセット用ポ
リマーとして主流であることから,刊行物1の公知のセット用ポリマーに
は,アニオンポリマーが含まれることが当業者には当然に理解できるとと
もに,刊行物1には,具体的な実施例として,アニオンポリマーを併用使
用した場合においても,毛髪に柔軟性を与えることができることが記載さ
れていて,刊行物1には,刊行物1発明のグラフトシリコーンポリマーに
アニオンポリマーを組み合わせても毛髪に柔軟性を与えることが可能であ
ることが記載,示唆されているといえることを考慮すると,原告主張のア
ニオンポリマーの性質が,刊行物1発明のグラフトシリコーンポリマーに
アニオンポリマーを組み合わせることを阻害するものとは認めることはで
きない。
エ この点について,原告は,刊行物2が本件優先日後に公開されたことか
ら,刊行物2の記載に基づき補正発明の容易想到性を判断した審決の誤り
を主張すると共に,乙1公報ないし乙4公報は,グラフトシリコーンポリ
マーとアニオンポリマーとの組合せについて何らの示唆ないし教示を与え
るものではなく,せいぜい,補正発明におけるアニオンポリマーA∼E自
体が本件優先日前に周知であることを示すにとどまるものであって,補正
発明の属する技術分野において,さまざまなセット用ポリマーの中から,
なぜ,アニオンポリマーを選択すべきなのか,さまざまなアニオンポリマ
ーの中から,なぜ,特定のアニオンポリマーA∼Eを選択すべきなのかを
示唆するものではない旨主張する。
確かに,刊行物2は,本件優先日後に公開されたものであり,刊行物2
の記載に基いて補正発明の構成の容易想到性の判断を行った審決は,その
点において誤りがあるといわざるを得ないが,前記(5)のとおり,相違点
に係る補正発明の構成について,刊行物1の記載に,乙1公報ないし乙4
公報に示された本件優先日当時の技術常識を併せ考慮すれば,相違点に係
る補正発明の構成に当業者は容易に想到することができたと認められるか
ら,審決の上記誤りは,補正発明の容易想到性の判断に影響を及ぼすもの
ではない。また,前記( 4)記載の事実に照らし,当業者は,セット用ポリ
マーの中から,アニオンポリマーA∼Eに該当するアニオンポリマーを選
択することが容易であったと認められ,原告の主張は,採用の限りではな
い。
( 8) 原告は,補正発明のアニオンポリマー/グラフトシリコーンポリマーの重
量比に係る構成について,補正発明は,同重量比が0.25∼15となる範
囲で併用することを規定しているところ,刊行物1等には,この点,何ら記
載も示唆もないこと,刊行物1の実施例10で使用されているカーボポール
940は,アニオンポリマーA∼Eのいずれかに該当するものではないこと,
刊行物1の実施例8は,グラフトシリコーンポリマーと両性ポリマーの組合
せを開示するにすぎず,グラフトシリコーンポリマーとアニオンポリマーと
の組合せを発明の本質とする補正発明とは,発明の本質を異にしていて,グ
ラフトシリコーンポリマーとアニオンポリマーの組合せ比率をどのように設
定すべきかについての知見を得ることは不可能であることから,上記重量比
に係る補正発明の構成を適宜決定し得るとした審決の判断が誤りである旨主
張する。
原告主張のとおり,刊行物1の実施例10で使用されているカーボポール
940は,アニオンポリマーA∼Eのいずれかに該当するものではなく,ま
た,実施例8は,グラフトシリコーンポリマーと両性ポリマーの組合せでは
ない。しかし,刊行物1には,グラフトシリコーンポリマーに公知のセット
用ポリマーを適宜併用して使用することが記載され,そのような併用使用の
場合,実施例10及び8で示された上記重量比は,良好な結果を得るための
目安といえるものであるから,当業者は,刊行物1発明に記載されたグラフ
トシリコーンポリマーに,アニオンポリマーA∼Eを選択して併用する場合
においても,上記に示された重量比を目安として,選択されたポリマーに応
じた適切な重量比を設定するといえることは前記( 6)のとおりであり,この
ことは,実施例10及び8で併用使用されたポリマーが原告主張の属性を有
するとしても変わるものではないから,原告の上記主張は,採用の限りでは
ない。
( 9) 審決は,「出願人(注,原告)は,平成16年1月29日付けの意見書
(注,甲7意見書)に記載の比較実験の結果から,補正発明が優れた効果を
有していると主張しているが,複数の樹脂を組み合わせてより優れた毛髪用
化粧品組成物とすることは刊行物2にも記載([ 2-1]∼[ 2-4])されていると
おり普通に行われていることで,また組み合わされる樹脂によって多少の効
果上の差が生じるのは当然のことであるところ,比較実験の結果が予想外の
顕著な効果を奏しているものとも認められないので,出願人の主張は採用で
きない。」(審決謄本8頁第2段落)と判断したのに対し,原告は,甲7意
見書において記載された本件比較実験の結果は,アニオンポリマーA∼Eを
特に選択して使用する補正発明の奏する有利な効果を実証するものであると
し,また,刊行物2は,補正発明のような特定のアニオンポリマーを選択し
て組み合わせることを示唆していない旨主張する。
甲7意見書には,アニオンポリマーA,B,C,D及びEに相当する5つ
のアニオンポリマー(Ultra hold strong,Luvimer MAEX,Mexomer PW,
Gantrez ES-425L,Cosmedia HSP 1180)をそれぞれ用いた組成物1ないし5
とアニオンポリマーA∼Eに含まれないアニオンポリマー( Synthalen K)を
用いた組成物6について,5人の試験者がこれらの組成物で処理された髪の
柔らかさを評価したところ,組成物6の評価値が2.4∼2.8であるのに
対し,組成物1ないし5の評価値は,それぞれ,3.6,3.3,3.4,
3.2,3.1であり,また,組成物1ないし5のそれぞれの組成物で処理
された髪の柔らかさと組成物6で処理された髪の柔らかさを比べると,いず
れの試験者も,組成物1ないし5のそれぞれの組成物で処理された髪の方が,
組成物6で処理された髪よりも柔らかいと評価したことが記載されている。
しかし,甲7意見書には,上記髪の柔らかさの評価値の算出方法について
の記載を欠くばかりでなく,評価値の数値が大きい方が髪が柔らかいものと
解するとしても,本件比較実験は,アニオンポリマーA,B,C,D及びE
に相当するアニオンポリマーがそれぞれ含まれる組成物1ないし5と,アニ
オンポリマーA∼Eに含まれない多数のアニオンポリマーのうちの1種類の
アニオンポリマーが含まれる組成物6について比較実験をしたものにすぎな
い。前記(2)及び( 3)のとおり,刊行物1には,グラフトシリコーンポリマー
に公知のアニオンポリマーを組み合わせることができることが記載されてい
るところ,本件比較実験は,アニオンポリマーA∼Eに含まれない多数のア
ニオンポリマーのうちの1種類のアニオンポリマー(Synthalen K)を選択し
て,比較実験を行ったものであって,グラフトシリコーンポリマーと組み合
わせて使用するものとして,アニオンポリマーA∼Eに相当するアニオンポ
リマーが含まれる組成物及び本件比較実験において選択されたアニオンポリ
マー(Synthalen K)以外のアニオンポリマーA∼Eに含まれないアニオンポ
リマーを用いた組成物間においても,上記同様の結果を得ると認めるに足り
る証拠はない。そうすると,本件比較実験の結果だけから,補正発明につい
て,グラフトシリコーンポリマーと組み合わせて使用するものとして,アニ
オンポリマーA∼Eに相当するアニオンポリマーを選択したことにより,補
正発明が顕著な効果を示すものとは認めるに足りず,他にその的確な証拠は
ない。
したがって,本件比較実験に基づき,補正発明について,当業者の予測を
越える顕著な効果を示すものということはできず,また,このことは,刊行
物2の記載に左右されないから,原告の主張は採用できない。
(10) 以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本願発明の要旨認定の誤り)について
審決は,本件手続補正を却下し,本件手続補正前の特許請求の範囲の記載に
基づいて本願発明の要旨認定を行い,本願発明を進歩性判断の対象としたのに
対し,原告は,本件手続補正の却下は誤りであるから,本願発明の要旨認定が
誤りである旨主張するが,前記1のとおり,補正発明について,当業者が容易
に想到できるものであるとして,本件手続補正を却下した審決の判断は相当で
あるから,原告の主張は,前提を欠くものであり,失当である。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 宍 戸 充
裁判官 柴 田 義 明

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