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平成18(行ケ)10112審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成19年2月8日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官中嶋誠
原告スミスクライン・ビーチャム・コンシューマー・ヘルス
対象物 歯ブラシ
法令 特許権
キーワード 審決39回
進歩性8回
実施2回
優先権2回
分割1回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 本件は,原告が,名称を「歯ブラシ」とする発明について,特許出願をして拒絶 査定を受け,これを不服として審判請求をしたが,審判請求は成り立たないとの審 決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。

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判決文

平成18年(行ケ)第10112号 審決取消請求事件
平成19年2月8日判決言渡,平成18年12月11日口頭弁論終結
判 決
原 告 スミスクライン・ビーチャム・コンシューマー・ヘルス
ア・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
訴訟代理人弁理士 田中光雄,伊藤晃,元山忠行
被 告 特許庁長官 中嶋誠
指 定 代 理 人 和泉等,阿部寛,岡田孝博,田中敬規
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が不服2003−11612号事件について平成17年11月7日にし
た審決を取り消す。
」との判決。
第2 事案の概要
本件は,原告が,名称を「歯ブラシ」とする発明について,特許出願をして拒絶
査定を受け,これを不服として審判請求をしたが,審判請求は成り立たないとの審
決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件出願(甲3)
出願人:原告
発明の名称: 歯ブラシ」

出願番号:特願平10−537267
出願日:平成10年2月17日
優先日:平成9年2月24日(優先権主張外国庁 ヨーロッパ特許庁)
(2) 本件手続
手続補正日:平成14年3月25日
拒絶査定日:平成15年3月17日
審判請求日:平成15年6月23日(不服2003−11612号)
手続補正日:平成15年7月14日(甲4。後出の本願補正発明)
審決日:平成17年11月7日
審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない。
「 」
審決謄本送達日:平成17年11月22日
2 本願発明の要旨
平成14年3月25日付けの手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項
1は,次のとおりである(これを「本願発明」という。なお,請求項は1から18
まであるが,2以下は省略する 。。

「ハンドルと,ヘッド(ここで,該ヘッドはハンドルに向かうベース端部とその
ベース端部から離れた位置に先端部を有する)と,ヘッドのベース端部とハンドル
の間にネック域とを有し,そのヘッドが該ヘッドのベース端部でネック域に接して
おり,ヘッド,ネックおよびハンドルが歯ブラシの縦軸に沿って配置され,そのヘ
ッドが該ヘッドの植毛面から伸びる植毛を有している歯ブラシであって,
ヘッドが,歯ブラシのネックに接し,ヘッドのベース端部からそのベース端部と
先端部の間にある弾性に富む柔軟な連結部にまで伸びる,その長さがヘッドのベー
ス端部と先端部の間の長さの少なくとも 50 %に及ぶ,実質的に剛性なベース域と,
ヘッドの先端部から連結域にまで伸びる実質的に剛性な先端域とを有し,ここでそ
のベース域および先端域は共に植毛を担持し,歯磨きの間に,連結域にてヘッドを
横切って横方向に伸びる折り曲げまたはピボット軸を中心として,ベース域に対し
てハンドルに向かって弾性的に後方に折れ曲がるかピボットし,ヘッドが応力のな
い状態で,歯ブラシの先端域およびベース域の植毛面が 180 °より小さな角度を形
成するように,その先端域は連結域を介してベース域に柔軟的かつ弾性的に連結し
ており,
ヘッドのベース端部とネックの間に弾性に富む柔軟な連結部があることを特徴と
する歯ブラシ。」
3 本願補正発明の要旨
平成15年7月14日付け手続補正後の特許請求の範囲の請求項1は,次のとお
りである(甲4。これを「本願補正発明」という。。下線部分が補正に係る部分で

ある。
「ハンドルと,ヘッド(ここで,該ヘッドはハンドルに向かうベース端部とその
ベース端部から離れた位置に先端部を有する)と,ヘッドのベース端部とハンドル
の間にネック域とを有し,そのヘッドが該ヘッドのベース端部でネック域に接して
おり,ヘッド,ネックおよびハンドルが歯ブラシの縦軸に沿って配置され,そのヘ
ッドが該ヘッドの植毛面から伸びる植毛を有している歯ブラシであって,
ヘッドが,歯ブラシのネックに接し,ヘッドのベース端部からそのベース端部と
先端部の間にある弾性に富む柔軟な連結部にまで伸びる,その長さがヘッドのベー
ス端部と先端部の間の長さの少なくとも 60 %に及ぶ,実質的に剛性なベース域と,
ヘッドの先端部から連結域にまで伸びる実質的に剛性な先端域とを有し,ここでそ
のベース域および先端域は共に植毛を担持し,先端域が,歯磨きの間に,連結域に
てヘッドを横切って横方向に伸びる折り曲げまたはピボット軸を中心として,ベー
ス域に対してハンドルに向かって弾性的に後方に折れ曲がるかピボットし,ヘッド
が応力のない状態で,歯ブラシの先端域およびベース域の植毛面が 150 − 179 °の
角度を形成するように,その先端域は連結域を介してベース域に柔軟的かつ弾性的
に連結しており,
ヘッドのベース端部とネックの間に弾性に富む柔軟な連結部がある
ことを特徴とする歯ブラシ。」
4 審決の理由の要点
4−1 本願補正発明について
まず,平成15年7月14日付けの手続補正書の補正については, 少なくとも 50

%」とあるのを「少なくとも 60 %」と限定し, 180 °より小さな角度」とあるの

を「150 − 179 °の角度」と限定するもので,特許請求の範囲の減縮を目的とする
ものに該当するとし,次に,本願補正発明の独立特許要件(容易想到性の不存在)
について,以下のとおり,これを否定した。
「そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下 ,
「本願補正発明」という 。
)が,出願の際独
立して特許を受けることができるものであるかどうかについて以下検討する。
(2) 引用発明及び引用例2
ア.原審の拒絶の理由に引用した,本願の優先権主張の日前に米国内に頒布された米国特許第
5373602 号明細書(以下 ,「引用例1」という。判決注:本訴甲1 。
)には,歯ブラシに関して,図
面とともに以下の事項が記載されている。
(ア−1 ) The present invention relates to an improved toothbrush which is effective in cleaning the back

teeth and for brushing the teeth with the least amount of scratching on the periodontal tissue surface of the
oral cavity.」(第1欄第6∼9行,当審仮訳(以下,同じ 。
「本発明は,奥歯を磨くのに効果的な,
口腔の歯周組織表面をできるだけ引っ掻くことがなく歯を磨く,改良された歯ブラシに関する 。)

(ア−2) Another object of the present invention is to provide a toothbrush having a flexible extension

containing a plurality of bristles and a flexible element which covers the back of the head for minimizing
scratches on the periodontal tissue surface of the oral cavity.」(第1欄第 27 ∼ 31 行,「本発明の他の目
的は,複数の植毛を含み,口腔の歯周組織表面を最小限に引っ掻く頭部の後方を覆う弾性要素を含
む,可撓性の延長部材を有する歯ブラシを提供することである 。)

(ア−3) As shown in FIGS.2 and 4, the flexible extension member 12 includes a cover 17 which is

attached to the outer planar surface of the brush head 11 by an adhesive 18. The member 12 also has an
inner stepped surface. Bristles 13' are attached to the surface 16 which extends in a longitudinal direction
away from the handle beyond the outer planar surface of the brush head of the flexible extension portion
and bristles 13 are attached to the brush head surface 15. The bristles 13' contain a plurality of shorter
bristles near the transition point between the flexible and fixed portions of the toothbrush head so that the
flexible extended portion of the toothbrush head can flex while avoiding conflict with the bristles 13 of the
main head portion of the brush.
The flexible extension member 12 is made of rubber, so that the surface thereof can minimize scracthing
while massaging the periodontal tissue surface. Accordingly, the flexible extension member 12 can be used
to effectively clean the back teeth.」 第2欄第6∼ 24 行, 第2図及び第4図に示されているように,
( 「
可撓性の延長部材 12 は,接着剤 18 によりブラシ頭部 11 の外側の平坦表面に取り付けられるカバ
ー 17 を含む。部材 12 は,また,内側の段部になった表面を有する。植毛 13'は,可撓性の延長部
材のブラシ頭部の外側の平坦表面を越えてハンドルから軸方向の外側に延びた表面 16 に取り付け
られており,植毛 13 は,ブラシ頭部表面 15 に取り付けられている。植毛 13'は,歯ブラシ頭部の
可撓性部分と固定部分の間の境界点の近くの複数の短い植毛を含んでおり,歯ブラシ頭部の可撓性
の延長部材が,ブラシの主頭部の植毛 13 と衝突しないように撓むことができる。
可撓性の延長部材 12 は,ゴムでできており,その表面が歯周組織表面をマッサージしていると
き,引っ掻くのを最小限にする。従って,可撓性の延長部材 12 は,奥歯を効果的に磨くことがで
きる 。)

(ア−4)第4図には,ブラシ延長部材 12 が,植毛部に約 135 °程度の角度で屈曲した点が図示
されている。
また,ブラシ頭部 11 は,ブラシ頭部 11 とブラシ延長部 12 の和の少なくとも 60 %の固定植毛
部を有していることが図示されている。
また,第1図,第3図より,ハンドルとブラシ頭部 11 の間には,ネックが存在することが図示
されている。
以上の記載及び図示内容から総合すると ,引用例1には ,以下の発明が記載されている 。 以下 ,

「引用発明」という。)
「ハンドル 14 と,ブラシ頭部 11 と,ブラシ延長部材 12 と,ブラシ頭部 11 とハンドル 14 の間に
ネックとを有し,ブラシ頭部 11 とネックが接しており,ブラシ頭部 11,ネックおよびハンドル 14
が歯ブラシの縦軸に沿って配置され,ブラシ頭部 11 およびブラシ延長部材 12 の植毛面から伸びる
植毛を有している歯ブラシであって,
ブラシ頭部 11 の長さが,ブラシ頭部 11 とブラシ延長部材 12 の和の少なくとも 60 %であり,
ブラシ頭部は実質的に剛性であり,ブラシ頭部 11 およびブラシ延長部材 12 は共に植毛を保持し,
ブラシ延長部材 12 は,応力のない状態で歯ブラシのブラシ延長部材 12 およびブラシ頭部 11 の植
毛部が 135 °程度の角度で屈曲し,ブラシ延長部材 12 はブラシ頭部 11 に柔軟的かつ弾性的に連結
している歯ブラシ 。

イ.同じく特開平 9-19323 号公報(以下,「引用例2」という。判決注:本訴甲2 。)には,歯ブ
ラシに関して図面とともに以下の事項が記載されている。
(イ−1 )「ハンドルとネックとブラシ毛が植毛された剛性ヘッドを有する歯ブラシにおいて,当
該剛性ヘッドが複数の植毛部から構成され,各植毛部の相互間に弾性材が設けられ,当該各植毛部
のブラシ毛が接触する口腔内の形状に応じて当該弾性材が弾性変形することにより,当該各植毛部
の厚み方向における相対的位置が変動するように構成されていることを特徴とする歯ブラシ 。(特

許請求の範囲の【請求項1 】)
(イ−2 )「一般に,ハンドル1とネック2とヘッド3は,一体に成型された剛性の合成樹脂から
からなるが ,実施例1においては,ネック2とヘッド3が弾性材8で連結されている 。 段落 0016】

( 【 )
(イ−3) 合成樹脂製のヘッド3は ,
「 図1∼図3に示すように ,厚み方向に4分割された植毛部 3a
∼ 3d から構成され,各植毛部は,弾性材 4a ∼ 4c により連結されている 。(段落【0017】
」 )
(3)対比・判断
本願補正発明と引用発明を対比すると,その構成及び機能からみて,後者の「ハンドル 14」は
前者の「ハンドル 」に相当し,後者の「ブラシ頭部 11」は前者の「ベース域」に相当し,後者の「ブ
ラシ延長部材 12」は前者の「先端部」に相当するから,後者の「ブラシ頭部 11」と「ブラシ延長
部材 12」の合わせたものは,前者の「ヘッド」相当するものと認められる。
また,後者も「ネック」を有しているから ,「ネック域」は存在するし ,「ベース域」が存在す
る以上「ベース端部」も存在する。
そうすると,両者は ,「ハンドルと,ヘッド(ここで,該ヘッドはハンドルに向かうベース端部
とそのベース端部から離れた位置に先端部を有する)と,ヘッドのベース端部とハンドルの間にネ
ック域とを有し,そのヘッドが該ヘッドのベース端部でネック域に接しており,ヘッド,ネックお
よびハンドルが歯ブラシの縦軸に沿って配置され,そのヘッドが該ヘッドの植毛面から伸びる植毛
を有している歯ブラシであって,
ヘッドが,歯ブラシのネックに接し,ヘッドのベース端部からそのベース端部と先端部の間に
ある弾性に富む柔軟な連結部にまで伸びる,その長さがヘッドのベース端部と先端部の間の長さの
少なくとも 60 %に及ぶ,実質的に剛性なベース域と,ヘッドの先端部から連結域にまで伸びる先
端域とを有し,ここでそのベース域および先端域は共に植毛を担持し,先端域が,歯磨きの間に,
連結域にてヘッドを横切って横方向に伸びる折り曲げまたはピボット軸を中心として,ベース域に
対してハンドルに向かって弾性的に後方に折れ曲がるかピボットし,ヘッドが応力のない状態で,
歯ブラシの先端域およびベース域の植毛面が屈曲部を形成するように,その先端域は連結域を介し
てベース域に柔軟的かつ弾性的に連結している,歯ブラシ」の点で一致しており,下記の点で相違
している。
(相違点1)
歯ブラシの先端域について,前者は ,
「実質的に剛性な」ものであるのに対し,後者は,弾性的
なものである点。
(相違点2)
歯ブラシの先端域およびベース域の植毛面が屈曲部を形成した角度が ,前者は , 150 − 179 °」

の角度であるのに対し,後者は,約「 135 °」程度である点。
(相違点3)
ヘッドのベース端部とネックの間において,前者は ,「弾性に富む柔軟な連結部がある」のに
対し,後者は,そのような構成になっていない点。
上記相違点について以下検討する。
上記相違点1について,歯ブラシの先端域を実質的に剛性とすることは ,周知の技術(例えば ,
上記引用例2,米国特許第 3188672 号明細書等参照)であり,引用発明に上記周知の技術を適用し
て,上記相違点1に係る本願補正発明とすることは当業者が容易に想到し得るところである。
上記相違点2について,屈曲部の角度を 150 − 179 °とすることに臨界的意義はなく,屈曲部
の角度を 135 °とするものに代えて 150 − 179 °とすることは,当業者が適宜なし得る設計的事項
と認める。
上記相違点3について,ヘッドのベース端部とネックの間において ,
「弾性に富む柔軟な連結部
がある」ようにすることは,引用例2に記載されており,歯ブラシという同じ技術分野に属するこ
とから,引用発明に上記引用例2に記載された技術を適用して上記相違点3に係る本願補正発明と
することは,当業者が容易に想到し得たものと認める。
そして,本願補正発明の作用効果も引用発明,引用例2及び周知の技術から当業者が容易に予
測できる程度のものであって格別のものはない。
(4) むすび
以上のとおりであるから,本願補正発明は,引用発明,引用例2及び周知の技術に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものであって出願の際独立して特許を受けることができない
から,本件補正は,平成 15 年改正前特許法第 17 条の2第5項で準用する同法第 126 条第5項の規
定に違反し,同法第 159 条第1項により読み替えて準用する同法第 53 条第1項の規定により却下
すべきものと認める。」
4−2 本願発明 について
そのうえで,本願発明についても,次のとおり,特許要件(容易想到性の不存在)
を否定した。
「本願補正発明は,本願発明に下線部分を限定して減縮したものであるから,本願補正発明が引
用発明,引用例2及び周知の技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものである以上 ,
本願発明も引用発明,引用例2及び周知の技術に基づいて当業者が容易に想到することができたも
のである。」
第3 原告の主張(審決取消事由)の要点
1 取消事由1(本願補正発明と引用発明との一致点の認定の誤り及び相違点4
の看過)
(1) 審決は,引用発明について,「……,ブラシ延長部材 12 は,応力のない状態
で歯ブラシのブラシ延長部材 12 およびブラシ頭部 11 の植毛部が 135 °程度の角度
で屈曲し,ブラシ延長部材 12 はブラシ頭部 11 に柔軟的かつ弾性的に連結している
歯ブラシ 。」と認定した。
しかしながら,引用例1において,応力のない状態では,ブラシ延長部材 12 と
ブラシ頭部 11 が同一平面を構成しており(第1∼3図),ブラシ延長部材 12 がブ
ラシ頭部 11 に対して柔軟に屈曲する状態を示す第4図は,口腔内で歯ブラシを使
用するときにブラシ延長部材 12 に応力がかかっている状態を示しているのである
から,審決の上記認定は誤りである。
(2) そうすると,本願補正発明では,ヘッドが応力のない状態で,歯ブラシの先
端域及びベース域の植毛面が 150 − 179 °の角度を形成するように,その先端域は
ベース域に連結しているのに対して,引用発明では,ブラシ頭部が口腔内で応力を
受けた状態で,先端域(延長部材 12)及びベース域(ブラシ頭部 11)の植毛面が
一定の角度をなすべく屈曲可能に,その先端域はベース域に柔軟的かつ弾性的に連
結しているのであって,ブラシ頭部が応力のない状態では,先端域とベース域の植
毛面は同一平面を構成している,という点において,両者は相違している 原告は ,

本訴において,この点を相違点4として主張するものである。。審決は,相違点4

を看過したものである。
(3) 被告は,原告の主張する取消事由1に対しては沈黙した上,審決で認定した
引用例1の実施例とは別の記載部分である,米国特許明細書に慣用的に記載される
定型文言の記載に依拠し,かつ,審決では摘示されなかった乙1∼4(いずれも特
許ないし実用新案の出願公報)を当審に至って提出し,これに登場する技術を周知
技術として引用することによって,引用例1には審決で認定された事実が記載され
ているものといえるとの結論を導こうとしている。
被告の上記主張は,審決が具体的にした認定とは異なる引用例1の記載事項と公
知ないし周知の事実とを基礎にして,審決がした認定と同じ結論部分を導こうとす
るものであるが,本件訴訟では,原告は,審決が具体的にした特定の認定について
の違法性を問題にしているのであって,被告の主張は,審決が採用したのとは異な
る新たな拒絶理由を本件訴訟で主張するものであるから,許される主張ではない。
(4) 被告は ,「引用例1には,歯ブラシのヘッドが応力のない状態で内側に屈曲
しているものも,記載されているに等しい 。」と主張するが,引用発明は,延長部
材 12 は,不使用時に平坦で,使用時に必要に応じてブラシ主頭部に対して撓める
ようにした点に特徴があるので,ブラシの不使用時つまり応力のない状態において
屈曲しているとする被告主張の周知技術は,技術思想として両立し得ないものであ
るから,被告の主張は失当である。
(5) 被告は ,乙3(実願昭 63-150647 号(実開平 2-71329 号) の「圧縮可動部 13」

が本願補正発明の「弾性に富む柔軟な連結部又は連結域」に機能上相当すると主張
しているが,この主張は失当である。乙3において,植毛部先端側 16 は,作用具
Bによって支持されていて,この作用具Bの位置により,植毛部先端側 16 は植毛
部固定側 15 に対する角度が固定されている。すなわち,この圧縮可動部 13 は,先
端側 16 と固定側 15 とを連結するヒンジの機能を果たすだけで,歯ブラシの使用時
には,弾性機能すなわちバネ機能を有していないのであり,当該「圧縮可動部」は,
本願補正発明の「弾性に富む柔軟な連結部又は連結域」の連結機能と共通するとこ
ろはあるものの,弾性に富む柔軟な連結部には相当しない。
2 取消事由2(本願補正発明と引用発明との一致点の認定の誤り及び相違点5
の看過)
(1) 引用例1の「第2図及び第4図に示されているように ,可撓性の延長部材 12
は,接着剤 18 によりブラシ頭部 11 の外側の平坦表面に取り付けられるカバー 17
を含む。(2欄6∼9行,被告翻訳)との記載は,第3図に明示された屈曲の見ら

れない平坦なブラシ延長部材 12 が接着剤 18 によりブラシ頭部 11 に取り付けられ
て第1,2図の状態になることを意味している。したがって,引用発明の延長部材 12
の先端部分とブラシ頭部 11 とが,本願補正発明の先端域とベース域に相当してい
るのであるから,引用発明には,延長部材 12 の先端部分とブラシ頭部 11 との間に ,
弾性に富む柔軟な連結部又は連結域は存在しない。
引用発明では,ブラシ延長部材 12 自体が可撓性のあるゴムで形成されることに
よって,その先端部分がブラシ頭部 11 に対して撓み得る構成となっているのであ
り,本願補正発明の構成のように,それ自体が弾性に富む柔軟な連結部又は連結域
を介することによって,先端域がベース域に対して撓み得る構成とは相違している
(原告は,本訴において,この点を相違点5として指摘し,その看過の違法を主張
するものである。。

(2) 被告は,引用例1の延長部材 12 とカバー 17 との間に形成される段部が本願
補正発明の「弾性に富む柔軟な連結部又は連結域」に相当すると主張しているが,
たとえ,その段部が本願補正発明の連結部又は連結域に相当するとしても,その段
部より先端側の延長部材 12 は可撓性を有するので,本願補正発明の「実質的に剛
性な」先端域には相当しないことになる。要は,本願補正発明では,剛性な2つの
部分を弾性に富む柔軟な連結手段で連結するのに対して,引用例1では,剛性な部
分(ヘッド部)に可撓性の部分を連結したにすぎないのであるから,両者の構成は基
本的に相違する。
3 取消事由3(進歩性についての認定判断の誤り)
審決は,上記相違点4,5を看過したことにより,これらの相違点について進歩
性の判断をしないで,また,それらの構成の相違からもたらされる作用効果の点に
ついても進歩性の判断をしないで,進歩性を否定する結論を導いている。したがっ
て,審決が進歩性についてした認定判断は誤りであり,審決は取り消されるべきで
ある。
以下において,これを具体的に説明する。
(1) 本願補正発明においては,上記相違点4,5で指摘したように,弾性連結域
を介して先端域とベース域の植毛面の間に一定の角度を付与することで,その先端
域を容易に歯の裏側にある歯間に持って行くことができ,またその先端域が,例え
ば口腔内組織と接触することにより力が加えられれば,その先端域は図8の屈曲状
態に復元しようとするため,植毛がより強く歯と接触し,確実に歯間に達すること
もできる。
これに対して,引用発明のブラシ延長部材 12 は,口腔内の歯周組織表面を引っ
掻くことがないことを目的として,全体がゴム製の柔軟な材料で形成されている。
また,その先端部分(カバー 17 より先端側の部分)とブラシ頭部 11 とは弾性体で
連結されているのではない。その先端部分は,歯ブラシ使用時のブラッシング中に,
それ自体が第4図に示すように口腔内形状に応じて柔軟に変形できるように構成し
たものにすぎない。したがって,本願明細書の図8に示したようにしてブラッシン
グをする際は,引用発明では,延長部材 12 の先端部分は屈曲状態から平坦状態に
復元しようとするから,先端部分の植毛 13’を奥歯の裏側に強く接触させること
はできない。
(2) 被告は,本願明細書には「歯間」についての言及がないので,原告の主張が
本願明細書の記載に基づかないものであると主張するが,図8を見れば,歯ブラシ
の先端域 12 の植毛 21 の毛先が使用者の歯間に届いていることが明らかである。
(3) 被告は,本願補正発明の数値限定である「150-179 °」について,その数値
限定には臨界的意義がなく,その「179 °」の値は「180 °」の値と効果上の格別
の差異が生じない,と主張しているが,その主張は失当である。
本願補正発明の数値限定は,歯ブラシの先端域及びベース域の植毛面がなす角度
が 150 °-179 °の数値範囲の鈍角を形成することに技術的意義があり,歯ブラシ
の先端域及びベース域の植毛面が同一平面であることを意味する「180 °」とは質
的に技術的意義を異にする。
第4 被告の主張の要点
1 取消事由1(本願補正発明と引用発明との一致点の認定の誤り及び相違点4
の看過)に対して
(1) 引用例1(甲1)には , The invention being thus described, it will be obvious

that the same may be varied in many ways. Such variations are not to be regarded as a
departure from the spirit and scope of the invention, and all such modifications as would
be obvious to one skilled in the art are intended to be included in the scope of the
following claims.」 2欄 24 行∼ 29 行, 本発明は,
( 「 このように記述されているから,
同じものが多数の手段で変化されるのは明らかである。このような変化例は,本発
明の精神及び範囲から,逸脱しているとはみなされないし,当業者に明らかであろ
うこのようなすべての変化例は,下記のクレームの範囲内に含まれるものと意図す
る。 (被告仮訳 )
」 )という記載があり,第1図∼第4図等から当業者が明らかに把
握できる多数の変化例も,実質的に記載されているものとみるのが相当である。
そして,歯ブラシには,歯ブラシのヘッドが同一平面状にあるものばかりでなく,
応力のない状態で内側に屈曲したものが変化例として存在することも当業者におい
て周知であり,この点は ,乙1の特表平 8-502909 号公報(平成8年4月2日公表 ),
乙2の実願平 4-84157 号(実開平 6-36421 号。平成6年5月17日公開),本願の
拒絶査定時に周知例として提示した乙3の実願昭 63-150647 号(実開平 2-71329
号),同じく本願の拒絶査定時に周知例として提示した乙4の平 1-190307 号公報の
各記載によって,明らかである。
そうすると,引用例1には,歯ブラシのヘッドが応力のない状態で内側に屈曲し
ているものも,記載されているに等しいといえるのであって,結果的に,審決の認
定判断には誤りがない。
(2) 相違点4についての反論
引用例1の図4が必ずしも使用状態を示しているものではなく,引用例1には口
腔内でブラシ頭部がどのような状態になるのかの記載も全くないのであるから,原
告が相違点4に係る引用発明の構成として主張するところは失当であり,本願補正
発明においても,使用状態における該角度の限定はないのであるから,両発明の対
比に当たって,使用状態における相違点を取り上げても意味がない。
仮に,原告が主張する相違点4を取り上げて ,「ヘッドが応力のない状態で,歯
ブラシの先端域およびベース域の植毛面が約 180 °の角度である」ことを引用発明
として認定したとしても,本願補正発明の「 150-179 °の角度」には ,「角度 179
°」の場合が含まれているのは明らかであって ,「約 179 °の角度」との差異は,
微差であり,作用効果にも差異があるとはいえないから,その相違点は,実質的に
相違点とはならないか,あるいは,単なる設計的事項といえる。
したがって,結果的に,審決における「屈曲部の角度」に係る相違点は当業者が
適宜なし得る設計的事項である,との判断に誤りはなく,前記原告の主張は理由が
ない。
2 取消事由2(本願補正発明と引用発明との一致点の認定の誤り及び相違点5
の看過)に対して
引用例1には, Briefly described, the present invention relates to a toothbrush having

a flexible extension containing a plurality of bristles and a flexible element which covers
the back of the head for minimizing scratches on the periodontal tissue surface of the oral
cavity.」(1欄 40 行∼ 44 行,「簡単に述べれば,本発明は,口腔部の歯周組織の表
面を掻き取るのを最小限にしたヘッド部の裏側を覆う複数の植毛と可撓性部材を含
む可撓性延長部分を有する歯ブラシに関するものである。(被告仮訳 ) 及び, As
」 ) 「
shown in FIGS.2 and 4, the flexible extension member 12 includes a cover 17 which is
attached to the outer planar surface of the brush head 11 by an adhesive 18. The member
12 also has an inner stepped surface.」(2欄 6 ∼ 9 行。「第2図及び第4図に示されて
いるように,可撓性の延長部材 12 は,接着剤 18 によりブラシ頭部 11 の外側の平
坦表面に取り付けられるカバー 17 を含む。部材 12 は,また,内側の段部になった
表面を有する。(被告仮訳,審決に記載済み)
」 )と記載されている。
引用例1の上記記載からみて,延長部材 12 は可撓性部材からなり,かつ,延長
部材 12 とカバー 17 との境界には「段部」が存在し,そして,「段部」は一般的に
撓みやすいものである。してみると,その機能からみて,「段部」が本願補正発明
の「弾性に富む柔軟な連結部又は連結域」に相当し,
「段部」以外の延長部材 12 が
本願補正発明の先端域に相当するとみるのが自然である。
そうすると,本願補正発明と引用発明とが「その先端域は連結域を介してベース
域に柔軟的かつ弾性的に連結している」点で一致していると認定判断した審決に誤
りはない。
3 取消事由3(進歩性についての認定判断の誤り)に対して
本願明細書の記載には,「歯の裏側」あるいは「歯 23 の裏面 22」との記載はあ
るものの, 歯間」についての言及がなく ,原告の主張する本願補正発明の効果は ,

これら本願明細書の記載とどのように対応するのか不明確であり,原告の主張は,
本願明細書の記載に基づかないものである。
また,引用例1(甲1)には「The flexible extension member 12 is made of rubber, so
that the surface thereof can minimize scracthing while massaging the periodontal tissue
surface. 」(2欄 20 ∼ 22 行。「可撓性の延長部材 12 は,ゴムでできており,その表
面が歯周組織表面をマッサージしているとき,引っ掻くのを最小限にする。,審決

記載の仮訳)との記載があり,引用例2(甲2)には「ブラッシングするべき歯面
や歯茎面にほぼ垂直に適度な圧力をもってブラシ毛 7 の先端を接触することができ
る」(4頁5欄 21 ∼ 23 行)との記載がある。引用例1及び引用例2に記載の効果
は,上記本願明細書に記載の効果である「歯磨きの間に過剰な磨き圧が加わること
を妨げるのに役立つ 。」と対応するから,この点において,引用例1及び引用例2
に記載の歯ブラシも,本願補正発明と同等の効果を奏するといえる。
さらに,本願補正発明の数値限定である「150-179 °」には臨界的意義がないこ
とも明らかであり,特に , 180 °」の場合と「179 °」の場合とで,効果上格別の

差異が生じないことは明らかである。
なお,歯ブラシにおいて ,「植毛が‥‥確実に歯間に達する」ように構成するこ
とも,前述したように乙4に記載されており,本願優先日の前に周知である。
そうすると,原告の主張する効果は顕著で格別なものであるとはいえないのであ
って,審決の「本願補正発明の作用効果も引用発明,引用例2及び周知の技術から
当業者が容易に予測できる程度のものであって格別のものはない。」との判断には
誤りがなく,前記原告の主張には理由がない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本願補正発明と引用発明との一致点の認定の誤り及び相違点4
の看過)について
(1) 甲1によれば,引用例1(米国特許第 5373602 号明細書)には,次のとおり
記載されている。
「第2図及び第4図に示されているように,可撓性の延長部材 12 は,接着剤 18 によりブラ
シ頭部 11 の外側の平坦表面に取り付けられるカバー 17 を含む。部材 12 は,また,内側の段
部になった表面を有する。植毛 13'は,可撓性の延長部材のブラシ頭部の外側の平坦表面を越
えてハンドルから軸方向の外側に延びた表面 16 に取り付けられており,植毛 13 は,ブラシ頭
部表面 15 に取り付けられている。植毛 13'は,歯ブラシ頭部の可撓性部分と固定部分の間の境
界点の近くの複数の短い植毛を含んでおり,歯ブラシ頭部の可撓性の延長部材が,ブラシの主
頭部の植毛 13 と衝突しないように撓むことができる 。(第2欄 6 ∼ 19 行の被告訳。審決書の

3頁 26 行∼下から 7 行)
そうすると,引用例1には,延長部材 12 のカバー 17 が接着剤 18 によりブラシ
頭部 11 の外側の平坦表面に取り付けられる前の状態が第3図に示され,延長部材
12 がブラシ頭部 11 に取り付けられた後の状態が第1,第2,第4図に示されてい
るところ,第3図によれば,ブラシ頭部 11 に取り付けられる前の延長部材 12 は,
ブラシ頭部 11 の外側の平坦表面と同じ面方向に延長しているから,単に,延長部
材 12 がブラシ頭部 11 に取り付けられた後の,応力のない状態においては,第1図
及び第2図に示されるように,ブラシ頭部 11 と延長部材 12 とは,側方から見て,
屈曲することなく一直線上に延びていることが認められる。そして,引用例1には,
第2図及び第4図に,歯ブラシ頭部の可撓性部分と固定部分の間の境界点の近くの
植毛 13'が,延長部材 12 の先端から境界点に向けて徐々に短くなっていることが示
され,また,植毛 13'が短い植毛を含むことにより,延長部材 12 の植毛 13'がブラ
シの主頭部の植毛 13 と衝突しないように,延長部材 12 が撓むことができると記載
されているのであるから,第4図において,破線で図示された状態は撓む前の状態
を示し,実線で図示された状態はブラシ頭部 11 に対して延長部材 12 が撓んだ状態,
すなわち応力のある状態を示していることが明らかである。
しかるに,審決は,「ブラシ延長部材 12 は,応力のない状態で歯ブラシのブラシ
延長部材 12 およびブラシ頭部 11 の植毛部が 135 °程度の角度で屈曲し」ているも
のを,引用例1に記載されている発明( 引用発明」という。
「 )と認定した。
そうすると,引用例1において,応力のない状態を示す第1図∼第3図では,ブ
ラシ頭部 11 と延長部材 12 とが,側方から見て,屈曲することなく一直線上に延び
ており,これらが屈曲した状態を示す第4図(実線図示部分)は応力のある状態を
示すものであるから,審決が応力のない状態において屈曲しているとした部分の認
定は誤りであり(この点は,当事者の主張に応じて,上述したようにやや子細に検
討したものの,実は,明細書の英文を検討するまでもなく,第1図∼第3図と第4
図とを比較すれば,一目瞭然である。審決は,応力のある状態か否かの点に重きを
おかなかったことにより,不用意に誤ったにすぎないものと窺われる。,本願補正

発明の場合のように応力のない状態か,引用発明の場合のように応力のある状態か
は,それがどのような意味を有するかは別として,一応の相違点として指摘するの
が精確であったということはできる。
そこで,この誤りが審決の結論に影響を与えるようなものであるか否かについて,
以下,検討することとする。
(2) 歯ブラシの形状が,全体として一直線状をなしているか,あるいはヘッドが
内側(植毛側)に全体として鈍角に屈曲しているかについて,本願当時の技術水準
からみて,技術上,どのような意味を有するのかを検討することとする。
ア 被告が提出した乙1∼4には,それぞれ次のような事項が記載されている。
① 乙1(特表平 8 − 502909 号公報)
「 特許請求の範囲】

‥‥‥‥‥
13. 前記ヘッドのトウ部分は,ヘッド部材のヒール部分の剛毛の面に関して約 115 ゜から約
170 ゜の鈍角を形成するように前記ヒール部分に固定されている請求項5に記載の歯ブラシ 。(3

頁 17 ∼ 19 行)
14. 省略
15. 前記ヘッドのトウ部分は,ヘッド部材のヒール部分の剛毛の面に関して約155゜から
約170゜の鈍角を形成するように前記ヒール部分に固定される請求項14に記載の歯ブラシ 。」
(3頁 26 行∼4頁 1 行)
「最後に第10図は,トウとヒールの接合部で歯ブラシのヘッドを約αの所定の角度に曲げるこ
とによって剛毛の先端に角度を設ける。好ましくは,鈍角αの曲けは,約 115 ゜乃至約 170 ゜であ
り,最も好ましいのは,約 155 ゜から約 170 ゜である 。(9頁 21 ∼ 25 行)

② 乙2(実願平 4 − 84157 号(実開平 6 − 36421 号) 平成 6 年 5 月 17 日公開 )

「 請求項3】植毛台 2 の底面 4 に設けられた屈曲部 5 のうち,最も外端方に位置する屈曲部の

内角が 135 °∼ 170 °になるように形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の歯刷子 。(2

頁1欄 14 ∼ 17 行)
③ 乙3(実願昭 63 − 150647 号(実開平 2 − 71329 号))
「作用具Bを必要としない歯磨き用ブラシにおいては,磨く際,歯が植毛部に与える外力によっ
て植毛部先端側は,最大,植毛部固定側と水平状態になるまで無段階に角度を変えるので,通常は
毛先の向く側へ角度を保った形に圧縮可動部を加工するのが望ましい。‥‥また,請求項7記載の
作用具を必要としない歯磨き用ブラシにおいても,植毛部先端側は通常,毛先の向く側へ角度を保
っており,磨く際の歯が植毛部に与える外力により圧縮可動部を中心に,最大,植毛部固定側と水
平状態になるまで無段階に角度を変え歯のどの面にも対応できるようにするものである 。(8頁 18

行∼10頁 1 行)
④ 乙4(特開平 1 − 190307 号公報)
「本発明は,‥‥把手部と把手部につながる首部,そして,首部から続く角度の付いた穂先頭部
からなっており,そして,該把手部と首部,首部とブラシ頭部の夫々の接続部には扱いやすいよう
な角度がつけられ,且つ,頭部内につけられた角度は歯と歯グキの全領域を磨くのに最もふさわし
い形に決められており,それは,特に奥歯の裏,内歯グキ側,外歯グキ側,歯間を磨くに最適な歯
ブラシを提供せんとするものである。‥‥奥歯グキ側( 19),内歯グキ側( 20)或は歯間(18)の近傍を
磨く際に,曲げられた穂先頭部の先端部や中心部の毛は歯間( 18)にまで届き,従って,普通の歯ブ
ラシでは届きにくい歯カスや粒状刺激物を解きほぐすことができる 。(2頁右下欄 12 行∼3頁左

上欄 12 行)
イ 上記アの記載によれば,歯ブラシのヘッドが応力のない状態で内側に様々な
角度(鈍角)で屈曲したものは,本願当時,周知技術であったことが認められる。
また,こうした記載に徴するまでもなく,歯ブラシのヘッドが応力のない状態で内
側に屈曲したものは,本願よりもかなり前から商品として普及していたことは,裁
判所にも顕著な事実である。
そうすると,本願補正発明においてヘッドが応力のない状態で内側に屈曲してい
るとの構成は周知のものであり,格別な相違点であるとは到底いえないから,審決
がこの点についてした認定上の誤りは,容易想到性を否定した結論に影響のないも
のであることが明らかである。
(3) 以上のとおりであるから,歯ブラシのヘッドの屈曲が応力のない状態か否か
について,本願補正発明と引用発明との一致点の認定の誤り及び相違点4の看過を
いう原告の主張は,採用することができない。
2 取消事由2(本願補正発明と引用発明との一致点の認定の誤り及び相違点5
の看過)について
(1) 本願補正発明は, 連結部』について, ヘッドが,歯ブラシのネックに接し,
『 「
ヘッドのベース端部からそのベース端部と先端部の間にある弾性に富む柔軟な連結
部にまで伸びる……ベース域と,ヘッドの先端部から連結域にまで伸びる実質的に
剛性な先端域とを有し,」と規定し,『連結域』について ,「先端域が,歯磨きの間
に,連結域にてヘッドを横切って横方向に伸びる折り曲げまたはピボット軸を中心
として,……後方に折れ曲がるかピボットし,……その先端域は連結域を介してベ
ース域に柔軟的かつ弾性的に連結しており,」と規定している。
ここでは ,『連結部』及び『連結域』の用語が用いられているが,両者の関係が
不明であるので,本件明細書を参酌すると ,「ヘッド3のベース端部4からベース
端部4と先端部5の間にある連結部 11 まで伸びる実質的に硬いベース域 10 と,ヘ
ッド3の先端部5から連結部 11 にまで伸びる先端域 12 とからなる。……連結域 11
は先端域 12 とベース域 10 との間でヘッド3の材料と一体化したプラスチック材料
の2本のストリップ 14 で架橋される隙間 13 により得られ ,……」 甲3の 17 頁 27

行∼ 18 頁 5 行)と記載されており,両者に同じ符合が付されているなど,両者は
実質上同義であると解される。
また,本件明細書には,「折り曲げまたはピボット軸は植毛面の平面中にあって
もよい。(6頁 14 ∼ 15 行)と記載されており,ここで「植毛面の平面」について,

ベース域及び先端域のいずれの植毛面かを限定する記載はないから ,「先端域の植
毛面の平面」をも観念することができ,そうであれば,ヘッドを横切って横方向に
伸びる折り曲げ又はピボット軸を 先端域の植毛面の平面 」
「 に形成することも含み ,
その個所を『連結域』として観念することができる。
(2) 引用発明は,ブラシ延長部材 12 自体が可撓性のあるゴムで形成されること
によって,その先端部分がブラシ頭部 11 に対して撓みうる構成となっているとこ
ろ,上述した本願補正発明に含まれるところとなる「先端域の植毛面の平面」,す
なわち延長部材 12 の植毛面の平面において撓み得る点で,基本的に同じものであ
るといわざるを得ない。
そうであれば,引用例1には,「ブラシ延長部材 12 はブラシ頭部 11 に柔軟的か
つ弾性的に連結している歯ブラシ。」が記載されていると認定した審決に誤りはな
い。
そして,本願補正発明と引用発明との一致点として,「ヘッドが,歯ブラシのネ
ックに接し,ヘッドのベース端部からそのベース端部と先端部の間にある弾性に富
む柔軟な連結部にまで伸びる……ベース域と,ヘッドの先端部から連結域にまで伸
びる先端域とを有し,……ここでそのベース域および先端域は共に植毛を担持し,
先端域が,歯磨きの間に,連結域にてヘッドを横切って横方向に伸びる折り曲げま
たはピボット軸を中心として,ベース域に対してハンドルに向かって弾性的に後方
に折れ曲がるかピボットし,ヘッドが応力のない状態で,歯ブラシの先端域および
ベース域の植毛面が屈曲部を形成するように,その先端域は連結域を介してベース
域に柔軟的かつ弾性的に連結している,歯ブラシ 」を認定した審決にも誤りはない 。
(3) 原告は ,「連結部」ないしは「連結域」に係る引用発明の認定の誤りを前提
として,相違点5を主張するが,その前提に理由がないので,原告の主張は理由が
ない。
(4) 以上より,「連結部」ないしは「連結域」について,本願補正発明と引用発
明との一致点の認定の誤り及び相違点5の看過をいう原告の主張は,採用すること
ができない。
3 取消事由3(進歩性についての認定判断の誤り)について
(1) 原告は,相違点4,5が存在することを前提として,審決が,相違点4,5
について判断することなく,また,それらの構成の相違からもたらされる作用効果
についての判断もすることなく進歩性の判断をしたものとして,取り消されるべき
である,と主張するが,相違点4,5については,既に検討したように,実質的な
相違点として認められないのであるから,原告の主張は前提において理由がない。
(2) また,原告は,本願補正発明においては,相違点5にかかる弾性連結域を介
して先端域とベース域の植毛面の間に一定の角度(150 − 179 °の角度)を付与す
ることで,その先端域を容易に歯の裏側にある歯間に持って行くことができ,また
その先端域が,例えば口腔内組織と接触することにより力が加えられれば,その先
端域は図8の屈曲状態に復元しようとするため,植毛がより強く歯と接触し,確実
に歯間に達することもできる,と主張する。
しかしながら,本件明細書には,「先端域とベース域の間の,およびヘッドとネ
ックの間の,本発明により設けられた柔軟な連結手段はまた,歯磨きの間に過剰な
磨き圧が加わることを妨げるのに役立つ 。 6頁15∼17行)

( と記載されており,
この記載は,過剰な磨き圧が加わることを妨げるとしているのに対し,原告が主張
する効果は,むしろ植毛と歯との強い接触を主張するものであって,本件明細書に
記載された効果と矛盾するものであるといわざるを得ず,失当である。
さらに,本願補正発明の数値限定である「150 − 179 °」には臨界的意義がない
ことも明らかであり,特に, 180 °」の場合と「179 °」の場合とで,効果上格別

の差異が生じないことは明らかである。
(3) そうすると,原告の主張する効果は顕著であるとも,格別なものであるとも
いうことはできないのであって,審決の判断には誤りがなく,原告の主張は採用す
ることができない。
4 結語
以上のとおりであるから,原告の主張する審決取消事由はいずれも採用すること
ができないから,原告の請求は棄却を免れない。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
石 原 直 樹
裁判官
高 野 輝 久

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