平成18(行ケ)10371審決取消請求事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成19年3月28日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官中嶋誠 原告ノバルティス
|
対象物 |
バルサルタンの固体経口剤形 |
法令 |
特許権
特許法29条1項3号1回
|
キーワード |
実施14回 審決13回 優先権1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「バルサルタンの固体経口剤形」とする発明につき,
平成9年6月18日(パリ条約による優先権主張1996年6月27日,英
国)の国際出願(以下「本願」という。)をし,平成14年6月10日付け手
続補正書による補正を行ったが,同年9月13日付け拒絶査定を受け,同年1
2月24日,審判請求を行うとともに,平成15年1月23日付けで手続補正
書を提出した。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
平成19年3月28日判決言渡
平成18年(行ケ)第10371号 審決取消請求事件
平成19年3月19日口頭弁論終結
判 決
原 告 ノ バ ル テ ィ ス
アクチエンゲゼルシャフト
訴訟代理人弁護士 阿 部 隆 徳
同弁理士 青 山 葆
同 岩 崎 光 隆
同 伊 藤 晃
被 告 特許庁長官 中嶋 誠
指定代理人 吉 住 和 之
同 森 田 ひ と み
同 徳 永 英 男
同 大 場 義 則
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2002−24714号事件について平成18年4月5日にし
た審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「バルサルタンの固体経口剤形」とする発明につき,
平成9年6月18日(パリ条約による優先権主張1996年6月27日,英
国)の国際出願(以下「本願」という。)をし,平成14年6月10日付け手
続補正書による補正を行ったが,同年9月13日付け拒絶査定を受け,同年1
2月24日,審判請求を行うとともに,平成15年1月23日付けで手続補正
書を提出した。
特許庁は,この審判請求を不服2002−24714号事件として審理し,
その結果,平成18年4月5日,平成15年1月23日付けの手続補正を却下
した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,平成18年
4月18日,審決の謄本が原告に送達された。
2 特許請求の範囲
平成14年6月10日付け手続補正書による補正後の本願の請求項1(以下,
この請求項に係る発明を「本願発明」という。なお,請求項の数は全部で6項
である。)は,次のとおりである。
a)バルサルタンもしくは薬学的に許容されるその塩の有効量を含む活性成分
および
b)圧縮法による固体経口剤形の製造に適当な薬学的に許容される添加剤
を含み,活性成分が固体経口剤形の全重量に対し35(重量)%以上の量で存在
する圧縮固体経口剤
3 審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平4−23
5149号公報(甲第1号証。以下,審決と同様に「引用例1」という。)記
載の発明(以下「引用発明」という。)と同一であるから,特許法29条1項
3号の規定により特許を受けることができないとするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用例1の次の記載を引用し,本願発明
と引用発明を次のとおり対比した。
(1) 引用例1の例93の記載
「例93
各々100mgの有効成分,例えば(S)−N−(1−カルボキシ−2−
メチル−プロプ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−〔2′−1H−テト
ラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル〕−アミンを次のように
調製できる;
組成(10,000個の錠剤)
有効成分 100.0g
ラクトース 100.0g
コーンスターチ 70.0g
タルク 8.50g
ステアリン酸マグネシウム 1.50g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 2.36g
セラック 0.64g
水 適 量
塩化メチレン 適 量
有効成分,ラクトース,および40gのコーンスターチを混合し,ペースト
(15gのコーンスターチおよび水から加温してうる)で湿潤化し次いで造
粒する。顆粒を乾燥し,残りのコーンスターチ,タルクおよびステアリン酸
カルシウムを添加し,顆粒と混合する。混合物を圧縮し,錠剤(重量:28
0mg)を得,これをヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびセラック
の塩化メチレン溶液でコートする,被覆錠剤の最終重量:283mg」(段
落【0060】,47頁91欄25行∼92欄22行)
(2) 本願発明と引用発明との対比
引用例1の例93(上記(1))には,
バルサルタンを有効成分として 100.0g,
および添加剤であるラクトース 100.0g,
コーンスターチ 70.0g,
タルク 8.50g,
ステアリン酸マグネシウム 1.50gを含む,
バルサルタンが全重量283.0gに対し35.3重量%存在する圧縮固体
錠剤すなわち圧縮固体経口剤が記載されており,引用発明は本願発明と同一
である。
第3 原告主張の取消事由の要点
審決は,本願発明と引用発明との次の相違点を看過し(取消事由1),引用
発明が実施不能のものであることを看過した(取消事由2)ために,本願発明
と引用発明とが同一であると判断したものであるところ,これらの誤りがいず
れも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消さ
れるべきである。
なお,平成15年1月23日付けの手続補正を却下した点については,原告
はこれを争っておらず,取消事由を主張していない。
1 取消事由1(相違点の看過)
本願の明細書(甲第2号証。以下「本願明細書」という。)には,「圧縮
法」について,具体的かつ好ましい方法として記載があるのは,乾式法による
間接打錠法のみであり,請求項1に記載の「圧縮法」は,乾式法による間接打
錠法であると理解することができる。一方,引用例1(甲第1号証)の例93
に記載の錠剤の製造法は,「湿式法による間接打錠法」である。したがって,
本願発明と引用発明とは,製造法において相違する。
2 取消事由2(引用発明の実施不能)
引用例1の例93の記載では,「組成(10,000個の錠剤)」と記載さ
れているが,「錠剤(重量:280mg)」及び「被覆錠剤の最終重量:28
3mg」との記載と矛盾しており,引用発明は実施不能のものである。
第4 被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(相違点の看過)について
圧縮固体経口剤の典型である錠剤の製造分野において,錠剤の「圧縮」とい
う用語は「間接圧縮(間接打錠)」及び「直接圧縮(直接打錠)」を含み,
「間接圧縮(間接打錠)」には「乾式」と「湿式」の両方が含まれると,一般
に理解されている。本願明細書中にある「乾式圧縮法」は,好ましい実施態様
として記載されているにすぎず,請求項1の「圧縮法」を当業者が理解する上
記の意味以外に解すべき理由もない。
2 取消事由2(引用発明の実施不能)について
当業者は,引用例1の例93の「組成(10,000個の錠剤)」との記載
が「組成(1000個の錠剤)」の誤記であると理解することができるから,
引用発明は実施可能のものである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について
(1) 乙第1号証(3頁)によれば,「錠剤製造法の分類」として,「圧縮錠
剤」は「間接圧縮錠剤」と「直接圧縮錠剤」に区分され,さらに,前者は
「乾式錠剤」と「湿式錠剤」に分けられることが認められる。甲第14号証
(136頁表II−4.)によれば,「圧縮錠剤」の打錠法は「直接打錠
法」と「間接打錠法」に,そして後者はさらに「乾式」と「湿式」に分類さ
れていることが認められる。したがって,圧縮固体経口剤の典型である錠剤
の製造分野において,錠剤の「圧縮」という用語は,「間接圧縮(間接打
錠)」及び「直接圧縮(直接打錠)」を含み,「間接圧縮(間接打錠)」に
は,「乾式」と「湿式」の両方が含まれると,一般に理解されていることが
認められる。これによれば,本願の請求項1の「圧縮法」という用語に接し
た当業者は,これを上記の意味に理解するものと認められ,「乾式法による
間接打錠法」のみに限定して理解することはないというべきである。
(2) 原告は,本願明細書中に好ましい実施態様として記載されているのが「乾
式圧縮法」だけであることから,請求項1の「圧縮法」が「乾式圧縮法」を
意味すると主張する。
しかし,「乾式圧縮法」は,本願明細書において「好ましい実施態様」
(7頁5∼15行)とされているにすぎず,本願明細書の発明の詳細な説明
中に,請求項1の「圧縮法」の意味が上記の通常の意味ではなく,「乾式法
による間接打錠法」に限定されることを定義した記載はない。したがって,
原告の主張を採用することはできない。
(3) 以上のとおり,審決に本願発明と引用発明との相違点を看過した誤りはな
い。
2 取消事由2(引用発明の実施不能)について
原告は,引用発明が実施不能のものであると主張する。
しかし,引用例の実施例93における「錠剤及び被覆錠剤1錠の重量及びそ
の中のバルサルタン量」と「各原料成分の量及びその総量」の数値は合理的に
対応しており(被覆錠剤1錠の重量283mgと原料成分の総量283.0g。
被覆錠剤1錠のバルサルタン量100mgと原料バルサルタン量100g),
原料成分の総量を被覆錠剤1個の重量(又は原料バルサルタン量を被覆錠剤1
錠の中のバルサルタン量)で除して求められる「錠剤数」は「10,000
個」ではなく「1000個」となる。
また,引用例1の関連特許である米国特許第5399578号明細書及び欧
州特許出願公開第443983号の実施例93(乙第4号証63欄,乙第5号
証44頁1行)には,いずれも「組成(1000個の錠剤)」と記載されてお
り,引用例1の実施例93の錠剤数が「1000個」の誤記であることと符合
する。
以上のとおり,当業者は,引用例1の例93の「組成(10,000個の錠
剤)」との記載が「組成(1000個の錠剤)」の誤記であることを容易に理
解することができるものと認められる。したがって,引用発明を実施不能とい
うことはできず,原告の主張は失当である。
3 結論
以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由が
なく,審決を取り消すべきその他の誤りも認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 三 村 量 一
裁判官 古 閑 裕 二
裁判官 嶋 末 和 秀
最新の判決一覧に戻る