平成18(行ケ)10292審決取消請求事件
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裁判所 |
審決取消 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成19年3月13日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官 原告サムスンエレクトロニクス
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法令 |
特許権
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キーワード |
審決36回 実施2回 進歩性2回 刊行物1回 優先権1回
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主文 |
1 特許庁が不服2003−11107号事件について平成18年2月13日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,後記特許の出願人である原告が,拒絶査定を受けたので,これを不服
として審判請求をしたところ,特許庁が同請求不成立の審決をしたため,その取
消しを求めた事案である。 |
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判決文
判決言渡日 平成19年3月13日
平成18年(行ケ)第10292号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成19年3月6日
判 決
原 告 サムスン エレクトロニクス
カンパニー リミテッド
訴訟代理人弁理士 志 賀 正 武
同 渡 辺 隆
同 村 山 靖 彦
同 実 広 信 哉
同 森 隆 一 郎
同 野 村 進
被 告 特 許 庁 長 官
中 嶋 誠
指 定 代 理 人 畑 中 博 幸
同 羽 鳥 賢 一
同 小 林 紀 和
同 小 池 正 彦
同 内 山 進
主 文
1 特許庁が不服2003−11107号事件について平成18年2月13日にした
審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,後記特許の出願人である原告が,拒絶査定を受けたので,これを不服
として審判請求をしたところ,特許庁が同請求不成立の審決をしたため,その取
消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「通信システムのインターリービング/デインターリービ
ング装置及び方法」とする発明につき,1999年(平成11年)12月21日(優先権
主張 1998年(平成10年)12月21日韓国)に国際出願(以下「本願」という。
請求項の数21)をし,平成12年8月21日に日本国特許庁に翻訳文を提出した
(特表2002−533976号,甲3)をしたが,平成15年3月19日付けで拒絶査定
を受けたので,不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2003−11107号事件として審理した上,平成18年
2月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本
は平成18年2月28日原告に送達された。なお,出訴期間として90日が附加さ
れた。
(2) 発明の内容
本願の請求項の数は前記のとおり21から成るが,そのうち請求項1に係る
発明は,下記のとおりである(以下「本願発明」という。)。
記
【請求項1】 2m(m>1)の整数倍でないサイズを有する入力データをイン
ターリービングする方法において,
前記入力データのサイズにオフセット値を加算して仮想アドレスのサイ
ズが2mの整数倍となるようにする過程を備えることを特徴とするインター
リービング方法。
(3) 審決の内容
ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願
発明は,その出願前に頒布された特開昭62−190932号公報(甲1。以下
「引用例」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者
が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受け
ることができない,としたものである。
イ なお,審決は,上記判断をするに当たり,引用例に記載された発明(以
下「引用発明」という。)を次のとおり認定の上,本願発明との一致点及
び相違点を以下のとおり認定している。
<引用発明の内容>
「固定長のインタリーブサイズに等しくない入力情報データをインタリ
ーブする方法において,
前記入力情報データにサイズ調整用のデータを加えてインタリーブサ
イズとなるようにする過程を備えることを特徴とするインタリーブ方
法。」
<一致点>
「特定の大きさでないサイズを有する入力データをインターリービング
する方法において,
前記入力データにサイズ調整用の情報を加算して特定の大きさのサイ
ズとなるようにする過程を備えることを特徴とするインターリービング
方法。」である点。
<相違点1>
「特定の大きさ」が,本願発明は「2m(m>1)の整数倍」であるのに対
し,引用発明は「固定長のインタリーブサイズ」である点。
<相違点2>
本願発明は「入力データのサイズにオフセット値を加算して仮想アド
レスのサイズが2 m の整数倍となるようにする過程」を備えるのに対
し,引用発明は「入力情報データにサイズ調整用のデータを加えてイン
タリーブサイズとなるようにする過程」を備える点。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,本願発明に特許法29条2項にいう進歩性がないとした審決
には,以下述べるような誤りがあるから,違法として取消しを免れない。
ア 取消事由1(引用発明の認定誤り)
審決は,引用発明を前記(3)イのとおり認定している。しかし,引用例
に記載された引用発明は,「入力情報データに無駄情報が加えられて,イ
ンタリーブサイズのデータとなるようにする過程」を備えることを構成要
件としており,審決は引用発明の内容を正確に認定していない。
イ 取消事由2(周知技術の認定誤り)
審決が挙げる周知例(特公平5−30339号公報。甲2)の記載からは,
確かに,n×2 Pビット長の伝送フレームに整合させることが,種々のデ
ータ処理に都合がよいこと,また,インターリーバ7は,n×2 Pビット
長の伝送フレームHを出力することが分かる。
しかし,周知例においては,n×2Pビット長に調整するのは,伝送フ
レームビット長を調整するとの目的のためであって,インタリーブのため
に偶数ビット長に調整することは何ら示されていない。また,周知例にお
いては,終段の出力の例としてインターリーバ7が示されているのみであ
り,伝送フレームの最終段の出力が常にインターリーバであることを示す
記載はない。
ウ 取消事由3(相違点1についての判断誤り)
審決は,前記イの誤った周知技術の認定を前提として,「仮想アドレス
のサイズが2 mの整数倍となるようにする」ことの「インターリーブ」に
おける技術的意義を理解しないまま,「……引用発明において特定の大きさであ
m
る『固定長のインタリーブサイズ』を『2 (m>1)の整数倍』とすることは当業者が普
通に採用し得る設計的事項である。」(4頁第3段落)と誤って判断した。
エ 取消事由4(「仮想アドレス」の意義を誤認したことによる一致点・相
違点2の認定の誤り,相違点2についての判断の誤り)
(ア)本願発明の用語「仮想アドレス」は,読み出しアドレス生成のための
仮想的なアドレス空間を明示するため,かつ,実際にデータを蓄積する
実アドレス空間と区別するために用いられている用語である。したがっ
て,本願発明の「前記入力データのサイズにオフセット値を加算して仮
想アドレスのサイズが2 mの整数倍となるようにする過程を備える」と
の構成における「オフセット値」とは,読み出しアドレス生成のための
仮想的なアドレス空間のサイズを定義するために加算される値であっ
て,「前記入力データ」に情報(データ)を加えることを意味するもの
ではない。また,仮想アドレスのサイズは,本願発明の「2mの整数倍
となるようにする過程」及び「(m>1)」から分かるように,固定長を
示すものでなく,入力データのサイズに応じて,値「m」及び「整数
倍」が変動する可変長である。
これに対し,引用発明においては,「仮想アドレス」という発想はな
く,インタリーブのサイズと,インタリーブで使用される実アドレスが
同じであり,インタリーブのサイズを規定する実アドレス空間のみでの
インタリーブ処理を開示するにすぎない。したがって,インタリーブの
サイズを調整するために加えられる「無駄情報」も,実アドレス空間に
おいて加えられる情報(データ)であり,この点において,本願発明と
は異なる。また,インタリーブサイズが固定長である点においても,本
願発明とは異なる。
したがって,審決が,「入力データにサイズ調整用の情報を加算して
特定の大きさのサイズとなるようにする過程」を備える点を一致点とし
たことは誤りであり,この誤った認定を前提とする相違点2の認定も誤
りである。
(イ)なお,仮に審決が一致点として認定した「入力データにサイズ調整用
の情報を加算して特定の大きさのサイズとなるようにする過程」にいう
「情報」が,本願発明において仮想アドレスのサイズを2 mの整数倍に
するために加算される「オフセット値」と,引用発明においてデータの
個数をインタリーブサイズに等しくするために加えられる「無駄情報」
との共通の上位概念であると解した場合には,一致点及び相違点2の認
定には誤りがないことになるが,その場合は,審決には相違点2の判断
についての誤りがある。
すなわち,まず,上記(ア)のとおり,本願発明の用語「仮想アドレ
ス」は,読み出しアドレス生成のための仮想的なアドレス空間を明示す
るため,かつ,実際にデータを蓄積する実アドレス空間と区別するため
に用いられている用語である。したがって,本願発明の「オフセット
値」とは,読み出しアドレス生成のための仮想的なアドレス空間のサイ
ズを定義するために加算される値であって,情報(データ)ではない。
これに対し,引用発明は,「仮想アドレス」という発想はなく,イン
タリーブのサイズを規定する実アドレス空間のみでのインタリーブ処理
を開示するにすぎない。したがって,インタリーブのサイズを調整する
ために加えられる「無駄情報」も,実アドレス空間において加えられる
情報(データ)である。
しかるに,審決は,本願発明の「仮想アドレス」の上記意義を正しく
理解しなかったために,相違点2について,「引用発明の『入力情報データ
にサイズ調整用のデータを加えてインタリーブサイズとなるようにする過程』を,『
入力データのサイズにオフセット値を加算して仮想アドレスのサイズが2mの整数倍と
なるようにする過程』とすることは,当業者が容易に想到し得るものである。」(4
頁第4段落,括弧内は付加)と誤って判断したものである。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)(2)(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論
原告が,審決の認定判断が誤りであるとして主張するところは,次のとおり
いずれも失当である。
(1)取消事由1に対して
引用例(甲1)には, 「……データの個数をインタリーブサイズに等しくして送信
し」(2頁左上欄第3段落) と記載され,その第4図には,入力情報データに無
駄情報に相当するものを加えて「インタリーブサイズ」とすることが明示さ
れているから,審決の引用発明の認定に誤りはない。
(2)取消事由2に対して
審決は,周知例(甲2)の「一般にデータ伝送方式においては,偶数ビツト長,即
P
ち,n×2 長(nはフレーム数,nは2以上の整数,Pは3以上の整数)の伝送フレーム
に整合させることが,種々のデータ処理に都合がよい」(2頁3欄第3段落)との記載の
みから周知技術の認定を行っているのではなく,審決で挙げた周知例の摘記
事項のすべての記載及びその第5図から周知技術の認定を行ったものであ
る。
そして,周知例には「……スタツフビツト発生回路5から出力されたスタツフビツト
m
E(2j−(2 −1)のビツト長,jは1以上の整数)をたし加えることによつて1フレーム
P
が2 ビツト長(Pは3以上の整数)のデータ(誤り訂正符号化データフレームG)を構築
P
する。ここで,スタツフビツトEは,誤り訂正符号化データフレームGのビツト長が2 に
なるように付加するものであり,単に伝送フレームのビツト長を調整するためだけのもので
ある」(2頁3欄最終段落∼4欄第1段落) と記載されているように,上記周知例
では,インターリーバ7への入力信号にビット調整用のスタッフビットEを
付加して,n×2Pビット長でインターリーブ処理を行うものであって,こ
の付加は,インターリーブ処理における一過程であることは明らかである。
よって,審決における周知技術の認定に誤りはない。
(3)取消事由3に対して
インタリーブ処理において,インタリーブサイズをn×2P(nは2以上の
整数,Pは3以上の整数)のビット長に整合させることは周知技術であり,
また,情報処理方法において,2m(m>1)の単位でデータの処理を行うこと
も常とう手段であるから,引用発明の「固定長のインタリーブサイズ」を本
願発明のように2m(m>1)の整数倍とすることも,当業者が普通に採用し得
る設計的事項である。よって,審決における相違点1についての判断に誤り
はない。
(4)取消事由4に対して
ア 原告は,本願発明にいう「仮想アドレス」の意義につき審決の理解には
誤りがあると主張するが,本願明細書(甲3参照)には,「仮想アドレ
ス」が,読み出しアドレス生成のための仮想的なアドレス空間を明示する
ため,かつ,実際にデータを蓄積する実アドレス空間と区別するために用
いられている用語であることを明らかにする記載はない。また,原告は,
仮想アドレスの「サイズ」が可変長である旨主張しているが,本願明細書
には,仮想アドレスの「サイズ」が可変長であることは記載も示唆もな
く,本願発明における「m」及び「整数倍」は,本願発明が利用される通
信システムの規定されたフレームのサイズ及びインターリーバ特性に基づ
いて適宜設定される固定値を一般化したものにすぎないから,審決が「仮
想アドレスのサイズ」は固定長であると認定したことに誤りはない。
そして,このように固定長(2m(m>1)の整数倍)の仮想アドレスのサ
イズに調整するために,入力データのサイズにオフセット値を加算するこ
とが本願発明に明記されているのであるから,審決が,「オフセット値」
をサイズ調整用の情報として把握し,その上で,一致点として 「前記入力デ
ータにサイズ調整用の情報を加算して特定の大きさのサイズとなるようにする過程を備
える」と認定したことに誤りはない。
イ 引用発明における「インタリーブサイズ」はインタリーブの1ブロック
のデータの個数である。そして,インタリーブの1ブロックのデータとイ
ンタリーブで使用されるアドレスは1対1に対応させることが技術常識で
ある(乙1∼3)から,引用発明においても,インタリーブの1ブロック
のデータの個数であるインタリーブサイズとインタリーブで使用されるア
ドレスのサイズは,同一であることが明らかである。
引用例(甲1)の第4図によれば,引用発明においては,実際に必要と
なる入力情報データに無駄情報に相当する部分(サイズ調整用のデータ)
が加算されてインタリーブサイズとされていることが明らかであり,これ
に対応するアドレスのサイズで言えば,実際に必要となる入力情報データ
に対応するアドレスのサイズに,無駄情報に対応するものであって,イン
タリーブのためだけに仮に割り当てられたサイズ調整用のアドレスのサイ
ズを加算して全体のアドレスのサイズになるようにしているのであるか
ら,これを「仮想アドレス」ということもできる。
したがって,審決において「引用発明においても,当然に,インタリーブサイズ
(データの個数)に対応するアドレス(仮想アドレス)でデータの読み出しを行ってい
るものと認められ」(4頁第4段落)と認定したことに誤りはない。
そして,上記(3)のとおり引用発明の「固定長のインタリーブサイズ」
を「2 m(m>1)」の整数倍とすることは当業者が普通に採用し得る設計的
事項であり,「サイズ調整用のデータ」と「オフセット値」は,固定長の
インタリーブサイズに調整するための「サイズ調整用の情報」である点で
一致するから,引用発明の「入力情報データにサイズ調整用のデータを加
えてインタリーブサイズとなるようにする過程」を,本願発明の「入力デ
ータのサイズにオフセット値を加算して仮想アドレスのサイズが2mの整
数倍となるようにする過程」とすることは当業者が容易になし得たことで
ある。
よって,審決の相違点2についての判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)
(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,本願発明に特許法29条2項にいう進歩性がないとした審決の適否に
ついて判断するが,事案にかんがみ,まず原告主張の取消事由4から判断す
る。
2 取消事由4について
(1) 本願発明にいう「仮想アドレス」及び「オフセット値」の技術的意義
ア 本願明細書(甲3)には,次の記載がある。
(ア)発明の目的及び効果
①「本発明のさらに他の目的は,通信システムで入力データサイズ値に特定値を加算
m
して2 ×N(Nは整数,m〔判決注:Mとあるのは誤記〕は1より大きく,シフト
レジスタの数)のサイズを有する仮想アドレス領域を用いてインターリービングを
行う装置及び方法を提供することにある。」(段落【0017】)
②「上述したように,本発明では入力データをインターリービングするとき,ランダ
ム特性,距離特性及び加重値特性を満たしながら,ランダムインターリービング実
行時に必要なメモリの容量を最少化する方法を提案する。………しかしながら,本
発明は計数可能な形態のインターリーバーを具現することにより,ハードウエアの
複雑度を低減することができる。また,送受信のためのインターリーバ/デインタ
ーリーバ伝送方式が非常に簡単であり,最小限のメモリを使用する。すなわち,前
記インターリーバはフレームのサイズLに該当するインターリーバメモリ容量のみ
を要する。」(段落【0051】)
(イ)入力データのサイズ
④「図1を参照して第1構成符号器から出力されるフレームデータをインターリービ
ングするためのインターリーバの構成を説明する。アドレス生成器111は入力フレー
ムデータのサイズL及び入力クロックに応じて入力データビットの順序を変えるた
めの読み出しアドレスを生成してインターリーバメモリ112に出力する」(段落
【0025】)
⑤ 【図6】には,「INPUT DATA」が入力される,符号112で示される「INTERLEAVER
MEMORRY」について,「SIZE=L」と表示されている。
(ウ)「仮想アドレス」を用いる理由
⑥「優れた構造的特性を有するインターリーバを具現するためには,多数のシミュレ
ーションによる結論を下すことが望ましい。一般に,フレームのサイズが一定値以
上であれば,ランダムインターリーバは平均的な性能を示す。したがって,ランダ
ムインターリーバと類似した性能を示すインターリーバを設計することが望まし
い。このため,本発明の実施形態ではPNシーケンスを生成する線形フィードバック
シフトレジスタ(LFSR)を使用し,それから生成されるランダムアドレスを用い
る。しかしながら,このような方式には次のような問題点がある。すなわち,PNシ
m
ーケンスの周期が2 −1であり,大部分のフレームサイズが2の自乗形態で表現さ
れない。」(段落【0028】)
m
⑦「このような問題点を解決するため,入力データのサイズLが2 (m>1)の整数倍
でない場合,前記入力データのサイズLにオフセット値(OSV)を加算して仮想アド
レスサイズNを決め,下記の数式1のようなアルゴリズムに応じて読み出しアドレ
スを生成する。」(段落【0029】)
⑧「本発明の実施形態によるソフトウェアインターリービング方式を説明すると,次
m
の通りである。先ず,入力データのサイズLが2 (m>1)の整数倍でない場合,前
記入力データのサイズLにオフセット値(OSV)を加算して仮想アドレスサイズNを
決め,下記の数式1のようなオフセット制御PNインターリービングアルゴリズムに
よりインターリービングを行う。」(段落【0030】)
イ 上記ア(ア)の各記載から,本願発明の目的は,一定の特性を満たしなが
ら,入力データのサイズLに該当するメモリ容量のみでインターリービン
グ処理を可能とするインターリービング方法を提供することにあるものと
理解できる。また,同(イ)の各記載から,インターリービング処理に使う
実メモリのサイズは,入力データのサイズである「L」であることが分か
る。そして,同(ウ)の各記載から,インターリービング処理に必要な読み
出しアドレスを生成するために,入力データのサイズLにオフセット値を
加算したサイズNの仮想アドレス領域を用意し,これを用いて所定のアル
ゴリズムに従ってインターリービング処理を行っていることがわかる。
ウ 以上から,本願発明における「仮想アドレス」とは,インターリービン
グ処理の過程において,インターリービング処理に必要な読み出しアドレ
スを生成するために,入力データのサイズに「オフセット値」を加えるこ
とによって設定した2m(m>1)の整数倍のサイズの仮想的なアドレスを意
味することであると理解できる。また,ここでいう「オフセット値」と
は,入力データのサイズと仮想アドレスのサイズとの差を意味するのであ
って,メモリ上の実アドレスに書き込まれるデータ(情報)ではない。
そして,本願発明においては,仮想アドレスのサイズは2 m(m>1)の整
数倍とされるのに対して,インターリービング処理においてデータの蓄積
のために使用されるメモリ上のアドレスのサイズは,インターリービング
処理の前後を通じて,入力データのサイズと同じで足りることも理解でき
る。
エ 被告は,上記のような理解は本願明細書(甲3)の記載に基づくもので
はないと主張する。
確かに,本願発明に関する特許請求の範囲の記載では,「仮想アドレ
ス」という用語が正確に定義されていない。しかし,「仮想アドレス」が
「実アドレス」と対になる概念であることは通常の用語法としても明らか
である。また,本願明細書(甲3)の発明の詳細な説明の記載をも参酌す
m
れば,上記ア①の 「………2 ×N(Nは整数,m〔判決注:Mとあるのは誤記〕は
1より大きく,シフトレジスタの数)のサイズを有する仮想アドレス領域」という記載
と,同②の「………最小限のメモリを使用する。すなわち,前記インターリーバはフレ
ームのサイズLに該当するインターリーバメモリ容量のみを要する。」 という記載に
照らしても,本願発明において,「仮想アドレス」が,実際にデータが蓄
積されるメモリ上の実アドレスと異なる概念であることは明らかである。
(2)引用発明にいう「サイズ調整用のデータ」の技術的意義
ア 審決は,引用発明は「入力情報データにサイズ調整用のデータを加えて
インタリーブサイズとなるようにする過程を備える」(2頁第6段落)も
のであると認定した。かかる認定の根拠とされた引用例(甲1)の記載
は,下記のとおりである。
記
「しかし,従来のインタリーブ方式は連続モードの信号伝送を対象とし,そのインタリ
ーブの1ブロックのデータの個数すなわちインタリーブサイズを固定長に設定してい
た。このようなインタリーブ方式におけるインタリーブの前後の情報データの長さを
第4図に示す。
このように,インタリーブサイズが固定長に設定されているため,パケット化して
送信する場合に,送信すべき情報量の大小にかかわらず,データの個数をインタリー
ブサイズに等しくして送信しなければならなかった。したがって,インタリーブを完
結するまでのデータ数が情報データ数より多くなる場合が生じ,このような場合には
無駄なデータを送信しなければならない欠点があった。」(2頁左上欄第2,第3段
落。なお,引用例の第4図は以下に示すとおりのものである。)
イ 審決が引用発明として認定したのは,引用例(甲1)の上記記載にいう
「従来のインタリーブ方式」であるが,上記記載によれば,引用発明にお
いては,固定された「インタリーブサイズ」にデータの個数を等しくする
ために,入力データに「無駄なデータ」(第4図に示された「無駄情
報」)を加えてからインターリービング処理が行われていることが認めら
れる。そして,引用例(甲1)においては,「無駄情報」を加えるに際し
てどのようなアドレスの設定を行うかについては何ら記載はなく,上記
(1)で検討したような本願発明にいう意味での「仮想アドレス」を用いる
ことを示唆する記載もないから,「無駄情報」は実アドレスに書き込まれ
ると理解するのが自然である。そうすると,引用発明においては,無駄情
報を書き込むための実アドレスを含めて,固定された「インタリーブサイ
ズ」に相当する実アドレスを必要とし,書き込み・読み出し・出力という
インターリービング処理における一連の動作も,実アドレス上で行われ
ると認められる。
この点について,本件優先日(平成10年12月21日)時点の技術常識につ
いて検討するに,特開昭64−37125号公報(乙1。2頁左上欄11行∼左下
欄8 行 ) ,特 開 平 7 −95163号 公 報 (乙 2。 3頁 3 欄31行 ∼ 同4 欄 17
行),特開平10−13252号公報(乙3。2頁1欄24行∼同2欄1行)のい
ずれにおいても,インターリービングの1ブロックのデータとインター
リービングで使用されるアドレスは1対1に対応させられている。この
ように,インタリーブの1ブロックのデータの個数であるインタリーブ
サイズとインタリーブで使用されるアドレスのサイズは,同一とするこ
とが本件優先日時点の技術常識であったことが認められる。
そうすると,引用発明においては,固定された「インタリーブサイズ」
に相当する実アドレスを必要とし,入力データと「無駄情報」の書込み・
読出し・出力というインターリービング処理における一連の動作が実ア
ドレス上で行われるという上記理解は,本件優先日時点の技術常識にも
合致するというべきである。
(3)本願発明は,上記(1)のとおり,入力データのサイズLに(2 m−L)をオ
フセット値として加え,2m個の仮想アドレス上でインターリービング処理
を行うものであると認められる。そして,ここでいう「オフセット値」は情
報(データ)ではなく,仮想的な数値である。また,インターリービング処
理において使用されるメモリのサイズはLであり,インターリービング処理
後に送信されるデータのサイズもLである。
これに対して,引用発明は,入力データのサイズがL,インタリーブサイ
ズが2mである場合を想定すれば,「サイズ調整用のデータ」である
(2 m −L)個の「無駄なデータ(無駄情報)」をL個の入力データに加
え,これら2m個のデータを2m個の実アドレスを有するメモリ上に書き込ん
だ上,インターリービング処理を行うものであると認められる。そして,こ
こでいう「無駄なデータ(無駄情報)」も,実アドレス上の情報(データ)
にほかならない。また,インターリービング処理において使用されるメモリ
のサイズは2mであり,インターリービング処理後に送信されるデータのサ
イズも2m個である。
そうすると,審決が一致点の認定において,「入力データにサイズ調整用
の情報を加算して特定の大きさのサイズとなるようにする過程を備えること
を特徴とする」点で両者が一致するとしたのは,本願発明の「オフセット
値」と引用発明の「無駄なデータ」の技術的意義の差異を看過したものであ
って,誤りである。
(4) なお,上記一致点の認定にいう「サイズ調整用の情報」が,本願発明の
「オフセット値」と引用発明の「無駄なデータ」の両者を包含する上位概念
であると理解すれば,一致点の認定に誤りがあるとはいえないことになる。
しかし,「仮想アドレス」を設定してインターリービング処理をするとい
う本願発明の技術的思想は,実アドレス上でインターリービング処理を行う
引用発明の技術的思想とは別個のものであり,また,引用例には,仮想アド
レス上での処理を開示又は示唆する記載もない。そして,本願発明は,仮想
アドレス上での処理という構成により,引用発明に比べて,インターリービ
ング処理のために使用されるメモリのサイズ及びインターリービング処理後
に送信されるデータのサイズが少なくて済むという作用効果を奏するもので
あると認められる。
しかるに,審決は相違点2についての判断において,他の引用刊行物や周
知技術を何ら摘示することなく,引用発明から本願発明を想到することは当
業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとっ
て容易であると判断しているのであって,その判断が誤りであることは明ら
かである。
(5)上記のとおりであるから,原告主張の取消事由4は理由があり,審決には
その結論に影響を及ぼす誤りがある。
3 結語
よって,その余について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから
これを認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第2部
裁判長裁判官 中 野 哲 弘
裁判官 岡 本 岳
裁判官 上 田 卓 哉
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