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平成18(行ケ)10373審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年3月29日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官
原告トータル・ペトロケミカルズ・(TOTALPETROCHEMICALSRESEARCHFELUY)
法令 特許権
キーワード 実施80回
審決21回
進歩性2回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 本件は,後記特許の出願人である原告が,拒絶査定を受けたので,これを不服 として審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたため,その取消 しを求めた事案である。

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判決文

判決言渡日 平成19年3月29日
平成18年(行ケ)第10373号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成19年3月20日
判 決
原 告 トータル・ペトロケミカルズ・
リサーチ・フエリュイ
(TOTAL PETROCHEMICALS RESEARCH FELUY)
(旧商号 フイナ・リサーチ・ソシエテ・アノニム)
(FINA RESEARCH S.A.)
訴訟代理人弁理士 小 田 島 平 吉
同 深 浦 秀 夫
被 告 特 許 庁 長 官
中 嶋 誠
指 定 代 理 人 井 出 隆 一
同 舩 岡 嘉 彦
同 徳 永 英 男
同 内 山 進
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2003−17402号事件について平成18年3月24日にした審決を取り
消す。
第2 事案の概要
本件は,後記特許の出願人である原告が,拒絶査定を受けたので,これを不服
として審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたため,その取消
しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「幅広い分子量分布を示すポリエチレンの製造方法」とす
る発明につき,1993年(平成5年)10月15日に国際出願(PCT/BE93/00065)
をし,平成7年(1995年)6月9日に日本国特許庁に特許法184条の5第1項
の規定による書面等を提出したが,平成15年6月2日付けで拒絶査定を受け
たので,不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2003−17402号事件として審理し,その中で原告
は平成15年10月7日付けで手続補正(以下「本件補正」という。甲6)をし
たが,特許庁は,平成18年3月24日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をし,その謄本は平成18年4月17日原告に送達された。
(2) 発明の内容
平成15年10月7日付けの本件補正後の請求項は1及び2から成るが,その
請求項1に係る発明は,下記のとおりである(以下「本願発明」とい
う。)。

「直列連結している2個の液体充填ループ反応槽内で,有機マグネシウム化
合物とチタン化合物との反応生成物である遷移金属成分(成分A),有機
アルミニウム化合物(成分B)および任意に1種以上の電子供与体を含む
触媒を存在させ,1から100バールの絶対圧力下50から120℃,好適には60
から110℃の温度で,3から10個の炭素原子を有する1種以上の他のアルフ
ァ−アルケンコモノマーを,該アルファ−アルケンコモノマーとエチレン
との合計を100モル%として,多くとも20モル%用い,水素で平均分子質量
を調節することによってエチレンを共重合させる方法において,該コモノ
マーの導入を本質的に第一反応槽内で行いそしてこの第一反応槽内の水素
濃度を非常に低い濃度にすることにより0.01から5g/10'のHLMIを示す
エチレンポリマー類が生じるようにし,そして第二反応槽内の水素圧を非
常に高く維持することにより5g/10'より大きいHLMIを示すエチレンポ
リマー類が生じるようにし,且つ,該第一反応槽内の水素濃度を0.005から
0.07体積%にし,そして第二反応槽内の水素濃度を0.5−2.2体積%にし
て,この重合を実施することを含む方法。」
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願
発明は,その出願前に頒布された特開昭58−13605号公報(甲1。以下「
引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項によ
り特許を受けることができない,としたものである。
イ 上記判断をするに当たり,審決は,本願発明と引用発明との一致点及び
相違点を次のとおり認定した。
(一致点)
「直列連結している2個の液体充填反応槽内で,有機マグネシウム化合
物とチタン化合物との反応生成物である遷移金属成分(成分A)及び
有機アルミニウム化合物(成分B)を含む触媒を存在させ,1から
100バールの絶対圧力下50から120℃の温度で,3から10個の炭素原子
を有する1種以上の他のアルファ−アルケンコモノマーを用い,水素
で平均分子質量を調節することによってエチレンを共重合させる方法
において,該コモノマーの導入を本質的に第一反応槽内で行い,第一
反応槽内の水素濃度を非常に低い濃度に,第二反応槽内の水素圧を非
常に高く維持することを含む方法」である点。
(相違点)
本願発明における以下の構成要件について引用発明には明示されて
いないので,両発明は相違する。
(あ)液体充填反応槽として「ループ反応槽」を用いる点。
(い)「(1種以上の他のアルファ−アルケンコモノマーを)アルファ
−アルケンコモノマーとエチレンとの合計を100モル%として,多
くとも20モル%用いる」点。
(う )「(第一反応槽内の水素濃度を非常に低い濃度にすることによ
り)0.01から5g/10'のHLMIを示すエチレンポリマー類が生じ
るように」する点。
(え)「(第二反応槽内の水素圧を非常に高く維持することにより)5
g/10'より大きいHLMIを示すエチレンポリマー類が生じるよう
に」する点。
(お )「第 一 反 応 槽 内 の 水 素 濃 度 を 0.005か ら 0.07体 積 % に 」 す る
点。
(か)「第二反応槽内の水素濃度を0.5−2.2体積%に」する点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,審決は,本件発明はコモノマーの導入を本質的に第一反応
槽内で行う点において引用発明と一致すると誤って認定している(取消事
由)が,この点こそが本願発明を引用発明から区別する重要な相違点であ
り,審決の認定はこの相違点を看過した点で誤っている。そして,上記一致
点の認定の誤りは審決の進歩性の判断に影響を及ぼすものであって,審決は
取消しを免れない。
ア 本願発明におけるコモノマーの導入について
(ア)本願発明の「コモノマーの導入を本質的に第一反応槽内で行い」との
構成の意味
a 本願発明の「コモノマーの導入を本質的に第一反応槽内で行い」と
の構成は,第二反応槽にはコモノマーが本質的に存在せず,共重合反
応が行われないことを意味するもので,上記構成における「導入」と
は,物理的な供給という意味ではなく,エチレンポリマー鎖に「導
入」するという意味である。
すなわち,本願発明における「コモノマーの導入を本質的に第一反
応槽内で行い」との構成は,コモノマーをエチレンと共に第一反応槽
内に物理的に供給するという運転操作を意味するものではなく,第一
反応槽内で成長しつつあるエチレンポリマー鎖に本質的にすべてのコ
モノマーを導入する(共重合させる),という化学的な反応操作を意
味する。換言すると,この構成は,コモノマーのほぼ全量が第一反応
槽内でのエチレンとの共重合反応において消費され,したがって,第
一反応槽から第二反応槽へ移送される生成物流の中にはコモノマーが
本質的に存在しないということ,及び,第二反応槽にはコモノマーを
供給せずしたがって第二反応槽内では共重合反応は行なわれないとい
うこと,を意味する。
b 被告は,原告の上記主張は明細書の記載に基づくものではないと主
張するが,当業者であれば,「コモノマーの導入を本質的に第一反応
槽内で行い」という構成は,物理的な供給が第一反応槽内のみで行わ
れるという意味にとどまらず,第一反応槽内で成長しつつあるエチレ
ンポリマー鎖にすべてのコモノマーを共重合反応させるという意味で
あることを,正しく理解できるものである。
すなわち,本願明細書(甲2)の「発明の要約」の項には,請求項
1におけると同様に,「コモノマーの導入を本質的に第一反応槽内で行い」(
4頁3∼4行,下線付加)と記載されている。そして,「既に示したように,
第一反応槽の中にアルファ−オレフィンコモノマーを導入するのが必須である」(
7頁10∼11行,下線付加) との記載については,「既に示したように」と
いうのが4頁3∼4行の記載を受けていることは明らかであるか
ら,「第一反応槽の中にアルファ−オレフィンコモノマーを導入する
のが必須である」との記載は,物理的な供給ではなく,「第一反応槽
の中でアルファ−オレフィンコモノマーを導入するのが必須である」
という趣旨であると理解される。
なお,本願明細書(甲2)の「予め接触させた触媒と一緒にエチレンとコ
モノマーを第一ループ反応槽の中に注入する」(7頁14行,下線付加) , 「第一
反応槽の中にエチレンと触媒とコモノマーを注入する」(8頁6∼7行,下線付
加)との記載は,第一反応槽内においてすべてのコモノマーを消費し
て共重合反応を完結させるために当然必要とされる,第一反応槽へ
のコモノマーの供給という物理的な運転操作を説明するものである
から,「に」という補語がここで使用されているのは当然のことで
ある。
また,被告は,「コモノマーの導入を本質的に第一反応槽内で行
い」という構成が共重合反応のことを意味しているのであれば,コモ
ノマーが導入される先が請求項1に示されているべきであるとも主張
する。しかし,請求項1における「アルファ−アルケンコモノマーを,該ア
ルファ−アルケンコモノマーとエチレンとの合計を100モル%として,多くとも20モ
ル%用い,水素で平均分子質量を調節することによってエチレンを共重合させる」
との記載からみれば,コモノマーが導入される先がエチレン共重合体
であることは明らかである。
(イ)本願発明における「コモノマーの導入を本質的に第一反応槽内で行
い」との構成の意味が上記(ア)のとおりであることは,本願明細書の実
施例の記載に基づいて説明することができる。
a エチレンとコモノマーの流量比
(a)本願明細書(甲2)の表1から,実施例1∼6の場合におけるエ
チレン及びコモノマー(1−ヘキセン)の供給に関するデータだけ
を摘記すると,下記の表Aのとおりである。
【表A】
実施例 1 2 3 4 5 6
第一反応槽 C2(エチレン) 3 2.5 4 3.9 4 4
(Kg/時)
C6(1−ヘキセン) 230 300 250 250 150 150
(cc/時)
第二反応槽 C2(エチレン) 5 5.4 4 4 4 4
(Kg/時)
上記の表Aによれば,いずれの実施例の場合も,第一反応槽内で
の共重合反応が多量のエチレンと少量のコモノマー(1−ヘキセ
ン)との共重合反応であることからみて,コモノマー(1−ヘキセ
ン)は第一反応槽内での共重合反応において本質的に消費され,第
二反応槽内での重合は本質的にエチレンのホモ重合であることが分
かる。例えば実施例1の場合についていうと,第一反応槽内におけ
る230cc/時なるコモノマー(1−ヘキセン;密度0.673g/cc)の流量
は,0.673×230=155g/時と換算され,これはエチレンの3Kg/時(
3000g/時)という流量に比べて極めて少量であり,コモノマー(1
−ヘキセン)が第一反応槽内でのエチレンとの共重合反応において
本質的に消費されることは明らかである。他の実施例についても,
全く同じである。
(b)被告は,本願発明の実施例におけるエチレンとコモノマーの流量
比は,引用発明の実施例におけるものとほぼ同程度であるから,本
願発明においてコモノマーが第一反応槽内で本質的に消費されると
はいえないと主張する。
しかし,流量比がほぼ同程度であるとしても,本願発明の実施例
では,本質的にコモノマー(ヘキセン−1)の全量が第一反応槽内
でエチレンとの共重合によって消費されてしまうまで運転を継続し
なければならないのに対して,引用発明の実施例では,第一反応槽
では共重合体の生成割合が全共重合体の30∼70%の範囲となるよう
に,すなわち,一定量のコモノマー(ヘキセン−1)が第一反応槽
での共重合によって消費されることなく第二反応槽へ移送され得る
ように運転を調節しなければならない,という相違がある。このた
め,本願発明の方法では,第一反応槽内においては,避けることの
できないデッド・ロス(dead loss)としての微量の未反応ヘキセン
−1が残るにすぎず,これは第二反応槽においてはエチレンとの共
重合反応に用いられずにそのまま通過して排出されるのに対して,
引用発明の実施例では,第一反応槽で消費されなかったヘキセン−
1が第二反応槽へ移送されて第二反応槽内でエチレンと共重合反応
させられ,第二反応槽においてもヘキセン−1を含有するエチレン
共重合体が生成されるのである(引用例〔甲1〕の「第二段重合器の
みで生成しているエチレン共重合体の……1−ヘキセン含量は0.43重量%」(6
頁右上欄6∼8行)との記載を参照)。
したがって,被告の主張は失当である。
b 第二反応槽における生成物の密度
(a)本願発明における第二反応槽内での重合が,エチレンとコモノマ
ーとの共重合ではなくて,本質的にエチレンのホモ重合であるとい
う事実は,実施例に示された生成物の密度の数値に基づいて説明す
ることもできる。生成物の密度に関するデータだけを本願明細書の
表1から摘記すると,下記の表Bのとおりである。
【表B】
実 施例 1 2 3 4 5 6
第一反応槽で得 密度(g/cc) 0.933 0.925 0.942 0.940 0.944 0.946
られた生成物( 最終生成物
高分子量部分) 中の割合 約50 約40 約60 約60 約60 約60
(重量%)
最終生成物の密度(g/cc) 0.952 0.950 0.952 0.954 0.953 0.955
第二反応槽のみで得られた生成物(低分子量部分)についてのデ
ータは,上記の表Bには示されていないが,計算によって求めるこ
とができる。例えば実施例1の場合,最終生成物の密度が0.952であ
ること,第一反応槽で得られた生成物の密度が0.933であること,及
び最終生成物中の第一反応槽で得られた生成物の割合が50%である
ことに基づいて,比例配分に従って計算すると,第二反応槽のみで
得られた生成物の密度(D)は,式
0.952=0.933×0.5+D×(1−0.5)
から,D=0.971と算出される。同様に計算すると,実施例2,3,
4,5及び6において第二反応槽のみで得られた生成物の密度は,
それぞれ,0.967,0.967,0.975,0.967及び0.969と算出される。
そこで,これら算出された密度の数値と前記表Bのデータとをま
とめて表示すると,下記の表Cのようになる。
【表C】
実 施例 1 2 3 4 5 6
第一反応槽 密度(g/cc) 0.933 0.925 0.942 0.940 0.944 0.946
で 得 ら れ た 最終生成物中
生 成 物 ( 高 の割合(重量 約50 約40 約60 約60 約60 約60
分子量部分) %)
第二反応槽 密度(g/cc) 0.971 0.967 0.967 0.975 0.967 0.969
で 得 ら れ た 最終生成物中
生 成 物 ( 低 の割合(重量 約50 約60 約40 約40 約40 約40
分子量部分) %)
最終生成物の密度(g/cc) 0.952 0.950 0.952 0.954 0.953 0.955
上記の表Cにおける「第一反応槽で得られた生成物(高分子量部
分)」の密度と「第二反応槽で得られた生成物(低分子量部分)」
の密度とを対比すると,いずれの実施例の場合も,後者の方が高
い。エチレンポリマーの密度はコモノマーの含量と直接的にかつ非
常に敏感に関連することが周知であるから,上記表Cのデータは,
本願発明の方法では第一反応槽内でコモノマーが本質的に消費され
てしまい,第二反応槽内での重合が本質的にエチレンのホモ重合で
あることを示している。
(b)被告は,引用発明の実施例においても第一反応槽内で生成するエ
チレン共重合体の密度が0.927∼0.931g/cm3 であるのに対して第二
反応槽内で生成するエチレン共重合体の密度は0.964∼0.966g/cm3
であり,両者の関係は,後者が前者より高い点で本願発明の実施例
における関係と同様であり,密度の値自体も引用発明と本願発明と
で大差がないことを理由に,本願発明の実施例における生成物密度
の値をもって,本願発明において第一反応槽内でコモノマーが本質
的に消費されてしまい,第二反応槽内での重合が本質的にエチレン
のホモ重合であるという原告の上記(a)の主張は誤りである,と主
張する。
しかし,エチレンホモポリマーの密度が0.96∼0.97g/cm3 である
ことは技術常識であるところ,これより密度が低いはずのエチレン
共重合体の密度が0.964∼0.966g/cm3 を示すことはあり得ないか
ら,引用例の実施例のデータは不自然であって,そもそも信用する
ことができない。
イ 引用発明におけるコモノマーの導入について
(ア)引用発明では,引用例(甲1)の 「(b)工程に於いては,〔η〕bが0.3∼1.0の
範囲のエチレンと他のα−オレフインとの共重合体を液相に於けるエチレン濃度に対
−3
する水素濃度の濃度比を10∼50×10 (重量比)に保ち,(a)工程から流れこむ反応混
合物中のα−オレフインを共重合させて行なうか,必要に応じて第二反応帯域にα−
オレフインを供給してもよい。」(4頁右上欄6∼12行) との記載によれば,コ
モノマーの供給方式として,① コモノマーを第一反応槽のみに供給す
る方式,あるいは,② コモノマーを第一反応槽及び第二反応槽の両方
に供給する方式,のいずれかが採られるものとされている。また,特許
請求の範囲に記載されているように,共重合体の製造条件として,第一
反応槽内で最終共重合体の30∼70%に相当する量の高極限粘度の共重合
体を生成させ,且つ,第二反応槽内で最終共重合体の70∼30%に相当す
る量の低極限粘度の共重合体を生成させることが必要とされている。
引用発明において上記①の供給方式を採った場合には,第一反応槽に
エチレンと共に供給されたコモノマーは,そのうちのある量だけが高極
限粘度のエチレン共重合体を生成するための第一反応槽内での共重合反
応において消費され,残量がエチレンと共に第二反応槽へ移送されて,
低極限粘度のエチレン共重合体を生成するための第二反応槽内での共重
合反応において消費される。引用例の4頁右上欄6∼11行における前
記「(b)工程に於いては………(a)工程から流れこむ反応混合物中のα−オレフインを
共重合させて行なう」との記載はこの方法を示したものである。
一方,引用発明において上記②の供給方式を採った場合(引用例〔甲
1〕の4頁右上欄11∼12行にいう 「必要に応じて第二反応帯域にα−オレフィ
ンを供給」した場合)には,2通りの態様があり得る。第1の態様では,
第一反応槽にエチレンと共に供給されたコモノマーは,そのうちのある
量だけが高極限粘度のエチレン共重合体を生成するための第一反応槽内
での共重合反応において消費され,残量がエチレンと共に第二反応槽へ
移送され,第二反応槽に新たに供給されたコモノマーと一緒になって,
低極限粘度のエチレン共重合体を生成するための第二反応槽内での共重
合反応において消費される。第2の態様では,第一反応槽にエチレンと
共に供給されたコモノマーは,その全量が高極限粘度のエチレン共重合
体を生成するための第一反応槽内での共重合反応において消費され,コ
モノマーを含んでいない生成物流が第一反応槽から第二反応槽に移送さ
れ,該生成物流中のエチレンが,第二反応槽に新たに供給されたコモノ
マーと第二反応槽内で共重合されることによって,低極限粘度のエチレ
ン共重合体が生成される。この第2の態様は,第一反応槽内でコモノマ
ーの全量が消費されてしまう点で本願発明と共通するところがあるが,
第二反応槽にコモノマーが新たに供給されて第二反応槽内においても共
重合反応が行なわれる点で,本願発明とは相違する。
(イ)以上のように,引用発明は,コモノマーの供給方式として上記①②の
いずれを採るにせよ,本願発明とは異なり,第二反応槽内に必ずコモノ
マーが存在し,第二反応槽内においても共重合反応が行なわれることを
特徴としている。
ウ 上記アのとおり,本願発明は,コモノマーの導入(共重合反応)が第一反
応槽で完結するものであり,上記イのとおり,引用発明は,コモノマーの導
入が第一反応槽で完結せず第二反応槽でも行われるものであるから,両者は
この点で相違している。したがって,審決が,「コモノマーの導入を本質的
に第一反応槽内で行(う)」ことを一致点に含めて認定したことは誤りであ
る。
エ そして,上記ウの相違点に係る構成によって,本願発明は引用発明に比し
て格別に顕著な作用効果を奏するものであるから,上記一致点の認定の誤り
に伴う相違点の看過は,本願発明の進歩性に関する審決の結論に影響を及ぼ
すものである。
すなわち,本願発明で得られる生成物は,引用発明に類似する公知技術(
審査段階で提出した平成14年7月24日付けの意見書〔甲4〕記載の実施例
9,10)で得られる生成物に比べて,分子量分布(MWD)の幅が広いため
に流動性及び加工性が改良され,かつ,機械的特性(曲げモジュラス及び耐
環境応力亀裂性)において優れており,特に,耐環境応力亀裂性の改良効果
は格別に顕著である。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論
原告が,審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,いずれも失
当である。
(1)原告の主張ア(ア)に対し
本願明細書(甲2)には,原告が主張するような,「第一反応槽内で成長
しつつあるエチレンポリマー鎖に本質的にすべてのコモノマーを共重合させ
る」,「コモノマーのほぼ全量が第一反応槽内でのエチレンとの共重合反応
において消費され,したがって,第一反応槽から第二反応槽へ移送される生
成物流の中にはコモノマーが本質的に存在しない」,「第二反応槽内では共
重合反応は行われない」ということを開示する記載はない。かえって,本願
明細書全体の記載をみれば,本願発明の「コモノマーの導入を本質的に第一
反応槽内で行い」との構成が,コモノマーを物理的に第一反応槽に供給する
ことを意味することは明白である。
また,仮に原告が主張するように,本願発明の上記構成が,第一反応槽内
で成長しつつあるエチレンポリマー鎖に本質的にすべてのコモノマーを共重
合させることを意味するものとすれば,特許請求の範囲の記載に,コモノマ
ーが何に導入されるのかが示されているべきである。この点が示されていな
い以上,原告がいうような「成長しつつあるエチレンポリマー鎖」等の記載
を補って読み込むべき理由はない。
したがって,原告の主張は明細書の記載に基づくものではなく,失当であ
る。
(2)原告の主張ア(イ)に対し
ア 同aにつき
引用発明の実施例における第一段重合器へのヘキセン−1とエチレンの
流量比は,本願発明の実施例と同程度のものである。また,引用発明の実
施例には,第二段重合器において新たにコモノマーを供給することが記載
されておらず,第二段重合器において新たにコモノマーを供給するもので
はない点でも本願明細書の実施例と一致している。
そうすると,本願発明の実施例において,原告のいうようにコモノマ
ー(1−ヘキセン)が第一反応槽内での共重合反応において本質的に消費
されるとするならば,同程度のヘキセン−1とエチレンの流量比で第一段
重合器での共重合を行う引用発明の実施例においても,ヘキセン−1は本
質的に第一段重合器で消費され,第二段重合器には移送されないはずであ
る。
しかるに,引用発明の実施例1では,第二段重合器で生成しているエチ
レン共重合体にはヘキセン−1が0.43重量%含まれていることが記載され
ているのであり(引用例〔甲1〕の6頁右上欄6∼9行),これは,第一段重合
器内において液相中に蓄えられたヘキセン−1によるものであると解され
る。したがって,これと同程度の流量比等で原料の供給を行う本願発明の
実施例でも,ヘキセン−1が第一反応槽内で本質的に消費されるというこ
とはできないから,第二反応槽での重合は本質的にエチレンのホモ重合で
ある旨の原告の主張は失当である。
イ 同bにつき
引用発明の実施例においても,本願発明の実施例と同様に,第二段重合
体の密度が,第一段重合体の密度より高くなっており,それぞれの密度の
値自体も両実施例間で大差ないものである。そして,本願発明の実施例に
は第二反応槽のみで得られた生成物にコモノマーが含まれることについて
は明示されていないが,実施例の結果をまとめた表1には,第二反応槽に
係る項中に「オフガス C6-(重量%)」として0.17,0.21,・・・との
数値が示されており,第二反応槽からヘキセン−1が排出されることが示
されているのであり,第二反応槽においてエチレンと共にヘキセン−1が
存在し,そこで共重合反応が行われることとなるから,結果としてエチレ
ンとヘキセン−1の共重合体が生成しているものと解するほかはない。
したがって,本願発明の場合に,コモノマーのほぼ全量が第一反応槽内
での共重合反応において消費されてしまい,したがって,第一反応槽から
第二反応槽へ移送される生成物流の中にはコモノマーが本質的に存在せ
ず,第二反応槽内では共重合反応が行われない旨の原告の主張が,本願発
明の実施例における生成物の密度の値によって証明されるものとすること
はできない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由の有無
原告は,本願発明の「コモノマーの導入を本質的に第一反応槽内で行い」と
の構成における「導入」は,物理的な供給を第一反応槽内のみに行うことを意
味するのではなく,第一反応槽内で成長しつつあるエチレンポリマー鎖にすべ
てのコモノマーを共重合させる,という化学的な反応操作を意味する,と主張
する(上記第3の(4)ア)。そして,その根拠として,本願明細書(甲2,
3,5,6)の文言解釈(同ア(ア))と,実施例のデータの解釈(同ア(イ))を
挙げる。
しかし,以下のとおり,原告の主張は採用することができない。
(1)本願明細書の文言解釈について
ア 本願明細書(甲2,3,5,6)には,コモノマーの「導入」に関連し
て,次の記載がある(下線及び『』を付加)。
(ア)「コモノマーの『導入』を本質的に第一反応槽内で行い」(甲2,4頁3∼4
行)
(イ)「既に示したように,第一反応槽の中にアルファーオレフィンコモノマーを『導
入』するのが必須であることを見い出した。」(甲2,7頁10∼11行)
(ウ)「予め接触させた触媒と一緒にエチレンとコモノマーを第一ループ反応槽の中に
『注入』する。」(甲2,7頁14∼15行)
(エ)「本発明の特徴の1つは,第一反応槽の中にエチレンと触媒とコモノマーを『注
入』することで改良された機械的特性をもたらすことにある。」(甲2,8頁6∼
7行)
(オ) 実施例及び比較例の重合条件を示した表1において,毎時の量として,第一反
応槽についてC2-(kg/時),C6-(cc/時),H2(Nℓ/時)が示されているのに対し,第二
反応槽についてはC2-(kg/時),H2(Nℓ/時)が示されているがC6については示されて
いない(甲3〔第1次補正書の別紙I〕。なお,C2は炭素数2のエチレンを,C6は
炭素数6のアルファ−アルケンコモノマーである1−ヘキセンを意味すると認めら
れる。)。
上記の各記載のうち,(ア)は請求項1の記載を繰り返した以上のもので
はない。(ウ),(エ)は「注入」という文言が用いられていることからみ
て,物理的な供給を意味することは明らかである。また,(オ)も,コモノ
マーの物理的な供給が第一反応槽の中にのみ行われ,第二反応槽の中には
行われないことを開示しているにとどまる。
これらに対し,上記(イ)の記載には「導入」という文言が用いられてい
るが,その直前に「第一反応槽の中に」という文言があることからみて,
ここでいう「導入」も,物理的な供給の意味であると理解するほかはな
い。
そうすると,本願発明の構成中の「コモノマーの導入を本質的に第一反
応槽内で行い」は,コモノマーを反応槽の中に供給する操作を第一反応槽
内で行い,第二反応槽内では行わないことを意味していると認められる。
イ 原告は,本願発明の「コモノマーの導入を本質的に第一反応槽内で行
い」との構成は,第二反応槽内にはコモノマーが本質的に存在せず,共重
合反応が行われないことを意味するもので,ここでいう「導入」は,物理
的な供給ではなく,エチレンポリマー鎖への「導入」を意味すると主張す
る。
しかし,上記アのとおり,本願明細書の記載によれば,「コモノマーの
導入を本質的に第一反応槽内で行い」は,コモノマーを反応槽の中に注入
する操作を第一反応槽内で行い第二反応槽内では行わないこと,すなわち
物理的な供給を第一反応槽内にのみ行うことを意味すると認められる。そ
して,本願明細書を精査しても,第二反応槽内にはコモノマーが存在しな
いことや,第二反応槽内では共重合反応が行われないことを示唆する記載
を見いだすことはできない。
しかも,本願明細書の表1(甲3の別紙I)には,第二反応槽からのオ
フガスにC6成分すなわち1−ヘキセンが含まれていることが記載されてお
り(別紙Iの1頁下2行),このことは,第一反応槽に供給されたコモノマー
の全量が第一反応槽内で共重合反応のために消費(原告のいうエチレンポ
リマー鎖への「導入」)されるのではなく,一部は第二反応槽へも移送さ
れ,第二反応槽内でも共重合反応が行われている可能性を示唆するもので
ある。
このように,本願明細書の記載から,第二反応槽にはコモノマーが本質
的に存在せず,共重合反応が行われないことを読みとることはできない。
したがって,「コモノマーの導入を本質的に第一反応槽内で行い」との構
成が,物理的な供給ではなくエチレンポリマー鎖への導入という化学的な
反応操作を意味するとの原告の主張は,採用することができない。
ウ 以上のとおり,本願発明の「コモノマーの導入を本質的に第一反応槽内
で行い」との構成は,コモノマーの物理的な供給を第一反応槽の中にのみ
行うことを意味すると認められる。したがって,審決が,上記構成につい
て同旨の解釈の上に立って一致点の認定をしたことに,誤りはない。
(2)実施例のデータの解釈について
ア エチレンとコモノマーの流量比
(ア)原告は,本願発明の実施例では,コモノマーは極めて少量(例えば実
施例1ではエチレン3kg/時に対し1−ヘキセン155g/時であるから,
第一反応槽内で全量が共重合反応のために消費されると主張する。しか
し,原告は,上記のような流量比でエチレンとコモノマーを供給した場
合にコモノマーの全量が共重合反応のために消費されることを裏付ける
証拠を提出しておらず,本件全証拠によるも,そのような事実を認める
に足りない。
(イ)また,原告の主張する本願発明の実施例における流量比を,引用発明
の実施例における流量比と比較しても,原告の上記主張は理由がない。
ア 引用例(甲1)には,引用発明の実施例1について次の記載があ
る。
「第一段重合器に・・・エチレンを21.0kg/Hr,ヘキセン−1を0.910kg/Hrの速
−3
度で供給し,液相中の水素濃度0.35×10 wt%,エチレン濃度1.0wt%,水素
−3
の対エチレン濃度比0.35×10 (w/w),ヘキセン−1の対エチレン濃度比を

1.3(w/w)に一定に保ち,全圧41kg/cm ,平均滞留時間を0.80hrの条件下で液充
満の状態で連続的に第一段共重合を行なう」(5頁右下欄14行∼6頁左上欄5
行)
引用発明の上記実施例1において,本願発明の第一反応槽に相当す
る第一段重合器へのヘキセン−1とエチレンとの供給流量比を求める
と,0.910(kg/Hr):21.0(kg/Hr)=1:23.1となる。
一方,本願明細書の実施例1における第一反応槽へのヘキセン−1
とエチレンの供給流量比は,原告の計算に従って求めたヘキセン−1
の流量を用いると,0.155(kg/Hr):3(kg/Hr)=1:19.4となり,同
様に,実施例2では,300×0.673/1000(kg/Hr):2.5(kg/Hr)=1:
12.4, 実 施 例 3 で は , 250× 0.673/1000(kg/Hr): 4 (kg/Hr)= 1 :
23.8となる。
このように,引用発明の実施例1における第一段重合器へのヘキセ
ン−1とエチレンの流量比は本願発明の実施例と同程度のものであ
る。
b そして,引用発明の実施例1においては,第二段重合器で生成され
るエチレン共重合体に,ヘキセン−1が0.43重量%含まれている (引
用例〔甲1〕の6頁右上欄7∼8行) 。このことから,引用発明の実施例1
においては,第二段重合器での重合は,コモノマーとの共重合反応で
あると認められる。
また,引用例(甲1)には,引用発明の実施例1におけるコモノマ
ーの供給について,「………第一段重合器に………ヘキセン−1を0.910kg/Hr
の速度で供給し………」(5頁右下欄下7∼1行) との記載があるが,第二段
重合器にヘキセン−1を供給した旨の記載はない。そして,「(a)工程
から流れこむ反応混合物中のα−オレフインを共重合させて行なうか,必要に応じ
て第二反応帯域にα−オレフインを供給してもよい。」(4頁右上欄10∼12行,下
線付加)との記載にあるとおり,引用発明において,第二段重合器への
コモノマーの供給は任意的なものであることをも考慮すれば,引用発
明の実施例1においては,コモノマーの物理的な供給は第一段重合器
内にのみ行われているが,供給された全量が第一段重合器において共
重合反応のために消費されているのではなく,その一部は第二段重合
器にも移送されて,第二段重合器における共重合反応のために消費さ
れているものと推認される。
c そうすると,引用発明の実施例1と本願発明の各実施例における流
量比が同程度のものである以上,本願発明の各実施例においても,第
一反応槽に供給されたコモノマーの全量が第一反応槽内における共重
合反応のために消費されるのではなく,その一部は第二反応槽にも移
送されて,第二反応槽内においてコモノマーとの共重合反応が生じて
いるものと認められる。
(ウ)この点につき原告は,本願発明の実施例においては,第一反応槽で本
質的に全ての量のヘキセン−1がエチレンとの共重合によって消費され
てしまうまで運転を継続しなければならないのに対して,引用例の実施
例においては,第一反応槽では共重合体の生成割合が全共重合体の30∼
70%の範囲となるように(ヘキセン−1の所定量が第一反応槽での共重
合によって消費されることなく第二反応槽へ移送され得るように)運転
を調節しなければならない,という相違があると主張する。
しかし,原告の上記主張は,「コモノマーの導入を本質的に第一反応
槽内で行い」との構成が,第一反応槽内で成長しつつあるエチレンポリ
マー鎖にすべてのコモノマーを共重合させるという化学的な反応操作を
意味する,という原告主張の解釈を前提として,運転操作における相違
をいうものであるところ,上記構成についての原告主張の解釈が採用で
きないことは上記(1)のとおりであるから,原告の上記主張も理由がな
い。
イ 第二反応槽における生成物の密度
(ア)原告は,本願発明の実施例における第二反応槽の生成物の密度は,第
二反応槽における重合反応がエチレンのホモ重合であることを示してい
るから,第一反応槽に供給されたコモノマーの全量は第一反応槽内で共
重合反応のために消費される,と主張する。
しかし,以下のとおり,原告のこの主張も採用することができない。
(イ)本願発明の実施例における第二反応槽の生成物の密度は,本願明細書
の表1(甲3の別紙1)に従って計算すれば,原告が前記表C(第3の
1(4)ア(イ)b(a))において主張するとおり,0.967∼0.975g/ccの範囲
にあるものと認められる。
これに対し,引用発明の実施例のうちコモノマーとして本願発明の実
施例と同じくヘキセン−1を用いた実施例1,4∼6においては,第二
段重合器の生成物はいずれもヘキセン−1を含有する共重合反応物であ
り,ヘキセン−1含量及び密度は,それぞれ以下のとおりである(実施例
1につき6頁右上欄7∼9行,実施例4∼6につき7頁の表−1)。

ヘキセン含量(w/w%) 密度(g/cm )
実施例1 0.43 0.965
実施例4 0.53 0.965
実施例5 0.57 0.964
実施例6 0.52 0.965
上記のとおり,共重合反応物である引用発明の実施例において,第二
段重合器の生成物の密度は,0.964∼0.965g/cm3である。そうすると,
これよりもごく僅か高いだけの,0.967∼0.975g/ccという密度を有す
る本願発明の実施例の第二反応槽の生成物が,ホモ重合によって生成さ
れたものであると認めることはできない。
(ウ)原告は,引用発明の実施例において第二段重合器の生成物の密度が
0.964∼0.966g/cm3とされているが,ホモ重合によるエチレンポリマー
の密度の下限値が0.96g/cm3であり,共重合によるエチレンポリマーの
密度がこれよりも高いことはあり得ないから,引用発明の実施例におけ
る上記密度のデータはそもそも信ぴょう性がない,と主張する。
そして,原告は,ホモ重合によるエチレンポリマーの密度の下限値が
0.96g/cm3であることの根拠として,辞典類における下記の記載を援用
する。
① "ENCYCLOPEDIA OF POLYMER SCIENCE AND ENGINEERING" Vol.6 (1986)(甲7。以
下「甲7辞典」という。)
・「非置換ポリエチレンは0.960∼0.970g/cm の密度を有する。」(384頁13行)
② "ENCYCLOPEDIA OF POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY”Vol.6 (1967)(甲8。以
下「甲8辞典」という。)
・「密度は,結晶構造中における分子の充実度の尺度であり,分子構造の規則性
に強く依存する。Fig.13は,酸化クロム触媒を用いて製造されたプラスチック
共重合体中のコモノマー含量が増大すると密度が低下することを示してい
る。」(354頁12∼15行)
・「エチレン−プロピレン共重合体及びエチレン−1−ブテン共重合体の密度と
共重合体中のコモノマー重量%との関係」と題するFig.13(355頁)には,横
軸に共重合体中のコモノマー重量%,縦軸に共重合体密度をとったグラフが示

され,コモノマーが0重量%のときの密度がおよそ0.96g/cm ,コモノマーが
プロピレンと1−ブテンのいずれであってもコモノマー2重量%で密度が約
3 3 3
0.947g/cm ,4重量%で約0.937g/cm ,6重量%で約0.930g/cm であるこ
と(密度の下がりかたは1−ブテンのほうが僅かに大きい。)が示されてい

る。この密度の低下を差分で表すと,コモノマー2重量%で0.013g/cm の低
3 3
下,4重量%で0.023g/cm の低下,6重量%で0.030g/cm の低下である。コ

モノマー0.5重量%では,約0.003g/cm の低下と読み取れる。
ところで,引用例の実施例1,4∼6に記載された共重合体は,触媒
がチーグラー型触媒でありコモノマーがヘキセン−1であるのに対し,
甲8辞典のFig.13に記載された共重合体は,触媒が酸化クロム触媒であ
りコモノマーがプロピレン又は1−ブテンである点で異なっており(例
えば,ヘキセン−1はプロピレンより長い側鎖を与えるが,分子量が約
2倍あるので,側鎖の数すなわち分岐度は,同じ重量%では半分にな
る。),甲8辞典のFig.13から読み取れるコモノマー重量%と共重合体
の密度低下の関係を,引用発明の実施例にそのまま当てはめられるもの
ではない。また,甲8辞典上の上記関係を引用発明の実施例に当てはめ
るとしても,甲7辞典によれば,非置換ポリエチレンの密度は0.960∼
0.970g/cm3であるとされており,その上限である0.970g/cm3から,甲
8辞典から読み取れる,コモノマー0.5重量%を含有することによる密
度の低下分である約0.003g/cm3を差し引くと0.967g/cm3となるのであ
るから,引用発明の実施例における第二反応槽で生成したエチレン共重
合体の密度値の0.964∼0.966g/cm3が,有り得ないような高い値で信ぴ
ょう性がないとまではいえない。
したがって,甲7,甲8辞典の記載に基づく原告の上記主張も,採用
することができない。
(3)上記のとおり,本願発明の「コモノマーの導入を本質的に第一反応槽内で
行い」との構成における「導入」が,物理的な供給を第一反応槽内のみに行
うことを意味するのではなく,第一反応槽内で成長しつつあるエチレンポリ
マー鎖にすべてのコモノマーを共重合させるという化学的な反応操作を意味
する,との原告主張の解釈は,採用することができない。
そうすると,審決が,本願発明の「コモノマーの導入を本質的に第一反応
槽内で行い」との構成における「導入」が,物理的な供給を第一反応槽内に
のみ行うことを意味するとの理解に立った上で,引用発明についても「引用例
の実施例1の方法において,第二段重合器にヘキセン−1を導入することは記載されておら
ず,発明の詳細な説明の『(b)工程に於いては・・・(a)工程から流れこむ反応混合物中のα
−オレフインを共重合させて行なう』(摘示記載(オ))との記載からみても,ヘキセン−1
の導入は本質的に第一段重合器で行われるものと解される」(6頁17行∼22行) と認定
し,上記構成を一致点の認定に含めたことに,何ら誤りはない。
よって,審決の一致点の認定に誤りはなく,相違点の看過もない。
3 結語
したがって,原告主張の取消事由には理由がなく,審決に認定判断の誤りは
ない。よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 岡 本 岳
裁判官 上 田 卓 哉

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