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平成18(行ケ)10450審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年4月10日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官中嶋誠
原告株式会社ワイズスタッフ
法令 商標権
商標法3条2項5回
商標法3条1項3号5回
商標法5条3項2回
商標法3条1項1回
キーワード 審決20回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告(平成17年4月1日組織変更前の旧商号「有限会社ワイズスタッ フ )が,後記本願商標につき商標登録出願をして拒絶査定を受け,これを不服と」 して審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,同 審決の取消しを求めた事案である。

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判決文

平成18年(行ケ)第10450号 審決取消請求事件
平成19年4月10日判決言渡,平成19年2月15日口頭弁論終結
判 決
原 告 株式会社ワイズスタッフ
訴訟代理人弁理士 新居広守
被 告 特許庁長官 中嶋誠
指 定 代 理 人 青木博文,山口烈,田中敬規
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が不服2005−5691号事件について平成18年9月4日にした審
決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
本件は,原告(平成17年4月1日組織変更前の旧商号「有限会社ワイズスタッ
フ」)が,後記本願商標につき商標登録出願をして拒絶査定を受け,これを不服と
して審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,同
審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件出願(甲第69号証)
出願人:有限会社ワイズスタッフ(原告)
出願番号:商願2003−102854号
出願日:平成15年11月19日
商標の構成: SpeedCooking
「 スピードクッキング」
(標準文字のみ
によって成るもの。以下「本願商標」という。)
指定役務:第42類「電子計算機端末又はインターネットを利用したメニュー・
レシピ又は食材に関する情報の提供 」(ただし,平成16年7月30日付け手続補
正及び審判請求後の平成17年5月2日付け手続補正により,後記のとおり補正さ
れた。)
(2) 本件手続
手続補正日:平成16年7月30日(甲第72号証)
拒絶査定日:平成17年2月28日(甲第74号証)
審判請求日:平成17年4月1日(不服2005−5691号) 甲第75号証)

手続補正日:平成17年5月2日(甲第76号証)
審決日:平成18年9月4日
審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない。
「 」
審決謄本送達日:平成18年9月19日
2 審決の理由の要点
審決は,平成17年5月2日付け手続補正後の指定役務である,第43類「電子
計算機端末又はインターネットを利用した,短時間で簡単にできる料理のメニュー
・レシピ又は食材に関する情報の提供」 ,
を 本件商標出願に係る指定役務 以下 本
( 「
願役務」ということがある 。)とした上,本願商標は,これをその指定役務に使用
するときは,その役務の質,内容を表示するにとどまり,自他役務の識別標識とし
ての機能を果たさず,また,提出された資料によっては,本願商標がその指定役務
に使用された結果,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識できるに至
ったものと認めることはできないから,本願商標は,商標法3条1項3号に該当す
るものであり,かつ,同条2項に当たるとすることはできないとした。
審決の理由のうち,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとの理由に係る部
分及び同条2項に当たるとすることはできないとする理由に係る部分は,以下のと
おりである(甲第1∼第64号証(枝番号を含む。)の証拠番号は,審判及び本訴
に共通である。。

( 1) 商標法3条1項3号該当の理由
「本願商標は,上記のとおりの構成より成るところ,構成文字中の『Speed』及び『スピ
ード』の文字は『はやさ。速力。速度。また,はやいこと 。 (岩波書店『広辞苑第5版』14

43頁) 『クッキング』及び『Cooking』の文字は『料理。料理法 。(同768頁)の
, 』
意味合いを持つ語としてそれぞれ一般に理解,認識されているものである。そして,これらの
文字を結合した本願商標からは ,
『素早くできる料理法 』
『短時間で簡単にできる料理』の意味
合いが容易に認識されるとみるのが相当である 。このことは , スピードクッキング』又は『S

peedCooking』の文字が,以下の新聞記事やインターネット検索情報(平成18年
8月14日検索。)などにおいて,上記意味合いで使用されていることからも首肯される。
(使用例ア)∼テ)省略)
してみれば ,『SpeedCooking スピードクッキング』の文字より成る本願商標は,
これをその指定役務に使用するときは,これに接する取引者,需要者をして,単に役務の質,内容
を表示したものと容易に認識,理解させるにとどまるものであり,よって自他役務の識別標識とし
ての機能を果たし得ないものというのが相当である。
そして,このような標章は,指定役務との関係において,当該役務の質・内容等を表示するため
に,取引において必要適切な標章として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるそ
の独占使用を認めるのは適当ではないというべきである 。

( 2) 商標法3条2項非該当の理由
「なお,請求人は,本願商標が請求人の商標として各種新聞・雑誌等の各種メディア及びイン
ターネット上で多数紹介されており,本願商標が広く知られ自他役務識別力が生じた結果,商
標法第3条第2項の規定が適用される旨主張し,証拠方法として甲第1号証乃至同第64号証
(枝番号を含む。)を提出している。
しかしながら,提出された資料(甲第2号,7号証等)によれば,請求人の作成する料理情
報の提供を受けるには(無料とはいえ)会員登録の手続きを経た上でなければアクセスできな
いものであり,したがって,請求人の役務の提供を受けているのは,事実上,現在7万5千人
余の会員のみであり,これをもって,本願商標が我が国の需要者間に周知となっているとはい
い難い。また,そもそも,商標法第3条第2項の適用を受け,使用により識別力を有するに至
った商標として登録が認められるのは,使用に係る商標が出願に係る商標と同一の場合であっ
て,かつ,使用に係る役務と出願に係る指定役務も同一のものに限られると解されるところ,
各資料において使用されている商標は,太字の『スピードクッキング』の文字を白く縁取りし
て成るもの(甲第1,3,6,17,22号証等)や活字で『スピードクッキング』の文字と
請 求 人 の ホ ー ム ペ ー ジ ア ド レ ス の 表 記 で あ る 『 http://www.speedcooking.jp/』 又 は
『http://www.5012.jp/speedcooking/』を普通に用いられる方法で併記して成るもの(甲第8 ,9 ,
10の2,11の2,12の2,13の2,15,18乃至21,24乃至39,41乃至6
4号証)であるから ,『SpeedCooking スピードクッキング』の文字を標準文字
で書して成る本願商標とはその構成態様を別異にするものである。
したがって,提出された資料(甲各号証)によっては,本願商標がその指定役務に使用され
た結果,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識できるに至ったものと認めること
はできないから,本願商標が商標法第3条第2項に該当するものであるとする請求人の主張は ,
これを採用することができない。

第3 原告の主張(審決取消事由)の要点
審決の理由中,本願商標が,商標法3条1項3号に該当すること自体は争わない
が,審決は,同条2項該当性の判断において,本願商標の周知性を誤認し,また,
使用されている商標が本願商標とその構成態様を別異にするものである旨誤って判
断したことにより,本願商標がその指定役務に使用された結果,需要者が何人かの
業務に係る役務であることを認識できるに至ったものと認めることはできないとの
誤った結論に至ったものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(周知性の誤認)
審決は,「請求人の作成する料理情報の提供を受けるには(無料とはいえ)会員登
録の手続きを経た上でなければアクセスできないものであり,したがって,請求人
の役務の提供を受けているのは,事実上,現在7万5千人余の会員のみであり,こ
れをもって,本願商標が我が国の需要者間に周知となっているとはいい難い。(6

頁14∼19頁)として,本願商標の周知性を認めなかったが,以下のとおり,誤
りである。
(1) すなわち,JENS株式会社は,本願商標を使用し,本願役務である「電子
計算機端末又はインターネットを利用した,短時間で簡単にできる料理のメニュー
・レシピ又は食材に関する情報の提供」を行うウエブサイトを,平成10年4月に
開設したところ,原告は,同会社から,平成13年11月に,上記ウエブサイト
( http://www.speedcooking.jp/」及び「 http://www.5012.jp/speedcooking/」
「 。以下「本
件ウエブサイト」という。)を譲り受け,現在に至るまで,本件ウエブサイトにお
いて,短時間で簡単にできる料理のメニュー・レシピ又は食材に関する情報の提供
を行っている。
そして,甲第3∼第14号証(枝番号を含む 。)が示すとおり,本件ウエブサイ
トは,これまでに,種々のマスメディアにより広く紹介されている。
また,平成19年1月29日の時点で,原告による上記情報提供の業務に係る延
べ会員数は9万8515名(このうち,上記情報の提供をメールマガジンで受信し
ているアクティブな会員の数は6万8445名)に達するとともに,平成18年1
2月29日から平成19年1月28日までの1か月間の本件ウエブサイトへのアク
セス数は38万8881件にのぼっている。
上記会員数及びアクセス件数は,これまでに,約10万人もの需要者が,本願商
標が使用されている本件ウエブサイトから ,「短時間で簡単にできる料理のメニュ
ー・レシピ又は食材に関する情報の提供」を受けていること,及び,1日平均1万
人以上もの需要者が,本件ウエブサイトにおいて,本願商標が本願役務について使
用されていることを見ていることを意味するものである。これは,本願役務に係る
「短時間で簡単にできる料理のメニュー・レシピ又は食材に関する情報の提供」を
受ける可能性のある日本の人口(例として,平成17年度国勢調査による,20∼
49歳の女性の総数を挙げれば,2470万人余りである 。)と比較しても無視す
ることのできない極めて大きな数値である。
( 2) 需要者が,商標を手掛かりにして,求める情報を検索する場合に利用する最
も一般的な方法は,今日では,インターネットによる検索である。そこで,平成1
8年11月6日に,代表的な検索エンジンである「Google」「Yahoo! JAPAN」及

び「 goo」を用いて,本願商標の称呼を表す文字の「スピードクッキング」により
検索を行った結果は, Google」を使用した場合には,検索結果約5万0100件

中の上位1∼6位が, Yahoo! JAPAN」を使用した場合には,検索結果約4万22

00件中の上位1∼4位が, goo」を使用した場合には,検索結果約3670件中

の上位1∼6位が,それぞれ本件ウエブサイト又はこれにリンクされた関連ウエブ
サイトであった。
したがって,インターネットによる検索によって情報を得ようとするほとんどの
需要者は,本件ウエブサイトを訪れることになり,情報提供の場であるインターネ
ットの世界においては,「スピードクッキング」という用語は,現在においては,
もはや,単に「素早くできる料理法」「短時間で簡単にできる料理」を意味する普

通名詞ではなく,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識する
ことができるものに至っているといえる。
なお,上記インターネットの検索結果に照らすと ,「スピードクッキング」とい
う用語が,「素早くできる料理法 」 「短時間で簡単にできる料理」の意味合いで用

いられている例として,審決が列挙するア)∼テ)は,極めて少数の使用例といわ
ざるを得ない。また,これらの使用例中には,原告が本願商標の使用を始めた平成
13年11月よりも古いものが含まれており,現在における本願商標の周知性を否
定する例としてふさわしいものではない。
2 取消事由2(商標の同一性に関する判断の誤り)
審決は,「商標法第3条第2項の適用を受け,使用により識別力を有するに至っ
た商標として登録が認められるのは,使用に係る商標が出願に係る商標と同一の場
合であって,かつ,使用に係る役務と出願に係る指定役務も同一のものに限られる
と解されるところ,各資料において使用されている商標は,太字の『スピードクッ
キング』の文字を白く縁取りして成るもの(甲第1,3,6,17,22号証等)
や活字で『スピードクッキング』の文字と請求人のホームページアドレスの表記で
ある『 http://www.speedcooking.jp/』 又は『 http://www.5012.jp/speedcooking/』 を普通
に用いられる方法で併記して成るもの(甲第8,9,10の2,11の2,12の
2,13の2,15,18乃至21,24乃至39,41乃至64号証)であるか
ら,『SpeedCooking スピードクッキング』の文字を標準文字で書し
て成る本願商標とはその構成態様を別異にするものである。(6頁19∼30行)

と判断したが,以下のとおり,誤りである。
すなわち ,平成13年11月以降,原告が使用してきた商標は,初期においては ,
小さく緑色で横書きされた「Speed Cooking」の欧文字と,その下に
大きく赤色で「スピード」及び「クッキング」の各片仮名文字を横書きに二段に表
して成るものであり(甲第1号証等 ),その後,小さく緑色で横書きされた「Sp
eed Cooking」の欧文字と,その下に大きく赤色で「スピードクッキン
グ」の片仮名文字を横書きして成るものを用い(甲第66号証等),平成19年1
月30日以降は,小さく緑色で横書きされた「SpeedCooking」の欧文
字と,その下に大きく赤色で「スピードクッキング」の片仮名文字を横書きして成
るものを用いている(甲第79号証)。
これらの使用された商標と本願商標とを対比すると,「Speed」と「Coo
king」の各欧文字間の空白を除き,構成文字が過不足なく一致し,また,使用
された商標における具体的な構成態様(色,大きさ,段数)は,多少の装飾が付さ
れているものの,文字がもつ本来の意味を変更するほどの奇抜な態様ではなく,具
体的な構成態様を指定することができない「標準文字」の通常の使用範囲内のもの
である。
さらに,使用された商標と本願商標とは ,少なくとも称呼が同一である。そして ,
上記のとおり,情報を求める需要者が利用するのはインターネットによる検索であ
るところ,検索エンジンに入力する文字は ,フォントや外観に依存しない, 称呼」

を表す「標準文字」であるから,使用により識別力を有するに至った商標は,標準
文字により ,「SpeedCooking スピードクッキング」と書して成る本
願商標と同一であるということができる。
したがって,使用された商標は,実質的に本願商標と同一である。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(周知性の誤認)に対し
後記2のとおり,原告によって現実に使用されてきた商標と本願商標との間には,
同一性が認められないのであるから,本願商標が,商標法3条2項に該当する余地
はないが,その点は措くとしても,以下のとおり,原告によって現実に使用されて
きた商標が,我が国の需要者の間で周知となっているものと認めることはできない 。
(1) 甲第3∼第14号証(枝番号を含む。)によれば,本件ウエブサイトが,平
成13年11月以降,テレビ,新聞,雑誌等の複数のマスメディアにより ,「スピ
ードクッキング」の文字及びウエブサイトのURL表記等を伴って紹介されたこと
を窺い知ることはできるが,その新聞,雑誌等の発行部数及び地域等,需要者間に
おける認識の程度を計るために必要な具体的な根拠は,何も示されておらず,この
程度の紹介があったからといって,原告が現実に使用している商標が,需要者間に
周知となったものと認めることはできない。
(2) 原告は,原告による上記情報提供の業務に係る延べ会員数が9万8515
名(このうち,上記情報の提供をメールマガジンで受信しているアクティブな会員
の数は6万8445名),平成18年12月29日から平成19年1月28日まで
の1か月間の本件ウエブサイトへのアクセス数は38万8881件であったと主張
する。
しかるところ,原告の使用に係る商標の周知性の判断に当たっては,原告の登録
会員数のみならず,本願役務に係る業界における,需要者,取引者全般における原
告の認知度等を考慮すべきことは,被告も否定するものではないが,上記主張によ
っても,本件ウエブサイトへのアクセス数のうち,会員以外の者によるアクセス数
がどの程度に及ぶかは明らかではなく,1か月間のアクセス数と会員数とを比較す
ると,会員以外に多数の者が,本件ウエブサイトにアクセスしたということもでき
ない。加えて,原告の会員以外の者が,原告による本願役務の提供を受けるために
は,原則として会員登録の手続を経た後に,本件ウエブサイトのトップページにお
いて,メールアドレス及びパスワードを入力する必要があり(甲66号証,乙4号
証の1,2 ),このことを併せ考えると,会員以外の者による本件ウエブサイト及
び原告の本願役務の提供に対する認知度は,到底,高いものとはいえない。
(3) 原告は,平成18年11月6日に ,検索エンジン Google」 Yahoo! JAPAN」
「 ,

及び「goo」を用いて,「スピードクッキング」の文字によりインターネット検索を
行った結果,上位1位から4∼6位までが,本件ウエブサイト又はこれにリンクさ
れた関連ウエブサイトであったから,インターネットによる検索によって情報を得
ようとするほとんどの需要者は,本件ウエブサイトを訪れることになると主張する。
しかしながら,検索結果上の順位は,その検索を行った時期によって変動し得る
ものであり(平成18年12月6日に被告が行った検索結果では, Google」を使

用した場合及び「 goo」を使用した場合の各4,5位が,本件ウエブサイト以外の
サイトであった。,また,検索をした者が,検索結果の順位に従ってのみ,結果と

して表示されたウエブサイトにアクセスするともいえないから,検索結果の上位に
表示されることをもって,直ちに,ほとんどの需要者が本件ウエブサイトを訪れる
ということはできない。
さらに,検索結果には,原告以外の者による「スピードクッキング」の文字が「素
早くできる料理法」「短時間で簡単にできる料理」の意味合いで,一般に使用され

ている事例や,本願役務に関連する業界において,「スピードクッキング」の文字
が,「素早くできる料理法や短時間で簡単にできる料理に関する情報の提供」とい
った,役務の質,内容を表示するものとして,使用されている事例も,少なからず
表示され得るものである。
2 取消事由2(商標の同一性に関する判断の誤り)に対し
(1) 商標法3条2項の趣旨は,特定人が,当該商標をその業務に係る商品(役
務)の自他識別標識として,他人に使用されることなく,永年独占排他的に継続使
用した実績を有する場合には,当該商標は例外的に自他商品(役務)識別力を獲得
したものということができる上に,当該商品(役務)の取引界において,当該特定
人の独占使用が事実上容認されている以上,他の事業者に対して,その使用の機会
を解放しておかなければならない公益上の要請は乏しいということができるから,
当該商標の登録を認めようというものであると解される。そうすると,同項により,
商標登録が認められるためには,登録出願に係る商標が,使用された結果,判断時
(審決時)において,自他商品(役務)識別力を獲得していることのほか,商標登
録出願された商標が,使用されてきた商標と同一であることが必要であり,この要
件は厳格に解釈し,適用されるべきである(出願に係る商標と類似のものは含まな
い。。

しかるところ,本願商標と同一の構成から成る商標が,原告によって使用されて
きたことを認めるに足りる証拠は全くない。
(2) 原告は,平成13年11月以降,原告が使用してきた商標につき,①初期
においては,小さく緑色で横書きされた「Speed Cooking」の欧文字
と,その下に大きく赤色で「スピード」及び「クッキング」の各片仮名文字を横書
きに二段に表して成るものであり,②その後,小さく緑色で横書きされた「Spe
ed Cooking」の欧文字と,その下に大きく赤色で スピードクッキング」

の片仮名文字を横書きして成るものを用い,③平成19年1月30日以降は,小さ
く緑色で横書きされた「SpeedCooking」の欧文字と,その下に大きく
赤色で「スピードクッキング」の片仮名文字を横書きして成るものを用いていると
した上,これらの商標と本願商標とは,構成文字が過不足なく一致し,使用された
商標における具体的な構成態様(色,大きさ,段数)は,多少の装飾が付されてい
るものの,文字がもつ本来の意味を変更するほどの奇抜な態様ではなく,「標準文
字」の通常の使用範囲内のものであると主張するが,上記①∼③の商標の構成態様
が本願商標と,同一性を有していないことは明らかである。
また,原告は,需要者が,インターネットに検索により,検索エンジンに入力す
る文字は,フォントや外観に依存しない, 称呼」を表す「標準文字 」であるから,

使用により識別力を有するに至った商標は,標準文字により,「SpeedCoo
king スピードクッキング」と書して成る本願商標と同一であるとも主張する
が,かかる主張は,詮ずるところ,登録出願に係る商標から生ずる称呼と,使用に
よって識別力を有するに至った商標から生ずる称呼とが同一であれば,登録出願に
係る商標と使用された商標とが同一であるものとして,商標法3条2項の適用が認
められるべきであるとの論理に帰着するものであり,
到底認められるものではない 。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由2(商標の同一性に関する判断の誤り)について
便宜上,取消事由2から判断する。
(1) 本願商標と全く同一の構成から成る商標が,原告によって使用されてきた
ことを認めるに足りる証拠はない。
しかるところ,原告は,平成13年11月以降 ,原告が使用してきた商標につき ,
①初期においては,小さく緑色で横書きされた「Speed Cooking」の
欧文字と,その下に大きく赤色で「スピード」及び「クッキング」の各片仮名文字
を横書きに二段に表して成るもの(甲第1号証等),②その後,小さく緑色で横書
きされた「Speed Cooking」の欧文字と,その下に大きく赤色で「ス
ピードクッキング」の片仮名文字を横書きして成るもの(甲第66号証等)である
とした上(以下,これらの商標を,順次,「使用①の商標」 「使用②の商標」とい

う。,これらの商標が,実質的に本願商標と同一である旨主張するので,まず,こ

の点につき判断する。
なお,原告は,平成19年1月30日以降は,小さく緑色で横書きされた「Sp
eedCooking」の欧文字と,その下に大きく赤色で スピードクッキング」

の片仮名文字を横書きして成るものの使用をしている旨主張するが,登録出願に係
る商標が,商標法3条1項各号又は同条2項に該当するか否かは,査定時(審判請
求があったときは審決時)を基準として判断すべきものであるから,本件において
は,審決後である平成19年1月30日以降の使用に係る商標の構成態様は,判断
の対象となり得ない。
(2) 商標法3条1項3号が,同号所定の商標につき商標登録を受けることがで
きないとする趣旨は,同号所定の商標は,例えば商品(役務)の質,内容等の特性
を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を
欲するものであるから,特定人によるその独占的使用を認めることを,公益上適当
としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合,自
他商品(役務)識別力を欠き,商標としての機能を果たさないことによるものであ
ると解され,他方,同条2項が,同条1項3号等所定の商標であっても,使用をさ
れた結果,需要者が何人かの業務に係る商品(役務)であることを認識することが
できるものについては,商標登録を受けることができるとする趣旨は,特定人が,
当該商標を,その者の業務に係る商品(役務)の自他識別標識として,永年の間,
他人に使用されることなく,独占的排他的に継続使用した実績を有する場合には,
当該商品(役務)に係る取引界においては,事実上,当該商標の当該特定人による
独占的使用が事実上容認されているといえるので,他の事業者にその使用の機会を
開放しておく公益上の要請が乏しくなるとともに,当該商標が,自他商品(役務)
識別力を獲得したことにより,商標としての機能を備えるに至ったことによるもの
と解される。
ところで,同条2項の規定上,同項によって商標登録が認められるのは,使用さ
れていた商標に限られることは明らかであるが,上記のように,同条1項3号等の
規定に対する例外規定である同条2項の規定は,当該商標が,特定人によりその業
務に係る商品(役務)の自他識別標識として使用されてきた事実に基づく,公益上
の要請の後退及び自他商品(役務)識別力の取得という現象に基礎を置くものであ
って,当該「使用」の範囲に含まれない構成態様の商標には,同条2項により商標
登録を受けることを許容する根拠が認められるわけではない(すなわち,当該「使
用」の範囲に含まれない構成態様の商標が,なお同条1項3号等に当たる場合であ
れば,上記公益上の要請及び識別力の欠如という状態が存在する)のであるから,
同条2項の適用において,登録出願に係る商標と使用されていた商標との同一性は,
厳格に判断されるべきものと解するのが相当である。
(3) 本件出願に係る商標(本願商標)は,いずれも標準文字のみによる「Sp
eedCooking」の欧文字と ,「スピードクッキング」の片仮名文字を,横
書きに,欧文字と片仮名文字の間に1字分の空白を設けた上で,一連に表して成る
ものである。
これに対し,使用①の商標の構成態様(甲第1号証)は,全体を3段に分けて表
し,上段は「Speed」の欧文字と「Cooking」の欧文字を,横書きに,
その間に1字分の空白を設けた上で,一連に表して成り,中段は「スピード」の片
仮名文字を,下段は「クッキング」の片仮名文字を,それぞれ横書きに表して成る
ものであって,中段の文字の左端は上段の文字の左端と比べ,また,下段の文字の
左端は中段の文字の左端と比べ,それぞれ右方にずれているが,そのずれ幅は,中
段は上段と比べわずかであるのに対し,下段は中段と比べ,ほぼ1文字文ずれてお
り,書体は,上段の欧文字も,中,下段の片仮名文字も,標準文字ではなく,筆記
体に近いものであり,さらに,中,下段の片仮名文字は,字の大きさ及び書体を共
通にし,上段の欧文字は,中,下段の片仮名文字と比べ,ごく小さい文字で表した
ものである。なお,色彩を明らかにする証拠はない。
使用②の商標の構成態様(甲第66号証)は,全体を2段に分けて表し,上段は
「Speed」の欧文字と「Cooking」の欧文字を,いずれも緑色で,横書
きに,その間に1文字分の空白を設けた上で,一連に表して成り,下段は「スピー
ドクッキング」の片仮名文字を,赤色で横書きに表して成るものであって,下段の
文字の左端は上段の文字の左端と比べ,下段の文字の横幅の約半分程度,右方にず
れており,書体は,上段の欧文字も,下段の片仮名文字も,標準文字ではなく,筆
記体に近いものであり,さらに,上段の欧文字は,下段の片仮名文字と比べ,ごく
小さい文字で表したものである。
そうすると,使用①の商標及び使用②の商標が,本願商標と称呼及び観念を共通
にし,さらに,構成文字において過不足なく一致するとしても,使用①の商標及び
使用②の商標と本願商標とでは,外観において相当程度に相違しており,使用①の
商標及び使用②の商標の使用が,実質的に本願商標の使用に当たるということはで
きない。
(4) 原告は,使用①の商標及び使用②の商標につき,文字がもつ本来の意味を
変更するほどの奇抜な態様ではなく,具体的な構成態様を指定することができない
「標準文字」の通常の使用範囲内のものであると主張する。しかしながら,標準文
字のみによって,商標登録を受けようとする場合(商標法5条3項)には,文字に
つき具体的な構成態様を指定することができないことは当然である(同法12条の
2第2項3号かっこ書き参照)が,この場合の文字の構成態様については,標準文
字の書体から成るものとして扱われ(同法12条の2第2項3号かっこ書き,27
条1項参照 ),格別,文字の構成態様について同一性を有するものの範囲が広がる
というものではないから,文字がもつ本来の意味を変更するほどの奇抜な態様でな
ければ,標準文字と同一性を有するといわんばかりの原告の主張は失当である。
また,使用①商標及び使用②商標と本願商標とは,称呼を共通にするものである
ところ,原告は,情報を求める需要者が利用するのはインターネットによる検索で
あり,検索エンジンに入力する文字は,フォントや外観に依存しない,「称呼」を
表す「標準文字」であるから,使用により識別力を有するに至った商標は,標準文
字により,「SpeedCooking スピードクッキング」と書して成る本願
商標と同一であるということができる旨主張する。しかしながら,検索エンジンに
入力する文字が,フォントや外観という要素を伴わないという意味で「標準文字」
という言い方が可能であるとしても,これと,商標法5条3項所定の「特許庁長官
の指定する文字」の略称である「標準文字」の意義が同一であるとはいえず,原告
の上記主張は,両者を混同するものである。のみならず,商標法3条2項の適用に
は,特定の商標が,特定人によりその業務に係る商品(役務)の自他識別標識とし
て使用されてきたことが必要であるところ,仮に,情報を求める需要者が検索エン
ジンに入力する文字が「標準文字」によって成り,原告が使用してきた商標と同一
の称呼を生ずるものであるとしても,そのような標準文字によって成る入力文字を ,
なにゆえに,原告が使用してきたといい得るのかが明らかではない。そもそも,一
般に,情報を求める需要者がインターネットの検索エンジンに入力する文字が,登
録出願人が使用してきた商標と同一の称呼を生ずるからといって,それだけで,標
準文字のみから成る商標と,登録出願人が使用してきた商標とが同一であるとはい
えないことは明白である。
(5) したがって,原告によって使用されてきた商標が,本願商標とその構成態
様を異にするものであるとの審決の判断に誤りはない。
2 結論
以上によれば,取消事由1について判断するまでもなく,原告の請求は理由がな
いから,棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
石 原 直 樹
裁判官
高 野 輝 久

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