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平成18(行ケ)10287審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年2月22日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官中嶋誠
原告
法令 特許権
特許法29条2項2回
キーワード 刊行物45回
審決24回
進歩性2回
実施1回
拒絶査定不服審判1回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は,原告の負担とする。
事件の概要 本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部 分がある。 本件は,原告が,本願発明の特許出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不 服として審判請求をしたが,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審 決の取消しを求めた事案である。

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判決文

平成18年(行ケ)第10287号 審決取消請求事件
平成19年2月22日判決言渡,平成19年1月18日口頭弁論終結
判 決
原 告 X
被 告 特許庁長官 中嶋誠
指定代理人 大町真義,村本佳史,亀丸広司,岡田孝博,田中敬規
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が不服2003−20123号事件について平成18年5月9日にした
審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部
分がある。
本件は,原告が,本願発明の特許出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不
服として審判請求をしたが,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審
決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本願発明(甲4)
出願人:X(原告)
発明の名称: シール装置」

出願番号:特願平10−84853号
出願日:平成10年2月25日
手続補正日:平成13年12月5日
手続補正日:平成14年10月30日(甲8)
(2) 本件手続
拒絶査定日:平成15年8月4日付け(甲11)
審判請求日:平成15年9月9日(不服2003−20123号)
審決日:平成18年5月9日
審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない。
「 」
審決謄本送達日:平成18年5月30日(原告に対し)
2 平成14年10月30日付け手続補正後の請求項1に係る発明(以下「本願
発明」という。)
「リング同志がずれない,かさなり合う複数のリングからなるものとしている。こ
れらは,次ぎの(A)∼(B)の構造をもつリングによる,シール装置。
(A) シール面(2)を有し。(B)のリングに対しシール面(2)からその
対面までの長さが短く,リング同志の合い口(1)がかさならない 。そして , B)

のリングの合い口(1)ともつながらないように(B)のリングとのかさなり合う
面からその対面まで穴(3) シール面(2)に溝(4)及びリングをシール面(2)

の反対側に歪ませたとしたもの(5)があるリング。
(B) シール面(2)を有するリング。
(C) シール面(2)を有さず 。(A)のリングのシール面(2)に対する面
に接しており,(A)のリングに対しリング同志の合い口(1)がかさならないリ
ング。」
3 審決の要点
審決は,本願発明は,引用刊行物1及び2に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものであると判断した。
(1) 引用文献記載の発明
ア 引用刊行物
引用刊行物1:特開平5−340474号公報(本訴甲2)
引用刊行物2:特開昭51−49355号公報(本訴甲3)
イ 引用刊行物1記載の発明(以下「引用発明」という。)
「リングAの突起がリングBの合い口はめ入れるとしている ,かさなり合う複数のリングは ,
リングAとリングBからなる,シール装置。
リングA シール面を有し。そして,リングBの合い口ともつながらないようにリングBの
かさなり合う面からその対面まで穴,シール面に溝があるリング。
リングB シール面を有するリング。」
(2) 引用発明と本願発明の対比
「本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には ,「・・・次の(A)∼(B)の構造をもつ
リングによる,シール装置。 と記載されている。しかしながら,該請求項1にはリング(A )
」 ,
(B)とは異なる構成を有するリング(C)に係る事項が記載されていることを参酌すれば,
上記記載の「 A)∼(B)
( 」は「 A)∼(C )
( 」の誤記と解せられる。
また,同じく特許請求の範囲の請求項1には「 B)のリングとのかさなり合う面からその

対面まで穴(3 ),シール面(2)に溝(4)及びリングをシール面(2)の反対側に歪ませ
たとしたもの(5 )」と記載されている。しかしながら,請求項1に記載された発明の実施例
について記載している段落【0006 】ないし段落【0008 】及び図1ないし図3には ,穴 ,
溝,リングをシール面の反対側に歪ませたものの全てを有していないものも例示されている 例

えば図2は溝のみを有しており,穴あるいはリングをシール面の反対側に歪ませたものは有し
ていないものと認められる 。。また,平成14年10月30日付け意見書にて出願人は「もし

併用できる「及び」ではなく,選択的である「又は」という言葉を使うと ,・・・明細書には
「及び」と併用できることを明記しているので問題はないと考えています 。」と主張している
点を鑑みれば,上記記載は, (3) 溝 4) リングをシール面の反対側に歪ませたもの(5)
穴 , ( ,
を全て併用したものの他 ,穴(3)を有するもの ,溝(4 )を有するもの ,穴(3 )と溝(4 )
を併用するもの等,様々な組み合わせを包含したものと解される。
そこで,まず,穴(3)を有するもの,すなわち,次の発明(以下「本願発明」という 。)
について検討する。
「リング同志がずれない,かさなり合う複数のリングからなるものとしている。これらは,
次ぎの(A)∼(C)の構造をもつリングによる,シール装置。
(A) シール面(2)を有し 。(B)のリングに対しシール面(2)からその対面までの
長さが短く ,リング同志の合い口(1)がかさならない 。そして , B)のリングの合い口(1)

ともつながらないように(B)のリングとのかさなり合う面からその対面まで穴(3)がある
リング。
(B) シール面(2)を有するリング。
(C) シール面(2)を有さず 。(A)のリングのシール面(2)に対する面に接してお
り,(A)のリングに対しリング同志の合い口(1)がかさならないリング 。

本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「穴」は本願発明の「穴」に相当する。そ
して,引用発明の「リングA」は,穴を有するものであることから,本願発明の「 A)のリ

ング 」に相当するものであると認められる。また ,引用発明の リングB 」 ,
「 は 本願発明の (B)

のリング」に相当する。
そうすると,両者は,本願発明の用語に倣うと,
「リング同志がずれない,かさなり合う複数のリングからなるものとしている。これらは,
次ぎの(A)∼(B)の構造をもつリングによる,シール装置。
(A) シール面を有し 。(B)のリングに対し,リング同志の合い口(1)がかさならな
い。そして ,(B)のリングの合い口(1)ともつながらないように(B)のリングとのかさ
なり合う面からその対面まで穴(3)があるリング。
(B) シール面(2)を有するリング 。

で一致し,次の2点で相違する。
相違点1:本願発明は ,(C) シール面(2)を有さず。 A)のリングのシール面(2)
「 (
に対する面に接しており ,(A)のリングに対しリング同志の合い口(1)がかさならないリ
ング 。」を有しているのに対し,引用発明は当該(C)のリングに相当する構成を有していな
い点。
相違点2:本願発明の(A)のリングは ,(B)のリングに対しシール面からその対面まで

の長さが短く」なっているのに対し,引用発明のリングAは,シール面からその対面までの長
さについて,特段の特定がなされていない点 。

(3) 相違点についての判断
ア 相違点1について
「引用刊行物2には,シリンダ壁に密接する面を有する外周ピストンリング1のシリンダ壁
と密接する面の対面に中央ピストンリング2を形成すること,そして,ピストンリングの合口
隙間は相互にずらして互いに接続しないようにする技術的事項が記載されている。そして,引
用刊行物2に記載されたピストンリングは,高圧洩れを防ぐための装置,すなわちシール装置
という点で本願発明及び引用発明と共通の技術分野に属するものであり,かつ,引用発明に対
し,引用刊行物2に記載された上記事項を適用することに特段の技術的な困難性があるとも認
められない。
したがって,引用発明のリングAのリングのシール面に対する面に対し,引用刊行物2に記
載された上記事項を適用し, C)のリングに相当する構成を加えること ,すなわち ,相違点1

に係る本願発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到しうるものである 。

イ 相違点2について
「引用刊行物2には,ピストンリング1,2,3の肉厚は異なっていてもよい点が記載され
ており,このうち第2図には,符号B’のピストンリングにおける外周ピストンリングよりも
肉厚が薄い構造である符号A’のピストンリングにおける外周ピストンリングが記載されてい
る。そして,相違点1と同様,引用発明に対し引用刊行物2に記載された当該事項を適用する
ことに格別な困難性があるとは認められないことに鑑みれば,引用発明のリングAのシール面
からその対面までの長さに関し,引用刊行物2に記載された符号A’のピストンリングにおけ
る外周ピストンリングの肉厚に係る事項を適用し,相違点2に係る本願発明の構成とすること
は,当業者であれば容易に想到しうるものである。
そして,本願発明の奏する効果が,引用発明及び引用刊行物2に記載された技術的事項の単
なる総和以上に格別顕著なものであるとも認められない。
したがって,本願発明は,引用刊行物1及び引用刊行物2に記載された発明に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受ける
ことができない。」
(4) 結論
「以上のとおり,上記本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができな
いものであるから,その余の発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきもので
ある 。」
第3 原告の主張の要点
1 取消事由1(相違点1,2についての判断の誤り)
引用発明はリングの内側にリングがなく,リングの合い口からの内外方向の漏れ
を防止できないところ,原告は,当初,本願公開公報(甲4)の図4の構造を理想
的なものと考えた。しかしながら,この構造では内側のリングと外側の2つのリン
グが上下方向にずれると考えられ,これを防止するために小さいピンやスプリング
を使ってずれないようにすると,今度は,構造が複雑になり信頼性も低く実用には
向かない。
本願発明は,負圧が直接当たらないリングの内側で負圧の力を利用するというこ
れまでにない新しい発想に基づいたものであり,下のリングとして互いの合い口が
重ならないようにした内側のリングと外側のリングを有し,外側のリングの穴など
を通った負圧が上のリングを吸い付け,その力によって上のリングが下の内側のリ
ングを押さえることで,下の2つのリングが上下にずれないようにしたもので,引
用発明のリングの実用性を損なわずに機能を高めたものである。
これに対して,引用刊行物2(甲3)においては,リングはナットなどで固定さ
れており,リングの上下にスペースはなくリング内側の空間に圧力を伝える通路も
確保されていないから,本願発明のようにリングにかかる圧力差を利用するもので
はなく,リング自身の張力だけで漏れを防ぐものである。「圧力差を利用する」と
いう発想がなくて成り立っている装置から ,「圧力差を利用する」装置にするとい
うことは,リング全体の構成や動きを含めたリングに対する考え方を根本的に代え
る必要がある。すなわち,引用刊行物2と本願発明は全く考え方の異なるものであ
るから,引用発明と引用刊行物2から本願発明を発想することは,当業者といえど
も容易ではない。
また,引用刊行物2においては,リングが重なり合う面からその対面までに, ,

シール面上の溝,リングをシール面の反対側に歪ませた構成のいずれか1つ以上を
備えたリングがないため,リングがバラバラに動く構成となっており,すべてのリ
ングはボルト,ナットにより固定されている。これに対し,本願発明ではリングに
設けた穴から負圧で上のリングを吸い付かせ,上のリングが内側のリングを押さえ
ているので密封性と柔軟性が高く,構造がシンプルなため信頼性も高いという顕著
な作用効果を奏する。
2 取消事由2(手続違背)
本願明細書の「及び」という用語について,原告は,例えば「A及びB」は「A
でもBでもABでも」と同義に解釈していたが,その後,これが誤った用法である
と知った。原告としては,審判段階で修正の機会があると考えていたが,審理終結
通知を受け,特許庁からは「拒絶理由通知書で指摘してあるので,再度の通知はし
ない 。」との回答を得た。平成14年8月23日付け拒絶理由通知書(甲7)には
「・・・何れか一つの構成を備えるのか否かが明確ではない(選択である点を明確
にされたい 。・・・ )」とあるが,「及び」という用語を一般的な意味に従って使っ
ているのであるから,明細書に間題があるとは思えない。審査官が「及び」の意味
を理解できず,原告にその意思を明確に伝えられなかったにもかかわらず,拒絶理
由通知書で問題点を指摘済みであるとしてなされた審決は違法である。審決は取り
消され,「穴(6),シール面に溝(7)及びリングをシール面の反対側に歪ませた
もの(8 )」との個所の修正を認めるべきである。
第4 被告の主張の要点
1 取消事由1(相違点1,2についての判断の誤り)に対して
引用刊行物1には,一つのリングに設けられた穴を通った負圧が当該リングと重
なり合う他のリングを吸い付け,その力によって後者のリングが前者のリングを押
さえることが記載されている。そして,引用刊行物2には,リングの内側にリング
を設けることが記載されている。そうすると,本願発明において,(A)
「 」に記さ
れたリングに設けられた「穴」を通った負圧が,当該リングと重なり合う「 B)
( 」
に記されたリングを吸い付け,その力によって ,(B) に記された当該リングが,
「 」
これと重なり合う,上記の「 A) に記されたリングを押さえるとともに ,(B)
( 」 「 」
に記された当該リングが,これと重なり合うリングであって,(A)
「 」に記された
リングのシール面に対する面(すなわち同リングの内側)に接している「 C )
( 」
に記されたリングを押さえる構成とすることは,引用刊行物1及び2に接した当業
者であれば,本願の出願時において,容易に想到し得たものである。審決に原告主
張の誤りはない。
2 取消事由2(手続違背)に対して
原告は,請求項1の記載を補正する機会が与えられないまま審決がされたと主張
するが,審決が審判請求を不成立とした理由については,本願の審査段階における
前記拒絶理由通知書(甲7)により特許出願人たる原告に通知されており,原告に
は,拒絶理由通知への応答時と審判請求時の2度にわたって当該理由を考慮のうえ
反論及び補正を行う機会が与えられていた。したがって,拒絶査定不服審判の審理
の段階において,審判官の合議体が再度の拒絶理由通知をすべき義務を有していな
かったことは明らかである。
また,審判の審理は,原告が訴状で述べている「及び」の語の意義に関する原告
自身の理解をも考慮に入れて行われており,原告の主張するような補正がされたと
しても,審決の結論に影響はない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1,2についての判断の誤り)について
(1) 審決は,まず,本願発明と引用発明(引用刊行物1に記載された発明)を
対比し,両発明が一致する点及び相違する点(相違点1及び2)を認定した上で,
相違点1及び2に係る構成は,引用刊行物2に記載されており,引用発明に引用刊
行物を適用することを妨げる事情も存在しないなどとして,本願発明は,引用刊行
物1及び2に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであると判断した。
ア これに対し,原告は,引用刊行物2(甲3)のように,圧力差を利用すると
いう発想がない装置に基づき,本願発明のように,圧力差を利用する装置とするこ
とは,当業者といえども容易に想到し得ないと主張する。
確かに,引用刊行物2には,「第3図において,ピストンリングブロツク4は,
プランジヤー5の頭6に,ばね座金7を介してナツト8で取付けられている。(2

頁左上欄15∼18行)との記載があり ,引用刊行物2のピストンリングブロック4
は,プランジャー5の頭6にばね座金7を介してナット8で取付けられるものであ
ると認められるので,引用刊行物2記載の発明は,本願発明と同様の形で圧力差を
利用するものとはいえない。
しかしながら,前記のとおり,審決は,本願発明と引用刊行物2記載の発明のみ
を対比したものではなく,本願発明と引用発明を対比した上で,相違点1,2につ
いて引用刊行物2記載の技術事項を適用しているものである。そもそも,負圧のか
からないリングにも負圧をかけてシール効果を高めるということ自体は,原告出願
に係る引用刊行物1(甲2)に記載されている事項であり(段落【0005 】,
【0009 】 【0019 】 ,審決は,引用刊行物1のそのような記載事項を前提
, )
とした上で,本願発明と引用発明の相違点について,引用刊行物2に記載された技
術事項を適用しているものである。したがって,引用刊行物2記載の発明自体が圧
力差を利用する装置でなければならないものではない。
もとより,引用発明と引用刊行物2記載の発明の技術分野,技術課題,課題を解
決するための手段等における相違から,当業者であれば,両発明の組合せを試みる
とは考えられないような場合には,両発明を組み合わせて進歩性の判断をすること
自体が誤りとなることもある。しかしながら,本件では,引用刊行物2に記載され
た発明は,ピストンリングブロックを用いることにより,シリンダー内の高圧漏れ
を防ぎ,ほぼ完全に近いシールを可能にするものであり(2頁左下欄下から2行∼
右下欄3行 ),引用発明と引用刊行物2記載に係る発明は,いずれも高圧漏れを防
ぐためのシール装置という点で共通の技術分野に属するのであるから,引用刊行
物2に記載された事項を引用発明に組み合わせて進歩性の判断をすることが誤りで
あるということはできない。
このように,本件では,本願発明と引用発明との相違点1及び2に係る事項が引
用刊行物2に開示されており,引用発明と引用刊行物2に記載された発明を組み合
わせることを妨げるような事情も認められない。したがって,相違点1及び2に係
る構成は,引用刊行物1及び2に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである
ということができる。
イ 原告は,引用刊行物2においては,リング同士がずれない構造がないため,
バラバラに動く構成となっており,すべてのリングはボルト,ナットにより固定さ
れているのに対し,本願発明ではリングに設けた穴から負圧で上のリングを吸い付
かせ,上のリングが内側のリングを押さえているので密封性と柔軟性が高いなどの
顕著な作用効果を奏すると主張する。
しかしながら,引用発明においても,リングAの穴を通じて作用する負圧により
リングBがリングA側に吸い付けられリングAを押さえるとの作用効果を奏するの
であるから,引用発明に引用刊行物2記載の発明を適用して,相違点1及び2に係
る本願発明の構成とすれば,リングAの穴を通じて作用する負圧によりリングBが
リングA側に吸い付けられるとともに,リングBがリングA及びCを押さえるとの
作用効果を奏することは,当業者であれば十分に予期し得る範囲内であるというこ
とができる。
(2) 以上のとおり,原告の主張する取消事由1には,理由がない。
2 取消事由2(手続違背)について
原告は,本願発明に係る請求項1中の「及び」の記載について,修正を認めるこ
となく審決をしたのは違法であると主張する。
しかしながら,審決は,請求項1の「 B)のリングとのかさなり合う面からそ

の対面まで穴(3),シール面(2)に溝(4)及びリングをシール面(2)の反
対側に歪ませたとしたもの(5 )」との記載について,「上記記載は,穴(3 ),溝
(4) リングをシール面の反対側に歪ませたもの(5)を全て併用したものの他,

穴(3)を有するもの,溝(4)を有するもの,穴(3)と溝(4)を併用するも
の等,様々な組み合わせを包含したものと解される 。」とした上で判断している。
つまり,審決は,請求項1の「及び」との用語の意義を原告の主張に沿った形で理
解した上で判断をしているのであるから,上記請求項1の「及び」との用語の意義
を原告の主張するとおり理解したとしても,審決の結論に影響を及ぼすものではな
いことは明らかである。
また,原告に対しては,平成14年8月23日付けで拒絶理由通知(甲7)がな
され,これに対して,原告は平成14年10月30日付けで手続補正書(甲8)及
び意見書(甲9)を提出しているのであるから,原告が「及び」との文言を補正す
るための更なる機会を与えられることなく,審判手続が終結し,審決がなされたと
しても,その手続に何ら違法な点はない。
したがって,原告の主張する取消事由2も理由がない。
3 結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求
は棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
石 原 直 樹
裁判官
佐 藤 達 文

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